説明

回転対称性を有しない吐出口を有する液体吐出ヘッド

【課題】1つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口を設けた場合は、吐出口間距離が狭くなり、吐出した液滴同士が接触してしまう場合がある。したがって、本発明では、1つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口を設けた場合でも、吐出した液滴同士が接触しない液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る液体吐出ヘッドは、1つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口が設けられ、薬剤を含む液体を液滴として吐出するために用いられる液体吐出ヘッドであって、前記エネルギー発生素子と平行な平面による断面形状が、回転対称性を有しない形状である前記吐出口を少なくとも1つ有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を微小な液滴として吐出する液体吐出ヘッドに関するものであり、特に医療分野において薬剤を含む溶液を霧状として肺吸入させる際に使用される吸入装置などに好適に用いられる液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を微小液滴として吐出する液体吐出ヘッドは、インクジェット記録分野におけるインクジェットヘッドとして広く用いられている。インクジェットヘッドには、単に液滴を吐出するだけでなく、液滴の吐出方向の安定性も要求されており、従来のインクジェットヘッドにおいては、この要求を達成するための種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インクを吐出する吐出口の周りに凹部を形成し、これにより隣接する吐出口間でのインクの接触を防止し、安定してインクを飛翔させるインクジェットヘッドが開示されている。
【0004】
また、特許文献2及び特許文献3には、凹部内に吐出口を形成した吐出口形成部材を有し、該凹部の内側に親インク処理を施すとともに、吐出口形成部材の凹部を除く表面に撥インク処理を施し、凹部内にメニスカスを形成させた状態でインクを吐出することにより、安定して液滴を吐出し、記録品位を向上させたインクジェットヘッドが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、前記凹部内に、一つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口を設けることにより、複数の微小液滴を同時に吐出出来る事が開示されている。
【0006】
一方、特許文献4では、記録ヘッド以外の応用方法として、液体吐出ヘッドを薬剤を含む溶液の吸入装置に利用することも検討されている。吸入装置で吐出される液体はその液滴径により呼吸器系における到達部位がおよそ決まってくる。例えば、液体を鼻腔に到達させるには直径6〜9μmの液滴径とすることが有効とされており、喉では5〜6μm、気管支では3〜5μm、肺胞では3μm以下の液滴径が最も到達しやすいことがわかっている。したがって、ターゲット部位により液滴の最適な径が異なってくるため、吸入装置には目的径を有する液滴を均一に安定して吐出する性能が求められるが、液体吐出ヘッドでは吐出口等を調整することで容易に均一な液滴を吐出することができる。
【特許文献1】特開平5−77422号
【特許文献2】特開平5−193141号
【特許文献3】特開平11−334069号
【特許文献4】特開2003−154655号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、液状薬剤を霧状として肺吸入させる際に使用される吸入装置などに用いられる液体吐出ヘッドにおいては、上記均一な液滴の生成能に加え、吐出液滴数を増加させる為に吐出口の高密度化が要求されている。
【0008】
しかし、従来の方法では、液滴を吐出する吐出口間距離を狭める事により、吐出した液滴同士が接触し、液滴が大きくなり、目的径の微小液滴を得る事が出来なくなるという課題があった。例えば、特許文献4に記載されているように、1つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口を設けた場合などは、吐出口間距離が狭くなり、吐出した液滴同士が接触してしまうという場合も想定される。したがって、本発明では、1つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口を設けた場合でも、吐出した液滴同士が接触しない液体吐出ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記課題を解決するために、本発明に係る液体吐出ヘッドは、
1つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口が設けられ、薬剤を含む液体を液滴として吐出するために用いられる液体吐出ヘッドであって、
前記エネルギー発生素子と平行な平面による前記吐出口の断面形状が、回転対称性を有しない形状である前記吐出口を少なくとも1つ有することを特徴とする。
【0010】
前記回転対称性を有しない断面形状が、円に突出部を設けた形状であって、
該突出部は、前記円の中心点から該突出部までの距離が前記円の半径よりも長くなるように、突出部を円の外側に設けた形状であることが好ましい。
【0011】
前記突出部の形状が、前記円の中心を通る直線により分けられた同じ半円の円周上にある2点を繋ぐ線で表されることが好ましい。
【0012】
前記エネルギー発生素子が、発熱素子または振動エネルギー発生素子であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る液体吐出ヘッド装置は、前記液体吐出ヘッドを有することを特徴とする。
【0014】
前記液体吐出ヘッド装置は、
吐出口から吐出される液滴が、該吐出口が配置された液体吐出ヘッドに隣接する液体吐出ヘッドに配置された吐出口から吐出される液滴と接触しないように、吐出口の吐出方向が調整されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高密度に吐出口を配置して吐出口間距離が短いために、吐出する液滴が接触しやすい場合でも、それぞれの吐出口の液滴吐出方向を異ならす事により、液滴の接触を防止することが可能であり、従来より高密度に微小液滴を吐出可能な液体吐出ヘッド装置を提供する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の液体吐出ヘッドは、微小な液滴を吐出(噴霧も含む)するための装置に好適に用いることができる。その具体的な応用例としては、特に限定されるものではないが、医療分野における薬剤を含む溶液を患者の呼吸器系に投与するために用いられる吸入用装置が挙げられる。他の応用例としては、スチーマー、ペンキ等のスプレーなどが挙げられる。
【0017】
ここで、本発明に係る液体吐出ヘッドは、
1つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口が設けられ、薬剤を含む液体を液滴として吐出するために用いられる液体吐出ヘッドであって、
前記エネルギー発生素子と平行な平面による前記吐出口の断面形状が、回転対称性を有しない形状である前記吐出口を少なくとも1つ有することを特徴とする。
【0018】
このように構成することで、1つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口が設けられた液体吐出ヘッドを用いて液体を吐出する場合でも、近接する吐出口から吐出した液滴同士が接触することがないため、目的径を有する液滴を得ることができる。
【0019】
本発明の液体吐出ヘッドを薬剤吸入用装置のヘッドとして用いる場合、液体吐出ヘッドを配置した装置部分を薬剤のディスペンサと連結した構成とすることができる。
【0020】
前記液体としては、液状のものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、薬剤を含む溶液が好ましく、特に患者の呼吸器系に投与するために特別に処方された溶液が好ましい。なお、液状とは、ゾルやゲルなどの状態も含まれる。
【0021】
前記薬剤としては、哺乳類等の動物に対して何らかの作用・効果を示す物質をいい、特に限定されるものではないが、例えば、インスリン、人成長ホルモン若しくは性腺刺激ホルモンなどの蛋白、ニコチン、又は気管支喘息薬若しくは麻酔薬などが挙げられる。
【0022】
まず、液体吐出ヘッド装置の構成について、図1乃至3を参照して説明する。図1乃至図3は、本発明の実施に好適な発熱素子を用いた液体吐出ヘッド装置を説明するための説明図である。
【0023】
(液体吐出ヘッド装置について)
図1は従来の液体吐出ヘッド装置H1001を示しているが、本発明では、この装置構成を例えば吸入用装置として利用することができる。液体吐出ヘッド装置H1001は、電気信号に応じて膜沸騰を液体に対して生じせしめるための熱エネルギーを生成する発熱体を用いて吐出を行う、バブルジェト方式のサイドシューター型とされる装置である。なお、説明においては発熱素子を用いた構成について述べるが、特にエネルギー発生素子としては発熱素子に限定されるものではなく、ピエゾ素子のような振動エネルギー発生素子を用いることができる。
【0024】
次に、液体吐出ヘッド装置H1001を構成する各々の構成要素について順を追って説明する。図2は、図1の液体吐出ヘッド装置H1001の分解斜視図である。液体吐出ヘッド装置H1001は、図2の分解斜視図に示すように、発熱素子基板H1100、電気配線テープH1002及びタンクホルダH1003から構成される。
【0025】
まず、タンクホルダH1003について説明する。タンクホルダH1003は、例えば、樹脂成形により形成されている。タンクホルダH1003は液体タンク(不図)から発熱素子基板H1100の液体供給口H1102(図3参照)へ液体を導くための接続口を有し、着脱自在の液体タンク(不図)を保持する機能も一部備えている。この液体タンクに例えば薬剤を含む溶液を入れて保存する。
【0026】
図3は発熱素子基板H1100の構成を説明するために一部分解した斜視図である。発熱素子基板H1100は、例えば厚さ0.5〜1mmのSi基板H1112に、液体流路として長溝状の貫通口からなる液体供給口H1102がSiの結晶方位を利用した異方性エッチンングやサンドブラストなどの方法で形成されている。また、液体供給口H1102を挟んだ両側に発熱素子H1103がそれぞれ1列づつ配列されており、その発熱素子H1103に電力を供給するAu等の不図示の電気配線が成膜技術により形成されている。さらに、その電気配線に電力を供給するための電極部H1104が発熱素子基板H1100の両外側に配列されている。そして、Si基板H1112上には、発熱素子H1103に対応した液体流路を形成するための液体流路壁H1105(図4参照)と吐出口H1108(図4参照)が樹脂材料でフォトリソグラフィ技術および微細加工技術により形成され、吐出口群H1111を形成している。
【0027】
液体供給口H1102から供給された液体は、発熱素子H1103により発生した気泡より、発熱素子H1103に対向して設けられている吐出口H1108から吐出される。
【0028】
発熱素子基板H1100は第1の接着剤により、タンクホルダH1003に接着される。第1の接着剤は硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後比較的高い硬度を有し、かつ、耐液体性のあるものが望ましい。例えばシリコーンを主成分とした常温硬化型接着剤やUV硬化型接着剤が使用される。
【0029】
次に、電気配線テープH1002に関して説明する。電気配線テープH1002は、発熱素子基板H1001に対して液体を吐出するための電気信号を印加するものである。電気配線テープH1002は、発熱素子基板H1001を組み込むための開口部と、発熱素子基板H1100の電極部H1104に対応する電極端子H1113と、この電気配線テープH1002の端部に位置し、本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1114を有している。外部信号入力端子H1114は電極端子H1113と連続した銅箔等の配線パターン(不図示)でつながっている。電気配線テープH1002は裏面を第2の接着剤によって、タンクホルダH1003に接着される。第2の接着剤は硬化温度が低く、短時間で硬化するものが望ましく、例えばホットメルト接着剤が使用される。
【0030】
電気配線テープH1002と発熱素子基板H1100は、それぞれ電気的に接続されている。接続方法は、例えば、φ50μmのAuワイヤーにより発熱素子基板H1100の電極部H1104と電気配線テープH1002の電極端子H1113とが熱超音波圧着法により電気接合されてもよく、同様に、φ50μmのAuワイヤーで熱超音波圧着法により電気接合されているものであってもよい。
【0031】
電気配線テープH1002の電極端子H1113と発熱素子基板H1001の電極部H1104とが電気接合されたワイヤーは第3の接着剤で覆われる。第3の接着剤には、例えばシリコーンを主成分とした常温硬化型接着剤やUV硬化型接着剤が使用される。このように、タンクホルダH1003に発熱素子基板H1100と電気配線テープH1002とを組み付けることにより液体吐出ヘッド装置が完成する。
【0032】
以下、実施の形態を説明しながら、本発明について説明する。
【0033】
(実施形態1)
(液体吐出ヘッドについて)
図4は本発明の実施形態の液体吐出ヘッドの一例を示し、図4(a)は液体吐出ヘッドの基板に対し垂直な方向から見た液体吐出ヘッドの平面透視図、図4(b)は図4(a)におけるX−X’線に沿った断面図、図4(c)は図4(a)における吐出口の拡大図である。
【0034】
図4に示す形態の液体吐出ヘッドでは、液体を吐出するためのエネルギー発生素子である発熱素子H1103がSi基板H1112上に設けられている。発熱素子H1103は液体流路H1106に対応して配置されている。図4では、発熱素子H1103および液体流路H1106は1つしか示していないが、実際には、1枚のSi基板H1112上に複数の発熱素子H1103が配列されており、発熱素子H1103ごとに液体流路H1106が配置されている。つまり、基板上に複数の液体吐出ヘッドが配置されている。なお、エネルギー発生素子はヒータのような発熱素子に限らず、ピエゾ素子のような振動エネルギー発生素子であってもよい。また、Si基板H1112の代わりに、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂、Si以外の金属などによって形成することもできる。
【0035】
液体流路H1106は、液体を液滴として吐出するための複数の吐出口H1108が開口した吐出口プレートH1107と、Si基板H1112、吐出口プレートH1107とSi基板H1112の間の間隔を規定する液体流路壁H1105により囲まれて構成されている。
【0036】
図4(c)に、吐出口の拡大図を示す。吐出口H1108の発熱素子面と平行な平面による断面形状(以下、吐出口の断面形状と略す)は、回転対称性を有しない形状をしており、切欠き部H1109を持つものである。また、吐出口の形状は、上記吐出口の断面形状に従って吐出プレートを発熱素子面に対して垂直方向にくりぬいて得られる形状である。
【0037】
ここで、図4に示す液体吐出ヘッドの具体的な寸法を挙げる。なお、本発明に係る液体吐出ヘッドが当該寸法に限定されるものではない。
【0038】
発熱素子H1103は10μm四方の正方形とした。また、吐出口は、吐出パワーが有効な最外位置として発熱素子H1103の各辺上に吐出口H1108の開口径H2005(図4(c)参照)の中心を配置した。
【0039】
吐出口H1108の開口径H2005は3μmとし、辺の長さH2007は約4.7μm(H2005の直径×π÷2)、切欠き部辺の長さH2008、H2009共には約2.7μm(H2005の直径×π÷8+1.5)である。なお、この場合の切欠き部頂点角度H2014は90°である。また、吐出口プレート厚みH2010は5μm、液体流路壁高さH2011は5μmとした。
【0040】
なお、切り欠き部辺の長さH2008、H2009は共に、例えば、(H2005の直径×π÷8)+1.5μm(切欠き部頂点角度90°の場合に相当)から((H2005の直径×π÷8)+2.12μm(切欠き部頂点角度60°の場合に相当)の間で調整することができる。
【0041】
(液体吐出方法について)
次に、このような形態の液体吐出ヘッドの吐出動作を説明する。図5は図4の形態のヘッドを駆動させたときの液体吐出の様子を示している。
【0042】
吐出開始前は図5(a)に示したように、吐出口プレートH1107の吐出口H1108においてメニスカスH2001が形成された状態である。そして、液体吐出のために発熱素子H1103に電圧を印加すると、図5(b)に示すように発熱素子H1103が発熱し、発熱素子H1103の表面と接する液体流路H1106の液体が加熱され、その液体に膜沸騰に伴う気泡H2002が発生する。
【0043】
膜沸騰に伴う気泡H2002が発生すると、その気泡の体積は急峻に成長するため、それに伴い液体は下流側(吐出口H1108側)及び上流側(液体供給側)に移動する。
【0044】
吐出口H1108は、図4(c)に示すように切欠き部H1109によって円柱状ではない非対称型となっている。仮に(吐出口辺の長さH2007×吐出口プレート厚みH2010)を壁面積S1とし、((切欠き部辺の長さH2008+切り欠き部辺の長さH2009)×吐出口プレート厚みH2010)を壁面積S2とすると、S1<S2という関係になる。
【0045】
液体が吐出口H1108を通過する際、壁面積S1と壁面積S2の壁面積差により流抵抗差が生まれ、吐出口内の液体の流速に差が生じる。壁面積S1側を流れる液体の速度を仮にV1、壁面積S2側を流れる液体の速度を仮にV2とすると、吐出口H1108における液体の速度はV2<V1という関係になる。
【0046】
そして、切り欠き部頂点角度H2014が鋭角になるほど壁面積S2が大きくなり、吐出口H1108における液体の速度差(V1−V2)も大きくなる。
【0047】
図5(d)に示すようにメニスカスH2001は吐出口内の液体の速度差V1,V2によって切欠き部H1109側へ頂点が移動し、図5(e)に示すように液滴H2003は発熱素子H1103面の垂直方向より切欠き部H1109の頂点方向へ向かい飛翔する。上記の構成で切欠部を調整することで図5(e)に示す液滴飛翔角度H2004を制御することができ、例えば4°〜8°の範囲で制御できる。
(吐出口について)
なお、実施形態1では、上記切欠き部を設けることにより、液滴の吐出方向(以下、液滴吐出方向という)を調整しているが、本発明に係る吐出口の断面形状は本実施形態の形状に限定されるものではない。上述のように、図4に示した吐出口の液滴吐出方向が、発熱素子面の垂直方向に対して角度がずれるのは、吐出口の断面形状が回転対称性を有しないためと考えられる。つまり、発熱素子面に対して垂直に液滴を吐出させるためには、吐出口の断面形状が回転対称性を有し、バランスのとれた形状になっている必要があると考えられる。これを逆に考えると、吐出口の断面形状を非回転対称にしてバランスを崩すことにより、吐出方向を発熱素子面の垂直方向からずらすことができることになる。したがって、吐出方向は、吐出口の断面形状を調整することにより制御することができるのであり、本発明における吐出口の断面形状は、目的とする液滴の吐出方向となるように調整した形状とすることができる。
【0048】
吐出口の断面形状としては、上記のように、回転対称性を有しない形状が考えられる。このような吐出口の断面形状は、例えば、円に突出部を設けた形状であって、該突出部は、前記円の中心点から突出部までの距離が前記円の半径よりも長くなるように、突出部を円の外側に設けた形状と表現することができる。
【0049】
前記突出部の形状は、例えば、前記円の中心を通る直線により分けられた同じ半円の円周上にある2点を繋ぐ線で表すことができる。この線は前記円の外側を通って前記2点を繋げるものであり、複数の直線や曲線から構成されていても構わない。
【0050】
例えば、2本の直線から構成される突出部としては、本実施形態に示したような前記切欠き部を挙げることができる。例えば、図4(c)で表した切欠き部は、2本の直線はそれぞれ円の接線であり、90°の角度で交差している。
【0051】
なお、吐出口の形状は、吐出口の断面形状に従って吐出プレートを発熱素子面に対して垂直方向に貫通する形状であることが好ましい。
【0052】
(変形例1)
(液体吐出ヘッドについて)
図6に、図4に示す液体吐出ヘッドの変形例を示す。この図6に示す例では、吐出口が一つの発熱素子に対して複数(9つ)設けられている。吐出口は、発熱素子H1103の中心に1つ設けられ、吐出パワーが有効な最外位置として発熱素子H1103の各辺上に4つ、各角上に4つ設けられている。各辺上及び角上に設けた吐出口は、切欠き部H1109を持つ吐出口H1108であり、切欠き部H1109の頂点を八方へ向けて配置されている。また、発熱素子の中心部に配置された吐出口は、円型形状である。
【0053】
ここで、図6に示す液体吐出ヘッドの具体的な寸法を挙げる。なお、この寸法に特に限定されるものではない。
【0054】
発熱素子H1103は10μm四方の正方形とし、吐出口H1108と切欠き部H1109は上記した寸法と同じとする。吐出口プレート厚みH2010は5μm、液体流路壁高さH2011は5μmとし、吐出口仕切り幅H2013は3μmとする。
(液体吐出方法について)
次に、この形態の液体吐出ヘッドの吐出動作を説明する。実施形態1と同様の部分は、説明を省略する。図7は図6の形態のヘッドを駆動させたときの液体吐出の様子を示している。
【0055】
図7(d)に示すようにメニスカスH2001は吐出口内の液体の速度差(V1−V2)によって切欠き部H1109側へ頂点が移動し、図7(e)に示すように液滴H2003は発熱素子H1103面の垂直方向より切欠き部H1109の頂点方向へ向かい飛翔する。上記の構成では切欠き部を調整することで図7(e)に示す液滴飛翔角度H2004は4°〜8°の範囲で制御ができる。切欠き部H1109を持たない真円な吐出口H1108は発熱素子H1103面の垂直方向に吐出する。複数の吐出口H1108から吐出された液滴H2003は任意の軌道へ飛翔させる事が出来る。
【0056】
上記の効果により、複数の液滴H2003を飛翔させた場合において吐出口仕切り幅H2013が5μm以下であっても液滴H2003同士が異なる方向へ飛散する為、接触する事なく、狭領域での高密度に配列可能な液体吐出ヘッドを提供する事が出来る。
【0057】
(変形例2)
図9に、変形例における液体吐出ヘッドの配置例を示す。
【0058】
図9(a)は、図4(c)に示す吐出口H1108を、切り欠き部H1109の頂点方向を隣接する吐出口H1108の頂点方向と重ならない事を意図して、四方に並ぶ発熱素子H1103上に配置したものである。つまり、1つの発熱素子に対してそれぞれの液滴吐出方向が接触しないように4つの吐出口を設けた液体吐出ヘッドを並べて配置した場合に、吐出口の液滴吐出方向が、該吐出口が配置されている液体吐出ヘッドに隣接する液体吐出ヘッド上の吐出口の液滴吐出方向にも接触しないように、吐出口の吐出方向を調整したものである。
【0059】
これにより、吐出口から吐出された液滴は、その吐出口に隣接する液体吐出ヘッド上の吐出口から吐出された液滴と接触しあう事無く飛翔し、必要とする液滴径を得る事が出来る。したがって、高密度に吐出口を配置する事が可能になる。
【0060】
図9(b)は図6に示す吐出口H1108を、切り欠き部H1109の頂点方向を隣接する吐出口H1108の頂点方向と重ならない事を意図して、中央には真円の吐出口を有し、四方に並ぶ発熱素子H1103上に配置したものである。つまり、1つの発熱素子に対してそれぞれの液滴吐出方向が接触しないように9つの吐出口を設けた液体吐出ヘッドを並べて配置した場合に、吐出口の液滴吐出方向が、該吐出口が配置されている液体吐出ヘッドに隣接する液体吐出ヘッド上の吐出口の液滴吐出方向にも接触しないように、吐出口の吐出方向を調整したものである。
【0061】
これにより、吐出口から吐出された液滴は、その吐出口に隣接する液体吐出ヘッド上の吐出口から吐出された液滴と接触しあう事無く飛翔し、必要とする液滴径を得る事が出来る。したがって、高密度に吐出口を配置する事が可能になる。
【0062】
(実施形態2)
図8に実施形態2における液体吐出ヘッドの形状を示す。本実施例では、上述の実施形態1及び変形例で述べた吐出口の上に、凹部をもうけ、該凹部にメニスカスを張り、吐出口が液中に位置している形態をとる。つまり、前記吐出口はメニスカスが張られた凹部の底辺部に設けられており、前記液体中に位置している。
【0063】
(液体吐出ヘッドの構造について)
図8に示す液体吐出ヘッドの具体的な寸法を挙げる。
【0064】
発熱素子H1103は10μm四方の正方形とし、凹部の径H2006は18μmである。吐出部の形状及び配置は変形例1で示したものと同様である。吐出口の厚みH2012は1μmとした。さらに、吐出口プレート厚みH2010は5μm、液体流路壁高さH2011は5μmとした。
【0065】
ここで、液体吐出ヘッドは、吐出口プレート厚みH2010と、液体流路壁高さH2011との間に、H2010≦H2011となる関係を有していることが好ましい。図8に示す液体吐出ヘッドの場合、前述のように、吐出口プレート厚みH2010=1μm、液体流路壁高さH2011=5μmであり、吐出口プレート厚みH2010≦液体流路壁高さH2011となる関係を満足することがわかる。
【0066】
(吐出方法について)
上記のような液体吐出ヘッドでは、吐出開始前は、上述の用に凹部H1110においてメニスカスH2001が形成され、吐出口H1108が液中に位置する状態である。そして、液体吐出のために発熱素子H1103を駆動すると、液体は少なくとも吐出口側に移動する。
【0067】
このとき、液体は吐出口側への移動に際して、吐出口H1108を通過する。その結果、吐出口の通過後の液体の移動速度がその通過前より格段と速くなり、凹部内の液体の流速が相対的に速くなる。
【0068】
したがって、凹部H1110におけるメニスカスの吐出口に相対する部分が盛り上がり、液滴が吐出される。この際、吐出口H1108は切欠き部H1109を有している為、凹部からの液滴の吐出においても液滴の軌道は切欠き部H1109の頂点方向へ飛翔する。
【0069】
すなわち、凹部内の液体の全体的な吐出にならないので、複数の極微小の液滴(例えば0.014pl)を吐出することが可能である。また、複数の液滴が互いに異なる方向へ飛散する為、接触する事なく、目的の大きさの液滴を得ることできる。したがって、狭領域での高密度に配列可能な液体吐出ヘッドを提供する事が出来る。
【0070】
また、吐出口H1108が液体中に位置するように凹部内に液体が溜まっているため、吐出口内の液体が乾燥によって目詰まりを起こすことがなく、吐出開始から良好な液滴を吐出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態の液体吐出ヘッド装置の外観斜視図である。
【図2】図1に示した液体吐出ヘッド装置の分解斜視図である。
【図3】図2に示した発熱素子基板の一部破断がなされた斜視図である。
【図4(a)】本発明に係る液体吐出ヘッドを表す平面透視図である。
【図4(b)】図4(a)におけるX−X’線の断面図である。
【図4(c)】図4(a)における吐出口の平面拡大図を表す図である。
【図5】図4の形態の液体吐出ヘッドのX−X’断面から見た液体吐出の様子を示す図である。
【図6】図4の形態の液体吐出ヘッドの変形例を表し(a)は平面透視図、(b)は(a)のX−X’線断面図である。
【図7】図6の形態の液体吐出ヘッドのX−X’断面から見た液体吐出の様子を示す図である。
【図8】図6の形態の吐出口の変形例を表し(a)は平面透視図、(b)はX−X’線断面図である。
【図9】図3に示した吐出口群の一部を表し、(a)は図4の吐出口変形例及び配置図、(b)は図6の吐出口変形例及び配置図である。
【符号の説明】
【0072】
H1001 液体吐出ヘッド装置
H1002 電気配線テープ
H1003 タンクホルダ
H1100 発熱素子基板
H1102 液体供給口
H1103 発熱素子
H1104 電極部
H1105 液体流路壁
H1106 液体流路
H1107 吐出口プレート
H1108 吐出口
H1109 切欠き部
H1110 凹部
H1112 Si基板
H2001 メニスカス
H2002 気泡
H2003 液滴
H2004 液滴飛翔角度
H2006 凹部の径
H2007 吐出口辺の長さ
H2008 切り欠き部辺の長さ
H2009 切り欠き部辺の長さ
H2010 吐出口プレート厚み
H2011 液体流路壁高さ
H2014 切り欠き部頂点角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのエネルギー発生素子に対して複数の吐出口が設けられ、薬剤を含む液体を液滴として吐出するために用いられる液体吐出ヘッドであって、
前記エネルギー発生素子と平行な平面による断面形状が、回転対称性を有しない形状である前記吐出口を少なくとも1つ有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記回転対称性を有しない断面形状が、円に突出部を設けた形状であって、
該突出部は、前記円の中心点から該突出部までの距離が前記円の半径よりも長くなるように、突出部を円の外側に設けた形状であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記突出部の形状が、前記円の中心を通る直線により分けられた同じ半円の円周上にある2点を繋ぐ線で表されることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記エネルギー発生素子が、発熱素子または振動エネルギー発生素子である請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記吐出口はメニスカスが張られた凹部の底辺部に設けられ、該吐出口は前記液体中に位置していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの請求項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの請求項に記載の液体吐出ヘッドを有することを特徴とする液体吐出ヘッド装置。
【請求項7】
吐出口の液滴吐出方向が、該吐出口が配置された液体吐出ヘッドに隣接する液体吐出ヘッド上の吐出口の液滴吐出方向と接触しないように、吐出口の液滴吐出方向を調整したことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド装置。
【請求項8】
肺吸入に用いられる薬剤を含む液体を吐出するための請求項6又は7に記載の液体吐出ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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