説明

回路遮断器の消弧装置

【課題】 簡易な変更で固定接触子先端部から可動接触子に至る空間への金属粒子の飛散を制限し、短絡遮断容量を大きくできる回路遮断器の消弧装置を提供する。
【解決手段】 隔離板12bの開口部Pの底部に、可動接触子幅より幅広で可動接触子の基部方向に向けて所定量突出させた舌片12cを設け、固定接点と可動接点とが接触/乖離動作する空間の左右を、絶縁部材から成る側面板12aで覆った。舌片12cは、隔離板12bから連続形成されると共に、隔離板12bと側面板12aとは消弧装置の底枠体12dを介して連結され、側面板12a、隔離板12b、舌片12c、底枠体12dの4部材は、1枚の絶縁板を折り曲げて形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路遮断器の消弧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回路遮断器は、過電流の発生等で内部の接点が開放動作すると、開放動作時に接点間でアークが発生する。このアークは、周囲の遮断機構構成部材を劣化させたり、絶縁耐圧の低下を招くため、回路遮断器では接点部を覆うように消弧装置が組み込まれ、接点周囲の部材がアークに曝されるのを防ぐと共に、絶縁耐圧の低下を防いでいる。例えば、特許文献1に開示されたものは、接点が接触/乖離動作する接触/乖離空間の左右を側面板で覆うと共に、接触/乖離空間と開閉機構部の間にバリヤ(隔離板)を配置することで、発生したアークが開閉機構部に進入するのを規制している。
【0003】
図5は、このような消弧装置を備えた回路遮断器の具体的構成を示した断面説明図であり、21は操作ハンドル、22は電源側端子、23は負荷側端子、24は固定接点24aを備えた固定接触子、25は可動接点25aを備えた可動接触子、26は消弧装置、27は開閉機構部である。消弧装置26は、固定接点24aと可動接点25aが配置された接触/乖離空間の左右に側板30を備え、また可動接触子25の左右に可動接触子25を挟持するように隔離板31を備えてアークの飛散を規制するよう構成されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−185785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、受電設備設置環境の変化等から、回路遮断器の短絡遮断容量を大きくしたいとの要望がある。例えば、従来は2.5kAの電流通電時の遮断動作に対して良好な絶縁耐圧を維持すれば良かったが、その2倍の5.0kAの電流通電時の遮断動作に対しても良好な絶縁耐圧を維持する回路遮断器が望まれている。
しかしながら、上記従来の構造そのままでは短絡遮断容量のアップ、特に同極間の短絡遮断容量を2倍にアップするのが難しく、複数の部材の設計変更を必要とすることが考えられ、遮断容量のアップに簡易に対応できる構成が望まれていた。
【0006】
図5において、点線B2はアークの発生に伴い金属粒子が飛散する様子を示している。可動接点25aが乖離動作した際に、アーク発生により飛散した金属粒子等で固定接触子24と可動接触子25の間で絶縁抵抗の低下により、電流路の形成が考えられるのは、固定接触子24の先端部から回路遮断器筐体を介して可動接触子25基部に至る矢印Cで示す経路であり、点線B2から分かるようにこの矢印Cの経路にも金属粒子が飛散する。
これは、可動接触子25側にも隔離板31を設けて金属粒子の飛散を規制しているが、可動接触子25の動作空間を通って金属粒子が可動接触子の基部方向へ飛散するためであり、この空間を通って接触/乖離空間から外へ飛散する金属粒子を規制することは難しかった。
【0007】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、簡易な変更で固定接触子先端部から可動接触子に至る空間への金属粒子の飛散を制限し、短絡遮断容量を大きくできる回路遮断器の消弧装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する為に、請求項1の発明は、固定接点を備えた固定接触子と可動接点を備えた可動接触子とが対向配置され、前記固定接点に対して前記可動接点が接触/乖離動作するよう前記可動接触子が所定方向に揺動可能であって、前記可動接触子の中間部周囲に、前記固定接点と前記可動接点との間で発生するアークが前記可動接触子基部方向へ進入するを規制するための隔離板が配置されてなる回路遮断器の消弧装置であって、前記隔離板は、前記可動接触子の揺動を可能とする開口部が、可動接触子の乖離方向端部から切り欠き形成されて成り、前記開口部の底部に、可動接触子幅より幅広で前記可動接触子の基部方向に向けて所定量突出させた舌片を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、隔離板により、電路を遮断操作する際に発生するアークを受けて可動接触子の基部方向へ金属粒子が飛散するのが制限される。また、舌片により、舌片の裏面方向となる固定接触子の前方から可動接触子基部に及ぶ範囲が遮蔽され、金属粒子の飛散から隔離することが可能となる。よって、遮断動作による絶縁抵抗の劣化を防止でき、短絡遮断容量を上げることが可能となる。そして、隔離板に舌片を設ける簡易な変更だけで対応でき、回路遮断器筐体の設計変更等を必要としないため、コスト増とならない。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記固定接点と前記可動接点とが接触/乖離動作する接触/乖離空間の左右を、絶縁部材から成る側面板で覆い、前記隔離板を前記側面板に隣接させて左右の側面板間に亘り配置したことを特徴とする。
この構成によれば、電路の遮断動作により飛散する金属粒子の横方向への飛散が遮断されるし、隣接する異極間の絶縁抵抗の低下を防ぐことができる。また、側面板と隔離板との間に隙間の発生を無くすことができ、接触/乖離空間の閉塞性を高めることができる。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載の発明において、前記舌片は、前記隔離板から連続形成されると共に、前記隔離板と前記側面板とは消弧装置の底面を形成する底枠体を介して連結され、前記隔離板、前記側面板、前記舌片、前記底枠体の4部材は、1枚の絶縁板を折り曲げて形成されてなることを特徴とする。
この構成によれば、舌片は隔離板に連続形成されるので、折り曲げるだけで良いし、側面板、隔離板、舌片は、1枚の絶縁板を打ち抜くだけで作成できる。よって、容易に作成できるし、連結されているため扱いやすい。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の発明において、前記舌片の突出長は、3〜7mmであることを特徴とする。
この構成によれば、金属粒子が飛散方向を良好に規制できるし、可動接触子の揺動を妨げることもない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、舌片により、舌片の裏面方向となる固定接触子の前方から可動接触子基部に及ぶ範囲が遮蔽されて、金属粒子の飛散から隔離することが可能となる。よって、絶縁抵抗の劣化を防止でき、短絡遮断容量を大きくすることが可能となる。そして、隔離板に舌片を設ける簡易な変更だけで対応でき、回路遮断器筐体の設計変更等を必要としないため、コスト増とならない。

【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る消弧装置を組み込んだ回路遮断器の断面説明図、図2は図1のA部拡大図を示している。図1,図2において、1は電路を開閉操作する操作ハンドル、2は電源側端子、3は負荷側端子、4は固定接点4aを備えた固定接触子、5は固定接点4aに対して接触/乖離動作する可動接点5aを備えた可動接触子、6は接点間で発生したアークを消弧する消弧装置、7は操作ハンドル1の操作を受けて可動接触子5を開閉動作させたり、過電流や短絡電流の発生を受けて可動接触子5を乖離動作させる開閉機構部、8は短絡電流等を検知するためのプランジャである。操作ハンドル1は回路遮断器筐体10の上面に配置され、電源側端子2は後方、負荷側端子3は前方に配置されている。
【0014】
消弧装置6は、金属製の枠体11と、この枠体11を覆う絶縁枠体12とで形成され、図3(a)は枠体11の斜視図、図3(b)は絶縁枠体12の斜視図を示している。絶縁枠体12は、バルカナイズドファイバから成る絶縁紙を打ち抜いて、各面が折り曲げられて形成され、枠体11と重ね合わせて固定接点及び可動接点が配置された接触/乖離空間を覆うように配置される。
【0015】
絶縁枠体12を具体的に説明すると、12aは接触/乖離空間の左右に対向するよう配置される側面板、12bは可動接点5aの背部となる可動接触子5の中間部位に配置されて、開閉機構部7の方向でもある可動接触子5の基部方向へ飛散するアークを制限する隔離板、12cは隔離板12bから可動接触子5の基部方向に突出させた舌片である。また、12dは絶縁枠体12の底部即ち消弧装置の底面を構成する底枠体であり、側面板12aと隔離板12bとを連結するために略コ字状に形成されている。
【0016】
側面板12aは四角形に形成され、接触/乖離空間の左右を覆う大きさを有している。隔離板12bは、側面板12aの可動接触子5側端部に隣接して配置され、中央に可動接触子5を挿通すると共に、その揺動を可能とする開口部Pが上方から大きく切り欠いて形成され、全体が略コ字状に形成されている。
【0017】
一方、舌片12cは、開口部Pの底部となる隔離板12bに連続形成され、幅Wは開口部Pの幅とほぼ等しい幅(例えば、9mm)を有し、隔離板12bから略直角に折り曲げて形成され、突出長Tは略5mmである。そして、側面板12aと前面板12bはコ字状に形成された底枠体12dに一体に形成されている。即ち、側面板12a、隔離板12b、舌片12c、底枠体12dは1枚の絶縁板を打ち抜いて一体に形成され、折り曲げて各部材は形成されている。
尚、舌片12cの突出長Tは、短いと後述する金属粒子遮蔽機能が低下するし、長いと可動接触子5の揺動動作に支障を来すため3〜7mmが好適である。
【0018】
図4は図1の回路遮断器において遮断動作時に発生したアークにより金属粒子が飛散する様子を点線B1で書き加えた説明図である。この図4に示すように、金属粒子は枠体11及び絶縁枠体12で閉塞されていない前後方向及び上方には消弧装置6を越えて外へ飛散し、前方の可動接触子5方向に対しても可動接触子5の基部方向へ飛散する。しかし、舌片12cにより、固定接触子4の前方となる筐体底部が遮蔽され、金属粒子の飛散から隔離される。その結果、上記図5の矢印Cで示すような電流経路が出来難くなる。
【0019】
表1は具体的な短絡遮断試験結果を示し、舌片のない図5に示す従来の構成と、舌辺12cを設けた図1の構成とを比較している。試験はL1,N,L2の3端子を備えた回路遮断器で実施し、投入角度を電流位相0°、60°、120°の3通りで行い、同極間の絶縁抵抗(同極の電源側端子と負荷側端子の間の抵抗)と異極端子間の絶縁抵抗値(単位はMΩ)を計ったものである。尚、通電電流は、5.0kA、またL1−N間電圧及びL2−N間電圧は100V、L1−L2間電圧は200Vとした。
【0020】
【表1】

【0021】
この表1から、舌片12cを設けない構成では、L1相,L2相において同極の絶縁抵抗が大きく低下するが、舌片12cを設けた構成では最低でも20MΩあり、良好な絶縁特性を維持することが分かる。
【0022】
このように、隔離板により、電路を遮断操作する際に発生するアークを受けて可動接触子の基部方向へ金属粒子が飛散するのが制限される。また、舌片により、舌片の裏面方向となる固定接触子の前方から可動接触子基部に及ぶ範囲が遮蔽され、金属粒子の飛散から隔離することが可能となる。よって、遮断動作による絶縁抵抗の劣化を防止でき、短絡遮断容量を大きくすることが可能となる。そして、隔離板に舌片を設ける簡易な変更だけで対応でき、回路遮断器筐体の設計変更等を必要としないため、コスト増とならない。
また、側面板により、電路の遮断動作により飛散する金属粒子の横方向への飛散が遮断されるし、隣接する異極間の絶縁抵抗の低下を防ぐことができる。更に、側面板に隣接させて隔離板を配置することで、両者の間に隙間の発生を無くすことができ、接触/乖離空間の閉塞性を高めることができる。
加えて、舌片は隔離板に連続形成されるので、折り曲げるだけで良いし、側面板、隔離板、舌片は、1枚の絶縁板を打ち抜くだけで作成できる。よって、容易に作成できるし、連結されているため扱いやすい。
【0023】
尚、上記実施形態では、固定接触子4と可動接触子5を回路遮断器の端子方向となる前後方向に向けて配置した構成を説明しているが、この方向に限定するものでなく、例えば端子方向に直交する縦方向に配置した構成においても適用でき、隔離板12bを可動接触子5の途中に配置し、舌片12cを可動接触子の基部に向けて突出させればよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る回路遮断器の消弧装置の一例を示す回路遮断器の断面説明図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】図1の消弧装置の斜視図であり、(a)は金属製の枠体、(b)は絶縁枠体を示している。
【図4】図1の回路遮断器において、発生したアークにより金属粒子が飛散する様子を書き加えた説明図である。
【図5】従来の回路遮断器の断面説明図である。
【符号の説明】
【0025】
6・・消弧装置、12・・絶縁枠体、12a・・側面板、12b・・隔離板、12c・・舌片、12d・・底枠体、P・・開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定接点を備えた固定接触子と可動接点を備えた可動接触子とが対向配置され、前記固定接点に対して前記可動接点が接触/乖離動作するよう前記可動接触子が所定方向に揺動可能であって、前記可動接触子の中間部周囲に、前記固定接点と前記可動接点との間で発生するアークが前記可動接触子基部方向へ進入するを規制するための隔離板が配置されてなる回路遮断器の消弧装置であって、
前記隔離板は、前記可動接触子の揺動を可能とする開口部が、可動接触子の乖離方向端部から切り欠き形成されて成り、
前記開口部の底部に、可動接触子幅より幅広で前記可動接触子の基部方向に向けて所定量突出させた舌片を備えたことを特徴とする回路遮断器の消弧装置。
【請求項2】
前記固定接点と前記可動接点とが接触/乖離動作する接触/乖離空間の左右を、絶縁部材から成る側面板で覆い、前記隔離板を前記側面板に隣接させて左右の側面板間に亘り配置した請求項1記載の回路遮断器の消弧装置。
【請求項3】
前記舌片は、前記隔離板から連続形成されると共に、前記隔離板と前記側面板とは消弧装置の底面を形成する底枠体を介して連結され、
前記隔離板、前記側面板、前記舌片、前記底枠体の4部材は、1枚の絶縁板を折り曲げて形成されてなる請求項2記載の回路遮断器の消弧装置。
【請求項4】
前記舌片の突出長は、3〜7mmである請求項1乃至3の何れかに記載の消弧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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