説明

回折型光学部品およびその設計方法

【課題】 複雑なパターンを作り出すような回折型光学部品は未だない。複雑なパターンを作り出すのに好適なDOEの設計方法を与える。
【解決手段】 目的画像を表現する信号関数とDOE関数の間をフーリエ変換と逆フーリエ変換により繰り返し計算する反復フーリエ変換法において、像面に於いて中央部の矩形部分を信号領域とし、その外部は周辺部として、信号領域へ回折された光量の全体の光量に対する比率をエネルギー効率ηとし、予め閾値ηを与え、周辺部で、η≧ηのときは、制約関数をフーリエ変換関数そのものとし、η<ηのときは、1より小さい定数をフーリエ変換関数に掛けたものを制約関数とし、制約関数を逆フーリエ変換してDOE側の逆フーリエ変換関数を求めそれにDOE側の制約を課してDOE関数を得て、DOE関数に入力関数を掛けた積をフーリエ変換する計算を繰り返す反復フーリエ変換によってDOE関数を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回折型光学部品とその設計方法に関する。光学技術の分野では、レンズやプリズム、ミラーのような屈折型、反射型光学部品が主に用いられてきた。近年微細加工技術の進展によって、回折現象を利用した回折型光学素子(Diffractive Optical Element;DOE)に関する関心が高まってきた。DOEは光の回折現象を利用し入射波面を別の波面に変換する光学素子である。
【0002】
DOEは回折を利用する光学素子であるから、波動光学的解析と設計を用いてDOEの表面微細構造パターンを設計する。従来はレンズなどの単純な光学素子をDOEで作製するというような単純なものが多くそれらは実用化されているものもある。
【0003】
DOEは本来もっと高い柔軟性を有するもので、従来の反射・屈折型光学素子では実現できなかった複雑な機能を果たす光学素子をも提供することができる。表面レリーフによる位相型の素子とすることによって高い回折効率を実現することができる。
【0004】
レーザ加工の分野においては、ガウス分布強度のレーザビームを均一な強度分布に変換するビームホモジナイザー(beam homogenizer)、そのほかの単純な強度分布に変換するビームシェーパー(beam shaper)や単一ビームを複数のビームに分岐するビーム分岐素子(array generator)を回折型光学部品によって構成する研究が行われている。
【0005】
計算機による最適化をベースとした設計アルゴリズムの発展と、計算機能力の向上、表面レリーフ型の位相型DOEの製造技術の進歩により、これまでの単純なビーム形状の変換、強度分布の変換というものだけでなく、プリント配線パターンのような複雑な形状の強度分布を発生するように最適化されたテーラード回折光学部品が実用化される可能性がでてきた。
【0006】
本発明は、ピクセル数が多く複雑な強度分布を発生するビームシェーパーや複雑な分岐ビームを生成するビーム分岐DOEの新規な設計方法を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0007】
DOEは透明な材料の表面を微小な画素(ピクセル)に区切ってその高さ(厚み)を何通りかの高さに加工して表面に凹凸を形成したものである。表面に凹凸があるのでその部分を通る光の位相が変化する。透過率の絶対値は一定であるが位相が変わるので位相型という。
【0008】
図1にビームシェーパーの構成例を示す。入射ビームはレーザビームである。レーザから出射したそのままのものを使っても良いしコリメータレンズ、拡大レンズなどでビーム径を拡大あるいは縮小してもよい。平行ビームでありガウシアン強度分布をしているという仮定をしている。だからガウシアン強度分布を図示している。入射ビーム光の伝搬方向はz方向である。だから光軸に直角のxy平面での分布が問題になる。入射ビームの波動関数のうちz方向の振動項を除いたxy振幅関数が重要である。これは入射ビーム関数(入力関数)uin(x,y)とする。
【0009】
そのような分布を持つ平行ビームが回折型光学部品(DOE)に到る。入射面は平坦であるが出射面にはピクセルごとに高さが異なっている。そのためにDOEを通過することによって波動関数が変化する。DOEによる変化分のうちz方向の振動項を除いたxy面の関数をDOE複素振幅透過率関数(DOE関数)t(x,y)で表現する。するとDOEを出た直後の光波動関数の(x,y)面での値はuin(x,y)t(x,y)となる。
【0010】
ピクセル毎に高さが違うので平行ビームはDOEによって回折される。DOEから像面までの回折の作用をオペレータp(L)によって表現する。回折によって光は像面に所望のパターンを描く。図面では像面の出力像はほぼ均一の強度をもつ準均一ビームを例示しているがそれは一例であって任意の所望の出力パターンを目的とすることができる。z方向の伝搬関数を除いた出力像面での光の複素振幅をuout(x,y)とする。像面での関数は
【0011】
out(x,y)=p(L)t(x,y)uin(x,y) (1)
【0012】
となる。(1)式の左右の(x,y)は同じものでない。像面複素関数uout(x,y)の2次元変数x、yと、DOE面における二次元変数x,yは異なるものであることに注意すべきである。
【0013】
図2にそのような複素振幅関数の定義を示す。像面にできる出力光の複素振幅はuout(x,y)であるが、それは目的とする像面複素振幅ではない。目的とする像面での光の複素振幅をusig(x,y)とする。回折作用p(L)はフラウンホーファー回折(フーリエ変換)、フレネル回折、レイリー・ゾンマーフェルト回折、平面波展開法などを意味する。それぞれ長所と短所があり、DOEの仕様に応じて設計者が各手法の適用条件、計算精度などを考慮の上、いずれかを選択する。いずれの手法をつかっても回折p(L)と逆変換p−1(L)の組み合わさった循環計算のことを反復フーリエ変換アルゴリズム(IFTA)と呼ぶことができる。後に述べる実施例ではすべて平面波展開法によって回折計算をする。以後p(L)は簡単にフーリエ変換と表現するが上記のようにさまざまの手法を含んだ表現である。
【0014】
そうなると入射光の複素振幅振幅uin(x,y)は決まっているので、DOE関数t(x、y)だけが未知関数ということになる。目的となる像面関数usig(x,y)を与えてDOE関数t(x,y)を求めることがDOEの設計ということである。目的像関数を信号関数usig(x,y)と呼ぶ。さまざまな複素振幅関数がでてくるのでここで簡単な名称をつけることにする。
【0015】
in(x,y) 入力関数
t(x,y) DOE関数
t’(x,y) 逆フーリエ変換関数
U(x,y) フーリエ変換関数
U’(x,y) 制約関数
out(x,y) 出力関数
sig(x,y) 信号関数
p(L) 回折オペレータ
【0016】
出力関数と信号関数の(x,y)と、入力関数とDOE関数の(x,y)とは異なるものである。出力関数は、入力関数とDOE関数を掛けてp(L)を作用させることによって求められる。信号関数と出力関数が合致すれば設計ができたということである。しかしなかなか出力関数は信号関数に一致しない。それで反復して計算することになる。DOEの設計には反復フーリエ変換が用いられる。回折のオペレータp(L)がフーリエ変換なので回折(フーリエ変換)と逆回折(逆フーリエ変換)を組み合わせて何度も何度も計算して出力関数が信号関数へ近づくようにする。
【0017】
図3は反復フーリエ変換法によるDOEの設計アルゴリズムを示す。四辺形の隅にDOE関数t(x,y)、フーリエ変換関数U(x,y)、制約関数U’(x,y)、逆フーリエ変換関数t’(x,y)がある。これらが順に並んでいる。t(x,y)からU(x,y)がフーリエ変換である。U’(x,y)からt’(x,y)が逆フーリエ変換である。上の掛け算の記号は入力関数uin(x,y)をDOE関数t(x,y)に掛けるということである。
【0018】
右下にあるのが像面に形成したい目的とする信号関数usig(x,y)である。これが制約関数U’(x,y)に入力される。逆フーリエ変換を行い逆フーリエ変換関数t’(x,y)を得る。これにDOE側で必要な制約を課す。これが初期DOE関数t(x,y)となる。DOE関数に入力関数uin(x,y)を掛けるとDOEの直後の振幅関数になる。回折現象はフーリエ変換にあたるのでそれをフーリエ変換してフーリエ変換関数U(x,y)を得る。これは像面側での回折光の振幅であるがここで像面側での制約をU(x,y)に課す。
【0019】
制約をどのようにするかということは設計者が決めることができる。像面側での制約関数U’(x,y)が得られる。これは像面側での目的となる信号関数usig(x,y)とは違う。フーリエ変換と逆フーリエ変換だけをしていたならばもとの関数に戻る筈であるが、途中で入力関数uin(x,y)を掛けているからもとの関数には戻らない。またDOEの制約と像面側の制約を課しているから像面制約関数U’(x,y)は目的となる信号関数usig(x,y)からさらに離れる。
【0020】
像面制約関数U’(x,y)を信号関数usig(x,y)に近づけるためにこのサイクルを何度も何度も繰り返し実行する。それによってDOE制約と像面側制約を満足しつつほぼ信号関数usig(x,y)に十分近い像面制約関数U’(x,y)が得られるようになる。
【0021】
逆フーリエ変換、フーリエ変換よりなるサイクルを行う毎にDOE関数t(x,y)が少しずつ変化してゆく。像面制約関数U’(x,y)が信号関数usig(x,y)に満足できる程十分にちかくなると計算を中止する。そのときのDOE関数t(x,y)が、求めるべきDOEの関数である。それを左上の矢印によって示した。図3に示すものがDOEの設計手法として行われる反復フーリエ変換法である。
【0022】
目的となるはDOE関数t(x,y)の決定であるが、これは回折部品のピクセル(画素)毎の厚によって与えられる関数である。だからt(x,y)を決めると全てのピクセルの厚み(表面レリーフの高さ)が与えられる。それによってDOEを設計できる。
【0023】
ここでは透明の材料でDOEを作る。炭酸ガスレ−ザ(10.6μm)の場合はZnSeをDOEの材料とする。YAGレーザ(1.06μm)の基本波や2倍高調波(0.53μm)の場合は石英でDOEを作製する。DOE表面の全高さの差(最高面と最低面の差)はレーザ光の一波長分(λ/(n−1))に対応する。2(gは整数)段階の厚みがある場合、1波長分(λ/(n−1))を2で割ったものが基準段差である。
【0024】
透明材料なのでDOE関数は位相を変化させるだけで強度は変化しない。だから振幅の絶対値は1である。t(x,y)は位相関数τ(x,y)によって次のように表現される。
【0025】
t(x,y)=exp{iτ(x,y)} (2)
【0026】
ここでτ(x,y)はDOEの(x,y)を通過するときに生じる位相の遅れである。(x,y)でのDOEの厚み(高さ)をh(x,y)とすると、レーザ光波長λに対するDOEの屈折率をnとして、DOEを伝搬する光は空気中を伝搬するのに比べて光路が(n−1)h(x,y)だけ長くなる。これを波長λで割り2πを掛けると位相の差が求められる。
【0027】
τ(x,y)=(2π/λ)(n−1)h(x,y) (3)
【0028】
となる。
【0029】
t(x,y)=exp{i(2π/λ)(n−1)h(x,y)}(3‘)
【0030】
ここで(x,y)はDOEでの二次元座標で連続変数でなく実際にはピクセル座標に対応する。だからピクセル番号をm、nとして実際にはh(x,y)というような座標になる。一つのピクセルには一つの高さが対応する。高さは離散化されており、例えば16段階とか64段階とか128段階、256段階というように2(gは整数:段差数))の形に決められる。
【0031】
図4はピクセル毎に変化するDOE表面の高さの一例を説明する概念図である。横軸はxとyであり一次元でなく二次元である。DOE厚みh(x,y)は離散的で、x方向にもy方向にも同じように段差があるということである。DOEは屈折率がnであり外部は空気でn=1である。
【0032】
そのようなDOE表面の段差構造は図5に示すように何度もフォトリソグラフィとエッチングを繰り返すことによって作製できる。基板上にレジストを塗布乾燥しマスクを介して紫外線露光し現像する。ポジ型の場合は露光された部分が洗い流され非露光部にレジストが残る。ドライエッチングすると被覆部はそのままで露出部が一定深さだけ抉られる。レジストを除去すると1段構造ができる。この深さは先ほどの一波長分を段差数2で割ったλ/(n−1)2である。波長よりずっと細かい量である。
【0033】
そのような微小量を精密にエッチング除去する。以下同じことを何度も繰り返す。レジスト塗布乾燥しより細かいマスクを介して紫外線露光しエッチングして2段階目の穴を掘る。2回のフォトリソグラフィ・エッチングを繰り返して2段階のDOEを作製することができる。このような精密な深さを掘ることができるフォトリソグラフィ・エッチング技術が進歩したのでDOEを現実的な光学部品として利用できるようになったのである。
【0034】
また電子ビームによってもDOEの表面の構造をつくることができる。ステップに量子化せず連続的な傾斜面をつくることもできる。本発明はDOEの表面加工法の発明でないからこれ以上加工法を説明しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
回折型光学部品(DOE)はレンズ光学系、ミラー光学系よりも多くの可能性を持っている。それは屈折や反射のような幾何光学的な手段でなく波動光学的な手段で光を自在に分解して合成するからである。信号関数によって与えられる目的となる像面でのパターンが、一つの円形、正方形、長方形などの単純な図形の場合は図3のような設計方法で良かったのである。
【0036】
しかし回路パターンのように複雑な図形を信号関数として与えるDOEは未だに多くの克服すべき問題がある。複数の分布をもつ複雑なパターンが目的である場合、信号関数を数学的に表現することができない。はじめから数式化せず像面での目的パターンを直接に与えるようにするしかない。数式表現できなくてもフーリエ変換、逆フーリエ変換は計算できるからそれ自身は問題でない。しかしその場合でも画像濃淡が急峻に変化する部分(エッジ)のような特異点、特異線があるとうまくDOEを設計できない。なんらかの工夫が必要である。
【0037】
信号関数の初期位相分布の決定についても問題がある。単純な像面画像を作り出す場合は問題でないが、複雑な図形をDOEで作ろうとする場合は信号関数の初期位相分布が適切でないとフェイズディスロケーションが発生することがある。フェイズディスロケーションというのは、複素平面において有限な複素数として定義できない値が発生することであり、位相に不連続な点が存在するということである。
【0038】
【非特許文献1】H.Kim,B.Yang,J.Pak,”Optical Design of Boundary−Modulated Diffractive Optical Elements for General Beam Shaping”,Proc.SPIE、4659、p129−138(2002)
【0039】
【非特許文献2】H.Aagedal,M.Schmid,T.Beth,S.Teiwes,F.Wyrowski,”Theory of speckle in diffractive optics and its application to beam shaping,”J.Mod.Optics,4659,p1409−1421(1996)
【0040】
非特許文献1、2は回折像に現れるスペックルノイズを消去するための方法を提案している。それはランダムフェイズを初期位相として与えるというものである。しかしランダムフェイズでノイズが消えるのは目的となる画像が単純な場合だけであろうと本発明者は考える。だから単純な図形の場合にしか適用することができない。複雑なパターンにも有効に適用できる初期位相を与える手法が必要である。
【0041】
像面での目的となるパターンが複雑であるとDOEのピクセル数を多くしなければならない。ピクセル数が多いと設計が難しくなり加工が複雑になる。それだけでなくて回折によってパターン外へ逃げるパワーが増大しパターン内に利用されるレーザパワーの効率が低下するという欠点がある。それは図1の単純な均一円形ビーム(トップハット)を作る場合はあまり問題にならないがより込み入った画像をDOEで作ろうとすると大きな問題になる。
【0042】
つまりエネルギー利用効率低下の問題である。屈折型光学系ではそのような問題は起こり得ないが回折型の場合は大きな問題である。パターンが複雑であればあるほど効率低下は顕著になる。パターン外へ逃げる光エネルギーが多いとレーザ加工の場合加工パワーが減少するので問題である。それに目的パターンの外へ逃げた光パワーがノイズとして妨害になる可能性があるので精密なパターンを描画したいという場合は問題となる。
【0043】
さらに図3の逆フーリエ変換、フーリエ変換の循環においてDOE関数t(x,y)はU(x,y)の逆フーリエ変換なので、かならずしも絶対値が1にならない。しかし先述のようにDOEは完全透明であって振幅は不変であり位相だけを変えるものであるから、絶対値は必ず1である。そのような食い違いはU(x,y)を逆フーリエ変換した場合には必ず発生する。単純な図形(図1のように)の場合はそれは深刻な問題を生じないが複雑な目的図形の場合は、t(x,y)の絶対値が1からずれて行くということも有り得る。それは適切な解から離れて行くということで望ましくない。
【0044】
そのようにDOEを複雑なパターンへ適用する場合まだまだ多くの問題があると本発明者は考える。そのような問題を克服して複雑な出力画像を作り出すことができるDOEの設計方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0045】
複雑な図形を対象にする場合さまざまな特異点が含まれる。パワー値が急激に変化する場合それをそのまま信号関数usig(x,y)にすると、非連続変化の部分の特異性で収束解が得られないか誤った解を与える可能性がある。それを解決するために、急峻なパワー変化のある部分(エッジと呼ぶ)をなだらかにするためガウス関数をかけて急峻なエッジを滑らかな変化に変える。急峻エッジ部分を含む目的画像の関数をf(x,y)とする。画像の中心に中心をもつガウス関数f(x,y)を考える。そして両者のコンボリューションを計算する。
【0046】
F{f(x,y)*f(x,y)}=F(u,v)F(u,v) (4)
【0047】
これをアンチエイリアシングと呼ぶ。
【0048】
図6によってその一例を説明する。左上の図形が像面出力図形だとする。これは矩形パワー分布をもちエッジが急峻である。左下に示したのがガウス関数である。両者のコンボリューションが右に示すものである。原画像に似ているがエッジがなだらかな分布に変化している。そのような処理を微分が発散するエッジに対して行う。それによって特異点を無くすことができる。これは簡単な数学的処理であって計算時間はあまりかからない。
【0049】
信号関数の初期位相は自由に決めることができ目的画像が単純な円、正方形などの場合はどのようにしてもよいのであるが、複雑な画像を作り出したい場合は初期位相の選択がうまくないとフェイズディスロケーションが発生することがある。
【0050】
本発明者はレンズと同じように中心で位相が進み、周辺部で位相が遅れるような初期位相を与えることにした。それは凸レンズとの類推で与えるものであるからフレネル型DOEの場合特に有効だと本発明者は思う。図7によって本発明の信号関数初期位相の与え方を説明する。
【0051】
図7の上の図は初期位相焦点距離をdphとしたときの光線の広がりを示す。点光源から光が発生して像面までの距離dphを飛行する。像面での二次元座標を(x,y)とすると、一次近似で中心点より(x+y)/2dphだけ遠くなる。始点で全ての光の位相が同一だという要求をすれば、位相差は距離の差を波長λで割って2πを掛けたものとして得られるので、位相差は2π(x+y)/2λdphとなる。波数はk=2π/λである。凸レンズの類推で位相差を打ち消すように信号関数初期位相を与えるとすればそれに負号をつけて、初期位相関数Ω(x,y)を
【0052】
【数1】

【0053】
というように与えることにする。
【0054】
それでは初期位相焦点距離dphはどうして決めるのか?という問題がある。DOE面での入力光波の広がりをwinとする。像面での出力光波の広がりをwsigとする。光波の広がりの端を結んで延長し交差したところが点光源の位置であると考える。DOE・像面の距離をLとすると、初期位相焦点距離はLを光の広がりの差(wsig−win)で割って像面での光広がりを掛けたものとして得られる。
【0055】
【数2】

【0056】
というようになる。実際には信号関数の図形が単純な場合でないとwsig、winが一義的に決まらない。複雑な場合は代表的なパターンについて、wsig、winの広がりの差を用いれば良いのである。
【0057】
(5)によって初期位相を与えた信号関数の初期位相分布を図8に示す。作り出したい最終的な出力像をu’sig(x,y)として、これに位相をかけて
【0058】
u’sig(x,y)exp(iΩ(x,y))
=u’sig(x,y)exp(−ik(x+y)/2dph) (7)
【0059】
これが初期位相を含めた信号関数usig(x,y)である。
【0060】
信号関数usig(x,y)が確定したので図3の手順に従いこれを逆フーリエ変換してDOE関数t(x,y)が得られる。ここでDOE側の制約を課す。どのような制約を課すかというと、本来DOE関数は(2)に示したように位相項だけを持ち、振幅の絶対値は1なのである。つまり複素平面において半径1の円上にある筈である(|t(x,y)|=1)。ところがusig(x,y)を逆フーリエ変換してもそのようにはならない。もともとusig(x,y)にはそのような限定がないからである。
【0061】
単純な変換をするDOEであればここでt(x,y)を修正しなくてもよいのであるが、本発明は複雑な出力パターンを発生させることを目的にしているのでここでt(x,y)に修正を加える。信号関数usig(x,y)を逆フーリエ変換したものをt’(x,y)とする。像面での(x,y)とDOEでの(x,y)は異なる。同じ記号を用いているが区別して考えるべきである。
【0062】
関数t’(x,y)の絶対値は1でないが位相関係を維持しつつ振幅だけを修正して絶対値が1であるようにする。それは|t’(x,y)|によってt’(x,y)を割ったものとして得られる。
【0063】
【数3】

【0064】
ということにする。これはt(x,y)の位相を保持しつつ絶対値を1にするものである。arg(…)というのは括弧内の複素数の角度成分と言う意味である。そのようにt(x,y)を絶対値1に正規化することが本発明でのDOE側の制約だということになる。それを図3より具体的に書くと図9のようになる。
【0065】
そのような位相分布がビームシェーパーの初期位相分布となる。それに入力関数uin(x,y)を掛けて回折(フーリエ変換)計算する。これが像面でのフーリエ変換関数U(x,y)である。つぎに像面側の制約を与える。DOEによる回折光は広がるが実際に必要なパターンの広がり領域はよい狭いものである。そこで必要な中心部と不要な周辺部にU(x,y)を分ける。図10は像面の分割を示す図である。像面でのx方向、y方向のピクセル数をN、Nとする。必要な信号は中心部だけにあるので、中心部のR×Rを信号領域Rsigとする。外側を周縁部とよぶ。
【0066】
【数4】

【0067】
フーリエ変換関数U(x,y)に像面側制約をつけたものが制約関数U’(x,y)である。制約関数U’(x,y)の信号領域の振幅変数は、U(x,y)の計算された関数でなく、もとの信号関数usig(x,y)とする。ここが一つの工夫である。信号関数usig(x,y)の記憶が計算サイクルとともに消えて行くと最終的に得られたDOE関数は、所望の信号関数usig(x,y)を与えないかもしれない。そこで振幅分布についてはつねにもとの信号関数usig(x,y)を採用する。それまでの循環計算はなんのためにあるのか?というと、周辺部(Rx×Ryの外)のU(x,y)を決める事と、信号領域の位相を決めることである。つまり制約関数U’(x,y)をつぎにように決定する。
【0068】
U’(x,y)=|usig(x,y)|exp{iarg(U(x,y))}(10) (信号領域:Rsig
=U(x,y) (周辺部:Nev) (10)
【0069】
arg(U(x,y))というのはフーリエ変換関数の角度成分ということである。複素数zをz=rexp(iθ)というように表現したとき、rを振幅といい、θを位相という。arg関数は、arg(z)=θと定義している。信号領域では振幅ははじめの信号関数usig(x,y)とする。振幅は信号関数とし、位相だけを変える。初期位相Ω(x,y)がarg(U(x,y))に置き換わったということである。
【0070】
最終目的はusig(x,y)を発生するDOE関数を求めることであるから、計算サイクルのU(x,y)では常に振幅についてはusig(x,y)を採用する。位相はarg(U(x,y))に変化させる。初期位相Ω(x,y)については先ほど述べたが信号領域で1回目以後は初期位相とは異なる位相をとる。
【0071】
周辺部ではそこまでで計算されたU(x,y)を採用する。信号領域内の振幅はU(x,y)を採らずusig(x,y)とする。両者は異なる関数なので信号領域と周辺部の境界において関数の解析性連続性を否定することになる。だから計算を重ねるたびに周辺部にはノイズが蓄積されてゆく。
【0072】
計算のサイクルを重ねるごとに境界の不連続のために周辺部へノイズが蓄積される。ノイズも光エネルギーから生ずるのだから、エネルギーが周辺部に溜まる。エネルギーの総和は一定なのだから信号領域のエネルギーが減少する。そのため信号領域のエネルギー効率が低下する。単純な図形を作るDOEであれば計算サイクルの回数が少ないからあまり問題ではないが、本発明は複雑な図形を作るDOEを対象にしており計算サイクル数が多いので周辺部へ漏れるエネルギーが多大になる。
【0073】
周辺部に多大のエネルギーが逃げるのを防ぐために本発明者は周辺部の制約関数をフーリエ変換関数よりも小さくなるようにすればよいと思い付いた。信号領域内のエネルギーηがあるエネルギー制限値ηを下回ったときは周辺部のエネルギーを強制的に下げるような工夫をする。エネルギー制限値ηは目的に応じて自在に決定する。全エネルギーを1に正規化してあるのでη、ηは0〜1の値である。
【0074】
つまりη>ηのときは(10)式であるが、η<ηのときは、0<β<1となる定数βをとり、フーリエ変換U(x,y)にβを掛けたβU(x,y)を周辺部の制約関数とするのである。(10)の代わりに、
【0075】
【数5】

【0076】
ここで0<β<1である定数βをノイズ軽減係数と呼ぶ。これは周辺部の関数値を減らすことによって周辺部へ配分されるエネルギーを減らす作用がある。これも本発明の新規な特長の一つである。周辺部へのエネルギーの散逸を防ぎ信号領域のエネルギー効率を高める作用がある。βが小さいほど周辺部のエネルギーが減るから信号領域内のエネルギー効率は高まる。
【0077】
それはそうなのであるが、1回の計算サイクルを経てフーリエ変換関数U(x,y)となったものはusig(x,y)に近い関数である筈で、(10)のようにすれば信号領域・周辺部の境界で位相は連続し、振幅もほぼ連続していることが多い筈である。
【0078】
ところが周辺部だけにβを掛けてしまうと境界での振幅の連続性は失われる。境界で振幅が大きく不連続になってしまう。これがDOE計算の結果に影響を及ぼす。境界での振幅関数の不連続が境界にノイズを出現させることがある。しかし信号領域は境界より狭く、境界部分より小さい開口部をもつマスクをDOEと像面の間におけば境界でのノイズを遮断できる。
【0079】
ビームシェーパーの設計をするためには、さまざまのパラメータを物理的に検討しなければならない。入射レーザ光をガウシアンビームと仮定して計算を進める。本発明はレーザがガウシアンビームでなくても使えるが集光性の式が異なってくる。ここでは入力レーザ光がガウシアンビームとして計算を進める。
【0080】
レンズによってビームを集光するが回折のために焦点でも1点に絞れない。ビーム直径はそこで最小になるがその直径をビームウエストという。
図11のようにレンズにガウシアンビームが入射するとする。丁度レンズ面で入射レーザのビームウエストwinであったとする。そのレンズで距離Lの点で集光されてビームウエストwを形成するとする。
【0081】
【数6】

【0082】
となる。ここで
【0083】
【数7】

【0084】
である。Lは集光点であるがここではレンズを使わず、DOEによって等価な集光作用をさせているので焦点距離fといわず伝搬距離Lといっている。
【0085】
(13)を(12)に代入して分子を求めるとそれはLλ/πnwinとなる。入射レーザビームのビームウエストwinが大きいほど、波長λが短いほど、伝搬距離が短いほどレンズで絞った光の焦点でのビームウエストwが小さくなる。反対に、レーザビームの径が小さく、距離Lが長く、波長λが長い程ビームウエストwが広がる。回折によってどうしてもそれだけの直径wに広がってしまう。
【0086】
どのようなDOEであってもガウスビームの回折限界であるビームウエストw以下の微細な径のスポットに集光することができない。だからそれより急峻なエッジを含む信号関数を発生するDOEは存在しない。
【0087】
ビームウエストwは伝搬距離Lと入射ビームウエストwinで決まる。(4)式の急峻エッジを丸めるためのガウス関数f(x,y)の幅は、先ほどの伝搬距離Lと入射ビームwinを考慮して決める必要がある。wが広がるのは回折のためである。wを小さくするにはLを小さくし、winを大きくすればよい。
【0088】
後で説明するが、wを小さくするため、レーザビーム径は10mmというような大口径ビームが望ましいということになる。もともとのレーザビームはそのように太くないから拡大レンズ、コリメータレンズをつかってレ−ザビームを拡大する。
【0089】
ビームシェーパーの設計をする場合、位相分布サンプリング間隔が狭い程より精度の高い設計を行う事ができる。DOEは離散化してピクセルを単位とするので、サンプリング間隔がピクセルサイズとなる。だからサンプリング間隔が狭くなるとピクセルサイズも小さくなりピクセル数が増える。ピクセル数が増えると計算も困難になるし製造も難しくなる。
【0090】
計算製造容易さからいえばサンプリング間隔は広くピクセル数は少ない方が好都合である。しかしサンプリング周波数νはナイキストの定理ν>2νを満たさなければならないという制限がある。ここでνは像面に点光源があると仮定して逆伝搬したときにおけるDOEでの空間周波数である。図12によってDOEでの空間周波数を計算する。DOEの中心から端部までの距離をRとし、像面とDOEの距離をL(伝搬距離)とする。DOE端部での光の空間周波数νは
【0091】
【数8】

【0092】
によって求められる。θは点光源からみたDOE端部の光軸に対してなす角度である。DOEの位相分布のサンプル間隔をδとすると、
【0093】
ν=1/δ (15)
【0094】
である。ナイキストの定理はν>2νであることを要求している。
【0095】
DOEの出力強度分布を、S/N比、エネルギー効率、均一性によって評価することにする。S/N比fsnrは出力フーリエ変換像U(x,y)の信号関数usig(x,y)に対する類似性の高さを意味する。
【0096】
【数9】

【0097】
分母は出力と信号関数の差の信号領域での積分であってノイズの大きさを与える。ノイズであればαは1でよいのであるが、ここではαというパラメータをusig(x,y)に付けてこれで出力像U(x,y)を差し引くようにしている。分子は出力画像の信号領域での積分である。αはS/N比を最大にするもので
【0098】
【数10】

【0099】
という値である。エネルギー変換効率ηも評価の基準の一つである。入射光波の全エネルギーのうち出力光波の信号領域内に集光されたエネルギーの割合をいう。
【0100】
【数11】

【0101】
ここでWはピクセル内の領域全部を表す。
【0102】
つぎに均一性の評価法について説明する。これは出力像が均一強度画像(トップハット;形状は任意)の場合に定義される手法である。図13によってこれを説明する。これは目的となるものがトップハットである場合である。
【0103】
sig(x,y)がある範囲で一定値をとるような関数であり、これに対して逆フーリエ変換、フーリエ変換の計算を繰り返した場合に図13のような出力フーリエ変換関数U(x,y)が得られたとする。信号領域Rsigの内部にパワーが均一に近い部分ができる。そのうちの最大強度をImaxとする。最少強度をIminとする。平均強度をIaveとする。周辺部にはノイズがある。このノイズは先ほどのS/N比で評価されている。均一性上限fmaxと均一性下限fmin
【0104】
【数12】

【0105】
【数13】

【0106】
によって定義する。またこれらの平均値(均一性平均値)をつぎのように定義する。
【0107】
【数14】

【発明の効果】
【0108】
本発明は複雑な形状の出力画像を作り出すDOEを反復フーリエ変換法によって設計する場合、DOE側の制約として、U(x,y)を逆フーリエ変換して得たt’(x,y)を絶対値が1になるように正規化しt(x,y)とする。像面側の制約として、像面を信号領域Rsigと周辺部Nevに分けて信号領域では、振幅は信号関数usig(x,y)とし位相だけはt(x,y)をフーリエ変換したU(x,y)からとってexp(iargU(x,y))とし、周辺部ではそのままU(x,y)とする制約を与える。信号領域と周辺部に像面を分割して異なる関数を与えるというのが像面側の制約である。
【0109】
そのようなDOE側の制約と、像面側の制約をして、繰り返し逆フーリエ変換、フーリエ変換を何度も繰り返す。計算サイクルを繰り返すことによって、フーリエ変換関数U(x,y)がusig(x,y)に近づくようにする。像面側の制約は目的関数usig(x,y)を振幅に毎回代入するからt(x,y)が目標とするものから離れてゆく心配がない。像面側の制約とDOE側の制約が本発明の新規な点であり、複雑な目的パターンであってもそれを発生できるDOEを設計することができる。
【0110】
DOE側の制約によってt(x,y)が、usig(x,y)の逆フーリエ変換でなくなり、像面側の制約によってU’(x,y)が境界で非連続になる。そのために計算を繰り返す間に光のエネルギーが次第に周辺部へ移ってくる。周辺部はもともと何もない部分であるから移行してきたエネルギーは全てノイズエネルギーだということである。そこで本発明では、信号領域のエネルギーηがある一定の閾値ηより小さくなったときは、周辺部へのU(x,y)の配分を減らすようにする。周辺部の関数U’(x,y)はβU(x,y)というようにする。βは0と1の間の定数である。これは周辺部へのエネルギー配分を低下させノイズを減らす作用がある。それでこれをノイズ低減アルゴリズムという。
【実施例1】
【0111】
[比較例1(プリント基板パターン:ノイズ軽減アルゴリズム不使用:図14〜図25)]
本発明は、これまでのDOEのように一つの円、正方形、長方形というように単純な図形を作り出す単純図形用のDOEでなく円、長方形、線分、三角形などが複合して存在する複雑なパターンを作りだすDOEの製造を目的としている。ここでは図14のようなプリント基板の回路パターンを投影できるDOEを設計し製作した。ここでは(11)式のノイズ軽減アルゴリズムを使っていない比較例1についてはじめに述べる。像面を信号領域と周辺領域に分割して反復フーリエ変換計算するという方法はこれまで試みられたことはないからこれは従来例ではなく、本発明の効果を明白にするための比較例である。比較例であるがノイズ軽減アルゴリズム不使用と言うこと以外は後に述べる実施例1と同じ条件でおこなったので条件、作用を詳しく述べる。
【0112】
図14は信号関数(目的となる像面の画像を表現する関数)をプリント回路とし縦20mm、横20mmの寸法を持っている。左右に4つの電極パッドがある。電極パッドから配線がひとつずつ伸び、パッドの間に3本の配線が通っている。最少線幅は150μmである。最少線間隔は150μmである。配線は横方向、縦方向、斜め方向に延びている。左右対象の回路となっているが非対称であってもよいのはもちろんである。実際には図14のパターンにたいして幅20μmのガウス関数でアンチエイリアシング処理を行ったものを信号関数usig(x,y)として用いた。
【0113】
光源は波長632.8nmのHe−Neレーザとした。ピクセル数、サンプル間隔、伝搬距離L、入射ビーム径win、信号領域Rsig、初期位相焦点距離dphなどの設計パラメータをはじめに決定する。(12)式のよって与えられる入力ビーム径winをパラメータ(1、5、7、10mm)とした伝搬距離Lとビームウエストwの関係を図15に示す。zが十分に大きいのでw(μm)はほぼ伝搬距離Lにリニヤとなる。比例定数はwinに反比例するから、入力ビーム径winが大きい程斜線の傾きが小さくなる。win=10mmであると、伝搬距離Lがかなり遠くてもビームウエストを小さくすることができる。
【0114】
比較例1では幅20μmのガウス関数でアンチエイリアシング処理しているのでビームウエストの直径は16μm程度の小さいものにしたい。それで入力ビーム径win=10mm、伝搬距離をL=200mmと決めた。図15からそのときのビームウエストは16μmである。入力はガウスビームだと仮定している。パワーが中心のe−2に低下したところをビーム端と定義している。入力ビーム径(e−2)が10mmというのはかなり大きいビームであるが、レーザ光をコリメータで拡径することによって10mmφの平行ガウシアンビームを作り出す事ができる。
【0115】
つぎにDOEのサンプリング間隔とDOEの寸法を考える。(14)、(15)式とナイキストの定理ν>2νから、最大DOEサイズRmax
【0116】
【数15】

【0117】
によって制限される。サンプリング間隔δをパラメータ(5、7、10μm)として伝搬距離L(mm)と最大DOEサイズRmax(mm)の関係を図16のグラフによって示す。DOEサイズ(信号領域と周辺部を含んだ全体)は入射光のエネルギーを有効に利用するために、入射ビーム径winの2倍以上としたい。入射ビーム径winが10mmだとするので、DOEの寸法はその2倍の20mm×20mmとする。
【0118】
伝搬距離はL=200mmと先ほど決めたので、サンプリング間隔が5μmのときに最少DOE寸法が20mmとなる。だからサンプリング間隔は5μmとする。ピクセル数はDOEの寸法(最少20mm)をサンプリング間隔δ=5μmで割ったものである。
【0119】
ピクセル数は2のべき乗であるのが好ましいので4096とする。DOEサイズは20.48mm×20.48mmである。ピクセル数は4096×4096=1677216個とする。像面の大きさは48.6mm×48.6mmとする。信号関数のサイズは20mm×20mmであったから、像面全体における信号領域比率は16.9%である。こうして決めた設計パラメータを表1に挙げた。
【0120】
【表1】

【0121】
図9に示す反復フーリエ変換法によって、usig(x,y)→U’(x,y)→t’(x,y)→t(x,y)→U(x,y)→U’(x,y)→…という循環計算をした。循環計算ごとに上の関数の組が求められる。S/N比は、分母に、U(x,y)からusig(x,y)を差し引いた項を持つのでこれが大きくなるということは解U(x,y)がusig(x,y)に収束するということである。だから循環計算の解をSN比によって評価することができる。
【0122】
図17は計算の反復回数(回)とSN比(dB)の関係を示すグラフである。この図から反復計算回数が200回ぐらいでほぼ収束しているということが分かる。200回でのSN比は33.1dBであった。それは十分に満足できる値である。
【0123】
上の計算は全ての関数を連続関数として計算している。しかし実際に製作するときはピクセルの高さを何段階かに量子化する必要がある。
【0124】
ここでは16段階にピクセル高さを量子化したDOEとして設計した。16段階に量子化されたDOEからの10mmφレーザビームの計算上での回折像を図18に示す。
【0125】
左下隅に5mmの長さを示す。像面の全体の大きさは約48mm×48mmであるが回路パターンの存在する信号領域は20mm×20mmであって目的となる回路パターンが描き出されていることがわかる。信号領域にはノイズは殆どない。信号領域と周辺部の境界が明るいのはここで回折によるノイズ光が集中しているからである。周辺部にも明るい部分がある。これはノイズである。信号領域に存在する光エネルギーの率は27.1%であった。それは信号領域を設けて設計したことによって、周辺部へエネルギーが散逸してしまっているためである。周辺部へ移動したエネルギーが72.9%というように大きい値になる。
【0126】
設計された16段階に量子化されたピクセル構造をもつDOEを実際に作製した。先述のフォトリソグラフィとエッチングの組み合わせを16回行うことによってピクセル構造を作製した。DOE材料は石英である。そのDOEに10mmφのレーザビーム(λ=632.8nm)を当てて200mm後方におかれた像面での出力像を図19に示す。信号領域では電極と配線からなる回路パターンが現れている。信号領域と周辺部の境界に光がかなり漏れている。これは境界でのU’(x,y)の不連続によって生ずる漏れ光である。周辺部にノイズがかなりの強さで現れている。
【0127】
信号領域にある光のエネルギーを測定するために図25のような装置を用いた。レーザビームをスペイシャルフィルタで拡大しレンズによって10mmφの平行ビームにする。平行ビームをここで製作したDOEに当てる。DOEのさらに前方200mmの位置に信号領域Rsig(20mm×20mm)と同じ開口部をもつマスクをおいて信号領域を通る光だけを通す。それをレンズで集光してパワーメータで測定した。マスクは周辺部の光を全部遮断するのでパワーメータに入った光が信号領域のエネルギーである。全体のエネルギーに対する信号領域のエネルギー比率がエネルギー効率ηであるが、これはη=20%であった。これはエネルギー効率の設計値27.1%より低い。それは周辺部に高次の回折光が多数発生しているためであろうと考えられる。
【0128】
つぎに実際の光量分布を調べた。図20は実際に製作されたDOEによって像面に回折された光によって形成される信号領域の回路パターンである。図21はその回路パターンのうち配線・電極パッドの表面中央での光量の分布を示す。配線の上でもパッドの上でも光量がかなり大きく揺らいでいる。パッドの終端での光量の切れはあまり良くない。
【0129】
図22は横方向の配線の表面における光量分布を調べたものである。これもかなり大きく光量が揺らいでいる。配線の終端での光量の落ち込みは急である。図23は途中で下へ折れ曲がる配線の上での光量分布である。これは比較的揺らぎが少ないようである。背景部分は光量が0に落ちている。図24は縦方向の配線4本を横断して光量分布を調べたものである。配線部分での光量が大きくしかもは変動が大きい。背景では光量は0に落ちている。だから信号領域でのノイズは殆どないということである。
【0130】
これまでの図17〜25に示すものはノイズ軽減アルゴリズムを用いていない。だから、エネルギー効率は設計上で27%、実作のDOEで20%というように低いものであった。
【0131】
[実施例1(回路パターン:ノイズ軽減アルゴリズム:β=0.1、エネルギー制限値η=0.6(60%):図26、27)]
実施例1は、比較例1と同じ図14の回路パターンをつくるためにノイズ軽減アルゴリズムを使ってエネルギー効率を上げるようにした。(11)式がそのアルゴリズムを表現している。信号領域では、それまで計算されたフーリエ変換関数U(x,y)の位相部分argU(x,y)をU’(x,y)の位相に採用し、振幅ははじめの信号関数usig(x,y)を用いる。
【0132】
周辺部では、エネルギー利用効率ηが60%以上であると、周辺部(Nev)の関数にβを掛けず(10)式のようにU(x,y)そのままとする。エネルギー利用効率ηがη=0.6(60%)より低くなると、U(x,y)に軽減定数β=0.1を掛けたものをU’(x,y)とする。
【0133】
そのようにη<ηのときは周辺部関数をβU(x,y)とし、η≧ηのときは周辺部関数をU(x,y)とするノイズ低減アルゴリズムを用いる。そのほかのパラメータなどの値は全て比較例1と同じである。
【0134】
計算を繰り返してSN比とエネルギー効率によって計算結果を評価した。図26はノイズ軽減アルゴリズムを使った実施例1の計算結果を示す。横軸は計算の反復回数(回)である。左縦軸はSN比(dB)であり、右縦軸はエネルギー効率(%)である。SN比に関しては比較例1の図17と対応するものであるが、図17は反復回数が300回までしかないのに図26は多数の計算を行っている。それはノイズ軽減アルゴリズムの影響をより詳しく見るためである。
【0135】
図26は反復回数が8000回以上で反復計算を多く行っている。エネルギー利用効率ははじめ100%であるが周辺部にノイズが形成されすぐに低下する。0.6(60%)にさがると、周辺部で、U(x,y)をβU(x,y)に切り換えるので周辺部Nevのエネルギーが下がり、信号領域Rsigのエネルギーが急激に上がりエネルギー効率は飛び上がる。高いときは90%に達するがすぐに下がって60%になる。するとまた跳ね上がる。そのような繰り返しとなる。
【0136】
8000回程度で60.3%程度になる。SN比はだいたい30dBから34dBの間を動くが時に大きく低下することがある。それはエネルギー効率が0.6に落ちたので、U(x,y)がβU(x,y)となり周辺部エネルギーが減少するからである。
【0137】
急激な低下回数をのぞくと8000回程度で大体SN比が34.6dBになる。これは収束するのではなくて時にオーバーシュートすることがある。その値に一様収束するのではなくて時に90%に上がることもある。SN比もエネルギー効率も回数に対して複雑な振動をする。振動の周期が一様でなくて回数を重ねるごとに少しずつ延びて行くようである。
【0138】
ノイズ軽減アルゴリズムを使うので、エネルギー効率が60%以上ということが保証される。するとむしろSN比の高いものがよい。これをみると2000回でも8000回でもSN比、エネルギー効率にあまり変わりがないということがわかる。特異な回数を除いて、SN比が34.6dB、エネルギー効率が60.6%というような結果になる。
【0139】
比較例1のようにノイズ軽減アルゴリズムを用いない場合は、エネルギー効率の設計値が27%であったが、ノイズ軽減アルゴリズムを用いる実施例1ではエネルギー効率が60%以上であるから、2倍以上に増えている。SN比は比較例1の反復回数300回で33dBであったのでSN比はあまり変わらずエネルギー効率だけを2倍にすることができたということである。
【実施例2】
【0140】
[比較例2(微小ラインパターン:ノイズ軽減アルゴリズム不使用:図28〜34)]
本発明は複雑な形状のパターンの生成に用いることができるだけでなく、非常に微小なパターンの生成にも適用することができる。長さ100μm、幅10μmのラインパターンを目的像とする。はじめにノイズ軽減アルゴリズムをもちいない比較例2を説明する。像面を信号領域と周辺領域に分割して計算する反復フーリエ変換が公知だというのではない。比較例2は従来例でないが、後に述べるノイズ軽減アルゴリズムを使う実施例2の効果を明らかにするために条件を同じにそろえた比較例2のDOEを設計、製作した。
【0141】
図28にラインパターンを示す。信号関数の概形は100μm×10μmのパターンであるが、長さ方向と幅方向の関数形が異なるものとした。10μmの幅方向にはビーム径(中心値のe−2に低下する位置を端として)10μmのガウス関数exp(−(y/v))(vは定数)とし、長さ方向には全径(中心値のe−2に低下する位置を端として)100μmの25次スーパーガウシアン関数exp(−(x/s)25)(sは定数)とした。長手方向をガウス関数とすると線に濃淡の差ができてしまうのでスーパーガウシアンにしている。幅方向は狭いのでガウス型でも差し支えない。
【0142】
図28の左横にy方向のガウス関数を、右下にx方向のスーパーガウシアン関数の形状を示す。これらは信号部分のパワー密度をy方向、x方向に拡大して示したものである。実際の寸法は100μm×10μmである。これらを掛け合わせたものを信号関数usig(x,y)とした。
【0143】
つぎに設計パラメータを決める。今度は、波長355nmのレーザを光源とする。これはYAG(1.06μm)の三倍高調波であり利用可能な光源である。やはりガウシアンビームであると仮定する。(12)、(13)、(14)式から伝搬距離Lとビームウエストwの関係を求める。図29は入射ビーム径をパラメータ(2、4、6、8、9、10mm)とし、伝搬距離L(mm)とビームウエストw(μm)の関係を決めるグラフである。
【0144】
必要なビームウエストwの大きさは信号関数のエッジのダレの大きさによる。上に述べた信号関数は縦方向(y方向)にはガウス関数、横方向(x方向)にはスーパーガウシアン関数となっていてエッジの様子が異なる。よりエッジが鋭い縦方向(y方向)のダレを基準にした。縦方向のエッジのダレは4.2μmである。ここでダレの定義は、ガウス関数が10%から90%の値に変化するのに必要な幅として定義する。ダレが4.2μmなので4μm程度かそれより細かいサンプリング間隔であることが望ましい。それより広いサンプリング間隔ではエッジの部分をうまく表現できない。
【0145】
(12)式の分子からわかるように出力ビームウエストwは入力レーザビーム径winに反比例するので入力ビームウエストwinが小さいと伝搬距離が200mm程度長いと、4.2μmというような細かいサンプリング間隔を実現できない。200mm程度という長い伝搬距離でしかも4μmとか6μmのビームウエストwを得るには入射レーザビーム径が10mmとか9mmの大口径であることが必要である。そこで入射ビーム径は9mmあるいは10mmに決めた。
【0146】
最大DOEサイズは(22)式によって制限される。それはナイキストの定理が課した条件である。図30はサンプリング間隔δをパラメータとして、伝送距離L(mm)と最大DOEサイズRmax(mm)の関係を示すグラフである。レーザビーム径が10mm、9mmとしてDOE寸法(Rmax)はレーザビームの2倍程度は欲しいところである。だからDOE寸法はここでRmax=21mmとする。伝送距離はL=210mmにする。
【0147】
その場合、サンプリング間隔を3.5μmより大きくしてはナイキストの定理を満足しない。そこでサンプリング間隔δ=3.5μmとする。δはピクセルサイズでもある。DOEのサイズは21mm×21mmでピクセルサイズは3.5μm×3.5μmとなる。以上の考察によって決定したパラメータを表2に示す。
【0148】
【表2】

【0149】
信号領域は5.35mm×5.35mmとする。DOEサイズは21mm×21mmなので信号領域RsigのDOE全体に占める割合は6.5%である。信号関数usig(x,y)(y方向のガウシアンとx方向のスーパーガウシアンの積関数)から出発して図9の計算を繰り返し行った。循環計算ごとにエネルギー効率ηと均一性平均値((21)式)を計算した。計算の反復回数が増加するとともに均一性平均値は下がってゆく。
【0150】
ビーム径が9mmの場合、図31にSN比と、エネルギー効率の反復回数による変動を示す。図32に均一性平均値と、エネルギー効率の反復回数による変化を示す。
【0151】
ビーム径が10mmの場合、図33にSN比と、エネルギー効率の反復回数による変動をしめす。図34に均一性平均値と、エネルギー効率の反復回数による変化を示す。
【0152】
9mmφのレーザビームの場合、SN比(図31)は10回程度の反復で27dB程度、50回で30dBになり200回で36dBになる。エネルギー効率は10回で55%以下に減り、そのあとはあまり減らない。100回〜200回の反復計算でエネルギー効率は51%程度である。
【0153】
均一性平均値は(図32)50回で1%程度に減少する。その後の減りは僅かである。
【0154】
10mmφのレーザビームの場合、SN比(図33)は30回で30dB程度になる。そのあとゆっくりと増加し200回の繰り返しで41dBになる。均一性平均値は(図34)50回の計算の繰り返しで0.6%程度、100回の繰り返しで0.3%程度である。エネルギー効率は20回の繰り返しで約46%に低下するがそれ以後はあまり低下せず、200回の反復計算でも45%程度である。
【0155】
反復計算を重ねてもエネルギー効率があまり低下しないのはつぎのような理由による。ラインが短く細いので信号領域Rsigの極一部を占めるだけで、像面での境界の不連続があまり大きくならず、エネルギーが境界と周辺部Nevへあまり出て行かず信号領域に留まるからであろう。
【0156】
エネルギー効率が比較例1に比べて高いのは、同じ理由で、信号領域に対するライン面積の小さいことにより境界の不連続が強く出ないからである。
[実施例2(微小ラインパターン:ノイズ軽減アルゴリズム使用:β=0.1:η=0.8(80%):図35〜38)]
比較例2と同じく、図28のラインパターンを形成するDOEをノイズ軽減アルゴリズムをつかって設計した。目的とする像面でのパターンの概形は100μm×10μmのラインである。比較例2と同じく縦方向はガウシアン関数、横方向は25次のスーパーガウシアンである。パラメータは表2に示した比較例2と同じである。
【0157】
レーザビームが9mmφの場合は、図35のようにエネルギー効率ηは100%から徐々に低下するが80%まで下がると突然に上がる。これはエネルギー制限値をη=0.8(80%)としており、ここでU’(x,y)=βU(x,y)とするからである。その措置によってエネルギー効率は100%近くに上がる。しかし計算回数と重ねるとまた低下する。80%に至るとまた急上昇する。そのようにエネルギー効率の振動は、エネルギー閾値ηを0.8に設定したことによって起こる。
【0158】
エネルギー効率が上がるということは画像の質が良くなったという事ではない。信号領域へ入る光量が増えただけのことであり、信号領域でのノイズが増えている。信号領域のノイズが増えるのでSN比は下がる。SN比は80回で30dB程度に上がる。しかし突然に低下する特異点のようなものがある。それはエネルギー効率が0.8に下がりノイズ低減アルゴリズムが働いたからである。
【0159】
そこで15dBに低下しまた回数とともに上昇する。300回で36dBになるが、またηが0.8になるのでSN比が非連続に18dBまで低下する。そのような繰り返し急激な低下をするが800回程度の計算の繰り返しによって37dB以上のSN比とすることができる。それはノイズ軽減アルゴリズムの顕著な効果である。
【0160】
均一性平均値は80回で4%まで落ちるが、ノイズ軽減アルゴリズムがここで働くので急に30%程度まで悪くなる。いかエネルギー効率が0.8に落ちるたびに均一性はわるくなる〔図36〕。
【0161】
レーザビームが10mmφの場合(図37)はエネルギー効率が0.8に低下するのは一度(40回ぐらい)あるだけでその後は0.8まで低下しない。それでSN比はその特異点を除き上昇し200回で40dB、600回で50dB程度になる。SN比は良好である。均一性平均値は(図38)100回で3%程度に低下し400回で1%以下となる。均一性に優れた出力像が得られるということである。
【0162】
図39はレーザビームが9mmφ、10mmφのときに、4段階量子化DOEを作りそのDOEによって生成されたラインパターンの横方向の光量分布と縦方向の光量分布の測定値の変動を示している。縦方向はもとのガウシアンとほぼ同じになっている。縦ガウシアンの頂点1、中間部2、裾部3での横方向の分布を横方向グラフ3本によって示す。横方向のスーパーガウシアンであたえた成分はどの高さにあってもほぼ均一であって満足すべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】入射レーザビームをDOEによって回折し出力像面に所望の形状の光強度パターンを生成する回折型光学部品の構成図。
【0164】
【図2】入射レーザビームを定義する関数uin(x,y)、DOE関数t(x,y)、DOEを通過してそれらを掛け合わせた積関数と、伝搬距離Lで回折し像面に形成される出力関数uout(x,y)の定義される場所を示す説明図。
【0165】
【図3】反復フーリエ変換によるDOEを設計するためのアルゴリズムを示す工程図。
【0166】
【図4】DOEの表面微細構造を例示するための概略断面図。横軸はx、yの二方向を示し縦軸は表面のピクセルごとの高さh(x,y)を示す。
【0167】
【図5】フォトリソグラフィ技術によるDOE表面の微細加工の工程図。レジスト・コート、現像、ドライエッチング、レジスト除去の工程を何度も繰り返して2ステップの表面構造をつくる。
【0168】
【図6】目的とするパターンの鋭いエッジを滑らかにするためのガウス関数とのコンボリューションをしてアンチエイリアシングすることを説明するための図。左上が尖ったエッジをもつ目的パターン、左下がガウス関数、右のパターンがアンチエイリアシングした画像。
【0169】
【図7】信号関数usig(x,y)に乗ずるべき初期位相分布Ω(x,y)を決めるために、凸レンズの類推で、初期位相焦点距離dphの2倍で半径成分の2乗を割って波数を掛けたものを初期位相とし、パターンの寸法を外挿することによって焦点距離dphを決めるということを説明するための図。
【0170】
【図8】図7のように凸レンズの類推で決めた初期位相分布Ω(x,y)の図。
【0171】
【図9】図3の反復フーリエ変換法によるDOE設計サイクルに於いて、DOE側の制約として、t(x,y)の絶対値が1であるという制約を加え、|t(x,y)|=t’(x,y)/|t’(x,y)|とする本発明の反復フーリエ変換循環図。
【0172】
【図10】像面側の制約として、N×Nの画素をもつ像面において、目的パターンを含む中央部を信号領域Rsig(R×R)としその外側を周辺部Nevとすることを説明するための像面分割図。信号領域と周辺部で異なる関数を与えるので境界で不連続となる。逆フーリエ変換・フーリエ変換計算の循環数が増えると周辺部と境界へノイズが蓄積されてゆく。
【0173】
【図11】レーザビームがガウシアンビームとして入力ビーム径をwinとしレンズで絞って伝搬距離L(集光点)の位置でビームウエストwを形成するということを説明するための図。winが大きいほどwを小さくすることができる。wは像面のパターンによって決まるからこれにより必要な入射ビームの径winが決まる。
【0174】
【図12】像面の一点から光がDOE側に逆伝搬したとしてDOE面で作られる空間周波数νをν=sinθ/λで与えられることを説明するための図。
【0175】
【図13】反復フーリエ変換法で設計したビームシェーパーによる出力像面のパワーの均一性を評価するための信号領域内のトップハット部における最大強度、最小強度、平均強度の定義を示すための出力パワー分布図。
【0176】
【図14】本発明の比較例1のDOE設計の目的とするプリント回路パターンの図。信号関数をこのプリント回路形状を示す関数とする。
【0177】
【図15】波長λ=632.8nmのレーザビームを使う比較例1において、入射(ガウシアンビームとする)ビーム径win(mm)をパラメータとし、集光点である伝搬距離L(mm)とその位置に形成されるビームウエストw(μm)の大きさの関係を示すグラフ。
【0178】
【図16】波長λ=632.8nmのレーザビームを使う比較例1において、サンプリング間隔δ(μm)をパラメータとし、集光点である伝搬距離L(mm)とそのときにナイキストの定理を満たすDOE最大サイズRmax(mm)の関係を示すグラフ。
【0179】
【図17】回路パターン(電極パッドと配線)形成を目的としノイズ軽減アルゴリズムを用いない比較例1において反復フーリエ変換計算の反復回数(回)とSN比(dB)の増加の関係を示すグラフ。
【0180】
【図18】比較例1によって設計されたビームシェーパー(DOE)による出力像面の図(計算上の像)。信号関数usig(x,y)で与えられた回路パターンを忠実に再現することができた。信号領域光量の全光量に対する割合であるエネルギー効率はη=27.1%である。周辺部や境界へ漏れてゆくノイズが多いということである。
【0181】
【図19】比較例1の設計値によって実際に製作された石英製のDOEによる像面パターンの写真。信号関数usig(x,y)によって与えられた回路パターンを正確に再現している。境界が明るいのはそこへノイズが強く集中しているということである。周辺部にもノイズが発生しており幾分明るくなっている。エネルギー効率を実測するとη=20%であった。
【0182】
【図20】比較例1によって設計され製作された石英製のDOEによって回折され像面に形成された回路パターンの全体図。広い電極パッドと細い配線から成るパターンである。
【0183】
【図21】図20に示されたパターンの内の電極パッドの表面の拡大写真と表面の中心線に沿った光量分布グラフ。
【0184】
【図22】図20に示されたパターンの内の横配線の表面の拡大写真と配線の中心線に沿った光量分布グラフ。
【0185】
【図23】図20に示されたパターンの内の折れ曲がり部を持つ横配線の表面の拡大写真と配線の中心線にそった光量分布グラフ。
【0186】
【図24】図20に示されたパターンの内の4本の縦方向配線の拡大写真と4本の配線を横切る線にそった光量分布グラフ。
【0187】
【図25】比較例1の設計値によって実際に製作された石英製のDOEによって信号領域へ回折される光量の全光量に対する比率であるエネルギー効率ηを測定するための光学系図。像面の信号領域と同じ大きさの開口部をもつマスクを像面位置に設け開口部を通った光を集光しパワーメータで測定している。
【0188】
【図26】比較例1と同じ回路パターンを同じパラメータを用い、ノイズ低減アルゴリズムを使って繰り返し逆フーリエ変換・フーリエ変換計算してDOEを設計し製造する実施例1において、逆フーリエ変換・フーリエ変換計算反復回数による、エネルギー効率η(%)とSN比(dB)の変動を示すグラフ。
【0189】
【図27】比較例1と同じ回路パターンを同じパラメータを用い、ノイズ低減アルゴリズムを使って繰り返し逆フーリエ変換・フーリエ変換計算してDOEを設計し製造する実施例1によって設計されたDOEによる出力像面の図。
【0190】
【図28】比較例2が目的とする幅10μm、長さ100μmの微小ラインパターンの図。縦方向(y方向:10μm)の光量分布はガウシアン(係数が2)で光量分布を左に拡大して書いてある。横方向(x方向:100μm)の光量分布は25次のスーパーガウシアンであり下に拡大して関数形を描いている。
【0191】
【図29】λ=355nmを用いる比較例2において、入射ビーム形winをパラメータとして、伝搬距離(集光点)L(mm)と、集光点Lに生成されるビームウエストw(μm)の大きさの関係を示すグラフ。
【0192】
【図30】λ=355nmを用いる比較例2において、サンプリング間隔δをパラメータとして、ナイキストの定理で制限される伝搬距離(集光点)L(mm)と、最大DOEサイズRmax(mm)の関係を示すグラフ。
【0193】
【図31】微小ラインパターン(10μm×100μm)を目的画像とし、ノイズ低減アルゴリズムを用いない比較例2において、win=9mmのレーザビームを用いた場合の、逆フーリエ変換・フーリエ変換計算の反復回数と、その結果として得られたDOEのSN比(dB)と、エネルギー効率η(%)の変化を示すグラフ。
【0194】
【図32】微小ラインパターン(10μm×100μm)を目的画像とし、ノイズ低減アルゴリズムを用いない比較例2において、レーザビーム径win=9mmの場合の、逆フーリエ変換・フーリエ変換計算の反復回数と、その結果としてえられたDOEのエネルギー効率η(%)と、均一性平均値(%)の変化を示すグラフ。
【0195】
【図33】微小ラインパターン(10μm×100μm)を目的画像とし、ノイズ低減アルゴリズムを用いない比較例2において、レーザビーム径win=10mmの場合の、逆フーリエ変換・フーリエ変換計算の反復回数と、その結果としてえられたDOEのSN比(dB)と、エネルギー効率η(%)の変化を示すグラフ。
【0196】
【図34】微小ラインパターン(10μm×100μm)を目的画像とし、ノイズ低減アルゴリズムを用いない比較例2において、レーザビーム径win=10mmの場合の、逆フーリエ変換・フーリエ変換計算の反復回数と、その結果としてえられたDOEのエネルギー効率η(%)と、均一性平均値(%)の変化を示すグラフ。
【0197】
【図35】微小ラインパターン(10μm×100μm)を目的画像とし、ノイズ低減アルゴリズムを用いた実施例2において、レーザビーム径win=9mmの場合の、逆フーリエ変換・フーリエ変換計算の反復回数と、その結果としてえられたDOEのSN比(dB)と、エネルギー効率η(%)の変化を示すグラフ。
【0198】
【図36】微小ラインパターン(10μm×100μm)を目的画像とし、ノイズ低減アルゴリズムを用いた実施例2において、レーザビーム径win=9mmの場合の、逆フーリエ変換・フーリエ変換計算の反復回数と、その結果としてえられたDOEのエネルギー効率η(%)と、均一性平均値(%)の変化を示すグラフ。
【0199】
【図37】微小ラインパターン(10μm×100μm)を目的画像とし、ノイズ低減アルゴリズムを用いた実施例2において、レーザビーム径win=10mmの場合の、逆フーリエ変換・フーリエ変換計算の反復回数と、その結果としてえられたDOEのSN比(dB)と、エネルギー効率η(%)の変化を示すグラフ。
【0200】
【図38】微小ラインパターン(10μm×100μm)を目的画像とし、ノイズ低減アルゴリズムを用いた実施例2において、レーザビーム径win=10mmの場合の、逆フーリエ変換・フーリエ変換計算の反復回数と、その結果としてえられたDOEのエネルギー効率η(%)と、均一性平均値(%)の変化を示すグラフ。
【0201】
【図39】実施例2において、DOE面の高さを4段階に量子化したときのwin=9mm、win=10mmの場合の、像面でのラインパターンの横断面、縦断面における光量分布図。目的とするラインパターンの縦方向はガウシアンであったが、DOEで形成されたパターンも縦方向はガウシアンになっている。横方向はスーパーガウシアンで信号関数を与えたが、DOEで形成されたパターンの横方向は平坦性がよくて信号関数に忠実な光分布を生成していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射レーザビームの二次元振幅関数を入力関数uin(x,y)とし、回折型光学素子(DOE)の複素透過率をDOE関数t(x,y)とし、目的とする像面でのパターンの光量分布像を信号関数usig(x,y)とし、目的画像を表現する信号関数usig(x,y)に初期位相Ω(x,y)を含む項exp(ikΩ(x,y))を掛けた関数を逆フーリエ変換して逆フーリエ変換関数t’(x,y)を求め、t’(x,y)にDOE側の制約を課してDOE関数t(x,y)とし、これに入射レーザ光分布を表す入力関数uin(x,y)を掛けたものt(x,y)uin(x,y)をフーリエ変換し像面側のフーリエ変換関数U(x,y)を得、像面に於いて中央部の目的パターンを含む矩形部分を信号領域Rsigとし、その外部は周辺部Nevとして、信号領域Rsigへ回折された光量の全体の光量に対する比率をエネルギー効率ηとし、エネルギー効率閾値ηを与え(0<η<1)、信号領域Rsig内部では、制約関数U’(x,y)を信号関数usig(x,y)とフーリエ変換関数U(x,y)の位相部分の積によって与え(U’(x,y)=usig(x,y)exp(iargU(x,y))、周辺部Nevでは、η≧ηのときは、制約関数U’(x,y)をフーリエ変換関数U(x,y)そのものとし(U’(x,y)=U(x,y))、η<ηのときは、0<β<1である定数をU(x,y)に掛けたものβU(x,y)を制約関数とし(U’(x,y)=βU(x,y))、制約関数U’(x,y)を逆フーリエ変換してDOE側の逆フーリエ変換関数t’(x,y)を求めそれにDOE側の制約を課してDOE関数t(x,y)を得て、t(x,y)に入力関数uin(x,y)を掛けたものt(x,y)uin(x,y)をフーリエ変換しU(x,y)を求める計算を繰り返す反復フーリエ変換によってDOE関数t(x,y)を求めるようにしたことを特徴とする回折型光学部品の設計方法。
【請求項2】
DOE側の制約が、逆フーリエ変換関数の位相部分だけをDOE関数t(x,y)の位相に採用し、DOE関数の絶対値は1になるようにし、t(x,y)=exp(iarg(t’(x,y)))=t’(x,y)/|t’(x,y)|という制約をDOE側で与えることを特徴とする請求項1に記載の回折型光学部品の設計方法。
【請求項3】
サンプリング間隔をδ、ビームウエストを形成する集光点までの伝搬距離をL、レーザ光の波長をλとしたとき、DOEの最大サイズRmaxをRmax<L/{(2δ/λ)−1}によって制限することを特徴とする請求項1または2に記載の回折型光学部品の設計方法。
【請求項4】
DOE面での入力レーザビームの広がりwinと像面でのビームの広がりwsigと、DOEと像面の距離Lから、初期位相焦点距離をdph=wsigL/(wsig−win)によって決定し、初期位相Ω(x,y)を、Ω=−k(x+y)/2dph(kは波数2π/λ)によって与えることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の回折型光学部品の設計方法。
【請求項5】
目的とする像面のパターンのエッジを丸めるためにガウス関数とパターンの関数のコンボリューションを計算しそれを信号関数usig(x,y)とする事を特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の回折型光学部品の設計方法。
【請求項6】
回折型光学部品が入力振幅分布を所望の出力振幅分布に変換するビームシェーパーであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の回折型光学部品の設計方法。
【請求項7】
入力振幅分布がガウシアンである事を特徴とする請求項6に記載の回折型光学部品の設計方法。
【請求項8】
出力振幅分布が所望の形状のパターンであってパターン内での光量は均一である事を特徴とする請求項6又は7に記載の回折型光学部品の設計方法。
【請求項9】
入射レーザビームの二次元振幅関数を入力関数uin(x,y)とし、回折型光学素子(DOE)の複素透過率をDOE関数t(x,y)とし、目的とする像面でのパターンの光量分布像を信号関数usig(x,y)とし、目的画像を表現する信号関数usig(x,y)に初期位相Ω(x,y)を含む項exp(ikΩ(x,y))を掛けた関数を逆フーリエ変換して逆フーリエ変換関数t’(x,y)をもとめ、t’(x,y)にDOE側の制約を課してDOE関数t(x,y)とし、これに入射レーザ光分布を表す入力関数uin(x,y)を掛けたものt(x,y)uin(x,y)をフーリエ変換し像面側のフーリエ変換関数U(x,y)を得、像面に於いて中央部の目的パターンを含む矩形部分を信号領域Rsigとし、その外部は周辺部Nevとして、信号領域Rsigへ回折された光量の全体の光量に対する比率をエネルギー効率ηとし、エネルギー効率閾値ηを与え(0<η<1)、信号領域Rsig内部では、制約関数U’(x,y)を信号関数usig(x,y)とフーリエ変換関数U(x,y)の位相部分の積によってあたえ(U’(x,y)=usig(x,y)exp(iargU(x,y))、周辺部Nevでは、制約関数U’(x,y)を、η≧ηのときは、フーリエ変換関数U(x,y)そのものとし(U’(x,y)=U(x,y))、η<ηのときは、0<β<1である定数をU(x,y)に掛けたものを制約関数とし(U’(x,y)=βU(x,y))、制約関数を逆フーリエ変換してDOE側の逆フーリエ変換関数t’(x,y)を求めそれにDOE側の制約を課してDOE関数t(x,y)を得て、t(x,y)に入力関数uin(x,y)を掛けたものt(x,y)uin(x,y)をフーリエ変換をしU(x,y)を求める計算を繰り返す反復フーリエ変換によってDOE関数t(x,y)を求め、そのようにして求めたt(x,y)を有することを特徴とする回折型光学部品。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2006−227503(P2006−227503A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44063(P2005−44063)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】