説明

固体レーザ装置

【課題】出射されるレーザ光の横モードを精度良く調整することができる固体レーザ装置を提供する。
【解決手段】固体レーザ装置10は、SESAM12及び出力ミラー14から成る共振器と、共振器内に配置された固体レーザ媒質18と、固体レーザ媒質18に励起光を入射させる半導体レーザ20及びセルフォックレンズ22と、共振器内の発振光の横モードを制御するためのナイフエッジ26と、ナイフエッジ26を保持し且つ共振器の光軸方向へ移動させるナイフエッジホルダ28と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体レーザ装置から出射されるレーザ光のビーム品質(ここでは横モードの品質を意味する)は、そのレーザ装置を使用したアプリケーションの性能に大きく影響する。
【0003】
品質が劣化した(マルチモード化した)レーザ光を集光した場合、その集光スポット径は、所謂理想的なTEM00モード(シングルモード)のレーザ光を集光した場合よりも大きくなり、集光スポットにおける光密度が低下してしまう。これらのことが、レーザ加工分野においては、加工精度および加工速度の低下を招き、レーザ顕微鏡等の画像取得分野においては、画像分解能の低下を招いてしまう。
【0004】
また、マルチモード化したレーザ光を出力するようなレーザ装置は、ビーム品質以外のレーザ性能にも、問題が生じている場合がある。例えば、モード同期固体レーザにおいては、マルチモードビームの影響により、共振器長で決まるパルス光の繰返し周期とは異なる周期のパルス光が生じてしまう現象が確認されている(例えば非特許文献1参照)。そのようなパルス光は、パルス光間の強度ばらつきがあるため、パルス光を応用する様々な場合において好ましくない。
【0005】
また、特許文献1にも記載されているように、マルチモードを除去するため、共振器内に、アパーチャーやスリット、ナイフエッジ等のモードセレクターを搭載し、マルチモードビームにロスを与え、発振を抑制することが一般的に行われている。これらのモードセレクターでは、共振器光軸と垂直する方向に、アパーチャー径やスリット幅、ナイフエッジ位置の調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−170585
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Pulse-resolved measurements of subharmonic oscillations in a Kerr-lens mode-locked Ti:sapphire laser,” J. Opt. Soc. Am. B, Vo16,339-344(1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、マルチモードビームに対して、ビームの中心に向って深くモードセレクターを挿入してしまうと、シングルモードにまでロスを与えてしまい、発振効率の低下を招いてしまう。そのため、マルチモードビームにのみロスを与えるには、モードセレクターの高精度な調整が必要となってくる。
【0009】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、出射されるレーザ光の横モードを精度良く調整することができる固体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、共振器と、共振器内に配置された固体レーザ媒質と、固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起手段と、共振器内の発振光の横モードを制御するためのモードセレクターと、前記モードセレクターを前記共振器の光軸方向へ移動させる移動手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、共振器内の発振光の横モードを制御するためのモードセレクターを共振器の光軸方向へ移動させる移動手段を備えた構成としたため、出射されるレーザ光の横モードを精度良く調整することができる。
【0012】
なお、請求項2に記載したように、前記共振器が、半導体可飽和吸収ミラー及び共振器内の群速度分散を制御するための負分散ミラーを含んで成る構成としてもよい。
【0013】
この場合、請求項3に記載したように、前記モードセレクターの位置が、前記共振器内を周回する発振光の繰り返し周波数と異なる周波数の光によるノイズが抑制され且つモード同期が維持された状態となる位置に調整されていることが好ましい。
【0014】
また、請求項4に記載したように、前記励起手段からの励起光の前記固体レーザ媒質における集光スポットが楕円形状であり、前記モードセレクターは、前記発振光の前記楕円形状の長軸方向の光を遮断する構成としてもよい。
【0015】
また、請求項5に記載したように、前記モードセレクターが、ナイフエッジ、スリット、及びアパーチャーの何れかである構成としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、出射されるレーザ光の横モードを精度良く調整することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)は固体レーザ装置の平面図、(B)は(A)の側面図である。
【図2】ナイフエッジによる横モードの制御について説明するための図である。
【図3】従来の固体レーザ装置におけるレーザ光のビームスポットの形状を示す図である。
【図4】従来における固体レーザ装置におけるレーザ光の周波数スペクトルを示す線図である。
【図5】本発明に係る固体レーザ装置におけるレーザ光のビームスポットの形状を示す図である。
【図6】本発明に係る固体レーザ装置におけるレーザ光の周波数スペクトルを示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0019】
図1(A)には、本実施形態に係る固体レーザ装置10の概略構成を示す平面図を、同図(B)には、側面図を示した。同図に示すように、固体レーザ装置10は、共振器の両端がSESAM12と出力ミラー14によって構成されたヘミスフェリカル共振器構造のモード同期レーザ装置である。
【0020】
共振器内部には、ダイクロイックミラー16と、固体レーザ媒質18と、が配置されている。
【0021】
固体レーザ媒質18を励起するための励起光学系は、半導体レーザ20及びセルフォックレンズ22によって構成されている。
【0022】
半導体レーザ20は、一例として発振波長が980nm、発光幅50μm、最大出力2.5Wのものを用いることができる。
【0023】
セルフォックレンズ22は、一例として980±5nmの波長の光に対して2%以下の反射防止コーティングが施されている。
【0024】
半導体レーザ20から出射されたレーザ光、すなわち励起光は、セルフォックレンズ22によって集光され、ダイクロイックミラー16によって固体レーザ媒質18の方向に折返される。
【0025】
ダイクロイックミラー16は、980±5nmの波長の光に対して95%以上の反射率を有し、1045±10nmの波長の光に対して反射率が0.2%以下の反射率を有するダイクロイックコーティングが施されている。
【0026】
共振器内に配置された固体レーザ媒質18は、例えばイッテルビウム(Yb)を添加した固体レーザ結晶であり、具体的には一例としてYb:KYW等が挙げられる。また、固体レーザ媒質18は、一例としてYb濃度5%、厚み1.5mmのものを用いることができ、発振光が入射する両端面には、1045±10nmの波長の光に対して0.2%以下の反射率を有する反射防止コーティングが施されている。
【0027】
共振器の一端を構成するSESAM12は、半導体可飽和吸収ミラーデバイスであり、一例として変調深さ(ΔR)0.5%、飽和フルーエンス(Fsat,S)120μJ/cmのものを使用することができる。SESAM12は、出力ミラー14から一例として約50mmの位置に配置される。
【0028】
共振器の他端を構成する出力ミラー14は、共振器内の群速度分散を補正する機能及び発振光に対してある程度の透過率を有する、曲率半径が一例として50mmの凹面ミラーとなっている。
【0029】
また、出力ミラー14の平面側には、1045±10nmの波長の光に対して0.2%以下の反射率を有する反射防止コーティングが施されており、出力ミラー14の凹面側には、1045±10nmの波長の光に対して透過率が1%であり、群速度分散量が−1000fsの高反射負分散コーティングが施されている。
【0030】
このような構成の固体レーザ装置10では、半導体レーザ20から出射された励起光によって固体レーザ媒質18が励起され、共振器内を光パルスが周回して出力ミラー14より超短パルス光が出射される。
【0031】
また、出力ミラー14は、ミラーホルダ24に接着固定されており、ミラーホルダ24上には、ナイフエッジ26が接着固定されたナイフエッジホルダ28が設けられている。図1(C)には、ミラーホルダ24を同図(B)における矢印B方向から見た図を示した。同図(C)に示すように、ミラーホルダ24は、凹字状となっており、その凹み部分に跨るように且つ同図(B)に示す矢印A方向に移動可能にナイフエッジホルダ28が設けられている。このナイフエッジホルダ28を共振器の光軸方向、すなわち矢印A方向に移動させることにより、マルチモードのレーザ光にロスを与え、横モードの制御を行うことができる。すなわち、楕円形状化した共振器内の発振光の長軸方向の光を、ナイフエッジ26によって遮断することにより、出射されるレーザ光の横モードの品質を向上させることができる。
【0032】
ナイフエッジ26の位置は、共振器内を周回する光パルスの周波数と異なる周波数のパルス光によるノイズが抑制され且つモード同期が維持された状態となるように調整される。
【0033】
上記で説明した各部品は、ペルチェ素子30が接着された銅板32上に接着されており、ペルチェ素子30を図示しない駆動部によって駆動することによって、半導体レーザ20を含む各部品の温度調整を行う。
【0034】
このように、本実施形態に係る固体レーザ装置10は、モードセレクターとしてのナイフエッジを共振器光軸に対して平行な方向に調整可能な構成としている。これにより、図2に示すように、拡散角θのマルチモードのレーザビームLに対して共振器光軸Cと垂直な矢印D方向にナイフエッジ26を挿入し、シングルモードのレーザビームになるまでビームを絞った場合のビーム深度に対して、ナイフエッジ26を共振器光軸Cと平行な方向に移動させる場合の距離が1/tanθ分長くなるため、その分レーザ光の横モードを微調整しやすくなる。このため、レーザ光の横モードの調整精度を高めることが可能になる。
【0035】
図3には、ナイフエッジ26を非搭載の固体レーザ装置から発振されたレーザ光のビームプロファイルを示した。同図に示すように、このビームはx軸においては、M=1.05であり、シングルモードとなっているが、y軸方向においては、M=1.4であり、若干マルチモード化している傾向がある。これは、固体レーザ媒質内の励起光スポットが楕円形状(y軸方向の長さ:80μm、x軸方向の長さ:2μm)となっており、発振光のスポット径(80μm)と近い励起光スポットを持つy軸側が、熱レンズの影響によりマルチモード化しているものと考えられる。
【0036】
図4には、固体レーザ装置から出射されたパルス光をホトディテクタで検出したRFスペクトルデータを示した。共振器長で決まる繰返し周波数約3GHz以外に、その半分の周期付近にもピーク強度(以下ノイズと称す)が検出されている。これは、y軸方向におけるマルチモード成分の影響であると考えられる。この状態から、共振器光軸に向かってy軸方向、すなわち楕円形状の長軸方向にナイフエッジを挿入していき、y軸方向の横モードを抑制した時のビームプロファイルを図5に示した。また、図6には、この場合に固体レーザ装置10から出射されたパルス光をホトディテクタで検出したRFスペクトルデータを示した。
【0037】
図5に示すように、y軸方向においてもM=1.07のシングルモードとなっており、図6に示すように、RFスペクトルについてもノイズが消滅していることが判る。ただし、共振器光軸に向かってy軸方向にナイフエッジを挿入していって始めにノイズが消滅する位置から、ナイフエッジをさらにビームの中心に向けて進入させた場合、前記位置からの距離が20μmになった時点で出力が低下し、モード同期がかからなくなった。一方、図1の固体レーザ装置10におけるナイフエッジホルダ28を移動させることにより、初期位置から共振器光軸方向(z軸方向、図1の紙面において右方向)に移動させた場合、始めにノイズが消滅する位置から約2mmの位置において、同様にモード同期がかからなくなった。つまり、共振器光軸に対し垂直方向にナイフエッジを挿入する場合に対して、共振器光軸方向に移動させる方が、はるかにナイフエッジ26の移動許容度が大きくなったことがわかった。
【0038】
なお、本実施形態では、モードセレクターとしてナイフエッジ26を用いた場合について説明したが、これに限らず、スリットやアパーチャーを用いてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 固体レーザ装置
12 SESAM(共振器)
14 出力ミラー(共振器)
16 ダイクロイックミラー
18 固体レーザ媒質
20 半導体レーザ(励起手段)
22 セルフォックレンズ(励起手段)
24 ミラーホルダ
26 ナイフエッジ(モードセレクター)
28 ナイフエッジホルダ(移動手段)
30 ペルチェ素子
32 銅板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器と、
共振器内に配置された固体レーザ媒質と、
固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起手段と、
共振器内の発振光の横モードを制御するためのモードセレクターと、
前記モードセレクターを前記共振器の光軸方向へ移動させる移動手段と、
を備えた固体レーザ装置。
【請求項2】
前記共振器が、半導体可飽和吸収ミラー及び共振器内の群速度分散を制御するための負分散ミラーを含んで成る
請求項1記載の固体レーザ装置。
【請求項3】
前記モードセレクターの位置が、前記共振器内を周回する発振光の繰り返し周波数と異なる周波数の光によるノイズが抑制され且つモード同期が維持された状態となる位置に調整されている
請求項2記載の固体レーザ装置。
【請求項4】
前記励起手段からの励起光の前記固体レーザ媒質における集光スポットが楕円形状であり、前記モードセレクターは、前記発振光の前記楕円形状の長軸方向の光を遮断する
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の固体レーザ装置。
【請求項5】
前記モードセレクターが、ナイフエッジ、スリット、及びアパーチャーの何れかである
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の固体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−238792(P2011−238792A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109335(P2010−109335)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】