説明

回路基板及び回路基板の製造方法

【課題】導電性基材の剥離が良好に行われ、成型後の樹脂基板との密着や、導体回路パターンの脱落のない、微細な導体回路パターンを有する回路基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】回路基板Aを、導電性基材1の表面全体に、導電性を有する剥離性有機物層2を形成する工程と、前記導電性基材1の剥離性有機物層2が形成された面に、電気メッキにより導体回路パターン3を形成する工程と、前記導電性基材1の導体回路パターン3が形成された面に樹脂基材4を重ねる工程と、前記導電性基材1に重ねられた前記樹脂基材4を加熱して成型する工程と、前記導電性基材1を剥離する工程とにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体回路パターンを樹脂基材に転写して形成された回路基板及び回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、図4に示すように、ステンレス転写箔などの導電性基材1の表面に電気メッキによって導体回路パターン3を形成し、その導体回路パターン3を樹脂基材4に転写した後、加熱して樹脂を成型して樹脂基板5を形成し、次いで、導電性基材1を剥離することにより回路基板Aを形成する技術が知られている。
【0003】
この方法によれば、導電性基材1の表面と、樹脂基材4及び導体回路パターン3の表面とが接触して積層されることになり、成型された後の樹脂基板5及び導体回路パターン3と、導電性基材1との剥離性が課題となる。すなわち、樹脂基板5と導電性基材1とが密着してしまうと、導電性基材1を樹脂基板5から良好に剥離することができなくなり、回路基板Aを作製できなくなってしまうといった問題が生じる。また、導体回路パターン3と導電性基材1とが密着してしまうと、導電性基材1を剥離する際に導体回路パターン3を一緒に剥離してしまい、導体回路パターン3が脱落することとなって、回路基板Aを作製できなくなってしまうという問題が生じる。特に、導体回路パターン3の幅が狭小なファイン回路において、導体回路パターン3の脱落がより発生しやすくなる。
【0004】
導電性基材1としてステンレス転写箔を用いた場合、比較的低温(180℃程度)で成型するのであれば、樹脂基板5の表面とステンレス表面の剥離性は優れており、手作業でも簡単にステンレス転写箔を剥離することができる。しかし、高温(350℃程度)の条件で熱可塑性樹脂を用いて樹脂を成型した場合、ステンレス転写箔と樹脂基板5とが密着してしまい良好な剥離性を得ることができなくなって回路基板Aを形成することができなくなる。
【0005】
また、導電性基材1としてキャリア付銅箔やPET付銅箔などのキャリア付金属箔を用いた場合、金属箔の上にパターンメッキを施してから樹脂基材4と成型した後は、キャリアを剥離して表面に露出した金属箔をソフトエッチング等により除去すればよいので、剥離性が悪くても回路基板Aを形成することが可能ではある。しかし、キャリアを剥離する際に薬液による処理が必要となってしまい工程が煩雑となりやすい。
【0006】
さらに、通常、転写箔には特殊な表面処理がされており、標準的には表面粗化処理がされているので、その粗化された表面に高温で密着性の高い熱可塑性樹脂等が加圧及び加熱されて成型された場合には、極めて密着性が高くなって、転写箔を樹脂基板5から剥離することが一層困難になる。
【0007】
導体回路パターン3を転写して回路基板Aを形成する際に、剥離性を有する材料を用いて剥離を良好に行う技術が開示されている(特許文献1〜3)。しかしながら、これらの技術はいずれも樹脂基板5の表面に導体回路パターン3が突出して形成される回路基板Aを製造するものであり、導体回路パターン3が樹脂基板5に埋め込まれて樹脂基板5の表面と導体回路パターン3の表面とが平滑となった回路に対応するものではなく、回路基板Aを薄型化することができないといった問題があった。また、導体回路パターン3が樹脂基板5の表面に突出して形成されているので、剥離の際に導体回路パターン3が脱落しやすいといった問題があった。
【特許文献1】特開2003−234565号公報
【特許文献2】特開平6−283842号公報
【特許文献3】特開平9−64548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、導電性基材の剥離が良好に行われ、成型後の樹脂基板との密着や、導体回路パターンの脱落のない、微細な導体回路パターンを有する回路基板及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る回路基板Aは、導電性基材1の表面全体に、導電性を有する剥離性有機物層2を形成する工程と、前記導電性基材1の剥離性有機物層2が形成された面に、電気メッキにより導体回路パターン3を形成する工程と、前記導電性基材1の導体回路パターン3が形成された面に樹脂基材4を重ねる工程と、前記導電性基材1に重ねられた前記樹脂基材4を加熱して成型する工程と、前記導電性基材1を剥離する工程とにより形成されたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に係る回路基板Aは、上記構成に加え、剥離性有機物層2がフッ素系樹脂材料により形成されたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に係る回路基板Aは、上記構成に加え、剥離性有機物層2が防錆材料により形成されたことを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に係る回路基板Aは、上記構成に加え、電気メッキにより導体回路パターン3を形成する工程が、電気メッキにより導体材料を積層するものであって、電気メッキにより前記導電性基材1の表面全体に前記導体材料が積層された導体材料層3aを形成する工程と、電気メッキにより前記導体材料層3aの表面に前記導体材料が導体回路パターン3を形成して積層された回路パターン層3bを形成する工程とを有すると共に、前記導電性基材1を剥離する工程の後に前記導体材料層3aを除去する工程を有することを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に係る回路基板Aは、上記構成に加え、樹脂基材4が熱可塑性樹脂により形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6に係る回路基板Aは、上記構成に加え、樹脂基材4を加熱して成型する工程が、樹脂基材4を200℃以上に加熱して成型するものであることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に係る回路基板Aは、上記構成に加え、導電性基材1がステンレス基材であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項8に係る回路基板Aは、上記構成に加え、導電性基材1がキャリア付金属箔であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項9に係る回路基板Aは、上記構成に加え、導体回路パターン3が樹脂基材4により形成された樹脂基板5に埋め込まれて回路基板表面が平滑になったものであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項10に係る回路基板Aの製造方法は、導電性基材1の表面全体に、導電性を有する剥離性有機物層2を形成する工程と、前記導電性基材1の剥離性有機物層2が形成された面に、電気メッキにより導体回路パターン3を形成する工程と、前記導電性基材1の導体回路パターン3が形成された面に樹脂基材4を重ねる工程と、前記導電性基材1に重ねられた前記樹脂基材4を加熱して成型する工程と、前記導電性基材1を剥離する工程とにより形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、導電性基材の表面全体に剥離性有機物層が形成されることにより、導電性基材が樹脂基板や導体回路パターンに直接接触して密着することがなく、導電性基材を簡単に回路基板から剥離することができるものである。そして、この剥離性有機物層は導電性を有するために、電気メッキにより容易に導体回路パターンを形成することができるものである。
【0020】
請求項2の発明によれば、剥離性有機物層がフッ素系樹脂材料により形成されていることにより、電着塗装により剥離性有機物層を形成することが可能となり、簡単に剥離性有機物層を形成することができると共に、フッ素系樹脂材料は剥離性が高いので、成型後に導電性基材を容易に剥離することができるものである。
【0021】
請求項3の発明によれば、剥離性有機物層が防錆材料により形成されていることにより、一般的な防錆処理により剥離性有機物層を形成することが可能となり、簡単に剥離性有機物層を形成することができると共に、防錆材料が樹脂基板と導電性基材との密着を阻害するので、成型後に導電性基材を容易に剥離することができるものである。
【0022】
請求項4の発明によれば、導電性基材の表面全体に導体材料層が積層形成されていることにより、樹脂基板と導電性基材とを確実に分離することが可能となるので、樹脂基板と導電性基材とが密着せずに成型することが可能となると共に、導体材料層と導電性基材の間には剥離性有機物層が介在しているので、導電性基材を簡単に剥離することができるものである。
【0023】
請求項5の発明によれば、樹脂基材が熱可塑性樹脂により形成されていることにより、金属との密着性が高い熱可塑性樹脂を用いた場合でも、導電性基材を簡単に剥離することができるものである。
【0024】
請求項6の発明によれば、200℃以上の加熱成型という、導電性基材の表面や電気メッキで形成された層の界面に発生する分解物や不純物の影響で、導電性基材と樹脂基板や導体回路パターンとが強固に密着するような高温成型条件であっても、剥離性有機物層により導電性基材の剥離性を良好にすることができるものである。
【0025】
請求項7の発明によれば、導電性基材がステンレス基材であることにより、薄くて剛性のあるステンレス箔を用いて導電性基材の取り扱い性を良好にすることができ、めくり上げ等による導電性基材の剥離工程を手作業でもたわみなく簡単に行うことができるものである。
【0026】
請求項8の発明によれば、導電性基材がキャリア付金属箔であることにより、金属箔面が粗化処理されているので、剥離性有機物層と導電性基材とを密着させることができ、回路基板から剥離性有機物層と導電性基材を容易に剥離することができるものである。
【0027】
請求項9の発明によれば、導体回路パターンが樹脂基板に埋め込まれていることにより、導体回路パターンと樹脂基板との密着性が向上するので、確実に導体回路パターンを脱落させることなく導電性基材を回路基板から剥離することができるものである。
【0028】
請求項10の発明によれば、導電性基材の表面全体に剥離性有機物層が形成されることにより、導電性基材が樹脂基板や導体回路パターンに直接接触して密着することがなく、導電性基材を簡単に回路基板から剥離することができるものである。そして、この剥離性有機物層は導電性を有するために、電気メッキにより容易に導体回路パターンを形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の回路基板Aの製造方法について図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1(a)〜(d)は、本発明の回路基板Aの製造方法の一例を示す断面図を示している。回路基板Aを製造するにあたっては、まず、図1(a)のように、導電性基材1の表面全体に導電性を有する剥離性有機物層2を形成する。
【0031】
導電性基材1としては導電性を有するものであれば適宜の基材を使用することができるが、ステンレス基材であることが好ましく、ステンレス箔がフィルム状に形成されたステンレス転写箔であることがより好ましい。それにより、ステンレス箔は薄くて剛性があるので導電性基材1の取り扱い性を良好にすることができ、また、めくり上げ等による導電性基材の剥離工程を手作業でもたわみなく簡単に行うことができる。
【0032】
導電性基材1は、剥離性有機物層2が形成される面が粗化処理されていることが好ましい。それにより、剥離性有機物層2が導電性基材1と密着して形成されるため、導電性基材1を剥離する際に、剥離性有機物層2と、樹脂基板5及び導体回路パターン3との界面において剥離することができ、剥離性有機物層2の残存なく導電性基材1を剥離して回路基板Aを形成することができる。導電性基材1の粗化処理は、適宜の粗化処理方法により行うことができるが、例えば、NR−1870(メック株式会社製)などの粗化液や、塩化第2銅溶液などの一般的な回路エッチング溶液等で処理することにより行うことができる。
【0033】
剥離性有機物層2は、導電性を有する材料(有機物)によって形成され、成型後の導電性基材1の剥離を良好にする層である。そのような材料としては、導電性を有し、剥離性が良好となるものであれば適宜のものを使用することができるが、フッ素系樹脂材料、ポリイミド系材料、シリコーン系樹脂等であることが好ましく、フッ素系樹脂材料であることがより好ましい。フッ素系樹脂材料を用いれば、電着塗装により剥離性有機物層2を形成することが可能となり、簡単に剥離性有機物層2を形成することができる。また、フッ素系樹脂材料は剥離性が高いので、成型後に導電性基材1を容易に剥離することができる。フッ素系樹脂材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))などを使用することができる。
【0034】
フッ素系樹脂材料等の樹脂組成物により剥離性有機物層2を形成するには、電着塗装により行うことができる。それにより簡単に均一な厚みの剥離性有機物層2を形成することが可能となる。電着塗装は、導電性を有する樹脂組成物の溶液、例えばフッ素系樹脂のエマルジョンに導電性基材1を入れ、通電することにより行う方法であり、電気泳動で導電性基材1の表面に樹脂を付着させて樹脂層を形成することができる。この方法により形成された剥離性有機物層2の表面には微弱ではあるが導電性が保有されており、これを利用して電気メッキすることが可能となる。
【0035】
また、剥離性有機物層2を形成する材料として、防錆材料を用いることも好ましい。それにより、一般的な防錆処理により剥離性有機物層2を形成することが可能となり、簡単に剥離性有機物層2を形成することができる。また、防錆材料が樹脂基板5と導電性基材1との密着を阻害するので、成型後に導電性基材1を容易に剥離することができる。防錆材料としては、適宜のものを使用することができるが、例えば、3-(2-Benzothiazylthio)propionic acid、メカヒビター#31(日本メカケミカル株式会社製)などの成分を含有するものを使用することができる。
【0036】
防錆材料により剥離性有機物層2を形成するには、一般的な防錆処理により行うことができ、例えば、導電性基材1を、防錆剤を含む溶液や水溶液に浸漬したり、あるいは防錆剤を含む溶液や水溶液を噴霧したりした後に、加熱乾燥することにより防錆皮膜を剥離性有機物層2として形成することができる。
【0037】
剥離性有機物層2の厚みは、1〜100μmであることが好ましい。剥離性有機物層2の厚みがこの範囲より小さいと剥離性有機物層2が十分に形成されずに導電性基材1の剥離性を向上させることができなくなるおそれがある。一方、剥離性有機物層2の厚みがこの範囲より大きいと剥離性有機物層2の導電性が低下して電気メッキにより導体回路パターン3を形成できなくなるおそれがある。
【0038】
次に、図1(b)のように、導電性基材1の剥離性有機物層2が形成された面に、電気メッキにより導体回路パターン3を形成する。図示のように、剥離性有機物層2は導電性を有するので電気メッキにより導体回路パターン3の形成が可能となっている。導体回路パターン3の形成は、一般的に使用されているパターンレジストにより行うことができる。すなわち、剥離性有機物層2の表面にレジスト材料を積層し、パターンマスクを用いてこのレジスト材料を光硬化等により硬化し、硬化していないレジスト材料を除去してパターン状に剥離性有機物層2を露出させ、次いで電気メッキにより剥離性有機物層2の表面に導体材料をパターン状に積層し、最後に硬化したレジストを薬液等により除去することにより行うことができる。なお、ファインパターンの導体回路を形成するためには、メッキ層がきのこ状に形成されないようにすることが好ましいが、後工程で樹脂基材と一体化成形した時の回路のランド強度を向上させるために、くさび状の形状にする場合もある。
【0039】
導体回路パターン3を形成する導体材料としては、電気メッキにより積層することができる適宜の材料を用いることができ、例えば、銅などの導電性の金属を用いることができる。
【0040】
導体回路パターン3の厚みは5〜50μmであることが好ましい。それにより、十分な導電性を得ることができると共に、微細な導体回路パターン3を形成することが可能となる。
【0041】
次に、図1(c)のように、導電性基材1の導体回路パターン3が形成された面に樹脂基材4を重ねて、導体回路パターン3を樹脂基材4の表面に転写する。
【0042】
樹脂基材4としては、樹脂組成物からなる樹脂シートや、樹脂組成物が織布や不織布に含浸されたプリプレグなどを使用することができる。樹脂組成物としては、熱可塑性のもの又は熱硬化性のものを使用することができる。このうち、熱可塑性樹脂は金属との密着性が高いが、その場合であっても導電性基材1を簡単に剥離することができる。
【0043】
樹脂基材4の厚みは適宜設定し得るものであるが、30〜200μmであることが好ましい。それにより、薄型化を図ると共に、導体回路パターン3を確実に樹脂基材4に埋め込んで回路基板Aを形成することが可能となる。
【0044】
次いで、樹脂基材4を加熱して成型し、樹脂基板5を形成する。樹脂基材4の成型は、加熱加圧装置を用いて、樹脂基材4が導電性基材1に重ねられた状態で加熱加圧することにより行うことができる。この成型工程により、導体回路パターン3が樹脂基材4に埋め込まれた状態で樹脂が硬化して樹脂基板5を形成するため、導体回路パターン3が樹脂基板5に埋め込まれて樹脂基板5の表面と導体回路パターン3の表面とが平滑となった回路が形成される。このとき、導電性基材1と樹脂基材4との間には剥離性有機物層2が存在しているので、樹脂基材4が成型される際に、樹脂基板が導電性基材に密着することがなく、成型後の導電性基材1の剥離性を良好とすることができる。
【0045】
樹脂基材4の成型における加熱としては、200℃以下で加熱することが好ましい。しかし、熱可塑性樹脂は200℃以上の加熱成型が一般的であり、成型を確実にできる条件であるが、導電性基材1の表面や導体回路パターン3の界面に発生する分解物や不純物の影響で、導電性基材1と樹脂基板5や導体回路パターン3とが強固に密着するような高温成型条件である。その際、図1のような方法によれば、剥離性有機物層2が存在していることにより、導電性基材1の剥離性を良好にすることができる。材料の安定性等を考慮すると、加熱温度の上限は300℃であることが好ましい。
【0046】
樹脂基材4を加熱して成型する際には加圧することが好ましく、加圧条件は0.5〜5MPaであることが好ましい。それにより、樹脂基材4を確実に成型して、樹脂基板5を形成することができる。加圧の際の圧力がこの範囲より低いと成型できなくなるおそれがある。一方、加圧の際の圧力がこの範囲より大きいと回路基板Aが損傷されるおそれがある。
【0047】
その後、図1(d)のように、導電性基材1を剥離性有機物層2と共に樹脂基板5から剥離することにより回路基板Aが形成される。このとき、導電性基材1と樹脂基板5との間に剥離性有機物層2が介在していると共に、導電性基材1と導体回路パターン3との間にも剥離性有機物層2が介在しているので、導電性基材1を回路基板Aから簡単に剥離することができる。
【0048】
図1(d)に示すように回路基板Aは、導体回路パターン3が樹脂基材4に埋め込まれて形成されている。したがって、上記特許文献1〜3のように導体回路パターン3を突出して転写させる場合に比べて、回路基板Aを薄型化することができる。また、導体回路パターン3は樹脂基板5に埋め込まれているため、導体回路パターン3を樹脂基板5によって強固に保持することができ、導体回路パターン3を脱落することなく導電性基材1を回路基板Aから剥離することができる。すなわち、導体回路パターン3が樹脂基板5に埋め込まれているので、導電性基材1を引き剥がす際のピール強度が格段に向上されているものである。
【0049】
そして、回路基板Aは微細な回路パターンを有するファイン回路における取り扱い性を向上することができるものである。アディティブメッキ等により導体回路パターン3を形成してファイン回路を作製することは可能ではある。ところが、このような方法では導体回路パターン3が樹脂基板5の表面に突出して形成されるため、導体回路パターン3と樹脂基板5との厚みの比が例えばL/S=30/30(μm)のものでは、導体回路パターン3に手が触れただけで導体回路パターン3が脱落してしまうといった問題が生じる。しかしながら、図1の例のような回路基板Aによれば、導体回路パターン3が樹脂基板5に埋め込まれているため、ファイン回路であっても樹脂基板5との密着性が良好であり、導体回路パターン3の脱落を気にすることなく取り扱いや輸送等を行うことができる。
【0050】
図2(a)〜(d)は、導電性基材1として、キャリア材1aと金属箔1bとからなるキャリア付金属箔を用いた例を示している。導電性基材1としてキャリア付金属箔を用いれば、金属箔面があらかじめ粗化処理されているので、剥離性有機物層2と導電性基材1とを密着させることができ、回路基板Aから剥離性有機物層2と導電性基材1を容易に剥離することができるものである。
【0051】
キャリア付金属箔としては、適宜のものを使用することができるが、例えば、キャリア材1aとしてのアルミ箔100μmと、金属箔1bとしての銅箔5μm(極薄銅箔)とが、特殊な合金層により仮接着されたものを用いることができる。極薄銅箔を単体で取り扱うとすぐにシワが発生してしまうため取り扱い性が非常に悪い。しかしながら、キャリア付金属箔を用いれば、金属箔1bが丈夫なキャリア材1aに固着しているので、シワが発生することなく極薄銅箔を取り扱うことが可能となり、導電性基材の取り扱い性を向上することができる。
【0052】
図2の例においても、図1と同様の方法で回路基板Aを形成することができる。まず、図2(a)のように、金属箔1bの表面全体に導電性を有する剥離性有機物層2を形成する。剥離性有機物層2は図1の例と同様に適宜のものを使用することができる。次に、図2(b)のように、導電性基材1の剥離性有機物層2が形成された面に、電気メッキにより導体回路パターン3を形成する。次に、図2(c)のように、導電性基材1の導体回路パターン3が形成された面に樹脂基材4を重ねて、導体回路パターン3を樹脂基材4の表面に転写する。その後、樹脂基材4を加熱して成型して樹脂基板5を形成し、さらに、図2(d)のように、導電性基材1を剥離性有機物層2と共に樹脂基板5から剥離することにより回路基板Aが形成される。
【0053】
図3(a)〜(e)は、本発明の回路基板Aの製造方法の他の一例を示す断面図を示している。この方法では、剥離性有機物層2の表面全体に導電材料からなる導体材料層3aを形成し、その表面に導体回路パターン3となる回路パターン層3bを順次積層して形成する。この方法によれば、樹脂基板5と導電性基材1とを確実に分離することが可能となるので、樹脂基板5と導電性基材1とが密着せずに成型することが可能となり導電性基材1の剥離性をさらに向上することができる。また、導体材料層3aと導電性基材1の間には剥離性有機物層2が介在しているので、導電性基材1を簡単に剥離することができる。
【0054】
図3の回路基板Aを製造するにあたっては、まず、図1(a)の場合と同様に、図3(a)のように、導電性基材1の表面全体に導電性を有する剥離性有機物層2を形成する。剥離性有機物層2は図1の例と同様に適宜のものを使用することができる。導電性基材1としては、図示のように図1の例と同様にステンレス基材などを使用することができるが、図2の例と同様にキャリア付金属箔などを使用することもできる。
【0055】
次に、図3(b)のように、剥離性有機物層2の表面全体に、電気メッキにより銅などの導体材料を積層させて導体材料層3aを形成し、さらに、パターンレジストを用いた電気メッキにより導体回路パターン3となる回路パターン層3bを形成する。パターンレジストは図1の例と同様の方法で行うことができる。
【0056】
導体材料層3aの厚みは3〜10μmであるのが好ましい。導体材料層3aの厚みがこの範囲より小さいと、導体材料層3aが十分に形成されずに導電性基材1と樹脂基材4とが密着して導電性基材1を回路基板Aから剥離しにくくなるおそれがある。また、導体材料層3aの厚みがこの範囲より大きいと、層が厚いために導電性基材1を剥離した後のエッチングが煩雑になるおそれがある。
【0057】
また、回路パターン層3bの厚みは5〜50μmであるのが好ましい。それにより、十分な導電性を得ることができると共に、微細な導体回路パターン3を形成することが可能となる。
【0058】
次に、図3(c)のように、導電性基材1の回路パターン層3b(導体回路パターン3)が形成された面に樹脂基材4を重ねて、導体回路パターン3を樹脂基材4の表面に転写する。樹脂基材4は図1の例と同様のものを使用することができる。
【0059】
次いで、樹脂基材4を加熱して成型し、樹脂基板5を形成する。樹脂基材4の成型は、図1の例と同様に加熱加圧装置を用いて行うことができる。
【0060】
その後、図3(d)のように、導電性基材1を樹脂基板5から剥離することにより導電材料層3aを表面に露出させる。次いで、図3(e)のように、露出した導体材料層3aをソフトエッチング等のエッチングにより除去する。エッチングは、導体回路パターン3である回路パターン層3bが表面に露出するまで行う。その際、表面が平坦になるようにエッチングすることが好ましい。このようにして、回路基板Aが形成される。
【0061】
図3(e)に示すように回路基板Aは、導体回路パターン3が樹脂基材4に埋め込まれて形成されている。したがって、上記特許文献1〜3のように導体回路パターン3を突出して転写させる場合に比べて、回路基板Aを薄型化することができる。また、導体回路パターン3は樹脂基板5に埋め込まれているため、導体回路パターン3を樹脂基板5によって強固に保持することができ、導体回路パターン3を脱落することなく導電性基材1を回路基板Aから剥離することができる。
【0062】
ここで、図1〜図3の回路基板Aは、導体回路パターン3が樹脂基板5に埋め込まれた例を示しているが、さらに、ICを実装してICが樹脂基板5に埋め込まれたような回路基板Aを形成することも可能である。具体的には、図1(b)のような状態の後、ICを実装する。すなわち、導体回路パターン3の表面に、ICを載置して銀ペースト等により固定する。また、導体回路パターン3とICとの間や周囲にアンダーフィル材を充填する。その後、図1(c)と同じように、導電性基材1の導体回路パターン3が形成された面、すなわちICが実装された面に樹脂基材4を重ねる。それ以降は、図1の方法と同じようにして樹脂基材4を加熱して成型した後、導電性基材1を剥離することにより、導体回路パターン3が埋め込まれると共に、ICが内部に埋め込まれた回路基板Aを形成することができる。
【0063】
ICの下に充填するアンダーフィル材は特殊な樹脂が多く、ステンレス転写箔などの導電性基材1との密着性が高い材料が多い。そのため、成型された回路基板Aから導電性基材1をきれいに剥離できなくなるおそれがある。しかしながら、この方法によれば、導電性基材1とアンダーフィル材との間にも剥離性有機物層2が介在して剥離性が向上しているので、導電性基材1を回路基板Aから簡単に剥離することができる。
【実施例】
【0064】
次に本発明を実施例により説明する。
【0065】
(実施例1)
導電性基材1としてステンレス転写箔(厚み100μm)を用いた。このステンレス転写箔に粗化液(NR-1870:メック株式会社製)により粗化処理を行った。粗化処理されたステンレス転写箔に電着塗装により、剥離性有機物層2としてフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:テフロン(登録商標))を厚み50μmで塗装した。電着塗装は、日本フッソ工業株式会社のECシリーズにて行った。
【0066】
次に、パターンレジストによる電気メッキにより、導体材料として銅を用いて導体回路パターン3を厚み5μmで形成した。
【0067】
次いで、樹脂基材4として熱可塑性樹脂により形成された樹脂シート(厚み50μm)を用い、この樹脂シートをステンレス転写箔の導体回路パターン3が形成された面に重ねて、温度350℃、圧力2MPaにて加熱加圧成型を行った。冷却後、ステンレス転写箔を剥離することにより、導体回路パターン3が樹脂基板5に埋まると共に表面が平滑な回路基板Aが形成された。
【0068】
(実施例2)
導電性基材1としてステンレス板を用いた。このステンレス板に銅回路のエッチング液として使用される塩化第2銅溶液により粗化処理を行った。粗化処理されたステンレス板を防錆材料の溶液に浸漬させてから120℃で乾燥することにより、剥離性有機物層2として防錆材料(3-(2-Benzothiazylthio)propionic acid)を厚み1〜3μmで付着させて塗装した。
【0069】
次に、パターンレジストによる電気メッキにより、導体材料として銅を用いて導体回路パターン3を厚み35μmで形成した。
【0070】
次いで、樹脂基材4として積層板材料であるプリプレグ(厚み50μm)を用い、このプリプレグをステンレス板の導体回路パターン3が形成された面に重ねて、温度175℃、圧力1MPaにて加熱加圧成型を行った。冷却後、ステンレス板を剥離することにより、導体回路パターン3が樹脂基板5に埋まると共に表面が平滑な回路基板Aが形成された。
【0071】
(実施例3)
導電性基材1としてキャリア付極薄銅箔(銅箔/アルミ箔、5μm/75μm)を用いた。このキャリア付極薄銅箔は粗化処理されているものである。キャリア付極薄銅箔に電着塗装により、剥離性有機物層2としてフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:テフロン(登録商標))を厚み10μmで塗装した。電着塗装は、プロトニクス(株式会社日本プロトン製)にて行った。
【0072】
次に、パターンレジストによる電気メッキにより、導体材料として銅を用いて導体回路パターン3を厚み5μmで形成した。
【0073】
次いで、樹脂基材4として熱可塑性樹脂により形成された樹脂シート(厚み50μm)を用い、この樹脂シートをキャリア付極薄銅箔の導体回路パターン3が形成された面に重ねて、温度350℃、圧力4MPaにて加熱加圧成型を行った。冷却後、ステンレス転写箔を剥離することにより、導体回路パターン3が樹脂基板5に埋まると共に表面が平滑な回路基板Aが形成された。
【0074】
(実施例4)
実施例4では、図3の方法にて回路基板Aを形成した。
【0075】
導電性基材1としてステンレス転写箔(厚み50μm)を用いた。このステンレス転写箔に銅回路のエッチング液として使用される塩化第2銅溶液により粗化処理を行った。粗化処理されたステンレス転写箔に電着塗装により、剥離性有機物層2としてフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:テフロン(登録商標))を厚み10μmで塗装した。電着塗装は、プロトニクス(株式会社日本プロトン製)にて行った。
【0076】
次に、剥離性有機物層2の表面全体に電気メッキにより、導体材料として銅を用いて導体材料層3aを厚み5μmで形成した。次いで、パターンレジストによる電気メッキにより、導体材料として銅を用いて導体回路パターン3となる回路パターン層3bを厚み5μmで形成した。
【0077】
次いで、樹脂基材4として熱可塑性樹脂により形成された樹脂シート(厚み50μm)を用い、この樹脂シートをステンレス転写箔の回路パターン層3bが形成された面に重ねて、温度350℃、圧力5MPaにて加熱加圧成型を行った。冷却後、ステンレス転写箔を剥離することにより、導体材料層3aを表面に露出させた。その後、ソフトエッチングにより、回路パターン層3bが表面に露出するまで導体材料層3aをエッチングすることにより、導体材料層3aを除去した。これにより、導体回路パターン3が樹脂基板5に埋まると共に表面が平滑な回路基板Aが形成された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の回路基板の製造方法の一例を示しており、(a)〜(d)は断面図を示している。
【図2】本発明の回路基板の製造方法の他の一例を示しており、(a)〜(d)は断面図を示している。
【図3】本発明の回路基板の製造方法の他の一例を示しており、(a)〜(e)は断面図を示している。
【図4】従来の回路基板の製造方法の一例を示しており、(a)〜(c)は断面図を示している。
【符号の説明】
【0079】
1 導電性基材
2 剥離性有機物層
3 導体回路パターン
3a 導体材料層
3b 回路パターン層
4 樹脂基材
5 樹脂基板
A 回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材の表面全体に、導電性を有する剥離性有機物層を形成する工程と、前記導電性基材の剥離性有機物層が形成された面に、電気メッキにより導体回路パターンを形成する工程と、前記導電性基材の導体回路パターンが形成された面に樹脂基材を重ねる工程と、前記導電性基材に重ねられた前記樹脂基材を加熱して成型する工程と、前記導電性基材を剥離する工程とにより形成されたことを特徴とする回路基板。
【請求項2】
剥離性有機物層がフッ素系樹脂材料により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
剥離性有機物層が防錆材料により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の回路基板。
【請求項4】
電気メッキにより導体回路パターンを形成する工程が、電気メッキにより導体材料を積層するものであって、電気メッキにより前記導電性基材の表面全体に前記導体材料が積層された導体材料層を形成する工程と、電気メッキにより前記導体材料層の表面に前記導体材料が導体回路パターンを形成して積層された回路パターン層を形成する工程とを有すると共に、前記導電性基材を剥離する工程の後に前記導体材料層を除去する工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項5】
樹脂基材が熱可塑性樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項6】
樹脂基材を加熱して成型する工程が、樹脂基材を200℃以上に加熱して成型するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項7】
導電性基材がステンレス基材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項8】
導電性基材がキャリア付金属箔であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項9】
導体回路パターンが樹脂基材により形成された樹脂基板に埋め込まれて回路基板表面が平滑になったものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項10】
導電性基材の表面全体に、導電性を有する剥離性有機物層を形成する工程と、前記導電性基材の剥離性有機物層が形成された面に、電気メッキにより導体回路パターンを形成する工程と、前記導電性基材の導体回路パターンが形成された面に樹脂基材を重ねる工程と、前記導電性基材に重ねられた前記樹脂基材を加熱して成型する工程と、前記導電性基材を剥離する工程とにより形成することを特徴とする回路基板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−157605(P2010−157605A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334887(P2008−334887)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】