説明

固体電解質およびそれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】本発明は、イオン伝導性に優れた固体電解質、及びそれを用いたレート特性の良い二次電池を提供することにある。
【解決手段】表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子、ルイス酸化合物及びアルカリ金属塩を含有することを特徴とする固体電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイス、特に電池材料として好適に用いられる固体電解質、およびそれを用いた二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、固体電解質は可燃性の有機溶剤を含まないため、電気化学デバイス、特に電気自動車等のために大型化が進められているリチウムイオン二次電池において安全性の高い電解質としてさかんに研究されている。
【0003】
従来の固体電解質としてTiO、SiO、Alなどから構成される微粒子、イオン伝導性を有する高分子量のPEOにアルカリ金属塩を添加した複合体が提案されているが、イオン伝導性が不十分なためにさらにルイス酸を添加することが提案されている(たとえば、特許文献1〜2参照)。確かにこの方法によればイオン伝導性がさらに改良されるが、リチウム二次電池に使用した場合、1Cを電池が理論上1時間で充放電する電流とした場合、0.2C程度の低電流での使用は問題ないが、1C以上の電流では充分なエネルギーをとりだすことが出来ず、いわゆるレート特性が不十分であることがわかった。
【特許文献1】特開2004−139859号公報
【特許文献2】特開2006−252878公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、イオン伝導性に優れた固体電解質、及びそれを用いたレート特性の良い二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、イオン伝導性高分子と無機微粒子の複合体における課題であるイオン伝導性の低さに対し鋭意検討を行い、表面にイオン伝導性化合物を有するコアシェル微粒子を用い、さらにルイス酸化合物を添加した結果、極めて高いイオン伝導性を示す固体電解質を得ることに成功し、加えてその固体電解質を用いることでレート特性にすぐれた二次電池を得ることに成功した。
【0006】
すなわち、本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
1.表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子、ルイス酸化合物及びアルカリ金属塩を含有することを特徴とする固体電解質。
2.前記イオン伝導性化合物が、アルコキシシリル基を有する化合物であることを特徴とする前記1に記載の固体電解質。
3.前記ルイス酸化合物が三フッ化ホウ素(BF)であることを特徴とする前記1または2に記載の固体電解質。
4.少なくとも正極と負極とが前記1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質を介して対向配置されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、イオン伝導性に優れた固体電解質、及びそれを用いたレート特性の良い二次電池を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
〔固体電解質〕
本発明の固体電解質の構成要素である(1)表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子(2)ルイス酸化合物(3)アルカリ金属塩、及び、(4)固体電解質の調製方法についてそれぞれ説明する。
(1)表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子
本発明の表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子は、イオン伝導性化合物を金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子の表面に修飾することで調製する。
《イオン伝導性化合物》
本発明に係るイオン伝導性化合物は、アルコキシシリル基、アルコキシチタネート基、アルコキシアルミネート基、アルコキシジルコネート基、カルボキシル基、水酸基など、金属酸化物微粒子と共有結合を形成できる部分によって、金属酸化物微粒子表面に保持される。これらは、市販、もしくは、所定の方法によって任意に合成することで容易に得ることができる。特に、アルコキシシリル基を含有するイオン伝導性化合物はコアシェル粒子表面の水酸基と非常に安定な共有結合を形成することができる観点から、好ましく用いることができる。
【0009】
アルコキシシリル基を含有するイオン伝導性化合物を得る方法としては、様々な方法があるが、例えば水酸基を有するイオン伝導性化合物とイソシアナート基を持つイソシアナートアルキルアルコキシシランを直接反応させ、水酸基とイソシアネート基でウレタン結合を形成させて得ることができる。
【0010】
イオン伝導性を有する化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラジエチレングリコール、テトラジエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等、更に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドの水酸基を有し、数平均量が500〜50000のホモ重合生成物、または、共重合組成物等を挙げることができる。
【0011】
イソシアナートの官能性化合物としては、エチレンジイソシアナート、メチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ドデカメチレンジイソシアナート、シクロブタン−1,3−ジイソシアナート、シクロヘキサン−1,3及び1,4−ジイソシアナート又は1−イソシアナート−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサンもしくはこの種のジイソシアナートの任意の混合物である。
【0012】
イソシアナートアルキルアルコキシシランの例としては、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランなどが市販されており、任意に用いることができる。
【0013】
《コアシェル粒子》
次いで、本発明に係る金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子について説明する。
【0014】
本発明でいうコアシェル粒子とは、金属酸化物コア粒子の表面に一定以上の金属酸化物からなるシェル層を形成した粒子である。コアシェル粒子のコア粒子は、金属酸化物微粒子であれば、任意の種類を好ましく用いることができるが、より好ましくは酸性、もしくは、両性の金属酸化物微粒子を用いることができる。コアとシェルは本質的に同じ金属酸化物でもよい。シェル部がコア部と同様の金属酸化物においても、本発明に記載された方法でシェル部を形成した場合、表面の水酸基の量が最適なものとなり、イオン伝導性化合物を含有しやすくなる。酸性金属酸化物とは、塩基性物質と反応し、塩を形成しうる金属酸化物であり、塩基性金属酸化物とは、酸性物質と反応して塩を形成しうる金属酸化物であり、両性金属酸化物とは、塩基性物質、酸性物質ともに反応し、塩を形成しうる金属酸化物である。金属酸化物の酸塩基性については、「化学辞典」(東京化学同人)などに分類され記載されている。さらに、酸塩基滴定を各金属酸化物に対して行うことにより、判断ができる。
【0015】
本発明におけるコアシェル粒子は、このようなコア粒子の表面にシェルとして無機酸化物をそれぞれの酸化物の結晶格子一層以上の厚みで形成したコアシェル型の酸化物微粒子である。シェル部分は、任意の酸化物を用いることができるが、中でも酸化ジルコニア、酸化チタン、シリカなど酸性金属酸化物を好ましく用いることができる。特に、効果的にイオン伝導性組成物を含有させるためには、シランカップリング剤と効果的に結合するシリカを好ましく用いることができる。例えば、シェル部をシリカで形成した場合、シェル部はシリカ一層分の厚みである0.9nm以上の厚みを持っている。0.9nm以下では、シェルが完全に形成されないことから、コアシェル粒子をシランカップリング剤で表面処理した場合、処理後のシランカップリング剤の含有量が少ないなど、物性が明らかに劣る。シェルの厚みは、コア粒子のBETによる比表面積から粒子を球換算し、これに対して、シェル形成の試薬の量を計算することによって、容易に得ることができる。さらに、シェル形成後、TEM写真からシェル部の厚みを直接観察し、厚みを確認することもできる。
【0016】
本発明に係るコアシェル粒子は、この様な特性を備えたシェル部を有するため、特に、シランカップリング剤を用いた時には、シェル部を形成していない酸化物微粒子表面に用いた時とは明らかに異なり、均一で強固な結合をシランカップリング剤と形成できる。
【0017】
この結果、乾燥時に凝集がほとんど起こらない好ましい物性の金属酸化物微粒子を調製することができる。また、こうして調製したコアシェル粒子は、コア部の金属無機酸化物の性質とシェル部の金属無機酸化物の性質を併せ持ち、表面のゼータ電位等の物性を、シェル部の厚みを任意に設計することで調整でき、単独粒子とは異なった物性を備えたコアシェル粒子を調製できる点で優れている。
【0018】
本発明のコアシェル粒子のコア部分に係る粒子(コア粒子)となる酸化物微粒子としては、特に制限はなく、プラズマ法、火炎法、湿式法など公知の方法に従って調製された酸化物微粒子を適用することができる。
【0019】
本発明において好ましく用いられるコア粒子は、平均一次粒子径としては1nm以上、20nm以下であり、さらに1nm以上、10nm以下であることが好ましい。平均一次粒子径が1nm未満の場合、コア粒子の分散が困難になり所望の性能が得られない恐れがあることから、平均一次粒子径は1nm以上であることが好ましく、平均一次粒子径は20nm以下であることが好ましい。平均一次粒子径が20nm以上である場合、粒子の比表面積が小さくなるため、イオン伝導性化合物を十分な量、保持することが難しくなる。ここでいう平均一次粒子径とは、各一次粒子を同体積の球に換算した時の直径(球換算粒径)の平均値を言う。
【0020】
さらに、コア粒子は構成する金属としては、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Y、Nb、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ta、Hf、W、Ir、Tl、Pb、Bi及び希土類金属からなる群より選ばれる1種または2種以上の金属である無機酸化物微粒子を用いることができ、具体的には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、アルミニウム・マグネシウム酸化物(MgAl)等が挙げられる。また、本発明において用いられる酸化物微粒子として、希土類酸化物を用いることもでき、具体的には、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウム等も挙げられる。なかでも、中性、もしくは、酸性の金属無機酸化物微粒子が、イオン伝導性の向上の点で効果的である。酸化鉄、酸化ジルコニウム、クレー、酸化スズ、酸化タングステン、酸化チタン、燐酸アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウムがなどこれに相当する。
【0021】
本発明に係る表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子の調製方法としては、大別して、1.コア粒子分散工程、2.シリカ層形成工程、3.コアシェル粒子とイオン伝導性化合物の結合工程に分かれている。
【0022】
本発明では、2.シリカ層形成工程は、コア粒子分散性がZ平均粒子径で1nm以上、100nm以下であり、その分散性を保持した状態で、上記の各工程を経ることにより、高い分散安定性を有するコアシェル粒子を調製することができる。更に、好ましくは分散剤を用いることなく、シランカップリング剤のみを用いて各工程を経てイオン性化合物を有するシランカップリング剤と反応させることにより、粒子表面に強固な結合を形成するイオン伝導性化合物を多く保持した固体電解質を得ることができる。
【0023】
1.コア粒子分散工程
コア粒子分散工程は、湿式処理における分散方法及び湿式処理における分散装置を適用する。
【0024】
本発明に適用可能な分散装置としては、例えば、超音波分散機、ビーズミルなどの媒体攪拌ミル等を挙げることができ、その中でもビーズミルを適用するのが好ましい。分散装置としてビーズミルを適用した場合は、容器内に媒体としてビーズを充填させ、そのビーズを攪拌させながらコア粒子と溶媒を容器内に流し込み、これらを容器内でさらに攪拌させることで、粒子を溶媒中に分散する。その際、シリカ前駆体、もしくは、分散剤を添加することで、分散を安定化できる。しかしながら、分散剤は、場合によっては分散液中での耐熱性の劣化を引きおこすため、好ましくは、シリカ前駆体のみを用いて分散を行うことが望ましい。分散装置としてビーズミルの具体的な装置としては、スターミルZRS(アシザワファインテック株式会社製)、ウルトラアペックスミル(寿工業株式会社製)などが挙げられる。ビーズとしては、ガラス、アルミナ、スチール、ダイヤモンド、フリント石などが適用可能であり、ジルコニア粉末(例えば、TZシリーズ(東ソー株式会社製)など)を適用するのが好ましい。また、適用するビーズの粒子径としては0.015〜0.3mm程度のものが好ましい。シリカ前駆体は、加水分解および縮合の結果、シリカになる化合物である。このようなシリカ前駆体としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、珪酸ナトリウムなどが適用可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
前駆体化合物は、コア粒子表面に対し、加水分解して、シリカを形成するものであれば、任意の試薬を用いることができ、特に、無機粒子の凝集体が生成され難く、分散性が高いテトラエトキシシランを用いるのが好ましい。シリカ前駆体は粒子に対して20質量%〜50質量%が好ましく、更には40質量%〜50質量%が分散後の粒子の分散安定性が高いことからより好ましい。これらのシリカ前駆体は、粒子を分散機で分散中に徐々に添加することが望ましく。望ましくは粒子に対して5質量%〜10質量%/時で連続的に加えることが望ましい。本発明における分散後の粒子分散径は、Z平均粒子径で1nm〜100nmであることが望ましい。Z平均粒子径は、ゼータサイザー1000HSa(シスメックス株式会社)などの粒子径測定機を用いて測定することができる。分散時のコア粒子の濃度としては3質量%〜20質量%が望ましく、より望ましくは3質量%〜10質量%である。3質量%未満では生産性が低く。20質量%を越えるとは分散性が悪くなる場合がある。
【0026】
上記湿式処理における分散溶媒としては、純水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エトキシエタノール、ジメチルホルムアミド、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、キシレン、シクロへキサンなどの溶媒を、無機粒子の分散性や安定性や前駆体化合物、もしくは分散剤の特性等に応じて、単独で又は2種類以上混合して、使い分けて用いることが可能である。当該溶媒としては、取り扱いが簡単で費用が安いことから、純水を用いるのが好ましい。分散溶液中のpHはpH9〜13であるのが好ましく、粒子の安定性からpH9〜11がより好ましい。所望のpHに調整するための試薬としては、アンモニア、酢酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、トリメチルアミン、ピリジン、アニリン等を好ましく用いることができるが、粒子形成後に加熱により容易に取り除けることができる観点から、アンモニアを用いるのが好ましい。
【0027】
2.シリカ層形成工程
シリカ層形成工程では、上記分散工程で得た分散液に対してシリカ前駆体化合物を添加し、その分散液を攪拌する。前駆体を滴下する工程の間、分散粒子は分散性を保っていなければならず、またZ平均粒子径として1nm〜100nmに保たれていなければならない。100nmを越えるZ平均粒子径では、形成されるシリカ層が不均一になり、実用上問題を起こす可能性がある。本発明に係るZ平均粒子径は、例えば、ゼータサイザー1000HSa(シスメックス株式会社)などの粒子径測定機を用いてに測定することができる。さらに、前駆体滴下工程の前段階において、任意の有機溶媒と純水を用いて、前工程の分散液を希釈することが望ましい。この希釈によって、粒子濃度を0.3質量%〜5質量%に調整することが好ましく、分散安定性の観点から、0.3質量%〜1質量%であることが望ましい。
【0028】
希釈に用いる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、t−ブタノール、アセトニトリルなどを好ましく用いることができ、中でも取り扱いや、環境適性の点でエタノールを用いることが望ましい。分散液に有機溶媒と純水を任意の割合で添加することによって、有機溶媒濃度が50質量%〜70質量%の水溶液に調整することが望ましく、形成されるシリカの均一性の面から50質量%〜60質量%とすること望ましい。有機溶媒濃度が70質量%を越えると粒子の分散性が失われる場合があり、50質量%未満では表面にシリカが形成されない場合がある。さらに、反応溶液はpHを9〜12の範囲に調整することが好ましく、分散粒子の安定性の面からより好ましくはpH10〜11である。pHを調整する試薬としては、アンモニア、酢酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、トリメチルアミン、ピリジン、アニリン等を好ましく用いることができるが、粒子形成後に加熱により容易に取り除ける観点から、アンモニアを用いるのが好ましい。
【0029】
なお、攪拌溶液中の反応を促進するため、攪拌溶液を任意に加熱してもよい。その加熱温度は5〜60℃であるのが好ましく、20〜40℃であるのがより好ましい。当該加熱温度が60℃を上回ると、前駆体化合物が単独粒子を形成したり、溶媒が揮発したりするなどの現象が起こる場合があり、好ましくない。他方、加熱温度が5℃未満であると、攪拌溶液中の反応時間が長期化して実用に耐えるものではなく、好ましくない。シリカ前駆体は、溶液中の粒子に対して60質量%/時以下で連続して滴下することが好ましく、より望ましくは40質量%/時である。これ以上の速さで添加した場合、粒子の分散安定性を失う場合がある。本発明においては、シリカ層形成工程における粒子の安定性が、粒子の濃度、およびシリカ前駆体の添加速度、有機溶媒濃度、溶液pHによって決まっていることが、本発明者の検討より新たに判明した。したがって、本発明では、これらの要因を検討し、最適な範囲を見つけることにより、粒子をZ平均粒子径で1nm〜100nmに保持し、シリカ層を形成することができることを見出した。シリカ前駆体滴下後、さらに、シリカ前駆体を滴下終了後、24時間の熟成期間をおき、シリカ層の形成を行う。これらの工程において調製されたコアシェル粒子分散溶液は、コアシェル粒子がZ平均粒子径で1nm〜100nmで分散している。このようにして得られたコアシェル粒子分散液を、次の共有結合形成工程に用いる。
【0030】
3.コアシェル粒子とイオン伝導性化合物の結合工程
金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子表面に、イオン伝導性化合物を結合させる工程は、表面未処理の酸化物微粒子に直接反応させても、また、あらかじめ、他の表面処理剤を反応させておいたコアシェル粒子表面に反応させてもよい。
【0031】
直接反応させる場合には、上記工程で得られた金属酸化物を、アルコールまたは有機溶媒へ限外濾過を用いて置換する。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、t−ブタノール、アセトニトリル、ジメチルスルホオキサイド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミドなどがある。このようにして得た分散液に、純水を10%〜40%になるように加える。更に、溶媒のpHは3〜5に調整するのが望ましく、より望ましくはpH4である。pHの調整には、酢酸を好ましく用いることができる。この粒子分散液に、イオン伝導性化合物を有しかつシリル基を持つ化合物をゆっくりと加え攪拌する。このシリル基を持つ化合物の添加量は、粒子の全質量を100質量%としたとき、100質量%〜500質量%の範囲が好ましく、より好ましくは、300質量%〜500質量%の範囲である。この工程において、酸化物微粒子表面の水酸基とシリル基が反応し、共有結合を形成する。このように得られたスラリーから、エバポレーター、噴霧乾燥、凍結乾燥などで溶媒を取り除くことができる。特に、溶媒をt−ブタノールに置換し、凍結乾燥する方法が、凝集の低い粒子を得ることができる観点から望ましい。
【0032】
また、イオン伝導性化合物を結合させる前段階における他の表面処理剤による処理は、凝集性を低下させるために有効であり好ましい。処理方法としては、上記工程で得られた金属酸化物微粒子分散液を、限外濾過を用いて水分を含まず水酸基を持たない溶媒へ溶媒置換する。溶媒としては、アセトニトリル、ジメチルスルホオキサイド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ピリジンなどがあるが、溶媒の除去しやすさの面でアセトニトリル、ピリジンを用いることが望ましい。溶媒を置換した後、表面処理剤を加え、加熱することで表面処理を行う。表面処理剤としては、シラザン、クロロシランを好ましく用いることができ、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシリルクロライド、メチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン、ビニルトリクロルシラン、N−2(アミノエチル)3アミノプロピルトリクロルシラン、3−メルカプトプロピルメチルジクロルシランを用いることができる。表面処理した溶媒中の粒子は、エバポレーター、噴霧乾燥、凍結乾燥などで溶媒を取り除くことができる。特に、溶媒をt−ブタノールに置換し、凍結乾燥することが凝集の低い粒子をえることができ望ましい。この段階で、粒子表面は、疎水性を示し、粒子同士の凝集は抑制されており、これらの粒子は他の溶媒に再分散する。このようにして得られた粒子を、水と有機溶媒の混合液に酢酸を加えpHを調整する。有機溶媒としては、純水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エトキシエタノール、ジメチルホルムアミド、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、キシレン、シクロへキサンを単独、もしくは混合して用いることが望ましい。特に、純水とエタノールを混合した溶液が好ましく用いることができる。さらに、溶媒のpHは3〜5に調整するのが望ましく、より望ましくはpH4である。pHの調整には、酢酸を好ましく用いることができる。この粒子分散液にイオン伝導性化合物を有し、かつシリル基を持つ化合物をゆっくりと加え攪拌する。この工程において、酸化物微粒子表面の水酸基とシリル基が反応し、共有結合を形成する。このように得られたスラリーからエバポレーター、噴霧乾燥、凍結乾燥などで溶媒を取り除くことができる。特に、溶媒をt−ブタノールに置換し、凍結乾燥することが凝集の低い粒子をえることができ望ましい。
【0033】
《金属酸化物微粒子の粒子径評価》
本発明の金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子の粒子径は、凝集性が極めて低い粒子であるため、Z平均粒子径で100nm以下であることが特徴である。このためポリマー中へ高密度で含有させても、ポリマーを脆くすることがなく、高い成型性を保持したまま、イオン伝導性の向上を付与することができる。
【0034】
本発明でいうZ平均粒子径とは、粒子分散物等の動的光散乱法の測定データを、キュムラント解析法を用いて解析したデータである。
【0035】
キュムラント解析においては、粒子径の平均値と多分散指数(PDI)が得られ、本発明においては、この平均粒子径をZ平均粒子径と定義する。
【0036】
厳密には、測定で得られたG1相関関数の対数に、多項式をフィットさせる作業を、キュムラント解析といい、下式: LN(G1)=a+bt+ct+dt+et+・・・・・・・・・
の定数bが、二次キュムラントまたは、Z平均拡散係数とよばれる。
【0037】
この値を分散媒の粘度と幾つかの装置定数を用いて粒子径に換算した値がZ平均粒子径であり、この値は動的光散乱法で得られる最も重要で安定した値であり、品質管理目的にも適した値である。
【0038】
本発明に係るZ平均粒子径は、具体的には下記の方法を用いて測定することができる。すなわち、乾燥後の金属酸化物微粒子をジエチレングリコールに投入し撹拌した後の溶液を、ゼータサイザー1000HSa(シスメックス株式会社)などの動的光散乱を用いた粒子径測定機で測定して、Z平均粒子径の値を求めることができる。
(2)ルイス酸化合物
本発明におけるルイス酸化合物としては、ルイス酸性を示すものであれば特に制限はないが、下記式(1)で表わされる化合物を挙げることができる。
【0039】
式(1) XYn1(OR1)n2(OR2)n3(OR3)n4
(式中、XはBまたはPであり、Yはハロゲン原子であり、R1、R2およびR3は互いに同じであっても異なっていてもよく、ヘテロ元素を含む炭素数1〜12の直鎖または分岐アルキル基、ヘテロ元素を含む芳香族炭化水素基を表す。n1〜n4はそれぞれ独立に、0または1〜3のいずれかの整数を表し、n1+n2+n3+n4=3を表す。)
一般式(1)においてR1、R2およびR3としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチル−2−メチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、メタクリル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチレンプロピル基、1−メチル−2−プロペニル基、1,2−ジメチルビニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、フェニル基、トルイル基、メトキシフェニル基、ビフェニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチレンプロピル基、1−メチル−2−プロペニル基、1,2−ジメチルビニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、その他、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜12の直鎖または分岐アルキル基、フェニル基、トルイル基、メトキシフェニル基、ナフチル基、ピリジル基などのヘテロ元素を含む芳香族炭化水素基などを挙げることができる。
【0040】
前記一般式(1)で表わされる具体的な化合物としては、BF、BCl、BBr、BI、PF、PF、PCl、B(OCH、B(OC、B(OC、B(OC、P(OCH、P(OC、P(OC、P(OC、B[OSi(CH、B[OSi(C、B[OSi(C、B[OSi(Cを挙げることができる。この中で特に好ましいのは、BFである。
【0041】
本発明のルイス酸化合物は、固体電解質全体に対して0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜20質量%の量で含まれることが望ましい。
(3)アルカリ金属塩
本発明においては、アルカリ金属塩が電離し、キャリアになることにより導電性を示す。本発明に適用可能なアルカリ金属塩としては、イオン伝導性組成物と分散性または相溶性がよいものが望ましく、例えば、ナトリウム、リチウム、または、カリウムの適当な塩を含み、より好ましくは、リチウム塩である。
【0042】
このような塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiI、LiCFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、およびこれらの誘導体からなる群より選ばれた1種類または2種類以上であることが、化学的安定性、高純度品の入手の容易さ、そしてコストの点でさらに好ましい。特に、アルカリ金属塩として、イオン伝導性高分子や有機溶媒への溶解度、安定性およびイオン伝導度を勘案すると、リチウム塩を用いることが好ましい。
【0043】
本発明のアルカリ金属塩濃度は0.1〜10mol/l、好ましくは0.5〜2mol/lの濃度で固体電解質中に含まれていることが望ましい。
(4)固体電解質の調製方法
本発明の固体電解質は表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子の形状がペースト状から擬固体であるため、常温または加温して攪拌しながらこれにルイス酸化合物とアルカリ金属塩を添加することで調製できる。ルイス酸化合物のうちBF等常温で気体の化合物は例えばBF−ジエチルエーテル錯体、BF−ジメチルエーテル錯体、BF−THF錯体等の揮発性の高い溶剤との錯体の液体の形で添加して溶剤を蒸発させることにより添加してもよい。
【0044】
本発明の固体電解質には、さらに任意に高分子化合物を含有させることできる。これによって、さらに高いイオン伝導性を付与することができる。この高分子化合物は、特に制限はなく、熱可塑性重合体または熱硬化性重合体、天然ゴム、液晶高分子、その他の天然または、合成高分子重合体を含む。また、1種の高分子化合物または2種以上の高分子化合物のブレンド品、さらに、それらの高分子化合物に各種の物質を化学修飾または添加したものであってもよい。
【0045】
熱可塑性重合体としては、例えば、スチレン類、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、ブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種を構成単位とする重合体および/または共重合体;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリカーボネート;ポリアクリル酸;熱可塑性ポリウレタン;ポリ塩化ビニル;フッ素樹脂;ポリアミド;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリアセタール;ポリエーテルスルホン酸等のポリスルホン;ポリフェニレンスルフィド;ポリフェニレンエーテル;ポリシロキサン;ポリエステル;ポリ乳酸等が挙げられる。スチレン類、アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種を構成単位とする重合体および/または共重合体からなる樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸エチル/ブタジエン/スチレン共重合体およびスチレン/メタクリル酸メチル/アクリロニトリル共重合体を挙げることができる。
【0046】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリオキシド、ポリフェノール、ポリ尿素、メラニン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、熱硬化ポリウレタン、ポリビスマレイミド、合成ゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0047】
合成ゴムの具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンーブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルーブタジエン共重合体ゴムなどの共役ジエン系ゴムおよびこれらの水素添加物、スチレン−イソプレンブロック共重合体などのブロック共重合体ゴムおよびこれらの水素添加物、クロロプレン、ウレタンゴム、ポリエステル系ゴム、エピクロルヒドリンゴム等のエピハロヒドリンゴム、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム等が挙げられ、また、これらの重合体または共重合体を構成するモノマーを組み合わせた共重合体ゴムを用いることもできる。さらに、ウレタンゴムとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の親水性ポリオールを構成成分として含むウレタンやウレタンゴム等も挙げられる。
【0048】
これらの高分子化合物の中で、マトリックスの一部にポリエチレンオキサイド(PEO)またはポリプロピレンオキシド(PPO)を主鎖または側鎖に有する直鎖型、分岐型、架橋型等の誘導体が好ましい。中でもPEOは金属塩としてアルカリ金属塩と複合化したときに比較的高いイオン導電度となるので、特に好ましい。
【0049】
本発明の固体電解質の用途には特に制限はなく、電池、キャパシター、センサー、電子ペーパーなどの電気化学デバイスに用いることができるが、特にリチウムイオン二次電池に用いることが好ましい。
【0050】
本発明に係るリチウムイオン二次電池においては、上記固体電解質のほかに以下の構成を採用することができる。
〔負極〕
負極活物質としては特に限定されず、金属リチウムや、リチウムの吸蔵・放出が可能な合金、酸化物およびカーボン材料などを使用することができる。
〔正極活物質〕
正極活物質は特に限定されないが、具体例としては、二酸化マンガン(MnO)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMnまたはLixMnO)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1−yCo)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiMnCo1−y)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2−yNi)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(LixFePO、LixFe1−yMnPO、LiCoPOなど)、硫酸鉄(Fe(SO)、バナジウム酸化物(例えばV)などから選択される少なくとも一種が挙げられる。なお、これらの化学式中、x,yは0〜1の範囲であることが好ましい。)
より好ましい正極活物質は、電池電圧が高いリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi1−yCo)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LiMn2−yNi)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LiMnCo1−y)、リチウムリン酸鉄(LiFePO)などが挙げられる。なお、x,yは0〜1の範囲であることが好ましい。これらの正極活物質は酸化性の雰囲気下での焼結により結晶性が向上し電池特性を向上させる。
〔電極導電補助材およびイオン伝導補助材〕
本発明では、電極を形成する際に、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材やイオン伝導補助材を混合させてもよい。導電補助材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維等の炭素質微粒子、銅、銀、金、白金等の金属微粒子、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子が挙げられる。また、イオン伝導補助材としては、ゲル電解質、固体電解質が挙げられる。
〔電極結着剤〕
本発明では、電極の各構成材料間の結びつきを強めるために、電極材料に結着剤を混合してもよい。このような結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド等の樹脂バインダーが挙げられる。
〔集電体〕
本発明おける電極集電体としては、ニッケル、アルミニウム、銅、金、銀、アルミニウム合金、ステンレス等の金属箔や金属平板、メッシュ状電極、炭素電極等を用いることができる。また、このような集電体に触媒効果を持たせたり、活物質と集電体とを化学結合させたりしてもよい。
【0051】
また、負極と正極との電気的接触を防ぐ目的で、両者の間にプラスティック樹脂等からなる絶縁パッキンを配置した構成としてもよい。
〔電極の製造方法〕
本発明では、電極の製造方法については特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、正極の構成材料に溶剤を加えスラリー状にして電極集電体に塗布する方法、正極の構成材料にバインダー樹脂を加えて圧力をかけて固める方法、正極の構成材料に熱をかけて焼き固める方法などが挙げられる。
〔電極の積層形態〕
本発明では、正極および負極の積層形態についても特に限定されるものではなく、任意の積層形態を採用することができ、多層積層体、集電体の両面に積層したものを組み合わせた形態、さらにこれらを巻回した形態とすることができる。
〔電池の形状〕
本発明の電池の形状および外観については特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。すなわち、このような電池形状としては、例えば、電極積層体または巻回体を、金属ケース、樹脂ケース、もしくはアルミニウム箔などの金属箔と合成樹脂フィルムとからなるラミネートフィルム等によって封止したものが挙げられる。また、電池の外観としては、円筒型、角型、コイン型、シート型等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
(実施例1)
《固体電解質の調製》
〔イオン伝導性化合物の調製〕
3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン10gに対して、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル12gを加え5時間攪拌して、イオン伝導性化合物1を調製した。
【0053】
チタンテトライソプロポキシド12gに対して、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル8gを加え5時間攪拌して、イオン伝導性化合物2を調製した。
〔固体電解質1の調製:本発明〕
TM−300(大明化学社製 γアルミナ、一次粒子径7nm)23gに対して、純水500g、アンモニア水(濃度28%)4.8gを加え攪拌した。この溶液を、ウルトラアペックスミル(寿工業社製)を用いて周速6.8m/secで分散し、テトラエトキシシラン11.5gを分散開始直後より2時間かけて滴下した後も分散を続け、開始から4時間で分散を終了しコア粒子分散液を得た。
【0054】
上記コア粒子分散液327gに対してエタノール2280g、純水1050g、アンモニア水(濃度28%)20gを加えて希釈を行い、さらにテトラエトキシシラン38gを、液温30℃で8時間かけて滴下後、限外濾過機(分画分子量20000)を用いて体積を20%まで濃縮した後、アセトニトリルを加えて元の液量に戻すという操作を4回繰り返し、アセトニトリル置換を行い、最後に液量を20%まで濃縮して、800mlのシリカ被覆コアシェル粒子分散液を得た。
【0055】
このシリカ被覆コアシェル粒子分散液に対して、凝集抑制のためのシランカップリング剤として、HMDS3(信越化学工業社製)30gを加え60℃で2時間攪拌した後、限外濾過機(分画分子量20000)を用いて、前記と同様の操作にてt−ブタノール置換を行い、800mlの分散液を得た。この分散液を、凍結乾燥機FDU−2200(東京理化器機社製)を用いて凍結乾燥を行い、25gの白色紛体を得た。次いで、この白色粉体10gをナスフラスコに加え、エタノール380g、純水240g加え分散液を調製し、これにさらに酢酸をゆっくり滴下してpHを4.0に調整した。この分散液に対して、事前に調製しておいたイオン伝導性化合物1を20g加えて、4時間攪拌した後、限外濾過機(分画分子量20000)を用いて前記と同様に、t−ブタノール置換を行い、600mlの分散液を得た。この分散液を凍結乾燥機FDU−2200(東京理化器機社製)を用いて凍結乾燥を行い25gの表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子を得た。このコアシェル粒子0.5gを、ジエチレングリコール50gに加え攪拌した後、ゼータサイザー1000HSa(シスメックス社製)を用いて粒子径を測定した結果、Z平均粒子径は27nmであった。
【0056】
上記で得られた表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子20gにルイス酸化合物としてBF−ジエチルエーテル錯体2gを添加し40℃で1時間撹拌後常温に戻し、アルカリ金属塩としてLiBFを2g添加混合し、10Paで1時間減圧脱気して固体電解質1を調製した。
【0057】
以下同様にして上記固体電解質1の素材を表1記載のものに変更して本発明の固体電解質2−7、及び、比較電解質8を調製した。
【0058】
【表1】

【0059】
《評価用のフィルム試料の作製》
上記で調製した固体電解質を、それぞれ80〜90℃の温度条件で20分間の加圧処理を施して、厚さ100μmの評価用フィルム試料1〜8を作製した。
【0060】
《フィルムの評価:イオン伝導度の測定》
イオン伝導度の測定は、図1に示す測定用ホルダを用い、25℃の環境下で各フィルム試料の交流インピーダンスを測定し、インピーダンス切片から計算してイオン伝導度を求めた。アルゴンガス雰囲気下、各フィルム試料から所定サイズ(試料1)を切り取り、この試料1をステンレス電極2、3で挟み、これを電極差込用の穴の開いたステンレス製ホルダ4に入れ、さらに電極3の上に内部にバネ5の設けられたテフロン(登録商標)製カバー6を被せ、バネ5で電極3に圧力をかけた。電極2および電極3と通電しているネジ7およびネジ8にから導線を延ばし、交流インピーダンスを測定した。
【0061】
以上により得られた結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2の記載の結果より明らかなように、本発明の固体電解質は、比較例に対し100倍以上イオン伝導性に優れており、さらにアルコキシシリル基を有するイオン導電性化合物を用いた場合や、三フッ化ホウ素を使用した場合ではさらに優れた結果が得られていることが分かる。
(実施例2)
実施例1で得られた固体電解質を用いて、リチウムイオン二次電池を作成した。
【0064】
リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)90質量%と、補助導電材としてグラファイト粉末6質量%とを混合し、これに、ポリフッ化ビニリデン共重合体4質量%とN−メチルピロリドンとを加えて、混合してスラリーを調製した。
【0065】
このスラリーを、リード線を備えたアルミニウム箔(厚さ:20μm)の表面に塗布し、ワイヤーバーで全体が均一な厚さとなるように展開し、乾燥し、プレスすることにより正極を作製した。
【0066】
次に黒鉛96質量%とポリフッ化ビニリデン共重合体4質量%とN−メチルピロリドンとを加えて、混合してスラリーを調製した。
【0067】
このスラリーを、リード線を備えた銅箔(厚さ:20μm)の表面に塗布し、ワイヤーバーで全体が均一な厚さとなるように展開し、乾燥し、プレスすることにより負極を作製した。
【0068】
それぞれ3cm×5cmに切り出した正極、実施例1で作成した厚さ100μmの固体電解質フィルム、負極をこの順番に積層した後、全体を厚さが40μmのアルミニウム箔とアルミニウム箔の両面に形成されたポリプロピレン層から構成された厚さが100μmのラミネートラミネートフィルムからなるパックに収納し、80℃で24時間真空乾燥した。内部抵抗を最適化するため、このパック全面を140℃で加温加圧し電極と固体電解質の接触を良くさせてから真空でヒートシールにより完全密閉し、電池101−108を作製した。
《電池レート特性の評価》
前記の電池101〜108をそれぞれ各10個作製し、以下実験を行いそれぞれの結果の平均値を取った。25℃環境下において、上限電圧4.2Vまで0.2Cの定電流で充電した後、下限電圧2.5Vまで0.2Cの定電流放電を行った。同じことを0.5C、1Cでも行い、0.2Cでの放電量を100として比率を求めた。結果を表2に示す。なお、ここで1Cとは、作製した電池の正極活物質量より算出した容量を1時間で充電するのに必要な電流量とする。
【0069】
表2の記載の結果より明らかなように、本発明の固体電解質は、比較例に対しレート特性に優れていることがわかる。さらにアルコキシシリル基を有するイオン導電性化合物を用いた場合や、三フッ化ホウ素を使用した場合ではさらに優れた結果が得られていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】イオン伝導度の測定に用いた測定用ホルダの側断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 試料
2、3 ステンレス電極
4 ホルダ
5 バネ
6 テフロン(登録商標)製カバー
7、8 ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にイオン伝導性化合物を有する金属酸化物微粒子からなるコアシェル粒子、ルイス酸化合物及びアルカリ金属塩を含有することを特徴とする固体電解質。
【請求項2】
前記イオン伝導性化合物が、アルコキシシリル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記ルイス酸化合物が三フッ化ホウ素(BF)であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解質。
【請求項4】
少なくとも正極と負極とが請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質を介して対向配置されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−118211(P2010−118211A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289617(P2008−289617)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】