説明

回転軸ロック機構と、それを備える昇降装置

【課題】 ロック片と歯車とがそれらの相対的な位相に係わらず回転軸をロックする回転軸ロック機構を提供する。
【解決手段】 ロック機構1は、ねじ軸6に固定される歯車11を備える。歯車11は、インボリュート歯形を有している。また、ロック機構1は、歯車11に噛合してねじ軸6の回転を止めるインボリュート歯形の突起部12a,12b,13a,14aを有する複数のロック片12,13,14と、これら複数のロック片12,13,14を歯車11と噛合するロック位置に向かって個別に付勢するばね部材15を有する。複数のロック片12,13,14は、歯車11に噛合する時の噛合位相が夫々異なるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばボールねじ機構のねじ軸のような回転軸の回転を阻止するための回転軸ロック機構、及びそれを備える昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを載せた昇降台を昇降させる昇降装置が実用に供されている。この昇降装置は、昇降台にねじ軸を螺合させて構成されるボールねじ機構を備えており、ねじ軸をサーボモータ等で回転させることで、前記昇降台が昇降するようになっている。また、昇降装置では、サーボモータの出力を所定のトルクに維持してねじ軸の回転を止めることで、上昇させた昇降台の高さを保てるようになっている。
【0003】
そのため、サーボモータが故障する等してサーボモータが動作しない場合、ねじ軸に十分なトルクを与えることができない。すると、ワークと昇降台の荷重によりねじ軸が回転して昇降台が下降するという事態が生じる。そのような事態を避けるべく、昇降装置には、ねじ軸の回転を防ぐべくロック機構が設けられている。ロック機構として、例えば、サーボモータの出力軸を制動する電磁ブレーキがある。
【0004】
しかし、電磁ブレーキの場合、ブレーキパッドを出力軸等に当てて制動するので、ブレーキパッドが磨耗及び損傷し、かなりの頻度で取り替えなければならない。また、電磁ブレーキは、電磁回路の回路構成が複雑である。そこで、昇降装置では、より簡単な構成で確実に昇降台の落下を防ぐことができる機械式のロック機構が用いられる。
【0005】
かかる機械式のロック機構としては、例えば特許文献1に記載の自動回転及びロック装置(以下、単に「ロック装置」ともいう)がある。このロック装置では、旋回台に歯車が設けられ、ラックを往復運動させることで前記歯車が回まわり、それに伴って旋回台が回転するようになっている。また、ロック装置では、前記歯車に係合可能な係合歯が設けられており、この係合歯をシリンダにより変位させて歯車に係合させることで、旋回台をロックするようになっている。このように構成されるロック装置において歯車が固定される旋回台をボールねじ機構のねじ軸に代えることで、このロック装置を上述の昇降装置に適用することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−47459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のロック装置は、係合歯を移動させた時に係合歯の歯先が歯車の歯溝に入らずに歯車の歯先に当ることがある。このような場合、歯車をロックすることができない。そのため、旋回台を僅かに回転させて係合歯を歯車の間に入れてからしか旋回台の回転を止めることができない。つまり、係合歯と歯車の歯との相対位相によっては、旋回台をロックすることができない。
【0008】
このようなロック装置を昇降装置に適用した場合、係合歯が歯車の歯溝に入らないと、ねじ軸が歯車のピッチ分だけ回転して昇降台が下降してしまう。この場合の昇降台の下降量は僅かであるが、昇降台に載せるワークは車両等の重量が大きいものであるため、その下降量が僅かであっても下降によりワークに大きい衝撃を生じてしまう。大きな衝撃がワークに生じることで、前記ワークが損傷したりすることがある。
【0009】
そこで本発明は、係合歯に相当するロック片と歯車とがそれらの相対的な位相に係わらず回転軸をロックする回転軸ロック機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の回転軸ロック機構は、回転軸に固定され、インボリュート歯形を有する歯車と、前記歯車に噛合して前記回転軸の回転を止めるインボリュート歯形の突起部を有する複数のロック片と、前記複数のロック片を前記歯車と噛合するロック位置に向かって移動させるロック片移動手段とを備え、前記複数のロック片は、前記歯車に噛合する時の前記歯車の噛合位相が夫々異なるように配置されているものである。
【0011】
本発明に従えば、歯車に噛合する際の前記歯車の噛合位相がロック片毎に異なるので、歯車が回動して何れかの噛合位相にあれば、噛合位置に向かって移動する複数のロック片のうちの少なくとも1つが歯車の歯溝に入り込み歯車をロックさせることができる。また、歯車及び突起部がインボリュート歯形を有するため、歯車が噛合位相になくとも、突起部の一部が歯車の歯溝に入って歯車の歯に当り、歯車をロックさせることができる。それ故、ロック片と歯車とがそれらの相対的な位相に係わらず歯車をロックし、回転軸をロックすることが可能である。
【0012】
上記発明において、前記複数のロック片は、前記歯車に噛合する時の前記歯車の噛合位相が互いにt/(r×z)(t:前記歯車のピッチ、r:前記歯車のピッチ円の半径、z:ロック片の数(z≦2))ずれるように配置されていることが好ましい。
【0013】
上記構成に従えば、ロック片の噛合位相が等間隔にあるので、ロック片による歯車の拘束力を歯車の位相によらずに平坦化することができる。
【0014】
上記発明において、前記複数のロック片は、前記回転軸に平行に積層されており、前記複数のロック片のうちの少なくとも1つのロック片は、一対の突起部を有し、これら2つの突起部の間に前記歯車の歯が噛合可能な溝を有する谷型のロック片であり、他のロック片は、前記歯車の歯溝に噛合可能な前記突起部を有する山型のロック片であることが好ましい。
【0015】
上記構成に従えば、谷型のロック片に歯車の歯の一部が入った時に、その歯車の歯を谷型のロック片の一方の突起部と山型のロック片の突起部とで挟持することができる。これにより、歯車を強固にロックし、回転軸をロックすることができる。
【0016】
上記発明において、前記ロック片移動手段は、前記複数のロック片を付勢して前記ロック位置に向かって移動させることが好ましい。
【0017】
上記構成に従えば、複数のロック片が付勢されて前記ロック位置に向かって移動するので、歯車の歯溝に入るロック片を前記歯車の歯に当てることができ、ロック時のガタをなくすことができる。また、歯溝に入らないロック片は、歯車の歯先に当ると止まり、それ以上過度に押されることがないので、前記ロック片が前記歯先に衝突し損傷することを防ぐことができる。
【0018】
上記発明において、前記ロック片移動手段は、前記歯車から引き離されたロック解除位置に前記複数のロック片を移動させるようになっており、前記ロック位置から前記ロック解除位置に前記ロック片を移動させる速度より前記ロック解除位置から前記ロック位置に前記ロック片を移動させる速度の方が遅くなっていることが好ましい。
【0019】
上記構成に従えば、ロック片をロック解除位置に素早く移動させることができ、回転軸のロックを素早く解除することができる。これに対して、ロック片をロック位置に移動させる速度を遅くすることで、ロック片が歯車の歯に当って損傷することを防ぐことができる。これにより、回転軸ロック機構の耐久性が向上する。
【0020】
本発明の昇降装置は、上記の回転軸ロック機構と、前記回転軸ロック機構により回転を止めることができる前記回転軸を回転させることで昇降台を昇降可能なボールねじ機構とを備えるものである。
【0021】
上記構成に従えば、上述の機能を達成することができる昇降装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ロック片と歯車とがそれらの相対的な位相に係わらず回転軸をロックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の回転軸ロック機構を備える昇降装置の概略を示す正面図である。
【図2】ロック機構の断面を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】図2に示すロック機構を切断線A−Aで切断して見た時の断面図である。
【図4】図2に示すロック機構の一部を切断して見た時の部分断面図であり、(a)は、切断線B−Bで切断して見た時の部分断面図であり、(b)は、切断線C−Cで切断して見た時の部分断面図である。
【図5】駆動回路の構成の概略を示す回路図である。
【図6A】第1乃至第3ロック片を作動させたときの歯車との噛合状態を示す平面図であり、(a)は、歯車が基準位相にある場合の噛合状態を示しており、(b)は、歯車が基準位相から位相θ回動した場合の噛合状態を示しており、(c)は、歯車が基準位相から噛合位相θ回動した場合の噛合状態を示している。
【図6B】第1乃至第3ロック片を作動させたときの歯車との噛合状態を示す平面図であり、(d)は、歯車が基準位相から位相θ回動した場合の噛合状態を示しており、(e)は、歯車が基準位相から噛合位相θ回動した場合の噛合状態を示し、(f)は、ている。以下では、図1乃至3及び5も参照しつつ、昇降装置の動作について説明する。
【図7】歯車の位相と歯車の歯先が複数のロック片の歯溝に入り込める位置との関係を模式的に示す図である。(a)は、本実施形態のロック機構の第1乃至第3ロック片について示したものであり、(b)は、本実施形態のロック機構において、第2ロック片が設けられない場合について示したものであり、(c)は、他の実施形態のロック機構の第1及び第2ロック片について示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態である回転軸ロック機構1及び昇降装置2を説明する。
【0025】
図1に示す昇降装置2は、重さのあるワーク3の生産ラインに設けられ、前記生産ラインを流れるワーク3を昇降させることができるようになっている。昇降装置2は、前記ワーク3を載せるための昇降台4を備えている。この昇降台4の基端側には、ナット5が一体的に設けられ、このナット5には、それと共にボールねじ機構10を構成するねじ軸6が螺合されている。回転軸であるねじ軸6は、上下方向に立設されており、その上端部及び下端部が昇降装置2に備わるケーシング7に回転可能に軸支されている。また、ねじ軸6は、複数のギヤ8a、8b、8cからなる伝達機構8を介してモータ9に機械的に接続されており、モータ9を駆動することで回転するようになっている。
【0026】
モータ9を駆動してねじ軸6を回転させることで、ねじ軸6の回転方向に合わせてナット5がねじ軸6に沿って昇降し、昇降台4が昇降する。昇降台4を所定の高さまで昇降させた後も、モータ9を駆動し続けてねじ軸6にトルクを与え続け、ワーク3及び昇降台4の荷重によりねじ軸6が回転して昇降台4が下降しないようにしている。これにより、昇降台4の高さが前記所定の高さに保持される。また、昇降装置2では、モータ9による別の方法で昇降台4の高さを保持すべく回転軸ロック機構1が備わっている。回転軸ロック機構1(以下、単に「ロック機構1」ともいう)は、後述するロック片12,13,14によりねじ軸6の回転を阻止して昇降台4の昇降を防ぎ、昇降台4の高さを保つことができるようになっている。
【0027】
以下では、図2乃至4を参照しつつ、ロック機構1を説明する。ロック機構1は、ねじ軸6の下端部に固定された歯車11を備える。歯車11は、下端部が昇降装置2のケーシング7に回動可能に軸支されており、ねじ軸6と共に一体的に回転するようになっている。歯車11は、インボリュート歯形を有するインボリュート歯車である。歯車11は、複数の部分に分割可能であり、本実施形態では3つの歯車分割体11a,11b,11cに分割可能である。3つの歯車分割体11a,11b,11cは、外径寸法が略一致しており、上下方向に積層されて互いに固定され、平面視で各々の歯が互いに重なるように配置されている。このように構成される各歯車分割体11a,11b,11cには、第1乃至第3ロック片12,13,14が個別に対応付けて設けられている。
【0028】
第1乃至第3ロック片12,13,14は、平面視で互いに重なるように上下方向に積層されている。第1乃至第3ロック片12,13,14の先端部は、対応する歯車分割体11a,11b,11cに噛合可能になっており、歯車11に噛合する際の歯車11の角変位量、即ち噛合位相が異なっている。そのため、第1乃至第3ロック片12,13,14の先端部は、互いに外形寸法が異なっている。以下では、第1乃至第3ロック片12,13,14の先端部について詳細に説明する。
【0029】
第1ロック片12の先端部は、その幅方向両側にインボリュート歯形の一対の突起部12a,12bを有する谷型に形成されており、これら一対の突起部12a,12bの間に形成される歯溝12cに歯車分割体11aの歯が噛合可能になっている。第1ロック片12は、歯車分割体11aの歯が基準位相(図3参照)θ=0[rad]にあるときに前記歯溝12cに歯車分割体11aの歯が噛合するように配置されている。
【0030】
第2ロック片13の先端部は、インボリュート歯形の突起部13aを有する山型に形成されている。この突起部13aは、平面視で第1ロック片12の一方の突起部12aに対して距離dだけ中央側にずらして設けられている。ここで距離dは、歯車分割体11bの歯ピッチtをロック片の数z(本実施形態では、z=3)で割った値、即ちd=t/zである。このように距離dだけずらして設けられた第2ロック片13は、歯車分割体11bの歯が基準位相にあるときに歯車分割体11bと噛合できず(図4(a)参照)、歯車分割体11bの歯がピッチ円上で基準位相から距離dだけ周方向に移動したときに突起部13aが歯車分割体11bの歯溝に噛合する。
【0031】
即ち、ピッチ円の半径を半径rとすると、第2ロック片13は、
θ=t/(r×z)[rad] …(2)
歯車11が基準位相から式(2)で求められる噛合位相θずれた位相で歯車11と噛合するようになっている。本実施形態では、n=0であり、噛合位相θ=t/3rである。
【0032】
第3ロック片14の先端部は、インボリュート歯形の突起部14aを有する山型に形成されている。この突起部14aは、平面視で第1ロック片12の他方の突起部12bに対して距離dだけ中央側にずらして設けられている。このように距離dだけずらして設けられた第3ロック片14は、歯車分割体11cの歯が基準位相にあるときに歯車分割体11cと噛合できず(図4(a)参照)、歯車分割体11cの歯がピッチ円上で基準位相から距離dだけ周方向に移動したときに突起部14aが歯車分割体11cの歯溝に噛合する。
【0033】
即ち、ピッチ円の半径を半径rとすると、第2ロック片13は、
θ=t×2/(r×z)[rad] …(3)
基準位相から式(3)で求められる噛合位相θずれた位置で歯車11と噛合するようになっている。本実施形態では、n=0であり、噛合位相θ=2t/3rである。このように第1乃至第3ロック片12,13,14は、互いに異なる噛合位相θ,θ,θで歯車11に噛合できるようになっている。
【0034】
第1乃至第3ロック片12,13,14は、ばね部材15により歯車11と噛合可能なロック位置に向かって付勢されており、歯車11が噛合位相θ,θ,θにあるときに第1乃至第3ロックロック片12,13,14が歯車11に夫々噛合する。歯車11は、そこにロック片12,13,14が噛合することでロックされるようになっており、ねじ軸6は、歯車11がロックされることで回転しなくなる。
【0035】
また、歯車11が噛合位相θ,θ,θにないとき、付勢された第1乃至第3ロック片12,13,14のうち少なくとも1つのロック片12,13,14の突起部12a,12b,13a,14aが歯車11の歯に当接する等して係合して歯車11がロックされ、ねじ軸6が回転しないようになっている。
【0036】
このようにばね部材15の付勢により第1乃至第3ロック片12,13,14をロック位置に向かって移動させることで、歯車11の歯溝に入るロック片12,13,14を歯車11の歯にしっかりと当てることができ、ロック時のガタをなくすことができる。また、歯溝に入らないロック片12,13,14は、歯車11の歯先に当ると止まり、それ以上過度に押されることがない。それ故、前記ロック片12,13,14が前記歯先に衝突し損傷することを防ぐことができる。これにより、耐久性が向上する。
【0037】
また、第1乃至第3ロック片12,13,14には、各々に設けられるばね部材15の付勢力に抗してロック片12,13,14を歯車11から離すべくアクチュエータ16が夫々設けられている。アクチュエータ16は、所謂ピストンシリンダであり、シリンダケース16aとピストン16bとを備える。ピストン16bは、シリンダケース16a内に歯車11の径方向に進退可能に設けられて、先端部には、各ロック片12,13,14が設けられている。
【0038】
アクチュエータ16は、シリンダケース16aに空気等の流体を送ることでピストン16bをシリンダケース16a内へと縮退させ、各ロック片12,13,14を歯車11から離れた縮退位置へと戻すようになっている。また、シリンダケース16a内の流体を排出することで、ばね部材15のロック片12,13,14への付勢力によりピストン16bが伸張し、ロック片12,13,14をロック位置に向かって移動させる。なお、ロック片移動手段28は、ばね部材15とアクチュエータ16とによって構成される。
【0039】
このような動作をする、3つのアクチュエータ16には、駆動回路17が個別に接続されている。駆動回路17は、対応するアクチュエータ16に流体を供給し、またアクチュエータ16に供給された流体を排出できるようになっている。なお、本実施形態では、供給される流体は空気である。但し、流体は空気に限られず、作動油等であってもよい。
【0040】
以下では、図5を参照しつつ駆動回路17の詳細について説明する。駆動回路17の構成の概略を示す回路図である。駆動回路17は、ポンプ18を備えており、このポンプ18から空気を供給するようになっている。ポンプ18は、第1切換弁19に接続されている。第1切換弁19は、電磁及び手動で切替え可能な選択式の3ポートの流量方向切換弁であり、ポンプ18の他に、大気に開放された消音器20とアクチュエータ16とに接続されている。第1切換弁19は、消音器20を介してアクチュエータ16内を大気に開放しており、スプールの位置を切換えることでアクチュエータ16をポンプ18に接続できるようになっている。
【0041】
第1切換弁19とアクチュエータ16との間には、可変絞り21が介在し、この可変絞り21の上流側と下流側を繋ぐように並列的に逆止弁22が設けられている。逆止弁22は、第1切換弁19からアクチュエータ16への空気の流れを許容し、逆方向の流れを遮断するようになっている。また、第1切換弁19とアクチュエータ16との間には、可変絞り21及び逆止弁22と並列するようにバイパス通路24が形成され、そのバイパス通路24に第2切換弁23が介在している。
【0042】
第2切換弁23は、電磁及び手動で切替え可能な選択式の3ポートの流量方向切換弁である。第2切換弁23の2つのポートは、バイパス通路24に接続され、3つ目のポートは、封止されている。第2切換弁23は、バイパス通路24を遮断するように配置されており、スプールの位置を切換えることによりバイパス通路24を繋げて第1切換弁19とアクチュエータ16とを接続するようになっている。
【0043】
このように構成される駆動回路17では、第1切換弁19のスプールの位置を切換えることにより、ポンプ18からアクチュエータ16に空気が供給される。この際、ポンプ18からの空気は、逆止弁22を介してアクチュエータ16に供給されるため、アクチュエータ16に大量の空気が供給される。これにより、アクチュエータ16を素早く縮退させることができ、噛合するロック片12,13,14を歯車11から素早く離して、ロックを解除させることができる。
【0044】
第1切換弁19のスプールの位置を元に戻すと、アクチュエータ16が消音器20を介して大気に開放される。この際、逆止弁22では、アクチュエータ16から大気に放出される空気の流れを遮断するため、アクチュエータ16内の空気は可変絞り21を介して大気へと放出される。そのため、アクチュエータ16から大気へと放出される空気の流量が供給される場合に比べて少なくなり、アクチュエータ16をゆっくりと伸張する。これによりロック片12,13,14を歯車11にゆっくりと噛合させることができ、ロック片12,13,14が歯車11に衝突して損傷することを防ぐことができる。それ故、ロック機構1の耐久性が向上する。
【0045】
更に、第1切換弁19のスプールの位置を元に戻した状態で、第2切換弁23のスプールの位置を切換えると、バイパス通路24が繋がり、このバイパス通路24を介してアクチュエータ16内の空気が大気へと放出される。この際、大気へと放出される空気の流量は、第2切換弁23のスプールが元の位置にある場合に比べて多くなる。それ故、アクチュエータ16を素早く伸張させることができ、ロック片12,13,14を歯車11に素早く噛合させてロックさせることができる。
【0046】
このようにして動作する第1及び第2切換弁19,23並びにモータ9は、制御部25に電気的に接続されており(図1参照)、制御部25によってその駆動が制御されている。また、制御部25には、縮退検出センサ26と伸張検出センサ27とが電気的に接続されている。
【0047】
縮退検出センサ26及び伸張検出センサ27の2つの位置検出センサは、アクチュエータ16に設けられている。縮退検出センサ26及び伸張検出センサ27は、リミットスイッチから夫々成り、ピストン16bが縮退位置にあること及び伸張していることを夫々検出し、その旨の信号を制御部25に送信するようになっている。
【0048】
以下では、図1,2,3,5及び6を参照しつつ、昇降装置2の動作について説明する。
【0049】
制御部25は、昇降台4にワーク3が載り、アクチュエータ16のピストン16bが縮退位置にあることを縮退位置検出センサ26からの信号により検出すると、プログラムに基づいてモータ9を駆動して昇降台4を所定の高さまで上昇させる。このとき、駆動回路17の第1切換弁19に電流が流されてスプール位置が切換えられており、ピストン16bが縮退位置まで縮退させられている。その後、ねじ軸6が静止すると、制御部25は、第1切換弁19に流していた電流を止めてスプールの位置を元に戻し、各アクチュエータ16内の空気を大気放出させる。これによりピストン16bが伸張し、第1乃至第3ロック片12,13,14が歯車11の方へとゆっくりと移動する。やがて、第1乃至第3ロック片12,13,14のうち少なくとも1つが歯車11に噛合し、歯車11をロックしてねじ軸6の回動を規制する。
【0050】
なお、緊急時に歯車11をロックさせる場合、第2切換弁23のスプールの位置を切換えることにより、バイパス通路24を介してアクチュエータ16に空気が供給され、素早く歯車11をロックすることができる。
【0051】
歯車11に噛合する第1乃至第3ロック片12,13,14は、歯車11との相対位相、具体的には歯車11の歯との相対位相(角変位量)に応じて異なるが、本実施形態のようにインボリュート歯形の突起部12a,12b,13a,14aを有する複数のロック片12,13,14が設けられる場合、歯車11の歯がどのような位相にあっても、歯車11の歯溝に突起部12a,12b,13a,14aの少なくとも1つが歯車11の歯に当り、歯車11をロックすることができる。以下では、歯車11の歯の位相に係わらず、突起部12a,12b,13a,14aの少なくとも1つが歯車11の歯に当り、歯車11をロックできること説明する。
【0052】
図6(a)に示すように歯車11の歯が基準位相θにある場合、第1ロック片12の歯溝12cに歯車11(詳しくは、歯車分割体11a)の歯が嵌まり込んで歯車11をロックする。これにより、ねじ軸6の正及び逆方向の回転が阻止され、モータ9が駆動しなくなっても昇降台4の高さを保つことができる。
【0053】
次に、例えば、図6(b)に示すように歯車11の歯が基準位相θから位相θ(θ<θ<θ)だけずれている場合、歯車11の1つの歯に対して、その周方向一方側に第1ロック片12の他方の突起部12bが当り、周方向他方側に第2ロック片13の突起部13aが当っている。それ故、これらの突起部12b,13aによって歯車11がロックされる。これにより、ねじ軸6の正及び逆方向の回転が阻止され、モータ9が駆動しなくなっても昇降台4の高さを保つことができる。
【0054】
図6(c)に示すように歯車11の歯が基準位相θから位相θずれている場合、歯車11の歯溝(詳しくは、歯車分割体11bの歯溝)に第2ロック片13の突起部13aが嵌まり込んで歯車11をロックする。これにより、ねじ軸6の正及び逆方向の回転が阻止され、モータ9が駆動しなくなっても昇降台4の高さを保つことができる。
【0055】
また、図6(d)に示すように歯車11の歯が基準位相θから位相θ(θ<θ<θ)だけずれている場合、歯車11の歯溝に第2及び第3ロック片13、14の突起部13a,14aが入り、これら突起部13a,14aが歯車11の互いに隣接する歯に夫々当っている。それ故、突起部13a,14aによって歯車11の周方向一方及び他方への回転が阻止され、歯車11がロックされる。これにより、ねじ軸6の正及び逆方向の回転が阻止され、モータ9が駆動しなくなっても昇降台4の高さを保つことができる。
【0056】
図6(e)に示すように歯車11の歯が基準位相θから位相θずれている場合、歯車11の歯溝(詳しくは、歯車分割体11cの歯溝)に第3ロック片14の突起部14aが嵌まり込んで歯車11をロックする。これにより、ねじ軸6の正及び逆方向の回転が阻止され、モータ9が駆動しなくなっても昇降台4の高さを保つことができる。
【0057】
図6(f)に示すように歯車11の歯が基準位相θから位相θ(θ<θ<2π/z)だけずれている場合、歯車11の1つの歯に対して、その周方向一方側に第3ロック片14の他方の突起部14aが当り、周方向他方側に第1ロック片12の一方の突起部12aが当っている。それ故、これらの突起部12a,13aによって歯車11が挟持され、歯車11がロックされる。これにより、ねじ軸6の正及び逆方向の回転が阻止され、モータ9が駆動しなくなっても昇降台4の高さを保つことができる。
【0058】
更に、歯車11の歯が基準位相θから2π/zずれると、隣接する歯が基準位相θに配置される。それ故、隣接する歯が第1ロック片12の歯溝12cに嵌まり込み、歯車11をロックする。これにより、ねじ軸6の正及び逆方向の回転が阻止され、モータ9が駆動しなくなっても昇降台4の高さを保つことができる。
【0059】
このように、ロック機構11のロック片12,13,14は、歯車11の歯がどのような位相にあっても、歯車11をロックすることができる。これにより、昇降台4がどのような高さにあってもねじ軸6の回転を規制することができ、モータ9が作動しなくても昇降台4の高さを保つことが可能である。また、どのような位相でも歯車11をロックすることができるので、モータ9を停止させた場合の昇降台4の落下量を従来のものより小さくすることができる。これにより、昇降台4の突然の落下に起因するワーク3への衝撃を少なくすることができ、ワーク3の損傷を抑えることができる。
【0060】
特に、谷型の第1ロック片12と、山型の第2及び第3ロック片13,14を採用いることにより、第1乃至第3ロック片12,13,14をロック位置に移動させたとき、基準位相θ及び噛合位相θ,θ及びその近辺を除いた位相(例えば、位相θ,θ,θ)で歯車11を挟持して、歯車11をロックする。従って、歯車11が噛合位相θ,θ,θ以外の位相にあっても歯車11が強固にロックされ、昇降台4の落下を防ぐことができる。これにより昇降台4の落下に起因するワーク3への衝撃を少なくすることができ、ワーク3の損傷を抑えることができる。
【0061】
制御部25は、昇降台4を下降させる際、伸張検出センサ27からの信号によりピストン16bが伸張していることを検出すると、プログラムに基づいて第1切換弁23に流す電流を止めてスプールの位置を元に戻す。これにより、ポンプ18から逆止弁22を通ってアクチュエータ16に空気が供給され、ピストン16bが縮退位置へと素早く戻される。これにより、第1乃至第3ロック片12,13,14が歯車11から離され、歯車11のロックが解除される。制御部25は、縮退検出センサ26からの信号によりピストン16bが縮退位置にあることを検出すると、モータ9の出力を上げてねじ軸6を回転させて昇降台4を所定の位置まで下降させる。
【0062】
このようにして構成されるロック機構1は、ばね部材15によりロック片12,13,14がロック位置に付勢されているので、駆動回路17が作動しない場合、アクチュエータ16の空気を排出するだけで、ロック片12,13,14を動かして、歯車11をロックすることができる。即ち、駆動回路17が作動しない場合にも歯車11をロックすることができる。
【0063】
また、ロック片12,13,14が別々のばね部材15により付勢されているので、ロック片12,13,14の歯車11への押し付け力を略一致させることができ、歯車11に噛合しているロック片12,13,14により歯車11の拘束力が変わることを防ぐことができる。
【0064】
以下では、図7を参照しつつ、歯車11の位相と歯車11の歯先が複数のロック片の歯溝に入り込める位置との関係を説明する。ロック機構1では、第1乃至第3ロック片12,13,14の噛合位相がt/3rずつずれているので、第1乃至第3ロック片12,13,14の噛合位相が等間隔に配置される。そのため、理論的には、歯車11の歯先は、その位相に係わらず、各ロック片12,13,14の少なくとも何れか1つに対してそれらの突起部12a,12b,13a,14aの根元及びその近傍まで入って当たるようになっている(図7(a)の太線は、歯先が当たる部分)。そのため、第1乃至第3ロック片12,13,14による歯車11の拘束力を、歯車11の位相によらずに平坦化される。
【0065】
図7(b)に示すように、第2ロック片13を省いた場合、位相に係わらず歯車11の歯が第1及び第3ロック片12,14に当り(図7(b)の太線は、歯先が当たる部分)、歯車11をロックできる。しかし、位相θにおいて、歯車11の歯先と突起部12b,14aとの係合が浅い。そのため、歯車が位相θにあるとき、歯車11の拘束力が若干低くなってしまう。
【0066】
図7(c)に示すように、他の実施形態のロック機構1Aでは、第1及び第2ロック片12A,13Aの2つのロック片しか備えておらず、2つのロック片12A,13Aの噛合位相を互いにt/2rずれている。このような場合もまた、位相に係わらず歯車11の歯が第1及び第2ロック片12,13に当り(図7(c)の太線は、歯先が当たる部分)、歯車11をロックできる。しかし、位相θ,θにおいて、歯車11の歯先と突起部12b,13aとの係合が浅い。そのため、歯車が位相θ,θにあるとき、歯車11の拘束力が若干低くなってしまう。
【0067】
このように、ロック機構1のロック片12,13,14が2つであってもよく、歯車11をロックしてねじ軸6の回転を止めることができるが、上述のように3つであることが好ましい。ただし、ロック片の数が4つ以上でもよく、4つ以上であれば、3つの場合と同様の作用効果を得ることができる。4つ以上の場合もまた、各ロック片の噛合位相をt/(r×z)[rad]ずつ互いにずらすことが望ましい。
【0068】
また、ばね部材15及びアクチュエータ16は、から図示も各ロック片12,13,14に個別に設けられる必要はなく、各ロック片12,13,14を1つのばね部材15及びアクチュエータ16により動かしてもよい。
【0069】
本実施形態では、歯車11は、3つの歯車分割体11a,11b,11cに分割可能に構成されているけれども、一体成形であってもよい。また、第1乃至第3ロック片12,13,14は、平面視で歯車11の周方向において略同じ位置に配置されているけれども、前記周方向の異なる位置に配置してもよい。更に、本実施形態では、3つの歯車分割体11a,11b,11cの歯が平面視で重なるようになっているけれども、歯の位相が異なるように周方向にずらして設けてもよい。これにより、第1乃至第3ロック片12,13,14の突起部の外形を同じにして、噛合位相を変えることが可能である。これらの場合、本実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0070】
なお、本発明は、実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明は、回転軸の回転を阻止するための回転軸ロック機構、及びそれを備える昇降装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 ロック機構
2 昇降装置
6 ねじ軸
10 ボールねじ機構
11 歯車体
11a,11b,11c 歯車
12 第1ロック片
12a,12b 突起部
12c 歯溝
13 第2ロック片
13a 突起部
14 第3ロック片
14a 突起部
15 ばね部材
16 アクチュエータ
17 駆動回路
28 ロック片移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定され、インボリュート歯形を有する歯車と、
前記歯車に噛合して前記回転軸の回転を止めるインボリュート歯形の突起部を有する複数のロック片と、
前記複数のロック片を前記歯車と噛合するロック位置に向かって移動させるロック片移動手段とを備え、
前記複数のロック片は、前記歯車に噛合する時の前記歯車の噛合位相が夫々異なるように配置されている
ことを特徴とする回転軸ロック機構。
【請求項2】
前記複数のロック片は、前記歯車に噛合する時の前記歯車の噛合位相が互いにt/(r×z)(t:前記歯車のピッチ、r:前記歯車のピッチ円の半径、z:ロック片の数(z≦2))ずれるように配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の回転軸ロック機構。
【請求項3】
前記複数のロック片は、前記回転軸に平行に積層されており、
前記複数のロック片のうちの少なくとも1つのロック片は、一対の突起部を有し、これら2つの突起部の間に前記歯車の歯が噛合可能な溝を有する谷型のロック片であり、
他のロック片は、前記歯車の歯溝に噛合可能な前記突起部を有する山型のロック片である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転軸ロック機構。
【請求項4】
前記ロック片移動手段は、前記複数のロック片を付勢して前記ロック位置に向かって移動させる
ことを特徴とする請求項1乃至3に記載の回転軸ロック機構。
【請求項5】
前記ロック片移動手段は、前記歯車から引き離されたロック解除位置に前記複数のロック片を移動させるようになっており、前記ロック位置から前記ロック解除位置に前記ロック片を移動させる速度より前記ロック解除位置から前記ロック位置に前記ロック片を移動させる速度の方が遅くなっている
ことを特徴とする請求項1乃至4に記載の回転軸ロック機構。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1つに記載の回転軸ロック機構と、
前記回転軸ロック機構により回転を止めることができる前記回転軸を回転させることで昇降台を昇降可能なボールねじ機構とを備える
ことを特徴とする昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−190914(P2011−190914A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59720(P2010−59720)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】