説明

回転工具

【課題】 工具本体の振動低減を図りつつ、使用性を向上できる手持式の回転工具を提供する。
【解決手段】 回転工具は、工具本体103と、工具本体に設けられた駆動軸112と、先端工具125が取付けられる被動軸121と、駆動軸112と被動軸121との間に介在され、駆動軸112の回転を被動軸121に伝達するオルダム継手123と、被動軸121と工具本体103との間に介在された弾性体141と、を有する。被動軸121は、当該被動軸121の長軸方向については、工具本体103に対する相対移動が規制され、当該被動軸121の長軸方向と交差する方向については、工具本体103に対する相対移動が許容されるとともに、当該相対移動時にオルダム継手123を介して駆動軸112からの動力伝達が維持される構成とし、被動軸121の工具本体103に対する相対移動は、弾性体141によって緩衝される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端工具の回転駆動時に生ずる工具本体の振動を低減することができる手持式の回転工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特開昭62−74564号公報(特許文献1)は、手持ち動力工具としてのディスクグラインダの防振装置を開示している。公報記載の防振装置は、先端工具としての砥石の駆動機構を収容するギアハウジング部と、砥石駆動用のモータを収容するとともに、作業者が把持するグリップを備えたモータハウジング部とを弾性体により結合し、砥石の駆動時にギアハウジング部に発生した振動がモータハウジング部を経てグリップに伝達することを弾性体によって低減する構成である。
【0003】
上記の防振装置は、モータハウジング部がギアハウジング部に対し弾性体によって全方向への相対移動が許容される構成である。このため、加工作業時において、グリップとギアハウジング部(砥石)との相対変位が全方向に不規則に生じ、使い勝手が悪いものとなり、この点で更なる改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−74564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、工具本体の振動低減を図りつつ、使用性を向上できる手持式の回転工具を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明の回転工具の好ましい形態によれば、工具本体と、工具本体に設けられた駆動軸と、先端工具が取付けられる被動軸と、駆動軸と被動軸との間に介在され、駆動軸の回転を被動軸に伝達するオルダム継手と、被動軸と工具本体との間に介在された弾性体と、を有する。本発明における「回転工具」とは、典型的には、先端工具としての砥石を回転駆動することにより被加工材に研削・研磨作業を遂行するグラインダがこれに該当する。
本発明の好ましい形態によれば、被動軸は、当該被動軸の長軸方向については、工具本体に対する相対移動が規制され、当該被動軸の長軸方向と交差する方向については、工具本体に対する相対移動が許容されるとともに、当該相対移動時にオルダム継手を介して駆動軸からの動力伝達が維持される構成としている。また、被動軸の工具本体に対する相対移動は、弾性体によって緩衝される構成とした。
【0007】
先端工具の回転駆動時に生ずる主たる振動は、当該先端工具の回転軸と交差する方向であり、回転軸方向には殆ど生じないか、生じても小さい。本発明によれば、先端工具が取付けられる被動軸につき、工具本体に対し長軸方向と交差する方向についてのみ相対移動することを許容し、当該方向の相対移動を弾性体により緩衝する構成としている。これにより、先端工具の駆動時に生ずる主たる振動である、被動軸の軸方向と交差する方向の振動が工具本体に伝達することを低減できる。また、被動軸の工具本体に対する相対移動方向が一方向に限られているため、加工作業時において被動軸と工具本体との不規則な相対移動が回避される。このため、工具本体ないし工具本体に形成された、あるいは連接されたグリップ部を把持して加工作業を行う際の使用性を向上することができる。
特に本発明では、被動軸と工具本体との間に弾性体を介在する構成としたことにより振動発生側である被動軸に対する工具本体側の質量比を大きく取ることが可能となり、振動低減効果を向上できる。また、駆動軸と被動軸とをオルダム継手によって接続したので、被動軸の長軸方向と交差する方向への相対移動に拘わらず、駆動軸の回転を被動軸に円滑に伝達することができる。
【0008】
本発明の更なる形態によれば、被動軸と同方向に延在されるとともに、工具本体に対して回転方向以外の方向の相対移動が規制された状態で取付けられ、駆動軸の回転をオルダム継手を介して被動軸に伝達する中間軸と、駆動軸の回転を減速して中間軸に伝達する減速部と、を更に有する。なお、本発明における「減速部」は、典型的には、駆動軸によって回転される駆動ギアと、当該駆動ギアに噛み合い係合され、中間軸に回転を伝達する被動ギアとによって構成される。
本発明によれば、減速後の中間軸と被動軸の間にオルダム継手が配置される構成となるため、オルダム継手が減速された速度で駆動されることになり、減速前の高速駆動に比べて耐久性を向上する上で有効となる。
【0009】
本発明の更なる形態によれば、被動軸と駆動軸は、互いの長軸が交差して配置された構成とされる。
本発明によれば、上記構成としたことにより、工具本体の長軸方向先端領域に、先端工具が、当該先端工具の回転軸の方向が工具本体の長軸方向と直交するように配置された構成のアングル型回転工具を提供することができる。
【0010】
本発明の更なる形態によれば、被動軸と駆動軸は、互いの長軸が交差して配置されており、減速部の駆動軸から中間軸への回転伝達領域が、駆動軸の長軸を挟んで被動軸の反対側に配置されている。なお「回転伝達領域」とは、減速部が駆動ギアと被動ギアによって構成される場合であれば、両ギアの噛み合い係合領域がこれに該当する。
本発明によれば、上記のような構成としたことで、回転伝達領域を駆動軸の長軸を挟んで被動軸側に設定した場合に比べて、駆動軸の回転軸線から先端工具までの距離が長くならないように抑えることができる。
【0011】
本発明の更なる形態によれば、弾性体は、被動軸周りの全周にわたって円環状に配置されている。
本発明によれば、上記の構成としたことにより被動軸の外周面と工具本体との間の隙間を弾性体によって密封し、加工作業によって発生した粉塵等が工具本体内部へ侵入することを防止できる。すなわち、弾性体を振動緩衝用のみならず、シール部材として機能させることができる。
【0012】
本発明の更なる形態によれば、先端工具が砥石である。本発明によれば、先端工具の回転駆動時に生ずる工具本体の振動を低減するとともに、使用性の良いグラインダを提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工具本体の振動低減を図りつつ、使用性を向上する上で有効な手持式の回転工具が提供されることとなった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る電動ディスクグラインダの全体構成を示す断面図である。
【図2】同じく電動ディスクグラインダの全体構成を示す断面図であり、図1とはオルダム継手の断面箇所が相違する。
【図3】要部の構成を示す拡大断面図である。
【図4】第2の実施形態に係るグラインダの構成を示す断面図である。
【図5】要部の構成を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施形態につき、図1〜図3を参照しつつ詳細に説明する。本実施の形態は、手持式の回転工具の一例として電動ディスクグラインダを用いて説明する。電動ディスクグラインダ101(以下、ディスクグラインダという)は、概括的に見て、ディスクグラインダ101の外郭を形成する本体部103と、本体部103の先端領域に配置される円板状の砥石125とを主体として構成される。本体部103は、モータハウジング105およびギアハウジング107を主体として構成される。本体部103は、本発明における「工具本体」に対応し、砥石125は、本発明における「先端工具」に対応する。なお、説明の便宜上、本体部103の長軸方向につき、砥石125側を前、その反対側を後という。
【0016】
図1および図2にはディスクグラインダ101の内部構造が示される。図1および図2に示すように、モータハウジング105は概ね円筒形状に形成され、当該モータハウジング105の内部空間には駆動モータ111が収容されている。本実施形態の駆動モータ111は、電源コードを用いて電源(コンセント)から供給される電力によって駆動される構成とされ、その回転軸線方向がディスクグラインダ101の長軸方向、すなわち本体部103の長軸方向と並行に配置されている。また、モータハウジング105の後端部(図示右側)には、略円筒状のリヤカバー109が接合されている。モータハウジング105およびリヤカバー109は、その長軸方向が本体部103の長軸方向となるように設けられ、モータハウジング105の外面とリヤカバー109の外面により作業者が把持するメインハンドルとしてのグリップ部が構成されている。
【0017】
モータハウジング105の前端部に接合されるギアハウジング107内には、駆動モータ111の回転出力を砥石125に伝達する動力伝達機構113が収容されている。動力伝達機構113は、モータ軸112の先端部に設けられ、垂直面内で回転駆動される駆動側ギアとしての小ベベルギア115、小ベベルギア115と噛み合い係合され、水平面内で回転駆動される被動側ギアとしての大ベベルギア117、大ベベルギア117と一体に回転する中間軸119、砥石125が取付けられるスピンドル121、および中間軸119の回転をスピンドル121に伝達するオルダム継手123を主体として構成される。
【0018】
中間軸119、オルダム継手123およびスピンドル121は、本体部103の長軸方向に対して概ね直交状に配置され、これにより砥石125の回転軸方向が本体部103の長軸方向に対して交差状に配置されたアングル型のディスクグラインダ101が構成されている。駆動モータ111のモータ軸112が、本発明における「駆動軸」に対応し、スピンドル121が、本発明における「被動軸」に対応し、中間軸119が、本発明における「中間軸」に対応し、さらにオルダム継手123が、本発明における「オルダム継手」に対応する。
【0019】
上下方向に延在するスピンドル121は、延在方向(軸方向)の一端(下端)がギアハウジング107の下面から外部に所定長さで突出されるとともに、当該突出端部が砥石125を取付ける砥石取付部121aとして設定されている。砥石125は、対向状に配置されるインナ側とアウタ側の2つのフランジ部材127a,127bからなるツールホルダ127によって砥石取付部121aに着脱自在に取付けられ、スピンドル121と一体に回転される。
【0020】
図3に示すように、ギアハウジング107は、上下方向において3分割された上ハウジング部107Aと、中間ハウジング部107Bと、下ハウジング部107Cとからり、中間ハウジング部107Bを中央にして当該中間ハウジング部107Bに対し上ハウジング部107Aと下ハウジング部107Cが止着ネジ(便宜上図示を省略する)等の止着手段により接合されている。また、ギアハウジング107は、中間ハウジング部107Bの後端部がモータハウジング105の前端部に対して止着ネジ(便宜上図示を省略する)等の止着手段により接合されることで当該モータハウジング105に組み付けられている。
【0021】
中間軸119は、上ハウジング部107Aに軸受(ボールべアリング)131を介して回転自在に支持されるとともに、回転方向以外の方向については相対移動が規制されている。中間軸119の下端部には大ベベルギア117が一体回転可能に固定されている。小ベベルギア115と噛み合い係合する大ベベルギア117は、所定の減速比で減速されて回転駆動される。小ベベルギア115と大ベベルギア117との噛み合い係合箇所が、本発明における「減速部」に対応する。
【0022】
スピンドル121は、軸受カバー133に収容保持された軸受(ボールベアリング)135によって回転自在に支持されている。軸受カバー133は、軸方向の一端(上端)に外側へと張出す円形のフランジ部134を有する略円筒状部材であり、フランジ部134がギアハウジング107の中間ハウジング部107Bと下ハウジング部107Cとによって上下方向に挟持状に支持されている。すなわち、中間ハウジング部107Bの内側下端部と下ハウジング部107Cの内側上端部がそれぞれカバー支持部107b,107cとして設定され、当該中間ハウジング部側カバー支持部107bの下面とフランジ部134の上面との間、および下ハウジング部側カバー支持部107cの上面とフランジ部134の下面との間には、それぞれワッシャー136,137が配置されている。ワッシャー136,137は、滑り易さを得る部材として備えられており、これにより軸受カバー133は、ギアハウジング107に対して軸方向(上下方向)には相対移動が規制された状態において、軸方向と交差する方向(径方向)には相対移動が許容されている。
【0023】
そして、上記の相対移動を許容するために、フランジ部134を含む軸受カバー133の外周面と、下ハウジング部107Cの内面との間には、軸方向と交差する方向(径方向)について所定の隙間が設定されている。なお、下ハウジング部側のカバー支持部107cの上面とワッシャー137との間には、ゴムリング139が弾発状に介在され、これにより軸方向に関する製作上のあるいは組付け上の誤差が吸収される構成とされる。
【0024】
軸受カバー133の外面と下ハウジング部107Cの内面との間には、緩衝部材としてのOリング141が配置され、当該Oリング141によって下ハウジング部107Cに対する軸受カバー133の相対移動が緩衝されるよう構成されている。すなわち、スピンドル121は、ギアハウジング107に対して径方向について弾性支持されている。Oリング141は、本発明における「弾性体」に対応する。なお、Oリング141は、軸受カバー133の外周面に形成された断面コ形の環状溝133aに嵌合されている。
【0025】
オルダム継手123は、中間軸119の軸下端部に一体に形成された円板状の駆動部材143と、スピンドル121の上端部に圧入されて一体に回転される円筒状の被動部材145と、両部材143,145間に配置された円板状の中間部材147とを主体として構成されている。中間部材147の一方の軸端面には軸中心を通って径方向に延在する第1キー147aが形成され、他方の軸端面には軸中心を通って第1キー147aと直交状に延在する第2キー147bが形成されている。そして、第1キー147aが駆動部材143の軸端面(円板端面)に形成されたキー溝143aに摺動自在に係合され、第2キー147bが被動部材145の軸端面(円筒端面)に形成されたキー溝145aに摺動自在に係合されている。これにより、中間軸119の回転軸とスピンドル121の回転軸が径方向にずれた状態での当該中間軸119からスピンドル121への回転力伝達を支障なく行うことが可能とされる。
【0026】
本実施の形態に係るディスクグラインダ101は上記のように構成されている。従って、作業者はグリップ部を手で握り、グリップ部に取り付けられた電源スイッチを操作可能なスイッチノブ110を操作して駆動モータ111を通電駆動することにより、動力伝達機構113を介して砥石125を回転駆動し、被加工材の研削や研磨作業あるいは切断作業等の加工作業を行うことができる。
【0027】
上記の加工作業時において、砥石125の駆動ないし砥石125による被加工材に対する加工作業によってスピンドル121に振動が発生した場合、当該振動がギアハウジング107を経てモータハウジング105側に伝達することをOリング141によって低減することができる。すなわち、加工作業時には、スピンドル121に主として長軸方向と交差する方向(径方向)の振動が発生するが、本実施の形態によれば、スピンドル121につき、ギアハウジング107に対し径方向への相対移動を許容した状態で取付けるとともにOリング141によって弾性支持する構成としたので、当該径方向の振動をOリング141で緩衝し、ギアハウジング107への振動伝達を低減することができる。
【0028】
特に本実施の形態においては、ギアハウジング107に対して、動力伝達機構113のうちの最終出力軸としてのスピンドル121、詳しくはスピンドル121を回転自在に支持する軸受135の軸受カバー133が、Oリング141を介して弾性支持された構成としている。このことにより振動側のスピンドル121、軸受135および軸受カバー133に対する非振動側の本体部103側の質量比を大きくすることが可能となり、振動低減効果を向上することができる。
【0029】
また、スピンドル121のギアハウジング107(本体部103)に対する相対移動方向が一方向(径方向)に限られているため、加工作業時においてスピンドル121と本体部103との不規則な相対移動が回避される。このため、本体部103に形成されたグリップ部(モータハウジング105およびリヤカバー109の外面領域)を把持して加工作業を行う際の使用性(使い勝手)を向上することができる。また、中間軸119とスピンドル121とをオルダム継手123によって連結したので、スピンドル121のギアハウジング107に対する径方向への相対移動を許容しつつ、中間軸119の回転力をスピンドル121に円滑に伝達することができる。
【0030】
また、本実施の形態では、オルダム継手123が減速後の動力伝達経路に配置されているため、オルダム継手123が減速された速度で駆動される。すなわち、当該オルダム継手123の摺動部(キー溝143a,145aとキー147a,147b間の摺動動作が減速状態での摺動動作となり、耐久性を向上する上で有効となる。
【0031】
また、本実施の形態では、モータ軸112の回転力を中間軸119に減速して伝達するための小ベベルギア115と大ベベルギア117との噛み合い係合箇所が、モータ軸112の長軸線を挟んでスピンドル121と反対側(上側)に配置されている。例えば、噛み合い係合箇所をモータ軸112の長軸線を挟んでスピンドル121側(下側)に配置する構成にすると、駆動モータ111の回転軸線から砥石119までの距離が長くなってしまうが、本実施の形態によれば、上記構成としたことにより駆動モータ111の回転軸線から砥石119までの距離が長くなることを抑えることができる。上記の噛み合い係合箇所が、本発明における「回転伝達領域」に対応する。
【0032】
また、本実施の形態では、スピンドル121を弾性支持する弾性体につき、Oリング141によって構成し、周方向の全域についてギアハウジング107の内周面と軸受カバー133の外周面との間の隙間を封鎖している。このため、Oリング141は、加工作業で発生した粉塵等がギアハウジン107の内部空間へ侵入することを防止するシール部材として機能する。
【0033】
(本発明の第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態につき、図4および図5を参照しつつ説明する。この実施形態は、図4に示すように、駆動モータ211の回転軸と砥石225の回転軸が直線状に配置される構成のグラインダ201を対象としたものであり、第1の実施形態と同様、本体部203が、駆動モータ211を収容するモータハウジング205、当該モータハウジング205の前端部に接合されるとともに、スピンドル221およびオルダム継手223を収容するギアハウジング207、およびモータハウジング205の後端部に接合されたリヤカバー209によって構成される。モータハウジング205の外面およびリヤカバー209の外面によって作業者が握るグリップ部が構成されている。本体部203は、本発明における「工具本体」に対応する。
【0034】
駆動モータ211のモータ軸212とスピンドル221がオルダム継手223を介して直線的に連結され、駆動モータ211の回転出力が減速されずにスピンドル221に伝達される構成とされる。モータ軸212が、本発明における「駆動軸」に対応し、スピンドル221が、本発明における「被動軸」に対応し、オルダム継手223が、本発明における「オルダム継手」に対応する。
【0035】
図5に示すように、オルダム継手223は、駆動モータ211の回転出力をスピンドル221に伝達する動力伝達部材として備えられ、モータ軸212の先端領域にスプライン嵌合された駆動部材243と、スピンドル221の後端領域にスプライン嵌合された被動部材245と、両部材243,245間に配置された中間部材247とを有する。中間部材247の一方の軸端面には軸中心を通って径方向に延在する第1キー247aが形成され、他方の軸端面には軸中心を通って第1キー247aと直交状に延在する第2キー247bが形成されている。そして、第1キー247aが駆動部材243の軸端面(円板端面)に形成されたキー溝243aに摺動自在に係合され、第2キー247bが被動部材245の軸端面(円筒端面)に形成されたキー溝245aに摺動自在に係合されている。これにより、モータ軸212の回転軸とスピンドル221の回転軸が径方向にずれた状態での当該モータ軸212からスピンドル221への回転力の伝達を円滑に行うことが可能とされる。
【0036】
スピンドル221は、前後の軸受(ボールベアリング)235によって長軸方向の2箇所を回転自在に支持されるとともに、その軸方向の一端(前端)がギアハウジング207の先端から前方へと所定長さで突出され、当該突出端部に略円錐形状の砥石225がツールホルダ227を介して着脱自在に取付けられる。砥石225は、本発明における「先端工具」に対応する。
【0037】
前後の軸受235を収容する軸受カバー233は、軸方向の一端(後端部)に外径方向に張出すフランジ部234を有する略円筒形の筒状部材として構成される。ギアハウジング207は、略円筒状の前ハウジング部207Aと、当該前ハウジング部207Aに接合された略円環状の後ハウジング部207Bとからなり、当該前後のハウジング部207A,207Bの接合領域において、軸受カバー233のフランジ部234を前後方向に挟持状に支持する。すなわち、前ハウジング部207Aの内側後端部と後ハウジング部207Bの内側前端部がそれぞれカバー支持部207a,207bとして設定され、当該前ハウジング部側カバー支持部207aの後面とフランジ部234の前面との間、および後ハウジング部側カバー支持部207bの前面とフランジ部234の後面との間には、それぞれワッシャー236,237が配置されている。ワッシャー236,237は、滑り易さを得る部材として備えられており、これにより軸受カバー233は、ギアハウジング207に対して軸方向(図示左右方向)には相対移動が規制された状態において、軸方向と交差する方向(径方向)には相対移動が許容されている。
【0038】
そして、上記の相対移動を許容するために、フランジ部234を含む軸受カバー233の外周面と、前ハウジング部207Aの内面との間には、軸方向と交差する方向(径方向)について所定の隙間が設定されている。なお、前ハウジング部側のカバー支持部207aの上面とワッシャー236との間には、ゴムリング239が弾発状に介在され、これにより軸方向に関する製作上のあるいは組付け上の誤差が吸収される構成とされる。
【0039】
軸受カバー233の外面と前ハウジング部207Aの内面との間には、弾性部材としての複数(前後2個)のOリング241が配置され、当該Oリング241によって前ハウジング部207Aに対する軸受カバー233の相対移動が緩衝されるよう構成されている。すなわち、スピンドル221は、ギアハウジング207に対して径方向について弾性支持されている。Oリング241は、本発明における「弾性体」に対応する。なお、Oリング241は、軸受カバー233の外周面に形成された断面コ形の環状溝233aに嵌合されている。
【0040】
本実施の形態に係るグラインダは、上記のように構成されている。従って、作業者がグリップ部を手で握り、グリップ部に取り付けられた電源スイッチを操作可能なスイッチノブ210を操作して駆動モータ211を通電駆動することにより、モータ軸212からオルダム継手223を介してスピンドル221と共に砥石125を回転駆動し、被加工材の研削や研磨作業あるいは切断作業等の加工作業を行うことができる。
【0041】
上記の加工作業時において、スピンドル221には長軸方向と交差する方向(径方向)の振動が発生するが、本実施の形態によれば、スピンドル221につき、ギアハウジング207に対し径方向への相対移動を許容する状態で取付けるとともに、Oリング241によって弾性支持する構成としたので、当該径方向の振動をOリング241で緩衝し、ギアハウジング207への振動伝達を低減することができる。この場合、本実施の形態では、第1の実施形態の場合と同様、スピンドル221を回転自在に支持する軸受235の軸受カバー233をギアハウジング207に対しOリング241を介して弾性支持する構成としている。このため、振動側のスピンドル221、軸受235および軸受カバー233に対して非振動側の本体部203側の質量比を大きくすることが可能となり、振動低減効果を向上することができる。
【0042】
また、スピンドル221のギアハウジング207(本体部203)に対する相対移動方向が一方向(径方向)に限られているため、加工作業時においてスピンドル221と本体部203との不規則な相対移動が回避される。このため、本体部203に形成されたグリップ部(モータハウジング205およびリヤカバー209の外面領域)を把持して加工作業を行う際の使用性(使い勝手)を向上することができる。また、モータ軸212とスピンドル221とをオルダム継手223によって連結したので、スピンドル221のギアハウジング207に対する径方向への相対移動を許容しつつ、モータ軸212の回転力をスピンドル221に円滑に伝達することができる。
【0043】
また、本実施の形態では、スピンドル221を弾性支持する弾性体につき、Oリング241によって構成し、周方向の全域についてギアハウジング207の内周面と軸受カバー233の外周面との間の隙間を封鎖している。このため、Oリング241は、加工作業で発生した粉塵等がギアハウジン207の内部空間へ侵入することを防止するシール部材として機能する。
【0044】
なお、便宜上図示を省略するが、スピンドル121,221を弾性支持する弾性体の変形例として、Oリング141,241に変えて複数の弾性球体または弾性柱状体を用いることも可能である。すなわち、変形例では、軸受カバー133,233の外周面と、ギアハウジング107,207の内周面との間に、弾性球体または弾性柱状体を周方向に複数所定の間隔で配置し、スピンドル121,221の回転軸が中間軸119またはモータ軸212と同軸上に置かれるように軸受カバー133,233を中心に向かって付勢するように構成される。これにより常時には、スピンドル221の中間軸119またはモータ軸212に対する同軸配置が維持される。
【0045】
上記発明の趣旨に鑑み、下記のごとき態様が構成可能である。
(態様1)
「工具本体と、
前記工具本体に設けられた駆動軸と、
先端工具が取付けられる被動軸と、
前記駆動軸と前記被動軸との間に介在され、前記駆動軸の回転を前記被動軸に伝達するオルダム継手と、
前記被動軸と前記工具本体との間に介在された弾性体と、を有し、
前記被動軸は、当該被動軸の長軸方向については、前記工具本体に対する相対移動が規制され、当該被動軸の長軸方向と交差する方向については、前記工具本体に対する相対移動が許容されるとともに、当該相対移動時に前記オルダム継手を介して前記駆動軸からの動力伝達が維持される構成とし、
前記被動軸の前記工具本体に対する相対移動は、前記弾性体によって緩衝され、これにより前記被動軸の軸方向と交差する方向の振動が前記工具本体に伝達することを低減することを特徴とする回転工具。」
【0046】
(態様2)
「請求項1〜4または態様1のいずれかに記載の回転工具であって、
前記弾性体は、前記被動軸の周方向について所定の間隔で複数配置されていることを特徴とする回転工具。」
【0047】
(態様3)
「請求項1〜4または態様1〜2のいずれかに記載の回転工具であって、
前記被動軸を回転自在に支持する軸受と、当該軸受を収容する軸受カバーとを有し、
前記軸受カバーが前記工具本体に対して前記弾性体により弾性支持されていることを特徴とする回転工具。」
【0048】
(態様4)
「請求項5に記載の回転工具であって、
前記円環状に配置された弾性体は、Oリングによって構成されていることを特徴とする回転工具。」
【0049】
(態様5)
「請求項1又は2に記載の回転工具であって、
前記被動軸と前記駆動軸は、互いの長軸が同軸上に配置されるとともに、前記オルダム継手を介して連結されていることを特徴とする回転工具。」
【符号の説明】
【0050】
101 電動ディスクグラインダ(回転工具)
103 本体部(工具本体)
105 モータハウジング
107 ギアハウジング
107A 上ハウジング部
107B 中間ハウジング部
107C 下ハウジング部
107b,107c カバー支持部
109 リヤカバー
110 スイッチノブ
111 駆動モータ(モータ)
112 モータ軸(駆動軸)
113 動力伝達機構
115 小ベベルギア
117 大ベベルギア
119 中間軸
121 スピンドル(被動軸)
121a 砥石取付軸
123 オルダム継手
125 砥石(先端工具)
127 ツールホルダ
127a,127b フランジ部材
131 軸受
133 軸受カバー
133a 環状溝
134 フランジ部
135 軸受
136,137 ワッシャー
139 ゴムリング
141 Oリング(弾性体)
143 駆動部材
143a キー溝
145 被動部材
145a キー溝
147 中間部材
147a 第1キー
147b 第2キー
201 グラインダ(回転工具)
203 本体部(工具本体)
205 モータハウジング
207 ギアハウジング
207A 前ハウジング部
207B 後ハウジング部
207a,207b カバー支持部
209 リヤカバー
210 スイッチノブ
211 駆動モータ(モータ)
212 モータ軸(駆動軸)
221 スピンドル(被動軸)
223 オルダム継手
225 砥石(先端工具)
227 ツールホルダ
233 軸受カバー
233a 環状溝
234 フランジ部
235 軸受
236,137 ワッシャー
239 ゴムリング
241 Oリング(弾性体)
243 駆動部材
243a キー溝
245 被動部材
245a キー溝
247 中間部材
247a 第1キー
247b 第2キー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体と、
前記工具本体に設けられた駆動軸と、
先端工具が取付けられる被動軸と、
前記駆動軸と前記被動軸との間に介在され、前記駆動軸の回転を前記被動軸に伝達するオルダム継手と、
前記被動軸と前記工具本体との間に介在された弾性体と、を有し、
前記被動軸は、当該被動軸の長軸方向については、前記工具本体に対する相対移動が規制され、当該被動軸の長軸方向と交差する方向については、前記工具本体に対する相対移動が許容されるとともに、当該相対移動時に前記オルダム継手を介して前記駆動軸からの動力伝達が維持される構成とし、
前記被動軸の前記工具本体に対する相対移動は、前記弾性体によって緩衝される構成としたことを特徴とする回転工具。
【請求項2】
請求項1に記載の回転工具において、
前記被動軸と同方向に延在されるとともに、前記工具本体に対して回転方向以外の方向の相対移動が規制された状態で取付けられ、前記駆動軸の回転を前記オルダム継手を介して前記被動軸に伝達する中間軸と、
前記駆動軸の回転を減速して前記中間軸に伝達する減速部と、
を更に有することを特徴とする回転工具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転工具であって、
前記被動軸と前記駆動軸は、互いの長軸が交差して配置されていることを特徴とする回転工具。
【請求項4】
請求項2に記載の回転工具であって、
前記被動軸と前記駆動軸は、互いの長軸が交差して配置されており、
前記減速部の前記駆動軸から前記中間軸への回転伝達領域が、前記駆動軸の長軸を挟んで前記被動軸の反対側に配置されていることを特徴とする回転工具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の回転工具であって、
前記弾性体は、前記被動軸周りの全周にわたって円環状に配置されていることを特徴とする回転工具。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の回転工具であって、
前記先端工具が砥石であることを特徴とする回転工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−106302(P2012−106302A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256052(P2010−256052)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】