説明

四肢の機能的使用をモニタリングする方法およびシステム

本発明は、運動機能障害を持つ患者、特に半側麻痺患者のためのリハビリテーションの領域に関する。本発明を用いれば、長期的な、たとえば一昼夜の、患者活動モニタリングが家庭環境において確立できる。本発明の中核的な発想は、患者の動きの周期性に依存して該動きの同期性を判別することによって、肢の機能的使用を評価することである。この手法を用いれば、患者の日常の生活活動に基づいて、四肢使用の信頼できる評価ができる。本発明を用いれば、リハビリテーションの進行がモニタリングでき、リハビリテーション過程の状態について治療担当者および患者に情報を提供できる。本発明はさらに、治療担当者および患者に、四肢使用の欠如を気づかせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四肢の機能的使用をモニタリングする方法およびシステムに関する。さらに、本発明はコンピュータ・プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半側麻痺(片麻痺)は、神経障害、たとえば卒中の最も一般的な症状の一つである。リハビリテーションは肢(limb)の機能的使用(functional use)、すなわち日常生活の活動における使用を回復することに向けられねばならない。障害のある肢を使うことが、リハビリテーションの成功を達成する最良の手法である。しかしながら、多くの患者は障害のある肢を使わないことを好む。
【0003】
運動機能障害のある人が、障害のある身体部分をあまり使わず、他の身体部分を過剰使用する傾向があることはよく知られている。たとえば、歩くときに通例、疾患のある脚より健康な脚に負荷がかけられる。このアンバランスは、ある程度は障害のある人が障害を補償するのを助ける。長い目で見れば、これは、過剰使用により、健康な肢の傷害や、障害のある肢または身体部分の衰弱につながることがありうる。
【0004】
通例、リハビリテーション運動は、なおざりにされる肢を強化し、個々の患者によって実行されるべき最も自然な動きパターンを確立するためになされる。ある程度まで、鏡やビデオテープ録画を使う患者はこれらの運動を自宅で続けることができる。そのようなシステムにはいくつかの欠点がある:動きのモニタリング時間がリハビリテーション運動が実行される時間に限定され、四肢の日常の使用がモニタリングされない。患者の動きが解析されるのは、患者が人為的な治療上の動きを実行するときのみである。これらの動きの進行は、日常生活での機能的な動きに対応しないことが知られている。治療担当者/患者の関係は施設(リハビリテーション・センター、クリニック)の訪問を必要とする。患者が自分の姿勢や非対称な動きを観察する場合、ある種の欠陥を過剰に見ることがありうる。ゆっくり発達する欠陥は、それが典型的な機能だと見なされるので、(専門家によっても患者によっても)気づかれない。参照用の履歴データが利用可能でないときに身体機能の徐々の変化を判断することは、人間には難しい。
【0005】
動きパターンの非対称性に取り組む技術的解決策は、たいていビデオ・モニタリングに基づいている。これはモニタリングを専用の場所および特殊なタスクの実行に制約する。もう一つの方法は、重量負荷の対称性を感知する底をもつ靴を使うことである。しかしながら、この方法は、脚の不足使用/過剰使用を評価することに制約され、たとえば歩くときの動きパターンを解析するために使うことはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
患者の肢の正しい機能的使用の簡単なモニタリングを許容する技術を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、この目的は、四肢の機能的使用をモニタリングする方法であって:
・モニタリングされる患者によって少なくとも一部が携行される測定ユニットを使って、動きデータの恒常的(permanent)かつ監督されない(unsupervised)測定を実行し、
・前記動きデータを解析し、
・前記動きの周期性(cyclicity)Cを判別し、
・前記動きの周期性Cに依存して前記動きの同期性(synchronicity)Sを判別し、
・前記動きの同期性の値Sを保存し、および/またはわかったことについて前記患者に通知する、
ステップを有する方法によって達成される。
【0008】
本発明の目的はまた、四肢の機能的使用をモニタリングするシステムであって、モニタリングされる患者によって少なくとも一部が携行され、動きデータの恒常的かつ監督されない測定を実行するよう適応された測定ユニットと、データ・ユニットとを有しており、前記データ・ユニットは:
・前記動きデータを解析し、
・前記動きの周期性Cを判別し、
・前記動きの周期性Cに依存して前記動きの同期性Sを判別し、
・前記動きの同期性の値Sを保存し、および/またはわかったことについて前記患者に通知する、
よう適応されたシステムによっても達成される。
【0009】
すべてのシステム手段は、本発明に基づく方法を実行するよう適応されている。すべての装置およびユニット、たとえば前記測定ユニットおよび前記データ・ユニットは、データ取得、データ処理およびシステム制御のための手順が本発明の方法に基づいて実行されるよう構築され、プログラムされる。
【0010】
本発明の目的はまた、コンピュータにおいて実行されるべきコンピュータ・プログラムであって、前記コンピュータにおいて実行されるときに、モニタリングされる患者によって少なくとも一部が携行される測定ユニットによって実行される恒常的かつ監督されない測定の際に得られた動きデータを使って四肢の機能的使用をモニタリングするよう適応されており:
・前記動きデータを解析するためのコンピュータ命令と、
・前記動きの周期性Cを判別するためのコンピュータ命令と、
・前記動きの周期性Cに依存して前記動きの同期性Sを判別するためのコンピュータ命令と、
・前記動きの同期性の値Sを保存し、および/またはわかったことについて前記患者に通知するためのコンピュータ命令とを有する、
コンピュータ・プログラムによっても達成される。
【0011】
このように、本発明に基づいて必要な技術的効果は、本発明に基づくコンピュータ・プログラムの命令に基づいて実現されることができる。そのようなコンピュータ・プログラムはCD-ROMのような担体上に記憶されることができ、あるいはインターネットまたはその他のコンピュータ・ネットワークを通じて利用可能であることもできる。実行に先立ち、コンピュータ・プログラムは、該コンピュータ・プログラムをたとえばCD-ROMプレーヤーによって担体から、あるいはインターネットから読み、コンピュータのメモリに記憶することによってコンピュータにロードされる。コンピュータはなかでも中央プロセッサ・ユニット(CPU)、バス・システム、メモリ手段、たとえばRAMまたはROMなど、記憶手段、たとえばフロッピー(登録商標)・ディスクまたはハードディスク・ユニットなどおよび入出力ユニットを含む。あるいはまた、本発明の方法はハードウェアで、たとえば一つまたは複数の集積回路を使って実装されることもできる。
【0012】
本発明は、運動機能障害を持つ患者、特に半側麻痺患者のためのリハビリテーションの領域に関する。本発明を用いれば、長期的な、たとえば一昼夜の、患者活動モニタリングが家庭環境において確立できる。本発明の中核的な発想は、動きの周期性に依存して患者の動きの同期性を判別することによって、肢の機能的使用を評価することである。この手法を用いれば、患者の日常の生活活動に基づいて、四肢使用の信頼できる評価ができる。本発明を用いれば、リハビリテーションの進行がモニタリングでき、リハビリテーション過程の状態について治療担当者および患者に情報を提供できる。本発明はさらに、治療担当者および患者に、四肢使用の欠如を気づかせることができる。患者(または治療担当者)にリアルタイムで、すなわちある種の動きが実行されている際に、フィードバックを与えることも可能である。
【0013】
本発明のこれらの側面およびその他の側面は、従属請求項において定義される以下の実施形態に基づいてさらに精巧なものにされる。
【0014】
評価が患部の肢の全体的な動きの量に基づいている従来技術とは対照的に、本発明は、動き情報を評価する改良された方法を提供する。本発明のある好ましい実施形態によれば、動きデータを解析する前記ステップは、患者の動きの分類を含む。そのような分類は、動きパターン、特にたとえば歩く、走るといった種々の型の周期的な動きの判別を含む。周期的な動きは常に機能的(functional)であると想定されてもよい。周期的な動きの評価に制約することによって、以前の既知の評価技法に比べ、評価結果は、リハビリテーションの進行を評価するためにより価値あるものとなる。
【0015】
好ましくは、そのような動き分類に依存して周期性閾値C0が設定される。換言すれば、たとえば歩くまたは走るといった四肢の動きの種類に依存して閾値が選ばれるのである。よって、異なる四肢の動きに異なる仕方で対処することができる。これは、洗練された差別化および評価プロセスを可能にする。
【0016】
本発明のある好ましい実施形態では、動きの同期性Sは、動きの周期性の値Cが周期性閾値C0を超える場合にのみ決定される。換言すれば、動きの同期性は、患者の動きが周期的である場合にのみ決定される。この場合にのみ対称的な動きが期待される。データ・フィルタリングのこの手法は、モニタリング方法およびモニタリング・システムの両方に関して、モニタリングの単純化に、よってモニタリング・コストの著しい削減につながる。さらに、肢の動きの対称性は、ある種の周期的な動きに関してのみ評価されるので、非機能的な動きによって評価がゆがめられることがない。
【0017】
動きの同期性を定量化するために、好ましくは、同期性閾値S0が動きの分類に依存して設定され、それにより異なる動きには異なる同期性の値が成り立つことが考慮に入れられる。本発明のあるさらなる実施形態では、同期性閾値S0は――少なくともある特定のモニタリング時間以降は――先行するおよび/または現在の同期性の値Sに依存して動的に適応される。こうして、個別的な患者の治療進行を考慮に入れることができる。
【0018】
本発明のもう一つの好ましい実施形態では、動きの同期性Sが同期性閾値S0と比較され、患者は、動きの同期性の値Sが同期性閾値S0を下回る場合にのみ通知される。動きの同期性の値Sが同期性閾値S0より上に留まれば、通知の必要はない。というのも、目標となる同期性、すなわち必要とされるリハビリテーション過程に従った肢の動きに到達しているからである。
【0019】
本発明のもう一つの好ましい実施形態では、通知の種類が判別された同期性Sに依存するバイオフィードバック手法が実装される。たとえば、オーディオおよび/またはビデオ信号発信または対応する肢の機械的/電気的刺激を使うことができる。さらに、フィードバックは、患者の動きの判別された種類も同時に考慮に入れつつ、判別された同期性Sに依存して差別化されるという意味で、フィードバックは定量化される。そのようなフィードバックは、本モニタリング方法の患者によるよりよい受容につながる。
【0020】
本発明のさらにもう一つの実施形態では、通知時間は患者の実際の動きに依存する。換言すれば、患者はある種の動きの進行または退行については通知されない。たとえば、患者が実際に走るのをやめて今はお茶を飲んでいるとき、走っているときの左腕の活動状態については通知されない。しかしながら、患者が再び走り始めるとすぐ、しかるべく通知される。
【0021】
本発明のある好ましい実施形態では、測定ユニットは、「動的な」動きデータを得るためにいくつかの慣性センサーを有する。これは、身体位置のような「静的な」データが使われる従来技術の技法とは対照的である。種々の型の慣性センサーが使用できるが、加速度計、ジャイロスコープおよび磁気計デバイスの使用が好ましい。患者の動きパターンの対称性をモニタリングするために、これらのセンサー・デバイスは好ましくは患者によって、患部の肢およびその対応物に、たとえば左腕(患部)および右腕(健常)に、装着される。
【0022】
本発明は特に、患者の四肢の周期的な動きの非対称性をモニタリングするシステム及び方法であって、四肢および体幹に取り付けられた加速度計の使用と、対称性について動きを解析することに関する。解析を実行するのは、アルゴリズムを実行して、肢の動きの統合的な対称性(integral symmetry of limb movement)を、あるいは対称性に関する動きパターンのリアルタイムの特徴付けを評価するデータ処理装置である。システムは、四肢を対称的に使うことに成功しているか失敗しているかについて患者に知らせるためのフィードバック設備を有する。さらに、理学療法士が患者の服従と療法の成功をコントロールするフィードバック設備を有していてもよい。本発明を用いれば、患者が身につけるシステムを用いた長期的な、監督されない動きモニタリングを確立することが可能であり、それは患者の肢の正しい機能的使用の簡単な監視を許容する。
【0023】
本発明のこれらの側面およびその他の側面は、以下の実施形態および付属の図面を参照して、例として、以下に詳細に記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に基づくモニタリング・システムが図1および図2に示されている。本システムは、測定ユニット2およびデータ・ユニット3を有する。少なくとも一つの電源、たとえばバッテリー4がシステム1の一部である。
【0025】
測定ユニット2は、患者5の動きデータの恒常的かつ監督されない測定を実行するよう適応されている。測定ユニット2は、患者5の動きを測定するためのいくつかの測定センサーを有する。測定センサーとしては、加速度計6の形の二つ以上の慣性センサーが使われる。本発明の目的のために、二つの加速度計6、6′が少なくとも患部の肢7と対応する健常な肢8に位置される。加速度計6、6′は、サンプリング・レート204.8MHzで10-3G程度の分解能で±2Gの測定範囲内の信号を提供するよう適応されている。ただし、他の型の動きセンサーを用いてもよい。加速度計6、6′は二つの等しい身体部分(たとえば、腕、手、脚、腰)上の対称的な位置で身につけられる。患者5の体のz軸に沿った中立的な位置で、第三の加速度計9が基準のはたらきをするために身につけられる。好ましくは、追加的な第三の加速度計9は、患者5の胴体に取り付けられる。
【0026】
加速度計6、6′、9は好ましくは、腕または脚のまわりにブレスレットとして身につけられ、あるいは患者の下着に統合されるなどする。しかしながら、加速度計はパッチまたはインプラントとして身につけられることもできる。センサー・データが測定される頻度は、固定であってもよいし、あるいは動きに適合されてもよい。たとえば、速く歩いていると、遅い動きの間より高いサンプリング・レートが必要となることがある。
【0027】
さらに、測定ユニット2は、データ・ユニット3に測定データを送信するためのデータ通信設備11を有する。各加速度計6、6′、9は、その動きプロファイルを送信するよう適応される。動きプロファイルは、x、y、z方向のセンサー加速データおよび好ましくはタイム・スタンプからなる。
【0028】
データ・ユニット3は、測定ユニット2からデータを受信するよう適応され、好ましくはさらにさらなる外部装置にデータを送るよう適応されたデータ通信設備12を有する。換言すれば、データ・ユニット3は前記の三つまたはそれ以上の加速度計6、6′、9から測定データを収集するよう適応される。データは、センサーからデータ・ユニット3に連続的に流れ込む。データがデータ・ユニット3に送信されるのは、ケーブル13によるか、あるいは無線通信回線を使うことによる。データ・ユニット3は、オフライン処理のために前記データを記憶するか、すぐ前記データを解析するかする。これについてはのちにより詳細に述べる。データ記憶のために、データ・ユニット3は統合された記憶装置14を有する。代替的に、データは測定ユニット2および/またはデータ・ユニット3から中央記憶ユニット15に送信されてもよい。中央記憶ユニット15は好ましくは患者5によって携行されることができる。データが中央記憶ユニット15に送信されるのは、無線通信回線16を使うことによる。中央記憶ユニット15は専用装置であることができるが、しかるべく構成された携帯電話または別の機器であることもできる。
【0029】
データ・ユニット3はさらに、処理手段17を有する。処理手段17は、受信された動きデータを処理し、計算にかけるとともに、結果を決定および評価し、内部または外部の通知手段を制御するあらゆるタスクを実行するよう適応される。これらはのちにより詳細に述べる。処理手段17としては、好ましくはマイクロプロセッサが使われる。データ・ユニット3はさらに、処理手段17によって実行されるよう適応され、該ソフトウェアが処理ユニットで実行されるときに本発明の方法のステップを実行するようさらに適応されたコンピュータ・プログラム18を有する。処理手段17が有しうる機能モジュールまたはユニットは、ハードウェア、ソフトウェアまたは両者の組み合わせの形で実装される。
【0030】
好ましくは、完全なモニタリング・システム1、特に測定ユニット2の全部の部分はモニタリングされる患者5によって携行される。データ・ユニット3は、加速度計6、6′、9のうちの一つと組み合わされてもよいし、あるいは測定デバイス2と組み合わされてもよい。あるいはまた、測定ユニット2とデータ・ユニット3は別々に位置される。たとえば、測定ユニット2は患者5によって身につけられ、データ・ユニット3は別個に携行されるか、患者5の近くに位置され、たとえば、携帯電話またはポケット・コンピュータまたはその他のハンドヘルド装置において実装される。
【0031】
すべてのシステム手段は、本発明に基づく方法を実行するよう適応される。すべてのデバイスおよびユニット、特に測定ユニット2およびデータ・ユニット3は、データ取得、データ処理およびシステム制御のための手順が本発明の方法に従って実行されるよう構築され、プログラムされる。
【0032】
本発明に基づく方法について図3を参照して述べる。第一のステップ100では、患者5の動きの動きデータD1、D2が測定ユニット2の加速度計6、6′、9によって取得される。データ・ユニット3はその動きデータを受信し、収集されたデータは第二のステップ101において、周期的な動き(たとえば歩行)と非周期的な動き(たとえば食事)とを区別するためにデータ・ユニット3によって解析される。換言すれば、患者5の動きは、周期的および非周期的な活動に基づいてデータ・ユニット3によって分類される。分類は、標準的な動き、特にたとえば歩く、走るなどの種々の型の周期的な動きの際に生起する典型的な動きパターンの判別を含む。「周期的(cyclic)」の用語は、歩く、階段を上る、走るといった、定期的に繰り返される動きパターンを示す活動について使われる。動き分類についてのさらなる情報は:A. Schnitzer, O. Such, G. Schmitz, "Ein tragbares System F¨ur die Bewegungsanalyse zur Unterst¨utzung des kardiologischen Dauermonitoring", Proceedings DGBMT 2005: Biomedizinische Technik, Band 49, Erg¨anzungsband 2, p.252, ISSN0939-4990で与えられている。この文献はここに参照によって組み込まれる。分類結果に依存して、周期性閾値C0がデータ・ユニット3によって設定される。さらに、患者5が、ユーザー・インターフェース19によって、たとえば療法運動の一部として、どの型の動きを自分が現在実行しているかを述べてもよい。もし該当するなら、カップを持ち上げるまたはドアを開けるといった非周期的な活動が、H Junker, "Human Activity Recognition and Gesture Spotting with Body-Worn Sensors", Hartung-Gorre 2005, p. 37-72に記載されるような分類アルゴリズムを使って、データ・ユニット3によって認識されることができる。この文献はここに参照によって組み込まれる。
【0033】
分類手順は、図4および図5に描かれるような測定データを使う。図4は、歩いているときの患者5の手首のまわりの二つの加速度計6、6′の生の加速度計読み出しを示している。一つのチャネルからの読み出しが示されている。図の上の部分では、右腕の動き21が、図の下の部分では左腕の動き22が示されている。動きの周期性および対称性の両方に留意されたい。図5は、紅茶を飲んでいるときの患者5の手首のまわりの二つの加速度計6、6′の生の加速度計読み出しを示している。はっきり見て取れるように、患者5は右腕を動かすが、左腕は止まっている。この場合、周期性も対称性も観察できない。
【0034】
こうした測定データが、周期的な動きの型(歩く、走るなどといった)を検出するために、データ・ユニット3によって使用される。この目的のため、測定データは二次元加速度計ヒストグラムと比較される。ここで、垂直‐水平の加速の変化が時間の経過とともにプロットされている。換言すれば、センサー測定値間の差が、理想的な動きからの逸脱、たとえば基準パターンとして使われる加速度計ヒストグラムからの逸脱を決定するために使われる。加速度計ヒストグラムは、既知のヒストグラムである、すなわち多数の類似の患者動きを使ってあらかじめ生成され、データ・ユニット3に記憶されているか、あるいは自己生成される、すなわちデータ・ユニット3によって今の患者および/または他の患者の以前の測定データを使って生成されるかのいずれかである。
【0035】
そのような加速度計ヒストグラム23の一例が図6および図7に示されている。これらは二つの動き(この場合、ゆっくり階段を上ることと早く階段を上ること)の分類を示す。エントリーの明るさが、x方向およびy方向の個別的な加速についての加速の変化の大きさを表す。これらの加速度計ヒストグラムから、患者の動きの型がデータ・ユニット3によって決定される。
【0036】
同時に、データ・ユニット3は動きの周期性Cを定量化する(ステップ102)。これは、データ・ユニット3が動きの周期性Cを表す数値的な値を計算することを意味する。
【0037】
次のステップ103では、データ・ユニットは、動きの周期性の値Cが周期性閾値C0を超えるかどうかを検証する。実装されるアルゴリズムに依存して、本発明の別の実施形態では、動きの周期性の値Cが周期性閾値C0に等しいことが十分であることもありうる。周期性閾値C0を超えている場合、すなわち、患者の肢の動き周期的な動きがある場合、データ・ユニット3は、次のステップ104で動きの同時性Sを決定する。
【0038】
周期性閾値C0を超えていない場合、周期的な動きが得られないので、データ・ユニット3は動きの同時性Sを決定しない。
【0039】
データ・ユニット3が動きの同時性Sを決定する場合、同時性閾値S0がデータ・ユニット3によって設定される。同時性閾値S0は、ステップ101の動き分類に依存してデータ・ユニット3によって設定される。たとえば、動き分類によって患者5がある種の動きを実行していることが明らかになる場合、同時性閾値S0は、探索表〔ルックアップ・テーブル〕において定義される、この特定の動きを指す(そして任意的にこの特定の患者5を指す)レベルに設定されることになる。換言すれば、同時性閾値S0についての決定をするときに、分類が考慮に入れられるのである。同じことは、周期性閾値C0についても当てはまる。それも動きの型に依存する。
【0040】
本発明のあるさらなる実施形態では、同期性閾値S0は――少なくとも特定のモニタリング時間以降は――データ・ユニット3によって、以前のおよび/または現在の同期性値Sに依存して動的に適応される。こうして、個別的な患者5の治療進行を考慮に入れることができる。
【0041】
同期性閾値S0が決定されたのち、それはデータ・ユニット3によって測定された実際の同期性の値Sと比較され、所望される同期性に達しているか否かが評価される(ステップ105)。
【0042】
歩くまたは走るといった周期的活動については、患者5の腕が自由に、対称的な振幅をもって振れることが期待される。これは、たとえば鞄を運ぶまたは階段の手すりをつかむときには当てはまらないことがありうる。そこで、これらの型の動きは、非周期的な動きとして分類されて、評価はされない。
【0043】
所望される同期性に達している場合、その後のステップ106で、データ・ユニット3は動きの同期性の値Sを記憶する。代替的には、患者5の実際の動きが期待を満たさない場合、データ・ユニット3は、データ・ユニット3のデータ記憶装置14に同期性の値Sを記憶し、ステップ107で、わかったことについて患者5に通知する。つまり、データ・ユニット3は患者5に、前記時間以降に患者が動きを実行する対称性の度合いについてのフィードバックを与える。こうして、結果を患者5にすぐフィードバックできる。しかしながら、結果は、たとえばデータ記憶装置14に、あるいは外部の中央記憶装置15に記憶され、治療担当者によってオフラインで解析されることもできる。
【0044】
通知は、オーディオおよび/またはビデオの信号発信または対応する肢の機械的/電気的な刺激によって実行されることになる。通知手段25、特にオーディオおよびビデオ信号発信手段は、好ましくは、患者5が身につける、あるいは患者5が携行するデータ・ユニット3に含まれる。そのような信号発信手段はたとえば、スピーカー、数字、点滅ランプ、たとえばLED灯、カラー・インジケータなどを含みうる。
【0045】
本発明を用いて、最初の単純な型のフィードバックが患者5に与えられることができる:単一の肢の全体的な活動が評価される(たとえば24時間にわたる積分)ことができ、たとえば「今日は左側の使用がかなり低いです。ご注意ください」とか「今日は左側の使用が昨日よりかなり多いです。この調子で進むようにしてください」といった形で、患者5へのフィードバックが与えられることができる。これは、かなり安定したレベルのパフォーマンスを有していて、軌道に維持してやればいいだけの患者5にとって好適なアプローチである。
【0046】
しかしながら、動き分類解析は四肢全部について実行されるので、より精巧なフィードバックを与えることもできる:周期的な型の動きについて、対称性解析が実行され、患者5へのフィードバックは、たとえば、「歩く動きを支持するためにもっと積極的に左腕を使うようにしてください」など、個別的になることができる。換言すれば、四肢の非対称的な使用が認識される場合、モニタリング・システム1は患者5にしかるべく思い出させるのである。
【0047】
カップを取り上げたりドアを開けたりといった非周期的な活動については、動きが対称的であると期待することはできない。したがって、そのデータは異なる仕方で扱われなければならない。好ましくは、データ・ユニット3は、患者5が、ドアを開けるなどの活動のために丈夫な側のみを使うことによって、一方の側の弱さを補償するかどうかを評価するよう適応される。そのようなパターンが認識される場合、データ・ユニット3は患者5に、通知手段25によって思い出させる。
【0048】
通知の時間は、実際の患者の動きに依存する。換言すれば、患者5は、ある種の動きの進行または退行については通知されない。たとえば、患者が実際に走るのをやめて今はお茶を飲んでいるとき、走っているときの左腕の活動状態については通知されない。しかしながら、患者5が再び走り始めるとすぐ、しかるべく通知される。
【0049】
データ・ユニット3によって実行されるデータ解析は、個別的な患者5について所望される療法アプローチに依存して、種々のレベルであることができる。データの評価はたとえば、履歴データ(傾向、改善)との比較で、あるいは治療担当者によって定義されているまたは以前のもしくは現在の測定データおよび/または評価結果に依存してデータ・ユニット3によって動的に設定される閾値レベルとの比較で、なされることができる。
【0050】
データは、通常の仕方でなされる並行する療法の結果を評価するために使われることもできる。特に、本発明は、両側トレーニング(bilateral training)および抑制療法(constraint-induced therapy)といった特定の型の理学療法をサポートするために使うこともできる。これは、治療担当者の仕事の結果および品質について、治療担当者にフィードバックを与えることができる。
【0051】
本発明はまた、特に長期の周期的な動きのあるスポーツ(すなわち、ランニングおよび水泳)において、トレーニングを支援し、最適化するために使うこともできる。ここでは、非対称性の解析は、動きパターンを最適化するのを助けることができる(これは現在はルームランナー上で、およびビデオ解析を用いてなされている)。トレーニングの際の非対称性の発達は、傷害(たとえば過剰使用/疲労に起因する)の早期の指標ともなりうる。
【0052】
適用経路(application paths)のいくつかは、データのオフライン解析(たとえばパソコンまたはノートブックでの)を必要とし、理学療法士による専門的な支援に関わることになり、よってそれぞれのインフラストラクチャーを必要とすることになる。この場合、データ・ユニットの機能は外部のオフライン解析ユニット26によって実装される。
【0053】
本発明が上記の例示的な実施形態の詳細に限定されるものではないこと、本発明がその精神または本質的な属性から外れることなく他の個別的な形態で具現されてもよいことは当業者には明らかであろう。したがって、本稿の実施形態はあらゆる観点において、制限的ではなく例示的であると考えられるべきであり、本発明の範囲は以上の記述ではなく付属の請求項によって示される。請求項の意味および等価の範囲内にはいるあらゆる変更は、本発明に含まれることが意図されている。さらに、「有する」の語が他の要素やステップを排除するものではないこと、「ある」の語が複数を排除しないこと、コンピュータ・システムまたはその他のユニットといった単一の要素が請求項に記載されているいくつかの手段の機能を果たしてもよいことも明らかであろう。請求項に参照符号があったとしても、当該請求項を限定するものと解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に基づくシステムを身につけているユーザーを示す概略図である。
【図2】本発明に基づくシステム構成要素を示す概略図である。
【図3】本発明に基づく方法の簡略化されたフローチャートである。
【図4】患者がお茶を飲んでいるときのセンサー読み出しを示す図である。
【図5】患者が歩いているときのセンサー読み出しを示す図である。
【図6】第一の加速度計ヒストグラムを示す図である。
【図7】第二の加速度計ヒストグラムを示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 モニタリング・システム
2 測定ユニット
3 データ・ユニット
4 バッテリー
5 患者
6 加速度計
7 患部の肢
8 健常な肢
9 加速度計
10 (欠番)
11 データ通信設備
12 データ通信設備
13 データ・ケーブル
14 データ記憶装置
15 外部の中央記憶装置
16 無線通信回線
17 処理手段
18 コンピュータ・プログラム
19 ユーザー・インターフェース
20 (欠番)
21 右腕の動き
22 左腕の動き
23 加速度計ヒストグラム
24 加速度計ヒストグラム
25 通知手段
26 外部の解析ユニット
100〜106 方法のステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肢の機能的使用をモニタリングする方法であって:
・モニタリングされる患者によって少なくとも一部が携行される測定ユニットを使って、動きデータの恒常的かつ監督されない測定を実行し、
・前記動きデータを解析し、
・前記動きの周期性Cを判別し、
・前記動きの周期性Cに依存して前記動きの同期性Sを判別し、
・前記動きの同期性の値Sを保存し、および/またはわかったことについて前記患者に通知する、
ステップを有する方法。
【請求項2】
動きデータを解析する前記ステップが患者の動きを分類することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記の動きの分類に依存して周期性閾値C0が設定される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
動きの同期性Sが、動きの周期性の値Cが周期性閾値C0を超える場合にのみ決定される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記の動きの分類に依存して同期性閾値S0が設定される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
同期性閾値S0が先行するおよび/または現在の同期性の値Sに依存して動的に適応される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
動きの同期性Sが同期性閾値S0と比較され、動きの同期性の値Sが同期性閾値S0を下回る場合に患者が通知される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
通知の種類が判別された同期性の値Sに依存する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
通知時間が実際の患者の動きに依存する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
肢の機能的使用をモニタリングするシステムであって、モニタリングされる患者によって少なくとも一部が携行され、動きデータの恒常的かつ監督されない測定を実行するよう適応された測定ユニットと、データ・ユニットとを有しており、前記データ・ユニットは:
・前記動きデータを解析し、
・前記動きの周期性Cを判別し、
・前記動きの周期性Cに依存して前記動きの同期性Sを判別し、
・前記動きの同期性の値Sを保存し、および/または前記判別の結果について前記患者に通知する、
よう適応されている、システム。
【請求項11】
前記測定ユニットがいくつかの慣性センサー、好ましくは加速度計および/または磁気計を含む、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
コンピュータにおいて実行されるときに、モニタリングされる患者によって少なくとも一部が携行される測定ユニットによって実行される恒常的かつ監督されない測定の際に得られた動きデータを使って四肢の機能的使用をモニタリングするコンピュータ・プログラムであって:
・前記動きデータを解析するためのコンピュータ命令と、
・前記動きの周期性Cを判別するためのコンピュータ命令と、
・前記動きの周期性Cに依存して前記動きの同期性Sを判別するためのコンピュータ命令と、
・前記動きの同期性の値Sを保存し、および/またはわかったことについて前記患者に通知するためのコンピュータ命令とを有する、
コンピュータ・プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−538636(P2009−538636A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557884(P2008−557884)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際出願番号】PCT/IB2007/050775
【国際公開番号】WO2007/102134
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】