説明

咬合圧測定器、及び咬合圧測定装置

【課題】得られる咬合圧の測定結果の信頼性が高く、その製造も容易である咬合圧測定器を提供する。
【解決手段】咬合圧を測定可能なセンサ部10と、該センサ部からの情報を伝達する本体20とを備え、センサ部は、複数の層を有する積層体であり、複数の層のうち少なくとも一層は咬合圧を検知可能な感圧層であり、感圧層の両面のそれぞれには有機トランジスタにより形成される電荷を伝達する電荷移動層が配置されるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科分野で行われる咬合圧測定のための咬合圧測定器、及びこれを備える咬合圧測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯列形状や咬み合わせ圧力(咬合圧)の異常は、顎関節症や歯槽膿漏等の要因の1つであるため、局部的な治療に加え、歯列形状や咬合圧を考慮した根本的で総合的な治療が行われる。従来において歯列形状を得るための手段としては一般的にワックスや印象材が用いられていた。また、咬合圧を得るための手段としては、圧力の大きさに応じて異なる濃さの色を呈するシート状のプレスケールがあり、患者がこれを咬むことにより咬合圧分布を定量的に把握できた。
【0003】
また、近年では電気的な情報により電子データとして咬合圧を把握し、例えばリアルタイムに咬合圧の変化を把握できる等の利点を有する咬合圧測定器やこれを用いた咬合圧測定方法、システム等が提案されている(特許文献1〜4等)。このような咬合圧測定器等において咬合圧を検知するセンサ部は、例えば圧電セラミック微粒子を配合した複合材料をシート状基材に加工し、このシート状基材の両面にスリット状の電極を貼り付けるというような構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−277240号公報
【特許文献2】特開2001−224608号公報
【特許文献3】特開2004−117263号公報
【特許文献4】特開2005−87646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したプレスケールや特許文献1〜4に記載のような従来の咬合圧測定器のセンサ部はいずれもシート状、平板状である。一方、咬合圧が発生する歯牙表面は凹凸が多く、その起伏も激しい。従ってこのような歯牙表面に生じる咬合圧をシート状又は平板状の媒体により測定した場合には、実際の咬合圧を適切に表わしているかについて疑義が生じていた。
【0006】
また、特許文献1〜4に記載のような咬合圧測定器のセンサ部は製造が難しく、プロセスが複雑とならざるを得なかった。
【0007】
そこで本発明は、上記問題点に鑑み、得られる咬合圧の測定結果の信頼性が高く、その製造も容易である咬合圧測定器を提供することを課題とする。また、当該咬合圧測定器を備える咬合圧測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0009】
請求項1に記載の発明は、咬合圧を測定可能なセンサ部(10)と、該センサ部からの情報を伝達する本体(20)とを備え、センサ部は、複数の層を有する積層体であり、複数の層のうち少なくとも一層は咬合圧を検知可能な感圧層(13)であり、感圧層の両面のそれぞれには有機トランジスタにより形成される電荷を伝達する電荷移動層(12、14)が配置される、咬合圧測定器(1)である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の咬合圧測定器(1)において、感圧層(13)は絶縁性の高い樹脂中に導電体の粒子が分散されて形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、咬合圧を測定し、その結果を表示可能な咬合圧測定装置(30)であって、請求項1又は2に記載の咬合圧測定器(1)と、咬合圧測定器から伝達される電気的な信号を処理し、咬合圧を数値、画像及び映像の少なくとも1つで表示可能とする情報処理手段(33)と、を有する咬合圧測定装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可とう性の高い有機トランジスタにより電荷移動層が形成されているので、歯牙表面の凹凸に対する追随性が高く、検知される咬合圧が、実際に生じている咬合圧に対して正確である。
【0013】
また、有機トランジスタは印刷や塗布等により形成することができるので生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】1つの実施形態に係る咬合圧測定器の外観斜視図である。
【図2】センサ部の層構成を模式的に表した図である。
【図3】咬合圧測定装置の構成を概念的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、1つの実施形態に係る咬合圧測定器1(以下、単に「測定器1」と記載することがある。)の外観を表した斜視図である。測定器1は、センサ部10と本体20とを有している。図2にはセンサ部10の層構成を模式的に示した。
【0017】
センサ部10は咬合圧を検知する部位である。図1、図2からわかるように、センサ部10は、所定の厚さを有する積層体の材料がシート状に形成されている。また、センサ部10は口腔内に入れやすいような概ね弓状とされ、これは歯列弓形状にも合ったものとされている。
【0018】
図2からわかるように、センサ部10はその厚さ方向に複数の層を有する積層体であり、詳しくは、センサ部10は、外皮層11、電荷移動層12、感圧層13、電荷移動層14、及び外皮層15を備えている。
【0019】
外皮層11、15は、積層体の最外層に配置され、雰囲気に晒されるとともに被験者の歯牙が直接触れる部位である。そして、一方の外皮層11と他方の外皮層15との間に備えられる電荷移動層12、14や感圧層13等を保護し、電荷移動層12、14を固定するとともに、絶縁部材として機能する。また、外皮層11、15はヒータ等により加熱して変形できるような材料が好ましい。かかる観点から、外皮層として例えば水添スチレン−イソプレンブロック共重合体のような材料を用いることができる。
【0020】
電荷移動層12、14は、電荷の移動を許容、禁止して感圧層13の状態に基づいた信号を伝達する層である。より詳しくは、電荷移動層12、14は、素子12a、14aが所定の間隔で碁盤目状に配列されて形成されている。従って、図2では一方の方向の並列状態が表れているが、図2の紙面奥/手前方向についても同様に素子12a、14aが並列されている。
【0021】
電荷移動層12、14は、電荷を移動する機能の他、熱的な安定性が高く、可とう性に優れることが好ましい。このような観点から、電荷移動層12、14として有機トランジスタを用いることができる。
有機トランジスタは、炭素を骨格として他の元素を結合させてなる有機半導体にドレイン、ソース、ゲート端子を設けてトランジスタとしてスイッチング機能を有する微小素子である。有機トランジスタはフィルム(本実施形態の場合には外皮層11、15)上に室温程度のプロセス温度で塗工することが可能である。塗工の方法は特に限定されるものではないが、例えばインクジェット方式、ロールを用いたグラビア印刷方式等を挙げることができる。従って、センサ部10の製造が従来に比べて非常に容易となる。
【0022】
このように電荷移動層12、14に有機トランジスタを用いることにより、そのスイッチング機能で計測上の外乱を抑制し、計測安定性を高めることができるので、信頼性のより高い計測結果を得ることが可能となる。電荷移動層12、14における素子12a、14aの配列密度は、咬合圧測定の解像度が0.2mm程度となるような配置が好ましく、これによれば、とりわけ高い精度で咬合圧分布を得ることができる。具体的には素子12a、14aのピッチが0.1mm〜1.0mmであることが好ましい。
【0023】
また、有機トランジスタは可とう性が高く、これが積層されたシート(外皮層11、15)に対して追随性に優れる。これにより外皮層や感圧層の変形によく追従するので、外皮層や感圧層が咬合圧により歯牙表面の凹凸に沿って変形したときにもこれに追随して精度よく作動する。従って、得られる咬合圧の精度を向上させることが可能となる。
【0024】
感圧層13は、咬合圧を検知する部位である。本実施形態では、変形により電気抵抗値が変化する材料により形成され、具体的にはシリコンゴム基材中に鉄の粉末(鉄粉)が分散された部材により構成されている。すなわち、感圧層13に咬合圧がかかると該層が咬合圧の大きさに基づいて変形し、鉄粉間の距離を変化させる。詳しくは、感圧層13の変形により鉄粉間の距離が縮まった部分は電気抵抗値が下がり、感圧層13の変形により鉄粉間の距離が広がった部分では電気抵抗値が上がる。これによりその部位における咬合圧を電気的な信号として得ることが可能となる。
ここで、咬合圧検知の分解能は鉄粉のかさ密度に影響される。すなわち、かさ密度が大きい場合には分解能が低下し、かさ密度が小さい場合は分解能が向上する。
またダイナミックレンジはシリコンゴム基材中における鉄粉の分散密度に影響される。すなわち、同じ鉄粉の量であれば、シリコンゴム基材が薄くなると相対的に鉄粉の分散密度が上昇してダイナミックレンジが低下する。逆にシリコンゴムの基材を厚くすれば分散密度が低下するためダイナミックレンジを高く確保できる。ここでダイナミックレンジとは、識別可能な信号の最小値と最大値との比率である。
【0025】
本実施形態では、シリコンゴム基材中に鉄粉が分散された部材により感圧層13を形成する例を説明したが、同様の効果を奏する材料であれば特に限定されるものではない。すなわち、弾性に富み、及び電気的に絶縁性の高い基材中に、導電性の高い粉末、粒子状の材料が分散されていればよい。具体的には、基材は樹脂、ゴム素材等を用いることができる。また導電性の高い粉末、粒子としては、鉄粉の他、銅、銀、金等の金属粉末、金属粒子、炭素粉末、炭素粒子、その他、導電性粉末、導電性粒子を挙げることができる。
【0026】
また、図示はしないが、外皮層11、15と電荷移動層12、14との間には導電体のパターンが形成されている。導電体のパターンは素子12a、14aと電気的に接続されている。さらに、導電体のパターンからは導電性部材が延在し、後述するように、該導電性部材が本体20と電気的に接続される。導電体のパターンは印刷等により形成することができる。また、導電性部材は、導電線を用いることができ、絶縁性接着剤や、熱的な溶着により外皮層11、15に固定される。
【0027】
図1に戻って測定器1について説明を続ける。本体20は、センサ部10により検知した咬合圧に関する電気的データを情報処理装置等に伝送する手段である。上記センサ部10と本体20とは、次のように連結されている。すなわち、上記したように、外皮層11、15の面のうち、電荷移動層12、14側に不図示の導体パターンが形成されている。そして当該導電パターンから導電性部材が延び、これを本体20に電気的に接続する。従って、感圧層13、電荷移動層12、14は、導体パターン及び導電性部材を介して本体20に電気的に接続可能とされている。
【0028】
さらに本体20からは、その電気信号を外部に出力し、また、外部からの信号を本体20に入力可能とする入出力ケーブル21が設けられている。
【0029】
上記した測定器1によれば、センサ部10において、その各構成が可とう性に優れており、歯牙表面の凹凸に追随して咬合圧を検知することができる。従って、検知される咬合圧が、実際に生じている咬合圧に対して正確である。
また、センサ部10の電荷移動層に有機トランジスタを用いることにより、該層を外皮層に積層することが容易であり、印刷やいわゆるロールツーロール(Roll to Roll)プロセスを用いることができ、生産性を向上させることが可能である。
【0030】
また、従来の咬合圧測定用シートでは、歯列の表面形状にできるだけ沿うように薄くする必要があった。しかしながら測定器1のセンサ部10は可とう性が高く、変形に対する追従性も優れるので、薄いことは好ましいが、必ずしも従来の測定用シートのような厚さを必要としない。具体的には20μm〜500μmとしても精度良く咬合圧を測定することが可能である。
【0031】
次に、上記した測定器1を用いた咬合圧測定装置30について説明する。図3に装置構成を概略的に示した。咬合圧測定装置30は、上記した測定器1に加え、中継ボックス31、ケーブル32、及び情報処理手段33を備えている。
測定器1は上記した通りであり、ここでは説明を省略する。
中継ボックス31は、測定器1からの情報を受信し、微弱な信号を増幅し、情報処理手段33に発信する機能を有している。従って、中継ボックス31は、測定器1の入出力ケーブル21が接続可能に接続端子を有し、ここに入出力ケーブル21が接続されている。また、その内部には測定器1からの信号を増幅する増幅器を備えている。増幅器は公知の信号増幅手段を用いることができる。さらに、中継ボックス31は、増幅した信号を情報処理手段33に発信するため出力用の接続端子が設けられている。具体的にはケーブル32が接続される。
本実施形態では、中継ボックス31を測定器1とは別に設けた例を説明したが、中継ボックス31の機能を測定器1の本体20内に含めてもよい。
【0032】
ケーブル32は中継ボックス31と情報処理手段33とを情報の送受信が可能となるように電気的に接続する部材である。その形態は特に限定されることはないが、取り扱いの容易からUSBケーブルを用いることができる。
【0033】
情報処理手段33は、ケーブル32を介して中継ボックス31から送られてきた情報信号に対し、予め定められた所定の処理をし、数値化及び画像化、映像化をおこなう手段である。従って情報処理手段33は例えば、中継ボックス31からの信号が入力される入力ポート、予め所定の演算式の必要な情報が記録された記憶装置(ROM)、演算を行う中央演算子(CPU)、作業領域や一時的な情報の保存領域として機能するRAM、及び演算結果を出力する出力ポートを備えている。従って市販のパーソナルコンピュータを用いることも可能である。
【0034】
情報処理手段33では、電荷移動層12、14における素子12a、14aの配置分布に基づいて、素子12a、14aの個々から伝達される電流情報(すなわち咬合圧に基づく電流値)を咬合圧に変換する。これにより咬合圧情報を得ることができる。得られた咬合圧情報は数値で表す他、色彩、濃淡等により視覚的に表わすように処理してもよい。その際には2次元的、3次元的にすることもできる。
咬合圧と該圧が発生した歯列位置との関係は、咬合圧分布状況から推定しても良いし、予め取得しておいた被験者の歯列形状のデータと統合してもよい。
【0035】
このような咬合圧測定装置30により、例えば次のように測定を行う。
測定器1のうち、センサ部10を被験者が咥え、被験者にセンサ部10を咬んでもらう。このとき測定開始時にセンサ部10内に電圧を生じさせる。そして咬合圧に比例した電気的な信号が所定の閾値以上に達した場合に有機トランジスタ(電荷移動層)により通電が開始されて電流が流れる。この電流の値を計測することにより、該電流値と関連付けられた咬合圧を得ることができる。また、このように電流値そのものを読み取る以外にも電気抵抗計を設けてその電圧値を読み取ることにより間接的に電流値を計算で算出する方法でもよい。
被験者がセンサ部10を咬むことにより、センサ部10に咬合圧に基づいた電気的な情報が生じ、これが中継ボックス31に伝達される。中継ボックス31では、ここに備えられる増幅器の作用によりセンサ部10で生じた電気的な情報が増幅され、情報処理手段33に伝達される。そして情報処理手段33により上記の情報処理が行われ、施術者や被験者等に各種情報が提供される。
【0036】
咬合圧測定装置30によれば、センサ部10において、その各構成が可とう性に優れており、歯牙表面の凹凸に追随して咬合圧を検知することができる。従って、検知される咬合圧が、実際に生じている咬合圧に対して正確である。
【符号の説明】
【0037】
1 咬合圧測定器
10 センサ部
11 外皮層
12 電荷移動層
13 感圧層
14 電荷移動層
15 外皮層
20 本体
30 咬合圧測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
咬合圧を測定可能なセンサ部と、該センサ部からの情報を伝達する本体とを備え、
前記センサ部は、複数の層を有する積層体であり、
前記複数の層のうち少なくとも一層は咬合圧を検知可能な感圧層であり、
前記感圧層の両面のそれぞれには有機トランジスタにより形成される電荷を伝達する電荷移動層が配置される、
咬合圧測定器。
【請求項2】
前記感圧層は絶縁性の高い樹脂中に導電体の粒子が分散されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の咬合圧測定器。
【請求項3】
咬合圧を測定し、その結果を表示可能な咬合圧測定装置であって、
請求項1又は2に記載の咬合圧測定器と、
前記咬合圧測定器から伝達される電気的な信号を処理し、咬合圧を数値、画像及び映像の少なくとも1つで表示可能とする情報処理手段と、
を有する咬合圧測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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