回転バランス調整用フランジ機構
【課題】高速回転する切削ブレードの振動を避けるための回転バランス調整用フランジ機構について、印をマジックなどでつける場合において生じる不具合を解消し、バランス調整の手間を簡略化するための回転バランス調整用フランジ機構を提供する。
【解決手段】固定ナットは、切削ブレードを固定フランジと協働して挟持した際、前端面となる表面からバランス取り用錘を挿入できる錘収容部を周方向に所定の間隔を置いて複数備え、表面の錘収容部の近傍には、各錘収容部の位置を示す表示部を備える。
【解決手段】固定ナットは、切削ブレードを固定フランジと協働して挟持した際、前端面となる表面からバランス取り用錘を挿入できる錘収容部を周方向に所定の間隔を置いて複数備え、表面の錘収容部の近傍には、各錘収容部の位置を示す表示部を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシング装置等の精密切削装置の回転バランス調整用フランジ機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置製造工程や各種の電子部品製造工程においては、被加工物を個々の製品やチップに分割するダイシング装置が広く使用されている。ダイシング装置では、回転駆動されるスピンドルの先端部に固定される極薄の切削ブレードが高速回転され、半導体ウェーハなどの被加工物について切削加工が行われる。切削加工の際には、切削ブレードの周囲に配設されたノズルから切削水が被加工物に向けて掛けられる。
【0003】
切削ブレードは、例えば、30000rpmにて高速回転させられるが、このように高速回転する切削ブレードにて極めて高精度に切削するためには、切削ブレードの振動は避けなければならない。
【0004】
一方、スピンドルに対する切削ブレードの着脱操作を容易に可能とするためには、スピンドルに取り付けられる固定フランジのブレード装着部と、切削ブレードの装着穴との間に数μm程度の僅かな隙間を設ける必要がある。
【0005】
このため、スピンドルの回転中心と切削ブレードの回転中心とが合致せずに装着されることが懸念される。そして、合致しない場合には、回転バランスがとれず、スピンドルおよび切削ブレードが高速回転することによって振動が発生してしまうことになる。
【0006】
そして、振動が発生してしまうと、切削加工にて形成される切削溝の両側には多くのチッピングが発生し、高精度に切削することができないという問題が生じる。また、切削ブレード自体の重量の偏重等により回転バランスがとれていない場合にも、同様の問題が生じる。
【0007】
そこで、回転バランスを調整するために、スピンドルの振動方向と振動量を測定する測定器を装着し、ネジ孔が複数設けられたバランス調整用固定ナットをフランジに組み付け、検出されたアンバランスを相殺させるため、測定器から指示されるバランス調整用固定ナットの特定のネジ孔に指示通りの重さのネジをネジ孔に挿入する回転バランス調整工程を実施する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−129743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、バランス調整用固定ナットに設けられたネジ孔は複数箇所に設けられるため、測定器から指示された特定のネジ孔を他のネジ孔と区別するために、オペレータはマジック等で特定のネジ孔について印を付ける等しておく必要があり、手間がかかるものとなる。また、付けた印がその後の工程中に誤って消されてしまうなどの状況が多く発生しがちであり、印が消えてしまった際には、再度初めから回転バランス調整工程を実施する必要が生じた。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高速回転する切削ブレードの振動を避けるための回転バランス調整用フランジ機構について、印をマジックなどでつける場合において生じる不具合を解消し、バランス調整の手間を簡略化するための回転バランス調整用フランジ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、被加工物を保持するチャックテーブルと、チャックテーブルに保持された被加工物を切削する環状の切削ブレードがフランジ機構によってスピンドルに固定された切削手段とを備えた切削装置において、スピンドルの回転バランスを調整するための回転バランス調整用フランジ機構であって、先端部の外周に雄ネジが形成された円柱状のボス部と、ボス部の軸方向中間部に形成されたブレード装着部と、ボス部の軸方向後端から径方向に突出して形成され切削ブレードを支持するフランジ部とからなる固定フランジと、ボス部の雄ネジと螺合する雌ネジが内周に形成され、固定フランジのフランジ部と切削ブレードを挟持して固定する円環状の固定ナットと、を備え、固定ナットは、切削ブレードを固定フランジと協働して挟持した際、前端面となる表面からバランス取り用錘を挿入できる錘収容部を周方向に所定の間隔を置いて複数備え、表面の錘収容部の近傍には、各錘収容部の位置を示す表示部を備える、ことを特徴とする回転バランス調整用フランジ機構が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、予め固定ナットに設けられた複数の錘収容部の近傍に、錘収容部の位置を識別するための表示部が設けられているため、回転バランスを調整する際に、マジック等で特定の錘収容部について印等をつける必要がない。
【0013】
また、各表示部に従って、特定の錘収容部についてバランス取り用錘を挿入すればよいため、錘収容部の位置を間違える(誤った錘収容部に錘となるネジを挿入してしまう)ことによるバランス調整作業の誤作業が防がれる。
【0014】
加えて、エッチングや機械加工などにより各表示部を固定ナットの表面に設けることによれば、各表示部が誤って消されてしまうことがなく、固定ナットの取付、取り外しが繰り返されることがあっても、表示部が消えてしまうことによる不具合発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施するのに適した切削装置の外観斜視図である。
【図2】切削ユニットの構成について示す斜視図である。
【図3】切削ブレードをスピンドルに装着する様子を示す分解斜視図である。
【図4】切削ブレードをスピンドルに装着する様子を示す他の実施形態の分解斜視図である。
【図5】固定ナットの形態について示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明を実施するのに適した切削装置2の外観斜視図である。図2は切削ユニットの構成について示す斜視図である。
【0017】
図1に示すように、切削装置2は、切削装置2に向かって左側に配置される加工領域4と、向かって右側に配置される搬出入領域6を備えている。加工領域4の上方には、タッチパネル機能を備えた表示モニタ8が備えられる。
【0018】
加工領域4と搬出入領域6は、板状の仕切壁部11によって遮られている。仕切壁部11の下部には、加工領域4と搬出入領域6とを連通させるゲート19が形成されており、このゲート19を通過して図示せぬチャックテーブルを移動させることにより、チャックテーブル上に保持された半導体ウェーハなどの被加工物が、加工領域4と搬出入領域6の間で移動される。
【0019】
加工領域4は、その右側に配置される仕切壁部11のほか、切削装置2に向かって切削ユニット24の後ろ側に配置される板状の仕切壁部12、さらには、上面仕切壁部13a、左側仕切壁部13b、正面仕切壁部13cを有する防護カバー13によって取囲まれることで、閉じられた空間として区画形成される。好ましくは、防護カバー13は、内部を視認可能とする透明体にて構成される。
【0020】
図2では、切削ユニット24によりフレームFに支持されたウェーハWをストリートに沿って切削する様子の斜視図が示されている。25は切削ユニット24のスピンドルハウジングであり、スピンドルハウジング25中に図示しないサーボモータにより回転駆動されるスピンドル26が回転可能に収容されている。切削ブレード28は電鋳ブレードであり、ニッケル母材中にダイヤモンド砥粒が分散されてなる切刃28aをその外周部に有している。
【0021】
30は切削ブレード28をカバーするブレードカバーであり、切削ブレード28の側面に沿って伸長する図示しない切削水ノズル及び切削水を切削ブレード28の切刃28aとウェーハWとの接触領域に噴射する切削水噴射ノズル35が取り付けられている。
【0022】
切削水供給部34からの切削水は、約0.3Mpaに加圧されている。ブレードカバーに設けた図示しない切削水ノズルには、パイプ32を介して切削水が供給される。同様に、ブレードカバーに設けた切削水噴射ノズル35には、パイプ37を介して切削水が供給される。切削水噴射ノズル35からは毎分1.6〜2.0リットルの流量で噴射される。
【0023】
39は着脱カバーであり、ねじ42によりブレードカバー30に着脱可能に取り付けられている。着脱カバー39は切削ブレード28の側面に沿って伸長する切削水ノズル44を有している。切削水ノズル44には、パイプ46を介して切削水が供給される。
【0024】
図3を参照すると、リング状またはワッシャー状の切削ブレード56をスピンドル26に装着する様子を示す分解斜視図が示されている。切削ブレード56はその全体が電鋳された切刃(電鋳砥石)から構成されている。
【0025】
ボス部38のブレード装着部36に切削ブレード56を挿入し、さらに着脱フランジ58をボス部38に挿入して、固定ナット54を雄ネジ42に螺合して締め付けることにより、切削ブレード56は固定フランジ40と着脱フランジ58により両側から挟まれてスピンドル26に取り付けられる。固定フランジ40と着脱フランジ58は、切削ブレード56をスピンドル26に固定するためのフランジ機構として構成される。
【0026】
以上のように、本実施形態の切削装置2では、被加工物であるウェーハWを保持するチャックテーブルと、チャックテーブルに保持されたウェーハWを切削する環状の切削ブレード56がフランジ機構によってスピンドル26に固定された切削手段としての切削ユニット24を備えた構成としている。
【0027】
なお、図3に示される実施形態の他、図4に示すように、ハブタイプのブレード56Aが用いられる実施形態も考えられる。この実施形態では、着脱フランジ56aと切削ブレード56bが一体的に構成され、図3の構成と同様に、固定ナット54によりハブタイプのブレード56Aがスピンドル26に取り付けられる。
【0028】
次に、本発明において特徴的な回転バランス調整用フランジ機構について説明する。図3に示すように、回転バランス調整用フランジ機構は、固定フランジ40と、固定ナット54を備えて構成される。
【0029】
固定フランジ40は、先端部の外周に雄ネジ42が形成された円柱状のボス部38と、ボス部38の軸方向中間部に形成されたブレード装着部36と、ボス部38の軸方向後端から径方向に突出して形成され切削ブレード56を支持するフランジ部41と、を有している。
【0030】
固定ナット54は、固定フランジ40のボス部38の雄ネジ42と螺合する雌ネジ55が内周に形成され、固定フランジ40のフランジ部41と切削ブレード56を挟持して固定するための円環状のナット部材として構成される。
【0031】
そして、図5に示すように、固定ナット54には、切削ブレード56を固定フランジ40と協働して挟持した際、前端面となる表面54aからバランス取り用錘60を挿入できる錘収容部Y1〜Y8が周方向に所定の間隔を置いて複数備えられる。
【0032】
本実施形態では、各錘収容部Y1〜Y8は、内周面に雌ネジが刻設され、固定ナット54の厚み方向に貫通するネジ孔部にて構成され、固定ナット54の周方向において均等な間隔を設けて合計8箇所に配置される。
【0033】
バランス取り用錘60は、いわゆるイモネジ(ネジ頭部とネジ部の径が同じであるネジ)にて構成され、その軸方向端部には、六角棒レンチなどの工具が係合され得る係合穴60aが設けられている。バランス取り用錘60は、本実施形態のように、一つの錘収容部Y2に一つだけ又は複数挿入するように用いられるほか、複数のバランス取り用錘60を錘収容部Y1〜Y8に適宜挿入することや、互いに重量の異なる複数のバランス取り用錘60が用いられることも考えられる。
【0034】
さらに、固定ナット54には、周方向における錘収容部Y1〜Y8の位置と異なる箇所に、着脱治具ピン係合孔P1〜P4が設けられている。本実施形態では、各着脱治具ピン係合孔P1〜P4は、固定ナット54の厚み方向に貫通する孔部にて構成され、固定ナット54の周方向において均等な間隔を設けて合計4箇所に配置される。なお、着脱治具ピン係合孔P1〜P4と錘収容部Y1〜Y8を識別し易くするために、例えば、着脱治具ピン係合孔P1〜P4の周囲を縁取る、或いは、矢印にて指し示すなど、指標となるものを設けることとしてもよい。
【0035】
そして、表面54aの錘収容部Y1〜Y8の近傍には、各錘収容部Y1〜Y8の位置を示す表示部M1〜M8が備えられる。本実施形態では、図5に示すように、固定ナット54の表面54aを臨む正面視において、錘収容部Y1〜Y8から当該錘収容部Y1〜Y8の孔半径と略同一の距離だけ離れた位置に表示部M1〜M8が設けられ、各表示部M1〜M8が各錘収容部Y1〜Y8に一対一で対応することが容易に目視確認できるようになっている。
【0036】
各表示部M1〜M8の形態については特に限定するものではないが、本実施形態では「1〜8」までの数値が用いられ、図示せぬ回転バランスの測定器において特定される「1〜8」の数値に対応させるようにしている。
【0037】
これにより、例えば、回転バランスの測定器にて「2」と表示された場合には、「2」を表す表示部M2に対応する錘収容部Y2にバランス取り用錘60を挿入することで、回転のアンバランスの解消を図ることができる。
【0038】
さらに、各表示部M1〜M8を設ける手段としては、固定ナット54の表面54aにエッチングや機械加工などにより表示させる形態が考えられ、各表示部M1〜M8が表面54aから容易に消えないように構成される。
【0039】
以上のように構成される回転バランス調整用フランジ機構において、切削ブレード56が交換などされた際には、適宜、図示せぬ周知の測定器にて回転バランスが測定される。即ち、回転のアンバランスを解消するために、バランス取り用錘60が挿入されるべき錘収容部Y1〜Y8が測定器によって特定され、オペレータはその特定された錘収容部Y1〜Y8についてバランス取り用錘60を挿入しバランス調整を試みる。
【0040】
そして、以上の実施形態では、予め固定ナット54に設けられた複数の錘収容部Y1〜Y8の近傍に、錘収容部Y1〜Y8の位置を識別するための表示部M1〜M8が設けられているため、回転バランスを調整する際に、マジック等で特定の錘収容部Y1〜Y8について印等をつける必要がない。
【0041】
また、各表示部M1〜M8に従って、特定の錘収容部Y1〜Y8についてバランス取り用錘60を挿入すればよいため、錘収容部Y1〜Y8の位置を間違える(誤った錘収容部に錘となるネジを挿入してしまう)ことによるバランス調整作業の誤作業が防がれる。
【0042】
加えて、エッチングや機械加工などにより各表示部M1〜M8を固定ナット54の表面54aに設けることによれば、各表示部M1〜M8が容易に消えることがなく、固定ナット54の取付、取り外しが繰り返されることがあっても、表示部M1〜M8が消えてしまうことによる不具合発生を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0043】
40 固定フランジ
41 フランジ部
42 雄ネジ
54 固定ナット
54a 表面
55 雌ネジ
56 切削ブレード
58 着脱フランジ
60 バランス取り用錘
60a 係合穴
M1〜M8 表示部
P1〜P4 着脱治具ピン係合孔
Y1〜Y8 錘収容部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシング装置等の精密切削装置の回転バランス調整用フランジ機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置製造工程や各種の電子部品製造工程においては、被加工物を個々の製品やチップに分割するダイシング装置が広く使用されている。ダイシング装置では、回転駆動されるスピンドルの先端部に固定される極薄の切削ブレードが高速回転され、半導体ウェーハなどの被加工物について切削加工が行われる。切削加工の際には、切削ブレードの周囲に配設されたノズルから切削水が被加工物に向けて掛けられる。
【0003】
切削ブレードは、例えば、30000rpmにて高速回転させられるが、このように高速回転する切削ブレードにて極めて高精度に切削するためには、切削ブレードの振動は避けなければならない。
【0004】
一方、スピンドルに対する切削ブレードの着脱操作を容易に可能とするためには、スピンドルに取り付けられる固定フランジのブレード装着部と、切削ブレードの装着穴との間に数μm程度の僅かな隙間を設ける必要がある。
【0005】
このため、スピンドルの回転中心と切削ブレードの回転中心とが合致せずに装着されることが懸念される。そして、合致しない場合には、回転バランスがとれず、スピンドルおよび切削ブレードが高速回転することによって振動が発生してしまうことになる。
【0006】
そして、振動が発生してしまうと、切削加工にて形成される切削溝の両側には多くのチッピングが発生し、高精度に切削することができないという問題が生じる。また、切削ブレード自体の重量の偏重等により回転バランスがとれていない場合にも、同様の問題が生じる。
【0007】
そこで、回転バランスを調整するために、スピンドルの振動方向と振動量を測定する測定器を装着し、ネジ孔が複数設けられたバランス調整用固定ナットをフランジに組み付け、検出されたアンバランスを相殺させるため、測定器から指示されるバランス調整用固定ナットの特定のネジ孔に指示通りの重さのネジをネジ孔に挿入する回転バランス調整工程を実施する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−129743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、バランス調整用固定ナットに設けられたネジ孔は複数箇所に設けられるため、測定器から指示された特定のネジ孔を他のネジ孔と区別するために、オペレータはマジック等で特定のネジ孔について印を付ける等しておく必要があり、手間がかかるものとなる。また、付けた印がその後の工程中に誤って消されてしまうなどの状況が多く発生しがちであり、印が消えてしまった際には、再度初めから回転バランス調整工程を実施する必要が生じた。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高速回転する切削ブレードの振動を避けるための回転バランス調整用フランジ機構について、印をマジックなどでつける場合において生じる不具合を解消し、バランス調整の手間を簡略化するための回転バランス調整用フランジ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、被加工物を保持するチャックテーブルと、チャックテーブルに保持された被加工物を切削する環状の切削ブレードがフランジ機構によってスピンドルに固定された切削手段とを備えた切削装置において、スピンドルの回転バランスを調整するための回転バランス調整用フランジ機構であって、先端部の外周に雄ネジが形成された円柱状のボス部と、ボス部の軸方向中間部に形成されたブレード装着部と、ボス部の軸方向後端から径方向に突出して形成され切削ブレードを支持するフランジ部とからなる固定フランジと、ボス部の雄ネジと螺合する雌ネジが内周に形成され、固定フランジのフランジ部と切削ブレードを挟持して固定する円環状の固定ナットと、を備え、固定ナットは、切削ブレードを固定フランジと協働して挟持した際、前端面となる表面からバランス取り用錘を挿入できる錘収容部を周方向に所定の間隔を置いて複数備え、表面の錘収容部の近傍には、各錘収容部の位置を示す表示部を備える、ことを特徴とする回転バランス調整用フランジ機構が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、予め固定ナットに設けられた複数の錘収容部の近傍に、錘収容部の位置を識別するための表示部が設けられているため、回転バランスを調整する際に、マジック等で特定の錘収容部について印等をつける必要がない。
【0013】
また、各表示部に従って、特定の錘収容部についてバランス取り用錘を挿入すればよいため、錘収容部の位置を間違える(誤った錘収容部に錘となるネジを挿入してしまう)ことによるバランス調整作業の誤作業が防がれる。
【0014】
加えて、エッチングや機械加工などにより各表示部を固定ナットの表面に設けることによれば、各表示部が誤って消されてしまうことがなく、固定ナットの取付、取り外しが繰り返されることがあっても、表示部が消えてしまうことによる不具合発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施するのに適した切削装置の外観斜視図である。
【図2】切削ユニットの構成について示す斜視図である。
【図3】切削ブレードをスピンドルに装着する様子を示す分解斜視図である。
【図4】切削ブレードをスピンドルに装着する様子を示す他の実施形態の分解斜視図である。
【図5】固定ナットの形態について示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明を実施するのに適した切削装置2の外観斜視図である。図2は切削ユニットの構成について示す斜視図である。
【0017】
図1に示すように、切削装置2は、切削装置2に向かって左側に配置される加工領域4と、向かって右側に配置される搬出入領域6を備えている。加工領域4の上方には、タッチパネル機能を備えた表示モニタ8が備えられる。
【0018】
加工領域4と搬出入領域6は、板状の仕切壁部11によって遮られている。仕切壁部11の下部には、加工領域4と搬出入領域6とを連通させるゲート19が形成されており、このゲート19を通過して図示せぬチャックテーブルを移動させることにより、チャックテーブル上に保持された半導体ウェーハなどの被加工物が、加工領域4と搬出入領域6の間で移動される。
【0019】
加工領域4は、その右側に配置される仕切壁部11のほか、切削装置2に向かって切削ユニット24の後ろ側に配置される板状の仕切壁部12、さらには、上面仕切壁部13a、左側仕切壁部13b、正面仕切壁部13cを有する防護カバー13によって取囲まれることで、閉じられた空間として区画形成される。好ましくは、防護カバー13は、内部を視認可能とする透明体にて構成される。
【0020】
図2では、切削ユニット24によりフレームFに支持されたウェーハWをストリートに沿って切削する様子の斜視図が示されている。25は切削ユニット24のスピンドルハウジングであり、スピンドルハウジング25中に図示しないサーボモータにより回転駆動されるスピンドル26が回転可能に収容されている。切削ブレード28は電鋳ブレードであり、ニッケル母材中にダイヤモンド砥粒が分散されてなる切刃28aをその外周部に有している。
【0021】
30は切削ブレード28をカバーするブレードカバーであり、切削ブレード28の側面に沿って伸長する図示しない切削水ノズル及び切削水を切削ブレード28の切刃28aとウェーハWとの接触領域に噴射する切削水噴射ノズル35が取り付けられている。
【0022】
切削水供給部34からの切削水は、約0.3Mpaに加圧されている。ブレードカバーに設けた図示しない切削水ノズルには、パイプ32を介して切削水が供給される。同様に、ブレードカバーに設けた切削水噴射ノズル35には、パイプ37を介して切削水が供給される。切削水噴射ノズル35からは毎分1.6〜2.0リットルの流量で噴射される。
【0023】
39は着脱カバーであり、ねじ42によりブレードカバー30に着脱可能に取り付けられている。着脱カバー39は切削ブレード28の側面に沿って伸長する切削水ノズル44を有している。切削水ノズル44には、パイプ46を介して切削水が供給される。
【0024】
図3を参照すると、リング状またはワッシャー状の切削ブレード56をスピンドル26に装着する様子を示す分解斜視図が示されている。切削ブレード56はその全体が電鋳された切刃(電鋳砥石)から構成されている。
【0025】
ボス部38のブレード装着部36に切削ブレード56を挿入し、さらに着脱フランジ58をボス部38に挿入して、固定ナット54を雄ネジ42に螺合して締め付けることにより、切削ブレード56は固定フランジ40と着脱フランジ58により両側から挟まれてスピンドル26に取り付けられる。固定フランジ40と着脱フランジ58は、切削ブレード56をスピンドル26に固定するためのフランジ機構として構成される。
【0026】
以上のように、本実施形態の切削装置2では、被加工物であるウェーハWを保持するチャックテーブルと、チャックテーブルに保持されたウェーハWを切削する環状の切削ブレード56がフランジ機構によってスピンドル26に固定された切削手段としての切削ユニット24を備えた構成としている。
【0027】
なお、図3に示される実施形態の他、図4に示すように、ハブタイプのブレード56Aが用いられる実施形態も考えられる。この実施形態では、着脱フランジ56aと切削ブレード56bが一体的に構成され、図3の構成と同様に、固定ナット54によりハブタイプのブレード56Aがスピンドル26に取り付けられる。
【0028】
次に、本発明において特徴的な回転バランス調整用フランジ機構について説明する。図3に示すように、回転バランス調整用フランジ機構は、固定フランジ40と、固定ナット54を備えて構成される。
【0029】
固定フランジ40は、先端部の外周に雄ネジ42が形成された円柱状のボス部38と、ボス部38の軸方向中間部に形成されたブレード装着部36と、ボス部38の軸方向後端から径方向に突出して形成され切削ブレード56を支持するフランジ部41と、を有している。
【0030】
固定ナット54は、固定フランジ40のボス部38の雄ネジ42と螺合する雌ネジ55が内周に形成され、固定フランジ40のフランジ部41と切削ブレード56を挟持して固定するための円環状のナット部材として構成される。
【0031】
そして、図5に示すように、固定ナット54には、切削ブレード56を固定フランジ40と協働して挟持した際、前端面となる表面54aからバランス取り用錘60を挿入できる錘収容部Y1〜Y8が周方向に所定の間隔を置いて複数備えられる。
【0032】
本実施形態では、各錘収容部Y1〜Y8は、内周面に雌ネジが刻設され、固定ナット54の厚み方向に貫通するネジ孔部にて構成され、固定ナット54の周方向において均等な間隔を設けて合計8箇所に配置される。
【0033】
バランス取り用錘60は、いわゆるイモネジ(ネジ頭部とネジ部の径が同じであるネジ)にて構成され、その軸方向端部には、六角棒レンチなどの工具が係合され得る係合穴60aが設けられている。バランス取り用錘60は、本実施形態のように、一つの錘収容部Y2に一つだけ又は複数挿入するように用いられるほか、複数のバランス取り用錘60を錘収容部Y1〜Y8に適宜挿入することや、互いに重量の異なる複数のバランス取り用錘60が用いられることも考えられる。
【0034】
さらに、固定ナット54には、周方向における錘収容部Y1〜Y8の位置と異なる箇所に、着脱治具ピン係合孔P1〜P4が設けられている。本実施形態では、各着脱治具ピン係合孔P1〜P4は、固定ナット54の厚み方向に貫通する孔部にて構成され、固定ナット54の周方向において均等な間隔を設けて合計4箇所に配置される。なお、着脱治具ピン係合孔P1〜P4と錘収容部Y1〜Y8を識別し易くするために、例えば、着脱治具ピン係合孔P1〜P4の周囲を縁取る、或いは、矢印にて指し示すなど、指標となるものを設けることとしてもよい。
【0035】
そして、表面54aの錘収容部Y1〜Y8の近傍には、各錘収容部Y1〜Y8の位置を示す表示部M1〜M8が備えられる。本実施形態では、図5に示すように、固定ナット54の表面54aを臨む正面視において、錘収容部Y1〜Y8から当該錘収容部Y1〜Y8の孔半径と略同一の距離だけ離れた位置に表示部M1〜M8が設けられ、各表示部M1〜M8が各錘収容部Y1〜Y8に一対一で対応することが容易に目視確認できるようになっている。
【0036】
各表示部M1〜M8の形態については特に限定するものではないが、本実施形態では「1〜8」までの数値が用いられ、図示せぬ回転バランスの測定器において特定される「1〜8」の数値に対応させるようにしている。
【0037】
これにより、例えば、回転バランスの測定器にて「2」と表示された場合には、「2」を表す表示部M2に対応する錘収容部Y2にバランス取り用錘60を挿入することで、回転のアンバランスの解消を図ることができる。
【0038】
さらに、各表示部M1〜M8を設ける手段としては、固定ナット54の表面54aにエッチングや機械加工などにより表示させる形態が考えられ、各表示部M1〜M8が表面54aから容易に消えないように構成される。
【0039】
以上のように構成される回転バランス調整用フランジ機構において、切削ブレード56が交換などされた際には、適宜、図示せぬ周知の測定器にて回転バランスが測定される。即ち、回転のアンバランスを解消するために、バランス取り用錘60が挿入されるべき錘収容部Y1〜Y8が測定器によって特定され、オペレータはその特定された錘収容部Y1〜Y8についてバランス取り用錘60を挿入しバランス調整を試みる。
【0040】
そして、以上の実施形態では、予め固定ナット54に設けられた複数の錘収容部Y1〜Y8の近傍に、錘収容部Y1〜Y8の位置を識別するための表示部M1〜M8が設けられているため、回転バランスを調整する際に、マジック等で特定の錘収容部Y1〜Y8について印等をつける必要がない。
【0041】
また、各表示部M1〜M8に従って、特定の錘収容部Y1〜Y8についてバランス取り用錘60を挿入すればよいため、錘収容部Y1〜Y8の位置を間違える(誤った錘収容部に錘となるネジを挿入してしまう)ことによるバランス調整作業の誤作業が防がれる。
【0042】
加えて、エッチングや機械加工などにより各表示部M1〜M8を固定ナット54の表面54aに設けることによれば、各表示部M1〜M8が容易に消えることがなく、固定ナット54の取付、取り外しが繰り返されることがあっても、表示部M1〜M8が消えてしまうことによる不具合発生を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0043】
40 固定フランジ
41 フランジ部
42 雄ネジ
54 固定ナット
54a 表面
55 雌ネジ
56 切削ブレード
58 着脱フランジ
60 バランス取り用錘
60a 係合穴
M1〜M8 表示部
P1〜P4 着脱治具ピン係合孔
Y1〜Y8 錘収容部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削する環状の切削ブレードがフランジ機構によってスピンドルに固定された切削手段とを備えた切削装置において、該スピンドルの回転バランスを調整するための回転バランス調整用フランジ機構であって、
先端部の外周に雄ネジが形成された円柱状のボス部と、該ボス部の軸方向中間部に形成されたブレード装着部と、該ボス部の軸方向後端から径方向に突出して形成され該切削ブレードを支持するフランジ部とからなる固定フランジと、該ボス部の該雄ネジと螺合する雌ネジが内周に形成され、該固定フランジの該フランジ部と該切削ブレードを挟持して固定する円環状の固定ナットと、を備え、
該固定ナットは、該切削ブレードを該固定フランジと協働して挟持した際、前端面となる表面からバランス取り用錘を挿入できる錘収容部を周方向に所定の間隔を置いて複数備え、
該表面の該錘収容部の近傍には、
各錘収容部の位置を示す表示部を備える、
ことを特徴とする回転バランス調整用フランジ機構。
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削する環状の切削ブレードがフランジ機構によってスピンドルに固定された切削手段とを備えた切削装置において、該スピンドルの回転バランスを調整するための回転バランス調整用フランジ機構であって、
先端部の外周に雄ネジが形成された円柱状のボス部と、該ボス部の軸方向中間部に形成されたブレード装着部と、該ボス部の軸方向後端から径方向に突出して形成され該切削ブレードを支持するフランジ部とからなる固定フランジと、該ボス部の該雄ネジと螺合する雌ネジが内周に形成され、該固定フランジの該フランジ部と該切削ブレードを挟持して固定する円環状の固定ナットと、を備え、
該固定ナットは、該切削ブレードを該固定フランジと協働して挟持した際、前端面となる表面からバランス取り用錘を挿入できる錘収容部を周方向に所定の間隔を置いて複数備え、
該表面の該錘収容部の近傍には、
各錘収容部の位置を示す表示部を備える、
ことを特徴とする回転バランス調整用フランジ機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2013−110355(P2013−110355A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256196(P2011−256196)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】
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