説明

固体酸触媒

【課題】活性低下までの運転時間を長くするアルキル化プロセス用固体酸触媒を提供する。
【解決手段】アルキル化プロセスに用いられる固体酸触媒が記載されている。固体酸触媒は、水素の存在下で触媒の再活性化(または再生)のための水素化機能を果たす多元金属(例えば二元金属、三元金属または四元金属)成分を含む。多元金属触媒は、白金またはパラジウムなどの貴金属を含む。本発明は、水素化のための多元金属成分を有する多元金属固体酸触媒を用いるアルキル化プロセスにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条(e)にもとづき、参照によって内容が本明細書に全体として組み込まれる2006年10月17日出願の米国特許仮出願第60/852,380号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、アルキル化プロセスに用いられる固体酸触媒に関する。本固体酸触媒は、水素の存在下で触媒の再活性化(または再生)のための水素化機能を発揮する多元金属(例えば二元金属、三元金属または四元金属)成分を含む。本発明は、水素化のための多元金属成分を有する固体酸触媒を用いるアルキル化プロセスにも関する。
【背景技術】
【0003】
「アルキル化」は、全体として、芳香族または飽和炭化水素などの炭化水素とオレフィンとの反応を指す。例えば、特に興味ある反応の1つの種類において、イソブタンなどの分岐飽和炭化水素を、2−ブテンなどの2〜6の炭素原子を含むオレフィンによってアルキル化させてオクタン価の高くなった、ガソリン範囲で沸騰するアルキル化物を製造することができる。オレフィンによるパラフィンのアルキル化を目的とするプロセスによって、オクタンの異性体、例えば高いオクタン価を有するトリメチルペンタン類(「TMP類」)などのガソリン成分用の分岐炭化水素分子を製造する。多くの場合、リサ−チオクタン価(「RON」)として表わされるオクタン価の高いガソリンはエンジンのノッキングを減らすことができる。これによって、テトラエチル鉛などの環境に有害なノッキング防止化合物を加える必要を減らす。第2のオクタン指標であるモーター法オクタン価(「MON」)もガソリンのノッキング防止特性を記述する。MONは試験エンジンを高負荷(高rpm)下で作動させて測定され、RONは低負荷(低rpm)で測定される。
【0004】
アルキル化プロセスによって製造されるガソリンは、重質石油留分、例えば真空ガス油および常圧残渣をクラッキングするなどの他のプロセスによって得られるガソリンの中に存在することがある硫黄および窒素などの汚染物質を基本的に含まない。燃焼生成物である硫黄酸化物(「SOx」)は汚染物質の主因である。SOxが直接放出される他に、SOxは触媒コンバ−タの有効性を著しく低下させ、それによってSOx、NOxおよびCO放出を悪化させ得る。SOxは、水とSOxとの組み合わせである間接粒子も形成して亜硫酸および硫酸を生成する。これら間接粒子は、通常、1〜10ミクロンの範囲で存在し、特に喘息または肺気腫を病む人々に健康問題を引き起こす「吸引性粒子」である。アルキル化物はまた、ナフサを改質するかまたは重質石油留分をクラッキングして得られるガソリンと異なり、芳香族化合物またはオレフィンを含んでいたとしても非常にわずかしか含んでいない。芳香族化合物、特にベンゼンは有毒であり、オレフィンはオゾンおよびスモッグの原因となる光化学反応において反応性である。
【0005】
アルキル化反応は酸によって触媒される。アルキル化プロセスでは、普通、硫酸またはフッ化水素酸などの液体酸触媒が用いられてきた。液体酸触媒を用いるといくつか問題がある。用いられる液体酸は腐食性が高く、特別な品質の高価な装置が必要である。結果として得られる燃料の中にこれらの酸が存在すると望ましくないので、アルキル化物中に残留する酸を完全に除去しなければならない。このプロセスは複雑であり、高価である。さらに、液体酸、特にフッ化水素酸は、環境中に放出されると危険である。
【0006】
液体酸触媒のこれらの欠点および他の欠点に対処するためにアルキル化プロセスに用いられる固体酸触媒が開発された。これらの固体触媒は通常、固体酸触媒と、水素化機能を提供する金属とを使用する。例えば米国特許第6,855,856号明細書に、ゼオライトなどの固体酸と、水素化機能とを含む触媒が記載されている。記載されている固体酸は、触媒粒子の特定の長さに対する触媒細孔の容積の比に関する定められた範囲を有する。
【0007】
従来の固体酸触媒の欠点は、アルキル化反応を抑制する、非常に柔らかなコークにいくらか似たポリアルキル化物(例えばC12+生成物)の形成によって触媒が急速に活性低下し得ることである。触媒が特定のレベルのポリアルキル化物を形成するとすぐに、触媒は基本的にアルキル化反応を停止する。多くの場合に好ましい構成である固定床反応器中では、活性低下が帯状のエ−ジングとして起こり、固定床の大部分が不活性になるまで活性低下区域が帯として固定床全体を移動するのを見ることができる。この触媒活性低下によって、触媒を定期的に再生してプロセスが十分な収量の所望の生成物を製造することを確実にすることが必要になる。触媒の再生には、通常、ある期間アルキル化プロセスを停止させることが必要である。これは、特にプロセスの「稼働率(オンストリ−ム:onstream)」因子を低下させて生産量を減少させ、アルキル化プロセスのコストを増加させる。
【0008】
好ましい触媒の再生方法は水素化である。水素化機能は通常、元素の周期律表のVIII族の金属、特に白金(Pt)またはパラジウム(Pd)などの貴金属によって提供される。古典的な二元機能(金属/酸)触媒と異なり、水素化機能は、アルキル化反応自体において直接的な役割をほとんどまたはまったく演じない。その代り、水素化機能は、活性低下した触媒の効果的なH再活性化(本明細書中では「再生」とも呼ばれる)において非常に重要な役割を演じる。水素化機能は、下記に記載されるいわゆる低温(「低T」)再生と高温(「高T」)再生との両方において重要である。
【0009】
改善された固体酸触媒を開発するためにさまざまな試みがなされた。例えば、米国特許公開第2004/0162454号明細書には、ナノ結晶ゼオライトYと水素化金属とを含むアルキル化触媒が記載されている。ナノ結晶ゼオライトYの細孔サイズによって、RONおよびMONが高くなったアルキル化物が得られると同時に触媒使用時間が長くなる。ナノ結晶ゼオライトY触媒は、PtまたはPdなどの、水素化機能を提供する元素の周期律表のVIII族の金属も含む。
【0010】
固体酸触媒を用いるアルキル化プロセスの効率および生産性を増加させるために、固体酸触媒を再生するプロセスを改善するさまざまな方法が開発された。例えば、米国特許第7,176,340号明細書には、合計すると少なくとも4つの触媒含有反応器を用いるアルキル化のための連続プロセスが記載されている。しかし、複数の反応器を用いるとプロセスのコストが増加する。このコスト増加は、プロセス全体の効率増加によって少なくとも部分的に相殺され得る。米国特許第5,986,158号明細書には、飽和炭化水素および水素を含む原料と接触させることによって触媒を間欠的に再生工程に付し、触媒の活性サイクルの90%以下において再生を実行するアルキル化プロセスが記載されている。これらの再生方法は、アルキル化プロセスの全体的な効率を改善するが、必要な固体酸触媒および関連貴金属の量が比較的大きいことがアルキル化プロセスの商業的実用性に影響を及ぼす問題となり得ると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,855,856号
【特許文献2】米国特許公開第2004/0162454号
【特許文献3】米国特許第7,176,340号
【特許文献4】米国特許第5,986,158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
活性低下までの運転時間を長くするアルキル化プロセス用固体酸触媒があれば望ましい。PtまたはPdと比較して同等または改善された性能を提供し、より低いコストで入手することができる水素化機能のための金属を利用する固体酸触媒も望ましい。本発明は、アルキル化プロセスにおいて用いられる従来の固体酸触媒のこれらおよび他の欠点または弱点の1つ以上を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、オレフィン/パラフィンアルキル化のための固体酸触媒、および該アルキル化プロセスにおける該固体酸触媒の使用を目的とする。固体酸触媒は、ゼオライトと、水素化機能とを含む。ゼオライトは、アルキル化プロセスのための固体酸触媒に用いられる当業者に既知の任意のゼオライトであってよい。好ましい実施態様では、固体酸触媒の中にフォ−ジャサイト(faujasite)構造を有するゼオライトを用いてよい。拡張フォ−ジャサイト系列は、X、Y、ZSM−20およびEMTを含んでよい。本発明の説明においては、好ましい実施態様の記載を、ゼオライトY(「USY」、すなわち24.50Å以下の単位格子を有する超安定Yを含む)、ゼオライトX、およびゼオライトXとYとの組み合わせに絞る。
【0014】
好ましくは、水素化機能は、多くの場合に二元金属または三元金属成分によって提供される。通常、二元金属または三元金属成分は、さまざまな貴金属、例えばPtまたはPdを、例えばPtNi、PtCo、PtAg、PtAu、PtPdNi、PtPdAg、PtPdAu、PdNi、PdAgおよびPdAuなどの組み合わせとして含むと考えられる。PtまたはPdとRu、Ir、Rh、CuおよびReとの組み合わせも用いられてきた。場合によっては、四元金属を使用することができる(例えば、PtPdAgAuまたはPtNiReIrAu)。
【0015】
本発明は、従来の二元金属貴金属触媒の使用と一線を画する。本発明の触媒中では、強力な水素化機能は、Ptと少なくとも1つの「3d」金属(すなわちNi、Co、Mn、Cr、V、FeまたはTi)との組み合わせによって提供される。本発明者らは、この相乗効果的な組み合わせによって、PtまたはPd担持率が低くても優れた再生を提供し得ることを発見した。この調合によって触媒コスト全体を低下させ、廃棄物回収を簡略化することができる。一実施態様では、本新規触媒は、1つの貴金属がPtまたはPdである限り、1つまたは2つの「3d」金属を1つまたは2つの貴金属とともに含んでよい。別の実施態様では、本触媒は、PtまたはPdと3つの「3d」金属とを含む。
【0016】
任意選択として、固体酸触媒成分は、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、粘土、またはそれらの組み合わせなどのマトリックス材料を含んでよい。
【0017】
本触媒を、ブチレン(理想的には2−ブテン)によるイソブタンのアルキル化などのオレフィンによるパラフィンのアルキル化のためのプロセスにおいて用いて高いRONおよびMONを有するガソリン製品を製造してよい。
【0018】
本発明の固体酸触媒の1つの利点は、PtまたはPdだけを有する触媒よりコストが低いのに同等以上の再生負荷に耐える多元金属材料を含む点である。本発明のその他の利点は、下記に示す好ましい実施態様の詳細な説明によって当業者に自明となろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例8〜14に記載されているプロセスにおいて用いられる反応器システムの概略図である。
【図2】実施例8〜14のプロセスにおいて用いられる実施例1〜7の触媒のオレフィンブレークスルー時間を示すグラフである。
【図3】実施例のコーク形成手順およびH再生手順において用いられる実験手順を要約するチャ−トである。
【図4】コークおよびコーク前駆体の特性振動数値を要約する表である。
【図5】「コーク形成した」0.35質量%Pt/USY触媒上のCO化学吸着のグラフである。
【図6】0.35質量%Pt/USY触媒上の「コーク」形成を示すグラフである。
【図7】0.35質量%Pt/USY触媒のH再生を示すグラフである。
【図8】0.105質量%Ni−0.35質量%Pt/USY触媒上の「コーク」形成を示すグラフである。
【図9】0.105質量%Ni−0.35質量%Pt/USY触媒のH再生を示すグラフである。
【図10】0.105質量%Ni−0.12質量%Pt/USY触媒上の「コーク」形成を示すグラフである。
【図11】0.105質量%Ni−0.12質量%Pt/USY触媒のH再生を示すグラフである。
【図12】60分間のコーク形成後の種々の触媒上のCO化学吸着容量を示すグラフである。
【図13】100分間の再生後の種々の触媒上のCO化学吸着容量を示すグラフである。
【図14】0.15質量%Pt、0.12質量%Pt−0.11質量%Co、および0.12質量%Pt−0.10質量%Ni触媒のCO吸着容量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、ガソリン製品を製造するオレフィン(例えば2−ブテン)によるパラフィン(例えばイソブタン)のアルキル化のためのプロセスに用いられる触媒に関する。本触媒は、固体酸ゼオライトと、水素化機能とを含む。本触媒は、マトリックス材料またはバインダ−材料も含んでよい。水素化機能は、主としてゼオライト構造の中に組み込まれた多元金属成分、好ましくは二元金属または三元金属成分によって提供される。しかし、本発明はこの点について限定されず、言及される水素化機能の一部がバインダ−ならびにゼオライト外表面に存在してよい。好ましい実施態様の以下の記載は、触媒を記載する際に用語「二元金属」を一般的に用いるが、本発明は二元金属の使用に限定されず、水素化機能を提供する任意の多元金属材料、または多元金属材料の組み合わせが固体酸触媒の中に組み込まれてよいことを理解すべきである。
【0021】
当分野において、アルキル化プロセスに用いられる多数の固体酸ゼオライトが知られている。任意のこれらのゼオライトを本発明における固体酸触媒として用いてよい。本発明において用いられる好ましいゼオライトは、ゼオライトYまたはゼオライトXなどのフォ−ジャサイト構造を有するゼオライトである。ゼオライトYが特に好ましい。特に好ましい実施態様では、例えばそれぞれの内容が本明細書に全体として組み込まれる米国特許第6,793,911号明細書および米国特許出願公開第2004/0162454号明細書に記載されているナノ結晶ゼオライトYなどのナノ結晶ゼオライトYが用いられる。
【0022】
米国特許出願公開第2004/0162454号明細書に記載されているように、ナノ結晶ゼオライトYは、アルキル化プロセスにおいて用いられるとき利点を提供する。このゼオライトは、約100ナノメ−トル(nm)を超えない結晶サイズを有する。多くの反応体および、より重要なことに生成物の最大拡散距離が減少する。1)所望のC生成物が次段のアルキル化反応の起こる前、すなわちC12+重質分の生成する前に触媒から離れること、および2)好ましくない縮合反応を受ける前にコーク前駆体(例えばC12+重質分)が触媒から離れることを可能にすることによって、コーク形成および関連する触媒活性低下が減少する。ナノ結晶ゼオライトY触媒は、有効因子改善によって大型結晶サイズを有するゼオライト触媒より高い活性を示す。
【0023】
好ましくは、固体酸触媒における水素化機能は、触媒的に活性な二元金属または三元金属成分によって提供される。好ましくは、二元金属または三元金属成分は、元素の周期律表のVIII族からの少なくとも1つの金属で構成される。PtNi、PtCo、PtAg、PtAu、PdNi、PdAg、およびPdAu、またはPtPdNi、PtPdAg、PtPdAuなど、PtまたはPdを金属の1つとして含む多元金属成分が好ましい。PtまたはPdとRu、Ir、Rh、CuおよびReとの組み合わせも用いてよい。本発明は、この点について限定されず、アルキル化反応において水素化機能を提供する任意の多元金属(特に二元金属または三元金属)成分を用いてよい。例えばMoおよびVを含むVIB族金属を多元金属成分中に用いてもよく、例えばTiNiHfの組み合わせなどのPtもPdも含まない多元金属も用いてよい。
【0024】
多元金属(特に二元金属または三元金属)成分は、例えばイオン交換、ゼオライトの含浸、またはゼオライトを作るもとの合成材料の中への多元金属の組み込みによるなどの当業者に既知の通常の技法を用いてゼオライトの中に組み込まれる。多元金属の組み込みの好ましい方法はイオン交換による。ゼオライトは非常に選択性が高いので、多元金属の塩を選んで多元金属成分の取り込みを促進することができる。例えば、多元金属のテトラアンミン錯陽イオンの塩(例えば塩化物、硝酸塩または水酸化物)を調製し、二元金属成分をゼオライトの中に組み込むために用いてよい。多元金属は、ときに「二重ディップ」と呼ばれる逐次的なプロセスを用いて組み込んでもよい。このプロセスでは、ゼオライトを塩の溶液に曝露し、続いて乾燥させ、焼成して多元金属をゼオライトの中に固定し、所望の量の多元金属がゼオライトの中に組み込まれるまでこのプロセスを繰り返す。
【0025】
好ましくは、固体酸触媒は、約0.01質量%から約2.0質量%の多元金属(例えば二元金属または三元金属)成分を含み、より好ましくは、約0.02質量%から約1.0質量%の多元金属成分、さらに好ましくは、約0.05質量%から約0.5質量%の多元金属成分を含む。
【0026】
固体酸触媒は、通常、特に物理的な一体性(例えば圧壊強度、微粉発生低下等)ならびにマクロ多孔性を付与するために、マトリックス(バインダ−とも呼ばれる)成分を含むことになる。用いられる場合、マトリックス成分は、多元金属を触媒の中に組み込むプロセスの前、または後に、ゼオライトと組み合わしてよい。一般的に、マトリックス成分として用いてよい材料は、アルミナ類、シリカ類、シリカ−アルミナ類、ジルコニア類、粘土類等などの無機酸化物である。マトリックスは、ゾル、ハイドロゲルまたはゲルの形であってよく、触媒的に活性であっても不活性であってもよい。マトリックス材料が用いられる場合、マトリックス材料は、マトリックス材料とゼオライトとの合計重量の約2質量%から約98質量%のマトリックス材料を構成してよい。固体酸触媒の中に含まれるマトリックス材料の量は、マトリックス成分によるゼオライトの希釈を考慮して十分な触媒活性を維持しながら所望の圧壊強度を実現するように選ぶ。好ましくは、マトリックス材料は、マトリックス材料とゼオライトとの合計重量の約5質量%から約70質量%、より好ましくは約10質量%から約50質量%の間を構成することになる。特に好ましい実施態様では、マトリックス材料は、マトリックス材料とゼオライトとの合計重量の約15質量%から約30質量%の間を構成する。
【0027】
好ましくは、多元金属固体酸触媒は、約0.08mmから約2.5mmの間の押し出し成形物直径を有する。固定床式反応器の中で用いられるとき、好ましくは、押し出し成形物直径は少なくとも約0.5mmであり、上限は約1.8mmである。流動床またはスラリー反応器の中ではこれより小さな直径を用いてよい。好ましくは、触媒は、ゼオライトXまたはYを用いるとき、約7.4Åのマイクロ細孔平均直径を有する。
【0028】
多元金属固体酸触媒は、高いRONおよびMONを有するガソリンを製造するパラフィンとオレフィンとの反応を触媒するいくつかのアルキル化プロセス装置の中で用いてよい。アルキル化プロセスは、随伴流動床プロセス、固定流動床プロセス、沸騰床反応器、スラリープロセスおよび固定床プロセスによるなど、当業者に既知の任意の適当な形の反応システムの中で実行してよい。例えば、アルキル化プロセスは、それぞれの内容が本明細書に全体として組み込まれる米国特許第6,844,479号明細書または米国特許出願公開第2004/0162454号明細書に記載されているものなどのプロセスであってよい。
【0029】
通常、アルキル化プロセスは、アルキル化剤およびアルキル化可能な化合物の少なくとも一部が液相中または超臨界相中にあるような条件下で実施される。一般に、プロセスは、約−40℃から約250℃の範囲、好ましくは約50℃から約150℃の範囲、より好ましくは約70℃から約100℃の範囲の温度、および約1から約100バ−ルの間、好ましくは約10から約40バ−ルの間、より好ましくは約15から約30バ−ルの間の圧力で実施される。反応器の中の全原料中のアルキル化剤に対するアルキル化可能な化合物のモル比は、好ましくは約5:1より高く、より好ましくは約50:1より高い。モル比が高いほど、一般的に製品オクタン価および触媒安定性を増加させるので、性能上の理由によって好ましいと考えられる。この比についての上限は、利用されるプロセスの種類およびプロセス経済性によって決定される。モル比上限は重要ではなく、約5000:1の高さであってもよい。通常は、例えば約1000:1以下のモル比が経済的な理由によって好ましい。多くの現行の用途では、アルキル化剤に対するアルキル化可能な化合物のモル比150〜750:1が最も好ましいと考えられる。一般的に、アルキル化剤の供給速度(WHSV)は、時間あたり触媒グラムあたりのアルキル化剤が約0.01グラムから約5グラムの範囲、好ましくは約0.05グラムから約0.5グラムの範囲、より好ましくは約0.1グラムから約0.3グラムの範囲である。アルキル化可能な飽和炭化水素のWHSVは、好ましくは約0.1から約500の範囲である。本発明の固体酸触媒の使用はいかなる特定の反応条件にも限定されず、上記に記載した条件は例を示すものであると理解するべきである。
【0030】
本発明の触媒は、2〜10の炭素原子、好ましくは2〜6の炭素原子、より好ましくは3〜5の炭素原子を有するオレフィンによってイソブタン、イソペンタン類またはイソヘキサン類あるいはそれらの混合物などの4〜10の炭素原子を有するイソアルカンをアルキル化するために用いるのに特に適している。ブテンまたはブテン類混合物によるイソブタンのアルキル化は、特に好ましい実施態様である。本発明は、この点について限定されず、アルキル化プロセスにおいて任意の適切なパラフィンまたはオレフィンを利用して所望の生成物を得てよい。
【0031】
本発明の触媒は、シクロアルカンまたはアリ−ルアルカンを含むプロセスなど、他の種類のアルキル化プロセスにも用いてよい。例えば、特定の留出分流のセタン価を高めるプロセスの中で本触媒を用いてよい。一例では、流動クラッキング触媒(「FCC」)プロセスからの留分製品である軽サイクル油(「LCO」)は、無置換の環および軽くアルキル化された芳香環を含み、従ってセタン価が非常に低く、通常10〜30である。LCOを水素化してもセタン価はわずかに高くなるに過ぎない。通常の水素化された成分は、メチルエチルシクロヘキサンなどの軽くアルキル化されたシクロアルカンである。一実施態様では、水素化されたLCOと大体C〜Cのオレフィン留分流とを組み合わせて品質を高くしたディーゼル燃料を製造するプロセスにおいて本触媒を用いることができる。
【0032】
触媒再生は、低温法または高温法を利用して実行することができる。低温法は、製品組成物の中にオレフィンが出現するはるか前に、好ましくは触媒の活性サイクル時間の約20%未満で、高頻度で実施する。触媒の活性サイクルは、アルキル化剤の供給の開始から、分子内の異性化を除外して、触媒を保持する反応器区間の入口と比べてアルキル化剤の約20%が変換されないで触媒を保持する反応器区間から出るようになるときまでの時間と定義される。低温再生は、オレフィン供給を遮断し、イソブタンが多くなった炭化水素原料の中に約70℃から約100℃の反応温度で水素を導入してC12+重質炭化水素およびコークを除去することによって最も実際的に実施することができる。一般的に、多数回の低温再生の後、もっと苛酷な高温再活性化を約175℃から約350℃の間の温度で実施する。高温再活性化では、パラフィンとオレフィンとの両方の流れを止め、水素気体を触媒上に供給してコークおよび重質炭化水素を除去する。
【0033】
以下の実施例は、本発明の特徴を例示する。実施例8〜14では、図1に例を示す反応器システム100を使用した。この反応器システムは、リサイクル流Rを使用し、原料流F−1(オレフィン)およびF−2(イソパラフィン)がRに合流する。オレフィン流F−1はcis−2−ブテンを含み、イソパラフィン流はイソブタンを含む。合流した流れは、ライン101を通ってアルキル化反応器110に送られる。アルキル化反応器110は、本発明の触媒の固定床111を含む。アルキル化反応器は、油浴112の中に浸漬されて予め定められた反応温度に維持される。GC分析のための試料を、アルキル化反応器110の流出流102からポ−ト103で抜き出すことができる。流出液は、リサイクル流Rと流れ104とに分割される。リサイクル流Rは、新しい原料F−1およびF−2を加えた後にポンプPによって循環されてアルキル化反応器110に戻り、流れ104は、分離ドラム120に送られ、分離ドラムの上部から蒸気Vが抜き出され、底部から製品アルキル化物A(例えばTMP異性体類)が抜き出される。反応器110は、ブテンに対するイソブタンの高い比を維持し、連続撹拌式タンク反応器(CSTR)をシミュレ−ションする固定床リサイクル反応器として運転される。高いイソブタン/ブテン比は、触媒の活性を低下させるコークおよび高沸点化合物の生成を最小限にするのを助ける。固定床反応器は、種々の触媒床の高さ位置の数個のブテン注入点とともに用いて任意の所定位置および触媒床の全体にわたって所望のイソブタン/ブテン比を維持してよい。反応生成物は、さまざまな成分および/または異性体の混合物であった。好ましいアルキル化成分は、それぞれが高いリサ−チオクタン価(「RON」)を有するTMP分岐C炭化水素の異性体である。例えば、2,2,4−トリメチルペンタン(イソオクタン)は100のRONを有する。実施例の生成物アルキル化物の全RONは、各成分の重量分率(ガスクロマトグラフィー分析(GC)から得られる)に成分のオクタン価を乗じた積の和によって得た。反応生成物の中にオレフィンが生じるまで実験を続けた(0.012質量%での停止をブレークスルー点として定義した)。この時点で、ガスクロマトグラフ分析によるオレフィンピークは触媒の活性低下を示した。
【実施例】
【0034】
実施例1.
参照触媒(金属なし):
ここに例を示す触媒は、普通のゼオライト基材、すなわちPQ Corp.によって製造された商品名CBV500の市販超安定Y(「USY」)を用いる。CBV500は、約80質量%のゼオライトと20%のアルミナとを有する。触媒のサイズは、ベンチ規模の性能試験(下記に記載される)に用いられる18/25メッシュとした。出来上がった触媒の名称は、触媒「A」とした。
【0035】
実施例2.
0.5質量%Pt含有触媒の調製:
Pt参照触媒(すなわち第2または第3の金属の添加なし)は、実施例1に記載されている商品名CBV500の市販超安定Y(「USY」)を用いて調製した。Ptは、テトラアンミン白金硝酸塩の溶液によって加え、通常の初期湿式技法によって組み込んだ。触媒は、空気中110℃で乾燥させ、続いて空気中400℃で焼成した。出来上がった触媒が0.5質量%Ptを有するように十分なPt塩を用いた。出来上がった触媒のサイズは、ベンチ規模の性能試験(下記に記載される)に用いられる18/25メッシュにした。出来上がった触媒の名称は、触媒「B」とした。
【0036】
実施例3.
0.15質量%Pt含有触媒の調製:
第2のPt単独触媒(すなわち第2または第3の金属の添加なし)は、実施例1に記載されている商品名CBV500の市販超安定Y(「USY」)を用いて調製した。Ptは、テトラアンミン白金硝酸塩の溶液によって加え、通常の初期湿式技法によって組み込んだ。触媒は、空気中110℃で乾燥させ、続いて空気中400℃で焼成した。出来上がった触媒が0.15質量%Ptを有するように十分なPt塩を用いた。出来上がった触媒のサイズは、ベンチ規模の性能試験(下記に記載される)に用いられる18/25メッシュにした。出来上がった触媒の名称は、触媒「C」とした。
【0037】
実施例4.
Pt/Ni比較触媒の調製:
実施例1に記載されている商品名CBV500の市販超安定Y(「USY」)を用いてPt/Ni触媒を調製した。Ptは、テトラアンミン白金硝酸塩の溶液によって加え、通常の初期湿式技法によって組み込んだ。触媒は、空気中110℃で乾燥させ、続いて空気中400℃で焼成した。出来上がった触媒が0.12質量%Ptを有するように十分なPt塩を用いた。Niを加えるために第2の金属取り込み工程を使用した。Niは、硝酸ニッケルの溶液によって加え、通常の初期湿式技法によって組み込んだ。触媒は、空気中110℃で乾燥させ、続いて空気中400℃で焼成した。出来上がった触媒が0.10質量%Niを有するように十分なNi塩を用いた。出来上がった触媒のサイズは、ベンチ規模の性能試験(下記に記載される)に用いられる18/25メッシュにした。出来上がった触媒の名称は、触媒「D」とした。
【0038】
実施例5.
Pt/Ni比較触媒(低担持率)の調製:
実施例1に記載されている商品名CBV500の市販超安定Y(「USY」)を用いてPt/Ni触媒を調製した。Ptは、テトラアンミン白金硝酸塩の溶液を用いて加え、通常の初期湿式技法によって組み込んだ。触媒は、空気中110℃で乾燥させ、続いて空気中400℃で焼成した。出来上がった触媒が0.06質量%Ptを有するように十分なPt塩を用いた。Niを加えるために第2の金属取り込み工程を使用した。Niは、硝酸ニッケルの溶液で加え、通常の初期湿式技法によって組み込んだ。触媒は、空気中110℃で乾燥させ、続いて空気中400℃で焼成した。出来上がった触媒が0.05質量%Niを有するように十分なNi塩を用いた。出来上がった触媒のサイズは、ベンチ規模の性能試験(下記に記載される)に用いられる18/25メッシュにした。出来上がった触媒の名称は、触媒「E」とした。
【0039】
実施例6.
Pt/Co比較触媒の調製:
Ni/Pt触媒の意外かつ相乗効果的な利点にもとづいて、実施例1に記載されている商品名CBV500の市販超安定Y(「USY」)を用いてPt/Co触媒を調製した。Ptは、テトラアンミン白金硝酸塩の溶液を用いて加え、通常の初期湿式技法によって組み込んだ。触媒は、空気中110℃で乾燥させ、続いて空気中400℃で焼成した。出来上がった触媒が0.12質量%Ptを有するように十分なPt塩を用いた。Coを加えるために第2の金属取り込み工程を使用した。Coは、硝酸コバルトの溶液によって加え、通常の初期湿式技法によって組み込んだ。触媒は、空気中110℃で乾燥させ、続いて空気中400℃で焼成した。出来上がった触媒が0.11質量%Coを有するように十分なCo塩を用いた。出来上がった触媒のサイズは、ベンチ規模の性能試験(下記に記載される)に用いられる18/25メッシュにした。出来上がった触媒の名称は、触媒「F」とした。
【0040】
実施例7.
0.5質量%Ni比較触媒(Pt担持なし)の調製:
実施例1に記載されている商品名CBV500の市販超安定Y(「USY」)を用いてNi単独触媒を調製した。Niは、硝酸ニッケルの溶液によって加え、通常の初期湿式技法によって組み込んだ。触媒は、空気中110℃で乾燥させ、続いて空気中400℃で焼成した。出来上がった触媒が0.5質量%Niを有するように十分なNi塩を用いた。出来上がった触媒のサイズは、ベンチ規模の性能試験(下記に記載される)に用いられる18/25メッシュにした。出来上がった触媒の名称は、触媒「G」とした。
【0041】
実施例8.
アルキル化性能試験および触媒再生 触媒B:
ベンチ規模のアルキル化試験は、80℃、全圧400psigの図1に例を示す反応器システム100の中で実行した。反応体は、2−ブテン(「オレフィン」または「O」)とイソブタン(「I」)との混合物であり、I/O総モル比は16であった。イソブタンのリサイクルによって、内部I/O比は約750となった。流れる空気(75ml/分/グラム触媒)の中で1℃/分で室温から300℃まで加熱し、この温度に2時間保持し、室温に冷却し、続いて20ml/分/グラム触媒の水素気流に切り替え、1℃/分で275℃まで加熱し、2時間保持し、室温に冷却することによって触媒Bを前処理した。各試験では4部の触媒と、0.27部/分の上記反応体混合物とを用いた。GCによって生成物の組成を測定し、ガソリン(C+)オクタン価(RON)を計算した。実験条件は、運転開始時の初期オレフィン反応率が100%である工業的な実際を反映している。
【0042】
このプロセスにおいて、触媒は、「帯状」エ−ジングする。すなわち、反応器の前端から反応器の後端へ「コーク」(重質炭化水素)の蓄積が起こる。オレフィン反応率が不十分になるまで触媒活性低下が進む。この効果は、「オレフィンブレークスルー」または単に「ブレークスルー」と称する。それを過ぎると触媒を再生しなければならないサイクル長さがブレークスルー時間によって決定される。この実験では、ブレークスルーは、オレフィン収率が生成物とリサイクルされたイソブタンとの0.012質量%まで低下した時間として定義する。
【0043】
ブレークスルーの後、水素気流を用いて、275℃に達するまで1℃/分の加熱速度で、その後はこの温度に2時間保持して触媒を再生した。
【0044】
再生後、最初の運転と同じ条件で触媒を再び試験し、オレフィンブレークスルーを測定した。サイクルが終了した後、触媒をもう一度再生し、3回目の性能サイクルを試験した。
【0045】
性能試験の結果を、図2に示す。触媒Bは、3回の運転で4.6時間、3.9時間および4.7時間のブレークスルー時間を示した。完全な性能回復によって、水素再生手順が非常に効果的であることの例が示された。
【0046】
実施例9.
アルキル化性能試験および触媒再生 触媒A:
金属を担持していない参照触媒である触媒Aを、2サイクルしか試験しなかった点を除けば、実施例8の場合と同様に試験した。新しい触媒は4.5時間のブレークスルー時間を有し、触媒Bと同等の性能を示した。この結果は、同等な生成物オクタンとともに、アルキル化性能に金属が不可欠ではないことを示した。
【0047】
高温再生の後、触媒の2回目のサイクルを試験したところ、オレフィンブレークスルーは1.2時間と極めて急速であった。この結果は、水素再生にとって金属が重要であることを示した。2回目のサイクルの性能があまり低かったので、3回目のサイクルは必要ないと考えた。
【0048】
実施例10.
アルキル化性能試験および触媒再生 触媒C:
低Pt担持率触媒である触媒Cを、触媒B(実施例8)と同等の方法で試験した。新しい触媒は、オレフィンブレークスルーの前に触媒Bの性能と同一の4.5時間の1回目のサイクルを有した。2回目および3回目のサイクルの性能によると、各サイクルにおいて約10%の若干のサイクル間劣化があった。これらの結果は、他に金属が存在しないとき完全な再生を実現するためのPtの臨界レベルは0.15質量%より高いことを示す。
【0049】
実施例11.
アルキル化性能試験および触媒再生 触媒D:
0.12質量%Pt/0.10質量%Ni担持率触媒である触媒Dを、触媒B(実施例8)と同一の方法で試験した。新しい触媒は、オレフィンブレークスルーの前に触媒Bの性能と同一の4.6時間の1回目のサイクルがあった。2回目のサイクルは4.6時間のブレークスルー時間があり、続いて3回目のサイクルでは4.4時間のブレークスルーであった。これらの結果は、二元金属触媒が異常に良好なサイクル間性能回復を有することを示した。
【0050】
実施例12.
アルキル化性能試験および触媒再生 触媒E:
0.06質量%Pt/0.05質量%Ni担持率触媒である触媒Eを、触媒B(実施例8)と同一の方法で試験した。新しい触媒は、オレフィンブレークスルーの前に触媒Bの性能とほぼ同一の4.3時間の1回目のサイクルがあった。しかし、ある程度のサイクル間性能低下があった(2回目のサイクルには3.7時間のブレークスルー時間があり、続いて3回目のサイクルのブレークスルーは3.3時間であった)。これらの結果は、この二元金属触媒にはぎりぎりから貧弱な性能保持しかないが、金属を含まない触媒よりは明らかに優れていることを示した。
【0051】
実施例13.
アルキル化性能試験および触媒再生 触媒F:
0.12質量%Pt/0.11質量%Co担持率触媒である触媒Fを、触媒B(実施例8)と同一の方法で試験した。新しい触媒は、オレフィンブレークスルーの前に触媒Bの性能と同一の4.7時間の1回目のサイクルがあった。2回目のサイクルは4.9時間のブレークスルー時間があり、続いて3回目のサイクルでは4.4時間のブレークスルーがあった。これらの結果は、PtCo二元金属触媒も良好なサイクル間性能回復を有することを示した。
【0052】
実施例14.
アルキル化性能試験および触媒再生 触媒G:
0.50質量%Ni担持率触媒である触媒Gを触媒B(実施例8)と同一の方法で試験した。新しい触媒は、オレフィンブレークスルーの前に触媒Bの性能より15%低い3.9時間の1回目のサイクルがあった。2回目のサイクルは2.4時間のブレークスルー時間しかなく、続いて3回目のサイクルのブレークスルーは0.9時間であった。これらの結果は、Ni単独触媒は非常に低いサイクル間性能回復を示すことを実証し、再生目的のためには少なくともなんらかの貴金属の存在が必要であることを示した。
【0053】
実施例15.
Ptおよび二元金属アルキル化触媒のキャラクタリゼ−ション方法:
CO化学吸着およびFTIRによるキャラクタリゼ−ションのために一連の触媒を調製した。超安定Y(「USY」)試料上の0.35質量%Ptを調製し、名称を「触媒H」とした。名称を「触媒I」とした第2の試料はUSY上の0.105質量%Ni/0.35質量%Ptを含んでいた。名称を「触媒J」とした第3の試料はUSY上の0.105質量%Ni/0.12質量%Ptを含んでいた。
【0054】
これらの3つの触媒のさまざまな実験室処理を図3に示す。それらは以下の通りである。
【0055】
還元:450℃およびH分圧30torrで30分間の処理。この還元を最大3回繰り返して実行した。
【0056】
コーク形成:触媒をイソブタン(15torr)とcis−2−ブテン(1torr)との混合物に80℃で30分間、最大2回繰り返して曝露した。
【0057】
再生:コーク形成した触媒を10torrのHに250℃で50分間、最大2回繰り返して曝露した。
【0058】
CO測定:標準CO化学吸着によってさまざまな処理を受けた触媒をキャラクタリゼ−ションした。1:1のPt:CO化学量論を用いてPt分散を評価することができた。触媒をFTIRによっても測定し、特定のPt種を測定することができた。
【0059】
図4は、コークおよびコーク前駆体の炭素−炭素結合の特性振動周波数を示す。
【0060】
実施例16.
「コーク形成」0.35質量%Pt/USYの触媒H上のCO化学吸着:
図5は、(a)還元された状態、(b)240分間の「コーク形成」の後の状態、および(c)100分間のH再生の後の状態、の3つの状態の触媒HのFTIR測定結果を示す。(a)および(c)の場合の2065cm−1の波数の鋭い単独ピークは、H再生がPtを性質が明らかな活性状態に戻すことを示す。(b)の場合の幅の広いピークは、Ptの金属機能が低下したことを示唆する。
【0061】
実施例17.
FTIR測定:0.35質量%Pt/USYの触媒H上のコーク形成:
図6は、0.35質量%Pt/USY触媒(「触媒H」)と炭化水素質「コーク」との3つのフーリエ変換赤外(「FTIR」)スペクトルを示す。これらは、炭化水素のない、還元された触媒(上の曲線);30分間コーク形成した触媒(中の曲線);および60分間コーク形成した触媒(下の曲線)を含む。注目すべき重要な区域は、脂肪族(すなわちパラフィン系)炭化水素を例示する領域である波数3000cm−1またはその近傍である。還元された触媒は、基本的に炭化水素の存在を示さないが、コーク形成した触媒は両方とも脂肪族炭化水素の存在を示す。長い時間コーク形成した触媒(下の曲線)の方に著しく多くの炭化水素質材料が存在していた。
【0062】
実施例18.
FTIR測定:H再生した0.35質量%Pt/USYの触媒H:
図7は、0.35質量%Pt/USY触媒(「触媒H」)と炭化水素との3つのフーリエ変換赤外(「FTIR」)スペクトルを示す。上の曲線(図6の下の曲線と同じ)は、60分コーク形成したPt/USY試料のものである。この触媒をH中で50分間(中の曲線)および100分間(下の曲線)再生した。どちらの再生も効果があったが、長い時間の方がコークの大部分を除去する効果が大きかった。
【0063】
実施例19.
FTIR測定:0.105質量%Ni−0.35質量%Pt/USYの触媒I上のコーク形成:
図8は、触媒I(0.105質量%Ni−0.35質量%Pt/USY触媒)と炭化水素質「コーク」の3つのフーリエ変換赤外(「FTIR」)スペクトルを示す。これらは、炭化水素のない、還元された触媒(上の曲線);30分間コーク形成した触媒(中の曲線);および60分間コーク形成した触媒(下の曲線)を含む。注目すべき重要な区域は、脂肪族(すなわちパラフィン系)炭化水素を例示する領域である波数3000cm−1またはその近傍である。還元された触媒は、基本的に炭化水素の存在を示さないが、コーク形成した触媒はともに脂肪族炭化水素の存在を示す。長い時間コーク形成した触媒(下の曲線)の方に多くの炭化水素質材料が存在していた。主な知見は、図6と図8との下の曲線の比較に見ることができる。すなわち、3000cm−1波数領域に示されるように、同じコーク形成条件下で二元金属触媒I(図8)の方が「Pt単独」触媒H(図6)の場合より炭化水素の蓄積が少なかった。この意外な結果は、二元金属触媒が「Pt単独」触媒より強い水素化活性を有することを示唆する。
【0064】
実施例20.
FTIR測定:H再生した0.105質量%Ni−0.35質量%Pt/USYの触媒I:
図9は、0.105質量%Ni−0.35質量%Pt/USY触媒(触媒I)と炭化水素質残渣「コーク」との3つのフーリエ変換赤外(「FTIR」)スペクトルを示す。上の曲線(図8の下の曲線と同じ)は、60分間コーク形成したPt/USY試料のものである。この触媒は、H中で50分間(中の曲線)および100分間(下の曲線)再生した。どちらの再生も効果があったが、長い時間の方がコークの大部分を除去する効果が大きかった。主な知見は、図7と図9の下の曲線の比較に見ることができる。すなわち、3000cm−1波数領域に示されるように、同じH再生条件下で、二元金属触媒I(図9)の方が「Pt単独」触媒H(図7)の場合より炭化水素蓄積が少なかった。この意外な結果は、再び、二元金属触媒の方が「Pt単独」触媒より強い水素化活性を有することを示唆する。二元金属触媒はコークの形成量も少ない(実施例19参照)ので、二元金属の効果が(a)コーク形成が低いことによるのか、または(b)コーク形成が低いこととH再生が優れていることとの両方によるのかは明らかでない。メカニズム(a)または(b)のどちらであろうと、明らかに優れた、かつ意外な結果である。
【0065】
実施例21.
FTIR測定:0.105質量%Ni−0.12質量%Pt/USYの触媒J上のコーク形成:
図10は、0.105質量%Ni−0.12質量%Pt/USY触媒(触媒J)と炭化水素質「コーク」との3つのフーリエ変換赤外(「FTIR」)スペクトルを示す。これらは、炭化水素のない、還元された触媒(上の曲線);30分間コーク形成した触媒(中の曲線);および60分間コーク形成した触媒(下の曲線)を含む。注目すべき重要な区域は、脂肪族(すなわちパラフィン系)炭化水素を例示する領域である波数3000cm−1またはその近傍である。還元された触媒は、基本的に炭化水素の存在を示さないが、コーク形成した触媒はともに脂肪族炭化水素の存在を示す。長い時間コーク形成した触媒(下の曲線)の方に著しく多くの炭化水素質材料が存在した。主な知見は、図6と図8との下の曲線の比較に見ることができる。すなわち、3000cm−1波数領域に示されるように、同じコーク形成条件下でこの二元金属触媒(図10)の方が「Pt単独」触媒H(図6)の場合より炭化水素蓄積が少なかった。この意外な結果は、この二元金属触媒が「Pt単独」触媒Hより強い水素化活性を有することを示唆する。さらに、図10に示されるように、0.105質量%−0.12質量%Pt/USYである触媒Jの場合の方が脂肪族コークが高かった。この知見は、(a)Ptレベルが下限有効レベル未満であったか、または(b)ほとんどのPt原子が触媒Iの場合に観測された相乗効果の利点を実現するのに十分なNiによって囲まれることを確実にするにはNi/Ptモル比3および金属レベルが低すぎたかのどちらかであったことを示唆する。
【0066】
実施例22.
FTIR測定:H再生した0.105質量%Ni−0.12質量%Pt/USYの触媒J:
図11は、0.105質量%Ni−0.12質量%Pt/USY触媒(触媒J)と炭化水素質「コーク」との3つのフーリエ変換赤外(「FTIR」)スペクトルを示す。上の曲線(図8の下の曲線と同じ)は60分間コーク形成した触媒Jのものである。この触媒をH中で50分間(中の曲線)および100分間(下の曲線)再生した。どちらの再生も効果があったが、長い時間の方がコークの大部分を除去するのに効果が大きかった。主な知見は、図7と図9との下の曲線の比較に見ることができる。すなわち、3000cm−1波数領域に示されるように、同じH再生条件下で二元金属触媒(図9および11)の方が「Pt単独」触媒H(図7)の場合より炭化水素蓄積が少なかった。この意外な結果は、再び、二元金属触媒が「Pt単独」触媒Hより強い水素化活性を有することを示唆した。また、実施例21の二元金属触媒Jは0.105質量%Ni−0.35%Pt触媒I(実施例19参照)より少ないコークしか形成しなかったので、低担持率二元金属触媒の利点はH再生が優れていることであることが明らかである。これは、明らかに優れた、かつ意外な結果である。
【0067】
実施例23.
FTIR測定:コーク形成した3つの触媒のCO化学吸着容量:
図12は、60分間のコーク形成後の3つの触媒(H:0.35質量%Pt/USY[上]、I:0.105質量%Ni−0.35質量%Pt/USY[中]、およびJ:0.105質量%Ni−0.12質量%Pt/USY[下]のFTIRスペクトルを示す。コーク形成したPt単独USY触媒Hは、強度が小さく、幅の広いPtピークを有する点に注意する。これは、Ptが見かけ上分散が少なく、還元度の低いPtを有することを示す。2つの二元金属触媒の曲線は、(a)Ptピークはより強く、(b)形状がより良好である(より狭い)ことを示した。これらの結果は、コーク形成させると、二元金属触媒はPt単独触媒よりPt分散および還元されたPt機能を良好に保持することを示す。再び、これは、優れた、かつ意外な結果である。
【0068】
実施例24.
FTIR測定:H再生した3つの触媒のCO化学吸着容量:
図13は、100分間のH再生後の3つの触媒(H:0.35質量%Pt/USY[上]、I:0.105質量%Ni−0.35質量%Pt/USY[中]、およびJ:0.105質量%Ni−0.12質量%Pt/USY[下])のFTIRスペクトルを示す。H再生したPt単独USY触媒Hは、強度が小さく、幅の広いPtピークを有する点に注意する。これは、Ptが見かけ上分散性が小さく、還元度の低いPtを有することを示す。2つの二元金属触媒の曲線の方が、(a)Ptピークが強く、(b)形状が良好である(狭い)ことを示した。これらの結果は、H再生したとき、二元金属触媒の方がPt単独触媒よりPt分散および還元Pt機能を良好に保持することを示す。再び、これは、優れた、かつ意外な結果である。
【0069】
実施例25.
FTIR測定:H再生した3つの触媒のCO化学吸着容量:
図14は、100分間のH再生後の3つの触媒(C:0.15質量%Pt/USY[上]、F:0.11質量%Co−0.12質量%Pt/USY[中]、およびD:0.10質量%Ni−0.12質量%Pt/USY[下])のそれぞれの2つのFTIRスペクトルを示す。各触媒に対してCOバックグラウンド圧力(1torr)のあるときとないときとのスペクトルがある。COバックグラウンドのないときの3つのスペクトルは極めて類似しているようであり、Pt上の強固に結合したCOしか示さない。3つの触媒すべてがほぼ同一のPt担持率を有するので、この結果は矛盾しない。しかし、COバックグラウンドのあるときの3つのスペクトルを見ると、PtCoおよびPtNi触媒はPt単独触媒より多くのCOを収着する。これらの結果は、二元金属体がPt単独触媒より多くの金属機能を有し、二元金属体によって示された性能上の効果と矛盾しないことを示唆する。
【0070】
本明細書中の教示によって当業者に自明となるように、添付の請求項中に定義される本発明の範囲から逸脱することなく、上記に記載のおよび他の本発明の実施態様に対して多数の変化および変更を施してよい。従って、好ましい実施態様のこの詳細な記載は、限定的な意味でなく、例示的な意味で解釈すべきである。
【符号の説明】
【0071】
100 反応器システム、101 ライン、102 流出流、103 ポート、104 流れ、110 アルキル化反応器、111 固定床、112 油浴、120 分離ドラム、R リサイクル流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)超安定Y(「USY」)ゼオライトと、
(b)前記ゼオライトと組み合わされた多元金属材料であって、PtNi、PtCo、PtNiAg、PtNiAu、PtNiRu、PtNiIr、PtNiRh、PtNiRe、PdNi、PdCo、PtPdCo、PtPdNi、PdNiAg、PdNiAu、PdNiRu、PdNiIr、PdNiRh、PdNiRe、PtNiCo、PdNiCo、PtPdNiCo、PtNiCoFeおよびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる多元金属材料と、
を含み、
前記多元金属材料におけるPtまたはPdの濃度が0.12質量%以下である、オレフィン/パラフィンアルキル化プロセスに用いられる固体酸触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の固体酸触媒であって、バインダ−材料をさらに含む固体酸触媒。
【請求項3】
請求項2に記載の固体酸触媒であって、前記バインダ−材料は、前記固体酸触媒の5質量%から70質量%の間を構成する固体酸触媒。
【請求項4】
請求項3に記載の固体酸触媒であって、前記バインダ−材料は、アルミナ類、シリカ類、シリカ−アルミナ類、ジルコニア類、粘土類およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる固体酸触媒。
【請求項5】
請求項1に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料は、前記固体酸触媒の0.01質量%から2.0質量%の間を構成する固体酸触媒。
【請求項6】
請求項1に記載の固体酸触媒であって、前記ゼオライトは、ナノ結晶ゼオライトYである固体酸触媒。
【請求項7】
請求項1に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料におけるPtの濃度が0.05質量%以上0.12質量%以下である固体酸触媒。
【請求項8】
請求項1に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料が、PtNi、PtCo、PtNiAg、PtNiRu、PtNiIr、PtNiRh、PtNiRe、PtPdCo、PtPdNi、PtNiCo,PtPdNiCoおよびPtNiCoFeからなる群から選ばれる固体酸触媒。
【請求項9】
請求項8に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料におけるPtの濃度が0.05質量%以上0.12質量%以下である固体酸触媒。
【請求項10】
請求項1に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料が、PtNi、PtCoからなる群から選ばれる固体酸触媒。
【請求項11】
請求項1に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料がPtCoであり、前記多元金属材料におけるCoの濃度が0.11質量%である固体酸触媒。
【請求項12】
請求項11に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料におけるPtの濃度が0.12質量%であり、前記多元金属材料におけるCoの濃度が0.11質量%である固体酸触媒。
【請求項13】
請求項11に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料におけるPtの濃度が0.06質量%であり、前記多元金属材料におけるCoの濃度が0.055質量%である固体酸触媒。
【請求項14】
請求項1に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料がPtNiであり、前記多元金属材料におけるNiの濃度が0.10質量%以下である固体酸触媒。
【請求項15】
請求項14に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料におけるPtの濃度が0.12質量%であり、前記多元金属材料におけるNiの濃度が0.10質量%である固体酸触媒。
【請求項16】
請求項14に記載の固体酸触媒であって、前記多元金属材料におけるPtの濃度が0.06質量%であり、前記多元金属材料におけるNiの濃度が0.05質量%である固体酸触媒。
【請求項17】
(a)ナノ結晶超安定Yゼオライト(USY)と、
(b)PtNi、PtCo、PdNi、PdCoからなる群から選ばれ、前記ゼオライトの中に組み込まれる1つ以上の多元金属材料であって、前記多元金属材料におけるPtまたはPdの濃度が0.12質量%以下である多元金属材料と、
(c)アルミナ類、シリカ類、シリカ−アルミナ類、ジルコニア類および粘土類からなる群から選ばれた1つ以上のバインダ−材料と、
を含むオレフィン/パラフィンアルキル化プロセスに用いられる固体酸触媒。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−254458(P2012−254458A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176110(P2012−176110)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2009−533307(P2009−533307)の分割
【原出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(509110884)ラムス テクノロジー インク (6)
【Fターム(参考)】