説明

回転軸の非接触式オイルシール機構

回転軸12と、この回転軸12を回転自在に保持するケーシング孔3が形成されたケーシングとを備え、回転軸12がケーシング孔3に対して非接触となる間隙tを有して保持され、この間隙tに潤滑油が流通する回転機械に設けられる回転軸の非接触式オイルシール機構において、回転軸12の円周方向に沿ってケーシング孔3内周面に形成され、潤滑油を回収する油回収室4と、回転軸12の円周方向に沿って回転軸12の外周面に形成され、回転軸12の軸方向に沿って配列され、油回収室4と対向する複数の油切り溝条5とを備え、複数の油切り溝条5は、油回収室4の同方向幅寸法W1内に収まるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械における回転部の潤滑油シール機構に関するもので、特に回転軸と非接触状態にして潤滑油が外部に漏れ出すのを防止できる機能を備えた回転軸の非接触式オイルシール機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転機械などにおける回転軸のケーシングを貫通する箇所にはシール機構を設けて、ケーシング外部からの粉塵などの侵入とケーシング内部から潤滑油が外部に漏れるのを防止するようにされている。このシール機構としてはOリング,オイルシールあるいはメカニカルシールなどの接触式のシールが多く採用されている。
しかしながら、接触式のシール機構では長期間にわたる運転で、回転する軸と接触してシールしている部材が摩耗して、あるいは経年変化で劣化してシールの役目を果たさなくなる。そのために、ときには頻繁に部品の交換を必要とする。
【0003】
このようなことから、軸と接触することなくシール機能を発揮できる非接触式シール機構が採用される場合がある。このような非接触式シール機構は、簡単に部品交換ができない装置などで採用されており、静圧シールやラビリンスシールなどがある。静圧シールとしては、例えばケーシングなどの回転軸が外部に突き出す部分や軸受部に隣接して、軸を取り囲むように二箇所に環状の溝を設け、その一方の環状溝に気体を送り、他方の環状溝から排気するようにして軸とその貫通する孔の内周面との間に薄い気体の膜を形成して外部に油が漏れ出さないようにするという構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、前記ラビリンスシールは、ケーシングなどの壁体を回転軸が貫通する孔部の内周面にフィン状のシールフィンを枚数設けて、それらのフィンの先端と軸との間隔を微小間隔になるようにされ、軸の用面に沿って外部に漏れ出す油を各フィン間に形成される環状の空間部によって、ケーシング内部と外部との聞に生じる圧力差での流動を、断続する空隙の膨張・圧縮作用によって減衰させ、差圧をなくして油の漏出を阻止するものである(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭48−100554号公報
【特許文献2】特開平6−330893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記静圧シールやラビリンスシールのような非接触式のシール機構では、シール機構として、次のような問題点がある。すなわち、静圧シールでは、運転中常時シールのための圧力流体(主としてエア)を供給しなければならない。当然、その圧力流体の供給源が別途必要になる。
したがって、余分な機器を付帯させるとともに、その運転管理が要求されることになり、使用できるようにするには圧力流体の供給源を容易に確保できる特定のものでのみ有効である。
【0007】
また、ラビリンスシールの場合は、構造的に簡単のようであるが、工作精度が要求され、組み付けるにも工夫が必要で、結果的に高価につくという難点がある。もちろん、組立て精度が良くないとシール効果が著しく低下するという問題がある。
一方、設置後メンテナンスが簡単に行えないような構成の機械設備における回転機械の軸部のシール機構としては、前述のように接触式のシールを用いると、長期間のシール効果が望めず、さりとて、前述のような非接触式のシール機構ではその効果に期待することが困難である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、構造簡単な非接触式のシールとして、長期間にわたりその目的を達成することが可能である、回転軸の非接触式オイルシール機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、第1発明に係る回転軸の非接触式オイルシール機構は、回転軸と、この回転軸を回転自在に保持するケーシング孔が形成されたケーシングとを備え、前記回転軸が前記ケーシング孔に対して非接触となる間隙を有して保持され、この間隙に潤滑油が流通する回転機械に設けられる非接触式オイルシール機構であって、前記回転軸の円周方向に沿って前記ケーシング孔部内周面に形成され、前記潤滑油を回収する油回収室と、前記回転軸の円周方向に沿って前記回転軸の外周面に形成され、前記回転軸の軸方向に沿って配列され、前記油回収室と対向する複数の油切り溝条とを備え、前記複数の油切り溝条は、前記油回収室の同方向幅寸法内に収まるように形成されていることを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る回転軸の非接触式オイルシール機構は、第1発明に係る回転軸の非接触式オイルシール機構において、隣合う前記溝条間に形成される突条は、その縁部が角張っていることを特徴とする。
第3発明に係る回転軸の非接触式オイルシール機構は、第1発明及び第2発明に係る回転軸の非接触式オイルシール機構において、前記回収室は、前記回転軸の軸方向に沿って複数形成され、前記回転軸には、各油回収室に応じた位置に、前記複数の溝条が形成されていることを特徴とする。
【0011】
第4発明に係る回転軸の非接触式オイルシール機構は、第3発明に係る回転軸の非接触式オイルシール機構において、前記間隙に供給する潤滑油を貯留するオイルバスと各油回収室とを連絡し、各油回収室で回収された潤滑油をこのオイルバスに戻すドレン管路を備え、前記ドレン管路は、各油回収室に応じて独立して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、ケーシング孔部における内外間の圧力差(回転駆動機構の温度上昇などで内部の圧力が高まる)で、回転軸の表面に付着する潤滑油が内側から外に向かって移動するのを、ケーシング孔側に形成された油回収室位置で軸に設けられた複数条の油切り溝の溝条間に形成される突条により、潤滑油の軸方向移動速度を減退させることが可能となる。
この結果、隣合う溝条間の突条で滞留した潤滑油は、回転軸の回転に伴う遠心力によって油回収室に振り落とされることとなる。
従って、間隙に供給される潤滑油はケーシング外部に漏出することがなく、回収された潤滑油を、潤滑油を貯留するオイルバス等に戻し、間隙部に潤滑油を再度供給することにより、長期間に亘ってシール機能を維持することが可能となる。
ちなみに、本発明によれば、低速で回転する軸において、回転機の作動によるケーシング内圧力と外部圧力(大気圧)との差止が大きくとも、前記油切り溝条と油回収室とを対応させる構成により、漏出しようとする油を止めて回収することができるのである。
【0013】
第2発明の構成を採用することにより、回転軸の回転が低速回転であっても、突条の周縁部が角張った形状とされるのでその縁部の表面張力によって油の軸方向速度を低下させる機能が作用して、付着する油を回転軸から有効に分離させることができるのである。
したがって、軸表面を伝って移動する潤滑油が断続する油切り溝を越えて順次外側に移動しても、また、軸の回転による遠心力が小さくても複数の突条によって油切りが行える
【0014】
第3発明の構成を採用することにより、前記第1発明と同様の機能を発揮できる油切り溝条と油回収室とのセットを複数箇所に配設することで、ケーシング孔内外での圧力差によって漏出しようとする油が複数段階に阻止され、ステップを踏むごとに減速されて油の流動が阻止されるという効果を奏する。
第4発明の構成を採用することにより、内側の油回収室と対応する油切り溝条とでなる油回収機構で回収された油がドレン管路を通じて、外側に配設される油回収室に逆流して油漏れを発生させることを阻止する効果を奏する。要するにドレン管路を油回収室ごとに独立して設けることで、前後の油回収室を連通させないで回収される油の逆流現象を防止して油漏れを確実に阻止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
[図1]図1は本発明にかかる回転転軸の非接触式オイルシール機構の一具体例を表わす断面図。
[図2]図2は前記実施形態の要部の拡大一部断面図。
[図3A]図3Aは本発明の非接触式オイルシール機構の機能を検証するために用いられたテスト装置の断面図。
[図3B]図3Bは前記テスト装置の要部の拡大断面図。
[図4A]図4Aは前記テスト装置における本発明にかかる要部の断面図。
[図4B]図4Bは前記テスト装置による噴出漏れ開始圧との関係を表すグラフ。
[図5A]図5Aは前記テスト装置における本発明にかかる他の要部断面図。
[図5B]図5Bは前記テスト装置による噴出漏れ聞始圧との関係を表わすグラフ。
【符号の説明】
【0016】
1…非接触式オイルシール機構、3…ケーシング孔、4…油回収室、4A、4B…空間部、5…油切り溝、6…突条、6a…突条の縁部、11…ケーシング、12…回転軸、14…ハウジングカバー、15…軸受、16…ドレン管路、t…間隙
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明にかかる回転軸の非接触式オイルシール機構について、その実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明にかかる回転軸の非接触式オイルシール機構の一具体例を表わす断面図が示されている。図2には、要部の拡大一部断面図が示されている。
この図1によって示される回転軸の非接触式オイルシール機構1(以下、単にオイルシール機構1という)は、回転機械10における軸受部15から外部に突出する低速で回転する回転軸12の部分に設けられた実施形態の一具体例である。
【0018】
オイルシール機構1は、回転機械10のケーシング11に設けられる入力部の回転軸12を支持するベアリングハウジング13の外側に取り付くハウジングカバー14内に設けられている。
このオイルシール機構1は、ケーシング孔3の内周面に形成される複数の油回収室4と、各油回収室4の位置に応じて、回転軸12の外周面に設けられる複数条の油切り溝5と、各油回収室4に設けられる複数のドレン管路16とを備えている。
なお、この回転軸12には、貫通して突き出される軸端には図示されない回転体が取付けられ、回転体が回転すると、回転軸12が軸受部15に支承されるとともに、回転軸12及びケーシング孔3間の間隙tに潤滑油が流通することにより、滑らかな回転を実現している。尚、間隙tは少なければ少ない程よいが、回転軸12の回転中に回転軸12がハウジングカバー14と接触してはいけないので、一般的には0.5mm程度のクリアランスを確保するのが好ましい。
【0019】
前記油回収室4は、図2に示すように、それぞれが断面矩形の凹形の溝として構成され、軸受部15よりも回転軸12の端部側のケーシング孔3の内周面に2箇所形成され、凹形の溝は、回転軸12の円周方向に沿って一周するように連続している。尚、本実施形態においては、内側の油回収室4の回転軸に沿った幅寸法W1は例えば20mm、深さ寸法D1は例えば20mmと設定されている。
各油回収室4の凹形溝の底部にはドレン管路16が繋がれており、図1中内側に形成される油回収室4に繋がるドレン管路16は、ハウジングカバー14からケーシング11に至り、ドレン管路16の他端は、図示を略したが、オイルバスに接続されている。このオイルバスは、軸受部15に潤滑油を供給するために潤滑油を貯留する部分であり、油回収室4で回収された潤滑油は、ドレン管路16を介してオイルバスに戻される。尚、本実施形態においては、ドレン管路16の油回収室4と連通する部分の内径寸法は、可能な限り大きくするのが望ましいため、油回収室4の幅寸法よりも僅かに小さな18mmφとされている。尚、ドレン管路16をこのような径に設定したのは、後述する油切り溝5から油回収室4に落下した潤滑油を速やかに回収しないと、油回収室4内で潤滑油が滞留し、再び間隙tに漏れ出すことがあるからである。
【0020】
このようなドレン管路16は、ケーシング11の底面部(図2中下面)から上方にドリル等で孔を開け、さらにこれに交差するように、ケーシング11の後部端面直交方向からドリル等で孔を開け、各孔の端面を弾性部材等のパッキン(封止部材)等によって塞ぐことにより形成することができる。
尚、図1において、外側(図1中右側)の油回収室4にも前記と同様のドレン管路が前記ドレン管路16とは独立してオイルバスに至るように形成されているが、図1でこれを記載すると両ドレン管が交差してしまうため、便宜上図面記載を省略している。
また、外側の油回収室4のさらに外側には、ケーシング孔3を塞ぐようにシールリング18が付設されている。このシールリング18は弾性材からなり、オイルシール機構1の補助的なシール部材として機能する。
【0021】
前記油切り溝5は、回転軸12の外周面の円周方向に一周するように形成される溝条であり、図2に示すように、油回収室4の位置に応じて、複数条の油切り溝5のグループとして回転軸12上に刻設されている。
油切り溝5のグループは、いずれも細幅で所要の間隔にて複数条刻設されている。この油切り溝5のグループにおいて、隣り合う油切り溝5間には溝の刻設によって突条6が形成される。
この突条6は、回転軸12の径方向先端の角隅となる両端部6aが角張った状態に形成されているのが好ましい。このようにすることにより、回転に伴い軸周面に付着して流れ出す油の軸方向速度を油切り溝5に連接する突条6先端で、表面張力により油の軸方向速度を減じ、油を振り切るのに効果的である。
【0022】
ここで、各油切り溝5の幅、深さは、前記突条6の両端部6aの形状と、回転軸12の径方向先端の突条6の端面の長さによって決められる。従って、油切り溝5の幅寸法W2及び深さ寸法D2は、回転軸12の径(本実施の形態では120mmφ)とは基本的に相関はない。本実施の形態では、各油切り溝条5の幅寸法W2及び深さ寸法D2は略3mmとされている。
また、油切り溝5のグループは、少なくとも2本以上のグループとして形成しなければ効果を生じることがなく、例えば、1箇所の油回収室に対して1本の油切り溝のみでは、本発明の効果を奏することはできない。本実施の形態ではグループ当たり3本の油切り溝5を形成し、その間に2本の突条6が形成されるようにされ、突条6の幅寸法W3は油切り溝5の幅と略同じ3mmとされ、3本の油切り溝5のグループの幅寸法W4は、幅寸法W1の油回収室4の内部に納められるように、W1>W4とされている。
さらに、各回収室4に配置される油切り溝5のグループ間の距離W5は、長ければ長い程、潤滑油が流れる距離が多くて潤滑油の漏出上好ましいが、本実施形態においてはケーシングカバー14のサイズの制約から20mmとして設定している。
【0023】
次に、このように構成されるオイルシール機構1の作用について説明する。
このオイルシール機構1は、低速で回転する回転軸12の軸受部15から外部に突き出されるケーシング孔3に設けられる。
このオイルシール機構1が設けられた回転機械10では、ケーシング11内部の気圧がケーシング外部の大気圧よりも高くなると、気圧差によって回転軸12の外周とケーシング孔3の内周とにより形成される僅かな間隙tを通じてケーシング11内から外部に向かって油が押し出されて漏れ出す現象が発生し易くなる。
【0024】
しかしながら、本実施形態のオイルシール機構1が設けられた位置では、回転軸12の周面に沿って内部から外部へ移動する油は、前記油回収室4の部分に対向して配設される油切り溝5の横線(突条6の両端部6a)が角張って形成されている関係で、表面張力の働きによって軸方向速度を減じられ重力によって軸表面から除かれる。
ここで振り切られなかった油は、再び隣接する油切り溝5の突条6によって振り落とされる。油切り溝5に落とされた油は、以後前記動作により順次油回収室4側に振り落とされて分離され次第に軸表面に付着する油が取り除かれる。
【0025】
このようにして、第1の油切り溝グループ箇所5Aで大部分の油の移動を阻止されるのであるが、何らかの理由によりケーシング内部の気圧がさらに高まると、油の移動速度が速くなり、低下効果が充分発揮できなくなることがある。
そこで、第1のシール機構部1aでシールできずに移動する油を、やや離れて設けられる第2のシール機構部1bにて、前記要領で油の移動を阻止するようにしたのである。
【0026】
この第2のシール機構部1bにおいては、第1のシール機構部1aにて除去できなかった油の移動を再び当該位置において軸側に設けられる油切り溝5のグループと油回収室4とによって、前記要領で軸12に付着する油を除去する。
この第2の油回収室4によって形成される空間部4Bでは、第1の油回収室による空間部4Aで油をすべて回収できなくても、第2のシール機構部1b前後の圧力差(空間部4Aと4Bの圧力差)は小さくなるので、第2のシール機構部1bから空間部4Bへ噴出す油の軸方向速度は小さくなり、第2のシール機構部1bによって容易に油が回収されて、非接触でのオイルシールの機能を充分に発揮することができるのである。
また、上記において、第1の油回収室4に設けるドレン管路16と第2の油回収室4に設けるドレン管路(図上重複状態になっているので符弓での表示を省略する)を各々に独立してケーシング11内に接続することにより、第1の油回収室で回収された油がドレン管路を通じて第2の池回収室に逆流して油漏れとなることを防ぎ、オイルシール機能を発挿することができる。
【実施例1】
【0027】
次に低回転軸での非接触式オイルシールの機能を検証するために、下記の実施例により実験を行った。なお、この実施例では、図3Aに示される実験装置を用いて行った。
(実験例1)
このテスト装置20では、ケーシング21を貫通する回転軸22を支持する前後の軸受23,23′のうち前部の軸受ハウジング24に隣接してシール機構を組み込むようにされている。
また、回転軸22は可変速モータ25により所要の回転で駆動されるようになされている。シール機構としては、図3Bに要部Pの拡大図で示されるように、回転軸22と微小寸法の間隙tを設け、その前側に減圧室26(油収納室に対応する)が形成されるようにした。また、前端に透明なアクリル板27を取付けて内祁が視認できる状態とした。
このような構成で、油漏れしやすい条件として、軸線が5°前傾するように支持構造体28にてベース29上に配置した。
【0028】
前述のようなテスト装置を用い、下記の条件でテストを行った。
(1)回転軸22の軸径(φ120回転速度1800rpm(高速回転)
〃 回転速度 20rpm(低速回転)
(2)テストに用いた潤滑油種および油温
油種 EO10 油温38℃ 動粘度37cSt
供給油量 30L/min
なお、ケーシング内の圧力が高まることに対応するように、ケーシング11内にエアを送り込んで確認をすることとした。
(3)間隙tの寸法:0.5mm
減圧室26の幅寸法×深さ寸法=20mm×20mm
回転軸上の油切り溝:無し
ドレン管の径寸法:18mmφ
【0029】
上記の実験結果によれば、まず、ケーシング内圧が高まったときの油漏れ原因として、(a)エアがケーシング21からドレン30を経由して減圧室26に逆流し、ドレン30に落ちた油がドレン口130′から噴き上げることによる噴き上げ漏れと、(b)間隙tを通過した油が軸方向へある流速で噴出することによる噴出漏れを発生することが目視により確認された。前記(a)の油漏れ原因があることがわかったので、ドレン30の管径は大きいほど、シール性の点で好ましい。また、複数のオイルシール機構がある場合、そのドレン管路は各々独立してケーシングに接続したほうが、シール性がよいことがわかった。
【0030】
(実験例2)
上記のような結果から、噴出漏れ対策として図4Aに示されるように、回転軸22に減圧室26に対向するようにして油切り溝32を設けた構造にして、これを前記実験例1と同じ要領でテストを行い、図3Bで示される構造のものと比較した。
ここにおいて、減圧室26に応じた位置の回転軸12の外周面には、油切り溝32を3本形成している。尚、油切り溝32は3本形成し、それぞれの幅寸法×深さ寸法は3mm×3mmであり、隣合う油切り溝間の突条の幅寸法も3mmとして実験を行った。
その結果、図4Bに溝付きと溝なしとを比較したグラフによって示すとおりである。なお、圧力は0.002MPa=1として相対値で示している。回転軸に油切り溝(溝と表示)を設けたものにすると、低速回転において、噴出漏れ開始圧が溝なしの場合の約4倍も高くなることがわかった。
また、目視により溝の縁の突条部が表面張力により油を切る状況が確認された。つまり、満の縁は角張っているほうがよいことがわかった。
また、高速回転では、油は遠心力で軸から離れるので、溝を設けなくとも耐圧は高く、油切り満を付加しても噴出漏れ開始圧は変わらなかった。
【0031】
(実験例3)
そこで、図5Aに示されるように、前記テスト装置における減圧室形成部品26Aに代えて、二箇所に減圧室26,26′を有する部品26を有する部品26Bと交換するとともに、それら減圧室に対応する回転軸22の外周面に、各減圧室26,26′に対し複数の油切り溝32を形成して油切りを行わせる構造のもので、前記実験例1と同様にしてテストを行った。
【0032】
前記減圧室と油切り溝との組合せを二つ設けた場合の噴出漏れ開始圧を計測した結果、図5Bにグラフによって示すように、二筒所にシール機構を設けることで、噴出漏れ開始圧が4倍になり、結果的に低速回転軸の溝なし軸では16倍も高い噴出漏れ開始圧となることがわかった。
【0033】
このように、本発明のオイルシール機構によれば、回転紬側に溝を付けない状態でのシール方式と比較して約16倍の噴出漏れ開始圧に保持することが可能になり、言い換えると在来の非接触式オイルシール機構に比べて、回転機械におけるケーシング内部と回転軸
の突き出し外部との間で大きく差圧が生じても、油の噴出しが防止され、シール効果を高めることができるのである。
【0034】
したがって、本発明によれば、低速で回転する回転軸のシール部に採用して効力を発揮できるので、例えば風力発電装置のように、高所位置に設置されて駆動部分のメンテナンスを簡単に行えない設備の回転部に用いて優れた効果が期待できる。
産業上の利用分野
【0035】
本発明は、長期耐久性が要求される回転機械のシール機構として好適に採用することができ、たとえば、風力発電等に用いられる回転機構のシール機構として好適に用いることができる。
【図1】

【図2】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、この回転軸を回転自在に保持するケーシング孔が形成されたケーシングとを備え、前記回転軸が前記ケーシング孔に対して非接触となる間隙を有して保持され、この間隙に潤滑油が流通する回転機械に設けられる回転軸の非接触式オイルシール機構であって、
前記回転軸の円周方向に沿って前記ケーシング孔内周面に形成され、前記潤滑油を回収する油回収室と、
前記回転軸の円周方向に沿って前記回転軸の外周面に形成され、前記回転軸の軸方向に沿って配列され、前記油回収室と対向する複数の油切り溝条とを備え、
前記複数の油切り溝条は、前記油回収室の同方向幅寸法内に収まるように形成されていることを特徴とする回転軸の非接触式オイルシール機構。
【請求項2】
請求項1に記載の回転軸の非接触式オイルシール機構において、
隣合う前記溝条間に形成される突条は、その縁部が角張っていることを特徴とする回転軸の非接触式オイルシール機構。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の回転軸の非接触式オイルシール機構において、
前記油回収室は、前記回転軸の軸方向に沿って複数形成され、
前記回転軸には、各油回収室に応じた位置に、前記複数の溝条が形成されていることを特徴とする回転軸の非接触式オイルシール機構。
【請求項4】
請求項3に記載の回転軸の非接触式オイルシール機構において、
前記間隙に供給する潤滑油を貯留するオイルバスと各油回収室とを連絡し、各油回収室で回収された潤滑油をこのオイルバスに戻すドレン管路を備え、
前記ドレン管路は、各油回収室に応じて独立して形成されていることを特徴とする回転軸の非接触式オイルシール機構。

【国際公開番号】WO2005/040649
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514925(P2005−514925)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014843
【国際出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】