説明

固体導電材料

【課題】成形加工性、電極接触性および機械的強度に優れた新しい固体導電材料を提供する。
【解決手段】剛直な酸化ケイ素を核とし、有機分岐鎖が当該核から伸びており、外殻層に、有機分岐鎖の末端のイミダゾリウム塩が固定化された化合物を用いる。上記化合物の核と当該核から伸びる有機分岐鎖とからなるユニットが球形を維持したまま、3次元的に規則的に配列しているので、外殻層に三次元的にイオンや電子の伝導経路が構築された固体導電材料を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体導電材料に関し、特に、ナノオーダーの分子サイズレベルで三次元的にイオンや電子の伝導経路を構築することができる固体導電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池における電解質としては、主として、有機溶媒とリチウム塩とからなる有機溶媒電解質、有機高分子とリチウム塩とからなる高分子固体電解質、および、有機高分子と有機溶剤とリチウム塩とからなるゲル系電解質の三種類が知られている。この中でも特に有機溶媒電解質が現状では主流である。しかし、液体系の有機溶媒電解質は、電池の安全性や成形加工性に乏しいという問題を有する。かかる問題は、有機溶剤を含むゲル系電解質においても存在する。これに対して、高分子固体電解質は、電池の安全性や成形加工性には優れるが、電極接触性、イオン伝導性に問題がある。
【0003】
最近研究が盛んに行われている電解質に、リチウム塩としてのイオン液体を有機高分子ゲル中に取り込んだイオンゲル系電解質があるが、ゲル化の影響でイオン液体が有するイオン伝導度が著しく低下するという問題がある。さらに、作動温度が高温になった場合、イオンゲルがゾル化し、液体となって流れ出る恐れがあるなど、高温になった場合における電池の安全性や機械的強度に問題がある(引用文献1参照)。
【0004】
また、粒径0.1〜1マイクロメートルのシリカ微粒子にイオン液体性化合物を共有結合させた、コロイド型固体電解質の研究も盛んに行われている。コロイド型固体電解質はイオン伝導度、カチオン輸率、耐熱性および安全性に優れていものの、コロイド結晶特有の機械的な弱さと脆さを呈し、成形加工性に乏しいと言う問題点をともなっている。
【0005】
一方、本発明者は、イミダゾール基を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーが水中酸性条件下でユニット間水素結合ネットワークを形成していることを明らかにしており、イミダゾリウム塩を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーの合成に成功している(非特許文献1参照)。かご型シルセスキオキサンを核として有するデンドリマーについては、重合性基を末端に持つかご型シルセスキオキサン核デンドリマーを絶縁膜形成に用いる技術(特許文献2参照)、カルボキシル基を末端に持つかご型シルセスキオキサン核デンドリマー含む造影剤(特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−303492号公報(2004年10月28日公開)
【特許文献2】特開2007−112977号公報(2007年5月10日公開)
【特許文献3】国際公開第2009/031593号パンフレット(2009年3月12日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】polymer Preprints,Japan Vol.59,No.2,2010,p.2437-2438
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような従来のリチウムイオン二次電池における電解質はいずれも、成形加工性、電極接触性および機械的強度のいずれかに問題があるため、かかる問題のない新しい固体導電材料が求められている。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、成形加工性、電極接触性および機械的強度に優れた新しい固体導電材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、かご型シルセスキオキサン核デンドリマーについて、これまで、カルボン酸基を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーが水中酸性条件下で、ユニット間結合ネットワークを形成していることを明らかにしてきた。これは、かご型シルセスキオキサン核デンドリマーが、剛直なかご型シルセスキオキサンを核とすることによるものである。しかし、固体状態では、カルボン酸基を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーは成膜性を有しておらず、球形を維持して三次元的に配列させることができるものではなかった。
【0011】
これに対して、本発明者が合成に成功したイミダゾリウム塩を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーから成形体を得て、その固体状態を検討した結果、驚くべきことに、第1世代のイミダゾリウム塩を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーにおいても、デンドリマーユニットが球形を維持したまま、3次元的に規則的に配列していることが見出された。そして、かかる構造により、核と有機分岐鎖とからなる球状のユニットの外殻層に三次元的にイオン伝導経路が構築されると考えられ、実際にイオン伝導性が確認された。また、当該デンドリマーは、成形加工性、電極接触性および機械的強度にも優れていることが見出された。
【0012】
そして、かかる知見より、本発明者は、このようなデンドリマーを含む固体材料は、核と有機分岐鎖とからなる球状のユニットの外殻層に、ナノオーダーの分子サイズレベルで三次元的にイオンや電子の伝導経路を構築することができる、これまでにない全く新しい固体導電材料として利用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る固体導電材料は、上記課題を解決するために、一般式(1)で表される構造を有する化合物を含むことを特徴としている。
【0014】
【化1】

【0015】
(一般式(1)中、Rは、一般式(2)
【0016】
【化2】

【0017】
(一般式(2)中、Rは単結合または−O−Si(CH−を示し、Rはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、pおよびqはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。)
で表される基、一般式(3)
【0018】
【化3】

【0019】
(一般式(3)中、Rは単結合またはO−Si(CH−を示し、RおよびRはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、p、q、rおよびsはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。)
で表される基、または、一般式(4)
【0020】
【化4】

【0021】
(一般式(4)中、Rは単結合またはO−Si(CH−を示し、R、RおよびRはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、p、q、r、s、tおよびuはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。))
で表される基を示し、一般式(2)、一般式(3)および一般式(4)中の非芳香族第三級アミンはアンモニウム塩となっていてもよい。)
上記の構成によれば、上記化合物の酸化ケイ素からなる核と当該核から伸びる有機分岐鎖Rとからなるユニットが球形を維持したまま、3次元的に規則的に配列しているので、核と有機分岐鎖とからなる球状のユニットの外殻層に三次元的にイオンや電子の伝導経路が構築された固体導電材料を提供することができるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係る固体導電材料では、上記化合物の酸化ケイ素からなる核と当該核から伸びる有機分岐鎖Rとからなるユニットが規則的に配列している。
【0023】
本発明に係る固体導電材料では、上記ユニットの直径は、1〜10nmであることが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、これまで知られているコロイド型固体電解質より2桁小さいユニットにより、ナノオーダーの分子サイズレベルでイオンや電子の導電経路が構築される。それゆえ、固体導電材料の非導電性マトリクスが最小に抑えられるため、導電効率を高めた固体導電材料を提供することができる。
【0025】
本発明に係る固体導電材料では、上記化合物は、一般式(5)
【0026】
【化5】

【0027】
または一般式(6)
【0028】
【化6】

【0029】
で表される構造を有することが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、アミド基間や分岐窒素原子の間の水素結合で、より剛直な形状を維持することができ、さらに、上記ユニットの直径が、2.0〜2.8nmであるため、より効率的に導電性を示す固体導電材料を提供することができる。
【0031】
本発明に係る固体導電材料では、Xが、I、Br、Cl、PF、(CFSON、BF、ClO、C2n+1SO(式中、nは1〜4の整数を示す。)、C2n+1CO(式中、nは1〜4の整数を示す。)、C2n+1CO(式中、nは1〜4の整数を示す。)、(CFSOC、(FSON、ArSO(式中、Arは芳香族基を示す。)、(CFSOCCFSO−N−COCF、RSO(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)、R−SO−N−SOCF(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)、およびArSO−N−SOCF(式中、Arは芳香族基を示す。)からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0032】
上記の構成によれば、上記に示されたアニオン種が、耐熱性および耐酸化性に優れていることから、電池やキャパシタに用いられる、優れた耐熱性および耐酸化性を示す固体導電材料を提供することができる。
【0033】
本発明に係る固体導電材料は、上記化合物中のXの少なくとも一部をTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンとしたものであってもよい。かかる固体導電材料は、さらにTCNQまたはTCNQ系化合物を添加してなることが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、上記化合物中のXの少なくとも一部をTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンとしたものに、さらに中性のTCNQまたはTCNQ系を加えることにより、TCNQまたはTCNQ系化合物を混合原子価状態で積層することができる。それゆえ電気伝導性に優れる固体導電材料を提供することができる。
【0035】
本発明に係る固体導電材料は、さらにリチウム塩を含んでいてもよい。
【0036】
上記構成によれば、リチウムイオン二次電池に応用可能な、比較的強度に優れ、高温安定性、安全性、成型加工性を有する固体電解質としての固体導電材料を提供することができる。
【0037】
本発明に係る固体導電材料では、固体導電材料に含まれる上記化合物中の全イミダゾリウムイオンと上記リチウム塩に含まれる全リチウムイオンとのモル比が1:0.1〜1:0.5であることが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、ガラス転移温度を低下させることができ、イオン伝導性により優れた固体導電材料を提供することができる。
【0039】
また、本発明に係る化合物は、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物であって、当該化合物中のXの少なくとも一部をTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンとしたことを特徴としている。かかる化合物は、一般式(5)または一般式(6)で表される構造を有することがより好ましい。また、かかる化合物は、さらにTCNQまたはTCNQ系化合物を添加したものであってもよい。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る固体導電材料は、以上のように、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む構成を備えているので、上記化合物の酸化ケイ素からなる核と当該核から伸びる有機分岐鎖Rとからなるユニットが球形を維持したまま、3次元的に規則的に配列している。それゆえ、核と有機分岐鎖とからなる球状のユニットの外殻層に三次元的にイオンや電子の伝導経路が構築された固体導電材料を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の固体導電材料において、酸化ケイ素からなる核と当該核から伸びる有機分岐鎖とからなる球状のユニットが規則的に配列している様子を模式的に示す図である。
【図2】実施例において、第1世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im16)のX線散乱を測定した結果を示す図であり、(a)は、WAXS測定のプロファイルデータを、(b)はSAXS、WAXS同時測定のプロファイルデータを示す図である。
【図3】実施例において、第2世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im32)のX線散乱を測定した結果を示す図であり、(a)は、WAXS測定のプロファイルデータを、(b)はSAXS、WAXS同時測定のプロファイルデータを示す図である。
【図4】実施例において、第2世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)32)のX線散乱を測定した結果を示す図であり、(a)は、WAXS測定のプロファイルデータを、(b)はSAXS、WAXS同時測定のプロファイルデータを示す図である。
【図5】実施例において、第2世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマー(POSS−(PImPF32)のX線散乱を測定した結果を示す図であり、(a)は、WAXS測定のプロファイルデータを、(b)はSAXS、WAXS同時測定のプロファイルデータを示す図である。
【図6】実施例において、第1世代プロピルイミダゾリウムTCNQアニオンラジカル塩末端デンドリマーのUV−vis−NIRを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。なお、導電材料とは、電場の作用の下に電荷が移動して電流が流れる材料をいい、イオン伝導と、電子伝導とを含む概念である。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0043】
(I)
本発明に係る固体導電材料は、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含んでいる。
【0044】
【化7】

【0045】
一般式(1)中、Rは、下記一般式(2)、一般式(3)または一般式(4)で表される構造を有する基であればよい。
【0046】
【化8】

【0047】
一般式(2)中、Rは単結合または−O−Si(CH−を示し、Rはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、pおよびqはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。
【0048】
【化9】

【0049】
一般式(3)中、Rは単結合またはO−Si(CH−を示し、RおよびRはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、p、q、rおよびsはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。
【0050】
【化10】

【0051】
一般式(4)中、Rは単結合またはO−Si(CH−を示し、R、RおよびRはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、p、q、r、s、tおよびuはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。
【0052】
上記一般式(2)、一般式(3)または一般式(4)中、R、RおよびRはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基であればよいが、より好ましくは、それぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、または−O−CO−である。
【0053】
また、上記一般式(2)、一般式(3)または一般式(4)中、o、p、q、r、s、tおよびuはそれぞれ独立して1〜6の整数であればよいが、より好ましくは1〜4の整数であり、さらに好ましくは2〜3の整数である。また、上記一般式(2)、一般式(3)または一般式(4)中、Zは炭素数1〜4のアルキル基であればよいが、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、またはtert−ブチル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、またはプロピル基である。また、このアルキル基の水素原子は、酸素原子、窒素原子に置き換わり誘導化されていてもよい。
【0054】
また、上記一般式(2)、一般式(3)または一般式(4)において、非芳香族第三級アミンがアンモニウム塩になっている化合物を含む固体導電材料も本発明に含まれる。
【0055】
すなわち、本発明で用いられる一般式(1)で示される化合物は、酸化ケイ素からなるかご型シルセスキオキサン核から、イミダゾリウム塩を末端に有する有機分岐鎖Rが樹木状に伸びた構造を有するデンドリマーである。かかる化合物には、Rが一般式(2)で表される基である第1世代デンドリマー、Rが一般式(3)で表される置換基である第2世代デンドリマー、および、Rが一般式(4)で表される置換基である第3世代デンドリマーが含まれる。
【0056】
一般式(1)で示される化合物は、Rとして、一般式(2)、一般式(3)または一般式(4)で表される基を有していればよいが、具体的な一例としては、例えば、Rが、下記一般式(5)または一般式(6)で表される構造を有する基である化合物を挙げることができる。また、かかる化合物には、一般式(5)または一般式(6)の非芳香族第三級アミンがアンモニウム塩になっているものも含まれる。
【0057】
【化11】

【0058】
【化12】

【0059】
上記の構成によれば、アミド基間や分岐窒素原子の間の水素結合で、より剛直な形状を維持することができ、さらに、上記ユニットの直径が、2.0〜2.8nmであるため、より効率的に導電性を示す固体導電材料を提供することができる。
【0060】
なお、デンドリマーには、合成過程における副生成物である不完全デンドリマーが混入することがある。不完全デンドリマーとは、例えば、多官能基を有する核から枝を延ばしていく反応が完全に行われないために、例えば上記化合物では、側鎖が100%有機分岐鎖Rとなっていないようなデンドリマーをいう。本発明で用いられる一般式(1)で示される化合物には、本発明の効果が得られる限りにおいて、かかる不完全デンドリマーが含まれていてもよい。この場合の、有機分岐鎖Rの導入率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0061】
本発明に係る固体導電材料では、上記化合物の酸化ケイ素からなる核と当該核から伸びる有機分岐鎖Rとからなるユニットが規則的に配列している。
【0062】
従来、かご型シルセスキオキサン核デンドリマーのように剛直な核を有するデンドリマーでは、低い世代においては核から伸びる有機分岐鎖が樹木状に伸びる分子形態を保つため、デンドリマーの球形を維持することができるが、固体状態では、従来のカルボン酸基などを末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーは成膜性を有しておらず、球形を維持して三次元的に配列させることができるものではなかった。
【0063】
これに対して、本発明に係る固体導電材料では、図1に模式的に示すように、第1世代のイミダゾリウム塩を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーにおいても、デンドリマーユニットが球形を維持したまま、3次元的に規則的に配列している。
【0064】
これにより、核と有機分岐鎖とからなる球状のユニットの外殻層に三次元的にイオン伝導経路が構築された固体導電材料を提供することが可能となる。すなわち、本発明に係る固体導電材料では、上記化合物は、剛直な酸化ケイ素(かご型シルセスキオキサン)を核とし、運動性が抑制された有機分岐鎖Rが当該核から伸びており、外殻層に、有機分岐鎖Rの末端のイミダゾリウム基と対イオンとからなるイオン液体ユニットが高度に固定化された球状の構造を有している。そしてかかる外殻層、または、外殻層と有機分岐鎖とからなる層に、イオン輸送効率と電子伝導効率の高い伝導経路が形成される。
【0065】
本発明に係る固体導電材料では、上記核と有機分岐鎖とからなる球状のユニットの直径は、分子サイズレベルの1〜10nm程度であり、より好ましくは2〜8nmであり、さらに好ましくは2〜5nmである。なお、図1に示すように、上記化合物の酸化ケイ素からなる核の直径は、0.5nm程度である。
【0066】
これにより、これまで知られているコロイド型固体電解質より2桁小さいユニットが可能となり、分子サイズレベルの超微細なイオン伝導経路または電子伝導経路を構築することができる。それゆえ、その伝導経路の占める割合が、有機分岐鎖も伝導経路となるとしたときに、デンドリマーユニット全体に対して90重量%以上である、イオン高充填化した従来にはないタイプの固体導電材料を提供することが可能となる。また、固体導電材料の非導電性マトリクスが最小に抑えられるため、導電効率を高めた固体導電材料を提供することができる。
【0067】
本発明に係る固体導電材料では、上記球状のユニットは、外殻層に伝導経路が構築される程度に規則的に配列していればよいが、密な詰め込み構造、または、最密充填構造をとるように配列していることがより好ましい。なお、密な詰め込み構造、または、最密充填構造において、有機分岐鎖の長さに応じてユニット間の間隔が増減する配列も含まれる。これは、下記実施例で示されているX線散乱測定の結果と一致する。上記球状ユニットがその球形を維持したまま、規則的に配列することは、本発明に係る固体導電材料の優れた成形加工性にも寄与すると考えられる。
【0068】
本発明に係る固体導電材料では、Xは対イオンであるアニオンを示し、Xが、I、Br、Cl、PF、(CFSON、BF、ClO、C2n+1SO(式中、nは1〜4の整数を示す。)、C2n+1CO(式中、nは1〜4の整数を示す。)、C2n+1CO(式中、nは1〜4の整数を示す。)、(CFSOC、(FSON、ArSO(式中、Arは芳香族基を示す。)、(CFSOCCFSO−N−COCF、RSO(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)、R−SO−N−SOCF(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)、およびArSO−N−SOCF(式中、Arは芳香族基を示す。)からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0069】
上記の構成によれば、上記に示されたアニオン種が、耐熱性および耐酸化性に優れていることから、電池やキャパシタに用いられる、優れた耐熱性および耐酸化性を示す固体導電材料を提供することができる。
【0070】
また、Xは、Br、I等のハロゲンイオン、PFアニオン、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス−((トリフルオロメトル)スルフォニル)アミドアニオン、2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメチルスルフォニル)、ビス−((フルオロ)スルフォニル)アミドイオン、テトラフルオロボレートアニオン等であることがより好ましい。
【0071】
なお、本発明に係る固体導電材料は、一般式(1)で示される化合物を含んでいればよいが、当該化合物を主成分として含んでいることがより好ましい。ここで、主成分としてとは、固体導電材料全体に対して50重量%以上であることをいい、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは65%重量以上である。
【0072】
本発明に係る固体導電材料のガラス転移温度は、好ましくは室温以下であり、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−10℃以下であり、最も好ましくは−20℃以下であり、より低いほど好ましい。それゆえ、本発明に係る固体導電材料は、イオン伝導性の導電材料として好適に用いることができる。
【0073】
また、本発明に係る固体導電材料の形状は特に限定されるものではなく、どのような形状であってもよいが、例えば、フィルム状、膜状、繊維状、粒子状等である。
【0074】
上述した固体導電材料は、剛直な無機化合物の特性と、柔軟な有機化合物の特性と、イオン液体の特性とを融合した新しい固体導電材料を提供するものである。すなわち、上述した固体導電材料は、イオン伝導性を有するとともに、機械的強度が比較的高く、適度な流動性、可塑性を有し成型加工性に優れる。また、適度な流動性、可塑性を有するため、電極接触性にも優れた材料である。それゆえ、上述した従来のリチウムイオン二次電池における電解質が有する問題のない、新しい固体電解質として利用することができる。
【0075】
本発明に係る固体導電材料の製造方法は、少なくとも上記一般式(1)で示される化合物を含む成形体を製造する成形工程を含んでいればよい。
【0076】
上記成形工程において成形体を製造する方法は特に限定されるものではないが、例えば、上記一般式(1)で示される化合物を溶媒に溶解させて当該化合物の溶液を調製して成膜または成形し、溶媒を揮発させて乾燥させることで、成形体を得る方法を挙げることができる。当該方法に用いることができる溶媒としては、これに限定されるものではないが、水、メタノール、エタノール、DMF、DMSO、アセトン等を好適に用いることができ、メタノールまたはエタノールであることがより好ましい。また、溶媒を揮発させる温度は、上記化合物の構造が壊れない範囲で、揮発する温度であればよい。溶媒がメタノールの場合、溶媒を揮発させる温度は50〜70℃であることが好ましい。また、溶媒の揮発は減圧下で行ってもよい。
【0077】
本工程において成形体を製造する他の方法としては、例えば、上記一般式(1)で示される化合物が熱可塑性である場合には、当該化合物を加熱して軟化させて成形体とした後冷却してもよい。
【0078】
本発明に係る固体導電材料の製造方法は、少なくとも上記成形工程を含んでいればよいが、さらに上記一般式(1)で示される化合物を合成する合成工程を含んでいてもよい。
【0079】
上記一般式(1)で示される化合物を合成する方法は、これに限定されるものではないが、例えば、Naka, K., Fujita, M., Tanaka, K., Chujo, Y. Langmuir 2007, 23 (17), 9057-9063に記載の方法により、メチルエステルを末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーを製造し、得られたデンドリマーをアミノアルキルイミダゾールと反応させて、イミダゾール基を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーを製造し、得られたデンドリマーのイミダゾール基をイミダゾリウム塩に変換する方法を好適に用いることができる。
【0080】
イミダゾール基を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーの末端のイミダゾール基をイミダゾリウム塩に変換する方法としては、例えば、デンドリマーの末端のイミダゾール基に対して、ハロゲン化アルキルを選択的に導入する方法を用いることができる。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド溶液中にて、イミダゾール基を末端に有するかご型シルセスキオキサン核デンドリマーとハロゲン化アルキルとを、40℃で反応させることにより、アルキル基が選択的にイミダゾール基3位の窒素に導入され、イミダゾリウムイオンとすることができる。
【0081】
(II)
本発明に係る固体導電材料は、上記化合物中のXの少なくとも一部をTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンとしたものであってもよい。かかる固体導電材料は、さらにTCNQまたはTCNQ系化合物を添加してなることが好ましい。
【0082】
上記構成によれば、上記化合物中のXの少なくとも一部をTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンとしたものに、さらに中性のTCNQまたはTCNQ系化合物を添加することにより、TCNQまたはTCNQ系化合物を混合原子価状態で積層することができる。それゆえ、核と有機分岐鎖とからなる球状のユニットの外殻層に三次元的に伝導経路が構築された電子伝導性を有する固体導電材料を提供することが可能となる。
【0083】
上記TCNQ系ラジカルアニオンとは、電子受容体としての機能を有する分子であり、TCNQ骨格を有する誘導体またはTCNQに類似する構造を持つ分子のラジカルアニオンであれば特に限定されるものではない。かかるラジカルアニオンとしては、例えば、2,5−エトキシ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−メトキシ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ビス−(2−ヒドロキシエトキシ)−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ジフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ジクロロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ジメチル−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ジエチル−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2−フルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン等のTCNQ骨格を有する誘導体、11,11,12,12−テトラシアノナフト−2,6−キノジメタン、ビス(テトラブチルアンモニウム)テトラシアノジフェノジメタニド、テトラシアノエチレン等のTCNQに類似する構造を持つ分子のラジカルアニオンを挙げることができる。
【0084】
本実施形態では、上記化合物中のXの少なくとも一部がTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンに交換されていればよいが、X-に対する、ラジカルアニオンの交換率は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。X-に対する、ラジカルアニオンの交換率が上記範囲であることにより、電子伝導性に優れた固体導電材料を提供することができる。
【0085】
なお、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物であって、当該化合物中のXの少なくとも一部をTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンとした化合物は、新規な化合物である。したがって、本発明には、かかる化合物も含まれる。かかる化合物において、TCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンに交換されていないXは、上記(II)で説明したとおりである。また、かかる化合物は、一般式(5)または一般式(6)で表される構造を有することがより好ましい。また、かかる化合物は、さらに中性のTCNQまたはTCNQ系化合物を添加したものであってもよい。
【0086】
(III)
本発明に係る固体導電材料は、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物に加えて、さらにリチウム塩を含んでいてもよい。かかるリチウム塩は、特に限定されるものではないが、例えば、上記化合物(1)の対イオンであるアニオンと同様のアニオンとの塩を挙げることができる。
【0087】
これにより、リチウムイオン二次電池に応用可能な、比較的強度に優れ、高温安定性、安全性、成型加工性を有する固体電解質としての固体導電材料を提供することができる。
【0088】
本実施形態に係る固体導電材料では、固体導電材料に含まれる上記化合物中の全イミダゾリウムイオンと上記リチウム塩に含まれる全リチウムイオンとのモル比が、好ましくは1:0.1〜1:0.5、より好ましくは1:0.25〜1:0.35となるように、リチウム塩が含まれていることが好ましい。
【0089】
リチウム塩の含有量が上記範囲であることにより、ガラス転移温度を低下させることができ、イオン伝導性により優れた固体導電材料を提供することができる。
【0090】
本実施形態に係る固体導電材料の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、上記一般式(1)で表される化合物とリチウム塩とを溶媒に溶解して成膜または成形し、溶媒を揮発させて乾燥させることで、目的物を得る方法を挙げることができる。当該方法に用いることができる溶媒としては、これに限定されるものではないが、水、メタノール、エタノール、DMF、DMSO、アセトン等を好適に用いることができ、メタノールまたはエタノールであることがより好ましい。また、溶媒を揮発させる温度は、上記化合物の構造が壊れない範囲で、揮発する温度であればよい。溶媒がメタノールの場合、溶媒を揮発させる温度は50〜70℃であることが好ましい。また、溶媒の揮発は減圧下で行ってもよい。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0092】
〔実施例1〕
下記式(7)
【0093】
【化13】

【0094】
で示される第1世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im16)を製造した。Naka, K., Fujita, M., Tanaka, K., Chujo, Y. Langmuir 2007, 23 (17), 9057-9063.、または、F. J. Feher.; K. D. Wyndham. Chem.Commun.1998, 323-324に基づき合成された、下記式(8)
【0095】
【化14】

【0096】
で示されるPOSS核デンドリマー(POSS−OMe16)(0.49g、0.22mmol)に、1−3−(アミノプロピル)イミダゾール(2.13g,0.02mol)を加え、窒素下、30℃で13日攪拌した。得られた生成物はメタノールを溶媒としサイズ排除クロマトグラフィーを用いて精製した。上記式(7)で示される第1世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im16)は0.78 g(0.21mmol,収率95%)得られた。以下に第1世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im16)のNMRデータを示す。H−NMR(CDCl)δ0.42(s,16H),δ1.36(s,16H),δ1.94(s,32H),δ2.31(s,32H),δ2.65(m,48H),δ3.13(s,32H),δ4.00(s,32H),δ6.95(s,16H),δ6.99(s,16H),δ7.52(s,16H).13C−NMR(CDCl)δ9.497,19.767,30.920,33.812,36.173,44.468,49.841,55.480,119.164,129.135,137.269,172.984.29Si−NMRδ66.45(s)。
【0097】
〔実施例2〕
下記式(9)
【0098】
【化15】

【0099】
で示される第2世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im32)を製造した。F. J. Feher.; K. D. Wyndham. Chem.Commun.1998, 323-324に基づき合成された、下記式(10)
【0100】
【化16】

【0101】
で示されるPOSS核デンドリマー(POSS−OMe32)(3.53g,0.695mmol)のメチルエステル基に対して5当量の1−(3−アミノプロピル)イミダゾール(13.9g,0.111mol)を加え、窒素下、50℃で10日間攪拌した。反応溶液を減圧下で乾燥させた後、10wt%メタノール溶液にし、メタノールを展開溶媒に用いて、加圧ポンプと併用してサイズ排除クロマトグラフィーで流速;5 mL/min(カラム60cm/h)で1分ごとにサンプルを採取し、UV(280nm)でサンプルの強度を測定し、目的画分を集め、減圧下で溶媒を留去することで上記式(9)で示される第2世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im32)(4.70g,0.557mmol,収率80.3%)を得た。以下に第2世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im32)のNMRデータを示す。H−NMR(CDOD):δ7.68(s,32H),δ7.14(s,32H),δ6.95(s,32H),δ4.03 (t,64H),δ3.23(m,32H),δ3.15(m,64H),δ2.77(m,48H),δ2.55(m,96H),δ1.94(m,64H),δ1.55(m,16H),δ0.62(m,16H).13C−NMR(CDCl):δ174.805,174.476,138.619,129.210,120.745,57.178,53.565,51.139,49.836,45.565,38.677,37.449,34.762,34.518,32.021,21.060,10.712.29Si−NMR:δ−66.30。
【0102】
〔実施例3〕
下記式(11)
【0103】
【化17】

【0104】
で示される第1世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)16)を製造した。上記式(7)で示される第1世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im16)(1.31g、0.349mmol)を24mLのDMFに溶かし、イミダゾール基に対して24当量の1−ブロモプロパン(16.49g,0.134mmol)を加え、40℃の窒素下で24時間撹拌した。生成した沈殿をデカンテーションにより取り出し、アセトンを用いて洗浄し、減圧下で乾燥させた後、10wt%メタノール溶液とし、メタノールを展開溶媒に用いてサイズ排除クロマトグラフィーで精製し、上記式(11)で示される第1世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)16)(1.825g,0.3192mmol,91%)を得た。以下に第1世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)16)のNMRデータを示す。H−NMR(CDOD)δ9.25(s,16H),δ7.81(s,16H),δ7.70(s,16H),δ4.37(t,32H),δ4.22(t,32H),δ3.23(m,32H),δ3.12(m,32H),δ2.89(m,32H),δ2.67(m,32H),δ2.13(t,32H),δ1.92(m,32H),δ1.74(m,16H),0.96(t,48H),δ0.74(m,16H)。
【0105】
〔実施例4〕
下記式(12)
【0106】
【化18】

【0107】
で示される第2世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)32)を製造した。上記式(9)で示される第2世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im32)(0.815g,0.0965mmol)を15mLのDMFに溶かし、イミダゾール基に対して37当量の1−ブロモプロパン(13.9g,0.113mol)を加え、窒素下で40℃で24時間攪拌した。生成した沈殿をデカンテーションにより取り出し、アセトンを用いて洗浄し、減圧下で乾燥させた後、10wt%メタノール溶液にし、メタノールを展開溶媒に用いてサイズ排除クロマトグラフィーで精製し、上記式(12)で示される第2世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)32)(1.0376g,0.0838mmol,収率86.8%)を得た。以下に第2世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)32)のNMRデータを示す。H−NMR(CDOD)δ9.25(s,32H),δ7.84(s、32H),δ7.73(s,32H),δ4.38(t,64H),δ4.23(t,64H),δ3.23(m,96H),δ2.90(m,96H),δ2.71(m,64H),δ2.48(m,64H),δ2.14(t,64H),δ1.91(m,64H),δ1.83(m,16H),δ0.79(m,16H)。
【0108】
〔実施例5〕
下記式(13)
【0109】
【化19】

【0110】
で示される第1世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマー(POSS−(PImPF16)を製造した。上記式(11)で示される第1世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)16)(0.138g,0.0241mmol)を水2.8mLに溶かし、POSS−(PImBr)16のイミダゾール基に対して1.5当量のKPF(0.107g,0.581mmol)を溶解させた水1.8mLを攪拌しながら加えた。生成した沈殿をデカンテーションにより取り出し、蒸留水を用いて洗浄した後、減圧下で乾燥させた。第1世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマー(POSS−(PImPF16)(0.156g、0.0230mmol)は収率95.1%で得られた。以下に第1世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマー(POSS−(PImPF16)のNMRデータを示す。H−NMR (CDOD)δ8.84(s,16H),δ7.65(s,32H),δ4.23(m,32H),δ4.16(t,32H),δ3.22(t,32H),δ2.93(m,32H),δ2.68(m,32H),δ2.44(m,32H),δ2.08(m,32H),δ1.91(m,32H),δ1.64(m,16H),δ0.95(m,48H),δ0.69(m,16H)。
【0111】
得られた第1世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマーを後述する熱特性評価に従い測定したところ、56℃に融点が観測された。融点付近の目視観察では、融点付近で軟化し粘稠な固体となるが、固体形状を保っていた。
【0112】
〔実施例6〕
下記式(14)
【0113】
【化20】

【0114】
で示される第2世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマー(POSS−(PImPF32)を製造した。上記式(12)で示される第2世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)32)(0.145g、0.0117mmol)を蒸留水2.8mLに溶かし、POSS−(PImBr)32のイミダゾール基に対して1.5当量のKPF(0.104g,0.565mmol)を溶解させた蒸留水1.8mLを攪拌しながら滴下した。生成した沈殿をデカンテーションにより取り出し、蒸留水を用いて洗浄した後、減圧下で乾燥させた。上記式(14)で示される第2世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマー(POSS−(PImPF32)(0.169g、1.17μmol)は収率99%で得られた。以下に第2世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマー(POSS−(PImPF32)のNMRデータを示す。H−NMR(CDOD)δ8.88(s,32H),δ7.63 (s, 64H),δ4.25(s,64H), δ4.16 (t,64H),δ3.22 (t,96H),δ2.78 (m,64H),δ2.72(m,64H),δ2.10(m,64H),δ1.92(m,80H),δ0.95(m,96H),δ0.79(t,16H)。
【0115】
得られた第2世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマーを後述する熱特性評価に従い測定したところ、43℃に融点が観測された。融点付近の目視観察では、融点付近で軟化し粘稠な固体となるが、固体形状を保っていた。
【0116】
〔実施例7〕
下記式(15)
【0117】
【化21】

【0118】
で示される第1世代プロピルイミダゾリウムTFSI塩末端デンドリマー(POSS−(PImTFSI)16)を製造した。上記式(11)で示される第1世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)16)(0.2058g,0.03470mmol)を少量の蒸留水(約0.3mL)に溶解させたPOSS−(PImBr)16の水溶液と、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)(0.2391g,0.8328mmol,イミダゾール基に対して1.50当量)を少量の蒸留水(約0.3mL)に溶解させたリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの水溶液とを調製し、POSS−(PImBr)16の水溶液を攪拌しながらリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの水溶液を滴下し、POSS−(PImTFSI)16の沈殿をえた。一晩放置後、上澄みを除去し、沈殿を蒸留水で洗浄した後、減圧下で乾燥させた。第1世代プロピルイミダゾリウムTFSI塩末端デンドリマー(POSS−(PImTFSI)16)(0.327g、3.67μmol)は収率99%で得られた。以下に第1世代プロピルイミダゾリウムTFSI塩末端デンドリマー(POSS−(PImTFSI)16)のNMRデータを示す。H−NMR(CD3OD)δ7.64(s,16H),δ4.24(t,16H),δ4.17(t,32H),δ3.12(,32H),δ2.81(m, 32H),δ2.55(m, 16H) ,δ2.40(m,32H),δ2.08(m,32H),δ1.90(m,32H), δ1.59(m,16H),δ0.95(m,48H),δ0.63(m,16H)。
【0119】
〔実施例8〕
下記式(16)
【0120】
【化22】

【0121】
で示される第2世代プロピルイミダゾリウムTFSI塩末端デンドリマー(POSS−(PImTFSI)32)を製造した。上記式(12)で示される第2世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)32)(0.248g,0.020mmol)を水2.8mLに溶かし、POSS−(PImBr)32のイミダゾール基に対して1.5当量のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)(0.276g,0.96mmol)を溶解させた蒸留水1.8mLを攪拌しながら滴下した。生成した沈殿をデカンテーションにより取り出し、蒸留水を用いて洗浄し、乾燥させ、第2世代プロピルイミダゾリウムTFSI塩末端デンドリマー(POSS−(PImTFSI)32)を得た。
【0122】
〔実施例9〕
下記式(17)
【0123】
【化23】

【0124】
で示される第1世代メチルイミダゾリウムヨウ素塩末端デンドリマー(POSS−(MImI)16)を製造した。上記式(7)で示される第1世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im16)(0.465g,0.124mmol)を5mLのDMFに溶かし、イミダゾール基に対して25当量のヨードメタン(7.09g,50.0mmol)を加え、40℃の窒素下で24時間撹拌した。2−プロパノールを用いた再沈殿により精製した。第1世代メチルイミダゾリウムヨウ素塩末端デンドリマー(POSS−(MImI)16)を得た。以下に第1世代メチルイミダゾリウムヨウ素塩末端デンドリマー(POSS−(MImI)16)のNMRデータを示す。H−NMR (DO)δ8.83(s,16H),δ7.56(s,16H),δ7.47(s,16H),δ4.29(t,32H),δ3.91(s,48H),δ3.75(m,32H),δ3.45(m,16H),δ3.28(t,32H),δ2.93(m,32H),δ2.14 (t,32H), δ1.99(m,16H),δ0.95(m,16H)。
【0125】
〔実施例10〕
下記式(18)
【0126】
【化24】

【0127】
で示される第2世代メチルイミダゾリウムヨウ素塩末端デンドリマー(POSS−(MImI)32)を製造した。上記式(9)で示される第2世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im32)(0.507g,0.0601mmol)を5mLのDMFに溶かし、イミダゾール基に対して26当量のヨードメタン(7.05g,49.7mmol)を加え、40℃の窒素下で24時間撹拌した。2−プロパノールを用いた再沈殿により精製した。第2世代メチルイミダゾリウムヨウ素塩末端デンドリマー(POSS−(MImI)32)を得た。以下に第2世代メチルイミダゾリウムヨウ素塩末端デンドリマー(POSS−(MImI)32)のNMRデータを示す。H−NMR(DO)δ8.84(s,32H),δ7.57(s,32H),δ7.48(s,32H),δ4.29(m,64H),δ3.92(s,96H),δ3.78(m,96H),δ3.64(m,32H),δ3.52(m,16H),δ3.28(t,96H),δ2.95(m,96H),δ2.15(t,64H),δ1.99(m,16H),δ0.96(m,16H)。
【0128】
〔実施例11〕
上記式(11)で示される第1世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)16)の臭化物イオンの一部が、TCNQアニオンラジカルに交換した第1世代プロピルイミダゾリウムTCNQアニオンラジカル塩末端デンドリマーを製造した。上記式(11)で示される第1世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)16)(0.0511g,8.94×10−6mol)を0.5mLのメタノールに溶かし、イミダゾリウム基に対して1当量の7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンリチウム塩(LiTCNQ)(0.0299g,1.42×10−4)を1mLのメタノールに溶かした溶液を滴下し、窒素下で4時間撹拌した。生成した沈殿をデカンテーションにより取り出し、メタノールを用いて洗浄し、減圧下で乾燥した。濃青色固体として第1世代プロピルイミダゾリウムTCNQアニオンラジカル塩末端デンドリマー(0.0103g)を得た。TCNQアニオンラジカルへの交換は赤外分光光度計より確認した。結果はFTIR(cm−1): ν=2183(TCNQ−),1111(O−Si−O)である。第1世代プロピルイミダゾリウムTCNQアニオンラジカル塩末端デンドリマーにおけるTCNQアニオンラジカル交換率は50%であった。
【0129】
また、第1世代プロピルイミダゾリウムTCNQアニオンラジカル塩末端デンドリマー(1.0mg,1.30×10−7mol)を1mLのアセトニトリルに溶かし、イミダゾリウム基に対して当量の7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンを4mLのアセトニトリルに溶かした溶液を滴下し、窒素下で一晩撹拌した。この溶液をガラス板上にキャストすることで、透過による紫外可視近赤外分光光度計による評価が可能な濃青色固体が得られた。FTIR(cm−1)ν=2224(中性のTCNQに相当),2194(混合原子価状態のTCNQに相当),2183(TCNQアニオンラジカルに相当),1112(O−Si−O)。
【0130】
導電性発現に必須の条件は、TCNQが混合原子価状態で積層していることである。これは赤外吸収スペクトルにおける混合原子価状態のTCNQに相当する吸収帯の観測および近赤外領域における幅広い吸収により確認できる。本実施例においては、TCNQが混合原子価状態で積層していることが確認された。
【0131】
〔実施例12〕
第1世代プロピルイミダゾリウムTFSI塩末端デンドリマー(POSS−(PImTFSI)16)および、POSS−(PImTFSI)16とLiTFSIとの混合物のガラス転移温度の評価を行った。
【0132】
試料の調製方法は以下の2通りの方法で行った。
【0133】
(調製法1)
POSS−(PImTFSI)16(0.0501g、0.00562mmol)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)(0.0131g、0.0456mmol、イミダゾリウム基に対して0.51当量)とを少量のメタノール(約2.0mL)に溶解させ、60℃のオイルバス中で攪拌しながら減圧下で2日間乾燥させた。
【0134】
(調製法2)
POSS−(PImTFSI)16(0.4031g、0.04519mmol)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)(0.1023g、0.3563mmol、イミダゾリウム基に対して0.49当量)とを少量のメタノール(約3.0mL)に溶解させて、POSS−(PImTFSI)16とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)との混合メタノール溶液を調製した。ホットプレート上で60℃に温めた0.1mm厚のテフロン(登録商標)シート上に調製した混合メタノール溶液を滴下してメタノールを除去した後、減圧下で乾燥させた。得られた乾燥体を10℃で3日間放置した。
【0135】
(熱特性評価)
熱特性評価にはDSC(示差走査熱量測定)を用いた。DSCはTAInstruments Modulated DSC 2920を使用し、全てのサンプルをAluminum PAN、窒素下、昇温速度10 ℃/min で測定を行った。Tg(ガラス転移温度)はベースラインの延長線と変曲点の接線との交点をTg(ガラス転移温度)として用いた。吸湿性を有するサンプルについては熱履歴および水の影響を排除するため1st scanで100℃以上に加熱し、室温まで冷風で冷却し、そこから−50℃以下まで液体窒素を用いて冷却した。
【0136】
以下の表1に、熱特性評価試験の結果を示す。表1に示すように本発明の化合物にリチウム塩を含ませることにより、ガラス転移温度を低下させることができることがわかる。特に本実施例においては、イミダゾリウム基に対してモル比0.3の割合でリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を添加して作製した固体が最もガラス転移温度が低いことがわかる。
【0137】
【表1】

【0138】
〔実施例13〕
実施例12と同様の方法を用いて、第2世代プロピルイミダゾリウムTFSI塩末端デンドリマー(POSS−(PImTFSI)32)およびPOSS−(PImTFSI)32とLiTFSIとの混合物のガラス転移温度の評価を行った。結果を表2に示す。表2に示すように本発明の化合物にリチウム塩を含ませることにより、ガラス転移温度を低下させることができることがわかる。特に、本実施例においても、実施例12の結果と同様、イミダゾリウム基に対してモル比0.3の割合でリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を添加して作製した固体が最もガラス転移温度が低いことがわかる。
【0139】
【表2】

【0140】
〔実施例14〕
第1世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im16)についてX線散乱測定を行った。
【0141】
測定試料は、実施例1、2、4、および6で得られる試料をそのまま減圧下で2日間乾燥されたものを試料とした。X線散乱測定は、つくばの高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設(Photon Factory;PF)のビームラインBL−9CのWAXS装置(設定波長0.154nm,カメラ長10cm)を用いて行い、小角側の補完のためSpring8のビームライン40B2のSAXS装置(設定波長0.1nm,カメラ長2.3m)を用いて行なった。検出装置は2次元X線検出器であるImaging plateを用いた。Imaging plateの読み取りにはBAS−2500(富士フィルム株式会社)を用いた。広角側のハローピークのフィッティングにはガウス関数とローレンツ関数を用いた。
【0142】
結果を図2に示す。図2に示すように小角側にピークが1つ観測された。このピークの最大値をとるq値より求めた面間隔は1.77nmであった。
【0143】
〔実施例15〕
実施例14と同様の方法で、第2世代イミダゾールデンドリマー(POSS−Im32)についてX線散乱測定を行った。結果を図3に示す。図3に示すように小角側にピークが1つ観測された。この試料のピークの最大値をとるq値より求めた面間隔は2.20nmであった。
【0144】
〔実施例16〕
実施例14と同様の方法で、第2世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)32)についてX線散乱測定を行った。結果を図4に示す。図4に示すように小角側にピークが1つ観測された。この試料のピークの最大値をとるq値より求めた面間隔は2.54nmであった。
【0145】
〔実施例17〕
実施例14と同様の方法で、第2世代プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩末端デンドリマー(POSS−(PImPF32)についてX線散乱測定を行った。結果を図5に示す。図5に示すように小角側にピークが1つ観測された。この試料のピークの最大値をとるq値より求めた面間隔は2.68nmであった。
【0146】
上記の結果はかご型シルセスキオキサン核の周期構造を示していると考えられ、世代数の増加とイミダゾリウム塩の対アニオンがBrからPFに変換することで周期構造の間隔が増加していることがわかった。分子模型による概算から求めたかご型シルセスキオキサン核の一辺の大きさが0.5nmであることとそれぞれの試料のデンドリマー鎖長とを考慮してもそれぞれのデンドリマーが図1のように球形を保った状態で周期構造をとっていることが示された。
【0147】
また、いずれの試料においても小角側のピークより広角側にハローピークが認められた。この中でPOSS−(PImPF32のみ、ハローピークが2種類みられることがわかった。Trioloらによって、低分子イオン液体である1−ブチル3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩([bmIm][PF])のX線小角散乱を用いた測定の結果、15nm−1と10nm−1に二つのハローピークが観測され、それぞれの面間隔は0.41nmおよび0.64nmであった。これらがイミダゾリウム環同士の面間隔が0.64nmに、PFアニオンとイミダゾリウム環との距離が0.41nmに相当すると報告された。実施例17のPOSS−(PImPF32の結果においてもこの結果に類似する結果が得られた。ハローピークのフィッティングにより求めたピークより求めた面間隔は0.449nmおよび0.668nmであり、極めて良く一致した。この結果は、POSS−(PImPF32においてそのイミダゾリウム塩末端部分が集まり、低分子イオン液体と同様な集合状態を形成しているということを示すものである。
【0148】
〔実施例18〕
第2世代プロピルイミダゾリウムTFSI塩末端デンドリマー(POSS−(PImTFSI)32)とリチウムトリフレート(CFSOLi)との混合物のイオン伝導度評価を行った。
【0149】
(調製法3)
POSS−(PImTFSI)16(0.4031g、0.04519mmol)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)(0.1023g、0.3563mmol、イミダゾリウム基に対して0.49当量)とを少量のメタノール(約3.0mL)に溶解させて、POSS−(PImTFSI)16とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)との混合メタノール溶液を調製した。ホットプレート上で60℃に温めた0.1mm厚のテフロン(登録商標)シート上に調製した混合メタノール溶液を滴下してメタノールを除去した後、減圧下で乾燥させた。
【0150】
(イオン伝導度評価)
上記の調製法3で調製した試料を、東洋テクニカSHI−2室温サンプルホルダーを用いて円盤状電極2つで挟んだ。当該室温サンプルホルダーを恒温器に入れて温度変化させ、東洋テクニカ1260型インピーダンスアナライザーを用いて周波数を0.1Hzから1MHzの範囲で変化させて、30℃から60℃の温度範囲で測定を行った。
【0151】
POSS−(PImTFSI)32とリチウムトリフレート(CFSOLi)の混合比を、イミダゾリウム基に対するリチウムトリフレートのモル比で、1:0.1とした場合、イオン伝導度は30℃で3.8×10−6S/cm、60℃で4.2×10−5S/cmとなった。また、POSS−(PImTFSI)32とリチウムトリフレート(CFSOLi)の混合比を、イミダゾリウム基に対するリチウムトリフレートのモル比で、1:0.5とした場合、イオン伝導度は30℃で4.0×10−7S/cm、60℃で2.0×10−5S/cmとなった。
【0152】
〔実施例19〕
実施例18と同様の方法で、第1世代プロピルイミダゾリウムTFSI塩末端デンドリマー(POSS−(PImTFSI)16)とリチウムトリフレート(CFSOLi)との混合物のイオン伝導度評価を行った。
【0153】
POSS−(PImTFSI)16とリチウムトリフレート(CFSOLi)の混合比を、イミダゾリウム基に対するリチウムトリフレートのモル比で、1:0.5とした場合、イオン伝導度は30℃で4.0×10−6S/cm、60℃で5.0×10−5S/cmとなった。
【0154】
〔実施例20〕
第1世代プロピルイミダゾリウムTCNQアニオンラジカル塩末端デンドリマーの導電率を測定した。
上記式(11)で示される第1世代プロピルイミダゾリウム臭素塩末端デンドリマー(POSS−(PImBr)16)(0.0503g、8.80μmol)を1.0mLのN,N−ジメチルホルムアミドに溶かし、イミダゾリウム基に対して、1.5倍のモル量の7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンリチウム塩(LiTCNQ)(0.0453g、0.215mmol)を1mLのN,N−ジメチルホルムアミドに溶かした溶液を滴下し、窒素下で室温4時間撹拌した。酢酸エチルで再沈殿をした後、乾燥させ深青色固体を得た。得られた第1世代プロピルイミダゾリウムTCNQアニオンラジカル塩末端デンドリマー(10.0mg、1.30μmol)を1mLのアセトニトリルに溶かし、イミダゾリウム基に対して1当量の7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(4.7mg、23μmol)を4mLのアセトニトリルに溶かした溶液を滴下し、窒素下で一晩撹拌した。この溶液をガラス板上にキャストし、UV−vis−NIR測定および4端子法により低効率測定を行った。UV−vis−NIR測定の結果は図6に示される。この測定結果より、2000nm付近のブロードな吸収が認められたことから、混合原子価状態で積層していることがいえる。また、抵抗率測定から得られた導電率は、1.3×10−3S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明に係る固体導電材料は、ナノオーダーの分子サイズレベルで三次元的にイオンや電子の伝導経路を構築することができるこれまでにない新しいタイプの固体導電材料であり、成形加工性、電極接触性に優れ、比較的高い機械的強度を有するので、多方面への利用が想定される。例えば、リチウムイオン二次電池用の固体電解質材料、デンドリマー外殻層において混合原子価状態が積層された固体導電材料等として利用することが想定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される構造を有する化合物を含むことを特徴とする固体導電材料。
【化1】

(一般式(1)中、Rは、一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、Rは単結合または−O−Si(CH−を示し、Rはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、pおよびqはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。)
で表される基、一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、Rは単結合またはO−Si(CH−を示し、RおよびRはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、p、q、rおよびsはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。)
で表される基、または、一般式(4)
【化4】

(一般式(4)中、Rは単結合またはO−Si(CH−を示し、R、RおよびRはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、p、q、r、s、tおよびuはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。)
で表される基を示し、一般式(2)、一般式(3)および一般式(4)中の非芳香族第三級アミンはアンモニウム塩となっていてもよい。))
【請求項2】
上記化合物の酸化ケイ素からなる核と当該核から伸びる有機分岐鎖Rとからなるユニットが規則的に配列していることを特徴とする請求項1に記載の固体導電材料。
【請求項3】
上記化合物の酸化ケイ素からなる核と当該核から伸びる有機分岐鎖Rとからなる球状のユニットの直径は、1〜10nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の固体導電材料。
【請求項4】
上記化合物は、一般式(5)
【化5】

または一般式(6)
【化6】

で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体導電材料。
【請求項5】
Xが、I、Br、Cl、PF、(CFSON、BF、ClO、C2n+1SO(式中、nは1〜4の整数を示す。)、C2n+1CO(式中、nは1〜4の整数を示す。)、C2n+1CO(式中、nは1〜4の整数を示す。)、(CFSOC、(FSON、ArSO(式中、Arは芳香族基を示す。)、(CFSOCCFSO−N−COCF、RSO(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)、R−SO−N−SOCF(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)およびArSO−N−SOCF(式中、Arは芳香族基を示す。)からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体導電材料。
【請求項6】
上記化合物中のXの少なくとも一部をTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンとしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体導電材料。
【請求項7】
さらにTCNQまたはTCNQ系化合物を添加したことを特徴とする請求項6に記載の固体導電材料。
【請求項8】
さらにリチウム塩を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体導電材料。
【請求項9】
固体導電材料に含まれる上記化合物中の全イミダゾリウムイオンと上記リチウム塩に含まれる全リチウムイオンとのモル比が1:0.1〜1:0.5であることを特徴とする請求項8に記載の固体導電材料。
【請求項10】
一般式(1)で表される構造を有する化合物であって、当該化合物中のXの少なくとも一部をTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンとしたことを特徴する化合物。
【化7】

(一般式(1)中、Rは、一般式(2)
【化8】

(一般式(2)中、Rは単結合または−O−Si(CH−を示し、Rはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、pおよびqはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。)
で表される基、一般式(3)
【化9】

(一般式(3)中、Rは単結合またはO−Si(CH−を示し、RおよびRはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、p、q、rおよびsはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。)
で表される基、または、一般式(4)
【化10】

(一般式(4)中、Rは単結合またはO−Si(CH−を示し、R、RおよびRはそれぞれ独立して−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、酸素原子、−CH=CH−、または、メチレン基を示し、o、p、q、r、s、tおよびuはそれぞれ独立して1〜6の整数を示し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。)
で表される基を示し、一般式(2)、一般式(3)および一般式(4)中の非芳香族第三級アミンはアンモニウム塩となっていてもよい。))
【請求項11】
一般式(5)
【化11】

または一般式(6)
【化12】

で表される構造を有する化合物であって、
上記化合物中のXの少なくとも一部をTCNQラジカルアニオンまたはTCNQ系ラジカルアニオンとしたことを特徴とする請求項10記載の化合物。
【請求項12】
さらにTCNQまたはTCNQ系化合物を添加したことを特徴とする請求項10または11に記載の化合物。

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−8647(P2013−8647A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142286(P2011−142286)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】