説明

固体酸化物形燃料電池用電極、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形燃料電池用電極の製造方法および固体酸化物形燃料電池の製造方法

【課題】優れた耐久性と電極性能とを兼ね備えた固体酸化物形燃料電池用電極、その電極を用いた固体酸化物形燃料電池、その電極の製造方法およびその電極を用いた固体酸化物形燃料電池の製造方法を提供する。
【解決手段】緻密層と緻密層上に設けられた多孔質層とを備え、緻密層の厚さは10μm以下であり、多孔質層の厚さは5μm以上である固体酸化物形燃料電池用電極、その電極を用いた固体酸化物形燃料電池、その電極の製造方法およびその電極を用いた固体酸化物形燃料電池の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用電極、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形燃料電池用電極の製造方法および固体酸化物形燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題および資源問題などに起因して、クリーンなエネルギ源が求められている。そのようなエネルギ源としては、たとえば燃料電池が期待されている。燃料電池は、燃料を電気化学的に酸化することによって、燃焼によって生じるはずのエネルギを熱エネルギとしてではなく電気エネルギとして取り出すことに特徴がある。
【0003】
このような燃料電池の中でも固体酸化物形燃料電池は、約1000℃という極めて高温で作動させるものであるため、たとえば排熱を有効利用できるなどの利点を有している。
【0004】
図9に、たとえば特許文献1等に示される従来の固体酸化物形燃料電池の一例の模式的な構成図を示す。ここで、固体酸化物形燃料電池11は、酸化物イオン伝導体である電解質12の両側にそれぞれ酸素極13および燃料極14を配置してなる構造を有している。そして、酸素極13側に酸素または空気を導入し、燃料極14側に水素ガスを導入して、約1000℃の雰囲気中で固体酸化物形燃料電池11を作動させる。すると、酸素極13では(1/2)O2+2e-→O2-の反応によって酸化物イオン(O2-)が生じ、酸化物イオン(O2-)は電解質12を伝導して燃料極14に向かって移動する。そして、酸化物イオン(O2-)が燃料極14に到達すると、H2+O2-→H2O+2e-の反応によって電子(e-)が放出されて水(H2O)が生じ、電子(e-)は外部回路を通って酸素極13に流れる。
【0005】
近年では、低温で作動する固体酸化物形燃料電池の開発も盛んに行われている。低温で固体酸化物形燃料電池を作動させるためには、酸化物イオンが伝導する電解質を薄く形成する必要がある。
【0006】
薄膜の電解質を形成する方法としては、パルスレーザ蒸着法(PLD;Pulse Laser Deposition)法が注目されている(たとえば特許文献1および特許文献2参照)。これは、PLD法によれば、1000℃以下の低温で緻密な薄膜の電解質を形成することができるだけでなく、電極材料と電解質材料との反応を抑制することができることを理由とするものである。
【0007】
たとえば特許文献3には、PLD法で電解質に電極を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−301797号公報
【特許文献2】特開2008−10411号公報
【特許文献3】特開2008−4443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、PLD法で薄膜の電解質を形成した場合には、電極材料と電解質材料との反応を抑制するために電極を低温で焼き付けてもうまく焼き付けることができなかった。そのため、電極が電解質から非常に剥離しやすく、電極の耐久性に問題があった。
【0010】
また、PLD法で電解質に電極を形成した場合には、十分な電極性能が得られないという問題があった。
【0011】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、優れた耐久性と電極性能とを兼ね備えた固体酸化物形燃料電池用電極、その電極を用いた固体酸化物形燃料電池、その固体酸化物形燃料電池用電極の製造方法およびその電極を用いた固体酸化物形燃料電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、緻密層と、緻密層上に設けられた多孔質層と、を備え、緻密層の厚さは10μm以下であり、多孔質層の厚さは5μm以上である固体酸化物形燃料電池用電極である。
【0013】
ここで、本発明の固体酸化物形燃料電池用電極においては、緻密層および多孔質層がそれぞれ電子−イオン混合伝導性を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池用電極においては、緻密層および多孔質層がそれぞれ同じ材質からなることが好ましい。
【0015】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池用電極においては、緻密層および多孔質層がそれぞれSm1-xSrxCoO3-d(0.2<x<0.8)の式で表わされる材質からなることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記の固体酸化物形燃料電池用電極を備えた固体酸化物形燃料電池である。
【0017】
ここで、本発明の固体酸化物形燃料電池は、400℃以上900℃以下の雰囲気中で作動することが好ましい。
【0018】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物形燃料電池用電極に接する電解質をさらに備え、電解質は、La1-sSrsGa1-tMgt3-d(0.05<s<0.25、0.05<t<0.25)の式で表わされる材質からなることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、上記のいずれかの固体酸化物形燃料電池用電極を製造する方法であって、緻密層をパルスレーザ蒸着法により堆積する工程を含む固体酸化物形燃料電池用電極の製造方法である。
【0020】
ここで、本発明の固体酸化物形燃料電池用電極の製造方法は、緻密層上に多孔質層前駆体をスクリーン印刷する工程と、スクリーン印刷後の多孔質層前駆体を焼成することによって多孔質層を形成する工程と、を含むことが好ましい。
【0021】
さらに、本発明は、基板上に電解質をパルスレーザ蒸着法により堆積する工程と、電解質上に厚さ10μm以下の緻密層をパルスレーザ蒸着法により堆積する工程と、緻密層上に厚さ5μm以上の多孔質層前駆体をスクリーン印刷する工程と、多孔質層前駆体を焼成することによって多孔質層を形成する工程と、を含む、固体酸化物形燃料電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、優れた耐久性と電極性能とを兼ね備えた固体酸化物形燃料電池用電極、その電極を用いた固体酸化物形燃料電池、その固体酸化物形燃料電池用電極の製造方法およびその電極を用いた固体酸化物形燃料電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の固体酸化物形燃料電池の一例の模式的な断面図である。
【図2】(a)〜(e)は、図1に示す固体酸化物形燃料電池の製造方法の一例を図解する模式的な断面図である。
【図3】比較例1のセルの電流密度(A/cm2)、電圧(V)および電力密度(W/cm2)の関係を示す図である。
【図4】熱サイクル試験後における比較例1のセルの内部抵抗をそれぞれの成分に分解した図である。
【図5】比較例2のセルの酸素極のSEMによる表面観察結果である。
【図6】比較例2のセルの酸素極のSEMによる断面観察結果である。
【図7】実施例のセルの電流密度(A/cm2)、電圧(V)および電力密度(W/cm2)の関係を示す図である。
【図8】実施例のセルの熱サイクル試験結果を示す図である。
【図9】従来の固体酸化物形燃料電池の一例の模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0025】
図1に、本発明の固体酸化物形燃料電池の一例の模式的な断面図を示す。図1に示すように、固体酸化物形燃料電池は、燃料極1と、燃料極1上に設けられた反応抑制層2と、反応抑制層2上に設けられた電解質3と、電解質3上に設けられた緻密層4と、緻密層4上に設けられた多孔質層5と、を備えている。緻密層4と多孔質層5との積層体から酸素極6(固体酸化物形燃料電池用電極)が構成されている。
【0026】
ここで、緻密層4の相対密度は96%以上であり、多孔質層5の相対密度は50%以下である。
【0027】
緻密層4の厚さT1は10μm以下であり、多孔質層5の厚さT2は5μm以上であるが、緻密層4の厚さT1と多孔質層5の厚さT2との間にはT2>T1の関係があることが好ましい。緻密層4の厚さT1と多孔質層5の厚さT2との間にT2>T1の関係がある場合には、緻密層4によって電解質3と多孔質層5との密着性を保持しつつ、多孔質層5によって電極の反応面積を大きく確保して酸素極6の十分な電極性能を発現させることができる。
【0028】
緻密層4および多孔質層5はそれぞれ電子−イオン混合伝導性を有する材質からなることが好ましい。緻密層4および多孔質層5がそれぞれ電子−イオン混合伝導性を有する材質からなる場合には、多孔質層5に電子が供給されて起こる電極反応によって生じた酸化物イオンなどのイオンを緻密層4を通して電解質3に供給することができる。
【0029】
緻密層4および多孔質層5はそれぞれ同じ材質からなることがより好ましい。緻密層4および多孔質層5がそれぞれ同じ材質からなる場合には、酸素極6の製造効率を向上させることができる。
【0030】
緻密層4および多孔質層5はそれぞれ以下の組成式(I)で表わされる材質(SSC)からなることがさらに好ましい。SSCは電子−イオン混合伝導性を有する材質であり、緻密層4および多孔質層5にSSCを用いた場合には、酸素極6の電極性能が高くなって固体酸化物形燃料電池の特性が向上する傾向にある。
【0031】
Sm1-xSrxCoO3-d(0.2<x<0.8) …(I)
上記の組成式(I)において、Smはサマリウムを示し、Srはストロンチウムを示し、Coはコバルトを示し、Oは酸素を示す。1−xはSmの原子比を示し、xはSrの原子比を示し、3−dはOの原子比を示す。
【0032】
また、上記の組成式(I)において、xが0.2<x<0.8の関係を満たす実数である場合には、酸素極6の電極性能が高くなって固体酸化物形燃料電池の特性が向上する傾向にある。
【0033】
電解質3は、酸素極6における電極反応によって生成した酸化物イオンなどのイオンを伝導できる材質からなるものであれば特に限定されないが、なかでも以下の組成式(II)で表わされる材質(LSGM)からなることが好ましい。
【0034】
La1-sSrsGa1-tMgt3-d(0.05<s<0.25、0.05<t<0.25) …(II)
上記の組成式(II)において、Laはランタンを示し、Srはストロンチウムを示し、Gaはガリウムを示し、Mgはマグネシウムを示し、Oは酸素を示す。また、上記の組成式(II)において、1−sはLaの原子比を示し、sはSrの原子比を示し、1−tはGaの原子比を示し、tはMgの原子比を示し、3−dはOの原子比を示す。
【0035】
また、上記の組成式(II)において、sは0.05<s<0.25の関係を満たす実数を示し、tは0.05<t<0.25の関係を満たす実数を示す。
【0036】
ここで、上記の組成式(II)において、sが0.05<s<0.25の関係を満たす実数である場合には、組成式(II)で表される金属酸化物粉末を用いて固体酸化物形燃料電池の電解質3を形成したときに電解質3の酸化物イオン伝導性が優れる傾向にある。sが0.25以上の実数を示す場合には、電解質3中のSrの含有量が多くなりすぎて、他の相が発現して電解質3の酸化物イオン伝導性が低下する傾向にある。
【0037】
また、上記の組成式(II)において、tが0.05<t<0.25の関係を満たす実数である場合には、組成式(II)で表される金属酸化物粉末を用いて固体酸化物形燃料電池の電解質3を形成したときに電解質3の酸化物イオン伝導性が優れる傾向にある。tが0.25以上の実数を示す場合には、電解質3中のMgの含有量が多くなりすぎて、他の相が発現して、電解質3の酸化物イオン伝導性が低下する傾向にある。
【0038】
反応抑制層2は、燃料極1と電解質3との間の反応を抑制することができる材質からなる層であれば特に限定されず、たとえば以下の組成式(III)で表わされる材質(SDC)からなることが好ましい。
【0039】
SmyCe1-y2-(y/2)(0≦y<0.5) …(III)
上記の組成式(III)において、Smはサマリウムを示し、Ceはセリウムを示し、Oは酸素を示す。また、yはSmの原子比を示し、1−yはCeの原子比を示し、2−(y/2)はOの原子比を示す。
【0040】
ここで、上記の組成式(III)において、yが0≦y<0.5を満たす実数である場合には、反応抑制層2中の金属酸化物が蛍石型構造の結晶構造を保持しやすくなり、固体酸化物形燃料電池の性能をさらに優れたものとすることができる傾向にある。
【0041】
燃料極1は、電解質3を伝導してきた酸化物イオンなどのイオンを反応させることによって電子を放出することができる材質であれば特に限定されず、たとえばNi−Fe合金などの多孔質の金属基板などを用いることができる。
【0042】
以下、図2(a)〜図2(e)の模式的断面図を参照して、図1に示す固体酸化物形燃料電池の製造方法の一例を図解する模式的な断面図を示す。
【0043】
まず、図2(a)に示すように、Ni−Fe合金からなる多孔質の金属基板からなる燃料極1を用意する。ここで、燃料極1の厚さは、たとえば200μm以上3000μm以下とすることができる。
【0044】
次に、図2(b)に示すように、燃料極1上にSDCからなる反応抑制層2をPLD法により積層する。PLD法により積層された反応抑制層2の厚さは、たとえば0.5μm以上5μm以下とすることができる。
【0045】
次に、図2(c)に示すように、反応抑制層2上にLSGMからなる電解質3をPLD法により積層する。PLD法により積層された電解質3の厚さは、たとえば0.5μm以上20μm以下とすることができる。
【0046】
次に、図2(d)に示すように、電解質3上にSSCからなる緻密層4をPLD法により積層する。PLD法により積層された緻密層4の厚さT1は、たとえば0.5μm以上10μm以下とすることができる。
【0047】
次に、緻密層4上に多孔質層前駆体をスクリーン印刷した後に多孔質層前駆体をたとえば600℃以上1100℃以下の温度で焼成することによって、図2(e)に示すように、緻密層4上にSSCからなる多孔質層5を積層する。多孔質層5の厚さT2は、たとえば5μm以上50μm以下とすることができる。
【0048】
上記のようにして製造した固体酸化物形燃料電池は、たとえば以下のようにして作動させることができる。
【0049】
まず、図1に示す固体酸化物形燃料電池を400℃以上900℃以下の雰囲気中に設置する。
【0050】
次に、固体酸化物形燃料電池を400℃以上900℃以下の雰囲気中に設置した状態で、固体酸化物形燃料電池の燃料極1に水素と窒素との化合物のガスを含む燃料を供給し、酸素極6に酸素ガスを含む酸化剤を供給する。
【0051】
これにより、多孔質層5においては、酸化剤中に含まれる酸素ガスにより、(1/2)O2+2e-→O2-の反応から酸化物イオン(O2-)が生じる。そして、酸化物イオン(O2-)は緻密層4、電解質3および反応抑制層2を順次伝導して燃料極1に到達する。
【0052】
そして、燃料極1においては、電解質3を伝導してきた酸化物イオン(O2-)と、燃料に含まれる水素と窒素との化合物のガスとにより、H2+O2-→H2O+2e-の反応から水(H2O)と電子(e-)が生じる。そして、水(H2O)は外部に放出され、電子(e-)は外部回路を通って酸素極6に流れ込む。
【0053】
以上のようにして固体酸化物形燃料電池を作動させることによって、固体酸化物形燃料電池による発電が可能となる。
【0054】
燃料極1に供給される燃料に含まれる水素と窒素との化合物のガスとしては、たとえば、NH3(アンモニア)ガスおよび/またはN24(ヒドラジン)ガスなどの水素と窒素との化合物からなるガスの少なくとも1種を用いることができる。
【0055】
燃料極1に供給される燃料中の水素と窒素との化合物のガスは、水素と窒素との化合物の状態で燃料極1に供給されてもよく、水素(H2)ガスと窒素(N2)ガスとに分解された状態で燃料極1に供給されてもよい。
【0056】
酸素極6に供給される酸化剤としては、たとえば、空気および/または酸素(O2)ガスなどの酸素を含むガスの少なくとも1種を含む酸化剤を用いることができる。
【0057】
以上のように、図1に示す固体酸化物形燃料電池においては、PLD法で薄膜の電解質3を形成できることから、400℃以上900℃以下という低温雰囲気中での作動が可能となる。
【0058】
また、図1に示す固体酸化物形燃料電池は、電解質3上にPLD法により薄膜のSSCからなる緻密層4を形成し、緻密層4上に多孔質前駆体をスクリーン印刷法等で塗布した後に低温で焼成することによって厚膜のSSCからなる多孔質層5を形成することにより製造することができる。そのため、電解質3上に酸素極6を低温で形成した場合でも、電解質3と緻密層4との間を強固に接合することができるとともに、緻密層4と多孔質層5との間を強固に接合することができる。これにより、電解質3からの酸素極6の剥離を有効に抑制することができ、酸素極6の耐久性を向上することができる。
【0059】
したがって、図1に示す固体酸化物形燃料電池は、優れた耐久性と電極性能とを兼ね備えた酸素極6を有する。
【実施例】
【0060】
<多孔質金属基板の作製>
まず、硝酸鉄9水和物を純水に溶解した水溶液中にNiO粉末を添加した。NiO粉末の添加量はFe23:NiO=10:90(質量比)となるようにした。次に、NiO粉末の添加後の水溶液を蒸留することによって水分を除去した。次に、水分の除去により得られた粉末を673K(400℃)で2時間加熱することによって硝酸塩を分解し、その後さらに粉末を1473K(1200℃)で6時間加熱した。
【0061】
次に、上記の工程を経て得られた粉末を容器に入れ、その後、ジルコニアボールおよびエタノールを加えて1時間ボールミルを行なって粉末を粉砕した。続いて、粉砕した粉末を乾燥した後に直径25mmの金型に詰め、20MPaの圧力で1軸成形し、その後48MPaの圧力で静水圧プレスを行なった。
【0062】
次に、上記の静水圧プレス後のディスク状の試料を1723K(1450℃)で5時間焼成し、そして、973K(700℃)での加熱を含む還元処理によって、均一なナノサイズの空隙を有するNi−Fe合金からなる厚さ700μmの多孔質金属基板を作製した。
【0063】
<電解質の作製>
まず、PLD装置((株)パスカル製のPLD−7)のチャンバの内部に、上記のようにして作製した多孔質金属基板を設置した。次に、チャンバの内部を1.33×10-5Pa(1×10-7Torr)以下の圧力とした後に、チャンバの内部の0.67Pa(5×10-3Torr)となるように調整した。
【0064】
次に、多孔質金属基板を1073K(800℃)に加熱し、出力180mJ/pulse、周波数10Hzの条件でレーザ光をターゲットに照射することにより、多孔質金属基板の表面上に厚さ0.4μmのSDC(Sm0.2Ce0.81.9)膜をPLD法により堆積した。
【0065】
SDC膜の堆積後は空気中で1073K(800℃)で2時間加熱することによって、SDC膜の多孔質金属基板の表面上への密着性を高めるとともに、SDC膜の結晶性を高めた。
【0066】
次に、ターゲットを変更したこと以外は上記と同一の方法および同一の条件でLSGM(La0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.23-d)からなる厚さ5μmの電解質をSDC膜上にPLD法により堆積した。
【0067】
電解質の堆積後は空気中で1073K(800℃)で2時間加熱することによって、電解質のSDC膜の表面上への密着性を高めるとともに、LSGMからなる電解質の結晶性を高めた。
【0068】
<酸素極の作製>
SSC(Sm0.5Sr0.5CoO3-d)粉末を従来から公知のクエン酸法により作製し、このSSC粉末を用いて上記のようにして作製した電解質の表面上に酸素極を形成した。なお、酸素極の形成方法は、比較例1と、比較例2と、実施例と、で異なっている。
【0069】
すなわち、比較例1においては、SSC粉末をバインダーと混合して作製した混合物をスクリーン印刷法によってLSGMからなる電解質の表面上に塗布した後に、1073K(800℃)の温度で30分間焼成することによって、相対密度60%であって厚さ30μmの多孔質のSSCからなる酸素極をLSGMからなる電解質の表面上に形成した。
【0070】
また、比較例2においては、SSC粉末を用いて作製したターゲットを用いたこと以外は上記と同一の条件および同一の方法により相対密度90%であって厚さ1μmの緻密なSSCからなる酸素極をPLD法により電解質の表面上に堆積した。
【0071】
さらに、実施例においては、比較例2と同一の条件および同一の方法により相対密度90%であって厚さ1μmの緻密なSSC膜をPLD法により電解質の表面上に堆積した後に、比較例1と同一の条件および同一の方法により相対密度60%であって厚さ30μmの多孔質のSSC膜を緻密なSSC膜の表面上に形成して、緻密なSSC膜と多孔質のSSC膜との積層体からなる酸素極を電解質の表面上に形成した。
【0072】
なお、比較例1、比較例2および実施例においては、参照極としてのAg電極を酸素極近傍の電解質の表面上に密着するように焼き付けた。
【0073】
上記のようにして、比較例1、比較例2および実施例のそれぞれの固体酸化物形燃料電池セルを作製した。
【0074】
<発電特性評価方法>
まず、比較例1、比較例2および実施例のそれぞれのセルにおいて、2.8体積%の水蒸気を含む水素ガスを燃料極側に、酸素ガスを酸素極側にそれぞれ100mL/minの流量で流した。
【0075】
次に、比較例1、比較例2および実施例のそれぞれのセルにガルバノスタット(北斗電工(株)製のHA−301)にて定電流をかけ、そのときのセル電圧をデジタルマルチメーター((株)アドバンテスト製の6145)にて測定した。
【0076】
そして、カレントパルスジェネレーター(北斗電工(株)製のHC111)を用いて電流遮断を行ったときの電位の応答をメモリーハイコーダー(日置電機(株)製の8835)を用いて記録し、燃料極のIR損、酸素極のIR損、燃料極のIR損と酸素極のIR損との合計、燃料極の過電圧および酸素極の過電圧をそれぞれ求めた。
【0077】
図3に、比較例1のセルの電流密度(A/cm2)、電圧(V)および電力密度(W/cm2)の関係を示す。図3の直線が比較例1のセルの電流密度と電圧との関係を示しており、図3の曲線が比較例1のセルの電流密度と電力密度との関係を示している。
【0078】
図3の丸印を結ぶ直線および曲線、四角印を結ぶ直線および曲線、三角印を結ぶ直線および曲線、ならびに逆三角印を結ぶ直線および曲線が、それぞれ、973Kの温度における第1回目の試験結果、873Kの温度における試験結果、773Kの温度における試験結果、および973Kの温度における第2回目の試験結果を示している。
【0079】
図3の黒塗りの丸印を結ぶ曲線に示されるように、973Kの温度における第1回目の試験では最大出力密度が約1.8W/cm2と良好な特性を示したのに対し、図3の黒塗りの逆三角印を結ぶ曲線に示されるように、一度温度を室温まで下げてから再度973Kにまで温度を上げて第2回目の試験をしたところ、最大出力密度は約0.7W/cm2まで低下した。
【0080】
また、比較例1のセルにおいては、上記の第2回目の試験後のセルを見ると、酸素極のSSC膜が剥離していることがわかった。
【0081】
図4に、973Kの温度での熱サイクル試験後における比較例1のセルの内部抵抗をそれぞれの成分に分解した図を示す。図4の横軸が電流密度(mA/cm2)を示し、縦軸が分極電圧(mV)を示している。
【0082】
図4の四角印を結ぶ線、丸印を結ぶ線、三角印を結ぶ線および逆三角印を結ぶ線が、それぞれ、熱サイクル試験前、第1回目の試験後、第2回目の試験後および第3回目の試験後の比較例1のセルの内部抵抗であるIR損と過電圧とを示している。図4の白塗りが酸素極(カソード)のIR損を示し、黒塗りが酸素極(カソード)の過電圧を示している。
【0083】
なお、図4に示すIR損および過電圧は、それぞれ、比較例1のセルの室温での値を測定(熱サイクル試験前)した後に、比較例1のセルの温度を973Kにまで上げて測定(第1回目の試験後)した。第2回目の試験後の値は第1回目の試験から一度温度を室温まで下げてから再度973Kにまで温度を上げて測定(第2回目の試験後)した値であり、第3回目の試験後の値は第2回目の試験から一度温度を室温まで下げてから再度973Kにまで温度を上げて測定(第3回目の試験後)した値である。
【0084】
図4より明らかなように、熱サイクル試験前と比較して、熱サイクル試験後においては、酸素極(カソード)のIR損と過電圧とが増加したことがわかる。したがって、これにより、比較例1のセル特性が低下したものと考えられる。
【0085】
図5に、比較例2のセルの酸素極のSEMによる表面観察結果を示し、図6に、比較例2のセルの酸素極のSEMによる断面観察結果を示す。図5および図6に示すように、比較例2のセルの酸素極のSSC膜は緻密(相対密度96%以上)に製膜されていることが確認された。しかしながら、比較例2のセルの発電特性は非常に悪かった。
【0086】
図7に、実施例のセルの電流密度(A/cm2)、電圧(V)および電力密度(W/cm2)の関係を示す。図7の直線が実施例のセルの電流密度と電圧との関係を示しており、図7の曲線が実施例のセルの電流密度と電力密度との関係を示している。
【0087】
図7の丸印を結ぶ直線および曲線、四角印を結ぶ直線および曲線ならびに三角印を結ぶ直線および曲線が、それぞれ、973K、873Kおよび773Kの温度における試験結果を示している。
【0088】
図7の黒塗りの丸印を結ぶ曲線に示されるように、実施例のセルにおいては973Kの温度における試験で最大出力密度が約1.9W/cm2となっており、比較例1のセルよりも良好な特性を示すことが確認された。これは、実施例のセルの酸素極の電極性能が高いためと考えられる。
【0089】
図8に、実施例のセルの熱サイクル試験結果を示す。図8の直線が実施例のセルの電流密度(A/cm2)と電圧(V)との関係を示しており、図8の曲線が実施例のセルの電流密度(A/cm2)と電力密度(W/cm2)との関係を示している。
【0090】
図8の丸印を結ぶ直線および曲線、四角印を結ぶ直線および曲線、ならびに三角印を結ぶ直線および曲線が、それぞれ、973Kの温度における第1回目の試験結果、973Kの温度における第2回目の試験結果および973Kの温度における第3回目の試験結果を示している。
【0091】
なお、第2回目の試験は第1回目の試験から一度温度を室温まで下げてから再度973Kにまで温度を上げて行ない、第3回目の試験は第2回目の試験から一度温度を室温まで下げてから再度973Kにまで温度を上げて行なった。
【0092】
図8の黒塗りの三角印を結ぶ曲線に示されるように、実施例のセルにおいては、第3回目の試験においても最大出力密度が1.6W/cm2以上と良好な特性を維持していた。これは、実施例のセルの耐剥離性が向上して耐久性が高くなったため、熱サイクルをかけても実施例のセルの発電特性がほとんど低下しなかったことによるものである。
【0093】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用電極、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形燃料電池用電極の製造方法および固体酸化物形燃料電池の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 燃料極、2 反応抑制層、3 電解質、4 緻密層、5 多孔質層、11 固体酸化物形燃料電池、12 電解質、13 酸素極、14 燃料極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緻密層と、
前記緻密層上に設けられた多孔質層と、を備え、
前記緻密層の厚さは10μm以下であり、
前記多孔質層の厚さは5μm以上である、固体酸化物形燃料電池用電極。
【請求項2】
前記緻密層および前記多孔質層がそれぞれ電子−イオン混合伝導性を有する、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電極。
【請求項3】
前記緻密層および前記多孔質層がそれぞれ同じ材質からなる、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池用電極。
【請求項4】
前記材質が、Sm1-xSrxCoO3-d(0.2<x<0.8)の式で表わされる材質からなる、請求項1から3のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池用電極。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池用電極を備えた、固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
前記固体酸化物形燃料電池は、400℃以上900℃以下の雰囲気中で作動する、請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
前記固体酸化物形燃料電池用電極に接する電解質をさらに備え、
前記電解質は、La1-sSrsGa1-tMgt3-d(0.05<s<0.25、0.05<t<0.25)の式で表わされる材質からなる、請求項5または6に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池用電極を製造する方法であって、
前記緻密層をパルスレーザ蒸着法により堆積する工程を含む、固体酸化物形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項9】
前記緻密層上に多孔質層前駆体をスクリーン印刷する工程と、
前記スクリーン印刷後の前記多孔質層前駆体を焼成することによって前記多孔質層を形成する工程と、を含む、請求項8に記載の固体酸化物形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項10】
基板上に電解質をパルスレーザ蒸着法により堆積する工程と、
前記電解質上に厚さ10μm以下の緻密層をパルスレーザ蒸着法により堆積する工程と、
前記緻密層上に厚さ5μm以上の多孔質層前駆体をスクリーン印刷する工程と、
前記多孔質層前駆体を焼成することによって多孔質層を形成する工程と、を含む、固体酸化物形燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−54137(P2012−54137A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196550(P2010−196550)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月26日 社団法人電気化学会発行の「電気化学会第77回大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】