説明

四重極型質量分析装置およびイオン電流測定方法

【課題】質量電荷比ごとにイオン電流の測定範囲を調整するのに要する時間を削減し、測定時間の短縮を図る。
【解決手段】イオン電流の測定値とともに該イオン電流測定範囲を質量電荷比ごとにメモリ5に記録し、該記録に基づいて、イオン電流値の昇順または降順で各質量電荷比についてのイオン電流測定を行うとともに各質量電荷比についてのイオン電流測定範囲を設定するCPU4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四重極型質量分析装置およびイオン電流測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、四重極型の質量分析装置は、真空中に存在するガスの種類およびガス種ごとの分圧を計測する装置として知られており、分析管の内部に、イオン源部、四重極部およびイオン検出部を備えている。四重極型質量分析装置の動作を簡単に説明すれば、まず分析管の先端から分析対象のガスを導入する。次いで、イオン源部が、フィラメントで生成された熱電子により、導入されたガスの分子をイオン化する。次いで、四重極部が、直流電圧および交流電圧による電場を4本のロッド(電極)に加え、イオン源部から入射されたイオンのうち特定の質量電荷比(質量数/電荷数)を持つイオンのみを通過させる。次いで、イオン検出部が、四重極部を通過したイオンをイオン電流として検出する。これにより、四重極部で印加する電場をスイープさせて質量電荷比ごとのイオン電流値(イオン強度を表す)を測定し、質量電荷比対イオン強度を示すマススペクトルを得ることができる。分析対象ガス中のガスの種類およびガス種ごとの分圧は、マススペクトルから得ることができる。
【0003】
一般的に、四重極型質量分析装置が扱う分析対象ガスのマススペクトルにおけるイオン強度は、イオン電流値に換算して1×10−5〜1×10−14アンペアの広範囲にある。このため、例えば、特許文献1、2記載の従来技術では、複数のゲインに切り替え可能な増幅器を設け、質量電荷比ごとにゲインを調整しながらイオン電流値を測定することにより測定範囲の拡大を図っている。
【特許文献1】特開2000−299084号公報
【特許文献2】特許第3675047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術では、イオン電流値を測定する際に質量電荷比ごとのゲイン調整に時間がかかり、その結果として測定時間が長くなる。
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、質量電荷比ごとにイオン電流の測定範囲を調整するのに要する時間を削減し、測定時間の短縮を図ることのできる四重極型質量分析装置およびイオン電流測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明に係る四重極型質量分析装置は、分析対象ガス中のガスの分子をイオン化し、該イオンのうち特定の質量電荷比を持つイオンをイオン電流として検出し、該イオン電流値を測定する四重極型質量分析装置において、前記イオン電流の測定値とともに該イオン電流測定範囲を質量電荷比ごとに記録する記録手段と、該記録に基づいて、イオン電流値の昇順または降順で各質量電荷比についてのイオン電流測定を行うとともに各質量電荷比についてのイオン電流測定範囲を設定する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明に係るイオン電流測定方法は、四重極型質量分析装置を用いて、分析対象ガス中のガスの分子をイオン化し、該イオンのうち特定の質量電荷比を持つイオンをイオン電流として検出し、該イオン電流値を測定する方法であって、前記イオン電流の測定値とともに該イオン電流測定範囲を質量電荷比ごとに記録し、該記録に基づいて、イオン電流値の昇順または降順で各質量電荷比についてのイオン電流測定を行うとともに各質量電荷比についてのイオン電流測定範囲を設定することを特徴とする。
【0007】
上述の本発明に係る構成によれば、測定対象の質量電荷比を切り替えたときに、イオン電流値の変化が少なくなるとともにイオン電流値に合ったイオン電流測定範囲が設定されるので、イオン電流測定範囲を変更する回数が少なくて済むようになる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、質量電荷比ごとにイオン電流の測定範囲を調整するのに要する時間を削減し、測定時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る四重極型質量分析装置の構成を示すブロック図である。図1において、分析管1は、真空装置(図示せず)における真空槽内に設けられ、真空槽内の真空中に存在するガスを分析対象とする。分析管1は、その内部に、イオン源部、四重極部およびイオン検出部(いずれも図示せず)を備えている。イオン源部は、フィラメントを有し、フィラメントで生成された熱電子により、分析管1の先端から導入されたガスの分子をイオン化する。四重極部は、4本のロッド(電極)を有し、直流電圧および交流電圧による電場を4本のロッドに加え、イオン源部から入射されたイオンのうち特定の質量電荷比(質量数/電荷数)を持つイオンのみを通過させる。イオン検出部は、四重極部を通過したイオンをイオン電流として検出する。イオン検出部で検出されたイオン電流は、イオン電流検出器2に出力される。
【0010】
イオン電流検出器2は、イオン電流の電流値を表す信号100を出力する。A/D変換器3は、イオン電流検出器2から出力された信号100をデジタル信号に変換する。このイオン電流値を表すデジタル信号はCPU(中央演算処理装置)4に入力される。
【0011】
CPU4は、四重極型質量分析装置の各部を制御する機能を実現する制御プログラムを実行することにより、四重極型質量分析装置の各部の制御を行う。メモリ5は、CPU4で実行されるプログラムおよび各種データを記憶する。CPU4は、メモリ5にアクセスし、データの読み出し及び書込みを行うことができる。
【0012】
CPU4は、特定の質量電荷比に対応する基準信号のデジタル信号を出力する。D/A変換器6は、CPU4から出力されたデジタル信号(基準信号)をアナログ信号(基準信号)に変換する。D/A変換器6から出力された基準信号は、直流電圧増幅器7および比較器8に入力される。直流電圧増幅器7は、基準信号を所定倍率に増幅する。
【0013】
比較器8は、基準信号と検波器9から出力された検波信号とを比較し、該2つの信号が等しくなるように変調器11を制御する。発振器10は基準交流信号を作成する。変調器11は、基準交流信号に対して、比較器8の制御の下で振幅変調を行う。交流電圧増幅器12は、振幅変調信号を所定倍率に増幅する。同調器13は、交流電圧増幅器12から出力された信号に対して、同調動作を行う。
【0014】
直流電圧増幅器7の出力信号と交流電圧増幅器12の出力信号は重畳され、この重畳信号が分析管1に入力される。その直流電圧増幅器7の出力信号が有する直流電圧成分と同調器13の出力信号が有する高周波電圧成分との重畳電圧が四重極部の4本のロッドに印加される。
【0015】
検波器9は、分析管1に入力される重畳信号が有する高周波電圧成分の一部を整流し、検波信号として出力する。そして、比較器8が該検波信号を基準信号に合わせるように変調器11を制御することにより、所望の振幅変調が得られるような負帰還制御を行う。これにより、重畳電圧中の高周波電圧成分の振幅が基準信号に正確に比例するようになる。
【0016】
分析管1内部の四重極部は、分析管1に入力された重畳信号の電圧(重畳電圧)を4本のロッドに加える。これにより、イオン源部から入射されたイオンのうち、基準信号に対応する特定の質量電荷比を持つイオンのみが四重極部を通過する。
【0017】
また、CPU4は、イオン電流検出器2を制御するための制御信号110を出力する。制御信号110は、イオン電流の測定範囲を指示する信号である。
【0018】
図2は、図1に示すイオン電流検出器2の一実施例を示す電気回路図である。この実施例では、オペアンプを用いた電流−電圧変換回路を利用し、イオン電流値を表す電圧値の信号100を出力する。
【0019】
図2において、オペアンプ21の非反転入力端子は接地されている。オペアンプ21の反転入力端子は、入力抵抗R0と複数(n個)の帰還回路22−1〜nに接続されている。オペアンプ21の出力端子は、図1中のA/D変換器3の入力端子およびスイッチSWのA端子に接続されている。n個の帰還回路22−1、2、・・・、nは、それぞれに、一つの抵抗R1、R2、・・・、Rnと一つのコンデンサC1、C2、・・・、Cnとを並列接続して構成される。抵抗R1〜Rnは、電流−電圧変換の変換倍率を決定する。コンデンサC1〜Cnは、発振防止用の容量を有する。帰還回路22−1、2、・・・、nの一端は、オペアンプ21の反転入力端子に接続される。帰還回路22−1、2、・・・、nのもう一端は、スイッチSWのn個のB端子(B−1、2、・・・、n)に、それぞれ接続される。スイッチSWは、制御信号110に従って、A端子に接続するB端子を切り替える。このスイッチSWによるA−B端子間の接続の切り替えによって、n個の帰還回路22−1〜nのうち、いずれか一つの帰還回路が使用される。
【0020】
図2に示すイオン電流検出器2の出力信号100の電圧値は、イオン電流値を表す。従って、出力信号100の電圧値を測定すれば、イオン電流値を知ることができる。
【0021】
ここで、図2の実施例におけるイオン電流の測定範囲について説明する。
イオン電流検出器2において、イオン電流値が同じ場合には、帰還回路の抵抗値に比例して出力信号100の電圧値は変わる。従って、帰還回路の抵抗値を変えることによって、イオン電流の測定倍率を変更し、イオン電流の測定範囲を変えることができる。このことから、n個の帰還回路22−1、2、・・・、nの抵抗R1、R2、・・・、Rnは、それぞれ異なる測定範囲に対応した抵抗値を有するようにする。そのn個の抵抗値の決定方法としては、まず、イオン電流値のとり得る範囲をn個の範囲に分割する。そして、分割された一つ一つの範囲をそれぞれ一測定範囲とし、n個の測定範囲を決定する。そして、n個の測定範囲にそれぞれ対応するn個の抵抗値を決定する。この抵抗値は、図1中のA/D変換器3の電圧入力範囲に適合させるように求める。これにより、n個の帰還回路22−1〜nによって、イオン電流値のとり得る範囲を全て網羅するn個の測定範囲を実現することができる。そして、イオン電流値に適当な測定範囲に対応する帰還回路を使用することによって、適切なイオン電流測定を行うことができる。
【0022】
次に、図2の実施例におけるイオン電流検出器2の時定数について説明する。
イオン電流検出器2の時定数は、オペアンプ21の入力容量および帰還回路のコンデンサ容量の合計と帰還回路の抵抗値とから決まる。そして、帰還回路の抵抗値が大きくなるほど、つまり、イオン電流測定範囲の電流値が小さいほどに、時定数は大きくなる。そのイオン電流検出器2の時定数は、イオン電流の測定範囲の変更に要する時間に相当する。例えば、ある帰還回路の抵抗値が1×1012オームであり、オペアンプ21の入力容量および当該帰還回路のコンデンサ容量の合計が1ピコファラドである場合、時定数は1秒になる。従って、当該帰還回路に対応する測定範囲に変更する場合には、1秒を要することになる。
【0023】
図1に示す四重極型質量分析装置を用いて分析対象ガス中のガスの種類およびガス種ごとの分圧を測定する際には、質量電荷比ごとにイオン電流の測定範囲を変更し適切な測定範囲に調整しながら、質量電荷比ごとのイオン電流値を測定する。このため、イオン電流の測定範囲の調整に要する時間を削減することができれば、分析対象ガスに係る測定時間を短縮することができる。この目的達成のために本実施形態では、CPU4が、後述するイオン電流測定処理を行うことにより、質量電荷比ごとに適切なイオン電流測定範囲をイオン電流検出器2に設定する。イオン電流検出器2に対するイオン電流測定範囲の設定は、制御信号110を用いて行われる。
【0024】
図3および図4は、図1に示すCPU4が行うイオン電流測定処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態に係るイオン電流測定処理は、図3に示される初回測定手順と、図4に示される2回目以降の測定手順とから成る。
【0025】
はじめに図3を参照して、CPU4が行う初回測定手順を説明する。図3において、まずステップS1では、初回の測定順序として、測定対象の複数の質量電荷比について、どのような順番で質量電荷比ごとのイオン電流値を測定するのかを定める。初回の測定順序は任意に決定してよい。例えば、質量電荷比の昇順に初回の測定順序を設定する。なお、測定対象の複数の質量電荷比は、メモリ5に記憶されている。
【0026】
次いで、ステップS2では、初回の測定順序に従って、測定対象として一つの質量電荷比を設定する。次いで、ステップS3では、その設定された質量電荷比用のイオン電流測定範囲の初期値を設定する。イオン電流測定範囲の初期値は任意でよい。イオン電流測定範囲の設定値は、図2中のスイッチSWのn個のB端子(B−1、2、・・・、n)に、一対一で対応付けられている。なお、イオン電流測定範囲の設定値(n個)は、メモリ5に記憶されている。
【0027】
イオン電流測定範囲が設定されると、当該設定値の制御信号110がCPU4から出力される。イオン電流検出器2は、制御信号110の設定値通りに、スイッチSWのA−B端子間を接続する。これにより、CPU4で設定されたイオン電流測定範囲に対応する帰還回路がイオン電流検出器2において使用され、CPU4の設定通りのイオン電流測定範囲が実現される。
【0028】
次いで、ステップS4では、当該測定対象の質量電荷比についてのイオン電流測定を開始する。これにより、当該測定対象の質量電荷比に対応する基準信号のデジタル信号がCPU4から出力される。そして、当該測定対象の質量電荷比に係るイオン電流が分析管1からイオン電流検出器2に入力され、当該測定対象の質量電荷比に係るイオン電流値を表す信号100がイオン電流検出器2から出力される。CPU4は、その信号100のデジタル信号をA/D変換器3から受け取る。CPU4は、信号100のデジタル信号および当該イオン電流測定範囲に基づいて、当該測定対象の質量電荷比についてのイオン電流の測定値を得る。このイオン電流の測定には、イオン電流検出器2における当該イオン電流測定範囲に対応する帰還回路に係る時定数の時間を要する。
【0029】
なお、信号100のデジタル信号からイオン電流値を得る方法としては、例えば、信号100のデジタル信号値とイオン電流値の対応表をイオン電流測定範囲ごとにメモリ5に保持しておき該対応表から得る方法、或いは、信号100のデジタル信号値からイオン電流値を算出する計算式をイオン電流測定範囲ごとにメモリ5に保持しておき該計算式を用いて算出する方法などが挙げられる。
【0030】
次いで、ステップS5では、当該測定値を飽和判定閾値と比較し、当該測定値が飽和判定閾値以上である場合にはステップS6に進み、当該測定値が飽和判定閾値未満である場合にはステップS7に進む。飽和判定閾値は、イオン電流測定範囲の上限値であり、イオン電流測定範囲ごとに設けられる。測定値が飽和判定閾値以上であるときは、当該測定値が当該測定範囲の上限を超えている可能性がある。このため、ステップS6に進み、測定範囲の電流値が大きくなるようにイオン電流測定範囲を1段階上げる。
【0031】
ステップS6では、イオン電流測定範囲として、測定範囲の電流値が大きくなるように、現在の設定値から1段階上げた設定値を設定する。これにより、当該設定値の制御信号110がCPU4から出力され、イオン電流検出器2において制御信号110の設定値通りにスイッチSWのA−B端子間が接続されることにより、CPU4で設定されたイオン電流測定範囲に対応する帰還回路が使用され、CPU4の設定通りの1段階上がったイオン電流測定範囲が実現される。
【0032】
ステップS7では、当該測定値を下限判定閾値と比較し、当該測定値が下限判定閾値以下である場合にはステップS8に進み、当該測定値が下限判定閾値超過である場合にはステップS9に進む。下限判定閾値は、イオン電流測定範囲の下限値であり、イオン電流測定範囲ごとに設けられる。測定値が下限判定閾値以下であるときは、当該測定値が当該測定範囲の下限を下回っている可能性がある。このため、ステップS8に進み、測定範囲の電流値が小さくなるようにイオン電流測定範囲を1段階下げる。
【0033】
ステップS8では、イオン電流測定範囲として、測定範囲の電流値が小さくなるように、現在の設定値から1段階下げた設定値を設定する。これにより、当該設定値の制御信号110がCPU4から出力され、イオン電流検出器2において制御信号110の設定値通りにスイッチSWのA−B端子間が接続されることにより、CPU4で設定されたイオン電流測定範囲に対応する帰還回路が使用され、CPU4の設定通りの1段階下がったイオン電流測定範囲が実現される。
【0034】
ステップS9では、当該測定値および当該イオン電流測定範囲を当該測定対象の質量電荷比の測定データとしてメモリ5に記録する。この記録されるデータは、測定値が下限判定閾値よりも大きく且つ飽和判定閾値未満であるという測定範囲閾値条件を満足するものである。この測定範囲閾値条件は、イオン電流の適切な測定を実現する。
【0035】
次いで、ステップS10では、初回の測定が測定順序の最後まで完了したか否かを判断する。測定対象の全ての質量電荷比についてのイオン電流測定が完了した場合には、図3の初回測定手順を終了する。一方、まだイオン電流測定が終わっていない質量電荷比がある場合には、ステップS2に戻り、測定順序に従って次の質量電荷比についてのイオン電流測定処理を行う。
【0036】
上述の初回測定手順が終了すると、測定対象の全ての質量電荷比についての測定データ(イオン電流測定値およびイオン電流測定範囲)がメモリ5に記録される。
【0037】
次に図4を参照して、CPU4が行う2回目以降の測定手順を説明する。図4において、まずステップS21では、今回の測定順序として、測定対象の複数の質量電荷比について、どのような順番で質量電荷比ごとのイオン電流値を測定するのかを定める。2回目以降の測定順序は、イオン電流測定値の記録に基づいて決定する。メモリ5には、測定対象の全ての質量電荷比についてのイオン電流測定値が記録されている。この質量電荷比ごとのイオン電流測定値の記録に基づいて、イオン電流値の昇順または降順に、各質量電荷比の測定順序を設定する。
【0038】
次いで、ステップS22では、今回の測定順序に従って、測定対象として一つの質量電荷比を設定する。次いで、ステップS23では、その設定された質量電荷比用のイオン電流測定範囲を設定する。2回目以降の測定におけるイオン電流測定範囲は、測定対象の質量電荷比についてのイオン電流測定範囲の記録に基づいて決定する。メモリ5には、測定対象の全ての質量電荷比についてのイオン電流測定範囲が記録されている。この質量電荷比ごとのイオン電流測定範囲の記録に基づいて、当該測定対象の質量電荷比についてのイオン電流測定範囲の記録と同じ測定範囲を設定する。
【0039】
イオン電流測定範囲が設定されると、当該設定値の制御信号110がCPU4から出力され、イオン電流検出器2において制御信号110の設定値通りにスイッチSWのA−B端子間が接続されることにより、CPU4で設定されたイオン電流測定範囲に対応する帰還回路が使用され、CPU4の設定通りのイオン電流測定範囲が実現される。このイオン電流測定範囲は、前回の測定において測定範囲閾値条件を満足している。
【0040】
次いで、ステップS24では、当該測定対象の質量電荷比についてのイオン電流測定を開始する。これ以降のステップS24〜S29は、図3のステップS4〜S9と同じであり、その説明を省略する。次いで、ステップS30では、2回目以降の測定が完了したか否かを判断する。2回目以降の測定が完了した場合には、図4の測定手順を終了する。一方、まだ2回目以降の測定が全て終わっていない場合には、ステップS21に戻って測定順序を設定し直し、次の測定を行う。
【0041】
上述の2回目以降の測定手順では、メモリ5に記録された各質量電荷比についての測定データ(イオン電流測定値およびイオン電流測定範囲)に基づいて、イオン電流値の昇順または降順で各質量電荷比についてのイオン電流測定を行うとともに、各質量電荷比についてのイオン電流測定範囲を該記録と同じ測定範囲に設定してから、各質量電荷比についてのイオン電流測定を開始する。これにより、測定対象の質量電荷比を切り替えたときに、イオン電流値の変化が少なくなるとともにイオン電流値に合ったイオン電流測定範囲が設定されるので、イオン電流測定範囲を変更する回数が少なくて済むようになる。これにより、本実施形態によれば、質量電荷比ごとにイオン電流の測定範囲を調整するのに要する時間を削減することができるようになり、測定時間の短縮を図ることができるという効果が得られる。
【0042】
本実施形態に係る測定時間の短縮効果について具体例を挙げて説明する。
[表1]は、図2のイオン電流検出器2におけるイオン電流測定範囲ごとの回路定数(帰還回路の抵抗値(単位はオーム:Ω)、帰還回路のコンデンサ容量(単位はファラド:F)、時定数(単位は秒))を示す。なお、表1中のイオン電流測定範囲の欄には、測定範囲中の代表の電流値(単位はアンペア:A)を記している。[表2]は、測定対象の質量電荷比(m/z)ごとのイオン電流値(単位はアンペア)を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
[表3]は、表1、2の条件において、従来通りに質量電荷比の昇順で測定を行った場合に、イオン電流測定範囲の切り替えに要した時間(切替時間(単位は秒))を示す。例えば、表3において、測定順序1番の質量電荷比「2」から測定順序2番の質量電荷比「12」に切り替えた場合、イオン電流値は「1.0×10−8」から「1.0×10−12」に変わるために、イオン電流測定範囲は「1.0×10−8」の測定範囲から「1.0×10−12」の測定範囲まで4段階上げなければならない。このときの切替時間の合計は、「1.0×10−9」、「1.0×10−10」、「1.0×10−11」および「1.0×10−12」の各測定範囲の時定数を合計した値であり、1.7秒になる。このようにして、測定順序1番から6番その後1番までの各質量電荷比に切り替えたときの切替時間を求め、その総切替時間を算出すると、3.32秒となる。
【0046】
[表4]は、表1、2の条件において、本実施形態の2回目以降の手順で測定を行った場合に、イオン電流測定範囲の切り替えに要した切替時間(単位は秒)を示す。この表4の場合、測定順序はイオン電流値の降順になっている。このため、測定順序に従って質量電荷比を切り替えると、イオン電流測定範囲の変化は少ない。表4の場合、測定順序1番から6番までの各質量電荷比に切り替えたときのイオン電流測定範囲の変化は、全て1段階である。このため、その切替時間は短い。そして、表4における測定順序1番から6番その後1番までの各質量電荷比に切り替えたときの総切替時間は2.41秒であり、従来方法の表4の結果に比して大きく時間短縮される。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
また、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
四重極型質量分析装置を用いた動作方法の一つに選択イオンモニタリング(Selected Ion Monitoring;SIM)が知られている。選択イオンモニタリングとは、特定の質量電荷比のイオンを連続的に検出する動作である。例えば、対象のプロセスを管理する上で着目すべきガス種に対応する質量電荷比をいくつか選定し、その選定された質量電荷比のイオン電流値の経時変化を測定しデータを蓄積する動作である。その選択イオンモニタリングにおいて、イオン電流測定範囲の切り替えによる遅延時間を少なくすることができ、測定応答時間が短縮されるので、高速な反応過程の解析などの性能向上を図ることができる。例えば、特定のガス種の分圧が上昇するといったプロセスにおける異常が発生していない状態において測定速度を早くすることができ、その結果として異常を応答性良く把握することができるようになる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、イオン電流検出器として、前段に対数増幅アンプ、そして後段に直流増幅アンプを備えた構成を採用しても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る四重極型質量分析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すイオン電流検出器2の一実施例を示す電気回路図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るイオン電流測定処理の初回測定手順を示すフローチャートである。
【図4】同実施形態に係るイオン電流測定処理の2回目以降の測定手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
2…イオン電流検出器、4…CPU、5…メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象ガス中のガスの分子をイオン化し、該イオンのうち特定の質量電荷比を持つイオンをイオン電流として検出し、該イオン電流値を測定する四重極型質量分析装置において、
前記イオン電流の測定値とともに該イオン電流測定範囲を質量電荷比ごとに記録する記録手段と、
該記録に基づいて、イオン電流値の昇順または降順で各質量電荷比についてのイオン電流測定を行うとともに各質量電荷比についてのイオン電流測定範囲を設定する制御手段と、
を備えたことを特徴とする四重極型質量分析装置。
【請求項2】
四重極型質量分析装置を用いて、分析対象ガス中のガスの分子をイオン化し、該イオンのうち特定の質量電荷比を持つイオンをイオン電流として検出し、該イオン電流値を測定する方法であって、
前記イオン電流の測定値とともに該イオン電流測定範囲を質量電荷比ごとに記録し、
該記録に基づいて、イオン電流値の昇順または降順で各質量電荷比についてのイオン電流測定を行うとともに各質量電荷比についてのイオン電流測定範囲を設定する、
ことを特徴とするイオン電流測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−282661(P2008−282661A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125591(P2007−125591)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】