説明

回折法によるひずみ測定装置及び測定方法

【課題】被測定物に発生しているひずみを測定するひずみスキャニング法において、一方向の測定のみで、解析的な補正を加える必要がなく、正しい回折角を測定できる技術を提供する。
【解決手段】試験片24の表面24AにX線を照射し、試験片24を透過した回折X線の回折角2θから試験片24のひずみを測定する。試験片24を移動及び回転する測定位置変更工程と、前記測定位置変更工程により測定位置を変更した試験片24に所定の光束の測定波を照射する照射工程と、試験片24中及び/又はその近傍に設定される測定領域から透過回折された回折測定波たる回折X線を検出する検出工程とを備え、照射された所定の光束のX線による公称ゲージ体積の中心Sを回転中心にして試験片24を回転するから、表面効果の影響をキャンセルし、正確な測定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等のエネルギー波である測定波を被測定物(例えば、多結晶体材料)に照射し、被測定物から透過回折される透過測定波の回折角を測定することで被測定物に発生しているひずみを測定する測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造材料に発生している応力(ひずみ)を測定する方法として、X線等のエネルギー波の回折現象を利用して測定する方法が知られている(例えば、sin2Ψ法)。sin2Ψ法では、通常、被測定物に斜めからX線を照射する。被測定物に入射したX線は、被測定物中の回折条件を満たす結晶格子面で反射され回折を生じる。被測定物で反射された反射波は、回折を起こした結晶格子面の法線と被測定物表面の法線とのなす角(Ψ角)を所定値に固定した状態で散乱角2θを走査しつつ測定される。散乱角2θの操作及びX線強度の測定は、Ψ角を変更しながら繰り返し実行される。これによって、散乱角2θに応じたX線の散乱強度分布のΨ角に対する依存性が測定され、この依存性から被測定物に発生した応力の被測定物表面に平行な成分を測定する。
【0003】
上述したsin2Ψ法では、被測定物に発生している応力を精度良く測定できる反面、Ψ角を一定に保った状態で散乱角2θを走査しながらX線強度を測定しなければならないため、測定に長時間を要するという問題があった。また、sin2Ψ法は、被測定物の平面応力状態しか測定できず、被測定物の垂直方向に発生している応力(ひずみ)を測定することができなかった。
【0004】
なお、sin2Ψ法によるひずみ測定に関する先行技術としては、例えば、特許文献1に開示された技術が知られている。
【0005】
上述したsin2Ψ法の問題点を解決するため、ひずみスキャニング法が注目を集めている。ひずみスキャニング法では、被測定物に斜めからX線等の測定波を照射し、被測定物から反射される反射波をスリット等を介して検出装置で検出する。このため、検出装置で検出される反射波は、被測定物の一部の領域(入射する測定波束と受光側のスリットで作られた領域(以下、測定領域という))から反射された反射波に制限される。したがって、検出装置で検出された検出結果から測定領域の平均ひずみを求め、被測定物に発生している応力を測定する。
【0006】
上述の説明から明らかなように、ひずみスキャニング法では、被測定物中に設定される測定領域を移動させることで、被測定物に発生している任意の方向の応力分布を測定できる。また、sin2Ψ法のようにΨ角を一定にして散乱角2θを走査する等の複雑な操作が不要となるため、短時間で測定することができる。
【0007】
しかしながら、ひずみスキャニング法では、被測定物の表面近傍のひずみを測定する際に測定領域が被測定物からはみ出して設定される。このため、検出される回折ピークがシフトし、見かけ上のひずみが測定されてしまうという問題があった(いわゆる、表面効果)。
【0008】
この表面効果を解消する技術としては、受光側に単結晶アナライザを設置する測定方法が提案されており(非特許文献1)、この測定方法では、シンクロトロン放射光施設により得られる高輝度で且つ高エネルギーX線を測定波として用い、その高エネルギーX線は、大きな透過力を有し、この特徴を生かして、試験片の表面から透過させ背面から回折X線を測定し、試験片の残留応力を測定する。しかし、この測定方法によっても表面効果の影響を十分に解消し、満足な測定精度を得ることはできていない。
【0009】
そして、表面効果を解消するため、(1)アナライザを使用する方法、(2)試験片に対して測定波の照射方向を変更して、往路と復路で測定し、その回折角の相加平均を取る方法などがあり、また、(3)解析的に補正する方法(例えば、特許文献2)も提案されている。
【0010】
しかし、(1)アナライザを使用すると、回折強度の減衰が1/100程度に減衰するために、偏向電磁石のビームラインではアナライザを使用したひずみスキャニングは困難であり、(2)往復の相加平均法は、2回の測定時間を要するために不利である。また、(3)の解析的に補正する方法は、煩雑な測定と計算を要する。
【特許文献1】特開2004−132936号公報
【特許文献2】特開2006−17731号公報
【非特許文献1】P.J.Withers,「 Analysis of Residual Stress by Diffraction using Neutron and Synchrotron Radiation」,edited by M.E. Fitzpatrick and A. Lodini,(2003) pp.170−189,Taylor&Francis,London and New York
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、被測定物に発生しているひずみを測定するひずみスキャニング法において、一方向の測定のみで、解析的な補正を加える必要がなく、正しい回折角を測定できる技術を提供することを目的とする。加えて、揺動効果が得られ、また、粗大粒の正確な測定が可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、被測定物の一側面に測定波を照射し、被測定物を透過した回折測定波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、前記被測定物の一側面に所定の光束の測定波を照射する照射手段と、前記被測定物を回折透過した回折測定波を検出する検出手段と、前記被測定物を前記照射手段側に移動する移動手段と、前記被測定物を回転する回転手段と、前記検出手段で検出される回折測定波を、被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から回折された回折測定波に制限する制限手段と、
を備えた測定装置である。
【0013】
また、請求項2の発明は、被測定物の一側面に測定波を照射し、被測定物を透過した回折測定波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、前記被測定物を保持する保持部と、前記保持部に保持された被測定物に所定の光束のX線を照射するX線照射装置と、前記被測定物から透過回折された回折X線を検出するX線検出装置と、前記保持部と前記X線検出装置との間に配置され、被測定物から透過回折された回折X線の一部を通過させる第1スリットと、前記第1スリットと前記X線検出装置との間に配置され、前記第1スリットを通過した回折X線の一部を通過させて前記X線検出装置に導く第2スリットと、前記被測定物を前記X線照射装置側に移動する移動装置と、前記被測定物へのX線の入射角を変更するために保持部を回転する回転装置と、前記移動装置及び回転装置による被測定物の位置変更に応じて前記第1スリット,前記第2スリット及び前記X線検出装置を移動させる受光側駆動装置と、前記X線照射装置,X線検出装置,移動装置,回転装置及び受光側駆動手段を制御する制御手段と、を備える測定装置である。
【0014】
また、請求項3の発明は、被測定物の一側面に測定波を照射し、被測定物を透過した回折測定波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定方法であって、前記被測定物を移動及び回転する測定位置変更工程と、前記測定位置変更工程により測定位置を変更した前記被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射工程と、前記被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から透過回折された回折測定波を検出する検出工程と、を備え、照射された所定の光束のX線による公称ゲージ体積の中心を回転中心にして前記被測定物を回転する測定方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の構成によれば、被測定物の表面側では、所謂、表面効果により、検出される回折ピークがシフトし、見かけ上のひずみが測定され、測定誤差を生じるが、本測定装置では、回折X線の測定中に被測定物をゲージ体積中心で回転するようにすることにより、表面効果の影響をキャンセルし、正確な測定が可能となる。また、合わせて、揺動効果が得られ、さらに、粗大粒の正確な測定が可能となる。
【0016】
また、請求項2の構成によれば、被測定物を保持する保持部がX線照射装置側に移動し、且つ公称ゲージ体積の中心を回転中心にして被測定物を回転し、測定位置を変更することができ、測定位置を変更すると、それに応じて受光側駆動手段が作動し、被測定物から透過回折される回折X線を検出可能な位置にX線検出装置と第1スリット及び第2スリットが移動する。
【0017】
そして、X線回折の測定中に被測定物をゲージ体積中心で回転するようにすることにより、表面効果の影響をキャンセルし、正確な測定が可能となる。また、合わせて、揺動効果が得られ、さらに、粗大粒の正確な測定が可能となる。
【0018】
また、請求項3の構成によれば、X線回折の測定中に被測定物がゲージ体積中心で回転することにより、表面効果の影響をキャンセルし、正確な測定が可能となる。また、合わせて、揺動効果が得られ、さらに、粗大粒の正確な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる回折法によるひずみ測定装置及び測定方法を採用することにより、従来にない回折法によるひずみ測定装置及び測定方法が得られ、その回折法によるひずみ測定装置及び測定方法を夫々記述する。
【実施例1】
【0020】
本発明を具現化した実施例1に係るひずみ測定方法について説明する。まず、従来の反射型ひずみスキャニング法で測定される回折角から応力を算出する手順と、反射型ひずみスキャニング法の原理について、簡単に説明しておく。尚、以下、上述した背景技術と同一部分に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
図10(a)は試験片に設定された座標系を示している。図10(a)に示すように、試験片表面と平行な平面内の応力(ひずみ)をσ1(ε1),σ2(ε2)とし、試験片の深さ方向の応力(ひずみ)をσ3(ε3)とすると、3軸応力の関係は次式で与えられる。
ε1={σ1−ν(σ2+σ3)}/E
ε2={σ2−ν(σ1+σ3)}/E (1)
ε3={σ3−ν(σ1+σ2)}/E
ここで、格子面の間隔dとひずみεとの関係は次式で与えられる(d0は無ひずみの格子面間隔である)。
ε=(d−d0)/d0 (2)
また、格子面間隔dと回折角θとの関係は次式のブラッグの条件で与えられる(λは測定波の波長である)。
λ=2dsinθ (3)
ここで、測定波の波長λと無ひずみの格子面間隔d0は既知であるため、回折角θを測定できれば上記(3)式より格子面間隔dを算出することができ、その格子面間隔dからひずみεを算出することができる(上記(2)式)。したがって、試験片の3軸方向それぞれについて回折角θ1,θ2,θ3を測定できれば、それら回折角θ1,θ2,θ3から格子面間隔d1,d2,d3を算出でき、その格子面間隔d1,d2,d3からひずみε1,ε2,ε3を算出できる。ひずみε1,ε2,ε3が算出できれば、これらの値を上記(1)式に用いて、試験片の3軸方向の応力を全て算出できることとなる。
【0022】
図10(b)は試験片の深さ方向のひずみε3を測定する際の光学系の模式図を示している。深さ方向のひずみε3を測定する場合は、試験片のx−y面(表面)を上に向けて試験片がセットされる(図10(b))。セットされた試験片には斜め上方から測定波(例えば、X線,中性子線等のエネルギー波)を照射する。照射される測定波は、発散スリットSdによって所定の光束とされる。試験片で回折された回折測定波は、受光スリットSrを介して検出装置(図示省略)で検出される。この回折測定波の検出を試験片への入射角を変更しながら行うことで「回折測定波の強度−入射角」の関係が求まり、回折測定波の強度がピークとなる角度(すなわち、回折角)を特定することができる。特定した回折角からひずみε3の算出は、既に説明した手順で行うことができる。
【0023】
なお、図10(b)から明らかなように、検出装置で検出される測定波は、発散スリットSdと受光スリットSrによって制限された測定領域(図中の菱形の領域)から反射された回折測定波のみが検出される。このため、特定された回折角から得られるひずみε3は、この測定領域における平均ひずみである。したがって、測定領域を試験片のZ方向に移動させながら回折角を測定することで、試験片のZ方向のひずみ分布を求めることができる。
【0024】
また、図10(c)は試験片の平面内ひずみ(詳細にはx方向)を測定する際の光学系の模式図を示している。図10(c)に示すようにx方向のひずみε1を測定する場合は、試験片のx−y面(表面)が測定波の入射側に対向し、かつ、測定領域を移動させる方向が試験片のx方向と一致するように試験片をセットする。試験片への測定波の照射及び試験片からの反射波の検出並びに回折角の特定等は、上述した場合と同様に行われる。
【0025】
なお、y方向のひずみε2の測定は、試験片をセットする方向を変えるだけでよい。すなわち、試験片のx−y面(表面)が測定波の入射側に対向し、かつ、測定領域を移動させる方向が試験片のy方向と一致するように試験片をセットすればよい。
【0026】
次に、本願発明の透過型回転ひずみスキャニング法について説明する。本願発明では、高エネルギー放射光X線を測定波として用い、非特許文献1と同様に、X線を試験片の表面から透過させ、背面から回折X線を測定し、試験片の残留応力を測定する透過型のひずみ測定方法を採用する。
【0027】
測定に係る原理は、上記図10に示した反射型ひずみスキャニング法と共通し、図1を用いてさらに説明する。図1に示すように、保持部たるZ軸ステージ1上に、被測定物たる試験片24をセットする。試験片24は、その垂直方向の表面24AをX線照射装置10側に向け、その垂直方向の背面24BをX線検出装置(X線カウンタ)20側に向けてセットする。すなわち、試験片24の厚さ方向(Z方向)の一側が表面24Aで、他側が背面24Bである。尚、試験片24は、対向する外面同士が平行な直方体である。
【0028】
X線照射装置10は、高エネルギー放射光X線を出射するものであり、そのX線照射装置10の出射口には発散スリット12が配置されている。このため、X線照射装置10から出射したX線は、発散スリット12によって所定の幅のX線束となり、試験片24に入射することとなる。したがって、本実施例ではX線照射装置10と発散スリット12によって請求項でいう照射手段が構成されている。また、X線検出装置20の入射口側には受光スリット16,18が配置されている。このため、X線検出装置20では受光スリット16,18を通過したX線だけが検出される。したがって、本実施例では受光スリット16,18が請求項でいう制限手段に相当する。
【0029】
また、X線検出装置20で検出される回折測定波は、発散スリット12と受光スリット16,18によって制限された測定領域(図中の菱形の領域)から透過回折された回折測定波のみが検出される。そして、前記測定領域がひずみを評価するゲージ体積となる。Z軸ステージ1をX線照射装置10側に平行移動することで、試験片24がX線照射装置10に移動し、ゲージ体積は試験片24の表面24Aから背面24Bへ移動しながら回折X線の回折角2θを測定する。回折角2θは、上述した(2)式で表される。
【0030】
したがって、X線の波長λが定数であるから,回折角2θを測定することで,格子面間隔dが求められる。そして、任意の位置の格子面間隔dの変化からその位置における材料のひずみを求めることができる。以上が、透過型回転ひずみスキャニング法の原理の説明である。
【0031】
以下、透過型回転ひずみスキャニング法における表面効果について、考察する。図2の概略説明図に示すようにゲージ体積が試験片24の表面を横切るとき、回折に与るゲージ体積の形状は公称の形と異なる。そのため、実際のゲージ体積の回折中心が、公称ゲージ体積の中心から外れた位置となる。その結果、測定される回折角2θがずれてしまう。この現象を表面効果(surface aberration effect)といい、そのために正確なひずみ測定が困難となる。
【0032】
表面効果の影響は、図2(a)の往路の場合と図2(b)の復路の場合で異なり、これを示すため往路と復路とで測定した回折角の値を図3に示す。尚、図3の例では、試験片24にS45Cを焼鈍した材料を用いたから、試験片24には残留応力がないので、一定の回折角を示すはずである。しかし、同図からわかるようにゲージ体積が表面24A(Z=0mm)および背面24B(Z=4mm)付近にあるとき、正しい回折角2θを測定できなくなる。図3では、往路と復路とで得られた回折角の平均値も表示しており、平均値を用いることにより、回折角2θの値がグラフ図中で略水平となり、試験片24に残留応力の無いことが分かるが、2回の測定が必要となる。
【0033】
そして、ひずみスキャニング法では、発散スリット12と受光スリット16,18によって形成される測定領域と、実際に測定波を回折する回折領域(被測定物が存在する領域)とが異なると、見かけ上のひずみが測定される。
【0034】
図11には、受光側(X線検出装置20側)に配置した2つのスリット、そのスリットによって形成される光学系が模式的に示されている。図11に示すように、本実施例では2つのスリットG1,G2が光軸方向に所定の間隔R2だけ離れて配置される。2つのスリットG1,G2を光軸方向に離間して配置することで、2つのスリットG1,G2を通過する反射波の発散角はαに制限することができる。これによって、反射波の発散の影響が抑えられ、測定精度を上げることが可能となる。なお、図11から明らかなように発散角αは次の式で求められる(rはスリットG1,G2の幅)。
α/2=tan−1(r/R2) (4)
図12は本実施例の光学系の全体構成を示す概略図であり、図13は図12に示す装置ゲージ体積を拡大して示している。図12に示すように、測定波は発散スリットDsで幅rの光束とされ、試験片に入射する。試験片24で回折された回折測定波は、幅rの受光スリットRS1,RS2によりX線検出装器に導かれる。受光スリットRS1,RS2を通過する回折測定波の発散角はαであることから、装置ゲージ体積は中央のひし形の領域(公称ゲージ体積)の上下に広がっている。そして、図13に示すように、公称ゲージ体積の中心は、符号Sである。従来では、上述した見かけ上のひずみを測定し、その測定値を解析的に補正する必要があった。
【0035】
これに対し、本実施例では、図4に示すように、試験片24を回転ステージ2上に載置して保持し、この回転ステージ2を公称ゲージ体積の中心Sで回転させ、すなわち回転ステージ2の回転中心を公称ゲージ体積の中心Sに合わせ、その回転ステージ2上に前記Z軸ステージ1を設ける。
【0036】
また、前記回転ステージ2を回転駆動する回転装置3と、前記Z軸ステージ1をX線検出装置20側からX線照射装置10側(Z方向)に進退駆動する移動装置4とを備える。尚、X線検出装置20側からX線照射装置10側へと水平移動する方向がZ方向である。前記移動手段4の駆動機構は、回転ステージ2とZ軸ステージ1との間に設けられるものであるから、その移動手段4に制御用コードなどを接続すると、回転ステージ2が回転した際、回転ステージ2に巻き付き,測定が不可能となる。それを防止するために,スリップリング5を回転ステージ2に設置することにより,回転をかけながらZ軸ステージ1の移動を制御できるようにした。すなわち、スリップリング5の上の回転ステージ2が回転し、スリップリング5より下部は固定され、スリップリング5を介して前記移動手段4に制御信号及び動力などを伝達している。
【0037】
また、前記移動装置4及び回転装置3による被測定物の位置変更に応じて第1スリットたる受光スリット16、第2スリットたる受光スリット18及びX線検出装置20を移動させる受光側駆動装置6を備える。そして、制御手段7が、X線照射装置10,X線検出装置20,移動装置4,回転装置3及び受光側駆動手段6を制御し、回折角2θを検出する。
【0038】
本方法によれば、回折X線の測定中に試験片24が公称ゲージ体積の中心Sを回転中心にして回転するために、上述した表面効果の影響をキャンセルすることが可能である。
【0039】
試験片24を回転させながら各深さZで回折ピークを測定し、Z軸ステージ1をX線照射装置10側に進めることになる。つまり、試料片24とZ軸ステージは図4及び図5に示すように動くこととなる。尚、光学系であるX線照射装置10及びX線検出装置20と試験片24の動きは相対的なものなので、試験片24が回転せずに光学系,ゲージ体積が回転してもいいが、放射光施設ではそれは現実的でないので,本件では言及していない。
【0040】
「透過型回転ひずみスキャニング法」を実施するために回転ひずみスキャニング用ステージを製作し、高輝度放射光の回折装置に装着して測定を行った様子を図7に示す。同図に示す「X線」(高エネルギー放射光X線)が図中左側から試験片24に入射し、試験片24で回折したX線は図中右側(X線検出装置側)に進む。回転ステージ2の上でZ軸ステージ1が回転し、このZ軸ステージ1上に試験片24がセットされている。そして、回転しながら且つZ方向にスキャンしながらその都度回折角2θを測定する。
【0041】
試験片24のZ方向厚さは。この例では4mmであり、その上述した「透過型回転ひずみ
スキャニング法」による実験結果を図3の結果と併せて示したのが図8である。これにより、透過型回転ひずみスキャニング法により、表面効果が補正され,一定の回折角2θを測定でき、透過型回転ひずみスキャニング法の表面補正の効果が実証されたことが分かる。
【0042】
つぎに、粗大粒の回折測定における回転ひずみスキャニング法の揺動効果について、検討した。
【0043】
本実施例の回転ひずみスキャニング法は表面効果の補正効果だけでなく、結晶粒の大きい粗大粒の回折線測定にも威力を発揮する。前記試験片24として、オーステナイト系ステンレスSUS304L(板厚5mm)の表面24A(Z=0mm)にショットピーニングを施し、圧縮の残留応力を導入した。この表面24A側に残留応力を導入した試験片24を、透過型回転ひずみスキャニング法によりひずみスキャニングした結果を図9(b)に示す。同図は、縦軸が回折強度であり、深さZにおける回折角2θを座標にした。
【0044】
一般のひずみスキャニング法では、表面24A付近は粗大粒のため回折に与る結晶粒が十分でなく回折線が測定できず、ひずみの測定ができない。
【0045】
これに対し、 本発明の透過型回転ひずみスキャニング法では、試験片24をゲージ体積中心に回転するので,十分な結晶粒を得ることができる。その結果、図9(b)に示すようにショットピーニングを受けた面(表面24A)でも回折曲線がきれいに測定でき、回折角2θの決定が十分可能である。
【0046】
このように,透過型回転ひずみスキャニング法は表面効果の補正ができることに加え、粗大粒の測定にも有利であることが明らかである。
【0047】
このように本実施例では、請求項1に対応して、被測定物たる試験片24の一側面たる表面24Aに測定波たるX線を照射し、試験片24を透過した回折測定波たる回折X線の回折角2θから試験片24のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、試験片24の表面24Aに所定の光束のX線を照射する照射手段たるX線照射装置10と、試験片24を回折透過した回折X線を検出する検出手段たるX線検出装置20と、試験片24をX線照射装置10側に移動する移動手段たる移動装置4と、試験片24を回転する回転手段たる回転装置3と、X線検出装置20で検出される回折X線を、試験片24中及び/又はその近傍に設定される測定領域から回折された回折X線に制限する制限手段たる受光スリット16,18とを備えたから、従来、試験片24の表面側では、所謂、表面効果により、検出される回折ピークがシフトし、見かけ上のひずみが測定され、測定誤差を生じるが、本測定装置では、回折X線の測定中に試験片24をゲージ体積の中心Sを回転中心して回転するようにすることにより、表面効果の影響をキャンセルし、正確な測定が可能となる。また、合わせて、揺動効果が得られ、さらに、粗大粒の正確な測定が可能となる。
【0048】
また、このように本実施例では、制限手段が、被測定物たる試験片24と検出手段たるX線検出装置20の間に配置され、試験片24からX線検出装置20に向かう回折測定波たる回折X線の一部を遮断する第1遮断部材たる受光スリット16と、この受光スリット16とX線検出装置20の間に配置され、受光スリット16を通過した回折X線の一部をさらに遮断する第2遮断部材たる受光スリット18とを有するから、X線検出装置20で検出される回折X線は、受光スリット16,18によってより制限され、回折測定波の発散による影響を低減することができる。特に、受光スリット16,18が光軸方向に離間して配置されると、光軸と略平行な回折X線のみが検出手段で検出される。
【0049】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、被測定物たる試験片24の一側面たる表面24Aに測定波たるX線を照射し、試験片24の背面24Bを透過した回折X線の回折角2θから試験片24のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、被測定物たる試験片24を保持する保持部たるZ軸ステージ1と、Z軸ステージ1に保持された試験片24に所定の光束のX線を照射するX線照射装置10と、試験片24から透過回折された回折X線を検出するX線検出装置20と、Z軸ステージ1とX線検出装置20との間に配置され、試験片24から透過回折された回折X線の一部を通過させる第1スリットたる受光スリット16と、この受光スリット16とX線検出装置20との間に配置され、受光スリット16を通過した回折X線の一部を通過させてX線検出装置20に導く第2スリットたる受光スリット18と、試験片24をX線照射装置10側に移動する移動装置4と、試験片24へのX線の入射角を変更するためにZ軸ステージ1を回転する回転装置3と、移動装置4及び回転装置3による試験片24の位置変更(向きの変更を含む)に応じて受光スリット16,18及びX線検出装置20を移動させる受光側駆動装置6と、X線照射装置10,X線検出装置20,移動装置4,回転装置3及び受光側駆動手段6を制御する制御手段とを備えるから、試験片24を保持するZ軸ステージ1がX線照射装置10側に移動し、且つ公称ゲージ体積の中心Sを回転中心にして試験片24を回転し、測定位置を変更することができ、測定位置を変更すると、それに応じて受光側駆動手段6が作動し、試験片24から透過回折される回折X線を検出可能な位置にX線検出装置20と受光スリット16,18が移動する。
【0050】
そして、X線回折の測定中に試験片24をゲージ体積中心で回転するようにすることにより、表面効果の影響をキャンセルし、正確な測定が可能となる。また、合わせて、揺動効果が得られ、さらに、粗大粒の正確な測定が可能となる。
【0051】
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、被測定物たる試験片24の一側面たる表面24Aに測定波たるX線を照射し、試験片24を透過した回折測定波たる回折X線の回折角2θから試験片24のひずみを測定する回折法によるひずみ測定方法であって、試験片24を移動及び回転する測定位置変更工程と、前記測定位置変更工程により測定位置を変更した試験片24に所定の光束の測定波を照射する照射工程と、試験片24中及び/又はその近傍に設定される測定領域から透過回折された回折測定波たる回折X線を検出する検出工程とを備え、照射された所定の光束のX線による公称ゲージ体積の中心Sを回転中心にして試験片24を回転するから、表面効果の影響をキャンセルし、正確な測定が可能となる。また、合わせて、揺動効果が得られ、さらに、粗大粒の正確な測定が可能となる。
【0052】
また、実施例上の効果として、制御手段7は、回転装置3,移動装置4及び受光側駆動装置6を駆動して試験片24への入射角を変更しながらX線照射装置10からX線を照射させると共にX線検出装置10に試験片24から透過回折されたX線を検出させ、これにより得られた「入射角−X線強度」の関係からX線の回折角2θを特定することができる。
【0053】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、実施例では、シンクロトロン放射光源による高エネルギー放射光X線を、測定波として用いたが、他に中性子線等のエネルギー波を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例1を示すひずみ測定装置の要部の側面図である。
【図2】同上、往路と復路における被測定物とゲージ体積との方位関係を示す説明図である。
【図3】同上、往路と復路とで測定した回折角の値を示すグラフ図である。
【図4】同上、ひずみ測定装置の要部の側面図である。
【図5】同上、ひずみ測定装置の要部の平面図である。
【図6】同上、制御手段回りのブロック図である。
【図7】同上、透過型回転ひずみスキャニング用ステージの斜視図である。
【図8】同上、回折角の値を示すグラフ図である。
【図9】同上、X線強度と回折角と深さの関係を示すグラフ図であり、図9(a)は従来のひずみスキャニング法、図9(b)は透過型回転スキャニング法によるものである。
【図10】同上、ダブルスリットの光学系を説明する説明図である。
【図11】同上、ダブルスリットの光学系を示す概略説明図である。
【図12】同上、発散スリットと2つの受光スリットにより形成される光学系を示す概略説明図である。
【図13】同上、図11のゲージ体積の部分を拡大した概略説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1 Z軸ステージ(保持部)
2 回転ステージ
3 回転装置(回転手段)
4 移動装置(移動手段)
5 スリップリング
6 受光側駆動装置
7 制御手段
10 X線照射装置(照射手段)
12 発散スリット
16 受光スリット(第1遮蔽手段・第1スリット)
18 受光スリット(第2遮蔽手段・第2スリット)
20 X線検出装置(検出手段)
24 試験片(被測定物)
S 中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の一側面に測定波を照射し、被測定物を透過した回折測定波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、
前記被測定物の一側面に所定の光束の測定波を照射する照射手段と、
前記被測定物を回折透過した回折測定波を検出する検出手段と、
前記被測定物を前記照射手段側に移動する移動手段と、
前記被測定物を回転する回転手段と、
前記検出手段で検出される回折測定波を、被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から回折された回折測定波に制限する制限手段と、
を備えたことを特徴とする回折法によるひずみ測定装置。
【請求項2】
被測定物の一側面に測定波を照射し、被測定物を透過した回折測定波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、
前記被測定物を保持する保持部と、
前記保持部に保持された被測定物に所定の光束のX線を照射するX線照射装置と、
前記被測定物から透過回折された回折X線を検出するX線検出装置と、
前記保持部と前記X線検出装置との間に配置され、被測定物から透過回折された回折X線の一部を通過させる第1スリットと、
前記第1スリットと前記X線検出装置との間に配置され、前記第1スリットを通過した回折X線の一部を通過させて前記X線検出装置に導く第2スリットと、
前記被測定物を前記X線照射装置側に移動する移動装置と、
前記被測定物へのX線の入射角を変更するために保持部を回転する回転装置と、
前記移動装置及び回転装置による被測定物の位置変更に応じて前記第1スリット,前記第2スリット及び前記X線検出装置を移動させる受光側駆動装置と、
前記X線照射装置,X線検出装置,移動装置,回転装置及び受光側駆動手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする回折法によるひずみ測定装置。
【請求項3】
被測定物の一側面に測定波を照射し、被測定物を透過した回折測定波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定方法であって、
前記被測定物を移動及び回転する測定位置変更工程と、
前記測定位置変更工程により測定位置を変更した前記被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射工程と、
前記被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から透過回折された回折測定波を検出する検出工程と、
を備え、
照射された所定の光束のX線による公称ゲージ体積の中心を回転中心にして前記被測定物を回転することを特徴とする回折法によるひずみ測定方法。

【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−85767(P2009−85767A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255782(P2007−255782)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】