説明

哺乳動物用滴下式消臭剤組成物

【課題】少ない使用量で優れた消臭効果が得られ、かつ安全性も良好な動物用消臭剤を提供する。
【解決手段】(A)消臭成分、(B)殺菌成分、(C)消炎成分及び(D)水以外の溶剤を含有し、水分含量が30重量%以下である哺乳動物用滴下式消臭剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の体に滴下して使用する哺乳動物用滴下式消臭剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年室内でペットとして動物を飼育するケースが増加するにつれ、動物の体臭が大きな問題となってきている。特に、強い臭気を有する犬等の動物をペットとして家庭内で飼育する場合には、その体表から発せられる獣臭は避けられない。しかし、シャンプーによる水洗いでの消臭は、手間がかかり頻繁には行えないことから、これに代わる簡便に消臭可能な消臭剤が要望されている。このような消臭剤として、消臭成分等を水へ溶解させ畜体に直接噴霧するスプレー型の消臭剤が従来より数多く上市されている。例えば、水溶性金属塩、界面活性剤、シリコーンを含有する動物臭に消臭効果の高い消臭剤組成物が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−178161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら特許文献1に記載されているような従来のスプレー型の消臭剤を畜体に直接噴霧した場合、薬剤が空間に飛散してしまうため消臭効果に必要な量以上の液量を噴霧する必要がある。また、飛散した薬剤をペットや使用者が吸入するなどの懸念もあった。
【0004】
従って、本発明の目的は、少ない使用量で優れた消臭効果が得られ、かつ安全性も良好な動物用消臭剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、被毛に覆われている動物の皮膚は、ヒトの皮膚と構造が異なり、水分を多く分泌するエクリン汗腺をほとんど有さないため、獣臭の主要成分が水分中ではなく主に皮脂中に存在しているという知見を踏まえて、獣臭の持続的消臭を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、消臭成分に加えて殺菌成分及び消炎成分を配合し、これらの成分を水以外の溶剤に溶解させ、且つ水分含量を30重量%以下に調整した滴下式液剤であれば、少ない使用量でも効率的且つ持続的に消臭効果が得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、(A)消臭成分、(B)殺菌成分、(C)消炎成分及び(D)水以外の溶剤を含有し、水分含量が30重量%以下である哺乳動物用滴下式消臭剤組成物を提供するものである。
また本発明は、哺乳動物用滴下式消臭剤組成物を哺乳動物の皮膚に滴下して消臭することを特徴とする哺乳動物の消臭方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の滴下式消臭剤組成物は(A)消臭成分だけでなく(B)殺菌成分を含有しているため、悪臭成分を直接消臭するのみならず、菌による悪臭成分の発生も抑えるため悪臭を根源から防止することが可能である。
また、本発明の滴下式消臭剤組成物はさらに(C)消炎成分を含有しているため、消臭剤組成物を皮膚に直接滴下することにより生じ得る皮膚の炎症を抑えることが可能である。
さらに、本発明の滴下式消臭剤組成物は(D)水以外の溶剤を含有し、水分含量が30重量%以下であるため、動物体表面に数箇所滴下して適用すると動物の皮膚表面全体に存在する皮脂中に有効成分が拡散し保持されるため、消臭効果が効率的且つ持続的に発揮される。すなわち、スプレー型の消臭剤では皮脂に覆われた皮膚や被毛へのなじみが悪いために有効成分の皮膚や被毛表面への付着効率が悪くなり、悪臭が主に存在する皮脂中に対して直接作用する消臭剤組成物の量がわずかであるため効率よく消臭効果が発揮されないのである。本発明の滴下式消臭剤組成物は、従来のスプレー式と異なり、空間への無駄な薬剤の飛散が起こらないため効率的に使用することができる。
中でも、本発明の滴下式消臭剤組成物は、(A)消臭成分と(D)溶剤の含有重量比率(A)/(D)を1/1000〜1/14と構成した場合、特に皮脂部への拡散性や皮脂部における保持性が向上するため、消臭効果が持続的に発揮される。
さらに、本発明の滴下式消臭剤組成物は、(B)殺菌成分と(C)消炎成分との含有重量比率(B)/(C)を1000/1〜1/2と構成した場合、特に皮膚への刺激性が緩和されるため、好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の哺乳動物用滴下式消臭剤組成物は、(A)消臭成分、(B)殺菌成分、(C)消炎成分及び(D)水以外の溶剤を含有するものであり、水分含量が30重量%以下である。
【0009】
本発明の組成物に使用される(A)消臭成分としては、ポリフェノール、タンニン、カテキンなどを成分として含む植物抽出物などの天然系消臭剤;界面活性剤系などの合成系消臭剤;臭気吸着性のある多孔質物質などが挙げられる。好ましい天然系消臭剤としては、緑茶抽出物、柿抽出物、リンゴ抽出物、ローズマリー抽出物、ドクダミ抽出物、イチョウ抽出物、オオバコ抽出物、甘蔗抽出物、ユキノシタ抽出物、ハマメリス抽出物、黄杞葉抽出物、ツリーモス抽出物、オークモス抽出物、ワサビ抽出物、パセリ抽出物などが挙げられる。合成系消臭剤としては、鉄アスコルビン酸錯体、鉄クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィリンナトリウム、ラウロイルジメチルアミンオキシド、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインなどが挙げられる。臭気吸着性のある多孔質物質としては、多孔質シリカゲル、焼結金属、ゼオライト、ベントナイトや炭などが挙げられる。このような消臭成分であれば、獣臭の主要成分であるイソ吉草酸を効率的に消臭することが可能であるが、その中でも植物抽出物は効果が持続する点と皮膚に対して穏やかに作用する点からより好ましい。特に好ましい植物抽出物としては、緑茶抽出物、柿抽出物、リンゴ抽出物、ローズマリー抽出物などが挙げられる。また、(A)消臭成分は、1種類のみを用いるだけでなく、2種類以上を組み合わせて使用可能であり、消臭効果、安全性、持続性の点から、本発明組成物中、0.1〜5重量%、さらに0.3〜3重量%、特に0.5〜2重量%含有するのが好ましい。
【0010】
前述のとおり、獣臭の主成分がイソ吉草酸であることは知られているものの、イソ吉草酸は動物の皮脂成分であるワックスジエステルにエステル結合した状態で動物の体表に存在しており、細菌による加水分解作用によってイソ吉草酸が遊離して初めて臭いが発せられることから、(B)殺菌成分としては、イソ吉草酸−ワックスジエステルのエステル結合物を加水分解するような細菌を殺菌する成分が好ましい。好ましい殺菌成分としては、天然系殺菌剤として竹酢液、木酢液、プロポリスなどが、合成系殺菌剤として塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、酢酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、トリクロサン、トリメチルグリシン、ポリリジン、パラフェノールスルホン酸亜鉛、トリクロロカルバニリド、塩化セチルピリジニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、サリチル酸、クロロキシレノールなどが挙げられる。その中でも、有効性及び安全性の点から竹酢液、木酢液、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジンやイソプロピルメチルフェノールなどが特に好ましい。また、(B)殺菌成分は、1種類のみを用いるだけでなく、2種類以上を組み合わせて使用可能であり、消臭効果、安全性、持続性の点から、本発明組成物中、0.01〜5重量%、さらに0.05〜3重量%、特に0.07〜2重量%含有するのが好ましい。
【0011】
(C)消炎成分は、本発明において犬等の動物の弱アルカリ性皮膚上での殺菌成分等により生じ得る皮膚の炎症を抑える作用を有する。本発明の組成物に使用される(C)消炎成分としては、天然系消炎成分及び合成系消炎成分のいずれでもよく、天然系消炎成分としては、オウゴンエキス、オオバコエキス、カミツレエキス、米胚芽油エキス、シモツケソウエキス、セイジエキス、ハトムギエキス、ユキノシタエキス等が挙げられる。また、合成系消炎成分としては、グアイアズレン、グリチルリチン酸塩、アラントイン等が挙げられる。このうち、グアイアズレン、グリチルリチン酸塩、アラントイン、米胚芽油エキス等がより好ましく、アラントインが特に好ましい。また、(C)消炎成分は、1種類のみを用いるだけでなく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。(C)消炎成分は、消臭効果、消炎効果、安全性及び持続効果の点から、本発明組成物中に、0.005〜1重量%、さらに0.01〜0.8重量%、特に0.015〜0.1重量%含有するのが好ましい。
【0012】
本発明の哺乳動物用滴下式消臭剤組成物には、(D)水以外の溶剤を含有することが、動物の体表面に滴下するだけで、有効成分を体表面全体に均一に拡散させ、かつ持続的に消臭効果を得るうえで重要である。これらの溶剤は水への溶解度が25℃で1.0g/100g以上、好ましくは5.0g/100g以上である有機溶剤が有効成分との親和性、滴下による有効成分の体表面への拡散性及び皮脂や皮脂中に存在する悪臭成分との相溶性の観点から好ましい。当該(D)溶剤としては、下記のようなグリコール系、グリコールエーテル系、アルコール系等の有機溶剤が挙げられる。
【0013】
具体的には以下の溶剤が好ましい。
(1)低級アルコール
炭素数2〜5の直鎖又は分岐のアルコール、具体的には、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等。
(2)芳香族アルコール
ベンジルアルコール、2−ベンジルオキシエタノール等。
(3)2価アルコール
エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、イソプレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、ヘキシレングリコール等。
(4)3価アルコール
グリセリン、トリメチロールプロパン等。
(5)4価アルコール
ペンタエリスリトール等。
(6)多価アルコール重合体
ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ポリグリセリン等。
(7)エチレングリコールエーテル類
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等。
(8)エチレングリコール重合体アルキルエーテル類
ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等。
(9)プロピレングリコールアルキルエーテル類
プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル等。
(10)ジプロピレングリコールアルキルエーテル類
ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル等。
【0014】
このうち、皮脂や皮脂中に存在する悪臭成分との相溶性があり、かつ前記の消臭成分、殺菌成分、消炎成分との親和性が高い2価アルコール、3価アルコール、多価アルコール重合体、エチレングリコールエーテル類、エチレングリコール重合体アルキルエーテル類が好ましく、特にエチレングリコール重合体アルキルエーテル系溶剤が好ましい。
【0015】
これらの(D)溶剤は1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。(D)溶剤の含有量は、有効成分との親和性、滴下による有効成分の体表面への拡散性及び皮脂や皮脂中に存在する悪臭成分との相溶性の観点から、最も有効成分が悪臭成分に作用できるように、本発明の組成物中70〜99重量%、さらに中75〜97重量%、特に78〜95重量%含有するのが好ましい。
【0016】
また、本発明の哺乳動物用滴下式消臭剤組成物中の水の含量は、滴下による有効成分の体表面への拡散性、持続性、有効成分との親和性の点から30重量%以下であることが動物の体表面に滴下するだけで、皮脂に覆われた皮膚や被毛へよくなじみ、その結果として有効成分を体表面全体に均一に拡散させ、かつ持続的に消臭効果を得るという理由で重要である。より好ましくは25重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。
特に、(A)消臭成分と(D)溶剤との含有重量比率((A)/(D))は、有効成分との親和性及び皮脂や皮脂中に存在する悪臭成分との相溶性の点から、1/1000〜1/14、さらに1/500〜1/30、特に1/200〜1/50であるのが好ましい。
【0017】
また、本発明の組成物において、(B)殺菌成分と(C)消炎成分との含有重量比率((B)/(C))は、1000/1〜1/2、さらに200/1〜1/1、特に100/1〜3/1であることが、皮膚への刺激性を緩和する点から好ましい。
【0018】
本発明組成物には、さらに香料、防腐剤、可溶化剤、乳化剤、pH調整剤、キレート剤、酸化防止剤、着色剤、増粘剤等を配合することができる。
【0019】
本発明の組成物は、哺乳動物の皮膚表面に滴下に使用するものであることから、一定量を滴下することができる容器又は一回使用量のみを充填した滴下可能な容器に充填するのが好ましい。当該容器としては、1プッシュで規定量しか吐出しない容器や、1回使いきりのスポット容器などが挙げられる。
【0020】
本発明の組成物は、哺乳動物、例えば犬や猫等の皮膚の1〜数ヶ所に滴下するだけで、すばやく動物の体表面全体に均一に有効成分が拡散する。例えば、犬の場合、好ましくは背筋に沿った部分に2〜4ヶ所に滴下するだけでよい。これにより、動物の体表面を洗浄した後に滴下するだけで、消臭効果が1〜3週間持続する。1回の滴下量は、1〜10mL程度でよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
実施例1及び比較例1〜4
(1)試料の調製
以下に示す動物用滴下式消臭剤を作製し、犬に対する消臭効果の持続性について評価を行った。比較例として、水分50%を含む滴下剤(比較例1)、水分50%を含むスプレー剤(比較例2)、(B)殺菌剤を含まない滴下剤(比較例3)及び(C)消炎剤を含まない滴下剤(比較例4)を用いた。
【0023】
【表1】

【0024】
(2)試験方法
各検体3.0mLを後述の臭いのレベルが4であるビーグル犬の背中に3ヶ所(首筋、背中中央、尾の根元)に滴下処理し、自然乾燥させた。パネラー3人に「使用直後の臭い」を官能評価させた。また塗布後2週間後に「2週間後の臭い」を、同様にパネラー3人に官能評価させた。評価基準は表3に示すとおりである。評価数値に関しては評価実施者3名の評価数値を平均し評価した。また併せて塗布部位の2週間後の皮膚の状態を獣医師により判定した。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
表3の結果より、本発明の哺乳動物用滴下式消臭剤組成物を用いれば、1回の滴下で2週間、強い消臭効果が持続した。一方、水の含有量が50%の場合(比較例1)、スプレー剤(比較例2)及び(B)殺菌剤成分を配合しない場合(比較例3)においては、消臭効果は不十分であった。また(C)消炎剤成分を配合しない場合(比較例4)においては、塗布部位に紅班が認められ、炎症に伴い、臭いが悪化した。
【0028】
実施例2〜7
表4に示す哺乳動物用滴下式消臭剤を調製し、実施例1と同様に評価した。
【0029】
【表4】

【0030】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)消臭成分、(B)殺菌成分、(C)消炎成分及び(D)水以外の溶剤を含有し、水分含量が30重量%以下である哺乳動物用滴下式消臭剤組成物。
【請求項2】
(A)消臭成分が、植物抽出物由来である請求項1記載の哺乳動物用滴下式消臭剤組成物。
【請求項3】
(D)水以外の溶剤が、水に対する溶解度が25℃で5.0g/100g以上の有機溶剤である請求項1又は2記載の哺乳動物用滴下式消臭剤組成物。
【請求項4】
(A)消臭成分と(D)溶剤との含有重量比率(A)/(D)が1/1000〜1/14である請求項1〜3のいずれか1項記載の哺乳動物用滴下式消臭剤組成物。
【請求項5】
(B)殺菌成分と(C)消炎成分との含有重量比率(B)/(C)が、1000/1〜1/2である請求項1〜4のいずれか1項記載の哺乳動物用滴下式消臭剤組成物。
【請求項6】
哺乳動物用滴下式消臭剤組成物を哺乳動物の皮膚に滴下して消臭することを特徴とする哺乳動物の消臭方法。

【公開番号】特開2008−266166(P2008−266166A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108739(P2007−108739)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000149181)株式会社大阪製薬 (14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】