説明

回転伝達装置

【課題】潤滑剤保持力に優れ、潤滑剤の移動を抑えることができ、ローラクラッチ部等の潤滑剤を必要とする部位に、潤滑剤を長期にわたって供給できる回転伝達装置を提供する。
【解決手段】内方部材3と外方部材5とを同軸上に配置して相対的に回転自在に支持し、その両部材間に組み込まれた保持器10のポケット内に係合子12を組み込み、該係合子12を内方部材3の外周と外方部材5の内周に係合させ、内方部材3と外方部材5の相互間で回転トルクの伝達を行ない、多孔性固形潤滑剤11を封入してなる回転伝達装置であって、上記多孔性固形潤滑剤11は、発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなり、内方部材3と外方部材5間に充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の駆動系路において、駆動力の伝達と遮断の切換えを行なう回転伝達装置、例えば二方向クラッチに関し、詳しくは係合子の摩擦係合面を含む/含まない空間容積に多孔性固形潤滑剤を封入した回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転伝達装置としては、電磁クラッチをスイッチ機構としてローラクラッチをロックさせる形式の回転伝達装置が知られている(特許文献1参照)。この回転伝達装置はフィールドに通電を行なうとアーマチュアがロータに吸引され、外輪に固定されたロータガイドに固定されているロータの回転力がアーマチュアに伝達される。アーマチュアには、連結プレートが連結され、アーマチュアの回転は連結プレートを介して保持器に伝達され、保持器と内輪に挿入されたスイッチばねを撓ませて保持器が内輪に対して相対回転して、保持器のポケットに保持されたローラが外輪内径と内輪外径面で形成される楔空間に係合し、トルク伝達される構造を有する。
【0003】
しかしながら、このような回転伝達装置にグリースを封入する場合、グリースを必要とする部位はローラクラッチ部および軸受部であるが、軸受に関しては軸受シールでグリースを軸受内部空間に確保できるものの、ローラクラッチ部は電磁クラッチ部との連結等で完全に密閉できないため、ローラクラッチ部へ封入したグリースが運転とともに電磁クラッチ部の方へ流動してしまい、ローラクラッチ部のグリースが減少してしまうという問題点があった。また、ローラクラッチ部のグリースを十分に確保するために必要以上に内部へグリースを封入し、コストがかかるという問題もある。
【特許文献1】特開2003−90356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題点に対処するためになされたものであり、潤滑剤保持力に優れ、潤滑剤の移動を抑えることができ、ローラクラッチ部等の潤滑剤を必要とする部位に、潤滑剤を長期にわたって供給できる回転伝達装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の回転伝達装置は、内方部材と外方部材とを同軸上に配置して相対的に回転自在に支持し、その両部材間に組み込まれた保持器のポケット内に係合子を組み込み、該係合子を上記内方部材の外周と上記外方部材の内周とに係合させ、上記内方部材と上記外方部材の相互間で回転トルクの伝達を行ない、上記内方部材と上記外方部材間に多孔性固形潤滑剤を封入してなる回転伝達装置であって、上記多孔性固形潤滑剤は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、該樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であることを特徴とする。
【0006】
上記係合子は、上記保持器に対して連結プレートを介して回り止めされ、かつ軸方向に移動可能なアーマチュアに対して、上記内方部材または上記外方部材に取り付けられたロータを軸方向で対向させ、固定部材に設けた電磁石により上記アーマチュアを上記ロータに吸着して上記保持器の位相を変えることで、上記内方部材の外周と上記外方部材の内周とに係合させることを特徴とする。
【0007】
上記多孔性固形潤滑剤は、ゴム状弾性を有する樹脂またはゴムからなる樹脂成分を具備し、外力による変形により潤滑成分の滲出性を有することを特徴とする。
また、上記樹脂成分が、ポリウレタン樹脂であることを特徴とする。
また、上記固形物の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の回転伝達装置は、内方部材と外方部材間に、潤滑剤として多孔性固形潤滑剤を封入してなるので、遠心力などが生じても潤滑剤の移動を最小限に抑え、少量で広い空間容積を十分に充填することができ、グリース潤滑のみとした場合に比較して潤滑剤の使用量を削減することができる。また、回転伝達装置の運転時において、遠心力などにより多孔性固形潤滑剤中より潤滑を必要とする摺動部の周囲等に潤滑成分が徐放されるので、長期間安定して運転が可能である。これらの結果、従来のグリース潤滑と比較して、コスト面でも環境保全面でも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の回転伝達装置は、内方部材と外方部材間における係合子の摩擦係合面を含む/含まない空間容積に、潤滑剤として発泡体であり内部に気孔を多く持つ多孔性固形潤滑剤を封入している。このため、潤滑性能を保持し、かつ少量で広い空間容積を充填することができるので、グリース潤滑のみとした場合に比較して潤滑剤の使用量を削減することができ、コスト面でも環境保全面でも有利である。
この多孔性固形潤滑剤は潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、該樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であり、樹脂内部に潤滑成分が吸蔵されてなる。樹脂成分内や気孔内に吸蔵された潤滑成分は、遠心力や温度上昇、毛細管現象、屈曲などにより、潤滑面に供給されやすく、潤滑成分は徐放されるため、潤滑成分の供給が長期間にわたって確実に行なわれる。また、発泡体であり変形量を大きくとることができるので、弾性により確実なシール性は確保されるが、発泡体で弾性率が高いため高接触によるトルクの増大には繋がらない。
なお、本発明において「吸蔵」とは、液体・半固体状の潤滑成分が他の配合成分と反応することなく、固体の樹脂中に化合物にならないで含まれることをいう。
【0010】
本発明の回転伝達装置を図面に基づいて具体的に説明する。図1は本発明の実施形態の一例である回転伝達装置(電磁クラッチ)を示す断面図である。
図1に示すように回転伝達装置は、ハウジング1内には回転軸2が挿入され、その回転軸2の軸端部に内方部材3が嵌合されている。回転軸2と内方部材3はセレーション4によって結合されている。この内方部材3の外側には筒状の外方部材5が同軸上に設けられ、上記内方部材3の一端の円筒部3aに取付けた軸受6によって内方部材3と外方部材5が相対的に回転自在に支持されている。また、外方部材5はハウジング1の内径面に取付けた軸受7によって回転自在に支持されている。
【0011】
内方部材3と外方部材5の間に保持器10が組込まれ、その保持器10に形成されたポケット内に、内方部材3と保持器10との相対回転により内方部材3の外周に形成されたカム面8と外方部材5の内周に形成された円筒面9とに係合する係合子12が組込まれている。内方部材3と外方部材5と保持器10とに囲まれた空間に多孔性固形潤滑剤11が封入されている。
【0012】
図1および図2に示すように、上記内方部材3の他端面にはばね嵌合凹部13が形成され、そのばね嵌合凹部13内にスイッチばね14が組込まれている。スイッチばね14は一対の折曲片14aを有し、各折曲片14aがばね嵌合凹部13の周壁に形成された窓15から保持器10の端部に形成された対向一対の切欠部16の一方に挿入されて、その切欠部16の周方向で対向する端面を相反する方向に押圧しており、その押圧によって保持器10は係合子12がカム面8および円筒面9に対して非係合の中立位置に保持されている。
【0013】
図3に示すように、内方部材3の他端の円筒部3bには、連結プレート17とアーマチュア18とが順に嵌合され、そのアーマチュア18に対してロータ22および電磁石19が軸方向に対向配置されている。
アーマチュア18は保持器10に対して連結プレート17を介して回り止めされ、かつ軸方向に移動可能とされている。
電磁石19は、ロータ22に対し、軸方向で対向するフィールドコア23と、そのフィールドコア23内に収容された電磁コイル24とから成る。
【0014】
上記の構成から成る回転伝達装置において、電磁石19の電磁コイル24に対する通電の遮断状態において、保持器10はスイッチばね14によって中立位置に保持され、その保持器10に保持された係合子12は内方部材3のカム面8および外方部材5の円筒面9に対して非係合の状態とされている。
このため、回転軸2とともに回転する内方部材3の回転は外方部材5に伝達されず、内方部材3は空転する。
【0015】
電磁石19の電磁コイル24に通電すると、ロータ22が弾性部材30の弾性に抗してアーマチュア18を吸着する。その吸着によって保持器10は外方部材に回り止めされ、その保持器10に対する内方部材3の相対回転により、係合子12が内方部材3のカム面8および外方部材5の円筒面9に係合し、内方部材3の回転が係合子12を介して外方部材5に伝達される。
【0016】
本発明において多孔性固形潤滑剤を構成する樹脂成分としては、発泡・硬化後にゴム状弾性を有し、変形により潤滑成分の滲出性を有するものが好ましい。
発泡・硬化は、樹脂生成時に発泡・硬化させる形式であっても、樹脂成分に発泡剤を配合して成形時に発泡・硬化させる形式であってもよい。ここで硬化は架橋反応および/または液状物が固体化する現象を意味する。また、ゴム状弾性とは、ゴム弾性を意味するとともに、外力により加えられた変形がその外力を無くすことにより元の形状に復帰することを意味する。
【0017】
本発明において樹脂成分としては、ゴムおよび樹脂を挙げることができる。
ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンエラストマー、フッ素ゴム、クロロスルフォンゴムなどの各種ゴムが挙げられる。
また、樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド4,6樹脂、ポリアミド6,6樹脂、ポリアミド6T樹脂、ポリアミド9T樹脂などの汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
上記樹脂の中で、容易に発泡・硬化して多孔質化するポリウレタン樹脂が好ましい。
【0018】
本発明に使用できるポリウレタン樹脂は、イソシアネートとポリオールとの反応による発泡・硬化物であるが、分子内にイソシアネート基(−NCO)を有するウレタンプレポリマーの発泡・硬化物であることが好ましい。このイソシアネート基は他の置換基によってブロックされていてもよい。分子内に含まれるイソシアネート基は、分子鎖末端であっても、あるいは分子鎖内から分岐した側鎖末端に含まれていてもよい。また、ウレタンプレポリマーは分子鎖内にウレタン結合を有していてもよい。
【0019】
ウレタンプレポリマーは、活性水素基を有する化合物とポリイソシアネートとの反応によって得ることができる。
活性水素基を有する化合物としては低分子ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ひまし油系ポリオール等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上の混合物として使用することができる。低分子ポリオールとしては、2価のもの例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、水添ビスフェノールA等、3価以上のもの(3〜8価のもの)例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、シュークローズ等が挙げられる。
【0020】
ポリエーテル系ポリオールとしては上記低分子ポリオールのアルキレンオキサイド(炭素数2〜4のアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド)付加物およびアルキレンオキサイドの開環重合物が挙げられ、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが含まれる。
【0021】
ポリエステル系ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリエーテルエステルポリオール等が挙げられる。ポリエステルポリオールはカルボン酸(脂肪族飽和または不飽和カルボン酸、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、二量化リノール酸およびまたは芳香族カルボン酸、例えば、フタル酸、イソフタル酸)とポリオール(上記低分子ポリオールおよび/またはポリエーテルポリオール)との縮合重合により得られる。
ポリカプロラクトンポリオールは、グリコール類やトリオール類の重合開始剤にε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、ε-メチル-ε-カプロラクトン等を有機金属化合物、金属キレート化合物、脂肪酸金属アシル化物等の触媒の存在下で付加重合により得られる。ポリエーテルエステルポリオールには、末端にカルボキシル基および/または水酸基を有するポリエステルにアルキレンオキサイド例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等を付加反応させて得られる。ひまし油系ポリオールとしては、ひまし油およびひまし油またはひまし油脂肪酸と上記低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールとのエステル交換あるいは、エステル化ポリオールが挙げられる。
【0022】
ポリイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族または脂環式およびポリイソシアネート化合物がある。
芳香族ジイソシアネートは、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネートおよびその混合物、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネートが挙げられる。
脂肪族または脂環式ジイソシアネートは、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカンジイソシアネート、1,3-シクロブタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソプロパンジイソシアネート、2,4-ヘキサヒドロトルイレンジイソシアネート、2,6-ヘキサヒドロトルイレンジイソシアネート、1,3-ヘキサヒドロフェニルジイソシアネート、1,4-ヘキサヒドロフェニルジイソシアネート、2,4′パーヒドロジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′-パーヒドロジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。
ポリイソシアネート化合物としては、4,4′,4″-トリフェニルメタントリイソシアネート、4,6,4′-ジフェニルトリイソシアネート、2,4,4′-ジフェニルエーテルトリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートが挙げられる。
また、これらイソシアネートの一部をビウレット、アロファネート、カルボジイミド、オキサゾリドン、アミド、イミド等に変性したものが挙げられる。
【0023】
本発明に好適なウレタンプレポリマーとしては、注型用ウレタンプレポリマーとして知られている、ポリラクトンエステルポリオール、ポリエーテルポリオールにポリイソシアネートを付加重合させて得られるプレポリマー等が挙げられる。
上記ポリラクトンエステルポリオールはカプロラクトンを開環反応させて得られるポリラクトンエステルポリオールに短鎖ポリオールの存在下、ポリイソシアネートを付加重合させたウレタンプレポリマーが好ましい。
上記ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキサイドの付加物または開環重合物が挙げられ、これらとポリイソシアネートを付加重合させたウレタンプレポリマーが好ましい。
【0024】
本発明に好適に使用できるウレタンプレポリマーの市販品を例示すれば、ダイセル化学社製の商品名プラクセルEPが挙げられる。プラクセルEPは室温以上の融点を有する白色固体のウレタンプレポリマーである。また、ポリエーテルポリオールを例示すれば旭硝子社製の商品名プレミノールが挙げられる。プレミノールは 5000〜12000 の分子量を有するポリエーテルポリオールである。
【0025】
上記ウレタンプレポリマーを硬化させる硬化剤としては、3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン(以下、MOCAと記す)や4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチル-5,5′-ジメチルジフェニルメタン、トリメチレン−ビス-(4−アミノベンゾアート)、ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミン、メチルチオトルエンジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトルエン−2,6-ジアミンに代表される芳香族ポリアミン、上記ポリイソシアネート、1,4-ブタングリコールやトリメチロールプロパンに代表される低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ひまし油系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、水酸基末端液状ポリブタジエン、水酸基末端液状ポリイソプレン、水酸基末端ポリオレフィン系ポリオールやこれら化合物の末端水酸基をイソシアネート基やエポキシ基などで変性した化合物に代表される2個以上の水酸基を有する液状ゴム等を単独でまたは併用して用いることができる。これらの中で発泡性とゴム状弾性を両立でき、工業上容易に入手できる芳香族ポリアミンがポリラクトンエステルポリオールとポリイソシアネートを付加重合させたウレタンプレポリマーを硬化させるのに好ましい。
【0026】
樹脂成分を発泡させる手段としては、周知の発泡手段を採用すればよく、例えば、揮発性ガスを化学反応により生成する化学的発泡方法、水、アセトン、ヘキサン等の比較的沸点の低い有機溶媒を加熱し、気化させる物理的手法や、窒素などの不活性ガスや空気を外部から吹き込む機械的発泡方法、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジカルボンアミド(ADCA)等のように加熱処理や光照射によって化学分解させ、窒素ガスなどを発生させる分解型発泡剤を使用するなどの方法が挙げられる。
【0027】
本発明に使用するウレタンプレポリマーは分子内にイソシアネート基を有するので、水を発泡剤として用いて、イソシアネート基と水分子との化学反応によって生じる二酸化炭素による化学的発泡方法を用いることが好ましい。また、この方法は連続気泡が生成しやすいので好ましい。
【0028】
また、このような反応を伴う化学的発泡方法を用いる場合には必要に応じて触媒を使用することが好ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などが用いられる。3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミダゾール誘導体、酸ブロックアミン触媒などが挙げられる。
また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、オクテン酸塩などが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0029】
上記樹脂成分に限られることなくウレタン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリイミド系接着剤など各種接着剤を発泡および硬化させて使用することもできる。
【0030】
本発明において樹脂成分中には必要に応じて各種添加剤を用いることができる。添加剤としてはヒンダードフェノール系に代表される酸化防止剤、補強剤(カ−ボンブラック、ホワイトカーボン、コロイダルシリカなど)、無機充填剤(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレイ、硅石粉など)老化防止剤、難燃剤、金属不活性剤、帯電防止剤、防黴剤やフィラーおよび着色剤などが挙げられる。
【0031】
本発明に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する樹脂成分を溶解しないものであれば種類を選ばずに使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独で、もしくは混合して使用できる。
潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
樹脂材料と潤滑油が極性などの化学的な相性によって溶解、分散しない場合には、粘度の近い潤滑油を使用することで、物理的に混合しやすくなり、潤滑剤の偏析を防ぐことが可能となる。
【0032】
グリースは、基油に増ちょう剤を加えたものであり、基油としては上述の潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0033】
ジウレア化合物は、例えばジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンジイソシアネート等が挙げられる。
モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0034】
ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンおよびジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0035】
上記グリースにおける基油の配合割合は、グリース成分全体に対して、基油が 1〜98 重量%、好ましくは 5〜95 重量%である。基油が 1 重量%未満であると、潤滑油を必要箇所に十分に供給することが困難になる。また 98 重量%より多いときには、低温でも固まらずに液状のままとなる。
【0036】
本発明に使用するワックスとしては、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを挙げることができる。これらのワックスに油を混合してもよく使用する油成分としては上述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0037】
以上述べた潤滑成分には、さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
本発明に用いる多孔性固形潤滑剤は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、これに硬化剤と、発泡剤とを配合した混合物を発泡・硬化して多孔質化した固形物として得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、1〜90 重量%、好ましくは 5〜80 重量%である。潤滑成分が 1 重量%未満であると、潤滑成分の供給量が少なく固形潤滑剤としての機能を発揮できず、90 重量%より多いときには固化しなくなる。
樹脂の配合割合は、混合物全体に対して、8〜98 重量%、好ましくは 20〜80 重量%である。8 重量%より少ないときは固化せず、98 重量%より多いときには潤滑成分の供給量が少なく固形潤滑剤としての機能を発揮できない。
【0039】
上記硬化剤の配合割合は、樹脂の配合量と発泡倍率により、上記発泡剤の配合割合は、後述する発泡倍率との関係でそれぞれ定まる。
【0040】
潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする混合物を混合する方法は、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
上記混合物は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが好ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0041】
本発明の回転伝達装置に用いる多孔性固形潤滑剤は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、圧縮、屈曲、遠心力および温度上昇に伴う気泡の膨張などの外力によって潤滑油を外部に供給することが可能なものである。
潤滑成分を樹脂内部に吸蔵するには、潤滑成分の存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なわせる反応型含浸法を採用することが望ましい。このようにすると潤滑剤を樹脂内部に高充填することが可能となり、その後には潤滑剤を含浸して補充する後含浸工程を省略できる。
これに対して発泡固形体をあらかじめ成形しておき、これに潤滑剤を含浸させる後含浸法だけでは、樹脂内部に充分な量の液体潤滑剤が染み込まないので、潤滑剤保持力が充分になく、短時間で潤滑油が放出されて長期的に使用すると潤滑油が供給不足となる場合がある。このため、後含浸工程は、反応型含浸法の補助手段として採用することが好ましい。
【0042】
発泡・硬化時において発泡により多孔質化される際に生成させる気泡は気泡が連通している連続気泡であることが好ましく、外部応力によって潤滑成分を樹脂の表面から連続気泡を介して外部に直接供給するためである。気泡間が連通していない独立気泡の場合は固形成分中の潤滑油の全量が一時的に独立気泡中に隔離され気泡間での移動が困難となり、必要なときに係合子の周囲に十分供給されない場合がある。
【0043】
本発明において多孔性固形潤滑剤の連続気泡率は 50%以上が好ましく、より好ましくは 70%以上である。連続気泡率が 50%未満の場合は、樹脂成分中の潤滑油が一時的に独立気泡中に取り込まれている割合が多くなり、必要な時に外部へ供給されない場合がある。
【0044】
本発明に用いる多孔性固形潤滑剤の連続気泡率は以下の手順で算出できる。
(1)発泡硬化した多孔性固形潤滑剤を適当な大きさにカットし、試料Aを得る。試料Aの重量を測定する。
(2)Aを 3 時間ソックスレー洗浄(溶剤:石油ベンジン)する。その後 80℃で 2 時間恒温槽に放置し、有機溶剤を完全に乾燥させ、試料Bを得る。試料Bの重量を測定する。
(3)連続気泡率を以下の手順で算出する。
連続気泡率=(1−(試料Bの樹脂成分重量−試料Aの樹脂成分重量)/試料Aの潤滑成分重量)×100
なお、試料A、Bの樹脂成分重量、潤滑成分重量は、試料A、Bの重量に組成の仕込み割合を乗じて算出する。
連続していない独立気泡中に取り込まれた潤滑成分は 3 時間ソックスレー洗浄では外部へ放出されないため試料Bの重量を減少させることがないので、上記の操作で試料Bの重量減少分は連続気泡からの潤滑成分の放出によるものとして連続気泡率が算出できる。
【0045】
本発明に用いる多孔性固形潤滑剤の発泡倍率は 1.1〜100 倍であることが好ましい。さらに好ましくは 1.1〜10 倍である。なぜなら発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できないし、または固形物が硬すぎるため、外部応力に追随した変形ができないなどの不具合がある。また、100 倍をこえる場合は外部応力に耐える強度を得ることが困難となり、破損や破壊に至ることがある。
【0046】
多孔性固形潤滑剤は、回転伝達装置内に潤滑成分および樹脂成分を含む混合物を流し込んだ後、発泡・硬化させてもよく、また常圧で発泡・硬化した後に裁断や研削等で目的の形状に後加工し、回転伝達装置内に組み込むこともできる。
形状が複雑な回転伝達装置内の任意の部位にも容易に充填することが可能であり、発泡成形体を得るための成形金型や研削工程等も不要であることから、本発明では、混合物を発泡・硬化前に回転伝達装置内に流し込み、該装置内において発泡・硬化させる方法を採用することが好ましい。該方法を採用することで、製造工程が簡易となり低コスト化が図れる。
【実施例】
【0047】
実施例1
表1に示す成分量(組成)で、ウレタンプレポリマーにシリコーン系整泡剤とウレアグリースを加え、120℃でよく撹拌した。これにアミン系硬化剤を加え、撹拌した後、発泡剤としての水を加えた。硬化・発泡前の液状物質を二方向クラッチの内部空間に流し込み、120℃に設定された恒温槽に 1 時間放置して発泡・硬化させ、多孔性固形潤滑剤を封入した回転伝達装置を得た。また、前述の連続気泡率の算出法に基づき発泡潤滑剤の連続気泡率を測定した。結果を表1に併記する。
【0048】
実施例2および実施例3
表1に示す組成でポリエーテルポリオールにシリコーン系整泡剤、潤滑油、アミン系触媒、発泡剤としての水を加え、90℃で加熱しよく撹拌した。これにイソシアネートを加えてよく撹拌した。硬化・発泡前の液状物質を二方向クラッチの内部空間に流し込み、90℃に設定した恒温槽で 15 分間放置し硬化させ、多孔性固形潤滑剤を封入した回転伝達装置を得た。また、実施例1と同様に発泡潤滑剤の連続気泡率を測定した。結果を表1に併記する。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の回転伝達装置は、潤滑剤保持力に優れ、潤滑剤の移動を抑えることができ、ローラクラッチ部等の潤滑剤を必要とする部位に、潤滑剤を長期にわたって供給できるので、撚線機、電動機器、印刷機、自動車部品、電装補機、建設機械等の各種産業用機械用の回転伝達装置、特に自動車用の電磁クラッチとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態の一例である回転伝達装置を示す断面図である。
【図2】図1のIII −III 線に沿った断面図である。
【図3】図1の電磁石とアーマチュアの部分を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ハウジング
2 回転軸
3 内方部材
4 セレーション
5 外方部材
6 軸受
7 軸受
8 カム面
9 円筒面
10 保持器
11 多孔性固形潤滑剤
12 係合子
13 ばね嵌合凹部
14 スイッチばね
15 窓
16 切欠部
17 連結プレート
18 アーマチュア
19 電磁石
22 ロータ
23 フィールドコア
24 電磁コイル
30 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内方部材と外方部材とを同軸上に配置して相対的に回転自在に支持し、その両部材間に組み込まれた保持器のポケット内に係合子を組み込み、該係合子を前記内方部材の外周と前記外方部材の内周とに係合させ、前記内方部材と前記外方部材の相互間で回転トルクの伝達を行ない、前記内方部材と前記外方部材間に多孔性固形潤滑剤を封入してなる回転伝達装置であって、
前記多孔性固形潤滑剤は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、該樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項2】
前記係合子は、前記保持器に対して連結プレートを介して回り止めされ、かつ軸方向に移動可能なアーマチュアに対して、前記内方部材または前記外方部材に取り付けられたロータを軸方向で対向させ、固定部材に設けた電磁石により前記アーマチュアを前記ロータに吸着して前記保持器の位相を変えることで、前記内方部材の外周と前記外方部材の内周とに係合させることを特徴とする請求項1記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記多孔性固形潤滑剤は、ゴム状弾性を有する樹脂またはゴムからなる樹脂成分を具備し、外力による変形により潤滑成分の滲出性を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記樹脂成分が、ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記固形物の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の回転伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−202769(P2008−202769A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43091(P2007−43091)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】