説明

噴霧装置

【課題】薬液に充分な電荷を付与し、作物の密集した部分及び遠方の作物にまで充分な量の薬液を付着させて、薬液の散布効率を向上させることができる噴霧装置を提供する。
【解決手段】時間変化量が大きい鋸歯状波を電極4に印加し、噴射口20から霧状に噴射された液体(例えば薬液)に、作物の密集した部分及び遠方の作物に付着するのに充分な電荷を付与して、作物の密集した部分及び遠方の作物の表面を薬液にて被覆し、薬液の散布効率を向上させて、害虫を確実に駆除することができる。また一定の直流電圧をパルス電圧に変換し、更に電圧波形が鋸歯状になるようにして、電圧の時間変化量を大きくし、噴射された薬液の電荷量を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体(例えば薬液)を霧状に噴射する噴霧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場に生育している作物に、害虫による被害、いわゆる虫食いが発生した場合、作物の商品価値は大幅に低下するため、害虫を駆除すべく、薬液が作物に散布される。作物は、スイカ、イチゴ、キャベツ、ネギ及びイネなどの圃場の表面を覆うように生育する平面作物と、キュウリ、トマト及びナスなどの上方に伸びて生育する立体作物とに大別され、平面作物への薬液の散布は、一般に左右に延びた筒状のブームの下面に液体を霧状に噴射する複数の噴霧ノズルを接続した散布機によって行われる。近年では作物へ確実に薬液を付着させるために、噴射された液体に電荷を付与する構成を更に備える散布機が使用されることが多い。
【0003】
特許文献1には、薬液タンクからポンプによって圧送された薬液が通流するノズルブームと、該ノズルブームに接続された複数の噴霧ノズルと、該噴霧ノズルの先端に臨み、電荷を付与する静電付与電極とを備える静電付与式散布機が記載されており、該静電付与式散布機は、静電付与電極にパルス状の波形をなす高電圧パルスを印加するようにしてある。薬液タンクは接地してあり、噴霧ノズルから噴射されたアース電位の液体に高電圧パルスによって電荷が付与され、クーロン力によって液体は作物に誘引され付着する。また静電付与式散布機は、電圧を上昇させる昇圧変圧器を備えており、噴霧ノズルの一部を昇圧変圧器の鉄心として利用し、部品点数を節減している。
【0004】
一方、立体作物への薬液の散布は、液体が通流する管の先端に噴霧ノズルを接続した散布機によって行われることが多く、例えば特許文献2には、収容タンクからポンプによって圧送された薬液が通流する噴管と、該噴管の一端部に接続された噴霧ノズルと、該噴霧ノズルの周囲に配置された環状電極と、噴管の他端部に設けられた把持するためのグリップとを備える静電噴霧装置が記載してある。該静電噴霧装置は、環状電極に一定の直流高電圧を印加するようにしてあり、噴霧ノズルから噴射された液体に電荷が付与され、クーロン力によって液体は作物に誘引され付着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3822777号公報
【特許文献2】特開2007−222729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
平面作物、特にネギ及びイネなどの密集して生育する品種は、ノズルブームを使用した静電付与式散布機によって薬液を散布した場合、薬液の帯電量が少ないと、根本付近の密集している部分に薬液が十分に付着せず、害虫の駆除が不十分な場合がある。
一方、立体作物の場合、多数の作物を列状に生育させており、立体作物による複数の列が圃場に並んでいることが多い。前記静電噴霧装置を使用して薬液を散布する場合、ユーザはグリップを把持し、列の間を移動しながら、噴霧ノズルから噴射された薬液を両側に向けて散布する。このとき薬液の帯電量が少ない場合に、ファラデーケージ効果によって、ユーザの両側にてユーザに最接近した列における作物の表面及び葉の縁に薬液が集中し、ユーザから離れた位置にある作物の列には薬液は到達せず、散布効率が低下する。
【0007】
ところで薬液の帯電量は、電極を流れる電流Iの大きさに依存し、該電流Iは電極に印加された電圧Vの時間変化量に比例する(I=α・dV/dt、αは比例定数、tは時間)ので、一定の直流電圧よりもパルス電圧を電極に印加する方が、薬液は帯電し易いと推測される。
前述したように、特許文献2に記載の静電噴霧装置は、環状電極に一定の直流電圧を印加しているが、特許文献1に記載の静電付与式散布機のように高電圧パルスを印加することで、薬液の電荷量を増加させることができると考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の静電付与式散布機における高電圧パルスは半円状をなし、電圧Vの傾きが緩やかである、すなわち電圧Vの時間変化量が小さく、薬液の電荷量を充分に増加させることができないと考えられる。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、薬液に充分な電荷を付与し、平面作物の密集した部分及びユーザから離れた位置にある立体作物の列にまで充分な量の薬液を付着させて、薬液の散布効率を向上させることができる噴霧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る噴霧装置は、液体を霧状に噴射する噴射口を有するノズルと、前記噴射口の周囲に配置され、前記噴射口から噴射された液体に電荷を付与する電極と、該電極に印加されるべきパルス電圧を発生するパルス電圧発生手段とを備える噴霧装置において、前記パルス電圧発生手段は、鋸歯状波を発生するようにしてあることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、時間変化量が大きい鋸歯状波を電極に印加し、噴射口から霧状に噴射された液体に、作物の密集した部分及び遠方の作物に付着するのに充分な電荷を付与する。
【0011】
本発明に係る噴霧装置は、前記パルス電圧発生手段は、DC−DCコンバータであることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、一定の直流電圧(入力電圧)を高周波のパルス電圧に変換して変圧器で昇圧し、更に平滑化して、所定の電圧の直流出力電圧とする。このとき入力電圧をスイッチを使用して所定の周波数でオンオフすることによって、所定の周波数を有する高電圧のパルス電圧を出力する。
【0013】
本発明に係る噴霧装置は、前記鋸歯状波の周波数は、100ヘルツ以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、電圧の周波数を100ヘルツ以下に制御することによって、噴射口から噴射した液体の帯電量の最大化を図る。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る噴霧装置にあっては、時間変化量が大きい鋸歯状波を電極に印加し、噴射口から霧状に噴射された液体(例えば薬液)に、作物の密集した部分及び遠方の作物に付着するのに充分な電荷を付与して、作物の密集した部分及び遠方の作物の表面を薬液にて被覆し、薬液の散布効率を向上させて、害虫を確実に駆除することができる。
【0016】
本発明に係る噴霧装置にあっては、一定の直流電圧をパルス電圧に変換し、更に平滑化して、鋸歯状波を発生させることを実現できる。
【0017】
本発明に係る噴霧装置にあっては、一定の直流電圧(入力電圧)を高周波のパルス電圧に変換して変圧器で昇圧し、更に平滑化して、所定の電圧の直流出力電圧とする。このとき入力電圧をスイッチを使用して所定の周波数でオンオフすることによって、所定の周波数を有する高電圧のパルス電圧を出力して、噴射された薬液の電荷量の最大化を図ることができる。
【0018】
本発明に係る噴霧装置にあっては、電圧の周波数を100ヘルツ以下に制御することによって、噴射口から噴射した薬液の帯電量の最大化を図り、作物の密集した部分及び遠方の作物の表面を薬液にて確実に被覆し、薬液の散布効率を向上させて、害虫を確実に駆除することができる。後述するように、一定の直流電圧を印加する場合に比べて、100ヘルツ以下のパルス電圧を印加した場合の方が、噴霧された薬液によって葉の表面又は裏面が覆われる被覆面積率が大きい。一方100ヘルツを超過した場合には、短時間の内に電圧の上昇と下降とが入れ替わり、大きな傾きの電圧を電極に長時間印加することができず、また波形も一定の直流に近くなり、好ましくない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る散布装置のノズル付近を略示する断面図である。
【図2】パルス発生回路を略示する回路図である。
【図3】スイッチをオンオフ動作した場合におけるFETのソースへの入力電圧、FETのゲートへの入力パルス電圧及び平滑回路の出力電圧との関係を略示するタイムチャートである。
【図4】デューティ比が0.1であって周波数2ヘルツ(Hz)の矩形波に係る制御信号をPGから出力した場合に、電極に印加されるパルス電圧を略示するタイムチャートである。
【図5】デューティ比が0.1であって周波数4Hzの矩形波に係る制御信号をPGから出力した場合に、電極に印加されるパルス電圧を略示するタイムチャートである。
【図6】付着率を確認するための実験装置の構成を上方から略示した模式図である。
【図7】(A)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図である。
【図8】(B)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図である。
【図9】(C)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図である。
【図10】(D)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図である。
【図11】(E)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図である。
【図12】(F)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図である。
【図13】(R)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図である。
【図14】デューティ比が0.1であって周波数4Hzの矩形波に係る制御信号をPGから出力することによって電極に印加された電圧と液滴を流れる電流との関係を略示する図である。
【図15】電圧波形の形状と薬液の噴射対象への付着率との関係を確認するための実験装置の構成を上方から略示した模式図である。
【図16】PGの出力電圧とノズルに印加された電圧との関係を示す図である。
【図17】ダミーツリー1本あたりの液体の付着面積を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明を実施の形態に係る噴霧装置を示す図面に基づいて詳述する。図1は実施の形態に係る散布装置のノズル2付近を略示する断面図である。
図において1は、薬液が通流する通流管であり、該通流管1の一端部は薬液を収容するタンク(後述する図4参照)に接続してある。通流管1の他端部に、液体を霧状に噴射する噴射口20を有する円柱状のノズル2が接続してある。噴射口20は、ノズル2の先端面中央部に位置する。ノズル2の周囲には、後述する高圧電線を収容する円筒状の収容部3が設けてあり、ノズル2は収容部3の内側に同軸的に配置されている。円筒状の収容部3には、細長い有底円筒形の収容室30が軸方向に沿って形成してあり、該収容室30の開口は、通流管1側の収容室30の端面に設けてある。
【0021】
通流管1と反対側における収容部3の端面部分の外径は、他の部分の外径よりも小さく、段差が形成されている。収容部3の段差部分に、円環形の電極4が嵌合している。収容室30の内側にて、収容室30の開口付近に円筒状の防水部材51が設けてあり、該防水部材51の内側に高圧電線5が水密に挿入してある。該高圧電線5は電極4に接続してある。円筒状をなす収容部3の外周面において、軸方向の中途部分に円環状の凹部31が形成してあり、該凹部31にはOリング50が嵌合している。
【0022】
電極4側における収容部3の端面から凹部31に亘り、電極4を覆う円筒状のカバー6が設けてある。電極4側におけるカバー6の内周面に、円環状の溝60が形成してあり、該溝60にOリング50が嵌合している。溝60における電極4側の側面は開放されており、溝60に嵌合したOリング50は電極4の端面に隣接している。各Oリング50、50を挟持した状態で、カバー6は収容部3に水密に嵌合している。そのため薬液がカバー6と収容部3との隙間から侵入し、電極4に到達することはなく、漏電が防止される。
【0023】
図2はパルス電圧発生回路80を略示する回路図である。電極4には、高圧電線5を介してパルス電圧発生回路80が接続されており、パルス電圧発生回路80から高電圧のパルス電圧が電極4に印加される。
【0024】
パルス電圧発生回路80は、DC−DCコンバータであり、図2に示すように、バッテリである直流電源81の正極とp型のFET83のソースとの間に、スイッチ87が介装されている。FET83のドレインと直流電源81の負極との間には、昇圧変圧器84の1次コイル84aが介装されている。FET83のゲートには発振回路82が接続してある。該発振回路82には、スイッチ87を介して直流電源81から電力が供給されている。スイッチ87がオン動作した場合に、FET83は、発振回路82からゲートに入力される信号によって一定の高周波の周期でオンオフ動作する。
【0025】
FET83のドレインには1次コイル84aの一端部が接続してあり、1次コイル84aの他端部と昇圧変圧器84の2次コイル84bの一端部とが接続してある。2次コイル84bの一端部は電極4に接続してある。2次コイル84bの他端部にダイオード85のアノードが接続してあり、ダイオード85のカソードと電極4との間又は2次コイル84bの一端部と電極4との間に平滑回路86が介装してある。なお平滑回路86としては、コンデンサ入力型の平滑回路が挙げられるが、鋸歯状波を発生させるパルス電圧発生回路80の仕様に応じて、インダクタ又はチョーク入力型の平滑回路など他の平滑回路を使用してもよい。前記1次コイル84aの他端部及び2次コイル84bの一端部は、直流電源81の負極に接続してある。
【0026】
前記スイッチ87はフォトカプラからなり、スイッチ87のフォトトランジスタにおいて、コレクタは直流電源81の正極に接続してあり、エミッタは発信回路82及びFET83のソースに接続してある。スイッチ87のオンオフを制御するパルス信号を発生するパルス・ジェネレータ(以下PGという)8が、スイッチ87の発光ダイオードに接続してある。
PG8にて発生するパルス信号に応じた光パルス信号が前記発光ダイオードから出力される。フォトトランジスタは、光パルス信号を受光することによって導通する。
【0027】
スイッチ87のオンにより、直流電源81の正極の電圧がFET83のソース及び発信回路82に与えられる。これにより、FET83のゲートには、発振回路82から高周波のパルス信号が入力され、高周波のパルス電流が1次コイル84aに通流する。なおFET83のゲートに入力されるパルス信号の周波数は、PG8の出力パルスの周波数に比べて十分に高い。
【0028】
1次コイル84aに高周波のパルス電流を通流させることによって、1次コイル84aに通流した電流の電圧よりも高い電圧を有する高周波のパルス電流が2次コイル84bに発生する。2次コイル84bにて発生した電流は、ダイオード85によって整流される。そして高周波のパルス電流に係る電圧(パルス波)は、平滑回路86にて、急峻に立ち上がった後に緩やかに減少するように平滑化され、鋸歯状波が電極4に印加される。
【0029】
次にパルス発生回路80の動作について詳細に説明する。図3はスイッチ87をオンオフ動作した場合におけるFET83のソースへの入力電圧、FET83のゲートへの入力パルス電圧及び平滑回路86の出力電圧との関係を略示するタイムチャートである。
【0030】
図3AはFET83のソースへの入力電圧を示し、PG8の出力に対応する。図3BはFET83のゲートへの入力パルス電圧を示し、1次コイル84aへの印加電圧に対応する。図3Cは平滑回路86の出力電圧を示し、電極4への印加電圧に対応する。
【0031】
PG8の出力パルスによって、時刻t1においてスイッチ87をオン動作させ、時刻t2においてスイッチ87をオフ動作させた場合、図3Aに示すように、時刻t1〜t2の間、FET83のソースに電圧が印加され、一方図3Bに示すように、発信回路82からFET83のゲートに高周波のパルス電圧が印加される。
そして時刻t1〜t2の間に平滑回路86は充電され、図3Cに示すように、時刻t1〜t2の間に、平滑回路86の出力電圧は急峻な傾きで立ち上がる。通電終了後、時刻t2〜t3の間に、平滑回路86からの放電によって平滑回路86の出力電圧は緩やかに減少し、鋸歯状波が発生する。
【0032】
同様に時刻t3においてスイッチ87をオン動作し、上記動作を繰り返すことによって、鋸歯状波を連続的に発生させることができる。換言すれば、PG8の出力パルスによって、スイッチ87を適当な時間間隔でオンオフ動作させることにより、鋸歯状波を連続的に発生させることができる。
【0033】
電極4に印加されるパルス電圧は、電圧が立ち上がるときにおける電圧の時間変化量が、電圧が立ち下がるときにおける電圧の時間変化量よりも大きい。環状の電極4の内側を、噴射口20から霧状に噴射された薬液が通過するときに、薬液は帯電し、クーロン力によって作物などの噴射対象に誘引され、付着する。
【0034】
なお鋸歯状波を発生させる要素として、平滑回路86の回路定数によって定まる時定数が挙げられ、該時定数を調整することで平滑回路86の出力波形を調整することができる。またPG8の出力パルスによって電極4に印加される周期的なパルス電圧を生成することができ、例えば所定のデューティ比を有する一定周波数の矩形波に係る制御信号をPG8から出力することによって、パルス電圧の周波数を調整する。
【0035】
図4は、デューティ比が0.1であって周波数2ヘルツ(Hz)の矩形波に係る制御信号をPG8から出力した場合に、電極4に印加されるパルス電圧を略示するタイムチャートである。図4に示されたパルス電圧は、略3.3キロボルト(kV)の電圧から略4.5kVまで略垂直に立ち上がり、立ち上がりの頂点から略3.3kVになるまで円弧状に立ち下がっており、略垂直な波形部分と円弧状をなす波形部分とは、前記頂点にて連続している。また円弧状をなす波形部分は、略垂直な波形部分側に突出した曲線をなしている。
【0036】
図5は、デューティ比が0.1であって周波数4Hzの矩形波に係る制御信号をPG8から出力した場合に、電極4に印加されるパルス電圧を略示するタイムチャートである。図5に示されたパルス電圧は、略3kVの電圧から略4.5kVまで略垂直に立ち上がり、立ち上がりの頂点から略3kVになるまで円弧状に立ち下がっており、略垂直な波形部分と円弧状をなす波形部分とは、前記頂点にて連続している。また円弧状をなす波形部分は、略垂直な波形部分側に突出した曲線をなしている。
【0037】
次に噴霧装置の噴射口20から噴射された薬液の噴射対象への付着率について説明する。図6は付着率を確認するための実験装置の構成を上方から略示した模式図である。
【0038】
図中I〜VIは、作物の葉に見立てた感水紙の位置を示しており、感水紙は74cmの高さに配置されている。ノズル2の噴射口20から噴射方向への延長線を境界にして、一方の側に感水紙I、III、Vがノズル2の噴射方向に沿って順に並んでおり、感水紙IとIIIとの間及び感水紙IIIとVとの間には40cmの間隔が設けてある。また前記延長線を境界とした他方の側に、感水紙II、IV、VIがノズル2の噴射方向に沿って並んでおり、感水紙IIとIVとの間及び感水紙IVとVIとの間には40cmの間隔が設けてある。また感水紙I及びII、感水紙III及びIV、並びに感水紙V及びVIはそれぞれ20cmの間隔を空けて対向している。
【0039】
ノズル2は、感水紙I及びIIが対向する方向において感水紙I及びIIを結ぶ線分の略中点に位置し、噴射方向と逆方向に前記中点から20cmの間隔を空けた位置に配してある。感水紙は、ノズル2の噴射口20に対面するようにしてあり、縦寸法は5.2cm、横寸法7.6cmとなっている。以下ノズル2の噴射口20に対面する感水紙の面を表面といい、該表面と逆の面を裏面という。なおノズル2は、通流管1を介して、薬液に相当する液体を収容するタンクに接続してあり、該タンクは接地してある。ノズル2の噴射口20の穴径は1.0mmであり、噴射される液体の圧力は1.0MPa、液体の流量は0.76L/minである。また液体の噴射時間は5秒間である。
【0040】
以上の実験装置において、(A)電極4に電圧を印加せずに液体を噴射した場合、(B)一定の直流電圧4.5kVを電極4に印加して液体を噴射した場合、(C)デューティ比が0.1であって周波数2Hzの矩形波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に電圧を印加して液体を噴射した場合(図4参照)、(D)デューティ比が0.1であって周波数4Hzの矩形波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に電圧を印加して液体を噴射した場合(図5参照)及び(E)一定の直流電圧9kVを電極4に印加して液体を噴射した場合について、感水紙の表面及び裏面に付着した液体の被覆面積率を以下の表1〜表5に示す。
【0041】
表1〜表5は、それぞれ(A)〜(E)の場合に対応している。各表の「感水紙」の欄に記載されたI〜VIは、図6におけるI〜VIに位置する感水紙を示している。また「表面」における「被覆面積率」の欄には、感水紙の表面の面積に対する液体が付着した面積の割合(パーセンテージ)が示されており、「裏面」における「被覆面積率」の欄には、感水紙の裏面の面積に対する液体が付着した面積の割合が示されている。被覆面積率の算出には、感水紙被覆面積算出ソフトウェアを使用した。「平均値」の欄には、「表面」及び「裏面」共にIII〜VIに位置する感水紙の被覆面積率の平均が示されている。感水紙の表面には光の反射率が高いインク(例えば黄色)が塗布してある。該インクは液滴が付着した場合に色が変わる。例えば青色に変わる。前記ソフトウェアは、表面全体に占める変色した部分の割合によって、被覆面積率を算出する。
I及びIIに位置する感水紙はノズル2に接近しているため、表面に多量の液滴が付着してインクが流れ落ち、感水紙表面が白くなる。そのため感水紙被覆面積算出ソフトウェアは、液滴が付着していると判断すべき箇所を液滴が付着していないと判断し、本来の値よりも低い値を算出する。従ってI及びIIについては、実質的に100%の付着率とみなしてよいと考えられる。そのため「表面」の平均値算出において、I及びIIを除外した。また「表面」との平仄を図るため「裏面」の平均値算出についてもI及びIIを除外した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
図7は、(A)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図、図8は、(B)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図、図9は、(C)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図、図10は、(D)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図、図11は、(E)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図である。図7〜図11において濃く着色された部分が液体が付着した部分である。
【0048】
上記表1〜表5及び図7〜図11に示すように、電極4へ電圧を印加しない場合(A)に比較して、電極4へ電圧を印加した場合(B)〜(E)の方が被覆面積率が大きい。また平均被覆面積率は、表面において、(D)>(C)>(E)>(B)>(A)となり、裏面において、(E)>(C)>(D)>(B)>(A)となる。すなわち、一定の直流電圧4.5kVを電極4に印加した場合(B)よりも、パルス電圧を印加した場合、すなわちデューティ比が0.1であって周波数2Hzの矩形波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に電圧を印加した場合(C)及びデューティ比が0.1であって周波数4Hzの矩形波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に電圧を印加した場合(D)の方が、表面、裏面ともに平均被覆面積率が大きくなっていることがわかる。
【0049】
また(C)及び(D)の場合の表面における平均被覆面積率を比較すると、92.96(C)、95.20(D)となり、両者とも90%を超過している。また裏面における平均被覆面積率は、30.95(C)、19.84(D)となり、(C)の方が大きい。なお(A)〜(D)の場合におけるノズル2から20cmの位置(I)及び(II)での表面の被覆面積率、並びに(E)の場合における位置(I)での表面の被覆面積率は、30%〜50%程度となっているが、目視では90%以上(実質的に100%)の付着率が認められる。
【0050】
ノズル2から60cmの位置(III)及び(IV)での表面の被覆面積率は、電圧を印加しない場合(A)に90%以上であり、電圧を印加した場合(B)〜(E)も90%程度であり、大きな差は認められない。一方ノズル2から100cmの位置(VI)での表面の被覆面積率は、一定の直流電圧9kVを電極4に印加した場合(E)の被覆面積率が59.351であり、一定の直流電圧4.5kVを電極4に印加した場合(B)の被覆面積率が25.151であるのに対し、波高値略4.5kVのパルス電圧を印加した場合(C)、(D)の被覆面積率はそれぞれ95.65及び88.115である。すなわち(C)、(D)の付着率は(E)の付着率の略1.5倍であり、(B)の付着率の略3.5倍である。これは、(B)、(E)の場合には、ノズル2から100cmの位置に到達する液滴が、(C)、(D)の場合に比べて大幅に減少することを示しており、一定の直流電圧を印加するよりもパルス電圧を印加する方が、より遠方まで液滴を付着させることができると考えられる。
【0051】
また(B)〜(D)の表面及び裏面における平均被覆面積率、並びに位置(VI)での被覆面積率を参照すると、一定の直流電圧を印加する場合(B)よりも2Hzのパルス電圧(C)及び4Hzのパルス電圧(D)を印加する場合の方が、被覆面積率は大きくなり、被覆面積率をより向上させることができると考えられる。
【0052】
また上記実験装置において、パルス発生回路80を高電圧アンプ(図示せず)に代えて以下の実験を行った。該高電圧アンプは、PG8からの波形を読み込んで、略同じ波形の高電圧を発生させる装置である。PG8から高電圧アンプに三角波(鋸歯状波)を出力した場合、電極4に三角波(鋸歯状波)の電圧が印加される。
【0053】
(F)一定の直流電圧2.25kVを電極4に印加して液体を噴射した場合、
(G)デューティ比が0.1であって周波数2Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(H)デューティ比が0.5であって周波数2Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(I)デューティ比が0.1であって周波数4Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(J)デューティ比が0.5であって周波数4Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(K)デューティ比が0.1であって周波数10Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(L)デューティ比が0.5であって周波数10Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(M)デューティ比が0.1であって周波数20Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(N)デューティ比が0.5であって周波数20Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(O)デューティ比が0.1であって周波数50Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(P)デューティ比が0.5であって周波数50Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合、
(Q)デューティ比が0.1であって周波数100Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合及び
(R)デューティ比が0.5であって周波数100Hzの三角波に係る制御信号をPG8から出力し、電極4に波高値2.25kVの電圧を印加して液体を噴射した場合について、感水紙の表面及び裏面に付着した液体の被覆面積率を以下の表6〜表18に示す。表6〜表18はそれぞれ(F)〜(R)の場合に対応している。
「平均値」の欄には、「表面」及び「裏面」共にIII〜VIに位置する感水紙の被覆面積率の平均が示されている。
【0054】
なお(G)〜(R)の場合におけるパルス電圧は、略0kVの電圧から略2.25kVまで略垂直に立ち上がり、立ち上がりの頂点から略0kVになるまで円弧状に立ち下がっており、略垂直な波形部分と円弧状をなす波形部分とは、前記頂点にて連続している。また円弧状をなす波形部分は、略垂直な波形部分側に突出した曲線をなしている。
【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
【表9】

【0059】
【表10】

【0060】
【表11】

【0061】
【表12】

【0062】
【表13】

【0063】
【表14】

【0064】
【表15】

【0065】
【表16】

【0066】
【表17】

【0067】
【表18】

【0068】
図12は、(F)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図、図13は、(R)の場合において液体が付着した感水紙の表面及び裏面を示す図である。
【0069】
表6〜表18に示すように、一定の直流電圧2.25kVを印加する場合(F)に比較して、波高値2.25kVの2〜100Hzのパルス電圧を印加する場合(G)〜(R)の方が表面の平均被覆面積率が大きい。(F)の場合54.2%である。一方(G)の場合61.3%、(H)の場合66.4%、(I)の場合59.7%、(J)の場合60.5%、(K)の場合56.0%、(L)の場合56.0%、(M)の場合58.6%、(N)の場合56.2%、(O)の場合63.5%、(P)の場合60.0%、(Q)の場合58.2%、(R)の場合64.6%であるので、パルス電圧を印可した場合は直流電圧を印加した場合よりも、1.8〜12%程度大きい。
【0070】
またノズル2から100cmの位置(V)での表面の平均被覆面積率は、(F)の場合62.3%である。一方(G)の場合88.6であり、(F)の略1.4倍である。(H)の場合73.3%であり、(F)の略1.2倍である。(I)の場合74.0%であり、(F)の略1.2倍である。(L)の場合74.8%であり、(F)の略1.2倍である。(M)の場合82.7%であり、(F)の略1.3倍である。(N)の場合82.5%であり、(F)の略1.3倍である。(O)の場合72.4%であり、(F)の略1.2倍である。(Q)の場合77.4%であり、(F)の略1.2倍である。(R)の場合93.3%であり、(F)の略1.5倍である。
【0071】
またノズル2から100cmの位置(VI)での表面の平均被覆面積率は、(F)の場合5.1%である。一方(H)の場合37.0%であり、(F)の略7.3倍である。(I)及び(J)の場合37.6%であり、(F)の略7.4倍である。(K)の場合37.3%であり、(F)の略7.3倍である。(L)の場合26.1%であり、(F)の略5.1倍である。(M)の場合19.0%であり、(F)の略3.7倍である。(N)の場合21.9%であり、(F)の略4.3倍である。(O)の場合15.8%であり、(F)の略3.1倍である。(P)の場合32.2%であり、(F)の略6.3倍である。(Q)の場18.8%であり、(F)の略3.7倍である。(R)の場合11.6%であり、(F)の略2.3倍である。
【0072】
またノズル2から100cmの位置(V)での裏面の平均被覆面積率は、(F)の場合7.2%である。一方(H)の場合29.0%であり、(F)の略4倍である。(I)の場合、33.8%であり、(F)の略4.7倍である。(J)の場合、32.2%であり、(F)の略4.5倍である。(K)の場合、31.9%であり、(F)の略4.4倍である。(L)の場合、26.2%であり、(F)の略3.6倍である。(M)の場合、20.9%であり、(F)の略2.9倍である。(N)の場合、17.4%であり、(F)の略2.4倍である。(O)の場合、18.6%であり、(F)の略2.6倍である。(P)の場合、13.6%であり、(F)の略1.9倍である。(Q)の場合、15.9%であり、(F)の略2.2倍である。(R)の場合、14.7%であり、(F)の略2倍である。
【0073】
またノズル2から100cmの位置(VI)での裏面の平均被覆面積率は、(F)の場合1.3%である。一方(H)の場合、27.5%であり、(F)の略21.2倍である。(I)の場合、33.0%であり、(F)の略25.4倍である。(J)の場合、31.6%であり、(F)の略24.3倍である。(K)の場合、30.3%であり、(F)の略23.3倍である。(L)の場合、24.5%であり、(F)の略18.8倍である。(M)の場合、17.6%であり、(F)の略13.5倍である。(N)の場合、17.0%であり、(F)の略13.1倍である。(O)の場合、16.3%であり、(F)の略12.5倍である。(P)の場合、12.5%であり、(F)の略9.6倍である。(Q)の場合、17.3%であり、(F)の略13.3倍である。(R)の場合、8.2%であり、(F)の略6.3倍である。
【0074】
以上の実験結果から、パルス電圧を印可した場合、ノズル2から100cmの位置に到達する液滴は、直流電圧を印加した場合に比べて大幅に増加することを示しており、一定の直流電圧2.25kVを印加するよりも波高値2.25kVの2〜100Hzのパルス電圧を印加する方が、より遠方まで液滴を付着させることができると考えられる。
【0075】
なお(P)及び(R)の場合における裏面の平均被覆面積率は、(F)の場合よりも小さい。すなわちパルス電圧の周波数が50Hz以上である場合、直流電圧を印可する場合よりも、裏面において液滴が付着し難くなることがある。従って裏面において、直流電圧を印可する場合よりも大きい平均被覆面積率を維持することができる周波数の限界値は、100Hz程度であると考えられる。
【0076】
次に電極4に印加された電圧と噴射口20から噴射された液体(液滴)に流れる電流との関係を説明する。図14はデューティ比が0.1であって周波数4Hzの矩形波に係る制御信号をPG8から出力することによって電極4に印加された電圧と液滴を流れる電流との関係を略示する図である。図14において、太線からなる鋸歯状の波形は電極4に印加された電圧波形を示しており、細線からなる波形は液滴に流れる電流波形を示している。
【0077】
図14に示すように、鋸歯状の電圧波形が略垂直に立ち上がる時点において、電流波形の振幅は他の時点、例えば電圧波形が円弧状をなして立ち下がる時点での振幅よりも大きく、そのため液滴の帯電量が他の時点よりも増加すると考えられる。
【0078】
次に電圧波形の形状と薬液の噴射対象への付着率との関係について説明する。図15は、電圧波形の形状と薬液の噴射対象への付着率との関係を確認するための実験装置の構成を上方から略示した模式図、図16はPG8の出力電圧とノズル2に印加された電圧との関係を示す図である。
【0079】
図15に示すように、直流電源81にPG8が接続してある。また直流電源81とノズル2とが電線5によって接続されている。図16に示すように、PG8の出力パルスによって直流電源81からノズル2に周期的なパルス電圧を印加することができる。ノズル2は、通流管1を介してタンク10に接続してある。該タンク10及びノズル2には絶縁体9を設けてある。またノズル2から離反して、液体の噴射方向に沿って四つのダミーツリーT1〜T4が設けてある。なお図15に示す実験装置は、電線5をノズル2に直接接続し、いわゆる接触帯電にて液体を帯電させる構成であって、図1及び2に示す構成のように電極4に電圧を印加し、いわゆる誘導帯電にて液体を帯電させる構成とは異なるが、液滴の帯電状態は、直流電源81の電圧変化に依存するものと考えられるため、実験の目的を達成することができる。
【0080】
ノズル2の噴射口20から噴射方向への延長線を境界にして、一方の側にダミーツリーT1、T3が、他方の側にダミーツリーT2、T4がノズル2の噴射方向に沿って順に並んでいる。ダミーツリーT1とダミーツリーT3との間、及びダミーツリーT2とダミーツリーT4との間にはそれぞれ60cmの間隔が設けてある。ダミーツリーT1とダミーツリーT2とは対向しており、またダミーツリーT3とダミーツリーT4とは対向している。各対向間距離は、60cmである。ノズル2は、ダミーツリーT1及びダミーツリーT2が対向する方向においてダミーツリーT1及びダミーツリーT2を結ぶ線分の略中点に位置し、噴射方向と逆方向に前記中点から60cmの間隔を空けた位置に配してある。
【0081】
ダミーツリーT1〜T4は、木を模倣したものであり、幹の部分に真鍮パイプ、葉の部分にステンレス板、枝の部分に針金の両端にワニ口クリップを取り付けてなり、一方のワニ口クリップによって枝を真鍮パイプに固定し、他方のワニ口クリップによってステンレス板を挟持している。ダミーツリーT1〜T4の高さは、1.2mであり、葉の数はダミーツリー一本あたり28枚である。28枚の葉の内、14枚の葉の両面(表面及び裏面)に濾紙を両面テープにて貼付し、液体が付着した部分の濾紙の面積を計測する。
【0082】
計測は、(あ)電極4に電圧を印加せずに液体を噴射した場合、(い)一定の直流電圧10kVを電極4に印加して液体を噴射した場合及び(う)ピーク値10kVの矩形状の波形を有する電圧を電極4に印加して液体を噴射した場合について行う。(う)の場合、図16の一点鎖線にて示すように、PG8からデューティ比が0.5であって周波数0.5Hzの矩形波に係る制御信号をPG8から出力し、実線にて示すような矩形状のパルス電圧を電極4に印加する。
【0083】
図17は、ダミーツリー1本あたりの液体の付着面積を示すグラフである。図中、1表、1裏、2表、2裏、3表、3裏、4表及び4裏の項目は、それぞれ、ダミーツリー1〜4の葉の表面及び裏面を示している。各項目における左右に並んだ三つの棒グラフの内、左の棒グラフは(あ)の場合の付着面積を示し、真ん中の棒グラフは(い)の場合の付着面積を示し、右の棒グラフは(う)の場合の付着面積を示している。
【0084】
図17に示すように、矩形状のパルス電圧を電極4に印加した場合(う)、一定の直流電圧10kVを電極4に印加する場合(い)に比べて、いずれの項目においても、液体の付着面積は小さい。前述した感水紙に対する液体の平均被覆面積率において、鋸歯状のパルス電圧を印加した場合、一定の直流電圧を印加する場合に比べて、平均被覆面積率は大きいことから、液滴の葉への付着量は、電圧波形に影響されると考えられる。また鋸歯状のパルス電圧を印加する方が、矩形状のパルス電圧を印加するよりも、液滴の葉への付着率は向上すると考えられる。
【0085】
また前述したように、電圧波形が円弧状をなす場合、液滴の帯電量は減少することから、半円状の波形を有するパルス電圧を電源に印加する場合よりも、鋸歯状のパルス電圧を印加する方が、液滴の葉への付着率は向上すると考えられる。
【0086】
本発明に係る噴霧装置にあっては、時間変化量が大きい鋸歯状波を電極4に印加し、噴射口20から霧状に噴射された液体(例えば薬液)に、作物の密集した部分及び遠方の作物に付着するのに充分な電荷を付与して、作物の密集した部分及び遠方の作物の表面を薬液にて被覆し、薬液の散布効率を向上させて、害虫を確実に駆除することができる。
【0087】
また直流電源81による一定の直流電圧(入力電圧)を高周波のパルス電圧に変換して昇圧変圧器84で昇圧し、更に平滑回路86で平滑化して、所定の電圧の直流出力電圧とする。このとき入力電圧をスイッチ87を使用して所定の周波数でオンオフすることによって、所定の周波数を有する高電圧のパルス電圧を出力し、出力電圧の周波数を制御して、噴射された薬液の電荷量の最大化を図り、噴射された薬液の電荷量を向上させることができる。
【0088】
また電圧の周波数を100Hz以下に制御することによって、噴射口20から噴射した薬液の帯電量の最大化を図り、作物の密集した部分及び遠方の作物の表面を薬液にて確実に被覆し、薬液の散布効率を向上させて、害虫を確実に駆除することができる。
【0089】
なお実施の形態に係るパルス電圧発生回路80は、鋸歯状波を発生するDC−DCコンバータの一例に過ぎず、パルス電圧発生回路80に代えて、鋸歯状波を発生する他のDC−DCコンバータを使用してもよいことは言うまでもない。また鋸歯状波は、急峻に立ち上がり、緩やかに立ち下がる波形に限定されず、噴霧装置の仕様に応じて、緩やかに立ち上がり、急激に立ち下がる波形としてもよい。
【0090】
また実施の形態に係るパルス電圧発生回路80は、PG8による出力パルスによって電極4への印加電圧を調整しているが、発振回路82にてFET83のゲートへ信号を入力するタイミングを制御し、電極4の印加電圧を調整する構成としてもよい。またFET83はp型であるが、これに代えてn型のFETを使用しても良く、他のスイッチング素子を使用しても良い。
【0091】
また実施の形態に係る噴霧装置は、環状の電極4を使用しているが、これに代えて棒状の電極を使用し、ブームに並設された複数のノズルの近傍に棒状の電極を配置した構成であってもよい。
【0092】
また実施の形態に係る噴霧装置は、薬液のみならず、液状の肥料など他の液体を散布することもできる。
【0093】
以上説明した実施の形態は本発明の例示であり、本発明は特許請求の範囲の記載に基づいて定められる範囲内において種々変更した形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 通流管
2 ノズル
3 収容部
4 電極
8 パルス・ジェネレータ
80 パルス電圧発生回路
81 直流電源
82 発振回路
83 FET
84 昇圧変圧器
84a 1次コイル
84b 2次コイル
85 ダイオード
86 平滑回路
87 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を霧状に噴射する噴射口を有するノズルと、前記噴射口の周囲に配置され、前記噴射口から噴射された液体に電荷を付与する電極と、該電極に印加されるべきパルス電圧を発生するパルス電圧発生手段とを備える噴霧装置において、
前記パルス電圧発生手段は、鋸歯状波を発生するようにしてあること
を特徴とする噴霧装置。
【請求項2】
前記パルス電圧発生手段は、DC−DCコンバータであることを特徴とする請求項1に記載の噴霧装置。
【請求項3】
前記鋸歯状波の周波数は、100ヘルツ以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の噴霧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−24082(P2012−24082A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138786(P2011−138786)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000250007)有光工業株式会社 (30)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】