説明

嗜好性飲料抽出フィルター用ポリエステルフィラメント

【課題】本発明の目的は織物での成形性に優れた嗜好性飲料抽出フィルター用ポリエステルフィラメントを提供することにある。
【解決手段】同心円芯鞘断面形状を有する芯鞘構造フィラメントであって、芯成分ポリマーの融点が250〜260℃の範囲にあるポリエチレンテレフタレートホモポリマーからなり、鞘のポリマーの融点が180℃〜200℃、軟化点が155〜175℃の範囲にある、イソフタル酸を20モル%以下の割合で共重合したポリブチレンテレフタレートコポリマーからなり、芯部と鞘部の重量比が85:15〜60:40である芯鞘構造フィラメントとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は嗜好性飲料抽出フィルター用ポリエステルモノフィラメントに関する。さらに詳しくは、織物での成形性に優れた嗜好性飲料抽出フィルター用ポリエステルモノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、嗜好性飲料抽出フィルター、特に紅茶等に使用される嗜好性飲料抽出フィルターは紙やポリプロピレン又はポリエチレンの不織布が主流として用いられているが、近年の傾向としては、嗜好性飲料抽出バッグ中の紅茶の葉が見える事による高級感思考として織物の嗜好性飲料抽出バッグの要求が増えてきている。織物の構成としては嗜好性飲料抽出バッグ中の紅茶の葉が見え易く、中の葉が外に出ないという目的でモノフィラメントを平織りにしたシャー織物が主流である。
【0003】
織物の嗜好性飲料抽出バッグに用いられる嗜好性飲料抽出フィルターの素材繊維としてはナイロンが主流であり、ナイロン繊維からなる抽出用フィルター或いは抽出用バッグは立体形状の保持性に優れ、また変形した場合の弾性回復力にも富んでいて、織物の柔らかさの点での風合いに優れている。しかし、ナイロン繊維からなる抽出用バッグは熱湯中でのナイロン繊維の膨潤による抽出用バッグの寸法変化や嗜好性飲料成分の吸収による色調変化、抽出後容器からナイロン抽出バッグを取り出す際の液切れが悪い事、まはた、ナイロンの比重が高い事による熱湯中での抽出用バッグの沈降性の悪さなどが以前から指摘されていた。こういったナイロン繊維の問題点を改善する目的で、ポリエステル繊維による嗜好性飲料抽出フィルターなどが研究されてきており、特許第3459951号公報では融点差が100℃以上ある芯・鞘2重構造を有するポリエステル系繊維からなる織物の嗜好性飲料抽出フィルターが提案されている。しかし溶着成型する際に鞘成分のポリエステルコポリマーの結晶性が低いため、融点ピーク温度に対して低い温度で溶着が発生することによりエンボスローラーが汚れたりシートが捲きついたりするという問題があった。
【0004】
又特開平9−268434号公報ではイソフタル酸を芯成分、鞘成分に共重合した芯鞘複合繊維が提案されている。ティーバック用湿式不織用バインダー用として他の短繊維と混用する場合有用ではあるが単独で用いることはできない。
更に特開平9−13228号公報にはポリエチレンテレフタレートを主体とする芯成分と長鎖脂肪族ジカルボン酸を共重合したポリエステルを鞘成分に用いた複合繊維を用いることが提案されている。この場合も加熱エンボスロールでヒートシールする場合鞘成分がエンボスロールに融着するという問題点がある。
【0005】
【特許文献1】特許第3459951号公報
【特許文献2】特開平9−268434号公報
【特許文献3】特開平9−13228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的はヒートシール性が良く、且つシートの厚さ調整や意匠加工に用いる熱エンボスロールからの剥離性の良い、嗜好性飲料抽出フィルター用ポリエステルモノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。まず、嗜好性飲料抽出フィルター用織物に使用されるモノフィラメントは同心円芯鞘断面形状を有する芯鞘構造複合繊維であって、芯の成分がポリマーの融点が250〜260℃の範囲にあるポリエチレンテレフタレートホモポリマーからなり、鞘の成分が融点が180℃〜200℃、軟化点が155〜175℃の範囲にあるイソフタル酸を特定量共重合したポリブチレンテレフタレートコポリマーからなる芯鞘構造複合繊維であり、芯部と鞘部の重量比が85:15〜60:40であるモノフィラメントとする。
【発明の効果】
【0008】
鞘の成分として融点が180℃〜200℃、軟化点が155〜175℃の範囲にあるイソフタル酸を特定量共重合したポリブチレンテレフタレートコポリマーとすることにより、本発明のモノフィラメントからなる織物フィルターのヒートシール性と意匠等に使用する熱エンボスロールから織物フィルターの剥離性が大幅に向上し、生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ホモポリエステル繊維からなるフィルターはナイロン繊維からなるフィルターと比べて織物での抽出用バッグを形成する際に用いられる超音波シール法またはヒートシール法による溶着性が乏しく、また一旦溶着しても剥離し易い難点があり、これが従来この分野でポリエステル繊維が多く使用されていない理由でもあった。
【0010】
しかし、本発明の芯鞘構造複合繊維の通り、融点が180℃〜200℃、軟化点が155〜175℃の範囲になるようイソフタル酸をポリマー酸成分の20%モル%以下の割合で共重合させたポリブチレンテレフタレートコポリマーを鞘成分に用いることにより熱溶着性が向上し、超音波シール法等による加工性がナイロン繊維とほぼ同程度に高く出来ると共に、熱エンボスローラー等による加工後、冷却によりすばやく固化しローラーからの剥離性が向上し、溶着して巻き付く等の問題が解決できることを見出した。
【0011】
鞘成分のポリブチレンテレフタレートコポリマーの融点が200℃を超える場合、超音波シール法またはヒートシール法による溶着性が乏しく、また一旦溶着しても剥離し易い為、抽出バックを形成する際のシール部にて糸の解れが発生し抽出用バッグとして使用出来ない。逆に鞘成分のポリブチレンテレフタレートコポリマーの融点が180℃未満の場合、超音波シール法またはヒートシール法による溶着性は高く、一旦溶着した後も剥離し難いが、繊維の強度が弱く、分繊工程での糸切れが多くなり工程通過性が悪くなる。鞘成分のポリマー融点は好ましくは180℃〜190℃である。
【0012】
鞘成分ポリマーの軟化点として、175℃を超える場合エンボスセット性が低下し、155℃未満であるとエンボスロールに巻き付き易くなるので好ましくない。好ましくは160〜170℃である。
【0013】
また芯部と鞘部の重量比が85:15〜60:40であることが重要である。鞘比率が15%未満の場合、芯成分を覆うことができない場合があり、超音波シール法またはヒートシール法による溶着性が悪くなり、また一旦溶着しても剥離し易い為、抽出バックを形成する際のシール部にて糸の解れが発生し抽出用バッグとして使用出来ない。鞘比率が40%を超える場合、超音波シール法またはヒートシール法による溶着性は高く、一旦溶着した後も剥離し難いが、繊維の強度が弱く、分繊工程での糸切れが多くなり工程通過性が悪くなる。芯部と鞘部の重量比は好ましくは80:20〜70:30である。
【0014】
次に、本発明の芯鞘複合繊維の伸度は20〜50%であることが重要である。伸度が20%未満であると紡糸工程での糸切れや分繊工程での糸切れが多くなり工程通過性が低下する。また、50%を超えると延伸斑による未延伸部分が発生し、その部分が分繊工程での糸切れの要因となり工程通過性が低下する。伸度は25〜40%が好ましい。
【0015】
本発明により製造される芯鞘構造繊維の単糸繊度は10〜40dtexであることが重要であり、10dtex未満であれば分繊が難しくなり、逆に40dtexを超える場合は巻き取り中にパッケージの型崩れや綾外れが発生して工程通過性が著しく悪くなる。
又本発明の芯鞘構造繊維はマルチフィラメントとして製造されその後分繊されるが、その際マルチフィラメント糸の単糸数は、4〜20本であることが分繊性及び分繊工程での工程通過性を確保する観点から好ましい。
【0016】
本発明の芯鞘複合繊維において、芯成分のポリエチレンテレフテレートであれ、鞘成分のポリブチレンテレフタレートであれ、ポリエステルの固有粘度(ο−クロロフェノール、35℃)は、0.60〜1.20の範囲にあることが好ましく、特に0.70〜1.00の範囲が好ましい。固有粘度が0.60未満であると、繊維の強度が不足するため好ましくない。他方、固有粘度が1.20を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0017】
本発明における芯鞘複合繊維は、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んでいてもよい。
【0018】
本発明の芯鞘複合繊維の分繊用マルチフィラメントの製造方法は、特に規定されるものではないが、図1に示すように、紡糸口金より吐出した溶融マルチフィラメントを、紡糸口金直下に設けた50〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ50〜200mmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、オイリングローラーにてモノフィラメントの状態でオイリングを施した後にマルチフィラメントの状態にして70℃〜120℃に加熱した第一ローラーで500〜2000m/minにて巻き付け、次に巻き取ることなく130〜160℃に加熱した第二ローラーに巻き付け、第一ローラーと第一ローラーより速度を速めた第二ローラーの間で2.0〜5.0倍に延伸し、第二ローラーよりも低速で巻き取って得られる。
【0019】
本発明の分繊用ポリエステルマルチフィラメントはそのまま分繊して使用されたり仮撚り加工を施して捲縮を付与した後に分繊して使用される。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)繊維中の比重5.0以上の金属成分定性分析、真比重5.0以上の金属元素の含有量
繊維サンプルを硫酸アンモニウム、硫酸、硝酸、過塩素酸とともに混合して約300℃で9時間湿式分解後、蒸留水で希釈し、理学製ICP発光分析装置(JY170 ULTRACE)を用いて定性分析し、比重5.0以上の金属元素の存在の有無を確認した。1重量ppm以上の存在が確認された金属元素について、その元素含有量を示した。
(2)伸度
JIS−L−1013に基づいて定速伸長引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
(3)固有粘度
ポリエステルポリマーの固有粘度は、オルソクロロフェノール溶液について、35℃において測定した粘度の値から求めた。
(4)分繊断糸率(%)
分繊用ポリエステルマルチフィラメントを巻き取った10kg巻ドラム状パッケージを、単糸1本1本に糸切れなく分繊速度500m/分にて分繊できた分繊用マルチフィラメントの割合を満管率(%)で表す。なお、分繊されたモノフィラメントの巻量は1kg巻とする。合否判定基準は70%以上を合格とした。
(5)ポリマーの融点、軟化点
示差走査熱量計(セイコーインスツルメント社性DSC:Q10型)を用いて、昇温速度=20℃/minで測定した。
【0021】
[実施例1]
重合触媒としてチタン化合物としてトリメット酸チタンを5mmol%及びリン化合物としてトリエチルホスホノアセテートを30mmol%含有し固有粘度0.650、融点256℃のポリエチレンテレフタレートペレットをホモポリマーAとし、イソフタル酸をポリマー酸成分の20mol%の割合で共重合させた固有粘度0.85、融点185℃、軟化点160℃のポリブチレンテレフタレートペレットをコポリマーBとし、それぞれ140℃で5時間乾燥した後、吐出孔5ホールが同心円状に配列してある紡糸口金から、ポリマー吐出温度280℃とし、単一吐出孔での吐出量が8.0g/分となるように押し出して、モノフィラメントの状態でオイリングをおこない、2つの紡糸口金から吐出されたモノフィラメントを合糸して10本のマルチフィラメントとして、100℃に加熱した第一ゴデットローラーで16ターンさせ700m/分で引き取りつつ第一ローラーの4.4倍の速度で第二ゴデットロールに10ターンさせ10本のマルチフィラメントを巻き取った後、分繊を行い、得られたモノフィラメントで平織物[タフタ、27dTexモノフィラメント、打込数(97×97/inchi)]とし、精錬を行った後、水洗い乾燥後、テンションをかけた状態で加熱空気中(185℃)で熱処理し糸の交点に軽い溶着を付与させたて得られた平織物を超音波シール法より抽出バッグを形成した。この条件で巻き取られた平織物はエンボスローラーによる意匠性を出す為の熱溶着性、工程通過性も良好であり、織物の風合いも柔らかく、抽出バック形成時の超音波シール性も良好で、嗜好性飲料抽出フィルターまたは抽出バッグに適したものであった。
【0022】
[比較例1]
実施例1のコポリマーBをイソフタル酸及びテレフタル酸をポリマー酸成分の20mol%の割合で共重合させた固有粘度0.65、融点187℃、軟化点130℃のポリエチレンテレフタレートペレットからなる同心円芯鞘断面形状を有する芯鞘構造複合繊維を経糸及び緯糸共に使用した以外は実施例1と同じ条件で抽出バッグを形成した。
【0023】
[比較例2]
実施例1のコポリマーBをイソフタル酸をポリマー酸成分の25mol%の割合で共重合させた固有粘度0.85、融点165℃、軟化点135℃のポリブチレンテレフタレートペレットからなる同心円芯鞘断面形状を有する芯鞘構造複合繊維を経糸及び緯糸共に使用した以外は実施例1と同じ条件で抽出バッグを形成した。
【0024】
[比較例3]
実施例1のコポリマーBを固有粘度0.85、融点223℃、軟化点215℃のポリブチレンテレフタレートペレットからなる同心円芯鞘断面形状を有する芯鞘構造複合繊維を経糸及び緯糸共に使用した以外は実施例1と同じ条件で抽出バッグを形成した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1からも明らかなように鞘ポリマーのポリブチレンテレフタレートの融点が185℃の同心円芯鞘断面形状を有する芯鞘構造複合繊維を使用した実施例1の織物は熱処理(190℃)での織物の交点溶着性やエンボスロールでの工程通過性、抽出バッグ形成時の超音波シール性も良好であるものであった。鞘ポリマーとして融点が187℃のイソフタル酸20mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを使用した比較例1、及びポリブチレンテレフタレートにイソフタル酸共重合量を25%とした比較例2の織物はポリマー融点は適正範囲であり、熱処理(比較例1;190℃、比較例2;170℃)での織物の交点溶着性や超音波シール性も良好であるが、軟化点が低下しているため、エンボスロールでの融着、巻き込まれによる工程通過性が著しく悪く嗜好性飲料抽出フィルター用織物として汎用性のあるものではなかった。比較例3の織物はポリマー融点が高く、熱処理(200℃)での織物の交点溶着性や超音波シール性が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のポリエステルフィラメントは、結晶性の優れたポリブチレンテレフタレートコポリマーを芯鞘構造複合繊維の鞘ポリマーに使う事により熱接着性と保型性に優れ、織物嗜好性飲料抽出フィルターとして特に紅茶等に使用される抽出バッグとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を実施する紡糸機の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0029】
1:紡糸口金
2:オイリングローラー
3:糸分けガイド
4:第一ゴデットローラー
5:第一セパレートローラー
6:第二ゴデットローラー
7:第二セパレートローラー
8:巻き取り機
9:マルチフィラメントパッケージ
10:保温領域
11:冷却風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊維を構成するポリマー成分の少なくとも60重量%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成され、単糸繊維軸に直交する断面の芯成分と鞘成分が同心円形状を有する芯鞘構造複合繊維からなるフィラメントであって、下記要件を満足することを特徴とする嗜好性飲料抽出フィルター用ポリエステルモノフィラメント。
a)芯成分ポリマーの融点が250〜260℃の範囲にあるポリエチレンテレフタレートのホモポリマーからなること。
b)鞘成分ポリマーの融点が180〜200℃、軟化点が155〜175℃の範囲にあるイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートであり、イソフタル酸の共重合量がポリブチレンテレフタレート全酸成分に対して20モル%以下であること。
c)芯部と鞘部の重量比が85:15〜60:40であること。
【請求項2】
単糸繊維を構成するポリマー成分の少なくとも60重量%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成され、単糸繊維軸に直交する断面の芯成分と鞘成分が同心円形状を有し、下記要件を満足する芯鞘構造複合繊維マルチフィラメントを分繊して得られる嗜好性飲料抽出フィルター用ポリエステルモノフィラメント。
a)芯成分がポリマーの融点が250〜260℃の範囲にあるポリエチレンテレフタレートのホモポリマーからなること。
b)鞘成分がポリマーの融点が180℃〜200℃、軟化点が155〜175℃の範囲にあるイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートであり、イソフタル酸の共重合量が全酸成分に対して20モル%以下であること。
c)芯部と鞘部の重量比が85:15〜60:40であること。
d)マルチフィラメントの単糸繊度が10〜40dtex、フィラメント数が4〜20本、伸度が20〜50%であること。

【図1】
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【公開番号】特開2009−5911(P2009−5911A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170306(P2007−170306)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】