説明

回転霧化塗装装置

【課題】回転霧化塗装装置において、制御エアとシェーピングエアの衝突により生ずる乱流の低減を図り、塗装パターンを安定化させることを目的とする。
【解決手段】制御エアをベルカップ3の回転方向と逆方向の回転方向成分を有するように噴出する複数の制御エア噴出孔5と、制御エア噴出孔5の外側に配され、シェーピングエアをベルカップ3の回転方向と逆方向の回転方向成分を有するように噴出する内心側の第1シェーピングエア噴出孔6、外心側の第2シェーピングエア噴出孔7と、制御エア噴出孔5と第1、第2シェーピングエア噴出孔6、7との間に配され、エアを連続環状に噴出する環状スリット孔42と、を設ける。シェーピングエアは、シェーピングエア噴出孔切換機構80により第1、第2シェーピングエア噴出孔6、7の一方から噴出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式の霧化塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転塗装装置の一例として塗装機本体の先端にベルカップを回転可能に設けたものが挙げられる。ベルカップ内に供給された塗料はベルカップの高速回転による遠心力によりベルカップの内面に薄膜状に広がり、回転塗装装置内の高電圧ケーブルを介して高電圧が印加される。塗料は前記遠心力によりベルカップの先端から微粒状となって噴霧され、さらに帯電していることから粒子同士が反発し合って塗料の微粒化が一層促進される。ベルカップから噴霧される塗料には前記遠心力により径方向に飛散する力が加わるが、塗装機本体のシェーピングエア噴出口から噴出されるシェーピングエアによりベルカップの前方に飛散するように絞りこまれて塗装パターン形成がなされる。塗料はシェーピングエアとの衝突により一層微粒化される。
【0003】
一方、シェーピングエアの量の増加に伴ってベルカップの前方には負圧が発生し、この負圧によりシェーピングエアがベルカップの回転軸心方向に引き寄せられて塗装パターンの径が必要以上に小さくなりやすいという問題がある。塗装パターンの径が小さくなると、塗料微粒子の密度が高くなるので、ワークにおいて塗着後の塗料タレが発生しやすくなる。また、塗装パターンの径が小さくなると、所定の面積を塗装するのに時間がかかるため、塗装のサイクルタイムが長くなる。
【0004】
このような問題に対し、シェーピングエアの噴出口をベルカップの回転方向と逆方向に傾斜させてシェーピングエアを螺旋状を描くように流し、その螺旋状軌跡を描く際に作用する遠心力が前記負圧に基づく吸引力に勝るようにすることで、ベルカップの回転軸心方向へ塗料微粒子の収束を抑制し、適正な塗装パターンを得る技術が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−101858号公報
【特許文献2】特開2008−93521号公報
【特許文献3】特開平7−24367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シェーピングエアの噴出口をベルカップの回転方向と逆方向に傾斜させた前記技術を用いて、小さな凹部を有するワークの表面を塗装しようとした場合、シェーピングエアの量を増やしても塗装パターンを絞れないため、つまり塗料微粒子の密度を高く設定できないため、塗料微粒子が凹部の底まで届かず未塗装の部位が生じやすいという問題がある。このような場合、従来では作業者が後工程で別途ハンドガンにより補完作業を行うなどの措置が採られていた。これに対し、特許文献3には2つのシェーピングエア(旋回エア流)を衝突させることにより塗装パターンを変更する技術が記載されており、これによれば塗装パターンの絞り込みも可能になるものと思われる。しかし、当該技術では、2つの旋回エア流が衝突したときに乱流が生じやすくなり、塗装パターンが安定しにくいおそれがある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するために創作されたものであり、制御エアとシェーピングエアを利用して塗装パターンを形成する回転霧化塗装装置において、制御エアとシェーピングエアの衝突により生ずる乱流の低減を図り、塗装パターンを安定化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、塗装機本体の前端に回転軸が軸支され、前記回転軸の先端に、塗料を前方にかつ径方向外側に向けて霧化する略円錐状のカップが取り付けられた回転霧化塗装装置において、前記塗装機本体の前端側に、前記回転軸の軸心回りに配され、制御エアを前記カップの回転方向と逆方向の回転方向成分を有するように噴出する複数の制御エア噴出孔と、前記回転軸の軸心回りであって前記制御エア噴出孔の外側に配され、シェーピングエアを前記カップの回転方向と逆方向の回転方向成分を有するように噴出する複数のシェーピングエア噴出孔と、前記回転軸の軸心回りであって前記制御エア噴出孔と前記シェーピングエア噴出孔との間に配され、エアを連続環状に噴出する環状スリット孔と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この回転霧化塗装装置によれば、制御エアおよびシェーピングエアは共に、カップの回転方向と逆方向の回転方向成分を有して制御エア噴出孔、シェーピングエア噴出孔から噴出し、カップの周囲に形成される螺旋状のエア流には遠心力が作用する。この遠心力がカップの前方に発生する負圧に打ち勝つことにより、微粒化された塗料がカップの回転軸心方向に収束することが防止され、適正な塗装パターンが取得される。
【0010】
このとき、制御エアとシェーピングエアとの間には環状スリット孔から噴出する連続環状のエア流がカーテンのように介在するため、制御エアとシェーピングエアとが衝突する際、前記連続環状のエア流が制御エアとシェーピングエアの衝突の緩衝効果を発揮し、乱流の発生を低減する。これにより、塗装パターンが安定し、適正な塗装パターンが維持される。
【0011】
また、本発明においては、前記環状スリット孔は、前記制御エア噴出孔の周面または前記シェーピングエア噴出孔の周面と連通するように形成されていることを特徴とする。
【0012】
この回転霧化塗装装置によれば、環状スリット孔が制御エア噴出孔の周面と連通するように形成されている場合には、環状スリット孔から噴出する連続環状のエア流は制御エアの流れに連なって形成される。また、環状スリット孔がシェーピングエア噴出孔の周面と連通するように形成されている場合には、環状スリット孔から噴出する連続環状のエア流はシェーピングエアの流れに連なって形成される。つまり、前者の場合には、連続環状のエア流に対して衝突するエアはシェーピングエアのみとなり、後者の場合には、連続環状のエア流に対して衝突するエアは制御エアのみとなるので、連続環状のエア流に制御エアとシェーピングエアの両方が衝突する場合に比して乱流の発生が低減される。これにより、塗装パターンが一層安定し、適正な塗装パターンが維持される。
【0013】
また、本発明においては、前記シェーピングエア噴出孔は、内心側の第1シェーピングエア噴出孔と外心側の第2シェーピングエア噴出孔とから構成され、前記塗装機の前端側には、シェーピングエアを供給するシェーピングエア環路が形成され、前記シェーピングエア環路を前記第1シェーピングエア噴出孔および前記第2シェーピングエア噴出孔のどちらか一方に切り換えて連通させるシェーピングエア噴出孔切換機構を備えることを特徴とする。
【0014】
この回転霧化塗装装置によれば、選択可能な2種類のシェーピングエア噴出孔を備えることにより、塗装対象のワークの形状等に合わせて塗装パターンを容易に変更できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、制御エアとシェーピングエアとを衝突させて塗装パターンを形成するにあたり、制御エアとシェーピングエアの衝突により生ずる乱流の低減が図れ、所望の塗装パターンを維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る回転霧化塗装装置の側断面図である。
【図2】本発明に係る回転霧化塗装装置の平面図である。
【図3】第1リング部材の平面図である。
【図4】第4リング部材の側断面図である。
【図5】第3リング部材の側面図である。
【図6】第2リング部材の側面図である。
【図7】第1リング部材の側面図(一部破断)である。
【図8】第5リング部材の側断面図である。
【図9】第5リング部材の平面図(一部破断)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以降、図1における上下方向を前後方向というものとして説明する。図1において、本実施形態に係る回転霧化塗装装置1は、内部に回転軸4が同軸上に軸支された筒形状の装置本体(塗装機本体)2を備える。回転軸4の前端周りは装置本体2の前端面から突出しており、その先端にはベルカップ3が取り付けられている。ベルカップ3は、回転軸4に対する取付側が縮径した円錐台形状を呈している。塗料は、回転軸4内に挿通された塗料供給管路(図示せず)を通じてベルカップ3に供給される。ベルカップ3に供給された塗料はベルカップ3の高速回転による遠心力によりベルカップ3の内面に薄膜状に広がり、高電圧が印加されたうえで前記遠心力によりベルカップ3の先端から微粒状となって噴霧される。噴霧された塗料はシェーピングエアによって絞り込まれ、これにより塗装パターンが形成される。
【0018】
装置本体2の前端面には、制御エア噴出孔5および第1シェーピングエア噴出孔6、第2シェーピングエア噴出孔7を形成するリング部材群8が取り付けられている。制御エア噴出孔5および第1シェーピングエア噴出孔6、第2シェーピングエア噴出孔7はベルカップ3の先端よりも後方側に位置する。リング部材群8は5つのリング部材(第1リング部材9〜第5リング部材13)から構成される。
【0019】
第1リング部材9は、その外径寸法が装置本体2のそれと同一であり、底面が装置本体2の前端面に接面する態様で装置本体2と同軸に固定されている。第1リング部材9の内周面は、装置本体2の前端面から垂直に立ち上がり、かつ、第1ねじ部14が螺設された第1垂直壁面15として形成されている。図7も参照して、第1リング部材9には、前記第1垂直壁面15の前端からテーパ面を介して形成される第1平面部16と、第1平面部16の外周縁から前方に向かうにしたがい外方に傾斜する第1傾斜面18と、第1傾斜面18の前端から外方に向けて形成される第2平面部17と、第2平面部17の外周縁から前方に向けて形成される第2垂直壁面19と、第2垂直壁面19の前端から外方に向けて形成される第3平面部21と、第3平面部21の外周縁から前方に向けて形成される第3垂直壁面22と、第3垂直壁面22の前端から後方に向かうにしたがい外方に傾斜する第2傾斜面23と、第2傾斜面23の後端から外方に向けて形成される第4平面部24と、第4平面部24の外周縁から後方に向かうにしたがい外方に傾斜する第3傾斜面25と、第3傾斜面25の後端から外方に向けて形成される第5平面部26と、第5平面部26の外周縁から後方に向かうにしたがい外方に傾斜する第4傾斜面27と、第4傾斜面27の後端から第1リング部材9の外周面である第4垂直壁面30の前端まで形成される第6平面部29と、が形成されている。各平面部16、17、21、24、26、29は、回転軸4の軸方向と直交する環状面として形成される。第2垂直壁面19、第4傾斜面27のそれぞれ後端側には第2ねじ部20、第3ねじ部28が螺設されている。
【0020】
第1リング部材9の底面には各々矩形断面を呈した2つの環状溝が形成されている。内側の環状溝は、概ね第1平面部16から第2平面部17の内周寄りまでの範囲の後方に位置しており、溝の開口部が装置本体2の前端面に閉塞されることで、矩形閉断面の制御エア環路31を構成する。制御エア環路31は、図1に示すように、装置本体2に形成されたエア供給路33と通じている。そして、図1および図3において、第1平面部16には、その全周にわたり、制御エア環路31に連通する複数の制御エア吐出孔35が回転軸4の軸心回りに等間隔で開設されている。なお、図7は制御エア吐出孔35の非開設部位を断面視した図であるため、制御エア吐出孔35は図示していない。
【0021】
一方、図1において、第1リング部材9の底面に形成された外側の環状溝には、断面コ字形を呈した第5リング部材13が後記するラックギア55およびピニオンギア58のギア機構により第1リング部材9に対して回動可能となるように遊嵌されている。第5リング部材13の開口部は装置本体2の前端面に閉塞され、これにより第5リング部材13内の空間は矩形閉断面を呈したシェーピングエア環路32を構成する。シェーピングエア環路32は、装置本体2に形成されたエア供給路34と通じている。
【0022】
図1および図3において、第3平面部21には、その全周にわたり、シェーピングエア環路32に連通する複数の第1シェーピングエア吐出孔36が回転軸4の軸心回りに等間隔で開設されている。さらに、第5平面部26には、その全周にわたり、シェーピングエア環路32に連通する複数の第2シェーピングエア吐出孔52が回転軸4の軸心回りに等間隔で開設されている。具体的には、第5リング部材13の内周壁には、第1リング部材9に形成された各第1シェーピングエア吐出孔36とシェーピングエア環路32とを連通可能な連通孔61Aが複数穿設され、第5リング部材13の前壁には、第1リング部材9に形成された各第2シェーピングエア吐出孔52とシェーピングエア環路32とを連通可能な連通孔61Bが複数穿設されている。ラックギア55およびピニオンギア58のギア機構の作動により第5リング部材13が回転し、連通孔61Aが第1シェーピングエア吐出孔36とシェーピングエア環路32とを連通する位置にあるときには、連通孔61Bは第2シェーピングエア吐出孔52とシェーピングエア環路32とを非連通にする位置となり、逆に連通孔61Bが第2シェーピングエア吐出孔52とシェーピングエア環路32とを連通する位置にあるときには、連通孔61Aは第1シェーピングエア吐出孔36とシェーピングエア環路32とを非連通にする位置となる。なお、図1では便宜上、第1シェーピングエア吐出孔36および第2シェーピングエア吐出孔52を点線にて示してある。
【0023】
第2シェーピングエア吐出孔52は、図7に示す第4傾斜面27に対し平行であって孔の外側が第4傾斜面27上で溝状に開放されるように、かつ、図2に示すように、平面視して、シェーピングエア環路32から第5平面部26に向かう孔の穿設方向がベルカップ3の回転方向と逆方向の成分を含むように傾斜状に開設されている。
【0024】
図1において、第1リング部材9には、第1垂直壁面15の第1ねじ部14に対しねじ部38が螺合することにより、第2リング部材10が取り付けられる。第2リング部材10は、図6に示すように、外周に前記ねじ部38が螺設された基端筒部37と、基端筒部37の前端から前方に向かうにしたがい外周が拡径形成される円錐筒部39と、円錐筒部39の前端から段差をもって形成され、前方に向かうにしたがい外周が拡径形成される大径円錐筒部40と、から構成される。図1に示すように、第1ねじ部14とねじ部38との螺合により第2リング部材10が第1リング部材9に取り付けられた際、円錐筒部39と大径円錐筒部40との間に形成される環状の段差面は第1平面部16を覆うように接面する。また、大径円錐筒部40の外周面は第1リング部材9の第1傾斜面18と平行であり、大径円錐筒部40の外周面と第1傾斜面18との間には環状の隙間が形成される。当該環状の隙間は図2に示すように第1環状スリット孔42を構成するものであり、第1環状スリット孔42の下端は制御エア吐出孔35に連通している。
【0025】
図6に示すように、大径円錐筒部40の外周面には前後に貫通する孔部41が円周方向に等間隔で開設されている。孔部41は、大径円錐筒部40の外周面に対し平行であって孔の外側が大径円錐筒部40の外周面上で切り欠き溝状に開放されるように(つまり、孔の外側の周面が前記第1環状スリット孔42と連通するように)、かつ、図2に示すように、平面視して、前方に向かう孔の穿設方向がベルカップ3の回転方向と逆方向の成分を含むように傾斜状に開設されている。そして、図1に示すように、第1ねじ部14とねじ部38との螺合により第2リング部材10が第1リング部材9に取り付けられた際、孔部41の後端は第1平面部16に開設された制御エア吐出孔35と連通する。すなわち、孔部41の孔数は制御エア吐出孔35のそれと同じである。孔部41は、回転軸4の軸心回りに配される制御エア噴出孔5を構成する。以上より、制御エアは、ベルカップ3の回転方向と逆方向の回転方向成分を有して制御エア噴出孔5から噴出する。また、制御エアは、ベルカップ3の径方向外側の方向成分を有して制御エア噴出孔5から噴出する。
【0026】
第1リング部材9には、第2垂直壁面19の第2ねじ部20に対しねじ部44が螺合することにより、第3リング部材11が取り付けられる。第3リング部材11は、図5に示すように、外周に前記ねじ部44が螺設された基端筒部43と、基端筒部43の前端から段差をもって形成される大径筒部45と、から構成される。第3リング部材11の内周面は前方に向かうにしたがい拡径するテーパ面46として形成される。図1において、第2ねじ部20とねじ部44との螺合により第3リング部材11が第1リング部材9に取り付けられた際、基端筒部43の底面は第2平面部17を覆うように接面するとともに、基端筒部43と大径筒部45との間に形成される環状の段差面は第3平面部21を覆うように接面する。また、大径筒部45の外周面は第1リング部材9の第3垂直壁面22(図7)と平行であり、大径筒部45の外周面と第3垂直壁面22との間には環状の隙間が形成される。当該環状の隙間は図2に示すように第2環状スリット孔48を構成するものであり、第2環状スリット孔48の後端は第1シェーピングエア吐出孔36に連通している。さらに、図1において、テーパ面46と第1傾斜面18とは互いに同一の傾斜角度であり、第3リング部材11が第1リング部材9に取り付けられた際、テーパ面46と第1傾斜面18は面一に連なる。
【0027】
図5において、大径筒部45の外周面には前後に貫通する孔部47が円周方向に等間隔で開設されている。孔部47は、大径筒部45の外周面に対し平行であって孔の外側が大径筒部45の外周面上で切り欠き溝状に開放されるように(つまり、孔の外側の周面が前記第2環状スリット孔48と連通するように)、かつ、図2に示すように、平面視して、前方に向かう孔の穿設方向がベルカップ3の回転方向と逆方向の成分を含むように傾斜状に開設されている。そして、図1に示すように、第2ねじ部20とねじ部44との螺合により第3リング部材11が第1リング部材9に取り付けられた際、孔部47の後端は第3平面部21に開設された第1シェーピングエア吐出孔36と連通する。すなわち、孔部47の孔数は第1シェーピングエア吐出孔36のそれと同じである。孔部47は、回転軸4の軸心回りであって制御エア噴出孔5の外側に配される第1シェーピングエア噴出孔6を構成する。以上より、シェーピングエアは、ベルカップ3の回転方向と逆方向の回転方向成分を有して第1シェーピングエア噴出孔6から噴出する。また、シェーピングエアは、図1から判るように側面視したときの噴出方向が回転軸4の軸方向に沿うように第1シェーピングエア噴出孔6から噴出する。
【0028】
図1において、第1リング部材9には、第4傾斜面27の第3ねじ部28に対しねじ部60が螺合することにより、第4リング部材12が取り付けられる。図4に示すように、第4リング部材12は、その外周面、内周面ともに前方に向かうにしたがい縮径するテーパ面として形成されている。特に第4リング部材12の内周面は同一傾斜角度の2段のテーパ面49、50として形成されており、後段のテーパ面50に前記ねじ部60が螺設されている。図1において、第3ねじ部28とねじ部60との螺合により第4リング部材12が第1リング部材9に取り付けられた際、第4リング部材12の底面は第6平面部29を覆うように接面するとともに、前段のテーパ面49(図4)と後段のテーパ面50(図4)との間に形成される環状の段差面は第5平面部26を覆うように接面する。また、前段のテーパ面49は第1リング部材9の第3傾斜面25(図7)と平行であり、テーパ面49と第3傾斜面25との間には環状の隙間が形成される。当該環状の隙間は図2に示すように第3環状スリット孔54を構成するものであり、第3環状スリット孔54の後端は第2シェーピングエア吐出孔52に連通している。
【0029】
第4リング部材12において、前段のテーパ面49には前後に貫通する孔部51が円周方向に等間隔で開設されている。孔部51は、テーパ面49に対し平行であって孔の内側がテーパ面49上で切り欠き溝状に開放されるように(つまり、孔の内側の周面が前記第3環状スリット孔54と連通するように)、かつ、図2に示すように、平面視して、前方に向かう孔の穿設方向がベルカップ3の回転方向と逆方向の成分を含むように傾斜状に開設されている。そして、図1に示すように、第3ねじ部28とねじ部60との螺合により第4リング部材12が第1リング部材9に取り付けられた際、孔部51の後端は第5平面部26に開設された第2シェーピングエア吐出孔52と連通する。すなわち、孔部51の孔数は第2シェーピングエア吐出孔52のそれと同じである。孔部51は、回転軸4の軸心回りであって制御エア噴出孔5の外側かつ第1シェーピングエア噴出孔6の外側に配される第2シェーピングエア噴出孔7を構成する。以上より、シェーピングエアは、ベルカップ3の回転方向と逆方向の回転方向成分を有して第2シェーピングエア噴出孔7から噴出する。また、シェーピングエアは、ベルカップ3の径方向内側の方向成分を有して第2シェーピングエア噴出孔7から噴出する。
【0030】
第5リング部材13の周面の一部には図2にも示すように装置本体2の軸心回りの円周方向に沿って形成されるラックギア55が固設されており、第1リング部材9にはこのラックギア55を外部に突出させるための開口56が形成されている。第1リング部材9の外周面には前記開口56を覆うようにハウジング57が取り付けられており、ハウジング57内においては、前後方向に沿う回転軸59に軸着されたピニオンギア58がラックギア55に噛合している。回転軸59は不図示の駆動源の出力軸に接続されている。第5リング部材13と、ラックギア55およびピニオンギア58のギア機構とは、シェーピングエア環路32を第1シェーピングエア噴出孔6および第2シェーピングエア噴出孔7のどちらか一方に切り換えて連通させるシェーピングエア噴出孔切換機構80を構成する。
【0031】
「作用」
「第1シェーピングエア噴出孔6を用いる場合」
以上の回転霧化塗装装置1を用いて例えば平面部の塗装を行う場合、前記ピニオンギア58およびラックギア55のギア機構の作動により第5リング部材13を図9に示す位置で回転停止させる。この位置では、連通孔61Aが第1シェーピングエア吐出孔36とシェーピングエア環路32とを連通し、連通孔61Bは第2シェーピングエア吐出孔52とシェーピングエア環路32とを非連通状態とする。したがって、図1において、エア供給路33、34を介してエアが制御エア環路31およびシェーピングエア環路32に供給されると、制御エア環路31に供給されたエアについては制御エア吐出孔35を通じて制御エア噴出孔5および第1環状スリット孔42から制御エアとして噴出し、シェーピングエア環路32に供給されたエアについては連通孔61Aおよび第1シェーピングエア吐出孔36を通じて第1シェーピングエア噴出孔6および第2環状スリット孔48からシェーピングエアとして噴出する。
【0032】
制御エアおよびシェーピングエアは共に、ベルカップ3の回転方向と逆方向の回転方向成分を有して制御エア噴出孔5、第1シェーピングエア噴出孔6から噴出するので、ベルカップ3の周囲に形成される螺旋状のエア流には遠心力が作用する。この遠心力がベルカップ3の前方に発生する負圧に打ち勝つことにより、微粒化された塗料がベルカップ3の回転軸心方向に収束することが防止され、適正な塗装パターンが取得される。
【0033】
このとき、制御エアとシェーピングエアとの間には第1環状スリット孔42から噴出する連続環状のエア流がカーテンのように存在するため、制御エアとシェーピングエアとが衝突する際、前記連続環状のエア流が制御エアとシェーピングエアの衝突の緩衝効果を発揮し、乱流の発生を低減する。これにより適正な塗装パターンが維持される。シェーピングエアの外側にも、第2環状スリット孔48から噴出する連続環状のエア流が存在するため、制御エアとの衝突によるシェーピングエアの径方向外側への膨らみも第2環状スリット孔48から噴出する連続環状のエア流により抑制される。
【0034】
「第2シェーピングエア噴出孔7を用いる場合」
次に、回転霧化塗装装置1を用いて例えば表面に小さな凹部を有するワークの塗装を行う場合、ピニオンギア58およびラックギア55のギア機構の作動により、第5リング部材13を、連通孔61B(図8)が第2シェーピングエア吐出孔52とシェーピングエア環路32とを連通状態とし、連通孔61A(図8)は第1シェーピングエア吐出孔36とシェーピングエア環路32とを非連通状態とする位置で回転停止させる。したがって、エア供給路33、34を介してエアが制御エア環路31およびシェーピングエア環路32に供給されると、制御エア環路31に供給されたエアについては制御エア吐出孔35を通じて制御エア噴出孔5および第1環状スリット孔42から制御エアとして噴出し、シェーピングエア環路32に供給されたエアについては連通孔61Bおよび第2シェーピングエア吐出孔52を通じて第2シェーピングエア噴出孔7および第3環状スリット孔54からシェーピングエアとして噴出する。
【0035】
制御エアおよびシェーピングエアは共に、ベルカップ3の回転方向と逆方向の回転方向成分を有して制御エア噴出孔5、第2シェーピングエア噴出孔7から噴出するので、ベルカップ3の周囲に形成される螺旋状のエア流には遠心力が作用する。この遠心力がベルカップ3の前方に発生する負圧に打ち勝つことにより、微粒化された塗料がベルカップ3の回転軸心方向に収束することが防止され、適正な塗装パターンが取得される。
【0036】
シェーピングエアは、ベルカップ3の径方向内側の方向成分を有して第2シェーピングエア噴出孔7から噴出するため、塗装パターンの縮径化が可能となり、塗料微粒子の密度が高くなって、塗料微粒子が塗装面の凹部の底まで容易に到達する。このとき、制御エアのエア流に対しての第2シェーピングエア噴出孔7から噴出するシェーピングエアのエア流の交差角度は、制御エアのエア流に対しての第1シェーピングエア噴出孔6から噴出するシェーピングエアのエア流の交差角度よりも大きいため、制御エアと第2シェーピングエア噴出孔7からのシェーピングエアとが衝突した際の乱流は、制御エアと第1シェーピングエア噴出孔6からのシェーピングエアとが衝突した際の乱流よりも大きなものとなる。しかし、制御エアとシェーピングエアとの間には、第1環状スリット孔42から噴出する連続環状のエア流に加え、第3環状スリット孔54から噴出する連続環状のエア流も存在するため、制御エアとシェーピングエアとが衝突する際、前記2つの連続環状のエア流が制御エアとシェーピングエアの衝突の緩衝効果を発揮し、乱流の発生を低減して、適正な縮径の塗装パターンの取得を可能とする。
【0037】
以上のように、装置本体2の前端側に、回転軸4の軸心回りに配され、制御エアをベルカップ3の回転方向と逆方向の回転方向成分を有するように噴出する複数の制御エア噴出孔5と、回転軸4の軸心回りであって制御エア噴出孔5の外側に配され、シェーピングエアをベルカップ3の回転方向と逆方向の回転方向成分を有するように噴出する複数のシェーピングエア噴出孔(第1シェーピングエア噴出孔6、第2シェーピングエア噴出孔7)と、回転軸4の軸心回りであって制御エア噴出孔5と第1シェーピングエア噴出孔6、第2シェーピングエア噴出孔7との間に配され、エアを連続環状に噴出する環状スリット孔(第1シェーピングエア噴出孔6からシェーピングエアを噴出する態様においては第1環状スリット孔42を指し、第2シェーピングエア噴出孔7からシェーピングエアを噴出する態様においては第1環状スリット孔42、第3環状スリット孔54の少なくとも一方を指す)と、を備える構成とすれば、制御エアとシェーピングエアとの間には少なくとも第1環状スリット孔42から噴出する連続環状のエア流がカーテンのように介在するため、制御エアとシェーピングエアとが衝突する際、連続環状のエア流が制御エアとシェーピングエアの衝突の緩衝効果を発揮し、乱流の発生を低減する。これにより、適正な塗装パターンが維持される。
【0038】
また、例えば第1環状スリット孔42を制御エア噴出孔5の周面と(大径円錐筒部40の外周面上で)連通するように形成すれば、第1環状スリット孔42から噴出する連続環状のエア流は制御エア噴出孔5から噴出する制御エアの流れに連なって形成される。したがって、連続環状のエア流に対して衝突するエアはシェーピングエアのみとなり、連続環状のエア流に制御エアとシェーピングエアの両方が衝突する場合に比して乱流の発生を低減できる。同様に、第3環状スリット孔54を第2シェーピングエア噴出孔7の周面と(テーパ面49上で)連通するように形成すれば、第3環状スリット孔54から噴出する連続環状のエア流は第2シェーピングエア噴出孔7から噴出するシェーピングエアの流れに連なって形成される。したがって、連続環状のエア流に対して衝突するエアは制御エアのみとなり、連続環状のエア流に制御エアとシェーピングエアの両方が衝突する場合に比して乱流の発生を低減できる。
【0039】
さらに、本実施形態のようにシェーピングエア噴出孔を内心側の第1シェーピングエア噴出孔6と外心側の第2シェーピングエア噴出孔7とから構成し、装置本体2の前端側にはシェーピングエアを供給するシェーピングエア環路32を形成し、シェーピングエア環路32を第1シェーピングエア噴出孔6および第2シェーピングエア噴出孔7のどちらか一方に切り換えて連通させるシェーピングエア噴出孔切換機構80を備える構成とすれば、選択可能な2種類のシェーピングエア噴出孔を備えることにより、塗装対象のワークの形状等に合わせて塗装パターンを容易に変更できる。
【符号の説明】
【0040】
1 回転霧化塗装装置
2 装置本体(塗装機本体)
3 ベルカップ(カップ)
4 回転軸
5 制御エア噴出孔
6 第1シェーピングエア噴出孔
7 第2シェーピング噴出孔
31 制御エア環路
32 シェーピングエア環路
42 第1環状スリット孔(環状スリット孔)
54 第3環状スリット孔(環状スリット孔)
80 シェーピングエア噴出孔切換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装機本体の前端に回転軸が軸支され、前記回転軸の先端に、塗料を前方にかつ径方向外側に向けて霧化する略円錐状のカップが取り付けられた回転霧化塗装装置において、
前記塗装機本体の前端側に、
前記回転軸の軸心回りに配され、制御エアを前記カップの回転方向と逆方向の回転方向成分を有するように噴出する複数の制御エア噴出孔と、
前記回転軸の軸心回りであって前記制御エア噴出孔の外側に配され、シェーピングエアを前記カップの回転方向と逆方向の回転方向成分を有するように噴出する複数のシェーピングエア噴出孔と、
前記回転軸の軸心回りであって前記制御エア噴出孔と前記シェーピングエア噴出孔との間に配され、エアを連続環状に噴出する環状スリット孔と、
を備えることを特徴とする回転霧化塗装装置。
【請求項2】
前記環状スリット孔は、前記制御エア噴出孔の周面または前記シェーピングエア噴出孔の周面と連通するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転霧化塗装装置。
【請求項3】
前記シェーピングエア噴出孔は、内心側の第1シェーピングエア噴出孔と外心側の第2シェーピングエア噴出孔とから構成され、
前記塗装機の前端側には、シェーピングエアを供給するシェーピングエア環路が形成され、
前記シェーピングエア環路を前記第1シェーピングエア噴出孔および前記第2シェーピングエア噴出孔のどちらか一方に切り換えて連通させるシェーピングエア噴出孔切換機構を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回転霧化塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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