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嘔吐型Bacilluscereusの迅速検出法
説明

嘔吐型Bacilluscereusの迅速検出法

【課題】嘔吐毒を産生するB. cereusのみを確実に検出・同定できる迅速法の開発。
【解決手段】B. cereusの中でも嘔吐毒を産生する菌株が有する嘔吐毒合成酵素遺伝子のDNAの塩基配列を同定し、当該領域の塩基配列から見出した当該領域を標的とした、特異的かつ簡便、迅速なPCRによる嘔吐毒合成酵素遺伝子を保有するB. cereus菌株検出に有用なプライマーセットを用いたPCR解析。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嘔吐型Bacillus cereusの迅速検出法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Bacillus cereusは、人や動物の生活環境を含む自然界に広く分布しており、人や動物の日和見感染症、人の食中毒、食品の腐敗・変敗の原因菌である。本菌による食中毒の発生は細菌性食中毒の中では多い方ではないが、毎年発生している。動物に対しては、B. cereusの自然感染によるウシの乳房炎や流産例なども報告されている。このため本菌は、原料乳や液卵などからも検出されることがあり、低温性のB. cereusも存在するため、乳および卵製品の安全性確保において問題となっている。
本菌は、Bacillus属の中でも大型で、類縁菌としてB. anthracis、B. thuringiensis があるが、特にB. thuringiensisとは形態学的にも生化学的性状にも同一なため、細菌の分類に広く利用されている16SリボソームRNAの塩基配列分析では両菌を区別できない。このため一般的なB. cereusの検出法としては、ポリミキシンBを用いて他の細菌の増殖を抑制し、卵黄反応(卵黄に対するレシチナーゼの作用)を指標として集落の判定を行う培養法があるが、B. thuringiensisにも卵黄反応陽性株は多数存在する。
【0003】
B. cereusの迅速検出法としては、増菌培養後、DNAジャイレース遺伝子のB. cereus特異的な領域のPCRによる増幅検出法(例えば、非特許文献1参照)、ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC遺伝子増幅による検出法などがこれまでに報告されているが、B. cereusでも検出できない菌株が存在したり、B. thuringiensis菌株が検出されるなど、B. cereusのみを確実に検出できる迅速法は無かった。本発明者らも、B. cereus特異的ゲノムDNAから得られたRAPD分析用のオリゴヌクレオチドプライマーを用いたB. cereusの検出法を発明している(特許文献1参照)。
Bacillus cereusによる食中毒は臨床症状や潜伏時間の違いから、「下痢型」と「嘔吐型」の2つに分類される。これらの食中毒の原因となる物質は、本菌が産生する菌体外毒素である下痢原性毒素 (エンテロトキシン) および嘔吐毒素 (セレウリド) であると考えられている。下痢型食中毒の原因となるエンテロトキシンについては研究が進んでおり、現在、サンドイッチELISA法や、ラテックス凝集反応などの免疫学的試験による検出法のキットが市販されており、利用されている。また、エンテロトキシン本体についてすでに遺伝子がクローニングされているものもあるため、それらの遺伝子検出用プライマーセットを用いたPCRによる検出法の開発もされてきている。一方、嘔吐毒の検出法は生化学的試験によるものが主で、現在,嘔吐毒がHEp-2細胞およびIntestine407細胞に引き起こす空胞化試験による検出法、また,嘔吐毒による豚の精子の運動阻害やミトコンドリアの破壊現象の観察などが行われている。しかし、これらの方法は操作が煩雑で判定までに少なくとも2〜3日を要する。さらに、セレウリドの合成経路や作用機序などは明らかにされていない。嘔吐毒を産生するB. cereusのみを確実に検出・同定できる迅速法はない。
【特許文献1】特開2004−57202号公報
【非特許文献1】Yamada, S et al.:Appl. Environ. Microbiol., 65:1483-1490(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする課題は、嘔吐毒を産生するB. cereusのみを確実に検出・同定できる迅速法の開発である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
B. cereusの中でも嘔吐毒を産生する菌株が有する嘔吐毒合成酵素遺伝子のDNAの塩基配列を同定することにより、当該領域の塩基配列から、当該領域を標的とした、特異的かつ簡便、迅速なPCRによる嘔吐毒合成酵素遺伝子を保有するB. cereus菌株検出に有用なプライマーセットを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は
[1] Bacillus cereusゲノムDNAを鋳型に配列番号1及び2、又は配列番号1及び3で示される塩基配列のうち少なくとも1つのPCRプライマーの組合わせでPCR増幅を行い、嘔吐毒産生Bacillus cereusにのみ出現する増幅産物から単離された、嘔吐毒産生Bacillus cereus検出マーカーとして有用な嘔吐毒産生Bacillus cereus特異的ゲノムDNA断片、
[2] 配列番号4および/または5のヌクレオチド配列を有する、前記[1]記載のゲノムDNA断片、
[3] 配列番号4および/または5のヌクレオチド配列から得られる20〜25塩基からなる嘔吐毒産生Bacillus cereus検出用PCRプライマー、
[4] 配列番号6および/または7のヌクレオチド配列を有する、前記[3]記載の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出用PCRプライマー、
[5] 配列番号1〜3のうち少なくとも1つのPCRプライマーを用いたRAPD法による検体中の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出方法、
[6] 前記[3]または[4]記載のPCRプライマーを用いたPCR法による検体中の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出方法、
[7] 前記[5]記載のPCRプライマーを有する検体中の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出キット、
[8] 前記[6]記載のPCRプライマーを有する検体中の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出キット、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、PCRによりB. cereusの有する嘔吐毒合成酵素遺伝子を検出するので、特異的かつ迅速に検出できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
嘔吐毒セレウリド {Cereulide:分子量1,191.642、分子式C57H96N6O18} は (D-O-Leu-D-Ala-L-O-Val-L-Val-)3の構造を示す環状のdodecadepsipeptideであり、この構造がStreptmyces fluvissimusの産生するValinomycin (L-O-Ala-L-Val-D-O-Val-D-Val-)3と類似していることが報告されている。また、Valinomycinはnon-ribosomal peptide合成系 (Weber and Marahiel, 2001) を介して合成されることが推定されており、セレウリドも同様に本合成系で合成されると推測される (Agata et al., 1988 ; Jack and Jung, 1998)。
non-ribosomal peptide合成系で合成される、比較的セレウリドと構造の類似している構造既知の、抗菌性ペプチド合成酵素には以下のものがある.[Fig.2-1: Br. brevisの産生する抗菌性ペプチド、Gramicidin S {c(D-Phe-L-Pro-L-Val-L-Orn-L-Leu-)}およびTyrocidine A {c(D-Phe-L-Pro-L-Phe-D-Phe-L-Asn-L-Gln-L-Val-L-Orn-L-Leu-)} 、B. subtilisの産生するSurfactin] (Agata et al., 1994 ; Kleinkauf and Dohren, 1990 ; Carrillo et al., 2003) これら既知ペプチド合成酵素の共通アミノ酸配列をもとに嘔吐毒合成酵素遺伝子増幅用のプライマーを設計する。これらのプライマーを用い、ゲノムDNAおよびプラスミドDNAを鋳型としてPCRによるセレウリド産生株を特異的に検出するプライマーセットを選択する。
これらのプライマーセットで増幅されるDNAの塩基配列を決定し、この塩基配列をさらに特異的に増幅するためのプライマーセットを設計する。このプライマーセットで増幅されるゲノムDNA領域はB.cereusの中でも嘔吐毒産生株のみに特異的で,嘔吐毒合成酵素遺伝子を保有しないB.cereusおよびB.cereus以外のBacillus属細菌種には存在せず、特異的であるといえる。
さらに,決定された塩基配列を有するDNAをジゴキシゲニンなどで標識したDNA断片をプローブとしてB.cereusゲノムDNAの制限酵素処理断片中から、当該プローブとハイブリダイズするゲノムDNA断片を検出し、クローニングして、塩基配列を決定する。さらにこの決定された塩基配列を有するDNAをジゴキシゲニンなどで標識したDNA断片をプローブとしてB.cereusゲノムDNAの制限酵素処理断片中から、当該プローブとハイブリダイズするゲノムDNA断片を検出し、塩基配列を決定する。これにより、嘔吐毒合成酵素遺伝子全塩基配列を決定する。
このセレウリド合成酵素遺伝子の塩基配列中から、この遺伝子を特異的に増幅するためのプライマーセットを設計する。このプライマーセットで増幅されるゲノムDNA領域はB.cereusの中でも嘔吐毒産生株のみに特異的で、嘔吐毒合成酵素遺伝子を保有しないB.cereusおよびB.cereus以外のBacillus属細菌種には存在せず、特異的である。
【実施例】
【0009】
以下、本発明を実施例により説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] 嘔吐毒合成酵素遺伝子増幅用プライマーの設計と解析
1.嘔吐毒合成酵素遺伝子増幅用プライマーの設計
セレウリドと構造が比較的類似しており、合成酵素遺伝子が既知な抗菌性ペプチド、Gramicidin SとTyrocidine AさらにSurfactinのアミノ酸配列に注目して、表1に示すようなプライマーを作製した。まず、GenomeNet [http://www.genome.ad.jp/] のSwissProt TrEMBLよりGramicidin S synthetase, Tyrocidine A synthetaseおよびSurfactin synthetaseの塩基配列を検索した。各酵素におけるcondensation (C) domain, amino acid activating (A) domain, peptidyl carrier protein (PCP) domainのアミノ酸配列ついて、Mac Vectorを用いてアライメントを行い、共通アミノ酸配列を見出し、これらの配列を基にB. cereusのコドン表を用いて、以下のようなプライマーを設計した。
1) Val-F, 2) Val-R, 23) Val-2Fは、Gramicidin S synthetase IIとTyrocidine A synthetase IIIにおける、ValのA domainの共通アミノ酸配列をもとに作製した。3) Leu-F, 4) Leu-Rは、Gramicidin S synthetase IIとTyrocidine A synthetase IIIにおける、LeuのA domainの共通アミノ酸配列をもとに作製した。5) Val・Leu-F, 6) Val・Leu-R, 9) GT-F, 19) Val・Leu-2Rは、Gramicidin S synthetase IIとTyrocidine A synthetase IIIにおけるValおよびLeuのA domainの共通アミノ酸配列をもとに作製した。7) ER-1, 8) ER-2, 22) EF-1は、Gramicidin S synthetase I, Tyrocidine A synthetase IおよびIIのD-Phe-activating domainの下流部位に見出される共通アミノ酸配列をもとに作製した。10) GT-thio-1F, 11) GT-thio-1R, 12) GT-thio-2RはGramicidin S synthetase IIおよびTyrocidine synthetase IIIのL-Leu activating domainの下流部位に見出される共通アミノ酸配列をもとに作製した。13) Tyr-Ala-1F, 14) Tyr-Ala-1R, 15) Tyr-Ala-2F, 16) Tyr-Ala-2Rは全塩基配列が既知のB. cereus ATCC 14579のD-Ala-activating enzymeとGramicidin S synthetase IIおよびTyrocidine A synthetase IIIのA domainの共通アミノ酸配列をもとに作製した。17) Conden-1F, 18) Conden-1RはGramicidin S synthetase IIのL-Val, L-Orn, L-LeuのC domainの共通アミノ酸配列をもとに作製した。20) Val・Leu-3R, 21) Val・Leu-4Rは、Gramicidin S synthetase II、Tyrocidine A synthetase IIIおよびSurfactin synthetase I、IIにおける、ValとLeu (L-LeuおよびD-Leu) のA domainの共通アミノ酸配列をもとに作製した。
また、既知のthioesteraseのアミノ酸配列 (E. coli, B. cereus, Br. brevis, B. licheniformis, B. subtilisのthioesterase 共通アミノ酸配列) をもとに24) thioE-F, 25) thioE-1F, 26) thioE-2F, 27) thioE-R, 28) thioE-3R, 29) thioE-4Rを作製する。
これらのプライマーを用いて,嘔吐毒生産株として,B. cereus No.55,B. cereus K,B. cereus K-E,B. cereus K-F,B. cereus BC20,B. cereus BC21,B. cereus BC22,B. cereus BC23,B. cereus BC24, B. cereus BC25, B. cereus BC26,B. cereus BC27,嘔吐毒非生産株として,B. cereus JCM 2152および乳製品および製造ラインから分離されたB. cereus株52株から調製したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。
【0010】
2.動物細胞空砲化試験による嘔吐毒(セレウリド)検出法
HEp-2細胞を用い、Agataらの方法で行った。
【0011】
3.ゲノムDNAの調製
細菌ゲノムDNAは最適な条件で培養して得た菌体からDNeasy Tissue Kit(QIAGEN)および、Cetyltrimetylammoniumbromide (CTAB) 法により調製した。
【0012】
4.B. cereusプラスミドDNAの調製
セレウリド産生B. cereus株およびセレウリド非産生B. cereus株についてAgataらの方法に従ってプラスミド調製を行った (Agata et al., 1988)。
【0013】
5.PCR
アニーリング温度、鋳型量、酵素の種類 (Taq DNA polymerase [SIGMA], KOD Dash [ToYoBo] ) について検討し、表1で示すプライマーを使用し、ゲノムDNAおよびプラスミドDNAを鋳型として推定される全プライマーの組み合わせでPCRを行う。以下に酵素別のPCR反応液組成およびPCR反応条件を示す。
【0014】
【表1】

【0015】
「Taq DNA polymeraseを使用する場合」
反応液組成
10×PCR Buffer [SIGMA] 1.5 μl
10 mM dNTPs [SIGMA] 0.3 μl
20 pmol/μl primer (Foward) 0.3 μl
20 pmol/μl primer (Reverse) 0.3 μl
32 ng/μl ゲノムDNAまたは、
プラスミドDNA 1.5 μl
5 U/μl Taq DNA polymerase [SIGMA] 0.09 μl

上記の反応液を0.2 mlマイクロチューブに取り、総量が15 μlになるように滅菌水を加え、ThermoHybaid PCR ExpressTM [ThermoBioAnalysis]およびTaKaRa PCR Thermal Cycler Dice Model TP600 [TaKaRa] を用いて以下の条件でPCRを行った。

反応条件
DNAの熱変性 : 95℃, 1.0 min
アニーリング : X℃, 1.0 min
伸長反応 : 72℃, 1.5 min
上記の反応を30〜40サイクル行った。

「KOD Dashを使用する場合」
反応液組成
KOD Dash 10×PCR Buffer [ToYoBo] 1.5 μl
2 mM dNTPs [ToYoBo] 1.5μl
20 pmol/μl primer (Foward) 0.3 μl
20 pmol/μl primer (Reverse) 0.3 μl
32 ng/μl ゲノムDNAまたは
プラスミドDNA 1.0 μl
2.5 U/μl KOD Dash [ToYoBo] 0.075 μl

上記の反応液を0.2 mlマイクロチューブに取り、総量が15 μlになるように滅菌水を加え、TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice Model TP600を用いて以下の条件でPCRを行った。

反応条件
DNAの熱変性 : 94℃, 30 sec
アニーリング : X℃, 2 sec
伸長反応 : 72℃, 60 sec
上記の反応を30サイクル行った。

これにより増幅されるDNAはアガロースゲル電気泳動により分離し,エチジウムブロマイドなどで検出した。

「結果」
ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った結果、(Tyr-Ala-2F:配列番号3)-(ER-2:配列番号1) (推定増幅サイズ:約1100 bp,図1) 、(Tyr-Ala-1F:配列番号2)-(ER-2) (推定増幅サイズ:約2200 bp,図2) のプライマーセットでは、目的サイズのセレウリド産生性B. cereus特異的PCR産物が得られた。(Tyr-Ala-2F)-(ER-2) プライマーセットで増幅された断片は、Taq DNA polymerase を使用し、95℃で5 minの熱変性後、95℃で1 minの熱変性、46℃で1 minのアニーリング、72℃で1 minの伸長反応からなる40サイクルの反応により得られた。(Tyr-Ala-1F)-(ER-2) プライマーセットで増幅された断片は、KOD Dashを使用し、95℃で3 minの熱変性後、94℃で30 secの熱変性、50.4℃で2 secのアニーリング、74℃で1 minの伸長反応からなる30サイクルの反応により得られたものであった 。
[実施例2]
【0016】
B. cereusは複数の大きなサイズのプラスミドを保有している。これらプラスミドは調製したゲノムDNA中にも混入している。そこでPCR産物の鋳型の由来を明らかにするため、(Tyr-Ala-1F)-(ER-2) (約2200 bp) プライマーセットを用いて増幅されたPCR産物をプローブとして、セレウリド産生性B. cereusおよび非産生性B. cereusのゲノムDNAおよびプラスミドDNAについて以下に記載する方法でサザン分析を行った。その結果、セレウリド産生性B. cereusのゲノムDNAとのみ強くハイブリダイズしたことから、本プライマーセットで増幅された領域はゲノムDNA由来であることが確認された (図3) 。また、セレウリド非産生性B. cereus 11のゲノムDNAに、(Tyr-Ala-1F)-(ER-2) プライマーセットを用いて増幅される領域があることが確認された。

1.ジゴキシゲニンによるDNAの標識
プライマーセット (Tyr-Ala-2F)-(ER-2) で増幅されたセレウリド産生株特異的PCR産物をDIG DNA Labeling Kit [Roche] を用いて、ジゴキシゲニンで標識した。まず、PCR産物を1.0 %アガロースゲル/TAE bufferを用いて、TAE buffer中で電気泳動した。目的サイズのバンドを切り出し、MinElute Gel Extraction Kit [QIAGEN] で精製した。次にこのDNA溶液 (0.01〜3 μg) を0.2 mlのマイクロチューブに移し、滅菌水を加え総量が15 μlとなるようにして、95℃で10 min熱変性後、急冷した。これに、2 μlのHexanucleotide Mix,10× (Kit) 、2 μlのdNTP Labeling Mix (Kit) および1 μlのKlenow enzyme labeling grade (Kit) を添加し、37℃で16 hrインキュベートした。2 μlの0.2 M EDTA (pH 8.0) を加え、さらに65℃で10 min加熱し反応を停止させたものをプローブとした。
2.サザンブロッティング
CTAB法により調製したセレウリド産生株および非産生株の各ゲノムDNAを、1.0%アガロースゲル/TAE bufferを用いてTAE buffer中で電気泳動した。ゲルを純水ですすぎ、加水分解液 (0.25 M HCl) 中で20 min振とうした。このゲルを変性溶液 (0.5 M NaOH, 1.5 M NaCl) 中でさらに30 min振とうした。次に0.4 M NaOH中で10 min浸とうし、アルカリ変性を行った。Hybond-N+ [Pharmacia Biotech] をバキュームトランスファー装置 [Bio CRAFT] にセット後、その上にアルカリ変性させたゲルをのせた。さらにゲルの上に0.4 M NaOHをしみ込ませた海綿をのせ、その上から0.4 M NaOHを注ぎ、5〜7 cmHgで吸引し、90 minアルカリブロッティングした。ブロッティング終了後、ナイロン膜に対して2×SSC (0.3 M NaCl, 0.03 M C6H5O7Na3・2H2O) による3 minの洗浄を3回行った。
3.ハイブリダイゼーション
ハイブリ容器にブロッティングした膜を入れ、予め68℃に保温しておいた15 mlのHybridization buffer {5×SSC, 0.5% (w/v) Blocking Reagent [Roche] , 0.1% (w/v) N-Lauroylsarcosine Sodium Salt [ナカライテスク] , 0.02% (w/v) SDS} を加え、回転式ハイブリオーブン [Lab-Line Instruments] (68℃) を用いて、4 hrインキュベートした。これに95℃で10 min熱変性後、急冷したプローブ溶液1〜3 ml (上述のプローブ1 μl / 15 ml Hybridization buffer) を加え、68℃で16 hrインキュベートしてハイブリダイゼーションを行った。
4.免疫学的検出
膜をプラスチックタッパーに移し、50 mlのWash buffer 1 {2×SSC, 0.1% (w/v) SDS} で5 minの洗浄を2回行った後 、膜を回転式ハイブリオーブン (68℃) に移し、Wash buffer 2 (0.5×SSC, 0.01% SDS) で15 minの洗浄を2回行った。続いて、膜をタッパーに移して、buffer 1 {0.15 M NaCl, 0.1 M Tris-HCl (pH 7.5) } で膜を1 min洗浄し、50 mlのbuffer 2 (0.3 g Blocking Reagent / 50 ml buffer 1) に浸して30 min振とうした。再度buffer 1で膜を1 min洗浄した後に、膜をハイブリバッグに移し、約10 mlのAntibody solution (1.5 U Anti-Digoxigenin-AP, Fab fragments [Roche] / 10 ml buffer 1) を加え、ヒートシーラーでバッグを密封した。これを5 min振とう後、25 min静置し、続いて膜をタッパーに移し、50 mlのbuffer 1中で15 min激しく振とう (80 rpm) し、未反応の標識抗体を除去した。この操作を2回行った後、膜をbuffer 3 {0.1 M NaCl, 0.1 M Tris-HCl (pH 9.5), 0.05 M MgCl2} 中で2 min平衡化した。最後に膜をハイブリバッグに移し、これに約10 mlの発色反応液 {45 μlのNBT (75 mg/ml in 70% dimethylformamide) [ナカライテスク] , 35 μlのX-phosphate (50 mg/ml in DMF) [ナカライテスク] / 10 ml buffer 3} を加え、発色沈殿物が確認できるまで暗所でインキュベートした。適度に発色させた後、TE bufferで反応を停止させた。
[実施例3] セレウリド産生株特異的塩基配列のPCRによる検出と解析
【0017】
セレウリド産生株のみで共通に増幅されるDNA断片の配列を決定し,この塩基配列をもとに作製したプライマーセットを用い、食品由来株を含むB. cereus全72株およびB. thuringiensis全5株のゲノムDNAについて、PCRによるセレウリド産生株特異的配列の検出を行った。表2にプライマーの配列を示す。
【0018】
【表2】

【0019】
6Fおよび7Rのプライマーの塩基配列は、ゲノムDNAを鋳型としたPCRで、(Tyr-Ala-2F)-(ER-2) プライマーセットにより増幅されたセレウリド産生株特異的塩基配列2205 bpの内部配列をもとに作製した (図4) 。

反応液組成
10×PCR Buffer 1.5 μl
10 mM dNTPs 0.3 μl
20 pmol/μl primer (Foward) 0.3 μl
20 pmol/μl primer (Reverse) 0.3 μl

32 ng/μl ゲノムDNA 1.5 μl
5 U/μl Taq DNA polymerase 0.09 μl

反応条件
DNAの熱変性 : 95℃, 1.0 min
アニーリング : 52.5℃, 1.0 min
伸長反応 : 72℃, 1.0 min
上記の反応を30サイクル行った。

上記の反応液を0.2 mlマイクロチューブに取り、総量が15 μlになるように滅菌水を加え、TaKaRa PCR Thermal Cycler MPを用いてPCRを行った。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動により確認した。

1.セレウリド産生性B. cereus特異的PCR産物のクローニング
PCR産物の精製
(Tyr-Ala-2F)-(ER-2) のプライマーセットで増幅された、約1100 bpのセレウリド産生性B. cereus特異的PCR産物は、それぞれMinElute Gel Extraction Kitを用いて付属のプロトコールに従い精製した。
(Tyr-Ala-1F)-(ER-2) のプライマーセットで増幅された約2200 bpのセレウリド産生性B. cereus特異的PCR産物は、以下の方法で精製した。
まず、PCR反応液を1.0% アガロースゲル/TAE bufferを用いてTAE buffer中で電気泳動後、目的とするバンドをゲルから切り出した。底に数カ所、蓋に1箇所穴をあけた1.5 mlのマイクロチューブに切り出したゲルを入れ、これを新しい2.0 mlのマイクロチューブと重ねて、ゲルが下に落ちるまで遠心分離 (8,000 rpm, 5 min) した。これにゲルと等量のTE飽和フェノールを加えボルテックスで混合した。これを、-80℃で30 min凍結後、室温で融解させ、遠心分離 (15,000 rpm, 5 min) した。水層を新しい2.0 mlのマイクロチューブに移し、等量のTE飽和Phenol-Chloroform-Isoamylalcohol (25 : 24 : 1) (pH 7.9) 混合液を加えよく混合した。再度遠心分離 (15,000 rpm, 5 min) して、水層を新しい1.5 mlのマイクロチューブに移し、これに1/10 容量の3M CH3COONa (pH 5.2) 、等量のIsopropanolを加え遠心分離 (15,000 rpm, 20 min, 4℃) し、DNAを沈殿させた。この沈殿を70% Ethanolで洗浄した後、真空乾燥させ10 μlのTE bufferに溶解させた。

PCR産物とTベクターのライゲーション
精製した(Tyr-Ala-2F)-(ER-2) のプライマーセットで増幅された、セレウリド産生性B. cereus特異的PCR産物は、Taq DNA polymeraseで増幅したので、pGEM-T Easy Vector [Promega] を用いて、TAクローニングを行った。
精製した (Tyr-Ala-1F)-(ER-2) のプライマーセットで増幅された、セレウリド産生性B. cereus特異的PCR産物は、KOD Dashで増幅したので、以下の方法でアデニンを付加した後、Tベクターとのライゲーションを行った。

アデニン付加法 反応液組成
切り出し精製したPCR産物 1〜7 μl
10×Taq DNA Polymerase Buffer [SIGMA] 1 μl
10 mM dATP [Amersham Biosciences] 0.2 μl
Taq DNA Polymerase (5 U/ μl) [SIGMA] 1 μl

上記の反応液総量が10 μlとなるように滅菌水を加え、70℃で120 minインキュベートした。さらにこの反応液からMinElute PCR Purification Kit [QIAGEN]を用い付属のプロトコールに従いPCR産物を精製した。

ライゲーション反応液組成
2×Rapid Ligation Buffer, T4 DNA Ligase 5 μl
pGEM-T Easy Vector (50 ng) 1 μl
精製したPCR産物 X μl
T4 DNA Ligase (3 units) 1 μl
全量が10 μlになるまで滅菌水を加え、4℃で一晩インキュベートした。
(ベクターとインサートのモル比はベクター/インサート=1/1〜1/10程度)

大腸菌DH5αの形質転換
プライマーセット (Tyr-Ala-2F)-(ER-2) および (Tyr-Ala-1F)-(ER-2) で増幅されたPCR産物を含むベクターで、E. coli DH5αを形質転換した。

2.塩基配列決定と相同性検索
形質転換体を6 mlのLB/Amp brothに接種し、37℃で一晩培養した。培養液5 mlからQIAprep Spin Miniprep Kitを用いてプラスミドDNAを調製した。Thermo Sequenase Cycle Sequencing kit [Usb] およびThermo Sequenase Cy5.5 Dye Terminator Sequencing Kit [Amersham Biosciences]を用い、添付のプロトコールに従って塩基配列を決定した。

相同性検索
決定された配列についてGenomeNet (http://www.genome.ad.jp/) およびNational Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/) でBLAST programを用い相同性検索を行った。

「結果」
(Tyr-Ala-2F)-(ER-2) プライマーセットで増幅されたPCR産物の全塩基配列 (1209 bp:配列番号4) および推定されるアミノ酸配列を図4に示す。この推定アミノ酸配列について相同性検索を行ったところ、Gramicidin S synthetase I、Tyrocidine synthetse Iおよび II、Surfactin synthetase等のNon-ribosomal peptide synthetaseと高い相同性が認められた。
(Tyr-Ala-1F)-(ER-2) プライマーセットで増幅されたPCR産物の全塩基配列 (2205 bp:配列番号5) および推定されるアミノ酸配列を図5に示す。塩基配列について相同性検索を行った結果,1-721塩基の領域はBacillus cereus cereulide peptide synthase-like gene, partial sequence (全1661bp. ACCESSION No. AY576054)の715-1塩基部分と高い相同性を示した.また,推定アミノ酸配列について相同性検索を行ったところ、細菌のNon-ribosomal peptide synthetaseと高い相同性が認められた。
さらに、 (Tyr-Ala-2F)-(ER-2) プライマーセットで増幅されたPCR産物と (Tyr-Ala-1F)-(ER-2) プライマーセットで増幅されたPCR産物の塩基配列の比較により、前者は後者の内部配列であることが示された。また、(Tyr-Ala-1F)-(ER-2)で増幅されたPCR産物の配列中,両端のプライマー配列を除いた23塩基から2181塩基までの2159bpが,セレウリド産生B.cereus株に特異的なセレウリド合成酵素遺伝子の塩基配列の一部と推定される.また,722塩基から2181塩基までの1460塩基部分は,セレウリド合成酵素遺伝子塩基配列の新規決定部分と推定される。

3.推定セレウリド合成酵素遺伝子特異的プライマーセットによるPCR
(Tyr-Ala-1F)-(ER-2) プライマーセットで増幅されたPCR産物の内部配列で、セレウリド産生性B. cereusに特異的な,本研究で初めて報告された1021-2110塩基部分の1090bpを増幅させるプライマーセット (6F:配列番号6)-(7R:配列番号7) を作製した (表2) 。本プライマーセットを用いてセレウリド産生性B. cereus 12株 (図6) 、食品からの分離株を含むセレウリド非産生性B. cereus 52株 (図7) および本菌の類縁菌であるB. thuringiensis 5株 (図8) のゲノムDNAについてPCRを行った結果をそれぞれ図に示す。セレウリド産生性B. cereus全12株では、目的サイズのDNA断片が増幅された。セレウリド非産生性B. cereus においては、52株中51株ではDNA断片の増幅は確認されなかった。セレウリド非産生性の分離株 11で1090 bpのDNA断片が増幅された。このことから、分離株11はセレウリド合成に関与する遺伝子を保有しているが、発現していない可能性が考えられた。B. thuringiensisでは、全株でDNA断片は増幅されなかった。
また,図9に示すようにBacillus属以外の細菌種でも目的のバンドの増幅はみとめられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によりB.cereusゲノムDNAに特異的な嘔吐毒合成酵素遺伝子の一部と推定される領域とその塩基配列が同定された.この結果,当該塩基配列に基づいてB.cereus嘔吐毒セレウリド生産株の特異的かつ簡便迅速に検出するためのPCR用プライマーセットを設計することが可能となった.このプライマーセットを用い,種々のB.cereus菌株,B.cereus以外のBacillus属細菌種,Bacillus属以外の細菌種のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った結果,B.cereusの中でも特に嘔吐毒生産株および嘔吐毒遺伝子を有すると思われる菌株のみを特異的に検出できることが確認された.これまで,その塩基配列が未知であったために不可能であった嘔吐毒セレウリド生産株の特異的かつ迅速な検出が本発明のプライマーセットを用いたPCRにより可能となった。
本発明の嘔吐毒産生B. cereus特異的PCRプライマーセットを用いたPCRを行うことにより、検体、例えば穀類およびその加工品(焼き飯類、米飯類、麺類)、複合調理食品(弁当類、調理パン)、魚介類およびその加工品、菓子類、野菜サラダ、肉料理、魚料理、土鍋料理、あるいはスバゲティや米飯の調理・加工食品のようなデンプン食品、チーズや粉乳を加えたバニラ・スライス等における嘔吐毒産生B. cereus汚染を簡便かつ迅速に検出することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各種B.cereus菌株ゲノムDNAを鋳型として(Tyr-Ala-2F)-(ER2)プライマーセットで増幅されたPCR産物を示す図である。
【図2】各種B.cereus菌株ゲノムDNAを鋳型として(Tyr-Ala-1F)-(ER2)プライマーセットで増幅されたPCR産物を示す図である。
【図3】各種B.cereus菌株ゲノムおよびプラスミドDNAのサザン分析を示す図である。
【図4】B.cereus No.55ゲノム遺伝子を鋳型として(Tyr-Ala-2F)-(ER2)プライマーセットで増幅されたPCR産物の塩基配列と推定アミノ酸配列を示す図である。
【図5】B.cereus No.55ゲノム遺伝子を鋳型として(Tyr-Ala-1F)-(ER2)プライマーセットで増幅されたPCR産物の塩基配列と推定アミノ酸配列を示す図である。
【図6】嘔吐毒生産B.cereus株ゲノムDNAを鋳型とした(6F)-(7R)プライマーセットによる増幅を示す図である。
【図7】嘔吐毒非生産B.cereus株ゲノムDNAを鋳型とした(6F)-(7R)プライマーセットによる増幅を示す図である。
【図8】各種B.thuringiensis株ゲノムDNAを鋳型とした(6F)-(7R)プライマーセットによる増幅を示す図である。
【図9】各種細菌のゲノムDNAを鋳型とした(6F)-(7R)プライマーセットによる増幅を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bacillus cereusゲノムDNAを鋳型に配列番号1及び2、又は配列番号1及び3で示される塩基配列のうち少なくとも1つのPCRプライマーの組合わせでPCR増幅を行い、嘔吐毒産生Bacillus cereusにのみ出現する増幅産物から単離された、嘔吐毒産生Bacillus cereus検出マーカーとして有用な嘔吐毒産生Bacillus cereus特異的ゲノムDNA断片。
【請求項2】
配列番号4および/または5のヌクレオチド配列を有する、請求項1記載のゲノムDNA断片。
【請求項3】
配列番号4および/または5のヌクレオチド配列から得られる20〜25塩基からなる嘔吐毒産生Bacillus cereus検出用PCRプライマー。
【請求項4】
配列番号6および/または7のヌクレオチド配列を有する、請求項3記載の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出用PCRプライマー。
【請求項5】
配列番号1〜3のうち少なくとも1つのPCRプライマーを用いたRAPD法による検体中の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出方法。
【請求項6】
請求項3または4記載のPCRプライマーを用いたPCR法による検体中の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出方法。
【請求項7】
請求項5記載のPCRプライマーを有する検体中の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出キット。
【請求項8】
請求項6記載のPCRプライマーを有する検体中の嘔吐毒産生Bacillus cereus検出キット。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−6256(P2006−6256A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190869(P2004−190869)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】