喘息及びアレルギー性鼻炎の治療におけるアルギナーゼ阻害剤の使用
本発明は、上気道及び下気道の閉塞、特にアレルゲン誘発性の気管支閉塞及び気道過敏反応性を防ぐことによる喘息又はアレルギー患者の予防的維持療法用の薬剤の調製のためのアルギナーゼ阻害剤の使用に関する。患者は、喘息である又はアレルギー性鼻炎に罹患している。好ましくは、アルギナーゼ阻害剤は2(S)−アミノ−6−ボロノヘキサン酸(ABH)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー性喘息、非アレルギー性喘息及びアレルギー性鼻炎の予防的治療に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性喘息は、気道の慢性炎症性疾患である。この疾患の特徴的な性質は、気道での炎症性細胞(特にTh2リンパ球及び好酸球)の浸潤及び活性化、ならびに、アレルゲン、化学性刺激物、冷たい空気及び薬理学的物質(ヒスタミン及びメタコリンなど)を含む様々な刺激に対する気道過敏反応性の出現に関与する、アレルゲン誘発性の早発性及び遅発性気管支閉塞性反応である。
【0003】
気道平滑筋機能の神経性及び非神経性制御における変化ならびに気道における物理的変化(上皮の損傷を含む。)、浮腫及び局所的血管拡張による粘膜の肥厚及び気道内腔における粘液分泌は、急性喘息における早発性及び遅発性喘息反応後の気道過敏反応性の出現に関与し得る。
【0004】
慢性喘息において、基底膜の肥厚、粘液腺過形成、上皮下線維症及び気道平滑筋質量増加を含む気道壁の不可逆的構造変化による気道リモデリングは、重要なものとして、持続性の気道過敏反応性及び肺機能の低下に関与し得る。
【0005】
これらの変化は全て、様々なアレルギー性メディエーター、神経伝達物質、サイトカイン、増殖因子及び反応性酸素及び窒素種を含む炎症性反応の複雑なカスケードにより誘導される。
【0006】
アレルギー性鼻炎は、埃、鱗屑又は植物の花粉の浮遊微小粒子により起こる、これらの物質にアレルギーがあるヒトにおける、主に鼻での症状の一群である。これらの症状が花粉により引き起こされる場合、アレルギー性鼻炎は一般に「枯草熱」として知られる。アレルギー性鼻炎は、喘息と関与し得る、よく見られる問題である。喘息の患者において、鼻炎がコントロール不良であると喘息が悪化すると考えられる。
【0007】
集団内での喘息の発生率が比較的高いため、休職又は、労働不能ならびに直接的医療保険支出及び投薬による経済的負担は高い。従って、この症状を予防することが必要とされている。さらに、症状の出現が予防的治療により回避され得た場合、喘息及びアレルギー患者のクオリティー・オブ・ライフが非常に向上するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、喘息及びアレルギー性鼻炎に対する新規予防的治療を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
初めて本発明に導いた研究によって、インビボでの喘息の病態生理学におけるアルギナーゼの重要性が示された。アレルギー性喘息のモルモットモデルを用いて、発明者らは、アレルゲン誘発性の早発性(EAR)及び遅発性(LAR)喘息反応後、特異的なアイソザイム−非選択的アルギナーゼ阻害剤ABHの吸入によってアレルゲン誘発性の気道過敏反応性(AHR)が急速に改善され、一方、アルギナーゼ阻害剤での前処置によって、吸入アレルゲンに対する気道過敏性が顕著に低下し、アレルゲン誘発性EAR及びLAR及び両反応後のAHRの出現が阻止されることを明らかにした。
【0010】
吸入ABHでの前処置により吸入アレルゲンに対する気道の過敏性が顕著に低下すること(予防法)がより具体的に分かった。ABHでの前処置によって、生理食塩水処置対照で気道閉塞を誘発したアレルゲン用量で動物にアレルゲンを付与した場合にアレルゲン誘発性気管支閉塞及びAHRの出現が阻止された。
【0011】
さらに、生理食塩水処置対照よりも高用量のアレルゲンを用いて動物において気道閉塞を引き起こした場合、吸入ABHでの前処置によって、また、早発性及び遅発性喘息反応後、AHRの出現が阻止された。さらに、ABHにより、早発性ならびに遅発性喘息反応後、急速に、既存のアレルゲン誘発性AHRが改善された。
【0012】
アルギナーゼ阻害剤の上記の効果は、cNOS及び/又はiNOSに対するL−アルギニンのバイオアベイラビリティー向上により気道でのNO産生が上昇し、それにより、アレルゲン誘発性の肥満細胞活性化が減弱され、収縮刺激に対する気管支保護が誘導されることにより説明され得る。特に遅発性喘息反応後、後者の効果はまた、ペルオキシ亜硝酸のiNOS介在性産生、NOのプロ収縮性及びプロ炎症性代謝産物の低下も含む。
【0013】
上述の作用機構は、抗アレルギー性(及び抗炎症性)特性を収縮刺激に対する(急性)気管支保護と組み合わさるので、魅力的である。さらに、ポリアミン及びL−プロリンのアルギナーゼ介在性合成の阻害に基づき、ABHは慢性喘息における肺機能の不可逆的低下に関与する気道リモデリングを阻害し得る。
【0014】
ABHはアレルギー性喘息患者において特に有効である。アレルゲン誘発性気管支閉塞及びアレルゲン誘発性AHRの両方に対する保護効果の場合、ABHを用いた吸入療法は主に、症状を治療するための(短期作用)気管支拡張剤(即ち、アレルゲン誘発性気管支閉塞及びAHRの出現を防ぐための予防的維持療法)を定期的に使用する持続性のアレルギー性喘息患者に対するものである。喘息治療において、AHRは、喘息の重症度の主要な決定因子なので、標的とされるべき重要な特色である。ABHによる治療は、Morrisら(Am.J.Respir.Crit.Care Med.2004;170:148−153)の研究により重症喘息憎悪の患者におけるアルギナーゼの重要な役割が指摘されているように、軽度、中等度ならびに重症の持続性喘息の患者を対象としたものである。
【0015】
その抗アレルギー性効果を考えると、アレルギー性鼻炎(アレルギー性喘息と関連することが多い。)の患者におけるABHの有益な効果もまた本発明の一部である。
【0016】
従って、本発明は、上気道及び下気道の閉塞、特にアレルゲン誘発性気管支閉塞及び/又は気道過敏反応性を阻止することによる、喘息又はアレルギー患者の予防的維持療法用の薬剤の調製のためのアルギナーゼ阻害剤の使用に関する。治療すべき患者は、特に、その疾患の症状又は原因としてアルギナーゼ活性が上昇しているアレルギー患者である。アルギナーゼ活性が上昇している患者は通常、喘息又はアレルギー性鼻炎があるが、その疾患の症状又は原因として気道においてアルギナーゼ活性が上昇している非アレルギー性喘息患者でもあり得る。
【0017】
原則として、本発明により、何らかのアルギナーゼ阻害剤を使用し得る。本発明での使用に好ましいアルギナーゼ阻害剤は、次の式:
HOOC−CH(NH2)−X1−X2−X3−X4−B(OH)2
(式中、X1、X2、X3、X4のそれぞれは、−(CH2)−、−S−、−O−、−(NH)−及び−(N−アルキル)からなる群から選択する。)
を有するUS−6,723,710に記載のものである。「アルキル」という用語は、本明細書中で使用される場合、線状又は分枝状、非置換又は例えばF、S、O又はNにより置換の、何らかのC1からC20炭素骨格及び医薬的に許容可能なその塩を指す。
【0018】
好ましい実施形態において、本発明は、上記一般式(式中、X1、X2、X3又はX4の1つは、−S−、−O−、−(NH)−からなる群から選択され、残りのX1、X2、X3又はX4は−(CH2)−である。)によるアルギナーゼ阻害剤及び医薬的に許容可能なその塩の使用に関する。
【0019】
特に好ましい実施形態によると、本発明は、次の式:
HOOC−CH(NH2)−(CH2)−(CH2)−(CH2)−(CH2)−B(OH)2によるアルギナーゼ阻害剤及び医薬的に許容可能なその塩の使用に関する。この化合物は、2(S)-アミノ−6−ボロノヘキサン酸又はABHとも呼ばれる。ABH及び対応する化合物の調製は例えば、米国特許第6,723,710号、特に25段、34行目から26段、67行目及び図6に記載されている。本発明による使用に対するその他の好ましいアルギナーゼ阻害剤は、Nω−OH−L−アルギニン(NOHA)、Nω−ヒドロキシ−ノル−L−アルギニン(ノル−NOHA)、α−ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)、L−ノルバリン、ヨードアセチル−L−オルニチン、ヨードアセチル−L−リジン、L−リジン及びL−シトルリン及び医薬的に許容可能なその塩からなる群から選択される化合物である。
【0020】
好ましくは、本アルギナーゼ阻害剤は、薬剤中の唯一の活性成分として使用される。アルギナーゼ阻害剤、特にABH、は、他の活性成分と組み合わせずに使用することができる。しかし、本アルギナーゼ阻害剤は、予防製剤において適切な不活性添加物と組み合わせられる。
【0021】
WO2004/073623は、アルギニン阻害剤及び/又はマグネシウムと場合によっては組み合わせられるアルギニンによる、喘息を含むアルギニン上昇に関与する状態の治療を開示する。この公報は予防ではなく治療に関する。基本的治療はアルギニンを用いるものである。さらなる活性成分としてアルギナーゼ阻害剤を添加し得るが、主要な又は唯一の活性成分ではない。
【0022】
本発明の予防薬剤は、好ましくは、吸入により経口投与されるか又は皮下投与される。吸入製剤は、例えば、エアロゾル、溶液もしくは懸濁液の液滴又は粉末の形態で活性成分を提供し、吸入装置により投与され得る。添加物は、界面活性剤、保存料、香料、緩衝剤などを含み得る。活性成分の濃度は、例えば、吸入あたり0.1μgから5mg、特に吸入あたり1μgから2mg、とりわけ吸入あたり10μgから1mgの範囲から選択される。その他の投与経路に対する適切な用量は、活性成分0.0001から25mg/kg体重を含む。
【0023】
ABHのCA索引名は6−ボロノ−L−ノルロイシンである。その構造式を図1で示す。
【0024】
続く実施例において本発明をさらに例示する。実施例において、次の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ABHの構造式。
【図2A】この試験において使用されるプロトコールの概略図。OA:オボアルブミン接種;PC100:ヒスタミンPC100測定結果。
【図2B】この試験において使用されるプロトコールの概略図。OA:オボアルブミン接種;PC100:ヒスタミンPC100測定結果。
【図2C】この試験において使用されるプロトコールの概略図。OA:オボアルブミン接種;PC100:ヒスタミンPC100測定結果。
【図3】吸入ヒスタミンに対する基礎気道反応性における、ならびにEAR及びLAR後のヒスタミン過敏反応性における、食塩水(左パネル)又はアルギナーゼ阻害剤ABH(25mM噴霧器濃度;右パネル)吸入の影響。食塩水又はABHの吸入30分前(白いバー)及び30分後(黒いバー)に2回続けてPC100測定を行った。データは3から5匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.0001;n.s.=有意差なし。
【図4】EAR(パネルA)及びLAR(パネルB)後のAHRにおけるABH吸入(25mM噴霧器濃度)の影響。AHRは、アレルゲン接種前(基礎)及び後(それぞれEAR又はLAR後)に得られたヒスタミンPC100値の比として定義される。データは3から5匹の動物の平均±SEMを表す。前処置に対して、***P<0.001及び#P=0.10。
【図5】吸入ヒスタミンに対する基礎気道反応性における、及びEAR及びLAR後のヒスタミンAHRにおける、食塩水(左パネル)又はL−アルギニン(1M噴霧器濃度;右パネル)の吸入の影響。食塩水又はL−アルギニンの吸入30分前(白いバー)及び30分後(黒いバー)に、2回続けてPC100測定を行った。データは、9匹の動物の平均±SEMを示す。*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.0001。
【図6】EAR(パネルA)及びLAR(パネルB)後のAHRにおけるL−アルギニン吸入の影響(1M噴霧器濃度)。AHRは、アレルゲン接種前(基礎)及び後(それぞれEAR又はLAR後)に得られたヒスタミンPC100値の比として定義される。1という値は正常な反応性に相当する。データは9匹の動物の平均±SEMを表す。前処置に対して、*P<0.05及び***P<0.001。
【図7】吸入ヒスタミンに対する基礎気道反応性における、及びEAR及びLAR後のヒスタミンAHRにおける、食塩水(左パネル)又はD−アルギニン(1M噴霧器濃度;右パネル)の吸入の影響。食塩水又はD−アルギニンの吸入30分前(白いバー)及び30分後(黒いバー)に、2回続けてPC100測定を行った。データは3匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05及び**P<0.01。
【図8】1週間前に同じ動物で得られた食塩水の影響(白いバー)と比較した、EAR(6時間)及びLAR(24時間)後の、ヒスタミンに対する気道反応性におけるアレルゲン吸入0.5時間前及び8時間後での、食塩水(黒いバー;左パネル)又はABH(25mM;噴霧器濃度;黒いバー、右パネル)の吸入の影響。データは5匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05及び***P<0.001、n.s.=有意差なし。
【図9】1週間前に同じ動物で得られた食塩水対照(白いバー)と比較した、EAR(黒いバー、パネルA)及びLAR(黒いバー、パネルB)後の、ヒスタミンに対するAHRにおける、アレルゲン吸入の0.5時間前及び8時間後での、食塩水又はABH(25mM噴霧器濃度)の吸入の影響。AHRは、アレルゲン接種前(基礎)及び後(それぞれEAR又はLAR後)に得られたヒスタミンPC100値の比として定義される。1という値は正常な反応性に相当する。データは5匹の動物の平均±SEMを表す。対照に対して、*P<0.05及び***P<0.001。
【図10】1週間前に同じ動物から得られた食塩水対照(白いバー)と比較した、気道閉塞誘発に必要とされるオボアルブミン用量における、食塩水又はABH(25mM噴霧器濃度)での前処理(黒いバー)の影響。オボアルブミン用量が対数的にプロットされることに注意。データは5匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05及び**P<0.01;n.s.=有意差なし。
【図11】EAR(アレルゲン接種後6時間)及びLAR(アレルゲン接種後24時間)後の、ヒスタミンに対する気道反応性における、アレルゲン吸入の0.5時間前及び8時間後での、吸入食塩水又はABH(25mM;噴霧器濃度)による処置の影響。両治療群に、食塩水処置動物において気道閉塞を誘発したものと同じアレルゲン用量を接種した。データは5−6匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05及び***P<0.001。
【図12】(a)アレルゲン接種後の意識のある非拘束モルモットでのPplの代表的オンライン登録(t=0時間)。アレルゲン曝露の0.5時間前又は8時間後に、食塩水又は25mM ABH(噴霧器濃度)の何れかで動物を処置した。両処置群を同じアレルゲン用量に曝露した。(b)最初のピークにおける食塩水又はABHでの前処理の影響がアレルゲン接種後に生じる。データは5−6匹の動物の平均±SEMを表す。食塩水処置動物と比較して**P<0.01。
【実施例】
【0026】
実施例
導入
アレルギー性喘息のモルモットモデルを用いて、この実施例は、EAR及びLAR(これはL−アルギニンにより模倣することができる。)後、ABHの吸入によりアレルゲン誘発性AHRが急激に改善されることを示すインビボデータを報告する。さらに、ABHでの前処理により、吸入アレルゲンに対する気道の過敏性が顕著に低下し、アレルゲン誘発性EAR及びLAR及び両反応後のAHRの出現が阻止されることが分かった。
【0027】
方法
動物及び感作手順
この実施例において、非近交系雄の特定病原体不含Dunkin Hartleyモルモット(Harlan Heathfield、UK)を使用した。Van Amsterdamら[Agents Actions 1989、26:48−51]に記載のように、およそ250gの体重の全動物にオボアルブミンに対して積極的にIgE感作を行った。感作から2週間後、動物の手術を行い、感作後第4及び第5週に実験に使用した。温度湿度が調節された動物舎の個別ケージにこの動物を収容し、不断給餌で水及び餌を与え、同時に、12時間オン/12時間オフの光サイクルを維持した。この試験において記載される全てのプロトコールは、University of Groningen Committee for Animal Experimentationから承認を得た。
【0028】
気道機能の測定
以前に記載のように[Santingら、Pulm Pharmacol 1992、5:265−272;Meursら、Nature Protocols 2006、1:840−847]、無拘束状態下で、胸腔内圧(Ppl)のオンライン測定により、気道機能を評価した。
【0029】
手短に述べると、液体を満たした小型のラテックスバルーンカテーテルを手術により胸腔内に移植した。皮下に通してカテーテルの自由端を動物の頸部へと通し、そこでそれを露出させ取り外せないように連結した。外部の液体を満たしたカニューレを介して、胸膜バルーンカテーテルを圧力トランスデューサーに連結した(TXX−R、Viggo−Spectramed、Bilthoven、Netherlands)。オンラインコンピュータシステムを用いて、(cmH2Oでの)Pplを連続的に測定した。
【0030】
気管に埋め込まれた呼吸気流計での流体測定及び胸膜バルーンカテーテルでの圧力測定の組み合わせを用いたところ、Pplの変化は気道抵抗における変化に直線的に相関し、ゆえに、アレルゲン及びヒスタミン誘発性の気管支収縮に対する感度指標として使用され得ることが分かった[Santingら、前出]。この方法において、長期間にわたり気道機能を繰り返し、連続して監視することができ、一方で動物は行われる測定に気付かない。
【0031】
実験プロトコールの間(手術後1−4週間)、ベースラインPpl−測定結果は安定したままであり、手術部位において炎症の徴候は観察されなかった。
【0032】
誘発手順
エアロゾル化溶液の吸入により、アレルゲン及びヒスタミン誘発を行った。既に記載[Santingら;Meursら、両方とも前出]のように、9Lの特別に設計された風防ガラスケージ中(その中でモルモットは自由に動くことができた。)でこれらの誘発をおこなった。8L/分の気流により推進されるDeVilbiss噴霧器(タイプ646)は、0.33mL/分の出力でエアロゾルを与えた。既に記載のように[Meursら、前出]術前体重を保存したら、手術後少なくとも1週間、動物を実験状態及び誘発手順に馴らした。
【0033】
馴らし手順後、実験日に、下記に記載のように、アレルゲン及び/又はヒスタミン誘発を行った。全ての誘発の前に少なくとも30分間の適応期間を置き、その後、食塩水で2回連続的対照誘発を行い、各誘発を7分間隔で3分間続けた。適応期間の最後の20分間からのPpl値の平均を取ることによって、ベースラインPpl値を計算した。
【0034】
ヒスタミンに対する気道反応性を評価するために、食塩水中の漸増濃度段階(6.25、12.5、25、50、75、100及び125μg/mL)での誘発を行った。ヒスタミン誘発を3分間続け、7分間の間隔を置いた。Pplが少なくとも連続3分間、ベースラインを100%以上上回り上昇するまで、動物に接種した。Pplの100%上昇(PC100)を引き起こすヒスタミンの濃度は、濃度−Ppl曲線の線形補間から得られ、これをヒスタミンに対する気道反応性についての指標として使用した。Pplは、最後のヒスタミン誘発後15分以内にベースラインに戻った。
【0035】
食塩水中0.5、1.0又は3.0mg/mLオボアルブミンの漸増濃度の吸入により、アレルゲン誘発を行い、呼吸困難の最初の徴候が観察され、100%を超えるPplの上昇に到達した際、中止した。
【0036】
実験プロトコール
ABH及びL−アルギニンによるアレルゲン誘発性AHRの改善
ヒスタミンに対する基礎気道反応性におけるならびにEAR及びLAR後のアレルゲン誘発性気道過敏反応性(AHR)における、これらの薬物(ABH、L−アルギニン又はD−アルギニン)の急性効果を調べるために、1週間の間隔を置いた2つの異なる実験において、ビヒクル(食塩水)又は薬物(ABH、L−アルギニン又はD−アルギニン)の何れかで、モルモットを処置した(図2)。
【0037】
最初の実験日に、基礎ヒスタミン反応における食塩水又は薬物により誘発される影響を調べた。基礎ヒスタミンPC100の評価から30分後、食塩水(対照)又は25mM ABH、1.0M L−アルギニン又は1.0M D−アルギニン(噴霧器濃度)のエアロゾルを15分間吸入させた。これらの吸入後、第二のヒスタミンPC100測定を15分後に開始して行った。第2日に、アレルゲン誘発を行った。オボアルブミン誘発から5時間及び23時間後、それぞれEAR及びLARの後、アレルゲン誘発性AHRを決定するために、ヒスタミンPC100値を測定した。
【0038】
オボアルブミン誘発から5.5時間及び23.5時間後、食塩水、ABH及びL−又はD−アルギニン吸入を行い、続くヒスタミンPC100値をアレルゲン誘発から6時間及び24時間後に再評価した。無作為クロスオーバー計画で、1週間間隔で、食塩水及び薬物吸入を交互に行った(図2)。
【0039】
ABHによるアレルゲン誘発性AHRの予防
最初の実験日に、基礎ヒスタミンPC100を評価した。翌日、アレルゲン吸入の0.5時間前及び8時間後に、15分間、食塩水を吸入させ、アレルゲン接種から6時間及び24時間後、ヒスタミンPC100測定を行った。1週間後、t=−0.5及び8時間で、25mM ABH(噴霧器濃度)又は食塩水の何れかの吸入により、同じプロトコールを繰り返した。閉塞まで、アレルゲンの漸増用量(0.5、1及び3mg/mL)を全動物に接種した。
【0040】
第二の実験において、アレルゲンを1回動物に接種した。最初の実験日に、基礎ヒスタミンPC100を評価した。翌日、アレルゲン吸入の0.5時間前及び8時間後に、食塩水又はABH(25mM;噴霧器濃度)の何れかで動物を前処置した。食塩水処置モルモットで気道閉塞を引き起こした同じアレルゲン用量をABH前処置動物に接種した。このプロトコールにおいて、連続的Ppl登録により、アレルゲン誘発性EAR(アレルゲン誘発後0から5時間の間)及びLAR(アレルゲン誘発後8時間から24時間の間)を測定し、アレルゲン接種から6時間及び24時間後に、ヒスタミンに対する気道反応性を評価した(図2)。
【0041】
データ分析
気道閉塞を起こすために噴霧したアレルゲンの総量(mg)として、吸入アレルゲンに対する過敏性を表したが、これは、噴霧時間、噴霧器中のアレルゲン用量(mg/mL)及びエアロゾル出力(mL/分)の関数である。
【0042】
EAR及びLARの大きさは、アレルゲン誘発後0から5時間の間(EAR)及び8から24時間の間(LAR)の、Ppl時間−反応曲線下面積(AUC)として表した。Pplはベースラインからの%変化として表し、AUCは、不連続の5分間の台形積分により計算した(Santingら、J.Allergy Clin.Immunol.1994、93:1021−1030)。
【0043】
データは全て、平均±SEMとして表す。対応のある両側スチューデントt−検定を用いて統計学的有意性を評価し、P<0.05の場合に有意であるとした。
【0044】
化学物質
ヒスタミン二塩酸塩、オボアルブミン(グレードIII)、水酸化アルミニウム、L−アルギニン塩酸塩及びD−アルギニン塩酸塩は、Sigma Chemical Co.から得た。食塩水はBraun(The Netherlands)から購入した。2(S)−アミノ−6−ボロノヘキサン酸は、Organon(Oss、The Netherlands)より提供された。
【0045】
結果
回復プロトコール
図3は、EAR及びLAR反応後、ヒスタミンに対するPC100値が顕著に低下することにより示されるように、EAR及びLARの両方の後、オボアルブミンが顕著なAHRを誘発することを示す。食塩水の吸入は、ヒスタミンに対する基礎反応にもEAR及びLAR後のアレルゲン誘発性AHRに対する基礎反応にも影響を与えなかった。アルギナーゼ阻害剤ABHの吸入は、基礎気道反応性において影響はなかったが、このEAR反応後の対照測定結果と比較してPC100値が顕著に上昇したことにより示されるように、EAR後のアレルゲン誘発性AHRを改善した。
【0046】
さらに、LAR後のAHRの低下傾向が観察され、一方で、基礎反応性と比較した場合、ABH吸入後、もはや顕著なAHRはなかった(図3)。
【0047】
図4は、ABHが、EAR後、4.77±0.56倍から2.04±0.34倍(P<0.001)に、LAR後、1.95±0.23倍から1.56±0.47倍(P<0.10)に、PC100比 接種前/接種後として表されるアレルゲン誘発性AHRを低下させることを示す。ABHのように、L−アルギニンの吸入は、ヒスタミンに対する基礎気道反応性に影響を与えなかった(図5)。珍しいことに、EAR後及びLAR後のAHRがABHと同程度に改善された(図5及び6)。
【0048】
食塩水の場合のように、生物学的に不活性であるアルギニンのD−エナンチオマーは基礎気道反応性及びアレルゲン誘発性AHRに全く影響を与えなかった(図7)。
【0049】
予防プロトコール
興味深いことに、アレルゲン接種0.5時間前の25mM ABHでの前処置によって、食塩水対照処置と比較して、EAR後のAHRが顕著に阻止された(図8)。さらに、アレルゲン接種から8時間後の25mM ABHのさらなる吸入によって、LAR後のAHRの発生がほぼ完全に阻止された。食塩水での前処置は、EAR又はLAR後のAHRに影響を与えなかった(図8)。
【0050】
図9は、ABHによって、EAR後に6.33±1.30倍(食塩水対照、第1週)から3.05±0.51倍(P<0.05)へ、LAR後に2.08±0.31倍から1.41±0.25倍(P<0.005)へ、アレルゲン誘発性AHRが有意に低下したことを示す。
【0051】
珍しいことに、第2週のABHでの前処置後、第1週での同じ動物の食塩水処置と比較して(0.04±0.01mg;P<0.01)、気道閉塞を誘発するために、オボアルブミンの32.8倍高い濃度が必要であり(1.31±0.69mg)、このことから、ABHがアレルゲンに対する過敏性を顕著に低下させることが示される。食塩水処置動物に対して、オボアルブミン用量の有意な増加は観察されなかった(図10)。
【0052】
通常は閉塞を引き起こすアレルゲン投与量でのABHの影響を完全に理解するために、食塩水処置(閉塞を起こさせるもの)及びABH処置動物において、等しい用量のアレルゲンで誘発を行った。この条件下で、アレルゲン接種0.5時間前のABHでの前処置によって、EAR後のアレルゲン誘発性AHRがより顕著に阻止され、一方、アレルゲン接種から8時間後のABHでのさらなる処置によって、基礎レベルに対するLAR後の気道反応性が完全に正常値に戻った(図11、表1)。従って、ABHでの処置により、EAR後のアレルゲン誘発性AHRが4.14±0.59倍(食塩水処置)から1.58±0.24倍;P<0.01)に低下し、LAR後のAHRの出現が完全に阻止された(食塩水処置動物での1.68±0.14倍からABH処置動物での1.02±0.02倍へ;P<0.005)。
【0053】
アレルゲン接種したモルモットにおけるPplの代表的なオンライン記録を図12で示す。食塩水処置と比較して、同じアレルゲン用量でのABH処置では、EARならびにLARが大きく低下した。予想されるように、アレルゲン誘発性急性管支閉塞を反映する、Pplにおける最初のピーク反応の非常に顕著な低下が観察され(P<0.01、図12)、一方で、同様に、EAR及びLAR両方のAUCが顕著に低下した(表1)。
【0054】
【表1】
【0055】
結論
アレルギー性喘息のモルモットモデルを用いて、本明細書中で、特異的なアイソザイム−非選択的アルギナーゼ阻害剤ABHが、EAR及びLAR後にアレルゲン誘発性AHRを急速に改善し、一方で、アルギナーゼ阻害剤での前処置により吸入アレルゲンに対する気道の過敏性が顕著に低下し、アレルゲン誘発性EAR及びLAR及び両反応後のAHRの出現が阻止されることが示された。
【0056】
理論に縛られることなく、気道におけるNOシンターゼアイソザイムに対するアルギナーゼ誘発性の基質欠乏を減弱させることにより、ABHの吸入によってEAR及びLAR後のアレルゲン誘発性AHRが急速に改善されることが推測される。さらに、NOシンターゼに対する基質利用可能性の向上及び続くNO産生の増加によって、ABHは、気道へのアレルゲン誘発性(特に肥満細胞由来)メディエーター放出を減弱させ得る。喘息患者におけるいくつかの研究から、気管支拡張(cNOS由来)NOの欠乏が、アレルゲン誘発性AHRの出現に関与することが示されている。さらに、それぞれ喘息患者の気道及び血液で、アルギナーゼ発現又は活性の上昇が観察された。従って、上記の結果は、喘息患者におけるABHでの予防的治療の有用性を示唆する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー性喘息、非アレルギー性喘息及びアレルギー性鼻炎の予防的治療に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性喘息は、気道の慢性炎症性疾患である。この疾患の特徴的な性質は、気道での炎症性細胞(特にTh2リンパ球及び好酸球)の浸潤及び活性化、ならびに、アレルゲン、化学性刺激物、冷たい空気及び薬理学的物質(ヒスタミン及びメタコリンなど)を含む様々な刺激に対する気道過敏反応性の出現に関与する、アレルゲン誘発性の早発性及び遅発性気管支閉塞性反応である。
【0003】
気道平滑筋機能の神経性及び非神経性制御における変化ならびに気道における物理的変化(上皮の損傷を含む。)、浮腫及び局所的血管拡張による粘膜の肥厚及び気道内腔における粘液分泌は、急性喘息における早発性及び遅発性喘息反応後の気道過敏反応性の出現に関与し得る。
【0004】
慢性喘息において、基底膜の肥厚、粘液腺過形成、上皮下線維症及び気道平滑筋質量増加を含む気道壁の不可逆的構造変化による気道リモデリングは、重要なものとして、持続性の気道過敏反応性及び肺機能の低下に関与し得る。
【0005】
これらの変化は全て、様々なアレルギー性メディエーター、神経伝達物質、サイトカイン、増殖因子及び反応性酸素及び窒素種を含む炎症性反応の複雑なカスケードにより誘導される。
【0006】
アレルギー性鼻炎は、埃、鱗屑又は植物の花粉の浮遊微小粒子により起こる、これらの物質にアレルギーがあるヒトにおける、主に鼻での症状の一群である。これらの症状が花粉により引き起こされる場合、アレルギー性鼻炎は一般に「枯草熱」として知られる。アレルギー性鼻炎は、喘息と関与し得る、よく見られる問題である。喘息の患者において、鼻炎がコントロール不良であると喘息が悪化すると考えられる。
【0007】
集団内での喘息の発生率が比較的高いため、休職又は、労働不能ならびに直接的医療保険支出及び投薬による経済的負担は高い。従って、この症状を予防することが必要とされている。さらに、症状の出現が予防的治療により回避され得た場合、喘息及びアレルギー患者のクオリティー・オブ・ライフが非常に向上するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、喘息及びアレルギー性鼻炎に対する新規予防的治療を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
初めて本発明に導いた研究によって、インビボでの喘息の病態生理学におけるアルギナーゼの重要性が示された。アレルギー性喘息のモルモットモデルを用いて、発明者らは、アレルゲン誘発性の早発性(EAR)及び遅発性(LAR)喘息反応後、特異的なアイソザイム−非選択的アルギナーゼ阻害剤ABHの吸入によってアレルゲン誘発性の気道過敏反応性(AHR)が急速に改善され、一方、アルギナーゼ阻害剤での前処置によって、吸入アレルゲンに対する気道過敏性が顕著に低下し、アレルゲン誘発性EAR及びLAR及び両反応後のAHRの出現が阻止されることを明らかにした。
【0010】
吸入ABHでの前処置により吸入アレルゲンに対する気道の過敏性が顕著に低下すること(予防法)がより具体的に分かった。ABHでの前処置によって、生理食塩水処置対照で気道閉塞を誘発したアレルゲン用量で動物にアレルゲンを付与した場合にアレルゲン誘発性気管支閉塞及びAHRの出現が阻止された。
【0011】
さらに、生理食塩水処置対照よりも高用量のアレルゲンを用いて動物において気道閉塞を引き起こした場合、吸入ABHでの前処置によって、また、早発性及び遅発性喘息反応後、AHRの出現が阻止された。さらに、ABHにより、早発性ならびに遅発性喘息反応後、急速に、既存のアレルゲン誘発性AHRが改善された。
【0012】
アルギナーゼ阻害剤の上記の効果は、cNOS及び/又はiNOSに対するL−アルギニンのバイオアベイラビリティー向上により気道でのNO産生が上昇し、それにより、アレルゲン誘発性の肥満細胞活性化が減弱され、収縮刺激に対する気管支保護が誘導されることにより説明され得る。特に遅発性喘息反応後、後者の効果はまた、ペルオキシ亜硝酸のiNOS介在性産生、NOのプロ収縮性及びプロ炎症性代謝産物の低下も含む。
【0013】
上述の作用機構は、抗アレルギー性(及び抗炎症性)特性を収縮刺激に対する(急性)気管支保護と組み合わさるので、魅力的である。さらに、ポリアミン及びL−プロリンのアルギナーゼ介在性合成の阻害に基づき、ABHは慢性喘息における肺機能の不可逆的低下に関与する気道リモデリングを阻害し得る。
【0014】
ABHはアレルギー性喘息患者において特に有効である。アレルゲン誘発性気管支閉塞及びアレルゲン誘発性AHRの両方に対する保護効果の場合、ABHを用いた吸入療法は主に、症状を治療するための(短期作用)気管支拡張剤(即ち、アレルゲン誘発性気管支閉塞及びAHRの出現を防ぐための予防的維持療法)を定期的に使用する持続性のアレルギー性喘息患者に対するものである。喘息治療において、AHRは、喘息の重症度の主要な決定因子なので、標的とされるべき重要な特色である。ABHによる治療は、Morrisら(Am.J.Respir.Crit.Care Med.2004;170:148−153)の研究により重症喘息憎悪の患者におけるアルギナーゼの重要な役割が指摘されているように、軽度、中等度ならびに重症の持続性喘息の患者を対象としたものである。
【0015】
その抗アレルギー性効果を考えると、アレルギー性鼻炎(アレルギー性喘息と関連することが多い。)の患者におけるABHの有益な効果もまた本発明の一部である。
【0016】
従って、本発明は、上気道及び下気道の閉塞、特にアレルゲン誘発性気管支閉塞及び/又は気道過敏反応性を阻止することによる、喘息又はアレルギー患者の予防的維持療法用の薬剤の調製のためのアルギナーゼ阻害剤の使用に関する。治療すべき患者は、特に、その疾患の症状又は原因としてアルギナーゼ活性が上昇しているアレルギー患者である。アルギナーゼ活性が上昇している患者は通常、喘息又はアレルギー性鼻炎があるが、その疾患の症状又は原因として気道においてアルギナーゼ活性が上昇している非アレルギー性喘息患者でもあり得る。
【0017】
原則として、本発明により、何らかのアルギナーゼ阻害剤を使用し得る。本発明での使用に好ましいアルギナーゼ阻害剤は、次の式:
HOOC−CH(NH2)−X1−X2−X3−X4−B(OH)2
(式中、X1、X2、X3、X4のそれぞれは、−(CH2)−、−S−、−O−、−(NH)−及び−(N−アルキル)からなる群から選択する。)
を有するUS−6,723,710に記載のものである。「アルキル」という用語は、本明細書中で使用される場合、線状又は分枝状、非置換又は例えばF、S、O又はNにより置換の、何らかのC1からC20炭素骨格及び医薬的に許容可能なその塩を指す。
【0018】
好ましい実施形態において、本発明は、上記一般式(式中、X1、X2、X3又はX4の1つは、−S−、−O−、−(NH)−からなる群から選択され、残りのX1、X2、X3又はX4は−(CH2)−である。)によるアルギナーゼ阻害剤及び医薬的に許容可能なその塩の使用に関する。
【0019】
特に好ましい実施形態によると、本発明は、次の式:
HOOC−CH(NH2)−(CH2)−(CH2)−(CH2)−(CH2)−B(OH)2によるアルギナーゼ阻害剤及び医薬的に許容可能なその塩の使用に関する。この化合物は、2(S)-アミノ−6−ボロノヘキサン酸又はABHとも呼ばれる。ABH及び対応する化合物の調製は例えば、米国特許第6,723,710号、特に25段、34行目から26段、67行目及び図6に記載されている。本発明による使用に対するその他の好ましいアルギナーゼ阻害剤は、Nω−OH−L−アルギニン(NOHA)、Nω−ヒドロキシ−ノル−L−アルギニン(ノル−NOHA)、α−ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)、L−ノルバリン、ヨードアセチル−L−オルニチン、ヨードアセチル−L−リジン、L−リジン及びL−シトルリン及び医薬的に許容可能なその塩からなる群から選択される化合物である。
【0020】
好ましくは、本アルギナーゼ阻害剤は、薬剤中の唯一の活性成分として使用される。アルギナーゼ阻害剤、特にABH、は、他の活性成分と組み合わせずに使用することができる。しかし、本アルギナーゼ阻害剤は、予防製剤において適切な不活性添加物と組み合わせられる。
【0021】
WO2004/073623は、アルギニン阻害剤及び/又はマグネシウムと場合によっては組み合わせられるアルギニンによる、喘息を含むアルギニン上昇に関与する状態の治療を開示する。この公報は予防ではなく治療に関する。基本的治療はアルギニンを用いるものである。さらなる活性成分としてアルギナーゼ阻害剤を添加し得るが、主要な又は唯一の活性成分ではない。
【0022】
本発明の予防薬剤は、好ましくは、吸入により経口投与されるか又は皮下投与される。吸入製剤は、例えば、エアロゾル、溶液もしくは懸濁液の液滴又は粉末の形態で活性成分を提供し、吸入装置により投与され得る。添加物は、界面活性剤、保存料、香料、緩衝剤などを含み得る。活性成分の濃度は、例えば、吸入あたり0.1μgから5mg、特に吸入あたり1μgから2mg、とりわけ吸入あたり10μgから1mgの範囲から選択される。その他の投与経路に対する適切な用量は、活性成分0.0001から25mg/kg体重を含む。
【0023】
ABHのCA索引名は6−ボロノ−L−ノルロイシンである。その構造式を図1で示す。
【0024】
続く実施例において本発明をさらに例示する。実施例において、次の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ABHの構造式。
【図2A】この試験において使用されるプロトコールの概略図。OA:オボアルブミン接種;PC100:ヒスタミンPC100測定結果。
【図2B】この試験において使用されるプロトコールの概略図。OA:オボアルブミン接種;PC100:ヒスタミンPC100測定結果。
【図2C】この試験において使用されるプロトコールの概略図。OA:オボアルブミン接種;PC100:ヒスタミンPC100測定結果。
【図3】吸入ヒスタミンに対する基礎気道反応性における、ならびにEAR及びLAR後のヒスタミン過敏反応性における、食塩水(左パネル)又はアルギナーゼ阻害剤ABH(25mM噴霧器濃度;右パネル)吸入の影響。食塩水又はABHの吸入30分前(白いバー)及び30分後(黒いバー)に2回続けてPC100測定を行った。データは3から5匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.0001;n.s.=有意差なし。
【図4】EAR(パネルA)及びLAR(パネルB)後のAHRにおけるABH吸入(25mM噴霧器濃度)の影響。AHRは、アレルゲン接種前(基礎)及び後(それぞれEAR又はLAR後)に得られたヒスタミンPC100値の比として定義される。データは3から5匹の動物の平均±SEMを表す。前処置に対して、***P<0.001及び#P=0.10。
【図5】吸入ヒスタミンに対する基礎気道反応性における、及びEAR及びLAR後のヒスタミンAHRにおける、食塩水(左パネル)又はL−アルギニン(1M噴霧器濃度;右パネル)の吸入の影響。食塩水又はL−アルギニンの吸入30分前(白いバー)及び30分後(黒いバー)に、2回続けてPC100測定を行った。データは、9匹の動物の平均±SEMを示す。*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.0001。
【図6】EAR(パネルA)及びLAR(パネルB)後のAHRにおけるL−アルギニン吸入の影響(1M噴霧器濃度)。AHRは、アレルゲン接種前(基礎)及び後(それぞれEAR又はLAR後)に得られたヒスタミンPC100値の比として定義される。1という値は正常な反応性に相当する。データは9匹の動物の平均±SEMを表す。前処置に対して、*P<0.05及び***P<0.001。
【図7】吸入ヒスタミンに対する基礎気道反応性における、及びEAR及びLAR後のヒスタミンAHRにおける、食塩水(左パネル)又はD−アルギニン(1M噴霧器濃度;右パネル)の吸入の影響。食塩水又はD−アルギニンの吸入30分前(白いバー)及び30分後(黒いバー)に、2回続けてPC100測定を行った。データは3匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05及び**P<0.01。
【図8】1週間前に同じ動物で得られた食塩水の影響(白いバー)と比較した、EAR(6時間)及びLAR(24時間)後の、ヒスタミンに対する気道反応性におけるアレルゲン吸入0.5時間前及び8時間後での、食塩水(黒いバー;左パネル)又はABH(25mM;噴霧器濃度;黒いバー、右パネル)の吸入の影響。データは5匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05及び***P<0.001、n.s.=有意差なし。
【図9】1週間前に同じ動物で得られた食塩水対照(白いバー)と比較した、EAR(黒いバー、パネルA)及びLAR(黒いバー、パネルB)後の、ヒスタミンに対するAHRにおける、アレルゲン吸入の0.5時間前及び8時間後での、食塩水又はABH(25mM噴霧器濃度)の吸入の影響。AHRは、アレルゲン接種前(基礎)及び後(それぞれEAR又はLAR後)に得られたヒスタミンPC100値の比として定義される。1という値は正常な反応性に相当する。データは5匹の動物の平均±SEMを表す。対照に対して、*P<0.05及び***P<0.001。
【図10】1週間前に同じ動物から得られた食塩水対照(白いバー)と比較した、気道閉塞誘発に必要とされるオボアルブミン用量における、食塩水又はABH(25mM噴霧器濃度)での前処理(黒いバー)の影響。オボアルブミン用量が対数的にプロットされることに注意。データは5匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05及び**P<0.01;n.s.=有意差なし。
【図11】EAR(アレルゲン接種後6時間)及びLAR(アレルゲン接種後24時間)後の、ヒスタミンに対する気道反応性における、アレルゲン吸入の0.5時間前及び8時間後での、吸入食塩水又はABH(25mM;噴霧器濃度)による処置の影響。両治療群に、食塩水処置動物において気道閉塞を誘発したものと同じアレルゲン用量を接種した。データは5−6匹の動物の平均±SEMを表す。*P<0.05及び***P<0.001。
【図12】(a)アレルゲン接種後の意識のある非拘束モルモットでのPplの代表的オンライン登録(t=0時間)。アレルゲン曝露の0.5時間前又は8時間後に、食塩水又は25mM ABH(噴霧器濃度)の何れかで動物を処置した。両処置群を同じアレルゲン用量に曝露した。(b)最初のピークにおける食塩水又はABHでの前処理の影響がアレルゲン接種後に生じる。データは5−6匹の動物の平均±SEMを表す。食塩水処置動物と比較して**P<0.01。
【実施例】
【0026】
実施例
導入
アレルギー性喘息のモルモットモデルを用いて、この実施例は、EAR及びLAR(これはL−アルギニンにより模倣することができる。)後、ABHの吸入によりアレルゲン誘発性AHRが急激に改善されることを示すインビボデータを報告する。さらに、ABHでの前処理により、吸入アレルゲンに対する気道の過敏性が顕著に低下し、アレルゲン誘発性EAR及びLAR及び両反応後のAHRの出現が阻止されることが分かった。
【0027】
方法
動物及び感作手順
この実施例において、非近交系雄の特定病原体不含Dunkin Hartleyモルモット(Harlan Heathfield、UK)を使用した。Van Amsterdamら[Agents Actions 1989、26:48−51]に記載のように、およそ250gの体重の全動物にオボアルブミンに対して積極的にIgE感作を行った。感作から2週間後、動物の手術を行い、感作後第4及び第5週に実験に使用した。温度湿度が調節された動物舎の個別ケージにこの動物を収容し、不断給餌で水及び餌を与え、同時に、12時間オン/12時間オフの光サイクルを維持した。この試験において記載される全てのプロトコールは、University of Groningen Committee for Animal Experimentationから承認を得た。
【0028】
気道機能の測定
以前に記載のように[Santingら、Pulm Pharmacol 1992、5:265−272;Meursら、Nature Protocols 2006、1:840−847]、無拘束状態下で、胸腔内圧(Ppl)のオンライン測定により、気道機能を評価した。
【0029】
手短に述べると、液体を満たした小型のラテックスバルーンカテーテルを手術により胸腔内に移植した。皮下に通してカテーテルの自由端を動物の頸部へと通し、そこでそれを露出させ取り外せないように連結した。外部の液体を満たしたカニューレを介して、胸膜バルーンカテーテルを圧力トランスデューサーに連結した(TXX−R、Viggo−Spectramed、Bilthoven、Netherlands)。オンラインコンピュータシステムを用いて、(cmH2Oでの)Pplを連続的に測定した。
【0030】
気管に埋め込まれた呼吸気流計での流体測定及び胸膜バルーンカテーテルでの圧力測定の組み合わせを用いたところ、Pplの変化は気道抵抗における変化に直線的に相関し、ゆえに、アレルゲン及びヒスタミン誘発性の気管支収縮に対する感度指標として使用され得ることが分かった[Santingら、前出]。この方法において、長期間にわたり気道機能を繰り返し、連続して監視することができ、一方で動物は行われる測定に気付かない。
【0031】
実験プロトコールの間(手術後1−4週間)、ベースラインPpl−測定結果は安定したままであり、手術部位において炎症の徴候は観察されなかった。
【0032】
誘発手順
エアロゾル化溶液の吸入により、アレルゲン及びヒスタミン誘発を行った。既に記載[Santingら;Meursら、両方とも前出]のように、9Lの特別に設計された風防ガラスケージ中(その中でモルモットは自由に動くことができた。)でこれらの誘発をおこなった。8L/分の気流により推進されるDeVilbiss噴霧器(タイプ646)は、0.33mL/分の出力でエアロゾルを与えた。既に記載のように[Meursら、前出]術前体重を保存したら、手術後少なくとも1週間、動物を実験状態及び誘発手順に馴らした。
【0033】
馴らし手順後、実験日に、下記に記載のように、アレルゲン及び/又はヒスタミン誘発を行った。全ての誘発の前に少なくとも30分間の適応期間を置き、その後、食塩水で2回連続的対照誘発を行い、各誘発を7分間隔で3分間続けた。適応期間の最後の20分間からのPpl値の平均を取ることによって、ベースラインPpl値を計算した。
【0034】
ヒスタミンに対する気道反応性を評価するために、食塩水中の漸増濃度段階(6.25、12.5、25、50、75、100及び125μg/mL)での誘発を行った。ヒスタミン誘発を3分間続け、7分間の間隔を置いた。Pplが少なくとも連続3分間、ベースラインを100%以上上回り上昇するまで、動物に接種した。Pplの100%上昇(PC100)を引き起こすヒスタミンの濃度は、濃度−Ppl曲線の線形補間から得られ、これをヒスタミンに対する気道反応性についての指標として使用した。Pplは、最後のヒスタミン誘発後15分以内にベースラインに戻った。
【0035】
食塩水中0.5、1.0又は3.0mg/mLオボアルブミンの漸増濃度の吸入により、アレルゲン誘発を行い、呼吸困難の最初の徴候が観察され、100%を超えるPplの上昇に到達した際、中止した。
【0036】
実験プロトコール
ABH及びL−アルギニンによるアレルゲン誘発性AHRの改善
ヒスタミンに対する基礎気道反応性におけるならびにEAR及びLAR後のアレルゲン誘発性気道過敏反応性(AHR)における、これらの薬物(ABH、L−アルギニン又はD−アルギニン)の急性効果を調べるために、1週間の間隔を置いた2つの異なる実験において、ビヒクル(食塩水)又は薬物(ABH、L−アルギニン又はD−アルギニン)の何れかで、モルモットを処置した(図2)。
【0037】
最初の実験日に、基礎ヒスタミン反応における食塩水又は薬物により誘発される影響を調べた。基礎ヒスタミンPC100の評価から30分後、食塩水(対照)又は25mM ABH、1.0M L−アルギニン又は1.0M D−アルギニン(噴霧器濃度)のエアロゾルを15分間吸入させた。これらの吸入後、第二のヒスタミンPC100測定を15分後に開始して行った。第2日に、アレルゲン誘発を行った。オボアルブミン誘発から5時間及び23時間後、それぞれEAR及びLARの後、アレルゲン誘発性AHRを決定するために、ヒスタミンPC100値を測定した。
【0038】
オボアルブミン誘発から5.5時間及び23.5時間後、食塩水、ABH及びL−又はD−アルギニン吸入を行い、続くヒスタミンPC100値をアレルゲン誘発から6時間及び24時間後に再評価した。無作為クロスオーバー計画で、1週間間隔で、食塩水及び薬物吸入を交互に行った(図2)。
【0039】
ABHによるアレルゲン誘発性AHRの予防
最初の実験日に、基礎ヒスタミンPC100を評価した。翌日、アレルゲン吸入の0.5時間前及び8時間後に、15分間、食塩水を吸入させ、アレルゲン接種から6時間及び24時間後、ヒスタミンPC100測定を行った。1週間後、t=−0.5及び8時間で、25mM ABH(噴霧器濃度)又は食塩水の何れかの吸入により、同じプロトコールを繰り返した。閉塞まで、アレルゲンの漸増用量(0.5、1及び3mg/mL)を全動物に接種した。
【0040】
第二の実験において、アレルゲンを1回動物に接種した。最初の実験日に、基礎ヒスタミンPC100を評価した。翌日、アレルゲン吸入の0.5時間前及び8時間後に、食塩水又はABH(25mM;噴霧器濃度)の何れかで動物を前処置した。食塩水処置モルモットで気道閉塞を引き起こした同じアレルゲン用量をABH前処置動物に接種した。このプロトコールにおいて、連続的Ppl登録により、アレルゲン誘発性EAR(アレルゲン誘発後0から5時間の間)及びLAR(アレルゲン誘発後8時間から24時間の間)を測定し、アレルゲン接種から6時間及び24時間後に、ヒスタミンに対する気道反応性を評価した(図2)。
【0041】
データ分析
気道閉塞を起こすために噴霧したアレルゲンの総量(mg)として、吸入アレルゲンに対する過敏性を表したが、これは、噴霧時間、噴霧器中のアレルゲン用量(mg/mL)及びエアロゾル出力(mL/分)の関数である。
【0042】
EAR及びLARの大きさは、アレルゲン誘発後0から5時間の間(EAR)及び8から24時間の間(LAR)の、Ppl時間−反応曲線下面積(AUC)として表した。Pplはベースラインからの%変化として表し、AUCは、不連続の5分間の台形積分により計算した(Santingら、J.Allergy Clin.Immunol.1994、93:1021−1030)。
【0043】
データは全て、平均±SEMとして表す。対応のある両側スチューデントt−検定を用いて統計学的有意性を評価し、P<0.05の場合に有意であるとした。
【0044】
化学物質
ヒスタミン二塩酸塩、オボアルブミン(グレードIII)、水酸化アルミニウム、L−アルギニン塩酸塩及びD−アルギニン塩酸塩は、Sigma Chemical Co.から得た。食塩水はBraun(The Netherlands)から購入した。2(S)−アミノ−6−ボロノヘキサン酸は、Organon(Oss、The Netherlands)より提供された。
【0045】
結果
回復プロトコール
図3は、EAR及びLAR反応後、ヒスタミンに対するPC100値が顕著に低下することにより示されるように、EAR及びLARの両方の後、オボアルブミンが顕著なAHRを誘発することを示す。食塩水の吸入は、ヒスタミンに対する基礎反応にもEAR及びLAR後のアレルゲン誘発性AHRに対する基礎反応にも影響を与えなかった。アルギナーゼ阻害剤ABHの吸入は、基礎気道反応性において影響はなかったが、このEAR反応後の対照測定結果と比較してPC100値が顕著に上昇したことにより示されるように、EAR後のアレルゲン誘発性AHRを改善した。
【0046】
さらに、LAR後のAHRの低下傾向が観察され、一方で、基礎反応性と比較した場合、ABH吸入後、もはや顕著なAHRはなかった(図3)。
【0047】
図4は、ABHが、EAR後、4.77±0.56倍から2.04±0.34倍(P<0.001)に、LAR後、1.95±0.23倍から1.56±0.47倍(P<0.10)に、PC100比 接種前/接種後として表されるアレルゲン誘発性AHRを低下させることを示す。ABHのように、L−アルギニンの吸入は、ヒスタミンに対する基礎気道反応性に影響を与えなかった(図5)。珍しいことに、EAR後及びLAR後のAHRがABHと同程度に改善された(図5及び6)。
【0048】
食塩水の場合のように、生物学的に不活性であるアルギニンのD−エナンチオマーは基礎気道反応性及びアレルゲン誘発性AHRに全く影響を与えなかった(図7)。
【0049】
予防プロトコール
興味深いことに、アレルゲン接種0.5時間前の25mM ABHでの前処置によって、食塩水対照処置と比較して、EAR後のAHRが顕著に阻止された(図8)。さらに、アレルゲン接種から8時間後の25mM ABHのさらなる吸入によって、LAR後のAHRの発生がほぼ完全に阻止された。食塩水での前処置は、EAR又はLAR後のAHRに影響を与えなかった(図8)。
【0050】
図9は、ABHによって、EAR後に6.33±1.30倍(食塩水対照、第1週)から3.05±0.51倍(P<0.05)へ、LAR後に2.08±0.31倍から1.41±0.25倍(P<0.005)へ、アレルゲン誘発性AHRが有意に低下したことを示す。
【0051】
珍しいことに、第2週のABHでの前処置後、第1週での同じ動物の食塩水処置と比較して(0.04±0.01mg;P<0.01)、気道閉塞を誘発するために、オボアルブミンの32.8倍高い濃度が必要であり(1.31±0.69mg)、このことから、ABHがアレルゲンに対する過敏性を顕著に低下させることが示される。食塩水処置動物に対して、オボアルブミン用量の有意な増加は観察されなかった(図10)。
【0052】
通常は閉塞を引き起こすアレルゲン投与量でのABHの影響を完全に理解するために、食塩水処置(閉塞を起こさせるもの)及びABH処置動物において、等しい用量のアレルゲンで誘発を行った。この条件下で、アレルゲン接種0.5時間前のABHでの前処置によって、EAR後のアレルゲン誘発性AHRがより顕著に阻止され、一方、アレルゲン接種から8時間後のABHでのさらなる処置によって、基礎レベルに対するLAR後の気道反応性が完全に正常値に戻った(図11、表1)。従って、ABHでの処置により、EAR後のアレルゲン誘発性AHRが4.14±0.59倍(食塩水処置)から1.58±0.24倍;P<0.01)に低下し、LAR後のAHRの出現が完全に阻止された(食塩水処置動物での1.68±0.14倍からABH処置動物での1.02±0.02倍へ;P<0.005)。
【0053】
アレルゲン接種したモルモットにおけるPplの代表的なオンライン記録を図12で示す。食塩水処置と比較して、同じアレルゲン用量でのABH処置では、EARならびにLARが大きく低下した。予想されるように、アレルゲン誘発性急性管支閉塞を反映する、Pplにおける最初のピーク反応の非常に顕著な低下が観察され(P<0.01、図12)、一方で、同様に、EAR及びLAR両方のAUCが顕著に低下した(表1)。
【0054】
【表1】
【0055】
結論
アレルギー性喘息のモルモットモデルを用いて、本明細書中で、特異的なアイソザイム−非選択的アルギナーゼ阻害剤ABHが、EAR及びLAR後にアレルゲン誘発性AHRを急速に改善し、一方で、アルギナーゼ阻害剤での前処置により吸入アレルゲンに対する気道の過敏性が顕著に低下し、アレルゲン誘発性EAR及びLAR及び両反応後のAHRの出現が阻止されることが示された。
【0056】
理論に縛られることなく、気道におけるNOシンターゼアイソザイムに対するアルギナーゼ誘発性の基質欠乏を減弱させることにより、ABHの吸入によってEAR及びLAR後のアレルゲン誘発性AHRが急速に改善されることが推測される。さらに、NOシンターゼに対する基質利用可能性の向上及び続くNO産生の増加によって、ABHは、気道へのアレルゲン誘発性(特に肥満細胞由来)メディエーター放出を減弱させ得る。喘息患者におけるいくつかの研究から、気管支拡張(cNOS由来)NOの欠乏が、アレルゲン誘発性AHRの出現に関与することが示されている。さらに、それぞれ喘息患者の気道及び血液で、アルギナーゼ発現又は活性の上昇が観察された。従って、上記の結果は、喘息患者におけるABHでの予防的治療の有用性を示唆する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上気道及び下気道の閉塞、特にアレルゲン誘発性の気管支閉塞及び気道過敏反応性を防ぐことによる喘息又はアレルギー患者の予防的維持療法用の薬剤の調製のためのアルギナーゼ阻害剤の使用。
【請求項2】
患者が、その疾患の症状又は原因としてアルギナーゼ活性が上昇しているアレルギー疾患患者である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
患者が喘息患者である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
患者がアレルギー性鼻炎を有する、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
患者が、その疾患の症状又は原因としてアルギナーゼ活性が上昇している非アレルギー性喘息患者である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
アルギナーゼ阻害剤が、2(S)−アミノ−6−ボロノヘキサン酸(ABH)、S−(2−ボロノエチル)−L−システイン(BEC)、Nω−OH−L−アルギニン(NOHA)、Nω−ヒドロキシ−ノル−L−アルギニン(ノル−NOHA)、α−ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)、L−ノルバリン、ヨードアセチル−L−オルニチン、ヨードアセチル−L−リジン、L−リジン、L−シトルリンからなる群から選択される、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の使用。
【請求項7】
薬剤が、唯一の活性成分としてアルギナーゼ阻害剤を含む、請求項1から請求項6の何れか1項に記載の使用。
【請求項8】
薬剤が局所吸入により投与される、請求項1から請求項7の何れか1項に記載の使用。
【請求項1】
上気道及び下気道の閉塞、特にアレルゲン誘発性の気管支閉塞及び気道過敏反応性を防ぐことによる喘息又はアレルギー患者の予防的維持療法用の薬剤の調製のためのアルギナーゼ阻害剤の使用。
【請求項2】
患者が、その疾患の症状又は原因としてアルギナーゼ活性が上昇しているアレルギー疾患患者である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
患者が喘息患者である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
患者がアレルギー性鼻炎を有する、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
患者が、その疾患の症状又は原因としてアルギナーゼ活性が上昇している非アレルギー性喘息患者である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
アルギナーゼ阻害剤が、2(S)−アミノ−6−ボロノヘキサン酸(ABH)、S−(2−ボロノエチル)−L−システイン(BEC)、Nω−OH−L−アルギニン(NOHA)、Nω−ヒドロキシ−ノル−L−アルギニン(ノル−NOHA)、α−ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)、L−ノルバリン、ヨードアセチル−L−オルニチン、ヨードアセチル−L−リジン、L−リジン、L−シトルリンからなる群から選択される、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の使用。
【請求項7】
薬剤が、唯一の活性成分としてアルギナーゼ阻害剤を含む、請求項1から請求項6の何れか1項に記載の使用。
【請求項8】
薬剤が局所吸入により投与される、請求項1から請求項7の何れか1項に記載の使用。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−510257(P2010−510257A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537501(P2009−537501)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009449
【国際公開番号】WO2008/061612
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(504018105)レイクスウニフェルジテイト・フローニンゲン (1)
【氏名又は名称原語表記】Rijksuniversiteit Groningen
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009449
【国際公開番号】WO2008/061612
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(504018105)レイクスウニフェルジテイト・フローニンゲン (1)
【氏名又は名称原語表記】Rijksuniversiteit Groningen
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]