説明

哺乳動物の摘出臓器の生命活動を停止する気体としての二酸化炭素(CO2、以下炭酸ガスという)を用いた保存後の蘇生の方法

【課題】従来、摘出臓器は、生理食塩水をベースとした天然水を保存前処理液として使用されていた。現在、ヒトの心臓移植で最も多く利用される保存方法では4時間が限界であるが、現実において、臓器移植は、優れた免疫抑制剤の開発と医療技術の向上により、確立されている。しかし、増加するレシピエントに対して、深刻なドナー不足が大きな問題となっているため臓器の保存期間を延長することが必要とされる。
【解決手段】本発明者等は係る課題を解決するために鋭意研究したところ、高炭酸ガス分圧を生命活動の停止気体として使用することにより臓器の保存期間の延長と蘇生効率の向上法を開発して、本発明を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の摘出臓器の生命活動の停止気体として高分圧炭酸ガスを用い、細胞内外の水を炭酸ガスで構造化することによっておこなうものである。
【背景技術】
【0002】
一般に摘出臓器は、生理食塩水をベースとした天然水を保存用液として使用し、現在ヒトの心臓移植で最も多く利用される保存方法では保存時間は4時間が限界である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら現実において、臓器移植は、優れた免疫抑制剤の開発と医療技術の向上により確立されているが、増加するレシピエントに対して、深刻なドナー不足が大きな問題となっているため臓器の保存期間を延長することが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は係る課題を解決するために鋭意研究したところ、高分圧の炭酸ガスを生命活動を停止させる気体として使用することにより臓器の保存期間の延長と蘇生効率の向上法を開発して、本発明を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば摘出心臓に高分圧の炭酸ガスを心停止の気体として用いると、乾燥保存後の蘇生率が向上した。炭酸ガス分圧は0.1〜50MPa(メガパスカル)好ましくは0.5MPaである。
【0006】
すなわち、炭酸ガス濃度の高い心停止の気体が長期間保存に使用することにより臓器を長期保存することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
すなわち本発明は、高分圧の炭酸ガスを生命活動を停止させる気体として使用して臓器の保存を行うことであり、以下実施例をもって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
実験で使用したラットは、アメリカのNIHの実験動物基準に合わせて人工繁殖したDa/Ham−bg(beige rat)オス・7週齢を使用した。
【0009】
ラットにネンブタール麻酔薬0.3mlを腹腔内投与しその後開胸してラットの心臓を摘出した。
【0010】
摘出心臓の大動脈にカテーテルを挿入し、Langendorff式灌流装置に装着し、10分間灌流し脱血した。
【0011】
灌流溶液は37℃のKH液にペニシリンGを添加し、常時混合ガス(酸素95%+二酸化炭素5%)で曝気した。
【0012】
灌流後、摂氏20度以下にした生理食塩水をカテーテルより5ml注入し、心停止させ、摘出心臓の表面及び、カテーテルの水分を滅菌済みガーゼで除去し、摘出心臓の重量を測定した。
【0013】
摘出心臓を下部に開放型の水をいれた容器を置いた高圧密閉容器に入れ、高圧容器内を炭酸ガス(二酸化炭素100)で0.5MPaまで加圧した後、4℃の冷蔵庫に24時間から240時間保存した。
【0014】
保存後、冷蔵庫から摘出心臓を取り出し、Langendorff式灌流装置に装着し、常時混合ガス(酸素=95%+炭素ガス=5%)で曝気した37℃のKH液で灌流した。
【0015】
保存後の心臓は灌流後、自発的に蘇生し神経活動が再開し、蘇生した摘出心臓に心電図記録用電極を装着し生体アンプを用いて、心電図を双曲誘導で連続記録した。
【0016】
対照実験として空気乾燥後KH液で蘇生させる実験を行った。
【0017】
実験で使用したラットは、アメリカのNIHの実験動物基準に合わせて人工繁殖したDa/Ham−bg(beige rat)オス・7週齢を使用した。
【0018】
ラットにネンブタール麻酔薬0.3mlを腹腔内投与し、その後開胸してラットの心臓を摘出した。
【0019】
摘出心臓の大動脈にカテーテルを挿入し、Langendorff式灌流装置に装着し、10分間灌流し脱血した。
【0020】
灌流溶液は37℃のKH液にペニシリンGを添加し、常時混合ガス(酸素95%+二酸化炭素5%)で曝気した。
【0021】
灌流後、摂氏20度以下にした生理食塩水をカテーテルより5ml注入し、心停止させ、摘出心臓の表面及び、カテーテルの水分を滅菌済みガーゼで除去し、摘出心臓の重量を測定した。
【0022】
摘出心臓を下部に開放型の水をいれた容器を置いた高圧密閉容器に入れ、高圧容器内を空気で0.5MPaまで加圧した後、4℃の冷蔵庫に24時間から240時間保存した。
【0023】
48時間から240時間後、冷蔵庫から心臓を取り出し、Langendorff式灌流装置に装着し、常時混合ガス(酸素=90%+炭酸ガス=5%)で曝気した37℃のKH液で灌流した。
【0024】
保存後の摘出心臓は灌流後、自発的に蘇生し神経活動が再開し、蘇生した摘出心臓に心電図記録用電極を装着し生体アンプを用いて、心電図を双曲誘導で連続記録した。
【0025】
空気乾燥を対照実験として行った。
【0026】
空気を用いて摘出心臓の乾燥保存前処理としたものは48時間以上蘇生しなかったが、炭酸ガスで保存前乾燥処理したものはすべて蘇生し、いずれも摘出心臓全体に収縮を伴う心拍動が見られた。
【0027】
摘出心臓からの自由水の水分除去率と重水濃度と蘇生状況を下記の表に示した。
【表】

・保存に使用した気体として炭酸:高炭酸ガス分圧と空気:空気ガス
【0028】
表にそれぞれのサンプルの保存時間、保存時の使用気体水分除去率、蘇生状態を示した。
【0029】
高分圧の炭酸ガスを用いて保存を行ったサンプルは240時間の保存までは完全な蘇生に成功した。
【0030】
対照実験として行った空気ガスによる保存では、24時間の保存では48時間保存以上の蘇生が見られなかった。
【0031】
摘出臓器は、高炭酸ガス分圧を保存気体として使用した方が、蘇生状態に良い結果が得られたことから、高分圧の炭酸ガスは細胞内外の結合水や自由水を構造化している事が示唆された。
【0032】
空気では、水が構造化しない。
【0033】
水が構造化したことにより、心筋細胞内部の代謝が低下するが生命活動は休眠状態に入ったためと示唆された。
【0034】
細胞内はほぼ水で満たされているが、細胞内の水は水道から流れ出る天然水とは状態が異なる。
【0035】
細胞内は、蛋白質や核酸などの多くの物質が溶けた非常に高濃度の水溶液になっている。
【0036】
そのため、そこにある水分子は蛋白質などの高分子に束縛され、水が「構造化」している。
【0037】
水の構造化とは、水分子が高分子と水素結合することにより、水分子の向きが決められ、スピンしにくくなり、熱運動が遅くなった状態のことを言う。
【0038】
構造化した水(結合水)は構造化していない水と比べると、100万分の1ほど運動が遅く、高分子から少し離れた細胞内の水分子でも結合水と同じく1万分の1、細胞膜のすぐ外側の水は1000分の1ほど運動が遅くなる。
【0039】
このため、結合水に囲まれた高分子は、水に囲まれずに存在する高分子に比べ、外部からの刺激の影響を受けにくい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を張った容器中に容器中の炭酸ガス分圧が0.1〜50MPaになるまで炭酸ガスを注入することにより作製された保存液に生物(植物と動物)の細胞、組織、臓器又は個体を保存する方法。
【請求項2】
水を張った容器中に炭酸ガス分圧が0.1〜50MPaになるまで炭酸ガスを注入することにより作製された生物(植物と動物)の細胞、組織、臓器又は個体の保存液。

【公開番号】特開2006−290853(P2006−290853A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136585(P2005−136585)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(503279208)
【出願人】(300091935)
【出願人】(591102682)
【Fターム(参考)】