説明

四置換ピリダジンヘッジホッグ経路アンタゴニスト

本発明は、癌の治療に有用な新規四置換ピリダジンヘッジホッグ経路アンタゴニストを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッジホッグ経路アンタゴニストに関し、より具体的には、新規四置換ピリダジンおよびその治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達経路は、細胞分化および増殖に関わることによって胚パターン形成および成体組織維持に重要な役割を果たす。ソニックヘッジホッグ(Shh)、インディアンヘッジホッグ(Ihh)、およびデザートヘッジホッグ(Dhh)を含む、ヘッジホッグ(Hh)タンパク質ファミリーは、自己触媒的切断およびコレステロールのアミノ末端ペプチドへのカップリングを含む、翻訳後修飾を受けて、シグナル伝達活性を有するフラグメントを生成する、分泌糖タンパク質である。Hhは、12回膜貫通型タンパク質Ptch(Ptch1およびPtch2)と結合し、それによりPtchにより媒介されるSmoothened(Smo)の抑制を軽減する。Smoの活性化が一連の細胞間イベントを引き起こし、最終的にGliの転写因子(Gli1、Gli2およびGli3)を安定化し、細胞増殖、細胞生存、血管新生および浸潤に関与するGli依存性遺伝子を発現させる。
【0003】
Hhシグナル伝達は、最近、種々の腫瘍(例えば、膵臓癌、髄芽腫、基底細胞癌、小細胞肺癌、および前立腺癌)の形成を導くShhシグナル伝達の異常活性化の発見に基づいて、大きな関心を引いている。いくつかのHhアンタゴニスト(例えば、ステロイドアルカロイド化合物IP−609、アミノプロリン化合物CUR61414、および、2,4−二置換チアゾール化合物JK18)が当該技術分野において報告されている。特許文献1は、ヘッジホッグアンタゴニストとして主張された特定の1,4−二置換フタラジン化合物を開示している。同様に、特許文献2は、ヘッジホッグ経路に関連する病理の診断および処置に関与する、特定の1,4二置換フタラジン化合物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005033288号
【特許文献2】国際公開第2008110611号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、未だ、強力なヘッジホッグ経路阻害剤(特に、所望の薬力学的、薬物動態的、および毒物学的特性を有するもの)が必要とされている。本発明は、この経路の強力なアンタゴニストである新規四置換ピリダジンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の式の化合物
【化1】

(式中、
は水素、フルオロまたはシアノであり、
およびRは独立してメチルまたは水素である)
または、その薬学的に許容される塩を提供する。
【0007】
本発明の化合物が第3級アミン部分を含み、多くの無機酸および有機酸と反応可能であり、薬学的に許容される酸付加塩を形成することを、当業者は理解するだろう。このような薬学的に許容される酸付加塩およびこれらを調製する一般的な方法は当該技術分野において周知である。例えば、P.Stahlら,HANDBOOK OF PHARMACEUTICAL SALTS:PROPERTIES,SELECTION AND USE,(VCHA/Wiley−VCH,2002);S.M.Bergeら,「Pharmaceutical Salts」,Journal of Pharmaceutical Sciences,Vol66,No.1,1977年,1月を参照のこと。
【0008】
本発明の特定の実施形態は、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を含み、ここで、
(a)Rは水素であり、
(b)RおよびRのうち一方は水素であり、他方はメチルである、請求項1または2の化合物である。
【0009】
本発明はまた、薬学的に許容される賦形剤、担体または希釈剤と組み合わせて、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を含む薬学的組成物を提供する。
【0010】
本発明の化合物は、好ましくは、種々の経路により投与される薬学的組成物として処方される。好ましくは、このような組成物は、経口投与または静脈内投与のためのものである。このような薬学的組成物およびこれらを調製するプロセスは、当該技術分野において周知である。例えば、REMINGTON:THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY(A.Gennaroら,eds.,第19版,Mack Publishing Co.,1995)を参照のこと。
【0011】
本発明また、治療を必要とする患者に対し、有効量の式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、患者において、脳腫瘍、基底細胞癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌または黒色腫を治療する方法を提供する。
【0012】
実際に投与される化合物の量は、治療状態、選択される投与経路、投与される実際の化合物(単数または複数を含む)、年齢、体重、および、個々の患者の反応、患者の症状の重篤度などといった関連する状況に基づいて医師により決定されることが理解されるだろう。一日当たりの投与量は、通常、体重1kg当たり約0.1から約5mgの範囲内である。場合によっては、上述範囲の下限以下の投与レベルがより適切であり得るが、他の場合、さらに多い投与量もまた適用され得る。したがって、上述の投与範囲は、いかなる場合においても本発明の範囲を限定することを意図しない。本発明はまた、医薬として使用するための、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0013】
加えて、本発明は、癌を治療するための医薬の製造における、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。特に、癌は、脳腫瘍、基底細胞癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌または黒色腫からなる群より選択される。
【0014】
更に、本発明は、脳腫瘍、基底細胞癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌または黒色腫を治療する活性成分として、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を含む薬学的組成物を提供する。
【0015】
式Iの化合物またはその塩は、当該技術分野において公知の種々の手順、ならびに、以下のスキーム、調製物、および実施例に記載された手順により調製され得る。記載された各経路における特定の合成工程は、様々な方法において組み合わされ得るかまたは様々なスキームからの工程と組み合わされ得て、式Iの化合物またはその塩を調製する。
【0016】
他に指定しない限り、置換基は上述のように定義される。試薬および出発物質は当業者が一般的に容易に取得可能である。その他については、有機化学および複素環化学の標準的な技術、既知の構造類似化合物を合成する類似した技術、ならびに、任意の新規手順を含む以下の調製物および実施例において記載された手順によって作製され得る。
【0017】
本願明細書において、以下の用語は、以下に示す意味を有する。「boc」または「t−boc」は、tert−ブトキシカルボニルを意味する。「EDCI」は、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩を意味する。「EtO」は、ジエチルエーテルを意味する。「HOBT」は、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物を意味する。「DMF」は、N,N−ジメチルホルムアミドを意味する。「DMSO」は、メチルスルホキシドを意味する。「EtOAc」は、酢酸エチルを意味する。「MeOH」は、メタノールを意味する。「TFA」は、トリフルオロ酢酸を意味する。「SCX」は、強カチオン交換を意味する。そして、「IC50」は、薬剤にとって可能な最大阻害反応の50%を生じるその薬剤の濃度を意味する。
【0018】
【化2】

式Iの化合物は、スキーム1に記載された反応にしたがって調製され得る。
【0019】
スキーム1において、1,3,6−ジクロロ−4,5−ジメチルピリダジン(1)を、芳香族求核置換反応(SNAr)において、モノboc保護置換ピペラジン(2)で置換して、式(3)の3−クロロ−4,5−ジメチル−6−(置換)ピリダジンを生成する。例えば、工程1において、(1)の塩化物を、有機塩基(例えばジイソプロピルエチルアミン)の存在下で、極性非プロトン性溶媒(例えば、DMSO)中にて、置換されたモノboc保護ピペラジンで反応させ得る。工程2において、ジメチルピリダジン(3)上の残余塩化物を、鈴木・宮浦クロスカップリング反応において、フェニルボロン酸(4)で反応させて、対応する4,5−ジメチル−6−置換フェニルピリダジン−3−置換ピペラジン(5)を得ることができる。当業者は、このようなクロカップリング反応を促進するのに有用な種々の条件が存在することを理解するであろう。この反応条件は、適切な溶媒(例えば、ジオキサンまたはジオキサン/水)を利用し、フッ化セシウムなどの塩基の存在下で達成される。この反応を、約80〜160℃の温度にて不活性雰囲気下で、パラジウム触媒(例えば、(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム(II)クロリド)の存在下で実施して、式(5)の化合物を得る。アミンを標準的な脱保護方法により脱保護することができる。窒素保護基を導入し、除去する方法は、当該技術分野において周知である(例えば、GreeneおよびWuts,Protective Groups in Organic Synthesis,第3版,John Wiley and Sons,New York,(1999)を参照のこと)。例えば、式(5)のピペラジンのboc脱保護を、適切な溶媒(例えば、メタノールまたはジオキサン)中の酸性条件(例えば、塩化水素)下で達成して、式(6)の化合物を得ることができる。工程4におけるアミンのアシル化を、極性非プロトン性溶媒(例えば、DMSO)中で有機塩基(例えば、トリエチルアミン)を使用し、約90〜110℃まで熱して、置換トリクロエチルカルバメート(7)で達成することができる。式Iの化合物を、当業者に公知の方法によって、例えば、EtOにHClを添加することにより、塩(例えば、HCl塩)に変換して、式Iの化合物を得ることができる。
【0020】
置換トリクロロエチルカルバメートを、スキーム2に示されるように調製することができる。
【化3】

【0021】
4,4−ジフルオロシクロヘキシルアミン塩酸塩(8)を、不活性溶媒(例えば、ジクロロメタン)中で、有機塩基(例えば、トリエチルアミン)を用いて、2,2,2−トリクロロエチルカルボノクロリダート(9)でアシル化して、2,2,2−トリクロロエチル4,4−ジフルオロシクロヘキシルカルバメート(7)を得る(工程1)。
【0022】
あるいは、3,6−ジクロロ−4,5−ジメチルピリダジンを、スキーム3に示される環化ピペラジンに合成され得るベンジルエチレンジアミンでアルキル化することができる。
【化4】

【0023】
(1)の塩化物を、スキーム3の工程1において示したように、極性非プロトン性溶媒(例えばDMSO)中で、有機塩基(例えば、ジイソプロピルアミン)を用い、110〜130℃にて加熱して、ベンジルエチレンジアミン(10)で置換することで、式(11)の保護されたエチレンジアミンピリダジンを得る。第2の塩化物を、工程2に示したボロン酸(4)で上記のように反応させて、式(12)の化合物を得ることができる。ベンジル窒素を、HOBTとともに有機塩基(例えば、トリエチルアミン)および適切なカップリング試薬(例えば、EDCI)を用いて、2−クロロプロピオン酸(13)でアシル化して、工程3に示すような式(14)の化合物を得る。ピリダジンを形成するために環化を、不活性溶媒(例えば、THF)中にて水素化ナトリウムで達成して、式(15)の化合物を得る(工程4)。還元剤(例えば、ボラン−硫化メチル)は、ケトンを還元して、式(16)の化合物を得る(工程5)。例えば、式(15)の化合物を、不活性溶媒(例えば、THF)中にてボラン−硫化メチル錯体で処理することができる。混合物を40〜60℃まで加熱して、式(16)の置換ピペラジンを得ることができる。ピペラジンの脱保護を、極性溶媒(例えば、エタノール)を用いて、触媒(例えば、10%のPd/C)とともに、40〜70psi水素ガスの水素処理条件下で達成して、式(6)の化合物を得る(工程6)。工程7においてアミンのアシル化を、極性非プロトン性溶媒(例えば、DMSO)中で、有機塩基(例えば、トリエチルアミン)を用い、約90〜110℃まで加熱して、置換トリクロエチルカルバメート(7)で達成して、式Iの化合物を得ることができる。ここで、この化合物は、当業者に公知の方法によって、例えば、EtOにHClを添加することにより、塩(例えば、HCl塩)に変換され得る。
【0024】
以下の調製物および実施例は、本発明を更に詳細に例示するために提供され、式1の化合物の典型的な合成を示すものである。本発明の化合物の名称は、一般的にChemDraw Ultra(登録商標)10.0により提供される。
【0025】
調製物1
(S)−tert−ブチル4−(6−クロロ−4,5−ジメチルピリダジン−3−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート
【化5】

DMSO(30mL)中の1,4−ジクロロ−2,3−ジメチルピリダジン(6.06g,34.2mmol)、(S)−2−メチル−ピペラジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(6.88g,34.4mmol)およびジイソプロピルエチルアミン(30ml,172mmol)の混合物を、120℃で5日間、加熱する。混合物を冷却し、さらに(S)−2−メチル−ピペラジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(3.74g,18.7mmol)で処理し、さらに2日間120℃で加熱を再開する。反応混合物をEtOAcで希釈し、HOおよびブラインで洗浄する。NaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残留物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中に20〜50%のEtOAcの勾配)により精製して、淡黄色の泡状物として標題の化合物(7.36g,63%)を得る。ES/MS m/z(35Cl)341.0(M+1)。
【0026】
調製物2
(S)−tert−ブチル4−(4,5−ジメチル−6−フェニルピリダジン−3−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート
【化6】

1,4−ジオキサン(120mL)中の(S)−tert−ブチル4−(6−クロロ−4,5−ジメチルピリダジン−3−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(3.03g,8.87mmol)、フェニルボロン酸(1.62g,13.3mmol)、およびCsF(4.09g,26.9mmol)のNで脱気した混合物を、(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム(II)クロリド(1.08g,1.32mmol)で処理する。反応混合物を95℃で一晩加熱する。反応物を冷却し、EtOAcとHOとの間で分配する。有機層をブラインで洗浄し、NaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残留物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中に15〜85%のEtOAcの勾配)により精製して、白色固体として標題の化合物(2.93g,86%)を得る。ES/MS m/z 383.0(M+1)。
【0027】
適切なフェニルボロン酸を用いて、調製物2に記載される手順に実質的に従って以下の表の置換ジメチルピリダジンを調製する。
【0028】
【表1】

【0029】
調製物5
(S)−4,5−ジメチル−3−(3−メチルピペラジン−1−イル)−6−フェニルピリダジン
【化7】

MeOH(20mL)中の(S)−tert−ブチル4−(4,5−ジメチル−6−フェニルピリダジン−3−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(2.93g,7.66mmol)の溶液を、1,4−ジオキサン(10mL,40.0mmol)中の4MのHClで処理する。反応混合物を周囲温度で一晩攪拌する。反応混合物を減圧下で濃縮する。残留物をMeOHに溶解し、SCXカラム(Varian,10g)上に注ぐ。カラムをMeOHでリンスする。所望の生成物を2MのNH/MeOHで溶出する。減圧下で濃縮して、標題の化合物(2.07g,95%)を得る。ES/MS m/z 283.0(M+1)。
【0030】
3時間の反応時間で適切なboc保護ピペラジンを用いて、および溶媒としてMeOHの代わりに1,4−ジオキサンを用いて、調製物5に記載される手順に実質的に従って以下の表の脱保護したピペラジンを調製する。
【0031】
【表2】

【0032】
調製物8
N1−ベンジル−N2−(6−クロロ−4,5−ジメチルピリダジン−3−イル)エタン−1,2−ジアミン
【化8】

DMSO(78mL)中の3,6−ジクロロ−4,5−ジメチルピリダジン(6.90g,39.0mmol)、N−ベンジルエチレンジアミン(8.78g,58.5mmol)、およびジイソプロピルエチルアミン(25.2g,195mmol)の混合物を、120℃で3日間加熱する。反応混合物を冷却し、HOに注ぎ、混合物をEtOで抽出する。有機層をHOで洗浄し、NaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残留物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中の0〜5%の2MのNH/MeOHの勾配)を用いて精製して、ろう状の固体として標題の化合物(6.41g,57%)を得る。ES/MS m/z 291.2(M+1)。
【0033】
調製物9
N1−ベンジル−N2−(6−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチルピリダジン−3−イル)エタン−1,2−ジアミン
【化9】

1,4−ジオキサン(220mL)中のN1−ベンジル−N2−(6−クロロ−4,5−ジメチルピリダジン−3−イル)エタン−1,2−ジアミン(6.40g,22.0mmol)、4−フルオロフェニルボロン酸(9.24g,66.0mmol)およびCsF(10.0g,66.0mmol)のNで脱気した混合物を、(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム(II)クロリド(2.70g,3.30mmol)で処理する。反応混合物を95℃で一晩加熱する。冷却し、飽和NaHCO(水溶液)とEtOAcとの間に分配する。層を分離し、EtOAcで水層を抽出する。有機層を合わせ、NaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残留物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中に0〜6%の2MのNH/MeOHの勾配)により精製して、ろう状の固体として標題の化合物(4.91g,64%)を得る。ES/MS m/z 351.2(M+1)。
【0034】
調製物10
(R)−N−ベンジル−2−クロロ−N−(2−(6−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチルピリダジン−3−イルアミノ)エチル)プロパンアミド
【化10】

CHCl(70mL)中のN1−ベンジル−N2−(6−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチルピリダジン−3−イル)エタン−1,2−ジアミン(4.90g,13.98mmol)の溶液を、(R)−(+)−2−クロロプロピオン酸(1.84mL,20.97mmol)、トリエチルアミン(2.92mL,20.97mmol)、HOBT(3.21g,20.97mmol)、および1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(4.02g,20.97mmol)で連続して処理する。得られた混合物を周囲温度で一晩攪拌する。反応混合物を飽和NaHCO水溶液で洗浄する。水層をCHClで抽出する。有機層を合わせ、NaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残留物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中に20%のEtOAc)により精製して、黄色の泡状物として標題の化合物(4.59g,74%)を得る。ES/MS m/z 441.2(M+1)。
【0035】
調製物11
1−ベンジル−4−(6−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチルピリダジン−3−イル)−3−メチルピペラジン−2−オン
【化11】

THF(104mL)中の(R)−N−ベンジル−2−クロロ−N−(2−(6−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチルピリダジン−3−イルアミノ)エチル)プロパンアミド(4.59g,10.4mmol)の0℃の溶液をNaH(60%,625mg,15.6mmol)で処理する。反応混合物を周囲温度まで加温し、一晩攪拌する。反応物を0℃まで冷却し、さらにNaH(60%,208mg,5.20mmol)で処理する。反応混合物を周囲温度まで加温し、3日間攪拌する。反応混合物をブラインとEtOAcとの間に分配する。有機層を分離し、NaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残留物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中に0〜2%の2MのNH/MeOHの勾配)により精製して、白色の泡状物として標題の化合物(3.64g,86%)を得る。ES/MS m/z 405.2(M+1)。
【0036】
調製物12
3−(4−ベンジル−2−メチルピペラジン−1−イル)−6−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチルピリダジン
【化12】

THF(70mL)中の1−ベンジル−4−(6−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチルピリダジン−3−イル)−3−メチルピペラジン−2−オン(2.84g,7.02mmol)の溶液を、ボラン−硫化メチル錯体(1.96mL,21.1mmol)で処理する。得られた混合物を50℃で2時間加熱する。反応混合物を氷浴中で冷却し、滴下漏斗によりMeOH(20mL)、続いて1,4−ジオキサン(20mL)中の4MのHClを加える。得られた混合物を65℃にて1時間加熱する。混合物を減圧下で濃縮する。残留物をCHClと飽和NaHCO(水溶液)との間に分配する。層を分離し、CHClで水層を抽出する。有機層を合わせ、NaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。残留物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中に0〜3%の2MのNH/MeOHの勾配)により精製して、ろう状の固体として標題の化合物(2.45g,89%)を得る。ES/MS m/z 391.2(M+1)。
【0037】
キラルクロマトグラフィー(Chiralcel OJ−H、流速30mL/分、検出225nm、6:4のMeOH:アセトニトリル)によって3−(4−ベンジル−2−メチルピペラジン−1−イル)−6−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチルピリダジンの異性体を分離する。第1の溶出ピーク、異性体1:99%ee。第2の溶出ピーク、異性体2:99%ee。
【0038】
【表3】

【0039】
調製物15
3−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチル−6−(2−メチルピペラジン−1−イル)ピリダジン
【化13】

無水EtOH(15mL)中の3−(4−ベンジル−2−メチルピペラジン−1−イル)−6−(4−フルオロフェニル)−4,5−ジメチルピリダジン(200mg,3.25mmol)の溶液を、EtOH(5mL)で予め湿らせた10%のPd/C(46.8mg)に加える。混合物を、10時間60psiにてHで加圧したParrボトル中で振盪する。反応混合物を濾過し、溶液をSCXカラム(Varian,2g)に直接適用する。カラムをMeOHおよびCHClでリンスする。生成物を、2MのNH/MeOHとCHClとの1:1の混合物で溶出する。減圧下で溶出液を濃縮して、オフホワイトの泡状物として標題の化合物(142mg,92%)を得る。ES/MS m/z 301.2(M+1)。
【0040】
適切な保護アミンを用いて、実施例15に記載される手順に従って以下の表の脱保護メチルピペラジンを調製する。
【0041】
【表4】

【0042】
調製物18
2,2,2−トリクロロエチル4,4−ジフルオロシクロヘキシルカルバメート
【化14】

CHCl(192mL)中の4,4−ジフルオロシクロヘキシルアミン塩酸塩(3.29g,19.2mmol)およびトリエチルアミン(5.88mL,42.2mmol)の0℃の混合物を、2,2,2−トリクロロエチルカルボノクロリダート(2.91mL,21.1mmol)の液滴で処理する。1時間後、反応混合物を周囲温度まで加温し、一晩攪拌する。反応混合物をHOとCHClとの間に分配し、層を分離する。有機層をNaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、オフホワイトの固体として標題の化合物(5.75g,97%)を得る。GC/MS m/z 35Cl 309(M)。
【実施例】
【0043】
実施例1
(S)−N−(4,4−ジフルオロシクロヘキシル)−4−(4,5−ジメチル−6−フェニルピリダジン−3−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシアミド塩酸塩
【化15】

DMSO(5ml)中の(S)−4,5−ジメチル−3−(3−メチルピペラジン−1−イル)−6−フェニルピリダジン(199mg,0.70mmol)およびトリエチルアミン(0.30ml,2.15mmol)の混合物を、2,2,2−トリクロロエチル4,4−ジフルオロシクロヘキシルカルバメート(341mg,1.10mmol)で処理する。反応物を100℃で4日間加熱する。反応混合物をHOに注ぎ、EtOAcでリンスする。混合物をEtOAcで抽出する。有機層をHOで2回、次いでブラインで洗浄する。NaSOで乾燥させ、減圧下で濃縮する。得られた残留物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中に0〜10%のMeOHの勾配)により精製する。精製した遊離塩基をMeOH(1mL)に溶解し、EtO(1mL)中の1MのHClで処理する。混合物を濃縮して、黄色の泡状物として標題の化合物(256mg,76%)を得る。ES/MS m/z 444.2(M+1)。
【0044】
適切なピペラジニルピリダジンを用いて、実施例1に記載される手順に実質的に従って以下の表のピペラジニル尿素を調製する。
【0045】
【表5】

【0046】
生物学
ヘッジホッグは以下の癌:基底細胞癌;上部消化管癌(食道、胃、膵臓、および胆管);前立腺癌;乳癌;小細胞肺癌;非小細胞肺癌;B細胞リンパ腫;多発性骨髄腫;胃癌;卵巣癌;結腸直腸癌;肝臓癌;黒色腫;腎臓癌;および脳腫瘍についての生存因子として関与している。
【0047】
ヘッジホッグ経路の要素は癌の治療のための潜在的な薬剤標的であると主張されている。骨芽腫から確立されたDaoy細胞株(ATCC,HTB−186)はHhリガンドに応答する。これらの細胞を外から加えられたShh馴化培地で処理する場合、Hhシグナル伝達経路は活性化され、Gli1の増大された発現を生じる。コーンリリー(corn lily)Veratrum californicumから単離されたアルカロイドである、シクロパミンは弱いヘッジホッグアンタゴニストであり、Shh刺激に応答するGli1の発現を抑制することが示されている。最近の観測により、シクロパミンが、培養された髄芽腫細胞および同種移植片の増殖を阻害することが示唆されている。このDaoy細胞モデルシステムを用いて、ヘッジホッグシグナル伝達経路の潜在的な阻害剤が同定され得る。本発明の化合物はヘッジホッグアンタゴニストであるため、それらは上述の腫瘍タイプを治療するのに適している。
【0048】
生物学的活性IC50の測定
以下のアッセイプロトコルおよびその結果は、本発明の化合物および方法の有用性および効果をさらに実証する。機能的アッセイは、本発明の化合物がShhシグナル伝達を阻害する能力を示すという支持を提供する。以下のアッセイに利用される全てのリガンド、溶媒、および試薬は、市販の供給業者から容易に入手可能であるか、または当業者により容易に調製され得る。
【0049】
生物活性を、DAoyニューロン癌細胞において機能的アッセイを用いて測定し、bDNA(分枝デオキシリボ核酸)アッセイ系(Panomics,Inc.,Fremont,CA)によってGli1リボ核酸のレベルを測定する。Gliは最初に膠芽腫細胞株において発見され、Shhシグナル伝達によって活性化される亜鉛フィンガータンパク質をコードする。最大反応は、24時間、馴化培地(ヒト胎児腎臓細胞である、組み換えShhを安定発現するHEK−293細胞)を用いてDaoy細胞におけるGli1転写を誘発することによって得られ、次いで、刺激されたGli1転写産物の量を測定する。最小反応は、24時間、馴化培地(ヒト胎児腎臓細胞である、組み換えShhを安定発現するHEK−293細胞)で刺激されているDaoy細胞においてコントロール化合物で阻害されるGli1転写産物の量である。
【0050】
Daoy細胞におけるGli1の阻害を測定するための機能的アッセイ
bDNAアッセイ系は、標的リボ核酸(転写産物)の増幅を可能にする分枝鎖DNAの技術を利用する。この技術は、ハイブリダイゼーションシグナルを増幅するために標的転写産物との複合体としてハイブリダイズする標的転写産物の特異性を測定する3種類の合成ハイブリッド短Gli1−特異的cDNAプローブ[捕捉増量剤(CE)、標識増量剤(LE)および遮断剤(BL)]を利用する。増幅工程の間の化学発光基質の添加により、発光を用いる検出が可能となる。
【0051】
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から得たDaoy細胞株は、Shh反応ヒトニューロン腫瘍細胞株であり、生理学的に関連する腫瘍細胞株である、線維形成小脳髄芽腫から1985年に確立された。Gli1転写産物レベルの内因性レベルはDaoy細胞において低いが、ヒトShhを安定に過剰発現する細胞(hShhで安定にトランスフェクトされたHEK−293細胞株)から得た馴化培地を用いることによって刺激され得る。
【0052】
Daoy細胞を、0.1nMの非必須アミノ酸および1mMのピルビン酸ナトリウムを有する最小必須培地(MEM)および10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するDaoy増殖培地中で組織培養T225フラスコにおいてコンフルエンシーまで増殖させる。細胞を、トリプシンエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用いてT225フラスコから除去し、遠心分離し、培地に再懸濁し、次いで計数した。
【0053】
次いで、Daoy細胞を、Costar96ウェル透明組織培養プレートにおいて増殖培地中で1ウェルあたり50,000細胞にて播種し、5%二酸化炭素(CO)下で37℃にて一晩、インキュベートする。細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1度洗浄し、続いて、100μLのShh馴化培地(Shh−CM)を加えて、Gli1発現のレベルを刺激する。Shh−CMを希釈して、コントロール増殖培地−0.1%FBS/DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)を用いて最大刺激を達成する。次いで、Shh−CMで処理したDaoy細胞を、約1μM〜0.1nMの範囲の種々の濃度のヘッジホッグ阻害剤で処理する。試験化合物を、5%CO下で37℃にて24時間インキュベートする。
【0054】
Gli1転写産物の測定を、製造業者(Panomics,Inc.)によって記載されるQuantigene2.0 Gli1アッセイを用いて実施する。プロテイナーゼKを含む、希釈した溶解混合物(DLM)緩衝液を調製する。化合物との24時間のインキュベーション後、細胞をPBSで1度洗浄し、180μLのDLMを細胞に加える。溶解緩衝液を含有する細胞プレートを密閉し、55℃にて30〜45分間、静置させる。次いで、得られた細胞溶解物を5回粉砕する。Gli1プローブを含有する作業プローブセットを、製造業者の指示に従って、DLM中でプローブを希釈することによって作製し、次いで、20μLの作業プローブセットを、80μLのDaoy溶解物とともにbDNAアッセイプレートに加える。プレートを密閉し、55℃にて一晩インキュベートする。次いで、bDNAプレートを、製造業者の指示に従って処理する。シグナルを、発光を検出するPerkin Elmer Envisionリーダーでプレートを読み取ることによって定量化する。発光シグナルは、サンプルに存在する標的転写産物の量と正比例する。
【0055】
機能的アッセイからの発光シグナルデータを、インビトロでのアッセイに関するIC50を算出するために使用する。データを、最大コントロール値(Shh−CMで処理したDaoy細胞)および最小コントロール値(Shh−CMで処理したDaoy細胞およびコントロール化合物、1μMのN−(3−(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)−4−クロロフェニル)−3,5−ジメトキシベンズアミドの阻害濃度)に基づき算出する。4パラメーターロジスティック曲線フィットを使用して、ActivityBaseソフトウェアプログラムバージョン5.3、等式205(Assay Guidance Manual Version5.0,2008,Eli Lilly and Company and NIH Chemical Genomics Center)を用いてIC50値を生成する。
【0056】
記載されるプロトコルによれば、本明細書に例示した本発明の化合物は、15nM未満のIC50を示す。例えば、実施例1の化合物は、上記のアッセイにおいて0.139(n=3)の標準誤差で約1.26nMのIC50を有する。これらの結果は、本発明の化合物がヘッジホッグアンタゴニストであり、例えば抗癌剤として有用であるという証拠を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式の化合物
【化1】

(式中、
は水素、フルオロまたはシアノであり、
およびRは独立してメチルまたは水素である)
または、その薬学的に許容される塩。
【請求項2】
は水素である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
およびRのうち一方は水素であり、他方はメチルである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
は水素であり、Rは水素であり、そしてRはメチルである、請求項1から3のうちいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて、請求項1から4のうちいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む薬学的組成物。
【請求項6】
治療を必要とする哺乳動物に対し、有効量の請求項1から4のうちいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、哺乳動物において、脳腫瘍、基底細胞癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌または黒色腫を治療する方法。
【請求項7】
医薬として使用するための、請求項1から4のうちいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
癌の治療に使用するための、請求項1から4のうちいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。

【公表番号】特表2012−509265(P2012−509265A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536403(P2011−536403)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/063696
【国際公開番号】WO2010/056620
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】