説明

喫煙による循環機能不全の予防/改善または治療剤

【課題】喫煙に関連して生じる不都合な様々な複合的循環機能の異常を予防および/または治療することができる組成物を提供する。
【解決手段】イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として、有効量含有する、喫煙に関連する複合的循環機能異常の予防および/または治療用の医薬または健康食品用組成物を提供する。喫煙による複合的循環機能障害もしくは不全、禁煙補助用ニコチン製剤によって引き起こされる多岐にわたる循環作用を予防および/または治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイコサペント酸(以下EPAと略称する)、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として、有効量含有する、喫煙に関連する複合的循環機能異常の予防および/または治療用の医薬または健康食品用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本では約40%の男性、約10%の女性が喫煙をしている。
従来より、喫煙が、肺癌および肺気腫などの呼吸器疾患の危険性を高めることは、良く知られている。しかし、心筋梗塞、末梢閉塞性疾患、脳卒中などの循環器疾患の危険性を高めることは、あまり知られていない(非特許文献1)。
近年、喫煙による循環器疾患に対する影響に関しても、種々の知見が得られている。喫煙男性の心筋梗塞による死のリスクは、非喫煙者の4.25倍である。喫煙者の虚血性心疾患発生率は、非喫煙者の5倍である(非特許文献2)。さらに、喫煙男性の脳卒中リスクは、非喫煙者の約1.27倍である(非特許文献3)。中年男性の全死亡に対する喫煙の寄与率は、17%〜34%である(非特許文献4)。
【0003】
喫煙者を循環器疾患の危険性から守るためには、禁煙をすることがひとつの方法である。虚血性心疾患発生率は、禁煙により2倍にまで低下する(非特許文献2)。また、脳血管疾患の死亡リスクは、禁煙により5年以内に4.3から1.8へと、ほぼ半減する(非特許文献5)。
しかしながら、循環器学会などが、喫煙は「喫煙病(依存症+喫煙関連疾患)」という全身疾患であると位置づけているように(非特許文献6)、喫煙者の69.7%がニコチン依存症であり(非特許文献7)、禁煙はその依存性のゆえに、必ずしも容易ではない。例えば、35%の喫煙者は毎年禁煙を試みるが、独力で禁煙に成功するものは5%以下であり(非特許文献8)、自主的な禁煙率は6.4%であると推定されている(非特許文献9)。
【0004】
従って、多くの喫煙者に対して、「喫煙病(依存症+喫煙関連疾患)」という全身疾患としての対策および治療が必要である。
すなわち、喫煙者には、禁煙に加え、肺癌および肺気腫などの呼吸器疾患や心筋梗塞、末梢閉塞性疾患、脳卒中、動脈硬化などの循環器疾患などの喫煙関連疾患に対する治療も必要である。一方、禁煙しないもしくは禁煙できない喫煙者に対しては、喫煙関連疾患に関する治療が、より一層必要である。
【0005】
タバコ煙が心機能、血小板機能、好中球機能そして粥状硬化巣形成に影響を与えることが、心疾患の発症を高めるメカニズムであると考えられ(非特許文献10)、また、血小板凝集能の亢進、酸化ストレスの増大や、サイトカインの活性化、交感神経の活性化が起こり、血管内皮機能障害や血管の硬さの増大により、動脈硬化を進行させることが報告されている(非特許文献11)。このように喫煙は、例えば、血管収縮、凝固促進、中性脂肪や脂質過酸化物血中濃度上昇、炎症反応促進、血管弾性低下など循環機能に対する多岐に渡る不都合な様々な作用を与え、喫煙による循環機能の不全・障害という状態を生来し、その結果として、心筋梗塞、末梢閉塞性疾患、脳卒中、動脈硬化などの危険性を高める。
【0006】
タバコ煙中には約3000〜4000種の成分が含有されている(非特許文献12)。例えば、ニコチン、一酸化炭素、一酸化窒素、シアン化水素、スーパーオキサイド、二酸化炭素、二酸化窒素などが、同時に体内に取り込まれ、これらが相互に影響しあいながら循環機能に作用していると報告されている(非特許文献13)。
すなわち、喫煙により:
1)血漿ノルエピネフィリン・エピネフィリン濃度増加、血圧上昇、心拍数増加、不整脈、血中スロンボキサンA2濃度上昇、血中プロスタサイクリン濃度低下、血管内皮機能障害、血清NO濃度低下などの、自律神経系および心血管系に対する異常;
2)血小板機能亢進、血中スロンボキサンA2濃度上昇、血中プロスタサイクリン濃度低下、血中フィブリノーゲン濃度上昇、血液粘度増加などの、血液凝固系に対する異常;
3)血中コレステロール・LDLコレステロール・中性脂肪上昇、血中HDLコレステロール低下、アディポネクチン濃度低下、酸化LDL濃度上昇などの、脂質代謝系の異常;
4)血清脂質過酸化物濃度上昇、尿中8-iso-PGF2α上昇、血中ビタミンC濃度低下、血清過酸化物濃度上昇、酸化LDL濃度上昇、尿中8-iso-PGF2α濃度上昇などの、酸化系の異常;
5)白血球数増加、好中球数増加、血中C反応性蛋白濃度上昇、血中IL-6濃度上昇、内皮細胞への単球接着促進、NF-κB活性化などの、炎症系の異常;
6)血管弾性度低下、赤血球変形能低下、血液粘度増加、血小板機能亢進、血管弾性度低下、血管内膜肥厚、動脈硬化粥腫不安定化などの、組織細胞膜・弾性の異常:
など多岐にわたる異常が複合的に生じることは、タバコ煙中に複数成分が含まれていることと関連していると考えられている。
【0007】
従って、喫煙者において、喫煙による心筋梗塞、末梢閉塞性疾患、脳卒中、動脈硬化などの循環器疾患を防止するためには、喫煙による不都合な多岐にわたる様々な異常が複合的に生じている、循環機能障害または不全という状態を予防、改善、抑制する必要がある。
しかしながら、喫煙による不都合な多岐に渡る様々な異常の各々が、どの時点から、どのようにして、どの程度、さらには、どのように関連しあって、循環器疾患の発症を高めたり進展を促したりしているのか等の詳細については不明である。
【0008】
このような状況を鑑み、喫煙者において、喫煙による循環器疾患を防止するためには、複合的に生じている、循環機能に対する不都合な多岐に渡る様々な異常を総合的に除去、軽減する必要がある。薬剤によって除去等することを企図した場合、以下の3つの解決策が考えられる。
第一の解決策は、タバコ煙中の個々の成分に対応する解決策である。タバコ煙含有の個々の成分の有害作用を除去等する薬剤を、喫煙者に投与する。
第二の解決策は、喫煙者において、複合的に生じている、喫煙による不都合な様々な異常に、個々に対応する解決策である。すなわち、自律神経系および心血管系、血液凝固系、脂質代謝系、酸化系、炎症系、および組織細胞膜・弾性に対する不都合な異常の症状ごとに対応する。
第三の解決策は、喫煙者において、複合的に生じている、喫煙による不都合な様々な作用に、全体的に対応する解決策である。すなわち、特定の薬剤をもって、複合的に生じている、喫煙による様々な異常全体を多岐に渡って総合的に除去等する。
【0009】
第一の、タバコ煙中の個々の成分に対応する解決策は、前述のように、タバコ煙中には約3000〜4000種の成分が含有されており、タバコ煙成分の数の多さから現実的には難しい。
【0010】
第二の、喫煙者において、複合的に生じている、喫煙による不都合な様々な異常に、個々に対応する解決策は、喫煙の異常が多岐に渡るため、多くの薬剤を投与しなければならないということが最大の問題である。
しかも、喫煙によって生じ得る異常全てが常に臨床的に顕在化しているわけではなく、臨床的に顕在化する水準以下の顕在化していない異常が、循環機能に影響している可能性がある。その場合、顕在化していないが、循環機能に影響している異常に対して対応しないことになり、循環機能の不全・障害の除去等を不確実にする。そうであるからといって、例えば、自律神経系および心血管系に対する異常と脂質異常とが認められる喫煙者に対して、臨床的に顕在化していない炎症に対する改善剤を投与することも問題がある。
【0011】
第三の、喫煙者において、複合的に生じている、喫煙による不都合な様々な異常に、全体的に対応する解決策は、喫煙者において、喫煙による複合的な様々な異常全体を、多岐に渡って総合的に除去等し得る特定の薬剤を見出し、喫煙者に投与することである。しかしながら、そのような薬剤は、現在のところ、治療上用いられていない。前述のように、第一、第二の解決策は問題があることから、第三の解決策が必要である。
【0012】
喫煙者を循環器疾患の危険性から守るためには、禁煙をすることがひとつの方法であり、禁煙を完成させるため、タバコの喫煙を中止することと並行し、喫煙習慣から脱却するための禁煙補助用ニコチン製剤の適用、すなわちニコチン代替療法を行うことが推奨されている。
禁煙補助用ニコチン製剤には、ニコチンのみが含まれる。口腔粘膜や皮膚から徐々に体内にニコチンが吸収され、喫煙習慣の脱却に加えて、禁煙に際して生じる離脱症状を軽減し、禁煙を補助する仕組みである(非特許文献14)。しかしながら、ニコチンは多彩な薬理作用を有しており、禁煙補助用ニコチン製剤を適用した場合、ニコチンの循環作用による影響を避けることはできない。
【0013】
例えば、経皮的ニコチン製剤は、エピネフィリン濃度上昇を介し(非特許文献15)、血圧と心拍数を上昇させるとともに(非特許文献16)、血漿スロンボキサンB2濃度を上昇させ、ブラジキニンに対する動脈反応を低減させ、血管内皮機能を障害させる(非特許文献17)。また、ニコチンへの曝露に伴い、動脈硬化の進展や心筋梗塞の発症に関連する血小板活性の上昇が示唆されている(非特許文献18)。さらに、喫煙者において観察される高比重リポ蛋白(以下HDL)の低下は、循環器疾患の危険因子の一つであるが、喫煙の中止と並行して禁煙補助用ニコチン製剤を適用しているかぎり、HDLの低下は維持されたままである(非特許文献19)。
【0014】
すなわち、循環器疾患の危険因子としての喫煙の作用のうち、ニコチンに由来する循環作用は、喫煙中止と禁煙補助用ニコチン製剤適用からなる禁煙促進プログラムの受療者においても維持されたままであり、特に、循環器疾患患者が禁煙補助用ニコチン製剤を使用する場合、循環器疾患の病態への影響が懸念される。事実、経皮吸収ニコチン製剤の添付文書には、不安定狭心症、急性期の心筋梗塞、重篤な不整脈を有する患者、経皮的冠動脈形成術直後および冠動脈バイパス術直後の患者へのニコチン製剤の適応は、カテコラミン放出促進による血管収縮、血圧上昇をきたし症状が悪化するおそれがあることから禁忌とされている。同様に、脳血管障害回復初期の患者への適応も脳血管の攣縮・狭窄を起こし症状が悪化するおそれがあることから禁忌とされている(非特許文献20)。
【0015】
したがって、禁煙を完成させるための禁煙補助用ニコチン製剤適用、すなわち、ニコチン代替療法の安全性をより高める必要がある。すなわち、ニコチン代替療法によって、喫煙習慣からの脱却という目的は成就されるとしても、禁煙補助用ニコチン製剤適用期間中のニコチンによって多岐にわたって複合的に生じている循環機能への影響を予防および/または低減することが必要である。
【0016】
なお、McCarty MFは、魚油が喫煙・ニコチンの数多くの不都合な影響を補正することが期待できるので、喫煙者にタバコの代えてニコチン製剤使用を奨励し、サプリメントとして魚油および他の心保護栄養成分の使用を助言すべきであると主張している(非特許文献21)。しかしながら、市販魚油間の成分組成は、統一されたものはなく、例えば、パルミチン酸(16:0)は0%〜24.2%、EPAは16.93%〜53.8%に分布している(非特許文献22)。さらに、McCarty MFが引用している論文において、多く使用されている魚油はMaxEPA(PRANOVA社製)であるが、その成分は、パルミチン酸(16:0)28%、オレイン酸(18:1)18%、EPA 18%、DHA 15%、リノール酸(18:2)4%である(特許文献1)。ミリスチン酸(14:0)、パルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(18:0)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、アラキドン酸、DHAなどの脂肪酸の作用の一部は、EPAの作用とは相反する作用を示すことがある。このように魚油に含まれる脂肪酸の組成は多岐に渡っており、脂肪酸の多くは循環器機能に対してプラスやマイナスの作用を有することが知られている(非特許文献23)。魚油という脂肪酸の混合物が生体にとって有利な臨床効果を示したとしても、特定の脂肪酸を有効成分とした場合に魚油と同様の効果を発揮しうるかは想定が困難であり、かえって特定の脂肪酸を有効成分とすることで予期せぬ不利な効果が発現することもあり得る。
また、MaxEPA(PRANOVA社製)中のEPA含量は18%にしかすぎず、McCarty MFが主張している魚油の効果はEPAの効果とは同一ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】Alexander Jら.WO1990/003794公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】井埜利博監修;喫煙病学;最新医学社;2007;p102
【非特許文献2】佐藤眞一;成人病;1998;38:63
【非特許文献3】Mannami T et al;Stroke.2004;35:1248
【非特許文献4】松崎道幸;日本医事新報;2006;4302:62
【非特許文献5】Wannamethee SG et al;JAMA.1995;274:155
【非特許文献6】9学会合同研究班編;Circ J;2005; 69:1005
【非特許文献7】ニコチン依存症と禁煙行動に関する実態調査;大阪府立健康科学センター;2006年12月
【非特許文献8】American Psychiatric Association :Diagnostic and Statistical Manual of Metal Disorders (4th edition revised). American Psychiatric Association. Washington, DC.1988
【非特許文献9】Viswesvaran C et al;J Appl Psychol.1992; 77:554
【非特許文献10】Aubrey E et al;Circulation. 1992;86:699
【非特許文献11】井埜利博監修;喫煙病学;最新医学社;2007;p107
【非特許文献12】井埜利博監修;喫煙病学;最新医学社;2007;p14
【非特許文献13】中西弘則ら、福島医誌.1998;48:1
【非特許文献14】禁煙ガイドライン. Circulation J.2005:69:1109
【非特許文献15】Zevin Sら,Clin Pharmacol Ther. 1998;64:87
【非特許文献16】Benowitz NL.N Eng J Med;1988;319:1318
【非特許文献17】Sabha Mら, Clin Pharmacol Ther. 2000;68:167
【非特許文献18】Folts JDらAdv Exp Med Biol. 1990;273:339
【非特許文献19】Mofatt RJら. Prev Med. 2000;31:148
【非特許文献20】ノバルティスファーマ株式会社 禁煙補助薬 ニコチネル(商標)TTS(商標)添付文書 1999年5月
【非特許文献21】McCarty MF,Medical Hypotheses.1996;46:337
【非特許文献22】Tatarczyk Tら. Wien Klin Wochenschr 2007;119:417
【非特許文献23】Hennig B et al. Metabolism.2000;49;1006, Hornstra G Ann Med. 1989;21:53
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、喫煙に関連して生じる不都合な様々な複合的循環機能の異常を予防および/または治療することができる組成物を提供することである。
すなわち、喫煙が心筋梗塞、末梢閉塞性疾患、脳卒中、動脈硬化などの循環器疾患のリスク因子として認識され、喫煙者において不都合な様々な循環機能の異常が複合的に生じているにもかかわらず、様々な循環機能の異常が複合的に生じている状態である循環機能障害または不全を予防等する試みが、禁煙以外にない状況において、禁煙による方法以外で、多岐にわたり複合的に生じている不都合な異常を総合的に除去等することができる薬剤を提供し、喫煙による循環機能障害または不全を予防、改善、抑制することである。
また、喫煙者が喫煙習慣からの離脱、すなわち禁煙を意図し、喫煙を中止し、禁煙補助用ニコチン製剤を使用する場合、ニコチンの多岐にわたる複合的な循環作用を低減し、もしくはその作用による異常を改善することにより、禁煙補助用ニコチン製剤の安全性を高めることができる薬剤を提供することも本発明の課題である。禁煙補助用ニコチン製剤は心筋梗塞や脳血管障害などの循環機能異常を有する患者への適応は禁忌として制限されている。本発明の課題は、循環機能異常を有する患者に対しても禁煙補助用ニコチン製剤を用いることができるように、禁煙補助用ニコチン製剤の安全性を高める新たな治療薬の提供、循環機能異常を有する患者への新たな治療手段を提供することも含む。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究を行ったところ、多価不飽和脂肪酸であるEPA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として、有効量含有する医薬または健康食品用組成物が、喫煙に関連して複合的に生じる、様々な循環機能の異常を総合的に予防、除去・軽減・改善し、様々な循環機能の複合的な異常からなる循環機能障害または不全の予防・治療等に極めて有用であることを見いだし、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明は以下の内容から構成される。
1.イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として、有効量含有する、喫煙に関連する複合的循環機能異常の予防および/または治療用の医薬または健康食品用組成物。
2.喫煙に関連する複合的循環機能異常が、喫煙による複合的循環機能障害もしくは不全である前項1に記載の組成物。
3.喫煙に関連する複合的循環機能異常が、禁煙補助用ニコチン製剤による複合的循環機能異常である前項1に記載の組成物。
4.喫煙に関連する複合的循環機能異常が、以下の少なくとも2以上の異常を含むものである、前項1〜3のいずれか一に記載の組成物:
1)自律神経系および心血管系に対する異常;
2)血液凝固系に対する異常;
3)脂質代謝に対する異常;
4)酸化系に対する異常;
5)炎症系に対する異常;
6)組織細胞膜・弾性に対する異常。
5.喫煙に関連する複合的循環機能異常が、喫煙時または禁煙補助用ニコチン製剤摂取時の心拍数増加を含む、前項1〜4のいずれか一に記載の組成物。
6.不安定狭心症患者、心筋梗塞患者、不整脈患者、脳血管障害患者、高血圧患者、高脂血症患者、メタボリックシンドローム患者、経皮的冠動脈形成手術施行後の患者、または冠動脈バイパス手術施行後の患者である喫煙者または禁煙を意図する者に適用されることを特徴とする前項1〜5のいずれか一に記載の組成物。
7.イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを、全脂肪酸およびその誘導体中に、85重量%以上含む、医薬用である前項1〜6のいずれか一に記載の組成物。
8.イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを、全脂肪酸およびその誘導体中に、65〜85重量%含む、健康食品用である前項1〜6のいずれか一に記載の組成物。
9.イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを0.3〜6g/日で経口投与される、前項1〜8のいずれか一に記載の組成物。
10.ニコチン製剤の摂取期間中に併用投与される、前項3〜9のいずれか一に記載の医薬または健康食品用組成物。
11.ニコチン製剤の摂取に先立つ少なくとも2週間以上前から投与される前項10に記載の組成物。
12.イコサペント酸エチルエステルを有効成分として含有する、前項1〜11に記載の組成物。
13.さらにニコチンを含有する請求項3〜12のいずれか一に記載の組成物。
14.請求項3〜12のいずれか一に記載の組成物と、禁煙補助用ニコチン製剤を含むキット。
【発明の効果】
【0022】
本発明のEPA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として、有効量含有する組成物は、喫煙に関連する複合的循環機能の異常の予防および/または治療に有用である。
詳細には、喫煙によって複合的に生じる、自律神経系および心血管系の異常、血液凝固系の異常、脂質代謝系の異常、酸化系の異常、炎症系の異常、組織細胞膜・弾性の異常を総合的に除去・軽減・改善し、これらの様々な異常によって構成されている循環機能障害もしくは不全に効果がある。
【0023】
本発明は、喫煙者が禁煙を意図し、喫煙の中止と並行して使用する禁煙補助用ニコチン製剤によって多岐にわたり複合的に生じている循環作用を低減もしくは改善することにより、禁煙補助用ニコチン製剤の安全性を高める新たな治療手段を提供する。また、本発明の医薬または健康食品用組成物は、心筋梗塞患者や脳血管障害の患者など循環機能異常を有する喫煙者が禁煙を意図し、禁煙補助用ニコチン製剤と併用する場合にも有用である。
また、本発明の医薬または健康食品用組成物は、禁煙を意図する者が禁煙補助用ニコチン製剤使用に先立つ少なくとも2週間以上に加え禁煙補助用ニコチン製剤適用期間中、使用することにより、禁煙補助用ニコチン製剤によって多岐にわたって複合的に生じる循環作用を総合的に予防および/または低減することができる。
【0024】
喫煙とは関係なく、EPAが、自律神経系および心血管系、血液凝固系、脂質代謝系、酸化系、炎症系、組織細胞膜・弾性に個々に作用することは知られている。しかしながら、喫煙による自律神経系および心血管系の異常、血液凝固系の異常、脂質代謝系の異常、酸化系の異常、炎症系の異常、組織細胞膜・弾性の異常に対するEPAの効果は殆ど報告されておらず、ましてや、喫煙または禁煙補助用ニコチン製剤に起因して複合的に生じている多岐にわたる様々な異常、すなわち、自律神経系および心血管系の異常、血液凝固系の異常、脂質代謝系の異常、酸化系の異常、炎症系の異常、組織細胞膜・弾性の異常を、EPAが単独で総合的に除去・軽減・改善することは報告されていない。喫煙または禁煙補助用ニコチン製剤による異常が多岐にわたって複合的に生じていることを考慮すれば、このEPA単独での総合的な作用による異常の除去・軽減・改善に対する効果は驚くべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】喫煙による血小板凝集能に対するEPAとオレイン酸の作用の比較を示すグラフである。
【図2】喫煙による血小板凝集能に対するEPAの作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において「イコサペント酸(EPA)」とは、全-シス-5,8,11,14,17-イコサペント酸(all-cis-5,8,11,14,17-icosapentaenoic acid)のことをいう。
市販品の他、魚油やEPA産生菌およびその培養液を公知の方法、例えば連続式蒸留法、尿素付加法、液体クロマトグラフィー法、超臨界流体クロマトグラフィー法等あるいはこれらの組み合わせで精製して得ることができる。
必要により、エステル化処理してエチルエステル等のアルキルエステルやグリセリド等の製薬学上許容し得るエステルとすることができる。
また、ナトリウム塩、カリウム塩等の無機塩基またはベンジルアミン塩、ジエチルアミン塩等の有機塩基あるいはアルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸との製薬学上許容し得る塩とすることもできる。
本発明において、EPAとは、特に断らない限りは、脂肪酸の遊離体のほか、上記のような製薬上許容しうる塩およびエステルも含むものとする。本発明の組成物の有効成分としては、EPAエチルエステル(以下EPA-Eとする)を用いることが特に好ましい。
【0027】
イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として、「有効量含有する」とは、喫煙に関連する複合的循環機能異常の予防および/または治療効果を有する量を含有することであり、組成物中のEPA含量は、投与経路、投与回数に応じて調整されるものである。例えば、毎日経口投与する場合は、一日当たり0.3〜6g、好ましくは0.9〜3.6g、更に好ましくは1.8〜2.7gの量となるように、一日の投与回数に応じて組成物中のEPA量を調整して含有する。
【0028】
本明細書において、「喫煙に関連する複合的循環機能異常」とは、喫煙、受動喫煙、禁煙補助用ニコチン製剤などに起因して複合的に生じる多岐にわたる様々循環機能の異常である。
【0029】
本明細書において、喫煙に関連する複合的循環機能異常の「予防および/または治療」には、循環機能異常の予防、異常発生の低減、異常発生の抑制、異常の改善、異常の除去、異常の治療を含む。
【0030】
喫煙に関連する複合的循環機能異常の一態様として、喫煙による複合的循環機能障害または不全が挙げられる。「喫煙による複合的循環機能障害または不全」とは、喫煙による循環機能に対する不都合な様々な異常が生じている状態のことであり、喫煙による自律神経系および心血管系の異常、血液凝固系の異常、脂質代謝系の異常、酸化系の異常、炎症系の異常、組織細胞膜・弾性の異常が例示される。
【0031】
喫煙に関連する複合的循環機能異常の一態様として、禁煙補助用ニコチン製剤による複合的循環機能異常が挙げられる。喫煙者においては、喫煙により自律神経系および心血管系の異常、血液凝固系の異常、脂質代謝系の異常、酸化系の異常、炎症系の異常、組織細胞膜・弾性の異常のような複合的循環機能異常が生じている可能性が高い。またこのような異常は、ニコチンが引き起こす副作用としての循環作用とも共通している。したがって、禁煙を意図する者に禁煙補助用ニコチン製剤を適用すると、これらの循環機能異常が依然として維持され、場合によっては悪化させる恐れがある。しかし、禁煙補助用ニコチン製剤の使用にあたり、本発明の組成物を事前もしくは同時に投与することにより、禁煙補助用ニコチン製剤の副作用である複合的循環機能異常を抑制することができるので、これらの循環機能異常を有する禁煙を意図する者においても安全に禁煙補助用ニコチン製剤を使用することが可能となる。
【0032】
本明細書において「禁煙」とは、喫煙習慣から離脱できず習慣的に喫煙している者が、喫煙習慣を離脱し喫煙しない者へと移行することである。「習慣的に喫煙している者」とは、これまで合計100本以上または6ヶ月以上たばこを吸っている(吸っていた)者のうち、「この1ヶ月間に毎日または時々たばこを吸っている」者と定義されている。また、本明細書において「喫煙しない者」とは、これまで合計100本以上または6ヶ月以上たばこを吸っている(吸っていた)者のうち、「この1ヶ月間にたばこを吸っていない」者を喫煙しない者と定義されている(厚生労働省の平成18年国民栄養健康・栄養調査結果)。
【0033】
本明細書において「禁煙補助用ニコチン製剤」とは、禁煙を意図する者が、喫煙の中止に加えて、喫煙習慣から脱却するために用いる、ニコチンを主成分とする製剤であり、ガム製剤、貼付製剤、吸入製剤、鼻粘膜スプレー製剤が知られている。広く公知の禁煙補助用ニコチン製剤を用いることができる。
【0034】
具体的に、禁煙補助ニコチン貼付製剤を用いたニコチン代替療法の概略は以下に例示される。例えば、喫煙者の喫煙行動を絶ち(完全禁煙,断煙)、その後4週間、高用量ニコチン貼付剤(ニコチンとして52.5mg含有)を1日1回1枚、24時間貼付する。次の2週間は中用量ニコチン貼付剤(ニコチンとして35mg含有)を貼付し、最後の2週間は低用量ニコチン貼付剤(ニコチンとして17.5mg含有)を貼付する。
【0035】
本明細書において「禁煙を意図する者」とは、習慣的に喫煙している者または喫煙していた者であって、喫煙の中止を意図する者を意味する。禁煙を意図する者で、特に本発明の組成物の投与が好ましい対象としては不安定狭心症患者、心筋梗塞患者、不整脈患者、脳血管障害患者、高血圧患者、高脂血症患者、メタボリックシンドローム患者、経皮的冠動脈形成手術施行後の患者、および冠動脈バイパス手術施行後の患者等である。
これらの患者においては、禁煙補助用ニコチン製剤の、副作用としての循環作用が病状を悪化させる恐れがあるため、禁煙補助用ニコチン製剤の使用は制限されている。しかし、禁煙補助用ニコチン製剤の使用にあたり、本発明の組成物を事前もしくは同時に投与することにより、禁煙補助用ニコチン製剤の副作用を抑制することができるので、これらの患者においても安全に禁煙補助用ニコチン製剤を使用することが可能となる。
【0036】
EPA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として有効量含有する本願発明の医薬または健康食品用組成物を投与することにより、喫煙に関連する複合的循環機能異常を予防および/または治療することができる。
本願発明の組成物が予防および/または治療することができる喫煙に関連する複合的循環機能異常の一態様として、以下の少なくとも2以上の異常を含む複合的循環機能異常が挙げられる。
1)自律神経系および心血管系に対する異常;
2)血液凝固系に対する異常;
3)脂質代謝に対する異常;
4)酸化系に対する異常;
5)炎症系に対する異常;
6)組織細胞膜・弾性に対する異常。
【0037】
本発明の組成物は、喫煙時または禁煙補助用ニコチン製剤投与時に、即時的に生じる循環機能の異常に有効であり、特に、喫煙時または禁煙補助用ニコチン製剤投与時の自律神経系および心血管系に対する異常である心拍数増加を抑制する効果を有する。また、2以上の異常を総合的に改善する例としては、少なくとも喫煙時の心拍数増加の改善に加え、血小板凝集能亢進、白血球数増加、好中球数増加、血中コレステロール上昇、血中LDLコレステロール上昇、および血中C反応性蛋白濃度上昇からなる群より選ばれる1以上の異常の改善が挙げられる。
【0038】
本明細書において「自律神経系および心血管系に対する異常」とは、血漿ノルエピネフィリン・エピネフィリン濃度増加、血圧上昇、心拍数増加、不整脈、血中スロンボキサンA2濃度上昇、血中プロスタサイクリン濃度低下、血管内皮機能障害、血清NO濃度低下などの自律神経系および心血管系に対する異常のことをいう。
【0039】
本明細書において「血液凝固系に対する異常」とは、血小板凝集能亢進、血中スロンボキサンA2濃度上昇、血中プロスタサイクリン濃度低下、血中フィブリノーゲン濃度上昇などによって代表される血液凝固系に対する異常のことをいう。
【0040】
本明細書において「脂質代謝系に対する異常」とは、血中コレステロール・LDLコレステロール・中性脂肪上昇、血中HDLコレステロール低下、アディポネクチン濃度低下、酸化LDL濃度上昇などによって代表される脂質代謝に対する異常のことをいう。
【0041】
本明細書において「酸化系に対する異常」とは、血清過酸化物濃度上昇、尿中8-iso-PGF2α上昇、血中ビタミンC濃度低下、酸化LDL濃度上昇などによって代表される酸化系に対する異常のことをいい、基本的には、酸化系の促進である。
【0042】
本明細書において「炎症系に対する異常」とは、好中球および白血球数増加、血中C反応性蛋白濃度上昇、血中IL-6濃度上昇、内皮細胞への単球接着促進、NF-κB活性化などによって代表される炎症系に対する異常のことをいう。
【0043】
本明細書において「組織細胞膜・弾性に対する異常」とは、赤血球変形能低下、血液粘度増加、血管弾性度低下、血管内膜肥厚、動脈硬化粥腫不安定化、血小板凝集能亢進などによって代表される組織細胞膜・弾性に対する異常のことをいう。
【0044】
なお、上記例示された具体的異常は、自律神経系および心血管系に対する異常、血液凝固系に対する異常、脂質代謝に対する異常、酸化系に対する異常、炎症系に対する異常、組織細胞膜・弾性に対する異常の具体的代表例であり、本願発明の循環機能異常は例示された異常に限るものではない。また、各項目で例示されるような異常は少なくとも一つが臨床的に顕在化していればよい。
【0045】
上記のような循環機能異常は、受動喫煙者にも起こりうる。したがって、本発明の組成物は、喫煙者はもちろん、受動喫煙者にも適用しうる。
【0046】
また、本発明の組成物を適用する好適な対象としては、循環器疾患を有する喫煙者または禁煙を意図する者が挙げられる。循環器疾患を有する喫煙者または禁煙を意図する者としては、不安定狭心症患者、心筋梗塞患者、不整脈患者、脳血管障害患者、高血圧患者、高脂血症患者、メタボリックシンドローム患者、経皮的冠動脈形成手術施行後の患者、および冠動脈バイパス手術施行後の患者等が挙げられる。このような喫煙者または禁煙を意図する者においては、喫煙や禁煙補助用ニコチン製剤による循環機能作用が病状を悪化させる恐れがある。本発明の組成物を適用することにより、この循環機能作用を抑制することが可能となるので、これらの患者において喫煙または禁煙補助用ニコチン製剤による病状悪化のリスクを軽減することができる。
【0047】
本発明の組成物は、有効成分を化合物単独で投与するか、或いは一般的に用いられる適当な担体または媒体の類、例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、香味剤、必要に応じて滅菌水や植物油、更には無害性有機溶媒あるいは無害性溶解補助剤(たとえばグリセリン、プロピレングリコール)、乳化剤、懸濁化剤(例えばツイーン80、アラビアゴム溶液)等と、適宜選択、組み合わせて、適当な製剤に調製することができる。
【0048】
EPAは高度に不飽和であるため、上記の製剤は、さらに、抗酸化剤たとえばブチレート化ヒドロキシトルエン、ブレチート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸、医薬または健康食品として許容されうるキノンおよびα-トコフェロールを含有させることが望ましい。
【0049】
製剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、経口用液体製剤、座剤、シロップ剤、吸入剤、軟膏、注射剤(乳濁性、懸濁性、非水性)、あるいは用時乳濁または懸濁して用いる固形注射剤の形で、経口または静脈内、直腸内あるいは外用を問わず患者に投与されるが、とりわけカプセルたとえば、軟質カプセルやマイクロカプセルに封入しての経口投与が好ましい。
尚、高純度EPA-E軟質カプセル剤であるエパデール(持田製薬社製)が、既に上市されている。
【0050】
全脂肪酸およびその誘導体中のEPAとしての含量比は、高いものが好ましい。
例えば、魚油に含まれる、ミリスチン酸(14:0)、パルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(18:0)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、アラキドン酸、DHAなどの脂肪酸の作用の一部は、喫煙により多岐に渡たり複合的に生じている循環器機能に対する不都合な異常を除去等するEPAの作用とは相反する作用を示す(Hennig B et al. Metabolism.2000;49;1006, Hornstra G Ann Med. 1989;21:53)ことから、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、アラキドン酸含量が少ないことが望まれる。特に、アラキドン酸含量は少ないことが望まれ、2重量%未満が好ましく、1重量%未満が更に好ましい。
例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPAとしての含量比が、65重量%以上のものが好ましく、85重量%以上のものが更に好ましく、96.5重量%以上のものが更に好ましい。このため、65〜85重量%のものは、健康食品用として使用し、85重量%以上のものは、医薬用として使用することができる。
【0051】
本発明の組成物の投与量は、対象となる喫煙に関連する複合的循環機能異常を予防治療するのに十分な量とされるが、効果が得られれば、予防および/または治療剤の剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、年齢等によって適宜増減することができる。
1日投与量はEPAとして、0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日が例示され、投与回数は、好適には一日3回に分けて投与するが、必要に応じて全量を1回あるいは数回に分けて投与してもよい。
健常成人男子にEPA-Eを連続経口投与した場合、EPA血漿中濃度は1週間で定常状態に達する。したがって、投与期間は好ましくは2週間以上、より好ましくは3ヶ月以上、さらに好ましくは6ヶ月以上である。
また、血漿中EPA/AA(アラキドン酸)比が1.0以上となるように、投与量、投与間隔を適宜調整すればよく、例えば1日おきに投与する、1週間に2〜3日投与することもできる。
【0052】
本発明の組成物を禁煙補助用ニコチン製剤による複合的循環機能異常の予防/治療を目的として投与する場合、禁煙補助用ニコチン製剤の摂取前および/または摂取期間中、および/または摂取終了後に投与することが可能である。禁煙補助用ニコチン製剤の摂取前においては、禁煙補助用ニコチン製剤の摂取開始に先立って投与し、より好適には1週間以上前、さらに好ましくは2週間以上前より事前投与を開始する。摂取期間中の併用においては、禁煙補助用ニコチン製剤の摂取期間中継続して適宜投与する。さらに、禁煙補助用ニコチン製剤の摂取終了後においても、1週間から2週間の継続投与をしてもよい。
【0053】
また、本発明は、さらにニコチンを含有する組成物に関する。本発明の組成物に禁煙補助用のニコチンを配合することにより、禁煙を意図する者は、1つの製剤の投与により、不都合な循環機能異常を予防、軽減して安全に禁煙補助用ニコチンを摂取し、禁煙継続が可能となる。例えば、一日投与量として、10〜100mgニコチン量に対して、0.3〜6g量のEPAの投与が可能な配合量・比率を選択して組成物を調製することができる。
【0054】
また、本発明は、本発明の組成物と、禁煙補助用ニコチン製剤を含むキットに関する。キット化することにより、簡便に事前投与および/または併用することができ、不都合な循環機能異常を予防、軽減して安全に禁煙補助用ニコチン製剤を使用することが可能となり、禁煙を継続することができる。例えば、一日投与量として、10〜100mgニコチン量に対して、0.3〜6g量のEPAの投与が可能な比率を選択してキットを調製することができる。
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を具体的に説明するためのものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0056】
喫煙による心拍数上昇に対するEPA服用の影響(自律神経系および心血管系)
EPA-E(持田製薬株式会社製エパデール)を1日1800mg(EPA-Eを有効成分として1800mg含有)を3ケ月間以上服用している喫煙者群(表1において服用と記載)と、EPA非服用喫煙者群(表1において非服用と記載)に、タバコ1本を喫煙させた。喫煙前、喫煙後に心拍数を測定した。同様の操作を1〜5回行った。心拍数の差値の平均を上昇度として算出し、さらに、それらの平均を服用群、非服用群において求めた。
表1に示すように、EPA非服用喫煙者群の心拍数の上昇度の平均は、EPA服用喫煙者群のそれよりも大きく、EPAは喫煙による心拍数上昇を抑制することが示された。
これにより、喫煙またはニコチン摂取による自律神経系および心血管系に対する異常としての心拍数増加は、EPAによって軽減されることが示された。
【0057】
【表1】

【実施例2】
【0058】
喫煙による血小板凝集能に対するEPAの作用(血液凝固系)
10mgのタールと1mgのニコチンを含む60mmの長さの市販タバコ12本を、20mmの長さまで各々2分間かけて喫煙し、その煙を全て肺に吸い込むことなく、リン酸緩衝液(PBS,SIGMA社製)30ml中へストローを介してゆっくり吹き込み、その緩衝液をタバコ煙水中抽出液(CSE)として実験に供した。
一方、ウサギ末梢血より、常法に従って多血小板血漿200μlを調整した。この多血小板血漿200μl にCSE 50μlおよびEPA(5mM)25μlを加えてインキュベートした後、アデノシン二リン酸(ADP(3μM))25μlを加えて凝集を惹起し、血小板凝集能測定装置を用いて、血小板凝集能を測定した。凝集率とは、多血小板血漿の凝集した比率を示す。
EPAの代わりに、オレイン酸溶液(5mM)25μlを加えた場合と比較した(図1)。EPAを添加した場合のピーク時の血小板凝集率は、オレイン酸を添加した場合の80.6%を示した。また、EPAの代わりに何も加えなかった場合の69.9%を示した(図2)。
これにより、喫煙による血液凝固系に対する異常としての血小板凝集能亢進は、EPAによって軽減されることが示された。タバコ煙中にはニコチンが有効作用量含まれていることから、本結果により、ニコチン摂取時の血小板凝集能亢進は、EPAによって軽減できるものと考えられた。
【実施例3】
【0059】
(1)喫煙者の臨床検査値におよぼすEPAの作用
EPA服用中の喫煙者およびEPA非服用の喫煙者の血液を採取し、NO濃度、レムナントリポ蛋白濃度、Adiponectin濃度、ビタミンC濃度、アルファトコフェロール濃度、好中球数、白血球数およびC反応性蛋白濃度などを測定する。さらに、同時に脈波伝道速度を計測する。血液は、喫煙前および喫煙後5分〜1時間の範囲で採取する。
EPA服用中の喫煙者においては、EPA非服用の喫煙者に比べ、これらの測定値が改善されていたことが確認できる。
【0060】
(2)喫煙者に対するEPA投与前後における臨床検査値の変化
EPA非服用の喫煙者の血液を採取し、生理・血液検査を行った後、EPA-E(持田製薬株式会社製エパデール)を1日1800mg‐2700mg、3週間経口投与し、同様に生理・血液検査を行った。結果を表2に示す。EPA-E服用後においては、白血球数、好中球数、リンパ球数、血中総コレステロール量、血中LDLコレステロール量、および血中C反応性蛋白濃度の減少が認められた。また、喫煙5分後の心拍数の上昇が抑制された。このことは、喫煙者における白血球数、好中球数、リンパ球数、血中総コレステロール量、血中LDLコレステロール量、血中C反応性蛋白濃度の上昇および喫煙時の心拍数上昇などの循環機能異常が、EPAの投与によって同時にかつ総合的に改善されたことを示している。なお、EPAの投与期間を延長することで、各種循環機能異常の更なる改善および治療を行うことができるものと考えられる。
【0061】
【表2】

【実施例4】
【0062】
禁煙補助用ニコチン製剤の副作用に対するEPAの作用
禁煙を意図した喫煙者に対し、喫煙中止の開始予定日の2週間前より、1日2700mgのEPA-E投与を開始する。次いで、喫煙中止日より、その後4週間、高用量ニコチン貼付剤(ニコチンとして52.5mg含有)を、次の2週間は中用量ニコチン貼付剤(ニコチンとして35mg含有)を、最後の2週間は低用量ニコチン貼付剤(ニコチンとして17.5mg含有)をおのおの1日1回1枚、24時間貼付する。
喫煙時、喫煙中止開始時およびニコチン貼付剤適用終了時に、血圧、心拍数、尿中スロンボキサンA2代謝物濃度、血小板凝集能、血中フィブリノーゲン濃度、HDL濃度、血中ビタミンC濃度、CRP値、白血球数、血液粘度、赤血球変形能などを測定することにより、禁煙補助ニコチン貼付製剤による多岐にわたる循環作用が、EPA-E投与によって低減・改善されることが確認できる。
【実施例5】
【0063】
軟質カプセル剤
軟質ゼラチンカプセル(約0.5ml容)を滅菌し、EPA-E 65%(w/w)、DHA-E 35%(w/w)を含む脂肪酸組成物にビタミンEを0.2%(w/w)となるように加えて、イコサペント酸エチルとして300mgとなるように満たし、次いで封じた。
【実施例6】
【0064】
乳剤
イコサペント酸エチル 11
流動パラフィン 9
ミリスチン酸イソプロピル 5
セタノール 5
モノステアリン酸ソルビタン 3.8
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 6.2
ジブチルヒドロキシトルエン 0.2
パラオキシ安息香酸メチル 0.2
パラオキシ安息香酸プロピル 0.1
精製水 59.5
─────────────────────────────
100重量%
上記各成分のうち、精製水以外の成分を80℃にて加熱溶解し、これに80℃に加熱した精製水を撹拌しながら徐々に加え、10分間乳化させた。その後撹拌しながら35℃まで冷却し、均一な乳化物を得た。
【実施例7】
【0065】
マイクロカプセル剤
EPA-E 96.5%(w/w)を含む脂肪酸組成物にビタミンEを0.2%(w/w)加えた油状物を同心二重円筒式自動軟カプセル機の充填物配給タンクに入れ、一方、被覆剤供給タンクにはゼラチン37.8%(w/w)、グリセリン9.4%(w/w)、D-ソルビトール5.7%(w/w)、精製水47.2%(w/w)を混合して別途調製された被覆用液を入れ、該機械における内管ノズルの充填用油状物質移動速度9.7g/分、外管ノズルの被覆用液移動速度2.3g/分となるよう設定したのち、オリフィスの下部に200Hzの振動を与え、冷却媒体液移動速度を調製しながら、粒径約1.9mm、被覆率19%(w/w)、重量3.1mgの球状シームレスマイクロカプセルを得た。窒素ガス雰囲気下で、このマイクロカプセルを410mgずつ厚さ0.2mmのラミネートアルミニウム箔(防湿セロファン+アルミニウム箔+ポリエチレン)に分包した。
【実施例8】
【0066】
脂肪輸液
イコサペント酸エチル 50g
精製大豆油 950g
精製卵黄レシチン 120g
オレイン酸 5g
濃グリセリン 250g
上記各成分を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液100mlに加えホモミキサーで分散させた後、注射用蒸留水を加えて全量を10Lとした。これを高圧噴射式乳化機にて乳化し、脂肪乳液を調製した。該脂肪乳液を200mlずつプラスチックボトルに分注した後、121℃、20分間オートクレーブにて滅菌して脂肪輸液とした。滅菌後、OV-フィルム(ユニチカ社製)で真空包装した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の組成物により、喫煙に関連する複合的循環機能異常の予防および/または治療を可能とする。本発明は、禁煙以外の方法で、喫煙による循環機能障害または不全の予防、改善、抑制に有用である。また、本発明は、喫煙者が禁煙を意図し、喫煙の中止と並行して使用する禁煙補助用ニコチン製剤によって多岐にわたり複合的に生じる循環作用を低減もしくは改善することにより禁煙補助用ニコチン製剤の安全性を高める新たな手段を提供する。また、心筋梗塞患者や脳血管障害の患者など循環機能異常を有する喫煙者が禁煙を意図する場合に、本発明の医薬または健康食品用組成物を禁煙補助用ニコチン製剤と併用することで、安全に禁煙補助用ニコチン製剤を使用することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として、有効量含有する、喫煙に関連する複合的循環機能異常の予防および/または治療用の医薬または健康食品用組成物。
【請求項2】
喫煙に関連する複合的循環機能異常が、喫煙による複合的循環機能障害もしくは不全である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
喫煙に関連する複合的循環機能異常が、禁煙補助用ニコチン製剤による複合循環機能異常である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
喫煙に関連する複合的循環機能異常が、以下の少なくとも2以上の異常を含むものである、請求項1〜3のいずれか一に記載の組成物:
1)自律神経系および心血管系に対する異常;
2)血液凝固系に対する異常;
3)脂質代謝に対する異常;
4)酸化系に対する異常;
5)炎症系に対する異常;
6)組織細胞膜・弾性に対する異常。
【請求項5】
喫煙に関連する複合的循環機能異常が、喫煙時または禁煙補助用ニコチン製剤摂取時の心拍数増加を含む、請求項1〜4のいずれか一に記載の組成物。
【請求項6】
不安定狭心症患者、心筋梗塞患者、不整脈患者、脳血管障害患者、高血圧患者、高脂血症患者、メタボリックシンドローム患者、経皮的冠動脈形成手術施行後の患者、または冠動脈バイパス手術施行後の患者である喫煙者または禁煙を意図する者に適用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載の組成物。
【請求項7】
イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを、全脂肪酸およびその誘導体中に、85重量%以上含む、医薬用である請求項1〜6のいずれか一に記載の組成物。
【請求項8】
イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを、全脂肪酸およびその誘導体中に、65〜85重量%含む、健康食品用である請求項1〜6のいずれか一に記載の組成物。
【請求項9】
イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを0.3〜6g/日で経口投与される、請求項1〜8のいずれか一に記載の組成物。
【請求項10】
ニコチン製剤の摂取期間中に併用投与される、請求項3〜9のいずれか一に記載の組成物。
【請求項11】
ニコチン製剤の摂取に先立つ少なくとも2週間以上前から投与される請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
イコサペント酸エチルエステルを有効成分として含有する、請求項1〜11のいずれか一に記載の組成物。
【請求項13】
さらにニコチンを含有する請求項3〜12のいずれか一に記載の組成物。
【請求項14】
請求項3〜12のいずれか一に記載の組成物と、禁煙補助用ニコチン製剤を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−111662(P2010−111662A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233998(P2009−233998)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000181147)持田製薬株式会社 (62)
【Fターム(参考)】