説明

固体電解質形燃料電池及びその製造方法

【課題】同時焼成が容易で、導電性の劣化が少なく、低コストを実現できる固体電解質形燃料電池及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】固体電解質形燃料電池スタック1は、固体電解質体7とインターコネクタ5のセラミック基体13と外側コネクタ6のセラミック基体21とは、同一の組成のSc安定化ジルコニア固溶体から形成されており、また、ビア19と取出電極23とは、同一組成の導電体、即ちAg−Pd(Pd:30mol%)の金属材料から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質形燃料電池セル及びコネクタを備えた固体電解質形燃料電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池として、固体電解質(固体酸化物)を用いた固体酸化物形燃料電池(以下SOFCとも記す)が知られている。
このSOFCでは、発電単位として、例えば固体電解質体の一方の側に燃料ガスに接する燃料極を設けるとともに、他方の側に空気と接する空気極を設けた固体酸化物形燃料電池セルが(SOFCセル)使用されており、このSOFCセルを複数積層した固体酸化物形燃料電池スタック(SOFCスタック)が開発されている。
【0003】
また、SOFCスタックでは、セル間の導通を確保したり、セル間のガス流路を分離するために、導電性を有する例えば板状のインターコネクタが使用されている。
上述したSOFCのセル形状としては、円筒形、平板形、モノリス形などが知られており、このうち、モノリス形SOFCは、セラミックグリーンシートの状態で、固体電解質体とインターコネクタとを積層して焼成する、いわゆる一体焼結型SOFCである(特許文献1参照)。
【0004】
このモノリス形SOFCは、セル間の接続信頼性が高く、かつガスシール性が高くなるので、優れたスタック構造であると考えられる。
しかし、モノリス形SOFCの場合には、SOFCセルとインターコネクタとを同時焼成せねばならず、互いの材料の焼成温度を合わせることが重要になる。そのため、使用できる材料の組み合わせが限られていた。
【0005】
例えば引用文献2では、インターコネクタにランタンクロマイトを用いる手法が開示されている。また、引用文献3では、電子伝導性の無いセラミックスに導電性ビアを形成することで、インターコネクタに導電性を付与し、導電性ビアとして、ランタンマンガナイトやNiOサーメットを用いている。更に、引用文献4では、導電性ビアにPtを用いている。
【特許文献1】特表平6−502957号公報
【特許文献2】特開平6−68885号公報
【特許文献3】特開平5−94828号公報
【特許文献4】特開2003−132914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したランタンクロマイトを用いる手法は、ランタンクロマイトが難焼結性材料であるため、同時焼成が困難であるという問題がある。
また、導電性ビアに、ランタンマンガンナイトやNiOサーメットを用いる手法は、同材料が雰囲気によっては導電性が低下するため、SOFCの長期運転環境では、導電性を維持できないという問題がある。
【0007】
更に、導電性ビアを、Ptビアとした場合には、Ptは雰囲気依存性が殆どないものの、Ptは高価であるという問題があった。
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、同時焼成が容易で、導電性の劣化が少なく、低コストを実現できる固体電解質形燃料電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1の発明は、燃料ガスに接する燃料極と酸化剤ガスに接する空気極と固体電解質体(酸素イオン導電性セラミックス)とを備えた固体電解質形燃料電池セルと、前記固体電解質形燃料電池セルとの導通を確保するコネクタと、を備え、一体に焼結された固体電解質形燃料電池において、前記コネクタは、自身のセラミックス部分を貫いて前記燃料極又は空気極に電気的に接続されたビアを備え、前記ビアに充填されたビア導体は、Ag−Pd系の金属材料であることを特徴とする。
【0009】
本発明は、一体焼結型の固体電解質形燃料電池(いわゆるモノリス形SOFC)に関するものであり、本発明では、コネクタには、絶縁性のセラミックス部分を貫いて、セル間(或いは例えばセルと外部と)の導通を確保する導電性を有するビアが形成されており、このビアに充填されたビア導体は、Ag−Pd系の金属材料である。
【0010】
つまり、本発明では、ビア導体はAg−Pg系の金属であるので、導電率が雰囲気依存せず、しかも、Pt単体よりは低コストであるという利点がある。
また、本発明では、固体電解質形燃料電池は、一体焼結されて一体となっているので、高いシール性を有しており、従来の組み付け形のようなシール材が不要である。
【0011】
尚、一体焼結されて一体になっていることは、固体電解質体とコネクタのセラミックス部分(セラミックス基体)とにおいて、互いのセラミックス組織が連続して一体となっていることから分かる。特に、固体電解質体とコネクタのセラミックス部分とが同種のものの場合、通常は、互いにセラミックス組織は完全に同一になり、界面は消失する。
【0012】
・前記燃料極や空気極の材料としては、公知のものを使用できるが、特に、金属材料又は金属材料とセラミックスとの複合体であることが望ましい。これは、金属材料とすることで、焼成時の割れや反りを抑制できるからである。
【0013】
金属材料としては、Pt、Pd、Ag、Au、Cu、Ni、W、Mo、Fe、Co、及びこれらの合金などを用いることができる。このうち、特にPtが好ましい。Ptは融点が高く、セラミックスとの同時焼成が容易だからである。
【0014】
金属材料とセラミックスとの複合体とする場合、セラミックスとしては公知のもの、例えばアルミナ、シリカ、ジルコニア、セリア、カルシア、マグネシア、スピネル等が使用できる。特に、固体電解質体と同じものであると、同時焼成が容易に行えるようになり、また電極性能が向上するので望ましい。
【0015】
・ビア導体としては、Ag−Pd金属単体でもよく、セラミックスとの複合体でもよい。セラミックスとの複合体とする場合、セラミックスとしては公知のもの、例えばアルミナ、シリカ、ジルコニア、スピネル等が使用できる。特に、固体電解質体と同じものであると、同時焼成が容易に行えるようになり望ましい。
【0016】
尚、固体電解質形燃料電池としては、通常は、前記固体電解質形燃料電池セルが複数積層された固体電解質形燃料電池スタックが用いられる。
(2)請求項2の発明では、前記Ag−Pd系の組成は、Ag−Pdの金属全体を100mol%とした場合、Pdが20〜40mol%の範囲であることを特徴とする。
【0017】
本発明は、Ag−Pd系金属材料の好ましい組成を例示したものである。
この様に規定したのは、Pd含有量が20mol%より少ないと、融点が低く、固体電解質体の材料と一体焼結する際に、金属が溶融して電極が形成できないことがあるからである。一方、Pd含有量が40mol%より多いと、合金が高価になってしまうからである。
【0018】
(3)請求項3の発明では、前記固体電解質体が、Sc安定化ジルコニアを主成分とすることを特徴とする。
Sc安定化ジルコニアは、焼結温度が低く、導電性が高く、他材料との反応性が低いので、固体電解質体として好適である。このSc安定化ジルコニアは、ジルコニアにScを固溶させて酸素イオン導電性を付与したものである。
【0019】
Sc安定化ジルコニアのSc固溶量は、3〜12mol%のものを使用できるが、特に10mol%のものは、酸素イオン導電性が高く望ましい。また、Sc以外の他の元素(例えばCe、Al、Gd等公知のもの)を含有していてもよく、特にCeを含有していると、酸素イオン導電性が安定するため望ましい。
【0020】
(4)請求項4の発明では、前記固体電解質体が、1050〜1250℃で焼結可能なセラミックスであることを特徴とする。
これにより、従来より低温での一体焼結が可能となる。この1050〜1250℃で焼結可能なセラミックス(酸素イオン導電性セラミックス)としては、GaやAlなどの焼結助剤を添加した、YSZ(Y安定化ジルコニア)、ScSZ(Sc安定化ジルコニア)、GDC(GdをドープしたCe)、SDC(SmをドープしたCe)、ペロブスカイト酸化物などが挙げられる。
【0021】
(5)請求項5の発明では、前記コネクタが、1050〜1250℃で焼結可能なセラミックスであることを特徴とする。
これにより、従来より低温での一体焼結が可能となる。このコネクタとしては、焼結助剤を添加した、アルミナ、シリカ、スピネル、ジルコニア、ガラスセラミックスなどが使用できる。特に、固体電解質体と同種の材料であると、焼結温度のほか熱膨張係数も同じになるため望ましい。
【0022】
(6)請求項6の発明では、前記コネクタは、前記固体電解質形燃料電池セル同士を電気的に接続するインターコネクタであることを特徴とする。
本発明は、コネクタを例示したものである。このインターコネクタとは、例えばセルに交互に積層して、セルに酸化剤ガス及び燃料ガスを分離供給する機能と、セルにて発電した電気をセル間で接続する機能を有するものである。このインターコネクタのセラミックス部分にてガスの流路を構成でき、ビアに充填した導体(ビア導体)にて電気的導電性を付与する。
【0023】
(7)請求項7の発明では、前記コネクタは、前記固体電解質形燃料電池の端部に配置された固体電解質形燃料電池セルと外部とを電気的に接続する外側コネクタであることを特徴とする。
【0024】
本発明は、コネクタを例示したものである。これにより、例えばスタックの積層方向の端部から外部に容易に電気を取り出すことができる。
(8)請求項8の発明では、前記外側コネクタの取出電極(電気を電池外に取り出すための電極)は、Ag−Pd系の金属材料を主成分とすることを特徴とする。
【0025】
本発明では、外側コネクタの取出電極として、Ag−Pd系の金属材料を用いているので、導電性が低下し難く、低コストである。
(9)請求項9の発明(固体電解質形燃料電池の製造方法)は、1050〜1250℃で焼結可能な固体電解質体用のセラミックグリーンシートの表裏に、電極用ペーストを印刷して未焼成の固体電解質形燃料電池セルを形成するとともに、1050〜1250℃で焼結可能なコネクタ用のセラミックグリーンシートに設けた貫通孔に、Ag−Pd系のビア導体用ペーストを穴埋めして未焼成のコネクタを形成し、前記未焼成の固体電解質形燃料電池セルと前記未焼成のコネクタとを積層圧着して積層体を形成した後に、前記積層体を1050〜1250℃で焼成することを特徴とする。
【0026】
固体電解質体とコネクタとを同時焼成するモノリス形SOFCの場合、通常、1300℃以上(例えば1400℃程度)で焼成するのが一般的である。この焼成温度に耐え、且つ、酸化雰囲気でも酸化しない金属はPtしか存在しない。Pt以外でモノリス形SOFCを製造する場合には、焼成温度を下げる必要があるが、焼成温度を下げると、緻密な固体電解質体やコネクタが得られにくく、SOFCとして機能が得ることが難しい。
【0027】
本発明では、固体電解質体及びコネクタの材料として、従来よりも低い温度で焼成可能な材料を用いる。例えばY安定化ジルコニアより焼結性が高いSc安定化ジルコニアなどを用いたり、原料粉末の比表面積を大きくすることで、焼成温度を低めることが可能なので、1050〜1250℃程度でも焼結可能な材料を用いている。これにより、同時焼成の際に、融点が低いAg−Pd系の金属材料を使用可能としている。
【0028】
ここで、焼成温度は、1050〜1250℃(望ましくは1100〜1200℃)であるが、それは、1050℃より低いと固体電解質体やコネクタの焼結が困難であり、1250℃以上であるとAg−Pd系金属の融点以上となり、ビア形状の維持ができないからである。
【0029】
本発明の製造方法によって、前記請求項1〜8のいずれかに記載の固体電解質形燃料電池などを、低コストで、低い焼成温度にて容易に製造することができる。
尚、固体電解質体用のセラミックグリーンシートを、粉末を原料として製造する際に、Sc安定化ジルコニアを用いる場合には、Sc安定化ジルコニアの粉末は、その比表面積(BET)が5〜20m2/g(特に8〜12m2/g)のものが望ましい。これは、比表面積が小さ過ぎる粉末であると焼結が進みにくく、逆に比表面積が大きすぎるとグリーンシートが作製し難いからである。
【0030】
・尚、前記固体電解質体は、電池の作動時に燃料極に導入される燃料ガス又は空気極に導入される酸化剤ガスのうちの一方の一部をイオンとして移動させることができるイオン伝導性を有する。このイオンとしては、例えば酸素イオン及び水素イオン等が挙げられる。また、燃料極は、還元剤となる燃料ガスと接触し、セルにおける負電極として機能する。空気極は、酸化剤となる酸化剤ガスと接触し、セルにおける正電極として機能する。
【0031】
・そして、前記固体電解質形燃料電池を用いて発電を行う場合、燃料極側には燃料ガスを導入し、空気極側には酸化剤ガスを導入する。
燃料ガスとしては、水素、還元剤となる炭化水素、水素と炭化水素との混合ガス、及びこれらのガスを所定温度の水中を通過させ加湿した燃料ガス、これらのガスに水蒸気を混合させた燃料ガス等が挙げられる。炭化水素は特に限定されず、例えば、天然ガス、ナフサ、石炭ガス化ガス等が挙げられる。この燃料ガスとしては水素が好ましい。これらの燃料ガスは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。また、50体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。
【0032】
酸化剤ガスとしては、酸素と他の気体との混合ガス等が挙げられる。更に、この混合ガスには80体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスが含有されていてもよい。これらの酸化剤ガスのうちでは安全であって、且つ安価であるため、空気(約80体積%の窒素が含まれている。)が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、本発明の最良の形態の例について説明する。
[実施形態]
a)本実施形態であるモノリス形固体電解質形燃料電池(詳しくはモノリス形固体電解質形燃料電池スタック:モノリス形SOFCスタック)の構成について、図1に基づいて説明する。
【0034】
尚、図1は固体電解質形燃料電池スタックの一部を破断して模式的に示したものであり、ここでは、説明の簡易化のために、燃料ガスの流路と空気の流路とを平行に示してある。
【0035】
同図に示す様に、本実施形態の固体電解質形燃料電池スタック1は、燃料ガス(例えば水素)と酸化剤ガス(例えば空気(詳しくは空気中の酸素))との供給を受けて発電を行う装置である。
【0036】
この固体電解質形燃料電池スタック1は、発電単位である板状の固体電解質形燃料電池セル3と、セル3間の導通を確保するとともにガス流路を遮断する板状のインターコネクタ5とが交互に積層され、更に積層方向の両外側に板状の外側コネクタ6が積層され、一体焼結されたものである。
【0037】
このうち、固体電解質形燃料電池セル3は、板状の固体電解質体7の一方の側(同図上側:表側)に、空気極(カソード)9が形成され、他方の側(同図下側:裏側)に、燃料極(アノード)11が形成されている。
【0038】
また、インターコネクタ5は、板状のセラミック基体13の表側に、燃料極11を覆うように凹状の燃料ガス流路15が設けられ、裏側に、空気極9を覆うように凹状の空気流路17が設けられている。このインターコネクタ5には、セラミック基体13を(燃料ガス流路15と空気流路17の両脇にて)板厚方向に貫くように、ビア導体が充填されたビア19が形成されており、このビア19により、上方の固体電解質形燃料電池セル3の燃料極11と下方の固体電解質形燃料電池セル3の空気極9とが電気的に接続されている。
【0039】
また、外側コネクタ6のうち、同図上方の外側コネクタ6Aは、板状のセラミック基体21Aの下側(セル側)に、空気極9を覆うように凹状の空気流路17が設けられ、上側(積層方向外側)に、外部と電気接続される取出電極23Aが設けられている。この外側コネクタ6Aには、セラミック基体21Aを板厚方向に貫くように、ビア導体が充填されたビア19が形成されており、このビア19により、下方の固体電解質形燃料電池セル3の空気極9と取出電極23Aとが電気的に接続されている。
【0040】
一方、同図下方の外側コネクタ6Bは、板状のセラミック基体21Bの上側(セル側)に、燃料極11を覆うように凹状の燃料ガス流路15が設けられ、下側(積層方向外側)に、取出電極23Bが設けられている。この外側コネクタ6Bにも、同様なビア19が形成されており、このビア19により、上方の固体電解質形燃料電池セル3の燃料極11と取出電極23Bとが電気的に接続されている。
【0041】
特に、本実施形態では、固体電解質体7とインターコネクタ5のセラミック基体13と外側コネクタ6のセラミック基体21A、21B(21と総称する)とは、同一の組成のSc安定化ジルコニア固溶体から形成されており、また、ビア19と取出電極23A、23B(23と総称する)とは、同一組成の導電体、即ちAg−Pd(Pd:30mol%)の金属材料から構成されている。
【0042】
また、本実施形態では、固体電解質形燃料電池スタック1は、一体焼結されたものであるので、固体電解質体7とインターコネクタ5のセラミックス基体13と外側コネクタ6のセラミック基体21とは、互いのセラミックス組織が連続して一体となっている。
【0043】
b)上述した固体電解質形燃料電池スタック1を製造する場合には、後に実施例にて詳述する様に、1050〜1250℃で焼結可能な固体電解質体用のセラミックグリーンシートの表裏に、電極用ペーストを印刷して未焼成の固体電解質形燃料電池セルを形成するとともに、1050〜1250℃で焼結可能なコネクタ用のセラミックグリーンシートに設けた貫通孔に、Ag−Pd系のビア導体用ペーストを穴埋めして未焼成のコネクタを形成する。
【0044】
そして、この未焼成の固体電解質形燃料電池セルと未焼成のコネクタとを積層圧着して積層体を形成した後に、この積層体を1050〜1250℃で焼成する。
c)この様にして得られた本実施形態の固体電解質形燃料電池スタック1では、固体電解質体3とインターコネクタ5のセラミックス基体13と外側コネクタ6のセラミックス基体21とは、1050〜1250℃で焼結可能なセラミックスであるSc安定化ジルコニアから構成されている。
【0045】
また、インターコネクタ5のセラミックス基体13と外側コネクタ6のセラミックス基体21とには、それぞれのセラミックス基体13、21を貫いて、セル間又はセルと外部との導通を確保するビア19が形成されている。そして、このビア19にAg−Pd金属が充填されているとともに、取出電極23もAg−Pd金属で構成されている。
【0046】
従って、ビア19や取出金属23に高価なPtを使用しなくてもよく、低い温度で十分に一体焼結することができる。また、Ag−Pd金属は、導電率が雰囲気依存しないという利点がある。
[実験例]
次に、固体電解質形燃料電池の実験例について説明する。
【0047】
本実験例は、1250℃以下で焼結可能な酸素イオン導電性セラミックス(固体電解質体)を調査するに当たり、以下の試験を行ったものである。
(1)焼結性評価サンプルの作製及び評価
下記表1に示す組成及び比表面積(BET)の粉末を、φ15mm、高さ3mmの円柱状にプレスした。
【0048】
このプレス体を、1250℃にて焼成して、焼結性評価サンプルを作製した。得られたサンプルの吸水率及び相対密度{=(かさ密度/理論密度)×100}を測定した。その結果を、下記表1に記す。
【0049】
【表1】

【0050】
この表1より、実験例A〜Cの粉末では、1250℃にて緻密になったが、実験例D、Eの粉末では、緻密な焼結体が得られなかった。実験例Dで緻密な焼結体が得られなかった理由は、この材料では焼成温度が低いことが考えられ、実験例Eで緻密な焼結体が得られなかった理由は、BETが小さいことが考えられる。
【実施例1】
【0051】
次に、固体電解質形燃料電池の実施例について、図2及び図3に基づいて説明する。
本実施例は、固体電解質形燃料電池セル(発電セル)の固体電解質体とインターコネクタとの材料を同じジルコニア固溶体としたモノリス形SOFC(但し簡易サンプル)である。
【0052】
本実施例では、以下の手順でモノリス形SOFCの簡易サンプルを作成し、その発電試験を行った。尚、この簡易サンプルでは、空気や燃料ガスの流路はインターコネクタにより分離されていないが、実際にセルを積層する場合には、インターコネクタによって流路が分離される。
【0053】
(1)グリーンシートの作成
Ce添加Sc安定化ジルコニア(固溶体)粉末(10Sc1CeSZ)とブチラール樹脂と可塑剤と有機溶剤とを混合して、スラリーを調整し、そのスラリーをドクターブレード法でキャスティングし、200μm厚の10Sc1CeSZグリーンシートを作製した。
【0054】
(2)電極及びビアペーストの作製
Pt粉末と10Sc1CeSZ粉末とエチルセルロースと有機溶剤とを混合して、Ptペーストを作製した。また、Ag−Pd(Pd:30mol%)粉末と10Sc1CeSZ粉末とエチルセルロースと有機溶剤とを混合して、Ag−Pdペーストを作製した。
【0055】
(3)未焼成発電セルの作製
図2に示す様に、10Sc1CeSZグリーンシート24の表裏に、燃料極及び空気極となる電極パターン25を形成するために、Ptペーストを12cm角形状に印刷して、未焼成発電セル26を作製した。
【0056】
(4)未焼成インターコネクタの作製
10Sc1CeSZグリーンシート27、29に、ガス流路となる10cm角のガス貫通孔31、33を形成し、その周囲にビアとなるφ0.25mmの貫通孔(ビアホール)35を複数形成した。その後、ビアホール35は(ビア導体となる)Ag−Pdペーストで穴埋め印刷して未焼成ビア37を作製した。
【0057】
更に、ガス貫通孔31、33の周囲のシート表面をAg−Pdペーストで印刷して枠状パターン39を形成し、その枠状パターン39によって、ビア導体同士を電気的に接続するようにして、未焼成インターコネクタ41、43を作製した。
【0058】
(5)積層及び焼成
前記未焼成発電セル25の表裏に、前記未焼成インターコネクタ41、43を積層圧着して一体とした。このとき、未焼成発電セル25の電極パターン23と未焼成インターコネクタ41、43のガス貫通孔31、33及び未焼成ビア37とが、投影方向(同図上下方向)に重なるように、且つ、ガス貫通孔31、33の周囲に印刷したAg−Pdペーストが、サンプル表面に露出するようにして積層した。
【0059】
この積層体を250℃にて脱脂し、その後1150℃にて焼成して、図3に示すモノリス形SOFC51の簡易サンプルを作製した。得られたサンプルは緻密化しており、割れなどは確認できなかった。
【0060】
この様にして製造されたモノリス形SOFC51は、図3に破断して示す様に、空気極53及び燃料極55を有する固体電解質体57からなるSOFCセル58の両側に、インターコネクタ59、61を備えたものである。また、インターコネクタ59、61には、その中央に、空気極53に接する空気流路63と燃料極55に接する燃料ガス流路65とを備えるとともに、空気流路63及び燃料極55の周囲をそれぞれ囲むようにビア67、67を備えている。
【0061】
このうち、上側のビア67は、空気極53と上側のインターコネクタ59上面の端子71とを接続するものであり、下側のビア69は、燃料極55と下側のインターコネクタ61下面の端子73とを接続するものである。
【0062】
(6)発電評価
得られたモノリス形SOFC51の簡易サンプルを、その表面(空気流路63側)には酸化剤ガスである空気、裏面(燃料ガス流路65)には、燃料ガスである露点30℃のH2ガスに曝すことができるように、発電評価装置(図示せず)にセットした。
【0063】
また、上下のインターコネクタ59、61の表裏の端子71、73から電気を取り出せるように端子接続した。
この結果、800℃において、0.7Vにて0.3W/cm2の発電ができたことが確認された。
【0064】
尚、モノリス形SOFC51の簡易サンプルの固体電解質体57とインターコネクタ59、61のセラミックス部分との接合断面を、走査型電子顕微鏡(倍率2000倍)で観察したところ、互いのセラミックス組織が連続して一体となっていた。
【0065】
[比較例1]
本比較例は、前記実施例1の10Sc1CeSZを、すべてY安定化ジルコニア(8YSZ)に置き換えたものであり、それ以外は、前記実施例1と同様にして、比較例のモノリス形SOFCの簡易サンプル(図示せず)を作製した。
【0066】
得られたサンプルは緻密化しておらず、発電特性を評価できなかった。
[比較例2]
本比較例は、前記比較例1と同様にして生加工したものを、1400℃で焼成してサンプルを作製した。尚、焼成温度以外は、前記比較例1と同様である。
【0067】
得られたサンプルは緻密化していたが、ビア及びインターコネクタの電極部分が断線していたので、発電特性を評価できなかった。
【実施例2】
【0068】
本実施例は、SOFCセルが多層に積層されたモノリス形SOFCスタック(多層モノリス形SOFC)である。
この多層モノリス形SOFCは、下記の手順で製造することができる。
【0069】
(1)グリーンシートの作成
前記実施例1と同様に、200μm厚の10Sc1CeSZグリーンシートを作製した。
【0070】
(2)電極及びビアペーストの作製
前記実施例1と同様に、Ptペースト及びAg−Pdペーストを作製した。
(3)未焼成発電セルの作製
図4(a)に示す様に、前記実施例1と同様に、10Sc1CeSZグリーンシート81の表裏に、Ptペーストを印刷して電極パターン83を形成し、未焼成発電セル84を作製した。尚、破線が切断部分である。
【0071】
(4)未焼成インターコネクタの作製
図4(b)〜(d)に示す様に、10Sc1CeSZグリーンシートに、ガス流路となる10cm角のガス貫通孔91、93と、その周囲にビアとなるφ0.25mmの貫通孔(ビアホール)95、99を成した10Sc1CeSZグリーンシート85、89を2枚作製するとともに、ビアホール97だけ形成した10Sc1CeSZグリーンシート87を1枚作製した。
【0072】
その後、全てのグリーンシート85〜89のビアホール95〜99はAg−Pdペーストで穴埋め印刷して未焼成ビア101〜105を作製した。
次に、未焼成ビア103だけからなるグリーンシート87の表裏に、未焼成ビア101〜105の位置を一致させるようにして、前記ガス貫通孔91、93と未焼成ビア101、105を形成したグリーンシート85、89を積層圧着して、未焼成インターコネクタ107(図4(e)参照)を作製した。
【0073】
(5)積層及び焼成
前記未焼成発電セル25の表裏に、前記未焼成インターコネクタ41、43を積層圧着して一体とした。このとき、未焼成発電セル25の電極パターン23と未焼成インターコネクタ41、43のガス貫通孔31、33及び未焼成ビア37とが、投影方向(同図上下方向)に重なるように、且つ、ガス貫通孔31、33の周囲に印刷したAg−Pdペーストが、サンプル表面に露出するようにして積層した。
【0074】
この積層体を205℃にて脱脂し、その後1150℃にて焼成して、図3に示すモノリス形SOFC51の簡易サンプルを作製した。得られたサンプルは緻密化しており、割れなどは確認できなかった。
【0075】
この様にして製造されたモノリス形SOFC51は、図3に破断して示す様に、空気極53及び燃料極55を有する固体電解質体57からなるSOFCセル58の両側に、インターコネクタ59、61を備えたものである。また、インターコネクタ59、61には、その中央に、空気極53に接する空気流路63と燃料極55に接する燃料ガス流路65とを備えるとともに、空気流路63及び燃料極55の周囲をそれぞれ囲むようにビア67、67を備えている。
【0076】
このうち、上側のビア67は、空気極53と上側のインターコネクタ59上面の端子71とを接続するものであり、下側のビア69は、燃料極55と下側のインターコネクタ61下面の端子73とを接続するものである。
【0077】
(6)発電評価
得られたモノリス形SOFC51の簡易サンプルを、その表面(空気流路63側)には酸化剤ガスである空気、裏面(燃料ガス流路65)には、燃料ガスである露点30℃のH2ガスに曝すことができるように、発電評価装置(図示せず)にセットした。
【0078】
また、上下のインターコネクタ59、61の表裏の端子71、73から電気を取り出せるように端子接続した。
この結果、800℃において、0.7Vにて0.3W/cm2の発電ができたことが確認された。
【0079】
尚、モノリス形SOFC51の簡易サンプルの固体電解質体57とインターコネクタ59、61のセラミックス部分との接合断面を、走査型電子顕微鏡(倍率2000)で観察したところ、互いのセラミックス組織が連続して一体となっていた。
【0080】
[比較例1]
本比較例は、前記実施例1の10Sc1CeSZを、すべてY安定化ジルコニア(8YSZ)に置き換えたものであり、それ以外は、前記実施例1と同様にして、比較例のモノリス形SOFCの簡易サンプル(図示せず)を作製した。
【0081】
得られたサンプルは緻密化しておらず、発電特性を評価できなかった。
[比較例2]
本比較例は、前記比較例1と同様にして生加工したものを、1400℃で焼成してサンプルを作製した。尚、焼成温度以外は、前記比較例1と同様である。
【0082】
得られたサンプルは緻密化していたが、ビア及びインターコネクタの電極部分が断線していたので、発電特性を評価できなかった。
【実施例3】
【0083】
本実施例は、SOFCセルが多層に積層されたモノリス形SOFCスタック(多層モノリス形SOFC)である。
この多層モノリス形SOFCは、下記の手順で製造することができる。
【0084】
(1)グリーンシートの作成
前記実施例1と同様に、200μm厚の10Sc1CeSZグリーンシートを作製した。
【0085】
(2)電極及びビアペーストの作製
前記実施例1と同様に、Ptペースト及びAg−Pdペーストを作製した。
(3)未焼成発電セルの作製
図4(a)に示す様に、前記実施例1と同様に、10Sc1CeSZグリーンシート81の表裏に、Ptペーストを印刷して電極パターン83を形成し、未焼成発電セル84を作製した。尚、破線が切断部分である。
【0086】
(4)未焼成インターコネクタの作製
図4(b)〜(d)に示す様に、10Sc1CeSZグリーンシートに、ガス流路となる10cm角のガス貫通孔91、93と、その周囲にビアとなるφ0.25mmの貫通孔(ビアホール)95、99を成した10Sc1CeSZグリーンシート85、89を2枚作製するとともに、ビアホール97だけ形成した10Sc1CeSZグリーンシート87を1枚作製した。
【0087】
その後、全てのグリーンシート85〜89のビアホール95〜99はAg−Pdペーストで穴埋め印刷して未焼成ビア101〜105を作製した。
次に、未焼成ビア103だけからなるグリーンシート87の表裏に、未焼成ビア101〜105の位置を一致させるようにして、前記ガス貫通孔91、93と未焼成ビア101、105を形成したグリーンシート85、89を積層圧着して、未焼成インターコネクタ107(図4(e)参照)を作製した。
【0088】
(5)積層及び焼成
前記未焼成発電セル84と前記未焼成インターコネクタ107とを交互に配置し、積層圧着して一体とした。このとき、未焼成発電セル84の電極パターン83と未焼成インターコネクタ107のガス貫通孔91、93及び未焼成ビア101〜105とが重なるようにした。
【0089】
その後、積層体を図の破線に沿って必要な大きさに切断して、未焼成の多層モノリス形SOFCとし、この積層体を205℃にて脱脂し、その後1150℃にて焼成して、図5及び図6に示す多層モノリス形SOFC111を作製した。
【0090】
この様にして製造された多層モノリス形SOFC111は、空気極113及び燃料極115を有する固体電解質体117からなるSOFCセル119と、インターコネクタ121とを交互に積層したものである。
【0091】
このインターコネクタ121は、中央のプレート状の部材123の両側に一対の長方形の部材125〜131を備えたものであり、これらの部材123〜131によって、空気極113に接する空気流路133と燃料極115に接する燃料ガス流路135が形成されている。また、空気流路133及び燃料極135の周囲をそれぞれ囲むようにビア137が形成されている。
【0092】
尚、図6に示す様に、多層モノリス形SOFC111の積層方向の両側には、各セル119にて発電した電力を外部に取り出すための外側コネクタ139が配置されており、その外側コネクタ139の外側表面には、ビア137と接続された電流取出端子141が形成されている。
【0093】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施形態の固体電解質形燃料電池スタックの一部を破断して模式的に示す説明図である。
【図2】実施例1の固体電解質形燃料電池セルの製造手順を示す説明図である。
【図3】実施例1の固体電解質形燃料電池セルを破断して示す説明図である。
【図4】実施例2の固体電解質形燃料電池スタックの製造手順を示す説明図である。
【図5】実施例2の固体電解質形燃料電池スタックの一部を分解して示す斜視図である。
【図6】実施例2の固体電解質形燃料電池スタックの一部を破断して示す説明図である。
【符号の説明】
【0095】
1、111…固体電解質形燃料電池スタック
3、58、119…固体電解質形燃料電池セル
5、59、61、121、121…インターコネクタ
7、57、117…固体電解質体
9、53、113…空気極
11、55、115…燃料極
15、65、135…燃料ガス流路
17、63、133…空気流路
19、67、69…ビア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスに接する燃料極と酸化剤ガスに接する空気極と固体電解質体とを備えた固体電解質形燃料電池セルと、
前記固体電解質形燃料電池セルとの導通を確保するコネクタと、
を備え、一体に焼結された固体電解質形燃料電池において、
前記コネクタは、自身のセラミックス部分を貫いて前記燃料極又は空気極に電気的に接続されたビアを備え、
前記ビアに充填されたビア導体は、Ag−Pd系の金属材料であることを特徴とする固体電解質形燃料電池。
【請求項2】
前記Ag−Pd系の組成は、Ag−Pdの金属全体を100mol%とした場合、Pdが20〜40mol%の範囲であることを特徴とする前記請求項1に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項3】
前記固体電解質体が、Sc安定化ジルコニアを主成分とすることを特徴とする前記請求項1又は2に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項4】
前記固体電解質体が、1050〜1250℃で焼結可能なセラミックスであることを特徴とする前記請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項5】
前記コネクタが、1050〜1250℃で焼結可能なセラミックスであることを特徴とする前記請求項1〜4のいずれかに記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項6】
前記コネクタは、前記固体電解質形燃料電池セル同士を電気的に接続するインターコネクタであることを特徴とする前記請求項1〜5のいずれかに記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項7】
前記コネクタは、前記固体電解質形燃料電池の端部に配置された固体電解質形燃料電池セルと外部とを電気的に接続する外側コネクタであることを特徴とする前記請求項1〜5のいずれかに記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項8】
前記外側コネクタの取出電極は、Ag−Pd系の金属材料を主成分とすることを特徴とする前記請求項7に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項9】
1050〜1250℃で焼結可能な固体電解質体用のセラミックグリーンシートの表裏に、電極用ペーストを印刷して未焼成の固体電解質形燃料電池セルを形成するとともに、1050〜1250℃で焼結可能なコネクタ用のセラミックグリーンシートに設けた貫通孔に、Ag−Pd系のビア導体用ペーストを穴埋めして未焼成のコネクタを形成し、前記未焼成の固体電解質形燃料電池セルと前記未焼成のコネクタとを積層圧着して積層体を形成した後に、前記積層体を1050〜1250℃で焼成することを特徴とする固体電解質形燃料電池の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−53045(P2008−53045A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227976(P2006−227976)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】