説明

回折格子保持具およびこれを備えた光ピックアップ装置

【課題】 回折格子(保持具)をハウジングに組み込み後、微調整を行うために回折格子保持具とは別異のバネ部材が必要であり、部品点数の削減や、組み立て工数の簡素化に限界があった。
【解決手段】 硬質で若干の可撓性を有する合成樹脂により成形された回折格子保持具に、回折格子の保持部と、保持部と離間した弾性部とを設ける。弾性部が撓むことによって、回折格子保持具が付勢され、ハウジングとの摩擦力を大きくすることができるので、別異のバネ部材が不要となる。弾性部と保持部は離間しているので、弾性部の撓みが保持部又はこれに保持された回折格子に及ぶ影響を小さくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子保持具およびこれを備えた光ピックアップ装置に係り、特に部品点数の削減および組み立て工数の削減が可能な回折格子保持具およびこれを備えた光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光を光ディスクの信号記録層に照射することによって信号の読み出し動作や信号の記録動作を行う光ディスク装置に用いられている光ピックアップ装置には、半導体レーザー及び回折格子が組み込まれている。
【0003】
回折格子は、半導体レーザーから出射されるレーザー光の光路上で半導体レーザーの出射方向前方に配置され、レーザー光を、0次光、+1次光及び−1次光に分離する光学素子である。0次光、+1次光及び−1次光に分離されたレーザー光は、3ビーム法や差動プッシュプル法によるトラッキング制御に用いられる。
【0004】
図5は光ピックアップ装置のハウジングへ組み込まれる半導体レーザー及び回折格子の一例を説明するための分解斜視図である。
【0005】
ハウジング21は、半導体レーザー25から出射されるレーザービームの光路を形成する円筒状の孔29が形成されている。この円筒状の孔29には回折格子28が組み込まれるとともに、バネ部材27を介してレーザーホルダー26が組み込まれる。半導体レーザー25及びレーザーホルダー26は押圧板24により、光軸方向に押圧されながらハウジング21に組み込まれ、止めねじ22によりハウジング21に固定される。半導体レーザー25及びレーザーホルダー26がハウジング21に固定されたことにより、バネ部材27に弾性力が付与され、回折格子28は押圧されながら円筒状の孔29に組み込まれる。
【0006】
ハウジング21に設けられた貫通孔23に回折方向調整部材(不図示)を挿入して回折格子25と係合させることにより、回折格子28の回動軸を中心として回動させ、半導体レーザー25から出射されるレーザービームの回折方向の調整を可能としている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
バネ部材は、回折格子(保持具)とハウジングとの摩擦力を大きくするための回折格子(保持具)の押圧手段であり、例えば、回折格子保持具を上方から押圧する構成も知られている(例えば特許文献2参照。)。
【0008】
また、図6の如く、回折格子の前方に板バネを配置する構成も採用される。図6(A)はハウジング30と、これに組み込まれるレーザーユニット31の分解斜視図であり、図6(B)および図6(C)はそれぞれ、レーザーユニット31および回折格子保持具35を示す斜視図である。
【0009】
レーザーユニット31は、半導体レーザー32を保持する半導体レーザー保持具33と、回折格子保持具35がバネ部材34によって固定されており、回折格子保持具35の一主面の両端に板バネ34aが帯状に延在する。ハウジング30のレーザーユニット31の取り付け領域は、レーザーユニット31の厚みより若干小さく形成され、レーザーユニット31は板バネ34aが撓んだ状態で、ハウジング30に取り付け固定される。回折格子保持具35は撓んだ板バネ34aによって半導体レーザー保持具33に押圧される。
【0010】
回折格子保持具35は中心部分に保持部38を有し、上辺に回折方向調整部材(偏心ピンなど)が挿入される調整溝37が設けられる。保持部38には、樹脂又はガラスで成形された回折格子36が保持される。そして、回折格子保持具35は、半導体レーザー保持具33と一体に保持された状態で、回折格子保持具35のみが例えば破線(図6(C))の回動軸を中心として若干の回動(矢印)が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−243107号公報
【特許文献2】特開平11−312316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記(例えば図6)の如く、回折格子36はハウジング30に組み込まれた後に適切な回折方向を得るため、回折方向調整部材(偏心ピンなど)を回折格子保持具35の調整溝37に挿入するなどして回転調整され、その後固定される。つまり、回折格子保持具35はハウジング30に組み込まれた直後は、回転可能に保持されている。
【0013】
ここでの調整は、例えばフォトダイオードからの出力を検出しながら、実際に同じハウジング30に組み込まれる半導体レーザー32のレーザー光が適切に分離(回折)されるように行うものであり、このレーザー光の特性との関係で一般にはごく微量なものとなる。
【0014】
このため、回折格子保持具35をバネ部材34によって押圧し、回折格子保持具35などと当接する部材(ハウジング30または半導体レーザー保持具33など)との摩擦力を大きくすることでごく微量な調整を可能としている。
【0015】
回折格子保持具35とこれと当接する部材(例えばハウジング)の摩擦力が小さいと、回転調整の際に適切な位置を維持できず、回折格子保持具35が回転しすぎたり、回折方向調整部材を離脱した後に回折格子保持具35の回転位置が変位してしまうなど、適切な調整が困難となる。
【0016】
従って、光ピックアップ装置における回折格子36のハウジングへの組み込み作業においては、回折格子保持具35と当接する部材との摩擦力を大きくするためのバネ部材34が必要となり、部品点数が増加する上に、組み込み作業が煩雑なものとなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、係る課題に鑑みてなされ、第1に、レーザー光を回折する回折格子をハウジングに取り付けるための回折格子保持具が、回折格子を保持する保持部と、該保持部と一体に設けられ且つ空間によって離間され、該保持部より可撓性を有する可撓部と、を具備することにより解決するものである。
【0018】
また、前記可撓部は、周辺より厚みが薄い薄肉部であることを特徴とするものである。
【0019】
また、前記空間はスリットであることを特徴とするものである。
【0020】
また、前記可撓部は、一主面に突起部を有し、該突起部を荷重点としたとき前記保持部より可撓性が高くなることを特徴とするものである。
【0021】
また、前記保持部および前記可撓部は合成樹脂により成形されることを特徴とするものである。
【0022】
また、前記保持部に保持される回折格子が該保持部と一体的に成形されることを特徴とするものである。
【0023】
第2に、レーザー光を光学記録媒体に照射して該光学記録媒体で反射する前記光を検出する光ピックアップ装置が、半導体レーザー装置と、請求項1から請求項6のいずれかに記載の回折格子保持具とがハウジングに組み込まれたことにより解決するものである。
【0024】
また、前記回折格子保持具は前記可撓部の撓みによって前記回折格子保持具が当接する部材に押圧されて固定されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施の形態によれば、回折格子保持具を押圧するためのバネ部材を削除できるので部品点数の削減によるコストの低減に寄与できる。
【0026】
また、バネ部材を回折格子保持具と別異に組み込む必要がないので、組み込み作業の簡素化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態における光ピックアップ装置の光学系を示す(A)平面概略図、(B)断面概略図である。
【図2】本発明の実施形態における光ピックアップ装置の要部の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における回折格子保持具を示す斜視図である。
【図4】本発明の回折格子保持具を説明するための断面図である。
【図5】従来の技術を説明するための分解斜視図である。
【図6】従来の技術を説明するための(A)分解斜視図、(B)斜視図、(C)斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態を図1から図4を用いて詳細に説明する。
【0029】
図1は、は本実施形態の光ピックアップ装置の光学系の一例を示す概略図であり、図1(A)は平面概要図、図1(B)は図1(A)のa−a線断面図である。図1(B)は、第1光ディスクD1に設けられている信号記録層R1の位置と第1対物レンズ11との位置関係、第2光ディスクD2に設けられている信号記録層R2の位置と第2対物レンズ21との位置関係、および第3光ディスクD3に設けられている信号記録層R3の位置と第2対物レンズ21との位置関係を示す。
【0030】
本実施形態では、一例として、Blu−ray Disk(以下BD)規格の光ディスク(第1光ディスク)、DVD(Digital Versatile Disc)規格の光ディスク(第2光ディスク)及びCD(Compact Disc)規格の光ディスク(第3光ディスク)に対応した光ピックアップ装置について説明する。
【0031】
まず、第1光ディスクD1に設けられている信号記録層R1に記録されている信号の再生動作または該信号記録層R1へ信号の記録動作を行う第1光学系の構成について説明する。
【0032】
図1(A)において、第1の半導体レーザー装置LD1は、第1波長、例えば405nmの青色光である第1レーザー光(実線)を放射するレーザーダイオードである。
【0033】
第1回折格子GR1は、レーザーダイオードLD1から放射される第1レーザー光が入射され、第1レーザー光を0次光、+1次光及び−1次光に分離する。
【0034】
偏光ビームスプリッタ3は第1回折格子GR1を透過したレーザーダイオードLD1から放射される第1レーザー光が入射され、S偏光された第1レーザー光を反射し、P方向に偏光された第1レーザー光を透過させる制御膜(不図示)が設けられている。
【0035】
レーザーダイオードLD1から放射される第1レーザー光は偏光ビームスプリッタ3の制御膜に対してS偏光となるように設定される。この第1レーザー光の直線偏光方向の設定は、レーザーダイオードLD1を第1レーザー光の光軸を中心として回転させたり、あるいは1/2波長板をレーザーダイオードLD1と偏光ビームスプリッタ3との間に設けて前記1/2波長板によりレーザーダイオードLD1から放射される第1レーザー光の直線偏光方向を変換させてもよい。
【0036】
第1コリメートレンズ4は、偏光ビームスプリッタ3から反射された第1レーザー光が入射され、入射されたレーザー光を平行光にする作用を成すとともにBD規格の光ディスク(ここでは不図示)の保護層による球面収差を補正する。
【0037】
図1(B)を参照して、第1立ち上げミラー5は第1レーザー光を上方(光ディスクD1、D2、D3)方向に反射させる。
【0038】
第1の1/4波長板6で円偏光光に変換された第1レーザー光は、第1対物レンズ11の集束動作によって、第1光ディスクD1に設けられている信号記録層R1にスポットとして照射される。この場合における第1対物レンズ11の開口数は0.85になるように設定されている。
【0039】
第1光ディスクD1の信号記録層R1に集束された第1レーザー光は信号記録層R1で反射して戻り光として第1対物レンズ11に入射され、第1の1/4波長板6、第1立ち上げミラー5及び第1コリメートレンズ4を介して偏光ビームスプリッタ3に入射される。
【0040】
第1レーザー光は、光路の往復で第1の1/4波長板6を2度通過する。そのため復路の第1レーザー光(戻り光)は往路のレーザー光と直線偏光方向が90度回転され、P方向の直線偏光光に変換されている。
【0041】
P方向の直線偏光光は、偏光ビームスプリッタ3に設けられている制御膜(不図示)を透過し、第1センサーレンズ(アナモフィックレンズ)8に入射する。第1センサーレンズ8は、シリンドリカル面、平面、凹曲面または凸曲面等が入射面側及び出射面側に形成されている。
【0042】
第1センサーレンズ8は戻り光に非点収差を発生させることによってフォーカス制御動作に使用されるフォーカスエラー信号を生成させるために設けられている。第1光検出器9は、第1センサーレンズ8を通過した戻り光が集光されて照射される位置に設けられる。第1センサーレンズ8によって非点収差が発生せしめられた戻り光は、第1センサーレンズ8の集光動作によって第1光検出器9のセンサー部(不図示)に照射される。センサー部は、フォトダイオードが配列された4分割センサー等にて構成され、受光した第1レーザー光の強度分布から再生RF信号、フォーカスエラー信号およびトラッキングエラー信号を導出する。
【0043】
各センサーからの信号は、ディスク装置側の再生回路およびサーボ回路に出力される。PDICを用いて行われるサーボには、ディスクの記録面垂直方向の焦点合わせの為のフォーカスサーボと、ディスクの記録トラックに追従する半径方向の位置合わせのためのトラッキングサーボとが含まれる。フォーカスサーボとしては非点収差法または差動非点収差法が採用可能である。そして、トラッキングサーボとしては、プッシュプル法、差動プッシュプル(DPP)法、インラインDPP法または3ビーム法が採用可能であり、これらに第1回折素子GR1によって0次光、+1次光及び−1次光に分離されたレーザー光が用いられる。
【0044】
次に、第2光ディスクD2及び第3光ディスクD3設けられている信号記録層R2及びR3に記録されている信号の再生動作または該信号記録層R2及びR3へ信号の記録動作を行う第2光学系の構成について説明する。第1光学系と同様の構成は詳細な説明を省略する。
【0045】
再び図1(A)を参照して、第2の半導体レーザー装置LD2は、例えば、第2波長、例えば650nmの赤色光である第2レーザー光(破線)及び第3波長、例えば780nmの赤外光である第3レーザー光(一点鎖線)の波長が異なる2つの波長のレーザー光を放射する2波長レーザーダイオードである。
【0046】
第2回折格子GR2は2波長レーザーダイオードLD2から放射される第2レーザー光または第3レーザー光が入射され、入射されるレーザー光を0次光、+1次光及び−1次光に分離する。
【0047】
ビームスプリッタ(ハーフミラー)12は前記第2回折格子GR2を透過した信号が入射され、第2レーザー光または第3レーザー光を反射および第2レーザー光または第3レーザー光を透過させる制御膜(不図示)が設けられている。ビームスプリッタ12に換えて、偏光ビームスプリッタと1/2波長板を設けてもよい。
【0048】
図1(B)を参照して、第2立ち上げミラー16は第2レーザー光または第3レーザー光を反射し、第2の1/4波長板13を介して第2対物レンズ21に入射させる。第2レーザー光は第2対物レンズ21の集束動作によって第2光ディスクD2の信号記録層R2にスポットとして照射される。この場合における第2対物レンズ21の開口数は0.6になる。第2対物レンズ21に入射された第3レーザー光は第2対物レンズ21の集束動作によって第3光ディスクD3の信号記録層R2にスポットとして照射される。この場合における第2対物レンズ21の開口数は0.45になる。
【0049】
第2光ディスクD2および第3光ディスクD3で反射して第2対物レンズ21に入射された第2レーザー光または第3レーザー光の戻り光は、第2の1/4波長板13、第2立ち上げミラー16、第2コリメートレンズ14を介してビームスプリッタ12に入射される。
【0050】
ビームスプリッタ12に入射される戻り光は、第2レーザー光または第3レーザー光を反射および第2レーザー光または第3レーザー光を透過させる。
【0051】
第2センサーレンズ18を透過した戻り光は集光されて第2光検出器19に照射される。第2光検出器19のセンサー部(不図示)で受光した第2レーザー光または第3レーザー光の強度分布から、同様に再生RF信号、フォーカスエラー信号およびトラッキングエラー信号を導出する。第1光学系と同様に、各センサーからの信号は、ディスク装置側の再生回路およびサーボ回路に出力される。
【0052】
図2から図4を参照して、本実施形態の回折格子保持具100a、100bについて説明する。
【0053】
図2は本実施形態の光ピックアップ装置50の概要を示す斜視図であり、本実施形態の説明に必要な主要部のみを抽出して図示したものである。図2(A)が全体の斜視図であり、図2(B)が第1光学系の一部拡大図であり、図2(C)が第2光学系の一部拡大図である。
【0054】
図2を参照して、光ピックアップ装置50のハウジング51は、半導体レーザー装置設置部52a、52b、回折格子設置部53a、53b、光学素子設置部54a、54bおよび不図示のアクチュエータ設置部を有する。2つの半導体レーザー装置設置部52a、52bにはそれぞれ、レーザーダイオードLD1、2波長レーザーダイオードLD2が組み込まれ、2つの回折格子設置部53a、53bにはそれぞれ、回折格子保持具100aで保持された第1回折格子GR1および、回折格子保持具100bで保持された第2回折格子GR2が組み込まれる。
【0055】
また、図示を省略するが、光学素子設置部54a、54bには、第1回折格子GR1および第2回折格子GR2とレーザダイオードLD1および2波長レーザーダイオードLD2を除いた第1光学系および第2光学系のそれぞれの光学素子が配置される。具体的には、光学素子設置部54aには、第1コリメータレンズ4、第1立ち上げミラー5、偏光ビームスプリッター3、第1センサーレンズ8および第1光検出器9などが配置される。また光学素子設置部54bには、第2コリメータレンズ14、第2立ち上げミラー16、ビームスプリッター12、第2センサーレンズ18、第2光検出器19などが配置される。
【0056】
更に、光学素子設置部54の下方となるハウジング51の裏面のアクチュエータ設置部(不図示)には、第1対物レンズ11および第2対物レンズ21と、これらを駆動させるアクチュエータが組み込まれる。
【0057】
以下、図2(A)(B)を参照して、主に第1光学系のレーザーダイオードLD1のレーザー光を分離する第1回折格子GR1およびこれが保持される回折格子保持具100aについて説明するが、第2光学系の第2回折格子GR2及びこれが保持される回折格子保持具100bについても同様である。
【0058】
半導体レーザー装置設置部52aのハウジング51には、レーザーダイオードLD1の第1レーザー光の光路を形成する開口部OP1が形成されている。そして第1レーザー光の出射方向(Z方向)の前面に、回折格子設置部53aが設けられ、回折格子保持具100aが組み込まれる。
【0059】
回折格子保持具100aは、略中央部分に第1回折格子GR1が保持される。回折格子設置部53aの第1レーザー光の出射方向のハウジング51には、開口部OP2が設けられる。第1回折格子GR1は、開口部OP1、OP2と重なるように保持され、第1レーザー光の光路上に配置される。
【0060】
回折格子設置部53aのZ軸方向の幅(厚み)は、回折格子保持具100の厚みより若干小さく、回折格子保持具100aは、一部が撓みながら、ハウジング51と当接するように組み込まれる。回折格子保持具100aの一部が撓んだ状態で組み込まれることにより、回折格子保持具100は、Z方向にハウジング51を押圧し、またハウジング51から−Z方向に押圧されて固定される。
【0061】
図2(A)(C)を参照して、第2回折格子GR2を保持する回折格子保持具100bも、一部が撓みながら、ハウジング51と当接するように組み込まれる。これにより、回折格子保持具100bは、第2レーザー光の出射方向であるZ方向にハウジング51を押圧し、またハウジング51から−Z方向に押圧されて固定される。
【0062】
図3および図4を参照して、回折格子保持具100a、100bについて説明する。図3は、回折格子保持具100a、100bの斜視図であり、図3(A)は、第1回折格子GR1を保持する回折格子保持具100aであり、図3(B)は、第2回折格子GR2を保持する回折格子保持具100bを示す斜視図である。また、図4は、回折格子保持具100bがハウジング51に取り付けられる状態を示す図であり、図3(B)のb−b線断面図である。また、以下、回折格子保持具100a、100bを総じて説明する場合には、回折格子保持具100と総称する。
【0063】
回折格子保持具100は、保持部101と可撓部103とを有する。保持部101は本体107の略中央に設けられ、可撓部103は本体107の両側端に設けられる。回折格子保持具100は、射出成形が可能で、硬質でありながら可撓性(弾力性)を有する合成樹脂材料が基材として用いられた一体成形品である。
【0064】
合成樹脂材料の一例としては、熱可塑性合成樹脂であるポリカーボネート(Polycarbonate)や、透明性が高く光学特性を有するアクリル樹脂のポリメタクリル酸メチル樹脂(polymethylmethacrylate:PMMA)などが採用される。
【0065】
保持部101は、略矩形(図3(A))または略矩形(図3(B))の領域であり、例えばガラスや光学特性に優れた合成樹脂などにより成形された既知の第1回折格子GR1、第2光学素子GR2が保持される。
【0066】
保持部101と可撓部103は同一材料にて一体的に形成されているが、空間によって離間されている。すなわち、保持部101はその両側にスリット102が設けられ、スリット102を挟んで保持部101の外側に可撓部103が設けられる。
【0067】
保持部101と一部空間的に離間する可撓部103は、両端固定梁の構造となる。具体的には、可撓部103は、長さL、厚みT1、幅W1の薄肉部103Tを有し、薄肉部103Tの厚みT1は、その周辺(本体107の厚みT3または保持部101の厚みT4)より薄く、例えば厚みT3の1/2程度である。可撓部103両端の厚みT3は、本体107と同等である。
【0068】
また、回折格子保持具100の、レーザーダイオード側の主面(背面)Sf1は、薄肉部103Tおよび本体107のいずれも略平坦面である。一方、回折格子保持具100の他の主面(前面)Sf2は、可撓部103に略半球状の突起部105が設けられている。
【0069】
このため、可撓部103は、突起部105を荷重点としたとき保持部101より可撓性が高くなり、材料の弾性限度内において、両端固定の板ばねとして機能することになる。
【0070】
回折格子保持具100の上側端(Y方向端)には、不図示の回折方向調整部材(偏心ピンなど)が挿入される調整溝104が設けられる。下側端(−Y方向端)には、回折格子保持具100の回転(回動)中心となる回転軸106が設けられる。
【0071】
本実施形態では、可撓部103が撓むように回折格子保持具100がハウジング51に取り付けられることによって、別異のバネ部材を用いることなく、回折格子保持具100とハウジング51との摩擦力を大きくすることができる。
【0072】
図4を参照して更に説明する。図4は図3(B)の断面図であるが、図3(A)の場合も同様である。
【0073】
回折格子設置部53(53aおよび53b)の厚みT5は、それぞれ取り付けられる回折格子保持具100の、突起部105頂点から背面Sf1までの厚み(以下、取り付け厚み)T2より若干薄い。つまり、回折格子設置部53に回折格子保持具100を組み込むことにより、回折格子保持具100は、両主面Sf1、Sf2がハウジング51内に押し付けられた状態となり、ハウジング51からZ方向の押圧力を受け、同時にハウジング51に対して−Z方向の押圧力を与える。
【0074】
回折格子保持具100は、背面Sf1の本体107部分が回折格子設置部53のハウジング51と面接触する。
【0075】
一方、回折格子保持具100の前面Sf2は、可撓部103に略半球状の突起部105が設けられており、突起部105頂点が回折格子設置部53のハウジングと点接触する。
【0076】
尚、保持部101の厚みT4は、回折格子設置部53の厚みT5より大きいが、保持部101は回折格子設置部53の開口部OP2からから突出するので取り付け時の制約とはならない(図2参照)。
【0077】
回折格子保持具100は、本体107の背面Sf1がハウジング51と面接触し、可撓部103の前面Sf2に設けられた突起部105がハウジング51と点接触してハウジング51内に押し付けられた状態となるので、突起部105に押圧力が集中し、可撓部103は突起部105を荷重点としたとき保持部101より可撓性が高くなるため、可撓部103(薄肉部103T)が−Z方向に撓む。このように、突起部105によって低い荷重でも大きく変形させることができる。
【0078】
このように、可撓部103は、両端固定の板ばねとして機能するので、別異のバネ部材を用いることなく、回折格子保持具100とハウジング51の摩擦力を大きくすることができる。このとき、回折格子保持具100は背面Sf1において擦動面として広い面積を確保するので、摩擦力の増加が図れる。
【0079】
再び図3を参照して回折格子保持具100の回転調整方法を説明する。
【0080】
回折格子保持具100は、回折格子設置部53に取り付けられると、下側端(−Y方向端)に設けられた円筒形状の回転軸106が、開口部OP2の下端と当接し、回転軸106の周縁で支持された状態となる。また、回折格子設置部53の厚みT5は回折格子保持具100の取り付け厚みT2より小さいが、X軸方向の幅は、回折格子保持具100より大きい。従って、ハウジング51に回折格子保持具100を取り付けた状態で、回折方向調整部材(不図示)を調整溝104に挿入し、回折方向調整部材(不図示)によって回折格子保持具100をX軸方向に摺動させると、回折格子保持具100は回転軸106を回転中心として、矢印方向に回動する。
【0081】
このとき、回折格子保持具100は、可撓部103のばね特性によって、ハウジング51との摩擦力が大きくなっている。従って、ごく微量な回転(調整)が可能となり、且つ、回動後は外部からの支持がなくてもその状態を維持することができる。一例として、回折格子保持具100の物理的な回転可能量は±1°であり、調整する量はその10分の1〜10分の2程度である。
【0082】
不図示のフォトダイオードで検出しながら、回折格子保持具101を微量に回動させることにより、レーザーダイオードLD1または2波長レーザーダイオードLD2から出射されるレーザー光の回折方向を適切に調整できる。
【0083】
回折格子保持具100は適切な回転調整が行われた後、例えば紫外線硬化樹脂などの接着材にて当接する部材(例えばハウジング51)に押圧された状態で固定される。回折格子保持具100は、可撓部103のばね特性によってその位置が適切な状態で維持されているので、容易に固定することができる。
【0084】
このように本実施形態の回折格子保持具100は、バネ部材を用いることなく、微量な回転調整が可能となり、且つ調整後は自身で適切な状態を維持できるので、部品点数の削減と、組み立て工数の簡素化を実現できる。
【0085】
図3(B)を参照して、本実施形態の回折格子保持具100bは、回折格子(ここでは第2回折格子GR2)が保持部101と一体的に形成されて保持された構造であってもよい。
【0086】
例えば、CD規格およびDVD規格用の2波長レーザーダイオードLD2の回折格子(第2回折格子GR2)は、ポリカーボネートや、PMMAなどの光学特性を有するアクリル樹脂により成形できる。
【0087】
この場合は、保持部101および可撓部103と一体的に第2回折格子GR2を成形することができる。
【0088】
可撓部103は、保持部101とスリット102によって分離されている。従って、回折格子保持具100をハウジング51に取り付けて可撓部103が撓んだ場合であっても、その撓みが保持部101およびこれに保持される回折格子に及ぶことはない。従って、第2回折格子GR2が保持部101と一体的に成形された場合であっても、第2回折格子GR2が変形することを回避できる。
【0089】
可撓性103は、薄肉部103Tを設け、スリット102によって保持部101から独立させることによって、厚みT1と幅W1による断面積を小さくし、保持部101よりも撓み易くしている。
【0090】
従って、可撓部103の形状は図示したものに限らない。例えば、スリット102は、一端が端部まで達し、可撓部103の一端が本体と離間していてもよい。この場合は、可撓部103は一端固定の板ばねとして機能することになる。
【0091】
また、厚みT1も上記の値に限らず、適切なばね特性が得られるよう、厚みT1と幅W1による断面積を適宜選択できる。
【0092】
更に、本実施形態では、回折格子保持具100が当接し、押圧されて固定される部材がハウジング51の場合を例に説明したが、これに限らない。例えば、回折格子保持具100の背面Sf1側が当接し押圧されて固定される部材が、レーザーダイオードの保持具(図6参照)などであってもよい。
【0093】
回折格子保持具100の合成樹脂材料としては可撓性を有するものであれば、回折格子保持具100とこれが当接する部材との摩擦力を向上できるが、回折格子保持具100の固定後の変形(経時変化も含めた変形)を回避するため、硬質であるものが望ましい。
【0094】
尚、本実施形態の光ピックアップ装置50の光学系は一例であり、半導体レーザー装置からのレーザー光を対物レンズにより集光し、光ディスクに照射して、該光ディスクで反射するレーザー光を検出してデータの記録又は読み出しを行うものであればよい。
【0095】
従って、1波長のレーザー半導体装置からのレーザー光を用いる光ピックアップ装置や、1つのレーザー半導体装置で複数波長に対応する光ピックアップ装置であっても同様に実施でき、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0096】
3 偏光ビームスプリッタ
4 第1コリメートレンズ
5 第1立ち上げミラー
8 第1センサーレンズ
9 第1光検出器12
14 第2コリメートレンズ
16 第2立ち上げミラー
19 第2光検出器
100 回折格子保持具
101 保持部
102 スリット
103 可撓部
103T 薄肉部
104 調整溝
105 突起部
106 回転軸
107 本体
GR1 第1回折格子
GR2 第2回折格子
LD1 レーザーダイオード
LD2 2波長レーザーダイオード



【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を回折する回折格子をハウジングに取り付けるための回折格子保持具であって、
回折格子を保持する保持部と、
該保持部と一体に設けられ且つ空間によって離間され、該保持部より可撓性を有する可撓部と、
を具備することを特徴とする回折格子保持具。
【請求項2】
前記可撓部は、周辺より厚みが薄い薄肉部であることを特徴とする請求項1に記載の回折格子保持具。
【請求項3】
前記空間はスリットであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回折格子保持具。
【請求項4】
前記可撓部は、一主面に突起部を有し、該突起部を荷重点としたとき前記保持部より可撓性が高くなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の回折格子保持具。
【請求項5】
前記保持部および前記可撓部は合成樹脂により成形されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の回折格子保持具。
【請求項6】
前記保持部に保持される回折格子が該保持部と一体的に成形されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の回折格子保持具。
【請求項7】
レーザー光を光学記録媒体に照射して該光学記録媒体で反射する前記光を検出する光ピックアップ装置であって、
半導体レーザー装置と、
請求項1から請求項6のいずれかに記載の回折格子保持具とがハウジングに組み込まれたことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項8】
前記回折格子保持具は前記可撓部の撓みによって前記回折格子保持具が当接する部材に押圧されて固定されることを特徴とする請求項7に記載の光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−3802(P2012−3802A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136775(P2010−136775)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504464070)三洋オプテックデザイン株式会社 (315)
【Fターム(参考)】