説明

回転電機

【課題】コイルエンドを囲む冷却ジャケットからコイルのリード線を引き出す際に、冷媒が漏れることを抑制する回転電機を提供することである。
【解決手段】回転電機10は、ロータ12と、ステータコア20と、ステータコア20の軸方向の前端と後端に巻回の端部がコイルエンド23,24として突き出し、巻線の一端がリード線27,28,29として外部に引き出されるコイルと、ステータコア20の軸方向の前端と後端との間を液密として、内部にコイルエンド23,24と冷却オイル60を収容する空間を有する環状の冷却ジャケット30,31とを備え、冷却ジャケット30は、ステータコア20の軸方向に沿った端に位置するジャケット端面38に設けられ、リード線27,28,29が外部に引き出される開口部32,33,34と、当該開口部とリード線27,28,29との隙間を塞ぐシール部材35,36,37とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に係り、特に、ステータのコイルエンドを囲む冷却ジャケットを備える回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、ロータとステータから構成され、ステータコアに巻回されるコイルに流れる電流とロータ磁極との相互作用で回転する。ステータコアに巻回されるコイルは通電によって発熱するので、冷却が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、モータジェネレータの冷却構造として、ステータコアのスロットにコイルを収容してステータコア内周面に開口するスロットの開口部を閉塞し、ステータコアの前端と後端にそれぞれの端部から突き出すコイルエンドを囲んで液密的な環状空間を形成する冷却ジャケットを備える構造が開示されている。ここでは、冷却ジャケットの下方に冷媒の入口、上方に冷媒の出口を設けることで、冷媒が上に行くほど温度上昇して密度が小さく軽くなり、浮力を伴って上方への流れが加速され流れが淀まないと述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−323416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ステータコアから突出するコイルエンドを囲む冷却ジャケットを液密構造として冷媒を流して冷却を行うことが述べられている。ところで、ステータコアに巻回されるコイルは、通電するために外部に引き出されるリード線を有する。特許文献1では、冷却ジャケットを液密構造とするので、このリード線を冷却ジャケットから引き出す際のシールが複雑となることが考えられる。
【0006】
本発明の目的は、コイルエンドを囲む冷却ジャケットからコイルのリード線を引き出す際に、冷媒が漏れることを抑制する回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転電機は、ロータと、ロータの外側に配置されるステータコアと、ステータコアの軸方向に沿って設けられるスロット内に巻回され、ステータコアの軸方向の前端と後端に巻回の端部がコイルエンドとして突き出し、巻線の一端がリード線として外部に引き出されるコイルと、ステータコアの軸方向の前端と後端との間を液密として、内部にコイルエンドと冷却オイルを収容する空間を有する環状の冷却ジャケットとを備え、冷却ジャケットは、ステータコアの軸方向に沿った端に位置するジャケット端面に設けられ、コイルのリード線が外部に引き出される開口部と、開口部とリード線との隙間を塞ぐシール部材とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る回転電機において、複数のリード線が外部に引き出され、開口部およびシール部材は、リード線毎にそれぞれ設けられていることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る回転電機において、リード線の外部に引き出された部分に接続された配線材を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る回転電機によれば、ステータコアの軸方向に沿った端に位置するジャケット端面に設けられ、コイルのリード線が外部に引き出される開口部と、開口部とリード線との隙間を塞ぐシール部材とが設けられた冷却ジャケットを備えるので、リード線をステータコアの軸方向に沿って引き出すことができる。このため、回転電機が径方向に対して大型化することを防止でき、径方向の省スペース化を図ることができる。そして、シール部材により開口部とリード線との隙間が塞がれるため、冷却オイルが外部に漏れることはない。このように簡単な構造で、冷却オイルが漏れることなくコイルのリード線を外部に引き出すことができる。
【0011】
また、開口部およびシール部材を、リード線毎にそれぞれ設ける構成とすれば、例えば、各リード線を引き出すことが可能な範囲で開口部の開口面積を小さくすることができ、油密性を高めることができる。
【0012】
また、リード線の外部に引き出された部分に接続された配線材を備える構成とすれば、例えば、シール部材をリード線に嵌め込んで開口部に取り付けた後で配線材をリード線に接続できるため、配線材によりリード線と外部装置との電気的接続を可能にしながら、油密構造をスムーズに形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施の形態の回転電機におけるステータ部分の斜視図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の回転電機において、ステータの軸方向の端部側から見た様子を示す側面図である。
【図3】図1に示すステータを、その中心軸に沿ってXZ平面(X軸およびZ軸に平行な面)で切断した様子を示す断面図である。
【図4】図2のA‐A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、回転電機として、ステータコアにU相、V相、W相の3相コイルが巻回され、3本のリード線がコイルエンドから引き出される3相回転電機を述べるが、これは説明のための例示であって、これ以外の構成の回転電機であって、コイルエンドが冷却される一方で、コイルエンドから外部に引き出されるリード線がある回転電機であればよい。また、回転電機として車両搭載用のものを述べるが、これも説明のための例示であって、車両搭載用以外の用途の回転電機であってもよい。
【0015】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0016】
図1〜図3は、車両搭載用の3相回転電機10の中でステータ14の構成を抜き出して示す図で、図1は斜視図、図2はステータの軸方向の端部側から見た様子を示す側面図、図3はX軸およびZ軸に平行なXZ平面でステータ14を切断した断面図である。
図1〜図3に示されるように、回転電機10は、ロータ12と、ロータ12の外側に配置されるステータ14を備え、ステータ14は、ステータコア20と、コイルエンド23,24と、冷却ジャケット30,31を含んで構成される。回転電機10は、ロータ12およびステータ14の中心軸16の軸方向を水平方向として配置されることが好ましい。そのことを示すために、図1〜図4に、直交する3軸であるXYZ軸の方向を示した。ここで、Z軸方向は重力方向(図1の紙面の上方を上とする)で、X軸方向は中心軸16に沿った水平方向で、Y軸方向はX軸に直交する水平方向である。すなわち、回転電機10は、出力軸が水平方向に配置される横置き型である。
【0017】
ステータコア20は、ステータ14の本体部に相当する円筒状部材で、所定形状に打ち抜かれた電磁鋼板を複数枚積層して構成される。ステータコア20は、内周側から外周方向に径方向に延びるスロットと呼ばれる溝が周方向に沿って複数個設けられる。隣接するスロットの間の電磁鋼板部分はティースと呼ばれ、このティースにステータコイルが巻回される。3相回転電機10の場合、U相、V相、W相の3つの相に対応して、U相コイル、V相コイル、W相コイルが予め定められた巻線配置で、ステータコア20のティースの周り、すなわち、スロットの中に巻回される。
【0018】
コイルエンド23,24は、ステータコア20のティースの周りに巻回されたコイルが、ステータコア20の軸方向の両端における端部21,22から突き出た部分のことである。コイルエンド23,24は、ステータコア20の端部21,22の外側に、円環状に巻線が集合した形状を有する。
【0019】
リード線27,28,29は、3相回転電機10のU相コイル、V相コイル、W相コイルのそれぞれの一方端から外部に引き出される引出線である。リード線27,28,29はコイルエンド23,24のいずれか一方側から引き出される。図3に示されるように、ステータコア20の軸方向の両端の2つの端部21,22の内、−X方向の端部を前端、+X方向の端部を後端と呼ぶことにすると、ここでは、前端の端部21の側のコイルエンド23からリード線27,28,29が引き出されている。このように、ステータ14の軸方向の前端と後端を定義すると、図2は、前端の端部21側から見た側面図である。なお、U相コイル、V相コイル、W相コイルのそれぞれの他方端は相互に接続されて、中性点とされる。
【0020】
冷却ジャケット30は、ステータコア20の軸方向の前端の端部21との間を液密として、内部にコイルエンド23と冷却オイル60を収容する空間を有する環状部材である。この環状部材は、内部が中空のドーナツ形状を半分に切った円環状バス形状を有し、その半分に切ったところの開口部がステータコア20の軸方向の前端の端部21と向かい合い、円環状バスのくぼんだ底面壁と端部21とで囲まれた空間が、コイルエンド23と冷却オイル60の収容空間となる。
【0021】
冷却ジャケット30とステータコア20の軸方向の前端の端部21との間から冷却オイル60が漏れないように、冷却ジャケット30の円環状開口部とステータコア20の前端の端部21との間は、液密となるように密着して配置される。なお、ステータコア20の内周側は、上記のようにスロットの開口部があるので、このスロットの内周側の開口部も、適当なシール材で液密とされる。例えば、樹脂でスロットの内周側の開口部が塞がれる。
【0022】
冷却ジャケット31も同様に、ステータコア20の軸方向の後端の端部22との間を液密として、内部にコイルエンド24と冷却オイル60を収容する空間を有する環状部材である。
【0023】
冷却オイル60は、電気絶縁性を有する油で、コイルエンド23,24を冷却する機能と、複数の巻線が重なっているコイルエンド23,24において巻線相互間の絶縁を確保する機能を有する。冷却ジャケット30に設けられる供給部25は、冷却オイル60が冷却ジャケット30側に供給されるオイル流入口で、排出部26は、冷却ジャケット30側に供給された冷却オイル60が冷却ジャケット30とステータコア20のスロットと冷却ジャケット31を循環して外部に排出されるオイル流出口である。
【0024】
本実施形態では、供給部25および排出部26は、いずれも冷却ジャケット30のジャケット側面39に設けられている。ジャケット側面39は、冷却ジャケット30の円環形状に対応した曲面であり、中心軸16に平行な面である。なお、冷却オイル60は、コイルエンド23の部分に供給されれば冷却機能と絶縁確保機能を満たせるので、冷却オイル60の液面位置はコイルエンド23の上端までとすることができる。つまり、冷却オイル60は、リード線27,28,29が引き出される開口部32,33,34の形成位置よりも上方まで充填することができる。
【0025】
ここでは、冷媒である冷却オイル60として、車両に搭載されるトランスミッション装置を潤滑するATFと呼ばれる潤滑油を3相回転電機10にも循環させて用いることができる。その場合は、供給部25、排出部26は、図示されていないトランスミッション装置の潤滑油経路に接続される。
【0026】
図4をさらに参照して、冷却ジャケット30の構成を詳説する。図4は、図2のA‐A線断面図である。つまり、最下部から引き出されたリード線29に沿ってX軸およびY軸に平行なXY平面で冷却ジャケット30を切断した断面図である。
【0027】
図1〜図4に示すように、本実施形態では、冷却ジャケット30から3本のリード線27,28,29が外部に引き出されている。冷却ジャケット30は、リード線27,28,29を外部に引き出すための開口部32,33,34と、当該各開口部とリード線27,28,29との隙間を塞ぐシール部材35,36,37とを有する。つまり、開口部32,33,34およびシール部材35,36,37は、リード線27,28,29毎にそれぞれ設けられている。開口部32は、リード線27を外部に引き出すための貫通孔であり、シール部材35は、開口部32とリード線27との隙間を塞いで油密構造を形成する。同様に、開口部33およびシール部材36はリード線28に対応して設けられ、開口部34およびシール部材37はリード線29に対応して設けられる。
【0028】
開口部32,33,34は、ジャケット端面38に形成されている。ジャケット端面38とは、ステータコア20の軸方向に沿った端に位置する冷却ジャケット30の壁面である。また、ジャケット端面38は、ジャケット側面39および中心軸16に直交している。開口部32,33,34は、それぞれ独立に形成され、少なくともリード線27,28,29が挿通可能な孔寸法(開口面積)を有する。孔寸法は、油密性を高めるために、リード線27,28,29が挿通可能な範囲で小さい方が好ましいが、シール部材35,36,37の形状やサイズも考慮して設定されることが好ましい。
【0029】
リード線27,28,29は、冷却ジャケット30の内部に収容されるコイルエンド23から対応する開口部32,33,34を通って外部に引き出される。上記のように、開口部32,33,34はジャケット端面38に形成されるため、リード線27,28,29は、ステータコア20の軸方向に沿って外部に引き出される。リード線27,28,29は、例えば、直線状の部材が適用され、ステータコア20の軸方向に沿って真っ直ぐに引き出される。
【0030】
シール部材35,36,37は、リード線27,28,29を通す挿通孔をそれぞれ有し、開口部32,33,34にそれぞれ嵌め込まれる。シール部材35,36,37としては、開口部32,33,34とリード線27,28,29との隙間を塞ぎ、油密構造を形成可能な部材であれば特に限定されないが、耐油性の高い部材であることが好ましい。例えば、耐油性があり適度に弾性変形するグロメット等のゴム部材が好適である。
【0031】
シール部材35,36,37は、例えば、中心に挿通孔がそれぞれ形成された略円筒形状を呈し、その外径は開口部32,33,34の孔寸法よりもやや小さく設定される。そして、シール部材35,36,37は、開口部32,33,34に嵌め込む際に弾性変形する。また、挿通孔の孔寸法は、対応するリード線27,28,29のサイズ(径方向長さ)よりもやや小さく設定される。
【0032】
回転電機10は、リード線27,28,29の外部に引き出された部分に接続された配線材50,51,52を備える。冷却ジャケット30は、例えば、ステータコア20の軸方向に伸びたリード線27,28,29を、開口部32,33,34に通すようにしてステータコア20の前端の端部21に取り付けられる。そして、開口部32,33,34から外部に引き出された状態のリード線27,28,29に、シール部材35,36,37をそれぞれ嵌め込み、開口部32,33,34とリード線27,28,29との隙間を塞ぐ。つまり、配線材50,51,52は、シール部材35,36,37を取り付けた後に、リード線27,28,29に接続される。
【0033】
配線材50,51,52は、リード線27,28,29と図示しない端子台とを接続する部材である。配線材50,51,52を用いることで、ステータコア20の軸方向に真っ直ぐ引き出されたリード線27,28,29と、端子台との電気的な接続を容易にすることができる。リード線27,28,29と配線材50,51,52とは、例えば、溶接により接続される。
【0034】
本実施形態では、開口部32,33,34のうち、開口部32が最上部に、開口部34が最下部に、開口部33が開口部32,34の間に形成されており、開口部33と開口部32、開口部33と開口部34との間隔は等間隔である。開口部32,33,34の間隔は、特に限定されないが、配線材50,51,52が互いに接触することがないように設定されることが好ましい。
【0035】
以上のように、回転電機10の冷却ジャケット30は、ジャケット端面38に設けられた開口部32,33,34と、当該各開口部とリード線27,28,29との隙間を塞ぐシール部材35,36,37とを有する。これにより、リード線27,28,29がステータコア20の軸方向に沿って引き出され、回転電機10が径方向に対して大型化することを防止でき、径方向の省スペース化を図ることができる。また、シール部材35,36,37により油密構造が形成される。このように、油密性を確保しながら、リード線27,28,29を冷却ジャケット30の外部に引き出すことができる。
【0036】
上記実施形態は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜設計変更することができる。
例えば、上記施形態では、冷却ジャケット30とコイルエンド23が中心軸16を同心軸とする円環形状としたが、同心配置でなく、コイルエンド23に対して、冷却ジャケット30が上方に偏心配置されるものとしてもよい。また、冷却ジャケット30は円形以外の環状形状であってもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、開口部32,33,34およびシール部材35,36,37をリード線27,28,29毎にそれぞれ設けるものとして説明したが、リード線27,28,29を3本まとめて通す1つの開口部をジャケット端面38に形成し、当該開口部とリード線27,28,29との隙間を塞ぐ1つのシール部材を取り付けた形態としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る回転電機は、コイルエンドを冷却する回転電機に利用できる。
【符号の説明】
【0039】
10 回転電機、12 ロータ、14 ステータ、16 中心軸、20 ステータコア、21,22 端部、23,24 コイルエンド、25 供給部、26 排出部、27,28,29 リード線、30,31 冷却ジャケット、32,33,34 開口部、35,36,37 シール部材、38 ジャケット端面、39 ジャケット側面、50,51,52 配線材、60 冷却オイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
ロータの外側に配置されるステータコアと、
ステータコアの軸方向に沿って設けられるスロット内に巻回され、ステータコアの軸方向の前端と後端に巻回の端部がコイルエンドとして突き出し、巻線の一端がリード線として外部に引き出されるコイルと、
ステータコアの軸方向の前端と後端との間を液密として、内部にコイルエンドと冷却オイルを収容する空間を有する環状の冷却ジャケットと、
を備え、
冷却ジャケットは、
ステータコアの軸方向に沿った端に位置するジャケット端面に設けられ、コイルのリード線が外部に引き出される開口部と、
開口部とリード線との隙間を塞ぐシール部材と、
を有することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
複数のリード線が外部に引き出され、
開口部およびシール部材は、リード線毎にそれぞれ設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転電機において、
リード線の外部に引き出された部分に接続された配線材を備えることを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−244700(P2012−244700A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110593(P2011−110593)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】