説明

固体酸化物形電気化学セルの製造方法

【課題】本発明は、緻密な電解質上に焼結により作製した場合に剥離やクラックを生じず、かつ必要な多孔性が失われることのない中間層や電極の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】電解質上に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と焼成時の収縮率が大きい導電性酸化物を主体とする微細粉とを混合した混合粉末を形成する工程、及び該混合粉末を焼結し焼結層とする工程を含むことを特徴とする固体酸化物形電気化学セルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形電気化学セルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SOFC、SOEC等の固体酸化物形電気化学セルは、長寿命化等の観点から600〜800℃程度まで動作温度を低温化してきている。電極は電子とイオンをやりとりするため、電解質、ガス相との3相界面が必要であり、ガスの拡散を容易にするため多孔性、集電のための電子導電性が求められる。従来、気体管、内側電極、電解質、外側電極あるいは気体管、内側電極、電解質、中間層、外側電極から構成される円筒型電気化学セルは製造コストが安価であることから湿式法を用いた焼結法により作製されている。
【0003】
中間層や電極は緻密な電解質上に成膜する必要があるが、焼結により作製した場合、電解質との収縮率の違いにより、剥離やクラックを生じやすい。また、接着性をあげるため、高温で焼結を行うと焼結が進み電極に必要な多孔性が失われるなど問題があった。このため、中間層や電極には電解質との収縮率に近い材料を使用するなど電極の選択の幅が狭くなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−30720号公報
【特許文献2】特開2000−239081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、固体酸化物形電気化学セルの製造に当たり、緻密な電解質上に焼結により多孔質中間層や電極を作製した場合に剥離やクラックを生じず、かつ必要な多孔性が失われることのない製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、次のような固体酸化物形電気化学セルの製造方法を提供する。
(1)電解質上に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と焼成時の収縮率が大きい導電性酸化物を主体とする微細粉とを混合した混合粉末を形成する工程、及び該混合粉末を焼結し多孔焼結層とする工程を含むことを特徴とする固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
(2)緻密電解質上に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と焼成時の収縮率が大きい導電性酸化物を主体とする微細粉とを混合した混合粉末を形成する工程、該混合粉末に導電性酸化物の構成元素からなる溶液を混合する工程、及び該混合粉末を焼結し多孔質焼結層とする工程を含むことを特徴とする固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
(3)緻密電解質上に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と焼成時の収縮率が大きい導電性酸化物を主体とする微細粉とを混合した混合粉末を形成する工程、該混合粉末に固体電解質酸化物の構成元素からなる溶液を混合する工程、及び該混合粉末を焼結し多孔質焼結層とする工程を含むことを特徴とする固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
(4)緻密電解質上に導電性酸化物の構成元素からなる溶液に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉を混合する工程、及び粗大粉を混合した該溶液を焼結し多孔質焼結層とする工程を含むことを特徴とする固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
(5)上記粗大粉及び微細粉は、それぞれ熱処理温度又は熱処理時間を変えて作製されていることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
(6)上記溶液は、金属セッケンであることを特徴とする(2)ないし(4)のいずれかに記載の固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
(7)上記多孔質焼結層とする工程は、電気化学セルの空気極あるいは空気極と電解質との間の中間層を形成する工程であることを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載の固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
(8)上記導電性酸化物は、混合導電性酸化物であることを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載の固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電解質との接着性の向上や焼結による多孔性の減少を防ぐことができ、容易に電極反応性の高い中間層や空気極が作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】2種類のSSC粉末を使用した混合粉体のモデル図
【図2】各SSC粉末のSEM像
【図3】各SSC空気極の表面状態の光学顕微鏡像
【図4】電極A及び電極Cの断面のSEM像
【図5】電極A及び電極Cの電気抵抗測定結果
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、固体酸化物形電気化学セルの製造方法において、電解質上に形成される電気化学セルの空気極あるいは空気極と電解質との間の中間層の形成に際し、電解質上に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と焼成時の収縮率が大きい導電性酸化物を主体とする微細粉とを混合した混合粉末を形成した後に該混合粉末を焼結し焼結層とすることを特徴とするものである。
以下本発明についてSm0.5Sr0.5CoO3(SSC)を用いた空気極の製造を例示して説明する。
【0010】
(本発明の原理)
粒子径と収縮率の異なる2種類のSSC粉末を使用しSSC空気極を作製する。使用する2種類のSSC粉末は、粒子径が小さく収縮する粒子から構成される粉末(powder-A)と、粒子径が大きく収縮しない粒子から構成される粉末(powder-B)を用いる。powder-Aに収縮しない粉末のpowder-Bを加えることによって、焼結時のSSC空気極の収縮を抑制する効果が期待される。また、powder-Bのみでは粒子同士の焼結が不十分になりSSC空気極が脆くなってしまうことが考えられることから、粒子同士を焼結させる役割として収縮するpowder-Aを混合することで、収縮が小さく焼結するSSC空気極の作製につながる。
【0011】
図1に2種類のSSC粉末を使用したSSC混合粉体のモデル図を示す。powder-Aの粒子径をr、収縮率を10%、powder-Bの粒子径を10r、収縮率を0%と仮定し、2種類のSSC粉末を使用した際の収縮率の抑制効果を検討する。図1のようにpowder-Bの周囲をpowder-Aが取り囲んだ状態を考えると、焼成前の長さは23rとなる。この状態で焼結するとpowder-Aのみが10%収縮するため、22.7rとなり収縮率は1.3%となる。powder-Aのみを使用した場合は10%収縮するので、powder-Aとpowder-Bの2種類を混合することで大幅な収縮の抑制につながり、SSC空気極の剥離やクラックの防止に大きな効果があることが分かる。
【0012】
(実施例)
粒子径が小さく収縮するpowder-Aは、市販のSm0.5Sr0.5CoO3粉末を使用した。powder-Bは、焼結時に収縮させないために市販のSSC粉末を前処理として1100℃で1時間焼成を行い、ボールミルで粉砕することによって得た。得られた粉末の形状観察を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行った。得られたSEM像を図2に示す。SEM観察から、powder-Aは0.4μm程度、powder-Bは1.5μm程度の粒子径であることが確認された。
使用したSSC粉末のデータを整理すると、表1のとおりである。
【0013】
【表1】

【0014】
次にこれらの粉体の混合粉末に造孔材、有機溶剤等を加えて作製したペーストを用いてSSC空気極の作製を行った。なお上記ペーストには必要に応じてアクリル粒子、カーボン等の造孔材を添加してもよい。
本実験では、実際のセルに類似した形状のZrO2管(外径15mm)を使用し、ZrO2管上にSSC空気極の作製を行った。また、ペーストの塗布は刷毛塗りにより行った。塗布後、乾燥機にて乾燥を行い、その後焼成を行うことによってSSC空気極を作製した。その際の各作製条件を表2に示す。ペースト1(重量比powderA:powderB=1:0.9)を用いて、塗布を1度行ったSSC空気極を電極A、電極Aより膜厚を増加させるために塗布を2度行ったSSC空気極を電極B、ペースト2(重量比powderA:powderB=1:2)を用い塗布を2度行い、乾燥を長めに行ったSSC空気極を電極Cとする。
【0015】
【表2】

【0016】
図3に、ZrO2管上に作製したSSC空気極の光学顕微鏡による表面観察結果を示す。図3より電極Aは、剥離やクラックが無く良好な状態であることが確認された。これは、収縮しないpowder-Bを混合し焼結の際の収縮を抑制したことにより、ZrO2管との収縮の差が小さくなり良好なSSC空気極が作製されたと考えられる。
しかし、膜厚を電極Aより増加させた電極Bは、クラックが確認された。この原因として、膜厚を増加させたことで収縮の差の影響が出やすくなったため、クラックが生じやすくなったと思われる。
一方、同様に膜厚を増加させた電極Cはクラックが確認されなかった。電極Cは、電極Bに使用した電極Aよりもpowder-Bの混合比が多いペースト2を使用した。そのため、さらに収縮が抑制されZrO2管との収縮の差が小さくなり、膜厚を増加させても良好なSSC空気極が作製できたと考えられる。
【0017】
図4に、良好に作製された電極A及び電極Cの断面のSEMによる観察結果を示す。電極Aは膜厚約7.5μmであり、小さな粒子と大きな粒子の混合状態であることが観察された。電極Cは膜厚約15μmであり、電極Aと同様に2種類の粒子の混合状態であることが観察された。
また、作製したSSC空気極の気孔率を算出した結果、電極Aと電極Cの両方とも約30%であり、使用したペーストの違いによる気孔率の変化は確認されなかった。
【0018】
図5に、電極A及び電極Cの室温における電気抵抗測定結果を示す。電極Aは、電極間距離5cmにおいて0.42Ωであり良好な伝導性を示した。これは、焼成時にクラックが入らなかったため、伝導パスが良好につながったためであると考えられる。一方、膜厚を増加させた電極Cは、電極間距離5cmにおいて0.27Ωを示した。この抵抗値は、電極Aの約0.6倍であり、膜厚が約2倍厚くなったこととほぼ一致し、良好に膜厚の増加したSSC空気極が作製された。
【0019】
以上の結果から、powder-A及びpowder-Bを混合することによって、良好なSSC空気極が作製可能であることが確認された。
なお本発明の説明のためにSSC空気極を例示したが本発明はSSC以外の材料にによる空気極にも適用できる。
また空気極に限らず空気極と電解質との間の中間層の形成にも適用できる。
【0020】
(変形例)
本発明は、固体酸化物形電気化学セルの製造に際し、緻密電解質上に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と焼成時の収縮率が大きい導電性酸化物を主体とする微細粉とを混合した混合粉末を形成する工程、及び該混合粉末を焼結し多孔質焼結層とする工程を有することを基本工程とするが、次のような変形も可能である。
【0021】
導電性酸化物の構成元素からなる溶液を酸化、焼結すると微細粉が得られるため、微細粉に代えて、導電性酸化物の構成元素からなる溶液を用意し焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と混合して焼結してもよい。
【0022】
さらに上記基本工程に導電性酸化物の構成元素からなる溶液を混合する工程を追加してもよい。これは、導電性酸化物の構成元素からなる溶液を混合することで混合粉末のつなぎの役目をして、均一な焼結体を得ることができることによる。
また電極は電解質と接着性が良いことが求められる。このため上記基本工程に固体電解質酸化物の構成元素からなる溶液を混合する工程を追加することができる。これは、電解質と電極の混合体の中間体ができるため、接着性の良い電極の作製が可能となる。
使用する溶液としてナフテン酸塩、オクチル酸塩などの金属セッケンが使用できる。これは、金属セッケンが酸化熱分解されることで、上記の酸化物の薄膜や微細粉が作製されることによる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緻密電解質上に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と焼成時の収縮率が大きい導電性酸化物を主体とする微細粉とを混合した混合粉末を形成する工程、及び該混合粉末を焼結し多孔質焼結層とする工程を含むことを特徴とする固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
【請求項2】
緻密電解質上に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と焼成時の収縮率が大きい導電性酸化物を主体とする微細粉とを混合した混合粉末を形成する工程、該混合粉末に導電性酸化物の構成元素からなる溶液を混合する工程、及び該混合粉末を焼結し多孔質焼結層とする工程を含むことを特徴とする固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
【請求項3】
緻密電解質上に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉と焼成時の収縮率が大きい導電性酸化物を主体とする微細粉とを混合した混合粉末を形成する工程、該混合粉末に固体電解質酸化物の構成元素からなる溶液を混合する工程、及び該混合粉末を焼結し多孔質焼結層とする工程を含むことを特徴とする固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
【請求項4】
緻密電解質上に導電性酸化物の構成元素からなる溶液に焼成時の収縮率が小さい導電性酸化物を主体とする粗大粉を混合する工程、及び粗大粉を混合した該溶液を焼結し多孔質焼結層とする工程を含むことを特徴とする固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
【請求項5】
上記粗大粉及び微細粉は、それぞれ熱処理温度又は熱処理時間を変えて作製されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
【請求項6】
上記溶液は、金属セッケンであることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
【請求項7】
上記多孔質焼結層とする工程は、電気化学セルの空気極あるいは空気極と電解質との間の中間層を形成する工程であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルの製造方法。
【請求項8】
上記導電性酸化物は、混合導電性酸化物であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルの製造方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−9144(P2011−9144A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153645(P2009−153645)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度経済産業省原子力試験研究委託費「原子力エネルギー利用高温水蒸気電解技術の開発」産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】