説明

四節リンク型無段変速機

【課題】四節リンク型無段変速機の偏心機構用ベアリングの脱落を防止する。
【解決手段】無段変速機1は、固定ディスク5と揺動ディスク6とを有する偏心機構4を複数備える。揺動ディスク6には、入力軸2及び固定ディスク5を受け入れる受入孔6aが設けられている。受入孔6aは、軸方向中央に位置する小径孔6cと、小径孔6cを軸方向で挟むように配置された大径孔6dとで構成され、小径孔6cと大径孔6dとの間で段差部6eが形成される。固定ディスク5と大径孔6dとの間には、偏心機構用ベアリング21が配置される。ベアリング21は、複数の転動体22を保持する保持器23と、外輪24とを備える。外輪24には、段差部6eと固定ディスク5との間へ張り出す張出部24aが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸に設けられた偏心機構で偏心量を調節することにより変速自在な四節リンク型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に設けられたエンジン等の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、入力軸と平行に配置された出力軸と、入力軸に設けられた複数の偏心機構と、出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、一方の端部に偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドとを備える四節リンク型の無段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、各偏心機構は、入力軸に偏心して設けられた固定ディスクと、この固定ディスクに偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクからなる。また、揺動リンクと出力軸との間には、一方向クラッチが設けられている。一方向クラッチは、揺動リンクが出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに、出力軸に揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに、出力軸に対して揺動リンクを空転させる。
【0004】
入力軸には、ピニオンシャフトが挿入されるとともに、固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、この切欠孔からピニオンシャフトが露出している。揺動ディスクには入力軸及び固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられている。この受入孔を形成する揺動ディスクの内周面には内歯が形成されている。
【0005】
内歯は、入力軸の切欠孔から露出するピニオンシャフトと噛合する。入力軸とピニオンシャフトとを同一速度で回転させると、偏心機構の偏心量が維持される。入力軸とピニオンシャフトの回転速度を異ならせると、偏心機構の偏心量が変更されて、変速比が変化する。
【0006】
入力軸を回転させることにより偏心機構を回転させると、コネクティングロッドの大径環状部が回転運動して、コネクティングロッドの他方の端部と連結される揺動リンクの揺動端部が揺動する。揺動リンクは、一方向クラッチを介して出力軸に設けられているため、一方側に回転するときのみ出力軸に回転駆動力(トルク)を伝達する。
【0007】
各偏心機構の固定ディスクの偏心方向は、夫々位相を異ならせて入力軸周りを一周するように設定されている。従って、各偏心機構に外嵌されたコネクティングロッドによって、揺動リンクが順にトルクを出力軸に伝達するため、出力軸をスムーズに回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
固定ディスクと揺動ディスクの間には偏心機構用ベアリングが配置される。そして、この偏心機構用ベアリングの脱落を防止すべく、固定ディスク又は揺動ディスクにストッパを取り付けることが考えられる。しかしながら、ストッパを取り付ける工程が増え、面倒である。また、変速機の構成部品も増えることとなり、製造コスト及び重量、スペースも増加し、効率悪化の一因ともなる。
【0010】
本発明は、以上の点に鑑み、製造工程数及び部品点数を増加させることなく、固定ディスクと揺動ディスクの間に配置される偏心機構用ベアリングの脱落を防止できる四節リンク型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、車両の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、該入力軸と平行に配置された出力軸と、前記入力軸に偏心して設けられた固定ディスク、及び該固定ディスクに対して偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクを有する複数の偏心機構と、前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、前記入力軸には、前記固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、前記揺動ディスクには、前記入力軸及び前記固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられ、該受入孔を形成する前記揺動ディスクの内周面に内歯が形成され、該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する無段変速機であって、前記受入孔は、軸方向中央に位置し前記内歯が形成された小径孔と、該小径孔を軸方向で挟むように配置された、該小径孔よりも大径の大径孔とで構成され、該小径孔と該大径孔との間で段差部が形成され、前記固定ディスクの外周面と、前記大径孔の内周面との間には、偏心機構用ベアリングが配置され、該偏心機構用ベアリングは、複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器と、外輪又は内輪とを備え、前記外輪又は前記内輪には、前記段差部と前記固定ディスクとの間へ張り出す張出部が設けられることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、張出部が段差部と固定ディスクとの間に挟まれるため、偏心機構用ベアリングの脱落を防止することができる。また、偏心機構用ベアリングの構成部品としての外輪又は内輪に張出部が設けられているため、別途、偏心機構用ベアリングの抜止のためのストッパ等を設ける必要がなく、四節リンク型無段変速機を容易に製造することができる。
【0013】
[2]ここで、偏心機構用ベアリングの外輪に張出部を設ける場合、偏心機構用ベアリングの外輪の張出部が設けられていない側の周縁から径方向内方に延びる側壁を固定ディスクの外周面まで延ばすと、変速機内を飛散する潤滑油が偏心機構用ベアリング内に入り込み難くなる。この場合、外輪の張出部が設けられた側と反対側の周縁から径方向内方に延びる側壁を、その内側縁が固定ディスクの外周面から間隔を存するように構成すれば、張出部と反対側の周縁側から潤滑油を適切に取り込むことができ、偏心機構用ベアリングの潤滑及び冷却を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の四節リンク型無段変速機の実施形態を示す断面図。
【図2】本実施形態の偏心機構、コネクティングロッド、揺動リンクを軸方向から示す説明図。
【図3】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化を説明する説明図。
【図4】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化と、揺動リンクの揺動運動の範囲との関係を示す説明図であり、(a)は偏心量が最大、(b)は偏心量が中、(c)は偏心量が小であるときの揺動リンクの揺動範囲を夫々示している。
【図5】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化に対する、揺動リンクの角速度の変化を示すグラフ。
【図6】本実施形態の無段変速機において、夫々60度ずつ位相を異ならせた6つの四節リンク機構により出力軸が回転される状態を示すグラフ。
【図7】本実施形態の偏心機構用ベアリングを示す断面図。
【図8】本実施形態の偏心機構用ベアリングを拡大して示す断面図。
【図9】本実施形態の偏心機構用ベアリングの転動体の間隔を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の四節リンク型無段変速機の実施形態を説明する。本実施形態の無段変速機は、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂インフィニティ・バリアブル・トランスミッション(IVT)の一種である。
【0016】
図1及び図2を参照して、本実施形態の無段変速機1は、図示省略した内燃機関であるエンジンや電動機等の車両用駆動源からの回転動力を受けることで入力中心軸線P1を中心に回転する中空の入力軸2と、入力軸2に平行に配置され、図外のデファレンシャルギアやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪(図示省略)に回転動力を伝達させる出力軸3と、入力軸2に設けられた6つの偏心機構4とを備える。
【0017】
各偏心機構4は、固定ディスク5と、揺動ディスク6とで構成される。固定ディスク5は、円盤状であり、入力中心軸線P1から偏心して入力軸2と一体的に回転するように入力軸2に2個1組で夫々設けられている。各偏心機構4の1組の固定ディスク5は、夫々位相を60度異ならせて、6組の固定ディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置されている。また、各1組の固定ディスク5には、固定ディスク5を受け入れる受入孔6aを備える円盤状の揺動ディスク6が偏心させて回転自在に外嵌されている。
【0018】
揺動ディスク6は、固定ディスク5の中心点をP2、揺動ディスク6の中心点をP3として、入力中心軸線P1と中心点P2の距離Raと、中心点P2と中心点P3の距離Rbとが同一となるように、固定ディスク5に対して偏心している。
【0019】
揺動ディスク6の受入孔6aには、1組の固定ディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられている。入力軸2には、1組の固定ディスク5の間に位置させて、固定ディスク5の偏心方向に対向する個所に内周面と外周面とを連通させる切欠孔2aが形成されている。
【0020】
入力軸2は、入力軸用ベアリング2bを介して変速機ケース1aに軸支される。入力軸用ベアリング2bは、変速機ケース1aに設けられた孔に圧入されている。入力軸2は、入力軸用ベアリング2bに圧入されている。尚、入力軸用ベアリング2b又は入力軸2は、変速機ケース1a又は入力軸用ベアリング2bに対して微小の隙間を存するように嵌合させてもよいが、圧入すればガタを防止でき、無段変速機1の変速比の調節精度が向上される。
【0021】
中空の入力軸2内には、入力軸2と同心に配置され、揺動ディスク6と対応する個所に外歯7aを備えるピニオンシャフト7が入力軸2と相対回転自在となるように配置されている。ピニオンシャフト7の外歯7aは、入力軸2の切欠孔2aを介して、揺動ディスク6の内歯6bと噛合する。
【0022】
ピニオンシャフト7には、差動機構8が接続されている。差動機構8は、遊星歯車機構で構成されており、サンギア9と、入力軸2に連結された第1リングギア10と、ピニオンシャフト7に連結された第2リングギア11と、サンギア9及び第1リングギア10と噛合する大径部12aと、第2リングギア11と噛合する小径部12bとから成る段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを備える。
【0023】
サンギア9には、ピニオンシャフト7用の電動機から成る駆動源14の回転軸14aが連結されている。駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度と同一にすると、サンギア9と第1リングギア10とが同一速度で回転することとなり、サンギア9、第1リングギア10、第2リングギア11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギア11と連結するピニオンシャフト7が入力軸2と同一速度で回転する。
【0024】
駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くすると、サンギア9の回転数をNs、第1リングギア10の回転数をNr1、サンギア9と第1リングギア10のギア比(第1リングギア10の歯数/サンギア9の歯数)をjとして、キャリア13の回転数が(j・Nr1+Ns)/(j+1)となる。そして、サンギア9と第2リングギア11のギア比((第2リングギア11の歯数/サンギア9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギア11の回転数が{j(k+1)Nr1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
【0025】
固定ディスク5が固定された入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とが同一である場合には、揺動ディスク6は固定ディスク5と共に一体に回転する。入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とに差がある場合には、揺動ディスク6は固定ディスク5の中心点P2を中心に固定ディスク5の周縁を回転する。
【0026】
図2に示すように、揺動ディスク6は、固定ディスク5に対して距離Raと距離Rbとが同一となるように偏心されているため、揺動ディスク6の中心点P3を入力中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、入力中心軸線P1と中心点P3との距離、即ち偏心量R1を「0」とすることもできる。
【0027】
揺動ディスク6の周縁には、一方の端部に大径の大径環状部15aを備え、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを備えるコネクティングロッド15の大径環状部15aが、ローラベアリング16を介して回転自在に外嵌されている。出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられている。
【0028】
揺動リンク18は、環状に形成されており、その上方には、コネクティングロッド15の小径環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、小径環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、小径環状部15bの内径に対応する貫通孔18cが穿設されている。貫通孔18c及び小径環状部15bには、連結ピン19が挿入されている。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
【0029】
図3は、偏心機構4の偏心量R1を変化させた状態のピニオンシャフト7と揺動ディスク6との位置関係を示す。図3(a)は偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、固定ディスク5の中心点P2と、揺動ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト7と揺動ディスク6とが位置する。このときの変速比iは最小となる。
【0030】
図3(b)は偏心量R1を図3(a)よりも小さい「中」とした状態を示しており、図3(c)は偏心量R1を図3(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図3(b)では図3(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図3(c)では図3(b)の変速比iよりも大きい「大」となる。図3(d)は偏心量R1を「0」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、揺動ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比iは無限大(∞)となる。
【0031】
図2に示すように、本実施形態の偏心機構4、コネクティングロッド15、揺動リンク18は四節リンク機構20を構成する。本実施形態の無段変速機1は合計6個の四節リンク機構20を備えている。偏心量R1が「0」でないときに、入力軸2を回転させると共に、ピニオンシャフト7を入力軸2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が、60度ずつ位相を変えながら偏心量R1に基づき入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり入力軸2側に引いたりを交互に繰り返す。
【0032】
コネクティングロッド15の小径環状部15bは、出力軸3に一方向クラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されているため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に揺動リンク18が回転するときだけ、出力軸3が回転し、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各偏心機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各偏心機構4で順に回転させられる。
【0033】
図4(a)は偏心量R1が図3(a)の「最大」である場合(変速比iが最小である場合)、図4(b)は偏心量R1が図3(b)の「中」である場合(変速比iが中である場合)、図4(c)は偏心量R1が図3(c)の「小」である場合(変速比iが大である場合)の、偏心機構4の回転運動に対する揺動リンク18の揺動範囲θ2を示している。図4から明らかなように、偏心量R1が小さくなるにつれ、揺動リンク18の揺動範囲θ2が狭くなる。尚、偏心量R1が「0」であるときは、揺動リンク18は揺動しなくなる。また、本実施形態では、揺動リンク18の揺動端部18aの揺動範囲θ2のうち、入力軸2に最も近い位置を内死点、入力軸2から最も離れる位置を外死点とする。
【0034】
図5は、無段変速機1の偏心機構4の回転角度θ1を横軸、揺動リンク11の角速度ωを縦軸として、偏心機構4の偏心量R1の変化に伴う角速度ωの変化の関係を示す。図5から明らかなように、偏心量R1が大きい(変速比iが小さい)ほど揺動リンク11の角速度ωが大きくなることが分かる。
【0035】
図6は、60度ずつ位相を異ならせた6つの偏心機構4を回転させたとき(入力軸2とピニオンシャフト7とを同一速度で回転させたとき)の偏心機構4の回転角度θ1に対する、各揺動リンク18の角速度ωを示している。図6から、6つの四節リンク機構20により出力軸3がスムーズに回転されることが分かる。
【0036】
図7を参照して、揺動ディスク6の受入孔6aは、軸方向中央に位置させて小径の小径孔6cと、小径孔6cを軸方向から挟むように配置され小径孔6cよりも大径の一対の大径孔6dとで構成されている。この小径孔6cと大径孔6dとの間には、互いの径の相違から段差部6eが形成される。段差部6eの大径孔6d側には、軸方向に切り欠かれた切欠部6fが設けられている。内歯6bは、小径孔6cの内周面に設けられている。
【0037】
固定ディスク5の外周面と大径孔6dの内周面との間には、偏心機構用のローラベアリング21が設けられている。このローラベアリング21は、図8に示すように、円柱状の「ころ」からなる複数の転動体22と、複数の転動体22を互いに間隔を存して保持する保持器23と、外輪24とで構成される。
【0038】
外輪24の段差部6e側の周縁には、径方向内方に向かって段差部6eの切欠部6fと固定ディスク5との間に位置するように張り出す張出部24aが設けられている。この張出部24aが固定ディスク5と切欠孔6fとの間に挟まれることにより、ローラベアリング21が脱落することを防止している。これにより、偏心機構用のローラベアリング21の抜止のためのストッパ等を別途設ける必要がなく、四節リンク型無段変速機1の製造工程数及び部品点数の増加を防止することができる。
【0039】
また、外輪24の段差部6eと反対側の周縁には、固定ディスク5の外周面から間隔を存するように折り曲げられた側壁24bが設けられている。このように、側壁24bの内周縁が固定ディスク5の外周面から間隔を存しているため、ローラベアリング21は、変速機ケース内を飛散する潤滑油を内部に取り込むことができる。また、内部に取り込まれた潤滑油は、段差部6eと固定ディスク5との間を通って、小径孔6cに供給される。これにより、無段変速機1を適切に潤滑及び冷却させることができる。
【0040】
図9は、ローラベアリング21の径方向断面を模式的に示したものである。図9から明らかなように、ローラベアリング21の転動体22は、周方向に異なる間隔で配置されており、これにより、ローラベアリング21の回転重心が中心からずらされている。四節リンク型無段変速機では、一般的に、固定ディスクと揺動ディスクとは、変速比が変更されない限り互いに同一速度で回転するため、偏心機構用ベアリングは振動で摩耗が集中的に行われる微動摩耗(フレッティング)を生じ易いという特徴がある。上記の如くローラベアリング21の回転重心をずらすことにより、慣性モーメントによって保持器23が外輪24に対して相対回転するようにし、ローラベアリング21のフレッティングを防止することができる。
【0041】
尚、本実施形態においては、偏心機構用ベアリングとして内輪を備えていないローラベアリング21を説明したが、本発明の偏心機構用ベアリングは内輪を備えていてもよい。この場合、内輪に張出部を設けてもよい。このとき、偏心機構用ベアリングの外輪は省略してもよい。
【0042】
また、本実施形態においては、一方向回転阻止機構として、一方向クラッチ17を用いているが、本発明の一方向回転阻止機構は、これに限らず、揺動リンク18から出力軸3にトルクを伝達可能な揺動リンク18の出力軸3に対する回転方向を切換自在に構成される二方向クラッチ(ツーウェイクラッチ)で構成してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…無段変速機、1a…変速機ケース、2…入力軸、2a…切欠孔、2b…入力軸用ベアリング、3…出力軸、4…偏心機構、5…固定ディスク、6…揺動ディスク、6a…受入孔、6b…内歯、6c…小径孔、6d…大径孔、6e…段差部、6f…切欠部、7…ピニオンシャフト、7a…外歯、8…差動機構(遊星歯車機構)、9…サンギア、10…第1リングギア、11…第2リングギア、12…段付きピニオン、12a…大径部、12b…小径部、13…キャリア、14…駆動源(電動機)、14a…回転軸、15…コネクティングロッド、15a…大径環状部、15b…小径環状部、15c…潤滑油孔、16…コネクティングロッド用のローラベアリング、17…一方向クラッチ(一方向回転阻止機構)、18…揺動リンク、18a…揺動端部、18b…突片、18c…貫通孔、19…連結ピン、20…四節リンク機構、21…偏心機構用のローラベアリング、22…転動体、23…保持器、24…外輪、24a…張出部、24b…側壁、P1…入力中心軸線、P2…固定ディスクの中心点、P3…揺動ディスクの中心点、Ra…P1とP2の距離、Rb…P2とP3の距離、R1…偏心量(P1とP3の距離)、θ1…偏心機構の回転角度、θ2…揺動範囲、ω…揺動リンクの角速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、
該入力軸と平行に配置された出力軸と、
前記入力軸に偏心して設けられた固定ディスク、及び該固定ディスクに対して偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクを有する複数の偏心機構と、
前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、
該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、
一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、
前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、
前記入力軸には、前記固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、
前記揺動ディスクには、前記入力軸及び前記固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられ、
該受入孔を形成する前記揺動ディスクの内周面に内歯が形成され、
該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、
前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する無段変速機であって、
前記受入孔は、軸方向中央に位置し前記内歯が形成された小径孔と、該小径孔を軸方向で挟むように配置された、該小径孔よりも大径の大径孔とで構成され、
該小径孔と該大径孔との間で段差部が形成され、
前記固定ディスクの外周面と、前記大径孔の内周面との間には、偏心機構用ベアリングが配置され、
該偏心機構用ベアリングは、複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器と、外輪又は内輪とを備え、
前記外輪又は前記内輪には、前記段差部と前記固定ディスクとの間へ張り出す張出部が設けられることを特徴とする四節リンク型無段変速機。
【請求項2】
請求項1記載の四節リンク型無段変速機であって、
前記偏心機構用ベアリングは前記外輪を備え、
前記張出部は、前記外輪に設けられ、
前記外輪の前記張出部が設けられた側と反対側の周縁には、径方向内方に延びる側壁が設けられ、
該側壁は、その内周縁が前記固定ディスクの外周面から間隔を存するように構成されることを特徴とする四節リング型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−19429(P2013−19429A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150621(P2011−150621)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】