説明

固体酸化物形燃料電池及びその製造方法

【課題】ガス拡散性を向上させる固体酸化物形燃料電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、ガス透過可能な金属で形成された支持基板1と、支持基板上に配置され、多孔質の金属で形成された中間部材2と、中間部材上に配置される燃料極3と、燃料極上に配置される電解質4と、電解質上に配置される空気極5と、を備え、燃料極、電解質、及び空気極の総厚が、100μm以下であり、また、電解質の膜厚よりも燃料極及び空気極の厚さが大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代型のクリーンエネルギーとして燃料電池が注目を集めている。その中でも、固体酸化物形燃料電池は、高い発電効率を示すことで注目されている。固体酸化物形燃料電池は、種々の形態があるが、その一つとしては、板状の固体電解質の両面に燃料極および空気極をそれぞれ配置した構造を有する平板型と呼ばれるものがある。この構造の電池では、空気極で生成された酸素イオンが固体電解質を介して燃料極へと移動することで発電が行われる。
【0003】
上述した平板型の固体酸化物形燃料電池の中にも種々の形態があり、例えば、板状の電解質を支持体として使用し、その電解質の一方面に燃料極を、他方の面に空気極を形成した、いわゆる自立膜式(例えば、特許文献1参照)や、燃料極又は空気極のどちらかを一方の電極を支持体として使用し、その上に電解質、他方の電極を順に形成した、いわゆる支持膜式(例えば、特許文献2参照)などがある。
【0004】
しかしながら、上記自立膜式または支持膜式の固体酸化物形燃料電池は、それぞれ、支持体として使用される電解質や燃料極、空気極の強度が十分でなく割れやすいという問題がある。そこで、支持体として金属基板を使用し、自立膜式あるいは支持膜式の燃料電池と、金属基板とを溶着層を介して接合した、いわゆる溶着式の金属支持型の燃料電池(例えば、特許文献3、4)も提案されている。
【0005】
ところで、特許文献3,4で開示されているような溶着式の燃料電池では、自立した金属基板と自立した燃料電池とを接着するため、厚みが厚くなり抵抗成分の増加や材料コストの増加といった問題がある。そこで、自立した金属基板を支持体とし、その上に電池要素を印刷法などにより薄膜で積層した薄膜型の金属支持型の燃料電池(例えば、特許文献5)が提案されている。
【0006】
しかしながら、このような燃料電池では、金属基板上に直接電池要素を配置するため、電池要素へのガス拡散性が、減少し性能が低下するという問題がある。そこで、多孔質の金属基板上にガス拡散用の金属層を配置することで、2層の金属を支持体とした金属支持型の燃料電池(例えば、特許文献6)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−055194号公報
【特許文献2】特開2006−253071号公報
【特許文献3】国際特許公報03/092046号
【特許文献4】特開2009−99562号公報
【特許文献5】特表2004−51265号公報
【特許文献6】特開2005−251562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献6の燃料電池は、ガス透過可能な金属層を電気めっきにより形成する手法であるため、ガスの透過性向上を目的として金属基板の気孔径大きくするとガス拡散用の金属層を平滑に形成することが困難であり、金属基板の気孔径に制限があった。また、電気めっきという製法から、ガス拡散用の金属層の気孔率を制御することは難しいといった問題があった。
そこで、本発明は、ガス拡散性を向上させる固体酸化物形燃料電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる固体酸化物形燃料電池は、ガス透過可能な金属で形成された支持基板と、前記支持基板上に配置され、多孔質の金属で形成された中間部材と、前記中間部材上に配置される燃料極と、前記燃料極上に配置される電解質と、前記電解質上に配置される空気極と、を備え、前記燃料極、電解質、及び空気極の総厚が、100μm以下であり、かつ前記電解質の膜厚よりも前記燃料極及び空気極の厚さが大きいことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、ガス透過性の支持基板と燃料極との間に、多孔質の中間部材を配置しているため、支持基板を通過して燃料極へ至るガスのガス拡散性を向上することができる。その結果、電池性能を向上することができる。特に、本発明においては、メッキ、溶着材などの支持基板へ塗布した上で用いる材料ではなく、単体の中間部材を用いているため、支持基板のガス流路に依存することなく、中間部材の気孔を決めることができる。そのため、ガス拡散性を大きくすることができる。
【0011】
上記燃料電池においては、支持基板に、中間部材の気孔の径よりも大きい径のガス流路を複数形成することができる。これにより、支持基板から燃料極に至るガス流路の気孔径に傾斜が設けられ、ガス拡散性をさらに向上することができる。
【0012】
ここで、支持基板は、緻密な材料に複数の貫通孔を形成することで形成することができ、これら貫通孔を上述したガス流路とすることができる。このように支持基板として緻密な材料を用いると、電池の機械的強度を向上することができる。
【0013】
上記中間部材の気孔率は30〜80%とすることができるが好ましく、45〜70%であることがさらに好ましい。また、気孔径は、例えば、0.05〜100μmとすることが好ましく、0.1〜30μmとすることがさらに好ましい。気孔率(さらには、気孔径)をこの範囲にすることで、良好なガス拡散性を得ることができる。また、この範囲であれば、中間部材上に配置する燃料極を印刷法によって形成する場合、燃料極用材料が気孔に過度に入り込む虞もないので、表面に凹凸の少ない平滑な燃料極を形成することができる。
【0014】
上記支持基板のガス流路の径は、例えば、50〜500μmとすることができる。これにより、支持基板の機械的強度を維持しつつ、ガスの流通量を確保することができる。
【0015】
また、上記支持基板と中間部材は共通の材料を含んでいることが好ましい。このように支持基板と中間部材とに共通の材料を含ませることによって、接合時の密着性を向上させることができる。さらに、両部材の熱膨張率の差を小さくすることができるため、両者を接合したときの反りや割れの発生を防止することができる。そして、具体的な熱膨張率としては、両材料の熱膨張率の差が20%以内の材料を選択することが好ましい。これにより、発電時の熱負荷にも耐えることができる。また、支持基板及び中間部材に含ませる共通の材料としてCrを挙げることができる。このCr元素の含有量の増加に伴い材料の耐熱性が向上する。Cr元素を含有する金属としては、例えば、マルテンサイト系、フェライト系、2相系、オーステナイト系などのステンレスなどがある。特に、耐熱性の観点からCr元素を16〜22%含有する金属がよく、その中でも加工性、耐食性などの観点からフェライト系のステンレスがさらに好ましい。
【0016】
また、上記中間部材は、電極活性を有する材料を含んだものとすることができる。この電極活性を有する材料としては、Cuや,Ni、Ru、Ag等を挙げることができ、これらを単独若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、この電極活性を有する材料に対してFe、Cr、Al、Mn、Mo、Nbなどを組合せて使用しても構わない。このような中間部材としては、Ni−Fe系合金を挙げることができる。上記中間部材は、電極活性を有するため、セルの強度を向上させるとともに、三相界面の増大によりセルの性能を向上させることができる。また、支持基板をSUSで形成し、中間部材をNi−Fe系合金で形成した場合、支持基板と中間部材との熱膨張率の差が小さいため、セル破損や、剥がれなどを抑制することができる。また、中間部材Ni−Fe系合金と上記支持基板とを混合し、多層化することで、支持基板と中間部材との熱膨張差を制御することも可能となる。
【0017】
上記支持基板と中間部材とは、種々の方法で接合できるが、例えば、支持基板と中間部材とを接合材を介して接合したり、中間部材用のグリーンシートを支持基板上に積層し、この積層体を加熱して焼結することにより中間部材を支持基板に接合することができる。なお、接合材としては、耐熱性と導電性があれば問題なく、例えばAg、NiやAuなどの金属接合剤を挙げることができる。また、その他にも拡散接合により支持基板と中間部材とを接合することができる。拡散接合を用いると、低温での接合が可能であり、また材料の変形を小さくすることができる。
【0018】
また、上記中間部材は、融点を1300℃以上のものとすることで、中間部材上に形成する各電極や電解質の材料選択の幅が大きくなり、種々の材料を選択することができる。
【0019】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法は、ガス透過可能な金属からなる支持基板を準備するステップと、前記金属基板上に配置され、金属で形成された多孔質からなる中間部材を準備するステップと、前記支持基板と中間部材とを拡散接合するステップと、前記中間部材上に燃料極を形成するステップと、前記燃料極上に電解質を形成するステップと、前記電解質上に空気極を形成するステップと、を備えている。
【0020】
この方法によれば、支持基板と中間部材とを拡散接合により接合しているため、低温での接合が可能となり、さらに材料の変形を小さくすることができる。これにより、中間部材の気孔がつぶれるのを防止することができ、所望の気孔率を維持することができる。
【0021】
また、本発明においては、支持基板と中間部材によって電池全体の強度が確保されるため、燃料極、電解質、及び空気極の総厚を、100μm以下であり、かつ電解質の膜厚よりも各電極の厚さを大きくすることができる。すなわち、薄膜型の電池要素を形成することができる。なお、電解質の膜厚は、電池性能および耐久性の観点から0.1〜10μm程度とすることが好ましい。電解質の膜厚が、0.1μm以上とすることで運転中の破損を防止することができ、10μm以下とすることで性能の低下を防止することができる。また燃料極や空気極の厚さは10〜60μm程度とすることが好ましい。各電極の厚さを10μm以上とすることで三層界面積が小さくなって性能が低下してしまうことを防止することができ、また60μm以下とすることで電極中の電子伝導が小さくなって性能が低下してしまうことを防止することができる。これらより、電解質の膜厚よりも各電極の厚さが大きいほうが好ましい。また、このような薄膜型の電池要素を形成する方法としては、例えば、燃料極、電解質、及び空気極を、スクリーン印刷法により形成することができる。
【0022】
さらに、上記燃料電池の製造方法においては、支持基板に、中間部材の気孔の径よりも大きい径のガス流路が複数形成することができる。これにより、支持基板から燃料極に至るガス流路の気孔径に傾斜が設けられ、ガス拡散性をさらに向上することができる。
【0023】
ここで、支持基板は、緻密な材料に複数の貫通孔を形成することで形成することができ、これら貫通孔を上述したガス流路とすることができる。このように支持基板として緻密な材料を用いると、電池の機械的強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ガス拡散性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る固体酸化物形燃料電池の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の断面図であり、図2は、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の平面図である。
【0027】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池は、平面視円形に形成され、ガス透過性を有する支持基板1上に、多孔質性を有する中間部材2が配置されている。そして、中間部材2上には、電池要素である燃料極3、電解質4、及び空気極5がこの順で配置されている。
【0028】
次に、上記燃料電池を構成する材料について説明する。まず、支持基板1は、電気伝導性を有する材料で形成することができ、これを集電部材として使用することができる。この支持基板1として、例えば、ステンレス鋼を使用したり、FeやCrを含有する金属を使用したりすることができる。また、その他にも、支持基板1の材質として、Ni,Cu、Ag、Fe、Crを挙げることができ、これらを単独若しくは2種以上組み合わせて使用することができる。具体的な製品としては、例えば、インコネル(登録商標)を用いることができる。Crを用いる場合、耐食性を向上させ電子伝導性を維持するために、支持基板1に16〜22%のCrを含有させることが好ましい。また、支持基板1はガス透過性を有するものであるが、このようなガス透過性を付与するために、例えば、発泡金属等の金属焼結体を用いたり、ケミカルエッチングがなされた材料、あるいは緻密な材料に対してレーザーなどでパンチングした材料などを使用できる。特に、加工性と機械的強度の観点から、エッチング基板を用いることが好ましい。図1では、緻密な材料に貫通孔11を形成した例を示している。また、支持基板1は、上面、下面の少なくとも一方をほぼ平滑とすることが好ましい。これにより、例えば、薄型の機能層などを良好な密着性で被覆できる。なお、支持基板1の厚みは50〜500μmとすることが好ましく、全体のコンパクト化の観点から100〜300μmとすることがさらに好ましい。
【0029】
支持基板1のガス透過性を確保するためには、例えば、50〜500μmの径を有するガス流路を有することが好ましい。ガス流路は、上述したパンチングなどによる貫通孔11で形成することもできるし、発泡金属の気孔とすることもできる。このとき、機械強度とガス拡散性を合わせもつため、気孔率は30〜60%とすることが好ましい。気孔率の測定方法としては、液体中の支持基板1の体積V、支持基板の密度ρ、また空気中での支持基板1の重さWまたは液体中での支持基板の重さW'から算出するアルキメデス法を用いることができる。この方法は、以下の材料における気孔率の測定にも同様に適用することができる。
【0030】
次に、中間部材2について説明する。中間部材2は、多孔質の金属で形成されており、電気伝導性を有する集電としての役割と、ガス拡散性を向上させる役割を有する。この目的のため、例えば、中間部材2として、ステンレス鋼を使用したり、FeやCrを含有する金属を使用したりすることができる。具体的な製品としては、例えば、インコネル(登録商標)を用いることができる。Crを用いる場合、耐食性を向上させ電子伝導性を維持するために、中間部材2に16〜22%にCrを含有させることが好ましい。また、電極活性を有する材料で中間部材2を構成することもできる。電極活性を有する材料としては、Cuや,Ni、Ru、Ag 等を挙げることができ、これらを単独若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、この電極活性を有する材料に対してFe、Cr、Al、Mn、Mo、Nbなどと材料を組合せて使用しても構わない。このような中間部材として、Ni−Fe系合金を挙げることができる。なお、Ni−Fe系合金の場合、Feの含有量は5〜60%程度とすることが好ましい。また、ガス拡散の観点からは、例えば、発泡金属等の金属焼結体、メッシュ体、ウール、繊維などを使用できる。
【0031】
また、中間部材2は、上面、下面の少なくとも一方をほぼ平滑とすることが好ましい。具体的には、中間部材2の上面における気孔の開口は、燃料極3を一般的な手法で形成する際に、燃料極用の材料が中間部材2の厚みに対して50%以上入り込まない大きさであることがさらに好ましい。ここでいう一般的な燃料極形成法としては、例えば、スクリーン印刷、スプレー熱分解、ディッピングなどのウェットな手法や蒸着法、イオンプレーティング、スパッタ法、エアロゾルデポジションなどの気相法、グリーンシートのプレスなどを挙げることができる。なお、燃料極の形成方法としては、これ以外の方法を用いることも可能である。これにより、例えば、薄型の機能層などを良好な密着性で被覆できる。また、中間部材2の厚みは、10〜400μmであることが好ましく、機械的強度と良好なガス拡散性を得るために、50〜200μmとすることがさらに好ましい。なお、中間部材2は融点が約1300℃以上である多孔質の金属で形成することができ、これにより以下の利点がある。すなわち、中間部材上に配置される電極及び電解質は種々の方法で形成でき、例えば、印刷、焼成といったプロセスを採用する場合、或いは、電極−電解質の共焼結プロセスを採用する場合、中間部材へは大きい熱負荷が作用する。ここで、中間部材の融点を1300℃以上とすることによって、電極及び電解質を形成する際の熱負荷に耐えることができる。したがって、電極及び電解質の材料選択の幅が大きくなり、種々の材料を選択することができる。
【0032】
さらに中間部材2における気孔径は、支持基板1に形成されるガス流路の径よりも小さいことが好ましい。例えば、ガス拡散性、及び良好な燃料極の形成の観点から、0.1〜30μmとすることが好ましい。また、中間部材2の気孔率は、10〜90%とすることが好ましいが、ガス拡散性を向上すること、及び燃料極の形成し易さの観点から、60〜80%とすることがさらに好ましい。なお、中間部材2の気孔径や気孔率は、上記金属焼結体等の製造において、公知の方法により適宜調整することが可能である。
続いて、燃料極3及び空気極5について説明する。燃料極3及び空気極5は、セラミックス粉末材料により形成することができる。このとき用いられる粉末の平均粒径は、好ましくは10nm〜100μmであり、さらに好ましくは50nm〜50μmであり、特に好ましくは100nm〜10μmである。なお、平均粒径は、例えば、JISZ8901にしたがって計測することができる。
【0033】
燃料極3は、例えば、金属触媒と酸化物イオン導電体からなるセラミックス粉末材料との混合物を用いることができる。このとき用いられる金属触媒としては、ニッケル、鉄、コバルトや、還元性雰囲気中で安定しており且つ水素酸化活性を有する材料を用いることができる。また、酸化物イオン導電体としては、蛍石型構造又はペロブスカイト型構造を有するものを好ましく用いることができる。蛍石型構造を有するものとしては、例えばサマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物などを挙げることができる。また、ペロブスカイト型構造を有するものとしてはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物を挙げることができる。上記材料の中では、酸化物イオン導電体とニッケルとの混合物で、燃料極を形成することが好ましい。なお、酸化物イオン導電体からなるセラミックス材料とニッケルとの混合形態は、物理的な混合形態であってもよいし、ニッケルへの粉末修飾またはセラミックス材料へのニッケル修飾などの形態であってもよい。また、上述したセラミックス材料は、1種類を単独で、或いは2種類以上を混合して使用することができる。また、燃料極3は、金属触媒を単体で用いて構成することもできる。
【0034】
空気極5は、例えば、電子と酸化物イオンの混合導電体からなるセラミックス粉末材料を用いることができる。電子と酸化物イオンの混合導電体として例えば、ペロブスカイト型構造等を有するCo,Fe,Ni,Cr又はMn等からなる金属酸化物を用いることができる。具体的には(Sm,Sr)CoO,(La,Sr)MnO,(La,Sr)CoO,(La,Sr)(Fe,Co)O,(La,Sr)(Fe,Co,Ni)Oなどの酸化物が挙げられる。
【0035】
続いて、電解質4について説明する。電解質4は、酸化物イオン導電体からなるセラミックス粉末材料を用いることができる。酸化物イオン導電体としては、蛍石型構造、ペロブスカイト型構造、又はアパタイト構造を有するものを好ましく用いることができる。蛍石型構造を有するものとしては、例えばサマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物などを挙げることができる。また、ペロブスカイト型構造を有するものとしてはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物を挙げることができる。さらに、アパタイト構造を有するものとしては、例えばランタンやケイ素を骨格としたランタンシリケート系酸化物などを挙げることができる。
【0036】
燃料極3、電解質4、空気極5の厚みは、それぞれ1〜100μmであることが好ましい。特に、燃料極3と空気極5の厚みは、良好な三相界面を得るために10〜60μmが好ましく、電解質4は高い酸素イオン伝導を得るために0.1〜10μmとすることが好ましい。このような観点から、高い性能を得るために燃料極3、電解質4、空気極5からなる電池要素の総厚は100μm以下となることが好ましく、また、電解質4の膜厚よりも各電極3,4の厚さが大きいことが好ましい。
【0037】
次に、上述した固体酸化物形燃料電池の製造方法について説明する。支持基板1と中間部材2とは、種々の方法で接合できるが、例えば、拡散接合を用いて接合することが可能である。拡散接合とは、接合材料同士を加熱・加圧し、原子の拡散を利用して接合する技術であり、例えば、溶接学会誌第36巻(1967)第12号1266-1275に詳しい。拡散接合を用いることで、接合材料の表面を溶解せずに接合できるので、低温による接合が可能になる。また、拡散接合を用いると、変形を少なくできるので中間部材2が気孔率を維持したまま接合することができる。
【0038】
中間部材2の上面には、燃料極3、電解質4、空気極5がこの順に形成されるが、これらは種々の方法で形成することができる。上述したように、これらの合計の厚さは100μm以下とすることが好ましいが、そのための形成方法としては、例えば、ウエットコーティング法を挙げることができる。ウエットコーティング法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコ−ト法、ディップコート法等が例示できる。その際、燃料極3及び空気極5は、ペースト状にする必要があり、上述した材料を主成分として、さらにバインダー樹脂、造孔材及び有機溶媒などが適量加えられることにより形成される。より詳細には、上記主成分とバインダー樹脂との混合において、上記主成分が50〜95重量%となるように、バインダー樹脂等を加えることが好ましい。
【0039】
電解質4は、緻密なセラミックス層であるが、燃料極3の上に種々の方法で形成することができる。例えば、スプレーコート法や電気泳動法、スクリーン印刷法、パルスレーザーデポジション(PLD)など形成することが可能である。
【0040】
このようにして形成された燃料極3、電解質4、及び空気極5は1100℃以下の酸化あるいは還元雰囲気で焼成する。こうして燃料電池が完成する。
【0041】
上記固体酸化物形燃料電池においては、次のように発電が行われる。まず、水素またはメタンなどの炭化水素系ガスからなる燃料ガスを支持基板1の下面から電池要素に向けて供給する。これと同時に、空気などの酸化剤ガスを電池要素の上面、つまり空気極に向けて供給する。支持基板1の下面から供給された燃料ガスは、支持基板1のガス流路から中間部材2に入る。そして、燃料ガスは、中間部材2内で面方向に拡散し、燃料極3と接触する。こうして、燃料極3及び空気極5がそれぞれ燃料ガス及び酸化剤ガスと接触するため、燃料極3と空気極5との間で、電解質4を介した酸素イオン伝導が起こり、発電が行われる。この場合、燃料ガスと酸化剤ガスが混ざらないように、それぞれのガスの流路を設けておく必要がある。但し、この燃料電池は、燃料ガスと酸化剤ガスとの混合ガスを供給する単室型として用いることもできる。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、支持基板1と燃料極3との間に、多孔質の中間部材2を配置しているため、支持基板1を通過して燃料極3へ至るガスのガス拡散性を向上することができる。その結果、燃料ガスが燃料極3と広い面積で接触するため、電池性能を向上することができる。特に、本実施形態においては、メッキ、溶着材などの支持基板へ塗布した上で用いる材料ではなく、単体の中間部材を用いているため、支持基板の気孔に依存することなく、ガス拡散性の高い材料を選択することができる。
【0043】
また、メッキにより支持基板1上にガス拡散層を形成した場合、一般的に支持基板の気孔上には材料を形成することができない。したがって、メッキを用いた場合のガス拡散層は、支持基板1の気孔に依存してガスの流路が形成される。よって、支持基板1の気孔を小さくしなければガス拡散層を平滑に形成することができず、これによって、燃料極3の形成に影響を与える。これを防止するため、支持基板の気孔を小さくすることもできるが、このようにすると、ガス拡散層の気孔も小さくなり、気孔率が小さくなる。その結果、ガス拡散性が小さくなる。これに対して、本実施形態では、多孔質の中間部材2を単体で準備するため、中間部材2の気孔は、支持基板1の気孔には影響を受けないという利点がある。このため、支持基板1と中間部材2との気孔率を相違させることができ、ガス拡散性に傾斜を持たせることができる。また、中間部材2において、上述した気孔径を採用する限り、その上に形成される燃料極3の平滑性を保つことができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、電池の平面形状は、円形以外でも、矩形、多角形、楕円など種々の形態が可能である。
【0045】
また、上記実施形態では、支持基板1と中間部材2とを拡散接合によって接合しているが、これ以外の方法を採用することも可能であり、例えば、Ag、Ni、Auなどの金属接合材を用いて支持基板1と中間部材2とを接合したり、支持基板1上に中間部材2のグリーンシートを積層し、これを加熱して焼結することで支持基板1上に接合した状態の中間部材2を形成することもできる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例には限定されない。以下では、3つの実施例と、1つの比較例について検討する。
(実施例1)
実施例1として、図1に示すような固体酸化物形燃料電池を作製した。以下、その手順を示す。まず、燃料極用の材料としてNiO粉末(平均粒径1μm)と、GDC(Gd0.1Ce0.9)粉末(平均粒径1μm)とを、重量比で7:3となるように混合し、混合物を作製した。その後、この混合物にセルロース系バインダー樹脂を添加して、上記混合物の割合が80重量%となるように燃料極ペーストを作製した。つまり、上記混合物と、バインダー樹脂との重量比が80:20となるようにした。燃料極ペーストの粘度はスクリーン印刷に適した5×105mPa・sとした。
【0047】
次に、電解質用の材料としてLa0.9Sr0.1Ga0.8Mn0.2O3-δ(LSGM)粉末(平均粒径
1μm)を使用し、PLD法に用いるためのターゲットとしてLSGMペレットを作製し
た。
【0048】
続いて、空気極用の材料としてLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末(平均粒径0.5μm)に、セルロース系バインダー樹脂を添加して、上記粉末の割合が80重量%となるように空気極ペーストを作製した。つまり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末と、バインダー樹脂との重量比が80:20となるようにした。空気極ペーストの粘度は、燃料極と同様にスクリーン印刷に適した5×105mPa・s
とした。
【0049】
支持基板1として、SUS430で形成され、厚さ0.3mmであるエッチングボードを準備した。このエッチングボードに、フォトエッチングによりφ0.3mmの貫通孔を約0.2mm間隔で均等間隔に形成した。次いで、中間部材として、SUS430で形成された厚さ0.1mmで気孔の径が約20μmで気孔率が60%の発泡金属を準備した。この中間部材は、金属粉末の焼結より形成した。そして、1000℃の還元雰囲気にて、プレスにより支持基板と中間部材を拡散接合した。その後、これを直径13mmの大きさの円形に切り出した。
【0050】
次に、中間部材の上に、上述した燃料極ペーストをスクリーン印刷法により塗布厚み20μmとなるように印刷した。そして、130℃で15分間乾燥後、1050℃で1時間、還元雰囲気で焼結することで、燃料極を形成した。なお、燃料極ペーストは直径11mmの円形に塗布した。続いて、電解質としてLSGMを、KrFエキシマレーザーにより、レーザー出力180mJ/pulse、レーザーパルス振動10Hz、基板温度1073K、
基板−ターゲット距離50mmの条件で燃料極上に形成した。なお、電解質は直径12mmの円形であり、膜厚は5μmである。これに続いて、電解質の上面に燃料極と同様の塗布面積(直径11mmの円形)で上述した空気極ペーストをスクリーン印刷法により塗布し厚み20μmとなるように印刷した。そして、130℃で15分間乾燥し、1000℃で1時間焼結することで空気極を形成した。こうして、実施例1に係る燃料電池を作製した。
【0051】
(実施例2)
実施例1との相違点として、まず、気孔率が30%である中間部材を使用した。中間部材は、気孔率のみが実施例1と相違し、その他の材料、気孔径などは同じである。これを実施例1と同様の方法で支持基板と拡散接合した。その後、実施例1と同様の方法で燃料極、電解質、空気極を形成することで実施例2に係る燃料電池を作製した。
【0052】
(実施例3)
実施例1との相違点として、まず、気孔率が80%である中間部材を使用した。中間部材は、気孔率のみが実施例1と相違し、その他の材料、気孔径などは同じである。これを実施例1と同様の方法で支持基板と拡散接合した。その後、実施例1と同様の方法で燃料極、電解質、空気極を形成することで実施例3に係る燃料電池を作製した。
【0053】
(実施例4〜6)
実施例1との相違点として、燃料極の膜厚が異なるセルを作製した。具体的には、燃料極の厚みが、10μm(実施例4)、40μm(実施例5)、60μm(実施例6)となるように上述したスクリーン印刷法により作製した。その後、実施例1と同様の方法で、電解質、空気極を形成することで実施例4〜6に係る燃料電池を作製した。
(実施例7〜9)
実施例1との相違点として、空気極の膜厚が異なるセルを作製した。実施例1と同様の方法で、燃料極、電解質を形成し、その後、空気極の厚みが、10μm(実施例7)、40μm(実施例8)、60μm(実施例9)となるように上述したスクリーン印刷法により形成することで実施例7〜9に係る燃料電池を作製した。
(実施例10)
実施例1との相違点として、Ni−Fe(質量比9:1)である中間部材を使用した。なお、中間部材の厚さや気孔径などは実施例1と同じである。形成された厚さ0.1mmで気孔の径が約20μmで気孔率が60%の発泡金属を準備した。これを実施例1と同様の方法で支持基板と拡散接合した。その後、実施例1と同様の方法で燃料極、電解質、空気極を形成することで実施例10に係る燃料電池を作製した。
【0054】
(比較例1)
比較例1として、実施例と同じ支持基板を用い、めっき法により、実施例1と同じ厚みで中間層を形成したところ、支持基板の貫通孔以外の場所に気孔径3μm、気孔率10%の中間層が形成された。すなわち、中間層には、上記気孔に加え、支持基板の貫通孔と連続する穴が形成されている。しかしながら、その後、実施例1と同様の方法でこの中間上に燃料極を形成しようとしたが、穴へ燃料極ペーストが落ちてしまい燃料極を形成することできなかった。
【0055】
(比較例2)
実施例1との相違点として、燃料極の膜厚を変更して、燃料極、電解質、及び空気極の総厚が100μmを超えるセルを作製した。なお、燃料極の厚みが80μmとなるように上述したスクリーン印刷法により作製した。その後、実施例1と同様の方法で、電解質、空気極を形成することで比較例2に係る燃料電池を作製した。
【0056】
(比較例3)
実施例1との相違点として、空気極の膜厚を変更して、燃料極、電解質、及び空気極の総厚が100μmを超えるセルを作製した。実施例1と同様の方法で、燃料極、電解質を形成した。その後空気極の厚みが80μmとなるように上述したスクリーン印刷法により作製することで比較例3に係る燃料電池を作製した。
【0057】
(電池評価)
上記実施例1〜10および比較例2〜3で作製した燃料電池について、水素30mlと空気60mlをそれぞれ分離して流し、約600℃における、性能評価を行った。その結果を以下の表1に示す。なお、比較例1は、作製できなかったため、評価していない。
【0058】
【表1】

【0059】
上記結果が示すように、各電極の膜厚が10〜60μmであったほうが高い性能が得られ、電極の膜厚が電解質の膜厚以下、かつ燃料極、電解質、空気極の総厚が100μmを超えると性能が大きく低下してしまった。また、中間部材としてNi-Feを用いた場合、SUS430を用いた実施例1よりも性能が高くなった。
【符号の説明】
【0060】
1 支持基板
2 中間部材
3 燃料極
4 電解質
5 空気極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス透過可能な金属で形成された支持基板と、
前記支持基板上に配置され、多孔質の金属で形成された中間部材と、
前記中間部材上に配置される燃料極と、
前記燃料極上に配置される電解質と、
前記電解質上に配置される空気極と、
を備え、
前記燃料極、電解質、及び空気極の総厚が、100μm以下であり、かつ前記電解質の膜厚よりも前記燃料極及び空気極の厚さが大きい、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記支持基板には、前記中間部材の気孔の径よりも大きい径のガス流路が複数形成されている、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記支持基板は、緻密な材料に複数の貫通孔を形成することで形成され、当該貫通孔が前記ガス流路を構成する、請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記中間部材の気孔率が30〜80%である、請求項1から3のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
前記支持基板のガス流路の径が50〜500μmである、請求項2から4のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
前記支持基板及び中間部材は、Crを含有する、請求項1から5のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
前記支持基板または前記中間部材の少なくとも一方は、Ni−Fe系合金で形成される、請求項1から5のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
前記支持基板と中間部材とは、拡散接合により接合されている、請求項1から7のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項9】
ガス透過可能な金属からなる支持基板を準備するステップと、
前記金属基板上に配置され、金属で形成された多孔質からなる中間部材を準備するステップと、
前記支持基板と中間部材とを拡散接合するステップと、
前記中間部材上に燃料極を形成するステップと、
前記燃料極上に電解質を形成するステップと、
前記電解質上に空気極を形成するステップと、
を備えている、固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記燃料極、電解質、及び空気極の総厚が、100μm以下であり、かつ電解質の膜厚よりも各電極の厚さが大きい、請求項9に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項11】
前記燃料極、電解質、及び空気極は、印刷により形成されている、請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項12】
前記支持基板には、前記中間部材の気孔の径よりも大きい径の複数のガス流路が形成される、請求項9から11のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項13】
前記支持基板は、緻密な材料に複数の貫通孔を形成することで形成され、当該貫通孔が前記ガス流路を形成する、請求項12に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−228280(P2011−228280A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66177(P2011−66177)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】