説明

哺乳類内の赤血球生成を刺激する新規の組成物および方法

本発明は、ヘルペスウイルス侵入メディエータ(HVEM)を活性化する薬剤を含む組成物に関する。本発明は、HVEMのアゴニストを含む組成物にも関する。本発明は、HVEMを活性化する薬剤もしくはHVEMのアゴニストである薬剤を含む組成物を哺乳類に投与する工程を含む、哺乳類内の赤血球生成を刺激する方法にも関する。本発明は、貧血性疾患を患っている哺乳類にHVEMを活性化する薬剤を投与する工程を含む、貧血性疾患の治療方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2007年10月5日出願の米国仮特許出願第60/997,818号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全教示内容は、参照することで本明細書に組み入れられる。
【0002】
(連邦政府後援の研究または開発によってなされた発明に対する権利に関する申立て)
本発明は、米国国立衛生研究所により与えられた認可(R01HL088954)の元に、米国政府の援助によりなされた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、TNF受容体スーパーファミリータンパク質であるヘルペスウイルス侵入メディエータ(HVEM)を活性化させることにより、哺乳類内のエリスロポエチン(EPO)産生を刺激する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
貧血は、単一で最も一般的な血液疾患であり、赤血球内のヘモグロビンが不足することにより起こる。ヘモグロビンは、通常、肺から末梢および他の臓器に酸素を運搬するため、貧血は低酸素症をもたらすことが多い。正常条件下では、循環中のEPOの量は低酸素症に応じて増加する。低酸素症は、例えば、出血による実質的な失血、放射線への過剰曝露による赤血球の破壊、高所もしくは長期の意識消失に起因する酸素の取り込みの減少、または種々の型の貧血により引き起こされる場合がある。このような低酸素ストレスに応答して、赤血球前駆細胞の増殖を刺激することで赤血球の産生が増加し、EPOレベルが上昇する。逆に、循環中の赤血球数が通常の組織酸素消費に必要な数よりも大きくなると、循環中のEPOレベルは通常は低下する。
【0005】
赤血球生成、即ち、赤血球の産生は、細胞破壊による赤血球の減少を相殺するためにin vivoで継続的に起こる。野生型の動物では、赤血球生成は高度に調節された生理学的機序であり、これにより、適当な組織酸素化に十分な赤血球を供給することができる。自然発生のヒトエリスロポエチンは、約34キロダルトン(kD)の分子量を持つ糖タンパク質ホルモンとして腎臓内で産生される。自然発生のEPOは、骨髄内で、拘束された赤血球前駆体の分裂や分化を刺激し、赤血球前駆体上の受容体に結合することでその生物活性を発揮する(Krantzら、(1991),Blood,77:419)。より詳細には、赤血球前駆細胞のEPO誘発分化中、グロビン合成が誘発され、ヘム錯体合成が刺激され、フェリチン受容体の数が増加する。これらの生理学的変化により、細胞はより多くの鉄を取り込み、酸素と結合する機能的ヘモグロビンを合成することができる。従って、赤血球は、体中への酸素運搬に重要な役割を果たしている。かかる変化は、赤血球前駆細胞の細胞表面上の適当な受容体とEPOとの相互作用により開始される(例えば、Graber and Krantz(1978)Ann.Rev.Med.29.51−66を参照されたい)。
【0006】
EPOは赤血球形成において必須であるため、赤血球産生の低下あるいは欠乏により特徴付けられる血液疾患の治療にEPOは有用である。臨床的に、EPOは貧血の治療に用いられる。貧血は、一次疾患(例:鎌状細胞貧血)としても、他の疾患に伴う二次性貧血としても現れ得る(例:慢性腎不全患者;Eschbachら、(1987),NEJM,316:73−78;Egrieら、(1988),Kidney Intl.,33:262;Limら、(1989),Ann.Intern.Med.,110:108−114を参照されたい。これらの出願の全教示内容は、参照することで本明細書に組み入れられる)。さらに、貧血は、既存の治療法の副作用としても現れ得る。例えば、AIDSや悪性腫瘍を持つ患者は、治療介入の結果として貧血を起こすことが多い(Dannaら、In:M B,Garnick,ed.Erythropoietin in Clinical Applications−An International Perspective.New York,N.Y.:Marcel Dekker;1990:p.301−324)。
【0007】
最近の研究においても、β−サラセミア(Vedovatoら、(1984),Acta.Haematol.,71:211−213を参照されたい);嚢胞性線維症(Vichinskyら、(1984),J.Pediatric.,105:15−21を参照されたい);妊娠および生理の障害(Cotesら、(1983),Brit.J.Ostet.Gyneacol.,90:304−311を参照されたい); 脊髄損傷(Claus−Walkerら、(1984),Arch.Phys.Med.Rehabil.,65:370−374を参照されたい);急性失血(Millerら、(1982),Brit.J.Haematol.,52:545−590を参照されたい);異常な赤血球生成に伴う腫瘍性疾患状態(Dainiakら、1983,Cancer,5:1101−1106およびSchwartzら、(1983),Otolaryngol.,109:269−272を参照されたい);および腎不全(Eschbachら、(1987),N.Eng.J.Med.,316:73−78を参照されたい)を含む種々の疾患状態、障害、および血液学的不整の状態に対するEPO産生を刺激する治療の投与についての基礎が提供されている。
【0008】
治療化合物として、EPOは、組換えDNA技術を用いて生合成的に製造されており(Egrieら、(1986),Immunobiol.,72:213 224)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)で発現させたクローン化ヒトEPO遺伝子の産物である。EPOの生物学的効果は、少なくともある程度は、EPO受容体(EPO−R)との相互作用により媒介される。マウスおよびヒトのEPO受容体をコードしている遺伝子は周知であり、PCT出願刊行物国際公開第90/08822号パンフレットに記載されている。EPOがEPO−Rに結合することで2つのEPO−R分子の二量化および活性化をもたらし、次の工程のシグナル伝達をもたらすことが示唆されている(Watowichら、(1992),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:2140−2144を参照されたい)。
【0009】
さらに、EPO産生を増加させるための別のEPO−R結合化合物も同定されており、例えば、米国特許第5,773,569号;同第5,830,851号;同第5,986,047号;PCT出願刊行物国際公開第96/40749号パンフレット;米国特許第5,767,078号、PCT特許出願公開明細書第96/40772号;PCT出願刊行物国際公開第01/38342号パンフレット;および同第01/91780号パンフレットに記載されており、これらの出願の全教示内容は、参照することで本明細書に組み入れられる。
【0010】
赤血球の発生におけるEPOの重要な役割を考えると、in vivoで赤血球生成を刺激できる有効な治療が必要とされている。本発明の方法および組成物は、ヘルペスウイルス侵入メディエータ(HVEM)を活性化させることで、赤血球生成の刺激をもたらすかかる治療を提供する。
【0011】
HVEMは、腫瘍壊死因子−受容体(TNF−R)スーパーファミリーの一員であり、HSV糖タンパク質Dに結合することで、単純疱疹ウイルス(HSV)の侵入に必要な細胞受容体として本来は同定されていた。HVEMは免疫細胞の表面上に広く発現し、特定の非造血細胞上でも同定されている。HVEMは、いくつかのHeLa細胞産物の発現クローニングにより同定されており、非許容CHO細胞で発現した場合、多くのHSV株によりCHO細胞に侵入しやすくなった。いくつかの研究では、HVEMが宿主免疫反応の活性化に関与していることが示唆されている。例えば、HVEMはリンパ球富化組織で大部分は発現し、タンパク質のTNFR関連因子(TRAF)ファミリーのいくつかのメンバーにHVEMが結合することで、核因子KB(NF−κB)、Jun N末端キナーゼ、およびAP−1などの転写制御因子を活性化させる。さらに、HVEMは、リンホトキシンアルファ(腫瘍壊死因子βとしても知られる)やLIGHT(誘導性発現を示しHVEMのHSV糖タンパク質Dと競合するリンホトキシンのような、Tリンパ球によって発現される受容体)と呼ばれる膜結合タンパク質に結合する。HVEMの構造は、ヒト(NCBIアクセッション番号AAQ89238;SEQ ID NO:3)、マウス(NCBIアクセッション番号AAQ08183)、アカゲザル(NCBIアクセッション番号ABI13587)、およびドブネズミ(NCBIアクセッション番号NP_001015034)などのいくつかの哺乳類種に対して同定されており、いくつかの他の哺乳類種に対するヌクレオチド配列に基づいて予測されている。
【0012】
LIGHTはリンホトキシン同族体であり、12−ミリスチン酸13−酢酸ホルボール(PMA)による誘導時にT細胞により発現される(Mauriら、(1998),Immunity 8:21−30;Marstersら、(1997),J.Biol.Chem.272:14029−14032);Hsuら、(1997),J.Biol.Chem.272:13471−13474を参照されたい)。HVEMはその三量体リガンド(例:LIGHT)に結合する際に三量化し、この結合はHVEMのシステイン富化ドメイン(CRD)により媒介されると考えられる。LTαは、CRD2とCRD3との相互作用によりHVEMに結合する。抗体ブロッキングやペプチドマッピングのいくつかの研究により、HVEMへのLIGHTおよびLTαの結合は、CRD2およびCRD3への結合により媒介され得ることが実証されている。HVEMの連結反応(例えば、LIGHTによる)により、TRAF1、2、3、および5が動員され、その後、増殖、生存、およびサイトカイン産生を媒介するNF−κBおよびAP−1転写因子の発現を上方調節する。
【0013】
現在、HVEMに関するほとんどの研究が、病原体が免疫系に侵入することに反応してTリンパ球の活性化を調節するHVEMの役割への理解に向けられている。HVEMの役割や、骨髄細胞などの他の細胞型におけるその下流シグナル経路についてはほとんど知られていない。本発明は、HVEMの活性化によって、哺乳類内のエリスロポエチン(EPO)産生を刺激する新規の組成物および方法を提供する。
【0014】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献を参照することにより本明細書に組み入れるものとする。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、ヘルペスウイルス侵入メディエータ(HVEM)を活性化する薬剤を含む、哺乳類内の赤血球生成を刺激する組成物に関する。
【0016】
本発明は、HVEMのアゴニストを含む、哺乳類内の赤血球生成を刺激する組成物にも関する。
【0017】
本発明はさらに、HVEMのアゴニストを含む、哺乳類内の赤血球生成を刺激する組成物にも関する。ここで、アゴニストは、抗体、同族リガンドの融合タンパク質(例:LIGHTまたはリンホトキシンアルファ)、DNAアプタマー、RNAアプタマー、または小分子であってもよい。
【0018】
本発明は、HVEMを活性化する薬剤を含む組成物を哺乳類に投与する工程を含む、哺乳類内の赤血球生成を刺激する方法に関する。
【0019】
本発明は、HVEMのアゴニストである薬剤を含む組成物を哺乳類に投与する工程を含む、哺乳類内の赤血球生成を刺激する方法にも関する。
【0020】
本発明はさらに、HVEMのアゴニストを含む組成物を哺乳類に投与する工程を含む、哺乳類内の赤血球生成を刺激する方法にも関する。ここで、アゴニストは、抗体、同族リガンドの融合タンパク質(例:LIGHTまたはリンホトキシンアルファ)、DNAアプタマー、RNAアプタマー、または小分子であってもよい。
【0021】
本発明は、HVEMを活性化する薬剤を貧血性疾患を患っている哺乳類に投与する工程を含む、貧血性疾患の治療方法および該疾患の治療に有用な組成物に関する。特別な実施形態では、貧血性疾患は、例えば、腎不全、化学療法、または薬物療法によってもたらされる。
【0022】
本発明は、HVEMを活性化する薬剤を疾患を患っている哺乳類に投与する工程を含む、パーキンソン病およびハンチントン舞踏病を含む神経変性疾患の治療方法および該疾患の治療に有用な組成物にも関する。
【0023】
本発明はさらに、HVEMを活性化する薬剤を疾患を患っている哺乳類に投与する工程を含む、炎症性疾患の治療方法および該疾患の治療用組成物にも関する。ここで、炎症性疾患は、喘息、アレルギー、慢性関節リウマチ、および炎症性腸疾患からなる群から選択される。
【0024】
本発明は、HVEMに特異的に結合し、なおかつ、哺乳類内の赤血球生成を刺激する抗体に関する。抗体は、哺乳類HVEMのアゴニストであり、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、および抗原結合性抗体断片からなる群から選択される抗体である。
【0025】
本発明は、ヒトHVEMに特異的に結合し、なおかつ、哺乳類内の赤血球生成を刺激する抗体にも関する。抗体は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的に結合する。別の態様では、抗体は赤血球生成を刺激する。
【0026】
本発明はさらに、哺乳類HVEMに特異的に結合する抗体にも関する。ここで、前記抗体は、前記哺乳類HVEMのアゴニストであり、(i)哺乳類に哺乳類HVEMタンパク質またはその細胞外ドメインで免疫性を与える工程と;(ii)前記哺乳類HVEMタンパク質またはその細胞外ドメインに結合する前記哺乳類から抗体を単離する工程と;(iii)抗CD3抗体の存在下、工程(ii)の抗体をTリンパ球と接触させる工程と;(iv)工程(iii)が前記Tリンパ球の増殖を誘導するかどうか測定する工程と;を含む方法によって生成される。前記Tリンパ球の増殖が誘発される場合、工程(ii)で単離された抗体はHVEMのアゴニストである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】Ter−119赤血球系細胞のHVEMアゴニスト誘導増殖を示す。(A)は、抗Ter−119抗体および抗CD45抗体で染色した脾細胞のFACS分析である。(B)は、HM3.30IgG抗体を投与した野生型マウスのTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖である。HM3.30IgG抗体を投与した場合、HVEMノックアウトマウス(HVEM−/−)は、Ter−119/CD45赤血球系細胞の増殖を示さなかった。(C)は、HVEMにアゴニスト作用を有する抗体を要する野生型マウスのTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖である。非アゴニスト抗体(HM2.2)は、アゴニスト抗体HM3.30よりもTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖がかなり弱かった。(D)野生型マウス、LIGHT−/−マウス、およびHM3.30IgG抗体を投与したLTα−/−マウスのTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖である。
【0028】
【図2】Ter−119/CD45赤血球系細胞の増殖が骨髄から発生することを示す。(A)HM3.30IgG抗体(黒丸)または対照IgG抗体(白丸)を投与した2日、4日、および6日後の骨髄、脾臓、および末梢血におけるTer−119/CD45赤血球系細胞の分析である。(B)HM3.30IgGおよび対照ハムスターIgG注入マウスにおけるベンジジン陽性のCFU−E数の分析である。(C)脾摘マウスの骨髄および血液におけるTer−119/CD45赤血球系細胞の分析である。
【0029】
【図3】抗Ter−119抗体を用いた骨髄細胞上のHVEMの発現におけるFACS分析を示す。
【0030】
【図4】HM3.30IgG抗体を投与した野生型マウスにおけるEPO産生を示す。(A)HM3.30IgG抗体を投与後の野生型マウスの血清におけるEPOの濃度の測定である。(B)抗EPO抗体の存在下でHM3.30IgG抗体によるTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖の阻害である。
【0031】
【図5】骨髄由来細胞において赤血球生成を誘発したHM3.30におけるHVEMの要件を示す。野生型骨髄細胞またはHVEM−/−骨髄細胞のいずれかを含むキメラマウスにHM3.30IgG抗体もしくは対照IgG抗体のいずれかを投与し、Ter−119/CD45赤血球系細胞の増殖(A)もしくはEPO産生(B)を測定した。HVEM−/−マウスを野生型骨髄細胞(CおよびD)で再構成した場合、Ter−119/CD45赤血球系細胞の増殖およびEPOの産生を刺激することができた。
【0032】
【図6】リンパ球または好中球の不在下で、HM3.30が赤血球生成を誘発したことを示す。(A)HM3.30IgG抗体または対照IgG抗体を投与したRag欠損マウスにおけるTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖分析である。(B)HM3.30IgG抗体または対照IgG抗体を投与した、好中球が欠乏したRag欠損マウスにおけるTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖分析である。
【0033】
【図7】eNOS阻害剤、L−NAMEによるTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖阻害を示す。野生型マウスにL−NAMEを投与し、HM3.30抗体または対照IgG抗体を投与した後にTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖を測定した。
【0034】
【図8】貧血マウスをHM3.30IgG抗体で治療すると、EPOおよびヘモグロビンが増加したことを示す。野生型マウスにシスプラチンを投与して貧血にさせた後、HM3.30抗体で治療した。EPO(A)およびヘモグロビン(B)の血清レベルを測定した。(C)HVEM−/−マウスおよび野生型マウスを5−フルオロウラシルで治療し、産生したEPOのレベルを測定した。5−フルオロウラシルを投与した場合、HVEM−/−マウスが産生したEPOは、野生型マウスのものよりも少ない。
【0035】
【図9】HM3.30IgG抗体の結合特異性を示す。マウスHVEM、ヒトHVEM、マウスHVEMのCRD2〜4に融合したヒトHVEMのシステイン富化ドメイン(CRD)1のキメラ遺伝子、もしくはヒトHVEMのCRD2〜4に融合したマウスHVEMのCRD1のキメラ遺伝子をコードしているプラスミドで293T細胞を形質転換した。HM3.30IgG抗体、続いて、PE共役抗ハムスターIgGで形質転換細胞を標識し、FACS分析により結合を測定した。
【0036】
【図10】2つの単離されたアゴニスト抗ヒトHVEM抗体の特徴を示す。(A)ヒトHVEMを発現している293T細胞をハイブリドーマクローン27および6H9の培養上清で染色した後、PE共役抗マウスIgG Abで染色した。FACS分析により結合を測定した。(B)ヒトT細胞を抗CD3抗体および抗体クローン27ならびに6H9と共インキュベーションすることにより、抗体クローン27および6H9のアゴニスト活性について測定した。抗体を投与した3日後に3Hチミジン取り込みを測定することにより、T細胞の増殖について測定した。
【発明を実施するための形態】
【0037】
特に明記しない限り、本明細書で使用する用語は、当該技術分野の当業者による慣例的用法に従って理解されるものである。以下に提供する用語の定義に加えて、分子生物学における一般用語の定義は、Riegerら、(1991)Glossary of genetics:classical and molecular,5th Ed.,Berlin:Springer−Verlag; and in Current Protocols in Molecular Biology;F.M.Ausubelら、Eds.,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,(1998 Supplement)にも記載されている。本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、「a」もしくは「an」は、それが用いられる文脈に応じて1つ以上を意味し得る。従って、例えば、「抗体」という言及は、少なくとも1つの抗体を利用できることを意味し得ることを理解されたい。
【0038】
本明細書で使用される「ヘルペスウイルス侵入メディエータ(HVEM)を活性化する」という用語は、HVEMの活性化による下流シグナル経路の誘発のことを言う。かかる下流シグナル経路としては、核因子KB(NF−κB)、Jun N末端キナーゼ、およびAP−1などの転写制御因子が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、HVEMを活性化する薬剤(例えば、本発明の抗体が挙げられる)は、赤血球生成の刺激を含む、少なくとも1つの他の機能を有する。
【0039】
本明細書で使用される「アゴニスト」という用語は、HVEMに結合し、なおかつ、HVEMを誘発して下流シグナル経路を活性化させる能力を有するペプチドおよび非ペプチドリガンドのことを言う。かかる下流シグナル経路としては、核因子KB(NF−κB)、Jun N末端キナーゼ、およびAP−1などの転写制御因子が挙げられるが、これらに限定されない。アゴニストはペプチドアゴニストであることが好ましい。アゴニストは、LIGHT(リンホトキシンに対して相同であり、誘導性発現を示し、Tリンパ球によって発現される受容体)、リンホトキシンアルファ(LTα)、およびアゴニスト抗体からなる群から選択されるペプチドアゴニストであることがより好ましい。
【0040】
本明細書で使用される「アゴニスト抗体」という用語は、HVEMに結合し、なおかつ、HVEMを誘発して下流シグナル経路を活性化させる能力を有する抗体のことを言う。かかる下流シグナル経路としては、核因子KB(NF−κB)、Jun N末端キナーゼ、およびAP−1などの転写制御因子が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、アゴニスト抗体は、HVEMの細胞外ドメインに結合し、少なくとも1つのCRDに結合することが好ましい。「アゴニスト抗体」という用語は、抗HVEMアゴニストモノクローナル抗体や、ポリエピトピック特異性を持つ抗HVEMアゴニスト抗体組成物を包含する。本発明の好適な実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。抗体は任意の哺乳類HVEMに対して産生され得る。抗体は霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、もしくはブタ科のHVEMに対して産生されることが好ましい。抗体はヒトHVEMに対して産生されることがより好ましい。ある実施形態では、本発明の抗体により赤血球生成が刺激される。ある実施形態では、赤血球生成を刺激する抗体はHVEMのアゴニストである。
【0041】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、特異性抗原に結合特異性を示すタンパク質のことを言う。天然抗体は、通常、2本の同一の軽(L)鎖と2本の同一の重(H)鎖とからなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖と連結し、ジスルフィド結合数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖によって変化する。各重鎖は、一方の末端に可変ドメインを有し、その後に多数の定常ドメインを有する。各軽鎖は、一方の末端に可変ドメインを有し、他方の末端に定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1の定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。
【0042】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、最も広い意味で使用し、抗体が所望のアゴニスト活性を示し、赤血球生成を刺激する限り、単一のモノクローナル抗体、ポリエピトピック特異性を持つ抗体組成物(即ち、ポリクローナル抗体組成物)、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、および抗体断片(例:Fab、F(ab’)、Fv)を包含する。
【0043】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性および特異性に使用されているという事実のことを言う。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。軽鎖および重鎖の両方の可変ドメインの両方の相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つの部分に集中している。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインは、ベータシート構造を連結し、ある場合にはその一部を形成するループを形成する、3つのCDRにより連結されたベータシート配置を主にとる4つのFR領域をそれぞれ含んでいる。各鎖のCDRは、FR領域によって近接した状態に保たれており、他の鎖のCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat,E.A.ら、(1987),Sequences of Proteins of Immunological Interest National Institute of Health,Bethesda,Md.を参照されたい)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関連しているものではないが、抗体依存性細胞障害への抗体の関与など種々のエフェクター機能を示す。
【0044】
抗体のパパイン消化は、Fab断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片を生成し、その各々は単一の抗原結合部位を持ち、残りは「Fc」断片である。ペプシン処理はF(ab’)断片を生じ、それは2つの抗原結合部位を持ち、抗原を交差結合することができる。
【0045】
本明細書で使用される「Fv」という用語は、完全な抗原認識および抗原結合部位を含む最小抗体断片のことを言う。この領域は、非共有結合をなした一つの重鎖および一つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。しかしながら、単一の可変ドメイン(または抗原に対して特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえ、抗原を認識して結合する能力を有していることが当該技術分野において認識されている。
【0046】
本明細書で使用される「Fab断片」という用語は、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1の定常ドメインとを含む抗原結合断片のことを言う。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む重鎖定常ドメインのカルボキシ末端に数個の残基が付加している点でFab断片とは異なる。本明細書で使用される「Fab’−SH」という用語は、定常ドメインのシステイン残基(単数または複数)が遊離チオール基を担持しているFab’断片のことを言う。
【0047】
任意の脊椎動物種からの抗体の軽鎖には、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパおよびラムダと呼ばれる2つの明確に区別される型の一つが割り当てられる。
【0048】
抗体の重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体(免疫グロブリン)は異なるクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、それらのいくつかはさらに、IgG−1、IgG−2、IgG−3、IgG−4、およびIgA−1、IgA−2などのサブクラス(アイソタイプ)に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、およびミューと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造および三次元立体配位は周知である。
【0049】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体、即ち、集団に含まれる個々の抗体が、少量で存在しうる自然に生じる可能性がある突然変異を除いて同一な抗体のことを言う。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対するものである。異なるエピトープに対する異なる抗体を典型的には含むポリエピトピック(ポリクローナル)抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原の単一のエピトープに対するものである。モノクローナル抗体はハイブリドーマ培養から産生し、単離することができる。「モノクローナル」という用語は、抗体の特異性を示しており、任意の特定の方法による抗体の産生を要するものと解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohlerら、(1975),Nature,256:495に記載されたハイブリドーマ法によって作製することができ、あるいは組換えDNA法によって作製することができる(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)。
【0050】
本明細書で検討されたモノクローナル抗体としては、「キメラ」抗体が挙げられ、その重鎖および/または軽鎖の一部は、特定の種由来または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であり、残りの鎖(単数または複数)は、所望のアゴニスト活性を示す限り、かかる抗体の断片のように別の種由来または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同のものである(例えば、米国特許第4,816,567号およびMorrisonら、(1984),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851−6855を参照されたい)。
【0051】
本明細書で使用される「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む、非ヒト(例:マウス)抗体、キメラ抗体、免疫グロブリン鎖またはその断片(抗体のFv、Fab、Fab’、または他の抗原結合サブ配列など)の形態のことを言う。例えば、ヒト化抗体は、相補性決定領域(CDR)からのアミノ酸残基が、所望の特異性、および親和性を有するマウス、ラット、ヤギ、ロバ、またはウサギなどの非ヒト種(即ち、ドナー抗体)のCDRからの残基によって置換されたヒト免疫グロブリンであってもよい。いくつかの実施形態では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、輸入CDRもしくはフレームワーク配列にも見出されない残基を含んでいてもよい。かかる修飾は、抗体の特性を更に洗練し最適化するために導入され、これは当該技術分野において周知である。ヒト化抗体は、全てあるいは実質的に全てのCDR領域が非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、なおかつ、全てあるいは実質的に全てのFR領域がヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである、少なくとも1つの可変ドメインを含むことが好ましく、2つの可変ドメインを含むことがより好ましい。ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部も含むことがさらにより好ましい。さらなる詳細については、米国特許出願公開第20030096403号;米国特許出願公開第20030144483号;米国特許出願公開第20080027147号;米国特許第5,225,539号;Jonesら、(1986),Nature,321:522−525;Reichmannら、(1988),Nature,332:323−329;およびPrestaら、(1992),Curr.Op.Struct.Biol.,2:593−596)を参照されたい。
【0052】
一実施形態では、特許請求される本発明の抗体はモノクローナルであり、赤血球生成を刺激する。別の実施形態では、特許請求される本発明の抗体は、アゴニストのようにヒトHVEMに結合し、赤血球生成を刺激する。別の実施形態では、抗体は、本明細書に記載されているモノクローナル抗体HM3.30、クローン27、およびクローン6H9のいずれか1つと同じ生物学的特性を示す。「生物学的特性」という用語は、モノクローナル抗体のin vitroおよび/またはin vivo活性のことを示すものであり、例えば、アゴニストのようにヒトHVEMに結合する能力、下流シグナル経路を活性化させる能力(その例としては、核因子KB(NF−κB)、Jun N末端キナーゼ、およびAP−1などの転写制御因子が挙げられるが、これらに限定されない)、およびEPO産生を刺激する能力である。別の実施形態では、特許請求される本発明の抗体は、本明細書に記載されているモノクローナル抗体HM3.30、クローン27、およびクローン6H9のいずれか1つと同じエピトープに結合する。モノクローナル抗体がモノクローナル抗体HM3.30、クローン27、およびクローン6H9の1つの同じ結合特異性を有するかどうかを測定するため、例えば、競合ELISA結合アッセイを用いることができる。
【0053】
本明細書で使用される「単離された」という用語は、その自然環境の成分から同定され、分離され、および/または回収されたポリペプチドまたは抗体などの薬剤のことを示すものである。例えば、「単離された」本発明のモノクローナル抗体は、細胞培養または他の合成環境から精製され、ローリー法により定量してタンパク質が95重量%よりも多い純度に、または、クーマシーブルーあるいは銀染色を用いた還元あるいは非還元条件下でのSDS−PAGEによる均一性が得られるまで精製されることが好ましい。
【0054】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、特定の生理学的状態または症状の予防、治療、または所望の結果をもたらすのに十分な任意の所与の分子量のことを言うために用いられる。投与される薬剤またはアゴニストの有効量は、治療される疾患、治療される特定の哺乳類、個々の患者の病態、疾患原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、および医師には周知の他の要因などを考慮して定められる。一実施形態では、有効量は、哺乳類内の赤血球生成を刺激するのに必要な最小量である。哺乳類は、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、およびブタ科であることが好ましい。哺乳類はヒトであることがより好ましい。
【0055】
一実施形態では、有効量は、哺乳類内の貧血性疾患の治療に必要な最小量である。哺乳類は、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、およびブタ科であることが好ましい。哺乳類はヒトであることがより好ましい。ある実施形態では、貧血性疾患は、例えば、腎不全、化学療法、薬物療法、失血、食餌、栄養不良、妊娠、HIV/AIDS関連性貧血、感染、および遺伝的もしくは後天性の貧血性疾患(例えば、鎌状細胞貧血、地中海貧血、溶血性貧血、および再生不良性貧血が挙げられる)によってもたらされる。本発明により包含される他の疾患および疾病は、米国特許出願公開第20060178317号に記載されている。
【0056】
別の実施形態では、有効量は、哺乳類内の神経変性疾患の治療に必要な最小量である。哺乳類は、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、およびブタ科であることが好ましい。哺乳類はヒトであることがより好ましい。ある実施形態では、神経変性疾患は、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、精神分裂病、および筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される。
【0057】
さらに別の実施形態では、有効量は、哺乳類内の急性虚血性脳卒中または出血性脳卒中の治療に必要な最小量である。哺乳類は、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、およびブタ科であることが好ましい。哺乳類はヒトであることがより好ましい。
【0058】
別の実施形態では、有効量は、哺乳類内の炎症性疾患の治療に必要な最小量である。哺乳類は、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、およびブタ科であることが好ましい。哺乳類はヒトであることがより好ましい。ある実施形態では、炎症性疾患は、喘息、アレルギー、慢性関節リウマチ、および炎症性腸疾患からなる群から選択される。
【0059】
本明細書で使用される「アプタマー」という用語は、標的物質と錯体を形成することが可能なオリゴヌクレオチドのことを言う。アプタマーは、HVEMと錯体を形成し、かつ、HVEMのアゴニストであることが好ましい。アプタマーは、任意の周知の方法、例えば、合成方法、組換え方法、および精製方法により調製することができ、単体で用いても、あるいは同じ標的に対して特異的な他のアプタマーと組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本発明のアプタマーは、水素結合または他の分子力によりHVEMと相互作用または錯体形成し得る。しかしながら、かかる相互作用または錯化は、DNA二重鎖形成と従来関連する正常な「ワトソン・クリック」型の結合相互作用(即ち、アデニン−チミンとグアニン−シトシン塩基対合)は除く。一般に、特異結合をもたらすには最低でも約10個のヌクレオチドが必要である。本明細書に概括的に記載されるオリゴヌクレオチドは一本鎖もしくは二本鎖であるが、アプタマーは三本鎖または四本鎖構造であることも考えられる。
【0061】
本発明のアプタマーは、従来のDNAまたはRNA部分として合成されてもよく、あるいは当該技術分野において認識されている「修飾」オリゴマーであってもよい。かかる修飾としては、糖(リボースやデオキシリボース)の修飾形もしくは類似形、別の連結基、またはプリンおよびピリミジン塩基の類似形の組み込みが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
本明細書で使用される「融合タンパク質」という用語は、1つのタンパク質に対するコード配列が少なくともその一部に融合することで異なる遺伝子からの第2のタンパク質のコード配列に大幅に変化している遺伝子産物のことを言う。融合パートナーは、種々の機能としての役割を果たす。例えば、HVEMを活性化するかもしくはHVEMのアゴニストであるタンパク質の溶解度を高めることのみならず、宿主細胞または培養上清もしくはその両方から組換え融合タンパク質を精製することが可能な「親和性標識」を提供することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本明細書で使用される「Ter−119細胞」という用語は、Kinaら、(2000),Br.J.Haematol.,109:280−7に記載されているTer−119モノクローナル抗体によって特異的に結合したエピトープを発現する細胞のことを言う。野生型の成体マウスでは、Ter−119抗体は、成熟赤血球、20〜25%の骨髄細胞、および2〜3%の脾臓細胞と反応するが、胸腺細胞やリンパ節細胞とは反応しない。
【0064】
本明細書で使用される「投与する」という用語は、哺乳類の体内または体上に組成物を導入する任意のプロセスのことを言い、本明細書に記載の特定の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
本明細書で使用される「エリスロポエチン(EPO)受容体アゴニスト」という用語は、EPO受容体の活性化を引き起こすことが可能な分子のことを言い、これは、任意の数のメカニズムからもたらされ得る。EPO受容体アゴニストとしては、ダルベポエチンアルファ(ARANESP(商標))、エポエチンアルファ(EPO、EPOGEN(商標))、および抗EPO受容体アゴニスト抗体(例えば、米国特許第7,087,224号;国際公開第2000/024893号パンフレットを参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
本明細書で使用される「機能断片」とは、全長ポリペプチドと同様の生理学的または細胞効果を発揮する、全長ポリペプチドの断片またはスプライス変異のことである。機能断片の生物学的効果は、同様の生理学的または細胞効果が見られる限り、全長ポリペプチドとして範囲もしくは強度が同一である必要はない。例えば、抗HVEM抗体の機能断片は、検出可能な程度にHVEMを活性化することができる。
【0067】
本明細書で使用される「変異体」という用語は、キメラまたは融合ポリペプチド、同族体、類似体、オルソログ、およびパラログのことを言う。さらに、基準タンパク質またはポリペプチドの変異体は、アミノ酸配列が基準タンパク質またはポリペプチドと少なくとも約80%同一であるタンパク質またはポリペプチドである。特定の実施形態では、変異体は、基準タンパク質またはポリペプチドと少なくとも約85%、90%、95%、95%、97%、98%、99%、さらには100%同一である。本明細書で使用される、配列アラインメントに関する「に対応する」および「に対応している」という用語は、基準タンパク質またはポリペプチド、例えば、野生型のヒトまたはマウスHVEM内の列挙位置や、基準タンパク質またはポリペプチド上の位置と整列している修飾タンパク質またはポリペプチドにおける位置を意味するものである。従って、対象タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列が、基準タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列と整列している場合、基準タンパク質またはポリペプチド配列の特定の列挙位置「に対応する」配列は、基準配列のこれらの位置と整列しているものであるが、基準配列の数値上の位置が全く同じである必要はない。配列を整列させて配列間の対応アミノ酸を決定する方法を以下に説明する。
【0068】
例えば、哺乳類HVEMをコードしている基準アミノ酸配列と少なくとも、例えば、約95%「同一」であるアミノ酸配列を有するポリペプチドとは、ポリペプチドのアミノ酸配列が、基準HVEMをコードしている基準アミノ酸配列のアミノ酸100個当たり約5個までの修飾を含み得る以外は、アミノ酸配列が基準配列と同一であることを意味すると理解される。すなわち、基準アミノ酸配列と少なくとも約95%同一であるアミノ酸配列を有するペプチドを得るため、基準配列の約5%までのアミノ酸残基を削除するかまたは、他のアミノ酸と置換してもよく、あるいは、基準配列における全アミノ酸の多数のアミノ酸(約5%まで)を基準配列に挿入してもよい。これらの基準配列の修飾は、基準アミノ酸配列のN末端またはC末端位で発生するか、あるい基準配列におけるアミノ酸に個々に点在するかもしくは基準配列内の1つ以上の隣接基に点在するこれらの末端位間のどこにでも発生し得る。
【0069】
本明細書で使用される「同一性」とは、基準となるヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較したヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の同一性の尺度のことである。一般に、最も高次のマッチングが得られるように配列は整列している。「同一性」それ自体が、当業界で認識された意味を持ち、公開技術を用いて算出することができる(例えば、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York(1988);Biocomputing:Informatics And Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York(1993);Computer Analysis of Sequence Data,Part I,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey(1994);von Heinje,G.,Sequence Analysis In Molecular Biology,Academic Press(1987);and Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York(1991)を参照されたい)。2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列間の同一性を測定する方法がいくつか存在するが、「同一性」という用語は、当業者に周知である(Carillo,H.& Lipton,D.,Siam J Applied Math 48:1073(1988))。2つの配列間の同一性または類似性を決定するのに一般に用いられる方法としては、Guide to Huge Computers,Martin J.Bishop,ed.,Academic Press,San Diego(1994)and Carillo,H.& Lipton,D.,Siam J Applied Math 48:1073(1988)に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されない。コンピュータープログラムは、同一性および類似性を算出する方法およびアルゴリズムも含み得る。2つの配列間の同一性または類似性を決定するためのコンピュータープログラム法の例としては、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.,ら、(1984),Nucleic Acids Research 12(i):387)、BLASTP、ExPASy、BLASTN、FASTA(Atschul,S.F.ら、(1990),J Molec Biol.,215:403)、およびFASTDBが挙げられるが、これらに限定されない。同一性および類似性を決定する方法の例としては、Michaels,G.and Garian,R.,Current Protocols in Protein Science,Vol 1,John Wiley & Sons,Inc.(2000)に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の一実施形態では、2つ以上のポリペプチド間の同一性を決定するのに用いるアルゴリズムはBLASTPである。
【0070】
I.抗体の産生
【0071】
HVEMに対するポリクローナル抗体は、抗体産生において当該技術分野で周知の技術のいずれかを用いて、動物で産生される。例えば、ポリクローナル抗体は、HVEMまたはその断片とアジュバントとを複数回皮下(sc)または腹腔内(ip)注射することにより産生される。ある特定の条件下では、二官能性剤または誘導体化剤、例えば、マレイミドベンゾイル硫化コハク酸イミドエステル(システイン残基による共役)、N−ヒドロキシこはく酸イミド(リシン残基による)、およびグルタルアルデヒドを用いて、免疫される種に免疫原性があるタンパク質、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、または大豆トリプシンインヒビターにHVEMまたはその断片を共役させることが有用である。免疫反応を高めるため、ミョウバンなどの凝集剤を用いてもよい。
【0072】
本発明のモノクローナル抗体は、Kohlerら、(1975),Nature,256:495に最初に記載されたハイブリドーマ法によっても、あるいは組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)によっても作製することができる。
【0073】
ハイブリドーマ法では、マウスまたは他の適当な宿主動物、例えばハムスターを上記のようにして免疫し、免疫化に用いられるタンパク質と特異的に結合する抗体を産生するかまたは産生可能なリンパ球を導き出す。あるいは、リンパ球をin vitroで免疫してもよい。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマを形成する[Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59−103(Academic Press,1986)]。
【0074】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親の骨髄腫細胞の増殖または生存を阻害する1つ以上の物質を好ましくは含む適当な培地に播種し、増殖させる。例えば、親の骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたHPRT)を欠失する場合、ハイブリドーマ用の培地は、典型的には、HGPRT欠失細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン(HAT培地)を含有するであろう。
【0075】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定的な高レベル発現を支援し、HAT培地などの培地に対して感受性の細胞である。これらの中でも、好ましい骨髄腫細胞株は、マウス骨髄腫株であり、例えば、Salk Institute Cell Distribution Center,San Diego,Calif.U.S.A.から市販されているMOPC−21およびMPC−11マウス腫瘍、およびAmerican Type Culture Collection,Rockville,Md.U.S.A.から市販されているSP−2細胞から誘導されたものである。ヒトモノクローナル抗体を産生するヒト骨髄腫およびマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株についても記載されている(Kozborら、(1984),J.Immunol.,133:3001;Brodeurら、(1987),Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp51−63,Marcel Dekker,Inc.,New York)。
【0076】
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原に結合するモノクローナル抗体の産生についてアッセイすることができる。ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降またはin vitro結合アッセイ、例えば放射免疫測定(RIA)または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって測定することが好ましい。所望の特異性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後、クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させてもよい。この目的に適当な培地としては、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地、またはRPMI−1640培地が挙げられる。さらに、ハイブリドーマ細胞は、動物において腹水腫瘍としてin vivoで増殖させてもよい。
【0077】
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製法により、培地、腹水、または血清から分離されることが好ましい。
【0078】
本発明のモノクローナル抗体をコードしているDNAは、従来方法(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いること)により容易に単離され、配列決定することができる。本発明のハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源として機能する。ひとたび単離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、次いでこれを、そうでなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しないサルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞中にトランスフェクトし、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を達成することができる。DNAはまた、例えば、ヒト重鎖および軽鎖定常ドメインのコード配列を、相同的マウス配列に代えて置換することにより(Morrisonら、(1984),Proc.Nat.Acad.Sci.,81:6851)、または免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部または一部を共有結合させることで修飾してもよい。
【0079】
非ヒト抗体をヒト化する方法は、当該技術分野では周知である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒト抗体から導入した1つ以上のアミノ酸残基を有する。ヒト化は、本質的には、齧歯類CDRまたはCDR配列でヒト抗体の対応配列を置換することによりWinterおよび共同研究者の方法(Jonesら、(1986)Nature,321:522−525;Riechmannら、(1988),Nature,332:323−327;Verhoeyenら、(1988),Science,239:1534−1536)に従って行うことができる。
【0080】
抗体・抗原性を低減するには、ヒト化抗体を生成する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。「ベストフィット」法では、非ヒト抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリ全体に対してスクリーニングする。次に、非ヒト配列のものと最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトフレームワーク(FR)として受け入れる(Simsら、(1993),J.Immunol.,151:2296;Chothiaら、(1987),J.Mol.Biol.,196:901)。別の方法では、軽鎖または重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワークを使用してもよい。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体に使用してもよい(Carterら、(1992),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285;Prestaら、(1993),J.Immunol.151:2623)。
【0081】
II.HVEM活性剤のスクリーニング
【0082】
アゴニスト抗体などのHVEMを活性化させる薬剤をスクリーニングするため、当該技術分野では公知の結合アッセイのいずれかを用いて、薬剤のHVEMに対する特異結合について薬剤を最初に試験してもよい。かかるアッセイとしては、プラズモン共鳴を用いて(即ち、BIAcore Instrumentを用いて)薬剤のHVEMに対する結合を測定すること、あるいは、薬剤を放射標識または蛍光標識して結合を直接評価することが挙げられる。HVEMに特異的に結合する抗体を検出するため、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)、放射免疫測定(RIA)、およびウェスタンブロット法などのアッセイを用いてもよい。HVEMに結合する薬剤がHVEMのアゴニストであるかどうか測定するため、抗CD3抗体と、HVEM活性化について試験される薬剤とが混在した状態で、HVEMを発現しているTリンパ球をin vitroでインキュベートすることができる。かかる方法では、Tリンパ球の増殖が誘発されたことで、薬剤がHVEMのアゴニストであることが示される。Tリンパ球の増殖については、例えば、放射標識した3H−チミジンの組み込みによる測定、CD38発現のフローサイトメトリー評価、およびブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)の組み込みに基づく酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)などの、かかる目的において当該技術分野において周知であるアッセイのいずれかを用いて測定することができる。
【0083】
薬剤がHVEMを活性化できるかどうかを測定する他の方法では、Tリンパ球などの細胞をHVEM+/+およびHVEM−/−動物から入手し、薬剤に暴露してもよい。HVEMの活性化については、上述の抗CD3抗体を用いた増殖アッセイを使用するかあるいは、HVEM活性化によりもたらされる当該技術分野では公知の下流シグナル伝達イベント、例えば、核因子KB(NF−κB)、Jun N末端キナーゼ、およびAP−1などの転写制御因子の活性化を測定することによって測定することができる。HVEMの活性化の特異性については、結果を薬剤で処理したHVEM−/−細胞と比較することで測定することができる。
【0084】
III.HVEM活性化による赤血球生成の刺激
【0085】
本発明は、哺乳類内の赤血球生成を刺激する方法にも関する。一実施形態では、HVEMを活性化する薬剤またはHVEMのアゴニストである薬剤を哺乳類に投与して赤血球生成を増加させることができる。赤血球生成の増加は、HVEMを活性化する薬剤またはHVEMのアゴニストである薬剤による治療前後に哺乳類の血清中のEPO濃度を測定するかもしくは、血液中のヘモグロビンまたは赤血球レベルを測定することによって測定することができる。
【0086】
他の実施形態では、HVEMを活性化する薬剤、より好ましくはHVEMのアゴニストを投与することによる赤血球生成の刺激は、赤血球産生の低下あるいは欠乏により特徴付けられる血液疾患の治療に用いてもよい。例えば、EPOは、当業界で認識される貧血の治療である。貧血は、一次疾患(例:鎌状細胞貧血)としても、他の疾患に伴う二次性貧血としても現れ得る(例:慢性腎不全患者;Eschbachら、(1987),NEJM,316:73−78;Egrieら、(1988),Kidney Intl.,33:262;Limら、(1989),Ann.Intern.Med.,110:108−114を参照されたい。これらの出願の全教示内容は、参照することで本明細書に組み入れられる)。さらに、貧血は、既存の治療法の副作用としても現れ得る。例えば、AIDSや悪性腫瘍を持つ患者は、治療介入の結果として貧血を起こすことが多い(Dannaら、In:M B,Garnick,ed.Erythropoietin in Clinical Applications−An International Perspective.New York,N.Y.:Marcel Dekker;1990:p.301−324)。従って、本発明は、HVEMを活性化する薬剤、好ましくはHVEMのアゴニストを投与することによって貧血を治療する方法を提供する。哺乳類は、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、またはブタ科であることが好ましい。哺乳類はヒトであることがより好ましい。ある実施形態では、貧血性は、腎不全、化学療法、または薬物療法によってもたらされる。
【0087】
本発明の別の実施形態では、HVEMを活性化する薬剤、好ましくはHVEMのアゴニストを投与して、哺乳類内の神経変性疾患を治療する。哺乳類は、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、またはブタ科であることが好ましい。哺乳類はヒトであることがより好ましい。ある実施形態では、神経変性疾患は、パーキンソン病およびハンチントン舞踏病からなる群から選択される。
【0088】
本発明のさらに別の実施形態では、HVEMを活性化する薬剤、好ましくはHVEMのアゴニストを投与して、哺乳類内の急性虚血性脳卒中または出血性脳卒中を治療する。哺乳類は、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、またはブタ科であることが好ましい。哺乳類はヒトであることがより好ましい。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態では、HVEMを活性化する薬剤、好ましくはHVEMのアゴニストを投与して、哺乳類内の炎症性疾患を治療する。哺乳類は、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科、またはブタ科であることが好ましい。哺乳類はヒトであることがより好ましい。ある実施形態では、炎症性疾患は、喘息、アレルギー、慢性関節リウマチ、および炎症性腸疾患からなる群から選択される。
【0090】
ある実施形態では、本発明は、薬学的に許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、防腐剤、および/またはアジュバントを含む医薬組成物を提供する。ある実施形態では、治療分子を集めて調合してもよいし、キットに集めて包装してもよい。ある実施形態では、組成物は、液体もしくは凍結乾燥形態であってもよく、種々のpH値とイオン強度とを有する希釈剤(トリス、酢酸、またはリン酸緩衝剤)と、ツイーンまたはポリソルベートなどの可溶化剤と、ヒト血清アルブミンまたはゼラチンなどの担体と、チメロサールまたはベンジルアルコールなどの防腐剤と、アスコルビン酸またはメタ重亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤とを含む。ある実施形態では、溶解度または安定性を高めるため水溶性高分子で修飾した治療分子のいずれかを含む組成物も包含する。ある実施形態では、組成物は、長期間にわたる制御送達のためにリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、または小胞に治療分子のいずれかを組み込んだものも含む。
【0091】
より詳細には、ある実施形態では、本明細書の組成物は、ヒドロゲル、シリコーン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、または生分解性高分子などのポリマーマトリクスに組み込んだものでもよい。ヒドロゲルの例としては、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシアルキル)(p−HEMA)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、および種々の高分子電解質錯体が挙げられるが、これらに限定されない。生分解性高分子の例としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、PLAとPGAの共重合体、ポリアミド、およびポリアミドとポリエステルの共重合体が挙げられるが、これらに限定されない。他の制御放出製剤としては、注射で投与してもよいマイクロカプセル、マイクロスフェア、高分子錯体、および高分子ビーズが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
特定の組成物の選択は、多数の要因に依り、例えば、治療される状態、投与経路、および所望の薬物動態パラメータが挙げられるが、これらに限定されない。医薬組成物に適当な成分のより広範な調査については、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th ed.A.R.Gennaro,ed.Mack,Easton,Pa.(1980)に記載されており、参照することで本明細書に組み入れられる.
【0093】
ある実施形態では、治療分子の有効量(単数または複数)は、例えば、治療目的、投与経路、および患者の状態に依る。従って、ある実施形態では、治療士は、最適な治療効果を得るために必要に応じて投与量を変えたり、投与経路を変更してもよい。一般的な1日の投与量は、上述の要因に応じて、約0.1mg/kg〜最大100mg/kg以上の範囲であってもよい。ある実施形態では、臨床医は、所望の、赤血球生成の増加もしくは血液疾患の臨床改善を達成する投与量に到達するまで、組成物(単数または複数)を投与してもよい。
【0094】
ある実施形態では、組成物(単数または複数)は、1つ以上の治療分子を単回用量または複数回用量として投与してもよい。これらの用量は、同一または異なる量の治療分子からなっていてもよく、同一または異なる投与経路を介して同一または異なる回数で投与してもよい。ある実施形態では、組成物は、治療分子のいずれか1つまたは任意の組合せを含む組成物として投与してもよい。ある実施形態では、組合せは、同一または異なる量の治療分子を含み得る。ある実施形態では、組成物(単数または複数)は、埋込器またはカテーテル経由で持続注入で投与してもよい。持続注入が2つ以上の治療分子を含む実施形態では、同一または異なる濃度の治療分子を含んでもよい。
【0095】
最適な投与量、最適な投与経路、および最適な投与回数を決定することは、当業者の知識の十分範囲内である。例えば、本発明の薬剤は、患者に1回以上に分けて投与しても、持続注入で投与してもよい。数日間またはそれ以上にわたる連続投与では、病徴の所望の抑制が起こる、患者状態の所望の改善が達成される、あるいは所望のEPO産生レベルが得られるまで、状態に応じて治療を繰り返してもよい。用量は、週に数回から6カ月に1回までの間隔で再投与してもい。
【0096】
本発明の薬剤の投与は、赤血球生成を高める、あるいは、貧血、神経変性疾患、炎症性疾患、急性虚血性脳卒中もしくは出血性脳卒中を治療するための当業者に周知の他の治療と組み合わせてもよい。好ましい実施形態では、本発明の薬剤は、赤血球生成を高める1つ以上の治療で投与される。例えば、本発明の一実施形態では、本発明の薬剤と、エリスロポエチン(EPO)受容体アゴニストとを含む組成物を哺乳類に投与してもよい。エリスロポエチン(EPO)受容体アゴニストは、ダルベポエチンアルファ(ARANESP(商標))、エポエチンアルファ(EPO、EPOGEN(商標))、および抗EPO受容体アゴニスト抗体であってもよいが、これらに限定されない。
【0097】
実施例
実施例1:マウスHVEMに特異的に結合するモノクローナル抗体の生成
【0098】
抗マウスHVEMモノクローナル抗体を生成するため、マウスHVEMの細胞外ドメインがマウスIgGのFc領域に融合した融合タンパク質でハムスターを免疫した。第1の免疫化において、融合タンパク質をフロイント完全アジュバント(CFA)でエマルション化した。第2および第3の免疫化において、融合タンパク質をフロイント不完全アジュバント(IFA)でエマルション化した。免疫化は、2週間ごとに皮下投与した。第3の免疫化の後、免疫ハムスターから血清を採取し、抗HVEM抗体の存在についてELISAにより測定した。第4の免疫化は、アジュバントの不在下で腹腔内投与した。第4の免疫化から5日後に、脾細胞を採取し、Sp2/0骨髄腫細胞に融合させ、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを生成した。得られたハイブリドーマの培養上清を、ELISAおよびフローサイトメトリーによって、マウスHVEMに特異的に結合する抗体の存在についてスクリーニングした。
【0099】
実施例2:HVEMにアゴニスト作用を有する抗体の同定
【0100】
実施例1に記載した実験で生成された抗マウスHVEM抗体を、抗CD3抗体でコートした96ウエルプレートでTリンパ球によりインキュベートした。Tリンパ球の増殖を刺激した抗体は、3H−チミジンの組み込みの増加について測定し、HVEMのアゴニストであると同定された。HVEMにアゴニスト作用を有するかかる抗体の1つを単離し、HM3.30と呼ばれる別の実験に用いた。
【0101】
実施例3:in vivoにおけるHM3.30マウスモノクローナル抗体の特徴
【0102】
実施例3.1:HM3.30抗体の注入による脾臓赤芽球の増加
【0103】
HM3.30抗体のアゴニスト機能はin vivoで評価した。150μgの対照IgG抗体(図1A、左側の箱)またはHM3.30IgG抗体(図1A、右側の箱)を野生型マウスに腹腔内(i.p.)注射した。抗体の投与4日後に、マウスから脾細胞を単離し、Ter−119抗体および抗CD45抗体(BD Biosciences、CA)を用いて蛍光標識細胞分取(FACS)を施した。図1Aに示すように、HM3.30抗体を注射したマウスは、約10倍のTer−119/CD45赤血球系細胞増殖を示した。HM3.30抗体をHVEMノックアウトマウスに投与した場合(HVEM−/−)(n=3)、または、HVEMに結合しない対照抗体を野生型マウスに投与した場合(図1B)(n=2)、脾臓のTer−119/CD45赤血球系細胞増殖は起きなかったため、Ter−119/CD45赤血球系細胞増殖には、HVEMに結合しているHM3.30抗体を要することが分かった。バーは平均±SEMを示す。アゴニストである抗HVEM抗体HM3.30に対して、HM2.2と呼ばれる非アゴニスト抗体は、脾臓のTer−119/CD45赤血球系細胞増殖の媒介がかなり弱かった(図1C)。バーは、グループ当たり2匹のマウスの平均±SEMを示す。
【0104】
HM3.30抗体によって誘発されたTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖は、HVEMの自然発生リガンドへの結合を阻害することによって媒介されなかった。LIGHT−/−マウス(Tamadaら.(2000),J.Immunol.,164:4105)、LTα−/−マウス(Jackson Laboratooriesから購入)、または野生型マウスにHM3.30抗体を投与した。LIGHT−/−マウスとLTα−/−マウスは、野生型対照マウスにHM3.30抗体を投与後の脾臓のTer−119/CD45赤血球系細胞増殖と同様であることを実証した(図1D)。Ter−119/CD45脾細胞の絶対数は、平均±SEMで示す。HM3.30抗体の注射24時間後に貧血の兆候が見られなかったため、赤血球個体群の増殖は、赤血球溶解のフィードバック反応ではないと測定した。
【0105】
実施例3.2:骨髄におけるHM3.30媒介エリスロポエチン増殖の発生
【0106】
150μgのHM3.30IgG抗体または150μgの対照ハムスターIgG抗体を野生型マウスに注射することで、HM3.30IgG抗体の投与時に増殖するTer−119/CD45赤血球系細胞の発生源について測定した。抗体の投与2日、4日、および6日後に、試験マウスの骨髄、脾臓、および末梢血におけるTer−119/CD45赤血球系細胞個体群について測定した(図2A)。各丸は、少なくとも2匹のマウスの平均±SEMを示す。骨髄におけるTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖は2日および4日にピークであったが、脾臓におけるTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖は抗体投与4日後まで明らかではなかった。末梢血では、Ter−119/CD45赤血球系細胞増殖のピークは抗体投与6日後まで発生しなかった。これらの異なる区画における増殖動態により、Ter−119/CD45赤血球系細胞のHM3.30IgG抗体誘導による増殖が骨髄で発生したことが示された。
【0107】
12時間前にHM3.30IgG抗体を受けたマウスから採取した骨髄細胞をメチルセルロース培地上にin vitroで載置することで、対照ハムスターIgG抗体を受けたマウスから採取した骨髄細胞と比較して、ベンジジン陽性のCFU−E数がかなり増加したことが実証された(図2B)。各バーは、2枚のプレートの平均±SEMを示す。
【0108】
HM3.30抗体誘導の赤芽球増殖メカニズムが、脾臓内のHVEMシグナル伝達の下流活性化からもたらされたかどうか測定するため、脾臓摘出2日後の脾摘マウスに、HM3.30IgG抗体(黒色バー)または対照ハムスターIgG抗体(灰色バー)を注射した。抗体投与2日後に、骨髄および末梢血におけるTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖を測定した(図2C)。バーは、少なくとも3匹のマウスの平均±SEMを示す。HM3.30IgG抗体投与後の赤血球増殖は脾摘マウスで起こった。これは、Ter−119/CD45赤血球系細胞増殖に脾臓が必要ではないことを示すものである。
【0109】
抗体がHVEM発現細胞に直接機能できるかどうか測定するため、Ter−119骨髄細胞を単離し、抗HVEM抗体で染色した。FACS分析により、HVEMがTer−119細胞で普遍的に発現することが実証され、抗体が骨髄細胞における赤血球増殖に直接作用できることを示唆した(図3)。
【0110】
実施例4:HM3.30抗体の投与によるEPO産生の誘発
【0111】
骨髄内でTer−119/CD45赤血球系細胞個体群が増殖するメカニズムを測定するため、150μgの対照ハムスターIgG抗体または150μgのHM3.30IgG抗体を野生型マウスグループに腹腔内注射した。抗体投与8時間、16時間、24時間、48時間、72時間後に、マウスを安楽死させ、血清中のEPOレベルを測定した。HM3.30IgG抗体を投与されたマウスでは、血清のEPOレベルは著しく増加し、抗体投与24時間後にピークを迎えた(図4A)。各時点は、少なくとも4匹のマウスの平均±SEMを示す。2つの独立した実験からのプールデータを示す。150μgの抗EPO抗体を腹腔内投与し、次いで150μgのHM3.30IgG抗体を腹腔内投与したことで、脾臓内のTer−119/CD45赤血球系細胞増殖が打ち消されたため、Ter−119/CD45赤血球系細胞の増殖はEPOに依存すると測定された(図4B)。抗体投与4日後のTer−119/CD45脾細胞の絶対数を図4Bに示す。バーは、1グループ当たり3匹のマウスの平均±SEMを示す。
【0112】
実施例5:骨髄細胞でのHVEMの発現には、HM3.30抗体投与時に、Ter−119/CD45赤血球系細胞の増殖およびEPO産生を必要とする。
【0113】
アゴニスト抗HVEM抗体が腎臓の間質細胞または上皮細胞を直接誘導してEPOを産生できるかどうか測定するため、野生型またはHVEM−/−マウスから放射線照射野生型マウスに骨髄細胞を移すことで骨髄キメラマウスを生成した。照射間に6時間の間隔を開けてマウスを610ラジアンで2回照射し、放射線照射マウスを調製した。最後の放射線処理の1時間以内に約500万個のドナー骨髄細胞を静脈内に移した。6週間後、150μgの対照IgG抗体または150μgのHM3.30IgG抗体をキメラマウスに腹腔内注射した。造血細胞にHVEMが無いことで、HM3.30IgG抗体の投与時に、EPO産生の増加(図5B)およびその後の赤血球増殖(図5A)とが取り除かれた。一方、野生型またはHVEM−/−マウスから放射線照射HVEM−/−マウスに骨髄を移して生成した逆キメラマウスでは、ドナー骨髄が野生型マウスからであった場合、HM3.30IgG抗体の投与時にEPO産生の増加(図5D)およびその後の赤血球増殖(図5C)が起こった。これらの実験により、骨髄細胞でのHVEMの発現には、HM3.30抗体によって媒介される、Ter−119/CD45赤血球系細胞の増殖およびEPO産生の増加を必要とすることが示唆される。各バーは、少なくとも4匹のマウスの平均±SEMを示す。
【0114】
実施例6:HM3.30抗体は、Tリンパ球、B−リンパ球、または好中球の不在下で、脾臓のTer−119/CD45赤血球系細胞増殖を増加させることができる。
【0115】
T−およびB−リンパ球の不在下でもアゴニスト抗HVEM抗体が赤血球増殖を誘導できるかどうか測定するため、150μgの対照ハムスターIgG(n=2)または150μgのHM3.30IgG抗体(n=3)をRag欠損マウスに腹腔内注射した。抗体投与4日後に、Ter−119/CD45赤血球系脾細胞の数を測定した。T−およびB−リンパ球の欠乏は、HM3.30に媒介されるTer−119/CD45赤血球系脾細胞の増殖に観察可能な効果を有さなかった(図6A)。さらに、HM3.30抗体に媒介される、脾臓のTer−119/CD45赤血球系細胞増殖は、Rag欠損マウスからの好中球の枯渇により打ち消されなかった(図6B)。この実験では、0日目および1日目にRag欠損マウスに抗Gr1.1抗体を投与することで好中球を枯渇させた。0日目に、150μgの対照ハムスターIgG(n=3)または150μgのHM3.30IgG抗体(n=3)をRag欠損マウスに腹腔内注射した。実験により、Tリンパ球、B−リンパ球、または好中球ではない骨髄由来細胞の個体群は、腎EPO産生および赤血球増殖を媒介することが示唆される。バーは平均±SEMを示す。
【0116】
実施例7:eNOSの阻害により、HM3.30抗体媒介の赤血球生成が減少する。
【0117】
EPO産生のメカニズムをさらに測定するため、HM3.30に媒介されるTer−119/CD45赤血球系細胞の増殖におけるHVEMの下流エフェクターの阻害剤の効果について分析した。以前の研究により、プロスタグランジンおよび一酸化窒素(NO)がHVEMの下流エフェクターであると示されている(Changら、(2005),J.Biomed.Sci.,12:363;Heoら、(2006),J.Leukoc.Biol.,79:330)。eNOS(内因性一酸化窒素合成酵素)の阻害剤であるL−NAME100mg/kgを0日目から4日目まで24時間ごとにマウスに腹腔内投与した。さらに、150μgの対照ハムスターIgG(n=3)または150μgのHM3.30IgG抗体(n=3)をマウスに腹腔内投与した。HM3.30抗体およびL−NAMEを投与されたマウスは、Ter−119/CD45赤血球系細胞個体群の増殖が約50%減少し(図7)、NOがHVEMの活性化により誘導された赤血球生成の下流メディエータであり得ることが示された。バーは平均±SEMを示す。「*」は、スチューデントのt検定でp<0.05であることを示す。
【0118】
実施例8:HM3.30抗体を用いたシスプラチン誘発貧血の治療
【0119】
シスプラチンは腎臓毒性の原因となり、EPOを産生する腎臓細胞を殺すことでEPO欠乏貧血を引き起こすことが示されている(Horiguchiら、(2006),Arch.Toxicol.,80:680)。抗HVEMアゴニスト抗体の投与がin vivoの貧血性疾患モデルにおいてEPOの産生を誘発し得るかどうか測定するため、0日目に8mg/kgのシスプラチンをマウスに静脈内注射し、4日、8日、13日、および19日目に対照IgG抗体(黒丸、図8A)またはHM3.30抗体(白丸、図8A)を腹腔内注射した。20日目に、マウスを安楽死させ、血清のEPOレベルを測定した。対照IgG抗体で処理したマウスよりもHM3.30IgG抗体で処理したマウスで血清のEPOレベルは増加した。
【0120】
マウスで顕性貧血を誘発するため、12mg/kgのシスプラチンをマウスに静脈内投与した。1日目および19日目に対照IgG抗体(黒丸、図8B)またはHM3.30IgG抗体(白丸、図8B)をシスプラチン処理マウスに投与した。0日目、20日目、および26日目にマウスを安楽死させ、その時点で血中のヘモグロビン値を測定した。対照IgG抗体を投与されたシスプラチン処理マウスよりもHM3.30IgG抗体を投与されたシスプラチン処理マウスで血中ヘモグロビン値が著しく増加した。丸は少なくとも5匹のマウスの平均±SEMを示す。
【0121】
さらに、赤血球生成ストレス誘導のEPO産生におけるHVEMの役割について測定した。0日目に150mg/kgの5−フルオロウラシルを野生型マウスまたはHVEM−/−マウスに投与し、血清のEPOレベルを9日目に測定した。HVEM−/−マウスでは、5−フルオロウラシルによる赤血球生成のストレス誘導に応じて血清のEPOレベルが著しく減少した(図8C)。バーは、少なくとも4匹のマウスの平均±SEMを示す。「*」は、p<0.05のスチューデントのt検定値を示す。
【0122】
実施例9:HM3.30抗体の結合特異性
【0123】
マウスHVEM(図9A)、ヒトHVEM(図9B)、マウスHVEMのCRD2〜4に融合したヒトHVEMのシステイン富化ドメイン(CRD)1のキメラ遺伝子(図9C)、または、ヒトHVEMのCRD2〜4に融合したマウスHVEMのCRD1のキメラ遺伝子(図9D)をコードしているプラスミドで293T細胞を形質転換した。HM3.30抗体、次いで、PE共役抗ハムスターIgGで形質転換細胞を標識した。フローサイトメトリーにより抗体標識を分析した。陰性対照として、293T細胞を空ベクトルで形質転換し、HM3.30およびPE共役抗ハムスターIgGで標識した(図9、塗りつぶしたヒストグラム)。HM3.30は、マウスHVEMのCRD1に特異的に結合したが、ヒトHVEMには特異的に結合しなかった。これは、HM3.30抗体がCRD1との相互作用によりHVEMに結合することを示唆している。理論に束縛されるものではないが、本発明のアゴニスト抗体は、赤血球生成を刺激する少なくとも1つの要件を有しており、これは、CRD1との相互作用を含む(例えば、それとの結合、あるいはそれとの相互作用を含む)。
【0124】
実施例10:アゴニスト抗ヒトHVEM抗体の生成
【0125】
抗ヒトHVEMモノクローナル抗体を生成するため、ヒトHVEMの細胞外ドメインがヒトIgGのFc領域に融合した融合タンパク質でBALB/cマウスを免疫した。第1の免疫化において、融合タンパク質をフロイント完全アジュバント(CFA)でエマルション化した。第2および第3の免疫化において、融合タンパク質をフロイント不完全アジュバント(IFA)でエマルション化した。免疫化は、2週間ごとに皮下投与した。第3の免疫化の後、免疫ハムスターから血清を採取し、抗HVEM抗体の存在についてELISAにより測定した。第4の免疫化は、アジュバントの不在下で腹腔内投与した。第4の免疫化から5日後に、脾細胞を採取し、Sp2/0骨髄腫細胞に融合させ、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを生成した。得られたハイブリドーマの培養上清を、ELISAおよびフローサイトメトリーによって、マウスHVEMに特異的に結合する抗体の存在についてスクリーニングした。ヒトHVEMを発現している293T細胞に結合している抗体を測定することによって、ヒトHVEM(即ち、クローン27および6H9)に特異的に結合した2つのクローンを同定した。フローサイトメトリー分析によって標識の強度を検出した(図10A)。抗体クローン27および6H9についてもヒトHVEMにアゴニスト作用を有すると測定された(図10B)。ヒトT細胞を健康なドナーPBMCから単離し、抗CD3モノクローナル抗体および抗HVEMモノクローナル抗体(黒丸;クローン27、黒三角;クローン6H9)または対照マウスIgG(白丸)の指定用量の存在下、抗マウスIgG抗体でプレコートした96ウエル組織培養プレートでインキュベートした。インキュベーションの3日後、3H−チミジン取り込みによってT細胞の増殖活性を評価した。データ点は、3ウエル(triplicate well)からの平均±SDを示す。データは、3つの個々に繰り返した実験の1つを示す。
【0126】
実施例11:アゴニスト抗ヒトHVEM抗体はin vivoで赤血球生成を刺激する
【0127】
アゴニスト抗ヒトHVEM抗体(例えば、本明細書に記載のクローン27および6H9から誘導される抗体が挙げられる)がin vivoで赤血球生成を刺激する能力について前臨床マウス異種移植モデルを用いて評価する。このため、例えば、NOD−scid/IL−2受容体共通γ鎖欠乏マウス(Jackson Labから市販)を用いる。比較的少数(例、500万〜2000万)のヒト末梢血単核細胞(PBMC)をこれらのマウスに静脈内注射することで、数週間(これらの実験で十分な時間枠)でヒト造血細胞の効果的な生着がもたらされる。ヒトPBMC再構成マウスをアゴニスト抗ヒトHVEM抗体で処理し、リンパ器官における血清Epoレベルおよび赤血球生成の増加について本明細書に記載の方法および当業者に公知の他の方法によって評価する。さらに、シスプラチンを注射し、次いで、アゴニスト抗ヒトHVEM抗体で治療することで、異種移植モデルにおいて貧血状態が誘発される。造血細胞上のHVEM発現は、(本明細書に示す通り)アゴニスト抗ヒトHVEM抗体の赤血球生成効果に必要かつ十分であるため、このヒトPBMC再構成系は、in vivoでのアゴニスト抗ヒトHVEM抗体の活性をスクリーニングして評価するのに有効な前臨床モデルである。理論に束縛されるものではないが、アゴニスト抗ヒトHVEM抗体の投与により赤血球生成が促進されるため、貧血を治療することができる。
【0128】
参照文献
【0129】
本明細書に記載した全ての特許および刊行物は、本発明が属する技術分野の当業者のレベルを示す。本明細書で引用した全ての特許および刊行物は、個々の特許および刊行物が特定的におよび別々に参照により組み込まれることが示されるのと同程度に、同じ内容を引用することにより本明細書に組み入れられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類HVEMに特異的に結合する、前記哺乳類HVEMのアゴニストである抗体。
【請求項2】
前記HVEMがヒトHVEMである請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体が赤血球生成を誘導する請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体がIgG抗体である請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、およびその抗原結合性抗体断片からなる群から選択される請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体が、HVEMのシステイン富化ドメイン1(CRD−1)に結合する請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体の軽鎖可変領域がSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
前記抗体の重鎖可変領域がSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む請求項1に記載の抗体。
【請求項9】
前記抗体の軽鎖可変領域および重鎖可変領域が、それぞれ、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
前記抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、およびその抗原結合性抗体断片からなる群から選択される請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
前記抗体がIgG抗体である請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的に結合し、赤血球生成を刺激する抗体。
【請求項13】
哺乳類HVEMに特異的に結合し、前記哺乳類HVEMのアゴニストである抗体であって、以下の工程:
(i)哺乳類に哺乳類HVEMタンパク質またはその細胞外ドメインで免疫性を与える工程と;
(ii)前記哺乳類HVEMタンパク質またはその細胞外ドメインに結合する前記哺乳類から抗体を単離する工程と;
(iii)抗CD3抗体の存在下、工程(ii)の抗体をTリンパ球と接触させる工程と;
(iv)工程(iii)が前記Tリンパ球の増殖を誘導するかどうか測定する工程と;
を含む方法によって生成され、
前記Tリンパ球の増殖が誘発される場合、工程(ii)で単離された抗体がHVEMのアゴニストである抗体。
【請求項14】
前記哺乳類HVEMがヒトHVEMである請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
哺乳類のヘルペスウイルス侵入メディエータ(HVEM)を活性化する薬剤を含む有効量の組成物を前記哺乳類に投与する工程を含む、前記哺乳類内の赤血球生成を刺激する方法。
【請求項16】
前記薬剤がHVEMのアゴニストである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アゴニストが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、その抗原結合性抗体断片、および一本鎖抗体からなる群から選択される抗体である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体がモノクローナル抗体である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体がIgG抗体である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体が、請求項1、請求項12、または請求項14のいずれか1項に記載の抗体である請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体がHVEMのシステイン富化ドメイン1(CRD−1)に結合する請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記アゴニストが、LIGHT(誘導性発現を示しHVEMのHSV糖タンパク質Dと競合するリンホトキシンのような、Tリンパ球によって発現される受容体);およびリンホトキシンアルファ(LTα)からなる群から選択される請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記アゴニストが融合タンパク質の形態である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記アゴニストが、HVEMに結合する小分子である請求項16に記載の方法。
【請求項25】
静脈内、血管内、皮下、または腹腔内に前記組成物を投与する請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記哺乳類が貧血性疾患を有する請求項15に記載の方法。
【請求項27】
前記貧血性疾患が、腎不全、化学療法、または薬物療法によってもたらされる請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記HVEMがヒトHVEMである請求項15に記載の方法。
【請求項29】
HVEMを活性化する薬剤を含む組成物の前記投与工程が、エリスロポエチン(EPO)受容体アゴニストを投与する工程をさらに含む請求項15に記載の方法。
【請求項30】
EPO受容体アゴニストの前記投与工程が、HVEMを活性化する薬剤を含む組成物の投与前、投与中、または投与後に、前記EPO受容体アゴニストを投与する工程を含む請求項29に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−540660(P2010−540660A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528167(P2010−528167)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/078769
【国際公開番号】WO2009/046313
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(510090634)ユニバーシティ オブ メリーランド,ボルチモア (1)
【出願人】(510090656)ザ ジョンズ ホプキンス ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】