説明

呼吸誘導システム、呼吸誘導プログラム

【課題】利用者の呼吸法の習熟度を判定することを可能にする。
【解決手段】利用者の呼吸を検出する呼吸センサ1と、利用者の背中を押圧するマッサージ機構部2と、呼吸センサ1の出力に基づいて利用者の呼吸を誘導するようにマッサージ機構部2の動作を制御する制御手段10とを備える。制御手段10は、利用者の呼吸における習熱度のレベルを判定する習熱度判定部14と、習熟度判定部14により判定された習熟度をマッサージ機構部2の動作に反映させて利用者の呼気時間を延長させる呼気制御部12aとを備える。習熟度判定部14は、呼吸センサ1により検出される呼気時間の長さにより習熟度のレベルを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者の呼吸を誘導する呼吸誘導システムと、呼吸誘導システムに用いる呼吸誘導プログラムとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、利用者の呼吸を整えるように誘導することにより、利用者をリラックス状態やリフレッシュ状態に誘導する装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された装置では、利用者の光環境や音環境を制御することにより利用者の呼吸を誘導し、呼吸を統制することによって、リラックス状態に誘導している。特許文献1には、呼吸誘導を可能とするために、呼吸の周期や呼気の時間の範囲を規定し、当該範囲内で呼吸を誘導するための感覚刺激装置を作動させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−336357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の目的では、時間をかけて呼吸することが有効であると考えられており、ゆっくりとした呼吸ができるように誘導することが必要である。一方、利用者が腹式呼吸を修得している場合、あるいは座禅やヨガの呼吸法のように丹田を意識した呼吸法を習得している場合には、呼吸を意識的に調整することができるが、この種の呼吸法に慣れてない利用者は、呼吸の長さを調整することが難しい。
【0006】
したがって、この種の装置を用いる際には、利用者が呼吸法に慣れているか否かを判断し、利用者の慣れの程度(呼吸法の習熟度)に応じた方法で呼吸を誘導することが望ましいと考えられる。しかしながら、特許文献1では、呼吸法の習熟度を判断する技術については記載がなく、利用者の習熟度に応じて呼吸を誘導することについては考慮されていない。
【0007】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、利用者の呼吸法の習熟度を判定することを可能にした呼吸誘導システム、その呼吸誘導システムに用いる呼吸誘導プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、利用者の知覚に刺激を与える刺激手段と、利用者の呼吸を検出する呼吸センサと、呼吸センサの出力に基づいて利用者の呼吸を誘導するように刺激手段を制御する制御手段と、利用者の呼吸における習熱度のレベルを判定する習熱度判定部と、習熟度判定部により判定された習熟度を出力する出力手段とを備え、習熟度判定部は、呼吸センサにより検出される呼気時間の長さにより習熟度のレベルを判定することを特徴とする。
【0009】
習熟度判定部は、呼吸センサにより検出される呼気時間の長さを閾値と比較し、閾値以上であるときに当該閾値に対応付けた習熟度のレベル以上であると判定する構成を採用するのが望ましい。
【0010】
また、習熟度判定部は、呼吸センサにより検出される呼気時間の履歴を記憶し、記憶した所定回の呼気時間のばらつきの程度の評価値を求め、呼気時間のばらつきが小さく評価値が規定値以下である状態が生じる頻度に応じて、当該頻度に対応付けた習熟度を判定する構成を採用することができる。
【0011】
あるいは、習熟度判定部は、呼吸センサにより検出される呼気時間の履歴を記憶し、記憶した所定回の呼気時間のばらつきの程度の評価値を求め、呼気時間のばらつきが小さく評価値が規定値以下である呼気時間の継続回数または継続時間に応じて、当該継続回数または当該継続時間に対応付けた習熟度を判定する構成を採用することができる。
【0012】
さらに、習熟度判定部は、呼吸センサにより検出される呼気時間の履歴を記憶し、記憶した所定回の呼気時間のばらつきの程度の評価値を求め、呼気時間のばらつきが大きく評価値が規定値を超えるときに習熟度を所定のレベル未満と判定する構成を採用することができる。
【0013】
あるいはまた、習熟度判定部は、呼吸センサにより検出される呼気時間の履歴を記憶し、利用開始から記憶した所定回の呼気時間のばらつきの程度の評価値を求め、呼気時間のばらつきが大きく評価値が規定値を超えるときに習熟度を所定のレベル未満と判定する構成を採用することができる。
【0014】
本発明の呼吸誘導プログラムは、利用者の知覚に刺激を与える刺激手段および利用者の呼吸を検出する呼吸センサとともに用いられるコンピュータを、呼吸センサの出力に基づいて利用者の呼吸を誘導するように刺激手段を制御する機能を備える制御手段として機能させるプログラムであって、利用者の呼吸における習熱度のレベルを判定する習熱度判定部と、習熟度判定部により判定された習熟度を出力する出力手段とを実現し、習熟度判定部は、呼吸センサにより検出される呼気時間の長さにより習熟度のレベルを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の構成によれば、呼吸センサにより利用者の呼吸を検出し、検出した呼吸に基づいて利用者の呼吸法の習熟度を判定し、結果的に利用者の習熟度に応じた呼吸の誘導を可能にするという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上に用いる装置の概略構成図である。
【図3】同上の動作説明図である。
【図4】同上の動作例を示す図である。
【図5】同上の他の動作例を示す図である。
【図6】呼気時間および吸気時間の測定例を示す図である。
【図7】同上における習熟度の判定動作を示す動作説明図である。
【図8】同上を用いたときの脳波の変化を示す図である。
【図9】同上を用いたときの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に説明する呼吸誘導システムは、立位、座位、臥位のいずれでも利用可能であり、以下の実施形態では座位で使用する椅子型の装置について説明する。ただし、立位で使用する壁型あるいは支柱型の装置や、臥位で使用する寝具型の装置などの構成を採用することも可能である。
【0018】
椅子型のマッサージ機20は、図2に示すように、座部21と背もたれ部22とを備える。背もたれ部22には、マッサージ機20に着座した利用者の背部に対して、押圧、揉捏、叩打、軽擦、振動などの各種のマッサージを施すマッサージ機構部2が設けられている。マッサージ機構部2は、背もたれ部22を上下に移動して、利用者の腰から首までの所望位置にマッサージを施す構成を採用することもできる。ただし、本実施形態で用いるマッサージ機構部2では少なくとも押圧が可能であればよい。
【0019】
押圧を行うマッサージ機構部2としては、玉状に形成された揉み玉、輪状に形成された揉み輪、膨張・収縮が可能なエアバッグなどを用いることができる。揉み玉あるいは揉み輪を用いる場合には、左右方向の軸周りにおいて、揉み玉あるいは揉み輪を偏心回転させることにより、揉み玉あるいは揉み輪を背もたれ部22に対して前後に移動させることができる。このマッサージ機構部2は、利用者の呼吸を誘導する手段として機能する。すなわち、マッサージ機構部2は、利用者の胴体の少なくとも一部に接触し接触部位への押圧力を調節することにより呼吸を誘導する。
【0020】
マッサージ機20には、利用者の呼吸を検出する呼吸センサ1が設けられる。呼吸センサ1としては、利用者の腹部に巻き付けるベルトを備え、腹部の膨張と収縮とを加速度センサあるいは圧力センサで検出するものを用い。ただし、呼吸センサ1は、この構成に限定されるものではなく、利用者の呼気の期間(以下、「呼気時間」という)と、吸気の期間(以下、「吸気時間」という)とが分離可能である出力の得られる構成であれば、どのような構成であってもよい。たとえば、利用者の胸部に巻き付けるベルトを用いる構成、利用者の口および鼻を覆うカップ状の装具に気流を検出するセンサを設けた構成などを用いてもよい。あるいはまた、利用者の腹部に赤外線によるモアレ縞を投影し、モアレ縞をTVカメラで撮像することにより、モアレ縞の変化パターンから腹部の膨張と収縮とを検出することにより、利用者の呼吸を非接触で検出する呼吸センサを用いることも可能である。
【0021】
図1に示すように、呼吸センサ1の出力は、制御手段10に設けたセンサ処理部11に入力される。センサ処理部11では、呼吸センサ1の出力を用いて、呼気時間か吸気時間かを判断する。呼吸センサ1の出力として加速度センサの出力を用いる場合は、呼気時間と吸気時間との判断には、収縮方向(たとえば、正とする)と膨張方向(たとえば、負とする)との期間をそれぞれ呼気時間と吸気時間とに対応付ける。
【0022】
ただし、加速度センサの出力には体動などによるノイズが含まれるから、ノイズを除去する必要がある。そのため、正負2段階のしきい値を設定しておき、呼気時間は加速度センサの出力が正のしきい値を超え、負のしきい値を下回るまでの期間とし、吸気時間は加速度センサの出力が負のしきい値を下回り、正のしきい値を超えるまでの期間とする。
【0023】
なお、しきい値を設定したことにより、検出した呼気時間および吸気時間と、実際の呼気時間および吸気時間との間に時間差が生じるから、検出した呼気時間および吸気時間には補正が必要である。時間差は略一定と考えてよいから、検出した呼気時間および吸気時間を、この時間差に相当する一定時間だけシフトさせることにより、検出した呼気時間および吸気時間に補正を加える。
【0024】
また、呼気時間と吸気時間との判断には、センサ処理部11において呼吸センサ1の出力を所定の時間間隔(たとえば、0.1s)でサンプリングし、サンプリング値に基づいて腹部の膨張の程度を推算してもよい。すなわち、上記時間間隔で検出した腹部の膨張の程度を表す数値の移動平均を求め、移動平均が正の期間を呼気時間、移動平均が負の期間を吸気時間としてもよい。
【0025】
なお、移動平均は、時系列データx1,x2,x3,…に対して、たとえば、(x1+x2+x3)/3、(x2+x3+x4)/3を用いるものとする。すなわち、平均するデータのすべてを新たなデータとするのではなく、データを1個ずつシフトさせた平均を用いる。ただし、何個のデータの平均を用いるかは適宜に選択する。
【0026】
制御手段10には、センサ処理部11により求めた呼気時間と吸気時間とに基づくタイミングで、マッサージ機構部2を制御する誘導制御部12が設けられる。誘導制御部12は、マッサージ機構部2から利用者に作用させる押圧力をマッサージ機構部2に指示する機能を有する。誘導制御部12では、基本的には、呼気時間において押圧力を上昇させる動作をマッサージ機構部2に指示し、吸気時間において押圧力を下降させる動作をマッサージ機構部2に指示する。
【0027】
すなわち、誘導制御部12は、呼気時間において利用者への押圧力を強めるようにマッサージ機構部2を制御する呼気制御部12aと、吸気時間において利用者への押圧力を弱めるようにマッサージ機構部2を制御する吸気制御部12bとを備える。以下では、押圧力を高めるタイミングを第1のタイミングと呼び、押圧力を弱めるタイミングを第2のタイミングと呼ぶ。なお、マッサージ機構部2は、停止状態が許容されており、停止状態では停止前の押圧力が維持される。
【0028】
呼気時間において押圧力を増大させる目的は、利用者の胴体を押圧することにより、呼気時間を継続させることである。すなわち、利用者の胴体をマッサージ機構部2で押圧ないし圧迫することによって呼気を促し、呼気時間を延長させるように誘導するのである。
【0029】
上述のようにして呼気時間を延長すると、利用者に緊張感を与えず副交感神経を優位にした状態で、中枢神経を賦活させることが可能になる。すなわち、呼気時間と吸気時間との両方について呼吸を誘導するのではなく、息を吐くときの継続時間にのみ着目して呼吸を誘導することにより、中枢神経を賦活させることが可能になると考えられている。このような事例は、ヨガや座禅などの呼吸法として知られている。呼気時間および吸気時間とマッサージ機構部2による押圧力の変化との具体的な関係については後述する。
【0030】
目標とする呼気時間の長さは、制御手段10に設けた目標設定部13に設定された目標タイミングにより定められる。目標タイミングは、呼気時間から吸気時間に以降するタイミングであって、呼気時間の開始からの時間として定められる。要するに、呼気時間の開始が呼吸センサ1により検出された後に、呼気時間から吸気時間に移行させるタイミングとして目標タイミングが設定される。目標タイミングは、別に設けた入力手段3を用いて設定される。すなわち、入力手段3は、利用者が操作することにより目標タイミングを設定する装置であり、キーボードあるいはテンキーを用いるか、あるいはタッチパネルを用いて構成する。
【0031】
ところで、呼気制御部12aは、マッサージ機構部2により押圧力を高める第1のタイミングを、センサ処理部11により呼気時間の開始が検出されてから吸気時間の開始が検出される前までに設定している。第1のタイミングを定める基準としては、目標タイミングを用いる場合と、呼気時間の開始時点を用いる場合とがある。
【0032】
目標タイミングを用いる場合には、目標タイミングから所定時間だけ遡った時点を第1のタイミングとする。目標タイミングから遡る時間は、呼気時間よりは短く設定する必要がある。すなわち、目標タイミングから呼気時間よりも短い所定時間前の時点を第1のタイミングとする。
【0033】
この場合、呼気制御部12aでは、呼気時間が開始された後に第1のタイミングになると押圧力を上昇させ、押圧力が最大になった後にはマッサージ機構部2を停止させる。すなわち、図3(a)の呼気時間と吸気時間とに対して、図3(b)に示すように、呼気時間の途中に設定された第1のタイミングt1でマッサージ機構部2による押圧力を上昇させ始め、呼気を促している。
【0034】
図示例では、押圧力が最大になると、呼気時間から吸気時間に移行すると、吸気時間の開始時点を第2のタイミングt2として押圧力を下降させている。第2のタイミングt2を吸気時間の開始時点とすることは必須ではなく、吸気時間の開始が検出された時点以降で呼気時間の開始が検出される前までであればよい。
【0035】
ところで、目標タイミングは、必ずしも吸気時間の開始のタイミングに一致するとは限らない。また、マッサージ機構部2による押圧力が最小である状態から最大になるまでの時間は、第1のタイミングt1から吸気時間の開始のタイミングまでの時間に一致するとは限らない。したがって、呼気制御部12aは、マッサージ機構部2による利用者への押圧力を上昇させ始めてから、吸気時間が開始される前に押圧力が最大になった場合には、マッサージ機構部2を停止させるのが望ましい。なお、押圧力の上昇中に吸気時間が開始された場合には、吸気時間の開始時点でマッサージ機構部2を停止させる動作と、押圧力の下降を開始させる動作とのいずれかを採用する。
【0036】
図3に示す動作は、利用者が腹式呼吸(あるいは、丹田を意識した呼吸)を行った経験があり、呼気時間を比較的長く保つことができる場合に有効であって、呼気時間のさらなる延長のための訓練に利用することができる。なお、呼気時間の開始から第1のタイミングt1に達するまでは、マッサージ機構部2による押圧力を最小にしておくために、マッサージ機構部2を停止させておく。図3に示す例では、マッサージ機構部2を停止させるタイミングt3が呼気時間の開始時点に一致しているが、吸気時間中にマッサージ機構部2の押圧力が最小になる場合には、その時点を停止のタイミングt3とする。
【0037】
図3に示す動作を行った場合の呼気時間の延長効果について図5に示す。縦軸は呼気時間と吸気時間との長さである。図5の(a)(c)はそれぞれ装置の使用前の呼気時間と吸気時間との長さを示し、(b)(d)はそれぞれ装置を5分間使用した後の呼気時間と吸気時間との長さを示している。また、各バーグラフの先端に示している直線は、期間の長さのばらつき(分散)を示している。図からわかるように、腹式呼吸の経験者が装置を使用した場合に、呼気時間を延長する有意の効果が認められた。
【0038】
一方、第1のタイミングを呼気時間の開始時点に設定する場合は、呼気制御部12aでは、呼気時間が開始された時点から押圧力を上昇させ、押圧力が最大になった後にはマッサージ機構部2を停止させる。すなわち、図4(a)の呼気時間と吸気時間とに対して、図4(b)に示すように、呼気時間の開始時点として設定された第1のタイミングt1でマッサージ機構部2による押圧力を上昇させ始め、呼気を促している。
【0039】
また、この場合には、呼気時間の途中のタイミングt3で押圧力が最大になるから、呼気時間の途中からは押圧力が最大になった状態が保たれる。その後、吸気時間の開始時点を第2のタイミングt2として押圧力を下降させている。第2のタイミングについては、目標タイミングを基準にして第1のタイミングを設定する場合と同様に設定する。
【0040】
図4に示す動作は、利用者が腹式呼吸を行った経験が浅い場合に有効であって、腹式呼吸を修得させるための訓練に利用することができる。
【0041】
上述した構成において、制御手段10および入力手段3はパーソナルコンピュータを用いて実現される。すなわち、センサ処理部11、誘導制御部12(呼気制御部12a、吸気制御部12b)、目標設定部13は、パーソナルコンピュータに、呼吸センサ1およびマッサージ機構部2との接続に必要なハードウェアを付加し、上述した機能を実現するプログラムを実行することにより実現される。
【0042】
また、呼吸を誘導するように利用者の知覚に刺激を与える刺激手段としては、呼気を促すことができればよいから、利用者の背中を押圧するマッサージ機構部2のほか、利用者の胴体の一部である胸や腹に接触する構成であって、腹部や胴部を押圧する構成を採用することも可能である。
【0043】
あるいは、利用者の知覚に刺激を与える刺激手段として触覚刺激を与える刺激手段を用いるのではなく、音や光を用いて視覚刺激や聴覚刺激を利用者に与える刺激手段を用いることも可能である。たとえば、聴覚刺激に呼吸音に似た音を含めると、利用者には自身の呼吸音がフィードバックされているかのような印象を与えることができるから、利用者をリラックスさせる効果が得られる。また、視覚刺激として、多数の点群が緩やかに移動する図形を表示すれば星空を見ているかのような感覚を与えて、利用者をリラックスさせることができる。この種の図形を用いる場合には、呼吸に合わせて点群が離合集散するようにしてもよい。
【0044】
この種の刺激手段を採用する場合は、利用者が入る個室の環境を形成してもよい。この種の個室を形成する場合は、利用者が着座する椅子と、椅子の少なくとも前方に映像を提示する映像提示装置と、椅子に着座した利用者に音環境を提供する音響提示装置とを配置する。さらに、室内の光環境を形成するために照明装置も設ける。映像提示装置と音響提示装置と照明装置とは、利用者の呼吸を誘導する環境を形成するように制御される。
【0045】
音響提示装置は、前後左右上下の任意の位置に音像を形成することができるように、利用者の周囲に複数個のスピーカを配置する。音響提示装置が提示する音は、上述のように呼吸音に似せた音とし、呼吸センサにより検出される呼吸に併せて音像が前後に移動するように制御する。したがって、音量や音像を制御することにより呼吸を誘導する刺激手段として音響提示手段を用いることができる。
【0046】
また、照明装置は、室内の全体照明を行う全体灯と、椅子の周囲のみを照明するスポット灯と、椅子の側方に配置され利用者の呼吸周期を誘導するように光出力を時間経過に伴って変化させるリズム灯とを設ける。このようなリズム灯を用いることにより、呼吸を誘導する刺激手段として照明装置を用いることができる。たとえば、リズム灯の光色を適宜のタイミングで変化させることにより、触覚刺激を与える刺激手段と同様に用いることが可能である。
【0047】
さらに映像提示手段では、利用者の前方に大画面を配置し、背景画像として自然界や宇宙を思わせるような画像を表示するとともに、呼吸センサで検出された呼吸に併せて離合集散する点群を重ね合わせて表示する。点群は、呼気時間の開始時には画面上に不規則に分散させておき、呼気時間の進みに伴って、あらかじめ定められた形に収束するように移動させる。したがって、定められた形に収束するまでの時間を調節することにより、呼気時間を延長させるための刺激手段として用いることができる。
【0048】
上述の説明は、刺激手段として聴覚刺激や視覚刺激を与える場合の一例であって、上述のような刺激を与えることが必須というわけではない。また、聴覚刺激や視覚刺激は、上述した触覚刺激と併用することも可能である。
【0049】
ところで、上述したように、目標タイミングを基準に用いて第1のタイミングを設定するか、呼気時間の開始時点を第1のタイミングに用いるかは、利用者が特定の呼吸法(腹式呼吸や丹田呼吸法やヨガ式の呼吸法など)に慣れているか否かにより決める。そこで、以下では、呼吸法に慣れているか否かを習熟度という尺度で客観的に評価する技術について説明する。
【0050】
すなわち、本実施形態では、図1に示すように、呼吸センサ1の出力に基づいて呼吸における習熟度のレベルを判定する習熟度判定部14を制御手段10に設けている。さらに、習熟度判定部14により判定された習熟度のレベルに応じて、呼気制御部12aにおいて、第1のタイミングの基準を、目標タイミングと呼気時間の開始時点とのどちらにするかを自動的に選択するように構成する。ここで、目標設定部13では、1個の目標タイミングを設定するだけではなく、複数個の目標タイミングを設定することも可能になっている。
【0051】
基本的には習熟度が所定レベル未満であるときには、第1のタイミングを呼気時間の開始時点に一致させる動作を選択し、それ以外の場合には、目標タイミングを基準とする第1のタイミングを用いる動作を選択する。また、習熟度のレベルが高いほど、目標タイミングを大きい値に(呼気時間の開始から終了までの時間を長く)設定すると考えられるから、習熟度が所定レベル以上である場合には、第1のタイミングも習熟度のレベルに応じて調節する。
【0052】
以下では、習熟度を判定する技術について説明する。習熟度判定部14は、呼吸センサ1により検出される呼気時間の長さを、センサ処理部11から取得し、呼気時間の長さに基づいて習熟度のレベルを判定する。一般に、習熟度が低いと呼気時間が短くなると考えられるから、呼気時間の長さは習熟度の目安として用いることが可能である。一例としては、呼気時間の長さを規定した時間と比較し、規定した時間未満であるときに習熟度を所定レベル未満であると判定する技術を採用することができる。この判定は、習熟度が最低のレベル(所定レベル)に達しているか否かを判定するために用いるのが望ましい。
【0053】
ただし、身体能力によって呼気時間に長短の差が生じることがあるから、習熟度を呼気時間の長さにより判定する場合には、年齢・性別などの情報も併せて用いることが望ましい。これらの情報は入力手段3を用いて入力すればよい。
【0054】
ところで、図6に示すように、呼気時間(1)と吸気時間(2)とは、習熟度に応じて異なるパターンを示すという実験結果が得られている。図6(a)(b)は習熟度の低い被験者から得られた結果であり、図6(c)は習熟度の高い被験者から得られた結果である。習熟度の低い被験者は、意識的に呼吸した場合には、図6(a)のように、10分程度の時間で呼気時間の長さがゆるやかに上昇するという結果が得られた。また、意識的に呼吸しない場合には、習熟度の低い被験者では、図6(b)のように、呼気時間の長さが不安定にばらつくという結果が得られた。一方、習熟度の高い被験者では、図6(c)のように、呼気時間の長さに目立った変化はなく、呼気時間の長さばらつきも比較的少なかった。
【0055】
このような結果から、所定回数の呼吸の間における呼気時間の長さのばらつきを、習熟度の目安に用いることが可能であることがわかる。そこで、習熟度判定部14では、呼気時間の履歴を記憶し、所定回の呼気時間における呼気時間の長さのばらつきの程度の評価値を求める構成を採用することができる。
【0056】
すなわち、習熟度判定部14では、呼気時間の長さのばらつきが大きく評価値が規定値を超えるときには、習熟度のレベルを低いと判定する。上述のように、呼吸時間が規定した時間未満である場合を最低限のレベルである所定レベル未満とする場合、評価値が規定値を超える場合を次段階の第二所定レベル(>所定レベル)未満とすればよい。言い換えると、評価値が規定値以下になる状態が1回も得られない場合には習熟度を第二所定レベル未満と判定する。
【0057】
一方、呼気時間の長さばらつきが小さく評価値が規定値以下である状態が続けて発生しているときには、評価値が規定値以下である頻度を求め、当該頻度に対応付けた習熟度のレベル以上であると判定する。頻度が低い場合には習熟度も低いと判定し、頻度が高い場合には習熟度も高いと判定する。
【0058】
呼気時間の長さのばらつきの程度の評価値には、複数回の呼気時間における呼気時間の長さの分散を用いる。すなわち、履歴として記憶した所定回の呼気時間について呼気時間の長さの分散を求める。さらに、後述する理由によって、分散はそのまま用いるのではなく、分散を求めた呼気時間の平均値で除することにより正規化する。
【0059】
上述の例では、履歴として記憶した所定回の呼気時間について評価しており、履歴を記憶するタイミングは任意であるが、習熟度が第二所定レベル未満であると判定する場合には、装置の利用開始から所定回の呼気時間における評価値を用いればよい。すなわち、装置の利用開始から所定回の呼気時間で得られたばらつきの程度の評価値(正規化した分散)が規定値を超えるときには、習熟度を第二所定レベル未満であると判定する。
【0060】
図7に習熟度判定部14の動作を簡単にまとめておく。まず、呼吸センサ1の出力を用いてセンサ処理部11において呼気時間を計測する(S1)。ここでは、呼気時間が規定した時間(a秒:たとえば11秒)よりも短い場合に(S2:No)、習熟度を最低のレベル未満と判定している。
【0061】
呼気時間が規定した時間よりも長い場合(S2:Yes)、履歴として記憶された所定回(b回:たとえば10回)の呼気時間の長さについて、平均値とばらつき(分散)とを求める(S3)。呼気時間の平均値で分散を除した値をばらつきの評価値に用い、評価値を規定値(c:たとえば0.3)と比較する(S4)。評価値が規定値以下である場合には(S4:No)、習熟度を第二所定レベル(>所定レベル)未満と判定する。
【0062】
一方、評価値が閾値以下である場合には(S4:Yes)、規定した回数(d回:たとえば19回)について、上記所定回(b回:たとえば10回)ずつの呼気時間の平均値およびばらつきを求める(S5)。
【0063】
次に、ばらつきを平均値で除した評価値を求め、上記規定の回数のうち、評価値が規定値(c:たとえば0.3)以下になる個数を求める(要するに、評価値が規定値以下になる頻度を求める)。この個数(つまり、頻度)に対しては、習熟度のレベルを対応付けてあり、規定個数(e個:たとえば5個)未満であれば、習熟度を第三所定レベル(>第二所定レベル)未満と判定し、規定個数以上であれば、習熟度を第三所定レベル以上と判定する(S6)。図7では、ステップS6において2種類の場合に分けているが、3種類以上の場合に分けることも可能である。たとえば、上述の個数で言えば、5個未満を第三所定レベル未満、5〜9個を第四所定レベル(>第三所定レベル)未満、9個以上を第四所定レベル以上と判定することも可能である。
【0064】
上述の構成例では、習熟度のレベルを判定するために、評価値が規定値以下である頻度を用いているが、呼気時間のばらつきが小さく評価値が規定値以下である呼気時間の継続回数または継続時間を求め、継続回数または継続時間に対応付けて習熟度のレベルを判定してもよい。たとえば、10回の呼気時間について評価値を求め、そのうち5回継続して規定値以下であるときに、習熟度のレベルを第四所定レベルと判定することも可能である。
【0065】
上述した装置を使用した場合の脳波の変化を図8に示す。図8における上側の特性はβ2波(13〜20Hz)成分の発生率を示し、下側の特性はα2波(10〜13Hz)成分の発生率を示している。図示する結果によれば、5〜7分間の装置の使用により、β2波成分が減少しα2波が発現するという結果が得られた。すなわち、呼吸の質が高くなり、リラックスの効果が得られることがわかった。
【0066】
また、図9は呼気時間の平均値および呼気時間のばらつき(分散)との関係を示している。領域(1)(2)は、習熟度が所定レベル未満の被験者が属する領域、領域(3)は、習熟度が所定レベル以上で第二所定レベル未満、領域(4)は、第二所定レベル以上である。領域(1)に属する被験者のグループG1では、呼吸の質が低く、多くの被験者が「すっきりとしない」という感想であった。また、領域(4)に属する被験者のグループG2では、呼吸の質が高く、多くの被験者が「すっきりした」という感想であった。図9の結果から、呼気時間の平均値とばらつきとを用いて、正規化した評価値を設定することにより、習熟度を評価できることが証明された。
【0067】
上述の構成例では、習熟度判定部14により判定された習熟度を刺激手段であるマッサージ機構部2の動作に反映させる出力を得るために、出力手段として呼気制御部12aを用いている。ただし、習熟度判定部14により判定した習熟度は、必ずしも刺激手段の動作に反映させる必要はなく、習熟度を表示装置(図示せず)に表示する出力手段、習熟度を音により提示するように出力手段などを用いることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 呼吸センサ
2 マッサージ機構部(刺激手段)
3 入力手段
10 制御手段
11 センサ処理部
12 誘導制御部
12a 呼気制御部(出力手段)
12b 吸気制御部
13 目標設定部
14 習熟度判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の知覚に刺激を与える刺激手段と、利用者の呼吸を検出する呼吸センサと、前記呼吸センサの出力に基づいて利用者の呼吸を誘導するように前記刺激手段を制御する制御手段と、利用者の呼吸における習熱度のレベルを判定する習熱度判定部と、前記習熟度判定部により判定された習熟度を出力する出力手段とを備え、前記習熟度判定部は、前記呼吸センサにより検出される呼気時間の長さにより習熟度のレベルを判定することを特徴とする呼吸誘導システム。
【請求項2】
前記習熟度判定部は、前記呼吸センサにより検出される呼気時間の長さを閾値と比較し、閾値以上であるときに当該閾値に対応付けた習熟度のレベル以上であると判定することを特徴とする請求項1記載の呼吸誘導システム。
【請求項3】
前記習熟度判定部は、前記呼吸センサにより検出される呼気時間の履歴を記憶し、記憶した所定回の呼気時間のばらつきの程度の評価値を求め、呼気時間のばらつきが小さく評価値が規定値以下である状態が生じる頻度に応じて、当該頻度に対応付けた習熟度を判定することを特徴とする請求項1記載の呼吸誘導システム。
【請求項4】
前記習熟度判定部は、前記呼吸センサにより検出される呼気時間の履歴を記憶し、記憶した所定回の呼気時間のばらつきの程度の評価値を求め、呼気時間のばらつきが小さく評価値が規定値以下である呼気時間の継続回数または継続時間に応じて、当該継続回数または当該継続時間に対応付けた習熟度を判定することを特徴とする請求項1記載の呼吸誘導システム。
【請求項5】
前記習熟度判定部は、前記呼吸センサにより検出される呼気時間の履歴を記憶し、記憶した所定回の呼気時間のばらつきの程度の評価値を求め、呼気時間のばらつきが大きく評価値が規定値を超えるときに習熟度を所定のレベル未満と判定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の呼吸誘導システム。
【請求項6】
前記習熟度判定部は、前記呼吸センサにより検出される呼気時間の履歴を記憶し、利用開始から記憶した所定回の呼気時間のばらつきの程度の評価値を求め、呼気時間のばらつきが大きく評価値が規定値を超えるときに習熟度を所定のレベル未満と判定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の呼吸誘導システム。
【請求項7】
利用者の知覚に刺激を与える刺激手段および利用者の呼吸を検出する呼吸センサとともに用いられるコンピュータを、前記呼吸センサの出力に基づいて利用者の呼吸を誘導するように前記刺激手段を制御する機能を備える制御手段として機能させるプログラムであって、利用者の呼吸における習熱度のレベルを判定する習熱度判定部と、前記習熟度判定部により判定された習熟度を出力する出力手段とを実現し、前記習熟度判定部は、前記呼吸センサにより検出される呼気時間の長さにより習熟度のレベルを判定することを特徴とする呼吸誘導プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−200439(P2011−200439A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70773(P2010−70773)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】