説明

固体粒子を封入する方法

【課題】
【解決手段】固体粒子および液体媒体の存在下でポリビニル分散剤を化合物と反応させることを含む、改質された固体粒子を製造するための方法を提供する。該方法は、
a)ポリビニル分散剤が、1.8未満のLog P計算値を有し、反応可能基を少なくとも1つ有すること、及び
b)化合物が、液体媒体に実質的に可溶であり、該分散剤の反応可能基と反応する反応性基を少なくとも1つ有すること
を特徴とする。該方法は、分散安定性に富み、粒径の小さい改質固体粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質された(例えば、封入された)固体粒子の製造方法、ならびに、該固体粒子を含有する塗料、ミルベースおよびインク(特にインクジェットプリント用インク)に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのインク、ミルベース(mill-bases)、塗料等は、液体ビヒクル中に固体粒子を均一に分布させるために有効な分散剤を必要とする。液体ビヒクルは、極性の高いビヒクル(例えば水)から非極性の高いビヒクル(例えばトルエン)まで変わり得る。既知の分散剤は、ある範囲内の極性を有する液体ビヒクルでのみ有効に作用する傾向がある。そのような極性の範囲外では、通常、固体粒子は凝集する。従って、極性の異なる一連の分散剤が液体ビヒクル用に開発されてきた。
【0003】
慣用の分散剤は、より強力な吸着物質によって固体粒子の表面から容易に排除され得るという欠点を持つ。これによって、該固体粒子を含む分散液は不安定化され、固体粒子の凝集を生じる結果となる。
【0004】
従来の分散剤に関する問題は、架橋された分散剤内に固体粒子を封入することによって、部分的には対処可能である。封入方法は、典型的には、液体媒体内で実施される。架橋可能な分散剤を、液体媒体内に分配された固体粒子と混合し、該分散剤を固体粒子表面上に吸着させ、次に、架橋剤を用いて、該分散剤の架橋可能な基を通じて架橋すると、架橋された分散剤内に固体粒子を封入することができる。該方法は、US6,262,152、WO00/20520、JP1997-10483、JP1999-152424およびEP732,381に記載されている。
【0005】
出願人らは、先行技術文献に記載された封入方法がしばしば重大な欠陥を有することを見出した。例えば、US6,262,152およびWO00/20520には、媒体-不溶性架橋剤について記載されているが、該架橋剤は、液体媒体内に分散させることが難しく、架橋剤を加える間および/または架橋反応の間に固体粒子の凝集を生じさせる傾向にあることを出願人らは見出した。
【0006】
JP1999-152424およびJP1997-10483において、架橋前に用いられた最初の分散剤は比較的疎水性である。出願人らは、このために、使用された顔料の湿潤化および粉砕が不十分なものになること、及び、分散剤を完全に溶解する有機溶媒が必要であることを見出した。通常、有機溶媒は、更なる処理工程を付加する架橋化の後で除去される。得られた封入顔料は、比較的大きい粒径を有し、安定性に乏しい。EP732,381は、水性媒体内に着色剤および有機溶媒と共に配合される疎水性ウレタン架橋組成物について記載している。該疎水性架橋組成物は疎水性現場分散剤(hydrophobic in-situ dispersants)を提供するが、出願人らは、該分散剤が比較的粗く、より不安定性な分散液を生じさせることを見出した。
【0007】
分散剤の疎水性は、Log P 値によって特徴づけることができる。Log Pは、n-オクタノールと水との間の物質の分配係数の対数(底10)であり、例えば、L.G.DanielssonおよびY.H.Zhang、Trends in Anal.Chem.,1996,15,188に記載されている。Log Pの値が高いと化合物が疎水性であることを示し(例えばスチレンはLog P値がおおよそ3である)、Log Pの値が低いと化合物が親水性であることを示している(たとえばアクリル酸はLog P値がおおよそ0である)。Log P値は計算で求めることができ、その値は、実験による測定値と良好な一致を示す(AnalyticalSciences.Sept 2002,第18巻、1015−1020頁)。しかしながら、出願人らは、計算によるLogP値の方を選んだ。なぜなら、多数の実在する化合物または仮定の化合物のLog P値を正確かつ迅速に計算できる市販のコンピュータープログラムが存在するからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、第一の態様として、改質された固体粒子を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
該方法は、固体粒子および液体媒体存在下でポリビニル分散剤を化合物と反応させることを含み、
a)該ポリビニル分散剤が1.8より小さいLog P 計算値を有し、且つ、反応可能基を少なくとも1個有すること;および、
b)該化合物が液体媒体に実質的に可溶であり、分散剤の反応可能基に対して反応性を持つ反応性基を少なくとも1個有すること:を特徴とする。
【0010】
好ましくは、化合物は、架橋剤である。厳密にいえば、全実施態様において必要であるわけではないが、該化合物は、実際上ポリビニル分散剤を架橋することが好ましい。このような状況下では、固体粒子は、架橋されたポリビニル分散剤内に封入することによって改質することが好ましい。従って、本発明の方法の好ましい実施態様では、
(i)該方法によって製造される改質固体粒子は封入された固体粒子であり;
(ii)ポリビニル分散剤内の反応可能基は、架橋可能基であり;
(iii)化合物は架橋剤であり、該架橋剤内の該反応性基は、該架橋可能基と架橋することができる架橋基であり;かつ
(iv)反応は、該ポリビニル分散剤を該架橋剤で架橋することを含み、そうすることによって、該固体粒子を架橋された分散剤内に封入する。
【0011】
従って、本発明の好ましい方法は、封入された固体粒子を製造するための方法であり、該方法は、固体粒子および液体媒体存在下でポリビニル分散剤を架橋剤で架橋し、そうすることによって、固体粒子を架橋されたポリビニル分散剤内に封入することを含み、また、
a)該ポリビニル分散剤が1.8より小さいLog P 計算値を有し、反応可能な基を少なくとも1個有すること;および、
b)該架橋剤が液体媒体に実質的に可溶であり、架橋基を少なくとも1個有すること:を特徴とする、と要約できる。
【0012】
本発明の方法は、先行技術を上回る技術的長所が数多くある。特に、該方法は、液体媒体内で良好な分散安定性を示す、改質固体粒子の製造を可能にする。さらに、該方法では、反応工程中または化合物の添加中の固体粒子の凝集が非常に少ない。そのような凝集は、大部分の用途で望ましくなく、かつ除去することが必要になるような大きい粒子を生ずる。例えばろ過を用いて、大きすぎる粒子を除去することは、望ましくない処理工程を追加し、所望の生成物を浪費する。出願人らは、Log P の計算値が1.8より小さい分散剤を用いることが、固体粒子を反応および改質の前に微細かつ安定に分散させておく点で、特に有効であることを見出した。さらに、出願人らは、前記のようなLog P の計算値を有する分散剤を用いると、改質工程の間およびその後の固体粒子の安定性が改善されることを見出した。
【0013】
本発明の方法は、反応させた分散剤が単一の固体粒子を改質するように実施されることが好ましい。固体粒子のいくつかはクラスター状態で存在し、従って、改質された固体粒子の粒子のいくつかは、反応によって固体粒子の粒子クラスターに固定された分散剤として存在し得る。大部分の又は実質的にすべての改質粒子は、固体粒子の粒子を1個のみ含有することが望ましい。
【0014】
固体粒子は、液体媒体内で少なくとも部分的に不溶である、任意の無機若しくは有機の固体粒子又はそのような固体の混合物であってよい。
好適な固体粒子の例は、無機及び有機の顔料、エキステンダー、塗料用増量剤並びにプラスチック材料;分散染料および液体媒体中に完全には溶解していない水溶性染料;蛍光増白剤;溶媒染浴、インク及びその他の溶媒使用系のための織物用助剤;オイルベース及び逆エマルジョン掘削泥水用固体;粒状セラミック材料;磁性粒子(例えば磁気記録媒体用);殺生物剤;農薬;および医薬である。
【0015】
好ましくは、固体粒子は、着色料であり、より好ましくは顔料である。
好ましい固体粒子は、有機顔料、例えば、Colour Index 第三版(1971)並びにその改訂版及び補遺の「顔料」(“Pigment”)と見出しが付けられた章に記載されている任意の顔料である。有機顔料の例は、アゾ(ジアゾおよび縮合アゾを含む)、チオインジゴ、インダントロン、イソインダントロン、アンタントロン、アントラキノン、イソジベンズアントロン、トリフェンジオキサジン、キナクリドンならびにフタロシアニンのシリーズ、特に銅フタロシアニンおよびその核ハロゲン化誘導体、さらに酸性、塩基性および媒染の染料のレーキである。カーボンブラックは、無機顔料であると見なされることもあるが、その分散性からは有機顔料に近く、好適な固体粒子の例の1つである。好ましい有機顔料は、フタロシアニン、特に銅フタロシアニン顔料、アゾ顔料、インダントロン、アントラントロン、キナクリドンおよびカーボンブラック顔料である。
【0016】
好ましい無機固体粒子は、エクステンダーおよび増量剤、例えば、タルク、カオリン、シリカ、バライトおよびチョーク;粒子状セラミック原料、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素−窒化アルミニウム混合物、およびチタン酸金属;磁性粒子材料、例えば、遷移金属の磁性酸化物、特に鉄およびクロム、例えば、γ-Fe23、Fe34、およびコバルト-ドープの鉄酸化物、カルシウム酸化物、フェライト、特にバリウムフェライト;ならびに、金属粒子、特に金属鉄、ニッケル、コバルト及びその合金を含む。
【0017】
本発明の方法を用いて、インクジェット印刷用インクに使用するための改質固体粒子を作る場合、顔料は、シアン、マゼンタ、黄色または黒の顔料が好ましい。
液体媒体は、非極性であってもよいが、好ましくは極性である。「極性」液体は、一般的に、中程度乃至強度の分子内結合を形成する能力を持つ。このことは、例えば、“A Three Dimensional Approach to Solubility”(「溶解性に対する三次元研究法」)の表題で、Crowleyら、Journal of Paint Technology、第38巻、269頁、1966、に記載されている。極性液体媒体は、上記論文に示されているように、一般的に5以上の数の水素結合を有する。
【0018】
好適な極性液体媒体の例には、エーテル、グリコール、アルコール、アミド、特に水、が含まれる。多数の極性液体媒体の具体例は、“Compatibility and Solubitiry”(「相溶性と可溶性」)、Ibert Mellan著、(1968年、Noyes Development Corporationにより出版)の表2.14(39−40頁)に記載されている。
【0019】
好ましい極性液体媒体は、最大で総数6、7又は8以下の炭素原子を含有し、特にC1-6-アルカノールである。好ましい極性液体媒体の例として、グリコール、グリコールエステルおよびグリコールエーテル、例えば、エチレングリコール、2-エトキシエタノール、3-メトキシプロピルプロパノール、3-エトキシプロピルプロパノール;アルカノール、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノールおよびイソブタノール;環状エーテルおよびアミド、特に、環状アミド、例えば、2-ピロリドンおよびn-メチルピロリドン;とりわけ、水;およびその組み合わせを挙げてよい。
【0020】
極性液体媒体は、所望により、ポリオール、即ち、2個以上のヒドロキシ基を有する液体である。好ましいポリオールには、グリセロール、α-ωジオール、特にα-ωジオールエトキシレートが含まれる。
【0021】
水は、特に安定かつ微細な改質固体粒子を作り出す傾向にあるため、液体媒体が水を含むことは好ましい。好ましくは、液体媒体は、液体媒体内の全液体成分を基準にして、1〜100重量%、より好ましくは10〜100重量%、特に20〜80重量%、とりわけ30〜80重量%の水を含む。
【0022】
好ましい非極性液体媒体は、非ハロゲン化芳香族炭化水素(例えば、トルエンおよびキシレン)、ハロゲン化芳香族炭化水素(例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよびクロロトルエン);非ハロゲン化脂肪族炭化水素(例えば、全飽和および部分飽和を含む、6以上の炭素原子を含有する直鎖および分枝鎖脂肪族炭化水素)、ハロゲン化脂肪族炭化水素(例えばジクロロメタン、四塩化炭素、クロロホルム、トリクロロエタン);天然の非極性液体(例えば、植物油、ヒマワリ油、あまに油、テルペンおよび脂肪グリセリド);ならびにその組み合わせ、を含む。
【0023】
液体媒体は、極性または非極性の液体であってよい、液体の混合物を含んでよい。液体の成分の少なくとも1つが極性液体であることが好ましく、液体媒体の全成分が極性であることがさらに好ましい。
【0024】
好ましくは、液体媒体は、化合物ともポリビニル分散剤とも反応しない、例えば、化合物と分散剤は、液体媒体又は本発明の方法の間に存在するその他の任意の成分と反応するより迅速に、両者が互いに反応する。従って、例えば、該化合物が、架橋剤としてイソシアネートである場合、液体媒体は、好ましくは、アミン、チオールおよび水酸基のようなイソシアネート基と反応する基を含まない(反応しない及び反応性の乏しいアミン、チオールならびにヒドロキシ基は許容し得る)。
【0025】
好ましくは、化合物は、架橋剤であり、ポリビニル分散剤との反応は、分散剤を架橋する反応である。
実質的に可溶という用語に関しては、化合物は、液体媒体中で100%可溶である必要はなく、例えば、低い割合(例えば全化合物の1重量%未満)の化合物は液体媒体に不溶性であってもよい。好ましくは、化合物は、液体媒体に対して完全に可溶性である。
【0026】
可溶性化合物は、US6262152およびWO00/20520に記載のとおり、媒体不溶性化合物から区別される。該不溶性化合物は、不溶性であり、界面活性剤または分散剤を用いて液体媒体中に分散させなければならない。
【0027】
化合物内の反応性基およびポリビニル分散剤内の反応可能基を共反応性の組み合わせとして選択する。表1は、好ましい反応性基と反応可能基の組み合わせを示している。
【0028】
【表1】

【0029】
好ましくは、反応性基と反応可能基の組み合わせは、表1に示すように用いられるが、化合物の反応性基がポリビニル分散剤の反応可能基と入れ替え可能であることは容易に理解されるであろう。
【0030】
特に好ましい反応性基は、活性化オレフィン、ジアゾニウムおよびカルボニル含有基、特にアミン、イミン、ヒドラジドおよびチオール基である。好ましくは、アミン、イミン、ヒドラジドおよびチオール反応性基を、ケト、アルデヒド、特に、β-ジケトエステル反応可能基と組み合わせる。そのような反応可能基と反応性基の組み合わせは、より穏やかな反応条件を容易にとることができるので、好ましい。
【0031】
化合物は、分散剤の反応可能基と反応する反応性基を少なくとも1個有するべきである。単一の基が架橋し得るためには、該単一基が2個以上のポリビニル分散剤反応可能基と結合し得るようなものであるべきである。1個の基に対して2個以上の結合を形成しうる反応性基の好ましい例は、芳香族基(例えば、ベンゼン、ナフタレン等の残基を含む該芳香族基)、エチレン基、アセチレン基などの不飽和基である。1個の基に対して2個以上の結合を形成し得る特に好ましい反応性基は、ビニル基、とりわけアクリレート基及び/又はメタクリレート基である。(以下、「アクリレート基及び/又はメタクリレート基」、「アクリル酸及び/又はメタアクリル酸」などの用語を簡略化して表記するために、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリル酸」などの表記を使用する。)
好ましくは、ポリビニル分散剤内に存在する反応可能なビニル基を、好ましくは(メタ)アクリレート基である、1個以上のビニル基を有する化合物と反応させる。好ましくは、反応性基と反応可能なビニル基の間の反応は、液体媒体中の開始剤の存在によって促進される。好ましくは、開始剤は、ラジカル開始剤である。
【0032】
好ましくは、化合物は、2個以上の反応性基を有する。該基は、異なる基であってもよいが、同一基である方が好ましい。好ましい化合物は、2〜10個の反応性基を有する。2個以上の化合物を用いることもできる。そのような場合、該化合物は、反応性基の数が違っていて良く、および/または異なるタイプの反応性基を用いてもよい。
【0033】
好ましいポリビニル分散剤は、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸、およびその片方または両方を含むコポリマーである。
望ましくは、ポリビニル分散剤は、平均分子量が500〜100,000、より好ましくは1,000〜50,000、特に1,000〜35,000である。
【0034】
好ましいポリビニル分散剤は、親水性モノマー及び疎水性モノマーの両方を含む。
ポリビニル分散剤は、好ましくは、交互またはランダム(例えば、統計的には短いブロックまたはセグメントを有する)であるが、ブロックまたはグラフト(例えば、より長いブロックまたはセグメントを有する)であってもよい。ポリビニル分散剤は、分枝状又は星形であることも可能であるが、好ましくは線状である。ポリビニル分散剤は、2個以上のセグメントを有してよいが、好ましくはランダムである。
【0035】
ポリビニル分散剤が2個以上のセグメントを有する実施態様に於いては、セグメントを互いに比較すると、セグメントの少なくとも1個は疎水性であり、少なくとも1個は親水性であることが好ましい。親水性セグメント及び疎水性セグメントを作るための好ましい方法は、親水性モノマーと疎水性モノマーをそれぞれ重合させる方法である。分散剤が少なくとも1個の親水性セグメントと少なくとも1個の疎水性セグメントを有する場合、反応可能基は、疎水性セグメント内、親水性セグメント内またはその両方のセグメント内に位置し得る。
【0036】
親水性モノマーは、イオン基または非イオン基であってよい、親水基を含む該モノマーである。イオン基は、カチオン基であってもよいが、好ましくはアニオン基である。カチオン基とアニオン基の両方を用いると、両性のポリビニル分散剤を得ることができる。好ましいアニオン基はフェノキシ、カルボン酸、スルホン酸およびリン酸基であり、これらの基は、遊離酸の形であっても、または塩の形であってもよい。好ましい塩の形は、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩、第四アンモニウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩およびカリウム塩である。
【0037】
好ましいカチオン基は、置換アンモニウム、第四アンモニウム、ベンズアルコニウム、グアニジン、ビグアニジンおよびピリジニウムである。これらは、遊離塩基または塩(例えば、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩もしくはフッ化物塩、または、例えばハロゲン化アルキルまたは硫酸ジメチルと共に形成された第四アンモニウム塩の形)であり得る。
【0038】
好ましい非イオン基は、グルコシド、糖類、ピロリドン、アクリルアミド残基であり、特にエチレンオキシ基およびヒドロキシ基である。ポリビニル分散剤は、分散剤中に、単一の非イオン基、いくつかの非イオン基、または非イオン基を含有する1個以上の重合鎖を含有する。ヒドロキシ基は、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシル官能アクリルおよびセルロースのような重合鎖を用いて、取り込むことができる。エチレンオキシ基は、ポリエチレンオキシドのような重合鎖を用いて、取り込むことができる。
【0039】
疎水性モノマーは、疎水基を含む該モノマーである。好ましい疎水基は、主に、炭化水素、フルオロカーボンおよびアルキルシロキサンであり、該疎水基は、3個未満の親水基を含み、より好ましくは親水基を含まない。疎水基は、好ましくはC3−50鎖であり、該鎖は側鎖として又は疎水性モノマーの鎖中に含まれ得る。
【0040】
ポリビニル分散剤は、この技術分野における既知の任意の方法によって、製造されてよい。好ましいポリビニル分散剤の製造方法は、ビニルモノマー、特に(メタ)アクリレート、ビニルナフタレン、スチレンモノマーのような芳香族基を含むビニルモノマーのラジカル重合である。好適なラジカル重合法には、(以下に限定するわけではないが)懸濁重合、溶液重合、分散重合、好ましくは乳化重合が含まれる。
【0041】
親水性および疎水性モノマーの両方の残基を含むポリビニル分散剤は、本質的にはセグメントを用いずに製造することができる。コスト効率が良く、慣用の強力なラジカル重合法を用いる場合、セグメントの長さは、統計的に非常に短いか、又は、事実上セグメントは存在しないことが多い。このことは、「ランダム」重合と呼ばれる方法にもあてはまる。より長いセグメント長を有する、好ましくないセグメント構造を製造するためには、リビング重合、特にグループトランスファー重合、原子移転重合、マクロモノマー重合、グラフト重合およびアニオン又はカチオン重合などの重合法が必要である。
【0042】
適当な親水性ビニルモノマーは、非イオンモノマーおよびイオンモノマーを含む。
好ましい非イオンビニルモノマーは、糖類、グルコシド、アミド、ピロリドン、特にヒドロキシ基およびエトキシ基を含むビニルモノマーである。
【0043】
好ましい非イオンビニルモノマーの例には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、エトキシル化(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミドが含まれる。
【0044】
イオンビニルモノマーは、カチオンであってもよいが、好ましくはアニオンである。好ましいアニオンビニルモノマーは、リン酸基、スルホン酸基、特にカルボン酸基を含むイオンビニルモノマーであり、遊離酸(プロトン化)の形であっても、または塩の形であってもよい。塩は、上述の通りである。好ましい例は、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、β-カルボキシエチルアクリレート、マレイン酸、モノアルキルイタコネート(例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチルおよびマレイン酸モノオクチル)、シトラコン酸、スチレンスルホン酸、ビニルベンジルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリロイルオキシアルキルスルホン酸(例えば、アクリロイルオキシメチルスルホン酸、アクリロイルオキシエチルスルホン酸、アクリロイルオキシプロピルスルホン酸およびアクリロイルオキシブチルスルホン酸)、メタクリロイルオキシメチルスルホン酸、メタクリロイルオキシエチルスルホン酸、メタクリロイルオキシプロピルスルホン酸およびメタクリロイルオキシブチルスルホン酸)、2-アクリルアミド-2-アルキルアルカンスルホン酸(例えば、2-アクリルアミド-2-メチルエタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸および2-アクリルアミド-2-メチルブタンスルホン酸),2-メタクリルアミド-2-アルキルアルカンスルホン酸(例えば、2-メタクリルアミド-2-メチルエタンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸および2-メタクリルアミド-2-メチルブタンスルホン酸)、モノ-(アクリロイルオキシアルキル)ホスフェート(例えば、モノ(アクリロイルオキシエチル)ホスフェートおよびモノ(3-アクリロイルオキシプロピル)ホスフェート)ならびにモノ(メタクリロイルオキシアルキル)ホスフェート(例えば、モノ(メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートおよびモノ(3-メタクリロイルオキシプロピル)ホスフェート)である。
【0045】
特に好ましいビニルアニオンモノマーは、アクリル酸、イタコン酸、β-カルボキシエチルアクリレート、マレイン酸であり、格別に好ましくはメタクリル酸である。
好ましいカチオンモノマーは、置換アミン、第四アミン、ピリジン、グアニジンおよび/またはビグアニジン基を含むカチオンモノマーである。特に好ましいカチオンアクリルモノマーには、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドおよびジメチルアミノブチルアクリレートが含まれる。該モノマーは、遊離塩基(非プロトン化)の形、塩の形又は第四アンモニウム塩の形であり得る。
【0046】
好ましい疎水性ビニルモノマーは、親水基を持たない。好ましい疎水性ビニルモノマーには、C1−20-ヒドロカルビル(メタ)アクリレート、ブタジエン、スチレンおよびビニルナフタレンが含まれる。特に好ましいC1−20-ヒドロカルビル(メタ)アクリレートは、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、ラウリルアクリレート及びステアリルアクリレートである。その他の好ましい疎水性ビニルモノマーは、ポリプロピレンオキシ(メタ)アクリレートであり、場合に応じてアルキル(例えばメチル)で末端をキャップされていてもよい。
【0047】
Mannhold,R.およびDross,K.(Quant.Struct-Act.Relat.,15,403-409,1996)による概説は、化合物、特に薬剤のLog P値を計算するための14の方法について記載している。この概説から、出願人らは、「フラグメント法」、特にACD labs ソフトウェアにより実施されるフラグメント法を選択する。
【0048】
分散剤のLog Pの計算値を、市販のコンピューターソフトウェア、例えばLog P DB ソフトウェア version 7.04 または当該バージョン以降の該ソフトウェア(Advanced Chemistry Development Inc(ACD labs)を用いて計算してもよい。任意のイオン基またはイオン化可能基は、中性(非イオン化)の形で計算される。
【0049】
Log Pを、ポリビニル分散剤全体で計算することもできるが、出願人らは、ポリビニル分散剤中に存在するモノマーのLog P値を計算することを選択する。
LogP計算値は、モノマー成分を基準にした重量寄与式(weight contribution equation)(1)から導出し得る。
【0050】
Log P(ポリマー分散剤)計算値=Σ[W(i)×calc Log P(i)] 式(1)
式(1)中、W(i)は、ポリビニル分散剤の全重量を基準にしたモノマー(i)の重量画分であり、calc Log P(i)は、該モノマーのLogP計算値である。
【0051】
表2は、ポリビニル分散剤の製造に用いたいくつかの周知のモノマーの、ACD labs software version 7.04によるLog P計算値を列挙している。
【0052】
【表2】

【0053】
表2は、ポリビニル分散剤の好ましいモノマー成分及び該成分のLog P計算値を列挙している。このように、例えば、40重量%のスチレン残基及び60重量%の2-ヒドロキシエチルアクリレート残基を含む分散剤のLogP計算値は、 [(0.4×2.70)+(0.6×−0.05)]=1.05である。
【0054】
ポリビニル分散剤は、好ましくは、0以上のLog P計算値を有する。出願人らは、非常に親水性のポリビニル分散剤は固体粒子上に吸着されない傾向にあり、液体媒体中の固体粒子の粉砕および安定化の点であまり有効でないことを見出した。よって、好ましいポリビニル分散剤は、Log P計算値が0から1.8、より好ましくは0〜1.7、特に1〜1.65である。
【0055】
ポリビニル分散剤は、少なくとも1個の反応可能基を有していなくてはならないが、より好ましくは、2個以上の反応可能基を有する。2個以上の反応可能基は、同一であっても、異なっていてもよい。反応可能基の数が多いと、反応/架橋がより速く、より効果的に促進される。
【0056】
ポリビニル分散剤の好ましい1個又は複数個の反応可能基は、表1の1列目に示したとおりである。当然、分散剤の反応可能基を化合物の反応性基と交換することは問題なく可能である。ポリビニル分散剤の反応可能基と化合物の反応性基の好ましい共反応性の組み合わせは、すでに表1に記載した通りである。
【0057】
好ましくは、ポリビニル分散剤内の反応可能基は、反応可能基を含むビニルモノマーを重合または共重合させることによって該分散剤内に取り込まれる。
反応可能基を有するビニルモノマーはその多くが市販されており、例えば、PolySciences Inc カタログ2002-2003、212-213頁に記載されている。
【0058】
好ましい反応可能基は、ケト、アルデヒド、特にβ-ジケトエステル基である。1または複数の反応可能基は、好ましくは、ケト、アルデヒドまたはβ-ジケトエステル官能基を有するビニルモノマーを用いることによって取り込まれ、該ビニルモノマーは別のビニルモノマーと重合して、ポリビニル分散剤を生成する。
【0059】
ケト、アルデヒドまたはβ-ジケトエステル基を少なくとも1個含有する好ましいビニルモノマーは、アクロレイン、メチルビニルケトン、特にジアセトンアクリルアミドおよびアセトアセトキシエチルメタクリレートである。従って、好ましいポリビニル分散剤は、上記モノマーの残基を少なくとも1個含む。
【0060】
少なくとも1個のケト、アルデヒドまたはβ-ジケトエステル基を含有するビニルモノマーは、分散剤製造のために用いた全モノマーを基準にして、好ましくは80〜0.1モル%、より好ましくは70〜5モル%、特に70〜10モル%が取り込まれる。
【0061】
ポリビニル分散剤の酸価(AV)は、分散剤1gに対し、好ましくは10〜200、より好ましくは30〜150、特に60〜120mgKOHである。
2つ以上のタイプのポリビニル分散剤が本発明の方法中に存在してよい。
【0062】
ポリビニル分散剤は、液体媒体中に完全に可溶である必要はない。即ち、完全に透明で非散乱の溶液は必須ではない。ポリビニル分散剤は、界面活性剤様のミセル内に凝集し、液体媒体中でわずかに濁りを帯びた溶液が得られる可能性がある。さらに、ポリビニル分散剤は、ある割合の分散剤がコロイド分散またはミセル分散を形成しやすいようなものあってよい。ポリビニル分散剤は、液体媒体中で均一で安定な分散状態を形成し、該分散状態は静置状態で沈降又は分離を生じさせないことが好ましい。
【0063】
ポリビニル分散剤は、液体媒体に実質的に可溶であり、透明または濁りを帯びた溶液を生じさせることが好ましい。
好ましいポリビニル分散剤は、ランダムであり、液体媒体中で透明な組成物を与える傾向があるが、2個以上のセグメントを有する好ましくない分散剤は、液体媒体中で、前述のような、濁りを帯びた組成物を生じさせる傾向がある。
【0064】
ポリビニル分散剤は、好ましくは、改質された固体粒子の製造方法に用いられる液体媒体、および、場合によっては該改質固体粒子が用いられる(例えばインクまたは塗料)ような所望の最終組成物に用いられる任意の液体ビヒクルにも適合するように選ばれる。従って、例えば、改質固体粒子を水性インクジェットインクに用いる場合、ポリビニル分散剤は、卓越した親水性を有することが好ましい。同様に、改質固体粒子が、オイルベース塗料又はインクに用いられる場合、ポリビニル分散剤は、卓越した疎水性を有することが好ましい。
【0065】
好ましくは、反応は、固体粒子、ポリビニル分散剤、化合物および液体媒体を混合することによって行われる。固体粒子:液体媒体の重量比は、好ましくは1:100〜1:2.5、より好ましくは1:100〜1:3、特に1:100〜1:5である。ポリビニル分散剤:液体媒体の重量比は、好ましくは1:1000〜1:2.5、より好ましくは、1:100〜1:3.3、特に1:100〜1:5である。化合物は、化合物中の反応性基:ポリビニル分散剤中の反応可能基のモル比が、好ましくは10:1〜1:10、より好ましくは5:1〜1:5、特に2:1〜1:2となるような濃度で、液体媒体中に存在する。これは、典型的には、化合物:液体媒体の重量比では1:10,000〜1:10、より好ましくは、1:2,000〜1:20に相当する。
【0066】
従って、好ましくは、反応は、以下の成分を混合することにより反応を実施され、
該成分は:
a)液体媒体;
b)前記液体媒体重量に対する重量比で1:100〜1:3、より好ましくは1:100〜1:5の量の固体粒子;
c)前記液体媒体重量に対する重量比で1:100〜1:3.3、より好ましくは1:100〜1:5の量のポリビニル分散剤;及び
d)前記液体媒体重量に対する重量比で1:10,000〜1:10、より好ましくは1:2000〜1:20の量の化合物
である。
【0067】
混合は、任意の方法、例えば、機械によるかき混ぜ、攪拌などによって行われてよい。反応には低温が望ましい。なぜなら、液体媒体中の固体粒子の凝集および粒径増加が低い水準にとどまるからである。反応は、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃未満、特に60℃未満、とりわけ40℃以下の温度で実施される。反応温度の下限は、液体媒体の凝固点および所望の反応速度によって決定されるが、好ましい下限温度は0℃である。
【0068】
反応時間は、温度および触媒の有無に依存する。しかしながら、好ましい反応時間は、1〜24時間、より好ましくは1〜8時間である。所望であれば、触媒を加えて、反応の速度を加速させてもよい。
【0069】
固体粒子、液体媒体およびポリビニル分散剤は、任意の順序で、または同時に混合してよい。混合物を、必要に応じて、機械処理して、例えば、ボール粉砕、ビース粉砕、バラス粉砕によって、または、微細流動化のような精密技術(Microfluidics(登録商標)装置を使用)によって、または、流体力学的キャビテーション(例えば、CaviPro(登録商標)装置を使用)によって、固体の粒径を所望の粒径になるまで減少させる。固体粒子は、単独で、又は、液体媒体及び/若しくはポリビニル分散剤と混合したまま、該固体の粒径を小さくするために処理し、その後に、1種類又は複数種類のその他の成分を加え、該混合物を攪拌して分散液を生じさせてもよい。
【0070】
所望であれば、反応させる前に、分散物をろ過または遠心分離して、分散が不充分な任意の物質または粒径が大きすぎる任意の物質を除去してもよい。特に、本発明の方法は、ポリビニル分散剤、固体粒子および液体媒体を含む混合物を、反応前に、好ましくは孔径10ミクロン未満のフィルター、より好ましくは5ミクロン未満、特に1ミクロン未満のフィルターを通してろ過する工程を含むことが好ましい。
【0071】
固体粒子の機械処理中に化合物が存在している場合、該固体の粒径が十分に小さくなる前に、分散液が望まない反応が起こしてしまう。固体粒子を、ポリビニル分散剤および液体媒体の存在下で粉砕する場合、温度は好ましくは40℃以下であり、特に30℃以下である。
【0072】
化合物は、好ましくは、固体粒子の粒径を減少させる任意の所望の機械処理を必要に応じて行った後に、固体粒子、ポリビニル分散剤および液体媒体を含む混合物に加える。反応は、化合物を添加している間に起こり得るが、より好ましくは、化合物の完全に加え終わった後にほとんどの反応が起こる。また、化合物を完全に加え終わった後、30分で起こる反応は、全反応の10%未満であることが好ましい。こうすることによって、化合物は、組成物中により均一に分散されやすくなり、その結果、より均一な反応が起こる。
【0073】
固体粒子、ポリビニル分散剤および液体媒体を含む混合物に化合物を加え終わるまで反応を遅らせるために、化合物を、該混合物に、望ましくは60℃未満の温度で、特に30℃未満で加える。また、本発明の方法が反応速度を上げるために触媒を用いる場合、該触媒は、化合物を加えた後に加えられることが好ましい。
【0074】
好ましくは、本発明の方法は、化合物を加える前の固体粒子のZ-平均粒径より最大で50%大きいZ-平均粒径を有する改質固体粒子を生ずる。
改質固体粒子は、好ましくは300nmより小さいZ-平均粒径、より好ましくは10〜300nm、特に50〜180nmの粒径を有する。そのような粒子は、塗料、インク、特にインクジェット印刷用インクに、特に有用である。粒径300nm以下の粒子は、実際上安定化することが特に難しい。前述のLog P計算値を有する分散剤を選択することは、改質の前、改質の間および改質後のそのような小粒子の分散安定性を高めることに特に役立つ。
【0075】
Z-平均粒径は、任意の既知の方法によって測定してよいが、好ましい方法は、Malvern(登録商標)およびCoulter(登録商標)から入手できるような、光相関分光技術を用いた方法である。
【0076】
本発明によって製造された改質固体粒子は、原料固体及び得られた製造物のいずれに関しても粒子であることが理解されるであろう。従って、本発明は、反応によって固体、半固体、ゲル又はコーティングを形成する方法に関するものではない。
【0077】
本発明の方法から得られる固体粒子は、好ましくは、分散状態で液体媒体中に存在する。好ましくは、該分散状態は実質的に均一である。
所望であれば、本発明の方法は、得られた改質固体粒子を液体媒体から単離する追加工程を含んでよい。該工程は、例えば、液体媒体を蒸発させることによって、又は改質固体粒子を沈殿若しくは凝集させ、さらにろ過することによって実施され得る。
【0078】
好ましい蒸発方法には、凍結乾燥、噴霧乾燥及び攪拌乾燥が含まれる。好ましい沈殿及び凝集の方法には、金属塩の添加および遠心分離が含まれる。
本発明の第二態様では、本発明の第一態様の方法によって得ることが可能な又は得られる改質固体粒子が提供される。
【0079】
本発明の方法によって製造された改質固体粒子は、改質固体粒子及び液体ビヒクルを含む組成物の製造に有用である。好ましくは、該組成物はインクであり、固体粒子は、着色料、特に顔料である。
【0080】
従って、本発明の第三態様では、本発明の第一態様の方法によって得られる又は得ることが可能な改質固体粒子および液体ビヒクルを含む組成物が提供される。
該組成物は、本発明の方法の生成物を希釈することによって、または本発明の方法の生成物を単離して、その単離した改質固体粒子を液体ビヒクルと混合することによって製造され得る。本発明の第一実施態様の方法から得られる、改質固体粒子と液体媒体を含む組成物に、所望の液体ビヒクル成分を加えることによって、組成物を製造することが好ましい。「乾燥状態」で改質固体粒子を単離することはない該方法は、より小さい粒径の改質固体粒子を生成する傾向にある。
【0081】
液体ビヒクルは、液体、又は、インク、塗料等のような「最終用途」組成物中に存在する液体混合物である。液体ビヒクルは、改質固体を製造する方法に用いられる液体媒体と同一であっても、又は、異なっていてもよい。例えば、本発明の方法からの生成物は、「最終用途」での使用に直接役立ち得る。即ち、液体ビヒクルは、液体媒体である。液体ビヒクルが水を高い割合で含むこと、および、所望の組成物(例えばインク)を作るために必要となる更なる液体を、本発明の第一態様の方法の後で加えることが好ましい場合もある。
【0082】
液体ビヒクルは、好ましくは、有機液体、水、または有機液体と水を含む混合物である。
特に組成物がインクジェット印刷用とされている場合、液体ビヒクルは、好ましくは水を含む。液体ビヒクルは、組成物の全重量を基準として、好ましくは50〜95重量%、より好ましくは60〜95重量%、特に60〜90重量%含まれる。
【0083】
インクジェット印刷用組成物の場合、液体ビヒクルは、好ましくは水混和性有機液体である有機液体と水の両方を含むことが好ましい。液体ビヒクル内に含有される好ましい水混和性有機液体は、C1−6-アルカノール、好ましくは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、シクロペンタノールおよびシクロヘキサノール;直鎖アミド、好ましくは、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミド;水混和性エーテル、好ましくは、テトラヒドロフランおよびジオキサン;ジオール、好ましくは、2〜12個の炭素原子を有するジオール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、へキシレングリコールおよびチオジグリコール、並びに、オリゴ-およびポリ-アルキレングリコール、好ましくは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール;トリオール、好ましくはグリセロールおよび1,2,6-ヘキサントリオール;ジオールのモノ-C1−4-アルキルエーテル、好ましくは、2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ-C1−4-アルキルエーテル、特に2-メトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)-エタノール、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]エタノールおよびエチレングリコールモノアリルエーテル;環状アミド、好ましくは、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、カプロラクタムおよび1,3-ジメチルイミダゾリドンを含む。好ましくは、液体ビヒクルは、水、および2以上、特に2〜8種類の水混和性有機液体を含む。
【0084】
特に好ましい水-混和性有機液体は、環状アミド、特に2-ピロリドン、N-メチル-ピロリドンおよびN-エチル-ピロリドン;ジオール、特に、1,5-ペンタンジオール、エチレングリコール、チオジグリコール、ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコール;ならびにジオールのモノ-C1−4-アルキルおよびC1−4-アルキル-エーテル、より好ましくは、2〜12の炭素原子を有するジオールのモノ-C1−4-アルキルエーテル、特に2-メトキシ-2-エトキシ-2-エトキシエタノール;ならびにグリセロールである。
【0085】
好ましい組成物は:
a)本発明の第一態様の方法によって得ることの可能な又は得られる改質固体粒子を0.1〜50部、より好ましくは1〜25部;および
b)水、有機液体または水と有機液体の両方を含む液体ビヒクルを、50〜99.9部、より好ましくは99〜75部含み、ここで部はすべて重量に基づくものであり、a)およびb)の成分の量は合計で100部である。
【0086】
水および有機液体の両方が液体ビヒクル中に存在する場合、水:有機液体の重量比は、好ましくは、99:1〜5:95であり、より好ましくは95:5〜60:40、特に95:5〜80:20である。
【0087】
本発明の組成物は、特に固体粒子が顔料である場合、インクジェットプリンター用インクに特に適している。
インクジェット印刷用インクの場合、本発明の第三態様での組成物の粘度は、25℃の温度で、好ましくは50mPa.s未満であり、より好ましくは20mPa.s未満であり、特に10mPa.s未満である。
【0088】
インクジェット印刷用インクの場合、本発明の第三態様での組成物の表面張力は、25℃の温度で、好ましくは20〜65ダイン/cm、より好ましくは25〜50ダイン/cmである。
【0089】
また、本発明の第三態様でのインクジェットプリンター用組成物は、インクジェット印刷用インクの更なる慣用成分、例えば粘度調整剤、pH緩衝液(例えば、1:9クエン酸/クエン酸ナトリウム)、腐食阻害剤、殺生物剤、染料及びコゲーション減少添加剤を含有してもよい。
【0090】
本発明の第四態様では、基板上に画像を印刷する方法が提供され、該方法は、本発明の第三態様での組成物を、好ましくはインクジェットプリンターによって基板に適用することを含む。
【0091】
本発明の第五態様では、本発明の第三態様の組成物を用いて、好ましくは、インクジェットプリンターによって印刷された、紙、プラスチックフィルムまたは繊維材料が提供される。好ましい紙は、酸性、アルカリ性または中性の性質を有し得る、普通紙および処理紙である。市販されている紙の例には、HP Premium Coated Paper、HP Photopaper(すべてHewlett Packard Incから入手可能)、Stylus Pro 720 dpi Coated Paper、Epson Photo Quality Glossy Film、Epson Photo Quality Glossy Paper(Seiko Epson Corp.から入手可能)、Cannon HR 101 High Resolution Paper、Canon GP 201 Glossy Paper、Canon HG 101 High Gloss Film(すべてCanon Inc.から入手可能)、Wiggins Conqueror paper(Wiggins Teape Ltd.から入手可能)、Xerox Acid PaerおよびXerox Alkaline paper、Xerox Acid Paper(Xeroxから入手可能)が含まれる。
【0092】
プラスチックフィルムは、不透明または透明であってよい。オーバーヘッドプロジェクタースライドとしての使用に適している透明プラスチックフィルムは、例えば、ポリエステル(特にポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、セルロースジアセテートおよびセルローストリアセテートフィルムを含む。
【0093】
本発明の第六態様では、本発明の第三態様の組成物および該組成物を入れるインク室を含むインクジェットプリンターカートリッジが提供される。
本発明の方法によって得ることの可能な又は得られる改質固体粒子は、特に改質固体粒子、液体ビヒクル及び結合剤を含む、表面コーティングおよび塗料での使用に適している。固体粒子は、好ましくは、着色剤または増量剤である。インクと同様に、塗料も単離した改質固体粒子を用いて製造され得るが、より好ましくは、本発明の第一態様の方法から得られる改質固体粒子および液体媒体を含む組成物を用いる。
【0094】
このように、本発明の第七態様では、本発明の第一態様の方法によって得ることの可能な又は得られる改質された粒状着色料または増量剤、結合剤および液体ビヒクルを含む組成物が提供される。該結合剤は、液体媒体の蒸発時に組成物を結合する能力を持つ重合物質である。
【0095】
適当な結合剤には、天然および合成のポリマーが含まれる。好ましい結合剤には、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、アルキド、多糖類(例えばセルロース)およびタンパク質(例えばカゼイン)が含まれる。好ましくは、結合剤は、組成物中に、固体粒子重量を基準にして、100%以上、より好ましくは200%、特に300%、もっとも好ましくは400%以上存在する。
【0096】
本発明は以下の実施例によって、さらに説明される。以下の実施例中、部および%はすべて、特記しない限り、重量ベースである。
【実施例】
【0097】
実施例1
分散剤(1)の製造
モノマー供給組成物を、メタクリル酸(129部)、メタクリル酸メチル(70.5部)、ジアセトンアクリルアミド(190.5部)、スチレン(360部)およびイソプロパノール(375部)を混合することによって、調製した。開始剤供給組成物を、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(22.05部)およびイソプロパノール(187.5部)を混合することによって調製した。
【0098】
イソプロパノール(187.5部)を、反応容器内で、80℃に加熱し、連続的に攪拌し、窒素ガス雰囲気でパージした。モノマー供給組成物および開始剤供給組成物をゆっくりと反応容器内に供給し、その間、内容物を攪拌し、温度を80℃に維持し、窒素雰囲気をパージし続けた。モノマーおよび開始剤供給物を反応容器に2時間以上かけて供給した。反応容器の内容物は、開始剤供給物を完全に加え終えた後、さらに4時間80℃に維持され、その後、25℃に冷却した。得られた生成物は、溶液中に49.5重量%の固体内容物を有するアクリルポリマーであった。アクリルポリマーを減圧下でロータリーエバポレーションを行うことによって、単離した。アクリルポリマーは、数平均分子量が9,961、重量平均分子量が17,215、GPCで測定した多分散性が1.7であった。これが分散剤(1)である。分散剤(1)のlog P計算値は、Acvanced Chemistry Development Inc.(ACD labs)から入手可能なLog P DB software version 7.04により、1.55であった。
【0099】
分散剤溶液(1)
分散剤(1)(150部)を水(470部)に溶解し、水酸化カリウム水溶液で中和し、pH7.7の水溶液を得た。これが分散剤溶液(1)である。
【0100】
ミル-ベース(1)
固体粒子(C.I. Pigment Blue 15:3、60部、Sunより入手)を分散剤溶液(1)(340部)と混合した。混合物を、Blackleyミル内で3時間、粉砕した。この結果、Z-平均粒径が104nm、顔料含有量が15重量%固体の固体粒子を含むミルベースが得られた。これがミル-ベース(1)である。
【0101】
固体粒子を改質するための分散剤(1)の反応
2つの反応性基を有する化合物(アジピン酸ジヒドラジド、水6.8部中0.686部)を、約25℃の温度で、ミルベース(1)(50部)にゆっくり加え、混合物を、50℃の温度で6時間、攪拌した。得られた改質固体粒子は、114nmのZ-平均粒径を有し、該粒径は9%増加しただけであった。これが改質固体粒子(1)である。
【0102】
試験
熱安定性
ミルベース(1)および改質固体粒子(1)の試料を60℃の温度で2週間の間、保存した。2週間後、Z-平均粒径を再測定し、粒径の増大(%)を計算した。表3に結果を示す。
【0103】
【表3】

【0104】
粒径が増大すればするほど、分散安定性は減少する。
表3は、改質固体粒子が同等の未改質ミルベースに対して優れた熱安定性を示すことを表している。
【0105】
耐溶剤性
有機液体に対するミルベース(1)と改質固体粒子(1)の耐溶剤性を、これらにブトキシエタノール/水混合物に加えることによって測定した。混合物が安定であるブトキシエタノールの最大濃度を、目視で評価した。結果を表4に示す。
【0106】
【表4】

【0107】
本発明の改質固体粒子は、同等の未改質のミルベースより耐溶剤性が大きく改善されたことを示している。
インク試験
【0108】
【表5】

【0109】
インク組成物を、表5の縦列にしたがって成分を混合してゆくことにより製造した。混合後60℃で2週間保存した後に、Z-平均粒径の増大および粘度の増加を測定した。インク1(改質固体粒子を含む)は、保存後、目立った粘度の上昇を示さず、Z-平均粒径の増大は5%未満であった。インク2(ミルベースを含む)は、60℃で2週間保存後、肉眼で分かるほど増粘し、さらに50%を上回る粒径の増加を示した。このように、本発明の方法で製造された改質固体粒子は、同等の未改質のミルベースより高い安定性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質された固体粒子を製造するための方法であって、固体粒子及び液体媒体の存在下でポリビニル分散剤を化合物と反応させることを含み、
a)前記ポリビニル分散剤は、LogPの計算値が1.8未満であり、反応可能基を少なくとも1個有すること、及び
b)前記化合物は、液体媒体に実質的に可溶であり、前記分散剤中の前記反応可能基と反応する反応性基を少なくとも1個有すること
を特徴とする、前記方法。
【請求項2】
(i)前記方法によって調製された改質固体粒子が封入された固体粒子である、
(ii)前記ポリビニル分散剤中の前記反応可能基が架橋可能基である、
(iii)前記化合物が架橋剤であり、前記架橋剤中の前記反応性基が前記架橋可能基と架橋することができる架橋基である、及び、
(iv)反応は、前記ポリビニル分散剤を前記架橋剤で架橋させ、それによって架橋された分散剤内に前記固体粒子を封入することを含む、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリビニル分散剤のLogPの計算値が0〜1.7である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
反応を60℃以下の温度で実施する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
得られた改質固体粒子が、化合物を加える前の固体粒子のZ-平均粒径より、最大で50%大きいZ-平均粒径を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ポリビニル分散剤が、分散剤1g当たり10〜200mgKOHの酸価を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ポリビニル分散剤が、ケト、アルデヒド又はβ-ジケトエステル反応可能基を少なくとも1つ有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
化合物が、アミン、イミン、ヒドラジン又はチオール反応性基を少なくとも1個有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
液体媒体が水を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
固体粒子が顔料である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
得られた改質固体粒子を液体媒体から単離する更なる工程を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
以下の成分を混合することにより反応を実施する方法であって、
該成分が、
a)液体媒体、
b)前記液体媒体重量に対する重量比で1:100〜1:3の量の固体粒子、
c)前記液体媒体重量に対する重量比で1:100〜1:3.3の量のポリビニル分散剤、及び
d)前記液体媒体重量に対する重量比で1:10,000〜1:10の量の化合物である、
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
液体媒体、固体粒子及びポリビニル分散剤を混合し、混合物を機械で処理して、固体粒子の粒径を減少させた後、前記混合物に化合物を加える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって得られる又は得ることが可能である改質固体粒子。
【請求項15】
請求項14に記載の改質固体粒子及び液体ビヒクルを含む組成物。
【請求項16】
25℃で20mPa.s未満の粘度を有する、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
液体ビヒクルが、水及び有機液体を重量比99:1〜5:95で含む、請求項15又は16に記載の組成物。
【請求項18】
請求項15、16又は17のいずれか一項に記載の組成物を基板に適用することを含む、基板上に画像を印刷する方法。
【請求項19】
印刷をインクジェットプリンターによって行う、請求項18記載の方法。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の方法によって、請求項15、16又は17のいずれか一項に記載の組成物で印刷された紙、プラスチックフィルム又は繊維材料。
【請求項21】
インク室及び組成物を含むインクジェットプリンターカートリッジであって、前記組成物が前記インク室内に存在し、さらに前記組成物が請求項15、16又は17のいずれか一項に記載の組成物であることを特徴とする、前記カートリッジ。
【請求項22】
固体粒子が着色剤又は増量剤であり、組成物がさらに結合剤を含む、請求項15記載の組成物。

【公表番号】特表2007−526357(P2007−526357A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544541(P2006−544541)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【国際出願番号】PCT/GB2004/005215
【国際公開番号】WO2005/061087
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506139635)フジフィルム・イメイジング・カラランツ・リミテッド (75)
【Fターム(参考)】