説明

回転ダンパー

【課題】 弾性シール部材のストッパ部への張り付き力を減少させることにより、初期制動トルクの精度を向上させることのできる回転ダンパーを提供する。
【解決手段】 ローター31と、このローター31を回転自在に保持するハウジング11と、このハウジング11とローター31との間に形成される収容空間に収容され、ローター31の回転を制動するシリコンオイル21と、ローター31とハウジング11との間からシリコンオイル21が漏れるのを防止するOリング41とからなる回転ダンパーDにおいて、Oリング41がローター31とハウジング11との間から抜け出るのを防止する、ハウジング11に設けられたストッパ部17cに、Oリング41が張り付くのを減少させる凹凸を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固定支持部材に対して回転部材が回転するのを、回転部材と固定支持部材との間に形成された収容空間に収容した粘性流体の粘性抵抗によって制動する回転ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の上記した回転ダンパーとして、回転部材と、この回転部材を回転自在に保持する固定支持部材と、回転部材と固定支持部材との間に形成される収容空間に収容され、回転部材の回転を制動する粘性流体と、回転部材と固定支持部材との間から粘性流体が漏れるのを防止する弾性シール部材とからなり、弾性シール部材が回転部材と固定支持部材との間から抜け出るのを、回転部材または固定支持部材に設けたストッパ部で防止している。
なお、回転ダンパーは組み立てることよって収容空間に粘性流体が収容され、収容空間内の粘性流体の圧力が高まるので、高まった粘性流体の圧力で弾性シール部材がストッパ部へ押し付けられる。
【特許文献1】実用新案登録第2603377号明細書
【特許文献2】特開2005−30550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した従来の回転ダンパーにおけるストッパ部および弾性シール部材は、表面が平滑に構成されているので、回転部材が固定支持部材に対して停止している間に、高まった粘性流体の圧力で弾性シール部材がストッパ部へ押し付けられ、張り付いてしまう。
このように、弾性シール部材がストッパ部に張り付くと、回転部材が固定支持部材に対して回転を開始する制動初期において、弾性シール部材のストッパ部への張り付きに起因して初期制動トルクがばらつくことにより、初期制動トルクの精度が悪いものとなる。
【0004】
この発明は、上記したような不都合を解消するためになされたもので、弾性シール部材のストッパ部への張り付き力を減少させることにより、初期制動トルクの精度を向上させることのできる回転ダンパーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、以下のような発明である。
(1)回転部材と、この回転部材を回転自在に保持する固定支持部材と、この固定支持部材と前記回転部材との間に形成される収容空間に収容され、前記回転部材の回転を制動する粘性流体と、前記回転部材と前記固定支持部材との間から前記粘性流体が漏れるのを防止する弾性シール部材とからなる回転ダンパーにおいて、前記弾性シール部材が前記回転部材と前記固定支持部材との間から抜け出るのを防止する、前記回転部材と前記固定支持部材との少なくとも一方に設けられたストッパ部に、前記弾性シール部材が張り付くのを減少させる張り付き減少手段を設けたことを特徴とする。
(2)(1)に記載の回転ダンパーにおいて、前記ストッパ部に接触する前記弾性シール部材の接触部分に、前記ストッパ部に張り付くのを減少させる張り付き減少手段を設けたことを特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載の回転ダンパーにおいて、前記張り付き減少手段は、凹凸であることを特徴とする。
(4)(1)に記載の回転ダンパーにおいて、前記張り付き減少手段は、前記ストッパ部と前記弾性シール部材との間に配置したリング部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、弾性シール部材が回転部材と固定支持部材との間から抜け出るのを防止する、回転部材と固定支持部材との少なくとも一方に設けられたストッパ部に、弾性シール部材が張り付くのを減少させる張り付き減少手段を設けたので、弾性シール部材のストッパ部への張り付き力を減少させることができる。
したがって、回転部材が固定支持部材に対して回転を開始する制動初期において、弾性シール部材のストッパ部への張り付き力が従来よりも減少していることにより、弾性シール部材のストッパ部への張り付きに起因する初期制動トルクのばらつきが減少し、初期制動トルクの精度が向上する。
さらに、ストッパ部に接触する弾性シール部材の接触部分に、ストッパ部に張り付くのを減少させる張り付き減少手段を設けたので、弾性シール部材のストッパ部への張り付きに起因する初期制動トルクのばらつきがさらに減少し、初期制動トルクの精度がさらに向上する。
そして、張り付き減少手段を凹凸としたので、例えば、シボ加工などの簡単な加工を施して凹凸を設けることにより、所期の効果を得ることができる。
また、張り付き減少手段を、ストッパ部と弾性シール部材との間に配置したリング部材としたので、弾性シール部材がストッパ部に張り付かなくなる。
したがって、回転部材が固定支持部材に対して回転を開始する制動初期において、弾性シール部材のストッパ部への張り付き力がなくなることにより、弾性シール部材のストッパ部への張り付きに起因する初期制動トルクのばらつきがなくなり、初期制動トルクの精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明の実施例を図に基づいて説明する。
【0008】
図1はこの発明の第1実施例である回転ダンパーの縦断面図、図2(a)〜図2(c)はストッパ部に設ける凹凸の例を示す部分拡大断面図に相当する説明図である。
【0009】
図1において、回転ダンパーDは、回転部材としてのローター31と、このローター31を回転自在に保持する固定支持部材としてのハウジング11と、このハウジング11とローター31との間に形成される収容空間に収容され、ローター31の回転を制動する粘性流体としてのシリコンオイル21と、ハウジング11とローター31との間からシリコンオイル21が漏れるのを防止する弾性シール部材としてのOリング41と、ハウジング11から突出したローター31の回転軸32の部分に取り付けられた被駆動歯車51とで構成されている。
【0010】
上記したハウジング11は、合成樹脂で成形されたハウジング本体12と、合成樹脂で成形されたキャップ16とで構成されている。
そして、ハウジング本体12は、底を有する円筒部13と、この円筒部13の中心に連設され、円筒部13よりも上側へ突出する平断面円形の支持軸14と、円筒部13の対向する外側位置に半径方向外側へ延びるように連設された取付片15A,15Bとで構成されている。
なお、取付片15Aには取付孔15aが設けられ、取付片15Bには取付凹部15bが設けられている。
また、キャップ16は、回転軸32が貫通する円形の貫通孔17aが中心に設けられ、この貫通孔17aの下端部に連なる、貫通孔17aと同心で貫通孔17aよりも太径の段状をしたOリング収容部17bが設けられるとともに、このOリング収容部17bの上側部分が、キャップ16(天板17)とローター31(回転軸32)との間からOリング41が抜け出るのを防止するストッパ部17cとされた円形の天板17と、この天板17の周縁に周回して連設され、円筒部13が内側に嵌合する周壁19とで構成されている。
そして、ストッパ部17cのOリング41に接触(当接)する部分に、図2(a)〜図2(c)に示す凹凸18A〜18Cの1つを、例えば、シボ加工によって設け、この凹凸18A〜18Cを、Oリング41がストッパ部17cに張り付く面積を少なくしてOリング41のストッパ部17cへの張り付き力を減少させる張り付き減少手段としている。
なお、図2(a)に示す凹凸18Aは微細な突起によって形成され、図2(b)に示す凹凸18Bは微細な凹部によって形成され、図2(c)に示す凹凸18Cは円周方向へ連続する突条によって形成されている。
【0011】
上記したローター31は、合成樹脂で成形され、ハウジング11から一部が突出する回転軸32と、この回転軸32の下端部に連設されてハウジング11内に回転可能に収納されるローター制動板35とで構成されている。
そして、回転軸32は、支持軸14が下側から回転可能に挿入される円筒状の凹部からなる軸受け部33aを有する太径軸部33と、この太径軸部33の上側に同心で連なり、被駆動歯車51が一体で回転するように取り付けられる取付軸部34とで構成されている。
なお、取付軸部34は、被駆動歯車51を一体で回転させるため、Iカット状に成形され、平行する面の下方部分に係止凹部34aがそれぞれ設けられている。
また、ローター制動板35は、太径軸部33の下端外周に、太径軸部33と同心の円板状に設けられている。
【0012】
上記したOリング41は、シリコンオイル21に対して非膨潤性を有する材料、例えば、エチレンプロピレンゴムの範疇に含まれるエチレンプロピレンジエンゴムで形成されている。
また、被駆動歯車51には、係止凹部34aに対応した係合部53を内周面に有した取付孔52が設けられている。
なお、シリコンオイル21を収容する収容空間は、ハウジング11の円筒部13、天板17と、ローター31の回転軸32、ローター制動板35と、Oリング41とで構成される。
【0013】
次に、回転ダンパーDの組立の一例について説明する。
まず、円筒部13の開放側を上側にした状態でハウジング本体12を、例えば、作業台の上に設置した後、回転軸32を構成する太径軸部33の軸受け部33a内へ支持軸14を挿入してローター制動板35を円筒部13内へ回転可能に収容させる。
次に、円筒部13内に適量のシリコンオイル21を注入(充填)する。
【0014】
そして、天板17のOリング収容部17b内にOリング41を装着した後、周壁19を下側にしてOリング41内に取付軸部34側から太径軸部33を圧入し、取付軸部34を、貫通孔17aを貫通させて天板17から突出させるとともに、周壁19の内側に円筒部13を嵌合させる。
このようにしてキャップ16をハウジング本体12に取り付けることにより、Oリング41は、天板17、ストッパ部17c、太径軸部33およびローター制動板35で押され、変形することによってハウジング11(キャップ16)とローター31との間を封止し、ハウジング11とローター31との間からシリコンオイル21がハウジング11の外へ漏れるのを防止する。
【0015】
次に、周壁19を円筒部13に対して、例えば、超音波溶着で周回して溶着させることにより、円筒部13と周壁19との間からシリコンオイル21がハウジング11の外へ漏れるのを防止するとともに、キャップ16をハウジング本体12に取り付け、固定する。
そして、係合部53側を下側にするとともに、係合部53を係止凹部34aに対応させて取付軸部34を取付孔52内へ圧入すると、係止凹部34aに係合部53が係合することにより、被駆動歯車51が回転軸32から抜けなくなるとともに、回転軸32と一体で回転するようになる。
【0016】
次に、回転ダンパーDの取付の一例について説明する。
上記のようにして組み立てた回転ダンパーDは、取付片15A,15Bの取付孔15aおよび取付凹部15bを利用することにより、所望の位置に取り付けることができるとともに、被駆動歯車51で制動をかける歯車、ラックなどに噛み合わせることができる。
【0017】
次に、動作について説明する。
まず、回転ダンパーDの被駆動歯車51に、回転させようとする力が作用すると、シリコンオイル21が充填されたハウジング11内でローター制動板35が回転することになる。
そして、ローター制動板35がシリコンオイル21内で回転すると、ローター制動板35にシリコンオイル21の粘性抵抗およびせん断抵抗が作用することにより、被駆動歯車51の回転を制動する。
したがって、回転ダンパーDは、被駆動歯車51が噛み合う歯車、ラックなどの回転または移動を制動してその回転または移動をゆっくりとさせる。
【0018】
なお、ローター31がハウジング11に対して回転を開始する前に停止している間に、収容空間内の高まったシリコンオイル21の圧力でOリング41がストッパ部17cへ押し付けられても、ストッパ部17cに凹凸18A〜18C(張り付き減少手段)が設けられているので、Oリング41のストッパ部17cへの張り付き力を減少させることができ、ローター31がハウジング11に対して回転を開始する制動初期において、初期制動トルクのばらつきが少なくなる。
【0019】
上述したように、この発明の第1実施例によれば、Oリング41がハウジング11とローター31との間から抜け出るのを防止する、ハウジング11に設けられたストッパ部17cに、Oリング41が張り付くのを減少させる凹凸18A〜18C(張り付き減少手段)を設けたので、Oリング41のストッパ部17cへの張り付き力を減少させることができる。
したがって、ローター31がハウジング11に対して回転を開始する制動初期において、Oリング41のストッパ部17cへの張り付き力が従来よりも減少していることにより、Oリング41のストッパ部17cへの張り付きに起因する初期制動トルクのばらつきが減少し、初期制動トルクの精度が向上する。
そして、張り付き減少手段を凹凸18A〜18Cとしたので、例えば、シボ加工などの簡単な加工を施して凹凸18A〜18Cを設けることにより、所期の効果を得ることができる。
【0020】
図3はこの発明の第2実施例である回転ダンパーの縦断面図であり、図1および図2と同一または相当部分に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
図3において、33bはストッパ部を示し、ハウジング11(天板17)とローター31(回転軸32)との間からOリング41が抜け出るのを防止するものであり、第1実施例における天板17のストッパ部17cの高さに対応させて太径軸部33の外周に周回させて設けられている。
そして、ストッパ部33bのOリング41に接触(当接)する部分に、図2(a)〜図2(c)に示す凹凸18A〜18Cと同様に、例えば、シボ加工によって凹凸を設け、この凹凸を、Oリング41がストッパ部33bに張り付く面積を少なくしてOリング41のストッパ部33bへの張り付き力を減少させる張り付き減少手段としている。
【0022】
この第2実施例の回転ダンパーDの組立、動作は第1実施例と同様になるので、その説明を省略するが、この第2実施例においても、第1実施例と同様な効果を得ることができる。
【0023】
図4はこの発明の第3実施例である回転ダンパーの縦断面図であり、図1と同一または相当部分に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0024】
図4において、61は張り付き減少手段としてのリング部材を示し、合成樹脂で平板状に成形され、ハウジング11のストッパ部17cとOリング41との間に配置されるものである。
【0025】
次に、回転ダンパーDの組立の一例について説明する。
まず、円筒部13の開放側を上側にした状態でハウジング本体12を、例えば、作業台の上に設置した後、回転軸32を構成する太径軸部33の軸受け部33a内へ支持軸14を挿入してローター制動板35を円筒部13内へ回転可能に収容させる。
次に、円筒部13内に適量のシリコンオイル21を注入(充填)する。
【0026】
そして、天板17のOリング収容部17b内にリング部材61、Oリング41の順で装着した後、周壁19を下側にしてOリング41内に取付軸部34側から太径軸部33を圧入し、取付軸部34を、貫通孔17aを貫通させて天板17から突出させるとともに、周壁19の内側に円筒部13を嵌合させる。
このようにしてキャップ16をハウジング本体12に取り付けることにより、Oリング41は、天板17、ストッパ部17cに接触(当接)するリング部材61、太径軸部33およびローター制動板35で押され、変形することによってハウジング11(キャップ16)とローター31との間を封止し、ハウジング11とローター31との間からシリコンオイル21がハウジング11の外へ漏れるのを防止する。
以後は、第1実施例と同様に組み立てる。
なお、回転ダンパーDの取付の説明は、第1実施例と同様になるので、その説明を省略する。
【0027】
次に、動作について説明する。
まず、回転ダンパーDの被駆動歯車51に、回転させようとする力が作用すると、シリコンオイル21が充填されたハウジング11内でローター制動板35が回転することになる。
そして、ローター制動板35がシリコンオイル21内で回転すると、ローター制動板35にシリコンオイル21の粘性抵抗およびせん断抵抗が作用することにより、被駆動歯車51の回転を制動する。
したがって、回転ダンパーDは、被駆動歯車51が噛み合う歯車、ラックなどの回転または移動を制動してその回転または移動をゆっくりとさせる。
【0028】
なお、ローター31がハウジング11に対して回転を開始する前に停止している間に、収容空間内の高まったシリコンオイル21の圧力でOリング41がリング部材61へ押し付けられて張り付いても、Oリング41とリング部材61とが一体となってストッパ部17cに対して回転するので、Oリング41がストッパ部17cに張り付かなくなる。
【0029】
上述したように、この発明の第3実施例によれば、張り付き減少手段を、ストッパ部17cとOリング41との間に配置したリング部材61としたので、Oリング61がストッパ部17bに張り付かなくなる。
したがって、ローター31がハウジング11に対して回転を開始する制動初期において、Oリング41のストッパ部17cへの張り付き力がなくなることにより、Oリング41のストッパ部17cへの張り付きに起因する初期制動トルクのばらつきがなくなり、初期制動トルクの精度が向上する。
【0030】
図5はこの発明の第4実施例である回転ダンパーの縦断面図、図6は図5に示した回転ダンパーの組立方を示す説明図であり、図1〜図4と同一または相当部分に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0031】
図5または図6において、回転ダンパーDは、回転部材としての被駆動回転部材81と、この被駆動回転部材81を回転自在に保持する固定支持部材71と、この固定支持部材71と被駆動回転部材81との間に形成される収容空間に収容され、被駆動回転部材81の回転を制動する粘性流体としてのシリコンオイル21と、固定支持部材71と被駆動回転部材81との間からシリコンオイル21が漏れるのを防止する弾性シール部材としてのOリング41とで構成されている。
【0032】
上記した固定支持部材71は、合成樹脂で成形され、平面視円形の底壁72と、この底壁72の外縁に一体的に設けられた外側円筒壁73と、外側円筒壁73と同心で底壁72に設けられ、被駆動回転部材81の外側円筒壁84と内側円筒壁86とで形成される環状溝内へ挿入される内側円筒壁74と、底壁72の中心に一体的に設けられ、被駆動回転部材81の内側円筒壁86内へ挿入される中心軸75と、底壁72の外周に、例えば、180度の間隔で一体的に設けられた取付部77とで構成されている。
そして、外側円筒壁73には、内側下端に、被駆動回転部材81の保持フランジ部85を内側に回転可能に収容する下側段部73dが設けられ、内側上端に、被駆動回転部材81の保持フランジ部83を内側に回転可能に収容する上側段部73uが設けられている。
なお、中心軸75は、上端外周に面取り加工が施され、被駆動回転部材81の係合突起88に対応する高さの外周に、被駆動回転部材81の係合突起88とで相対的に回転可能な相補的係合部を形成する、上端が平面とされた係止周回溝76が設けられている。
また、取付部77は、底部72から一旦外側へ延びた後に上側へ延び、上端外側に保持爪78aを有する保持片78と、底部72から外側へ延び、保持爪78aとの間に保持する被取付部材の間隔を有する保持突起(図示省略)とで構成されている。
【0033】
上記した被駆動回転部材81は、合成樹脂で成形され、例えば、歯車やラックなどの駆動部材に係合する被駆動回転部としての歯車部82と、この歯車部82の下側に一体的に設けられ、固定支持部材71(外側円筒壁73)と被駆動回転部材81との間からOリング41が抜け出るのを防止するストッパ部としても機能する保持フランジ部83と、歯車部82の中心を中心として保持フランジ部83の下側に一体的に設けられ、Oリング41が接触(当接)する外側円筒壁84と、この外側円筒壁84の下端外周に、保持フランジ部83に対向させて一体的に設けられ、外側円筒壁84の外周にOリング41を保持フランジ部83とで保持する保持フランジ部85と、歯車部82の中心を中心として歯車部82に一体的に設けられ、外側円筒壁84の内側に上下に貫通し、シリコンオイル21を収容する収容空間に連通する開口を有した筒状部としての内側円筒壁86とで構成されている。
そして、保持フランジ部83のOリング41に接触(当接)する部分に、図2(a)〜図2(c)に示す凹凸18A〜18Cと同様に、例えば、シボ加工によって凹凸を設け、この凹凸を、Oリング41が保持フランジ部83に張り付く面積を少なくしてOリング41の保持フランジ部83への張り付き力を減少させる張り付き減少手段としている。
そして、内側円筒壁86の上端部外周には、周回する段部86sが設けられている。
さらに、内側円筒壁86の内周には、下端から上下方向の中央部分位まで延びる、例えば、60度の等間隔で6本の溝87と、この溝87の上側に位置し、固定支持部材71の係止周回溝76とで相対的に回転可能な相補的係合部を形成する、上端が平面とされ、下端が下側へ進むにしたがって外側へ拡開する傾斜面とされた、例えば、180度の間隔で位置する係合突起88と、この係合突起88の上側に差し渡されて位置し、被駆動回転部材81と固定支持部材71とを組み付けたとき、被駆動回転部材81と固定支持部材71とが相対的に回転する回転軸方向の間隔を規制するとともに、内側円筒壁86の上端部分を閉塞するために溶着した場合、溶融した内側円筒壁86の上端部分が凝固した閉塞部分86cが、固定支持部材71の中心軸75に接するのを規制する、間隔規制部を兼ねた溶着規制部89とが一体的に設けられている。
なお、保持フランジ部85の下端部外周、および、内側円筒壁86の下端部内周には、面取り加工が施されている。
そして、シリコンオイル21を収容する収容空間は、固定支持部材71の底壁72、外側円筒壁73、内側円筒壁74、中心軸75と、被駆動回転部材81の外側円筒壁84、保持フランジ85、内側円筒壁86と、Oリング41とで構成される。
【0034】
Hは溶着治具としてのヒートチップを示し、下端に、被駆動回転部材81の内側円筒壁86の上側を収容する球面の一部を形成する凹部cが設けられ、この凹部cの中心に、突起pが設けられている。
Eは回転ダンパーDを取り付ける被取付部材としての被取付板を示し、回転ダンパーDを取り付けるための孔hが設けられている。
【0035】
次に、回転ダンパーDの組立の一例について説明する。
まず、作業台の上に固定支持部材71を載置し、外側円筒壁73と内側円筒壁74とで形成される環状凹部内に所定量のシリコンオイル21を注入する。
そして、外側円筒壁84の外側に両保持フランジ部83,85でOリング41を保持させた被駆動回転部材81の下側を、中心軸75を内側円筒壁86内へ挿入するのをガイドとして固定支持部材71内へ挿入する。
このようにして被駆動回転部材81の下側を固定支持部材71内へ挿入すると、シリコンオイル21および空気は固定支持部材71と被駆動回転部材81とで圧縮されながら固定支持部材71と被駆動回転部材81との間を外側から内側へと移動し、溝87を通って中心軸75と内側円筒壁86との間へ進入する。
なお、空気はシリコンオイル21よりも速く移動するので、固定支持部材71と被駆動回転部材81とで形成される収容空間内に空気が残らなくなる。
【0036】
上記のようにして被駆動回転部材81の下側を固定支持部材71内へ挿入すると、保持フランジ部85は、図6に示すように、外側円筒壁73の内側に回転可能に挿入され、Oリング41は外側円筒壁73と外側円筒壁84との間を、固定支持部材71と被駆動回転部材81とが相対的に回転可能に封止する。
また、中心軸75は、図6に示すように、内側円筒壁86内へ進入し、係合突起88を乗り越えて先端が溶着規制部89に衝合すると、係合突起88が係止周回溝76内に突入し、係合突起88が、図6に示すように、係止周回溝76に係合する。
【0037】
そして、図6に示すように、被駆動回転部材81を固定支持部材71に組み付けた状態で、ヒートチップHに電流を流して加熱させ、二点鎖線で示すように、内側円筒壁86の上端部分をヒートチップHの凹部c内へ入れ、ヒートチップHを押し下げることにより、内側円筒壁86の上端部分を溶融させて閉塞した後、ヒートチップHをエアーで冷却して取り外すことにより、図5に示す状態の回転ダンパーDとすることができ、組立が終了する。
【0038】
次に、回転ダンパーDの取付の一例について説明する。
図5に示すように、被取付板Eに設けた孔h、すなわち、固定支持部材71の底壁72と同じ円形で、その180度の対向する外周位置に取付部77を挿入させることのできる切欠を有する孔を利用し、被取付板Eを保持爪78aと保持突起とに挟持させることにより、回転ダンパーDを被取付板Eに取り付ける。
【0039】
次に、動作について説明する。
まず、回転ダンパーDの歯車部82に、回転させようとする力が作用すると、被駆動回転部材81が回転することになる。
そして、被駆動回転部材81が回転すると、固定支持部材71と被駆動回転部材81との間に位置するシリコンオイル21の粘性抵抗およびせん断抵抗により、被駆動回転部材81の回転を制動する。
したがって、被駆動回転部材81の歯車部82が噛み合う歯車、ラックなどの回転または移動を制動してその回転または移動をゆっくりとさせる。
【0040】
なお、被駆動回転部材81が固定支持部材71に対して回転を開始する前に停止している間に、収容空間内の高まったシリコンオイル21の圧力でOリング41が保持フランジ部83(ストッパ部)へ押し付けられても、保持フランジ部83に凹凸(張り付き減少手段)が設けられているので、Oリング41の保持フランジ部83への張り付き力を減少させることができ、被駆動回転部材81が固定支持部材71に対して回転を開始する制動初期において、初期制動トルクのばらつきが少なくなる。
【0041】
上述したように、この発明の第4実施例によれば、Oリング41が固定支持部材71と被駆動回転部材81との間から抜け出るのを防止する、被駆動回転部材81に設けられた保持フランジ部83(ストッパ部)に、Oリング41が張り付くのを減少させる凹凸(張り付き減少手段)を設けたので、Oリング41の保持フランジ部83への張り付き力を減少させることができる。
したがって、被駆動回転部材81が固定支持部材71に対して回転を開始する制動初期において、Oリング41の保持フランジ部83への張り付き力が従来よりも減少していることにより、Oリング41の保持フランジ部83への張り付きに起因する初期制動トルクのばらつきが減少し、初期制動トルクの精度が向上する。
そして、張り付き減少手段を凹凸としたので、例えば、シボ加工などの簡単な加工を施して凹凸を設けることにより、所期の効果を得ることができる。
【0042】
図7はこの発明の第5実施例である回転ダンパーの縦断面図であり、図1〜図6と同一または相当部分に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
図7において、73aはストッパ部を示し、固定支持部材71(外側円筒壁73)と被駆動回転部材81(外側円筒壁84)との間からOリング41が抜け出るのを防止するものであり、第4実施例における被駆動回転部材81の保持フランジ部83(ストッパ部)の高さに対応させて外側円筒壁73の上端内周に周回させて設けられている。
そして、ストッパ部73aのOリング41に接触(当接)する部分に、図2(a)〜図2(c)に示す凹凸18A〜18Cと同様に、例えば、シボ加工によって凹凸を設け、この凹凸を、Oリング41がストッパ部73aに張り付く面積を少なくしてOリング41のストッパ部73aへの張り付き力を減少させる張り付き減少手段としている。
【0044】
この第5実施例の回転ダンパーDの組立、動作は第4実施例と同様になるので、その説明を省略するが、この第5実施例においても、第4実施例と同様な効果を得ることができる。
【0045】
上記した実施例では、固定支持部材または回転部材にストッパ部を設けた例を示したが、固定支持部材および回転部材定支持部材にストッパ部を設け、固定支持部材と回転部材との間から弾性シール部材が抜け出るのを防止しても、同様な効果を得ることができる。
また、ストッパ部に凹凸を設けた例を示したが、このストッパ部に接触する弾性シール部材の接触部分に、ストッパ部に張り付くのを減少させる張り付き減少手段、例えば、図2(a)〜図2(c)に示す凹凸18A〜18Cの1つと同様な凹凸を、シボ加工によって設けてもよい。
このように、弾性シール部材に張り付き減少手段を設けると、弾性シール部材のストッパ部への張り付きに起因する初期制動トルクのばらつきがさらに減少し、初期制動トルクの精度がさらに向上する。
また、リング部材を張り付き減少手段とした例を第3実施例(図4)に示したが、第2実施例(図3)、第4実施例(図5および図6)、第5実施例(図7)においても、リング部材を張り付き減少手段として使用することができる。
なお、リング部材は自身の弾性を利用して取り付けられるが、弾性のみを利用して取り付けることができない場合は、複数に分割して取り付ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の第1実施例である回転ダンパーの縦断面図である。
【図2】(a)〜(c)はストッパ部に設ける凹凸の例を示す部分拡大断面図に相当する説明図である。
【図3】この発明の第2実施例である回転ダンパーの縦断面図である。
【図4】この発明の第3実施例である回転ダンパーの縦断面図である。
【図5】この発明の第4実施例である回転ダンパーの縦断面図である。
【図6】図5に示した回転ダンパーの組立方を示す説明図である。
【図7】この発明の第5実施例である回転ダンパーの縦断面図である。
【符号の説明】
【0047】
D 回転ダンパー
11 ハウジング(固定支持部材)
12 ハウジング本体
13 円筒部
14 支持軸
15A 取付片
15a 取付孔
15B 取付片
15b 取付凹部
16 キャップ
17 天板
17a 貫通孔
17b Oリング収容部
17c ストッパ部
18A 凹凸
18B 凹凸
18C 凹凸
19 周壁
21 シリコンオイル(粘性流体)
31 ローター(回転部材)
32 回転軸
33 太径軸部
33a 軸受け部
33b ストッパ部
34 取付軸部
34a 係止凹部
35 ローター制動板
41 Oリング(弾性シール部材)
51 被駆動歯車
52 被取付孔
53 係合部
61 リング部材
71 固定支持部材
72 底壁
73 外側円筒壁
73a ストッパ部
73d 上側段部
73u 下側段部
74 内側円筒壁
75 中心軸
76 係止周回溝(相補的係合部)
77 取付部
78 保持片
78a 保持爪
81 被駆動回転部材(回転部材)
82 歯車部(被駆動回転部)
83 保持フランジ部(ストッパ部)
84 外側円筒壁
85 保持フランジ部
86 内側円筒壁(開口、筒状部)
86s 段部
86c 閉塞部分
87 溝
88 係合突起(相補的係合部)
89 溶着規制部(間隔規制部)
H ヒートチップ(溶着治具)
c 凹部
p 突起
E 被取付板(被取付部材)
h 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材と、
この回転部材を回転自在に保持する固定支持部材と、
この固定支持部材と前記回転部材との間に形成される収容空間に収容され、前記回転部材の回転を制動する粘性流体と、
前記回転部材と前記固定支持部材との間から前記粘性流体が漏れるのを防止する弾性シール部材とからなる回転ダンパーにおいて、
前記弾性シール部材が前記回転部材と前記固定支持部材との間から抜け出るのを防止する、前記回転部材と前記固定支持部材との少なくとも一方に設けられたストッパ部に、前記弾性シール部材が張り付くのを減少させる張り付き減少手段を設けた、
ことを特徴とする回転ダンパー。
【請求項2】
請求項1に記載の回転ダンパーにおいて、
前記ストッパ部に接触する前記弾性シール部材の接触部分に、前記ストッパ部に張り付くのを減少させる張り付き減少手段を設けた、
ことを特徴とする回転ダンパー。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の回転ダンパーにおいて、
前記張り付き減少手段は、凹凸である、
ことを特徴とする回転ダンパー。
【請求項4】
請求項1に記載の回転ダンパーにおいて、
前記張り付き減少手段は、前記ストッパ部と前記弾性シール部材との間に配置したリング部材である、
ことを特徴とする回転ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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