説明

回転つまみの回転軸への取付構造

【課題】分解作業が簡単であり、保持手段となる部材を太くすることなく、大きい軸方向保持力が得られ、そして、樹脂スペーサと回転軸の保持力を適切な値に設定でき、繰り返し分解しても部材が削づられることのない回転つまみの回転軸への取付構造を提供する。【解決手段】回転つまみと回転電子部品の回転軸との間に前記回転つまみと蜜嵌合する樹脂スペーサ3を介在させて回転つまみを前記回転軸へ取り付ける取付構造において、前記回転軸をDカットとし回転軸のDカットされていない部分の円筒面に凹みを設け、前記樹脂スペーサ3のリブ3dに対向する一対の穴3b、3bと前記Dカットとの嵌合部3cとを設け、前記一対の穴3b、3bに金属線5を挿通し、前記樹脂スペーサのDカットとの嵌合部3cと前記金属線5とで前記回転軸のDカットと凹みとを圧接状態に挾持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は回転電子部品に係わり、特に、その回転軸への回転つまみの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転つまみの回転軸への取付構造の例を図5〜図7により説明する。図5は従来の回転つまみの回転軸への取付構造の例を示す分解斜視図である。図5に示す通信機1には回転スイッチが取付けられており、その回転軸2が外部に露出している。
【0003】
回転軸2にはDカット2bが形成され、Dカットされていない部分の円筒面に凹み2aが設けられている。ポリアセタール樹脂で成形された樹脂スペーサ6には全外周にV字形凸条6aが形成され、さらに、上面から延びる爪6bとDカット嵌合部6cが形成されている。回転つまみ4の内周には図6に示すようにV字形溝4aが形成されている。
【0004】
組み立て時には先ず樹脂スペーサ6に回転つまみ4が上から押されるようにして嵌合される。そのとき、樹脂スペーサ6のV字形凸条6aが回転つまみ4のV字形溝4aに圧縮された状態で嵌まり込む。
【0005】
このように回転つまみ4に嵌着された樹脂スペーサ6が回転軸2に上から押されるようにして嵌合される。図6に回転軸2に樹脂スペーサ6を介して回転つまみ4が嵌合された状態が示されている。図6のA部の拡大図が図7に示されている。樹脂スペーサ6が回転軸2に嵌合されるときは、図7で点線で示すように爪6bは矢印F1方向に弾性変形した後実線で示すように回転軸2の凹み2aに嵌まり込む。
【0006】
組み立て状態で、図6および図7に示すように、回転軸2のDカット2bと樹脂スペーサ6のDカット嵌合部6cが嵌合し、樹脂スペーサ6のV字形凸条6aと回転つまみ4のV字形溝4aとが圧接嵌合し、樹脂スペーサ6の爪6bと回転軸2の凹み2aが嵌合している。
【0007】
回転つまみ4と樹脂スペーサ6の軸方向および回転方向保持力は樹脂スペーサ6のV字形凸条6aと回転つまみ4のV字形溝4aとの圧接嵌合により得られる。回転軸2と樹脂スペーサ6との間の回転方向保持力は回転軸2のDカット2bと樹脂スペーサ6のDカット嵌合部6cとの嵌合により得られ、回転軸2と樹脂スペーサ6との間の軸方向保持力は樹脂スペーサ6の爪6bが回転軸2の凹み2aに嵌合していることにより得られる。
【0008】
爪6bの上端には直角の角が形成されており、この角が凹み2aの角に係合することにより軸方向の保持力が大きくなり、回転軸2と樹脂スペーサ6との間の軸方向保持力は樹脂スペーサ6と回転つまみ4との間の軸方向保持力より大きくなっている。
【0009】
上記のように嵌着された回転つまみ4および樹脂スペーサ6を回転軸2から外すときは、先ず、回転つまみ4を上方に引っ張り、V字形凸条6aを弾性変形させて回転つまみ4を樹脂スペーサ6から外す。その後、樹脂スペーサ6の爪6bに図7に示すF1方向の力を加えて撓ませた状態で樹脂スペーサ6にF2方向の力を加え樹脂スペーサ6の爪6bを点線で示す位置に凹み2aから外し樹脂スペーサ6を回転軸2から引き抜く。
【0010】
この回転つまみの取付構造では回転軸2と樹脂スペーサ6との間の強い軸方向保持力が得られるが、樹脂スペーサ6を回転軸2から外すときに、樹脂スペーサ6の爪6bに軸と直角方向の力を加えながら樹脂スペーサ6を軸方向に引き抜かなければならず、分解に困難な作業を伴うという欠点があった。
【0011】
この欠点を改善した図8に示す従来の回転つまみの回転軸への取付構造では、樹脂スペーサ7の爪7bの上下に丸みが付けられ、回転軸2の凹み2aの上下に傾斜面が設けられている。回転軸2のDカット2bは樹脂スペーサ7のDカット嵌合部7cと嵌合する。また、樹脂スペーサ6のV字形凸条6aと同様のV字形凸条が設けられており、他の構成は図5〜図7で説明したものと同様である。
【0012】
この例では樹脂スペーサ7と回転つまみが嵌合した状態で同時に回転軸2から外れるように構成したものもある。この構成とするためには回転軸2と樹脂スペーサ7の軸方向保持力が樹脂スペーサ7と回転つまみの軸方向保持力より小さく設定する必要がある。
【0013】
この回転つまみの回転軸への取付構造は回転つまみをF2方向の一方向に引っ張るだけで回転つまみと嵌合した状態で樹脂スペーサ7を回転軸2から外すことができ、分解は簡単であるが樹脂成形による爪7bによる適度の軸方向保持力を得るためには、爪7bを大きくする必要があり、スペース効率が下がるという問題があった。また、保持力を適度にするための微調整が難しかった。さらに、分解時に樹脂スペーサ7の爪7bが削づれてしまう恐れがあった。樹脂スペーサ7の爪7bが削づれると再度組み込んだときの樹脂スペーサ7と回転軸との保持力が小さくなる。
【0014】
上記の樹脂スペーサ7と回転つまみが嵌合したつまみアセンブリは無線機を使用するときは樹脂スペーサ7と回転軸2の保持力が大きい方が使いやすいが、保持力を大きくすると、修理時の分解性が犠牲となる。このような回転つまみと嵌合した状態で樹脂スペーサを回転軸から外す構成では樹脂スペーサと回転軸の保持力を適切な値に設定できなければならない。
【0015】
実開平5−79615号公報に提案されたつまみとシャフトの嵌合構造では、シャフトにDカットと円筒面の円周方向に延びる溝を設け、つまみに設けたDカット嵌合部をシャフトのDカットと嵌合させ、さらに、つまみに設けた半球状の凸部を前記溝に嵌合させる。このつまみとシャフトの嵌合構造では、つまみを一方向に引っ張るだけで簡単に分解できるが、やはり、分解時につまみの凸部が削づれてしまう恐れがあった。
【特許文献1】実開平5−79615号公報、段落0007、段落0008、図1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
この発明は上記した点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、分解作業が簡単であり、保持手段となる部材を太くすることなく、大きい軸方向保持力が得られ、そして、樹脂スペーサと回転軸の保持力を適切な値に設定でき、繰り返し分解しても部材が削づられることのない回転つまみの回転軸への取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明の回転つまみの回転軸への取付構造は、回転つまみと回転電子部品の回転軸との間に前記回転つまみと蜜嵌合する樹脂スペーサを介在させて回転つまみを前記回転軸へ取り付ける取付構造において、前記回転軸をDカットとし回転軸のDカットされていない部分の円筒面に凹みを設け、前記樹脂スペーサのリブに対向する一対の穴と前記Dカットとの嵌合部とを設け、前記一対の穴に金属線を挿通し、前記樹脂スペーサのDカットとの嵌合部と前記金属線とで前記回転軸のDカットと凹みとを圧接状態に挾持させるものである。
【0018】
また、前記回転つまみの回転軸への取付構造において、前記金属線がリブの一対の穴を挿通した状態で前記金属線の両端が前記穴から突出するように構成したものである。
【0019】
また、前記各回転つまみの回転軸への取付構造において、前記樹脂スペーサの外周面にV字形凸条またはV字形溝を設け、前記回転つまみの内周面にV字形溝またはV字形凸条を設け、前記回転つまみが樹脂スペーサと蜜嵌合したときに、前記樹脂スペーサのV字形凸条またはV字形溝と前記回転つまみのV字形溝またはV字形凸条とが嵌合し、前記樹脂スペーサのV字形凸条またはV字形溝が圧縮変形されるものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明の回転つまみの回転軸への取付構造は、分解作業が簡単であり、保持手段となる部材を太くすることなく、大きい軸方向保持力が得られる。そして、繰り返し分解しても部材が削づられることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下この発明を実施するための最良の形態を実施例に即して説明する。図1はこの発明の実施例である回転つまみの回転軸への取付構造の部分を示す分解斜視図である。図1に示す樹脂で成形された樹脂スペーサ3は上記した従来の樹脂スペーサ7の爪7bがなく、従来の樹脂スペーサ7のDカット嵌合部7cと同様のDカット嵌合部3cおよび、従来例の樹脂スペーサ6のV字形凸条6aと同様のV字形凸条3aが設けられている。さらに、リブ3dに対向する一対の穴3b、3bが設けられている。
【0022】
穴3b、3bに挿通する鋼線材5はバネ用ステンレス鋼線またはピアノ線であり、適度の弾性を有する。図2に樹脂スペーサ3の穴3b、3bに鋼線材5を挿通した状態を示している。穴3bの直径は鋼線材5の直径より若干(例えば0.1mm〜0.2mm)大きめに設定されており、遊びを持たせた状態で、図3に示すF3方向に曲がることができる構成となっている。
【0023】
そして、鋼線材5の端が穴3b、3bの中に入り込んで穴3b、3bの内壁に引っ掛かり、元に戻らなくなることがないように鋼線材5の長さを穴3b、3bの両端間の寸法Lより大きくしてある。
【0024】
このように樹脂スペーサ3が従来例で示した樹脂スペーサ7の代わりに用いられ、樹脂スペーサ3が図5および図6に示した回転つまみ4および図8で示した回転軸2の間に介装される。回転軸2の凹み2aの上下は傾斜面となっている。組み立て手順としては、先ず樹脂スペーサ3の穴3b、3bに鋼線材5を挿通させ、樹脂スペーサ3に回転つまみ4を被せる。
【0025】
このように形成されたつまみアセンブリを回転軸2のDカット2bと樹脂スペーサ3のDカット嵌合部3cの位置を合わせるようにして回転軸2に被せる。このとき、鋼線材5は図3に示すF3方向に撓んだ後、元にもどり回転軸2の凹み2aに入り込む。そのときの鋼線材5の回転軸2に対する移動軌跡が図4に示されている。
【0026】
このように組み付けられた回転つまみの回転軸への取付構造において、樹脂スペーサ3のV字形凸条3aと回転つまみ4のV字形溝4aとの圧接嵌合により、樹脂スペーサ3と回転つまみ4との間の軸方向保持力および回転方向保持力が得られる。
【0027】
また、鋼線材5と樹脂スペーサ3のDカット嵌合部3cは鋼線材5の弾力により回転軸2の凹み2aとDカット2bとに圧接されているので、回転軸2と樹脂スペーサ3との間の回転方向保持力は回転軸2のDカット2bと樹脂スペーサ3のDカット嵌合部3cとの嵌合により得られ、回転軸2と樹脂スペーサ3との間の軸方向保持力は鋼線材5と回転軸2の凹み2aとの係合により得られる。
【0028】
上記構成において、樹脂爪に比べて寸法当りの剛性が格段に大きい鋼線材の弾性により樹脂スペーサ3と回転つまみ4との間の軸方向保持力保持力を得ているので、限られた樹脂スペースの中で保持力を最大限に大きくすることができる。
【0029】
図8で示した従来の構造では大きい軸方向保持力が得られないことを説明したが、具体的に説明すると、回転軸直径が3mm〜5mm、回転つまみの外径が10mm〜15mm位いのものを想定すると、樹脂爪の幅が1.5mm程度となる。この場合軸方向保持力は20N程度であるが上記実施例で40N以上の軸方向保持力を実現することができた。
【0030】
そして、つまみアセンブリを一方向の力で引き抜くだけで分解できるので分解が簡単である。なお、回転軸2の凹み2aに傾斜面が設けられ、鋼線材5の断面が丸断面であるため、つまみアセンブリを引き抜くだけで、鋼線材5に図3に示すF3方向の曲げ力が得られ、つまみアセンブリを容易に引き抜くことができる。
【0031】
さらに、図8で示した従来の構造では、分解時に樹脂スペーサ7の爪7bが削づれてしまう恐れがあり、樹脂スペーサ7の爪7bが削づれると再度組み込んだときの樹脂スペーサ7と回転軸との保持力が小さくなることを説明したが、本実施例の鋼線材5が弾性変形限度で使用されていれば、繰り返し分解してもへたりが生じず、必要な保持力を保てる。すなわち、本実施例では30回以上の抜き差しで保持力を維持できた。
【0032】
また、上記実施例では軸方向の保持力の調整も容易である。すなわち図8で示した従来の構造では軸方向保持力を調整するためには樹脂爪の太さや厚みを調整することになり、金型修正等費用と時間がかかるが、本実施例ではバネ用ステンレス鋼線やピアノ線等の線径の多くの種類の中から選択するだけで軸方向保持力を容易に設定することができる。なお、鋼線材の長さおよび保持部の間隔を変えることにより軸方向保持力を変えることも可能である。
【0033】
実施例は以上のように構成されているが、発明はこれに限られず、例えば、樹脂スペーサの外周面にV字形溝を設け、回転つまみの内周面にV字形凸条を設けてもよい。また、鋼線材の代わりに他の金属線を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施例である回転つまみの回転軸への取付構造の部分を示す分解斜視図である。
【図2】同取付構造の部分を示す斜視図である。
【図3】同部分の他の状態を示す斜視図である。
【図4】同取付構造の他の部分を示す正面図である。
【図5】従来の回転つまみの回転軸への取付構造の例を示す分解斜視図である。
【図6】同取付構造を示す縦断面図である。
【図7】図6におけるA部拡大図である。
【図8】従来の回転つまみの回転軸への取付構造の他の例の部分を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 通信機
2 回転軸、2a 凹み、2b Dカット
3 樹脂スペーサ、3a V字形凸条、3b 穴、3c Dカット嵌合部 3d リブ 4 回転つまみ、4a V字形溝
5 鋼線材
6 樹脂スペーサ、6a V字形凸条、6b 爪、6c Dカット嵌合部
7 樹脂スペーサ、7b 爪、7c Dカット嵌合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転つまみと回転電子部品の回転軸との間に前記回転つまみと蜜嵌合する樹脂スペーサを介在させて回転つまみを前記回転軸へ取り付ける取付構造において、前記回転軸をDカットとし回転軸のDカットされていない部分の円筒面に凹みを設け、前記樹脂スペーサのリブに対向する一対の穴と前記Dカットとの嵌合部とを設け、前記一対の穴に金属線を挿通し、前記樹脂スペーサのDカットとの嵌合部と前記金属線とで前記回転軸のDカットと凹みとを圧接状態に挾持させることを特徴とする回転つまみの回転軸への取付構造。
【請求項2】
前記金属線がリブの一対の穴を挿通した状態で前記金属線の両端が前記穴から突出するように構成した請求項1の回転つまみの回転軸への取付構造。
【請求項3】
前記樹脂スペーサの外周面にV字形凸条またはV字形溝を設け、前記回転つまみの内周面にV字形溝またはV字形凸条を設け、前記回転つまみが樹脂スペーサと蜜嵌合したときに、前記樹脂スペーサのV字形凸条またはV字形溝と前記回転つまみのV字形溝またはV字形凸条とが嵌合し、前記樹脂スペーサのV字形凸条またはV字形溝が圧縮変形される請求項1または2の回転つまみの回転軸への取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−344103(P2006−344103A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170441(P2005−170441)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】