説明

固体電解質及び全固体型リチウム二次電池

【課題】窒化リン酸リチウムを主成分とするものにおいて、リチウムイオン伝導率をより高めた固体電解質及び全固体型リチウム二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の全固体型リチウム二次電池20は、正極24と、負極28と、正極24と負極28との間に介在する固体電解質26とを備えている。この固体電解質26は、リン原子に対するリチウム原子の原子比(Li/P)が3.0以上6.0以下である窒化リン酸リチウムからなり、XPSスペクトルにおける窒化リン酸リチウムのリン原子のP2p結合のピークが134eV以上135eV以下の範囲に存在する。また、固体電解質26は、リン酸リチウム及び酸化リチウムの混合粉体をターゲットとして高周波スパッタリング法により作製されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質及び全固体型リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体の電解質に代えて固体電解質を用いる全固体電池の開発が行われている。この電池の構成要素はすべて固体であるため、電池の信頼性が向上するだけでなく、電池をより小型化および薄型化することが可能となる。リチウム二次電池の場合においても、不燃性の固体材料で構成される固体電解質を用いた全固体電池である全固体リチウム二次電池の開発が望まれている。全固体リチウムイオン二次電池において、一番重要なのは固体電解質である。このため、薄膜作製や取り扱いの容易さ、あるいはリチウムに対する反応性、分解電圧などの立場から、酸化物系の固体電解質材料の開発が行われている。その中でも、Li3PO4をベースとした固体電解質材料の開発が盛んに行われている。例えば、Oak Ridge National Laboratory(ORNL)のBatesらは、固体電解質にLiPONを用いた全固体電池を報告している(例えば、特許文献1 参照)。ここで、LiPONとは、Li3PO4に窒素が導入されたリチウムイオン伝導体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,597,660号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の固体電解質である窒化リン酸リチウムは、リチウムイオン伝導率が1×10-6〜2×10-6S/cm程度と不十分であった。リチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導率が低いと、例えば、これを全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質に用いた場合、電池の内部抵抗が大きくなる。そのため、電圧降下が大きくなり、良好な大電流放電特性が得られなかった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、窒化リン酸リチウムを主成分とするものにおいて、リチウムイオン伝導率をより高めることができる固体電解質及び全固体型リチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、β相のリン酸リチウムと酸化リチウムとの混合粉体を用い高周波スパッタリングを行い、窒化リン酸リチウムの固体電解質膜を作製したところ、リチウムイオン伝導率をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の固体電解質は、含有するリン原子に対する含有するリチウム原子の原子比(Li/P)が3.0以上6.0以下である窒化リン酸リチウムからなるものである。
【0008】
本発明の全固体型リチウム二次電池は、
正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在する上述した固体電解質と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固体電解質は、リチウムイオン伝導率をより高めることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、一般的に、LiPONは、焼結体またはホットプレス焼成されたリン酸リチウム(Li3PO4)をターゲットとして用い、これを窒素ガス中でスパッタリングすることにより得ることができる。なお、この焼成過程においてリン酸リチウムはγ相へ変化する。この方法によると、XPSスペクトルにおける窒化リン酸リチウムの窒素原子のN1s結合において、P−N−P(−P)結合に比してP−N=P結合が多く形成される。これに対して、本発明の固体電解質では、P−N−P(−P)結合が多く形成されている。即ち、窒素原子のN1s結合において、P−N=P結合では、1個の窒素原子に2つのリン原子が結合しているが、P−N−P(−P)結合では、1個の窒素原子に3つのリン原子が結合しており、リチウムイオン伝導率が向上するものと推察される。あるいは、本発明の固体電解質では、リチウムの含有量が多く、結晶中にリチウム結晶相を有している。これによりリチウムイオン伝導率が向上するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の全固体型リチウム二次電池20の一例を示す模式図。
【図2】実験セル30の概略断面図。
【図3】実施例1のCV測定で得られたボルタモグラム。
【図4】実施例3、比較例3のN1s状態とP2p状態のXPSスペクトル。
【図5】実施例1、比較例1,3の固体電解質膜のX線回折測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の固体電解質は、固体電解質に含有するリン原子に対する固体電解質に含有するリチウム原子の原子比(Li/P)が3.0以上6.0以下である窒化リン酸リチウム(以下LiPONとも称する)からなるものである。即ち、この固体電解質は、LixPOyz(xは3.0以上6.0以下、y及びzは任意の値)で表すことができる。この原子比が3.0以上では、リチウムイオン伝導率が3×10-6S/cmを上回り好ましい。また、この原子比が6.0以下では、化学的な安定性をより高めることができる。この原子比は、3.2以上4.0以下がより好ましく、3.3以上3.8以下が更に好ましい。
【0012】
本発明の固体電解質は、リチウム結晶相を有する窒化リン酸リチウムを含むものとしてもよい。こうすれば、リチウム結晶相の存在によりリチウムイオン伝導率をより高めることができる。一般に、窒化リン酸リチウム膜は、膜中ではLi2O−P25−PONという形で相分離していると考えられている(非特許文献1:J.Electrochem.Soc.,144,524(1997)参照)。本発明の固体電解質は、窒化リン酸リチウム中のLi2Oが過剰となっており、これがリチウム結晶相として存在することによって、高いリチウムイオン伝導率を示すものと推察される。
【0013】
本発明の固体電解質は、X線光電子分光法(XPS)を用いて測定を行うと、XPSスペクトルにおける窒化リン酸リチウムのリン原子のP2p結合のピークが134eV以上135eV以下の範囲に存在する。この範囲に窒化リン酸リチウムのリン原子のP2p結合のピークがあるものとすると、リチウムイオン伝導率がより向上する。また、本発明の固体電解質は、X線光電子分光法(XPS)を用いて測定を行うと、XPSスペクトルにおける窒化リン酸リチウムの窒素原子のN1s結合において、P−N=P結合に比してP−N−P(−P)結合が多く形成されている。即ち、窒素原子のN1s結合において、P−N=P結合では、1個の窒素原子に2つのリン原子が結合しているが、P−N−P(−P)結合では、1個の窒素原子に3つのリン原子が結合しており、リチウムイオン伝導率が向上する(非特許文献2:Journal of Power Sources,43−33(1993)103−110参照)。P−N−P(−P)結合が多い本発明の固体電解質では、高いリチウムイオン伝導率を示すものと推察される。
【0014】
本発明の固体電解質は、特に限定されないが膜状に形成されていることが好ましい。この膜厚としては、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。0.1μm以上では、電極の短絡などをより防止でき、100μm以下では、リチウムの移動が円滑であり好ましい。
【0015】
本発明の固体電解質は、リチウムイオン伝導率が3.0×10-6S/cmを上回るものとしてもよい。本発明の固体電解質のリチウムイオン伝導率は、3.5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、4.0×10-6S/cm以上であることがより好ましい。
【0016】
本発明の固体電解質は、リチウム金属に対して安定であり、且つ電位窓が Li/Li+基準で+0V以上+5V以下の範囲よりも広い電位窓を有しているものとしてもよい。このような窒化リン酸リチウムでは、活物質の選択範囲がより広いため、全固体型リチウム二次電池に利用しやすい。この電位窓は、Li/Li+基準で+0V以上+5.5V以下の範囲がより好ましい。
【0017】
本発明の固体電解質は、真空装置を用いた薄膜製造方法によって作製することができる。なお、真空装置を用いた作製方法以外の方法、例えば、上記原子比となる原料ペーストを作製し、焼成する方法によって作製してもよい。真空装置を用いる製造方法としては、蒸着法と窒素イオンを導入するイオンビーム照射を組み合わせた方法が挙げられる。この蒸着法としては、例えばマグネトロンまたは高周波などの手段によりターゲットを窒素(N2)でスパッタするスパッタリング法、抵抗により蒸着源を加熱して蒸着させる抵抗加熱蒸着法、電子ビームにより蒸着源を加熱して蒸着させる電子ビーム蒸着法、およびレーザーにより蒸着源を加熱して蒸着させるレーザーアブレーション法などが挙げられる。このうち、高周波スパッタリング法により作製するものが好ましい。この高周波スパッタリング法において、β相のリン酸リチウム及び酸化リチウムの混合体をターゲットとして用いることが好ましく、混合粉体をターゲットとして用いることがより好ましい。この混合体を用いれば、例えばリン酸リチウムの焼結体を用いるものに比して、低エネルギーであり、上記原子比の固体電解質を比較的容易に作製することができる。ここで、混合体とは、リン酸リチウムの粉体と酸化リチウムの粉体とを混合した混合粉体や、この混合粉体を成形した成形体等が含まれる。また、熱処理を加えていないリン酸リチウムや酸化リチウム(焼結体ではないもの)をスパッタリング法のターゲットに用いるものとしてもよい。こうすれば、リン酸リチウムがγ相に変化するのを抑制し、β相として利用しやすい。例えば、500℃以上でリン酸リチウムを焼成すると、リン酸リチウムが準安定なγ相に変化し、焼成後に冷却してもβ相ではなくγ相でリン酸リチウムが存在する(非特許文献3:Chem.Mater.,20 5574−5584(2008)参照)。このγ相のリン酸リチウムに比してβ相のリン酸リチウムを原料として用いると、リチウムイオン伝導率が向上するため、より好ましい。リン酸リチウムの粉体としては、例えば平均粒径が0.1μm以上500μm以下とすることが好ましく、1.0μm以上100μm以下とすることがより好ましく、10μm以上50μm以下とすることが更に好ましい。酸化リチウムの粉体としては、例えば平均粒径が0.1μm以上500μm以下とすることが好ましく、1.0μm以上100μm以下とすることがより好ましく、10μm以上50μm以下とすることが更に好ましい。混合粉体の平均粒径としては、リン酸リチウムに比して酸化リチウムの平均粒径が小さい方が、固体電解質のリチウム含有量を高めやすく好ましい。
【0018】
本発明の固体電解質は、リン酸リチウムに対する酸化リチウムの混合モル比(Li2O/Li3PO4)が0.5以上3.0以下である混合体を用いて作製されていることが好ましい。こうすれば、固体電解質中のLi/P比を3.0以上6.0以下としやすい。この混合モル比は、1.0以上2.0以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明の全固体型リチウム二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在する上述したいずれかの固体電解質と、を備えたものである。本発明の全固体型リチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。図1は、本発明の全固体型リチウム二次電池20の一例を示す模式図である。この全固体型リチウム二次電池20は、基板21上に導電層22が形成されており、この導電層22上に正極24、固体電解質26、負極28が順に積層して形成されている。導電層22には、集電リード23が接続され、負極28には集電リード29が接続されている。この全固体型リチウム二次電池20では、固体電解質26は、リンに対するリチウムの原子比(Li/P)が3.0以上6.0以下である窒化リン酸リチウムによって形成されている。このような構成の全固体型リチウム二次電池20では、例えば、基板21をシリコン基板や石英板としてもよいし、導電層22を白金層としてもよいし、集電リード23,29を金ワイヤーとしてもよい。正極活物質や負極活物質には、全固体型リチウム二次電池に一般的に用いられるものを利用可能である。
【0020】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0021】
以下には、本発明の固体電解質を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0022】
[実施例1]
固体電解質薄膜を備えた実験セルを作製し、本発明の固体電解質のイオン伝導率を検討した。図2は、実験セル30の概略断面図である。図2に示すように、実験セル30は、ガラス基板31、白金/チタンからなる集電体層32 、固体電解質層33 、および金からなる集電体層34で構成した。まず、第1工程として、ガラス基板31の所定の位置に、窓(2mm × 50mm)を有するメタルマスクを被せ、RFスパッタリング法で膜厚20nmのチタン層形成後、DCスパッタリング法で膜厚80nm の白金層を形成し、集電体層32を作製した。第2工程として、メタルマスクの寸法を10mm×30mm に変更し、白金/チタンの集電体層32上に、RFスパッタリング法で固体電解質膜を形成し、膜厚2μmの固体電解質層33を作製した。このとき、ターゲットは熱処理を加えていない(焼成していない)リン酸リチウム及び酸化リチウムの混合粉末を使用した。なお、X線回折測定の結果、使用した粉末において、リン酸リチウムはβ相であった。粉末の平均粒径は、SEM撮影画像から算出し、リン酸リチウムが100μm程度、酸化リチウムが30μm程度であった。両粉末の混合比は、リン酸リチウム:酸化リチウムで1:2(モル比)とし、乳鉢で混合しターゲットとした。RFスパッタリングは、スパッタリングガスとして窒素を用い、チャンバー内圧2.5mTorr 、ガス導入量20sccmで行った。製膜中の基板の温度は50℃以下になるようにした。続いて、第3工程として、固体電解質層33の上に、固体電解質層33からはみ出さないように2mm×50mmの窓を有するメタルマスクを配置し、DCスパッタリング法で金の膜を成膜し、膜厚0.1μm の金からなる集電体層34を形成した。得られたものを実施例1の実験セルとした。表1に実施例1の原料などをまとめて示す。なお、この表1には、Li/P比及びイオン伝導率の測定結果を示すと共に、後述する実施例2,3及び比較例1〜3の内容も示した。
【0023】
【表1】

【0024】
[実施例2,3]
ターゲットとして、熱処理を加えていないリン酸リチウム粉末と酸化リチウム粉末とを1:1(モル比) の混合比で混合した混合粉体を用いた以外は実施例1と同様の処理を行い得られたものを実施例2の実験セルとした。また、ターゲットとして、熱処理を加えていないリン酸リチウム粉末と酸化リチウム粉末とを1:0.5(モル比) の混合比で混合した混合粉体を用いた以外は実施例1と同様の処理を行い得られたものを実施例3の実験セルとした。
【0025】
[比較例1,2]
ターゲットとして、熱処理を加えていないリン酸リチウム粉末のみを用いた以外は実施例1と同様の処理を行い得られたものを比較例1の実験セルとした。また、ターゲットとして、熱処理を加えていないリン酸リチウム粉末と酸化リチウム粉末とを1:4(モル比) の混合比で混合した混合粉体を用いた以外は実施例1と同様の処理を行い得たものを比較例2の実験セルとした。
【0026】
[比較例3]
ターゲットとして、700℃で焼結させた焼結板状体のリン酸リチウムを用いた以外は実施例1と同様の処理を行い得られたものを比較例3の実験セルとした。なお、X線回折測定の結果、使用した焼結板状体において、リン酸リチウムはγ相であった。
【0027】
[組成:Li/P比]
実施例1〜3及び比較例1〜3の膜の組成はLi/Pの原子比を誘導結合プラズマ発光分析装置(RIGAKU社製CIROS−120EOP)を用いて測定した。表1に示すように、実施例1〜3では、LiPONの理論比の3.0よりも大きな値を示し、リチウムの含有量が多いことがわかった。また、比較例1〜3では、Li/P比は3.0未満であった。
【0028】
[リチウムイオン伝導率の測定]
実施例1〜3及び比較例1〜3の実験セルについて、交流インピーダンス測定を行い、イオン伝導率の経時変化を調べた。交流インピーダンス測定は、平衡電圧をゼロとし、±50mVの振幅、および106Hzから1Hzまでの周波数領域を用いて行った(表1参照)。この結果、本発明の窒化リン酸リチウム(実施例1〜3)は、イオン伝導率が3.0×10-6S/cm以上であり、従来のLiPON(比較例3)の2.3×10-6S/cmと比べて、高いイオン伝導率を示すことが確認できた。一方、比較例1,2のイオン伝導率はそれぞれ、1.7×10-6S/cmと2.1×10-6であり、従来のLiPON(比較例3)よりも劣っていた。従って本発明において、固体電解質膜中のLi/P比は3.0以上6.0以下(Li2O/Li3PO4の混合モル比が0.5以上3.0以下)が望ましいことがわかった。
【0029】
[電位窓の検討]
サイクリックボルタンメトリ法(CV法)を用いて測定を行い、作製した固体電解質のリチウム金属に対する安定性を評価した。CV測定用の電極は、以下の手順で作製した。まず、ガラス基板上にRFスパッタリング法で膜厚20nmのチタン層を形成した後、DCスパッタリング法で膜厚80nm の白金層を形成し集電体層とした。その上に固体電解質膜を形成した。固体電解質膜の形成において、1μmの膜厚をとした以外は実施例1と同様の工程を経て、CV測定用の実施例1の固体電解質膜を作製した。作製した電極を作用極としCV法により測定を行った。対極、参照極をリチウム箔(厚さ約0.5mm)とし、電解液として、LiPF6を1mol/L溶解させたエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートの重量比3:7の混合溶液を用いた。作用極の電位を自然電位(約+0.4V vs.Li/Li+)から−0.5V(vs.Li/Li+)とし、続いて+7.5V(vs.Li/Li+)から自然電位へと電位を変化させながら電流を測定した。
【0030】
図3は、実施例1のCV測定で得られたボルタモグラムである。図3に示すaおよびbの地点で大きな電流が流れているが、これは電極上でのリチウムの析出および溶解に対応すると考えられる。またcの地点においても電流が急激に増加しているが、これは固体電解質の分解に対応する。そのほかには固体電解質の分解に対応すると思われるシグナルは観察されなかった。このことから、本発明にかかる固体電解質膜はリチウム金属の析出が始まる電圧(0V vs.Li/Li+)においても分解せず、また+6Vを超えるまでは、分解せず、安定であることがわかった。以上の結果から、実施例1の固体電解質膜は、リチウム金属に対して安定であることと、電位窓が+0V〜+5V(vs.Li/Li+)よりも広いことがわかった。
【0031】
[XPS測定]
X線光電子分光測定(XPS測定)を行い、本発明の固体電解質中の原子の結合状態を検討した。XPS測定は、XPS測定装置(アルバックファイ製PHI−5500MC)を用い、X線源としてMgKαを用いて行った。シリコン基板上に膜の厚さを100nmとし、上述した実施例3と同様の工程を経て、XPS測定用の実施例3の固体電解質を測定試料として作製した。また、シリコン基板上に膜の厚さを100nmとした以外は比較例3と同様の工程を経て、XPS測定用の比較例3の固体電解質膜を測定試料として作製した。図4は、実施例3および比較例3の固体電解質膜中のN1s状態とP2p状態のXPSスペクトルである。実施例3と比較例3とで有意に異なっていることが分かる。LiPON膜のN1s状態はP−N=P結合とP−N−P(−P)結合の2種類あるが、通常のLiPON膜と同様に、比較例3では低エネルギー側(約398eV)のP−N=P結合が支配的であった(非特許文献2参照)。一方、実施例3の固体電解質膜は、P−N−P(−P)結合が支配的であることがわかった。また、比較例3の固体電解質膜中のリン原子のP2p結合は133.5eVにピークを持つが、実施例3の固体電解質膜中のリン原子のP2p結合は134.25eVにピークを示した。即ち、実施例3では、窒化リン酸リチウムのリン原子のP2p結合のピークが134eV以上135eV以下の範囲に存在することがわかった。
【0032】
[X線回折測定]
X線回折測定を行い、作製した固体電解質中の結晶状態を検討した。X線回折測定は、X線回折装置(リガク社製RINT2200)を用い、X線源としてCuKα線:(λ=1.5418Å)を用いて行った。シリコン基板上に膜の厚さを2μmとし、上述した実施例1と同様の工程を経て、X線回折測定用の実施例1の固体電解質を測定試料として作製した。また、シリコン基板上に膜の厚さを2μmとし、上述した比較例1及び比較例3と同様の工程を経て、X線回折測定用の比較例1及び比較例3の固体電解質を測定試料として作製した。図5は、実施例1及び比較例1,3の固体電解質膜のX線回折測定結果である。比較例1,3については、シリコン基板由来のピーク以外の結晶ピークが確認されなかったことから、これらの薄膜はアモルファス(非晶質)であった。一方、実施例1では、リチウム金属結晶に由来するピークが確認された。これはターゲット中に過剰に混入された酸化リチウムがスパッタリングにより酸素欠陥の多い酸化リチウムとなり、これが酸化リチウム相とリチウム結晶相に相分離したものと推察された。
【0033】
このように、焼結していないリン酸リチウム及び酸化リチウムの混合粉末を使用し、スパッタリング法により作製した本発明の窒化リン酸リチウムからなる固体電解質は、リンに対するリチウムの原子比(Li/P)が3.0以上6.0以下であり、リチウムイオン伝導率がより高く、電位窓が広く、全固体型リチウム二次電池への利用が好ましいことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0034】
20 全固体型リチウム二次電池、21 基板、22 導電層、23,29 集電リード、24 正極、26 固体電解質、28 負極、30 実験セル、31 ガラス基板、32,34 集電体層、33 固体電解質層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有するリン原子に対する含有するリチウム原子の原子比(Li/P)が3.0以上6.0以下である窒化リン酸リチウムからなる、固体電解質。
【請求項2】
β相のリン酸リチウム及び酸化リチウムの混合体をターゲットとして高周波スパッタリング法により作製されている、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
リン酸リチウムに対する酸化リチウムの混合モル比が0.5以上3.0以下である前記混合体を用いて作製されている、請求項2に記載の固体電解質。
【請求項4】
正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在する請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質と、
を備えた全固体型リチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−171248(P2011−171248A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36272(P2010−36272)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】