説明

回折格子顔料及びその製造方法

【課題】 塗膜や成形物の外観に虹色発色を付与することができ、さらに発色強度の高い回折格子顔料を提供する。
【解決手段】 内部が中空となっている樹脂製の粒子からなり、この中空部により回折格子が構成されていることを特徴とする回折格子顔料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料や樹脂組成物などに配合して、それらに虹色の光輝性を付与する回折格子顔料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある一定の間隔(数μm)を有する回折格子に光が入射するとその反射光は分光され、虹色を発色する。最近、この光の回折原理を顔料に応用したものがいくつか提案され、これまでにはない全く新しい意匠効果が生まれている。
【0003】
塗膜や成型物に虹色を付与する回折格子顔料についてはいくつか知られている。例えば、フィルム等のシート上に剥離可能な樹脂層を配置し、この樹脂層に回折格子のパターンを転写し、さらに真空蒸着等によりアルミニウム等の金属層を配置することによって虹色の意匠効果を実現し、剥離、粉砕、分級によって顔料化を実現している(特許文献1参照)。また、溶融複合紡糸技術により高屈折率ポリマーと低屈折率ポリマーを交互に精密に積層した多層干渉性顔料の製造方法も開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
これらの光輝性顔料は、外部からの入射光をその表面で反射して虹色に輝き、塗料に配合されれば塗膜に、インキ組成物であれば描線または印刷面に、あるいは樹脂組成物であれば樹脂成型品の表面に、それら各種素地の色調と相まって変化に富んだ美粧性に優れた独特な外観を与える。また、この美粧性の向上を目的として、自動車、オートバイ、OA機器、携帯電話、家庭電化製品、印刷物または筆記用具類など各種用途に光輝性顔料は広く利用されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−327945号公報
【特許文献2】特開2000−246829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような従来の回折格子顔料の最大の問題点は量産性であり、シートから剥離させる工程や真空蒸着工程など複雑な工程を必要とする。この結果、顔料価格としては非常に高価なものとなってしまっており(100万円/kg以上)、意匠効果には優れるものの汎用的には使用することができないのが実状であった。さらに、屈折率差が十分ではないため、発色強度に改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために1番目の発明によれば、内部が中空となっている樹脂製の粒子からなり、この中空部により回折格子が構成されていることを特徴とする回折格子顔料が提供される。
【0008】
上記問題点を解決するために2番目の発明によれば、第一の樹脂により前記中空部の形状に相当する凹凸形状の面を有する成形体を形成し、第二の樹脂により前記成形体を完全に被覆して糸状物を形成し、前記第一の樹脂を除去して前記糸状物内を中空とし、前記糸状物を切断し、切断面を封止することの工程を含む、上記の回折格子顔料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来のものに比べはるかに安価かつ大量に回折格子顔料を製造することを可能とし、回折格子顔料の汎用性を大きく高めることができる。さらには、この回折格子顔料はより高い発色強度を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の回折格子顔料は樹脂製の粒子からなり、その内部が中空となっており、この中空部により回折格子が構成されていることを特徴とする。回折格子顔料を形成する材料として用いられる樹脂としては、成形が可能であれば特に制限されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ABS、AS、AES、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルサルホンまたはポリブタジエン、あるいはこれらポリマーの共重合体、混合物または変性物などが挙げられる。これらの中で、アクリル樹脂、メタクリル樹脂(例えばポリメチルメタクリレート、PMMA)、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及びポリアミドは透明性が高いことから、本発明の回折格子顔料を形成する樹脂として好ましい。
【0011】
本発明の回折格子顔料の形状は、使用用途によって多少異なるが、一般的には溶融紡糸法によって製造された糸状物を、延伸、裁断して製造されるため、図1に示すように、楕円柱状の粒子1であり、断面の長径lが10〜100μmであり、短径sが0.3〜10μmであり、厚みtが10〜100μmであることが好ましい。
【0012】
この粒子1中の中空部は、凹凸形状の面が所定の隙間をおいて相対することにより構成されており、回折格子として機能する。この凹凸形状の面上の凸部の頂点間の距離dは、顔料粒子1の幅(長径l)の半分以下であることが好ましい。この距離dが顔料粒子1の幅(長径l)の半分を超えると、中空部により構成される回折格子は平面に近づき、回折による分光幅が狭くなり、鮮明な虹を呈しなくなる。この距離dはより好ましくは1〜5μmである。
【0013】
ここで図2を用いて、一般的な回折像の強度と回折角について説明する。図2に示すように、スリットの隙間を2ξ0、スリットのピッチをd、スリットとスクリーンの間の距離をfとした場合、スリットに対して入射角θ0で入射した光は回折され、N次の回折光(N次光)は、スクリーン上で入射角θ0に対してN次の回折光の回折角θNの位置、すなわちスクリーン上の入射光の位置より距離x離れた位置に現れる。このときの回折像の強度は、以下に示す式(1)により求めることができる。
【数1】

【0014】
ここで1本のスリットにおける回折像は、p=mλ/2ξ0のときに暗くなり、一方M重スリットによるヤングの干渉縞は、p=Nλ/dのときに明るくなる。また距離xとfとの関係は、以下に示す式(2)の通りである。
p=x/f=sinθN−sinθ0 (2)
θ0:入射角
θN:N次の回折光の回折角
【0015】
上記から、回折光の最大強度をN次の回折光の位置にするための条件は以下に示す式(3)より求めることができる。
sinθN−sinθ0=Nλ/d (3)
【0016】
同様に、図3に示すような反射型の場合にも上記の式より説明することができ、回折光における干渉できる位置は距離dにより決まり、強度はξ/dで決まる。そして本発明の回折格子顔料における回折も、上記の回折像と同様に説明することができる。従って式(3)に示す式を用いて1次光を最大強度とする場合、N=1として、顔料の凸部の頂点間の距離dと入射光の波長λと入射角度θ0とを入力することによって、1次光の回折角θNの位置を算出することができる。これにより、所望の虹色を呈する顔料の形状をあらかじめデザインすることができる。
【0017】
1次回折光の回折角は、上記式(3)を用いて算出すると以下のようになる。
1次回折光の場合としてN=−1を代入して
sin(α−2γ)−sinα=−λ/d
また、正反射の位置以外に出る波長については、
sinβ−sinα=−λ/d
よって、β=sin−1(sinα−λ/d)
従って、例えば入射角=30°、距離d=3000nmの場合、上記式より
波長λ=d(sinα−sin(α−2λ))
=3000(sin30−sin20)
=474nm
となる。また、他の波長の色の出る反射角は
β=sin−1(sinα−λ/d)
より求めることができ、以下の結果が得られる。
波長λ=400nm→回折光の反射角β=22°
波長λ=500nm→回折光の反射角β=19°
波長λ=600nm→回折光の反射角β=17°
波長λ=700nm→回折光の反射角β=15°
波長λ=800nm→回折光の反射角β=13°
【0018】
本発明の回折格子顔料では、内部の回折格子部が空気を含む中空となっている。空気層の屈折率はほぼ1.0であるため、粒子を構成する樹脂を選択することにより屈折率差を大きくすることができる。例えばポリエチレンテレフタレートの屈折率は1.58、ポリカーボネートの屈折率は1.59、ポリスチレンの屈折率は1.59、ポリアミド(ナイロン)の屈折率は1.53、ポリメチルメタクリレートの屈折率は1.49であり、これらを樹脂材料として用いて上記のような回折格子顔料を製造することにより屈折率差を0.5程度と大きくすることができる。従来の回折格子顔料ではこの屈折率差は0.1〜0.2程度であり、光学理論的には、本発明の回折格子顔料は従来のものと比較して反射強度を5倍以上にすることができる。
【0019】
本発明の回折格子顔料は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、第一の樹脂を用いて、最終的な回折格子顔料中の中空部の形状に相当する凹凸形状の面を有する成形体を形成する。この成形体は一般的な樹脂の成形方、例えば押し出し、射出、型押し等によって形成する。第一の樹脂は、以下に説明するように後に除去されるが、その除去方法に応じて選択し、例えば溶解させて除去する場合には、用いる溶液もしくは溶媒に可溶である樹脂を用いる。すなわち、アルカリ水溶液により溶解除去する場合には、ポリ乳酸を用いることが好ましい。
【0020】
このポリ乳酸としては、L−乳酸を主成分とするものが一般的であるが、40wt%を超えない範囲内でD−乳酸をはじめとする他の共重合成分を含有していてもよい。また、ポリエチレングリコールを共重合したポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレートは、ポリエチレングリコールの共重合割合が30wt%以上となるようにすることが好ましく、このようにすることによりアルカリ溶解速度が著しく向上する。さらに、アルキルスルホン酸アルカリ金属塩及び/又はポリエチレングリコールを配合したポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートは、前者は0.5〜3.0wt%の範囲、後者は1.0〜4.0wt%の範囲が好ましく、後者のポリエチレングリコールの平均分子量は600〜4000の範囲が適当である。
【0021】
こうして第一の樹脂により成形体を形成後、第二の樹脂によりこの性形態を完全に被覆する。第二の樹脂は上記の粒子を形成する樹脂を用いる。こうして形成した複合体を用い、例えば溶融紡糸法により糸状物を形成する。次いでこの糸状物から第一の樹脂を除去する。この第一の樹脂の除去は、この第一の樹脂により形成された中空部の形状を損なうことがないよう、好ましくは適当な溶液もしくは溶剤に溶解させることにより行う。例えば、第一の樹脂として上記のポリ乳酸を用いた場合、糸状物をアルカリ水溶液、例えばアルカリ金属の水酸化物であるKOH,NaOH等の2〜10%水溶液に浸漬させ、さらに室温〜90℃の温度にて加熱処理を行うことにより、ポリ乳酸を溶解させて除去することができる。
【0022】
こうして内部が中空となった糸状物を、例えばレーザーカットにより所定の厚み、具体的には10〜100μm、好ましくは20μmで切断し、切断面を融着によって封止することにより、本発明の回折格子顔料が得られる。
【0023】
本発明の回折格子顔料は、従来から顔料を利用してきた各種用途において、特に表面処理など施すことなくそのまま使用することができる。しかし、強酸性/強アルカリ性の溶液を利用する用途においては、耐薬品性をさらに向上させるため、透明な光輝性を製品に付与するというこの発明の目的を阻害しない範囲で、シリカ(SiO)やアルミニウムなどからなる保護膜を設けてもよい。同様に、耐水性や樹脂との混練性を高めるためにカップリング剤で表面処理してもよく、耐光性を向上させるために紫外線吸収被膜を成形してもよい。
【0024】
本発明の回折格子顔料は、ビヒクルや樹脂中に適量配合され、また他の着色顔料と併用されて、塗料、樹脂組成物等の各種用途に利用される。例えば、塗料組成物に含まれるビヒクルは、本発明の回折格子顔料を分散するものであって、塗膜形成用樹脂と必要に応じて架橋剤とから構成される。上記ビヒクルを構成する上記塗膜形成用樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂等が挙げられ、これらは、2種以上を組合わせて使用することができる。特に、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
上記アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体を挙げることができる。上記共重合に使用し得るアクリル系モノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル等のエステル化物類、アクリル酸又はメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物類、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリルアミド、メタクリルアミド及びN−メチロールアクリルアミド、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどがある。これらと共重合可能な上記他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル等がある。
【0026】
上記ポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられ、例えば、多塩基酸と多価アルコールを加熱縮合して得られた縮合物が挙げられる。多塩基酸としては、飽和多塩基酸、不飽和多塩基酸が挙げられ、飽和多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸等が挙げられ、不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、二価アルコール、三価アルコール等が挙げられ、二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられ、三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0027】
また、上記塗膜形成用樹脂には、硬化性を有するタイプとラッカータイプがあるが、通常硬化性を有するタイプのものが使用される。硬化性を有するタイプの場合には、アミノ樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、アミン系、ポリアミド系、多価カルボン酸等の架橋剤と混合して用いられ、加熱または常温で硬化反応を進行させることができる。また、硬化性を有しないラッカータイプの塗膜形成用樹脂と硬化性を有するタイプとを併用することも可能である。
【0028】
上記ビヒクルが架橋剤を含む場合、塗膜形成用樹脂と架橋剤との割合としては、固形分換算で塗膜形成用樹脂が90〜50wt%、架橋剤が10〜50wt%であり、好ましくは塗膜形成用樹脂が85〜60wt%であり、架橋剤が15〜40wt%である。架橋剤が10wt%未満では(塗膜形成用樹脂が90wt%を超えると)、塗膜中の架橋が十分でない。一方、架橋剤が50wt%を超えると(塗膜形成用樹脂が50wt%未満では)、光輝性塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が悪くなる。
【0029】
本発明の回折格子顔料を含む塗料組成物においては、着色顔料を含有することもできる。このようなものとして、従来から塗料用として常用されているものが用いられる。有機顔料としては、例えば、アゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられ、また、無機顔料としては、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。光輝性顔料および/または着色顔料を含む場合の添加量は、得られる塗膜の透明性を損なわない範囲の量を含有することができる。また各種体質顔料を併用することができる。
【0030】
本発明の回折格子顔料を含む塗料組成物は、上記成分の他に、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックス、沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)等を適宜含有することができる。これらの添加剤は、通常、上記ビヒクル100質量部(固形分基準)に対して、例えば、それぞれ15質量部以下の割合で配合することにより、塗料や塗膜の性能を改善することができる。
【0031】
本発明の回折格子顔料を含む塗料組成物は、上記構成成分を、通常、溶剤に溶解または分散した態様で提供される。溶剤としては、ビヒクルを溶解または分散するものであればよく、有機溶剤および/または水を使用し得る。有機溶剤としては、塗料用として常用されているものを挙げることができる。例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ等のエステル類、アルコール類等を例示できる。環境面の観点から有機溶剤の使用が規制されている場合には、水を用いることが好ましい。この場合、適量の親水性有機溶剤を含有させてもよい。
【0032】
本発明の回折格子顔料を含む塗膜層は、溶剤型塗料または粉体型塗料により形成してもよい。溶剤型塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型塗料を用いてもよい。塗膜平滑性の点からは、溶剤型塗料が好ましい。
【0033】
本発明の回折格子顔料を含む塗膜層の乾燥膜厚は、10〜100μmが好ましく、10μm未満では回折格子顔料による光輝感が、十分に発現できず、100μmを超えると塗膜外観が、不充分となる恐れがある。より好ましくは20〜50μmである。
【0034】
本発明の回折格子顔料を含む塗膜形成方法における好ましい態様は、回折格子顔料含有クリヤー塗膜層が、回折格子顔料含有クリヤー塗膜と回折格子顔料を含んでいないクリヤー塗膜とからなる2層構造からなるものであり、この2層の塗膜が、ウェットオンウェットの2コート1ベークで形成されることが好ましい。この2層構造からなる場合には、光輝感及び塗膜外観を一層向上させることができるため、平滑性の高い、深み感のある光輝性塗膜を得ることができる。この場合の回折格子顔料含有光輝性クリヤー塗膜の膜厚は、上記回折格子顔料を含む塗膜層を一層で形成する場合と同じであり、クリヤー塗膜は、20〜100μmが好ましく、この範囲を外れると塗膜外観が不十分となる恐れがある。
【0035】
塗料中における回折格子顔料の含有率は、乾燥硬化後の塗膜において0.1〜30wt%となるように調整することが好ましい。より好ましい含有率は、1〜20wt%である。回折格子顔料の含有率が0.1wt%よりも少ない場合は、塗膜に十分な虹色の発現がなく、一方30wt%よりも多いと、含有率の割には光輝性の向上が小さくなり、却って素地の色調を損なってしまうおそれが生じる。この回折格子顔料は、素地の色調を損なうことがないので、各色の塗料に利用することができる。
【0036】
本発明の回折格子顔料を樹脂組成物中に配合する場合は、母材樹脂に上記の各種熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を利用することができる。特に、熱可塑性樹脂に使用すれば、射出成形が可能となるため、複雑な形状の成型品を得ることができる。
【0037】
本発明の回折格子顔料はインキ組成物にも用いることができる。インキ組成物には、各種ボールペン、フェルトペンなどの筆記具用インキ並びにグラビアインキ、オフセットインキなどの印刷インキがあるが、いずれのインキ組成物にも使用することができる。筆記具用インキのビヒクルの例としては、アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、アクリル酢酸ビニル共重合体、ザンサンガムなどの微生物産性多糖類またはグアーガムなどの水溶性植物性多糖類などと、溶剤としての水、アルコール、炭化水素、エステルなどからなるものとが挙げられる。
【0038】
グラビアインキ用ビヒクルの例としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、ライムロジン、ロジンエスエル、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース、エチルセルロース、塩化ゴム、環化ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ギルソナイト、ダンマル若しくはセラックなどの樹脂混合物、上記樹脂の混合物、上記樹脂を水溶化した水溶性樹脂又は水性エマルション樹脂と、炭化水素、アルコール、エーテル、エステル又は水などの溶剤とからなるものが挙げられる。
【0039】
オフセットインキ用ビヒクルの例としては、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂またはこれらの乾性変性樹脂などの樹脂と、アマニ油、桐油または大豆油などの植物油と、n−パラフィン、イソパラフィン、アロマテック、ナフテン、α−オレフィンまたは水などの溶剤とからなるものが挙げられる。なお、上記の各種ビヒクル成分には、染料、顔料、各種界面活性剤、潤滑剤、消泡剤、レベリング剤などの慣用の添加剤を適宜選択して配合してもよい。
【実施例】
【0040】
実施例1
第一の樹脂としてポリ乳酸を、第二の樹脂としてポリメチルメタクリレート(屈折率:n=1.48)を用い、溶融紡糸により糸状物を成形後、アルカリ溶液(4%NaOH水溶液)に浸漬して80℃に加熱し、ポリ乳酸を溶解させ、回折格子部を空洞化させ、これをレーザーカットして図1に示すような回折格子顔料を製造した。この顔料のサイズは、厚み2μm、長径20μm、短径1μmであり、凸部の頂点間距離は2μmであった。
【0041】
この回折格子顔料をアクリルメラミン塗料にPWC(顔料質量比)10%で混合してベース塗料とした。黒中塗りを塗装した鋼板に、上述のベース塗料を約15μm塗装し、焼付せずにアクリルメラミン系のクリヤー塗料を約30μm塗装し、140℃で30分間焼付けた。製造された顔料は、分光された虹色を発色し、優れた意匠効果を有することを確認した。
【0042】
実施例2
第一の樹脂としてポリ乳酸を、第二の樹脂としてポリエチレンテレフタレート(屈折率:n=1.58)を用い、溶融紡糸により糸状物を成形後、アルカリ溶液(4%NaOH水溶液)に浸漬して60℃に加熱し、ポリ乳酸を溶解させ、回折格子部を空洞化させ、これをレーザーカットして図1に示すような回折格子顔料を製造した。この顔料のサイズは、厚み2μm、長径20μm、短径1μmであり、凸部の頂点間距離は2μmであった。実施例1と同様の方法で塗膜を作製したところ、製造された顔料は、分光された虹色を発色し、優れた意匠効果を有することを確認した。
【0043】
比較例1
第一の樹脂としてポリエチレンテレフタレート(屈折率:n=1.58)を、第二の樹脂としてポリメチルメタクリレート(屈折率:n=1.48)を用い、溶融紡糸により糸状物を成形後、これをレーザーカットして、中空部に対応する部位に第一の樹脂が配置されている回折格子顔料を製造した。この顔料のサイズは、厚み2μm、長径20μm、短径1μmであり、凸部の頂点間距離は2μmであった。実施例1と同様の方法で塗膜を作製したところ、製造された顔料は、分光された虹色を発色しなかった。これは、回折格子部の屈折率差が0.1と小さすぎるためであると考えられる。
【0044】
比較例2
第一の樹脂としてポリ乳酸を、第二の樹脂としてポリメチルメタクリレート(屈折率:n=1.48)を用い、溶融紡糸により糸状物を成形後、アルカリ溶液(4%NaOH水溶液)に浸漬して70℃に加熱し、ポリ乳酸を溶解させ、回折格子部を空洞化させ、これを従来の剪断カット工法にて切断して回折格子顔料を製造した。この顔料のサイズは、厚み2μm、長径20μm、短径1μmであり、凸部の頂点間距離は2μmであった。実施例1と同様の方法で塗膜を作製したところ、製造された顔料は分光された虹色を発色しなかった。これは、回折格子部の中空部が密閉されず、塗料樹脂がこの中空部を埋めてしまい、屈折率差がなくなってしまったためである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の回折格子顔料の断面図である。
【図2】回折像の強度と回折角度を説明する図である。
【図3】反射型回折格子における回折像の強度と回折角度を説明する図である。
【符号の説明】
【0046】
1 回折格子顔料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が中空となっている樹脂製の粒子からなり、この中空部により回折格子が構成されていることを特徴とする回折格子顔料。
【請求項2】
前記粒子の形状が楕円柱状であり、断面の長径が10〜100μmであり、短径が0.3〜10μmであり、厚みが10〜100μmであることを特徴とする、請求項1記載の回折格子顔料。
【請求項3】
前記回折格子が所定の隙間をおいて相対する凹凸形状の面により構成されることを特徴とする、請求項1又は2記載の回折格子顔料。
【請求項4】
前記凹凸形状の面上の凸部の頂点間の距離が前記長径の1/2以下であることを特徴とする、請求項3記載の回折格子顔料。
【請求項5】
前記樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、又はポリメチルメタクリレートであることを特徴とする、請求項1記載の回折格子顔料。
【請求項6】
第一の樹脂により前記中空部の形状に相当する凹凸形状の面を有する成形体を形成し、第二の樹脂により前記成形体を完全に被覆して糸状物を形成し、前記第一の樹脂を除去して前記糸状物内を中空とし、前記糸状物を切断し、切断面を封止する工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の回折格子顔料の製造方法。
【請求項7】
前記第一の樹脂がポリ乳酸であることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第一の樹脂を溶解させることにより除去することを特徴とする、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の回折格子顔料を含有する塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−265381(P2006−265381A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85813(P2005−85813)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】