説明

固体撮像装置用カバーガラス

【課題】ガラスのヤング率が高く、またシリコンと広い温度範囲で熱膨張係数が近似したCSPにて製造される固体撮像装置に特に好適に使用できる固体撮像装置用カバーガラスを提供すること。
【解決手段】質量%で、SiO 56〜66%、Al 9〜26%、B 1〜11%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、ZnO 4〜13%、LiO 0〜4.0%、NaO 0〜5.0%、KO 0〜6.0%、ただし、LiO+NaO+KO 1%以上を含有し、30〜300℃の範囲における平均熱膨張係数が30〜38×10−7−1、ヤング率が78GPa以上の固体撮像装置用カバーガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子を保護すると共に透光窓として使用される固体撮像装置用カバーガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子は、受光素子であるLSIチップをパッケージ内に納め、その受光面に色分解モザイクフィルターを重ねてワイヤボンディングし、パッケージ開口部にカバーガラスを接着剤により封着した構造となっている。ここで用いられるカバーガラスは、パッケージとの気密封着によりLSIチップを保護するだけではなく受光面へ効率的に光を導入するため、内部欠陥の少ない光学的に均質な材料特性、高い透過率特性が要求される。また、このような用途に使用されるガラスは、パッケージと封着された時に割れや歪みが発生してはならない。すなわち、ガラスとパッケージ材質との熱膨張係数を適合させる必要がある。パッケージ材質としては、平均熱膨張係数が60〜75×10−7−1のアルミナなどのセラミックが従来より用いられており、これに適合するカバーガラスとして平均熱膨張係数が45〜75×10−7−1のホウケイ酸塩ガラスがある。
【0003】
他方、デジタルカメラ等の固体撮像装置における小型化の要求に対し、チップ・サイズ・パッケージ(CSP)による製造プロセスを用いた固体撮像装置が検討されている(特許文献1)。この製造プロセスによれば、シリコンウエハに受光部を構成する複数の固体撮像素子を形成し、透明材料からなるカバーガラスウエハを、受光部に対応するように形成されたスペーサを介してシリコンウエハと接合し、カバーガラスウエハとシリコンウエハを切断、個片化することで固体撮像装置を一括して製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−80297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年のデジタルカメラや携帯電話等の薄型化に伴い、固体撮像装置自体も更なる薄型化が要求されている。しかしながら、前述のCSPを用いた固体撮像装置の製造プロセスにおいて薄型化を図るためには、下記の課題がある。
【0006】
固体撮像装置の薄型化をするためには、カバーガラスウエハ、スペーサ、シリコンウエハのそれぞれの厚さを薄くする必要がある。しかし、カバーガラスウエハやシリコンウエハは、薄くしていくとその剛性が落ち、たわみやすくなるという問題がある。CSPによる製造プロセスにおいて、カバーガラスウエハやシリコンウエハを例えば8インチサイズ等の大判で用いることを想定すると、板厚にもよるが自重により数mmのたわみがあり、これはウエハサイズが大きくなるほど影響が大きい。特にカバーガラスウエハは、スぺーサを形成した後、シリコンウエハと接合されるが、カバーガラスウエハのたわみが大きいと形状が不安定となり、スペーサの形成のプロセス構築が困難になる。特許文献1には、カバーガラスウエハとして、パイレックス(登録商標)ガラスの使用が例示されている。しかしながら、パイレックス(登録商標)ガラスは、シリコンウエハのヤング率が100〜120GPaであるのに対し、ヤング率が63GPaと小さく、たわみによる問題が懸念される。
【0007】
また、カバーガラスウエハは、シリコンと熱膨張率がよく一致した材料であることが求められる。そのため、アルミナパッケージに適合する前述の平均熱膨張係数が45〜75×10−7−1のホウケイ酸塩ガラスは使用できない。パイレックス(登録商標)ガラスは、平均熱膨張係数はシリコンに近似した値を示すことが知られており、前述のとおりカバーガラスウエハに用いることが知られている。しかしながら、パイレックス(登録商標)ガラスの熱膨張曲線そのものは、シリコンと異なっている。すなわち、縦軸を熱膨張、横軸を温度としてそれぞれ表示した場合、シリコンは下に凸の熱膨張曲線を示すが、パイレックス(登録商標)ガラスは転移温度(約550℃)以下の温度において上に凸の熱膨張曲線を示す。その結果、パイレックス(登録商標)ガラスをカバーガラスとして用いた固体撮像装置は、温度変化に対してシリコンとカバーガラスとの熱膨張に相違が生じ反りが発生するという問題がある。固体撮像装置に反りが生じると、撮像画像に歪みが発生する等の不具合があるため、極力避けるべきである。
本発明は、上記問題を解決するためのものであり、固体撮像装置用カバーガラスであって、ガラスのヤング率が高く、またシリコンと広い温度範囲で熱膨張係数が近似したCSPにて製造される固体撮像装置に特に好適に使用できるカバーガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願発明は、固体撮像装置用カバーガラスであって、質量%で、SiO 56〜66%、Al 9〜26%、B 1〜11%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、ZnO 4〜13%、LiO 0〜4.0%、NaO 0〜5.0%、KO 0〜6.0%、ただし、LiO+NaO+KO 1%以上を含有し、30〜300℃の範囲における平均熱膨張係数が30〜38×10−7−1、ヤング率が78GPa以上であることを特徴としている。
また、本願発明の固体撮像装置用カバーガラスは、複数個の固体撮像素子が形成されたシリコン基板と接合されることを特徴としている。
また、本願発明の固体撮像装置用カバーガラスは、接着剤を用いて前記シリコン基板と接合されることを特徴としている。
また、本願発明の固体撮像装置用カバーガラスは、前記シリコン基板に形成された複数の固体撮像素子に対応した箇所に凹部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本願発明に係る固体撮像装置用カバーガラスによれば、ガラスのヤング率が高く、またシリコンと広い温度範囲で熱膨張係数が近似しているため、CSPにて製造された固体撮像装置が温度変化により反る等の不具合の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本願発明の固体撮像装置用カバーガラスを用いた固体撮像装置の実施形態の断面図である。
【図2】本願発明の固体撮像装置用カバーガラスを用いた固体撮像装置の他の実施形態の断面図である。
【図3】本願発明の固体撮像装置用カバーガラスの実施形態における平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明のカバーガラスを構成する各成分の含有量(質量%表示)を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0012】
SiOは、ガラスの網目構造を形成する主成分であるが、56%未満ではガラスの耐候性が悪くなり、66%を超えると溶解性が低下し、ガラス化し難くなる。好ましい範囲は59〜63%である。
【0013】
Alは、ガラスのヤング率、耐候性を向上させる成分であるが、9%未満ではその効果は得られず、26%を超えると失透性が強くなり、ガラス化が困難となる。好ましい範囲は12〜20%である。
【0014】
は、ガラスの構造を補強し、ガラス化を容易にする成分であるが、1%未満ではその効果は得られず、11%を超えると耐候性が低下する。好ましい範囲は5〜10%以下である。
【0015】
MgO、CaOは、耐候性を向上させる成分であるが、6%を超えるとその効果は得られない。好ましい範囲は4%以下である。
【0016】
ZnOは、耐候性を向上させる成分であるが、4%未満ではその効果は得られず、13%を超えると失透性が強まる。好ましい範囲は7〜10%である。
【0017】
LiO、NaO、KOは、溶解性を向上させ、膨張率を主に調整する成分である。LiOは4%を超える所望の膨張率が得られない。好ましい範囲は2.5%以下である。NaOは5%を超えると所望の膨張率が得られない。好ましい範囲は3.0%以下である。KOは6%を超えると所望の膨張率が得られない。好ましい範囲は3.5%以下である。ただし、LiO+NaO+KOは1%未満では所望の膨張率が得られない。好ましい範囲は、2%以上である。
【0018】
本願発明の固体撮像装置用カバーガラスは、30〜300℃の範囲における平均熱膨張係数が30〜38×10−7−1である。これにより、CSPのプロセスを用いて製造される固体撮像装置において、貼り合わされるシリコンウエハとカバーガラスウエハとの熱膨張係数が広い温度範囲で一致するため、固体撮像装置が温度変化により反る等の不具合が発生しない。
【0019】
本願発明の固体撮像素子用カバーガラスは、ヤング率が78GPa以上である。これにより、自重によるたわみが少なくガラスの形状が安定であるため、CSPのプロセスを用いて固体撮像装置を製造する際、スペーサの形成等において高い寸法精度で形成できる。
【0020】
本願発明の固体撮像素子用カバーガラスは次のようにして作製できる。まず得られるガラスが上記組成範囲となるように原料を秤量、混合する。この原料混合物を白金ルツボに収容し、電気炉内において1550〜1650℃の温度で加熱溶解する。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、徐冷する。そして、切断・研磨して平板状のカバーガラスを得る。また、必要に応じて、この平板状のカバーガラスを外形加工を行う。なお、カバーガラスを平板状にするための成形方法としては、フロート法やダウンドロー法、ロールアウト法などの公知の方法を用いてもよい。
【0021】
次に、本願発明の固体撮像装置用カバーガラスの実施形態について説明する。図1は、本願発明の固体撮像装置用カバーガラスを複数の固体撮像素子が形成されたシリコン基板と接合した実施形態の断面図である。
この実施形態では、まず固体撮像装置用カバーガラスにスペーサを形成する。スぺーサは、固体撮像素子を取り囲む枠形状であり、固体撮像装置用カバーガラス上の固体撮像素子に対応する位置に複数形成される。スぺーサは、シリコン基板及び固体撮像装置用カバーガラスと熱膨張係数が類似した無機材料もしくは有機材料を用いることが好ましい。例えば、固体撮像装置用カバーガラスにシリコンウエハを接着剤にて積層し、シリコンウエハに対して、フォトリソグラフィ技術によるレジストのパターニング、ドライエッチング技術により不要部分を除去する。次いで、洗浄によりレジストと接着剤を除去し、枠状のスペーサを形成する。その他、スペーサとしては、レジストや感光性接着剤、接着シートを用いて形成してもよい。
【0022】
次いで、スペーサが形成された固体撮像装置用カバーガラスと固体撮像素子が形成されたシリコン基板(シリコンウエハ)とを接合する。接合は、スペーサとシリコン基板とを接着剤を用いる。接着剤としては、エポキシ系あるいはシリコン系の樹脂などが適しているが、所望の接着力が得られ、且つ水分等の侵入を防ぎ高信頼性を得るために薄く接着層が形成できるものであれば何を用いてもよい。例えば、熱硬化型接着剤や紫外線硬化型接着剤が使用できる。なお、シリコン基板に固体撮像素子が形成されている場合、ガラスとシリコン基板との接合時に高電圧を付加したり、高温状態とすると固体撮像素子を破壊するおそれがあるため、ガラスとシリコン基板との接合に陽極接合を用いるべきではない。
そして、固体撮像装置用カバーガラスとシリコン基板とが一体化されたものを個片に切断することで固体撮像装置を得る。
【0023】
本願発明の固体撮像装置用カバーガラスの他の実施形態について図2を用いて説明する。図2は、本願発明の固体撮像装置用カバーガラスを複数の固体撮像素子が形成されたシリコン基板と接合した他の実施形態の断面図である。他の実施形態は、図1に示す実施形態とはスペーサが固体撮像装置用カバーガラスと一体で形成されていることが相違するため、相違点のみ説明する。
この実施形態では、まず固体撮像装置用カバーガラスに凹部を形成する。凹部は、固体撮像装置用カバーガラス上の固体撮像素子に対応する位置に複数形成されるものであり、平板状の固体撮像装置用カバーガラスに対し、エッチングプロセスを用いて形成する。エッチングプロセスとしては、特にウェットエッチングを用いることが好ましい。ウェットエッチングにより平板状部材に凹部を形成すると、固体撮像素子への光透過面となる凹部の加工底部の平坦度が高く、光学研磨したものと同等の表面状態となる。具体的な形成方法としては、フォトリソグラフィ技術によりレジストをパターニングし、次いでウエットエッチングにより、平板状の固体撮像装置用カバーガラス上にスペーサとなる部分が残るように不要部分を除去することで凹部を形成する。得られたスペーサが一体的に形成された固体撮像装置用カバーガラスの平面図を図3に示す。
【0024】
次いで、スペーサが一体的に形成された固体撮像装置用カバーガラスと固体撮像素子が形成されたシリコン基板(シリコンウエハ)とを接着剤を用いて接合する。
そして、固体撮像装置用カバーガラスとシリコン基板とが一体化されたものを個片に切断して固体撮像装置を得る。
なお、本願発明における複数個の固体撮像素子が形成されたシリコン基板と接合されるとは、前述のカバーガラスとスペーサが一体で形成されたものだけでなく、カバーガラスと異なる部材からなるスペーサを介してカバーガラスとシリコン基板とが接合された形態も含むものである。
【実施例】
【0025】
本発明の実施例および比較例を表1、表2に示す。なお、本明細書において、例1〜例16は本願の実施例であり、例17〜例19は比較例である。表中のガラス組成は質量%で示す。なお、例19の比較例ガラスは、パイレックス(登録商標)ガラスである。
【0026】
これらガラスは、表に示す組成となるよう原料を秤量・混合し、内容積約300ccの白金ルツボ内に入れて、1550〜1650℃で1〜3時間溶融、清澄、撹拌後、およそ300〜500℃に予熱した所定サイズのモールドに鋳込み後、約1℃/分で徐冷してサンプルとした。ガラスは、サンプル作製時に目視で観察し、泡や脈理のないことを確認した。平均熱膨張係数、ヤング率について、以下の方法により測定を行った。
【0027】
平均熱膨張係数は、得られたガラスを棒状に加工し、熱分析装置(リガク社製、装置名:TMA8310)で熱膨張法により、昇温速度5℃/分で測定した。
【0028】
ヤング率は、長さ90mm、幅20mm、厚さ2mmの試験片を作成し、JIS R 1602 ファインセラミックスの弾性率試験方法の動的弾性率試験方法 (1)曲げ共振法に準拠して測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1ないし表2の結果から明らかなように、実施例のガラスは、平均熱膨張係数が30〜38×10−7−1であり、シリコンの熱膨張係数と近いことがわかる。また、実施例のガラスはヤング率がいずれも78GPaであり、自重によるたわみが小さく形状が安定しており、例えば、カバーガラス上にスペーサを形成する際に寸法精度等で問題が生じない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明のガラスは、平均熱膨張係数が30〜38×10−7−1のため、シリコンと貼り合わせる固体撮像装置において、温度変化により反り等が発生しない。また、ヤング率が78GPa以上のため、自重によるたわみが小さく、CSPの製造プロセスを用いて製造される固体撮像装置用カバーガラスとして極めて有用なものである。
【符号の説明】
【0033】
1…固体撮像装置用カバーガラス、1c…凹部、2…シリコン基板(シリコンウエハ)、3…固体撮像素子、4…スペーサ、5…接着剤、10…固体撮像装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
SiO 56〜66%、
Al 9〜26%、
1〜11%、
MgO 0〜6%、
CaO 0〜6%、
ZnO 4〜13%、
LiO 0〜4%、
NaO 0〜5%、
O 0〜6%、
ただし、LiO+NaO+KO 1%以上
を含有し、30〜300℃の範囲における平均熱膨張係数が30〜38×10−7−1であり、ヤング率が78GPa以上であることを特徴とする固体撮像装置用カバーガラス。
【請求項2】
複数個の固体撮像素子が形成されたシリコン基板と接合されることを特徴とする請求項1記載の固体撮像装置用カバーガラス。
【請求項3】
接着剤を用いて前記シリコン基板と接合されることを特徴とする請求項2記載の固体撮像装置用カバーガラス。
【請求項4】
前記シリコン基板に形成された複数の固体撮像素子に対応した箇所に凹部が形成されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の固体撮像装置用カバーガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−20892(P2012−20892A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158707(P2010−158707)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】