固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定方法及び光学測定装置
【課題】 固体の粗面の見掛けの屈折率を測定することが可能な光学測定方法及び光学測定装置を提供すること。
【解決手段】 直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を試料30の粗面32に入射させる光照射部(光源10及び偏光子20)と、試料30の粗面32で反射の法則に従って反射した反射光の強度を検出する光検出部40と、試料30を回転させることで前記直線偏光の入射角度φを変化させる回転駆動部と、前記反射光の強度が最小になる入射角度φminと、試料30の粗面32と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、試料30の粗面32の見掛けの屈折率ncsを算出する演算処理を行う演算処理部72とを含む。
【解決手段】 直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を試料30の粗面32に入射させる光照射部(光源10及び偏光子20)と、試料30の粗面32で反射の法則に従って反射した反射光の強度を検出する光検出部40と、試料30を回転させることで前記直線偏光の入射角度φを変化させる回転駆動部と、前記反射光の強度が最小になる入射角度φminと、試料30の粗面32と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、試料30の粗面32の見掛けの屈折率ncsを算出する演算処理を行う演算処理部72とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定方法及び光学測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、代表的な屈折率測定法として、最小偏角法、臨界角法、エリプソメトリー(偏光解析法)、液浸法などが知られている。最小偏角法(非特許文献1参照)は、プリズムに加工されたサンプルの頂角と、最小偏角を測定して屈折率を求めるもので、最も精密に屈折率を測定することができる。臨界角法(非特許文献2参照)は、液体の屈折率測定に適している。サンプル液の屈折率は、参照プリズムに対する相対値として求められる。エリプソメトリー(非特許文献3参照)は、既知の屈折率をもつ基板上のサンプル薄膜にp偏光とs偏光を入射し、反射による偏光状態の変化から、薄膜の厚さ、屈折率および消衰係数などを求める手法である。液浸法(非特許文献4参照)は、粉末状のサンプルと屈折率が段階的に変化した多数の透明液体を用いて、これらの液体に粉末サンプルを混ぜ、サンプルの輪郭が最も見にくい液体を選択することで、屈折率を求める方法である。この方法では、サンプルを鏡面加工せずに屈折率を測定できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Everitt Charles, "Refraction." The Encyclopedia Britannica, 11th Ed. vol. 23, The Encyclopedia Britannica Company, New York (1911) 26-27.
【非特許文献2】Tilton, Leroy W., and John K. Taylor, "Refractive Index Measurement," in Physical Methods in Chemical Analysis Vol. 1, 2nd ed. ; Walter G. Berl, editor (1961) 411-62. (E ABBE, "Carl's Repertorium der Physik", Vol. 15, 643 (1879). C. PULFRICH, "Zeitschrift fuer Instrumentenkunde", Vol. 18, 107 (1898))
【非特許文献3】藤原裕之,分光エリプソメトリー,丸善株式会社2003,7-124.
【非特許文献4】都城秋穂,久城育夫,「岩石学I」,共立出版 2000,pp.90-93.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体粗面の見掛けの屈折率は、固体本来の屈折率とそれを取り巻く気体の屈折率から定められ、固体粗面に入射する光が粗面において反射する際に実際に感じる屈折率のことである。見掛けの屈折率は、物質の質感や光沢など人間の感性と結びつくため、画質評価、分光画像処理、コンピュータグラフィックス、化粧品の定量的評価など多方面で利用される。
【0005】
最小偏角法は、サンプルをプリズムに加工するため、非破壊計測が前提である粗面の見掛けの屈折率測定には適さない。また、臨界角法は、透明液体の屈折率測定に適した屈折率測定法であり、最小偏角法と同様に粗面固体の見掛けの屈折率を測定することはできない。また、エリプソメトリーは、光学研磨や蒸着などにより表面をフラットにした固体あるいは透明液体の計測に適しており、非破壊計測が前提である粗面固体の見掛けの屈折率測定には適さない。さらに、液浸法では、試料を細かく粉砕した粉末を屈折率の明らかな液体に浸して、粉末の輪郭線の観察から試料の屈折率を知る方法であり、この方法も、非破壊計測が前提である粗面固体の見掛けの屈折率測定には適当でない。
【0006】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、固体の粗面になんらの加工を施すことなく、固体の粗面の見掛けの屈折率を測定することが可能な光学測定方法及び光学測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定方法において、
直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を固体の粗面に入射角度φ1で入射させ、
前記固体の粗面から反射の法則に従って反射角度φ1で反射した反射光の強度が最小になる入射角度φminを求め、
前記入射角度φminと、前記固体の粗面と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、前記固体の粗面の見掛けの屈折率ncsを求めることを特徴とする。
【0008】
ここで、固体粗面に入射した光が粗面において反射もしくは屈折する際に実際に感じる屈折率を見掛けの屈折率と呼ぶ。見掛けの屈折率は、固体本来の屈折率とは異なり、固体の屈折率とそれを取り巻く雰囲気の屈折率や粗面の凹凸状態から定められる。また、屈折率が異なる2つの媒質の界面からの戻り光のうち、反射の法則に従う光を反射光と呼び、それ以外の戻り光を散乱光と呼ぶことにする。また、屈折率が異なる2つの媒質の界面を透過する光のなかで、スネルの法則に従う光を透過光と呼び、それ以外の光を散乱光と呼ぶことにする。さらに、入射光の電界と反射光の電界の比を、電界反射率と定義し、入射光パワーと反射光パワーの比を、パワー反射率と定義する。
【0009】
本発明によれば、固体の粗面の見掛けの屈折率を非破壊で測定することができる。
【0010】
(2)また本発明において、
【数1】
に基づいて前記粗面の見掛けの屈折率ncsを求めるようにしてもよい。
【0011】
(3)また本発明において、
前記粗面の見掛けの屈折率ncsと前記固体の屈折率nmとに基づいて、前記固体の粗面を固体と気体の混合層とみなしたときの前記混合層における固体と気体の体積比γを求めるようにしてもよい。
【0012】
本発明によれば、固体の屈折率が既知である場合に、前記体積比γを測定することができる。
【0013】
(4)また本発明において、
前記混合層における固体の体積Vmと気体の体積Vsの体積比をγ=Vs/Vmとすると、
前記粗面の見掛けの屈折率ncsと前記固体の屈折率nmを、
【数2】
で表し、
【0014】
【数3】
に基づいて前記体積比γを求めるようにしてもよい。
【0015】
(5)本発明は、固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定装置において、
直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を前記固体の粗面に入射角度φ1で入射させる光照射部と、
前記固体の粗面から反射の法則に従って反射角度φ1で反射した反射光の強度を検出する光検出部と、
前記固体を回転させることで前記p偏光の入射角度φ1を変化させる回転駆動部と、
前記反射光の強度が最小になる入射角度φminと、前記固体の粗面と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、前記固体の粗面の見掛けの屈折率ncsを算出する演算処理を行う演算処理部とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、固体の粗面の見掛けの屈折率を非破壊で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】固体表面における光の反射及び散乱の様子を模式的に示す図。
【図2】固体の粗面を、固体と気体の混合層とみなしたモデルを示す図。
【図3】粗面からの反射光の強度が最小になる入射角度φminと、混合層の散乱係数αの関係を示す図。
【図4】本実施形態の光学測定装置の構成の一例を示す図。
【図5】試料台を回転させる第1の回転機構と、光検出器台を回転させる第2の回転機構の構成の一例を示す側面図。
【図6】光学測定装置の変形例を示す図。
【図7】光学測定装置の変形例を示す図。
【図8】光学測定装置の変形例を示す図。
【図9】図9(A)は、軽度粗面で反射した反射光を撮像した画像であり、図9(B)は、重度粗面で反射した反射光を撮像した画像である。
【図10】入射光と試料面の角度を決定する初期設定について説明するための図。
【図11】入射光と試料面の角度を決定する初期設定について説明するための図。
【図12】図12(A)は、LiTaO3結晶の軽度粗面のパワー反射率Rpと入射角度φ1との関係を示す図であり、図12(B)は、LiTaO3結晶の重度粗面のパワー反射率Rpと入射角度φ1との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0019】
1.測定原理
本実施形態の光学測定方法及び光学測定装置が採用する測定原理を説明する。
【0020】
1−1.固体粗面の見掛けの屈折率の測定
図1(A)に、粗面を有する固体表面における光の反射と散乱の様子を模式的に示す。図1に示すように、すりガラスやアズカット結晶などの表面は、微細凹凸を有する粗面となっており、固体とそれを取り囲む雰囲気である気体(例えば、空気)が複雑に入り組んだ構造となっている。この粗面の構造の微細部分が入射光の波長と同程度がそれよりも小さい場合、図1(B)に示すように、固体の粗面を、固体と気体の混合層と看做すことができる。この混合層は、例えば、粗面の最も高い部分に接する面を上面とし、粗面の最も低い部分に接する面であって上面と平行な面を下面とするとき、上面と下面の間に存在する固体(粗面を構成する固体)と気体(粗面に接触している気体)とを構成要素とする層である。
【0021】
本実施形態では、固体の粗面を、固体と気体の混合層とみなしたモデルを用いて、固体の粗面の見掛けの屈折率や、混合層における固体と雰囲気の体積比を測定する。
【0022】
図2に示すように、混合層(固体の粗面)に入射するp偏光の入射角度をφ1とし、混合層の屈折角度をφ2とし、固体の屈折角度をφ3とし、混合層の散乱係数と厚さをそれぞれα、dとすると、p偏光の入射光に対する混合層のパワー反射率Rpφ1は、次式のように表される。
【0023】
【数4】
【0024】
式(1)において、r1は、気体から混合層に光が入射するときのフレネル反射による振幅反射率(光の電界の反射率)であり、r2は、混合層と固体の境界で光が反射するときのフレネル反射による振幅反射率であり、それぞれ次式のように表される。
【0025】
【数5】
【0026】
ここで、nsは、気体の屈折率であり、ncsは、混合層の見掛けの屈折率であり、nmは、固体の屈折率である。
【0027】
また式(1)において、Lは、光が混合層を1往復するときの物理的光路長であり、Ψは、隣接する反射光間の位相差であり、それぞれ次式のように表される。ただし、λは入射光の波長である。
【0028】
【数6】
【0029】
ここで、散乱係数αと混合層内の光路長Lの積αLが非常に小さい場合、混合層表面の反射光(図2に示す光線100)だけでなく、混合層内部から反射の法則に従って反射する反射光の存在も無視できないため、反射光のパワー反射率Rpφ1は、式(1)にしたがって、φ1の変化とともに周期的な変化を示す。一方、前記αLが非常に大きい場合、混合層に入射した光は、様々な方向に散乱し、混合層内部からの反射光は極めて小さくなる。このとき、混合層表面の反射光(図2に示す光線100)が、混合層からの反射光のパワー反射率Rpφ1を支配することになり、反射光のパワー反射率Rpは、
【0030】
【数7】
となる。
【0031】
ここで、図1に示すように散乱光は全方位に放射されるのに対して、反射光は、入射角度と同じ反射角度を保つため、後述する図6〜図10に示す光学系を用いれば、殆どの散乱光を遮断して、反射光を選択的に取り出すことができる。図6〜図10に示す光検出器40に入射する光の主成分が反射光になれば、ブリュースター(Brewster)の法則を利用して混合層(すなわち粗面)の見掛けの屈折率ncsを求めることができる。
【0032】
混合層と気体の界面のブリュースター角をφBとすると、混合層の屈折率ncsは、次式のように表すことができる。
【0033】
【数8】
【0034】
このとき、ブリュースターの法則よりr1=0であるから、式(1)から、ブリュースター角φBにおけるパワー反射率RpφBは、次式のように表される。
【0035】
【数9】
【0036】
式(8)が成立する条件を探るため、式(1)に式(2)〜(5)を代入し、変数φ1に関する偏導関数∂Rpφ1)/φ1を求め、これがゼロとなるときの入射角度を求める。ここでは、固体の屈折率nm=2.5とし、気体の屈折率ns=1とし、混合層の屈折率ncs=1.6〜2.4とし、混合層の厚さd=1000nmとし、p偏光の入射光の波長λ=632.8nmとする条件で計算を行った。
【0037】
図3は、パワー反射率Rpφ1が最小値になる入射角度φminと、混合層の散乱係数αの関係を示す解析結果を示す図である。図3は、αd>2のときに、入射角度φminが一定値になることを示している。混合層の屈折率ncsを、1.6〜2.4の範囲で変化させて、入射角度φminを求めた結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示した、入射角度φminは、それぞれ、式(7)で表されるブリュースター角φBと一致している。図3や表1の解析結果は一例であり、ns、ncs、nm、d及びλを変化させても、混合層がαd>2の条件を満たす限り、φmin=φBが成立する。従って、本解析から、αd>2を満たす混合層の屈折率ncsは、次式により求められることが明らかである。
【0040】
【数10】
【0041】
従って、p偏光を気体に接触している固体の粗面に入射させ、粗面で反射した反射光の強度(あるいは、パワー反射率Rpφ1)が最小になる入射角度φminを測定し、測定した入射角度φminと、気体の屈折率nsを式(9)に代入することで、固体の粗面を固体と気体の混合層とみなしたときの混合層の屈折率ncs(すなわち、固体の粗面の見掛けの屈折率)を求めることができる。
【0042】
このように、本実施形態によれば、固体の粗面を固体と気体の混合層とみなして、粗面の見掛けの屈折率を非破壊で測定することができる。
【0043】
1−2.混合層における固体と気体の体積比の測定
次に、αd>2を満たす混合層における固体と気体の体積比γの測定原理を説明する。
【0044】
固体の密度をρmとし、気体の密度をρsとし、混合層の密度をρcsとすると、固体、気体及び混合層のそれぞれの密度と屈折率の間には、ローレンツ-ローレンツ(Lorentz-Lorenz)の公式から、次式に示す関係が成立する。
【0045】
【数11】
【0046】
ここで、βは、混合層中での気体の重量(%)である。
【0047】
また、混合層内の固体の体積をVmとし、混合層内の気体の体積をVsとし、混合層の体積をVcsとすると、次式が成立することも明白である。
【0048】
【数12】
【0049】
式(11)〜(13)から、次式を得る。
【0050】
【数13】
【0051】
ここで、既に定義したように、γは、混合層における固体の体積Vmと気体の体積Vsの比である。
【0052】
式(13)を書き直すと、
【0053】
【数14】
【0054】
となり、式(12)を書き直すと、
【0055】
【数15】
【0056】
となる。式(17)を式(16)に代入すると、次式を得る。
【0057】
【数16】
【0058】
式(14)を式(18)に代入すると、次式を得る。
【0059】
【数17】
【0060】
ここで、固体の屈折率nm、気体の屈折率ns及び混合層の屈折率ncsのそれぞれの関数fm、fs、fcsを、
【0061】
【数18】
【0062】
と定義し、式(20)と式(14)を、式(10)に代入すると、次式を得る。
【0063】
【数19】
【0064】
式(21)に式(19)を代入すると、次式を得る。
【0065】
【数20】
【0066】
従って、固体の屈折率nm(すなわち、nmの関数fm)と気体の屈折率ns(すなわち、nsの関数fs)が明らかな場合には、測定値である混合層の屈折率ncs(すなわち、ncsの関数fcs)を式(22)に代入することで、混合層における固体と気体の体積比γを求めることができる。
【0067】
すなわち、式(9)により求めた混合層の屈折率ncs(すなわち、固体の粗面の見掛けの屈折率)を、式(20)に代入することでfcsを求め、求めたfcsとfmとfsを式(22)に代入することで、固体の粗面を固体と気体の混合層とみなしたときの混合層における固体と気体の体積比γを求めることができる。
【0068】
ここで、気体雰囲気の屈折率nsは凡そ1(例えば、空気ならば、0℃、1気圧の条件でns=1.000292)であるから、式(20)より屈折率nsの関数fsは凡そ0となる。そこで、fcsとfmを、次式に代入することで、混合層における固体と気体の体積比γを求めるようにしてもよい。
【0069】
【数21】
【0070】
このように本実施形態によれば、固体の屈折率が明らかである場合に、粗面の見掛けの屈折率から、混合層を構成する固体の体積と気体の体積の比γを測定することができる。混合層の体積比γを測定することで、粗面の凹凸の定量的な評価を行うことができる。
【0071】
2.構成
図4は、本実施形態の光学測定装置の構成の一例を示す図である。
【0072】
本実施形態の光学測定装置1は、測定対象である試料30(粗面を有する固体)の粗面32の見掛けの屈折率ncs、及び混合層における固体と気体の体積比γを測定する装置である。光学測定装置1は、レーザダイオードからなる光源10と、ビームスプリッタ12と、円形の開口を有するアパーチャ14と、p偏光を透過させる偏光子20及び検光子22と、光電センサ(フォトディテクタ)からなる第1及び第2の光検出器40、42と、連続光をチョッピングするチョッパー50と、チョッパー制御部52と、ロックインアンプ54と、試料30が載置される試料台60と、第1の光検出器40が載置される光検出器台62と、試料台60を回転軸RAを中心に回転させる第1の回転機構(図示せず)と、光検出器台62を回転軸RAを中心に回転させる第2の回転機構(図示せず)と、演算装置70とを含む。回転軸RAはZ軸と平行で、試料30の粗面32の面内あるいはその近傍に存在し、粗面32の法線33と直交する。
【0073】
光源10から出射した光は、偏光子20を透過して、水平面(図4のX軸とY軸を含む面)内で振動するp偏光になる。すなわち、p偏光の電界は、試料30の粗面32の法線33を含む水平面で振動する。このp偏光は、チョッパー50によりパルス変調され、試料30の粗面32の面内に入射する。入射光と反射光の交点は、回転軸RAに一致する、あるいは、少なくとも回転軸RAの近傍であることが望ましい。
【0074】
粗面32で反射したp偏光の反射光は、図4に示すように入射角φと等しい反射角φの方向に進む。一方、散乱光は、入射光と反射光の交点から全方向に放射される。反射光と散乱光の強度を測定するために、光検出器台62に、入射光のビーム径とほぼ同一径の開口を有するアパーチャ14、検光子22および第1の光検出器40が設置されている。
【0075】
第1の光検出器40(光検出部)は、光検出器台62の回転にともない粗面32で反射した反射光および散乱光を受光し、受光した光の強度を電流もしくは電圧に変換(光電変換)して、光強度情報(検出信号)としてロックインアンプ54に出力する。
【0076】
また、チョッパー制御部52は、チョッパー50に制御信号(駆動信号)を出力して、チョッパー50の駆動を制御するとともに、当該制御信号を参照信号としてロックインアンプ54に出力する。ロックインアンプ54は、第1の光検出器40から出力された検出信号のうち、チョッパー制御部52から出力された参照信号と等しい周波数成分を検出し、演算装置70に出力する。チョッパー50、チョッパー制御部52、ロックインアンプ54を用いることで、測定精度を向上させることができる。
【0077】
ビームスプリッタ12は、光源10から出射された光の一部を反射する。第2の光検出器42は、ビームスプリッタ12で反射した光を受光し光電変換し、検出信号を演算装置70に出力する。ビームスプリッタ12と、第2の光検出器42を用いて、光源10からの出射光強度の変動を検出することで、出射光強度の変動に伴う第1の光検出器40によって検出される光強度の変動を補償することができ、測定精度を向上させることができる。
【0078】
なお、ここでは半導体レーザを光源とする一例を示したが、半導体レーザの代わりにガスレーザ、色素レーザ、固体レーザを用いることもできる。また、ハロゲンランプやキセノンランプなどのいわゆるインコヒーレント光源を用いることも可能である。ただし、インコヒーレント光は一般に非常に広い発光スペクトルを有しているため、光源10とビームスプリッタ12の間にスペクトルを狭める光バンドパスフィルタを挿入する必要がある。
【0079】
図5(A)は、試料台60を回転させる第1の回転機構61と、光検出器台62を回転させる第2の回転機構63の構成の一例を示す側面図である。
【0080】
図5(A)に示すように、試料台60は、試料台60を回転させる第1の回転機構61、試料台60のあおり角を調整するあおり機構64(ゴニオ)、及び試料台60をXYZ軸方向に空間移動させるXYZ移動機構65の上に設けられている。XYZ移動機構65は、第1の支持ポール67によって支持されている。
【0081】
光検出器台62は、光検出器台62を回転させる第2の回転機構63に取り付けられている。光検出器台62には、アパーチャ14を支持する支持ポール(図示せず)と、検光子22を支持する第2の支持ポール68と、第1の光検出器40を垂直移動させる垂直移動機構66が設けられ、垂直移動機構66には、第1の光検出器40を支持する第3の支持ポール69が設けられている。第1及び第2の回転機構61、63は、手動回転ステージや自動回転ステージ等により構成することができる。
【0082】
第1の回転機構61と第2の回転機構63の回転軸RAは一致しており、また、回転軸RAは円形の試料台60の中心と一致している。試料台60は、第1の回転機構61によって回転軸RAを中心に回転し、光検出器台62、アパーチャ14、検光子22及び第1の光検出器40は、第2の回転機構63によって回転軸RAを中心に回転する。
【0083】
上述したように本実施形態では、試料30の粗面で反射した反射光の強度が最小になる入射角度φmin(或いは、入射角度φi)を求める。そのため、第1の回転機構61により試料台60を回転することで、p偏光の入射角度φ(図4参照)を変化させ、p偏光の入射角度φの変化に応じて、第2の回転機構63により光検出器台62を回転することで、試料30の粗面32で反射した反射光がアパーチャ14及び検光子22を介して第1の光検出器40に入射するように構成している。
【0084】
図5(B)は、試料台60の上面図と側面図である。図5(B)に示すように、円形の試料台60には、回転軸RAを示す点とそれを通る直線が示されている。この直線と粗面32の表面が同一平面になるように、試料30は載置される(設置に必要な装置については図示を省略する)。
【0085】
再び図4を参照すると、演算装置70は、演算処理部72と、記憶部74とを含む。演算処理部72は、ロックインアンプ60から出力された光強度情報に基づいて、試料30の粗面32で反射した反射光の強度が最小になるp偏光の入射角度φminを求め、入射角度φminと気体雰囲気の屈折率nsとに基づいて、試料30の粗面の見掛けの屈折率ncsを算出する演算処理を行う。また、演算処理部72は、試料30の粗面32の見掛けの屈折率ncsと試料30の屈折率nmとに基づいて、試料30の粗面32を固体と気体の混合層とみなしたときの前記混合層における固体と気体の体積比γを算出する演算処理を行う。
【0086】
なお、光学測定装置1が、チョッパー50、チョッパー制御部52及びロックインアンプ54を備えない場合には、演算処理部72は、第1の光検出器40から出力された光強度情報に基づき前記演算処理を行う。
【0087】
記憶部74は、種々のデータを一時記憶する機能を有し、例えばロックインアンプ60から出力された光強度情報を、p偏光の入射角度φと対応付けて記憶する。
【0088】
図6〜図8は、光学測定装置1の変形例を示す図である。
【0089】
図6に示す光学測定装置1では、試料台60とアパーチャ14との間に凸レンズ16を設けている。ここで、凸レンズ16とアパーチャ14間の距離は、凸レンズ16の焦点距離fと一致する。従って、平行光である試料30からの反射光は、アパーチャ14の開口を通過して、第1の光検出器40に入射する。一方、試料30と凸レンズ16間の距離aは、凸レンズ16の焦点距離f以下となっており、試料30からの散乱光は、アパーチャ14により遮断される。また、図6に示す構成によれば、図4に示す構成と比べて、光検出器台62の光路に沿った方向の長さを短くすることができる。
【0090】
図7に示す光学測定装置1では、光源10と試料台60との間にビームエクスパンダ18を設けて、光源10から出射されたp偏光のビーム径を大きくしている。試料30に入射するp偏光のビーム径を大きくすることで、平行光である試料30からの反射光は、凸レンズ16によってより小さなスポットに集光されるため、図6に示す構成と比較してアパーチャ14の開口をより小さくすることができ、試料30からの散乱光の影響をより小さくすることができる。
【0091】
図8に示す光学測定装置1では、チョッパー50に代えて光変調器51(例えば、光弾性変調器)が設けられ、チョッパー制御部52に変えて信号発生器53及び増幅器55が用いられている。光変調器51を用いることで、光源10から出射された光の強度を、矩形波状ばかりでなく正弦波状にも変化させることができ、また、変調周波数を低周波から高周波まで自在に選択することができる。
【0092】
3.測定方法
測定に先立って、入射光と試料面(試料30の粗面32)の角度を決定する初期設定を行う。
【0093】
試料30が軽度な粗面を有する場合には、図9(A)に示すように、散乱光に混じって反射光の存在(図9(A)に示す画像の中央付近の明るい部分)が認められる。この場合には、図10(A)に示すごく一般的な方法で入射光の光軸と試料面の法線を一致させることができる。すなわち、レーザ光の直径とほぼ一致した開口をもつアパーチャを光源10と試料30の間に設け、試料30からの反射光がこの開口を通過するように試料台60の角度を調整すればよい。この状態を0度として、図10(B)に示すように、試料台60を回転軸RAを中心に角度φだけ回転させれば、φが入射角度になる。このとき、試料30からの反射光がアパーチャ14及び検光子22を介して第1の光検出器40に入射するように光検出器台62を回転軸RAを中心に回転させるようにすると、入射角度φの場合における試料30からの反射光の強度を測定することができる。
【0094】
また、試料30が重度な粗面を有する場合には、図9(B)に示すように、肉眼では散乱光と反射光を区別することはできない。この場合には、図11に示すように、アパーチャと試料30の間と、ビームスプリッタと第2の光検出器42の間に、それぞれ凸レンズ101、102を設け、試料30からの反射光を凸レンズ101を介してビームスプリッタにより反射させ、ビームスプリッタからの反射光を別の凸レンズ102を介して第2の光検出器42に入射させる。第2の光検出器42によって検出された光強度が最大になるように、試料台60の角度を調整することで、入射光の光軸と試料面の法線を一致させることができる。
【0095】
以上の初期設定が終了したら、初期設定用のアパーチャや凸レンズを光路から外して測定を行う。すなわち、試料台60を回転させることでp偏光の入射角度φを変化させ、且つ光検出器台62を回転させて、第1の光検出器40により、試料30の粗面32で反射した反射光の強度IRを測定する。このとき、光源10から出射された光の強度Iiも第2の光検出器42により測定し、次式の規格化されたパワー反射率Rpを算出する。
【0096】
【数22】
【0097】
反射光強度を入射光強度で割ることにより、入射光強度の変動をキャンセルすることができ、パワー反射率Rpの測定精度を向上させることができる。そして、パワー反射率Rpが最小になるp偏光の入射角度φminを求め、入射角度φminに基づき試料30の粗面32の見掛けの屈折率ncs(混合層の屈折率)を算出する。
【0098】
4.測定結果
図12(A)、図12(B)、表2に、本実施形態の光学測定装置及び光学測定方法での測定結果を示す。ここでは、図4に示す光学測定装置1において、試料としてアズカットのLiTaO3結晶(LT結晶)を用い、光源として632.8nm波長のHe−Neレーザを用いて測定を行った。
【0099】
図12(A)は、軽度の粗面を有するLT結晶のパワー反射率Rpと入射角度φ1との関係を示し、図12(B)は、重度の粗面を有するLT結晶のパワー反射率Rpと入射角度φ1との関係を示す。これらの測定結果から得られる入射角度φminに基づいて、軽度の粗面を有するLT結晶と、重度の粗面を有するLT結晶のそれぞれについて、粗面の見掛けの屈折率ncs(粗面を固体(結晶)と気体(空気)の混合層とみなしたときの混合層の屈折率)と、混合層における固体と空気の体積比γを求めた。測定結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
高価な物質、化石、美術品など加工の許されない試料の見掛けの屈折率測定や、化粧品(ファンデーションやパウダー)の定量的光学評価などに利用することができる。また、粗面の見掛けの屈折率を正確に知ることが出来るため、分光画像処理で多用されるフォンモデルの解析に利用することができる。このモデルは、コンピュータグラフィックス(CG)技術に繋がっているため、CG画像やアニメーションなどの高画質化に寄与できる。
【符号の説明】
【0103】
10 光源、12 ビームスプリッタ、14 アパーチャ、16 凸レンズ、18 ビームエクスパンダ、20 偏光子、22 検光子、30 試料、32 粗面、33 粗面の法線、40 第1の光検出器、42 第2の光検出器、50 チョッパー、51 光変調器、52 チョッパー制御部、53 信号発生器、54 ロックインアンプ、55 増幅器、60 試料台、61 第1の回転機構、62 光検出器台、63 第2の回転機構、70 演算装置、72 演算処理部、74 記憶部、100 混合層からの最初の反射光線、101 凸レンズ、102 凸レンズ
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定方法及び光学測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、代表的な屈折率測定法として、最小偏角法、臨界角法、エリプソメトリー(偏光解析法)、液浸法などが知られている。最小偏角法(非特許文献1参照)は、プリズムに加工されたサンプルの頂角と、最小偏角を測定して屈折率を求めるもので、最も精密に屈折率を測定することができる。臨界角法(非特許文献2参照)は、液体の屈折率測定に適している。サンプル液の屈折率は、参照プリズムに対する相対値として求められる。エリプソメトリー(非特許文献3参照)は、既知の屈折率をもつ基板上のサンプル薄膜にp偏光とs偏光を入射し、反射による偏光状態の変化から、薄膜の厚さ、屈折率および消衰係数などを求める手法である。液浸法(非特許文献4参照)は、粉末状のサンプルと屈折率が段階的に変化した多数の透明液体を用いて、これらの液体に粉末サンプルを混ぜ、サンプルの輪郭が最も見にくい液体を選択することで、屈折率を求める方法である。この方法では、サンプルを鏡面加工せずに屈折率を測定できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Everitt Charles, "Refraction." The Encyclopedia Britannica, 11th Ed. vol. 23, The Encyclopedia Britannica Company, New York (1911) 26-27.
【非特許文献2】Tilton, Leroy W., and John K. Taylor, "Refractive Index Measurement," in Physical Methods in Chemical Analysis Vol. 1, 2nd ed. ; Walter G. Berl, editor (1961) 411-62. (E ABBE, "Carl's Repertorium der Physik", Vol. 15, 643 (1879). C. PULFRICH, "Zeitschrift fuer Instrumentenkunde", Vol. 18, 107 (1898))
【非特許文献3】藤原裕之,分光エリプソメトリー,丸善株式会社2003,7-124.
【非特許文献4】都城秋穂,久城育夫,「岩石学I」,共立出版 2000,pp.90-93.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体粗面の見掛けの屈折率は、固体本来の屈折率とそれを取り巻く気体の屈折率から定められ、固体粗面に入射する光が粗面において反射する際に実際に感じる屈折率のことである。見掛けの屈折率は、物質の質感や光沢など人間の感性と結びつくため、画質評価、分光画像処理、コンピュータグラフィックス、化粧品の定量的評価など多方面で利用される。
【0005】
最小偏角法は、サンプルをプリズムに加工するため、非破壊計測が前提である粗面の見掛けの屈折率測定には適さない。また、臨界角法は、透明液体の屈折率測定に適した屈折率測定法であり、最小偏角法と同様に粗面固体の見掛けの屈折率を測定することはできない。また、エリプソメトリーは、光学研磨や蒸着などにより表面をフラットにした固体あるいは透明液体の計測に適しており、非破壊計測が前提である粗面固体の見掛けの屈折率測定には適さない。さらに、液浸法では、試料を細かく粉砕した粉末を屈折率の明らかな液体に浸して、粉末の輪郭線の観察から試料の屈折率を知る方法であり、この方法も、非破壊計測が前提である粗面固体の見掛けの屈折率測定には適当でない。
【0006】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、固体の粗面になんらの加工を施すことなく、固体の粗面の見掛けの屈折率を測定することが可能な光学測定方法及び光学測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定方法において、
直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を固体の粗面に入射角度φ1で入射させ、
前記固体の粗面から反射の法則に従って反射角度φ1で反射した反射光の強度が最小になる入射角度φminを求め、
前記入射角度φminと、前記固体の粗面と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、前記固体の粗面の見掛けの屈折率ncsを求めることを特徴とする。
【0008】
ここで、固体粗面に入射した光が粗面において反射もしくは屈折する際に実際に感じる屈折率を見掛けの屈折率と呼ぶ。見掛けの屈折率は、固体本来の屈折率とは異なり、固体の屈折率とそれを取り巻く雰囲気の屈折率や粗面の凹凸状態から定められる。また、屈折率が異なる2つの媒質の界面からの戻り光のうち、反射の法則に従う光を反射光と呼び、それ以外の戻り光を散乱光と呼ぶことにする。また、屈折率が異なる2つの媒質の界面を透過する光のなかで、スネルの法則に従う光を透過光と呼び、それ以外の光を散乱光と呼ぶことにする。さらに、入射光の電界と反射光の電界の比を、電界反射率と定義し、入射光パワーと反射光パワーの比を、パワー反射率と定義する。
【0009】
本発明によれば、固体の粗面の見掛けの屈折率を非破壊で測定することができる。
【0010】
(2)また本発明において、
【数1】
に基づいて前記粗面の見掛けの屈折率ncsを求めるようにしてもよい。
【0011】
(3)また本発明において、
前記粗面の見掛けの屈折率ncsと前記固体の屈折率nmとに基づいて、前記固体の粗面を固体と気体の混合層とみなしたときの前記混合層における固体と気体の体積比γを求めるようにしてもよい。
【0012】
本発明によれば、固体の屈折率が既知である場合に、前記体積比γを測定することができる。
【0013】
(4)また本発明において、
前記混合層における固体の体積Vmと気体の体積Vsの体積比をγ=Vs/Vmとすると、
前記粗面の見掛けの屈折率ncsと前記固体の屈折率nmを、
【数2】
で表し、
【0014】
【数3】
に基づいて前記体積比γを求めるようにしてもよい。
【0015】
(5)本発明は、固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定装置において、
直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を前記固体の粗面に入射角度φ1で入射させる光照射部と、
前記固体の粗面から反射の法則に従って反射角度φ1で反射した反射光の強度を検出する光検出部と、
前記固体を回転させることで前記p偏光の入射角度φ1を変化させる回転駆動部と、
前記反射光の強度が最小になる入射角度φminと、前記固体の粗面と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、前記固体の粗面の見掛けの屈折率ncsを算出する演算処理を行う演算処理部とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、固体の粗面の見掛けの屈折率を非破壊で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】固体表面における光の反射及び散乱の様子を模式的に示す図。
【図2】固体の粗面を、固体と気体の混合層とみなしたモデルを示す図。
【図3】粗面からの反射光の強度が最小になる入射角度φminと、混合層の散乱係数αの関係を示す図。
【図4】本実施形態の光学測定装置の構成の一例を示す図。
【図5】試料台を回転させる第1の回転機構と、光検出器台を回転させる第2の回転機構の構成の一例を示す側面図。
【図6】光学測定装置の変形例を示す図。
【図7】光学測定装置の変形例を示す図。
【図8】光学測定装置の変形例を示す図。
【図9】図9(A)は、軽度粗面で反射した反射光を撮像した画像であり、図9(B)は、重度粗面で反射した反射光を撮像した画像である。
【図10】入射光と試料面の角度を決定する初期設定について説明するための図。
【図11】入射光と試料面の角度を決定する初期設定について説明するための図。
【図12】図12(A)は、LiTaO3結晶の軽度粗面のパワー反射率Rpと入射角度φ1との関係を示す図であり、図12(B)は、LiTaO3結晶の重度粗面のパワー反射率Rpと入射角度φ1との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0019】
1.測定原理
本実施形態の光学測定方法及び光学測定装置が採用する測定原理を説明する。
【0020】
1−1.固体粗面の見掛けの屈折率の測定
図1(A)に、粗面を有する固体表面における光の反射と散乱の様子を模式的に示す。図1に示すように、すりガラスやアズカット結晶などの表面は、微細凹凸を有する粗面となっており、固体とそれを取り囲む雰囲気である気体(例えば、空気)が複雑に入り組んだ構造となっている。この粗面の構造の微細部分が入射光の波長と同程度がそれよりも小さい場合、図1(B)に示すように、固体の粗面を、固体と気体の混合層と看做すことができる。この混合層は、例えば、粗面の最も高い部分に接する面を上面とし、粗面の最も低い部分に接する面であって上面と平行な面を下面とするとき、上面と下面の間に存在する固体(粗面を構成する固体)と気体(粗面に接触している気体)とを構成要素とする層である。
【0021】
本実施形態では、固体の粗面を、固体と気体の混合層とみなしたモデルを用いて、固体の粗面の見掛けの屈折率や、混合層における固体と雰囲気の体積比を測定する。
【0022】
図2に示すように、混合層(固体の粗面)に入射するp偏光の入射角度をφ1とし、混合層の屈折角度をφ2とし、固体の屈折角度をφ3とし、混合層の散乱係数と厚さをそれぞれα、dとすると、p偏光の入射光に対する混合層のパワー反射率Rpφ1は、次式のように表される。
【0023】
【数4】
【0024】
式(1)において、r1は、気体から混合層に光が入射するときのフレネル反射による振幅反射率(光の電界の反射率)であり、r2は、混合層と固体の境界で光が反射するときのフレネル反射による振幅反射率であり、それぞれ次式のように表される。
【0025】
【数5】
【0026】
ここで、nsは、気体の屈折率であり、ncsは、混合層の見掛けの屈折率であり、nmは、固体の屈折率である。
【0027】
また式(1)において、Lは、光が混合層を1往復するときの物理的光路長であり、Ψは、隣接する反射光間の位相差であり、それぞれ次式のように表される。ただし、λは入射光の波長である。
【0028】
【数6】
【0029】
ここで、散乱係数αと混合層内の光路長Lの積αLが非常に小さい場合、混合層表面の反射光(図2に示す光線100)だけでなく、混合層内部から反射の法則に従って反射する反射光の存在も無視できないため、反射光のパワー反射率Rpφ1は、式(1)にしたがって、φ1の変化とともに周期的な変化を示す。一方、前記αLが非常に大きい場合、混合層に入射した光は、様々な方向に散乱し、混合層内部からの反射光は極めて小さくなる。このとき、混合層表面の反射光(図2に示す光線100)が、混合層からの反射光のパワー反射率Rpφ1を支配することになり、反射光のパワー反射率Rpは、
【0030】
【数7】
となる。
【0031】
ここで、図1に示すように散乱光は全方位に放射されるのに対して、反射光は、入射角度と同じ反射角度を保つため、後述する図6〜図10に示す光学系を用いれば、殆どの散乱光を遮断して、反射光を選択的に取り出すことができる。図6〜図10に示す光検出器40に入射する光の主成分が反射光になれば、ブリュースター(Brewster)の法則を利用して混合層(すなわち粗面)の見掛けの屈折率ncsを求めることができる。
【0032】
混合層と気体の界面のブリュースター角をφBとすると、混合層の屈折率ncsは、次式のように表すことができる。
【0033】
【数8】
【0034】
このとき、ブリュースターの法則よりr1=0であるから、式(1)から、ブリュースター角φBにおけるパワー反射率RpφBは、次式のように表される。
【0035】
【数9】
【0036】
式(8)が成立する条件を探るため、式(1)に式(2)〜(5)を代入し、変数φ1に関する偏導関数∂Rpφ1)/φ1を求め、これがゼロとなるときの入射角度を求める。ここでは、固体の屈折率nm=2.5とし、気体の屈折率ns=1とし、混合層の屈折率ncs=1.6〜2.4とし、混合層の厚さd=1000nmとし、p偏光の入射光の波長λ=632.8nmとする条件で計算を行った。
【0037】
図3は、パワー反射率Rpφ1が最小値になる入射角度φminと、混合層の散乱係数αの関係を示す解析結果を示す図である。図3は、αd>2のときに、入射角度φminが一定値になることを示している。混合層の屈折率ncsを、1.6〜2.4の範囲で変化させて、入射角度φminを求めた結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示した、入射角度φminは、それぞれ、式(7)で表されるブリュースター角φBと一致している。図3や表1の解析結果は一例であり、ns、ncs、nm、d及びλを変化させても、混合層がαd>2の条件を満たす限り、φmin=φBが成立する。従って、本解析から、αd>2を満たす混合層の屈折率ncsは、次式により求められることが明らかである。
【0040】
【数10】
【0041】
従って、p偏光を気体に接触している固体の粗面に入射させ、粗面で反射した反射光の強度(あるいは、パワー反射率Rpφ1)が最小になる入射角度φminを測定し、測定した入射角度φminと、気体の屈折率nsを式(9)に代入することで、固体の粗面を固体と気体の混合層とみなしたときの混合層の屈折率ncs(すなわち、固体の粗面の見掛けの屈折率)を求めることができる。
【0042】
このように、本実施形態によれば、固体の粗面を固体と気体の混合層とみなして、粗面の見掛けの屈折率を非破壊で測定することができる。
【0043】
1−2.混合層における固体と気体の体積比の測定
次に、αd>2を満たす混合層における固体と気体の体積比γの測定原理を説明する。
【0044】
固体の密度をρmとし、気体の密度をρsとし、混合層の密度をρcsとすると、固体、気体及び混合層のそれぞれの密度と屈折率の間には、ローレンツ-ローレンツ(Lorentz-Lorenz)の公式から、次式に示す関係が成立する。
【0045】
【数11】
【0046】
ここで、βは、混合層中での気体の重量(%)である。
【0047】
また、混合層内の固体の体積をVmとし、混合層内の気体の体積をVsとし、混合層の体積をVcsとすると、次式が成立することも明白である。
【0048】
【数12】
【0049】
式(11)〜(13)から、次式を得る。
【0050】
【数13】
【0051】
ここで、既に定義したように、γは、混合層における固体の体積Vmと気体の体積Vsの比である。
【0052】
式(13)を書き直すと、
【0053】
【数14】
【0054】
となり、式(12)を書き直すと、
【0055】
【数15】
【0056】
となる。式(17)を式(16)に代入すると、次式を得る。
【0057】
【数16】
【0058】
式(14)を式(18)に代入すると、次式を得る。
【0059】
【数17】
【0060】
ここで、固体の屈折率nm、気体の屈折率ns及び混合層の屈折率ncsのそれぞれの関数fm、fs、fcsを、
【0061】
【数18】
【0062】
と定義し、式(20)と式(14)を、式(10)に代入すると、次式を得る。
【0063】
【数19】
【0064】
式(21)に式(19)を代入すると、次式を得る。
【0065】
【数20】
【0066】
従って、固体の屈折率nm(すなわち、nmの関数fm)と気体の屈折率ns(すなわち、nsの関数fs)が明らかな場合には、測定値である混合層の屈折率ncs(すなわち、ncsの関数fcs)を式(22)に代入することで、混合層における固体と気体の体積比γを求めることができる。
【0067】
すなわち、式(9)により求めた混合層の屈折率ncs(すなわち、固体の粗面の見掛けの屈折率)を、式(20)に代入することでfcsを求め、求めたfcsとfmとfsを式(22)に代入することで、固体の粗面を固体と気体の混合層とみなしたときの混合層における固体と気体の体積比γを求めることができる。
【0068】
ここで、気体雰囲気の屈折率nsは凡そ1(例えば、空気ならば、0℃、1気圧の条件でns=1.000292)であるから、式(20)より屈折率nsの関数fsは凡そ0となる。そこで、fcsとfmを、次式に代入することで、混合層における固体と気体の体積比γを求めるようにしてもよい。
【0069】
【数21】
【0070】
このように本実施形態によれば、固体の屈折率が明らかである場合に、粗面の見掛けの屈折率から、混合層を構成する固体の体積と気体の体積の比γを測定することができる。混合層の体積比γを測定することで、粗面の凹凸の定量的な評価を行うことができる。
【0071】
2.構成
図4は、本実施形態の光学測定装置の構成の一例を示す図である。
【0072】
本実施形態の光学測定装置1は、測定対象である試料30(粗面を有する固体)の粗面32の見掛けの屈折率ncs、及び混合層における固体と気体の体積比γを測定する装置である。光学測定装置1は、レーザダイオードからなる光源10と、ビームスプリッタ12と、円形の開口を有するアパーチャ14と、p偏光を透過させる偏光子20及び検光子22と、光電センサ(フォトディテクタ)からなる第1及び第2の光検出器40、42と、連続光をチョッピングするチョッパー50と、チョッパー制御部52と、ロックインアンプ54と、試料30が載置される試料台60と、第1の光検出器40が載置される光検出器台62と、試料台60を回転軸RAを中心に回転させる第1の回転機構(図示せず)と、光検出器台62を回転軸RAを中心に回転させる第2の回転機構(図示せず)と、演算装置70とを含む。回転軸RAはZ軸と平行で、試料30の粗面32の面内あるいはその近傍に存在し、粗面32の法線33と直交する。
【0073】
光源10から出射した光は、偏光子20を透過して、水平面(図4のX軸とY軸を含む面)内で振動するp偏光になる。すなわち、p偏光の電界は、試料30の粗面32の法線33を含む水平面で振動する。このp偏光は、チョッパー50によりパルス変調され、試料30の粗面32の面内に入射する。入射光と反射光の交点は、回転軸RAに一致する、あるいは、少なくとも回転軸RAの近傍であることが望ましい。
【0074】
粗面32で反射したp偏光の反射光は、図4に示すように入射角φと等しい反射角φの方向に進む。一方、散乱光は、入射光と反射光の交点から全方向に放射される。反射光と散乱光の強度を測定するために、光検出器台62に、入射光のビーム径とほぼ同一径の開口を有するアパーチャ14、検光子22および第1の光検出器40が設置されている。
【0075】
第1の光検出器40(光検出部)は、光検出器台62の回転にともない粗面32で反射した反射光および散乱光を受光し、受光した光の強度を電流もしくは電圧に変換(光電変換)して、光強度情報(検出信号)としてロックインアンプ54に出力する。
【0076】
また、チョッパー制御部52は、チョッパー50に制御信号(駆動信号)を出力して、チョッパー50の駆動を制御するとともに、当該制御信号を参照信号としてロックインアンプ54に出力する。ロックインアンプ54は、第1の光検出器40から出力された検出信号のうち、チョッパー制御部52から出力された参照信号と等しい周波数成分を検出し、演算装置70に出力する。チョッパー50、チョッパー制御部52、ロックインアンプ54を用いることで、測定精度を向上させることができる。
【0077】
ビームスプリッタ12は、光源10から出射された光の一部を反射する。第2の光検出器42は、ビームスプリッタ12で反射した光を受光し光電変換し、検出信号を演算装置70に出力する。ビームスプリッタ12と、第2の光検出器42を用いて、光源10からの出射光強度の変動を検出することで、出射光強度の変動に伴う第1の光検出器40によって検出される光強度の変動を補償することができ、測定精度を向上させることができる。
【0078】
なお、ここでは半導体レーザを光源とする一例を示したが、半導体レーザの代わりにガスレーザ、色素レーザ、固体レーザを用いることもできる。また、ハロゲンランプやキセノンランプなどのいわゆるインコヒーレント光源を用いることも可能である。ただし、インコヒーレント光は一般に非常に広い発光スペクトルを有しているため、光源10とビームスプリッタ12の間にスペクトルを狭める光バンドパスフィルタを挿入する必要がある。
【0079】
図5(A)は、試料台60を回転させる第1の回転機構61と、光検出器台62を回転させる第2の回転機構63の構成の一例を示す側面図である。
【0080】
図5(A)に示すように、試料台60は、試料台60を回転させる第1の回転機構61、試料台60のあおり角を調整するあおり機構64(ゴニオ)、及び試料台60をXYZ軸方向に空間移動させるXYZ移動機構65の上に設けられている。XYZ移動機構65は、第1の支持ポール67によって支持されている。
【0081】
光検出器台62は、光検出器台62を回転させる第2の回転機構63に取り付けられている。光検出器台62には、アパーチャ14を支持する支持ポール(図示せず)と、検光子22を支持する第2の支持ポール68と、第1の光検出器40を垂直移動させる垂直移動機構66が設けられ、垂直移動機構66には、第1の光検出器40を支持する第3の支持ポール69が設けられている。第1及び第2の回転機構61、63は、手動回転ステージや自動回転ステージ等により構成することができる。
【0082】
第1の回転機構61と第2の回転機構63の回転軸RAは一致しており、また、回転軸RAは円形の試料台60の中心と一致している。試料台60は、第1の回転機構61によって回転軸RAを中心に回転し、光検出器台62、アパーチャ14、検光子22及び第1の光検出器40は、第2の回転機構63によって回転軸RAを中心に回転する。
【0083】
上述したように本実施形態では、試料30の粗面で反射した反射光の強度が最小になる入射角度φmin(或いは、入射角度φi)を求める。そのため、第1の回転機構61により試料台60を回転することで、p偏光の入射角度φ(図4参照)を変化させ、p偏光の入射角度φの変化に応じて、第2の回転機構63により光検出器台62を回転することで、試料30の粗面32で反射した反射光がアパーチャ14及び検光子22を介して第1の光検出器40に入射するように構成している。
【0084】
図5(B)は、試料台60の上面図と側面図である。図5(B)に示すように、円形の試料台60には、回転軸RAを示す点とそれを通る直線が示されている。この直線と粗面32の表面が同一平面になるように、試料30は載置される(設置に必要な装置については図示を省略する)。
【0085】
再び図4を参照すると、演算装置70は、演算処理部72と、記憶部74とを含む。演算処理部72は、ロックインアンプ60から出力された光強度情報に基づいて、試料30の粗面32で反射した反射光の強度が最小になるp偏光の入射角度φminを求め、入射角度φminと気体雰囲気の屈折率nsとに基づいて、試料30の粗面の見掛けの屈折率ncsを算出する演算処理を行う。また、演算処理部72は、試料30の粗面32の見掛けの屈折率ncsと試料30の屈折率nmとに基づいて、試料30の粗面32を固体と気体の混合層とみなしたときの前記混合層における固体と気体の体積比γを算出する演算処理を行う。
【0086】
なお、光学測定装置1が、チョッパー50、チョッパー制御部52及びロックインアンプ54を備えない場合には、演算処理部72は、第1の光検出器40から出力された光強度情報に基づき前記演算処理を行う。
【0087】
記憶部74は、種々のデータを一時記憶する機能を有し、例えばロックインアンプ60から出力された光強度情報を、p偏光の入射角度φと対応付けて記憶する。
【0088】
図6〜図8は、光学測定装置1の変形例を示す図である。
【0089】
図6に示す光学測定装置1では、試料台60とアパーチャ14との間に凸レンズ16を設けている。ここで、凸レンズ16とアパーチャ14間の距離は、凸レンズ16の焦点距離fと一致する。従って、平行光である試料30からの反射光は、アパーチャ14の開口を通過して、第1の光検出器40に入射する。一方、試料30と凸レンズ16間の距離aは、凸レンズ16の焦点距離f以下となっており、試料30からの散乱光は、アパーチャ14により遮断される。また、図6に示す構成によれば、図4に示す構成と比べて、光検出器台62の光路に沿った方向の長さを短くすることができる。
【0090】
図7に示す光学測定装置1では、光源10と試料台60との間にビームエクスパンダ18を設けて、光源10から出射されたp偏光のビーム径を大きくしている。試料30に入射するp偏光のビーム径を大きくすることで、平行光である試料30からの反射光は、凸レンズ16によってより小さなスポットに集光されるため、図6に示す構成と比較してアパーチャ14の開口をより小さくすることができ、試料30からの散乱光の影響をより小さくすることができる。
【0091】
図8に示す光学測定装置1では、チョッパー50に代えて光変調器51(例えば、光弾性変調器)が設けられ、チョッパー制御部52に変えて信号発生器53及び増幅器55が用いられている。光変調器51を用いることで、光源10から出射された光の強度を、矩形波状ばかりでなく正弦波状にも変化させることができ、また、変調周波数を低周波から高周波まで自在に選択することができる。
【0092】
3.測定方法
測定に先立って、入射光と試料面(試料30の粗面32)の角度を決定する初期設定を行う。
【0093】
試料30が軽度な粗面を有する場合には、図9(A)に示すように、散乱光に混じって反射光の存在(図9(A)に示す画像の中央付近の明るい部分)が認められる。この場合には、図10(A)に示すごく一般的な方法で入射光の光軸と試料面の法線を一致させることができる。すなわち、レーザ光の直径とほぼ一致した開口をもつアパーチャを光源10と試料30の間に設け、試料30からの反射光がこの開口を通過するように試料台60の角度を調整すればよい。この状態を0度として、図10(B)に示すように、試料台60を回転軸RAを中心に角度φだけ回転させれば、φが入射角度になる。このとき、試料30からの反射光がアパーチャ14及び検光子22を介して第1の光検出器40に入射するように光検出器台62を回転軸RAを中心に回転させるようにすると、入射角度φの場合における試料30からの反射光の強度を測定することができる。
【0094】
また、試料30が重度な粗面を有する場合には、図9(B)に示すように、肉眼では散乱光と反射光を区別することはできない。この場合には、図11に示すように、アパーチャと試料30の間と、ビームスプリッタと第2の光検出器42の間に、それぞれ凸レンズ101、102を設け、試料30からの反射光を凸レンズ101を介してビームスプリッタにより反射させ、ビームスプリッタからの反射光を別の凸レンズ102を介して第2の光検出器42に入射させる。第2の光検出器42によって検出された光強度が最大になるように、試料台60の角度を調整することで、入射光の光軸と試料面の法線を一致させることができる。
【0095】
以上の初期設定が終了したら、初期設定用のアパーチャや凸レンズを光路から外して測定を行う。すなわち、試料台60を回転させることでp偏光の入射角度φを変化させ、且つ光検出器台62を回転させて、第1の光検出器40により、試料30の粗面32で反射した反射光の強度IRを測定する。このとき、光源10から出射された光の強度Iiも第2の光検出器42により測定し、次式の規格化されたパワー反射率Rpを算出する。
【0096】
【数22】
【0097】
反射光強度を入射光強度で割ることにより、入射光強度の変動をキャンセルすることができ、パワー反射率Rpの測定精度を向上させることができる。そして、パワー反射率Rpが最小になるp偏光の入射角度φminを求め、入射角度φminに基づき試料30の粗面32の見掛けの屈折率ncs(混合層の屈折率)を算出する。
【0098】
4.測定結果
図12(A)、図12(B)、表2に、本実施形態の光学測定装置及び光学測定方法での測定結果を示す。ここでは、図4に示す光学測定装置1において、試料としてアズカットのLiTaO3結晶(LT結晶)を用い、光源として632.8nm波長のHe−Neレーザを用いて測定を行った。
【0099】
図12(A)は、軽度の粗面を有するLT結晶のパワー反射率Rpと入射角度φ1との関係を示し、図12(B)は、重度の粗面を有するLT結晶のパワー反射率Rpと入射角度φ1との関係を示す。これらの測定結果から得られる入射角度φminに基づいて、軽度の粗面を有するLT結晶と、重度の粗面を有するLT結晶のそれぞれについて、粗面の見掛けの屈折率ncs(粗面を固体(結晶)と気体(空気)の混合層とみなしたときの混合層の屈折率)と、混合層における固体と空気の体積比γを求めた。測定結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
高価な物質、化石、美術品など加工の許されない試料の見掛けの屈折率測定や、化粧品(ファンデーションやパウダー)の定量的光学評価などに利用することができる。また、粗面の見掛けの屈折率を正確に知ることが出来るため、分光画像処理で多用されるフォンモデルの解析に利用することができる。このモデルは、コンピュータグラフィックス(CG)技術に繋がっているため、CG画像やアニメーションなどの高画質化に寄与できる。
【符号の説明】
【0103】
10 光源、12 ビームスプリッタ、14 アパーチャ、16 凸レンズ、18 ビームエクスパンダ、20 偏光子、22 検光子、30 試料、32 粗面、33 粗面の法線、40 第1の光検出器、42 第2の光検出器、50 チョッパー、51 光変調器、52 チョッパー制御部、53 信号発生器、54 ロックインアンプ、55 増幅器、60 試料台、61 第1の回転機構、62 光検出器台、63 第2の回転機構、70 演算装置、72 演算処理部、74 記憶部、100 混合層からの最初の反射光線、101 凸レンズ、102 凸レンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定方法において、
直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を固体の粗面に入射角度φ1で入射させ、
前記固体の粗面から反射の法則に従って反射角度φ1で反射した反射光の強度が最小になる入射角度φminを求め、
前記入射角度φminと、前記固体の粗面と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、前記固体の粗面の見掛けの屈折率ncsを求める光学測定方法。
【請求項2】
請求項1において、
【数1】
に基づいて前記粗面の見掛けの屈折率ncsを求める光学測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記粗面の見掛けの屈折率ncsと前記固体の屈折率nmとに基づいて、前記固体の粗面を固体と気体の混合層とみなしたときの前記混合層における固体と気体の体積比γを求める光学測定方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記混合層における固体の体積Vmと気体の体積Vsの体積比をγ=Vs/Vmとすると、
前記粗面の見掛けの屈折率ncsと前記固体の屈折率nmを、
【数2】
で表し、
【数3】
に基づいて前記体積比γを求める光学測定方法。
【請求項5】
固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定装置において、
直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を前記固体の粗面に入射角度φ1で入射させる光照射部と、
前記固体の粗面から反射の法則に従って反射角度φ1で反射した反射光の強度を検出する光検出部と、
前記固体を回転させることで前記p偏光の入射角度φ1を変化させる回転駆動部と、
前記反射光の強度が最小になる入射角度φminと、前記固体の粗面と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、前記固体の粗面の見掛けの屈折率ncsを算出する演算処理を行う演算処理部とを含む光学測定装置。
【請求項1】
固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定方法において、
直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を固体の粗面に入射角度φ1で入射させ、
前記固体の粗面から反射の法則に従って反射角度φ1で反射した反射光の強度が最小になる入射角度φminを求め、
前記入射角度φminと、前記固体の粗面と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、前記固体の粗面の見掛けの屈折率ncsを求める光学測定方法。
【請求項2】
請求項1において、
【数1】
に基づいて前記粗面の見掛けの屈折率ncsを求める光学測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記粗面の見掛けの屈折率ncsと前記固体の屈折率nmとに基づいて、前記固体の粗面を固体と気体の混合層とみなしたときの前記混合層における固体と気体の体積比γを求める光学測定方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記混合層における固体の体積Vmと気体の体積Vsの体積比をγ=Vs/Vmとすると、
前記粗面の見掛けの屈折率ncsと前記固体の屈折率nmを、
【数2】
で表し、
【数3】
に基づいて前記体積比γを求める光学測定方法。
【請求項5】
固体の粗面の見掛けの屈折率を測定する光学測定装置において、
直線偏光の電界成分が入射面内で振動するp偏光を前記固体の粗面に入射角度φ1で入射させる光照射部と、
前記固体の粗面から反射の法則に従って反射角度φ1で反射した反射光の強度を検出する光検出部と、
前記固体を回転させることで前記p偏光の入射角度φ1を変化させる回転駆動部と、
前記反射光の強度が最小になる入射角度φminと、前記固体の粗面と接触している気体の屈折率nsとに基づいて、前記固体の粗面の見掛けの屈折率ncsを算出する演算処理を行う演算処理部とを含む光学測定装置。
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図3】
【図9】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図3】
【図9】
【公開番号】特開2012−52997(P2012−52997A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197612(P2010−197612)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人応用物理学会 刊行物名:第57回応用物理学関係連合講演会講演予稿集(第19a−J−2ページ) 発行日:平成22年3月3日
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人応用物理学会 刊行物名:第57回応用物理学関係連合講演会講演予稿集(第19a−J−2ページ) 発行日:平成22年3月3日
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【Fターム(参考)】
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