説明

回転機器の診断方法

【課題】回転機器の運転時における振動データに基づき、回転機器の異常を確実かつ早期に発見することができる回転機器の診断方法を提供すること。
【解決手段】回転機器の無負荷運転時および負荷運転時において発生する振動データを経時的に測定し、無負荷運転時または負荷運転時における該振動データの少なくともいずれか一方が所定の閾値を超えた時に異常と判断するようにした。特に歯車および軸受を備える回転機器については、無負荷運転時における振動データが所定の閾値を超えた時には前記軸受の異常と判断し、負荷運転時における振動データが所定の閾値を超えた時には歯車の異常と判断するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機器(軸受、歯車、モータ等の単体、もしくはこれらの組合せからなる装置をいう。)の診断方法に関し、更に詳しくは、回転機器の異常を、運転中に発生する回転機器の振動データから判断する回転機器の診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転機器に異常が生じると、回転機器が運転中に発する振動に変化が現れる場合が多い。この特性を利用し、回転機器の発する振動データ(回転機器の振動の状態を評価するための指標となるデータをいう。具体的には、振動によって生ずる回転機器の変位、速度、加速度をいう。)を経時的に測定し、回転機器の異常の有無を診断(監視)する手法が用いられている(一般的には、「振動法」と呼ばれる。)。なお、このような手法が記載された文献としては、下記特許文献1が挙げられる。
【0003】
この診断方法において、加速度等の振動データの測定は、回転機器を負荷状態で運転させている場合、あるいは回転機器を無負荷状態で運転させている場合のいずれかで行う。
【0004】
【特許文献1】特開2001−124665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような回転機器の振動データに基づく診断方法は、回転機器を無負荷状態で運転させている場合、および負荷状態で運転させている場合のいずれの場合であっても、回転機器の異常原因(異常個所、異常内容等)によっては、その異常が測定している振動データの変化として現れず、回転機器の異常を見逃してしまうおそれがある。
【0006】
さらに、振動データの測定を回転機器の負荷運転時に行った場合には、回転機器が発する振動データには、ノイズが多く発生してしまう。そのため、回転機器の以上により生ずる振動データの変化が小さい場合には、その変化に気付かず、回転機器の異常を見逃してしまうおそれがある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、回転機器の運転時における振動データに基づき、回転機器の異常を確実かつ早期に発見することができる回転機器の診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る回転機器の診断方法は、回転機器の無負荷運転時および負荷運転時において発生する振動データを経時的に測定し、無負荷運転時または負荷運転時における該振動データの少なくともいずれか一方が所定の閾値を超えた時に異常と判断するようにしたことを要旨とするものである。
【0009】
また、前記回転機器が軸受および歯車を備えている場合において、無負荷運転時における前記振動データが前記所定の閾値を超えた時には前記軸受の異常と判断し、負荷運転時における前記振動データが前記所定の閾値を超えた時には前記歯車の異常と判断するようにすればよい。
【0010】
さらに、前記所定の閾値は、前記回転機器の新品時あるいはオーバーホール直後の前記無負荷運転時および負荷運転時における振動データに基づき設定することが望ましい。
【0011】
また、上記に記載される診断方法によって前記回転機器を異常と判断した後、無負荷運転時および負荷運転時における前記振動データを周波数解析することで、前記回転機器に発生した異常個所を検出するようにすればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る回転機器の診断方法よれば、回転機器の異常を、回転機器の無負荷運転時および負荷運転時における振動データの変化で判断するようにしたため、回転機器に異常が生じた際、一方の振動データに変化が生じなかった場合であっても、他方の振動データの変化により回転機器の異常を発見することができる。したがって、回転機器の異常を確実かつ早期に発見することができ、回転機器の寿命向上、回転機器の保全作業の迅速化等に大きく寄与する。
【0013】
また、上記回転機器が軸受および歯車を備えた機器(例えば、シャフトを介して軸受に支持された歯車(ギヤヘッド)を備えたモータ)である場合、振動データの異常が、無負荷運転時において発生したか、あるいは負荷運転時において発生したかによって、回転機器の異常が軸受に生じているのか、あるいは歯車に生じているのかを容易に判別することができる。つまり、回転機器の故障部品を早期に発見することが可能となり、回転機器の保全作業や、故障状態からの復旧作業を迅速に行うことができる。
【0014】
また、振動データが異常値であると判定する閾値を、回転機器の新品時あるいはオーバーホール直後における振動データに基づき設定すれば、誤った診断の発生を低減することができる。
【0015】
さらに、上記に記載される診断方法によって前記回転機器を異常と判断した後、無負荷運転時および負荷運転時における振動データを周波数解析すれば、回転機器に発生した異常個所を迅速かつ的確に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る回転機器の診断方法ついて詳細に説明する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る回転機器の診断方法(以下、本診断方法ということがある。)は、いわゆる振動法と呼ばれる回転機器の診断方法に基づくものであり、回転機器の無負荷運転時および負荷運転時において発生する振動データにより、回転機器における異常の有無を判断するものである。
【0018】
回転機器は、軸受、歯車、モータ等の単体、もしくはこれらの組合せからなる装置をいう。以下、図1に示すような圧延機10を診断対象機器として、本実施形態に係る回転機器の診断方法を説明する。
【0019】
圧延機10は、モータ12の回転動力がローラ16a,16bに伝達されるように構成される。具体的には、モータ12の動力は、所定の減速比で配置された歯車(平歯車)12a〜12dを介して、ローラ16a,16bに伝達される。これらの歯車12a〜12dは、シャフト13a〜13cに固定されて、軸受(ラジアル玉軸受)14a〜14fに回転可能に支持されている。
【0020】
圧延機10の振動データ(本実施形態では、振動データとして、(振動)加速度を測定する。)は、各軸受14a〜14fに設けられた加速時計20a〜20fにより経時的に測定する。加速時計は、公知の圧電型加速時計が好適に適用できる。圧電型加速時計は、加速度に比例した力を受けた圧電素子が、その力に比例する電圧を生じさせることを利用して、被測定物の振動加速度を測定する加速時計である。
【0021】
本診断方法は、この加速時計20を利用して測定された振動加速度が、所定の閾値を超えた場合に、診断対象機器である圧延機10が異常であると判断するようにしている。
【0022】
ここで、本診断方法おいて、加速度の測定は、圧延機10の無負荷運転時、すなわちローラ16a,16bによってワークが圧延加工されていない状態、および負荷運転時、すなわちローラ16a,16bによってワークが圧延加工されている状態において行う。そして、無負荷運転時、または負荷運転時の少なくとも一方の振動加速度の値が、上記所定の閾値を超えた場合には、圧延機10の異常と判断する。
【0023】
なお、所定の閾値は、診断対象機器の新品時、もしくはオーバーホール時における振動データに基づき設定する。好適な例として、診断対象機器の新品時における振動データを無負荷運転時および負荷運転時において測定し、その平均値の3〜5倍をそれぞれの閾値として設定することが挙げられる。
【0024】
このように、本診断方法において、診断対象機器の無負荷運転時のみならず、負荷運転時において振動データを測定するのは、診断対象機器に発生する異常によっては、振動データ(振動加速度)に大きな変化が生じない場合があるからである。
【0025】
例えば、本実施形態の対象診断機器である圧延機10のように、歯車12a〜12dを備えている回転機器を測定する場合、無負荷運転時において歯合している歯車の歯当たり位置と、負荷運転時おいて歯合している歯車の歯当たり位置は異なる。無負荷運転時と負荷運転時における歯車の歯当たり位置の違いを説明するための模式図を図2に示す。図2(a)に示すように、無負荷運転時における歯当たり個所Tが歯の略中央になるように歯車を組み付けた場合であっても、図2(b)に示すように、負荷運転時には、歯車がシャフトを介してワークからの力を受けるため、歯当たり個所Tが広がる。また、歯当たり個所Tの略中央位置からのずれが生ずる。
【0026】
したがって、例えば、図2(a)におけるXの位置に、歯車の「割れ」や「凹み」等の不具合が生じた場合、無負荷運転時には、X位置は歯合している歯車の歯当たり個所Tの範囲外である。しかし、診断対象機器を負荷運転させると、歯合している歯車の歯当たり個所Tが広がり、X位置は歯当たり個所の範囲内となる。
【0027】
つまり、無負荷運転時における振動データ測定の際には、歯車の異常個所が歯当たり個所Tの範囲外であるため、診断対象機器の振動データに変化が見られない可能性がある。一方、負荷運転時には、歯車の異常個所が歯当たり個所Tの範囲内となるため、振動データが上昇し、異常と判断される。このように、本実施形態に係る回転機器の診断方法によれば、無負荷運転状態では発見することができない可能性がある診断対象機器の異常を、負荷運転時における振動データの測定により、確実かつ早期に発見することが可能となる。
【0028】
また、本実施形態の対象診断機器である圧延機10が備える軸受14a〜14fも、無負荷運転時と負荷運転時とでは、その挙動が異なる。無負荷運転時と負荷運転時における軸受の挙動の違いを説明するための模式図を図3に示す。図3(b)に示されるように、負荷運転時には、軸受の内輪30は、ワークから半径方向外側への力をシャフトを介して受ける。そのため、玉32は、内輪30により外輪34側に押しつけられることとなる。
【0029】
したがって、例えば、玉32との接触面である内輪30の外周面や外輪34の内周面に「傷」や「凹み」等の不具合が生じた場合、図3(a)に示される無負荷運転時には、この不具合によるがたつきが原因となり、対象診断機器の振動データが上昇する。一方、負荷運転時には、玉32は、内輪30によって外輪34側に押しつけられているため、玉32と内輪30および外輪34とのがたつきがなくなり、振動データの上昇が見られない場合がある。
【0030】
つまり、無負荷運転時における振動データ測定の際には、軸受のがたつきにより診断対象機器の振動データが閾値を超え、異常と判断される。一方、負荷運転時には、上記理由により振動データに変化が見られない可能性がある。このように、本実施形態に係る回転機器の診断方法によれば、負荷運転状態では発見することができない可能性がある診断対象機器の異常を、無負荷運転時における振動データの測定により、確実かつ早期に発見することが可能となる。
【0031】
以上のように、本診断方法は、回転機器の無負荷運転時、および負荷運転時における振動データを経時的に測定し、両データのうちいずれか一方が所定の閾値を超えた場合に、回転機器の異常と判断するようにしている。そのため、無負荷運転時に振動データが上昇しない異常が回転機器に発生したとしても、負荷運転時における振動データの上昇により、その異常を発見することができる。また、負荷運転時に振動データが上昇しない異常が回転機器に発生したとしても、無負荷運転時における振動データの上昇により、その異常を発見することができる。つまり、従来型の診断方法では見逃す可能性のあった回転機器の異常を迅速に発見することができる。
【0032】
さらに、本実施形態の診断対象である圧延機10のように、歯車や軸受を備える回転機器が診断対象機器であれば、負荷運転時における振動データが閾値を超えた時には歯車に異常が発生している可能性が高く、無負荷運転時における振動データが所定の閾値を超えた時には軸受の異常が発生している可能性が高いという判断ができる。つまり、回転機器の異常個所を早期に発見することが可能である。
【0033】
また、一般的に負荷運転時における振動データの経時変化は、ノイズが大きく、振動データの変化を見逃してしまう恐れがある。しかし、本診断方法では、負荷運転時に加え、無負荷運転時においても振動データを測定しているため、従来型の診断方法、特に負荷運転時における振動データに基づく診断方法の問題点である、「ノイズによる異常の見逃し」の発生が大幅に低減される。
【0034】
なお、さらに具体的な異常個所を特定する場合には、無負荷運転時および負荷運転時における得られた振動データの経時的変化を周波数解析すればよい。周波数解析により、回転機器の異常に伴って生ずる特定周波数値が得られるため、この特定周波数値と各構成部品の固有振動数等を比較することにより、具体的な異常個所が早期に発見できる。
【0035】
また、この周波数解析による手法と、振動データの異常が無負荷運転時に発生したのか、あるいは負荷運転時に発生したのかに基づいて異常個所を特定する上記の手法とを合わせて用いれば、異常個所の特定をさらに迅速に行うことができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、上述のように、軸受14a〜14fのそれぞれに加速時計20a〜20fを設置しているため、これらの加速時計20a〜20fから得られる振動データ値の大きさの違いに基づき、異常個所の特定をさらに迅速に行うことができる。例えば、異常を示す振動データのピーク値が大きい加速度計ほど、異常個所から近いという判断ができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
【0038】
図1に示す構成の圧延機(線材圧延機)の無負荷運転時、および負荷運転時における振動データ(加速度)を、軸受に取り付けた加速時センサにより経時的に測定した。
【0039】
この測定において、加速度の経時的変化が特徴的な傾向を示した結果を図4および図5に示す。なお、これらの図において、横軸は時間軸であり、縦軸は振動データである加速度値を示している。
【0040】
ここで、図4(a)および図5(a)は、無負荷運転時における加速度値の経時変化を示し、図4(b)および図5(b)は、それぞれ、図4(a)と同時間中における負荷運転時の加速度値の経時変化、および図5(a)と同時間中における負荷運転時の加速度値の経時変化を示している。なお、本実施例では、圧延機のオーバーホール時における振動データの平均値に基づき、それぞれの場合における閾値を図示する値に設定し、実測値がこの値を超えた場合には、圧延機が異常であると判断した。
【0041】
図4に示した測定結果は、負荷運転時における加速度値の径時変化(図4(b))には、大きな変化は散見されなかったものの、無負荷運転時における加速度値(図4(a))が大きく上昇し、閾値を超えたデータである。このデータ測定後、圧延機を点検したところ、このデータを測定した加速度センサを固定している軸受の破損を発見した。
【0042】
図5に示した測定結果は、無負荷運転時における加速度値の経時変化(図5(a))はほとんど無く、負荷運転時における加速度値(図5(b))が大きく上昇し、閾値を超えたデータである。このデータ測定後、圧延機を点検したところ、加速度センサを固定している軸受に支持されている歯車の破損を発見した。
【0043】
以上、本診断方法によれば、無負荷運転時または負荷運転時のいずれか一方における振動データの値に変化が現れなくとも、他方の振動データの値が異常値を示すことにより、回転機器の異常を見逃すことなく、確実に発見することができることが分かった。
【0044】
また、本実施例のように、診断対象機器が軸受および歯車を備えており、異常値を示した振動データが無負荷運転時におけるものである場合、軸受に異常が発生している可能性が高いことが分かった。また、異常値を示した振動データが負荷運転時におけるものである場合、歯車に異常が発生している可能性が高いことが分かった。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態では、診断対象機器として圧延機を例として説明したが、その他の回転機器にも適用可能である。特に、上記圧延機と同様に、歯車および軸受を備える回転機器について、好適に適用できる。
【0047】
また、上記実施形態では、回転機器の状態を評価するための指標である振動データとして、加速度を用いて診断することを説明したが、振動法で用いられるその他の指標(変位や速度)を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る回転機器の診断方法を好適に適用することができる圧延機の構成概略図である。
【図2】無負荷運転時における歯車の歯当たり位置(図2(a))と、負荷運転時における歯車の歯当たり位置(図2(b))の違いを説明するための概略図である。
【図3】無負荷運転時における軸受の内輪と外輪の間に固定された玉の状態(図3(a))と、負荷運転時における軸受の内輪と外輪の間に固定された玉の状態(図3(b))の違いを説明するための概略図である。
【図4】図4(a)は無負荷運転時、図4(b)は負荷運転時における圧延機の振動データ(加速度)の経時変化を示したグラフであり、図4(a)の無負荷運転時の振動データが異常値を示した測定結果である。
【図5】図5(a)は無負荷運転時、図5(b)は負荷運転時における圧延機の振動データ(加速度)の経時変化を示したグラフであり、図5(b)の負荷運転時の振動データが異常値を示した測定結果である。
【符号の説明】
【0049】
10 圧延機(回転機器)
12a〜12d 歯車
14a〜14f 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機器の無負荷運転時および負荷運転時において発生する振動データを経時的に測定し、無負荷運転時または負荷運転時における該振動データの少なくともいずれか一方が所定の閾値を超えた時に異常と判断するようにしたことを特徴とする回転機器の診断方法。
【請求項2】
前記回転機器が軸受および歯車を備えている場合において、無負荷運転時における前記振動データが前記所定の閾値を超えた時には前記軸受の異常と判断し、負荷運転時における前記振動データが前記所定の閾値を超えた時には前記歯車の異常と判断するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の回転機器の診断方法。
【請求項3】
前記所定の閾値は、前記回転機器の新品時あるいはオーバーホール直後の前記無負荷運転時および負荷運転時における振動データに基づき設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の回転機器の診断方法。
【請求項4】
請求項1から3いずれかに記載の回転機器の診断方法によって前記回転機器を異常と判断した後、無負荷運転時および負荷運転時における前記振動データを周波数解析することで、前記回転機器に発生した異常個所を検出するようにしたことを特徴とする回転機器の診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−109455(P2009−109455A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284845(P2007−284845)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】