説明

咬合評価装置、咬合評価方法および咬合評価プログラム

【課題】被験者に依存せずに、歯の咬合形状による咀嚼能力を評価できる咬合評価装置を提供する。
【解決手段】上顎臼歯1,2,3,4および下顎臼歯5,6,7,8の形状の三次元データを読み込み、上顎臼歯と下顎臼歯とを噛み合わせたときに上顎臼歯の咬合面と下顎臼歯の咬合面との間に形成される流動空間Vaであって、上顎臼歯と下顎臼歯との接触点Paであって互いに隣接する2つの接触点Paを含んだ咬合平面に垂直な平面Saと、上顎臼歯1,2,3,4の咬合面1a,2a,3a,4aと、下顎臼歯5,6,7,8の咬合面5a,6a,7a,8aとで画定される流動空間Vaの形状を算出して表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咬合評価装置、咬合評価方法および咬合評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯(天然歯および人工歯)の咀嚼能力を測定する方法として、特許文献1,2および非特許文献1に記載されているように、実際に人が何かを咀嚼することによって、咀嚼能力を判断する方法が提唱されている。
【0003】
このような方法では、被験者の筋力や噛み癖等による影響と、歯(義歯を含む)の咬合形状による影響とを区別して測定できない。特に、義歯の製作や調整に際しては、義歯の咬合形状に起因する咀嚼能力だけを評価できることが望ましい。
【0004】
天然歯においては、歯牙叢生状況による上下顎の咬合状態や加齢による歯牙の摩耗は食物の咀嚼力に大きく影響し、歯牙の排列咬合状態に起因する咀嚼力を測定する装置、方法は知られていない。
【0005】
また、義歯においても、歯牙排列状況による上下顎の咬合状態や義歯の削合や義歯を一定期間使用した後の摩耗は食物の咀嚼力に大きく影響し、歯牙の排列咬合状態に起因する咀嚼力を測定する装置、方法は知られていない。
【0006】
特に、義歯同士や義歯の使用前後で咀嚼力を比べることは行なわれておらず、義歯の交換時期や義歯の咀嚼能力を評価することはできなかった。義歯そのものの咀嚼力は患者の咬合力、噛み癖、食習慣などに大きく影響されるものであり、患者ごとに適切な義歯を有するものでもあるため、義歯の作成時に予め義歯の咀嚼力が適切であるかどうかを評価する方法が望まれていた。
【0007】
義歯の咀嚼力を装着前に知ることが可能であり、患者の治療や診断の情報として用いることができ、次の治療に役立てることもができる。
【0008】
また、咀嚼能力を数値化できれば、閾値を設けることで作成された義歯の評価にも用いることができ、特に作成された義歯がどの程度の咀嚼力を有するものであるかを評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−237710号公報
【特許文献2】特開2008−220600号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「咀嚼障害評価法のガイドライン―主として咀嚼能力検査法―」、補綴誌、2002年、第46巻第4号、p.619−625
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記問題点に鑑みて、本発明は、被験者に依存せずに、歯の咬合形状による咀嚼能力を評価できる咬合評価装置、咬合評価方法および咬合評価プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明による咬合評価装置の第1の態様は、上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データを読み込み、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯の咬合面と前記下顎臼歯の咬合面との間に形成される流動空間の形状を算出して表示、好ましくは、任意の断面を表示できるものとする。
【0013】
また、本発明による咬合評価装置の第2の態様は、上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データを読み込み、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯の咬合面と前記下顎臼歯の咬合面との間に形成される流動空間の体積を算出して表示するものとする。
【0014】
これらの構成によれば、食物流動空間の大きさや形状により、臼歯で摺り潰した食物を歯の間から排出する効果の大きさが容易に把握でき、臼歯の咀嚼能力を患者または被験者の筋力や噛み癖に依存せずに評価することができる。
【0015】
特に、断面を表示することにより、食物が潰される場所や食物が逃げ出す場所を観察できる。
【0016】
尚、本発明の咬合評価装置における上顎臼歯と下顎臼歯との噛み合わせは、顎運動測定装置によって測定した患者の実際の顎運動を再現して行ってもよく、咬合器によって再現される咬合条件、例えば、矢状顆路傾斜度、平衡側側方顆路、イミディエイト・サイドシフトの調節機構、作業側側方顆路角調節機構等をデータ上でシミュレートしてもよい。
【0017】
また、本発明の第2の態様の咬合評価装置は、複数の上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データを読み込み、前記流動空間の体積を比較表示してもよい。
【0018】
この構成によれば、義歯の摩耗による咀嚼能力の低下や削合による咀嚼能力の変化を定量化して確認できる。また、現在の義歯と新しく製作する義歯との咀嚼能力の比較もできる。特に、義歯の摩耗による咀嚼能力の低下を定量化し、義歯ごとのデータを比較できるようなグラフを表示可能とすれば、特定の患者の情報を蓄積し、その患者に対してより適切な義歯を作成することが容易になる。
【0019】
本発明の咬合評価装置において、前記流動空間は、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との接触点であって互いに隣接する2つの接触点を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記上顎臼歯の咬合面と、前記下顎臼歯の咬合面とで画定される空間、前記上顎臼歯の隣接する2つの咬頭を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記下顎臼歯の隣接する2つの咬頭を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記上顎臼歯の咬合面と、前記下顎臼歯の咬合面とで画定される空間、或いは、前記上顎臼歯の隣接し合う2つの最大豊隆部を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記上顎臼歯の窩よりも上に位置する所定の上顎基準平面と、前記下顎臼歯の隣接し合う2つの最大豊隆部を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記下顎臼歯の窩よりも下に位置する所定の下顎基準平面と、前記上顎臼歯の咬合面と、前記下顎臼歯の咬合面とで画定される空間であってもよい。
【0020】
この構成によれば、比較すべき範囲を容易に特定できる。
【0021】
また、本発明の咬合評価装置は、前記流動空間の体積を表示してもよい。
【0022】
この構成によれば、咀嚼能力を数値として定量的に把握できる。
【0023】
また、本発明の咬合評価装置は、前記流動空間の最も断面積が小さくなる断面を特定して表示してもよい。
【0024】
この構成によれば、最も小さい断面によって、擦動による摩滅や削合の程度が最も端的に示される。
【0025】
また、本発明の咬合評価装置は、前記上顎臼歯および前記下顎臼歯の形状の前記三次元データを修正可能であってもよい。
【0026】
この構成によれば、義歯の削合による咀嚼能力の変化をシミュレートでき、最適な削合を見つけることができる。
【0027】
また、本発明の咬合評価装置は、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との咬合状態を任意に変更できてもよい。
【0028】
この構成によれば、咀嚼運動による流動空間の形状変化を確認して、咀嚼能力を判定できる。
【0029】
また、本発明の咬合評価装置は、記上顎臼歯および前記下顎臼歯の咬合状態を変更する際に、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との相対移動量に対する前記流動空間の体積の変化量を算出して表示してもよい。
【0030】
この構成によれば、咀嚼運動の過程における咀嚼能力の変化を確認できる。
【0031】
また、本発明の咬合評価装置は、前記上顎臼歯および前記下顎臼歯の咬合状態を変更する際に、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との相対移動量に対する前記流動空間の咬合平面に垂直な断面における断面積の変化量を算出し、相対移動量について微分して表示してもよい。
【0032】
この構成によっても、咀嚼運動の過程における咀嚼能力の変化を確認できる。
【0033】
また、本発明による咬合評価方法は、上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データをコンピュータに読み込ませ、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との間に形成される流動空間の形状を、前記コンピュータによって算出して表示させる方法とする。
【0034】
また、本発明による咬合評価プログラムは、上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データをコンピュータに読み込み、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との間に形成される流動空間の形状を、前記コンピュータによって算出して表示させるものとする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、食物流動空間の大きさや形状を把握することによって、臼歯の咀嚼能力を患者または被験者の筋力や噛み癖に依存せずに評価することができる。
【0036】
また、本発明によれば、複数の義歯のデータを蓄積することによって、患者の噛み癖を含めた咀嚼能力を視覚化および定量化でき、正確な診断や、より適切な義歯の作成も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明1つの実施形態の咬合評価装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の流動空間の第1の態様の断面図である。
【図3】図2の流動空間の平面図である。
【図4】本発明の流動空間の第2の態様の断面図である。
【図5】図4の流動空間の平面図である。
【図6】本発明の流動空間の第3の態様の断面図である。
【図7】図6の流動空間の平面図である。
【図8】図7の代案の流動空間の平面図である。
【図9】図5のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明による咬合評価装置は、図1に示すように、演算装置と、データ入力装置と、表示装置と、ユーザ入力装置とを備えるコンピュータ等を用いて実現され得るものである。
【0039】
演算装置は、パーソナルコンピュータとソフトウェア・プログラムとを用いて実現することができるが、専用に設計したものであってもよい。データ入力装置は、直接三次元形状を読み取る三次元スキャナ等の機器だけでなく、メモリデバイスやディスク装置などのメディア読み取り装置またはデータ通信装置のように外部の三次元スキャナ等で読み取った三次元形状データを演算装置に読み込ませるための装置であってもよい。表示装置は、一般的なディスプレイでよい。ユーザ入力装置は、キーボードやマウス等の汎用の入力装置が利用できる。
【0040】
本発明の咬合評価装置は、データ入力装置によって上顎臼歯および下顎臼歯の三次元形状データを読み込んで、演算装置において上顎臼歯と下顎臼歯とを噛み合わせ、上顎臼歯の咬合面と下顎臼歯の咬合面との間に形成される流動空間の三次元形状を算出し、表示装置上に表示するものである。流動空間の表示には、コンピュータグラフィックスにおいて使用されるワイヤフレームやレイトレーシング等の手法を適用できる。
【0041】
図2および3に本発明の実施形態に係る第1の態様の流動空間のVaを、図4および5に本発明の実施形態に係る第2の態様の流動空間のVcを、図6および7に本発明の実施形態に係る第3の態様の流動空間のVwを、それぞれ示す。
【0042】
第1の態様の流動空間Vaは、上顎臼歯(第一小臼歯1、第二小臼歯2、第一大臼歯3、第二大臼歯4)と下顎臼歯(第一小臼歯5、第二小臼歯6、第一大臼歯7、第二大臼歯8)との接触点Paであって互いに隣接する2つの接触点Paを含んだ咬合平面に垂直な平面Saと、上顎臼歯1,2,3,4の咬合面1a,2a,3a,4aと、下顎臼歯5,6,7,8,の咬合面5a,6a,7a,8aとで画定される空間である。
【0043】
第2の態様の流動空間Vcは、上顎臼歯1,2,3,4の隣接し合う2つの咬頭Pcを含んだ咬合平面に垂直な平面Scと、下顎臼歯5,6,7,8の隣接し合う2つの咬頭Pcを含んだ咬合平面に垂直な平面Scと、上顎臼歯1,2,3,4の咬合面1a,2a,3a,4aと、下顎臼歯5,6,7,8,の咬合面5a,6a,7a,8aとで画定される空間である。
【0044】
第3の態様の流動空間Vwは、隣接し合う2つの上顎臼歯1,2,3,4の最大豊隆部Pwを含んだ咬合平面に垂直な平面Swと、隣接し合う2つの下顎臼歯5,6,7,8の最大豊隆部Pwを含んだ咬合平面に垂直な平面Swと、上顎臼歯1,2,3,4の咬合面1a,2a,3a,4aよりも上に位置する上顎基準面Suと、下顎臼歯5,6,7,8の咬合面5a,6a,7a,8aよりも下に位置する下顎基準面Slとで画定される空間である。
【0045】
咬合平面とは、厳密には、下顎中切歯の切縁の接触点と左右の下顎第二大臼歯遠心頬側咬頭との3点によって決定される平面をいうが、本発明では、これに準ずるいかなる平面であってもよい。例えば、前歯のデータがない場合には、左右いずれかの下顎第一小臼歯近心頬側咬頭と左右下顎第二大臼歯遠心頬側咬頭との3点によって決定される平面等、左右いずれかの臼歯のデータしかない場合には、下顎第一小臼歯近心頬側咬頭と下顎第二大臼歯遠心頬側咬頭と下顎第一大臼歯近心舌側咬頭との3点によって決定される平面等を、それぞれ咬合平面として取り扱ってもよい。さらなる代案として、下顎臼歯形状を読み込む際の基準面(直交座標系の上下の軸方向の位置が等しい平面)、つまり、データにおける下顎臼歯またはその歯茎の基底面を咬合平面として取り扱っても差し支えない。尚、本発明において咬合面とは、臼歯の表面の凹凸のある面を指す用語であって咬合平面とは明確に区別されるものである。
【0046】
本発明において、流動空間Va,Vc,Vwは、通常、左右に1つずつ算定されるが、臼歯の欠損がある場合には、欠損歯よりも近心側と遠心側とで分割して算出してもよく、各対合歯対ごとに算出してもよい。また、第三大臼歯を有する場合には、第三大臼歯まで拡張して流動空間Va,Vc,Vwを算出してもよい。
【0047】
第3の態様の流動空間Vwの算出において、最大豊隆部Pwは、歯列弓を画定できる場合には、頬側おおび舌側の最大豊隆部としてもよいが、図7に示すように、直交座標系三次元データの左右の軸方向に最大となる点および最小となる点を用いてもよい。
【0048】
また、図3,5,7に示した流動空間Va,Vc,Vwは、第一小臼歯および第二大臼歯の隣接する2つの接点Paを含む平面Sa、第一小臼歯および第二大臼歯の隣接する2つの咬頭Pcを含む平面Sc、或いは、第一小臼歯および第二大臼歯の左右方向(頬舌方向)両側の最大豊隆部Pwを含んだ平面Swによって、近心遠心方向に閉じた空間として画定されている。しかしながら、図8に示す第3の態様の流動空間Vwの代案では、第一小臼歯の近心方向または座標軸方向の最大豊隆部Pmにおける接面Sm、および、第二大臼歯の遠心方向または座標軸方向の最大豊隆部Pdにおける接面Sdによって、流動空間Vwの近心遠心方向の端面を画定している。同様に、第1の態様の流動空間Vaおよび第2の態様の流動空間Vcの近心遠心方向の端面を、他の基準によって定めた平面によって画定してもよい。
【0049】
また、図6に示した流動空間Vwの計算において、上顎基準面Suおよび下顎基準面Slは、それぞれ、予め定めた3点の最大豊隆部Pw例えば、第一小臼歯1,5の頬側最大豊隆部と、第二大臼歯4,8の頬側および下側最大豊隆部)含む平面としている。しかしながら、上顎基準面Suは、上顎臼歯1,2,3,4のすべての窩よりも上に位置する平面であればよく、下顎基準面Slは、下顎臼歯5,6,7,8のすべての窩よりも下に位置する平面であればよい。例えば、上顎基準面Suおよび下顎基準面Slは、それぞれ、予め定めた臼歯の特定の最大豊隆部を含んだ咬合平面に平行な平面としてもよい。
【0050】
また、第1の態様の流動空間Vaおよび第2の態様の流動空間Vcの算出に際し、歯間等においては、咬合面によって咬合平面に垂直な方向の境界が画定できない場合がある。このため、第1の態様の流動空間Vaおよび第2の態様の流動空間Vcの算出においても、第3の態様の流動空間Vwの画定と同様に、上顎基準面Suおよび下顎基準面Slを設定してもよい。
【0051】
本発明の咬合評価装置は、流動空間Va、流動空間Vcおよび流動空間Vwのいずれかをユーザ入力装置を介してユーザ(医師や技師)が選択し、選択された形状を表示できるようにすることが望ましい。
【0052】
また、流動空間Va,Vc,Vwの表示とともに、その体積を表示できるようにすることで、咀嚼能力を定量化して把握できるようになる。
【0053】
また、本発明の咬合評価装置は、上顎臼歯1,2,3,4と下顎臼歯5,6,7,8との咬頭嵌合位、咬合位、中心嵌合位、および、流動空間Va,VcまたはVwが最大となる初期接触位置等を自動的に算出し、それらの咬合状態の中からユーザが選択して表示することができるようにすることが好ましい。
【0054】
さらに、本発明の咬合評装置は、上顎臼歯1,2,3,4と下顎臼歯5,6,7,8との咬合状態を任意に変更できるようにすることが望ましい。例えば、ユーザが下顎臼歯5,6,7,8に対して上顎臼歯1,2,3,4を移動させる任意の方向を入力することによって、コンピュータが上顎臼歯1,2,3,4と下顎臼歯5,6,7,8との擦動を計算して、リアルタイムに流動空間Va,Vc,Vwの形状変化を表示するようにすれば、咀嚼運動による流動空間Va,Vc,Vwの変化を視覚的に把握できる。
【0055】
また、本発明の咬合評価装置は、流動空間Va,Vc,Vwの任意の断面の形状およびその断面積を表示できることが望ましい。例として、図9に、図5の流動空間VcのA−A断面を示す。さらに、咬合評価装置が、断面積が最小となる断面位置を算定して、画面表示するようにすれば、流動空間Va,Vc,Vwの中で咀嚼において最も有意な断面をユーザに知らせることができる。
【0056】
加えて、本発明の咬合評価装置は、上顎臼歯1,2,3,4と下顎臼歯5,6,7,8との任意の擦動における流動空間Va,Vc,Vwの体積や流動空間Va,Vc,Vwの特定位置の断面積の変化を上顎臼歯1,2,3,4と下顎臼歯5,6,7,8との相対移動量に対してグラフ化して表示できることが好ましい。さらに好ましくは、変化量を運動量で微分および2重微分してグラフ化することで、流動空間Va,Vc,Vwの変化率を求め、咀嚼運動のスムーズさを確認できる。
【0057】
また、本発明の咬合評価装置は、上顎臼歯1,2,3,4および下顎臼歯5,6,7,8の三次元データを修正可能であることが好ましい、これにより、最適な義歯の設計または削合状態のシミュレートが可能になる。
【0058】
本発明の咬合評価装置では、流動空間Va,Vc,Vwによって、最適な義歯の形状を決定するだけでなく、新品時の義歯と、使用後の摩耗した義歯との咀嚼能力の違いを評価することで、患者の噛み癖等も含めて、義歯の咀嚼能力を評価することも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…上顎第一小臼歯
2…上顎第二小臼歯
3…上顎第一大臼歯
4…上顎第二大臼歯
5…下顎第一小臼歯
6…下顎第二小臼歯
7…下顎第一大臼歯
8…下顎第二大臼歯
Pa…接触点
Pc…咬頭
Pw…最大豊隆部
Sa…接触点を含んだ平面
Sc…咬頭を含んだ平面
Sw…最大豊隆部を含んだ平面
Su…上顎基準平面
Sl…下顎基準平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データを読み込み、
前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯の咬合面と前記下顎臼歯の咬合面との間に形成される流動空間の形状を算出して表示することを特徴とする咬合評価装置。
【請求項2】
上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データを読み込み、
前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯の咬合面と前記下顎臼歯の咬合面との間に形成される流動空間の体積を算出して表示することを特徴とする咬合評価装置。
【請求項3】
複数の上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データを読み込み、前記流動空間の体積を比較表示することを特徴とする請求項2に記載の咬合評価装置。
【請求項4】
前記流動空間は、
前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との接触点であって互いに隣接する2つの接触点を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記上顎臼歯の咬合面と、前記下顎臼歯の咬合面とで画定される空間、
前記上顎臼歯の隣接する2つの咬頭を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記下顎臼歯の隣接する2つの咬頭を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記上顎臼歯の咬合面と、前記下顎臼歯の咬合面とで画定される空間、或いは、
前記上顎臼歯の隣接し合う2つの最大豊隆部を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記上顎臼歯の窩よりも上に位置する所定の上顎基準平面と前記下顎臼歯の、隣接し合う2つの最大豊隆部を含んだ咬合平面に垂直な平面と、前記下顎臼歯の窩よりも下に位置する所定の下顎基準平面と、前記上顎臼歯の咬合面と、前記下顎臼歯の咬合面とで画定される空間、
であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の咬合評価装置。
【請求項5】
前記流動空間の最も断面積が小さくなる断面を特定して表示することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の咬合評価装置。
【請求項6】
前記上顎臼歯および前記下顎臼歯の形状の前記三次元データを修正可能であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の咬合表示装置。
【請求項7】
前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との咬合状態を任意に変更できることを特徴とする請求項1に記載の咬合評価装置特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の咬合評価装置。
【請求項8】
前記上顎臼歯および前記下顎臼歯の咬合状態を変更する際に、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との相対移動量に対する前記流動空間の体積の変化量を算出して表示することを特徴とする請求項7に記載の咬合評価装置。
【請求項9】
前記上顎臼歯および前記下顎臼歯の咬合状態を変更する際に、前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との相対移動量に対する前記流動空間の咬合平面に垂直な断面における断面積の変化量を算出し、相対移動量について微分して表示することを特徴とする請求項7に記載の咬合評価装置。
【請求項10】
上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データをコンピュータに読み込ませ、
前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との間に形成される流動空間の形状を、前記コンピュータによって算出して表示させることを特徴とする咬合評価方法。
【請求項11】
上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データをコンピュータに読み込ませ、
前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との間に形成される流動空間の体積を、前記コンピュータによって算出して表示させることを特徴とする咬合評価方法。
【請求項12】
上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データをコンピュータに読み込み、
前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との間に形成される流動空間の形状を、前記コンピュータによって算出して表示させることを特徴とする咬合評価プログラム。
【請求項13】
上顎臼歯および下顎臼歯の形状の三次元データをコンピュータに読み込み、
前記上顎臼歯と前記下顎臼歯とを噛み合わせたときに前記上顎臼歯と前記下顎臼歯との間に形成される流動空間の体積を、前記コンピュータによって算出して表示させることを特徴とする咬合評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−39272(P2013−39272A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178906(P2011−178906)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【特許番号】特許第5017487号(P5017487)
【特許公報発行日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【Fターム(参考)】