説明

固体酸化物形燃料電池

【課題】各層間の反応の影響を効果的に防止することにより、特に600℃〜800℃程度の作動温度においても、出力性能の高い固体酸化物形燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料極1と空気極3の間に固体電解質層2を備え、前記燃料極または空気極の一方が支持体であり、少なくとも前記支持体側1から、第一の層2aと第ニの層2bを備えてなる固体酸化物形燃料電池を提供する。さらには、前記第一の層はセリウム含有酸化物からなり、第ニの層は少なくともランタンとガリウムを含むランタンガレート酸化物からなり、前記第一の層には前記セリウム含有酸化物の焼結性を向上させ得る焼結助剤が含まれており、前記第二の層の厚みをTμmとしたとき、2<T<70であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層にランタンガレート酸化物を備えた電極支持型の固体酸化物形燃料電池において、各層間の反応の影響を効果的に防止することにより、特に600℃〜800℃程度の作動温度においても、出力性能の高い固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体酸化物形燃料電池の作動温度を600℃〜800℃程度まで低温化させることを目的とした、低温作動型固体酸化物形燃料電池の研究が精力的に行われている。低温作動型固体酸化物形燃料電池の固体電解質材料として、ランタンガレート酸化物が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかしランタンガレート酸化物は他材料との反応性が高いため、空気極材料や燃料極材料と反応して、高抵抗な反応生成相が形成され、発電性能が低下する場合があった。特に、空気極または燃料極を支持体とし、固体電解質層を極力薄膜化した電極支持型の固体酸化物形燃料電池の場合には、支持体上にガスタイトな固体電解質層を形成するためにある程度の高温で焼成する必要があり、支持体と固体電解質層との界面に高抵抗な反応生成相が形成される問題や、支持体中に含まれる金属成分が固体電解質層へ拡散することにより、固体電解質層の酸素イオン輸率が低下し、燃料極と空気極との電極間が短絡して大幅に発電性能が低下するという問題があった。
【0003】
この問題に対し、燃料極を支持体とした固体酸化物形燃料電池について、燃料極とランタンガレート酸化物からなる固体電解質層との間に、反応抑制層としてLa0.45Ce0.55O2からなる層を形成することが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながらLa0.45Ce0.55O2は極めて焼結性が低い材料であるため、反応抑制層を緻密にすることは困難であった。その結果、反応抑制層の気孔を介して燃料極とランタンガレート酸化物からなる固体電解質層が反応して、界面に高抵抗な反応層が形成される問題があった。また支持体中に含まれる金属成分が固体電解質層に拡散することによる電極間の短絡を防止するには、ランタンガレート酸化物からなる固体電解質層を厚膜化する必要があり、その結果、固体電解質層の抵抗損が増大し、発電性能が低下するという問題があった。
【0004】
また、前記反応抑制層が緻密になるような高温(例えば1600℃程度)でセルを作製した場合には、たとえ反応抑制層を設けたとしても、支持体に含まれる金属成分などとランタンガレート酸化物とが、気相を介して反応するという問題や、支持体の気孔率を確保することが困難であるという問題があり、その結果、高い発電性能が得られないという問題があった。
【0005】
一方、燃料極を支持体とした固体酸化物形燃料電池について、燃料極と固体電解質層との間に、反応抑制層として気孔率が25%以下のCe1-zLnzO2(0.05≦z≦0.3)で表されるセリウム含有酸化物からなる層を形成することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、固体電解質層がランタンガレート酸化物の場合、提案されているセリウム含有酸化物との反応性が高く、例えばSrLaGa3O7などで表される高抵抗な反応生成相が、ランタンガレート層とセリウム含有酸化物からなる層との界面に形成されるため、材料自体の物性から予想される発電性能が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開2002−15756号公報(第1-9頁、図1-図9)
【特許文献2】特開平11−335164号公報(第1-12頁、図1-図12)
【特許文献3】特開2003-173802号公報(第1-7頁、表1)
【非特許文献1】Electrochemical and Solid-State Letters, 7(5) A105-A107(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、固体電解質層にランタンガレート酸化物を備えた固体酸化物形燃料電池に関し、特に600℃〜800℃程度の作動温度において優れた発電性能を有する固体酸化物形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、燃料極と空気極の間に固体電解質層を備えた固体酸化物形燃料電池であって、前記燃料極または前記空気極の一方が支持体であり、前記固体電解質層は、少なくとも前記支持体側から、第一の層と第ニの層を備えてなり、第一の層は一般式Ce1-xLnxO2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.30<x<0.50)で表されるセリウム含有酸化物からなり、第ニの層は少なくともランタンとガリウムを含むランタンガレート酸化物からなり、第一の層には前記セリウム含有酸化物の焼結性を向上させ得る焼結助剤が含まれており、前記第二の層の厚みをTμmとしたとき、2<T<70であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池を提供する。
【0008】
本発明によれば、固体電解質層が少なくとも支持体側から、第一の層と第ニの層を備えてなり、第一の層はLnのドープ量を最適化したセリウム含有酸化物からなり、第ニの層はランタンガレート酸化物からなり、第一の層にはセリウム含有酸化物の焼結性を向上させ得る焼結助剤が含まれており、第ニの層の厚みをTμmとしたとき、2<T<70としたため、発電性能に優れる固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
【0009】
この理由は、支持体と、ランタンガレート酸化物からなる第ニの層との間に、焼結助剤を含んだセリウム含有酸化物からなる第一の層を設けたので、第一の層が緻密化し、支持体と、ランタンガレート酸化物からなる第二の層との反応および、支持体から第ニの層への金属成分の拡散を効果的に抑制できる。また第一の層が緻密化することによって、第一の層における抵抗損が減少する。さらに第一の層のセリウム含有酸化物について組成を最適化したので、第一の層と第ニの層との反応を抑制できるため、発電性能が向上する。また、第二の層の厚みを上記範囲のように薄膜化したので固体電解質層における抵抗損が小さいため発電性能が向上する。このとき第一の層が緻密であり、支持体から第ニの層への金属成分の拡散を効果的に抑制しているため、第ニの層を薄膜化しても電極間の短絡を防止できるため、発電性能が低下することはない。なお第ニの層の厚みが2μmよりも薄くなると、セリウム含有酸化物からなる第一の層が燃料雰囲気下で還元されることによって、電子伝導性が発現し、発電性能が低下する場合がある。
【0010】
本発明の好ましい態様においては、固体電解質層における第ニの層の厚みをTμmとしたとき10≦T≦50であることを特徴とする。
【0011】
この理由は、第ニの層の厚みを10μm以上とすることで、より信頼性高く第一の層が燃料雰囲気下で還元されることを防止することができるからである。また第ニの層の厚みを50μm以下とすることで、固体電解質層における抵抗損がより小さくなるためである。
【0012】
本発明の好ましい態様においては、固体電解質層における第一の層と第ニの層との間には、介在物がないことを特徴とする。
【0013】
この理由は、固体電解質層における第一の層と第ニの層とが反応することによって生成する高抵抗な介在物が間にないため、界面における抵抗損が小さく、発電性能が向上するためである。
【0014】
本発明の好ましい態様においては、第一の層に含まれる焼結助剤が、Ga元素またはB元素を含むことを特徴とする。
【0015】
この理由は、Ga元素またはB元素を含む焼結助剤をセリウム含有酸化物に添加すると、第一の層のセリウム含有酸化物の焼結性が向上し、第一の層が緻密化するためである。その結果、支持体と第二の層との反応を効果的に抑制できるとともに、第一の層における抵抗損が少なくなるため発電性能が向上するためである。
【0016】
本発明の好ましい態様においては、第一の層に含まれるGa元素の含有量をXwt%としたとき、0<X≦5であることを特徴とする。
【0017】
この理由は、上記範囲に限定することで、第一の層がより緻密化するためである。また焼結助剤を添加したことによる電気伝導度へ及ぼす影響がほとんどないためである。
【0018】
本発明の好ましい態様においては、第一の層に含まれるB元素の含有量をYwt%としたとき、0<Y≦2であることを特徴とする。
【0019】
この理由は、上記範囲に限定することで、焼結助剤を添加したことによる電気伝導度へ及ぼす影響がほとんどないためである。
【0020】
本発明の好ましい態様においては、第一の層の厚みをSμmとしたとき、5<S<50であることを特徴とする。
【0021】
この理由は、第一の層の厚みを5μmよりも厚くすることで、燃料極とランタンガレート酸化物からなる第二の層との反応を防止できるためである。一方、第一の層の厚みを50μmより薄くすることで、第一の層における抵抗損による影響を小さくできるためである。
【0022】
本発明の好ましい態様においては、第一の層におけるセリウム含有酸化物は、一般式Ce1-xLnxO2(但し、LnはLaであり0.30<x<0.50)である。
【0023】
この理由は、セリウム含有酸化物の組成を上記範囲に限定することで、セリウム含有酸化物からなる第一の層と、ランタンガレート酸化物からなる第二の層との反応を最も効果的に防止することができるためである。
【0024】
本発明の好ましい態様においては、燃料極を支持体とし、前記燃料極はNi及び/又はNiOと、CaO、Y2O3、Sc2O3のうちの一種以上をドープしたジルコニウム含有酸化物とが均一に混合された複合体からなることを特徴とする。
【0025】
この理由は、燃料極支持体に含まれる酸素イオン伝導体としてジルコニウム含有酸化物を用いたので、支持体としての強度に優れ、かつ安定性が高いためである。
【0026】
本発明の好ましい態様においては、燃料極と固体電解質層との間に、Ni及び/又はNiOと、Ce1-yLnO2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.05≦y≦0.50)で表されるセリウム含有酸化物とが均一に混合された燃料極反応触媒層が設けられ、該燃料極反応触媒層に含まれる前記セリウム含有酸化物が10〜90重量部であることを特徴とする。
【0027】
この理由は、前記セリウム含有酸化物は高い酸素イオン伝導性を有するとともに、還元雰囲気下で電子伝導性を併せ持つことができるため、(1)式や(2)式の反応場となる三相界面がより増大し、(1)式や(2)式の反応をより効果的に行うことができるため、発電性能がさらに向上するためである。なお、セリウム含有酸化物の割合が上記範囲を外れると、燃料極反応触媒層を設ける効果がほとんど見られない。
H2+O2-→H2O+2e- (1)
CO+O2-→CO2+2e- (2)
【0028】
本発明の好ましい態様においては、ランタンガレート酸化物からなる第ニの層は、一般式La1-aAaGa1-b-cXbZcO3(但し、AはSr、Ca、Baのいずれか一種又は二種以上、XはMg、Al、Inのいずれか一種又は二種以上、ZはCo、Fe、Ni、Cuのいずれか一種又は二種以上であり、0<a<1、0<b<1、0≦c≦0.15)で表されるランタンガレート酸化物で表されるものであることを特徴とする。
【0029】
この理由は、上記範囲のランタンガレート酸化物は、高い酸素イオン伝導性を有するので、第二の層における抵抗損が小さくなり、発電性能が向上するためである。
【0030】
本発明の好ましい態様においては、ランタンガレート酸化物からなる第ニの層は、一般式La1-aSraGa1-b-cMgbCocO3(但し、0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦c≦0.15)で表されるものであることを特徴とする。
【0031】
この理由は、上記範囲のランタンガレート酸化物は、極めて高い酸素イオン伝導性を有するので、第二の層における抵抗損が小さくなり、発電性能が大幅に向上するためである。
【発明の効果】
【0032】
燃料極と空気極の間に固体電解質層を備えた固体酸化物形燃料電池であって、前記燃料極または前記空気極の一方が支持体であり、前記固体電解質層は、少なくとも前記支持体側から、第一の層と第ニの層を備えてなり、第一の層は一般式Ce1-xLnxO2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.30<x<0.50)で表されるセリウム含有酸化物からなり、第ニの層は少なくともランタンとガリウムを含むランタンガレート酸化物からなり、第一の層には前記セリウム含有酸化物の焼結性を向上させ得る焼結助剤が含まれており、前記第二の層の厚みをTμmとしたとき、2<T<70であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池を提供するので、特に600℃〜800℃程度の作動温度において、出力性能の高い固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に本発明における固体酸化物形燃料電池について説明する。図1は本発明の固体酸化物形燃料電池における単電池の断面の一態様であり、燃料極を支持体としたタイプについて示した。本発明における固体酸化物形燃料電池は、例えば燃料極支持体1(例えばNi及び/又はNiOと、Y2O3をドープしたジルコニウム含有酸化物との複合体)と、該燃料極支持体表面に形成された、固体電解質層2における第一の層2a(例えばCe1-xLaxO2(但し0.30<x<0.50)で表されるセリウム含有酸化物)と、固体電解質層2における第二の層2b(ラランタンガレート酸化物)と、該固体電解質の表面に形成された空気極3(例えばランタンコバルト系酸化物やサマリウムコバルト系酸化物)とから構成される。
【0034】
図1に示す固体酸化物形燃料電池を例として作動原理を以下に示す。空気極側に空気を流し、燃料極側に燃料を流すと空気中の酸素が、空気極と固体電解質層との界面近傍で酸素イオンに変わり、この酸素イオンが固体電解質層を通って燃料極に達する。そして燃料ガスと酸素イオンが反応して水および二酸化炭素になる。これらの反応は(1)、(2)および(3)式で表される。空気極と燃料極を外部回路で接続することによって外部に電気を取り出すことが出来る。
H2+O2-→H2O+2e- (1)
CO+O2-→CO2+2e- (2)
1/2O+2e-→O2- (3)
【0035】
なお燃料ガスに含まれるCH4等も(1)、(2)式と類似した電子を生成する反応があるとの報告もあるが固体酸化物形燃料電池の発電における反応のほとんどが(1)、(2)式で説明できるので、ここでは(1)、(2)式で説明することとした。
【0036】
本発明の、固体電解質層における第一の層のセリウム含有酸化物は、ランタンガレート酸化物からなる第二の層との反応性が低いという観点から、一般式Ce1-xLnxO2(但し、LnはLaであり、0.30<x<0.50)で表されるものが好ましい。上記組成とすることで、ランタンガレート酸化物からなる固体電解質層との反応を最も効果的に防止することができるため、発電性能は向上する。なお最適なLnのドープ量は、第二層に用いるランタンガレート酸化物の組成により前記範囲内で変わるが、第二の層に酸素イオン伝導率が高い組成のランタンガレート酸化物(例えば、一般式La1-aSraGa1-b-cMgbCocO3(但し、0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦c≦0.15)で表されるランタンガレート酸化物)を用いることを鑑みると、Lnのドープ量は0.35≦x≦0.45であることがより好ましい。例えばランタンガレート酸化物の組成がLa0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.2O3である場合はx=0.4がより好ましい。
【0037】
なおセリウム含有酸化物とランタンガレート酸化物との間の反応性は以下の方法で確認できる。すなわちセリウム含有酸化物粉末とランタンガレート酸化物粉末を均一に混合後、例えば1400℃で熱処理を行い、X線回折法により結晶相を分析することで確認できる。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に、ランタンガレート酸化物粉末と各セリウム含有酸化物粉末とをそれぞれ当重量ずつ均一に混合し、1400℃で熱処理を行った後に、X線回折法により同定された結晶相を示した。なおランタンガレート酸化物の組成はLa0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.2O3を用いた。セリウム含有酸化物の組成は、Ce0.5La0.5O2(以下LDC50と略称する)、Ce0.6La0.4O2(以下LDC40と略称する)、Ce0.7La0.3O2(以下LDC30と略称する)、Ce0.8La0.2O2(以下LDC20と略称する)、Ce0.9La0.1O2(以下LDC10と略称する)、Ce0.8Sm0.2O2(以下SDC20と略称する)、Ce0.9Sm0.1O2(以下SDC10と略称する)、Ce0.8Gd0.2O2(以下GDC20と略称する)、Ce0.9Gd0.1O2(以下GDC10と略称する)、の9種類を用いた。表1中の「○」は、ピークが確認できたことを表す。「×」はピークが全く確認できなかったことを示す。「△」はピークが確認できたが極めて小さいことを表す。表1より、本発明において提案するLnのドープ量が多いセリウム含有酸化物は、ランタンガレート酸化物との反応性が低いことが確認できる。表1に示すSrLaGaO7およびLaSrGaO4の反応生成相は電気的に高抵抗相であり、固体電解質層における第一の層と第ニの層との間に、これらの反応生成相ができると、発電性能が低下する。
【0040】
本発明の、固体電解質層における第一の層のセリウム含有酸化物に添加する焼結助剤は、第一の層の緻密性を向上させるものであって、周りの材料との反応による影響が少ないものが好ましい。我々は焼結助剤の検討を種々行った結果、Ga元素またはB元素について効果があることを見出した。Ga元素源としては、例えば酸化ガリウム(Ga2O3)または焼成工程中にGa2O3となるガリウム化合物などが好ましい。B元素源としては、例えば硼酸(H3BO3)、窒化硼素(BN)、酸化硼素(B2O3)などや、焼成工程中にB2O3となる硼素化合物などが好ましい。
【0041】
本発明においては、第一の層に含まれるGa元素の含有量を酸化物換算でXwt%としたとき、0<X≦5であることが好ましい。この理由は、上記範囲に限定することで、第一の層がより緻密化するため、支持体と第二の層との反応を効果的に抑制できるとともに、第一の層における抵抗損が減少するためである。さらに好ましいXの範囲は、0.3<X<2.0である。この理由は、前記効果に加えて、セリウム含有酸化物自体の電気伝導性が向上するため、第一の層における抵抗損がさらに減少するためである。
【0042】
本発明においては、第一の層に含まれるB元素の含有量を酸化物換算でYwt%としたとき、0<Y≦2であることが好ましい。この理由は、上記範囲に限定することで、第一の層における抵抗損が減少するためである。なおB元素の含有量は前記範囲内で、できるだけ少量とするのがより好ましい。
【0043】
本発明においては、セリウム含有酸化物からなる第一の層の厚みをSμmとしたとき、5<S<50であることが好ましい。さらには、10≦S≦40であることがより好ましい。
【0044】
この理由は、第一の層の厚みを5μmよりも厚くすることで、支持体とランタンガレート酸化物からなる第二の層との反応を防止でき、さらに10μm以上とすることで前記反応をより信頼性高く防止できるからである。一方、第一の層の厚みを50μmよりも薄くすることで、第一の層における抵抗損の影響を小さくでき、さらに40μm以下とすることで、第一の層における抵抗損の影響をより小さくできるからである。従って、第一の層の厚みは、支持体とランタンガレート酸化物からなる第ニの層との反応を十分防止できる範囲で、できるだけ薄くするのが好ましい。
【0045】
本発明の、固体電解質層の第二の層におけるランタンガレート酸化物は、酸素イオン伝導性が高いと言う観点から、一般式La1-aSraGa1-bMgbO3(但し、0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3)(以下LSGMと略称する)で表されるものが好ましい。
【0046】
本発明の、固体電解質層の第二の層におけるランタンガレート酸化物は、酸素イオン伝導性が高いと言う観点から、一般式La1-aSraGa1-b-cMgbCocO3(但し、0.05≦a≦0.3、0≦b<0.3、0<c≦0.15)(以下LSGMCと略称する)で表されるものも好ましい。
【0047】
本発明における固体電解質層の第二の層は、LSGMからなる層とLSGMCからなる層両方を含む構成とすることもできる。すなわちLSGMからなる層とLSGMCからなる層との多層構造であっても良い。
【0048】
本発明におけるランタンガレート酸化物からなる第二の層は、酸素イオン伝導性の大幅な低下を伴わず、周囲の材料との反応による影響が起こらない範囲で、焼結助剤などの添加剤を含んでも構わない。
【0049】
本発明における固体電解質層の第一の層に使用するセリウム含有酸化物と、第二の層に使用するランタンガレート酸化物の原料粉末の作製方法については特に限定はない。酸化物混合法、共沈法、クエン酸塩法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法などが一般的である。
【0050】
本発明の燃料極としては、特に制限はないが、固体酸化物形燃料電池の燃料雰囲気下において電子伝導性が高く、(1)、(2)式の反応が効率良く行われることが好ましい。これらの観点から好ましい材料としては、例えばNiO/ジルコニウム含有酸化物、NiO/セリウム含有酸化物、NiO/ランタンガレート酸化物等が挙げられる。ここで言う、NiO/ジルコニウム含有酸化物、NiO/セリウム含有酸化物、NiO/ランタンガレート酸化物とは、それぞれNiOとジルコニウム含有酸化物、NiOとセリウム含有酸化物、NiOとランタンガレート酸化物とが、所定の比率で均一に混合されたものを指す。またここで示すNiO/ジルコニウム含有酸化物のジルコニウム含有酸化物とは、例えばCaO、Y2O3、Sc2O3のうちの一種以上をドープしたジルコニウム含有酸化物を指す。またここで示すNiO/セリウム含有酸化物のセリウム含有酸化物は、一般式Ce1-yLnyO2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.05≦y≦0.50)で表され、燃料雰囲気下で還元されて電子伝導性が発現するため、混合伝導体となる。またここで示すNiO/ランタンガレート酸化物のランタンガレート酸化物は特に限定は無いが、(1)、(2)式の反応をより効率良く行うために、LSGMまたはLSGMCであることが好ましい。またNiOは燃料雰囲気下で還元されてNiとなるため、前記混合物はNi/ジルコニウム含有酸化物、Ni/セリウム含有酸化物、Ni/ランタンガレート酸化物となる。
【0051】
本明細書中における均一に混合されたとは、酸化物混合法、共沈法、クエン酸塩法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、などによって作製された原料粉末を用いることによって、得ることが出来る。すなわち、ここで示す均一に混合されたとは、前記手法で得られる原料レベルの均一性があれば十分均一であることを指している。
【0052】
燃料極を支持体とする場合は、支持体としての強度に優れ、かつ安定性が高いという観点から、NiO/ジルコニウム含有酸化物が好ましい。またこの場合、(1)、(2)式の反応をより効率的に行うことができ、発電性能を向上させるという観点から、燃料極と固体電解質層との間に、燃料極反応触媒層を設けることが好ましい。本発明における燃料極反応触媒層としては、電子伝導性と酸素イオン伝導性に優れるという観点から、NiO/セリウム含有酸化物、NiO/ランタンガレート酸化物等が挙げられ、重量比率としては10/90〜90/10が好ましい。この理由は、10/90よりもNiOが少ないと電子伝導性が低すぎるためで、一方90/10よりNiOが多くなると酸素イオン伝導性が低すぎるためである。なお燃料極反応触媒層は、固体電解質層側から燃料極方向へ、NiOの量が徐々に多くなるように傾斜させた構造としても良い。
【0053】
本発明における燃料極および燃料極反応触媒層は、Niの他にFe、Co、Cu、Ru、Rh、Pd、Pt等を含むものであっても良い。
【0054】
本発明の空気極としては、特に制限はないが、ランタンマンガン系酸化物、ランタンフェライト系酸化物、ランタンコバルト系酸化物、ランタンニッケル系酸化物、サマリウムコバルト系酸化物などを用いることが出来る。
【0055】
空気極を支持体とする場合は、材料の安定性や、固体電解質層の焼成時などに気孔を確保し易いという観点から、ランタンマンガン系酸化物が好ましい。例えば一般式(La1-dAdeMnO3と表記した場合、d、eの値は0.15≦d≦0.3、0.97≦e≦1の範囲が好ましい。ここで示す一般式中のAは、CaまたはSrが好ましい。また、前期ランタンマンガン系酸化物には、Ce、Sm、Gd、Pr、Nd、Co、Al、Fe、Cu、Ni等を固溶させたものであっても良い。またこの場合、(3)式の反応をより効率的に行うことができ、発電性能を向上させるという観点から、空気極と固体電解質層との間に、空気極反応触媒層を設けることが好ましい。
【0056】
空気極反応触媒層としては、電子伝導性と酸素イオン伝導性に優れるという観点から、例えば、一般式La1-mSrmCo1-nFenO3(但し、0.05≦m≦0.50、0≦n≦1)で表させるランタンフェライト酸化物と、一般式Ce1-yLnyO2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.05≦y≦0.50)で表されるセリウム含有酸化物とが均一に混合され、前記セリウム含有酸化物が10〜90重量部である混合物が好ましい。
【0057】
この理由は、前記ランタンフェライト酸化物は、高い電子伝導性および酸素イオン伝導性を有しており、さらに酸素イオン伝導体である一般式Ce1-yLnyO2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.05≦y≦0.50)で表されるセリウム含有酸化物を均一に混合することで、(3)式の反応場となる三相界面がより増大し、(3)式の反応をより効率的に行うことが出来るため、発電性能が向上するからである。
1/2O+2e-→O2- (3)
【0058】
なお、空気極反応触媒層に含まれるセリウム含有酸化物の割合が、10重量部未満であると、空気極反応触媒層の焼結性が高くなるので、固体電解質層や燃料極の焼結時に空気極反応触媒層の微構造の緻密化が進行し、発電性能が低下する。一方、90重量部よりも大きくなると、空気極反応触媒層を設ける効果がほとんど見られない。
【0059】
本発明における燃料極および空気極に使用する原料粉末の作製方法については特に限定はない。酸化物混合法、共沈法、クエン酸塩法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法などが一般的である。
【0060】
本発明における固体電解質層は、少なくとも支持体側から、第一の層、第二の層、さらに第三の層を備えた構成としても良い。ここで示す第三の層は、一般式Ce1-xLnxO2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.30<x<0.50)で表されるセリウム含有酸化物からなる。第三の層をさらに設けることで、ランタンガレート酸化物からなる第二の層が、空気極および燃料極の両電極と反応することを抑制できる。
【0061】
本発明における固体電解質形燃料電池を焼結法で作製する場合の焼成方法については、高い出力が得られれば良く、特に限定はない。すなわち逐次焼成法でも良いし、少なくとも2種以上、望ましくはすべての部材を一度に焼結させる共焼成法でもよい。ただし、量産性を考慮すると、共焼成法の方が、工数が減るため好ましい。
【0062】
共焼成を行う場合、例えば、燃料極または空気極の支持体の成形体を作製し800℃〜1200℃で仮焼する工程と、得られた仮焼体の表面に固体電解質層を成形し1200℃〜1400℃で支持体と共焼結させる工程と、焼結した固体電解質層の表面にもう一方の電極を成形し800℃〜1200℃で焼結させる工程と、を備えるセル作製方法が好ましい。なお支持体と電解質の共焼成時の焼結温度は、支持体からの金属成分の拡散を抑制する観点と、ガス透過性の無い固体電解質層を得る観点から、1250℃〜1350℃がより好ましい。
【0063】
本発明における固体電解質層の作製方法については、特に制限はなく、スラリーコート法、テープキャスティング法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、EVD法、CVD法、RFスパッタリング法などを用いて作製することができるが、量産性に優れ、低コストであるという観点から、スラリーコート法が好ましい。
【0064】
本発明における固体電解質形燃料電池の形状については特に限定はなく、平板型、円筒型いずれであっても良く、例えばマイクロチューブのタイプ(外径10mm以下、より好ましくは5mm以下)にも適用可能である。ところで本発明における効果は、特に600℃〜800℃程度の作動温度において優れた発電性能が得られる。固体酸化物形燃料電池の低温作動化は、固体酸化物形燃料電池の起動性の面から好ましい。急速起動、急速停止に対する信頼性、安定性の観点から、固体酸化物形燃料電池の形状については円筒型が好ましい。
【0065】
本明細書中におけるセリウム含有酸化物、およびランタンガレート酸化物は、添加原子の量や種類に関係して酸素欠損を生じているため、正確には、一般式Ce1-xLnxO2-δ、およびLa1-aAaGa1-bXbO3-δのように記載される。ここでδは酸素欠損量である。しかしδを正確に測定するのは困難であるため、本明細書のセリウム含有酸化物、およびランタンガレート酸化物は便宜上、一般式Ce1-xLnxO2、およびLa1-aAaGa1-bXbO3の様に記載した。
【実施例】
【0066】
[バルク体による焼結助剤の検討および電気伝導性の評価]
固体電解質層における第一の層のセリウム含有酸化物に添加する焼結助剤について、プレス体を作製し検討を行った。セリウム含有酸化物としては、LDC40粉末を使用した。Ga元素を含む焼結助剤としてはGa2O3粉末を、B元素を含む焼結助剤としてはH3BO3粉末またはBN粉末を使用し、いずれも酸化物換算で表2の条件となるようにLDC40粉末に対して混合して混合粉を作製した。なお混合は湿式ボールミルで行った。得られた混合粉にバインダーを加えた後、一軸プレス成形を行いプレス体を作製した。該プレス体を表2に示す所定の温度で焼成した。得られた焼結体の相対密度をアルキメデス法により測定した。また得られた焼結体を厚さ1mmに研磨後、白金ペーストを塗布し、白金線を取り付け、1000℃で焼付けた。作製したサンプルについて交流インピーダンス法を用いてペレットの電気伝導度を測定した。
【0067】
なお、比較として、焼結助剤を添加しないでLDC40粉末の焼結体を作製し、同様に相対密度および電気伝導度について測定を行った。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に各ペレットの焼結後の相対密度と電気伝導度の結果を示した。本発明で提案するGa元素やB元素を含む焼結助剤を添加することで、大幅に焼結性が向上し、1400℃程度でも十分緻密な焼結体を得ることができた。また焼結助剤を添加することによる電気伝導度への悪影響はなく、逆に緻密性が向上したことによって、電気伝導度は向上することが確認できた。焼結助剤としてGa2O3粉末を添加した場合(試料No.1〜10)、Ga元素の含有量を酸化物換算でXwt%としたとき、0<X≦5の場合に高い相対密度および電気伝導度を得ることができるため好ましいことが確認できた。さらに0.3<X<2.0のときには、1600℃で焼成することで緻密化した焼結助剤無添加のLDC40(試料No.25)よりも高い電気伝導度が得られたことから、より好ましいことが確認できた。焼結助剤としてH3BO3粉末(試料No.11〜16)またはBN粉末(試料No.17〜23)を添加した場合、B元素の含有量を酸化物換算でYwt%としたとき、0<Y≦2の場合に高い電気伝導度を得ることができるため好ましいことが確認できた。
【0070】
[燃料電池セルの作製と発電評価]
本実施例においては、両端が開放された円筒型固体酸化物形燃料電池を作製した。燃料極を支持体としたタイプと、空気極を支持体としたタイプについてそれぞれ作製した。以下に円筒型固体酸化物形燃料電池の作製方法について詳細を示す。
【0071】
1.燃料極を支持体としたセルの作製
図2 に作製した燃料極を支持体とした固体酸化物形燃料電池の構成を示した。すなわち燃料極支持体1の外側に形成された固体電解質層2と、該固体電解質層2の外側に形成された空気極3とから構成されたもので、燃料極支持体1と固体電解質層2との間には燃料極反応触媒層4が設けられている。また該固体電解質層2は、第一の層2aと第ニの層2bから構成される。以下に作製手順について示した。
【0072】
NiO粉末と、(ZrO2)0.90(Y2O3)0.10(以下YSZと略称する)粉末の混合物を湿式混合法で作製後、熱処理、粉砕を行い燃料極支持体原料粉末を得た。NiO粉末とYSZ粉末の混合比は重量比で65/35とした。該粉末を押出し成形法によって円筒状成形体を作製した。成形体を900℃で熱処理して仮焼体とした。仮焼体の表面に、スラリーコート法により燃料極反応触媒層、固体電解質層における第一の層、第二の層の順番で成形した。これら積層成形体を支持体と1300℃で共焼成した。なお、このとき固体電解質層における第一の層の厚さは、それぞれ表3に示す膜厚になるように調整した。また固体電解質層の第ニの層の厚さについても、それぞれ表3に示す膜厚になるように調整した。次に、空気極の面積が17.3cm2になるようにセルへマスキングをし、固体電解質層の表面に、スラリーコート法により空気極を成形し、1100℃で焼成した。なお、燃料極支持体は、共焼成後の寸法で、外径5mm、肉厚1mm、有効セル長110mmとした。以下にスラリーコート法に用いた各層のスラリー作製方法について(1-a)から(1-d)に詳しく示した。
【0073】
(1-a)燃料極反応触媒層スラリーの作製
NiO粉末とGDC10粉末の混合物を共沈法で作製後、熱処理を行い燃料極反応触媒層粉末を得た。NiO粉末とGDC10粉末の混合比は重量比で50/50とした。平均粒子径は0.5μmとなるよう調節した。該粉末40重量部を溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。
【0074】
(1-b)固体電解質層(第一の層)のスラリー作製
第一の層の材料は、LDC40粉末を用いた。焼結助剤にはGa2O3粉末を使用した。LDC40粉末40重量部およびGa2O3粉末0.2重量部(LDC40粉末に対して0.5wt%)との混合粉を、溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部と混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。
【0075】
(1-c)固体電解質層(第二の層)のスラリー作製
第二の層の材料は、La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.2O3の組成のLSGM粉末を用いた。LSGM粉末40 重量部を溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。
【0076】
(1-d)空気極スラリーの作製
空気極の材料は、La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3の組成の粉末を用いた。該粉末40重量部を溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。
【0077】
前記セル作製方法に従って、固体電解質層の第一の層に添加する焼結助剤をH3BO3粉末とし、酸化物換算でLDC40粉末に対して0.5wt%添加したタイプのセルについても同様に作製した。
【0078】
また、固体電解質層の第一の層に添加する焼結助剤をBN粉末とし、酸化物換算でLDC40粉末に対して0.5wt%添加したタイプのセルについても同様に作製した。
【0079】
また比較例として、固体電解質層の第一の層に添加する焼結助剤を無しとしたタイプのセルについても同様に作製した。
【0080】
また比較例として、固体電解質層の第一の層に使用するセリウム含有酸化物としてGDC10を使用したタイプのセルについても同様に作製した。
【0081】
また比較例として、固体電解質層の第一の層に使用するセリウム含有酸化物としてLDC10を使用したタイプのセルについても同様に作製した。
【0082】
2.燃料極支持体セルの発電試験
得られた燃料極支持体セル(電極有効面積:17.3cm2)を用いて発電試験を行った。燃料極側の集電は、燃料極支持体の内側全面に銀ペーストを塗布した後、銀メッシュを焼付けて行った。空気極側の集電も、銀ペーストを塗布した後、銀メッシュを短冊状に切断し、螺旋状に巻きつけた後、焼付けて行った。発電条件としては、燃料は(H2+3%H2O)とN2の混合ガスとした。燃料利用率は10%とした。酸化剤は空気とした。測定温度は600℃とし、電流密度0.125A/cm2での発電電位を測定した。
【0083】
【表3】

【0084】
表3に燃料極を支持体としたセルの発電試験により得られた結果を示した。なお表3中の「×」印は、発電電位が0.5V以下となった場合を示す。本発明で提案する構成とすることで、優れた発電性能が得られることが確認できた。すなわちセルNo.3とセルNo.11を比較すると、第一の層に焼結助剤を添加したことで、第一の層の緻密性が向上し、支持体とランタンガレート酸化物からなる第ニの層との反応を抑制でき、支持体からの金属成分の拡散を効果的に防止することができたため、発電性能が向上することが確認できた。また、セルNo.3とセルNo.12、13とを比較すると、第一の層におけるセリウム含有酸化物の組成を、本発明で提案するドープ量の多い組成にしたことで、第一の層と第ニの層との反応によって生じる高抵抗層の生成を防止することが出来たので、発電性能が向上することが確認できた。また、セルNo.1〜5は第ニの層の厚みを変化させたものであるが、第ニの層の厚みをTμmとしたとき、10≦T≦50とすることで高い発電性能が得られた。またセルNo.3、6、7、8は、第一の層の厚みを変化させたものであるが、第一の層の厚みをSμmとしたとき5<S<50が好ましく、更に好ましくは10≦S≦40であることが確認された。またセルNo.9、10はB元素を含む焼結助剤を使用したものであるが、Ga元素を含む焼結助剤を使用した場合と同様、高い発電性能が得られることが確認できた。
【0085】
3.空気極を支持体としたセルの作製
図3 に作製した空気極を支持体とした固体酸化物形燃料電池の構成を示した。すなわち空気極支持体5の外側に形成された固体電解質層2と、該固体電解質層2の外側に形成された燃料極7とから構成されたもので、空気極支持体5と固体電解質層2との間には空気極反応触媒層6が設けられている。また固体電解質層2と燃料極7との間には燃料極反応触媒層4が設けられている。また該固体電解質層2は、第一の層2aと第ニの層2bから構成される。以下に作製手順について示した。
【0086】
(3-a)空気極支持体の作製
空気極支持体の材料は、La0.75Sr0.25MnO3組成の粉末を用い、押出し成形法によって円筒状成形体を作製した。さらに1500℃で焼成を行い、空気極支持体とした。なお空気極支持体は、外径5mm、肉厚1mm、有効セル長110mmとした。
【0087】
(3-b)空気極反応触媒層の作製
空気極反応触媒層の材料は、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3(以下LSCFと略称する)粉末と GDC10粉末とを均一に混合したLSCF/GDC10を用いた。なおLSCFとGDC10の重量比率は50/50とした。作製方法としては、各々を共沈法で作製後、ジルコニアボールを用いてエタノール中で混合し、熱処理を施し、再びジルコニアボールを用いて粉砕して粒子径を調整した。このときの平均粒子径は5μmとした。この空気極反応触媒層粉末40重量部を溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。該スラリーを用いて、空気極支持体上にスラリーコート法により成膜し、1400℃で焼結させた。空気極反応触媒層の厚さは15μmとした。
【0088】
(3-c)固体電解質層(第一の層)の作製
前記(1-b)節で作製したスラリーを用い、前記空気極触媒層の表面にスラリーコート法で成膜し、1430℃で焼結させて固体電解質の第一の層を形成した。第一の層の厚みは10μmとした。
【0089】
(3-d)固体電解質層(第二の層)の作製
前記(1-c)節で作製したスラリーを用い、前記固体電解質層の第一の層の表面にスラリーコート法で成膜し、1430℃で焼結させて固体電解質層の第ニの層を形成した。第二の層の厚みは30μmとした。
【0090】
(3-e)燃料極反応触媒層の作製
燃料極触媒層の材料は、NiO/Ce0.8Sm0.2O2(以下NiO/SDC20と略称する)とし、共沈法で作製後、熱処理を施し、粒子径を制御して原料粉末を得た。NiO/SDC20の重量比率は、30/70、50/50の2種類を作製した。なお粉末の平均粒子径はどちらも0.5μmとした。該粉末100重量部と有機溶媒(エタノール)500重量部、バインダー(エチルセルロース)10重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)5重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部、可塑剤(DBP)5重量部を混合した後、十分撹拌してスラリーを調整した。燃料極の面積が17.3cm2になるようにセルへマスキングをし、NiO/SDC20=30/70、50/50の順番でスラリーコート法により成膜した。燃料極触媒層の厚み(焼成後)は10μmとした。
【0091】
(3-f)燃料極の作製
燃料極の材料は、NiO/SDC20とし共沈法で作製後、熱処理を施し、粒子径を制御して原料粉末を得た。NiO/SDC20の重量比率は、70/30とした。なお粉末の粒子径は1.5μmとした。該粉末100重量部と有機溶媒(エタノール)500重量部、バインダー(エチルセルロース)20重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)5重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部、可塑剤(DBP)5重量部を混合した後、十分撹拌してスラリーを調整した。燃料極反応触媒層上に燃料極をスラリーコート法により成膜した。燃料極の厚み(焼成後)は90μmとした。次に、燃料極反応触媒層と燃料極を一緒に1300℃で焼結させた。
【0092】
前記セル作製方法に従い、比較例として、固体電解質層の第一の層に添加する焼結助剤を無しとしたタイプのセルについても同様に作製した。
【0093】
また比較例として、固体電解質層の第一の層に使用するセリウム含有酸化物としてGDC10を使用したタイプのセルについても同様に作製した。
【0094】
4.空気極支持体セルの発電試験
得られた空気極支持体セル(電極面積:17.3cm2)を用いて発電試験を行った。空気極側の集電は、空気極支持体の内側全面に銀ペーストを塗布した後、銀メッシュを焼付けて行った。燃料極側の集電は、Niペーストを塗布した後、Niメッシュを短冊状に切断し螺旋状に巻きつけて行った。発電条件としては、燃料は(H2+3%H2O)とN2の混合ガスとした。燃料利用率は10%とした。酸化剤は空気とし、空気利用率は20%とした。測定温度は600℃とし、電流密度0.125A/cm2での発電電位を測定した。
【0095】
【表4】

【0096】
表4に空気極を支持体としたセルの発電試験によって得られた結果を示した。本発明で提案する構成とすることで、優れた発電性能が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の固体酸化物形燃料電池における単電池の断面を示す図である。
【図2】本発明の実施例で作製した燃料極を支持体とした固体酸化物形燃料電池の断面を示す図である。
【図3】本発明の実施例で作製した空気極を支持体とした固体酸化物形燃料電池の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
1:燃料極支持体
2:固体電解質層
2a:固体電解質層の第一の層
2b:固体電解質層の第ニの層
3:空気極
4:燃料極反応触媒層
5:空気極支持体
6:空気極反応触媒層
7:燃料極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と空気極の間に固体電解質層を備えた固体酸化物形燃料電池であって、前記燃料極または前記空気極の一方が支持体であり、前記固体電解質層は、少なくとも前記支持体側から、第一の層と第ニの層を備えてなり、第一の層は一般式Ce1-xLnxO2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.30<x<0.50)で表されるセリウム含有酸化物からなり、第ニの層は少なくともランタンとガリウムを含むランタンガレート酸化物からなり、第一の層には前記セリウム含有酸化物の焼結性を向上させ得る焼結助剤が含まれており、前記第二の層の厚みをTμmとしたとき、2<T<70であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記固体電解質層における前記第ニの層の厚みをTμmとしたとき10≦T≦50であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記第一の層と前記第ニの層との間には、介在物がないことを特徴とする請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記焼結助剤が、Ga元素またはB元素を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
前記第一の層に含まれるGa元素の含有量を酸化物換算でXwt%としたとき、0<X≦5であることを特徴とする請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
前記第一の層に含まれるB元素の含有量を酸化物換算でYwt%としたとき、0<Y≦2であることを特徴とする請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
前記第一の層の厚みをSμmとしたとき、5<S<50であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
前記一般式Ce1-xLnxO2で表されるセリウム含有酸化物におけるLnがLaであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項9】
前記燃料極を支持体とし、前記燃料極はNi及び/又はNiOと、CaO、Y2O3、Sc2O3のうちの一種以上をドープしたジルコニウム含有酸化物とが均一に混合された複合体からなることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項10】
前記燃料極と前記固体電解質層との間に、Ni及び/又はNiOと、Ce1-yLnO2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.05≦y≦0.50)で表されるセリウム含有酸化物とが均一に混合された燃料極反応触媒層が設けられ、該燃料極反応触媒層に含まれる前記セリウム含有酸化物が10〜90重量部であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項11】
前記ランタンガレート酸化物は、一般式La1-aAaGa1-b-cXbZcO3(但し、AはSr、Ca、Baのいずれか一種又は二種以上、XはMg、Al、Inのいずれか一種又は二種以上、ZはCo、Fe、Ni、Cuのいずれか一種又は二種以上であり、0<a<1、0<b<1、0≦c≦0.15)で表されるランタンガレート酸化物であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項12】
前記ランタンガレート酸化物は、一般式La1-aSraGa1-b-cMgbCocO3(但し、0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦c≦0.15)で表されるものであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−302709(P2006−302709A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124099(P2005−124099)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)「DME・LPGを燃料としたマイクロ固体酸化物型燃料電池の研究」」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】