嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質阻害薬およびその使用方法
本発明は、CFTRに媒介される疾患および状態の研究および治療に有益な、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質(CFTR)の阻害のための組成物、薬学的調製物および方法を提供する。本発明の組成物および薬学的調製物は1または複数のチアゾリジノン化合物を含んでもよく、さらに、1または複数の薬学的に許容される担体、賦形剤および/またはアジュバントを含んでもよい。本発明の方法は、一定の態様では、CFTR-媒介疾患または状態を患う患者に有効量のチアゾリジノン化合物を投与する段階を含む。別の態様では、本発明は、被験者の細胞を有効量のチアゾリジノン化合物と接触させる段階を含む、CFTRを阻害する方法を提供する。さらに、本発明は、チアゾリジノン化合物を、CFTRを阻害するのに十分な量でヒト以外の動物に投与することにより引き起こしたCFTR-媒介疾患のヒト以外の動物モデルを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)蛋白質は、哺乳類の気道、腸、膵臓および睾丸の上皮細胞において発現したcAMP-活性化塩素(Cl-)チャネルである。CFTRはcAMP-媒介Cl-分泌に関与する塩素チャネルである。ホルモン、例えばβ-アドレナリン作動薬、または毒素、例えばコレラ毒素によりcAMPが増加し、cAMP-依存性蛋白質キナーゼが活性化され、CFTR Cl-チャネルがリン酸化され、これによりチャネルが開く。細胞Ca2+が増加すると、異なる頂端膜チャネルも活性化される。蛋白質キナーゼCによるリン酸化により、頂端膜のCl-チャネルが開く、または閉じられる。CFTRは主に上皮に位置し、そこでは、頂端膜を横切るCl-イオンの移動のための経路が提供され、経皮塩および水輸送速度を調節するキーポイントが提供される。CFTR塩素チャネル機能は広範囲の疾患、例えば、嚢胞性線維症(CF)、ならびに男性不妊のいくつかの形態、多発性嚢胞腎および分泌性下痢と関連する。
【0002】
遺伝性の致命的な疾患である嚢胞性線維症(CF)は、CFTRの突然変異により引き起こされる。ヒト嚢胞性線維症(CF)患者およびCFマウスモデルの観察から、腸液および膵液輸送、ならびに男性不妊におけるCFTRの機能の重要性が示される(Grubb et al.、1999、Physiol. Rev. 79:S193-S214;Wong、P.Y.、1997、Mol. Hum. Reprod. 4:107-110)。しかしながら、欠陥CFTRにより気道疾患が起こる機構は不明なままであり、これが、CF罹患率および死亡率の主な原因である(Pilewski et al.、1999、Physiol. Rev. 79:S215-S255)。CFの気道疾患を理解するのに主な問題としては、CFマウスモデルの不十分さ(マウスモデルはほとんどまたは全く気道疾患を示さない)、CFの大型動物モデルの不足、および慢性感染症および炎症により損傷されていないヒトCF気道の利用可能性の制限が挙げられる。CFにおける気道疾患メカニズムを研究する、または大型動物モデルにおいてCF表現型を作成するために、高親和性のCFTR-選択性阻害薬が利用できなかった。
【0003】
高親和性CFTR阻害薬はまた、分泌性下痢および嚢胞性腎疾患の治療において、および男性不妊の阻害において臨床用途を有する。化合物ジフェニルアミン-2-カルボキシレート(DPC)および5-ニトロ-2-(3-フェニルプロピル-アミノ)-ベンゾエート(NPPB)は高濃度でCFTRを阻害するが、その阻害作用は非特異的である(Cabantchik et al.、1992、Am. J. Physiol. 262:C803-C827;McDonough et al.、1994、Neuron 13:623-634;Schultz et al.、1999、Physiol. Rev. 79:S109-S144)。電気生理学的および他の細胞を基本とする研究に対し入手可能な最も良いCFTR阻害薬、グリベンクラミドは>100μMの濃度で使用される(Sheppard et al.、1992、J. Gen. Physiol. 100:573-591;Hongre et al.、1994、Pflugers Arch. 426:284-287)。しかしながら、この濃度では、グリベンクラミドはまた他のCl-トランスポーターならびにK+チャネルを阻害する(Edwards et al.、1993、Br. J. Pharmacol. 110:1280-1281;Rabe et al.、1995、Pflugers Arch.429:659-662;Yamazaki et al.、1997、Circ. Res. 81:101-109)。他のイオン輸送蛋白質の効果的な小分子阻害薬は周知であるが、分泌性疾患の治療法に適した特異的なCFTR阻害能力を有する小分子は入手可能ではない。
【0004】
したがって、CTFR阻害薬化合物ならびにCFの研究および治療に有益な動物モデルの開発および分泌性疾患の治療および調整のためのそのような化合物の使用方法が必要である。本発明はこれらの要求および他の要求を解決しようとするものであり、従来技術において見られる欠陥を克服する。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明は、CFTR-媒介疾患および状態の研究および治療に有益な嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質(CFTR)の阻害のための組成物、薬学的調製物および方法を提供する。本発明の組成物および薬学的調製物は1または複数のチアゾリジノン化合物または誘導体を含んでもよく、さらに、1または複数の薬学的に許容される担体、賦形剤および/またはアジュバントを含んでもよい。本発明の方法は、一定の態様では、CFTR-媒介疾患または状態に苦しむ患者に、有効量のチアゾリジノン化合物または誘導体を投与する段階を含む。別の態様では、本発明は、被験者の細胞を有効量のチアゾリジノン化合物または誘導体と接触させる段階を含む、CFTRを阻害する方法を提供する。さらに、本発明は、ヒト以外の動物にCFTRを阻害するのに十分な量のチアゾリジノン化合物または誘導体を投与することにより引き起こされるCFTR-媒介疾患のヒト以外の動物モデルを特徴とする。
【0006】
本発明のこれらのおよび他の目的ならびに利点は以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0007】
本発明は添付の図面を参照することにより完全に理解されるであろう。図面は説明目的のみのためのものである。
【0008】
本発明について説明する前に、本発明は記述した特別な態様に限定されず、そのため、当然、変動することがあることを理解すべきである。本明細書で使用した専門用語は、特別の態様を説明する目的のものにすぎず、限定するものではないこと、本発明の範囲は添付の請求の範囲にのみ限定されることも理解すべきである。
【0009】
特に規定がなければ、本明細書で使用した技術および科学用語は全て、本発明が属する技術の当業者が通常理解する意味と同じ意味を有する。本明細書で記述した方法および材料と類似または等価の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験で使用することができるが、好ましい方法および材料について、以下説明する。本明細書で言及した全ての出版物は、それらの出版物が言及した方法および/または材料と関連する方法および/材料を開示し説明するため、参照により本明細書に組み込まれる。
【0010】
本明細書および添付の請求の範囲において使用されるように、単数形「1つの(a、an)」および「その(the)」は、文脈において特に明確に記されていなければ、複数の指示対象を含むことに注意すべきである。このように、例えば「1つの阻害薬(an inhibitor)」は複数のそのような阻害薬を含み、「その細胞(the cell)」は1または複数の細胞および当業者に周知の等価物を含む、などである。
【0011】
本明細書で議論した出版物は、本出願の出願日前に開示されたことのみを示し、参照により本明細書に組み込まれる。本発明が、前の発明に基づいてそのような出版物に先行する権利を有しないことを承認するものとして解釈されるべきものは本明細書にはない。さらに、提供した出版日は、実際の出版日とは異なることがある。実際の出版物は別個に確認する必要がある場合もある。
【0012】
本明細書で使用した定義は、明確にするために提供するものであり、制限するものと考えるべきではない。本明細書で使用した技術および科学用語は、本明細書が属する技術分野の当業者が通常理解する意味と同じ意味を有するものとする。
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は高親和性CFTR阻害薬であるチアゾリジノン化合物および誘導体の発見に基づく。本発明の化合物および誘導体の構造、ならびに製剤および使用法を以下でより詳細に説明する。
【0014】
定義
「嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質-媒介状態または徴候」または「CFTR-媒介状態または徴候」は、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質(CFTR)の活性、例えばイオン輸送におけるCFTRの活性により起こる任意の状態、障害もしくは疾患、またはそのような状態、障害もしくは疾患の徴候を意味する。そのような状態、障害もしくは疾患、またはそのような状態、障害もしくは疾患の徴候はCFTR活性の阻害、例えばCFTRイオン輸送の阻害により治療できる。CFTR活性は例えば、様々な作動薬、例えばコレラ毒素に応じる腸内分泌に関係する(例えば、Snyder et al.1982 Bull. World Heath Organ. 60:605-613;Chao et al. 1994 EMBO J. 13:1065-1072;Kimberg et al. 1971 J. Clin. Invest.50:1218-1230を参照のこと)。
【0015】
本明細書で使用されるように「CFTR阻害薬」は、特にCFTRによる塩素イオンの輸送に関し、CFTRによるイオン輸送の効率を減少させる化合物である。好ましくは、本発明のCFTR阻害薬は特異的なCFTR阻害薬、すなわち、他のイオントランスポーター、例えば他の塩素トランスポーター、カリウムトランスポーターなどの活性に有意の影響または悪影響を与えずにCFTR活性を阻害する化合物である。好ましくは、CFTR阻害薬は高親和性CFTR阻害薬であり、例えば、少なくとも約1μM、通常約1〜約5μMのCFTR親和性を有する。
【0016】
本明細書で使用されるように「治療(treating、treatment)」は、被験者における疾患、状態、障害または徴候の治療を含み、この場合、疾患、状態、障害または徴候はCFTRの活性により媒介され、この治療は(1)疾患、状態または障害を予防する、すなわち、疾患、状態、または障害にさらされた、またはその傾向があるが、まだその徴候を経験していない、または示していない被験者において疾患の臨床徴候を発現しないようにする段階、(2)疾患、状態、または障害を阻止する、すなわち、疾患、状態、もしくは障害、またはその臨床徴候の発現を妨げ、または減少させる段階、または(3)疾患、状態、または障害を軽減する、すなわち、疾患、状態、もしくは障害、またはその臨床徴候の退行を引き起こす段階を含む。
【0017】
「治療上有効な量」または「有効量」は、治療の必要な哺乳類または他の被験者に投与すると、CFTRの活性により媒介される疾患、状態、障害、または徴候に対し、上記のような治療を実施するのに十分な本発明の化合物の量を意味する。「治療上有効な量」を構成する本発明の化合物の量は、化合物、疾患およびその重篤度、ならびに治療を受ける被験者の年齢、体重などにより変動するが、当業者であれば、自分の知識およびこの開示内容により普通に決定することができる。
【0018】
「被験者」および「患者」という用語は、本明細書で記述した薬学的方法、組成物および治療を必要としているかもしれない任意の哺乳類または哺乳類以外の種の1または複数のメンバーを意味する。このように、被験者および患者としては、霊長類(ヒトを含む)、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタ(swine)(例えば、ブタ(pig))、トリ、および他の被験者が挙げられるがこれらに限定されない。商業的に重要なヒトおよびヒト以外の動物(例えば、家畜および飼い慣らされた動物)が特に興味深い。
【0019】
「哺乳類」は、任意の哺乳類種の1または複数のメンバーを意味し、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、齧歯類、など、および霊長類、特にヒトが挙げられる。ヒト以外の動物モデル、特に哺乳類、例えば、霊長類、マウス、ウサギなどを実験調査のために使用してもよい。
【0020】
本明細書で使用されるように「単位剤形」という用語は、ヒトおよび動物被験者に対し単位用量として適した物理的に別個の単位を示し、各単位は、薬学的に許容される希釈剤、担体、またはビヒクルと関連して、所望の効果を生成するのに十分な量で計算した、予め決められた量の本発明の化合物を含む。本発明の新規単位剤形に対する規格は、使用する特別な化合物および達成すべき効果、ならびに宿主における各化合物に関連する薬力学に依存する。
【0021】
「生理学的条件」という用語は、生細胞と適合する条件、例えば、生細胞と適合する温度、pH、塩分濃度、などの主に水性条件を含むことを意味する。
【0022】
「薬学的に許容される賦形剤」は、一般に安全で、非毒性で生物学的にもそうでなくても望ましくないものでない薬学的組成物を調製するのに有益な賦形剤を意味し、獣医学的用途ならびにヒト薬学的用途に適した賦形剤が含まれる。明細書および請求の範囲において使用されるように「薬学的に許容される賦形剤」としては1または複数のそのような賦形剤の両方が挙げられる。
【0023】
本明細書で使用されるように、本発明の化合物の「薬学的に許容される誘導体」としては、それらの塩、エステル、エノールエーテル、エノールエステル、アセタール、ケタール、オルトエステル、ヘミアセタール、ヘミケタール、酸、塩基、溶媒和物、水和物またはプロドラッグが挙げられる。そのような誘導体は、当業者であれば、そのような誘導体化に対する周知の方法を使用して、容易に調製することができる。生成させた化合物は、実質的な毒性効果がなければ動物またはヒトに投与してもよく、そのような化合物は薬学的に活性であるか、またはプロドラッグである。
【0024】
本発明の化合物の「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有する塩を意味する。そのような塩としては、(1)無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などと共に形成される;有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンオプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクト-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、4,4’-メチレンビス-(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第3ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸、などと共に形成される酸付加塩、または(2)親化合物中に存在する酸性プロトンが金属イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、またはアルミニウムイオンにより置換され;または有機塩基、例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミン、などと配位結合すると形成される塩が挙げられる。
【0025】
本発明の化合物の「薬学的に許容されるエステル」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有するエステルを意味し、例えば、酸性基、例えば、カルボン酸、リン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、スルフィン酸およびボロン酸(これらに限定されない)のアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、シクロアルキルおよびヘテロシクリルエステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明の化合物の「薬学的に許容されるエノールエーテル」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有するエノールエーテルを意味し、例えば、化学式C=C(OR)(式中、Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、シクロアルキルまたはヘテロシクリルである)の誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明の化合物の「薬学的に許容されるエノールエステル」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有するエノールエステルを意味し、例えば、化学式C=C(OC(O)R)(式中、Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、シクロアルキルまたはヘテロシクリルである)の誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の化合物の「薬学的に許容される溶媒和物または水和物」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有する溶媒和または水和錯体を意味し、例えば、本発明の化合物の1または複数の溶媒もしくは水分子、または1〜約100、もしくは1〜約10、もしくは1〜約2、3あるいは4の溶媒もしくは水分子との錯体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
「プロドラッグ」は、哺乳類被験者に投与されるとインビボで化学式(I)の活性親化合物を放出する任意の化合物を意味する。化学式(I)の化合物のプロドラッグは、標準の生理学的条件下で加水分解され、対応するカルボキシ、ヒドロキシ、アミノまたはスルフヒドリル基となる官能基を含む。そのような官能基の例としては、化学式(I)の化合物中のヒドロキシ基のエステル(例えば、酢酸、ギ酸および安息香酸誘導体)およびカルバメート(例えば、N,N-ジメチルアミノカルボニル)などが挙げられるが、これらに限定されない。別の例としては、化学式(I)の化合物中のヒドロキシまたはカルボキシ基のジペプチドまたはトリペプチドエステルなどが挙げられる。そのような官能基の調製は当技術分野では周知である。例えば、ヒドロキシ基が結合された化学式(I)の化合物(例えば、X1、X2、X3、Y1またはY2がヒドロキシである場合)を、カルボン酸または自由カルボキシ末端を有するジペプチドと当技術分野において周知のエステル化条件下で処理して、所望のエステル官能基を得てもよい。同様に、自由カルボキシ基が結合された化学式(I)の化合物をアルコールまたはセリン残基(例えば、-N(H)-C(H)(CH2OH)-C(O)-)などのヒドロキシ基を含むトリペプチドと当技術分野において周知のエステル化条件下で処理して、所望のエステル官能基を得てもよい。さらに、カルボン酸エステル基が結合された化学式(I)の化合物を異なるカルボン酸エステルと、標準エステル交換反応条件下で処理して、所望のエステル官能基が結合された化学式(I)の化合物を生成してもよい。そのような官能基は全て本発明の範囲内にあると考えられる。
【0030】
本明細書で使用されるように「有機基」および「有機ラジカル」は、任意の炭素含有官能基を意味し、例えば、脂肪族基、環状基、芳香族基、それらの機能化誘導体および/またはそれらの様々な組み合わせとして分類される炭化水素基が挙げられる。「脂肪族基」は、飽和または不飽和直鎖もしくは分枝炭化水素基を意味し、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニル基を含む。「アルキル基」という用語は、置換または非置換、飽和直鎖もしくは分枝炭化水素基あるいは鎖(例えば、C1〜C8)を意味し、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、ヘプチル、n-オクチル、ドデシル、オクタデシル、アミル、2-エチルヘキシルなどが挙げられる。適した置換基としては、カルボキシ、保護カルボキシ、アミノ、保護アミノ、ハロ、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、メルカプト、低級アルキルチオ、ニトロ、シアノ、一置換アミノ、保護一置換アミノ、二置換アミノ、C1〜C7アルコキシ、C1〜C7アシル、C1〜C7アシルオキシなどが挙げられる。「置換アルキル」という用語は、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、アミノ、保護アミノ、シアノ、ハロ、トリフルオロメチル、一置換アミノ、二置換アミノ、低級アルコキシ、メルカプト、低級アルキルチオ、カルボキシ、保護カルボキシ、アミノおよび/またはヒドロキシ塩により1〜3回置換された上記アルキル基を意味する。ヘテロアリール環に対する置換基に関連して使用されるように、「置換(シクロアルキル)アルキル」および「置換シクロアルキル」は、以下で規定されるように、「置換アルキル」基に対し列挙したものと同じ官能基で置換される。「アルケニル基」という用語は1または複数の炭素-炭素二重結合を有する不飽和の、直鎖または分枝炭化水素基、例えばビニル基を意味する。「アルキニル基」という用語は、1または複数の炭素-炭素三重結合を有する不飽和の、直鎖または分枝炭化水素基を意味する。「環状官能基」という用語は、脂環式基、芳香族基、または複素環基として分類される閉鎖環炭化水素基を意味する。「脂環式基」という用語は、脂肪族基に類似する特性を有する環状炭化水素基を意味する。「芳香族基」または「アリール基」という用語は単環式または多環式炭化水素基を意味し、1または複数のヘテロ原子を含んでもよく、以下で、さらに規定する。「複素環基」は、環内の1または複数の原子が炭素以外の元素(例えば、窒素、酸素、硫黄など)である閉鎖環炭化水素を意味し、以下で、さらに規定する。
【0031】
「有機基」は機能化されてもよく、またはそうでなければ有機基、例えば、カルボキシル、アミノ、ヒドロキシルなど(保護されてもよく保護されなくてもよい)と関連する追加の官能基を含んでもよい。例えば、「アルキル基」という句は、純粋な開鎖飽和炭化水素アルキル置換基、例えば、メチル、エチル、プロピル、t-ブチル、などだけでなく、当技術分野で周知の別の置換基、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルチオ、アルキルスルホニル、ハロ、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシルなどを有するアルキル置換基をも含むものとする。このように、「アルキル基」はエーテル、エステル、ハロアルキル、ニトロアルキル、カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル、スルホアルキルなどを含む。
【0032】
「ハロ基」または「ハロゲン」という用語は、本明細書では同じ意味で使用され、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード基を示す。好ましいハロゲンはクロロおよびフルオロである。
【0033】
「ハロアルキル」という用語は、1または複数のハロゲン基により置換された上記で規定されたアルキル基を示す。ハロゲン原子は同じであっても異なってもよい。「ジハロアルキル」は2のハロ基により置換された上記アルキル基を示し、ハロ基は同じであっても異なってもよい。「トリハロアルキル」という用語は、3のハロ基により置換された上記アルキル基を示し、ハロ基は同じであっても異なってもよい。「ペルハロアルキル」は、アルキル基内の各水素原子がハロゲン原子により置換されている上記で規定されたハロアルキル基を示す。「ペルフルオロアルキル」という用語は、アルキル基内の各水素原子がフルオロ基により置換されている上記で規定したハロアルキル基を示す。
【0034】
「シクロアルキル」という用語は、完全に飽和された、または部分的に不飽和の一、二または三環式飽和環を意味する。そのような官能基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アダマンチル、シクロオクチル、cis-またはtrans-デカリン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、シクロへクス-1-エニル、シクロペント-1-エニル、1,4-シクロオクタジエニル、などが挙げられる。
【0035】
「(シクロアルキル)アルキル」という用語は、上記シクロアルキル環の1つと置き換えられた上記で規定したアルキル基を意味する。そのような官能基の例としては、(シクロヘキシル)メチル、3-(シクロプロピル)-n-プロピル、5-(シクロペンチル)ヘキシル、6-(アダマンチル)ヘキシル、などが挙げられる。
【0036】
「置換フェニル」という用語は、ハロゲン、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、メルカプト、アルキルチオ、トリフルオロメチル、C1〜C7アルキル、C1〜C7アルコキシ、C1〜C7アシル、C1〜C7アシルオキシ、カルボキシ、オキシカルボキシ、保護カルボキシ、カルボキシメチル、保護カルボキシメチル、ヒドロキシメチル、保護ヒドロキシメチル、アミノ、保護アミノ、(一置換)アミノ、保護(一置換)アミノ、(二置換)アミノ、カルボキサミド、保護カルボキサミド、N-(C1〜C6アルキル)カルボキサミド、保護N-(C1〜C6アルキル)カルボキサミド、N,N-ジ(C1〜C6アルキル)カルボキサミド、トリフルオロメチル、N-((C1〜C6アルキル)スルホニル)アミノ、N-(フェニルスルホニル)アミノまたは置換もしくは非置換フェニル、例えばビフェニルまたはナフチル基からなる群から選択される、1または複数の部分で、いくつかの場合では、2または3の部分で置換されたフェニル基を指定する。
【0037】
「置換フェニル」という用語の例としては、モノ-またはジ(ハロ)フェニル基、例えば、2-、3-または4-クロロフェニル、2,6-ジクロロフェニル、2,5-ジクロロフェニル、3,4-ジクロロフェニル、2-、3-または4-ブロモフェニル、3,4-ジブロモフェニル、3-クロロ-4-フルオロフェニル、2-、3-または4-フルオロフェニルなど;モノまたはジ(ヒドロキシ)フェニル基、例えば、2、3、または4-ヒドロキシフェニル、2,4-ジヒドロキシフェニル、それらの保護ヒドロキシ誘導体など;ニトロフェニル基、例えば、2-、3-または4-ニトロフェニル;シアノフェニル基、例えば、2-、3-または4-シアノフェニル;モノ-またはジ(アルキル)フェニル基、例えば、2-、3-または4-メチルフェニル、2,4-ジメチルフェニル、2-、3-または4-(イソ-プロピル)フェニル、2-、3-または4-エチルフェニル、2-、3-または4-(n-プロピル)フェニルなど;モノまたはジ(アルコキシ)フェニル基、例えば、2,6-ジメトキシフェニル、2-、3-または4-(イソプロポキシ)フェニル、2-、3-または4-(t-ブトキシ)フェニル、3-エトキシ-4-メトキシフェニルなど;2-、3-または4-トリフルオロメチルフェニル;モノ-もしくはジ-カルボキシフェニルまたは(保護カルボキシ)フェニル基、例えば、2-、3-もしくは4-カルボキシフェニルまたは2,4-ジ(保護カルボキシ)フェニル;モノ-もしくはジ-(ヒドロキシメチル)フェニルまたは(保護ヒドロキシメチル)フェニル、例えば、2-、3-もしくは4-(保護ヒドロキシメチル)フェニルまたは3,4-ジ(ヒドロキシメチル)フェニル;モノ-もしくはジ-(アミノメチル)フェニルまたは(保護アミノメチル)フェニル;または、モノ-もしくはジ-(N-(メチルスルホニルアミノ))フェニル、例えば、2-、3-または4-(N-(メチルスルホニルアミノ))フェニルが挙げられる。また、「置換フェニル」という用語は、置換基が異なる二置換フェニル基を示し、例えば、3-メチル-4-ヒドロキシフェニル、3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル、2-メトキシ-4-ブロモフェニル、4-エチル-2-ヒドロキシフェニル、3-ヒドロキシ-4-ニトロフェニル、2-ヒドロキシ-4-クロロフェニルなどである。
【0038】
「(置換フェニル)アルキル」という用語は、上記アルキル基の1つに結合された上記置換フェニル基の1つを意味する。そのような官能基の例としては、2-フェニル-1-クロロエチル、2-(4’-メトキシフェニル)エチル、4-(2’,6’-ジヒドロキシフェニル)-n-ヘキシル、2-(5’-シアノ-3’-メトキシフェニル)-n-ペンチル、3-(2’,6’-ジメチルフェニル)プロピル、4-クロロ-3-アミノベンジル、6-(4’-メトキシフェニル)-3-カルボキシヘキシル、5-(4’-アミノメチルフェニル)-3-(アミノメチル)ペンチル、5-フェニル-3-オキソペント-1-イル、(4-ヒドロキシナフ-2-イル)メチルなどが挙げられる。
【0039】
上記のように、「芳香族」または「アリール」は5員および6員炭素環を示す。また、上述したように、「ヘテロアリール」は、1〜4のヘテロ原子、例えば、酸素、硫黄、および/または窒素原子、特に窒素原子を単独でまたは硫黄もしくは酸素環原子と共に有する、任意に置換されていてもよい5員または6員環を示す。これらの5員および6員環は完全に不飽和でもよい。
【0040】
さらに、上記任意に置換されていてもよい5員または6員環は、任意に縮合させて芳香族5員または6員環構造としてもよい。例えば、環は任意に縮合させて芳香族5-員または6-員環構造、例えばピリジンまたはトリアゾール構造、好ましくはベンゼン環としてもよい。
【0041】
下記環構造は、「ヘテロアリール」という用語により示される複素環(置換であろうと非置換であろうと)ラジカルの例である:チエニル、フリル、ピロリル、ピロリジニル、イミダゾリル、イソキサゾリル、トリアゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、テトラゾリル、チアトリアゾリル、オキサトリアゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、オキサジニル、トリアジニル、チアジアジニルテトラゾロ、1,5-[b]ピリダジニルおよびプリニル、ならびにベンゾ縮合誘導体、例えば、ベンゾキサゾリル、ベンズチアゾリル、ベンズイミダゾリルおよびインドリル。
【0042】
上記任意に置換されていてもよいヘテロアリール環に対する置換基は、1〜3のハロ、トリハロメチル、アミノ、保護アミノ、アミノ塩、一置換アミノ、二置換アミノ、カルボキシ、保護カルボキシ、カルボン酸塩、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、ヒドロキシ基の塩、低級アルコキシ、メルカプト、低級アルキルチオ、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、(シクロアルキル)アルキル、置換(シクロアルキル)アルキル、フェニル、置換フェニル、フェニルアルキル、および(置換フェニル)アルキルである。ヘテロアリール基に対する置換基は、前述の規定通りであり、トリハロメチルの場合、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、トリブロモメチルまたはトリヨードメチルとすることができる。ヘテロアリール環に対する上記置換基と関連して使用されるように、「低級アルコキシ」という用語は、C1〜C4アルコキシ基を意味し、同様に、「低級アルキルチオ」という用語は、C1〜C4アルキルチオ基を意味する。
【0043】
「(一置換)アミノ」という用語は、フェニル、置換フェニル、アルキル、置換アルキル、C1〜C4アシル、C2〜C7アルケニル、C2〜C7置換アルケニル、C2〜C7アルキニル、C7〜C16アルキルアリール、C7〜C16置換アルキルアリールおよびヘテロアリール基からなる群から選択される1つの置換基を有するアミノ基を示す。(一置換)アミノはさらに、「保護(一置換)アミノ」という用語により含まれるように、アミノ保護基を有することができる。「(二置換)アミノ」という用語は、フェニル、置換フェニル、アルキル、置換アルキル、C1〜C7アシル、C2〜C7アルケニル、C2〜C7アルキニル、C7〜C16アルキルアリール、C7〜C16置換アルキルアリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される2つの置換基を有するアミノ基を示す。2つの置換基は同じであっても異なってもよい。
【0044】
「ヘテロアリール(アルキル)」という用語は、上記で規定されるヘテロアリール基により任意の位置で置換された、上記で規定されるアルキル基を示す。
【0045】
「任意の(optional)」または「任意に(optionally)」は、その後に記述した事象、状況、特徴または要素が起こるかもしれないが、その必要はないことを意味し、その記述は、その事象または状況が起きる場合およびそれが起きない場合を含む。例えば、「アルキル基で任意に一または二置換されていてもよいヘテロシクロ基」は、アルキル基が存在してもよいが、その必要はないこと、その記述は、ヘテロシクロ基がアルキル基により一または二置換される状況、およびヘテロシクロ基がアルキル基により置換されない状況を含むことを意味する。
【0046】
「電子吸引性基」という用語は、分子上の官能基が、その分子内の同じ位置を水素が占有した場合に比べ、水素原子よりも電子をその官能基に向かって強く吸引することができることを意味する。電子吸引性基の例としては、例えば、ハロゲン基、-C(O)R基(式中、Rはアルキルである);カルボン酸およびエステル基;-NR3+基(式中、Rはアルキルまたは水素である);アゾ;ニトロ;-ORおよび-SR基(式中、Rは水素またはアルキルである);ならびにそのような電子吸引性基を含む有機基(本明細書で規定される通り)、例えばハロアルキル基(ペルハロアルキル基を含む)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
同じ分子式を有するが、原子の結合の性質もしくは順序または原子の空間配列が異なる化合物を「異性体」と呼ぶ。原子の空間配列の異なる異性体は「立体異性体」と呼ばれる。互いの鏡像ではない立体異性体を「ジアステレオマー」と呼び、互いに重ね合わせることができない鏡像である立体異性体を「エナンチオマー」と呼ぶ。化合物が不斉中心を有する、例えば、不斉中心が4つの異なる官能基に結合される場合、一対のエナンチオマーが可能である。エナンチオマーはその不斉中心の絶対配置により特徴づけることができ、CahnおよびPrelogのR-およびS-順位規則により記述され、または分子が偏光面を回転させ、右旋性もしくは左旋性(すなわち、それぞれ(+)-もしくは(-)-異性体)として示される様式により記述される。キラル化合物は、個々のエナンチオマーまたはそれらの混合物のいずれかとして存在することができる。等しい比率のエナンチオマーを含む混合物は「ラセミ混合物」と呼ばれる。
【0048】
本発明の化合物は1または複数の不斉中心を有してもよく;そのため、そのような化合物は個々の(R)-もしくは(S)-立体異性体またはそれらの混合物として生成させることができる。特に記載がなければ、明細書および請求の範囲における特別な化合物の説明または命名は、個々のエナンチオマーおよびそれらの混合物、ラセミまたはそうでないもの、の両方を含むものとする。立体化学の決定および立体異性体の分離のための方法は当技術分野で周知である(例えば“Advanced Organic Chemistry”、第4版、J. March、John Wiley and Sons、New York、1992の第4章の考察を参照のこと)。
【0049】
概観
本発明はチアゾリジノン組成物、チアゾリジノン誘導体組成物および嚢胞性線維症コンダクタンス制御因子蛋白質(CFTR)の高親和性阻害におけるその使用方法、ならびにCFTR-媒介疾患および状態の研究および治療のためのその使用方法を提供する。対象のチアゾリジノン化合物およびその誘導体の発見は、CFTRと直接相互作用するCFTR阻害薬を同定するように設計されたアッセイ法を使用する多くの可能性のある候補化合物のスクリーニングに基づく。任意の特別な理論または動作モードに固執せずに、異なる活性化経路に作用する複数のCFTR活性化剤が対象化合物の同定に至る研究に含まれていたので、本発明の阻害化合物はおそらくCFTR Cl-輸送経路で、またはその付近で作用することにより阻害する。50,000の様々な化合物のスクリーニングにより、効果的なCFTR阻害薬としていくつかの2-チオキソ-4-チアゾリジノン化合物および誘導体を同定した。これらの化合物および誘導体は、従来の周知のCFTR活性化剤または従来の周知のCFTR阻害薬DPC、NPPBまたはグリベンクラミドとは化学的および構造的に関係ない。スクリーニングから同定した最も強力なCFTR阻害薬は、ヒト気道細胞におけるCl-電流の阻害に対し〜300nMのKIを有した。阻害は迅速で、可逆で、CFTR-特異的であった。
【0050】
本発明の組成物および方法について以下で、より詳細に説明する。
【0051】
チアゾリジノン化合物および誘導体
本発明の組成物および方法において使用するチアゾリジノン化合物および誘導体は5またはそれ以上の原子の複素環を有し、アリール置換窒素、少なくとも1つの硫黄、酸素、またはセレンヘテロ原子、および複素環と結合した1または複数のカルボニルまたはチオカルボニル基を含む。より特定的には、対象チアゾリジノン化合物および誘導体は、下記化学式(I)、または薬学的に許容されるそれらの誘導体を、個々の立体異性体またはその混合物として、有してもよい:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。A4が存在しない場合、中央複素環は5員環である。
【0052】
一定の態様では、上記化学式(I)のチアゾリジノン化合物および誘導体は化学式(Ia)を有する:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択される)。特定の態様では、X1は電子吸引性基であってもよく、ハロアルキル基、ジハロアルキル基、トリハロアルキル基(例えば、トリフルオロアルキル基)またはフルオロ基を含んでもよい。Y2は、独立してアルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基からなる群から選択され、Y1は独立して、ヒドロキシルおよびブロモ基から選択され、Y3は独立して水素および窒素基から選択される。
【0053】
多くの態様における化学式(I)の対象チアゾリジノン化合物および誘導体は化学式(Ib)の3-アリール-5-アリールメチレン-2-チオキソ-4-チアゾリジノンを含んでもよい:
(式中、
X1、X2およびX3の少なくとも1つは電子吸引性基であり;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される)。1つの態様では、X1は2、3、または4から選択される1つの位置にあり;Y2は、2、3、または4から選択される1つの位置にあり;Y1およびY3は水素であってもよい。
【0054】
3-アリール-5-アリールメチレン-2-チオキソ-4-チアゾリジノンはより特定的には、化学式(Ic)を有する:
(式中、
Y1〜Y3は上記の通りである)。1つの態様では、トリフルオロメチル基は2、3、または4から選択される1つの位置にあり;Y2は、2、3、または4から選択される1つの位置にあり;Y1およびY3はこの態様では水素であってもよい。
【0055】
本発明のいくつかの態様では、本発明のチアゾリジノン化合物は下記を含んでもよい:
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン。また、上記列挙した任意の化合物のトリフルオロメチル基はフェニル環の2位または4位としてもよい。
【0056】
薬学的調製物
本発明により、上記対象チアゾリジノン化合物の薬学的調製物も提供される。対象化合物は様々な経路による治療投与用の様々な製剤中に組み入れることができる。より特別には、本発明の化合物は、適当な、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤および/またはアジュバントと組み合わせることにより製剤化して薬学的組成物にすることができ、または製剤化して固体、半固体、液体また気体形態の調製物、例えば、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、坐薬、注射液、吸入薬およびエアロゾルとしてもよい。好ましくは、製剤は検出可能なDMSO(ジメチルスルホキシド)を含まない。DMSOは、非局所性の非経口投与または経腸投与用の薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントではない。製剤は、投与の必要な被験者または患者に多くの異なる経路、例えば経口、口腔、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、気管内投与などを介して投与されるように、設計されてもよい。
【0057】
1つの態様では、局所投与(例えば、経皮投与による)が対象である。局所用製剤は、経皮パッチ、軟膏、ペースト、ローション、クリーム、ゲルなどの形態をとることができる。局所用製剤は、浸透剤、濃厚剤、希釈剤、乳化剤、分散補助剤、または結合剤のうちの1または複数を含んでもよい。化合物が経皮送達用に製剤化される場合、化合物は浸透エンハンサーと共に、または浸透エンハンサーと共に使用されるように製剤化されてもよい。浸透エンハンサーには化学的浸透エンハンサーおよび物理的浸透エンハンサーが含まれ、これらにより化合物の皮膚を介した送達が容易になり、同じ意味で「透過エンハンサー」とも呼ばれることがある。物理的浸透エンハンサーとしては、例えば、電気泳動技術、例えばイオン導入法、超音波の使用(または「フォノフォレシス」)などが挙げられる。化学的浸透エンハンサーは化合物投与の前、直後、またはそれと共に投与される作用物質であり、これにより皮膚、特に角質層の透過性が増大し、皮膚を介した薬物の浸透が増強される。
【0058】
皮膚透過性を増強させるために使用されている化合物としては、スルホキシド、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびデシルメチルスルホキシド(C10MSD);エーテル、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル、デカオキシエチレン-オレイルエーテル、およびジエチレングリコールモノメチルエーテル;界面活性剤、例えばラウリン酸ナトリウム、ライリル硫酸ナトリウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ポロキサマー(Poloxamer)(231、182、184)、ツィーン(Tween)(20、40、60、80)およびレシチン;1-置換アザシクロヘプタン-2-オン、特に1-n-ドデシルシクラザシクロヘプタン-2-オン;アルコール、例えばエタノール、プロパノール、オクタノール、ベンジルアルコールなど;ワセリン(petrolatum)、例えばワセリン(petroleum jelly)(petrolatum)、鉱物油(液体ワセリン)など;脂肪酸、例えばC8〜C22および他の脂肪酸(例えば、イソステアリン酸、オクタン酸、オレイン酸、ラウリン酸、吉草酸);C8〜C22脂肪アルコール(例えば、オレイルアルコール、ラウリルアルコール);C8〜C22脂肪酸および他の脂肪酸の低級アルキルエステル(例えば、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、オレイン酸エチル);C8〜C22脂肪酸のモノグリセリド(例えば、モノラウリン酸グリセリル);テトラヒドロフルフリルアルコールポリエチレングリコールエーテル;2-(2-エトキシエトキシ)エタノール;ジエチレングリコールモノメチルエーテル;ポリエチレンオキシドのアルキルアリールエーテル;ポリエチレンオキシドモノメチルエーテル;ポリエチレンオキシドジメチルエーテル;C6〜C8二酸の二-低級アルキルエステル(例えば、アジピン酸ジイソプロピル);酢酸エチル;アセト酢酸エステル;ポリオールおよびそれらのエステル、例えば、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールモノラウレート;アミドおよび他の窒素含有化合物、例えば尿素、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、2-ピロリドン、N-アルキルピロリドン、例えば、1-メチル-2-ピロリドン;エタノールアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン;テルペン;アルカノン、および有機酸、とくにサリチル酸およびサリチレート、クエン酸およびコハク酸が挙げられる。他の化学的および物理的浸透エンハンサーは、例えば、Transdermal Delivery of Drugs、A.F.Kydonieus (ED) 1987 CRL Press;Percutaneous Penetration Enhancers、eds. Smith et al.(CRC Press、1995);Lenneruas et al.、J Pharm Pharmacol 2002;54(4):499-508;Karande et al.、Pharm Res 2002;19(5):655-60;Vaddi et al.、J Pharm Sci 2002 July;91(7):1639-51;Ventura et al.、J Drug Target 2001;9(5):379-93;Shokri et al.、Int J Pharm 2001;228(1-2):99-107;Suzuki et al.、Biol Pharm Bull 2001;24(6):698-700;Alberti et al.、J Control Release 2001;71(3):319-27;Goldstein et al.、Urology 2001;57(2):301-5;Kiijavainen et al.、Eur J Pharm Sci 2000;10(2):97-102;およびTenjarla et al.、Int J Pharm 1999;192(2):147-58に記述されている。
【0059】
化合物が化学的な浸透エンハンサーと共に製剤化される場合、浸透エンハンサーは化合物との適合性について選択され、被験者の皮膚を通して化合物が容易に送達されるように、例えば化合物が体循環に送達されるように、十分な量で存在する。1つの態様では、化合物はDMSO以外の浸透エンハンサーと共に製剤化される。
【0060】
1つの態様では、化合物は薬物送達パッチ、例えば経粘膜または経皮パッチ中で提供され、浸透エンハンサーと共に製剤化することができる。パッチは一般に裏当て層(化合物および他の製剤成分に対し不透過性である)、裏当て層の1つの側と接触するマトリクス(このマトリクスにより、化合物の持続放出が提供され、これは制御放出であってもよい)、および接着層(裏当て層のマトリクスと同じ側に存在する)を含む。マトリクスは投与経路に適したものを選択することができ、例えば、ポリマまたはヒドロキシゲルマトリクスとすることができる。
【0061】
薬学的剤形では、本発明の対象化合物は薬学的に許容される誘導体、例えば、塩の形態で投与してもよく、また、単独でまたは他の薬学的に活性な化合物と適当に関連させて、およびそれらと組み合わせて使用してもよい。下記方法および賦形剤は例示にすぎず、決して制限するものではない。
【0062】
経口投与のために、対象化合物を単独でまたは適当な添加剤と組み合わせて使用し、例えば、下記のものと共に、錠剤、粉末、顆粒またはカプセルを作成することができる:従来の添加剤、例えば、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプンまたはジャガイモデンプン;結合剤、例えば結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシアゴム、トウモロコシデンプンまたはゼラチン;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプンまたはカルボキシメチルセルロースナトリウム;潤滑剤、例えばタルクまたはステアリン酸マグネシウム;および所望であれば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤および芳香剤。対象チアゾリジノン化合物と緩衝剤との製剤が特に興味深く、化合物が胃環境の低pHから保護される。胃を通過する間に化合物が沈澱するのを避けるために腸溶性コーティングを提供することも好ましい。
【0063】
本発明の対象化合物は、水性または非水性溶媒、例えば、植物油または他の同様な油、合成脂肪族酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステル中で化合物を溶解、懸濁または乳化させることにより;所望であれば、従来の添加剤、例えば可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤および保存剤と共に、注射用調製物に製剤化することができる。特に興味深い可溶化剤としては、ビタミンE TPGS(d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート)、シクロデキストリンなどが挙げられる。
【0064】
本発明の化合物は、吸入により投与されるエアロゾル製剤において使用することができる。本発明の化合物は、加圧された許容される噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など中で製剤化することができる。
【0065】
さらに、対象化合物は、様々な塩基、例えば乳化塩基または水溶性塩基と共に混合することにより坐薬とすることができる。本発明の化合物は坐薬により直腸内投与することができる。坐薬はビヒクル、例えばココアバター、カルボワックス(carbowax)およびポリエチレングリコールを含むことができ、これらは体温で溶解するが、室温では固化する。
【0066】
経口または直腸投与のための単位剤形、例えば、シロップ、エリキシルおよび懸濁液を提供してもよく、この場合、各投与単位、例えば、茶さじ一杯、テーブルスプーン一杯、錠剤または坐薬は、1または複数の阻害薬を含む予め決められた量の組成物を含む。同様に、注射用または静脈内投与用の単位剤形は、滅菌水、生理食塩水または別の薬学的に許容される担体に溶解した溶液として組成物中に阻害薬を含んでもよい。
【0067】
治療を受ける被験者および状態、ならびに投与経路により、対象化合物は、例えば、0.1μg〜10mg/kg体重/日の用量で投与されてもよい。範囲は広い。一般に、異なる哺乳類に対する治療効果の効き目は大きく変動し、用量は典型的には、ラットに比べヒトでは、20、30または40倍小さくなる(単位体重あたり)。同様に投与モードは用量に大きく影響することがある。本発明者らは、マウスにおいてコレラ毒素により誘発された腸液分泌が約10〜20μgの腹腔内単回投与により効果的に遮断され、ラットでは約10倍の用量が効果的であることを見出した。このように、例えば、経口用量は注射用量の約10倍となるかもしれない。局所送達経路ではより高い用量を使用してもよい。
【0068】
典型的な用量は静脈内投与に適した溶液;毎日2〜6回摂取される錠剤、または1日1回摂取され、比例的により高い量の活性成分などを含む、1つの持続放出性カプセルもしくは錠剤としてもよい。持続放出効果は、異なるpH値で溶解するカプセル材料により、浸透圧により徐々に放出するカプセルにより、または周知の任意の他の制御放出手段により得ることができる。
【0069】
対象方法において使用するために、対象化合物を他の薬学的に活性な薬剤、例えば他のCFTR-阻害薬と共に製剤化してもよい。
【0070】
本発明と共に使用することができる薬学的に許容される賦形剤、例えばビヒクル、アジュバント、担体または希釈剤は一般の人々が容易に入手できる。さらに、薬学的に許容される補助物質、例えばpH調節および緩衝剤、緊張度調節剤(tonicity adjusting agent)、安定化剤、湿潤剤などは、一般の人々に容易に入手できる。
【0071】
当業者であれば、用量レベルは特定の化合物、症状の重篤度および被験者の副作用への感受性の関数として変動することがある。一定の化合物に対する好ましい用量は、様々な手段により当業者により容易に決定することができる。
【0072】
単位用量の対象化合物を、通常経口または注射用の用量で備えたキットが提供される。そのようなキットでは、単位用量を含む容器の他に、対象の病的状態の治療における薬物の使用および結果として伴う利点を記述している情報パッケージ挿入物が存在する。好ましい化合物および単位用量は本明細書で上述したものである。
【0073】
本発明のCFTR阻害薬を使用する治療に適した状態
本明細書で開示したCFTR阻害薬は、CFTRの活性、例えばイオン輸送におけるCFTRの活性に起因するCFTRにより媒介される状態、すなわち、任意の状態、障害もしくは疾患、またはそのような状態、障害もしくは疾患の徴候の治療に有益である。そのような状態、障害、疾患、またはそれらの徴候は、CFTR活性の阻害、例えば、CFTRイオン輸送の阻害による治療に適している。
【0074】
1つの態様では、本発明のCFTR阻害薬は、異常に増加した腸分泌、特に急性の異常に増加した腸分泌に関連する状態の治療に使用される。CFTR活性は、様々な作動薬、例えばコレラ毒素に応じる腸分泌に関係する(例えば、Snyder et al. 1982 Bull. World Heath Organ. 60:605-613;Chao et al. 1994 EMBO J. 13:1065-1072;Kimberg et al. 1971 J. Clin. Invest.50:1218-1230を参照のこと)。このように、本発明のCFTR阻害薬はCFTRイオン輸送を阻害し、これにより腸液分泌を減少させるのに効果的な量で投与することができる。
【0075】
このように、CFTR阻害薬を、腸炎症性疾患および下痢、特に分泌性下痢の治療に使用することができる。分泌性下痢は、毎年約5百万人が死亡する発展途上国における乳児死亡の最も大きな原因である(Gabriel at el.、1994 Science 266:107-109)。CFマウスを使用する研究を含むいくつかの研究では、CFTRが、様々な作動薬に応じた腸塩化物イオン(およびこのため腸液)分泌に対する最終共通経路であることが示される(Synder et al.、1982、Bull. World Heath Organ. 60:605-613;Chao et al.、1994 EMBO.J. 13:1065-1072;およびKimberg et al.、1971、J. Clin. Invest. 50:1218-1230)。本明細書で使用した腸液分泌のマウスモデルにより、非毒性用量で阻害薬を全身投与することによるCFTR阻害により、コレラ毒素により誘発された腸液分泌が効果的に遮断されることが示される(実施例を参照のこと)。
【0076】
本発明のCFTR阻害薬を使用する治療に適しているかもしれない下痢は、様々な病原菌または病原体への曝露、例えば、コレラ毒素(コレラ菌)、大腸菌(特に腸内毒素原性(ETEC))、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、寄生虫(例えば、ジアルジア(Giardia)、赤痢アメーバ)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidiosis)、サイクロスポーラ(Cyclospora))、下痢ウイルス(例えば、ロタウイルス)、食中毒、またはCFTRにより媒介される腸分泌が増大する毒素曝露(これらに限定されない)により生じることがある。
【0077】
他の下痢としては、AIDSに関連する下痢(例えば、エイズ関連下痢)、および炎症性胃腸疾患、例えば潰瘍性大腸炎、炎症性大腸炎(IBD)、クローン病、などが挙げられる。腸の炎症により腸の塩輸送の3つの主のメディエータの発現が調節され、経上皮Cl-分泌の増加および上皮NaCl吸収の阻害の両方により、潰瘍性大腸炎における下痢の一因となるかもしれないことが報告されている(例えば、Lohi et al.、2002、Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 283(3):G567-75を参照のこと)。
【0078】
本発明のCFTR阻害薬はまた、多発性嚢胞腎などの状態の治療において使用でき、さらに精巣におけるCFTR活性を阻害することにより男性不妊薬としての使用も見出されている。
【0079】
本発明のCFTR阻害薬について、より大型動物モデルにおいてスクリーニングすることができる(例えば、Spira et al.、1981、Infect. Immun. 32:739-747において記述されているウサギモデル)。さらに、生コレラ菌を使用した大便分析検査を実施し、さらに、本発明のCFTR阻害薬のキャラクタリゼーションを行うことができる。
【0080】
CFTR欠乏のヒト以外の動物モデルおよびヒト組織モデル
本発明のCFTR阻害薬はまた、減少したCFTR機能(例えば、減少したイオン輸送)に関連する疾患のヒト以外の動物モデルを作成するのに使用することができる。気道粘膜下腺による液分泌および高分子分泌の欠陥により、CFTR-欠乏被験者、特に嚢胞性線維症(CF)の影響を受けた被験者では粘膜毛様体クリアランスおよび細菌クリアランスの低下につながる証拠が益々増えている;が、ヒト気道腺での機能研究は肺移植時に得られる重篤な疾患を有する気道に制限されている(Jayaraman et al.2001 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:8119-8123)。急性CFTR阻害により、粘膜下腺による水、塩および高分子分泌におけるCFTRの役割の決定が可能である。高親和性CFTR阻害薬により、ヒトにおけるCFTR-欠乏を模倣する、例えば、ヒトCF表現型を模倣するヒト以外の動物モデルを薬理学的に作成することができる。特に、CFTR欠乏(例えば、CF)の大型動物モデルは、CFにおける気道疾患の始まりおよび進行の病態生理を評価する、およびCF治療の効能を評価する、例えばCFTR-欠乏またはその徴候の治療に対する候補薬剤をスクリーニングするのに特に使用される。
【0081】
CFTRイオン輸送の阻害は、気道および膵臓疾患、ならびに男性不妊において現れることがある。例えば、肺および気道におけるCFTRチャネルの阻害は気道表面液に影響し、粘液の蓄積に至り、これにより気道が塞がれ、粘液が肺壁上に大量に集まり、感染が起こるのに最高の環境となり、慢性肺疾患に至ることがある。これと同じ現象が膵臓で起こり、蓄積した粘液が膵臓の外分泌機能に支障をきたし、本質的な食品加工酵素が腸に到達するのを阻止される。
【0082】
そのようなヒト以外の動物モデルは、イオン輸送におけるCFTR活性を減少させるのに有効な一定量のCFTR阻害薬を投与することにより作成することができる。ヒト以外の動物において嚢胞性線維症(CF)表現型を誘導するのに本発明のCFTR阻害薬を使用することは特に興味深い。例えば、肺においてCFTR受容体を阻害するのに効果的な一定量のCFTR阻害薬を投与すると、効果的に、CFで見られるCFTR欠陥が模倣される。CFTR阻害薬に対する送達経路は上記で詳細に説明している。使用したヒト以外の動物により、対象化合物は、例えば、1日に1〜3回、50〜500μg/kg体重の用量で、腹腔内、皮下、または他の経路により投与し、ヒト以外の動物モデルを作成してもよい。経口投与は腹腔内または皮下投与の約10倍までとしてもよい。
【0083】
CFTR-関連疾患のヒト以外の動物モデルを、減少したCFTR活性に関連する任意の適当な状態のモデルとして使用することができる。そのような状態としては、CFTR突然変異と関連するものが挙げられ、この突然変異により上皮イオンおよび水輸送において異常が生じる。これらの異常は気道の粘膜毛様体クリアランス、ならびに他の粘膜上皮および管上皮における障害に関連する。ヒト以外の動物においてCFTR-欠乏表現型を誘導することにより薬理学的にモデルを作成することができる状態としては、嚢胞性線維症(非定型CFを含む)、突発性慢性膵炎、輸精管障害、軽い肺疾患、喘息などが挙げられるが、これらに限定されない。CFTR機能の低下と関連する疾患について再考するために、例えば、Noone et al. Respir Res 2 328-332(2001)を参照のこと。CFTR阻害薬により作成したヒト以外の動物モデルはまた、CFTR欠乏被験者において微生物感染(例えば、細菌、ウイルス、または真菌感染、特に呼吸器感染)モデルとしても機能することができる。特に興味深い1つの態様では、本発明のCFTR阻害薬は、薬理学的に嚢胞性線維症(CF)表現型を誘発するために使用される。
【0084】
本発明の動物モデルの作成に使用するのに適した動物としては、任意の動物、特に哺乳類、例えばヒト以外の霊長類(例えば、サル、チンパンジー、ゴリラなど)、齧歯類(例えば、ラット、マウス、スナネズミ、ハムスター、フェレットなど)、ウサギ、ブタ(例えば、ブタ、ミニブタ)、ウマ、イヌ、ネコなどが挙げられる。大型動物が特に興味深い。
【0085】
CFTR阻害薬を、単離したヒト組織と接触させ、疾患のエクスビボモデルを作成することもできる。そのような組織を、組織においてCFTR活性を減少させるのに効果的な一定量のCFTR阻害薬と接触させる。接触は15分という短い時間であってもよく、または2時間もしくはそれ以上という長い時間としてもよい。対象となるヒト組織としては、肺(気管および気道を含む)、肝臓、膵臓、睾丸などが挙げられるが、これらに限定されない。生理学、生物化学、ゲノムまたは他の研究を阻害薬で処理した組織について実施し、疾患の病態生理において重要な新規治療標的分子を同定することができる。例えば、CFを有さないヒトから単離した組織を、CF表現型を誘発するのに十分な阻害薬に曝露することができ、そのような研究を実施し、CFの病態生理において重要な新規治療標的分子を同定することができる。
【0086】
本発明の化合物の合成
本発明の化合物は、当業者に周知の方法、またはUS第5,326,770号およびUS第6,380,186号(これらは全て参照により全体として本明細書に組み込まれる)で開示された方法と類似する方法により、または下記方法と類似する方法により調製してもよい。
【0087】
以下の記述では、示した化学式の置換基および/または変数の組み合わせは、そのような組み合わせにより安定な化合物が得られる場合にのみ許容されることは理解される。
【0088】
当業者であれば、下記方法では、中間体化合物の官能基は適した保護基により保護される必要があるかもしれないことも認識されるであろう。そのような官能基としては、ヒドロキシ、アミノ、メルカプトおよびカルボン酸が挙げられる。ヒドロキシに対する適した保護基としてはトリアルキルシルまたはジアリールシリル(例えば、t-ブチルジメチルシリル、t-ブチルジフェニルシリルまたはトリメチルシリル)、テトラヒドロピラニル、ベンジルなどが挙げられる。アミノ、アミジノおよびグアニジノに対する適した保護基としては、t-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどが挙げられる。メルカプトに対する適した保護基としては、-C(O)-R(式中、Rはアルキル、アリールまたはアラルキルである)、p-メトキシベンジル、トリチルなどが挙げられる。カルボン酸に対する適した保護基としてはアルキル、アリールまたはアラルキルエステルが挙げられる。
【0089】
保護基は、当業者に周知であり、本明細書で記述されているような標準技術により添加または除去してもよい。
【0090】
保護基の使用は、Theodora W. Greene、Peter G. M. Wuts、Protective Groups in Organic Synthesis(1999)、3rd Ed.、Wiley-Interscienceにおいて詳細に記述されている。保護基はまた、Wang樹脂または2-クロロトリチルクロリド樹脂などのポリマ樹脂としてもよい。
【0091】
当業者であれば、上記のように(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)、化学式(I)の化合物のそのような保護誘導体はそれ自体薬理学的活性を有していないこともあるが、哺乳類に投与され、その後体内で代謝されると、薬理学的に活性な本発明の化合物を形成することができることも認識されるであろう。そのため、そのような誘導体は「プロドラッグ」として記述されてもよい。化学式(I)の化合物の全てのプロドラッグは本発明の範囲内に含まれる。
【0092】
下記反応スキームは本発明の化合物の製造方法を示したものである。当業者であれば、同様の方法により、または当業者に周知の方法により、本発明の化合物を製造することができることは理解されるであろう。一般に、開始成分はAldrichなどの供給源から得てもよく、または当業者に周知の源に従い合成してもよい(例えば、Smith and March、March’s Advanced Organic Chemistry:Reactions、Mechanisms、and Structure、5th edition(Wiley Interscience、New York)を参照のこと)。さらに、本発明の化合物の様々な置換された官能基(例えば、X1、X2、X3、Y1、Y2およびY3など)が、当業者に周知の方法により、開始成分、中間体成分、および/または最終生成物に結合されてもよい。
【0093】
下記反応スキームでは、Rはアルキルまたはアラルキル基を示し、Wはハロゲン原子、例えば、Cl、BrまたはIを示す。
【0094】
下記反応スキームIは、化学式(1)の化合物の調製に関し、これらの化合物は上記のように(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)本発明の化合物であり、ここでA4は存在せず、A1、A2、A3、X1、X2、X3、Y1、Y2およびY3は上記の通りである(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)。
反応スキームI
【0095】
一般に、化学式(I)の化合物は、最初に化学式(a)の化合物を1当量の塩基、例えばNaOHと、雰囲気温度で処理することにより調製される。その後、THFなどの適当な溶媒に溶解した化学式(b)の化合物を反応混合物に添加する。その後、得られた反応混合物を約1時間〜約24時間の間の期間、撹拌する。その後、HClなどの酸を反応混合物に添加する。その後、得られた反応混合物を約1時間〜約24時間の間の期間、撹拌する。その後、化学式(c)の化合物を反応混合物から標準単離および精製技術により単離する。その後、化学式(c)の化合物を化学式(d)の化合物と、標準Knoevenagel縮合条件下で処理すると、化学式(I)の所望の生成物が得られる。
【0096】
また、化学式(I)の化合物は、下記反応スキーム2に従い調製することができる。ここで、A1、A2、A3、Y1、Y2およびY3は上記の通りであり(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)、Wはハロである:
反応スキーム2
【0097】
一般に、化学式(I)の化合物は、最初に化学式(e)の化合物を化学式(f)の化合物と、標準Knoevenagel縮合条件下、例えば氷酢酸、アルコールまたは別の適当な溶剤中、触媒量のピペリジンの存在下での還流下などにおいて処理することにより調製される。その後、化学式(g)の化合物を反応混合物から標準単離および精製技術により単離する。その後、化学式(g)の化合物を化学式(h)の化合物と、標準Ullmann縮合条件下、例えば、CuまたはCu2OまたはCuOの存在下高温で処理すると、化学式(I)の所望の生成物が得られる。
【0098】
また、化学式(I)の化合物は、下記反応スキーム3に従い調製することができる。ここで、A1、A2、A3、Y1、Y2およびY3は上記の通りであり(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)、Wはハロである:
反応スキーム3
【0099】
この反応スキームでは、第1段階は、化学式(e)の化合物と化学式(h)の化合物との間のUllmann縮合であり、化学式(c)の化合物が生成し、その後、化学式(d)の化合物とのKnoevenagel縮合を受け、化学式(1)の所望の生成物が得られる。
【0100】
化学式(e)の開始化合物は、異なる化学薬品供給者から購入することができ、または当業者に周知の方法により、もしくはF.C.Brown et al.、J. Am. Chem. Soc.、78、384-388(1956);R.E. Strube、Organic Synthesis、CV 4、6;K.S.Markley and E.E.Reid、J. Am. Chem. Soc.、52、2137-2141(これらは全て、参照により、全体として本明細書に組み込まれる)において開示された方法に類似する方法により合成することができる。
【0101】
上記と同様の様式で、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(本明細書では、CFTRinh-172と呼ぶ)(図1Cを参照のこと)ならびに異なる位置のトリフルオロメチルおよびカルボキシ置換基を有する類似体(例えば、図1Dを参照のこと)の合成を、2-チオキソ-3-[a-トリフルオロメチル-4-フェニル]-4-チアゾリジノン(a=2、3または4)のb-カルボキシベンズアルデヒド(b=2、3または4)とのピペリジンの存在下でのKnoevenagel縮合により達成した。沈澱を濾過し、エタノールで洗浄し、乾燥させ、エタノールから2〜3回再結晶化させると、鮮黄色の結晶が得られた(収率70〜85%)。構造を1H-NMRにより確認した。薄層クロマトグラフィーおよびHPLCにより判断すると、純度は>99%であった。
【0102】
実施例
下記実施例は、本発明をどのように製造し使用するかを、当業者に完全に開示し説明するために、示したものであり、発明者らが発明であると考えている範囲を限定するものではなく、下記実験が全てであることを示すものではなく、実施した実験にすぎない。使用した数値(例えば、量、温度など)については精度を保証するように努力がなされているが、いくつかの実験誤差および偏差が説明されるべきである。特に記載がなければ、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏温度、および圧力は大気圧またはその付近である。
【0103】
本発明の化合物の合成について、下記実施例を用いて例示するが、これらに限定されるものではない。
【0104】
合成例
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノンの合成
A. 酢酸エチル(10mL)に溶解した3-トリフルオロメチルアニリン(1.6g、10mmol)およびトリエチルアミン(1g、10mmol)の撹拌溶液に、30分の期間中、二硫化炭素(0.8g、10mmol)を滴下した。添加が大体半分完了すると、穏やかな発熱反応が始まり、この発熱反応は氷浴を断続的に使用することにより容易に制御できた。一晩中撹拌した後、粘度の高い黄色スラリーを濾過し、沈澱をジエチルエーテル50mLで洗浄し、空気乾燥すると、3gの黄白色のジチオカルバメート固体(89%)が得られた。m.p.92〜95℃(dec.)。
【0105】
B. クロロ酢酸ナトリウム(クロロ酢酸(0.064g、0.46mmol)を含むNaHCO3溶液0.6mL、pH 8〜9から調製)を撹拌し、5〜10℃まで冷却し、ジチオカルバメート(0.3g、0.9mmol)を10分間にわたり添加した。撹拌を続けながら、フラスコを雰囲気温度まで温めた。2時間撹拌した後、溶液を10℃まで冷却し、濃塩酸で酸性化し、反応混合物を90〜95℃まで30分間加熱した。得られた沈澱を濾過し、水で洗浄し、エタノールから再結晶化すると、0.103gの2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-4-チアゾリジノンが、光沢のある結晶として83%の収率で得られた。m.p. 177〜178℃。
【0106】
C. 無水アルコール(1mL)およびピペリジン(1滴)に溶解した上記で得られた2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-4-チアゾリジノン(0.1g、0.36mmol)および4-カルボキシベンズアルデヒド(0.054g、0.36mmol)の混合物を30分間、撹拌、還流した。黄色沈澱を濾過し、エタノールで洗浄し、乾燥させ、エタノールから再結晶化させると、0.108g(73%)の標題化合物が黄色結晶固体として得られた。m.p.:180〜182℃。
【0107】
D. 上記と同様の様式で、下記化合物を調製した:
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-カルボキシ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4,5-トリヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
3-[(3-トリフルオロメチル-4-フルオロ)フェニル]-5-[(3-カルボキシ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および
3-[(4-フルオロ-3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン。
【0108】
下記材料および方法を下記実施例において使用した。
【0109】
細胞系、マウスおよび化合物
ヒト野生型CFTRおよびハロゲン化指標YFP-H148Qを共発現するFischerラット甲状腺(FRT)細胞を、前に記述されているように作成した(Galietta et al. 2001 J. Biol. Chem. 276:19723-19728)。細胞を96-ウエルの黒色壁マイクロプレート(Corning Costar)に、1ウエルあたり20,000細胞の密度で、5%ウシ胎児血清、2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリン、および100μg/mL ストレプトマイシンを補足したCoon改良F12培地中に蒔いた。プレーティング後48時間、細胞が集密(〜40,000細胞/ウエル)となった時点でアッセイ法を実施した。
【0110】
DMSO中に溶解した10mMストック溶液として得られ、96-ウエルマイクロプレート中100mMに希釈されたChemBridge(San Diego、CA)からの50,000薬物様化合物の様々なコレクションを使用して初期クリーニングを実施した。構造-活性分析をChemBridgeおよびChemDiv(San Diego、CA)から購入した類似体に対し実施した。
【0111】
野生型マウスおよび嚢胞性線維症(△F508ホモ接合突然変異)マウスを、カルフォルニア大学(サンフランシスコ、UCSF)のCFアニマルコア施設(Animal Core facility)により繁殖させた。動物プロトコルは動物研究に関するUCSF委員会により承認された。
【0112】
T84およびCaco-2細胞をUCSF細胞培養施設から獲得した。T84細胞を、5%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、および100μg/mL ストレプトマイシンを補足したDHEMおよびHams F12の1:1混合物で培養し、Snapwellインサート(Corning Costar)上に蒔き、加湿(5%O2/95%CO2)雰囲気中37℃で増殖させた。プレーティング後10〜14日の細胞を使用した。Caco-2細胞を、10%ウシ胎児血清、1%非必須アミノ酸、100U/mLペニシリン、および100μg/mL ストレプトマイシンを含むDMEM中で培養し、Snapwellインサート上で培養した。プレーティング後21〜24日の細胞を使用した。CD1遺伝的背景の野生型マウスを前述したように繁殖させた。オスWistarラット(200〜250g)をJackson研究所から購入した。動物プロトコルは動物研究に関するUCSF委員会により承認された。ヒト結腸断片を切除手術時に新たに獲得し、氷冷生理食塩水中で運搬し、切除後1時間以内に使用した。
【0113】
フォルスコリン、8-ブロモcGMP、アミロリド、コレラ毒素およびSTa毒素をSigma Chemical社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。CFTRact-16をChemBridge(カルフォルニア州サンディエゴ)から購入した。
【0114】
スクリーニング手順
3メートルのロボットアーム、CO2インキュベータ、プレートウォッシャー、液体処理ワークステーション、バーコード読み取り機、蓋除去(delidding)ステーション、および2つのFluoStar蛍光プレート読み取り機(BMG Labtechnologies、ドイツオッフェンブルグ)、各々2つのシリンジポンプおよびHQ500/20X(500±10nm)励起およびHQ535/30M(535±15nm)発光フィルタ(Chroma)を備える、から構成される特製スクリーニングシステム(Beckman)を用いて、アッセイ法を実施した。ロボットシステムは、2つのプレート読み取り機に対し修正されたSAMIバージョン3.3ソフトウエア(Beckman)を用いて統合させた。カスタムソフトウエアは、保存されたデータファイルからベースラインを引いた正規化蛍光勾配を計算するために(ハロゲン化物流入速度が得られる)、VBA(ビジュアル・ベーシック・フォー・アプリケーション)で書かれていた。
【0115】
アッセイ法は、インキュベータ(37℃、90%湿度、5% CO2)にFRT細胞を含む40〜60の96-ウエルプレートを入れることにより、およびカルーセルに試験化合物および使い捨てプラスチックピペット先端を含む96-ウエルプレートを入れることにより構成した。アッセイ法を開始するために、96-ウエルプレートの各ウエルをPBS(300μl/洗浄)中で3回洗浄し、50μlのPBSを残した。10μLのCFTR-活性化カクテル(5μMのフォルスコリン、100μMのIBMX、25μMのアピゲニンを含むPBS)を添加し、5分後、1つの試験化合物(1mM DMSO溶液0.5μL)を各ウエルに添加し、最終濃度10μMとした。10分後、96-ウエルプレートをプレート読み取り機に移し、蛍光アッセイ法を実施した。各ウエルに対しそれぞれ、蛍光を2s間(ベースライン)、その後、等モルPBS 160μl(この中で、137mMCl-がI-により置換される)を迅速に(<0.5秒)添加した後12秒間、連続して(200ms/点)蛍光を記録することにより、CFTR-媒介I-輸送についてアッセイした。
【0116】
細胞内[cAMP]および毒性のアッセイ法
[cAMP]およびホスファターゼアッセイ法を、前に報告されたように実施した(Galietta et al. 2001 J. Biol. Chem. 276:19723-19728)。0〜1000μMの阻害薬による細胞インキュベーション後24時間にジヒドロローダミン法により細胞毒性を評価した。0〜100μg/kgの阻害薬を毎日腹腔内注射した後5日に、マウス中の血清化学物質および血液学の測定(UCSF Clinical Laboratory)により、動物毒性を評価した。
【0117】
MDR-1活性
不死化したヒト気管細胞系、9HTEo-/Dx(MDR-1の内因性発現がドキソルビシン濃度の増加における選択により上方制御されている)における3H-ビンクリスチン蓄積を測定することにより、MDR-1活性を評価した(Rasola et al. 1994 J. Biol. Chem. 269:1432-1436)。細胞を24-ウエルマイクロプレートに播種した(200,000細胞/ウエル)。48時間後、細胞を、130 NaCl、2 KCl、1 KH2PO4、2 CaCl2、10 Na-Hepes(pH7.3)および10 ブドウ糖(mMで表す)を含む溶液で洗浄し、1時間37℃で、3H-ビンクリスチン(0.7μM;1μCi/mL)を含む同じ溶液200μlでインキュベートした。その後、細胞を3回、氷冷溶液で洗浄し、0.25M NaOH中に溶解した。ビンクリスチン量をシンチレーション計数により決定した。
【0118】
CFTR-発現FRT細胞を用いた短絡電流試験
CFTR-発現FRT細胞またはヒト気管支上皮細胞を含むSnapwellインサートをUssingチャンバシステム内に載置した。FRT細胞では、半チャンバを5mLの75mM NaClおよび75mM グルコン酸ナトリウム(頂端)ならびに150mM NaCl(側底)(pH7.3)で満たし、側底膜を250μg/mL アムホテリシンBで透過処理した(Galietta et al. 2001 J. Biol. Chem. 276:19723-19728)。気管支上皮細胞およびT84細胞では、両方の半チャンバはKrebs重炭酸塩溶液を含んだ。半チャンバを連続して、空気(FRT細胞)または5% CO2を含む空気(気管支およびT84細胞)により起泡させ、37℃で維持した。DVC-1000電圧クランプ(World Precision Instruments、フロリダ州サラソータ)を使用し、Ag/AgCl電極および1M KCl寒天橋を使用して、短絡電流を連続して記録した。
【0119】
Cl-チャネル活性のパッチクランプ分析
膜電流を細胞全体構造で測定した。Cl-チャネルの記録では、細胞外(浴(bath))溶液は以下のものを含み(mMで表す):150 NaCl、1 CaCl2、1 MgCl2、10 ブドウ糖、10 マンニトール、10 TES(pH 7.4)、細胞内(ピペット)溶液は下記のものと含んだ:120 CsCl、1 MgCl2、10 TEA-Cl、0.5 EGTA、1 Mg-ATP、10 Hepes(pH7.3)。CFTRはフォルスコリン(5μM)を含む細胞外溶液により活性化された。膜コンダクタンスの時間経過を、-100と+800mVの交流電圧パルスに応じてモニタした。確定した時間で、プロトコルを中断し、電流-電圧の関係を作成した(-100から+100mVまで、20mVのインクリメントの電圧パルス)。体積-感受性Cl-チャネルを低張溶液(120NaClまで減少させた細胞外NaCl;250mosM/kg)により活性化させた。カルシウム-感受性Cl-チャネルをヒト気管支上皮細胞で、100μM UTPを細胞外溶液に添加することにより活性化した。
【0120】
ATP-感受性K+チャネルのパッチクランプ分析
細胞外(浴)溶液が(mMで表すと)130 NaCl、2 KCl、1 KH2PO4、2 CaCl2、2 MgCl2、10 Na-Hepes(pH 7.3)および10ブドウ糖を含む膵臓β細胞系INS-1において膜電位を記録した。ピペットは下記のものを含んだ(mMで表す):140 KCl、1 CaCl2、2mM MgCl2、10 EGTA、0.5 MgATP、10 K-Hepes(pH7.3)。細胞全体構造を達成した後、増幅器を電流-クランプモードに切り換えた。
【0121】
腸液分泌および短絡電流
3アッセイ法の最初で、回腸ループにおける液体貯留を測定した(Oi et al. 2002 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:3042-3046;Gorbach et al. 1971 J. Clin. Invest. 50:881-889)。CD1遺伝的背景のマウス(8〜10週齢、体重25〜35g)(または△F508ホモ接合マウス)を24時間飢餓にさせ、腹腔内ケタミン(40mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)により麻酔した。加熱パッドを用いて、体温を手術中36〜38℃に維持した。腹腔を小さく切除し、小腸を露出させ、盲腸に近い閉回腸ループ(長さ20〜30mm)を縫合により単離した。ループに100μlのPBSを単毒で、またはコレラ毒素(1μg)を含むPBSを注入した。いくつかの実験では、阻害薬(150μg/kg)を腹腔内注入により投与した。腹腔切除を縫合により閉じ、マウスを麻酔から覚醒させた。6時間でマウスに麻酔をかけ、腸ループを外面化させ、腸間膜および結合組織を除去した後、ループ長および重量を測定した。
【0122】
分泌性下痢の密閉成体マウスモデルでは、マウスに、コレラ毒素(10μg)を含む7%重炭酸塩緩衝液(または緩衝液のみ)0.1mLを、口胃(orogastric)供給針を用いて強制飼養した(Richardson et al. 1986 Infect. Immun. 54:522-528;Gabriel et al. 1999 Am J. Physiol 276:G58-G63)。4つの実験群は下記の通りとした:対照(緩衝液のみ)、コレラ処理、コレラ-処理+阻害薬(強制飼養2分前に150μg/kg腹腔内)、および阻害薬のみ。6時間後、マウスを安楽死させ、小腸(幽門から盲腸まで)を外面化し、関連する腸間膜および結合組織を除去した。腸を計量し、その後縦方向に開き、内腔液を(ブロッティングにより)除去し、再び計量した。内腔液除去前後の腸重量の比から、液体貯留を計算した。短絡電流の測定のために、ラットの結腸細片を単離し、鈍的切開により筋肉層を除去し、Ussingチャンバ内に載置し(面積0.7cm2)、10μMのインドメタシンを含む酸素化重炭酸塩リンガー液に浸した。短絡電流を、アミロイド(10μM)によりNa+電流を阻害し、続いてフォルスコリン(20μM)により刺激し、その後阻害薬を添加した後、測定した。
【0123】
14C-標識CFTRinh-172の合成(図6)
酢酸エチル(10mL)に溶解した3-トリフルオロメチルアニリン(1.6g、10mM)およびトリエチルアミン(1g、10mM)の撹拌溶液に二硫化炭素(0.8g、10mM)を30分にわたり滴下することにより、中間体2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-4-チアゾリジノンを合成した。氷浴を使用し、反応中の過剰加熱を阻止した。一晩中撹拌した後、粘度の高い黄色スラリーを濾過し、沈澱をエーテル50mLで洗浄し、空気乾燥すると、3g(収率89%)の黄白色のジチオカルバメート固体(融点92〜95℃)が得られた。NaBr-14C-アセテート(Br-14C-酢酸(Amersham)、55mCi/mmol、64mg、0.6mLの水中0.46mM、NaHCO3を用いpH8〜9から調製)を撹拌し、5〜10℃まで冷却し、ジチオカルバメート(0.3g、0.9mM)を10分にわたり添加した。フラスコが室温まで温められるまで、撹拌を続けた。2時間後、溶液を10℃まで冷却し、濃縮HClで酸性化し、90〜95℃まで30分間加熱した。得られた沈澱を濾過し、水で洗浄し、エタノールから再結晶化すると、103mgの所望の生成物が光沢のある結晶(収率83%)として得られた。m.p.177〜178℃;比活性度(14C)55mCi/mmol。
【0124】
2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-5-[4-カルボキシフェニルメチレン]-4-チアゾリジノン(14C-5)(14C-CFTRinh-172)の合成では、無水アルコール(1mL)およびピペリジン(1滴)に溶解した2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-4-チアゾリジノン(14C-5)(100mg、0.36mM)および4-カルボキシベンズアルデヒド(54mg、0.36mM)の混合物を30分間還流させた。黄色沈澱を濾過し、エタノールで洗浄し、乾燥し、エタノールから再結晶化させると108mg(収率73%)の黄色結晶が得られた。m.p.180〜182℃;比活性度(14C)54mCi/mmol。
【0125】
薬物動態研究
3%DMSOを含むPBS(NaOHを用いてpH7.4に滴定)中の14C-CFTRinh-172(50μCi)のボーラスを、留置頸部カテーテルによりラットの静脈内に1分にわたり投与した(オスSprague-Dawleyラット、360-420g)。血液を特定時間にカテーテルから収集した。14C-放射活性を、シンチレーション計数(Scintiverse SE、Fisher、CA)によりLS-6500 Multi-Purpose Scintillation Counter(Beckman)を用いて血漿(14,000gで10分間全血の遠心分離により単離)中で決定した。WinNonlinソフトウエア(Pharsight)を用いて薬物動態分析を実施した。最終血液/組織サンプルを収集した後、ラットをペンタバルビタール過剰摂取により屠殺した。全ての動物手順は動物研究に関するUCSF委員会により承認された。
【0126】
組織分布および排出研究
14C-CFTRinh-172(2μCi)のボーラスを1分にわたりマウス(オスCD1マウス、30〜35g)に尾部静脈により静脈投与した。マウスを5、30、120および240分で屠殺した。臓器を取り出し、計量し、蒸留水中でホモジナイズした(10〜50vol%)。放射活性をホモジネート(25〜50μL)のシンチレーション計数により決定し、臓器あたり(または骨格筋に対する1g組織あたり)の総14C-放射活性として表した。同時に血液、尿および胆汁(胆嚢または十二指腸由来)を収集し、14C-放射活性を測定し、/mL流体として表した。排出研究を、14C-CFTRinh-172投与後最初の24時間にわたる尿および大便収集物により実施した。組織分布研究も、薬物動態研究に対するように調製したラットで実施した。
【0127】
阻害薬代謝の分析
体液(血漿、尿、胆汁)および肝臓ホモジネートのアリコートでシリカプレート上に斑点をつけ、酢酸エチル:ヘキサン:メタノール(1:1:0.1)溶媒系を用いて薄層クロマトグラフィーにより分離した。元の阻害薬に対してはrf〜0.5が得られた。オートラジオグラフィーをHyperfilm(Amersham)を用い、Transcreen LE増幅システム(Kodak)により実施した。14C-標識CFTRinh-172標準を全てのプレート上に含有させた。
【0128】
短絡電流測定(実施例7)
細胞研究では、T84細胞単層を含むSnapwellインサートをUssingチャンバシステム(Navicyte、Harvard Apparatus、Holliston、MA)内に載置した。半チャンバを、(mMで表した)NaCl 120、NaHCO3 25、KH2PO4 3.3、K2HPO4 0.8、MgCl2 1.2、CaCl2 1.2、ブドウ糖 10を含むKrebs-重炭酸塩溶液(37℃で維持)で満たし、5% CO2/95% O2で連続して起泡させた。高K+緩衝液は、(mMで表した)NaCl 65、KCl 67.5、KH2PO4 1.5、CaCl2 1、MgCl2 0.5、HEPES 10、ブドウ糖 10を含んだ。低Cl-緩衝液は、(mMで表した)グルコン酸ナトリウム120、KH2PO4 3.3、K2HPO4 0.8、MgCl2 1.2、CaCl2 1.2、HEPES 10、ブドウ糖 10(37℃で維持)を含み、連続して空気で起泡させた。マウス結腸での測定のために、マウスを腹腔内ケタミン(40mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)で麻酔した。回腸を除去し、氷冷Krebs緩衝液で洗浄し、腸管膜の境界に沿って開き、μ-Ussingチャンバ(面積0.7cm2、World Precision Instruments、Sarasota、FL)内に載置した。ヒトの腸での測定のために、結腸断片を鈍的切開により筋肉層を除去し、上記のように載置した。半チャンバを、10μMのインドメタシンを含む酸素化リンガー重炭酸塩溶液で満たした。Ag/AgCl電極および1M KCl寒天橋によりDVC-1000電圧クランプ(World Precision Instruments)を用いて短絡電流を記録した。作動薬/阻害薬を下記のように半チャンバに添加した。
【0129】
マウスおよびラットモデルにおけるインビボ腸液分泌(実施例5および7)
CD1遺伝的背景のマウス(8〜10週齢、体重25〜35g)を、24時間、水への接近を許可したが、食物は許可しなかった。マウスを上記のように麻酔し、体温を手術中加熱パッドを使用して36〜38℃に維持した。小さな腹部切開部を作成し、小腸を露出させ、盲腸付近の閉回腸ループ(長さ20〜30mm)を縫合により単離した。ループに100μLのPBSのみ、またはコレラ毒素(1μg)を含むPBSを注入した。いくつかの実験では、CFTRinh-172(0〜200μg)を、コレラ毒素注入前後の特定の時間に、腹腔内注入により投与した。縫合により腹部切開部を閉じ、マウスを麻酔から覚醒させた。6時間でマウスに麻酔をかけ、腸ループを外面化させ、腸間膜および結合組織を除去した後、ループ長および重量を測定した。
【0130】
ラット閉ループモデルでエンテロトキシンに誘発された液分泌を測定するために、オスWistarラット(体重200〜250g)をペントバルビタールナトリウム(45mg/kg)で麻酔した。ループ(40〜60mm)を単離し、300μlのPBSのみまたはコレラ毒素(10μg)もしくはSTa毒素(0.1μg)を含むPBSを注入した。いくつかの実験では、コレラ毒素またはSTa毒素投与後CFTRinh-172(200μg)を腹腔内注入により摂取させた。ループ長および重量を3hr(STa)または6hr(コレラ毒素)で測定した。
【0131】
経口投与したCFTRinh-172の研究では、開ループマウスモデルを使用した。このモデルでは、マウスには7%重炭酸塩緩衝液またはコレラ毒素(7%重炭酸塩緩衝液中1μg)を単独で、およびCFTRinh-172(ビタミンE TPGS中200μg、下記参照のこと)を、口胃供給針を使用して強制飼養した。6時間後、小腸(幽門から盲腸まで)を外面化し、関連する腸間膜および結合組織を除去した。腸を計量し、縦方向に開き、内腔液を除去し、再び計量し、液体貯留を定量化した。
【0132】
Caco-2透過性アッセイ法
Caco-2細胞を多孔性インサート上で培養し、400〜600Ωcm-1の単層抵抗を得た。輸送研究では、培地を、15mMのブドウ糖および25mMのHEPES(pH7.3)を含む等量のHank緩衝塩溶液(HBSS)と置換した。1hr後、CFTRinh-172(25μM)を上部チャンバに添加し、プレートを穏やかに37℃で揺り動かした。特定の時間に、低部(レシーバ)チャンバから50μLの溶液を取り出し、UV吸光度(385nm)によりCFTRinh-172濃度を測定した。見かけの透過性(Papp)を下記式から計算した:
Papp=dC/dT X(Vr/AC0)
(式中、dC/dTはレシーバチャンバ中のCFTRinh-172濃度の増加速度を示し、Vrはレシーバチャンバの体積であり、Aは単層表面積であり、COはドナーチャンバ中のCFTRinh-172初期濃度である)。
【0133】
薬物動態および経口バイオアベイラビリティ研究
マウスをハロタンを用いて一時的に麻酔し、ビタミンE TPGSで可溶化した14C-CFTRinh-172(12μCi)(d-α-トコフェニルポリエチレングリコール1000スクシネート、水中に溶解した10% w/v TPGS懸濁液中の0.5% w/v CFTRinh-172)を経口強制飼養した。比較のために、他のマウスに14C-CFTRinh-172(2μCi)を静脈内に、尾部静脈注入により摂取させた。特定の時間に血液を尾部静脈から収集し、血漿14C放射活性を測定した。6時間で、ペントバルビタール過剰摂取によりマウスを屠殺し、臓器を取り出しホモジネート中の放射活性を測定した。
【0134】
生物学的実施例1
CFTR阻害薬のスクリーニング
本発明の化合物を同定するのに使用される主スクリーニング技術は、直接CFTR-阻害薬相互作用によりCFTR Cl-コンダクタンスの阻害薬を同定するように設計された。図1Aに概略が示されるように、フォルスコリン、IBMXおよびアピゲニンを含むカクテルを活性化することにより、CFTRをCFTR-発現FRT細胞において予め刺激した。複数の機序(cAMP上昇、ホスホジエステラーゼ阻害、および直接CFTR結合)によるCFTRの活性化により、シグナル伝達経路においてより近位の段階ではなく直接CFTR Cl-輸送経路を遮断する阻害薬が同定できた。FRT細胞は、阻害効力の定量的蛍光読み取りを提供する黄色蛍光蛋白質系Cl-/I-センサを共発現した(例えば、Jayaraman et al.、2000、J. Biol. Chem. 275:6047-6050;Galietta et al.、2001、Am、J. Physiol. 281:C1734-C1742を参照のこと)。CFTRを予め刺激し、化合物を添加した後、細胞は内部に向かうI-勾配を受けI-の流入が誘導され、蛍光が減少する。各アッセイ法は2秒間のベースライン蛍光の記録、その後の、I-含有溶液の急速添加後の12秒の蛍光の連続記録から構成した。化合物を、完全に自動化した高スループットスクリーニング装置を使用して、96-ウエルフォーマットにおいて10μM濃度で別個に試験した(下記実施例2を参照のこと)。
【0135】
図1Bは、図1Aのアッセイ法を使用して50,000化合物の一次スクリーンから、相対YFP蛍光対時間としての代表的な曲線を示したグラフである。I-添加後減少する蛍光の勾配から定量されるように、49,993化合物はI-流入の動力学に有意の効果を有さなかった(勾配の<10%の減少)。7つの化合物では、負の勾配において少量の減少が生じ(10〜52%)、これらのほとんど全てが、置換されたフェニルメチレンおよびフェニル部分(図1C)を有する2-チオキソ-4-チアゾリジノン複素環から構成される同様のコア構造を有した。チアゾリジノンコア構造を有する250を超える類似体についてその後スクリーニングし、最も強力なCFTR阻害薬を同定した。
【0136】
図1Dは、スクリーニングで同定された最も効果的なチアゾリジノンCFTR阻害薬が3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(本明細書ではCFTRinh-172と呼ぶ)であること、ならびにかなりの阻害効力を有する5つの類似体を示す。このように、下記化合物をCFTR阻害薬として同定した:3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-172);3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-020);3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-029);3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-185);3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-214);および3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-236)。最も効果的なCFTR阻害薬は、上記のように、1または複数の電子吸引性基、例えば3-トリフルオロメチル基を環1上に有し、電子吸引性基または極性置換基を環2上に有した。更なる分析のためにCFTRinh-172を選択した。相対効力は下記の通りであった:0.2(CFTRinh-020)、0.3(CFTRinh-029)、1.0(CFTRinh-172)、0.2(CFTRinh-185)、0.1(CFTRinh-214)、および0.1(CFTRinh-236)。
【0137】
トリフルオロメチルおよびカルボキシル置換基の環位の効果を調べるために、CFTRinh-172の8類似体を合成した。これらの類似体では、置換基は環1(トリフルオロメチル)および2(カルボキシ)上で各々の独特な位置に移動した。CFTRinh-172(効力1.0)と比較して、3-[(a-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(b-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン類似体の相対阻害効力は下記の通りであった:0.69(a=2、b=2)、0.70(2、3)、0.66(2、4)、0.74(3、2)、0.90(3、3)、0.67(4、2)、0.64(4、3)および0.56(4、4)。
【0138】
生物学的実施例2
CFTRinh-172のキャラクタリゼーション
特定の用量の対象チアゾリジノン化合物のCFTR阻害レベルを、図1Aに示し、上述した蛍光アッセイ法を用いて決定した。図2Aは、相対YFP蛍光対時間としてのCFTRinh-172に対する用量-阻害データを示したものである。0.3〜0.6μMの濃度のこのチアゾリジノン化合物で、かなりのCFTR阻害が見られた。図2Bは、CFTRinh-172による阻害(添加またはウォッシュアウト後の相対輸送速度対時間としてグラフに示す)が〜10minで完了し(t1/2=4min)、ウォッシュアウト後反転しt1/2〜5minであった(挿入図)ことを示す。図2Cで示した相対輸送速度は、最初のスクリーニングのために使用される活性化カクテルに含まれない複数の型の作動薬によるCFTR活性化が、CFTRinh-172により効果的に阻害されることを示す。これらの作動薬としては、ゲニステイン、CPT-cAMP、CPX、8-MPOならびに強力なベンゾフラボンCFTR活性化剤UCCF-029(2-(4-ピリジニウム)ベンゾ[h]4H-クロメン-4-オンビスルフェート)およびベンズイミダゾロンCFTR活性化剤UCCF-853が挙げられる(Galietta、et al.、2001、J. Biol. Chem. 276:19723-19728)。
【0139】
CFTRinh-172の阻害効力および特異性を確立するために、電気生理学実験も実施した。図3Aは、頂端細胞表面を浸している溶液にCFTRinh-172を添加したCFTR-発現FRT細胞における短絡電流の迅速な、用量依存阻害を示す。図3Bは、同一の条件下で試験したCFTRinh-172(Kd〜300nM、ヒル計数〜1)およびグリベンクラミド(Kd〜300μM)の平均用量-阻害関係を示す。
【0140】
このチアゾリジノンに対する同様の阻害効力は、自然に野生型CFTRを発現する細胞、例えばT84細胞およびヒト気管支上皮細胞の初代培養物、ならびにG551D-CTFRおよび△F508-CFTRを発現するトランスフェクトしたFRT細胞(低温較正後)において見出された。気管支細胞における研究では、Na+チャネルをアミロリドで遮断し、そのため、ベースライン電流は大きくCFTR-依存性であった。CPT-cAMPによる最大CFTR活性化後、頂端側からCFTRinh-172を適用すると、短絡電流が強く阻害された(図3C、左)。CFTRinh-172はまた、側底側から添加しても短絡電流を阻害した(図3C、右)。
【0141】
ホールセル膜電流を、図3Dにおいて図示されるように、CFTR発現FRT細胞において測定した。5μMのフォルスコリンによる刺激により、+100mVで381±47pA/pF(n=4)の膜電流が生成した(総膜容量21±3pF)。電流-電圧の関係は、純粋CFTR電流に対し予測されるように直線であった(図3F)。2μMのCFTRinh-172による細胞外潅流により全ての膜電位で電流の急激な減少が生じ、電圧-非依存性CFTR阻害が示唆された。低濃度CFTRinh-172(0.2μM)を使用し、チャネル遮断の電圧依存性の欠如を確認すると、〜50%の阻害が得られた(図3F)。
【0142】
CFTRの阻害に対するCFTRinh-172特異性もまた調査した。2つの非CFTR-Cl-チャネルを研究した。5μM濃度のCFTRinh-172は、分極ヒト気管支上皮細胞における頂端浸漬溶液にUTP(100μM)を添加することにより生成されるCa2+活性化Cl-分泌を阻害しなかった(図4A)。最大UTP-依存短絡電流は、CFTRinh-172が存在しないと9.9±0.5μA/cm2、存在すると10.0±0.2μA/cm2であった(SE、n=4)。5μMのCFTRinh-172もまた、250mosM/kg低張溶液で細胞外潅流することによりFRT細胞で誘導された体積活性化Cl-電流を遮断しなかった(図4B)。
【0143】
CFTRホモログ、ATP-結合カセットトランスポーターMDR-1(複数薬耐性蛋白質-1)の活性を、MDR-1を過剰発現する9HTE0-/Dxで測定した(Rosola et al. 1994 J. Biol. Chem. 269:1432-1436)。MDR-1による活性薬剤放出に反比例するビンクリスチン蓄積は、MDR-1阻害薬ベラパミル(100μM)により大きく増加した(図4C)。CFTRinh-172(5μM)はビンクリスチン蓄積に影響せず、このようにMDR-1は阻害されなかった。
【0144】
CFTRの別のホモログはATP-感受性K+チャネル(K-ATPチャネル)の活性を調節するスルホニル尿素受容体(SUR)である(Aguilar-Bryan and Bryan 1999 Endocr. Rev. 20:101-135)。SUR1は膵臓β細胞で発現され、そこでは、膜電位およびインスリン放出が制御される。グリベンクラミドのようにスルホニル尿素は、K-ATPチャネルおよび膜の脱分極を遮断することによりインスリン放出(および低血糖反応)を引き起こす。CFTRinh-172がK-ATPチャネルも遮断するかどうかを決定するために、ラット膵臓β細胞系、INS-1における膜電位を測定した(図4D、図4E)。グリベンクラミドにより引き起こされる大きな膜脱分極とは対照的に、CFTRinh-172(2および5μM)は膜電位を脱分極しなかった。5μMのCFTRinh-172は、K-ATPチャネル活性化剤ジアゾキシド(100μM)により引き起こされるものよりもずっと少ない過分極を引き起こした。追加の研究により、5μMのCFTRinh-172が水チャネル(AQP1)、尿素トランスポーター(UT-B)、Na+/H+交換体(NHE3)およびCl-/HCO3-交換体(AE1)を遮断しないことが示された。
【0145】
別の分析により、5μM CFTRinh-172が細胞cAMP産生またはホスファターゼ活性に影響しないことが示された。FRT細胞では、基本cAMP量は225±22fmol/ウエルであり、これは、20μMフォルスコリンによる刺激後30分で1290±190fmol/ウエル(阻害薬なし)および1140±50(+CFTRinh-172)(n=3)まで増加した。ジヒドロローダミンアッセイ法を用いて判断すると、CFTRinh-172は100μMまでの濃度では24時間後FRT細胞に対し非毒性であった。マウスでは、7日間毎日1000μg/kgのCFTRinh-172を腹腔内注入しても明かな毒性は引き起こされなかった。食物および水摂取は減少しなかった。血清電解質濃度、ブドウ糖、肝機能指数、血清クレアチニン、アミラーゼおよびヘマトクリットは変化しなかった。さらに、非常に大量のCFTRinh-172単回全身投与(10mg/kg)では明かな毒性は引き起こされなかった。
【0146】
生物学的実施例3
インビボ効能
CFTRinh-172の効能を、コレラ毒素により誘発した腸液分泌の2つのアッセイ法を用いてインビボで、および単離した腸で短絡分析により試験した。第1のアッセイ法では、一連の小腸の閉ループをインビボで作成し、交互のループの内腔に少量の生理食塩水またはコレラ毒素を含む生理食塩水を注入した。内腔の液体貯留を6時間後に決定した。図5Aに示されるように、コレラ毒素処理ループでは著しい液体貯留および膨張があったが、隣接する対照(生理食塩水)ループは空のままであった。コレラ毒素注入前のCFTRinh-172の単回投与(150μg/kg腹腔内)は、毒素処理腸ループにおける液体貯留を効果的に阻止した。
【0147】
一連のこれらの実験からのデータを図5Bのグラフにまとめる。CFTRinh-172により、液分泌が生理食塩水対照ループにおける液分泌までかなり減少し、不活性チアゾリジノン類似体は液分泌を阻止しなかった。前のデータから示唆されるように(Gabriel et al. 1994 Science 266:107-109)、ホモ接合△F508-CFTRマウス由来のコレラ毒素処理腸ループは空のままであり、CFTRが腸液分泌に関与することが示された。第2のアッセイ法では、腸液分泌をコレラ毒素(10μg)の経口投与により誘発し、CFTRinh-172を全身投与した。6時間後、小腸全体を計量することにより測定すると著しい体液の蓄積があった。CFTRinh-172投与により、視覚により確認され、内腔液除去前後の腸重量の比により定量化されるように、腸の液体貯留が著しく減少した(図5C)。
【0148】
図5Dは無傷ラット結腸粘膜を横切る短絡電流のCFTRinh-172阻害を示した図である。アミロリドによるNa+電流の阻害後、フォルスコリンにより短絡電流の迅速な増加が生じた。粘膜溶液に添加されたCFTRinh-172は、奬膜溶液に添加された場合に比べ、より大きな効率で短絡電流を阻害した。これは、残留粘膜下組織を介する結腸上皮細胞への接近障害と関連するかもしれない。粘膜溶液のみに5μMのCFTRinh-172を添加すると、短絡電流が>80%減少した。これらの結果から、腸でのCFTRinh-172によるCFTR Cl-チャネル阻害に対する電気生理学的な証拠が提供される。
【0149】
生物学的実施例4
薬物動態分析
ラットにおける薬物動態分析を、14C-標識CFTRinh-172の単回静脈内ボーラス注入後の血清14C放射活性を逐次測定することにより実施した。注入した阻害薬の総量(400μg、〜1mg/kg)はラットにおける下痢止め薬として効果的であった。図7は、血清14C放射活性の動力学が2-コンパートメントモデルとよく適合し、分布体積が1.2L、AUC(曲線下面積)が3.8μg・hr/mLであることを示す。半減時間は0.14hr(再分配)および10.3hr(排出)であった。投与後72時間の血漿、または投与後14日の肝臓もしくは腎臓ホモジネート中では、14C-標識CFTRinh-172は検出されなかった。
【0150】
14C-標識CFTRinh-172の組織分布を、単回静脈ボーラス注入後、臓器ホモジネートおよび体液の放射活性から決定した。図8、パネルAはマウスにおけるCFTRinh-172注入後の指定時間での主臓器における14C分布をまとめたものである。14C放射活性は、主に肝臓および腎臓で5分以内に観察され、時間と共に減少した。脳、心臓、骨格筋または精巣では放射活性はほとんど見られなかった。後の時間(30〜240分)では、14C放射活性は腸で蓄積した。図3、パネルBは、静脈ボーラス注入後60分に測定したラット中の14C放射活性の同様の臓器分布を示したものである。脳、心臓および骨格筋ではほとんど放射活性が見られなかった。いくつかの実験では、ラットは14C-標識CFTRinh-172(50μCi)の注入後10日に屠殺した。
【0151】
腎臓、肝臓および腸におけるCFTRinh-172蓄積の機序を決定するために、14C放射活性を血清、尿および胆汁中で測定した。平均尿放射活性は、注入後最初の2時間のマウスでは4.2±1.2×105cpm/mLであった。尿対血液における14C放射活性の比は、5〜7:1の範囲であり、〜5:1の尿対血清浸透圧比(1550mOsm対310mOsm)に匹敵し、CFTRinh-172が腎細尿管吸収または分泌無しで糸球体濾過により腎臓から除去されることが示唆される。CFTRinh-172クリアランスの腎臓クリアランス機序は血清、尿および腎組織中で14C放射活性が減少する大体類似する動力学(データ示さず)により支持された。胆汁中のCFTRinh-172蓄積の可能性を、肝臓での14C放射活性の迅速な蓄積および腸での遅い蓄積の観察に基づき調査した。14C放射活性はマウスに投与後胆汁対血液で〜9倍濃縮された。胆汁CFTRinh-172が大便中に排泄されたか、循環に戻されたかを決定するために、放射標識阻害薬注入後最初の24時間にわたりマウスに対し尿および大便の収集を実施した。93±3%の排泄放射活性が尿で見出され、腸肝循環による主腎排出機序が支持された。
【0152】
臓器および体液中で測定した14C放射活性が無傷または化学修飾されたCFTRinh-172に対応するかどうかを決定するために、薄層クロマトグラフィーおよびオートラジオグラフィーを尿、血清および胆汁試料、ならびに遠心分離により調製した肝臓ホモジネートの上清に対し実施した。図9はボーラス注入において導入したオリジナルのCFTRinh-172に対するrf〜0.5の単一スポットを示す。体液および臓器ホモジネートのオートラジオグラフィーは同一のrfで単一のスポットを示し、CFTRinh-172の化学修飾が起こらなかったことが示された。
【0153】
CFTRinh-172は分光光度pH滴定により決定するとpKaが5.5の弱酸である。生理的pHでは、〜1%のCFTRinh-172が、極性が低く、膜透過性が高いイオン化していない酸として存在する。上記細胞モデルでのCFTRinh-172の迅速な取り込みから、沈澱を阻止するために低い胃pHからの保護が必要かもしれないという警告と共に経口により生物が利用可能な調製物の実現可能性が示唆される。これらの薬物動態研究の結果から、CFTRinh-172は齧歯類では、腎臓クリアランスにより化学修飾されずに徐々に除去されること、CFTRinh-172は胆汁で濃縮され腸で蓄積することが示される。CFTRinh-172は有意に血液脳関門を通過せず、心臓、肺、骨格筋および睾丸を含む他の重要な臓器ではCFTRinh-172の蓄積はほとんどみられなかった。CFTRinh-172の腎臓クリアランスが遅いこと、腸で蓄積すること、血液脳関門にほとんど浸透しないことは、下痢止め用途では有利である。
【0154】
生物学的実施例5
CFTRinh-172の阻害効果の用量反応および期間
この実施例の目的は、CFTRinh-172の単回腹腔内投与がマウスの閉腸ループモデルでコレラ毒素により刺激された体液分泌を阻害することができることに関する上記観察結果を拡張することであった。とりわけ、この実施例の目的は、CFTRinh-172阻害効果の用量反応関係および持続に対する見かけの半減時間を測定することであった。
【0155】
最初に、腸ループ体液吸収および分泌の動力学を決定しマウスモデルのキャラクタリゼーションを実施した。吸収を研究するために、200μLのPBSを個々のループに注入した後特定の時間にループ体液量を測定した。図10、パネルAは迅速な流体吸収を示し、〜25分で50%の流体が残った。コレラ毒素により誘発される腸液分泌(20μg)を強く阻害する用量でCFTRinh-172を腹腔内投与しても、対照に比べ液体吸収速度(30分に測定)は変化しなかった(図10、パネルA、挿入図)。分泌を研究するために、腸ループにコレラ毒素(0.1mL PBSに溶解した1μg)を注入した。図10、パネルBは6時間にわたる液体分泌の遅い開始を示した図であり、齧歯類モデルにおける前の研究と一致する(Gorbach et al. J. Clin. Invest. 1971 50-881-889:Oi et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2002 99:3042-3046)。正常条件下で腸内の体液が急速に吸収されることにより、活性分泌後腸管腔内に蓄積した体液は、分泌が遮断されると直ちに吸収されることが示唆され、CFTR阻害は、たとえコレラ毒素後に投与しても、液体貯留を阻止するのに効果的であることが予測される。
【0156】
図11、パネルAは、コレラ毒素を閉腸ループに注入直後に腹腔内注射により阻害薬を単回投与したマウスにおけるCFTRinh-172用量反応研究結果をまとめたものである。基本腸液量(点線)はコレラ毒素を注入していないループで測定した場合ほとんど0であった。コレラ毒素を注入した腸ループにおける液体貯留はCFTRinh-172により〜90%阻害され、〜5μgのCFTRinh-172(150μg/kg)では50%の阻害であった。阻害期間を、コレラ毒素前後の異なる時点で20μgの単回用量のCFTRinh-172を投与することを除き、用量反応試験時のように測定した。図11、パネルBは、CFTRinh-172をコレラ毒素前後3時間に投与した場合の、管腔液体貯留の著しい阻害を示したものである。しかしながら、コレラ毒素前6時間では観察された阻害はずっと低かった。コレラ毒素誘発試験の6hrという期間を考慮すると、CFTRinh-172阻害の持続性に対するt1/2は〜9-10hrであった。
【0157】
生物学的実施例6
CFTRinh-172の経口バイオアベイラビリティ
経口投与されたCFTRinh-172の下痢止め効能を試験するために、マウスにおけるCFTRinh-172薬物動態を決定し、Caco-2単層を横切るCFTRinh-172輸送を測定した。CFTRinh-172は、胃で沈澱すると考えられるかなり非極性の弱酸(pKa=5.5)であるので、経口投与のために薬剤を可溶化させるのに通常使用される2つの薬剤、ビタミンE TPGSおよびシクロデキストリンを使用して経口投与を実施した。14C-標識CFTRinh-172を使用して測定した。
【0158】
図11、パネルCはマウスにおける経口対静脈内投与後の14C-標識CFTRinh-172の薬物動態を示す。静脈内投与により、初期血清濃度が高くなり、〜30分にわたり減少した(組織再分布)が、血清放射活性は経口投与直後は低く、〜60-90分でピークとなり、その後減少した。図11、パネルDは経口および静脈内投与後6hrでの14C-標識CFTRinh-172の臓器分布をまとめたものであり、胃腸管ならびに肝臓および腎臓における蓄積を示している。14C放射活性は胆汁対血清では〜10倍濃縮され、大便中に排出された放射活性はほとんどなく(24時間にわたり排出された総放射活性の<10%)、これにより腸でのCFTRinh-172の蓄積が腸肝循環により促進されることが示唆される。経口対静脈内CFTRinh-172投与の比較(4〜6hrでの組織/血清量)から、TPGS調製物の15〜20% CFTRinh-172経口バイオアベイラビリティが示された。
【0159】
図11、パネルFは、Caco-2単層のトランス側のCFTRinh-172出現の直線増加を示し、16×10-6cm/sの推定CFTRinh-172透過係数が得られる。この値は様々な経口投与薬剤に対し見出される範囲内にある(例えば、ピンドロール、36×10-6cm/s、シルデナフィル、48×10-6cm/s)(Stenberg et al. J. Med. Chem. 2001 44:1927-1937)。
【0160】
生物学的実施例7
cGMP-およびcAMP-媒介体液分泌
インビボラット腸ループモデルを使用して、cGMP-およびcAMP-媒介体液分泌の阻害におけるCFTRinh-172の有効性を決定し、ならびに別の動物モデルにおけるCFTRinh-172の有効性を試験した。グアニリルシクラーゼC受容体がラット腸細胞で発現し、STa毒素結合および細胞質cGMP上昇が可能となる(Mann et al. Biochem Biophs Res commun 1997 239:463-466)。STa毒素は3hr後にラット回腸で液分泌を引き起こすことが見出された(Cohen et al. Am J Physiol 1989 257:G118-123)。CFTRinh-172は、マウスで有効な用量(600μg/kg)でラットの腸ループにおけるコレラ毒素により誘発された液分泌を阻害した(図12、パネルA)。STa毒素により誘発される液分泌では、腸ループにSTa毒素(0.1μgを含むPBS 300μl)を注入し、ループ重量を3hr後に測定した。図12、パネルBはCFTRinh-172による腸液分泌の〜75%阻害を示す。
【0161】
短絡電流測定をマウスおよびヒト腸上皮シートで実施し、経上皮イオン分泌のCFTRinh-172阻害を評価した。図13、パネルAは、フォルスコリンまたはSTa毒素(挿入図)による刺激後のマウス回腸における短絡電流のCFTRinh-172用量依存阻害を示す図である。cAMPおよびcGMP-依存クロリド分泌の両方に対し〜5μMのCFTRinh-172で50%の阻害が見出された。図12、パネルBは、ヒト結腸における短絡電流の阻害に対する同様のCFTRinh-172効力を示す。
【0162】
思いもよらない観察結果は、腸短絡電流(2〜5μM)のCFTRinh-172阻害に対する見かけの効力が、CFTR-発現FRT細胞(0.2〜0.5μM)およびCalu-3細胞(0.5μM)を含む幾つかの細胞系で実施した電気生理学的研究において見出されるものより実質的に低かったことである。この違いについてはいくつかの説明が考えられ、例えば、細胞型の差、無傷の腸内の腸細胞へのCFTRinh-172の制限された接触、膜電位効果(内側が負の細胞電位により細胞内[CFTRinh-172]が減少)、およびCFTRinh-172とのATP競合が挙げられる。
【0163】
短絡電流測定をT84結腸上皮細胞上で実施し、この現象を調査した。図14、パネルAの代表的な実験において示されるように、透過処理していないT84細胞単層において、cAMP作動薬フォルスコリン(左)、細胞透過性cGMP類似体8-Br-cGMP(中央)、またはハイスループットスクリーニングにより同定したCFTRクロリドコンダクタンスCFTRact-16の直接活性化剤による刺激後、〜3μMのCFTRinh-172により短絡電流の50%が阻害された。T84細胞におけるCFTRinh-172効力の相対的な減少が無傷の細胞を必要とするかどうかを決定するために、細胞側底膜をアンホテリシンBで透過処理した後、Cl-勾配(測定可能な電流を発生させるため)の存在下で短絡電流測定を実施した。図14、パネルB(左)は、透過処理後の短絡電流の阻害に対するCFTRinh-172効力が実質的に大きくなることを示している。図14、パネルB(中央)にまとめた用量反応データにより、細胞透過処理後、CFTRinh-172阻害に対する見かけのKIが〜3から0.3μMに減少することが示される。無傷の細胞における減少したCFTRinh-172効力が、内側が負の膜電位によるものかどうかを試験するために(細胞質対外部[CFTRinh-172]の減少)、短絡電流測定を、高K+側底浸漬溶液による脱分極した後、T84細胞において実施した。図14、パネルCは、増大したCFTRinh-172効力(KI〜0.3μM)が脱分極細胞において保存されたことを示し、細胞膜電位がCFTRinh-172効力において重要な役割を果たすことが示される。
【0164】
上記データに基づき、CFTRinh-172により例示されるように、本発明のチアゾリジン化合物が、大腸菌およびコレラにおけるコレラ菌、旅行者およびAIDS-複合関連下痢などの腸内毒素原性生物により引き起こされるエンテロトキシン誘発性分泌性下痢において下痢止め効果を有することを予測することができる。CFTR阻害は、クロストリジウム・ディフィシルおよびサルモネラ種などの腸侵入性細菌により引き起こされる下痢の補助的療法において有益であるかもしれないが、これらの生物により生じる粘膜損傷はCFTR阻害により軽減されない。同様に、CFTR阻害により炎症性大腸炎における根底にある病態が修正されるとは予測されないが、腸液分泌の体積が減少する。最近の証拠により、ロタウイルスなどのウイルス性下痢により引き起こされる液分泌にはCa2+-媒介Cl-チャネルなどの他の機序が関係するかもしれないが、液分泌におけるCFTRの役割は未知のままであり、適した動物モデルで本発明の化合物を使用することにより試験することができる。
【0165】
要約すると、チアゾリジノンCFTR遮断薬CFTRinh-172は、齧歯類およびヒトの腸においてcAMPおよびcGMAPにより誘発されるイオン/体液分泌を、腸液吸収に影響を与えずに、阻害した。その有利な薬理学的および活性プロファイルにより、下痢止め用途に対するさらなる開発が支持される。
【0166】
本発明についてその特定の態様を参照して説明してきたが、当業者であれば、本発明の真の精神および範囲から逸脱せずに様々な変更が可能であり、等価物を置換してもよいことは理解されるべきである。さらに、特別な状況、材料、物質組成、方法、方法の一段階または複数の段階を本発明の目的、精神および範囲に適合させるために多くの改変が可能である。そのような改変は全て添付の請求の範囲内にあるとする。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】(A)CTFR阻害薬を検出するために使用するスクリーニング技術の概略図である。ヒトCFTRおよび、Cl-/I-感受性蛍光を有する黄色蛍光蛋白質(YFP)を同時発現する安定にトランスフェクトさせた上皮細胞において複数の作動薬によりCFTRを最大限に刺激した。試験化合物を添加した後、I-含有溶液を添加することによりI-流入を誘発した。(B)図1Aのスクリーニング技術を用いた個々のウエルからの代表的な蛍光データのグラフである。対照(活性化物質無し、試験化合物無し)、不活性化合物および活性CFTR阻害薬化合物を示す。(C)図1Aのスクリーニング技術により同定されるCFTR阻害薬の化合構造を示した図である。(D)最も大きなCFTR阻害活性を有するチアゾリジノン誘導体の環2の化学構造を示した図である。完全なチアゾリジン誘導体構造は図1Cに示す。相対効力は0.2(CFTRinh-020)、0.3(CFTRinh-029)、1.0(CFTRinh-172)、0.2(CFTRinh-185)、0.1(CFTRinh-214)および0.1(CFTRinh-236)であった。
【図2】(A)CFTR阻害薬3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(本明細書ではCFTRinh-172と呼ぶ)に対するいくつかの濃度での、図1Aのスクリーニング技術を使用した相対蛍光対時間のグラフである。(B)2μMのCFTRinh-172添加後の異なる時間でのCFTR-媒介I-輸送速度を示す阻害の時間経過のグラフである。挿入図は、1μMのCFTRinh-172の洗い流し後の異なる時間でのI-輸送速度を示す阻害逆転の時間経過を示すグラフである。平均±SEは3組の実験から得た。(C)異なる作動薬、例えばベンゾフラボンおよびベンズイミダゾロンUCCF化合物(UCCF-029(2-(4-ピリジニウム)ベンゾ[h]-4H-クロメン-4-オンビスルフェート)およびUCCF-853(Galietta et al.、2001、J.Biol. Chem. 276:19723-19728))、ゲニステイン、CPT-cAMP、8-メトキシプソラレン(8-MPO)、8-シクロペンチル-1,3-ジプロピルキサンチン(CPX)(全て50μM)による刺激後のCFTRの阻害を示すグラフである(±SE、3組の実験から得た)。黒塗りのバーは作動薬を示し、白抜きのバーは5μMのCFTRinh-172を加えた作動薬を示す。
【図3】(A)ヒトCFTRを発現する透過処理したFRT細胞における短絡電流のCFTRinh-172阻害を示す図である。CFTRは100μMのCPT-cAMPにより刺激した。(B)CFTRinh-172(丸)およびグリベンクラミド(正方形)に対する用量-阻害データをまとめた図である(SE、3組の実験)。(C)(透過処理していない)ヒト気管支上皮細胞の初代培養における短絡電流のCFTRinh-172阻害を示すグラフである。阻害薬は頂端浴溶液(左パネル)または側底その後頂端溶液(右パネル)中に添加した。(D)+80mV(白丸)および-100mV(黒丸)で誘導された膜電流を示すCFTR発現FRT細胞の細胞全体のパッチクランブを示すグラフである。CFTRは5μMのフォルスコリン、続いて2μMのCFTRinh-172を添加することにより刺激した。(E)交互の刺激を中断(a-c)し、段階的な膜電位を印加することを示すグラフである。(F)基本条件下(対照、白丸)、フォルスコリン刺激後(黒丸)、〜50%の阻害を提供する0.2μMのCFTRinh-172の添加後(白三角)の電流−電圧の関係を示したグラフである。
【図4】(A)5μMのCFTRinh-172の不存在および存在下での、気道上皮細胞に対する短絡電流測定において測定したUTP-(100μM)により刺激されたCa2+依存性Cl-分泌のグラフである。(B)FRT細胞に対し細胞全体パッチクランプ実験において測定した体積活性化Cl-電流(低張250mosM/kg H2O)を示すグラフである。5μMのCFTRinh-172の不存在および存在下での電流を記録した。(C)MDR-1発現を上方制御した9HTEo-Dx細胞における3H-ビンクリスチン蓄積を示すグラフである。細胞内ビンクリスチンを、ベラパミル(100μM)またはCFTRinh-172(5μM)(SE、n=3)を用いて、およびそれら無しで測定した。(D)CFTRinh-172、ジアゾキシド(100μM)およびグリベンクラミド(10μM)で細胞外を灌流させた膵臓β細胞(INS-1)に由来する代表的な膜電位記録を示す。(E)図4Dで示した手技により引き起こされた膜電位の平均変化(△mV)を示すグラフである。
【図5】(A)CFTRinh-172(150μg/kg)の腹腔内投与無し(最上)およびあり(中央)の1μgのコレラ毒素を管腔注入した後6時間で、単離したマウスの回腸ループの写真である。比較のために生理食塩水対照(コレラ毒素無し、最下)を示す。(B)6時間での回腸ループ重量を図示するグラフであり、平均±SE(n=6〜8マウス)で、14〜16ループを研究した。不活性類似体では、CFTRinh-172中の4-カルボキシフェニル基は、3-メトキシ-4-メトキシビニルフェニルで置換された(SE、6〜8マウス/群、p<0.001、ANOVA)。(C)管腔液除去前対後の経口強制飼養後6時間での全小腸の重量比を示したグラフである(SE、1群あたり4匹のマウス、p<0.001)。(D)単離したラットの結腸粘液におけるアミロリド添加およびフォルスコリン(20μM)による刺激後の代表的なCFTRinh-172阻害短絡電流を示すグラフである。示されるように、CFTRinh-172を漿膜、その後粘膜表面に添加した(n=4)。
【図6】14C-標識CFTRinh-172の合成を示す概略図である。14Cは開始材料として14C-標識Br酢酸を使用してチアゾリジノンコアに組み込まれた。
【図7】50μCi 14C-標識CFTRinh-172の1回の静脈内ボーラス注入後のラットにおけるCFTRinh-172の薬物動態分析結果を示す一組のグラフである。血清放射活性に対し平均±SE(n=3〜6ラット)として示したデータ。適合させた曲線は、2-コンパートメントモデルに対応し、再分配半減時間が0.14hr、除去半減時間が10.3hr、最大血清濃度が3.2μg/mL、曲線下面積が3.8μg・hr/mL、分配体積が1.2L、およびクリアランスが99mL/hrであった。
【図8】ボーラス注入後の14C-標識CFTRinh-172の臓器分配を示す一組のグラフである。パネルAの結果は、2μCi 14C-標識CFTRinh-172の1回の静脈内ボーラス注入を受け、示した時間で屠殺され、14C-放射活性の測定のために臓器を採ったマウス由来であり、データは注入後の示した時間での総臓器14C-放射活性(1gの組織あたりとして報告した骨格筋を除く)として示した(平均±SE、各時間点あたり4匹のマウス)。パネルBの結果は50μCi 14C-標識CFTRinh-172のボーラス注入を受けたラット由来であり、注入後60分で測定された総臓器CFTRinh-172である(3匹のラット)。
【図9】図8のパネルAのように、14C-標識CFTRinh-172を注入したマウス由来の体液および肝臓ホモジネートの薄層クロマトグラフィーによるCFTRinh-172代謝の分析結果を示した一組の写真である。14C-標識CFTRinh-172標準は1、3および6nCi(左パネル)、ならびに10、30および60nCi(右パネル)であった。フィルムはオートラジオグラフィーのために48hr(左のパネル)および12hr(右のパネル)照射した。
【図10】マウス閉腸ループモデルのキャラクタリゼーションの結果を示す一組のグラフである。パネルA:腸管ループに200μLの緩衝液を注入し、ループ重量を指示した時間に測定した(平均±SEM、1時間点あたり4匹のマウス)。挿入図(下) CFTRinh-172(20μg、I.P.、n=4)有りまたは無しでの30分の%吸収。挿入図(上)CFTRinh-172の化学構造。パネルB:マウス閉ループモデルでのコレラ毒素により誘発された液分泌の時間経過。点線は対照(生理食塩水注入)ループを示す。注入ループ(1μgコレラ毒素/ループ)に対する平均±SEM(4〜6匹のマウス)としてのデータ。
【図11】マウスにコレラ毒素を注入した後の腸液分泌のCFTRinh-172阻害を示す一組のグラフである。パネルA:マウスループモデルにおける液体貯留の阻害に対する用量応答。マウスに腹腔内投与によりCFTRinh-172を単回投与し、6hrでループ重量(平均±SEM、1用量あたり4〜6匹のマウス)を測定した。点線は同じマウスの生理食塩水注入対照ループにおける平均重量を示す。パネルB:CFTRinh-172阻害の持続性。マウスに指定した時間に、コレラ毒素投与前後に20μgのCFTRinh-172(I.P.)を投与した(1時間点あたり4〜6匹のマウス)。パネルC:i.v.注入(尾部静脈、左座標)および経口投与(TPGSにおけるCFTRinh-172、右座標)後の血漿14C-標識CFTRinh-172放射活性の時間経過。データはカウント/min/注入μCi(4匹のマウス)で示される。パネルD:i.v.および経口14C-標識CFTRinh-172投与後6時間の胃腸臓器における14C-標識CFTRinh-172蓄積(4匹のマウス)。パネルE:マウス開ループモデルにおける経口投与したCFTRinh-172(TPGS中200μg)による、コレラ毒素誘発液分泌の阻害。データは管腔体液除去前対後の経口強制飼養後6時間の全小腸の重量比として示される(平均±SEM、4匹のマウス/群、*p<0.01)。パネルF:Caco-2単層を横切るCFTRinh-172透過性(平均±SEM、18インサート)、Papp=16×10-6cm/sである。
【図12】ラット閉ループモデルにおけるコレラ毒素(パネルA)およびSTa毒素(パネルB)誘発液分泌のCFTRinh-172阻害を示す一組のグラフである。データは平均±SEM(1群あたり4匹のラット)として示す。*p<0.01。
【図13】マウス回腸(パネルA)およびヒト結腸(パネルB)におけるフォルスコリン-およびSTa毒素-刺激短絡電流のCFTRinh-172阻害を示す一組のグラフである。STa毒素は挿入図として示す。データは5匹のマウスおよび2組のヒト組織の研究を代表する。組織の両側にCFTRinh-172を添加する。アミロリド(10μM)が頂端溶液中に存在した。
【図14】T84結腸上皮細胞でのCl-分泌のCFTRinh-172阻害の短絡分析を示す一組のグラフである。パネルA:データは1条件あたり5〜12インサートに対する実験からの代表的な追跡として示す。CFTRinh-172は細胞総の両側に添加した。CFTR作動薬はフォルスコリン(左)、8-Br-cGMP(中央)、CFTRact-16(右)を含む。パネルB:(左)アムホテリシンB(250μg/mL)による側底透過処理後のフォルスコリン刺激短絡電流のCFTRinh-172阻害。6インサートの実験を示す。(中央)透過処理したT84細胞対透過処理していないT84細胞におけるフォルスコリン刺激(マル)および8-Br-cGMP-刺激(三角)短絡電流のCFTRinh-172阻害に対する平均用量応答(平均±SEM、6〜12インサート)。(右)頂端溶液中のCl-が低く、側底溶液中の高いK+(68mM)の存在下でのフォルスコリン刺激短絡電流のCFTRinh-172阻害。4実験の代表。
【背景技術】
【0001】
発明の背景
嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)蛋白質は、哺乳類の気道、腸、膵臓および睾丸の上皮細胞において発現したcAMP-活性化塩素(Cl-)チャネルである。CFTRはcAMP-媒介Cl-分泌に関与する塩素チャネルである。ホルモン、例えばβ-アドレナリン作動薬、または毒素、例えばコレラ毒素によりcAMPが増加し、cAMP-依存性蛋白質キナーゼが活性化され、CFTR Cl-チャネルがリン酸化され、これによりチャネルが開く。細胞Ca2+が増加すると、異なる頂端膜チャネルも活性化される。蛋白質キナーゼCによるリン酸化により、頂端膜のCl-チャネルが開く、または閉じられる。CFTRは主に上皮に位置し、そこでは、頂端膜を横切るCl-イオンの移動のための経路が提供され、経皮塩および水輸送速度を調節するキーポイントが提供される。CFTR塩素チャネル機能は広範囲の疾患、例えば、嚢胞性線維症(CF)、ならびに男性不妊のいくつかの形態、多発性嚢胞腎および分泌性下痢と関連する。
【0002】
遺伝性の致命的な疾患である嚢胞性線維症(CF)は、CFTRの突然変異により引き起こされる。ヒト嚢胞性線維症(CF)患者およびCFマウスモデルの観察から、腸液および膵液輸送、ならびに男性不妊におけるCFTRの機能の重要性が示される(Grubb et al.、1999、Physiol. Rev. 79:S193-S214;Wong、P.Y.、1997、Mol. Hum. Reprod. 4:107-110)。しかしながら、欠陥CFTRにより気道疾患が起こる機構は不明なままであり、これが、CF罹患率および死亡率の主な原因である(Pilewski et al.、1999、Physiol. Rev. 79:S215-S255)。CFの気道疾患を理解するのに主な問題としては、CFマウスモデルの不十分さ(マウスモデルはほとんどまたは全く気道疾患を示さない)、CFの大型動物モデルの不足、および慢性感染症および炎症により損傷されていないヒトCF気道の利用可能性の制限が挙げられる。CFにおける気道疾患メカニズムを研究する、または大型動物モデルにおいてCF表現型を作成するために、高親和性のCFTR-選択性阻害薬が利用できなかった。
【0003】
高親和性CFTR阻害薬はまた、分泌性下痢および嚢胞性腎疾患の治療において、および男性不妊の阻害において臨床用途を有する。化合物ジフェニルアミン-2-カルボキシレート(DPC)および5-ニトロ-2-(3-フェニルプロピル-アミノ)-ベンゾエート(NPPB)は高濃度でCFTRを阻害するが、その阻害作用は非特異的である(Cabantchik et al.、1992、Am. J. Physiol. 262:C803-C827;McDonough et al.、1994、Neuron 13:623-634;Schultz et al.、1999、Physiol. Rev. 79:S109-S144)。電気生理学的および他の細胞を基本とする研究に対し入手可能な最も良いCFTR阻害薬、グリベンクラミドは>100μMの濃度で使用される(Sheppard et al.、1992、J. Gen. Physiol. 100:573-591;Hongre et al.、1994、Pflugers Arch. 426:284-287)。しかしながら、この濃度では、グリベンクラミドはまた他のCl-トランスポーターならびにK+チャネルを阻害する(Edwards et al.、1993、Br. J. Pharmacol. 110:1280-1281;Rabe et al.、1995、Pflugers Arch.429:659-662;Yamazaki et al.、1997、Circ. Res. 81:101-109)。他のイオン輸送蛋白質の効果的な小分子阻害薬は周知であるが、分泌性疾患の治療法に適した特異的なCFTR阻害能力を有する小分子は入手可能ではない。
【0004】
したがって、CTFR阻害薬化合物ならびにCFの研究および治療に有益な動物モデルの開発および分泌性疾患の治療および調整のためのそのような化合物の使用方法が必要である。本発明はこれらの要求および他の要求を解決しようとするものであり、従来技術において見られる欠陥を克服する。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明は、CFTR-媒介疾患および状態の研究および治療に有益な嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質(CFTR)の阻害のための組成物、薬学的調製物および方法を提供する。本発明の組成物および薬学的調製物は1または複数のチアゾリジノン化合物または誘導体を含んでもよく、さらに、1または複数の薬学的に許容される担体、賦形剤および/またはアジュバントを含んでもよい。本発明の方法は、一定の態様では、CFTR-媒介疾患または状態に苦しむ患者に、有効量のチアゾリジノン化合物または誘導体を投与する段階を含む。別の態様では、本発明は、被験者の細胞を有効量のチアゾリジノン化合物または誘導体と接触させる段階を含む、CFTRを阻害する方法を提供する。さらに、本発明は、ヒト以外の動物にCFTRを阻害するのに十分な量のチアゾリジノン化合物または誘導体を投与することにより引き起こされるCFTR-媒介疾患のヒト以外の動物モデルを特徴とする。
【0006】
本発明のこれらのおよび他の目的ならびに利点は以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0007】
本発明は添付の図面を参照することにより完全に理解されるであろう。図面は説明目的のみのためのものである。
【0008】
本発明について説明する前に、本発明は記述した特別な態様に限定されず、そのため、当然、変動することがあることを理解すべきである。本明細書で使用した専門用語は、特別の態様を説明する目的のものにすぎず、限定するものではないこと、本発明の範囲は添付の請求の範囲にのみ限定されることも理解すべきである。
【0009】
特に規定がなければ、本明細書で使用した技術および科学用語は全て、本発明が属する技術の当業者が通常理解する意味と同じ意味を有する。本明細書で記述した方法および材料と類似または等価の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験で使用することができるが、好ましい方法および材料について、以下説明する。本明細書で言及した全ての出版物は、それらの出版物が言及した方法および/または材料と関連する方法および/材料を開示し説明するため、参照により本明細書に組み込まれる。
【0010】
本明細書および添付の請求の範囲において使用されるように、単数形「1つの(a、an)」および「その(the)」は、文脈において特に明確に記されていなければ、複数の指示対象を含むことに注意すべきである。このように、例えば「1つの阻害薬(an inhibitor)」は複数のそのような阻害薬を含み、「その細胞(the cell)」は1または複数の細胞および当業者に周知の等価物を含む、などである。
【0011】
本明細書で議論した出版物は、本出願の出願日前に開示されたことのみを示し、参照により本明細書に組み込まれる。本発明が、前の発明に基づいてそのような出版物に先行する権利を有しないことを承認するものとして解釈されるべきものは本明細書にはない。さらに、提供した出版日は、実際の出版日とは異なることがある。実際の出版物は別個に確認する必要がある場合もある。
【0012】
本明細書で使用した定義は、明確にするために提供するものであり、制限するものと考えるべきではない。本明細書で使用した技術および科学用語は、本明細書が属する技術分野の当業者が通常理解する意味と同じ意味を有するものとする。
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は高親和性CFTR阻害薬であるチアゾリジノン化合物および誘導体の発見に基づく。本発明の化合物および誘導体の構造、ならびに製剤および使用法を以下でより詳細に説明する。
【0014】
定義
「嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質-媒介状態または徴候」または「CFTR-媒介状態または徴候」は、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質(CFTR)の活性、例えばイオン輸送におけるCFTRの活性により起こる任意の状態、障害もしくは疾患、またはそのような状態、障害もしくは疾患の徴候を意味する。そのような状態、障害もしくは疾患、またはそのような状態、障害もしくは疾患の徴候はCFTR活性の阻害、例えばCFTRイオン輸送の阻害により治療できる。CFTR活性は例えば、様々な作動薬、例えばコレラ毒素に応じる腸内分泌に関係する(例えば、Snyder et al.1982 Bull. World Heath Organ. 60:605-613;Chao et al. 1994 EMBO J. 13:1065-1072;Kimberg et al. 1971 J. Clin. Invest.50:1218-1230を参照のこと)。
【0015】
本明細書で使用されるように「CFTR阻害薬」は、特にCFTRによる塩素イオンの輸送に関し、CFTRによるイオン輸送の効率を減少させる化合物である。好ましくは、本発明のCFTR阻害薬は特異的なCFTR阻害薬、すなわち、他のイオントランスポーター、例えば他の塩素トランスポーター、カリウムトランスポーターなどの活性に有意の影響または悪影響を与えずにCFTR活性を阻害する化合物である。好ましくは、CFTR阻害薬は高親和性CFTR阻害薬であり、例えば、少なくとも約1μM、通常約1〜約5μMのCFTR親和性を有する。
【0016】
本明細書で使用されるように「治療(treating、treatment)」は、被験者における疾患、状態、障害または徴候の治療を含み、この場合、疾患、状態、障害または徴候はCFTRの活性により媒介され、この治療は(1)疾患、状態または障害を予防する、すなわち、疾患、状態、または障害にさらされた、またはその傾向があるが、まだその徴候を経験していない、または示していない被験者において疾患の臨床徴候を発現しないようにする段階、(2)疾患、状態、または障害を阻止する、すなわち、疾患、状態、もしくは障害、またはその臨床徴候の発現を妨げ、または減少させる段階、または(3)疾患、状態、または障害を軽減する、すなわち、疾患、状態、もしくは障害、またはその臨床徴候の退行を引き起こす段階を含む。
【0017】
「治療上有効な量」または「有効量」は、治療の必要な哺乳類または他の被験者に投与すると、CFTRの活性により媒介される疾患、状態、障害、または徴候に対し、上記のような治療を実施するのに十分な本発明の化合物の量を意味する。「治療上有効な量」を構成する本発明の化合物の量は、化合物、疾患およびその重篤度、ならびに治療を受ける被験者の年齢、体重などにより変動するが、当業者であれば、自分の知識およびこの開示内容により普通に決定することができる。
【0018】
「被験者」および「患者」という用語は、本明細書で記述した薬学的方法、組成物および治療を必要としているかもしれない任意の哺乳類または哺乳類以外の種の1または複数のメンバーを意味する。このように、被験者および患者としては、霊長類(ヒトを含む)、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタ(swine)(例えば、ブタ(pig))、トリ、および他の被験者が挙げられるがこれらに限定されない。商業的に重要なヒトおよびヒト以外の動物(例えば、家畜および飼い慣らされた動物)が特に興味深い。
【0019】
「哺乳類」は、任意の哺乳類種の1または複数のメンバーを意味し、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、齧歯類、など、および霊長類、特にヒトが挙げられる。ヒト以外の動物モデル、特に哺乳類、例えば、霊長類、マウス、ウサギなどを実験調査のために使用してもよい。
【0020】
本明細書で使用されるように「単位剤形」という用語は、ヒトおよび動物被験者に対し単位用量として適した物理的に別個の単位を示し、各単位は、薬学的に許容される希釈剤、担体、またはビヒクルと関連して、所望の効果を生成するのに十分な量で計算した、予め決められた量の本発明の化合物を含む。本発明の新規単位剤形に対する規格は、使用する特別な化合物および達成すべき効果、ならびに宿主における各化合物に関連する薬力学に依存する。
【0021】
「生理学的条件」という用語は、生細胞と適合する条件、例えば、生細胞と適合する温度、pH、塩分濃度、などの主に水性条件を含むことを意味する。
【0022】
「薬学的に許容される賦形剤」は、一般に安全で、非毒性で生物学的にもそうでなくても望ましくないものでない薬学的組成物を調製するのに有益な賦形剤を意味し、獣医学的用途ならびにヒト薬学的用途に適した賦形剤が含まれる。明細書および請求の範囲において使用されるように「薬学的に許容される賦形剤」としては1または複数のそのような賦形剤の両方が挙げられる。
【0023】
本明細書で使用されるように、本発明の化合物の「薬学的に許容される誘導体」としては、それらの塩、エステル、エノールエーテル、エノールエステル、アセタール、ケタール、オルトエステル、ヘミアセタール、ヘミケタール、酸、塩基、溶媒和物、水和物またはプロドラッグが挙げられる。そのような誘導体は、当業者であれば、そのような誘導体化に対する周知の方法を使用して、容易に調製することができる。生成させた化合物は、実質的な毒性効果がなければ動物またはヒトに投与してもよく、そのような化合物は薬学的に活性であるか、またはプロドラッグである。
【0024】
本発明の化合物の「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有する塩を意味する。そのような塩としては、(1)無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などと共に形成される;有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンオプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクト-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、4,4’-メチレンビス-(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第3ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸、などと共に形成される酸付加塩、または(2)親化合物中に存在する酸性プロトンが金属イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、またはアルミニウムイオンにより置換され;または有機塩基、例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミン、などと配位結合すると形成される塩が挙げられる。
【0025】
本発明の化合物の「薬学的に許容されるエステル」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有するエステルを意味し、例えば、酸性基、例えば、カルボン酸、リン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、スルフィン酸およびボロン酸(これらに限定されない)のアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、シクロアルキルおよびヘテロシクリルエステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明の化合物の「薬学的に許容されるエノールエーテル」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有するエノールエーテルを意味し、例えば、化学式C=C(OR)(式中、Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、シクロアルキルまたはヘテロシクリルである)の誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明の化合物の「薬学的に許容されるエノールエステル」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有するエノールエステルを意味し、例えば、化学式C=C(OC(O)R)(式中、Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、シクロアルキルまたはヘテロシクリルである)の誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の化合物の「薬学的に許容される溶媒和物または水和物」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有する溶媒和または水和錯体を意味し、例えば、本発明の化合物の1または複数の溶媒もしくは水分子、または1〜約100、もしくは1〜約10、もしくは1〜約2、3あるいは4の溶媒もしくは水分子との錯体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
「プロドラッグ」は、哺乳類被験者に投与されるとインビボで化学式(I)の活性親化合物を放出する任意の化合物を意味する。化学式(I)の化合物のプロドラッグは、標準の生理学的条件下で加水分解され、対応するカルボキシ、ヒドロキシ、アミノまたはスルフヒドリル基となる官能基を含む。そのような官能基の例としては、化学式(I)の化合物中のヒドロキシ基のエステル(例えば、酢酸、ギ酸および安息香酸誘導体)およびカルバメート(例えば、N,N-ジメチルアミノカルボニル)などが挙げられるが、これらに限定されない。別の例としては、化学式(I)の化合物中のヒドロキシまたはカルボキシ基のジペプチドまたはトリペプチドエステルなどが挙げられる。そのような官能基の調製は当技術分野では周知である。例えば、ヒドロキシ基が結合された化学式(I)の化合物(例えば、X1、X2、X3、Y1またはY2がヒドロキシである場合)を、カルボン酸または自由カルボキシ末端を有するジペプチドと当技術分野において周知のエステル化条件下で処理して、所望のエステル官能基を得てもよい。同様に、自由カルボキシ基が結合された化学式(I)の化合物をアルコールまたはセリン残基(例えば、-N(H)-C(H)(CH2OH)-C(O)-)などのヒドロキシ基を含むトリペプチドと当技術分野において周知のエステル化条件下で処理して、所望のエステル官能基を得てもよい。さらに、カルボン酸エステル基が結合された化学式(I)の化合物を異なるカルボン酸エステルと、標準エステル交換反応条件下で処理して、所望のエステル官能基が結合された化学式(I)の化合物を生成してもよい。そのような官能基は全て本発明の範囲内にあると考えられる。
【0030】
本明細書で使用されるように「有機基」および「有機ラジカル」は、任意の炭素含有官能基を意味し、例えば、脂肪族基、環状基、芳香族基、それらの機能化誘導体および/またはそれらの様々な組み合わせとして分類される炭化水素基が挙げられる。「脂肪族基」は、飽和または不飽和直鎖もしくは分枝炭化水素基を意味し、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニル基を含む。「アルキル基」という用語は、置換または非置換、飽和直鎖もしくは分枝炭化水素基あるいは鎖(例えば、C1〜C8)を意味し、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、ヘプチル、n-オクチル、ドデシル、オクタデシル、アミル、2-エチルヘキシルなどが挙げられる。適した置換基としては、カルボキシ、保護カルボキシ、アミノ、保護アミノ、ハロ、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、メルカプト、低級アルキルチオ、ニトロ、シアノ、一置換アミノ、保護一置換アミノ、二置換アミノ、C1〜C7アルコキシ、C1〜C7アシル、C1〜C7アシルオキシなどが挙げられる。「置換アルキル」という用語は、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、アミノ、保護アミノ、シアノ、ハロ、トリフルオロメチル、一置換アミノ、二置換アミノ、低級アルコキシ、メルカプト、低級アルキルチオ、カルボキシ、保護カルボキシ、アミノおよび/またはヒドロキシ塩により1〜3回置換された上記アルキル基を意味する。ヘテロアリール環に対する置換基に関連して使用されるように、「置換(シクロアルキル)アルキル」および「置換シクロアルキル」は、以下で規定されるように、「置換アルキル」基に対し列挙したものと同じ官能基で置換される。「アルケニル基」という用語は1または複数の炭素-炭素二重結合を有する不飽和の、直鎖または分枝炭化水素基、例えばビニル基を意味する。「アルキニル基」という用語は、1または複数の炭素-炭素三重結合を有する不飽和の、直鎖または分枝炭化水素基を意味する。「環状官能基」という用語は、脂環式基、芳香族基、または複素環基として分類される閉鎖環炭化水素基を意味する。「脂環式基」という用語は、脂肪族基に類似する特性を有する環状炭化水素基を意味する。「芳香族基」または「アリール基」という用語は単環式または多環式炭化水素基を意味し、1または複数のヘテロ原子を含んでもよく、以下で、さらに規定する。「複素環基」は、環内の1または複数の原子が炭素以外の元素(例えば、窒素、酸素、硫黄など)である閉鎖環炭化水素を意味し、以下で、さらに規定する。
【0031】
「有機基」は機能化されてもよく、またはそうでなければ有機基、例えば、カルボキシル、アミノ、ヒドロキシルなど(保護されてもよく保護されなくてもよい)と関連する追加の官能基を含んでもよい。例えば、「アルキル基」という句は、純粋な開鎖飽和炭化水素アルキル置換基、例えば、メチル、エチル、プロピル、t-ブチル、などだけでなく、当技術分野で周知の別の置換基、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルチオ、アルキルスルホニル、ハロ、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシルなどを有するアルキル置換基をも含むものとする。このように、「アルキル基」はエーテル、エステル、ハロアルキル、ニトロアルキル、カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル、スルホアルキルなどを含む。
【0032】
「ハロ基」または「ハロゲン」という用語は、本明細書では同じ意味で使用され、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード基を示す。好ましいハロゲンはクロロおよびフルオロである。
【0033】
「ハロアルキル」という用語は、1または複数のハロゲン基により置換された上記で規定されたアルキル基を示す。ハロゲン原子は同じであっても異なってもよい。「ジハロアルキル」は2のハロ基により置換された上記アルキル基を示し、ハロ基は同じであっても異なってもよい。「トリハロアルキル」という用語は、3のハロ基により置換された上記アルキル基を示し、ハロ基は同じであっても異なってもよい。「ペルハロアルキル」は、アルキル基内の各水素原子がハロゲン原子により置換されている上記で規定されたハロアルキル基を示す。「ペルフルオロアルキル」という用語は、アルキル基内の各水素原子がフルオロ基により置換されている上記で規定したハロアルキル基を示す。
【0034】
「シクロアルキル」という用語は、完全に飽和された、または部分的に不飽和の一、二または三環式飽和環を意味する。そのような官能基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アダマンチル、シクロオクチル、cis-またはtrans-デカリン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、シクロへクス-1-エニル、シクロペント-1-エニル、1,4-シクロオクタジエニル、などが挙げられる。
【0035】
「(シクロアルキル)アルキル」という用語は、上記シクロアルキル環の1つと置き換えられた上記で規定したアルキル基を意味する。そのような官能基の例としては、(シクロヘキシル)メチル、3-(シクロプロピル)-n-プロピル、5-(シクロペンチル)ヘキシル、6-(アダマンチル)ヘキシル、などが挙げられる。
【0036】
「置換フェニル」という用語は、ハロゲン、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、メルカプト、アルキルチオ、トリフルオロメチル、C1〜C7アルキル、C1〜C7アルコキシ、C1〜C7アシル、C1〜C7アシルオキシ、カルボキシ、オキシカルボキシ、保護カルボキシ、カルボキシメチル、保護カルボキシメチル、ヒドロキシメチル、保護ヒドロキシメチル、アミノ、保護アミノ、(一置換)アミノ、保護(一置換)アミノ、(二置換)アミノ、カルボキサミド、保護カルボキサミド、N-(C1〜C6アルキル)カルボキサミド、保護N-(C1〜C6アルキル)カルボキサミド、N,N-ジ(C1〜C6アルキル)カルボキサミド、トリフルオロメチル、N-((C1〜C6アルキル)スルホニル)アミノ、N-(フェニルスルホニル)アミノまたは置換もしくは非置換フェニル、例えばビフェニルまたはナフチル基からなる群から選択される、1または複数の部分で、いくつかの場合では、2または3の部分で置換されたフェニル基を指定する。
【0037】
「置換フェニル」という用語の例としては、モノ-またはジ(ハロ)フェニル基、例えば、2-、3-または4-クロロフェニル、2,6-ジクロロフェニル、2,5-ジクロロフェニル、3,4-ジクロロフェニル、2-、3-または4-ブロモフェニル、3,4-ジブロモフェニル、3-クロロ-4-フルオロフェニル、2-、3-または4-フルオロフェニルなど;モノまたはジ(ヒドロキシ)フェニル基、例えば、2、3、または4-ヒドロキシフェニル、2,4-ジヒドロキシフェニル、それらの保護ヒドロキシ誘導体など;ニトロフェニル基、例えば、2-、3-または4-ニトロフェニル;シアノフェニル基、例えば、2-、3-または4-シアノフェニル;モノ-またはジ(アルキル)フェニル基、例えば、2-、3-または4-メチルフェニル、2,4-ジメチルフェニル、2-、3-または4-(イソ-プロピル)フェニル、2-、3-または4-エチルフェニル、2-、3-または4-(n-プロピル)フェニルなど;モノまたはジ(アルコキシ)フェニル基、例えば、2,6-ジメトキシフェニル、2-、3-または4-(イソプロポキシ)フェニル、2-、3-または4-(t-ブトキシ)フェニル、3-エトキシ-4-メトキシフェニルなど;2-、3-または4-トリフルオロメチルフェニル;モノ-もしくはジ-カルボキシフェニルまたは(保護カルボキシ)フェニル基、例えば、2-、3-もしくは4-カルボキシフェニルまたは2,4-ジ(保護カルボキシ)フェニル;モノ-もしくはジ-(ヒドロキシメチル)フェニルまたは(保護ヒドロキシメチル)フェニル、例えば、2-、3-もしくは4-(保護ヒドロキシメチル)フェニルまたは3,4-ジ(ヒドロキシメチル)フェニル;モノ-もしくはジ-(アミノメチル)フェニルまたは(保護アミノメチル)フェニル;または、モノ-もしくはジ-(N-(メチルスルホニルアミノ))フェニル、例えば、2-、3-または4-(N-(メチルスルホニルアミノ))フェニルが挙げられる。また、「置換フェニル」という用語は、置換基が異なる二置換フェニル基を示し、例えば、3-メチル-4-ヒドロキシフェニル、3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル、2-メトキシ-4-ブロモフェニル、4-エチル-2-ヒドロキシフェニル、3-ヒドロキシ-4-ニトロフェニル、2-ヒドロキシ-4-クロロフェニルなどである。
【0038】
「(置換フェニル)アルキル」という用語は、上記アルキル基の1つに結合された上記置換フェニル基の1つを意味する。そのような官能基の例としては、2-フェニル-1-クロロエチル、2-(4’-メトキシフェニル)エチル、4-(2’,6’-ジヒドロキシフェニル)-n-ヘキシル、2-(5’-シアノ-3’-メトキシフェニル)-n-ペンチル、3-(2’,6’-ジメチルフェニル)プロピル、4-クロロ-3-アミノベンジル、6-(4’-メトキシフェニル)-3-カルボキシヘキシル、5-(4’-アミノメチルフェニル)-3-(アミノメチル)ペンチル、5-フェニル-3-オキソペント-1-イル、(4-ヒドロキシナフ-2-イル)メチルなどが挙げられる。
【0039】
上記のように、「芳香族」または「アリール」は5員および6員炭素環を示す。また、上述したように、「ヘテロアリール」は、1〜4のヘテロ原子、例えば、酸素、硫黄、および/または窒素原子、特に窒素原子を単独でまたは硫黄もしくは酸素環原子と共に有する、任意に置換されていてもよい5員または6員環を示す。これらの5員および6員環は完全に不飽和でもよい。
【0040】
さらに、上記任意に置換されていてもよい5員または6員環は、任意に縮合させて芳香族5員または6員環構造としてもよい。例えば、環は任意に縮合させて芳香族5-員または6-員環構造、例えばピリジンまたはトリアゾール構造、好ましくはベンゼン環としてもよい。
【0041】
下記環構造は、「ヘテロアリール」という用語により示される複素環(置換であろうと非置換であろうと)ラジカルの例である:チエニル、フリル、ピロリル、ピロリジニル、イミダゾリル、イソキサゾリル、トリアゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、テトラゾリル、チアトリアゾリル、オキサトリアゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、オキサジニル、トリアジニル、チアジアジニルテトラゾロ、1,5-[b]ピリダジニルおよびプリニル、ならびにベンゾ縮合誘導体、例えば、ベンゾキサゾリル、ベンズチアゾリル、ベンズイミダゾリルおよびインドリル。
【0042】
上記任意に置換されていてもよいヘテロアリール環に対する置換基は、1〜3のハロ、トリハロメチル、アミノ、保護アミノ、アミノ塩、一置換アミノ、二置換アミノ、カルボキシ、保護カルボキシ、カルボン酸塩、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、ヒドロキシ基の塩、低級アルコキシ、メルカプト、低級アルキルチオ、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、(シクロアルキル)アルキル、置換(シクロアルキル)アルキル、フェニル、置換フェニル、フェニルアルキル、および(置換フェニル)アルキルである。ヘテロアリール基に対する置換基は、前述の規定通りであり、トリハロメチルの場合、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、トリブロモメチルまたはトリヨードメチルとすることができる。ヘテロアリール環に対する上記置換基と関連して使用されるように、「低級アルコキシ」という用語は、C1〜C4アルコキシ基を意味し、同様に、「低級アルキルチオ」という用語は、C1〜C4アルキルチオ基を意味する。
【0043】
「(一置換)アミノ」という用語は、フェニル、置換フェニル、アルキル、置換アルキル、C1〜C4アシル、C2〜C7アルケニル、C2〜C7置換アルケニル、C2〜C7アルキニル、C7〜C16アルキルアリール、C7〜C16置換アルキルアリールおよびヘテロアリール基からなる群から選択される1つの置換基を有するアミノ基を示す。(一置換)アミノはさらに、「保護(一置換)アミノ」という用語により含まれるように、アミノ保護基を有することができる。「(二置換)アミノ」という用語は、フェニル、置換フェニル、アルキル、置換アルキル、C1〜C7アシル、C2〜C7アルケニル、C2〜C7アルキニル、C7〜C16アルキルアリール、C7〜C16置換アルキルアリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される2つの置換基を有するアミノ基を示す。2つの置換基は同じであっても異なってもよい。
【0044】
「ヘテロアリール(アルキル)」という用語は、上記で規定されるヘテロアリール基により任意の位置で置換された、上記で規定されるアルキル基を示す。
【0045】
「任意の(optional)」または「任意に(optionally)」は、その後に記述した事象、状況、特徴または要素が起こるかもしれないが、その必要はないことを意味し、その記述は、その事象または状況が起きる場合およびそれが起きない場合を含む。例えば、「アルキル基で任意に一または二置換されていてもよいヘテロシクロ基」は、アルキル基が存在してもよいが、その必要はないこと、その記述は、ヘテロシクロ基がアルキル基により一または二置換される状況、およびヘテロシクロ基がアルキル基により置換されない状況を含むことを意味する。
【0046】
「電子吸引性基」という用語は、分子上の官能基が、その分子内の同じ位置を水素が占有した場合に比べ、水素原子よりも電子をその官能基に向かって強く吸引することができることを意味する。電子吸引性基の例としては、例えば、ハロゲン基、-C(O)R基(式中、Rはアルキルである);カルボン酸およびエステル基;-NR3+基(式中、Rはアルキルまたは水素である);アゾ;ニトロ;-ORおよび-SR基(式中、Rは水素またはアルキルである);ならびにそのような電子吸引性基を含む有機基(本明細書で規定される通り)、例えばハロアルキル基(ペルハロアルキル基を含む)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
同じ分子式を有するが、原子の結合の性質もしくは順序または原子の空間配列が異なる化合物を「異性体」と呼ぶ。原子の空間配列の異なる異性体は「立体異性体」と呼ばれる。互いの鏡像ではない立体異性体を「ジアステレオマー」と呼び、互いに重ね合わせることができない鏡像である立体異性体を「エナンチオマー」と呼ぶ。化合物が不斉中心を有する、例えば、不斉中心が4つの異なる官能基に結合される場合、一対のエナンチオマーが可能である。エナンチオマーはその不斉中心の絶対配置により特徴づけることができ、CahnおよびPrelogのR-およびS-順位規則により記述され、または分子が偏光面を回転させ、右旋性もしくは左旋性(すなわち、それぞれ(+)-もしくは(-)-異性体)として示される様式により記述される。キラル化合物は、個々のエナンチオマーまたはそれらの混合物のいずれかとして存在することができる。等しい比率のエナンチオマーを含む混合物は「ラセミ混合物」と呼ばれる。
【0048】
本発明の化合物は1または複数の不斉中心を有してもよく;そのため、そのような化合物は個々の(R)-もしくは(S)-立体異性体またはそれらの混合物として生成させることができる。特に記載がなければ、明細書および請求の範囲における特別な化合物の説明または命名は、個々のエナンチオマーおよびそれらの混合物、ラセミまたはそうでないもの、の両方を含むものとする。立体化学の決定および立体異性体の分離のための方法は当技術分野で周知である(例えば“Advanced Organic Chemistry”、第4版、J. March、John Wiley and Sons、New York、1992の第4章の考察を参照のこと)。
【0049】
概観
本発明はチアゾリジノン組成物、チアゾリジノン誘導体組成物および嚢胞性線維症コンダクタンス制御因子蛋白質(CFTR)の高親和性阻害におけるその使用方法、ならびにCFTR-媒介疾患および状態の研究および治療のためのその使用方法を提供する。対象のチアゾリジノン化合物およびその誘導体の発見は、CFTRと直接相互作用するCFTR阻害薬を同定するように設計されたアッセイ法を使用する多くの可能性のある候補化合物のスクリーニングに基づく。任意の特別な理論または動作モードに固執せずに、異なる活性化経路に作用する複数のCFTR活性化剤が対象化合物の同定に至る研究に含まれていたので、本発明の阻害化合物はおそらくCFTR Cl-輸送経路で、またはその付近で作用することにより阻害する。50,000の様々な化合物のスクリーニングにより、効果的なCFTR阻害薬としていくつかの2-チオキソ-4-チアゾリジノン化合物および誘導体を同定した。これらの化合物および誘導体は、従来の周知のCFTR活性化剤または従来の周知のCFTR阻害薬DPC、NPPBまたはグリベンクラミドとは化学的および構造的に関係ない。スクリーニングから同定した最も強力なCFTR阻害薬は、ヒト気道細胞におけるCl-電流の阻害に対し〜300nMのKIを有した。阻害は迅速で、可逆で、CFTR-特異的であった。
【0050】
本発明の組成物および方法について以下で、より詳細に説明する。
【0051】
チアゾリジノン化合物および誘導体
本発明の組成物および方法において使用するチアゾリジノン化合物および誘導体は5またはそれ以上の原子の複素環を有し、アリール置換窒素、少なくとも1つの硫黄、酸素、またはセレンヘテロ原子、および複素環と結合した1または複数のカルボニルまたはチオカルボニル基を含む。より特定的には、対象チアゾリジノン化合物および誘導体は、下記化学式(I)、または薬学的に許容されるそれらの誘導体を、個々の立体異性体またはその混合物として、有してもよい:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。A4が存在しない場合、中央複素環は5員環である。
【0052】
一定の態様では、上記化学式(I)のチアゾリジノン化合物および誘導体は化学式(Ia)を有する:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択される)。特定の態様では、X1は電子吸引性基であってもよく、ハロアルキル基、ジハロアルキル基、トリハロアルキル基(例えば、トリフルオロアルキル基)またはフルオロ基を含んでもよい。Y2は、独立してアルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基からなる群から選択され、Y1は独立して、ヒドロキシルおよびブロモ基から選択され、Y3は独立して水素および窒素基から選択される。
【0053】
多くの態様における化学式(I)の対象チアゾリジノン化合物および誘導体は化学式(Ib)の3-アリール-5-アリールメチレン-2-チオキソ-4-チアゾリジノンを含んでもよい:
(式中、
X1、X2およびX3の少なくとも1つは電子吸引性基であり;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される)。1つの態様では、X1は2、3、または4から選択される1つの位置にあり;Y2は、2、3、または4から選択される1つの位置にあり;Y1およびY3は水素であってもよい。
【0054】
3-アリール-5-アリールメチレン-2-チオキソ-4-チアゾリジノンはより特定的には、化学式(Ic)を有する:
(式中、
Y1〜Y3は上記の通りである)。1つの態様では、トリフルオロメチル基は2、3、または4から選択される1つの位置にあり;Y2は、2、3、または4から選択される1つの位置にあり;Y1およびY3はこの態様では水素であってもよい。
【0055】
本発明のいくつかの態様では、本発明のチアゾリジノン化合物は下記を含んでもよい:
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および
すなわち、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン。また、上記列挙した任意の化合物のトリフルオロメチル基はフェニル環の2位または4位としてもよい。
【0056】
薬学的調製物
本発明により、上記対象チアゾリジノン化合物の薬学的調製物も提供される。対象化合物は様々な経路による治療投与用の様々な製剤中に組み入れることができる。より特別には、本発明の化合物は、適当な、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤および/またはアジュバントと組み合わせることにより製剤化して薬学的組成物にすることができ、または製剤化して固体、半固体、液体また気体形態の調製物、例えば、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、坐薬、注射液、吸入薬およびエアロゾルとしてもよい。好ましくは、製剤は検出可能なDMSO(ジメチルスルホキシド)を含まない。DMSOは、非局所性の非経口投与または経腸投与用の薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントではない。製剤は、投与の必要な被験者または患者に多くの異なる経路、例えば経口、口腔、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、気管内投与などを介して投与されるように、設計されてもよい。
【0057】
1つの態様では、局所投与(例えば、経皮投与による)が対象である。局所用製剤は、経皮パッチ、軟膏、ペースト、ローション、クリーム、ゲルなどの形態をとることができる。局所用製剤は、浸透剤、濃厚剤、希釈剤、乳化剤、分散補助剤、または結合剤のうちの1または複数を含んでもよい。化合物が経皮送達用に製剤化される場合、化合物は浸透エンハンサーと共に、または浸透エンハンサーと共に使用されるように製剤化されてもよい。浸透エンハンサーには化学的浸透エンハンサーおよび物理的浸透エンハンサーが含まれ、これらにより化合物の皮膚を介した送達が容易になり、同じ意味で「透過エンハンサー」とも呼ばれることがある。物理的浸透エンハンサーとしては、例えば、電気泳動技術、例えばイオン導入法、超音波の使用(または「フォノフォレシス」)などが挙げられる。化学的浸透エンハンサーは化合物投与の前、直後、またはそれと共に投与される作用物質であり、これにより皮膚、特に角質層の透過性が増大し、皮膚を介した薬物の浸透が増強される。
【0058】
皮膚透過性を増強させるために使用されている化合物としては、スルホキシド、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびデシルメチルスルホキシド(C10MSD);エーテル、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル、デカオキシエチレン-オレイルエーテル、およびジエチレングリコールモノメチルエーテル;界面活性剤、例えばラウリン酸ナトリウム、ライリル硫酸ナトリウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ポロキサマー(Poloxamer)(231、182、184)、ツィーン(Tween)(20、40、60、80)およびレシチン;1-置換アザシクロヘプタン-2-オン、特に1-n-ドデシルシクラザシクロヘプタン-2-オン;アルコール、例えばエタノール、プロパノール、オクタノール、ベンジルアルコールなど;ワセリン(petrolatum)、例えばワセリン(petroleum jelly)(petrolatum)、鉱物油(液体ワセリン)など;脂肪酸、例えばC8〜C22および他の脂肪酸(例えば、イソステアリン酸、オクタン酸、オレイン酸、ラウリン酸、吉草酸);C8〜C22脂肪アルコール(例えば、オレイルアルコール、ラウリルアルコール);C8〜C22脂肪酸および他の脂肪酸の低級アルキルエステル(例えば、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、オレイン酸エチル);C8〜C22脂肪酸のモノグリセリド(例えば、モノラウリン酸グリセリル);テトラヒドロフルフリルアルコールポリエチレングリコールエーテル;2-(2-エトキシエトキシ)エタノール;ジエチレングリコールモノメチルエーテル;ポリエチレンオキシドのアルキルアリールエーテル;ポリエチレンオキシドモノメチルエーテル;ポリエチレンオキシドジメチルエーテル;C6〜C8二酸の二-低級アルキルエステル(例えば、アジピン酸ジイソプロピル);酢酸エチル;アセト酢酸エステル;ポリオールおよびそれらのエステル、例えば、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールモノラウレート;アミドおよび他の窒素含有化合物、例えば尿素、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、2-ピロリドン、N-アルキルピロリドン、例えば、1-メチル-2-ピロリドン;エタノールアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン;テルペン;アルカノン、および有機酸、とくにサリチル酸およびサリチレート、クエン酸およびコハク酸が挙げられる。他の化学的および物理的浸透エンハンサーは、例えば、Transdermal Delivery of Drugs、A.F.Kydonieus (ED) 1987 CRL Press;Percutaneous Penetration Enhancers、eds. Smith et al.(CRC Press、1995);Lenneruas et al.、J Pharm Pharmacol 2002;54(4):499-508;Karande et al.、Pharm Res 2002;19(5):655-60;Vaddi et al.、J Pharm Sci 2002 July;91(7):1639-51;Ventura et al.、J Drug Target 2001;9(5):379-93;Shokri et al.、Int J Pharm 2001;228(1-2):99-107;Suzuki et al.、Biol Pharm Bull 2001;24(6):698-700;Alberti et al.、J Control Release 2001;71(3):319-27;Goldstein et al.、Urology 2001;57(2):301-5;Kiijavainen et al.、Eur J Pharm Sci 2000;10(2):97-102;およびTenjarla et al.、Int J Pharm 1999;192(2):147-58に記述されている。
【0059】
化合物が化学的な浸透エンハンサーと共に製剤化される場合、浸透エンハンサーは化合物との適合性について選択され、被験者の皮膚を通して化合物が容易に送達されるように、例えば化合物が体循環に送達されるように、十分な量で存在する。1つの態様では、化合物はDMSO以外の浸透エンハンサーと共に製剤化される。
【0060】
1つの態様では、化合物は薬物送達パッチ、例えば経粘膜または経皮パッチ中で提供され、浸透エンハンサーと共に製剤化することができる。パッチは一般に裏当て層(化合物および他の製剤成分に対し不透過性である)、裏当て層の1つの側と接触するマトリクス(このマトリクスにより、化合物の持続放出が提供され、これは制御放出であってもよい)、および接着層(裏当て層のマトリクスと同じ側に存在する)を含む。マトリクスは投与経路に適したものを選択することができ、例えば、ポリマまたはヒドロキシゲルマトリクスとすることができる。
【0061】
薬学的剤形では、本発明の対象化合物は薬学的に許容される誘導体、例えば、塩の形態で投与してもよく、また、単独でまたは他の薬学的に活性な化合物と適当に関連させて、およびそれらと組み合わせて使用してもよい。下記方法および賦形剤は例示にすぎず、決して制限するものではない。
【0062】
経口投与のために、対象化合物を単独でまたは適当な添加剤と組み合わせて使用し、例えば、下記のものと共に、錠剤、粉末、顆粒またはカプセルを作成することができる:従来の添加剤、例えば、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプンまたはジャガイモデンプン;結合剤、例えば結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシアゴム、トウモロコシデンプンまたはゼラチン;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプンまたはカルボキシメチルセルロースナトリウム;潤滑剤、例えばタルクまたはステアリン酸マグネシウム;および所望であれば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤および芳香剤。対象チアゾリジノン化合物と緩衝剤との製剤が特に興味深く、化合物が胃環境の低pHから保護される。胃を通過する間に化合物が沈澱するのを避けるために腸溶性コーティングを提供することも好ましい。
【0063】
本発明の対象化合物は、水性または非水性溶媒、例えば、植物油または他の同様な油、合成脂肪族酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステル中で化合物を溶解、懸濁または乳化させることにより;所望であれば、従来の添加剤、例えば可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤および保存剤と共に、注射用調製物に製剤化することができる。特に興味深い可溶化剤としては、ビタミンE TPGS(d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート)、シクロデキストリンなどが挙げられる。
【0064】
本発明の化合物は、吸入により投与されるエアロゾル製剤において使用することができる。本発明の化合物は、加圧された許容される噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など中で製剤化することができる。
【0065】
さらに、対象化合物は、様々な塩基、例えば乳化塩基または水溶性塩基と共に混合することにより坐薬とすることができる。本発明の化合物は坐薬により直腸内投与することができる。坐薬はビヒクル、例えばココアバター、カルボワックス(carbowax)およびポリエチレングリコールを含むことができ、これらは体温で溶解するが、室温では固化する。
【0066】
経口または直腸投与のための単位剤形、例えば、シロップ、エリキシルおよび懸濁液を提供してもよく、この場合、各投与単位、例えば、茶さじ一杯、テーブルスプーン一杯、錠剤または坐薬は、1または複数の阻害薬を含む予め決められた量の組成物を含む。同様に、注射用または静脈内投与用の単位剤形は、滅菌水、生理食塩水または別の薬学的に許容される担体に溶解した溶液として組成物中に阻害薬を含んでもよい。
【0067】
治療を受ける被験者および状態、ならびに投与経路により、対象化合物は、例えば、0.1μg〜10mg/kg体重/日の用量で投与されてもよい。範囲は広い。一般に、異なる哺乳類に対する治療効果の効き目は大きく変動し、用量は典型的には、ラットに比べヒトでは、20、30または40倍小さくなる(単位体重あたり)。同様に投与モードは用量に大きく影響することがある。本発明者らは、マウスにおいてコレラ毒素により誘発された腸液分泌が約10〜20μgの腹腔内単回投与により効果的に遮断され、ラットでは約10倍の用量が効果的であることを見出した。このように、例えば、経口用量は注射用量の約10倍となるかもしれない。局所送達経路ではより高い用量を使用してもよい。
【0068】
典型的な用量は静脈内投与に適した溶液;毎日2〜6回摂取される錠剤、または1日1回摂取され、比例的により高い量の活性成分などを含む、1つの持続放出性カプセルもしくは錠剤としてもよい。持続放出効果は、異なるpH値で溶解するカプセル材料により、浸透圧により徐々に放出するカプセルにより、または周知の任意の他の制御放出手段により得ることができる。
【0069】
対象方法において使用するために、対象化合物を他の薬学的に活性な薬剤、例えば他のCFTR-阻害薬と共に製剤化してもよい。
【0070】
本発明と共に使用することができる薬学的に許容される賦形剤、例えばビヒクル、アジュバント、担体または希釈剤は一般の人々が容易に入手できる。さらに、薬学的に許容される補助物質、例えばpH調節および緩衝剤、緊張度調節剤(tonicity adjusting agent)、安定化剤、湿潤剤などは、一般の人々に容易に入手できる。
【0071】
当業者であれば、用量レベルは特定の化合物、症状の重篤度および被験者の副作用への感受性の関数として変動することがある。一定の化合物に対する好ましい用量は、様々な手段により当業者により容易に決定することができる。
【0072】
単位用量の対象化合物を、通常経口または注射用の用量で備えたキットが提供される。そのようなキットでは、単位用量を含む容器の他に、対象の病的状態の治療における薬物の使用および結果として伴う利点を記述している情報パッケージ挿入物が存在する。好ましい化合物および単位用量は本明細書で上述したものである。
【0073】
本発明のCFTR阻害薬を使用する治療に適した状態
本明細書で開示したCFTR阻害薬は、CFTRの活性、例えばイオン輸送におけるCFTRの活性に起因するCFTRにより媒介される状態、すなわち、任意の状態、障害もしくは疾患、またはそのような状態、障害もしくは疾患の徴候の治療に有益である。そのような状態、障害、疾患、またはそれらの徴候は、CFTR活性の阻害、例えば、CFTRイオン輸送の阻害による治療に適している。
【0074】
1つの態様では、本発明のCFTR阻害薬は、異常に増加した腸分泌、特に急性の異常に増加した腸分泌に関連する状態の治療に使用される。CFTR活性は、様々な作動薬、例えばコレラ毒素に応じる腸分泌に関係する(例えば、Snyder et al. 1982 Bull. World Heath Organ. 60:605-613;Chao et al. 1994 EMBO J. 13:1065-1072;Kimberg et al. 1971 J. Clin. Invest.50:1218-1230を参照のこと)。このように、本発明のCFTR阻害薬はCFTRイオン輸送を阻害し、これにより腸液分泌を減少させるのに効果的な量で投与することができる。
【0075】
このように、CFTR阻害薬を、腸炎症性疾患および下痢、特に分泌性下痢の治療に使用することができる。分泌性下痢は、毎年約5百万人が死亡する発展途上国における乳児死亡の最も大きな原因である(Gabriel at el.、1994 Science 266:107-109)。CFマウスを使用する研究を含むいくつかの研究では、CFTRが、様々な作動薬に応じた腸塩化物イオン(およびこのため腸液)分泌に対する最終共通経路であることが示される(Synder et al.、1982、Bull. World Heath Organ. 60:605-613;Chao et al.、1994 EMBO.J. 13:1065-1072;およびKimberg et al.、1971、J. Clin. Invest. 50:1218-1230)。本明細書で使用した腸液分泌のマウスモデルにより、非毒性用量で阻害薬を全身投与することによるCFTR阻害により、コレラ毒素により誘発された腸液分泌が効果的に遮断されることが示される(実施例を参照のこと)。
【0076】
本発明のCFTR阻害薬を使用する治療に適しているかもしれない下痢は、様々な病原菌または病原体への曝露、例えば、コレラ毒素(コレラ菌)、大腸菌(特に腸内毒素原性(ETEC))、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、寄生虫(例えば、ジアルジア(Giardia)、赤痢アメーバ)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidiosis)、サイクロスポーラ(Cyclospora))、下痢ウイルス(例えば、ロタウイルス)、食中毒、またはCFTRにより媒介される腸分泌が増大する毒素曝露(これらに限定されない)により生じることがある。
【0077】
他の下痢としては、AIDSに関連する下痢(例えば、エイズ関連下痢)、および炎症性胃腸疾患、例えば潰瘍性大腸炎、炎症性大腸炎(IBD)、クローン病、などが挙げられる。腸の炎症により腸の塩輸送の3つの主のメディエータの発現が調節され、経上皮Cl-分泌の増加および上皮NaCl吸収の阻害の両方により、潰瘍性大腸炎における下痢の一因となるかもしれないことが報告されている(例えば、Lohi et al.、2002、Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 283(3):G567-75を参照のこと)。
【0078】
本発明のCFTR阻害薬はまた、多発性嚢胞腎などの状態の治療において使用でき、さらに精巣におけるCFTR活性を阻害することにより男性不妊薬としての使用も見出されている。
【0079】
本発明のCFTR阻害薬について、より大型動物モデルにおいてスクリーニングすることができる(例えば、Spira et al.、1981、Infect. Immun. 32:739-747において記述されているウサギモデル)。さらに、生コレラ菌を使用した大便分析検査を実施し、さらに、本発明のCFTR阻害薬のキャラクタリゼーションを行うことができる。
【0080】
CFTR欠乏のヒト以外の動物モデルおよびヒト組織モデル
本発明のCFTR阻害薬はまた、減少したCFTR機能(例えば、減少したイオン輸送)に関連する疾患のヒト以外の動物モデルを作成するのに使用することができる。気道粘膜下腺による液分泌および高分子分泌の欠陥により、CFTR-欠乏被験者、特に嚢胞性線維症(CF)の影響を受けた被験者では粘膜毛様体クリアランスおよび細菌クリアランスの低下につながる証拠が益々増えている;が、ヒト気道腺での機能研究は肺移植時に得られる重篤な疾患を有する気道に制限されている(Jayaraman et al.2001 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:8119-8123)。急性CFTR阻害により、粘膜下腺による水、塩および高分子分泌におけるCFTRの役割の決定が可能である。高親和性CFTR阻害薬により、ヒトにおけるCFTR-欠乏を模倣する、例えば、ヒトCF表現型を模倣するヒト以外の動物モデルを薬理学的に作成することができる。特に、CFTR欠乏(例えば、CF)の大型動物モデルは、CFにおける気道疾患の始まりおよび進行の病態生理を評価する、およびCF治療の効能を評価する、例えばCFTR-欠乏またはその徴候の治療に対する候補薬剤をスクリーニングするのに特に使用される。
【0081】
CFTRイオン輸送の阻害は、気道および膵臓疾患、ならびに男性不妊において現れることがある。例えば、肺および気道におけるCFTRチャネルの阻害は気道表面液に影響し、粘液の蓄積に至り、これにより気道が塞がれ、粘液が肺壁上に大量に集まり、感染が起こるのに最高の環境となり、慢性肺疾患に至ることがある。これと同じ現象が膵臓で起こり、蓄積した粘液が膵臓の外分泌機能に支障をきたし、本質的な食品加工酵素が腸に到達するのを阻止される。
【0082】
そのようなヒト以外の動物モデルは、イオン輸送におけるCFTR活性を減少させるのに有効な一定量のCFTR阻害薬を投与することにより作成することができる。ヒト以外の動物において嚢胞性線維症(CF)表現型を誘導するのに本発明のCFTR阻害薬を使用することは特に興味深い。例えば、肺においてCFTR受容体を阻害するのに効果的な一定量のCFTR阻害薬を投与すると、効果的に、CFで見られるCFTR欠陥が模倣される。CFTR阻害薬に対する送達経路は上記で詳細に説明している。使用したヒト以外の動物により、対象化合物は、例えば、1日に1〜3回、50〜500μg/kg体重の用量で、腹腔内、皮下、または他の経路により投与し、ヒト以外の動物モデルを作成してもよい。経口投与は腹腔内または皮下投与の約10倍までとしてもよい。
【0083】
CFTR-関連疾患のヒト以外の動物モデルを、減少したCFTR活性に関連する任意の適当な状態のモデルとして使用することができる。そのような状態としては、CFTR突然変異と関連するものが挙げられ、この突然変異により上皮イオンおよび水輸送において異常が生じる。これらの異常は気道の粘膜毛様体クリアランス、ならびに他の粘膜上皮および管上皮における障害に関連する。ヒト以外の動物においてCFTR-欠乏表現型を誘導することにより薬理学的にモデルを作成することができる状態としては、嚢胞性線維症(非定型CFを含む)、突発性慢性膵炎、輸精管障害、軽い肺疾患、喘息などが挙げられるが、これらに限定されない。CFTR機能の低下と関連する疾患について再考するために、例えば、Noone et al. Respir Res 2 328-332(2001)を参照のこと。CFTR阻害薬により作成したヒト以外の動物モデルはまた、CFTR欠乏被験者において微生物感染(例えば、細菌、ウイルス、または真菌感染、特に呼吸器感染)モデルとしても機能することができる。特に興味深い1つの態様では、本発明のCFTR阻害薬は、薬理学的に嚢胞性線維症(CF)表現型を誘発するために使用される。
【0084】
本発明の動物モデルの作成に使用するのに適した動物としては、任意の動物、特に哺乳類、例えばヒト以外の霊長類(例えば、サル、チンパンジー、ゴリラなど)、齧歯類(例えば、ラット、マウス、スナネズミ、ハムスター、フェレットなど)、ウサギ、ブタ(例えば、ブタ、ミニブタ)、ウマ、イヌ、ネコなどが挙げられる。大型動物が特に興味深い。
【0085】
CFTR阻害薬を、単離したヒト組織と接触させ、疾患のエクスビボモデルを作成することもできる。そのような組織を、組織においてCFTR活性を減少させるのに効果的な一定量のCFTR阻害薬と接触させる。接触は15分という短い時間であってもよく、または2時間もしくはそれ以上という長い時間としてもよい。対象となるヒト組織としては、肺(気管および気道を含む)、肝臓、膵臓、睾丸などが挙げられるが、これらに限定されない。生理学、生物化学、ゲノムまたは他の研究を阻害薬で処理した組織について実施し、疾患の病態生理において重要な新規治療標的分子を同定することができる。例えば、CFを有さないヒトから単離した組織を、CF表現型を誘発するのに十分な阻害薬に曝露することができ、そのような研究を実施し、CFの病態生理において重要な新規治療標的分子を同定することができる。
【0086】
本発明の化合物の合成
本発明の化合物は、当業者に周知の方法、またはUS第5,326,770号およびUS第6,380,186号(これらは全て参照により全体として本明細書に組み込まれる)で開示された方法と類似する方法により、または下記方法と類似する方法により調製してもよい。
【0087】
以下の記述では、示した化学式の置換基および/または変数の組み合わせは、そのような組み合わせにより安定な化合物が得られる場合にのみ許容されることは理解される。
【0088】
当業者であれば、下記方法では、中間体化合物の官能基は適した保護基により保護される必要があるかもしれないことも認識されるであろう。そのような官能基としては、ヒドロキシ、アミノ、メルカプトおよびカルボン酸が挙げられる。ヒドロキシに対する適した保護基としてはトリアルキルシルまたはジアリールシリル(例えば、t-ブチルジメチルシリル、t-ブチルジフェニルシリルまたはトリメチルシリル)、テトラヒドロピラニル、ベンジルなどが挙げられる。アミノ、アミジノおよびグアニジノに対する適した保護基としては、t-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどが挙げられる。メルカプトに対する適した保護基としては、-C(O)-R(式中、Rはアルキル、アリールまたはアラルキルである)、p-メトキシベンジル、トリチルなどが挙げられる。カルボン酸に対する適した保護基としてはアルキル、アリールまたはアラルキルエステルが挙げられる。
【0089】
保護基は、当業者に周知であり、本明細書で記述されているような標準技術により添加または除去してもよい。
【0090】
保護基の使用は、Theodora W. Greene、Peter G. M. Wuts、Protective Groups in Organic Synthesis(1999)、3rd Ed.、Wiley-Interscienceにおいて詳細に記述されている。保護基はまた、Wang樹脂または2-クロロトリチルクロリド樹脂などのポリマ樹脂としてもよい。
【0091】
当業者であれば、上記のように(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)、化学式(I)の化合物のそのような保護誘導体はそれ自体薬理学的活性を有していないこともあるが、哺乳類に投与され、その後体内で代謝されると、薬理学的に活性な本発明の化合物を形成することができることも認識されるであろう。そのため、そのような誘導体は「プロドラッグ」として記述されてもよい。化学式(I)の化合物の全てのプロドラッグは本発明の範囲内に含まれる。
【0092】
下記反応スキームは本発明の化合物の製造方法を示したものである。当業者であれば、同様の方法により、または当業者に周知の方法により、本発明の化合物を製造することができることは理解されるであろう。一般に、開始成分はAldrichなどの供給源から得てもよく、または当業者に周知の源に従い合成してもよい(例えば、Smith and March、March’s Advanced Organic Chemistry:Reactions、Mechanisms、and Structure、5th edition(Wiley Interscience、New York)を参照のこと)。さらに、本発明の化合物の様々な置換された官能基(例えば、X1、X2、X3、Y1、Y2およびY3など)が、当業者に周知の方法により、開始成分、中間体成分、および/または最終生成物に結合されてもよい。
【0093】
下記反応スキームでは、Rはアルキルまたはアラルキル基を示し、Wはハロゲン原子、例えば、Cl、BrまたはIを示す。
【0094】
下記反応スキームIは、化学式(1)の化合物の調製に関し、これらの化合物は上記のように(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)本発明の化合物であり、ここでA4は存在せず、A1、A2、A3、X1、X2、X3、Y1、Y2およびY3は上記の通りである(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)。
反応スキームI
【0095】
一般に、化学式(I)の化合物は、最初に化学式(a)の化合物を1当量の塩基、例えばNaOHと、雰囲気温度で処理することにより調製される。その後、THFなどの適当な溶媒に溶解した化学式(b)の化合物を反応混合物に添加する。その後、得られた反応混合物を約1時間〜約24時間の間の期間、撹拌する。その後、HClなどの酸を反応混合物に添加する。その後、得られた反応混合物を約1時間〜約24時間の間の期間、撹拌する。その後、化学式(c)の化合物を反応混合物から標準単離および精製技術により単離する。その後、化学式(c)の化合物を化学式(d)の化合物と、標準Knoevenagel縮合条件下で処理すると、化学式(I)の所望の生成物が得られる。
【0096】
また、化学式(I)の化合物は、下記反応スキーム2に従い調製することができる。ここで、A1、A2、A3、Y1、Y2およびY3は上記の通りであり(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)、Wはハロである:
反応スキーム2
【0097】
一般に、化学式(I)の化合物は、最初に化学式(e)の化合物を化学式(f)の化合物と、標準Knoevenagel縮合条件下、例えば氷酢酸、アルコールまたは別の適当な溶剤中、触媒量のピペリジンの存在下での還流下などにおいて処理することにより調製される。その後、化学式(g)の化合物を反応混合物から標準単離および精製技術により単離する。その後、化学式(g)の化合物を化学式(h)の化合物と、標準Ullmann縮合条件下、例えば、CuまたはCu2OまたはCuOの存在下高温で処理すると、化学式(I)の所望の生成物が得られる。
【0098】
また、化学式(I)の化合物は、下記反応スキーム3に従い調製することができる。ここで、A1、A2、A3、Y1、Y2およびY3は上記の通りであり(例えば、概観ならびにチアゾリジノン化合物および誘導体において)、Wはハロである:
反応スキーム3
【0099】
この反応スキームでは、第1段階は、化学式(e)の化合物と化学式(h)の化合物との間のUllmann縮合であり、化学式(c)の化合物が生成し、その後、化学式(d)の化合物とのKnoevenagel縮合を受け、化学式(1)の所望の生成物が得られる。
【0100】
化学式(e)の開始化合物は、異なる化学薬品供給者から購入することができ、または当業者に周知の方法により、もしくはF.C.Brown et al.、J. Am. Chem. Soc.、78、384-388(1956);R.E. Strube、Organic Synthesis、CV 4、6;K.S.Markley and E.E.Reid、J. Am. Chem. Soc.、52、2137-2141(これらは全て、参照により、全体として本明細書に組み込まれる)において開示された方法に類似する方法により合成することができる。
【0101】
上記と同様の様式で、3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(本明細書では、CFTRinh-172と呼ぶ)(図1Cを参照のこと)ならびに異なる位置のトリフルオロメチルおよびカルボキシ置換基を有する類似体(例えば、図1Dを参照のこと)の合成を、2-チオキソ-3-[a-トリフルオロメチル-4-フェニル]-4-チアゾリジノン(a=2、3または4)のb-カルボキシベンズアルデヒド(b=2、3または4)とのピペリジンの存在下でのKnoevenagel縮合により達成した。沈澱を濾過し、エタノールで洗浄し、乾燥させ、エタノールから2〜3回再結晶化させると、鮮黄色の結晶が得られた(収率70〜85%)。構造を1H-NMRにより確認した。薄層クロマトグラフィーおよびHPLCにより判断すると、純度は>99%であった。
【0102】
実施例
下記実施例は、本発明をどのように製造し使用するかを、当業者に完全に開示し説明するために、示したものであり、発明者らが発明であると考えている範囲を限定するものではなく、下記実験が全てであることを示すものではなく、実施した実験にすぎない。使用した数値(例えば、量、温度など)については精度を保証するように努力がなされているが、いくつかの実験誤差および偏差が説明されるべきである。特に記載がなければ、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏温度、および圧力は大気圧またはその付近である。
【0103】
本発明の化合物の合成について、下記実施例を用いて例示するが、これらに限定されるものではない。
【0104】
合成例
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノンの合成
A. 酢酸エチル(10mL)に溶解した3-トリフルオロメチルアニリン(1.6g、10mmol)およびトリエチルアミン(1g、10mmol)の撹拌溶液に、30分の期間中、二硫化炭素(0.8g、10mmol)を滴下した。添加が大体半分完了すると、穏やかな発熱反応が始まり、この発熱反応は氷浴を断続的に使用することにより容易に制御できた。一晩中撹拌した後、粘度の高い黄色スラリーを濾過し、沈澱をジエチルエーテル50mLで洗浄し、空気乾燥すると、3gの黄白色のジチオカルバメート固体(89%)が得られた。m.p.92〜95℃(dec.)。
【0105】
B. クロロ酢酸ナトリウム(クロロ酢酸(0.064g、0.46mmol)を含むNaHCO3溶液0.6mL、pH 8〜9から調製)を撹拌し、5〜10℃まで冷却し、ジチオカルバメート(0.3g、0.9mmol)を10分間にわたり添加した。撹拌を続けながら、フラスコを雰囲気温度まで温めた。2時間撹拌した後、溶液を10℃まで冷却し、濃塩酸で酸性化し、反応混合物を90〜95℃まで30分間加熱した。得られた沈澱を濾過し、水で洗浄し、エタノールから再結晶化すると、0.103gの2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-4-チアゾリジノンが、光沢のある結晶として83%の収率で得られた。m.p. 177〜178℃。
【0106】
C. 無水アルコール(1mL)およびピペリジン(1滴)に溶解した上記で得られた2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-4-チアゾリジノン(0.1g、0.36mmol)および4-カルボキシベンズアルデヒド(0.054g、0.36mmol)の混合物を30分間、撹拌、還流した。黄色沈澱を濾過し、エタノールで洗浄し、乾燥させ、エタノールから再結晶化させると、0.108g(73%)の標題化合物が黄色結晶固体として得られた。m.p.:180〜182℃。
【0107】
D. 上記と同様の様式で、下記化合物を調製した:
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-カルボキシ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4,5-トリヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;
3-[(3-トリフルオロメチル-4-フルオロ)フェニル]-5-[(3-カルボキシ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および
3-[(4-フルオロ-3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン。
【0108】
下記材料および方法を下記実施例において使用した。
【0109】
細胞系、マウスおよび化合物
ヒト野生型CFTRおよびハロゲン化指標YFP-H148Qを共発現するFischerラット甲状腺(FRT)細胞を、前に記述されているように作成した(Galietta et al. 2001 J. Biol. Chem. 276:19723-19728)。細胞を96-ウエルの黒色壁マイクロプレート(Corning Costar)に、1ウエルあたり20,000細胞の密度で、5%ウシ胎児血清、2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリン、および100μg/mL ストレプトマイシンを補足したCoon改良F12培地中に蒔いた。プレーティング後48時間、細胞が集密(〜40,000細胞/ウエル)となった時点でアッセイ法を実施した。
【0110】
DMSO中に溶解した10mMストック溶液として得られ、96-ウエルマイクロプレート中100mMに希釈されたChemBridge(San Diego、CA)からの50,000薬物様化合物の様々なコレクションを使用して初期クリーニングを実施した。構造-活性分析をChemBridgeおよびChemDiv(San Diego、CA)から購入した類似体に対し実施した。
【0111】
野生型マウスおよび嚢胞性線維症(△F508ホモ接合突然変異)マウスを、カルフォルニア大学(サンフランシスコ、UCSF)のCFアニマルコア施設(Animal Core facility)により繁殖させた。動物プロトコルは動物研究に関するUCSF委員会により承認された。
【0112】
T84およびCaco-2細胞をUCSF細胞培養施設から獲得した。T84細胞を、5%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、および100μg/mL ストレプトマイシンを補足したDHEMおよびHams F12の1:1混合物で培養し、Snapwellインサート(Corning Costar)上に蒔き、加湿(5%O2/95%CO2)雰囲気中37℃で増殖させた。プレーティング後10〜14日の細胞を使用した。Caco-2細胞を、10%ウシ胎児血清、1%非必須アミノ酸、100U/mLペニシリン、および100μg/mL ストレプトマイシンを含むDMEM中で培養し、Snapwellインサート上で培養した。プレーティング後21〜24日の細胞を使用した。CD1遺伝的背景の野生型マウスを前述したように繁殖させた。オスWistarラット(200〜250g)をJackson研究所から購入した。動物プロトコルは動物研究に関するUCSF委員会により承認された。ヒト結腸断片を切除手術時に新たに獲得し、氷冷生理食塩水中で運搬し、切除後1時間以内に使用した。
【0113】
フォルスコリン、8-ブロモcGMP、アミロリド、コレラ毒素およびSTa毒素をSigma Chemical社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。CFTRact-16をChemBridge(カルフォルニア州サンディエゴ)から購入した。
【0114】
スクリーニング手順
3メートルのロボットアーム、CO2インキュベータ、プレートウォッシャー、液体処理ワークステーション、バーコード読み取り機、蓋除去(delidding)ステーション、および2つのFluoStar蛍光プレート読み取り機(BMG Labtechnologies、ドイツオッフェンブルグ)、各々2つのシリンジポンプおよびHQ500/20X(500±10nm)励起およびHQ535/30M(535±15nm)発光フィルタ(Chroma)を備える、から構成される特製スクリーニングシステム(Beckman)を用いて、アッセイ法を実施した。ロボットシステムは、2つのプレート読み取り機に対し修正されたSAMIバージョン3.3ソフトウエア(Beckman)を用いて統合させた。カスタムソフトウエアは、保存されたデータファイルからベースラインを引いた正規化蛍光勾配を計算するために(ハロゲン化物流入速度が得られる)、VBA(ビジュアル・ベーシック・フォー・アプリケーション)で書かれていた。
【0115】
アッセイ法は、インキュベータ(37℃、90%湿度、5% CO2)にFRT細胞を含む40〜60の96-ウエルプレートを入れることにより、およびカルーセルに試験化合物および使い捨てプラスチックピペット先端を含む96-ウエルプレートを入れることにより構成した。アッセイ法を開始するために、96-ウエルプレートの各ウエルをPBS(300μl/洗浄)中で3回洗浄し、50μlのPBSを残した。10μLのCFTR-活性化カクテル(5μMのフォルスコリン、100μMのIBMX、25μMのアピゲニンを含むPBS)を添加し、5分後、1つの試験化合物(1mM DMSO溶液0.5μL)を各ウエルに添加し、最終濃度10μMとした。10分後、96-ウエルプレートをプレート読み取り機に移し、蛍光アッセイ法を実施した。各ウエルに対しそれぞれ、蛍光を2s間(ベースライン)、その後、等モルPBS 160μl(この中で、137mMCl-がI-により置換される)を迅速に(<0.5秒)添加した後12秒間、連続して(200ms/点)蛍光を記録することにより、CFTR-媒介I-輸送についてアッセイした。
【0116】
細胞内[cAMP]および毒性のアッセイ法
[cAMP]およびホスファターゼアッセイ法を、前に報告されたように実施した(Galietta et al. 2001 J. Biol. Chem. 276:19723-19728)。0〜1000μMの阻害薬による細胞インキュベーション後24時間にジヒドロローダミン法により細胞毒性を評価した。0〜100μg/kgの阻害薬を毎日腹腔内注射した後5日に、マウス中の血清化学物質および血液学の測定(UCSF Clinical Laboratory)により、動物毒性を評価した。
【0117】
MDR-1活性
不死化したヒト気管細胞系、9HTEo-/Dx(MDR-1の内因性発現がドキソルビシン濃度の増加における選択により上方制御されている)における3H-ビンクリスチン蓄積を測定することにより、MDR-1活性を評価した(Rasola et al. 1994 J. Biol. Chem. 269:1432-1436)。細胞を24-ウエルマイクロプレートに播種した(200,000細胞/ウエル)。48時間後、細胞を、130 NaCl、2 KCl、1 KH2PO4、2 CaCl2、10 Na-Hepes(pH7.3)および10 ブドウ糖(mMで表す)を含む溶液で洗浄し、1時間37℃で、3H-ビンクリスチン(0.7μM;1μCi/mL)を含む同じ溶液200μlでインキュベートした。その後、細胞を3回、氷冷溶液で洗浄し、0.25M NaOH中に溶解した。ビンクリスチン量をシンチレーション計数により決定した。
【0118】
CFTR-発現FRT細胞を用いた短絡電流試験
CFTR-発現FRT細胞またはヒト気管支上皮細胞を含むSnapwellインサートをUssingチャンバシステム内に載置した。FRT細胞では、半チャンバを5mLの75mM NaClおよび75mM グルコン酸ナトリウム(頂端)ならびに150mM NaCl(側底)(pH7.3)で満たし、側底膜を250μg/mL アムホテリシンBで透過処理した(Galietta et al. 2001 J. Biol. Chem. 276:19723-19728)。気管支上皮細胞およびT84細胞では、両方の半チャンバはKrebs重炭酸塩溶液を含んだ。半チャンバを連続して、空気(FRT細胞)または5% CO2を含む空気(気管支およびT84細胞)により起泡させ、37℃で維持した。DVC-1000電圧クランプ(World Precision Instruments、フロリダ州サラソータ)を使用し、Ag/AgCl電極および1M KCl寒天橋を使用して、短絡電流を連続して記録した。
【0119】
Cl-チャネル活性のパッチクランプ分析
膜電流を細胞全体構造で測定した。Cl-チャネルの記録では、細胞外(浴(bath))溶液は以下のものを含み(mMで表す):150 NaCl、1 CaCl2、1 MgCl2、10 ブドウ糖、10 マンニトール、10 TES(pH 7.4)、細胞内(ピペット)溶液は下記のものと含んだ:120 CsCl、1 MgCl2、10 TEA-Cl、0.5 EGTA、1 Mg-ATP、10 Hepes(pH7.3)。CFTRはフォルスコリン(5μM)を含む細胞外溶液により活性化された。膜コンダクタンスの時間経過を、-100と+800mVの交流電圧パルスに応じてモニタした。確定した時間で、プロトコルを中断し、電流-電圧の関係を作成した(-100から+100mVまで、20mVのインクリメントの電圧パルス)。体積-感受性Cl-チャネルを低張溶液(120NaClまで減少させた細胞外NaCl;250mosM/kg)により活性化させた。カルシウム-感受性Cl-チャネルをヒト気管支上皮細胞で、100μM UTPを細胞外溶液に添加することにより活性化した。
【0120】
ATP-感受性K+チャネルのパッチクランプ分析
細胞外(浴)溶液が(mMで表すと)130 NaCl、2 KCl、1 KH2PO4、2 CaCl2、2 MgCl2、10 Na-Hepes(pH 7.3)および10ブドウ糖を含む膵臓β細胞系INS-1において膜電位を記録した。ピペットは下記のものを含んだ(mMで表す):140 KCl、1 CaCl2、2mM MgCl2、10 EGTA、0.5 MgATP、10 K-Hepes(pH7.3)。細胞全体構造を達成した後、増幅器を電流-クランプモードに切り換えた。
【0121】
腸液分泌および短絡電流
3アッセイ法の最初で、回腸ループにおける液体貯留を測定した(Oi et al. 2002 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:3042-3046;Gorbach et al. 1971 J. Clin. Invest. 50:881-889)。CD1遺伝的背景のマウス(8〜10週齢、体重25〜35g)(または△F508ホモ接合マウス)を24時間飢餓にさせ、腹腔内ケタミン(40mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)により麻酔した。加熱パッドを用いて、体温を手術中36〜38℃に維持した。腹腔を小さく切除し、小腸を露出させ、盲腸に近い閉回腸ループ(長さ20〜30mm)を縫合により単離した。ループに100μlのPBSを単毒で、またはコレラ毒素(1μg)を含むPBSを注入した。いくつかの実験では、阻害薬(150μg/kg)を腹腔内注入により投与した。腹腔切除を縫合により閉じ、マウスを麻酔から覚醒させた。6時間でマウスに麻酔をかけ、腸ループを外面化させ、腸間膜および結合組織を除去した後、ループ長および重量を測定した。
【0122】
分泌性下痢の密閉成体マウスモデルでは、マウスに、コレラ毒素(10μg)を含む7%重炭酸塩緩衝液(または緩衝液のみ)0.1mLを、口胃(orogastric)供給針を用いて強制飼養した(Richardson et al. 1986 Infect. Immun. 54:522-528;Gabriel et al. 1999 Am J. Physiol 276:G58-G63)。4つの実験群は下記の通りとした:対照(緩衝液のみ)、コレラ処理、コレラ-処理+阻害薬(強制飼養2分前に150μg/kg腹腔内)、および阻害薬のみ。6時間後、マウスを安楽死させ、小腸(幽門から盲腸まで)を外面化し、関連する腸間膜および結合組織を除去した。腸を計量し、その後縦方向に開き、内腔液を(ブロッティングにより)除去し、再び計量した。内腔液除去前後の腸重量の比から、液体貯留を計算した。短絡電流の測定のために、ラットの結腸細片を単離し、鈍的切開により筋肉層を除去し、Ussingチャンバ内に載置し(面積0.7cm2)、10μMのインドメタシンを含む酸素化重炭酸塩リンガー液に浸した。短絡電流を、アミロイド(10μM)によりNa+電流を阻害し、続いてフォルスコリン(20μM)により刺激し、その後阻害薬を添加した後、測定した。
【0123】
14C-標識CFTRinh-172の合成(図6)
酢酸エチル(10mL)に溶解した3-トリフルオロメチルアニリン(1.6g、10mM)およびトリエチルアミン(1g、10mM)の撹拌溶液に二硫化炭素(0.8g、10mM)を30分にわたり滴下することにより、中間体2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-4-チアゾリジノンを合成した。氷浴を使用し、反応中の過剰加熱を阻止した。一晩中撹拌した後、粘度の高い黄色スラリーを濾過し、沈澱をエーテル50mLで洗浄し、空気乾燥すると、3g(収率89%)の黄白色のジチオカルバメート固体(融点92〜95℃)が得られた。NaBr-14C-アセテート(Br-14C-酢酸(Amersham)、55mCi/mmol、64mg、0.6mLの水中0.46mM、NaHCO3を用いpH8〜9から調製)を撹拌し、5〜10℃まで冷却し、ジチオカルバメート(0.3g、0.9mM)を10分にわたり添加した。フラスコが室温まで温められるまで、撹拌を続けた。2時間後、溶液を10℃まで冷却し、濃縮HClで酸性化し、90〜95℃まで30分間加熱した。得られた沈澱を濾過し、水で洗浄し、エタノールから再結晶化すると、103mgの所望の生成物が光沢のある結晶(収率83%)として得られた。m.p.177〜178℃;比活性度(14C)55mCi/mmol。
【0124】
2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-5-[4-カルボキシフェニルメチレン]-4-チアゾリジノン(14C-5)(14C-CFTRinh-172)の合成では、無水アルコール(1mL)およびピペリジン(1滴)に溶解した2-チオキソ-3-(3-トリフルオロメチルフェニル)-4-チアゾリジノン(14C-5)(100mg、0.36mM)および4-カルボキシベンズアルデヒド(54mg、0.36mM)の混合物を30分間還流させた。黄色沈澱を濾過し、エタノールで洗浄し、乾燥し、エタノールから再結晶化させると108mg(収率73%)の黄色結晶が得られた。m.p.180〜182℃;比活性度(14C)54mCi/mmol。
【0125】
薬物動態研究
3%DMSOを含むPBS(NaOHを用いてpH7.4に滴定)中の14C-CFTRinh-172(50μCi)のボーラスを、留置頸部カテーテルによりラットの静脈内に1分にわたり投与した(オスSprague-Dawleyラット、360-420g)。血液を特定時間にカテーテルから収集した。14C-放射活性を、シンチレーション計数(Scintiverse SE、Fisher、CA)によりLS-6500 Multi-Purpose Scintillation Counter(Beckman)を用いて血漿(14,000gで10分間全血の遠心分離により単離)中で決定した。WinNonlinソフトウエア(Pharsight)を用いて薬物動態分析を実施した。最終血液/組織サンプルを収集した後、ラットをペンタバルビタール過剰摂取により屠殺した。全ての動物手順は動物研究に関するUCSF委員会により承認された。
【0126】
組織分布および排出研究
14C-CFTRinh-172(2μCi)のボーラスを1分にわたりマウス(オスCD1マウス、30〜35g)に尾部静脈により静脈投与した。マウスを5、30、120および240分で屠殺した。臓器を取り出し、計量し、蒸留水中でホモジナイズした(10〜50vol%)。放射活性をホモジネート(25〜50μL)のシンチレーション計数により決定し、臓器あたり(または骨格筋に対する1g組織あたり)の総14C-放射活性として表した。同時に血液、尿および胆汁(胆嚢または十二指腸由来)を収集し、14C-放射活性を測定し、/mL流体として表した。排出研究を、14C-CFTRinh-172投与後最初の24時間にわたる尿および大便収集物により実施した。組織分布研究も、薬物動態研究に対するように調製したラットで実施した。
【0127】
阻害薬代謝の分析
体液(血漿、尿、胆汁)および肝臓ホモジネートのアリコートでシリカプレート上に斑点をつけ、酢酸エチル:ヘキサン:メタノール(1:1:0.1)溶媒系を用いて薄層クロマトグラフィーにより分離した。元の阻害薬に対してはrf〜0.5が得られた。オートラジオグラフィーをHyperfilm(Amersham)を用い、Transcreen LE増幅システム(Kodak)により実施した。14C-標識CFTRinh-172標準を全てのプレート上に含有させた。
【0128】
短絡電流測定(実施例7)
細胞研究では、T84細胞単層を含むSnapwellインサートをUssingチャンバシステム(Navicyte、Harvard Apparatus、Holliston、MA)内に載置した。半チャンバを、(mMで表した)NaCl 120、NaHCO3 25、KH2PO4 3.3、K2HPO4 0.8、MgCl2 1.2、CaCl2 1.2、ブドウ糖 10を含むKrebs-重炭酸塩溶液(37℃で維持)で満たし、5% CO2/95% O2で連続して起泡させた。高K+緩衝液は、(mMで表した)NaCl 65、KCl 67.5、KH2PO4 1.5、CaCl2 1、MgCl2 0.5、HEPES 10、ブドウ糖 10を含んだ。低Cl-緩衝液は、(mMで表した)グルコン酸ナトリウム120、KH2PO4 3.3、K2HPO4 0.8、MgCl2 1.2、CaCl2 1.2、HEPES 10、ブドウ糖 10(37℃で維持)を含み、連続して空気で起泡させた。マウス結腸での測定のために、マウスを腹腔内ケタミン(40mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)で麻酔した。回腸を除去し、氷冷Krebs緩衝液で洗浄し、腸管膜の境界に沿って開き、μ-Ussingチャンバ(面積0.7cm2、World Precision Instruments、Sarasota、FL)内に載置した。ヒトの腸での測定のために、結腸断片を鈍的切開により筋肉層を除去し、上記のように載置した。半チャンバを、10μMのインドメタシンを含む酸素化リンガー重炭酸塩溶液で満たした。Ag/AgCl電極および1M KCl寒天橋によりDVC-1000電圧クランプ(World Precision Instruments)を用いて短絡電流を記録した。作動薬/阻害薬を下記のように半チャンバに添加した。
【0129】
マウスおよびラットモデルにおけるインビボ腸液分泌(実施例5および7)
CD1遺伝的背景のマウス(8〜10週齢、体重25〜35g)を、24時間、水への接近を許可したが、食物は許可しなかった。マウスを上記のように麻酔し、体温を手術中加熱パッドを使用して36〜38℃に維持した。小さな腹部切開部を作成し、小腸を露出させ、盲腸付近の閉回腸ループ(長さ20〜30mm)を縫合により単離した。ループに100μLのPBSのみ、またはコレラ毒素(1μg)を含むPBSを注入した。いくつかの実験では、CFTRinh-172(0〜200μg)を、コレラ毒素注入前後の特定の時間に、腹腔内注入により投与した。縫合により腹部切開部を閉じ、マウスを麻酔から覚醒させた。6時間でマウスに麻酔をかけ、腸ループを外面化させ、腸間膜および結合組織を除去した後、ループ長および重量を測定した。
【0130】
ラット閉ループモデルでエンテロトキシンに誘発された液分泌を測定するために、オスWistarラット(体重200〜250g)をペントバルビタールナトリウム(45mg/kg)で麻酔した。ループ(40〜60mm)を単離し、300μlのPBSのみまたはコレラ毒素(10μg)もしくはSTa毒素(0.1μg)を含むPBSを注入した。いくつかの実験では、コレラ毒素またはSTa毒素投与後CFTRinh-172(200μg)を腹腔内注入により摂取させた。ループ長および重量を3hr(STa)または6hr(コレラ毒素)で測定した。
【0131】
経口投与したCFTRinh-172の研究では、開ループマウスモデルを使用した。このモデルでは、マウスには7%重炭酸塩緩衝液またはコレラ毒素(7%重炭酸塩緩衝液中1μg)を単独で、およびCFTRinh-172(ビタミンE TPGS中200μg、下記参照のこと)を、口胃供給針を使用して強制飼養した。6時間後、小腸(幽門から盲腸まで)を外面化し、関連する腸間膜および結合組織を除去した。腸を計量し、縦方向に開き、内腔液を除去し、再び計量し、液体貯留を定量化した。
【0132】
Caco-2透過性アッセイ法
Caco-2細胞を多孔性インサート上で培養し、400〜600Ωcm-1の単層抵抗を得た。輸送研究では、培地を、15mMのブドウ糖および25mMのHEPES(pH7.3)を含む等量のHank緩衝塩溶液(HBSS)と置換した。1hr後、CFTRinh-172(25μM)を上部チャンバに添加し、プレートを穏やかに37℃で揺り動かした。特定の時間に、低部(レシーバ)チャンバから50μLの溶液を取り出し、UV吸光度(385nm)によりCFTRinh-172濃度を測定した。見かけの透過性(Papp)を下記式から計算した:
Papp=dC/dT X(Vr/AC0)
(式中、dC/dTはレシーバチャンバ中のCFTRinh-172濃度の増加速度を示し、Vrはレシーバチャンバの体積であり、Aは単層表面積であり、COはドナーチャンバ中のCFTRinh-172初期濃度である)。
【0133】
薬物動態および経口バイオアベイラビリティ研究
マウスをハロタンを用いて一時的に麻酔し、ビタミンE TPGSで可溶化した14C-CFTRinh-172(12μCi)(d-α-トコフェニルポリエチレングリコール1000スクシネート、水中に溶解した10% w/v TPGS懸濁液中の0.5% w/v CFTRinh-172)を経口強制飼養した。比較のために、他のマウスに14C-CFTRinh-172(2μCi)を静脈内に、尾部静脈注入により摂取させた。特定の時間に血液を尾部静脈から収集し、血漿14C放射活性を測定した。6時間で、ペントバルビタール過剰摂取によりマウスを屠殺し、臓器を取り出しホモジネート中の放射活性を測定した。
【0134】
生物学的実施例1
CFTR阻害薬のスクリーニング
本発明の化合物を同定するのに使用される主スクリーニング技術は、直接CFTR-阻害薬相互作用によりCFTR Cl-コンダクタンスの阻害薬を同定するように設計された。図1Aに概略が示されるように、フォルスコリン、IBMXおよびアピゲニンを含むカクテルを活性化することにより、CFTRをCFTR-発現FRT細胞において予め刺激した。複数の機序(cAMP上昇、ホスホジエステラーゼ阻害、および直接CFTR結合)によるCFTRの活性化により、シグナル伝達経路においてより近位の段階ではなく直接CFTR Cl-輸送経路を遮断する阻害薬が同定できた。FRT細胞は、阻害効力の定量的蛍光読み取りを提供する黄色蛍光蛋白質系Cl-/I-センサを共発現した(例えば、Jayaraman et al.、2000、J. Biol. Chem. 275:6047-6050;Galietta et al.、2001、Am、J. Physiol. 281:C1734-C1742を参照のこと)。CFTRを予め刺激し、化合物を添加した後、細胞は内部に向かうI-勾配を受けI-の流入が誘導され、蛍光が減少する。各アッセイ法は2秒間のベースライン蛍光の記録、その後の、I-含有溶液の急速添加後の12秒の蛍光の連続記録から構成した。化合物を、完全に自動化した高スループットスクリーニング装置を使用して、96-ウエルフォーマットにおいて10μM濃度で別個に試験した(下記実施例2を参照のこと)。
【0135】
図1Bは、図1Aのアッセイ法を使用して50,000化合物の一次スクリーンから、相対YFP蛍光対時間としての代表的な曲線を示したグラフである。I-添加後減少する蛍光の勾配から定量されるように、49,993化合物はI-流入の動力学に有意の効果を有さなかった(勾配の<10%の減少)。7つの化合物では、負の勾配において少量の減少が生じ(10〜52%)、これらのほとんど全てが、置換されたフェニルメチレンおよびフェニル部分(図1C)を有する2-チオキソ-4-チアゾリジノン複素環から構成される同様のコア構造を有した。チアゾリジノンコア構造を有する250を超える類似体についてその後スクリーニングし、最も強力なCFTR阻害薬を同定した。
【0136】
図1Dは、スクリーニングで同定された最も効果的なチアゾリジノンCFTR阻害薬が3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(本明細書ではCFTRinh-172と呼ぶ)であること、ならびにかなりの阻害効力を有する5つの類似体を示す。このように、下記化合物をCFTR阻害薬として同定した:3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-172);3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-020);3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-029);3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-185);3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-214);および3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(CFTRinh-236)。最も効果的なCFTR阻害薬は、上記のように、1または複数の電子吸引性基、例えば3-トリフルオロメチル基を環1上に有し、電子吸引性基または極性置換基を環2上に有した。更なる分析のためにCFTRinh-172を選択した。相対効力は下記の通りであった:0.2(CFTRinh-020)、0.3(CFTRinh-029)、1.0(CFTRinh-172)、0.2(CFTRinh-185)、0.1(CFTRinh-214)、および0.1(CFTRinh-236)。
【0137】
トリフルオロメチルおよびカルボキシル置換基の環位の効果を調べるために、CFTRinh-172の8類似体を合成した。これらの類似体では、置換基は環1(トリフルオロメチル)および2(カルボキシ)上で各々の独特な位置に移動した。CFTRinh-172(効力1.0)と比較して、3-[(a-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(b-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン類似体の相対阻害効力は下記の通りであった:0.69(a=2、b=2)、0.70(2、3)、0.66(2、4)、0.74(3、2)、0.90(3、3)、0.67(4、2)、0.64(4、3)および0.56(4、4)。
【0138】
生物学的実施例2
CFTRinh-172のキャラクタリゼーション
特定の用量の対象チアゾリジノン化合物のCFTR阻害レベルを、図1Aに示し、上述した蛍光アッセイ法を用いて決定した。図2Aは、相対YFP蛍光対時間としてのCFTRinh-172に対する用量-阻害データを示したものである。0.3〜0.6μMの濃度のこのチアゾリジノン化合物で、かなりのCFTR阻害が見られた。図2Bは、CFTRinh-172による阻害(添加またはウォッシュアウト後の相対輸送速度対時間としてグラフに示す)が〜10minで完了し(t1/2=4min)、ウォッシュアウト後反転しt1/2〜5minであった(挿入図)ことを示す。図2Cで示した相対輸送速度は、最初のスクリーニングのために使用される活性化カクテルに含まれない複数の型の作動薬によるCFTR活性化が、CFTRinh-172により効果的に阻害されることを示す。これらの作動薬としては、ゲニステイン、CPT-cAMP、CPX、8-MPOならびに強力なベンゾフラボンCFTR活性化剤UCCF-029(2-(4-ピリジニウム)ベンゾ[h]4H-クロメン-4-オンビスルフェート)およびベンズイミダゾロンCFTR活性化剤UCCF-853が挙げられる(Galietta、et al.、2001、J. Biol. Chem. 276:19723-19728)。
【0139】
CFTRinh-172の阻害効力および特異性を確立するために、電気生理学実験も実施した。図3Aは、頂端細胞表面を浸している溶液にCFTRinh-172を添加したCFTR-発現FRT細胞における短絡電流の迅速な、用量依存阻害を示す。図3Bは、同一の条件下で試験したCFTRinh-172(Kd〜300nM、ヒル計数〜1)およびグリベンクラミド(Kd〜300μM)の平均用量-阻害関係を示す。
【0140】
このチアゾリジノンに対する同様の阻害効力は、自然に野生型CFTRを発現する細胞、例えばT84細胞およびヒト気管支上皮細胞の初代培養物、ならびにG551D-CTFRおよび△F508-CFTRを発現するトランスフェクトしたFRT細胞(低温較正後)において見出された。気管支細胞における研究では、Na+チャネルをアミロリドで遮断し、そのため、ベースライン電流は大きくCFTR-依存性であった。CPT-cAMPによる最大CFTR活性化後、頂端側からCFTRinh-172を適用すると、短絡電流が強く阻害された(図3C、左)。CFTRinh-172はまた、側底側から添加しても短絡電流を阻害した(図3C、右)。
【0141】
ホールセル膜電流を、図3Dにおいて図示されるように、CFTR発現FRT細胞において測定した。5μMのフォルスコリンによる刺激により、+100mVで381±47pA/pF(n=4)の膜電流が生成した(総膜容量21±3pF)。電流-電圧の関係は、純粋CFTR電流に対し予測されるように直線であった(図3F)。2μMのCFTRinh-172による細胞外潅流により全ての膜電位で電流の急激な減少が生じ、電圧-非依存性CFTR阻害が示唆された。低濃度CFTRinh-172(0.2μM)を使用し、チャネル遮断の電圧依存性の欠如を確認すると、〜50%の阻害が得られた(図3F)。
【0142】
CFTRの阻害に対するCFTRinh-172特異性もまた調査した。2つの非CFTR-Cl-チャネルを研究した。5μM濃度のCFTRinh-172は、分極ヒト気管支上皮細胞における頂端浸漬溶液にUTP(100μM)を添加することにより生成されるCa2+活性化Cl-分泌を阻害しなかった(図4A)。最大UTP-依存短絡電流は、CFTRinh-172が存在しないと9.9±0.5μA/cm2、存在すると10.0±0.2μA/cm2であった(SE、n=4)。5μMのCFTRinh-172もまた、250mosM/kg低張溶液で細胞外潅流することによりFRT細胞で誘導された体積活性化Cl-電流を遮断しなかった(図4B)。
【0143】
CFTRホモログ、ATP-結合カセットトランスポーターMDR-1(複数薬耐性蛋白質-1)の活性を、MDR-1を過剰発現する9HTE0-/Dxで測定した(Rosola et al. 1994 J. Biol. Chem. 269:1432-1436)。MDR-1による活性薬剤放出に反比例するビンクリスチン蓄積は、MDR-1阻害薬ベラパミル(100μM)により大きく増加した(図4C)。CFTRinh-172(5μM)はビンクリスチン蓄積に影響せず、このようにMDR-1は阻害されなかった。
【0144】
CFTRの別のホモログはATP-感受性K+チャネル(K-ATPチャネル)の活性を調節するスルホニル尿素受容体(SUR)である(Aguilar-Bryan and Bryan 1999 Endocr. Rev. 20:101-135)。SUR1は膵臓β細胞で発現され、そこでは、膜電位およびインスリン放出が制御される。グリベンクラミドのようにスルホニル尿素は、K-ATPチャネルおよび膜の脱分極を遮断することによりインスリン放出(および低血糖反応)を引き起こす。CFTRinh-172がK-ATPチャネルも遮断するかどうかを決定するために、ラット膵臓β細胞系、INS-1における膜電位を測定した(図4D、図4E)。グリベンクラミドにより引き起こされる大きな膜脱分極とは対照的に、CFTRinh-172(2および5μM)は膜電位を脱分極しなかった。5μMのCFTRinh-172は、K-ATPチャネル活性化剤ジアゾキシド(100μM)により引き起こされるものよりもずっと少ない過分極を引き起こした。追加の研究により、5μMのCFTRinh-172が水チャネル(AQP1)、尿素トランスポーター(UT-B)、Na+/H+交換体(NHE3)およびCl-/HCO3-交換体(AE1)を遮断しないことが示された。
【0145】
別の分析により、5μM CFTRinh-172が細胞cAMP産生またはホスファターゼ活性に影響しないことが示された。FRT細胞では、基本cAMP量は225±22fmol/ウエルであり、これは、20μMフォルスコリンによる刺激後30分で1290±190fmol/ウエル(阻害薬なし)および1140±50(+CFTRinh-172)(n=3)まで増加した。ジヒドロローダミンアッセイ法を用いて判断すると、CFTRinh-172は100μMまでの濃度では24時間後FRT細胞に対し非毒性であった。マウスでは、7日間毎日1000μg/kgのCFTRinh-172を腹腔内注入しても明かな毒性は引き起こされなかった。食物および水摂取は減少しなかった。血清電解質濃度、ブドウ糖、肝機能指数、血清クレアチニン、アミラーゼおよびヘマトクリットは変化しなかった。さらに、非常に大量のCFTRinh-172単回全身投与(10mg/kg)では明かな毒性は引き起こされなかった。
【0146】
生物学的実施例3
インビボ効能
CFTRinh-172の効能を、コレラ毒素により誘発した腸液分泌の2つのアッセイ法を用いてインビボで、および単離した腸で短絡分析により試験した。第1のアッセイ法では、一連の小腸の閉ループをインビボで作成し、交互のループの内腔に少量の生理食塩水またはコレラ毒素を含む生理食塩水を注入した。内腔の液体貯留を6時間後に決定した。図5Aに示されるように、コレラ毒素処理ループでは著しい液体貯留および膨張があったが、隣接する対照(生理食塩水)ループは空のままであった。コレラ毒素注入前のCFTRinh-172の単回投与(150μg/kg腹腔内)は、毒素処理腸ループにおける液体貯留を効果的に阻止した。
【0147】
一連のこれらの実験からのデータを図5Bのグラフにまとめる。CFTRinh-172により、液分泌が生理食塩水対照ループにおける液分泌までかなり減少し、不活性チアゾリジノン類似体は液分泌を阻止しなかった。前のデータから示唆されるように(Gabriel et al. 1994 Science 266:107-109)、ホモ接合△F508-CFTRマウス由来のコレラ毒素処理腸ループは空のままであり、CFTRが腸液分泌に関与することが示された。第2のアッセイ法では、腸液分泌をコレラ毒素(10μg)の経口投与により誘発し、CFTRinh-172を全身投与した。6時間後、小腸全体を計量することにより測定すると著しい体液の蓄積があった。CFTRinh-172投与により、視覚により確認され、内腔液除去前後の腸重量の比により定量化されるように、腸の液体貯留が著しく減少した(図5C)。
【0148】
図5Dは無傷ラット結腸粘膜を横切る短絡電流のCFTRinh-172阻害を示した図である。アミロリドによるNa+電流の阻害後、フォルスコリンにより短絡電流の迅速な増加が生じた。粘膜溶液に添加されたCFTRinh-172は、奬膜溶液に添加された場合に比べ、より大きな効率で短絡電流を阻害した。これは、残留粘膜下組織を介する結腸上皮細胞への接近障害と関連するかもしれない。粘膜溶液のみに5μMのCFTRinh-172を添加すると、短絡電流が>80%減少した。これらの結果から、腸でのCFTRinh-172によるCFTR Cl-チャネル阻害に対する電気生理学的な証拠が提供される。
【0149】
生物学的実施例4
薬物動態分析
ラットにおける薬物動態分析を、14C-標識CFTRinh-172の単回静脈内ボーラス注入後の血清14C放射活性を逐次測定することにより実施した。注入した阻害薬の総量(400μg、〜1mg/kg)はラットにおける下痢止め薬として効果的であった。図7は、血清14C放射活性の動力学が2-コンパートメントモデルとよく適合し、分布体積が1.2L、AUC(曲線下面積)が3.8μg・hr/mLであることを示す。半減時間は0.14hr(再分配)および10.3hr(排出)であった。投与後72時間の血漿、または投与後14日の肝臓もしくは腎臓ホモジネート中では、14C-標識CFTRinh-172は検出されなかった。
【0150】
14C-標識CFTRinh-172の組織分布を、単回静脈ボーラス注入後、臓器ホモジネートおよび体液の放射活性から決定した。図8、パネルAはマウスにおけるCFTRinh-172注入後の指定時間での主臓器における14C分布をまとめたものである。14C放射活性は、主に肝臓および腎臓で5分以内に観察され、時間と共に減少した。脳、心臓、骨格筋または精巣では放射活性はほとんど見られなかった。後の時間(30〜240分)では、14C放射活性は腸で蓄積した。図3、パネルBは、静脈ボーラス注入後60分に測定したラット中の14C放射活性の同様の臓器分布を示したものである。脳、心臓および骨格筋ではほとんど放射活性が見られなかった。いくつかの実験では、ラットは14C-標識CFTRinh-172(50μCi)の注入後10日に屠殺した。
【0151】
腎臓、肝臓および腸におけるCFTRinh-172蓄積の機序を決定するために、14C放射活性を血清、尿および胆汁中で測定した。平均尿放射活性は、注入後最初の2時間のマウスでは4.2±1.2×105cpm/mLであった。尿対血液における14C放射活性の比は、5〜7:1の範囲であり、〜5:1の尿対血清浸透圧比(1550mOsm対310mOsm)に匹敵し、CFTRinh-172が腎細尿管吸収または分泌無しで糸球体濾過により腎臓から除去されることが示唆される。CFTRinh-172クリアランスの腎臓クリアランス機序は血清、尿および腎組織中で14C放射活性が減少する大体類似する動力学(データ示さず)により支持された。胆汁中のCFTRinh-172蓄積の可能性を、肝臓での14C放射活性の迅速な蓄積および腸での遅い蓄積の観察に基づき調査した。14C放射活性はマウスに投与後胆汁対血液で〜9倍濃縮された。胆汁CFTRinh-172が大便中に排泄されたか、循環に戻されたかを決定するために、放射標識阻害薬注入後最初の24時間にわたりマウスに対し尿および大便の収集を実施した。93±3%の排泄放射活性が尿で見出され、腸肝循環による主腎排出機序が支持された。
【0152】
臓器および体液中で測定した14C放射活性が無傷または化学修飾されたCFTRinh-172に対応するかどうかを決定するために、薄層クロマトグラフィーおよびオートラジオグラフィーを尿、血清および胆汁試料、ならびに遠心分離により調製した肝臓ホモジネートの上清に対し実施した。図9はボーラス注入において導入したオリジナルのCFTRinh-172に対するrf〜0.5の単一スポットを示す。体液および臓器ホモジネートのオートラジオグラフィーは同一のrfで単一のスポットを示し、CFTRinh-172の化学修飾が起こらなかったことが示された。
【0153】
CFTRinh-172は分光光度pH滴定により決定するとpKaが5.5の弱酸である。生理的pHでは、〜1%のCFTRinh-172が、極性が低く、膜透過性が高いイオン化していない酸として存在する。上記細胞モデルでのCFTRinh-172の迅速な取り込みから、沈澱を阻止するために低い胃pHからの保護が必要かもしれないという警告と共に経口により生物が利用可能な調製物の実現可能性が示唆される。これらの薬物動態研究の結果から、CFTRinh-172は齧歯類では、腎臓クリアランスにより化学修飾されずに徐々に除去されること、CFTRinh-172は胆汁で濃縮され腸で蓄積することが示される。CFTRinh-172は有意に血液脳関門を通過せず、心臓、肺、骨格筋および睾丸を含む他の重要な臓器ではCFTRinh-172の蓄積はほとんどみられなかった。CFTRinh-172の腎臓クリアランスが遅いこと、腸で蓄積すること、血液脳関門にほとんど浸透しないことは、下痢止め用途では有利である。
【0154】
生物学的実施例5
CFTRinh-172の阻害効果の用量反応および期間
この実施例の目的は、CFTRinh-172の単回腹腔内投与がマウスの閉腸ループモデルでコレラ毒素により刺激された体液分泌を阻害することができることに関する上記観察結果を拡張することであった。とりわけ、この実施例の目的は、CFTRinh-172阻害効果の用量反応関係および持続に対する見かけの半減時間を測定することであった。
【0155】
最初に、腸ループ体液吸収および分泌の動力学を決定しマウスモデルのキャラクタリゼーションを実施した。吸収を研究するために、200μLのPBSを個々のループに注入した後特定の時間にループ体液量を測定した。図10、パネルAは迅速な流体吸収を示し、〜25分で50%の流体が残った。コレラ毒素により誘発される腸液分泌(20μg)を強く阻害する用量でCFTRinh-172を腹腔内投与しても、対照に比べ液体吸収速度(30分に測定)は変化しなかった(図10、パネルA、挿入図)。分泌を研究するために、腸ループにコレラ毒素(0.1mL PBSに溶解した1μg)を注入した。図10、パネルBは6時間にわたる液体分泌の遅い開始を示した図であり、齧歯類モデルにおける前の研究と一致する(Gorbach et al. J. Clin. Invest. 1971 50-881-889:Oi et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2002 99:3042-3046)。正常条件下で腸内の体液が急速に吸収されることにより、活性分泌後腸管腔内に蓄積した体液は、分泌が遮断されると直ちに吸収されることが示唆され、CFTR阻害は、たとえコレラ毒素後に投与しても、液体貯留を阻止するのに効果的であることが予測される。
【0156】
図11、パネルAは、コレラ毒素を閉腸ループに注入直後に腹腔内注射により阻害薬を単回投与したマウスにおけるCFTRinh-172用量反応研究結果をまとめたものである。基本腸液量(点線)はコレラ毒素を注入していないループで測定した場合ほとんど0であった。コレラ毒素を注入した腸ループにおける液体貯留はCFTRinh-172により〜90%阻害され、〜5μgのCFTRinh-172(150μg/kg)では50%の阻害であった。阻害期間を、コレラ毒素前後の異なる時点で20μgの単回用量のCFTRinh-172を投与することを除き、用量反応試験時のように測定した。図11、パネルBは、CFTRinh-172をコレラ毒素前後3時間に投与した場合の、管腔液体貯留の著しい阻害を示したものである。しかしながら、コレラ毒素前6時間では観察された阻害はずっと低かった。コレラ毒素誘発試験の6hrという期間を考慮すると、CFTRinh-172阻害の持続性に対するt1/2は〜9-10hrであった。
【0157】
生物学的実施例6
CFTRinh-172の経口バイオアベイラビリティ
経口投与されたCFTRinh-172の下痢止め効能を試験するために、マウスにおけるCFTRinh-172薬物動態を決定し、Caco-2単層を横切るCFTRinh-172輸送を測定した。CFTRinh-172は、胃で沈澱すると考えられるかなり非極性の弱酸(pKa=5.5)であるので、経口投与のために薬剤を可溶化させるのに通常使用される2つの薬剤、ビタミンE TPGSおよびシクロデキストリンを使用して経口投与を実施した。14C-標識CFTRinh-172を使用して測定した。
【0158】
図11、パネルCはマウスにおける経口対静脈内投与後の14C-標識CFTRinh-172の薬物動態を示す。静脈内投与により、初期血清濃度が高くなり、〜30分にわたり減少した(組織再分布)が、血清放射活性は経口投与直後は低く、〜60-90分でピークとなり、その後減少した。図11、パネルDは経口および静脈内投与後6hrでの14C-標識CFTRinh-172の臓器分布をまとめたものであり、胃腸管ならびに肝臓および腎臓における蓄積を示している。14C放射活性は胆汁対血清では〜10倍濃縮され、大便中に排出された放射活性はほとんどなく(24時間にわたり排出された総放射活性の<10%)、これにより腸でのCFTRinh-172の蓄積が腸肝循環により促進されることが示唆される。経口対静脈内CFTRinh-172投与の比較(4〜6hrでの組織/血清量)から、TPGS調製物の15〜20% CFTRinh-172経口バイオアベイラビリティが示された。
【0159】
図11、パネルFは、Caco-2単層のトランス側のCFTRinh-172出現の直線増加を示し、16×10-6cm/sの推定CFTRinh-172透過係数が得られる。この値は様々な経口投与薬剤に対し見出される範囲内にある(例えば、ピンドロール、36×10-6cm/s、シルデナフィル、48×10-6cm/s)(Stenberg et al. J. Med. Chem. 2001 44:1927-1937)。
【0160】
生物学的実施例7
cGMP-およびcAMP-媒介体液分泌
インビボラット腸ループモデルを使用して、cGMP-およびcAMP-媒介体液分泌の阻害におけるCFTRinh-172の有効性を決定し、ならびに別の動物モデルにおけるCFTRinh-172の有効性を試験した。グアニリルシクラーゼC受容体がラット腸細胞で発現し、STa毒素結合および細胞質cGMP上昇が可能となる(Mann et al. Biochem Biophs Res commun 1997 239:463-466)。STa毒素は3hr後にラット回腸で液分泌を引き起こすことが見出された(Cohen et al. Am J Physiol 1989 257:G118-123)。CFTRinh-172は、マウスで有効な用量(600μg/kg)でラットの腸ループにおけるコレラ毒素により誘発された液分泌を阻害した(図12、パネルA)。STa毒素により誘発される液分泌では、腸ループにSTa毒素(0.1μgを含むPBS 300μl)を注入し、ループ重量を3hr後に測定した。図12、パネルBはCFTRinh-172による腸液分泌の〜75%阻害を示す。
【0161】
短絡電流測定をマウスおよびヒト腸上皮シートで実施し、経上皮イオン分泌のCFTRinh-172阻害を評価した。図13、パネルAは、フォルスコリンまたはSTa毒素(挿入図)による刺激後のマウス回腸における短絡電流のCFTRinh-172用量依存阻害を示す図である。cAMPおよびcGMP-依存クロリド分泌の両方に対し〜5μMのCFTRinh-172で50%の阻害が見出された。図12、パネルBは、ヒト結腸における短絡電流の阻害に対する同様のCFTRinh-172効力を示す。
【0162】
思いもよらない観察結果は、腸短絡電流(2〜5μM)のCFTRinh-172阻害に対する見かけの効力が、CFTR-発現FRT細胞(0.2〜0.5μM)およびCalu-3細胞(0.5μM)を含む幾つかの細胞系で実施した電気生理学的研究において見出されるものより実質的に低かったことである。この違いについてはいくつかの説明が考えられ、例えば、細胞型の差、無傷の腸内の腸細胞へのCFTRinh-172の制限された接触、膜電位効果(内側が負の細胞電位により細胞内[CFTRinh-172]が減少)、およびCFTRinh-172とのATP競合が挙げられる。
【0163】
短絡電流測定をT84結腸上皮細胞上で実施し、この現象を調査した。図14、パネルAの代表的な実験において示されるように、透過処理していないT84細胞単層において、cAMP作動薬フォルスコリン(左)、細胞透過性cGMP類似体8-Br-cGMP(中央)、またはハイスループットスクリーニングにより同定したCFTRクロリドコンダクタンスCFTRact-16の直接活性化剤による刺激後、〜3μMのCFTRinh-172により短絡電流の50%が阻害された。T84細胞におけるCFTRinh-172効力の相対的な減少が無傷の細胞を必要とするかどうかを決定するために、細胞側底膜をアンホテリシンBで透過処理した後、Cl-勾配(測定可能な電流を発生させるため)の存在下で短絡電流測定を実施した。図14、パネルB(左)は、透過処理後の短絡電流の阻害に対するCFTRinh-172効力が実質的に大きくなることを示している。図14、パネルB(中央)にまとめた用量反応データにより、細胞透過処理後、CFTRinh-172阻害に対する見かけのKIが〜3から0.3μMに減少することが示される。無傷の細胞における減少したCFTRinh-172効力が、内側が負の膜電位によるものかどうかを試験するために(細胞質対外部[CFTRinh-172]の減少)、短絡電流測定を、高K+側底浸漬溶液による脱分極した後、T84細胞において実施した。図14、パネルCは、増大したCFTRinh-172効力(KI〜0.3μM)が脱分極細胞において保存されたことを示し、細胞膜電位がCFTRinh-172効力において重要な役割を果たすことが示される。
【0164】
上記データに基づき、CFTRinh-172により例示されるように、本発明のチアゾリジン化合物が、大腸菌およびコレラにおけるコレラ菌、旅行者およびAIDS-複合関連下痢などの腸内毒素原性生物により引き起こされるエンテロトキシン誘発性分泌性下痢において下痢止め効果を有することを予測することができる。CFTR阻害は、クロストリジウム・ディフィシルおよびサルモネラ種などの腸侵入性細菌により引き起こされる下痢の補助的療法において有益であるかもしれないが、これらの生物により生じる粘膜損傷はCFTR阻害により軽減されない。同様に、CFTR阻害により炎症性大腸炎における根底にある病態が修正されるとは予測されないが、腸液分泌の体積が減少する。最近の証拠により、ロタウイルスなどのウイルス性下痢により引き起こされる液分泌にはCa2+-媒介Cl-チャネルなどの他の機序が関係するかもしれないが、液分泌におけるCFTRの役割は未知のままであり、適した動物モデルで本発明の化合物を使用することにより試験することができる。
【0165】
要約すると、チアゾリジノンCFTR遮断薬CFTRinh-172は、齧歯類およびヒトの腸においてcAMPおよびcGMAPにより誘発されるイオン/体液分泌を、腸液吸収に影響を与えずに、阻害した。その有利な薬理学的および活性プロファイルにより、下痢止め用途に対するさらなる開発が支持される。
【0166】
本発明についてその特定の態様を参照して説明してきたが、当業者であれば、本発明の真の精神および範囲から逸脱せずに様々な変更が可能であり、等価物を置換してもよいことは理解されるべきである。さらに、特別な状況、材料、物質組成、方法、方法の一段階または複数の段階を本発明の目的、精神および範囲に適合させるために多くの改変が可能である。そのような改変は全て添付の請求の範囲内にあるとする。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】(A)CTFR阻害薬を検出するために使用するスクリーニング技術の概略図である。ヒトCFTRおよび、Cl-/I-感受性蛍光を有する黄色蛍光蛋白質(YFP)を同時発現する安定にトランスフェクトさせた上皮細胞において複数の作動薬によりCFTRを最大限に刺激した。試験化合物を添加した後、I-含有溶液を添加することによりI-流入を誘発した。(B)図1Aのスクリーニング技術を用いた個々のウエルからの代表的な蛍光データのグラフである。対照(活性化物質無し、試験化合物無し)、不活性化合物および活性CFTR阻害薬化合物を示す。(C)図1Aのスクリーニング技術により同定されるCFTR阻害薬の化合構造を示した図である。(D)最も大きなCFTR阻害活性を有するチアゾリジノン誘導体の環2の化学構造を示した図である。完全なチアゾリジン誘導体構造は図1Cに示す。相対効力は0.2(CFTRinh-020)、0.3(CFTRinh-029)、1.0(CFTRinh-172)、0.2(CFTRinh-185)、0.1(CFTRinh-214)および0.1(CFTRinh-236)であった。
【図2】(A)CFTR阻害薬3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン(本明細書ではCFTRinh-172と呼ぶ)に対するいくつかの濃度での、図1Aのスクリーニング技術を使用した相対蛍光対時間のグラフである。(B)2μMのCFTRinh-172添加後の異なる時間でのCFTR-媒介I-輸送速度を示す阻害の時間経過のグラフである。挿入図は、1μMのCFTRinh-172の洗い流し後の異なる時間でのI-輸送速度を示す阻害逆転の時間経過を示すグラフである。平均±SEは3組の実験から得た。(C)異なる作動薬、例えばベンゾフラボンおよびベンズイミダゾロンUCCF化合物(UCCF-029(2-(4-ピリジニウム)ベンゾ[h]-4H-クロメン-4-オンビスルフェート)およびUCCF-853(Galietta et al.、2001、J.Biol. Chem. 276:19723-19728))、ゲニステイン、CPT-cAMP、8-メトキシプソラレン(8-MPO)、8-シクロペンチル-1,3-ジプロピルキサンチン(CPX)(全て50μM)による刺激後のCFTRの阻害を示すグラフである(±SE、3組の実験から得た)。黒塗りのバーは作動薬を示し、白抜きのバーは5μMのCFTRinh-172を加えた作動薬を示す。
【図3】(A)ヒトCFTRを発現する透過処理したFRT細胞における短絡電流のCFTRinh-172阻害を示す図である。CFTRは100μMのCPT-cAMPにより刺激した。(B)CFTRinh-172(丸)およびグリベンクラミド(正方形)に対する用量-阻害データをまとめた図である(SE、3組の実験)。(C)(透過処理していない)ヒト気管支上皮細胞の初代培養における短絡電流のCFTRinh-172阻害を示すグラフである。阻害薬は頂端浴溶液(左パネル)または側底その後頂端溶液(右パネル)中に添加した。(D)+80mV(白丸)および-100mV(黒丸)で誘導された膜電流を示すCFTR発現FRT細胞の細胞全体のパッチクランブを示すグラフである。CFTRは5μMのフォルスコリン、続いて2μMのCFTRinh-172を添加することにより刺激した。(E)交互の刺激を中断(a-c)し、段階的な膜電位を印加することを示すグラフである。(F)基本条件下(対照、白丸)、フォルスコリン刺激後(黒丸)、〜50%の阻害を提供する0.2μMのCFTRinh-172の添加後(白三角)の電流−電圧の関係を示したグラフである。
【図4】(A)5μMのCFTRinh-172の不存在および存在下での、気道上皮細胞に対する短絡電流測定において測定したUTP-(100μM)により刺激されたCa2+依存性Cl-分泌のグラフである。(B)FRT細胞に対し細胞全体パッチクランプ実験において測定した体積活性化Cl-電流(低張250mosM/kg H2O)を示すグラフである。5μMのCFTRinh-172の不存在および存在下での電流を記録した。(C)MDR-1発現を上方制御した9HTEo-Dx細胞における3H-ビンクリスチン蓄積を示すグラフである。細胞内ビンクリスチンを、ベラパミル(100μM)またはCFTRinh-172(5μM)(SE、n=3)を用いて、およびそれら無しで測定した。(D)CFTRinh-172、ジアゾキシド(100μM)およびグリベンクラミド(10μM)で細胞外を灌流させた膵臓β細胞(INS-1)に由来する代表的な膜電位記録を示す。(E)図4Dで示した手技により引き起こされた膜電位の平均変化(△mV)を示すグラフである。
【図5】(A)CFTRinh-172(150μg/kg)の腹腔内投与無し(最上)およびあり(中央)の1μgのコレラ毒素を管腔注入した後6時間で、単離したマウスの回腸ループの写真である。比較のために生理食塩水対照(コレラ毒素無し、最下)を示す。(B)6時間での回腸ループ重量を図示するグラフであり、平均±SE(n=6〜8マウス)で、14〜16ループを研究した。不活性類似体では、CFTRinh-172中の4-カルボキシフェニル基は、3-メトキシ-4-メトキシビニルフェニルで置換された(SE、6〜8マウス/群、p<0.001、ANOVA)。(C)管腔液除去前対後の経口強制飼養後6時間での全小腸の重量比を示したグラフである(SE、1群あたり4匹のマウス、p<0.001)。(D)単離したラットの結腸粘液におけるアミロリド添加およびフォルスコリン(20μM)による刺激後の代表的なCFTRinh-172阻害短絡電流を示すグラフである。示されるように、CFTRinh-172を漿膜、その後粘膜表面に添加した(n=4)。
【図6】14C-標識CFTRinh-172の合成を示す概略図である。14Cは開始材料として14C-標識Br酢酸を使用してチアゾリジノンコアに組み込まれた。
【図7】50μCi 14C-標識CFTRinh-172の1回の静脈内ボーラス注入後のラットにおけるCFTRinh-172の薬物動態分析結果を示す一組のグラフである。血清放射活性に対し平均±SE(n=3〜6ラット)として示したデータ。適合させた曲線は、2-コンパートメントモデルに対応し、再分配半減時間が0.14hr、除去半減時間が10.3hr、最大血清濃度が3.2μg/mL、曲線下面積が3.8μg・hr/mL、分配体積が1.2L、およびクリアランスが99mL/hrであった。
【図8】ボーラス注入後の14C-標識CFTRinh-172の臓器分配を示す一組のグラフである。パネルAの結果は、2μCi 14C-標識CFTRinh-172の1回の静脈内ボーラス注入を受け、示した時間で屠殺され、14C-放射活性の測定のために臓器を採ったマウス由来であり、データは注入後の示した時間での総臓器14C-放射活性(1gの組織あたりとして報告した骨格筋を除く)として示した(平均±SE、各時間点あたり4匹のマウス)。パネルBの結果は50μCi 14C-標識CFTRinh-172のボーラス注入を受けたラット由来であり、注入後60分で測定された総臓器CFTRinh-172である(3匹のラット)。
【図9】図8のパネルAのように、14C-標識CFTRinh-172を注入したマウス由来の体液および肝臓ホモジネートの薄層クロマトグラフィーによるCFTRinh-172代謝の分析結果を示した一組の写真である。14C-標識CFTRinh-172標準は1、3および6nCi(左パネル)、ならびに10、30および60nCi(右パネル)であった。フィルムはオートラジオグラフィーのために48hr(左のパネル)および12hr(右のパネル)照射した。
【図10】マウス閉腸ループモデルのキャラクタリゼーションの結果を示す一組のグラフである。パネルA:腸管ループに200μLの緩衝液を注入し、ループ重量を指示した時間に測定した(平均±SEM、1時間点あたり4匹のマウス)。挿入図(下) CFTRinh-172(20μg、I.P.、n=4)有りまたは無しでの30分の%吸収。挿入図(上)CFTRinh-172の化学構造。パネルB:マウス閉ループモデルでのコレラ毒素により誘発された液分泌の時間経過。点線は対照(生理食塩水注入)ループを示す。注入ループ(1μgコレラ毒素/ループ)に対する平均±SEM(4〜6匹のマウス)としてのデータ。
【図11】マウスにコレラ毒素を注入した後の腸液分泌のCFTRinh-172阻害を示す一組のグラフである。パネルA:マウスループモデルにおける液体貯留の阻害に対する用量応答。マウスに腹腔内投与によりCFTRinh-172を単回投与し、6hrでループ重量(平均±SEM、1用量あたり4〜6匹のマウス)を測定した。点線は同じマウスの生理食塩水注入対照ループにおける平均重量を示す。パネルB:CFTRinh-172阻害の持続性。マウスに指定した時間に、コレラ毒素投与前後に20μgのCFTRinh-172(I.P.)を投与した(1時間点あたり4〜6匹のマウス)。パネルC:i.v.注入(尾部静脈、左座標)および経口投与(TPGSにおけるCFTRinh-172、右座標)後の血漿14C-標識CFTRinh-172放射活性の時間経過。データはカウント/min/注入μCi(4匹のマウス)で示される。パネルD:i.v.および経口14C-標識CFTRinh-172投与後6時間の胃腸臓器における14C-標識CFTRinh-172蓄積(4匹のマウス)。パネルE:マウス開ループモデルにおける経口投与したCFTRinh-172(TPGS中200μg)による、コレラ毒素誘発液分泌の阻害。データは管腔体液除去前対後の経口強制飼養後6時間の全小腸の重量比として示される(平均±SEM、4匹のマウス/群、*p<0.01)。パネルF:Caco-2単層を横切るCFTRinh-172透過性(平均±SEM、18インサート)、Papp=16×10-6cm/sである。
【図12】ラット閉ループモデルにおけるコレラ毒素(パネルA)およびSTa毒素(パネルB)誘発液分泌のCFTRinh-172阻害を示す一組のグラフである。データは平均±SEM(1群あたり4匹のラット)として示す。*p<0.01。
【図13】マウス回腸(パネルA)およびヒト結腸(パネルB)におけるフォルスコリン-およびSTa毒素-刺激短絡電流のCFTRinh-172阻害を示す一組のグラフである。STa毒素は挿入図として示す。データは5匹のマウスおよび2組のヒト組織の研究を代表する。組織の両側にCFTRinh-172を添加する。アミロリド(10μM)が頂端溶液中に存在した。
【図14】T84結腸上皮細胞でのCl-分泌のCFTRinh-172阻害の短絡分析を示す一組のグラフである。パネルA:データは1条件あたり5〜12インサートに対する実験からの代表的な追跡として示す。CFTRinh-172は細胞総の両側に添加した。CFTR作動薬はフォルスコリン(左)、8-Br-cGMP(中央)、CFTRact-16(右)を含む。パネルB:(左)アムホテリシンB(250μg/mL)による側底透過処理後のフォルスコリン刺激短絡電流のCFTRinh-172阻害。6インサートの実験を示す。(中央)透過処理したT84細胞対透過処理していないT84細胞におけるフォルスコリン刺激(マル)および8-Br-cGMP-刺激(三角)短絡電流のCFTRinh-172阻害に対する平均用量応答(平均±SEM、6〜12インサート)。(右)頂端溶液中のCl-が低く、側底溶液中の高いK+(68mM)の存在下でのフォルスコリン刺激短絡電流のCFTRinh-172阻害。4実験の代表。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)蛋白質により媒介される状態または徴候を有する患者を治療する方法であって、
被験者に、治療上有効な量の化学式(I)の化合物または薬学的に許容されるそれらの誘導体を、個々の立体異性体またはそれらの混合物として投与する段階を含む、方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。
【請求項2】
状態および徴候が、異常に増加した腸分泌と関連する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
状態および徴候が、分泌性下痢である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
化学式(I)の化合物が、A4が存在せず、A1およびA3が各々硫黄であり、A2が酸素である化合物、すなわち、3-アリール-5-アリールメチレン-2-チオキソ-4-チアゾリジノンである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
化学式(I)の化合物が、下記から選択される、請求項1記載の方法:
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン。
【請求項6】
化学式(I)の化合物が化学式(Ia)の化合物である、請求項1記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択される)。
【請求項7】
X1が電子吸引性基である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
X1がペルフルオロアルキル基およびフルオロ基からなる群から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
Y2が、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
Y2がヒドロキシル基である、請求項6記載の方法。
【請求項12】
Y1がヒドロキシル基である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
Y1がブロモ基である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
Y3がニトロ基である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項1記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素および有機基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素および有機基から選択される)。
【請求項16】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項1記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3の少なくとも1つは電子吸引性基であり;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される)。
【請求項17】
X1がトリフルオロメチル基である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
化学式(I)の化合物が下記から選択される、請求項1記載の方法:
【請求項20】
被験者の細胞において嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質の活性を阻害するための方法であって、細胞を化学式(I)または薬学的に許容されるそれらの誘導体と、個々の立体異性体またはそれらの混合物として、細胞内でのCFTRイオン輸送を阻害するのに十分な量で接触させる段階を含む方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。
【請求項21】
化学式(I)の化合物が、A4が存在せず、A1およびA3が各々硫黄であり、A2が酸素である化合物、すなわち、3-アリール-5-アリールメチレン-2-チオキソ-4-チアゾリジノンである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
化学式(I)の化合物が、下記から選択される、請求項21記載の方法:
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン。
【請求項23】
化学式(I)の化合物が化学式(Ia)の化合物である、請求項20記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択される)。
【請求項24】
X1が電子吸引性基である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
X1がペルフルオロアルキル基およびフルオロ基から選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
Y2が、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項28】
Y2がヒドロキシル基である、請求項23記載の方法。
【請求項29】
Y1がヒドロキシル基である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
Y1がブロモ基である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
Y3がニトロ基である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項20記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素および有機基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素および有機基から選択される)。
【請求項33】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項20記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3の少なくとも1つは電子吸引性基であり;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される)。
【請求項34】
X1がトリフルオロメチル基である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
化学式(I)の化合物が下記から選択される、請求項20記載の方法:
【請求項37】
細胞を接触させる段階が、被験者が化学式(I)の化合物を摂取する段階を含む、請求項20記載の方法。
【請求項38】
摂取段階が、化学式(I)の化合物と共に薬学的に許容される担体を摂取する段階を含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
インビボアッセイ法において細胞における嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質の活性を阻害するための方法であって、細胞を化学式(I)の化合物または薬学的に許容されるそれらの誘導体と、個々の立体異性体またはそれらの混合物として、細胞内でのCFTRイオン輸送を阻害するのに十分な量で接触させる段階を含む、方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。
【請求項40】
ヒト以外の動物において嚢胞性線維症(CF)表現型を作成するための方法であって、ヒト以外の動物に化学式(I)の化合物または薬学的に許容されるそれらの誘導体を、個々の立体異性体またはそれらの混合物として、ヒト以外の動物において嚢胞性線維症(CF)表現型を誘導するのに十分な量で投与する段階を含む、方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。
【請求項41】
被験者における嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)による異常イオン輸送と関連する状態を有する被験者の治療法であって、
被験者に有効量のチアゾリジノン化合物を投与する段階を含み、
CFTRイオン輸送が阻害され、状態が治療される、方法。
【請求項42】
異常に増加したCFTRイオン輸送が下痢と関連する、請求項41記載の方法。
【請求項43】
下痢が分泌性下痢である、請求項42記載の方法。
【請求項44】
それぞれ、下記から選択されるチアゾリン化合物:3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される担体、薬学的に許容される希釈剤、薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容されるアジュバントを含む、薬学的組成物。
【請求項45】
組成物が、検出可能なジメチルスルホキシドを含まない、請求項44記載の組成物。
【請求項46】
化学式(I)の化合物、または薬学的に許容されるそれらの誘導体を、個々の立体異性体またはそれらの混合物として:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよく、ただし、下記を条件とする:
1)A4が存在せず、A1およびA2がそれぞれ酸素であり、A3が硫黄であり、X1、X2およびX3のうちの1つが4-位ではトリフルオロメチルまたはクロロであり、X1、X2およびX3の残りが各々水素であり、Y1、Y2およびY3のうちの1つが2位では4-メチルピペラジン-1-イルとすることはできず、Y1、Y2およびY3の残りがそれぞれ水素である;
2)A4が存在せず、A1およびA3がそれぞれ硫黄であり、A2が酸素であり、X1、X2およびX3のうちの1つが4-位ではカルボキシルであり、X1、X2およびX3の残りが各々水素であり、Y1、Y2およびY3の各々が水素とすることができない;
3)A4が存在せず、A1およびA3がそれぞれ硫黄であり、A2が酸素であり、X1、X2およびX3のうちの1つが2-、3-または4-位ではヒドロキシであり、4-位ではエトキシであり、X1、X2およびX3の残りが各々水素であり、Y1、Y2およびY3のうちの1つが水素であり、Y1、Y2およびY3のうちの別の1つが4-位ではヒドロキシまたはメトキシであり、Y1、Y2およびY3のうちの残りの1つが3位ではメトキシとすることはできない;および
4)A4が存在せず、A1およびA3がそれぞれ硫黄であり、A2が酸素であり、X1、X2およびX3のうちの1つが4-位ではメチルであり、X1、X2およびX3の別の1つが3-位ではクロロであり、Y1、Y2およびY3のうちの1つが4位ではメトキシであり、Y1、Y2およびY3の残りはそれぞれ水素とすることができない)
ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される担体、薬学的に許容される希釈剤、薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容されるアジュバントを含む、薬学的組成物。
【請求項47】
化学式(I)の化合物が化学式(Ia)の化合物である、請求項46記載の組成物:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択される)。
【請求項48】
X1が電子吸引性基である、請求項47記載の組成物。
【請求項49】
X1がペルフルオロアルキル基およびフルオロ基から選択される、請求項48記載の方法。
【請求項50】
Y2が、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される、請求項47記載の組成物。
【請求項51】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項47記載の組成物。
【請求項52】
Y2がヒドロキシル基である、請求項47記載の組成物。
【請求項53】
Y1がヒドロキシル基である、請求項52載の組成物。
【請求項54】
Y1がブロモ基である、請求項52記載の組成物。
【請求項55】
Y3がニトロ基である、請求項54記載の組成物。
【請求項56】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項46記載の組成物:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素および有機基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素および有機基から選択される)。
【請求項57】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項46記載の組成物:
(式中、
X1、X2およびX3の少なくとも1つは電子吸引性基であり;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される)。
【請求項58】
X1がトリフルオロメチル基である、請求項57記載の組成物。
【請求項59】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項57記載の組成物。
【請求項60】
組成物が検出可能なジメチルスルホキシドを含まない、請求項46記載の組成物。
【請求項61】
嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)欠乏症を有するヒト以外の動物であって、欠乏症が、チアゾリン化合物が動物にCFTRイオン輸送を阻害するのに有効な量で投与されることにより引き起こされる、ヒト以外の動物。
【請求項62】
動物が哺乳類である、請求項61記載のヒト以外の動物。
【請求項63】
哺乳類がヒト以外の霊長類、齧歯類、有蹄類、または鳥類である、請求項62記載のヒト以外の動物。
【請求項64】
動物が嚢胞性線維症に類似する表現型を有する、請求項61記載のヒト以外の動物。
【請求項1】
嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)蛋白質により媒介される状態または徴候を有する患者を治療する方法であって、
被験者に、治療上有効な量の化学式(I)の化合物または薬学的に許容されるそれらの誘導体を、個々の立体異性体またはそれらの混合物として投与する段階を含む、方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。
【請求項2】
状態および徴候が、異常に増加した腸分泌と関連する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
状態および徴候が、分泌性下痢である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
化学式(I)の化合物が、A4が存在せず、A1およびA3が各々硫黄であり、A2が酸素である化合物、すなわち、3-アリール-5-アリールメチレン-2-チオキソ-4-チアゾリジノンである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
化学式(I)の化合物が、下記から選択される、請求項1記載の方法:
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン。
【請求項6】
化学式(I)の化合物が化学式(Ia)の化合物である、請求項1記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択される)。
【請求項7】
X1が電子吸引性基である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
X1がペルフルオロアルキル基およびフルオロ基からなる群から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
Y2が、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
Y2がヒドロキシル基である、請求項6記載の方法。
【請求項12】
Y1がヒドロキシル基である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
Y1がブロモ基である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
Y3がニトロ基である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項1記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素および有機基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素および有機基から選択される)。
【請求項16】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項1記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3の少なくとも1つは電子吸引性基であり;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される)。
【請求項17】
X1がトリフルオロメチル基である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
化学式(I)の化合物が下記から選択される、請求項1記載の方法:
【請求項20】
被験者の細胞において嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質の活性を阻害するための方法であって、細胞を化学式(I)または薬学的に許容されるそれらの誘導体と、個々の立体異性体またはそれらの混合物として、細胞内でのCFTRイオン輸送を阻害するのに十分な量で接触させる段階を含む方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。
【請求項21】
化学式(I)の化合物が、A4が存在せず、A1およびA3が各々硫黄であり、A2が酸素である化合物、すなわち、3-アリール-5-アリールメチレン-2-チオキソ-4-チアゾリジノンである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
化学式(I)の化合物が、下記から選択される、請求項21記載の方法:
3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン。
【請求項23】
化学式(I)の化合物が化学式(Ia)の化合物である、請求項20記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択される)。
【請求項24】
X1が電子吸引性基である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
X1がペルフルオロアルキル基およびフルオロ基から選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
Y2が、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項28】
Y2がヒドロキシル基である、請求項23記載の方法。
【請求項29】
Y1がヒドロキシル基である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
Y1がブロモ基である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
Y3がニトロ基である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項20記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素および有機基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素および有機基から選択される)。
【請求項33】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項20記載の方法:
(式中、
X1、X2およびX3の少なくとも1つは電子吸引性基であり;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される)。
【請求項34】
X1がトリフルオロメチル基である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
化学式(I)の化合物が下記から選択される、請求項20記載の方法:
【請求項37】
細胞を接触させる段階が、被験者が化学式(I)の化合物を摂取する段階を含む、請求項20記載の方法。
【請求項38】
摂取段階が、化学式(I)の化合物と共に薬学的に許容される担体を摂取する段階を含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
インビボアッセイ法において細胞における嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子蛋白質の活性を阻害するための方法であって、細胞を化学式(I)の化合物または薬学的に許容されるそれらの誘導体と、個々の立体異性体またはそれらの混合物として、細胞内でのCFTRイオン輸送を阻害するのに十分な量で接触させる段階を含む、方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。
【請求項40】
ヒト以外の動物において嚢胞性線維症(CF)表現型を作成するための方法であって、ヒト以外の動物に化学式(I)の化合物または薬学的に許容されるそれらの誘導体を、個々の立体異性体またはそれらの混合物として、ヒト以外の動物において嚢胞性線維症(CF)表現型を誘導するのに十分な量で投与する段階を含む、方法:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよい)。
【請求項41】
被験者における嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)による異常イオン輸送と関連する状態を有する被験者の治療法であって、
被験者に有効量のチアゾリジノン化合物を投与する段階を含み、
CFTRイオン輸送が阻害され、状態が治療される、方法。
【請求項42】
異常に増加したCFTRイオン輸送が下痢と関連する、請求項41記載の方法。
【請求項43】
下痢が分泌性下痢である、請求項42記載の方法。
【請求項44】
それぞれ、下記から選択されるチアゾリン化合物:3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-オキシカルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(4-カルボキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;および3-[(3-トリフルオロメチル)フェニル]-5-[(3-ブロモ-4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メチレン]-2-チオキソ-4-チアゾリジノン;ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される担体、薬学的に許容される希釈剤、薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容されるアジュバントを含む、薬学的組成物。
【請求項45】
組成物が、検出可能なジメチルスルホキシドを含まない、請求項44記載の組成物。
【請求項46】
化学式(I)の化合物、または薬学的に許容されるそれらの誘導体を、個々の立体異性体またはそれらの混合物として:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択され、A3は硫黄およびセレンから選択され;A4は1または複数の炭素原子またはヘテロ原子を有し、存在してもしなくてもよく、ただし、下記を条件とする:
1)A4が存在せず、A1およびA2がそれぞれ酸素であり、A3が硫黄であり、X1、X2およびX3のうちの1つが4-位ではトリフルオロメチルまたはクロロであり、X1、X2およびX3の残りが各々水素であり、Y1、Y2およびY3のうちの1つが2位では4-メチルピペラジン-1-イルとすることはできず、Y1、Y2およびY3の残りがそれぞれ水素である;
2)A4が存在せず、A1およびA3がそれぞれ硫黄であり、A2が酸素であり、X1、X2およびX3のうちの1つが4-位ではカルボキシルであり、X1、X2およびX3の残りが各々水素であり、Y1、Y2およびY3の各々が水素とすることができない;
3)A4が存在せず、A1およびA3がそれぞれ硫黄であり、A2が酸素であり、X1、X2およびX3のうちの1つが2-、3-または4-位ではヒドロキシであり、4-位ではエトキシであり、X1、X2およびX3の残りが各々水素であり、Y1、Y2およびY3のうちの1つが水素であり、Y1、Y2およびY3のうちの別の1つが4-位ではヒドロキシまたはメトキシであり、Y1、Y2およびY3のうちの残りの1つが3位ではメトキシとすることはできない;および
4)A4が存在せず、A1およびA3がそれぞれ硫黄であり、A2が酸素であり、X1、X2およびX3のうちの1つが4-位ではメチルであり、X1、X2およびX3の別の1つが3-位ではクロロであり、Y1、Y2およびY3のうちの1つが4位ではメトキシであり、Y1、Y2およびY3の残りはそれぞれ水素とすることができない)
ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される担体、薬学的に許容される希釈剤、薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容されるアジュバントを含む、薬学的組成物。
【請求項47】
化学式(I)の化合物が化学式(Ia)の化合物である、請求項46記載の組成物:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、有機基、ハロ基、ニトロ基、アゾ基、ヒドロキシル基およびメルカプト基から選択され;A1およびA2はそれぞれ、酸素および硫黄から選択される)。
【請求項48】
X1が電子吸引性基である、請求項47記載の組成物。
【請求項49】
X1がペルフルオロアルキル基およびフルオロ基から選択される、請求項48記載の方法。
【請求項50】
Y2が、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される、請求項47記載の組成物。
【請求項51】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項47記載の組成物。
【請求項52】
Y2がヒドロキシル基である、請求項47記載の組成物。
【請求項53】
Y1がヒドロキシル基である、請求項52載の組成物。
【請求項54】
Y1がブロモ基である、請求項52記載の組成物。
【請求項55】
Y3がニトロ基である、請求項54記載の組成物。
【請求項56】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項46記載の組成物:
(式中、
X1、X2およびX3はそれぞれ、水素および有機基から選択され;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素および有機基から選択される)。
【請求項57】
化学式(I)の化合物が化学式(Ib)の化合物である、請求項46記載の組成物:
(式中、
X1、X2およびX3の少なくとも1つは電子吸引性基であり;Y1、Y2およびY3はそれぞれ、水素、アルキル、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、カーボネート、カルバメート、アルコキシ、アルキルカルボニル、およびハロ基から選択される)。
【請求項58】
X1がトリフルオロメチル基である、請求項57記載の組成物。
【請求項59】
X1が3-トリフルオロメチル基である、請求項57記載の組成物。
【請求項60】
組成物が検出可能なジメチルスルホキシドを含まない、請求項46記載の組成物。
【請求項61】
嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)欠乏症を有するヒト以外の動物であって、欠乏症が、チアゾリン化合物が動物にCFTRイオン輸送を阻害するのに有効な量で投与されることにより引き起こされる、ヒト以外の動物。
【請求項62】
動物が哺乳類である、請求項61記載のヒト以外の動物。
【請求項63】
哺乳類がヒト以外の霊長類、齧歯類、有蹄類、または鳥類である、請求項62記載のヒト以外の動物。
【請求項64】
動物が嚢胞性線維症に類似する表現型を有する、請求項61記載のヒト以外の動物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2006−503853(P2006−503853A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540305(P2004−540305)
【出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2003/031005
【国際公開番号】WO2004/028480
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505006585)ザ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (16)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2003/031005
【国際公開番号】WO2004/028480
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505006585)ザ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (16)
【Fターム(参考)】
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