説明

固体電池の水分検知方法及び水分検知装置、並びに固体電池の製造方法

【課題】固体電池が組み上がった時点においても、電池内に存在する水分を検知・定量可能な、固体電池の水分検知方法及び水分検知装置、並びに固体電池の製造方法を提供する。
【解決手段】固体電池に含まれた水分と、活性なフッ素源とを反応させることにより酸素を生じさせ、当該酸素を検知する、固体電池の水分検知方法とし、当該水分検知方法を実行可能な水分検知装置とし、当該水分検知方法を用いて電池不良の有無を判定する工程を備える、固体電池の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電池、特に固体電解質を含むリチウム全固体電池、の水分検知方法及び水分検知装置、並びに固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、低公害車としての電気自動車やハイブリッド自動車等に適用するべく、高性能な二次電池が必要とされている。また、二次電池の高出力化及び高容量化に伴って、安全性の向上も一層要求されている。
【0003】
二次電池は、正極及び負極と、これらの間に配置される電解質とが備えられた発電部における電気化学反応によって、外部に電気エネルギーが取り出し可能とされる。電解質層は、非水系の液体電解質又は固体電解質によって構成されており、このうち、特に固体電解質を用いた場合、当該固体電解質が本質的に不燃であるため、安全性の向上を図り易い。
【0004】
一方、固体電池(特に、硫化物系固体電解質を含む固体電池)は、電池内部に一定以上の水分が存在していた場合、電池特性に悪影響を及ぼすことが知られている。そのため、固体電池製造の際は、厳しく水分管理された原材料が用いられる。原材料の水分管理に関しては、例えば、特許文献1に、出発原料及び/又は出発原料を反応させて得られる反応物を有機溶媒で洗浄する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−093995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る製造方法を用いることにより、原材料の水分管理を徹底することができるものと考えられる。しかしながら、電池内に水分が混入するのは、出発原料の時点だけではなく、電池の製造工程中に水分が混入する虞もある。特許文献1に係る技術にあっては、このように電池の製造工程中に水分が混入する可能性に関して、解決手段が開示されていない。また、固体電池が組み上がった後に係る水分管理に関しても、開示されていない。水分量測定については、電極の静電容量を測定することで求めることができるものと考えられるが、固体電池が組み上がった後に、電極を用いて静電容量を測定することは困難である。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、固体電池が組み上がった時点でも、電池内に存在する水分を検知可能な、固体電池の水分検知方法及び水分検知装置、並びに固体電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
第1の本発明は、固体電池に含まれた水分と、活性なフッ素源とを反応させることにより酸素を生じさせ、当該酸素を検知する、固体電池の水分検知方法である。
【0009】
第1の本発明及び以下に示す本発明において、「活性なフッ素源」とは、水分との反応性の高いフッ素であれば特に限定されるものではなく、例えば、フッ素系ガスから生成したフッ素ラジカルを用いることができる。「水分と、活性なフッ素源とを反応させることにより酸素を生じさせ」とは、例えば、下記反応式(1)により、水分と活性なフッ素源とからフッ化水素と酸素とを生成させる反応を挙げることができる。
O(固体電池中の水)+2F・(活性なフッ素源)→ 2HF+1/2O…(1)
「酸素を検知する」とは、酸素を単に検知することの他、酸素量を測定・定量することをも含む概念である。本発明においては、酸素を単に検知するだけでもよいが、酸素量を測定・定量することが好ましい。
【0010】
第1の本発明において、活性なフッ素源が、CF、C、NF、CF、Fのいずれかから選ばれる気体を加熱することにより得られたものであることが好ましい。これら気体は、容易にフッ素ラジカルを生成させることができ、且つ、加熱によりさらに活性化され、高い反応性でもって電池中の水分と反応し酸素を生成するため、固体電池内部の水分量測定を高精度にて行うことができるためである。
【0011】
第2の本発明は、活性なフッ素源を生じさせる気体の供給源、当該供給源に接続されるとともに固体電池を収容可能とされた真空チャンバー、及び、当該真空チャンバーに接続されるとともに真空チャンバー内で発生した気体を検知するための検知装置、を備える固体電池の水分検知装置である。
【0012】
第2の本発明において、気体が、CF、C、NF、CF、Fのいずれかから選ばれるものであることが好ましい。これら気体は、容易にフッ素ラジカルを生成させることができ、当該フッ素ラジカルは、高い反応性でもって電池中の水分と反応し酸素を生成するため、固体電池内部の水分量測定を高精度にて行うことができるためである。
【0013】
第2の本発明において、真空チャンバーにはヒータが備えられていることが好ましい。真空チャンバー内の気体を加熱することができ、当該加熱によって、供給源から導入された気体をさらに活性化することができるためである。
【0014】
第3の本発明は、第1の本発明に係る水分検知方法により固体電池に含まれた水分を検知し、電池不良の有無を判定する工程を備える、固体電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
第1の本発明によれば、水分との反応性の高い活性なフッ素源と水分とを反応させることにより生じた酸素を検知しているので、固体電池内の水分を精度よく検知でき、また、酸素量を測定・定量することで、電池内に含まれていた水分量も精度よく定量することができる。第1の本発明は、固体電池が組み上がった時点においても実施することができる。従って、第1の本発明によれば、固体電池が組み上がった時点でも、電池内に存在する水分を検知・定量可能な、固体電池の水分検知方法を提供することができる。
【0016】
第2の本発明によれば、真空チャンバー内に固体電池を収容し、水分との反応性の高い活性なフッ素源を真空チャンバー内に導入することで、固体電池に含まれている水分と活性なフッ素源とを反応させて酸素を生成させることができる。生成した酸素は、真空チャンバーに接続された測定装置へと送り込むことができ、酸素を検知、定量することができる。第2の本発明は、組み上がった固体電池に対しても適用することができる。従って、第2の本発明によれば、固体電池が組み上がった時点でも、電池内に存在する水分を検知・定量可能な、固体電池の水分検知装置を提供することができる。
【0017】
第3の本発明によれば、第1の本発明に係る水分検知方法によって、電池内に含まれる水分を適切に検知しながら固体電池を製造することができる。第1の本発明に係る水分検知方法は、固体電池の製造中、或いは、固体電池が組み上がった後にも適用することができる。従って、第3の本発明によれば、固体電池が組み上がった時点でも、電池内に存在する水分を検知・定量可能であり、電池の不良の有無を判別しながら電池を製造可能な、固体電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る水分検知方法の流れを示す図である。
【図2】本発明に係る水分検知装置の一例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明を、リチウム全固体電池に適用した場合を中心に説明する。ただし、本発明は、この形態に限定されるものではなく、その他固体電池に適用することができる。
【0020】
図1は、本発明に係る固体電池の水分検知方法S10(以下、単に「水分検知方法S10」という場合がある。)の流れを示す図である。図1に示すように、水分検知方法S10は、固体電池を組み上げる工程S1と、当該組み上げた固体電池にフッ素源を導入し、固体電池に含まれる水分とフッ素源との反応によって酸素を生成させる工程S2と、工程S2において生成された酸素を検知・測定する工程S3とを有している。以下、各工程について説明する。
【0021】
<工程S1>
工程S1は、固体電池を組み上げる工程である。具体的には、正極及び負極、並びに固体電解質層を作製し、これらを発電可能に積層して、固体電池として組み上げる工程である。本発明において、固体電池とは、正極及び負極、並びに固体電解質層を有し、発電可能とされた形態であれば、積層体や捲回体等いずれの形態であってもよく、また、モノポーラ型、バイポーラ型のいずれの形態であってもよい。また、各層の積層数、或いは捲回数は、特に限定されるものではない。正極及び負極、並びに固体電解質層の一例につき説明する。
【0022】
(正極、負極)
固体電池に備えられる正極及び負極は、活物質や電解質を含み、任意に導電助剤及び結着剤等を含む正極層又は負極層が、正極集電体又は負極集電体に設けられてなるものである。活物質等の各原材料は、厳しく水分管理がなされたものである。固体電池を全固体リチウム二次電池とした場合、活物質としては、LiCoO、LiNiO、Li1+xNi1/3Mn1/3Co1/3、LiMn、Li1+xMn2−x−y(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni、Znのいずれか)で表される異種元素置換Li−Mnスピネル、LiTiO、LiMPO(MはFe、Mn、Co、Niのいずれか)、V、MoO、TiS、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料、LiCoN、LiSi、リチウム金属又はリチウム合金(LiM、MはSn、Si、Al、Ge、Sb、P等のいずれか)、リチウム貯蔵性金属間化合物(MgM、MはSn、Ge、Sbのいずれか、或いは、NSb、NはIn、Cu、Mnのいずれか)や、これらの誘導体等を用いることができる。ここで、正極活物質と負極活物質には明確な区別はなく、2種類の化合物の充放電電位を比較して貴な電位を示すものを正極層に、卑な電位を示すものを負極層に用いて、任意の電圧のリチウム二次電池を構成することができる。また、固体電池が全固体リチウム二次電池である場合、電解質としては、固体電解質が用いられる。具体的には、LiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B−ZnO等の酸化物系非晶質固体電解質、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P、LiS−P等の硫化物系非晶質固体電解質、或いは、LiI、LiI−Al、LiN、LiN−LiI−LiOH等や、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、Li1+x+yTi2−xSi3−y12(AはAl又はGa、0≦x≦0.4、0<y≦0.6)、[(B1/2Li1/21−z]TiO(BはLa、Pr、Nd、Smのいずれか、CはSr又はBa、0≦z≦0.5)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、LiPO(4−3/2w)(w<1)、Li3.6Si0.60.4等の結晶質酸化物・酸窒化物を用いることができる。特に硫化物系の固体電解質を用いることが好ましい。一方、導電助剤としては、従来のものを特に限定されることなく用いることができ、例えば、アセチレンブラック等の炭素材料を用いることが好ましい。結着剤についても、従来のものを特に限定されることなく用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂やスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム性状樹脂等を用いることが好ましい。正極層や負極層に含まれる各物質の混合比については、固体電池を適切に作動可能な比率であれば、特に限定されるものではない。例えば、質量比で、活物質:電解質:導電助剤:結着剤=99〜40:1〜50:0〜5:0〜5の混合比とすることができる。また、正極層や負極層は、後述する正極集電体や負極集電体上に、適切に形成されていれば、厚みや形状等は特に限定されるものではない。例えば、5〜500μm程度の厚みとすることができる。正極層及び負極層は、上記活物質等を含むペーストを正極集電体、負極集電体上にドクターブレード等によって塗布・乾燥することにより、或いは、粉体状の上記活物質等をプレス成型することにより、形成・作製することができる。
【0023】
(正極集電体、負極集電体)
正極集電体及び負極集電体は、固体電池に適用できる集電体であれば、その材質等は特に限定されるものではない。例えば、金属箔や金属メッシュ、金属蒸着フィルム等を用いることができる。具体的には、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Zn、Ge、In、ステンレス鋼等の金属箔やメッシュ、或いは、ポリアミド、ポリイミド、PET、PPS、ポリプロピレンなどのフィルムやガラス、シリコン板等の上に上記金属を蒸着したもの等を用いることができる。正極集電体及び負極集電体の厚みや大きさは特に限定されるものではない。例えば、5〜500μm程度の厚みとすることができる。尚、正極集電体及び負極集電体には任意に正極リード、負極リード等が取り付けられていてもよい。
【0024】
(固体電解質層)
固体電池に備えられる固体電解質層は、電解質と任意に結着剤等を含む層である。固体電池が、硫化物系の全固体リチウム二次電池である場合には、固体電解質としては、上記した固体電解質を用いることができる。結着剤についても上記と同様のものを用いることができる。固体電解質層に含まれる各物質の混合比については、固体電池を適切に作動可能な比率であれば、特に限定されるものではない。例えば、質量比で、電解質:結着剤=100〜70:0〜30の混合比とすることができる。また、固体電解質層は、正極層及び負極層の間に適切に設けられ、正極層と負極層との間のイオン伝導に寄与することができる形態であれば、厚みや形状等は特に限定されるものではない。例えば、0.1〜500μm程度の厚みとすることができる。固体電解質層は、上記電解質等を含むペーストを正極層或いは負極層上にドクターブレード等によって塗布・乾燥することにより、或いは、粉体状の上記固体電解質等をプレス成型することにより、形成・作製することができる。
【0025】
このような原材料を用いて正極、負極、及び固体電解質層を作製した後、適宜積層して積層体とし、或いは積層体を捲回して捲回体とすることで、固体電池を組み上げることができる。
【0026】
<工程S2>
固体電池を組み上げるために用いられる上記活物質や固体電解質等の原材料は、徹底した水分管理によって水分が排除されている。しかしながら、原材料の水分管理を徹底したとしても、固体電池を組み上げる際に水分が混入する可能性があり、水分が混入した固体電池をそのまま電源として用いた場合、十分な電池性能が得られない虞がある。工程S2では、このような事態を避けるため、組み上げた固体電池内の水分を精度よく検知可能な状態とする。具体的には、工程S2は、組み上げた固体電池に活性なフッ素源を導入し、固体電池に含まれる水分とフッ素源との反応によって酸素を生成させる工程である。
【0027】
活性なフッ素源とは、水分との反応性の高いフッ素源であれば特に限定されるものではなく、例えば、フッ素系の気体により生成されるフッ素ラジカルを挙げることができる。固体電池中に含まれる水分と、フッ素ラジカルとは、下記反応式(1)に示すように、フッ化水素と酸素とを生成する。
O(固体電池中の水)+2F・(活性なフッ素源)→ 2HF+1/2O…(1)
【0028】
上記のフッ素ラジカルは、例えば、CF、C、ClF、NFやF等のフッ素系ガスから生成させることができる。特に、これらフッ素系ガスを加熱することによって活性化し、フッ素ラジカルを生成させることが好ましい。加熱によりフッ素ラジカルをより効率的に生成させることができ、活性の高いフッ素源とすることができるためである。フッ素系ガスを加熱する際、その加熱温度は、100℃〜200℃とすることが好ましい。フッ素源の活性化をより適切に行うことができ、また、上記温度範囲内であれば、固体電池を構成材料が劣化することもないためである。
【0029】
また、工程S2は、チャンバー内圧がある程度の減圧から大気圧の間とすることが好ましい。固体電池の水分と活性なフッ素源が適切に反応可能とされるとともに、後述する工程S3において外乱となる検知対称(酸素ガス)以外のガス量が低減され、生成した酸素を精度よく検知・定量することができ、固体電池に含まれる水分を適切に検知・定量することができるためである。例えば、0.01〜0.1MPa(ABS)(76〜760Torr)程度の減圧下で工程S2を行うことが好ましい。
【0030】
<工程S3>
工程S2において生成された酸素は、工程S3により検知される。生成した酸素の検知は、ガスクロマトグラフィーや酸素センサ等、公知の手段により検知されればよい。特にガスクロマトグラフィーを用いることで、酸素を精度よく検知・定量することができ、これによって固体電池に含まれていた水分を適切に検知・定量することができる。
【0031】
以上のように、本発明に係る固体電池の水分検知方法S10によれば、工程S1〜S3を備えることにより、固体電池が組み上がった後であっても、固体電池内の水分を適切に検知・定量することができる。そして、固体電池の製造工程において当該水分検知方法S10が組み込まれることで、固体電池の不良の有無を即時的に判断することができ、また、製造ラインの複数の箇所で水分検知方法S10を行うことで、製造ラインのどの時点で水分が混入したのかを突き止めることもできる。さらに、水分検知方法S10によれば、製造ラインにおいて固体電池に混入する水分量がどの程度であり、また、固体電池にどの程度の水分が混入すると電池性能が低下するのかについて、明確に特定することができる。尚、工程S2、工程S3は、固体電池の密閉前に行われても、固体電池の密閉後に行われてもよいが、特に固体電池の密閉前に行われることが好ましい。特に、固体電池の組み上げ後、保存試験前に工程S2、S3を実施することで、電池の問題の有無や製造ラインが健全であるか否かを適切にチェックすることができる。
【0032】
本発明に係る固体電池の水分検知方法は、例えば、下記のような水分検知装置100により実行することができる。図2は、本発明に係る水分検知装置100を概略的に示す図である。図2に示すように、水分検知装置100は、固体電池10を収納する真空チャンバー20と、真空チャンバー20内を減圧するための減圧用ライン30と、真空チャンバー20内にフッ素源(フッ素系ガス)を導入する供給ライン40と、真空チャンバー20内で生成された気体を真空チャンバー20の外に引き出すための引出ライン50と、引き出された気体に酸素が含まれているか否かを検知し、酸素量を定量するための検知ライン60と、検知ライン60に導入されなかった気体を無害化して排出するための排出ライン70とを備えている。
【0033】
<固体電池10>
固体電池10は、上記した固体電池であり、正極、負極、及び固体電解質層を備えるものである。固体電池10の形態は特に限定されるものではない。
【0034】
<真空チャンバー20>
真空チャンバー20は、固体電池10を収容可能とされるとともに、減圧ライン30に接続されて内部が減圧可能とされたチャンバーである。真空チャンバー20は、固体電池10を載置するための台20aと、固体電池10を密閉し、覆うように設けられたヒータ付き蓋20bと、チャンバー内の圧力を測定可能に接続された圧力計20cとを備えている。
【0035】
台20a及びヒータ付き蓋20bの形状については、固体電池10を収納可能で、且つ内部を減圧可能な形態であれば特に限定されるものではない。台20a及びヒータ付き蓋20bの材質については、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。ヒータの形態については、公知のものを特に限定されることなく用いることができる。チャンバー内で水分と活性なフッ素源とを反応させる際は、チャンバー内はヒータの加熱によって100℃〜200℃に保持されることが好ましい。フッ素源をより適切に活性化させ、水分との反応性を高めることができるためである。圧力計20cは、公知の圧力計を特に限定されることなく用いることができる。尚、真空チャンバー20を構成する部材は、オイルフリーであることが好ましい。真空チャンバー20等の発火を防ぐことができ、安全性に優れる水分検知装置100とすることができるためである。
【0036】
<減圧用ライン30>
減圧用ライン30は、配管30aを介して真空チャンバー20内部から外部に流通するラインであり、配管30aの途中には、バルブ30b、排ガス浄化装置30c、バルブ30d及びポンプ30eを有している。
【0037】
配管30aは、真空チャンバー20の内部から外部へと伸び、チャンバー内を減圧可能とするためのものである。配管30aの形態については、チャンバー内を減圧可能であれば特に限定されるものではない。配管30aの材質については、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。バルブ30b、30dは、配管30aに接続されてラインの開閉が可能とされるものであれば、公知のものを特に限定されることなく用いることができる。ただし、配管30aと同様、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。排ガス浄化装置30cは、チャンバー内に残存していた有害ガスを無害化する装置であれば特に限定されるものではない。アルカリスクラバーや公知の除害塔を用いることができる。ポンプ30eは、公知のポンプを用いることができる。固体電池10に含まれる水分を検知・定量するにあたっては、ポンプ30eを稼働させることにより、チャンバー内が、例えば0.01〜100Pa程度に減圧される。特に0.1〜10Pa程度とすることが好ましい。尚、減圧ライン30は、後述する検知ライン60における酸素検知・定量の後、チャンバー内や配管内に残った気体を無害化して排出する排出ラインとして機能させてもよい。
【0038】
<供給ライン40>
供給ライン40は、配管40aを介して、真空チャンバー20内部とフッ素系ガスを内包する供給源40bとが接続されたラインであり、配管40aの途中には、ボンベ40b、バルブ40c、及び圧力計40dを有している。
【0039】
配管40aは、供給源40bに内包されたフッ素系ガスを真空チャンバー20の内部へと導入可能とするためのものである。配管40aの形態については、チャンバー内にフッ素系ガスを導入可能であれば特に限定されるものではない。配管40aの材質については、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。供給源40bは、チャンバー内にフッ素系ガスを供給可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、フッ素系ガスを含む高圧ガスボンベを用いることができる。フッ素系ガスは、チャンバー内で活性なフッ素源を生成させるものであれば特に限定されるものではなく、上記した、CF、C、NF、CF、又はF等を用いることができる。ボンベの内圧については、供給ライン40の圧力よりも高ければ特に限定されるものではなく、例えば0.1〜0.6MPa(ABS)程度とすればよい。バルブ40cは、配管40aに接続されてラインの開閉が可能とされるものであれば、公知のものを特に限定されることなく用いることができる。ただし、配管40aと同様、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。圧力計40dは、供給ライン40内の圧力を測定可能なものであれば、公知の圧力計を特に限定されることなく用いることができる。供給ライン40の圧力は、チャンバー内にフッ素系ガスを供給可能な圧力であれば特に限定されるものではないが、例えば0.1〜0.6MPa(ABS)程度とすればよい。
【0040】
<引出ライン50>
引出ライン50は、真空チャンバー20内で発生した気体を引き出し、検知ライン60或いは排出ライン70へと導くためのラインであり、配管50aとバルブ50b、50cとを有している。
【0041】
配管50aは、チャンバー内で発生した気体を導出することができるものであれば、その形態は特に限定されるものではない。配管50aの材質については、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。バルブ50b、50cは、配管50aに接続されてラインの開閉が可能とされるものであれば、公知のものを特に限定されることなく用いることができる。ただし、配管50aと同様、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。
【0042】
<検知ライン60>
検知ライン60は、真空チャンバー20内で発生し、引出ライン50により導かれた気体を、配管60aを介して検知装置60dへと導くラインであり、配管60aの途中には圧力計60bと、バルブ60cとを有している。
【0043】
配管60aは、真空チャンバー20内で発生し、引出ライン50により導かれた気体を、検知装置60dへと導くことができるものであれば、その形態は特に限定されるものではない。配管60aの材質については、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。圧力計60bは、検知ライン60内の圧力を測定可能なものであれば、公知の圧力計を特に限定されることなく用いることができる。検知ライン60の圧力は、検知装置60dへと気体を導入可能な圧力であれば特に限定されるものではなく、例えば0.01〜0.1MPa(ABS)程度とすればよい。バルブ60cは、配管60aに接続されてラインの開閉が可能とされるものであれば、公知のものを特に限定されることなく用いることができる。ただし、配管60aと同様、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。検知装置60dは、真空チャンバー20内で発生し、引出ライン50により導かれた気体に含まれる酸素を検知することができ、好ましくは酸素量を定量することができるものであれば、公知の検知装置を特に限定されることなく用いることができる。例えば、ガスクロマトグラフィーや酸素センサ等を適用可能である。特に、気体に含まれる酸素量を精度よく定量できる観点から、ガスクロマトグラフィーを用いることが好ましい。
【0044】
<排出ライン70>
排出ライン70は、検知ライン60における検知の後、配管70aを介して、チャンバー内或いは配管内に残存しているガスを外部へと排出するためのラインであり、配管70aの途中には、バルブ70b、ポンプ70c、バルブ70d及び排ガス浄化装置70eを有している。
【0045】
配管70aは、チャンバー内或いは配管内に残存しているガスを外部へと排出可能とするためのものである。配管70aの形態については、排出ガスを導出可能な形態であれば特に限定されるものではない。配管70aの材質については、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。バルブ70b、70dは、配管70aに接続されてラインの開閉が可能とされるものであれば、公知のものを特に限定されることなく用いることができる。ただし、配管70aと同様、耐食性の高いステンレス鋼からなるものを用いることが好ましい。ポンプ70cは、公知のポンプを用いることができる。排ガス浄化装置70eは、チャンバー内に残存していた有害ガスを無害化する装置であれば特に限定されるものではなく、上述した排ガス浄化装置30cと同様のものを用いることができる。
【0046】
本発明に係る水分検知装置100は、上記の真空チャンバー20、減圧用ライン30、供給ライン40、引出ライン50、検知ライン60及び排出ライン70を備えて構成されている。固体電池10の水分を検知する際は、水分検知装置100を、例えば下記のように操作する。
【0047】
固体電池10の水分を検知する際は、まず、真空チャンバー20内に固体電池10が収納・密閉される。次に減圧用ライン30を開とし、ポンプ30eを稼働させることで、チャンバー内を所定の圧力(真空に近い圧力(例えば、0.01〜100Pa、好ましくは0.1〜10Pa))に減圧し、その後減圧用ライン30を閉とする。続いて供給ライン40を開とし、供給源40bからフッ素系ガスをチャンバー内に導入し、その後供給ライン30を閉とするとともに、好ましくは、真空チャンバー20に備えられたヒータを稼働させ、チャンバー内を所定の温度に加熱・保持する。これによりフッ素系ガスが活性化され、より適切に活性なフッ素源(フッ素ラジカル)が生成される。仮に固体電池10に水分が含まれていた場合、当該水分と活性なフッ素源とが反応することによって、フッ化水素と酸素とが生成する。十分な時間の経過後(例えば、1〜24時間程度の経過後)、引出ライン50、及び検知ライン60を開とし、チャンバー内の生成ガスを検知装置60dへと導入する。検知装置60dは、生成ガスのうち酸素を検知できるものとされているので、当該酸素を検知・定量することで、固体電池10に含まれていた水分を精度よく検知・定量することができる。検知装置60において検知・定量された酸素量が所定量以上であり、固体電池10に含まれていた水分が所定量以上と判断された場合は、固体電池10が不良であったものとみなすことができ、当該固体電池10の前後に組み上げられた固体電池についても水分の混入が懸念され、不良の固体電池を適切に探知することができる。また、固体電池10に含まれていた水分は、活性なフッ素源との反応によって、固体電池10の内部から既に除去されているので、固体電池10の水分検知後、検査、保存試験等を経てそのまま製品として出荷することもできる。尚、水分検知の際、フッ化水素が生成するが、当該フッ化水素は電池性能に悪影響を及ぼすことはないものと考えられ、製品上特に問題とはならない。固体電池10の水分検知が終了した後は、引出ライン50及び排出ライン70、並びに任意に減圧ライン30を開とし、チャンバー内や配管内に残存していたガスを外部へと排出し、水分検知装置100内を浄化する。ここで、排出されるガスには、フッ化水素が含まれているが、水分検知装置100においては排ガス浄化装置30c、70eが備えられているので、排出ガスを適切に無害化したのち外部へと排出することができる。
【0048】
以上のように、本発明に係る水分検知装置100によれば、固体電池が組み上がった時点でも、電池内に存在する水分を検知・定量可能な水分検知装置とすることができる。さらに、水分検知装置100によれば、製造ラインにおいて固体電池に混入する水分量がどの程度であり、また、固体電池にどの程度の水分が混入すると電池性能が低下するのかについて、明確に特定することが可能である。
【0049】
また、本発明に係る水分検知方法S10(水分検知装置100)を、固体電池の製造工程(製造ライン)に組み込むことによって、固体電池が組み上がった時点でも、電池内に存在する水分を検知・定量可能であり、電池の不良の有無や製造ラインの健全性を判定しながら電池を製造することができる。
【0050】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う固体電池の水分検知方法及び水分検知装置、並びに、固体電池の製造方法もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【0051】
例えば、上記説明においては、固体電池の製造ラインにおいて、上記した水分検知装置100が、固体電池10の組み上がった後にのみ備えられるものとして説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、製造ラインの複数の箇所に水分検知装置100が備えられた形態であってもよい。すなわち、正極や負極、或いは固体電解質等の各構成を作製する場合において、本発明に係る水分検知方法S10を逐一行う形態であってもよい。尚、固体電池10を組み上げた後、固体電池10の保存試験の前に、水分検知方法S10を行うことにより、電池の問題の有無や製造ラインが健全か否かを適切にチェックすることができ、好ましい。
【0052】
また、上記説明においては、水分検知装置100に所定数のバルブや圧力計が備えられる形態について説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。安全性の観点からは、バルブの数が多いほど好ましい。
【0053】
また、上記説明においては、水分検知装置100に減圧用ライン30、供給ライン40、引出ライン50、検知ライン60及び排出ライン70が備えられるものとして説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。本発明に係る水分検知方法を実行可能な水分検知装置であれば、配管の形態等は特に限定されるものではなく、ライン数がこれより少なくても多くてもよい。また、チャンバー内から検知装置60dに生成ガスを送り込む際、適宜圧力調整や不活性ガスの導入が行われてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、固体電池に含まれる水分を適切に検知・定量でき、固体電池の不良の有無や製造ラインの健全性等を判定しながら、固体電池を製造することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 固体電池
20 真空チャンバー
30 減圧ライン
40 供給ライン
50 引出ライン
60 検知ライン
70 排出ライン
100 水分検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池に含まれた水分と、活性なフッ素源とを反応させることにより酸素を生じさせ、該酸素を検知する、固体電池の水分検知方法。
【請求項2】
前記活性なフッ素源が、CF、C、NF、CF、Fのいずれかから選ばれる気体を加熱することにより得られる、請求項1に記載の固体電池の水分検知方法。
【請求項3】
活性なフッ素源を生じさせる気体の供給源、該供給源に接続されるとともに固体電池を収容可能とされた真空チャンバー、及び、該真空チャンバーに接続されるとともに該真空チャンバー内で発生した酸素を検知するための検知装置、を備える固体電池の水分検知装置。
【請求項4】
前記気体が、CF、C、NF、CF、又はFのいずれかから選ばれる、請求項3に記載の水分検知装置。
【請求項5】
前記真空チャンバーにヒータが備えられている、請求項3又は4に記載の水分検知装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の水分検知方法により固体電池に含まれた水分を検知し、電池不良の有無を判定する工程を備える、固体電池の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−134598(P2011−134598A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293218(P2009−293218)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】