説明

固体酸化物形燃料電池セル及び固体酸化物形燃料電池

【課題】金属集電体からの不純物の拡散を抑えることにより、発電性能の低下を防止することができる固体酸化物形燃料電池セルを提供すること。
【解決手段】本発明の固体酸化物形燃料電池セル11は、固体電解質層56、空気極55及び燃料極57を備え、空気極55の表面側を金属集電体66に接触させて使用する。空気極55は、第1の厚さt1を有する基準部93と、基準部93の表面94から突出し第1の厚さt1よりも厚い第2の厚さt2を有する凸部95とを備え、凸部95の先端部が接触部96として金属集電体66に接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極の表面側を金属集電体に接触させて使用する固体酸化物形燃料電池セル、及び、固体酸化物形燃料電池セルと金属集電体とセル間セパレータとを積層配置してなる固体酸化物形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池として、例えば固体電解質層(固体酸化物層)を備えた固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell ;SOFC)が知られている。このSOFCは、燃料ガスに接する燃料極と酸化剤ガスに接する空気極とが固体電解質層の両側に配置された発電セル(固体酸化物形燃料電池セル)を備えている。そして、燃料ガス中の水素と酸化剤ガス中の酸素とが固体電解質層を介して反応(発電反応)することにより、空気極を正極、燃料極を負極とする直流の電力が発生するようになる。なお、発電セルは、空気極の表面に金属集電体(及びインターコネクタ)を接触させた状態で使用されるため、金属集電体が正極となる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−76842号公報(図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、発電セルでは、金属集電体の材料として、耐熱性に優れたクロム(Cr)含有合金が用いられることが多い。ところが、燃料電池の起動時や起動後に周囲の空気が高温になると、金属集電体に含まれるクロムなどの不純物が三相界面(酸化剤ガス中の酸素と、固体電解質層と、空気極との界面)に拡散する可能性が高い。この場合、空気極に含まれるストロンチウム(Sr)などの元素がクロムと反応して消費されるため、空気極の組成ずれ(即ち、組成が変わること)が生じ、組成ずれに起因して空気極の電気抵抗が増加してしまう。その結果、酸化剤ガスの反応が阻害され、起動時から数時間〜数十時間以内に空気極の電圧が著しく増加することにより、燃料電池の発電性能が極端に低下するといった問題(いわゆるクロム被毒)が生じてしまう。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属集電体からの不純物の拡散を抑えることにより、発電性能の低下を防止することができる固体酸化物形燃料電池セル及び固体酸化物形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段(手段1)としては、固体電解質層、前記固体電解質層の第1主面側に配置された空気極及び前記固体電解質層の第2主面側に配置された燃料極を備え、前記空気極の表面側を金属集電体に接触させて使用する固体酸化物形燃料電池セルであって、前記空気極は、第1の厚さを有する基準部と、前記基準部の表面から突出し前記第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する凸部とを備えるとともに、前記凸部の先端部が接触部として前記金属集電体に接触することを特徴とした固体酸化物形燃料電池セルがある。
【0007】
手段1に記載の発明によると、空気極は、基準部に加えて、基準部の表面から突出する凸部を備えている。これに伴い、空気極が肉厚になるため、金属集電体から空気極と固体電解質層との界面までの距離が長くなる。その結果、金属集電体に含まれる不純物が基準部と固体電解質層との界面に存在する三相界面に到達しにくくなる。よって、不純物の三相界面での拡散が防止されるため、基準部及び凸部に含まれる元素が不純物と反応しにくくなる。従って、基準部及び凸部の組成ずれが防止され、組成ずれに起因する空気極の電気抵抗の増加が防止されるため、固体酸化物形燃料電池セルの発電性能の低下を防止することができる。ゆえに、固体酸化物形燃料電池セルの耐久性能が向上する。
【0008】
しかも、凸部は、基準部の厚さ(第1の厚さ)よりも厚い第2の厚さを有するため、隣接する凸部間に酸化剤ガス用の流路を深く形成することができる。よって、凸部間を酸化剤ガスが通過しやすくなるため、空気極全体に酸化剤ガスを拡散させやすくなる。その結果、酸化剤ガス中の酸素を、固体電解質層を介して燃料ガス中の水素と確実に反応(発電反応)させることができるため、固体酸化物形燃料電池セルの発電性能を向上させることができる。
【0009】
固体酸化物形燃料電池セルを構成する固体電解質層は、燃料極に接する燃料ガス及び空気極に接する酸化剤ガスなどの一部がイオンとなって移動する性質(イオン電導性)を有している。固体電解質層中を移動するイオンとしては、例えば酸素イオンや水素イオンなどが挙げられる。
【0010】
固体電解質層(固体酸化物層)の形成材料としては、例えばZrO系セラミック、LaGaO系セラミック、BaCeO系セラミック、SrCeO系セラミック、SrZrO系セラミック、CaZrO系セラミックなどがある。
【0011】
また、固体酸化物形燃料電池セルを構成する燃料極は、還元剤となる燃料ガスと接触し、固体酸化物形燃料電池セルにおける負電極として機能する。ここで、燃料極の形成材料としては、例えば、希土類元素(Sc、Yなど)により安定化されたZrO系セラミック、及び、希土類元素(Sm、Gdなど)をドープしたCeO系セラミック等のうち、少なくとも1つのセラミック材料と、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh、Ni、Fe等の金属材料及びそれら金属材料の合金のうちの少なくとも1つと、を混合した金属セラミック材料の混合物(サーメット)を使用することができる。
【0012】
また、燃料ガスとしては、例えば、水素ガス、炭化水素ガス、水素ガスと炭化水素ガスとの混合ガスなどが挙げられる。燃料ガスとして炭化水素ガスを選択した場合、炭化水素ガスの種類は特に限定されないが、例えば、天然ガス、ナフサ、石炭ガス化ガス等であることが好ましい。なお、水中にガス(水素ガス、炭化水素ガス、混合ガス)を通過させて加湿することによって得られる燃料ガスや、ガス(水素ガス、炭化水素ガス、混合ガス)に水蒸気を混合させることによって得られる燃料ガスを選択してもよい。また、1種類の燃料ガスのみを用いてもよいし、複数種類の燃料ガスを併用してもよい。さらに、燃料ガスは、窒素やアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。また、液体の原料を気化したものを燃料ガスとして使用したり、水素ガス以外のガスを改質して生成した水素ガスを燃料ガスとして使用したりすることもできる。
【0013】
固体酸化物形燃料電池セルを構成する空気極は、酸化剤となる酸化剤ガスと接触し、固体酸化物形燃料電池セルにおける正電極として機能する。ここで、空気極の形成材料としては、例えば、金属材料、金属の酸化物、金属の複合酸化物などを挙げることができる。金属材料の好適例としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh等やそれらの合金などがある。金属の酸化物の好適例としては、例えば、La、Sr、Ce、Co、Mn、Feの酸化物(La、SrO、Ce、Co、MnO、FeO)などがある。金属の複合酸化物の好適例としては、例えば、La、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe、Mnを含有する複合酸化物(La1−xSrCoO系複合酸化物、La1−xSrFeO系複合酸化物、La1−xSrCo1−yFe系複合酸化物、La1−xSrMnO系複合酸化物、Pr1−xBaCoO系複合酸化物、Sm1−xSrCoO系複合酸化物)などがある。
【0014】
また、酸化剤ガスとしては、例えば、酸素と他の気体との混合ガスなどが挙げられる。この混合ガスは、窒素やアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。なお、混合ガスは、安全で安価な空気であることが好ましい。
【0015】
なお、セル厚さ方向から見たときの空気極の面積に対する接触部の面積は、50%未満であることが好ましく、特には10%以上50%未満であることが好ましい。仮に、空気極の面積に対する接触部の面積が10%未満になると、空気極から金属集電体に電流が流れにくくなるため、固体酸化物形燃料電池セルの性能が低下してしまう。一方、空気極の面積に対する接触部の面積が50%以上になると、接触部を有する凸部の外形も大きくなるため、凸部同士の隙間が小さくなる。その結果、酸化剤ガスは、凸部間を通過しにくくなるため、空気極全体に拡散されにくくなる。この場合、酸化剤ガス中の酸素を、固体電解質層を介して燃料ガス中の水素と十分に反応(発電反応)させることができないため、固体酸化物形燃料電池セルの発電性能が低下してしまう。
【0016】
また、第2の厚さ(凸部の厚さ)は、第1の厚さ(基準部の厚さ)よりも厚いことが好ましく、特には、第1の厚さの10倍以上であることが好ましい。仮に、第2の厚さが第1の厚さの10倍未満であると、金属集電体から空気極と固体電解質層との界面までの距離をあまり長くすることができなくなる。その結果、金属集電体から拡散した不純物が上記した三相界面に拡散しやすくなるため、固体酸化物形燃料電池セルの発電性能が低下してしまう。
【0017】
なお、空気極を構成する凸部は帯状でありかつ複数並列に配置され、凸部のピッチは5mm以下、凸部の幅は2mm以下であることが好ましい。仮に、凸部のピッチが5mmよりも大きくなると、複数の凸部を基準部上に配置することが困難になる。また、凸部の幅が2mmよりも大きくなった場合であっても、凸部のピッチが5mm以下であれば、複数の凸部を基準部上に配置することが困難になる。これらの場合、凸部の合計の断面積が小さくなり、凸部の先端部(接触部)と金属集電体との接触面積を十分に確保できなくなるため、空気極と金属集電体とをつなぐ経路の電気抵抗が大きくなってしまう。その結果、空気極から金属集電体に電流が流れにくくなるため、固体酸化物形燃料電池セルの性能が低下してしまう。
【0018】
さらに、空気極を構成する凸部が帯状でありかつ複数並列に配置されている場合、第2の厚さは0.1mm以上3mm以下であることが好ましい。仮に、第2の厚さが0.1mm未満であると、凸部同士の隙間が浅くなりすぎるため、凸部間を酸化剤ガスが通過しにくくなり、空気極全体に酸化剤ガスが拡散されにくくなる。その結果、酸化剤ガス中の酸素を、固体電解質層を介して燃料ガス中の水素と充分に反応(発電反応)させることができないため、固体酸化物形燃料電池セルの発電性能が低下してしまう。一方、第2の厚さが3mmよりも大きくなると、凸部の高くなりすぎるため、凸部の高さ方向への電気抵抗が大きくなってしまう。この場合、空気極から金属集電体に電流が流れにくくなるため、固体酸化物形燃料電池セルの性能が低下してしまう。
【0019】
なお、空気極を構成する基準部の第1の厚さは、0.01mm以上0.1mm以下であることが好ましい。仮に、第1の厚さが0.01mm未満であると、空気極の性能が低下し、固体酸化物形燃料電池セルの発電性能が低下してしまう。一方、第1の厚さが0.1mmよりも大きいと、その分だけ第2の厚さ(凸部の厚さ)を小さくせざるを得ないため、凸部同士の隙間が小さくなる。その結果、凸部間を酸化剤ガスが通過しにくくなり、空気極全体に酸化剤ガスが拡散されにくくなる。この場合、酸化剤ガス中の酸素を、固体電解質層を介して燃料ガス中の水素と反応(発電反応)させることが困難になるため、固体酸化物形燃料電池セルの発電性能が低下してしまう。
【0020】
ところで、空気極が例えばLSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)によって構成され、金属集電体が例えばクロム含有合金によって構成される場合、空気極を構成するストロンチウムと金属集電体中の不純物であるクロムとが反応してしまう。その結果、空気極中のストロンチウムが減少するため、空気極の組成ずれが発生し、空気極の電気抵抗が増加してしまう。そこで、凸部の先端部には、金属集電体中の不純物と反応して酸化物を形成するトラップ層が存在することが好ましい。この場合、空気極を構成する元素が金属集電体中の不純物と反応するのではなく、トラップ層が金属集電体中の不純物と反応して酸化物を形成するため、空気極を構成する元素の減少に起因した空気極の組成ずれを防止できる。ゆえに、空気極の組成ずれに起因した空気極の電気抵抗の増加を抑制することができる。
【0021】
なお、トラップ層の組成は特に限定されないが、例えば、トラップ層は、第2族元素の酸化物を含有することが好ましい。第2族元素は、金属集電体中の不純物と反応しやすいため、空気極の組成ずれをより確実に防止でき、ひいては、空気極の電気抵抗の増加をより確実に抑制することができる。ここで、第2族元素の酸化物としては、Ba,Ca,Srなどの酸化物などを挙げることができる。
【0022】
また、基準部、凸部及びトラップ層は、下記の一般式で表される1種または2種以上のペロブスカイト型酸化物(便宜上「P」で示す)により構成されるとともに、トラップ層を構成しているペロブスカイト型酸化物は、基準部及び凸部を構成しているペロブスカイト型酸化物よりもAサイトにおける第2族元素の含有比率が高いことが好ましい。
一般式 ABO…P
(式中、A:Aサイトの元素であり、Laを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Sb、Cr、Mo、W、Mn、Sc、Co、Cu、In、Sn、Ga、Zn、Cd、Fe及びNiからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素とのモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれていてもよい。)
【0023】
上記のようにすれば、トラップ層の機械的強度や耐電圧性が向上するため、固体酸化物形燃料電池セルの駆動耐久性を向上させることができる。また、固体酸化物形燃料電池セルを長期間使用する際にトラップ層に生じるクラックや絶縁破壊を防止することができる。
【0024】
また、上記一般式で表されるトラップ層を構成するペロブスカイト型酸化物は、LaSrCa(1−x−y)・CoFe(1−Z)(x+Y+z>1、y+z>0.4)であることが好ましい。このようにした場合、Aサイト元素にカルシウムが含まれることにより、トラップ層が金属集電体中の不純物と反応しやすくなる。その結果、空気極の組成ずれに起因した空気極の電気抵抗の増加をより確実に抑制できる。
【0025】
なお、トラップ層は、基準部及び凸部よりも平均気孔径が大きくてもよい。さらに、トラップ層は、基準部及び凸部よりも気孔率が高くてもよい。
【0026】
上記課題を解決するための別の手段(手段2)としては、上記手段1に記載の固体酸化物形燃料電池セルと、金属集電体と、セル間セパレータとを積層配置してなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池がある。
【0027】
手段2に記載の発明によると、固体酸化物形燃料電池セルを構成する空気極は、基準部に加えて、基準部の表面から突出する凸部を備えている。これに伴い、空気極が肉厚になるため、金属集電体から空気極と固体電解質層との界面までの距離が長くなる。その結果、金属集電体に含まれる不純物が基準部と固体電解質層との界面に存在する三相界面に到達しにくくなる。よって、不純物の三相界面での拡散が防止されるため、基準部及び凸部に含まれる元素が不純物と反応しにくくなる。従って、基準部及び凸部の組成ずれが防止され、組成ずれに起因する空気極の電気抵抗の増加が防止されるため、固体酸化物形燃料電池セル、ひいては、固体酸化物形燃料電池の発電性能の低下を防止することができる。ゆえに、固体酸化物形燃料電池の耐久性能が向上する。
【0028】
しかも、凸部は、基準部の厚さ(第1の厚さ)よりも厚い第2の厚さを有するため、隣接する凸部間に酸化剤ガス用の流路を深く形成することができる。よって、凸部間を酸化剤ガスが通過しやすくなるため、空気極全体に酸化剤ガスを拡散させやすくなる。その結果、酸化剤ガス中の酸素を、固体電解質層を介して燃料ガス中の水素と確実に反応(発電反応)させることができるため、固体酸化物形燃料電池セル、ひいては、固体酸化物形燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0029】
なお、固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、ZrO系セラミックなどを電解質とする燃料電池である。固体酸化物形燃料電池の稼働温度(即ち、イオンが電解質中を移動可能となる温度)は、700℃〜1000℃程度である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態における固体酸化物形燃料電池を示す概略斜視図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】固体酸化物形燃料電池セルを示す概略断面図。
【図4】固体酸化物形燃料電池セルを示す要部断面図。
【図5】固体酸化物形燃料電池セルを示す要部平面図。
【図6】原料粉の時点、焼成後及び発電後におけるモル比A/Bの大小関係を示すグラフ。
【図7】原料粉の時点、焼成後及び発電後におけるSr(のモル量)/La(のモル量)の大小関係を示すグラフ。
【図8】他の実施形態における固体酸化物形燃料電池セルを示す要部断面図。
【図9】他の実施形態における固体酸化物形燃料電池セルを示す要部断面図。
【図10】他の実施形態における固体酸化物形燃料電池セルを示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0032】
図1,図2に示されるように、本実施形態の燃料電池1は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。燃料電池1は、発電反応により電力を発生する燃料電池スタック10を備えている。また、燃料電池スタック10は、発電の最小単位である略矩形板状の発電セル11(固体酸化物形燃料電池セル)を複数積層してなるものである。燃料電池スタック10は、縦180mm×横180mm×高さ80mmの略直方体状をなしている。また、燃料電池スタック10は、同燃料電池スタック10を厚さ方向に貫通する8つの貫通孔40を有している。なお、燃料電池スタック10の四隅にある4つの貫通孔40に締結ボルト41を挿通させ、燃料電池スタック10の下面から突出する締結ボルト41の下端部分にナット(図示略)を螺着させる。また、残り4つの貫通孔40にガス流通用締結ボルト42を挿通させ、燃料電池スタック10の上面及び下面から突出するガス流通用締結ボルト42の両端部分にナット43を螺着させる。その結果、複数の発電セル11が固定されるようになっている。
【0033】
図2,図3に示されるように、燃料電池1は、発電セル11と、空気極集電体66(金属集電体)と、コネクタプレート51,60とを積層配置することによって構成されている。発電セル11は、空気極フレーム52、上側絶縁フレーム53、セパレータ54、空気極55、固体電解質層56、燃料極57、下側絶縁フレーム58及び燃料極フレーム59を順番に積層することによって構成されている。
【0034】
コネクタプレート51,60は、耐熱性及び導電性に優れたステンレスなどの金属材料によって略矩形板状に形成され、発電セル11の上端部及び下端部に配置されている。コネクタプレート51,60は、発電セル11内にガス流路を形成するとともに、隣接する発電セル11同士を導通させるようになっている。詳述すると、隣接する発電セル11同士の間に位置するコネクタプレート51,60は、いわゆるインターコネクタ(セル間セパレータ)となり、隣接する発電セル11同士を区画するようになっている。なお、本実施形態のコネクタプレート60は、下側に隣接する発電セル11のコネクタプレート51を兼ねている。また、燃料電池スタック10の上端部に配置されたコネクタプレート51は上側エンドプレート12となり、燃料電池スタック10の下端部に配置されたコネクタプレート60は下側エンドプレート13となっている。両エンドプレート12,13は、燃料電池スタック10を挟持しており、燃料電池スタック10から出力される電流の出力端子となっている。なお、エンドプレート12,13となるコネクタプレート51,60は、インターコネクタとなるコネクタプレート51,60よりも肉厚になっている。
【0035】
図2,図3に示される空気極フレーム52及び燃料極フレーム59は、ステンレスなどの導電性材料によって略矩形枠状に形成されている。よって、空気極フレーム52の中央部には、同空気極フレーム52を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部61が設けられ、燃料極フレーム59の中央部には、同燃料極フレーム59を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部62が設けられている。また、絶縁フレーム53,58は、厚さ0.5mmのマイカシートによって略矩形枠状に形成されている。よって、上側絶縁フレーム53の中央部には、同上側絶縁フレーム53を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部63が設けられ、下側絶縁フレーム58の中央部には、同下側絶縁フレーム58を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部64が設けられている。さらに、セパレータ54は、ステンレスなどの導電性材料によって略矩形枠状に形成されている。よって、セパレータ54の中央部には、同セパレータ54を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部65が設けられている。
【0036】
図2〜図4に示されるように、固体電解質層56は、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などのセラミック材料によって形成され、厚さ0.01mmの矩形板状をなしている。固体電解質層56は、セパレータ54の下面に固定されるとともに、セパレータ54の開口部65を塞ぐように配置されている。固体電解質層56は、酸素イオン伝導性固体電解質体として機能するようになっている。また、固体電解質層56の第1主面91(図2〜図4では上面)には、燃料電池スタック10に供給された空気(酸化剤ガス)に接する空気極55が貼付され、固体電解質層56の第2主面92(図2〜図4では下面)には、同じく燃料電池スタック10に供給された燃料ガスに接する燃料極57が貼付されている。即ち、空気極55及び燃料極57は、固体電解質層56の両側に配置されている。空気極55は、セパレータ54の開口部65内に配置され、セパレータ54と接触しないようになっている。また、燃料極57は、ニッケルとイットリア安定化ジルコニアとの混合物(Ni−YSZ)によって形成され、厚さ0.8mmの平面視矩形状をなしている。
【0037】
なお、固体電解質層56と空気極55との界面には、多数の三相界面(空気中の酸素と、固体電解質層56と、空気極55との界面)が存在している。各三相界面は、固体電解質層56及び空気極55によって全体的に覆われているため、発電セル11の外部に露出しない非露出状態となっている。
【0038】
図4に示されるように、空気極55は、基準部93と、基準部93の表面94から突出する複数の凸部95とを備えている。基準部93及び各凸部95は、ともに第2族元素の酸化物を含有するペロブスカイト型酸化物(本実施形態ではLSCF:La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)によって構成されている。
【0039】
また、図5に示されるように、基準部93は、縦100mm×横100mmの平面視矩形状をなしている。各凸部95は、帯状であり、かつ基準部93上において並列に配置されている。また、各凸部95の長さは20mmに設定され、各凸部95の幅は2mm以下(本実施形態では1mm)に設定されている。そして、各凸部95のピッチは5mm以下(本実施形態では2.5mm)に設定されている。
【0040】
さらに、図4に示されるように、基準部93は第1の厚さt1を有しており、第1の厚さt1は、0.01mm以上0.1mm以下(本実施形態では0.02mm)に設定されている。また、各凸部95は第2の厚さt2を有しており、第2の厚さt2は、0.1mm以上3mm以下(本実施形態では0.6mm)に設定されている。即ち、第2の厚さt2は、第1の厚さt1よりも厚くなっており、本実施形態では第1の厚さt1の30倍となっている。そして、空気極55全体の厚さ(第1の厚さt1+第2の厚さt2)は、0.2mm以上2mm以下(本実施形態では0.62mm)に設定されている。なお、各凸部95の先端部は、接触部96として空気極集電体66に接触するようになっている。即ち、発電セル11は、空気極55の表面側を空気極集電体66に接触させた状態で使用されるようになっている。なお、セル厚さ方向から見たときの空気極55の面積に対する接触部96の面積(各接触部96の合計の面積)は、50%未満(本実施形態では30%)である。また、本実施形態の空気極集電体66は、クロム含有合金であるフェライト系ステンレスによって平板状に形成されている。空気極集電体66の厚さは1mmに設定され、空気極集電体66における裏面98はフラットになっている。
【0041】
図4に示されるように、凸部95の先端部には、空気極集電体66中の不純物(本実施形態ではクロム)と反応して酸化物を形成するトラップ層97が存在している。トラップ層97は、第2族元素の酸化物を含有するペロブスカイト型酸化物(本実施形態ではLa0.5Sr0.4Ca0.1・Co0.2Fe0.8)によって構成されている。なお、トラップ層97を構成するペロブスカイト型酸化物は、Aサイト(La0.5Sr0.4Ca0.1)における第2族元素(Sr,Ca)の含有比率が0.5となっている。一方、基準部93及び凸部95を構成するペロブスカイト型酸化物は、Aサイト(La0.6Sr0.4)における第2族元素(Sr)の含有比率が0.4となっている。よって、トラップ層97を構成しているペロブスカイト型酸化物は、基準部93及び凸部95を構成しているペロブスカイト型酸化物よりもAサイトにおける第2族元素の含有比率が高くなっている。また、本実施形態において、トラップ層97の厚さは150μmに設定されている。なお、上記した第2の厚さt2は、トラップ層97の厚さを含む厚さである。
【0042】
さらに、トラップ層97は、平均気孔径が0.1μm以上10μm以下(本実施形態では1.0μm)、気孔率が15%以上55%以下(本実施形態では30%)となっている。なお、基準部93及び凸部95は、平均気孔径が0.01μm以上10μm未満(本実施形態では0.5μm)、気孔率が5%以上15%未満(本実施形態では10%)となっている。従って、トラップ層97は、基準部93及び凸部95よりも、平均気孔径が大きく、かつ気孔率が高くなっている。
【0043】
図2,図3に示されるように、本実施形態の発電セル11では、下側絶縁フレーム58の開口部64、燃料極フレーム59の開口部62、及びコネクタプレート60等により、セパレータ54の下方に燃料室15が形成されるようになっている。なお、燃料室15内には、固体電解質層56、燃料極57及び燃料極集電体67が収容されている。
【0044】
また、本実施形態の発電セル11では、コネクタプレート51、空気極フレーム52の開口部61、及び、上側絶縁フレーム53の開口部63等により、セパレータ54の上方に空気室16が形成されるようになっている。そして、空気極55の表面側には、空気極集電体66が設置されるようになっている。その結果、空気極55及びコネクタプレート51は、空気極集電体66を介して電気的に接続されるようになる。
【0045】
さらに、図2に示されるように、燃料電池スタック10は、各発電セル11の燃料室15に燃料ガスを供給する燃料供給経路70と、燃料室15から燃料ガスを排出する燃料排出経路80とを備えている。燃料供給経路70は、ガス流通用締結ボルト42の中心部において軸方向に沿って延びる燃料供給孔71と、燃料供給孔71及び燃料室15を連通させる燃料供給横孔72とによって構成されている。また、燃料排出経路80は、ガス流通用締結ボルト42の中心部において軸方向に沿って延びる燃料排出孔81と、燃料排出孔81及び燃料室15を連通させる燃料排出横孔82とによって構成されている。よって、燃料ガスは、燃料供給孔71及び燃料供給横孔72を順番に通過して燃料室15に供給され、燃料排出横孔82及び燃料排出孔81を順番に通過して燃料室15から排出される。
【0046】
また、図2に示されるように、燃料電池スタック10は、各発電セル11の空気室16に空気を供給する空気供給経路(図示略)と、空気室16から空気を排出する空気排出経路(図示略)とを備えている。空気供給経路は、燃料供給経路70と略同様の構造を有しており、ガス流通用締結ボルト42の中心部において軸方向に沿って延びる空気供給孔(図示略)と、空気供給孔及び空気室16を連通させる空気供給横孔(図示略)とによって構成されている。また、空気排出経路は、燃料排出経路80と略同様の構造を有しており、ガス流通用締結ボルト42の中心部において軸方向に沿って延びる空気排出孔(図示略)と、空気排出孔及び空気室16を連通させる空気排出横孔(図示略)とによって構成されている。よって、空気は、空気供給孔及び空気供給横孔を順番に通過して空気室16に供給され、空気排出横孔及び空気排出孔を順番に通過して空気室16から排出される。
【0047】
例えば、燃料電池1を稼働温度に加熱した状態で、燃料供給経路70から燃料室15に燃料ガスを導入するとともに、空気供給経路から空気室16に空気を供給する。その結果、燃料ガス中の水素と空気中の酸素とが固体電解質層56を介して反応(発電反応)し、空気極55を正極、燃料極57を負極とする直流の電力が発生する。なお、本実施形態の燃料電池スタック10は、発電セル11を複数積層して直列に接続しているため、空気極55に電気的に接続される上側エンドプレート12が正極となり、燃料極57に電気的に接続される下側エンドプレート13が負極となる。
【0048】
次に、燃料電池1の製造方法を説明する。
【0049】
まず、ステンレス板を打ち抜くことにより、コネクタプレート51,60、空気極フレーム52、セパレータ54及び燃料極フレーム59を形成する。また、マイカシートを所定形状に形成することにより、絶縁フレーム53,58を形成する。具体的には、市販のマイカシート(マイカと成形用樹脂との複合体からなるシート)を他の部材(コネクタプレート51,60、空気極フレーム52、セパレータ54及び燃料極フレーム59など)とほぼ同じ形状に形成する。なお、マイカシートに含まれている樹脂成分は、他の部材とともに積層された後に行われる熱処理によって蒸発する。さらに、マイカシートは、各発電セル11を積層方向にボルト締めした際に他の部材に挟まれることによって、各部材をシールするようになっている。
【0050】
次に、発電セル11を、従来周知の手法に従って形成する。具体的には、酸化ニッケル(NiO)の粉末とイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の粉末とを混合する。次に、分散剤を加えるとともに、トルエンとメチルエチルケトン(MEK)とを混合した溶液を有機溶媒として加え、アルミナ製ポットミルを用いて24時間混合する。その後、フタル酸ブチル(DBP)を可塑剤として加えるとともに、ポリビニルアルコールをバインダーとして加え、さらに3時間混合して燃料極用スラリーとする。そして、得られた燃料極用スラリーをドクターブレード法によりシート状に成形することにより、燃料極57となる燃料極用グリーンシートが製造される。
【0051】
また、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の粉末に、ポリビニルアルコール及びブチルカルビトールをバインダーとして混合し、固体電解質層用スラリーを調製する。そして、得られた固体電解質層用スラリーをドクターブレード法によりシート状に成形することにより、固体電解質層56となる固体電解質層用グリーンシートが製造される。
【0052】
さらに、市販のGDCの粉末に、ポリビニルアルコール及びブチルカルビトールをバインダーとして混合することにより、保護膜用ペーストが製造される。
【0053】
その後、燃料極用グリーンシート上に固体電解質層用グリーンシートを積層し、焼成する。さらに、固体電解質層用グリーンシート上に保護膜用ペーストをスクリーン印刷し、1250℃で1時間焼成する。その結果、燃料極用グリーンシートが燃料極57となり、固体電解質用グリーンシートが固体電解質層56となり、保護膜用ペーストが保護膜となる。
【0054】
次に、固体電解質層56上に空気極55(基準部93、凸部95)の形成材料を印刷した後、焼成する。詳述すると、まず、基準部93及び凸部95の材料として、市販のLSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)の粉末を準備する。次に、LSCFの粉末に対して、ポリビニルアルコール及びブチルカルビトールをバインダーとして混合し、空気極用ペーストを調製する。その後、保護膜上に、基準部93となる空気極用ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる。次に、基準部93となる空気極用ペーストに、凸部95となる空気極用ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる。そして、1100℃で1時間焼成することにより、固体電解質層56上に空気極55が形成される。
【0055】
次に、凸部95上にトラップ層97の形成材料を印刷する。詳述すると、まず、トラップ層97の材料として、La0.5Sr0.4Ca0.1・Co0.2Fe0.8の粉末を準備する。次に、La0.5Sr0.4Ca0.1・Co0.2Fe0.8の粉末に対して、ポリビニルアルコール及びブチルカルビトールをバインダーとして混合し、トラップ層用ペーストを調製する。その後、凸部95の先端部(接触部96)に、トラップ層用ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる。その結果、凸部95の先端部にトラップ層97が形成される。
【0056】
その後、固体電解質層56を、ロウ付けによってセパレータ54に対して固定する。そして、空気極フレーム52、絶縁フレーム53,58、(固体電解質層56がロウ付けによって固定された)セパレータ54及び燃料極フレーム59などを積層して一体化する。この時点で、発電セル11が形成される。
【0057】
次に、複数の発電セル11やコネクタプレート51,60などを積層して一体化することにより、燃料電池スタック10を形成する。そして、燃料電池スタック10の四隅にある4つの貫通孔40に締結ボルト41を挿通させ、燃料電池スタック10の下面から突出する締結ボルト41の下端部分にナット(図示略)を螺着させる。また、残り4つの貫通孔40にガス流通用締結ボルト42を挿通させ、燃料電池スタック10の上面及び下面から突出するガス流通用締結ボルト42の両端部分にナット43を螺着させる。その結果、各発電セル11が固定され、燃料電池1が完成する。
【0058】
次に、基準部93、凸部95及びトラップ層97を構成するペロブスカイト型酸化物(一般式ABO)の評価方法及びその結果を説明する。
【0059】
まず、基準部93及び凸部95からなる集電層の材料として、Aサイトの元素がLa,Sr,Caからなり、Bサイトの元素がCo,Feからなる粉末(原料粉)を準備した。また、トラップ層97からなる機能層の材料として、集電層と同様の元素からなる粉末(原料粉)を準備した。
【0060】
次に、蛍光X線測定による定量分析を行い、集電層及び機能層の原料粉を構成する各元素の重量を測定した。そして、測定した各元素の重量(V1)と各元素の分子量(V2)とに基づいて、各元素のモル量(=V1/V2)を算出した。以上の算出結果を表1,表2に示す。
【表1】

【表2】

【0061】
さらに、算出した各元素のモル量に基づいて、Aサイト元素とBサイト元素とのモル比A/B(Aは(Laのモル量)+(Srのモル量)+(Caのモル量)、Bは(Coのモル量)+(Feのモル量))を算出した。以上の算出結果を表3に示す。
【表3】

【0062】
また、算出した各元素のモル量に基づいて、Sr(のモル量)/La(のモル量)を算出した。以上の算出結果を表4に示す。
【表4】

【0063】
次に、集電層の原料粉を1200℃で1時間焼成し、焼成後の集電層を構成する各元素の重量を測定した。なお、この時点で、集電層の元素のうちCaが消費されていることが確認された。そして、測定した各元素の重量に基づいて、各元素のモル量を算出した。以上の結果を表5に示す。また、算出した各元素のモル量に基づいて、モル比A/B、Sr(のモル量)/La(のモル量)を算出した(表3,表4参照)。
【表5】

【0064】
さらに、機能層の原料粉から機能層用ペーストを調製した。そして、得られた機能層用ペーストを集電層の先端部にスクリーン印刷し、乾燥させた。次に、焼成後の集電層及び乾燥後の機能層からなる空気極を用いて、燃料電池による発電を行った。その後、空気極を燃料電池から取り外し、発電後の集電層及び機能層を構成する各元素の重量を測定した。そして、測定した各元素の重量に基づいて、各元素のモル量を算出した。以上の結果を表6,表7に示す。また、算出した各元素のモル量に基づいて、モル比A/B、Sr(のモル量)/La(のモル量)を算出した(表3,表4参照)。なお、原料粉の時点、焼成後及び発電後におけるモル比A/Bの大小関係を図6に示す。また、原料粉の時点、焼成後及び発電後におけるSr/Laの大小関係を図7に示す。
【表6】

【表7】

【0065】
以上の結果、表3,図6に示されるように、集電層のモル比A/Bの値は、原料粉の時点で1.051123、焼成後に1.115826、発電後に1.147943であるため、焼成しても発電しても減少しないことが確認された。一方、機能層のモル比A/Bの値は、原料粉の時点で1.080951、発電後に0.938925であるため、Aサイト元素が発電時に消費されることが確認された。
【0066】
また、表4,図7に示されるように、集電層のSr/Laの値は、原料粉の時点で0.637097、焼成後に0.62234、発電後に0.833866であるため、焼成しても発電しても減少しないことが確認された。一方、機能層のSr/Laの値は、原料粉の時点で0.623641、発電後に0.203441であるため、Srが発電時に消費されることが確認された。また、この時点で、機能層の元素のうちCaが消費されることも確認された。
【0067】
以上のことから、集電層とは別に機能層を設けたり、Aサイト元素にCaを含有させたりすれば、集電層中のストロンチウムが減少しにくくなり、集電層の組成ずれが防止されるため、空気極の電気抵抗の増加を防止できることが確認された。
【0068】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0069】
(1)本実施形態の燃料電池1では、空気極55が、基準部93に加えて、基準部93の表面94から突出する凸部95を備えている。これに伴い、空気極55が肉厚になるため、空気極集電体66から空気極55と固体電解質層56との界面までの距離が長くなる。その結果、空気極集電体66に含まれる不純物(クロム)が基準部93と固体電解質層56との界面に存在する三相界面に到達しにくくなる。ゆえに、クロムの三相界面での拡散が防止されるため、基準部93及び凸部95に含まれるストロンチウムがクロムと反応しにくくなる。従って、基準部93及び凸部95の組成ずれが防止され、組成ずれに起因する空気極55の電気抵抗の増加(いわゆるクロム被毒)が防止されるため、発電セル11、ひいては、燃料電池1の発電性能の低下を防止することができる。ゆえに、発電セル11の耐久性能が向上する。
【0070】
しかも、凸部95は、基準部93の厚さ(第1の厚さt1)よりも厚い第2の厚さt2を有するため、隣接する凸部95間に空気用の流路を深く形成することができる。よって、凸部95間を空気が通過しやすくなるため、空気極55全体に空気を拡散させやすくなる。その結果、空気中の酸素を、固体電解質層56を介して燃料ガス中の水素と確実に反応(発電反応)させることができるため、発電セル11の発電性能を向上させることができる。
【0071】
(2)本実施形態では、凸部95の先端部に、La0.5Sr0.4Ca0.1・Co0.2Fe0.8によって構成されたトラップ層97が存在している。この場合、空気極55を構成する元素が空気極集電体66中のクロムと反応するのではなく、トラップ層97中のSrやCaが空気極集電体66中のクロムと反応して酸化物を形成するため、空気極55を構成する元素の減少に起因した空気極55の組成ずれを防止できる。ゆえに、空気極55の組成ずれに起因した空気極55の電気抵抗の増加を抑制することができる。
【0072】
なお、本実施形態を以下のように変更してもよい。
【0073】
上記実施形態では、基準部93及び凸部95を構成するLSCFがLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8であったが、例えば(LaSr1.1CoFeなどの別の組成に変更してもよい。
【0074】
上記実施形態では、基準部93及び凸部95を構成するペロブスカイト型酸化物がLSCFであり、トラップ層97を構成するペロブスカイト型酸化物がLa0.5Sr0.4Ca0.1・Co0.2Fe0.8であった。しかし、基準部93、凸部95及びトラップ層97を構成するペロブスカイト型酸化物を、全てLSCFに変更してもよい。
【0075】
上記実施形態の燃料電池1は、裏面98がフラットな平板状の空気極集電体66を有していた。しかし、空気極集電体66の形状を変更してもよい。例えば、図8に示されるように、集電体本体166と、集電体本体166の裏面167から突出する複数の凸部168とを備えた空気極集電体169を有する燃料電池110であってもよい。同様に、図10に示されるように、集電体本体366と、集電体本体366の裏面367から突出する複数の凸部368とを備えた空気極集電体369を有する燃料電池310であってもよい。なお、集電体本体166,366は、縦100mm×横100mmの平面視矩形状をなしている。各凸部168,368は、帯状であり、かつ集電体本体166,366上において並列に配置されている。また、集電体本体166,366の厚さは0.4mmに設定され、各凸部168,368の厚さは0.6mmに設定されている。そして、空気極集電体169,369全体の厚さは1mmに設定されている。なお、各凸部168の先端面は、空気極115側の凸部112の先端面に接触するようになっている。一方、各凸部368の先端面は、空気極370側のトラップ層371に接触するようになっている。
【0076】
上記実施形態の発電セル11は、隣接する凸部95間に断面矩形状をなす空気用流路を有する空気極55を備えていた。しかし、図9に示される発電セル211のように、隣接する凸部212間に断面台形状をなす空気用流路213を有する空気極214を備えていてもよい。また、図8に示される発電セル111のように、隣接する凸部112間に、三角形状をなす空気用流路113や、底面にアール形状を有する空気用流路114を有する空気極115を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1,110,310…固体酸化物形燃料電池(燃料電池)
11,111,211…固体酸化物形燃料電池セルとしての発電セル
51,60…セル間セパレータとしてのコネクタプレート
55,115,214,370…空気極
56…固体電解質層
57…燃料極
66,169,369…金属集電体としての空気極集電体
91…第1主面
92…第2主面
93…基準部
94…基準部の表面
95,112,212…凸部
96…接触部
97,371…トラップ層
t1…第1の厚さ
t2…第2の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層、前記固体電解質層の第1主面側に配置された空気極及び前記固体電解質層の第2主面側に配置された燃料極を備え、前記空気極の表面側を金属集電体に接触させて使用する固体酸化物形燃料電池セルであって、
前記空気極は、第1の厚さを有する基準部と、前記基準部の表面から突出し前記第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する凸部とを備えるとともに、前記凸部の先端部が接触部として前記金属集電体に接触することを特徴とした固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項2】
セル厚さ方向から見たときの前記空気極の面積に対する前記接触部の面積は、50%未満であることを特徴とした請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項3】
前記第2の厚さは、前記第1の厚さの10倍以上であることを特徴とした請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項4】
前記凸部は帯状でありかつ複数並列に配置され、前記凸部のピッチは5mm以下、前記凸部の幅は2mm以下、前記第2の厚さは0.1mm以上3mm以下であることを特徴とした請求項1乃至3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項5】
前記凸部の先端部には、前記金属集電体中の不純物と反応して酸化物を形成するトラップ層が存在することを特徴とした請求項1乃至4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項6】
前記トラップ層は、第2族元素の酸化物を含有することを特徴とした請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項7】
前記基準部、前記凸部及び前記トラップ層は、下記の一般式で表される1種または2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)により構成されるとともに、前記トラップ層を構成しているペロブスカイト型酸化物は、前記基準部及び前記凸部を構成しているペロブスカイト型酸化物よりもAサイトにおける第2族元素の含有比率が高いことを特徴とした請求項5または6に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
一般式 ABO…P
(式中、A:Aサイトの元素であり、Laを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Sb、Cr、Mo、W、Mn、Sc、Co、Cu、In、Sn、Ga、Zn、Cd、Fe及びNiからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。)
【請求項8】
前記トラップ層を構成するペロブスカイト型酸化物は、LaSrCa(1−x−y)・CoFe(1−Z)であることを特徴とする請求項7に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池セルと、金属集電体と、セル間セパレータとを積層配置してなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−54970(P2013−54970A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193303(P2011−193303)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】