説明

回転機用ロータおよびその製造方法

【課題】ブリッジ部の半径方向の幅を広げ、かつブリッジ部における漏れ磁束を減少させることができる回転機用ロータおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ブリッジ部22の少なくとも一部を加熱溶融してキーホール6を形成し、キーホール6の周囲に非磁性元素81を配置している。これにより、ブリッジ部22の半径方向の幅を広げても、ブリッジ部22を非磁性化することができ、ブリッジ部22における漏れ磁束を減少させ、回転機の高出力化を図ることができる。また、ブリッジ部22の半径方向の幅を広げることで、ブリッジ部22の強度を高めることができ、ロータ2の高速回転時の遠心力によるブリッジ部22の破断を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機に用いられるロータおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型で大出力が得られる回転機として埋込磁石型同期回転機(IPM)がある。このIPMは、強磁性板を積層したロータコアに軸方向に延在する直方体状のスロットが形成され、該スロットに永久磁石が挿入されており、磁石トルクにリラクタンストルクが加わることにより大出力が得られる。しかし、永久磁石の形状が直方体状であるため、ロータコアにおけるロータコアの外周部とスロットの端部との間のブリッジ部において、回転トルクに寄与しない漏れ磁束が発生される。この漏れ磁束を減少させる方法として、ブリッジ部の半径方向の幅を狭めると共に、ブリッジ部と永久磁石との間にエアギャップを設ける方法がある。ところが、狭小幅のブリッジ部では、ロータの高速回転時に遠心力により破断するおそれがある。そこで、漏れ磁束を減少させる別の方法として、ブリッジ部を非磁性化する方法がある。
【0003】
例えば、特開2003−304670号公報(特許文献1)には、強磁性板を積層したロータコアのブリッジ部の外周部に非磁性物質を含有する非磁性塗料を塗布し、非磁性塗料を加熱して拡散浸透させることにより、ブリッジ部を非磁性化したロータが記載されている。また、特開2011−6741号公報(特許文献2)には、1枚の強磁性板のブリッジ部の表面に非磁性物質を含む非磁性化インクを塗布し、非磁性化インクを加熱して溶融合金化させることにより、ブリッジ部を非磁性化し、その後に複数枚の強磁性板を積層したロータが記載されている。また、特開2011−67027号公報(特許文献3)には、2枚の強磁性板のブリッジ部に凹部を形成し、一方の凹部内に非磁性合金を挿入して2枚の強磁性板を凹部同士が対向するように重ね合わせ、強磁性板に対し加圧通電してブリッジ部に非磁性合金層を形成し、その後に複数枚の強磁性板を積層したロータが記載されている。
【0004】
また、スロットに永久磁石を挿入するときに、永久磁石の表面がスロットの内側面に擦れると永久磁石に傷や割れが発生するおそれがある。そこで、特開平9−200982号公報(特許文献4)には、スロットの開口部を永久磁石のスロット挿入面よりも広く形成しておき、スロットに永久磁石を挿入する。そして、スロットの内側面を永久磁石に圧接させるように、スロットより外側の強磁性板の部分を半径方向内側に押圧し、永久磁石をロータコアに固定保持したロータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−304670号公報
【特許文献2】特開2011−6741号公報
【特許文献3】特開2011−67027号公報
【特許文献4】特開平9−200982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の回転機用のロータでは、ブリッジ部の外周部から非磁性塗料を拡散浸透させているため、非磁性塗料が半径方向に浸透し難く、ブリッジ部の半径方向の幅を広くすることが困難である。よって、ブリッジ部がロータの高速回転時に遠心力により破断するおそれがあるという問題がある。また、強磁性板には、複数枚の強磁性板を積層したときに固定するためのカシメ等の固定部を形成する必要がある。この固定部は、形成するときに強磁性板の絶縁被膜が破れて導通するため、導通の影響が少ないブリッジ部に形成したい。しかし、半径方向の幅が狭小のブリッジ部においては、固定部を形成することができないという問題がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載の回転機用のロータでは、ブリッジ部の表面で非磁性物質を溶融合金化しているため、また、特許文献3に記載の回転機用のロータでは、ブリッジ部に形成した凹部に非磁性合金を挿入して非磁性合金層を形成しているため、ブリッジ部の半径方向の幅を広くすることが可能である。しかし、1枚もしくは2枚の強磁性板ごとに非磁性化を行った後に複数枚の強磁性板を積層する必要があるため、非常に手間が掛かり、コスト高になるという問題がある。
【0008】
また、特許文献4に記載の回転機用のロータでは、スロットより外側の強磁性板の部分を半径方向内側に押圧し、ブリッジ部を塑性変形させてスロットの内側面を永久磁石に圧接している。これにより、永久磁石の表面がスロットの内側面に擦れることはないので、永久磁石に傷や割れが発生するおそれはない。しかし、ブリッジ部の半径方向の幅が広くなると、ブリッジ部の引張強さが高まってブリッジ部を塑性変形させることが困難になるので、永久磁石をロータコアに固定保持することができない場合があるという問題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ブリッジ部の半径方向の幅を広げ、かつブリッジ部における漏れ磁束を減少させることができる回転機用ロータおよびその製造方法を提供することを目的とする。また、永久磁石の磁気特性を良好に保ったままで永久磁石をロータコアに固定保持することができる回転機用ロータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(回転機用ロータ)
(請求項1)本発明の回転機用ロータは、複数枚の積層された強磁性板からなるロータコアと、該ロータコアに軸方向に形成したスロットに収容された永久磁石と、を備えた回転機用ロータであって、前記ロータコアの外周部と前記スロットの端部との間のブリッジ部の少なくとも一部は、高密度に加熱することでキーホールを形成するとともに前記キーホールの周囲に溶融池を形成し、前記溶融池に非磁性化元素を配置することで非磁性化されている。
【0011】
(請求項2)前記ブリッジ部には、前記複数枚の強磁性板を積層固定するための固定部が形成されているようにしてもよい。
【0012】
(請求項3)前記固定部は、前記ブリッジ部における非磁性化領域内に形成されているようにしてもよい。
【0013】
(請求項4)前記固定部は、前記ブリッジ部における非磁性化領域外に形成されているようにしてもよい。
【0014】
(請求項5)前記永久磁石は、前記ブリッジ部を前記非磁性化の後に前記ロータコアの外周を半径方向内側に向かって押圧変形させることにより、前記スロットの内側面に圧接されて前記ロータコアに固定保持されているようにしてもよい。
【0015】
(回転機用ロータの製造方法)
(請求項6)複数枚の積層された強磁性板からなるロータコアと、該ロータコアに軸方向に形成したスロットに収容された永久磁石と、を備えた回転機用ロータの製造方法であって、前記ロータコアの外周部と前記スロットの側端部との間のブリッジ部の少なくとも一部を、高密度に加熱することでキーホールを形成するとともに前記キーホールの周囲に溶融池を形成し、前記溶融池に非磁性化元素を配置することで非磁性化する。
【0016】
(請求項7)複数枚の積層された強磁性板からなるロータコアと、該ロータコアに軸方向に形成したスロットに収容された永久磁石と、を備えた回転機用ロータの製造方法であって、前記ロータコアの外周部と前記スロットの端部との間のブリッジ部の少なくとも一部を、高密度に加熱することでキーホールを形成するとともに前記キーホールの周囲に溶融池を形成し、前記溶融池に非磁性化元素を配置することで非磁性化する非磁性化工程と、前記非磁性化の後に前記ロータコアの外周を半径方向内側に向かって押圧変形させることにより、前記スロットの内側面を前記永久磁石に圧接して前記永久磁石を前記ロータコアに固定保持する磁石固定保持工程と、を備える。
【0017】
(請求項8)複数枚の積層された強磁性板からなるロータコアと、該ロータコアに軸方向に形成したスロットに収容された永久磁石と、を備えた回転機用ロータの製造方法であって、前記ロータコアの外周部と前記スロットの端部との間のブリッジ部の少なくとも一部を加熱するブリッジ加熱工程と、前記ロータコアの外周を半径方向内側に向かって押圧変形させることにより、前記スロットの内側面を前記永久磁石に圧接して前記永久磁石を前記ロータコアに固定保持する磁石固定保持工程と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
(請求項1)ブリッジ部の少なくとも一部を、高密度エネルギを照射し、加熱することで、金属蒸発圧と母材表面張力によりキーホールを形成し、キーホール周囲の溶融池に非磁性化元素を固溶合金化することで非磁性化している。これにより、ブリッジ部の半径方向の幅を広げても、ブリッジ部を非磁性化することができ、ブリッジ部における漏れ磁束を減少させ、回転機の高出力化を図ることができる。また、ブリッジ部の半径方向の幅を広げることができるので、ブリッジ部の強度を高めることができ、ロータの高速回転時の遠心力によるブリッジ部の破断を防止することができる。
【0019】
(請求項2)複数枚の強磁性板を固定部により互いに固定した後、ブリッジ部を、高密度エネルギを照射し、加熱することで、金属蒸発圧と母材表面張力によりキーホールを形成し、キーホール周囲の溶融池に非磁性化元素を固溶合金化することで非磁性化するので、ロータコアの熱変形を抑制することができる。さらに、ブリッジ部に固定部を形成することにより、特に熱履歴の大きいブリッジ部の熱変形を防止することができる。
【0020】
(請求項3)固定部を形成することにより強磁性板の絶縁被膜の破れが生じる場合がある。しかし、ブリッジ部の加熱溶融によりブリッジ部の絶縁被膜は溶解し、非磁性化領域内において強磁性板が絶縁できなくなるので、固定部および非磁性化領域内で導通となってしまう。したがって、固定部をブリッジ部における非磁性化領域内とは異なる部位に形成する場合よりも、固定部をブリッジ部における非磁性化領域内に形成する場合の方が、非磁性化領域内のみが導通であるため、ロータコア全体の絶縁被膜の破れや溶解による導通を抑制することができる。
【0021】
(請求項4)固定部をブリッジ部における非磁性化領域外に形成するときは、非磁性化処理中における固定部の影響を排除することができる。
【0022】
(請求項5)一般的に、金属材料の引張強さは材料温度の上昇と共に低下するので、高温時は金属材料の塑性加工は容易となる。よって、ブリッジ部の温度が非磁性化処理時の高温の状態から低下しても所定温度以上であれば、ブリッジ部を容易に塑性変形させることが可能であり、永久磁石をロータコアに確実に固定保持することができる。そして、永久磁石とロータコアとの間のエアギャップを低減することができるので、回転機出力を高めることができる。また、スロットの開口部を永久磁石のスロット挿入面よりも広く形成できるので、永久磁石をスロット内に挿入するとき、永久磁石がスロットの内側面に擦れることはなく、永久磁石の傷や割れを防止することができる。
【0023】
(請求項6)本発明の回転機用ロータの製造方法によれば、上述した回転機用ロータにおける効果と同様の効果を奏する。
【0024】
(請求項7)本発明の回転機用ロータの製造方法によれば、上述した回転機用ロータにおける効果と同様の効果を奏する。
【0025】
(請求項8)上述のように、金属材料の引張強さは材料温度の上昇と共に低下するので、高温時は金属材料の塑性加工は容易となる。よって、ブリッジ部を加熱することによりブリッジ部を容易に塑性変形させることが可能となり、永久磁石をロータコアに確実に固定保持することができる。そして、永久磁石とロータコアとの間のエアギャップを低減することができるので、回転機出力を高めることができる。また、スロットの開口部を永久磁石のスロット挿入面よりも広く形成できるので、永久磁石をスロット内に挿入するとき、永久磁石がスロットの内側面に擦れることはないく、永久磁石の傷や割れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】回転機用ロータの平面図である。
【図2】固定部の第1の形成状態を示す部分拡大斜視図である。
【図3】固定部の第2の形成状態を示す部分拡大斜視図である。
【図4】ブリッジ部の非磁性化方法を説明するための模式断面図である。
【図5】ブリッジ部の非磁性化方法を説明するための模式斜視図である。
【図6】ロータコアの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】永久磁石の固定方法を説明するための第1の平面図である。
【図8】永久磁石の固定方法を説明するための第2の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1.回転機用ロータの構成)
回転機に用いられるロータとして、IPMのロータについて、図1を参照して説明する。なお、以下の説明において、「半径方向」および「軸方向」とは、ロータ(ロータコア)の半径方向および軸方向を指す。
【0028】
図1に示すように、ロータ1は、ロータコア2と、4つの永久磁石3とを備えて構成される。ロータコア2は、例えば電磁鋼板でなる薄板円盤状の強磁性板4が複数枚積層されて構成されている。4つの永久磁石3は、例えばネオジウム磁石で直方体状にそれぞれ形成され、ロータコア2に矩形配置されている。すなわち、各永久磁石3は、ロータコア2の外周部21の近傍に90度間隔で軸方向に貫通形成した4つのスロット5にそれぞれ収容され、後述する磁石固定保持工程によりロータコア2に固定保持されている。
【0029】
4つのスロット5は、矩形状開口部51および矩形状開口部51の両端からロータコア2の外周部21に向かってそれぞれ延びる台形状開口部52で構成されている。台形状開口部52は、磁気に対するエアギャップとして形成されている。
【0030】
図1および図2に示すように、ロータコア2の外周部21とスロット5の端部32、詳しくは台形状開口部52の半径方向の内側面52aとの間には、全体が非磁性化されたブリッジ部22(図1,2において2本の点線で挟まれた範囲)が形成されている。非磁性化は、詳細は後述するが、ブリッジ部22を加熱溶融してキーホールを形成し、前記キーホールの周囲に非磁性化元素を配置することにより処理される。ブリッジ部22には、複数枚の強磁性板4を積層固定するための例えばカシメ等の固定部23が形成されている。
【0031】
図2に示すように、固定部23は、ブリッジ部22における非磁性化領域内に形成されているが、図3に示すように、ブリッジ部22における非磁性化領域外に形成するようにしてもよい。すなわち、ブリッジ部22の一部(図3において左側の点線と一点鎖線で挟まれた範囲)は非磁性化されているが、ブリッジ部22の他部(図3において右側の点線と一点鎖線で挟まれた範囲)は非磁性化されておらず、このブリッジ部22の他部に固定部23を形成するようにしてもよい。
【0032】
ここで、ブリッジ部22の非磁性化処理について図4および図5を参照して説明する。非磁性化処理は、キーホール形成工程および元素配置工程で構成される。キーホール形成工程は、ロータコア2のブリッジ部22に対し、ブリッジ部22の外周部(ロータコア2の外周部21)側からレーザLを照射してキーホール6を形成する工程である。キーホール6とは、レーザLの照射によって、レーザLが照射されるブリッジ部22の外周部から内周部(台形状開口部52の内側面52a)に亘って貫通して形成される円孔を意味する。そして、キーホール6形成時には蒸発金属が発生し、キーホール6の周囲には金属蒸発圧と母材表面張力により溶融池7が形成される。
【0033】
元素配置工程は、キーホール6周囲の溶融池7に非磁性化元素81を配置し、固溶合金化する工程である。非磁性化元素81(マンガンまたはニッケル等)により形成されたワイヤ8をブリッジ部22の外周部のレーザL照射位置周辺に配置する。そして、ブリッジ部22の外周部に対するレーザL照射位置を相対移動させ、レーザL照射位置に合わせてワイヤ8も相対移動させる。レーザL照射位置が相対移動すると、前照射位置のキーホール6は、溶融したブリッジ部22により埋められる。なお、溶融池7の周囲には熱影響を受けた熱影響部Aが形成される。
【0034】
ワイヤ8は、溶融池7に当接して溶融し、溶融したワイヤ8(すなわち、非磁性化元素81)は、溶融池7内に混入し拡散する。溶融池7では、対流(図4矢印参照)が発生しやすいので、非磁性化元素81は、ブリッジ部22の半径方向に拡散し、ブリッジ部22の外周部から内周部にまで供給される。これにより、ブリッジ部22は、半径方向に均一に、且つ外周部から内周部まで略同幅で合金化して非磁性体に変化する。
【0035】
(2.回転機用ロータの製造方法)
ロータ1の製造方法について図6のフローチャートを参照して説明する。なお、この方法において図略のプレス装置およびレーザ装置付プレス装置が使用される。プレス装置は、後述するプレ強磁性板40を製作するための打抜き工程、および後述するプレロータコア20を製作するための加圧工程を行うことができる周知の装置である。レーザ装置付プレス装置は、ロータコア2のブリッジ22を非磁性化処理するための非磁性化工程、およびロータコア2のスロット5に収容した永久磁石3をロータコア2に固定するための磁石固定保持工程を行うことができる装置である。レーザ装置付プレス装置の金型9は、内径がロータコア2の外径と同一の円筒形状であって、軸方向に90度間隔で4分割されて構成されている。各分割金型91は、図略の移動装置により半径方向に移動して加圧可能に構成されている(図7,8参照)。
【0036】
図6に示すように、例えば電磁鋼板をプレス装置にセットし、非磁性化工程および磁石固定保持工程前のプレ強磁性板40の形状(図7参照)に打抜く(ステップS1)。このプレ強磁性板40は、各スロット5より外周側の部分が両側のブリッジ部22を支点に半径方向外側に膨らんだ形状となっている。打抜かれたプレ強磁性板40は、金型内に落下して収納される。そして、所定枚数のプレ強磁性板40が打抜かれて金型内に積層されたら(ステップS2)、積層された複数枚のプレ強磁性板40を軸方向にプレスして固定部23により固定し、非磁性化工程および磁石固定保持工程前のプレロータコア20とする(ステップS3)。
【0037】
次に、図7に示すように、レーザ装置付プレス装置の各分割金型91を半径方向外側に移動し、その中央にプレロータコア20をセットする(ステップS4)。そして、プレロータコア20のブリッジ部22にレーザを照射してキーホールを形成し(ステップS5)、例えばマンガンにより形成されたワイヤを配置してマンガンを供給する(ステップS6、本発明の「非磁性化工程」に相当する)。そして、レーザ照射およびワイヤを軸方向に移動させてブリッジ部22を非磁性化処理する。このときのブリッジ部22の温度は、例えば1600°Cに達している。
【0038】
次に、レーザ装置付プレス装置の各分割金型91をプレロータコア20に当接するまで半径方向内側に移動する(ステップS7)。これにより、プレロータコア20から各分割金型91に熱伝導するので、ブリッジ部22の温度は低下する。ブリッジ部22の温度が、例えば500〜700°C以上の所定温度以上であるか所定温度以下であるかを判断し(ステップS8,S9)、所定温度以下であるときはブリッジ部22をレーザ照射して加熱する(ステップS10)。ブリッジ部22の温度が、所定温度になったら、プレロータコア20の各スロット5内に永久磁石3をそれぞれ挿入する(ステップS11)。そして、レーザ装置付プレス装置の各分割金型91を半径方向内側にさらに移動し、プレロータコア20を半径方向内側に加圧してブリッジ部22を温間成形する(ステップS12、本発明の「磁石固定保持工程」に相当する)。
【0039】
これにより、ブリッジ部22は塑性変形し、図8に示すように、最終的に各分割金型91が互いに当接して円筒形状になると、プレロータコア20はロータコア2の形状となる。このとき、各スロット5の内側面5aが永久磁石3を圧接するので、永久磁石3をロータコア2に固定保持することができる。なお、ブリッジ部22の温度が例えば500°C以下の場合は、再度レーザ照射してブリッジ部22を加熱する(本発明の「ブリッジ加熱工程」に相当する)。この場合は、レーザ照射の時間短縮や出力低下により、キーホール形成時より、ブリッジ部22に与える熱量は少なくしてある。また、各分割金型91をブリッジ部22の温度と同程度の例えば500〜700°Cに加熱しておくことにより、ブリッジ部22を保温しておくことができ、ブリッジ部22の熱変形をスムーズに行うことができる。そして、レーザ装置付プレス装置の各分割金型91を半径方向外側に移動し、ロータコア2を金型9から取出す(ステップS13)。以上により、ロータコア2が完成する。
【0040】
なお、溶接の技術分野において、キーホールとは、レーザ溶接、電子ビーム溶接、およびアーク溶接等の溶接中に生じる深く狭い穴のことである。複数の部材を溶接する際に、一方の部材にキーホールを形成することで、当該一方の部材と他方の部材とを溶接する。詳細には、一方の部材の表面にレーザなどの熱源を当てた場合に、当該一方の部材にキーホールを形成することで、当該一方の部材の裏面側と他方の部材の表面側とを溶接する。一方、非磁性化処理で形成するキーホール6は、複数層を溶接するためのキーホール溶接とは異なり、一層のブリッジ部22に対してキーホール6を形成し、ブリッジ部22の厚みに関わらず、ブリッジ部22の外周部から内周部まで均一に磁性改質するものである。このように、溶接の技術分野は、磁性改質の技術分野と全く異なっている。
【0041】
(3.回転機用ロータの作用効果)
ブリッジ部22の少なくとも一部を、高密度エネルギを照射し、加熱することで、金属蒸発圧と母材表面張力によりキーホールを形成し、キーホール周囲の溶融池に非磁性化元素を固溶合金化することで非磁性化している。これにより、ブリッジ部22の半径方向の幅を広げても、ブリッジ部22を非磁性化することができ、ブリッジ部22における漏れ磁束を減少させ、回転機の高出力化を図ることができる。また、ブリッジ部22の半径方向の幅を広げることができるので、ブリッジ部22の強度を高めることができ、ロータ2の高速回転時の遠心力によるブリッジ部22の破断を防止することができる。
【0042】
また、複数枚の強磁性板4を固定部23により互いに固定した後、ブリッジ部22を、高密度エネルギを照射し、加熱することで、金属蒸発圧と母材表面張力によりキーホールを形成し、キーホール周囲の溶融池に非磁性化元素を固溶合金化することで非磁性化するので、ロータコア2の熱変形を抑制することができる。さらに、ブリッジ部22に固定部23を形成しているので、特に熱履歴の大きいブリッジ部22の熱変形を防止することができる。また、固定部23を形成することにより強磁性板4の絶縁被膜の破れが生じる場合がある。しかし、ブリッジ部22の加熱溶融によりブリッジ部22の絶縁被膜は溶解し、非磁性化領域内において強磁性板が絶縁できなくなるので、固定部23および非磁性化領域内で導通となってしまう。したがって、固定部23をブリッジ部22における非磁性化領域内とは異なる部位に形成する場合よりも、固定部23をブリッジ部22における非磁性化領域内に形成する場合の方が、非磁性化領域内のみが導通であるため、ロータコア2全体の絶縁被膜の破れや溶解による導通を抑制することができる。また、固定部23をブリッジ部22における非磁性化領域外に形成するときは、非磁性化処理中における固定部23の影響を排除することができる。
【0043】
金属材料の引張強さは材料温度の上昇と共に低下するので、高温時は金属材料の塑性加工は容易となる。よって、ブリッジ部22の温度が非磁性化処理時の高温の状態から低下しても所定温度以上であれば、ブリッジ部22を容易に塑性変形させることが可能であり、永久磁石3をロータコア2に確実に固定保持することができる。そして、永久磁石3とロータコア2との間のエアギャップを低減することができるので、回転機出力を高めることができる。また、スロット5の開口部51を永久磁石3のスロット挿入面31よりも広く形成できるので、永久磁石3をスロット5内に挿入するとき、永久磁石3がスロット5の内側面5aに擦れることはなく、永久磁石3の傷や割れを防止することができる。
【0044】
(4.変形例)
上述の実施形態では、非磁性化元素81により形成されたワイヤ8をブリッジ部22の外周面のレーザL照射位置周辺に配置し、キーホール6周囲に形成される溶融池7に非磁性化元素81を供給して非磁性化処理するようにしたが、以下の方法により非磁性化処理するようにしてもよい。すなわち、ブリッジ部22に非磁性化元素81のペレットを配置し、プレス加工により非磁性化元素81のペレットをブリッジ部22に打込み、該非磁性化元素81のペレットにレーザ2を照射して非磁性化処理するようにしてもよい。また、ブリッジ部22に非磁性化元素81の粉末や粗粒あるいは薄膜を配置し、該非磁性化元素81の粉末にレーザ2を照射して非磁性化処理するようにしてもよい。また、キーホール6の形成手段としては、高密度エネルギを照射可能な手段であればよく、レーザLの代わりに例えば電子ビームでもよい。
【0045】
また、上述の実施形態では、ブリッジ部22は、キーホール6を形成することにより非磁性化処理を行うようにしたが、別処理で非磁性化処理を行い、その後に以下の処理を行うようにしてもよい。すなわち、レーザ装置付プレス装置の金型9内にセットされたプレロータコア20のブリッジ部22を加熱する(本発明の「ブリッジ加熱工程」に相当する)。そして、ブリッジ部22の温度が、例えば500〜700°Cになったら、プレロータコア20の各スロット5内に永久磁石3をそれぞれ挿入する(本発明の「磁石固定保持工程」に相当する)。そして、レーザ装置付プレス装置の各分割金型91を半径方向内側にさらに移動し、プレロータコア20を半径方向内側に加圧する(本発明の「磁石固定保持工程」に相当する)。これにより、ブリッジ部22は塑性変形し、最終的に各分割金型91が互いに当接して円筒形状になると、プレロータコア20はロータコア2の形状となる。
【0046】
このように、ブリッジ部22を加熱することによりブリッジ部22を容易に塑性変形させることが可能となり、永久磁石3をロータコア2に確実に固定保持することができる。そして、永久磁石3とロータコア2との間のエアギャップを低減することができるので、回転機出力を高めることができる。また、スロット5の開口部51を永久磁石3のスロット挿入面31よりも広く形成できるので、永久磁石3をスロット5内に挿入するとき、永久磁石3がスロット5の内側面5aに擦れることはないく、永久磁石3の傷や割れを防止することができる。
【符号の説明】
【0047】
1:ロータ、 2:ロータコア、 3:永久磁石、 4:強磁性板、 5:スロット
6:キーホール
21:ロータコアの外周部、 22:ブリッジ部、 23:固定部
51:開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の積層された強磁性板からなるロータコアと、
該ロータコアに軸方向に形成したスロットに収容された永久磁石と、を備えた回転機用ロータであって、
前記ロータコアの外周部と前記スロットの端部との間のブリッジ部の少なくとも一部は、高密度に加熱することでキーホールを形成するとともに前記キーホールの周囲に溶融池を形成し、前記溶融池に非磁性化元素を配置することで非磁性化されていることを特徴とする回転機用ロータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記ブリッジ部には、前記複数枚の強磁性板を積層固定するための固定部が形成されていることを特徴とする回転機用ロータ。
【請求項3】
請求項2において、
前記固定部は、前記ブリッジ部における非磁性化領域内に形成されていることを特徴とする回転機用ロータ。
【請求項4】
請求項2において、
前記固定部は、前記ブリッジ部における非磁性化領域外に形成されていることを特徴とする回転機用ロータ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記永久磁石は、前記ブリッジ部を前記非磁性化の後に、前記ロータコアの外周を半径方向内側に向かって押圧変形させることにより、前記スロットの内側面に圧接されて前記ロータコアに固定保持されていることを特徴とする回転機用ロータ。
【請求項6】
複数枚の積層された強磁性板からなるロータコアと、
該ロータコアに軸方向に形成したスロットに収容された永久磁石と、を備えた回転機用ロータの製造方法であって、
前記ロータコアの外周部と前記スロットの側端部との間のブリッジ部の少なくとも一部を、高密度に加熱することでキーホールを形成するとともに前記キーホールの周囲に溶融池を形成し、前記溶融池に非磁性化元素を配置することで非磁性化することを特徴とする回転機用ロータの製造方法。
【請求項7】
複数枚の積層された強磁性板からなるロータコアと、
該ロータコアに軸方向に形成したスロットに収容された永久磁石と、を備えた回転機用ロータの製造方法であって、
前記ロータコアの外周部と前記スロットの端部との間のブリッジ部の少なくとも一部を、高密度に加熱することでキーホールを形成するとともに前記キーホールの周囲に溶融池を形成し、前記溶融池に非磁性化元素を配置することで非磁性化する非磁性化工程と、
前記非磁性化の後に前記ロータコアの外周を半径方向内側に向かって押圧変形させることにより、前記スロットの内側面を前記永久磁石に圧接して前記永久磁石を前記ロータコアに固定保持する磁石固定保持工程と、を備えたことを特徴とする回転機用ロータの製造方法。
【請求項8】
複数枚の積層された強磁性板からなるロータコアと、
該ロータコアに軸方向に形成したスロットに収容された永久磁石と、を備えた回転機用ロータの製造方法であって、
前記ロータコアの外周部と前記スロットの端部との間のブリッジ部の少なくとも一部を加熱するブリッジ加熱工程と、
前記ロータコアの外周を半径方向内側に向かって押圧変形させることにより、前記スロットの内側面を前記永久磁石に圧接して前記永久磁石を前記ロータコアに固定保持する磁石固定保持工程と、を備えたことを特徴とする回転機用ロータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−115963(P2013−115963A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261351(P2011−261351)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】