説明

固体電解質用材料

【課題】燃料電池の固体電解質用膜(イオン伝導膜)として実用化することができる程度
に高い耐熱性を有するアニオン系交換膜である固体電解質用材料を提供する。
【解決手段】高分子架橋体を含有する固体電解質に用いられる材料であって、上記高分子
架橋体は、架橋構造中に3級アミン構造及びOH型4級アンモニウム塩構造を有することを特徴とし、該構造は、3級アミン及び4級アンモニウム塩構造を有する高分子化合物を架橋剤により架橋体となし、次いでアニオン交換してOH型4級アンモニウム塩構造に変換したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質用材料に関する。より詳しくは、イオン伝導膜を用いた固体燃料電
池に用いるアニオン系交換膜として好適に用いられる固体電解質用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導膜を用いた固体燃料電池は、電池内のろ液がなくなることにより電池の信頼性
向上することに加えて、薄型化、積層化が可能となることから、近年注目されている。こ
のような固体燃料電池に用いられるイオン伝導膜としての固体電解質は、(1)イオン導
電性が高く、電子導電性はないこと、(2)薄く成形することができるように、成膜特性
が優れていること、(3)可とう性が優れていること等が要求される。
従来、このような固体電解質の要求特性を満たすために、ナフィオン(登録商標)に代表
されるカチオン系交換膜が用いられていた。しかしながら、このようなカチオン系交換膜
を用いると、電極が高価な白金に限定され、また、燃料がエタノールに限定されることに
なる等の制約があった。これに対しては、アニオン系交換膜を用いる方法が知られている
。アニオン系交換膜を固体電解質膜(固体電解質用材料)として用いると、固体燃料電池
の電極は白金に限定されず、安価な電極を使用することができ、また、燃料もメタノール
以外でも、エタノールやエチレングリコール等を用いることができる。
従来のアニオン系交換膜としては、例えば、アルキル第四級アンモニウム塩構造を有する
有機ポリマーと、窒素含有複素環式第四級アンモニウム塩と、金属水酸化物塩とを含むポ
リマーベースの電解質組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、アルキル4級アンモニウム塩構造を有する有機高分子、含窒素複素環式四級アンモ
ニウム塩及び金属塩からなる高分子固体電解質も開示されている(例えば、特許文献2参
照。)。また、アルキル四級アンモニウム基を側鎖の末端部に有する有機高分子と金属塩
からなる高分子電解質についても開示されている(例えば、特許文献3参照。)。更に、
環状4級アンモニウム塩構造からなる高分子電解質についても開示されている(例えば、
特許文献4参照。)。
これらのアニオン系交換膜は、優れた皮膜成形性、柔軟性、機械的強度を有していたり、
イオン導電率を向上させることができるものであったりするものの、燃料電池のイオン伝
導膜として用いるために重要な特性のひとつである耐熱性(耐加熱分解性)が低いという
課題があった。そのため、アニオン系交換膜を固体燃料電池の固体電解質用膜として実用
化するためには、高いイオン伝導性を有し、電子導電性を有さない、皮膜成形性に優れ、
機械的強度という固体電解質に求められる必須の要求を満たしつつ、高温でも用いること
ができる程度に耐熱分解性を有するアニオン系交換材料の実現が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特表昭2002−525803号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開平7−118480号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開平6−68907号公報(第1−2頁)
【特許文献4】米国特許5643490号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、燃料電池の固体電解質用膜(イオン伝
導膜)として実用化することができる程度に高い耐熱分解性を有するアニオン系交換膜で
ある固体電解質用材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、燃料電池に用いられる固体電解質のイオン伝導膜について種々検討したと
ころ、イオン伝導膜の中でも、アニオン系交換膜は、燃料電池の電極が白金に限定されず
、安価な電極を使用することができ、また、燃料についてもメタノールに限定されず、エ
タノールやエチレングリコール等を用いることができる点において、有用であることに着
目した。更に、特定の3級アミン及びOH型4級アンモニウム塩構造を有する高分子架橋
体を含有する固体電解質用材料(膜)とすると、その高温下で使用しても、その性能の低
下を防止することができる、すなわち、固体電解質耐用材料の使用温度(耐熱分解性)を
従来のものと比較して飛躍的に向上させることができることを見いだし、上記課題をみご
とに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
すなわち本発明は、高分子架橋体を含有する固体電解質に用いられる材料であって、上記
高分子架橋体は、架橋構造中に3級アミン構造及びOH型4級アンモニウム塩構造を有す
る固体電解質用材料である。
以下に本発明を詳述する。
本発明の固体電解質用材料は、3級アミン及びOH型4級アンモニウム塩構造を有する高
分子架橋体を含有するものである。
上記高分子架橋体とは、3級アミン及びOH型4級アンモニウム塩構造を有する高分子化合物が架橋剤により架橋して形成される構造を有する架橋体であり、少なくとも一つの架橋構造の両端部に3級アミン及びOH型4級アンモニウム塩構造を有するものであればよい。また、3級アミン及び4級アンモニウム塩構造を有する高分子化合物が架橋剤により架橋して形成される構造を有する架橋体をアニオン交換してOH型4級アンモニウム塩構造を形成せしめたものである。このような構造を有するものであれば、高分子化合物と架橋剤とから形成される架橋体に特に限定されるものではない。
上記高分子架橋体の好ましい形態は、強塩基性樹脂架橋体である。高分子架橋体が有する
3級アミン構造又は4級アンモニウム塩構造は、該高分子架橋体が固体電解質用材料とし
て機能するものである。高分子架橋体の耐熱分解性は、上記構造の架橋構造を有するため
に著しく向上される。すなわち、高分子架橋体の架橋部位が環状構造により形成されるた
め、高温においてもアミン構造が脱離しにくく、耐熱分解性が向上することとなる。なお
、本明細書において、「耐熱分解性」とは、高分子架橋体の熱分解温度の程度のことを意
味し、例えば、耐熱分解性が高い、又は、向上されているとは、高分子架橋体の熱分解温
度が、従来一般の高分子架橋体と比較して高い、又は、向上されていることを意味する。
上記3級アミン構造や4級アンモニウム塩構造は、環状のアミン構造又は環状の4級アン
モニウム塩の構造であることが好ましい。このような環状構造であれば、脂肪族アミンよ
りも酸化的分解を受けにくいため、高分子架橋体の耐熱分解性が化学構造的に優れること
になる。また、高分子架橋体は、ジアリルジメチルアンモニウム塩に由来する4級アンモ
ニウム塩構造を有することが好ましい。このような構造は、後述する一般式(12)において、R15及びR16がメチル基であり、R17及びR18が水素原子である構造である。
上記架橋構造とは、高分子化合物の分子内又は分子間で架橋剤により架橋されることによ
り形成される構造であり、該構造の両端部に位置する3分岐構造を有する架橋部位(A)
と、これら3分岐構造を有する架橋部位(A)間に位置する部位(B)とを合わせた構造
を意味する。例えば、両端部に3級アミン構造を有する架橋構造とは、該構造の両端部に
位置する3級アミン構造を有する環状構造(窒素原子を有する複素環)と、両端部の該環
状構造を結合する架橋剤に由来する構造とをあわせた構造を意味する。本発明の固体電解
質用材料が含有する高分子架橋体の少なくとも一つの架橋構造の両端部が3級アミン構造
からなるものであればよい。なお、ここでいう3級アミン構造とは、窒素原子に3つの炭
素原子が直接結合されてなる構造を有する化学構造一般を意味する。3級アミン構造を形
成する窒素原子に直接結合する3つの炭素原子は、それぞれ、高分子架橋体を構成する高
分子化合物の一部であってもよく、少なくともその一つ(通常一つ)が後述する架橋剤に
由来するものであってもよい。
上記高分子架橋体は、下記一般式(1);
【0006】
【化1】

【0007】

(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭
素数1〜10のアルキル基又は水酸基を表す。R5、R6、R7及びR8は、同一又は異
なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル基を表す。a及びbは、同一又は
異なって、0〜10の整数を表し、pは、0又は1を表す。ただし、a+b+p≧1を満
たす。Zは、−NH−基、−N(CH3)−基、1,4−ピペラジニレン基、−NH−(
CH2)3−NH−基、−NH−(CH2)4−NH−基、−O−基、−O−(CH2)
2−O−基、−O−CH2−C(CH3)2−CH2−O−基、−O−(CH2)2−(
O−CH2−CH2)n1−O−基、3−メチル−2,6−ピリジル基、4−メチル−2
,6−ピリジル基、2,6−ピリジル基、2,5−ピリジル基又は−CH(OH)−基を
表す。n1は、0以上の整数である。)で表される架橋構造を必須として有するものであ
ることが好ましい。
上記一般式(1)で表される構造においては、2つの含窒素複素環が上記架橋部位(A)
に相当し、2つの含窒素複素環の窒素原子間に位置する構造が上記部位(B)に相当する
。また、一般式(1)中、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子、
ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は水酸基を表し、水素原子であることが好
ましい。ハロゲン原子としては特に限定されず、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等
が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては特に限定されず、例えば、メチル基、
エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−
ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が
好適である。
上記R5、R6、R7及びR8は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル
基又はエチル基を表し、水素原子であることが好ましい。該ハロゲン原子としては、例え
ば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
上記a及びbは、同一又は異なって、0〜10の整数であり、pは、0又は1である。た
だし、a+b+p≧1を満たす。
上記Zは、−NH−基、−N(CH3)−基、1,4−ピペラジニレン基、−NH−(C
H2)3−NH−基、−NH−(CH2)4−NH−基、−O−基、−O−(CH2)2
−O−基、−O−CH2−C(CH3)2−CH2−O−基、−O−(CH2)2−(O
−CH2−CH2)n −O−基、3−メチル−2,6−ピリジル基、4−メチル−2,
6−ピリジル基、2,6−ピリジル基、2,5−ピリジル基又は−CH(OH)−基を表
す。上記nは、0以上の整数である。
なお、1,4−ピペラジニレン基とは、下記式(2);
【0008】
【化2】

【0009】
で表される基であり、3−メチル−2,6−ピリジル基とは、下記式(3);
【0010】
【化3】

【0011】
で表される基であり、4−メチル−2,6−ピリジル基とは、下記式(4);
【0012】
【化4】

【0013】
で表される基であり、2,6−ピリジル基とは、下記式(5);
【0014】
【化5】

【0015】
で表される基であり、2,5−ピリジル基とは、下記式(6);
【0016】
【化6】

【0017】
で表される基である。
上記高分子架橋体は、下記一般式(7);
【0018】
【化7】

【0019】
(式中、R1及びR2は、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜
10のアルキル基又は水酸基を表す。R3、R4、R5及びR6は、同一若しくは異なっ
て、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル基を表す。X1−及びX2−は、水酸イオンを表す。aは、0〜10の整数を表す。)で表される架橋構造を必須として有する固体電解質材料であることが好ましい。
一般式(7)で表される架橋構造は、両基点(端部)に位置する3分岐構造を有する部位
(架橋部位)において、飽和5員環である複素環基を構成する窒素原子に、置換基を構成
する4つの原子が直接結合されてなる4級アンモニウム塩構造を有することになる。本明
細書中、「高分子化合物」との用語は、重合体や分子量分布を有する化合物を総称する用
語として用い、特定の分子量以上であることを意味するものではない。また、上記高分子
架橋体において、架橋構造とは、主鎖どうしが結合している構造を意味し、該架橋構造は
、主鎖を構成する一部と、それを結合している架橋部位を合わせた構造により構成されて
いる。このような主鎖と架橋構造は、通常は共有結合により結合されている。架橋構造を
有することにより、高分子架橋体の機械的強度が大きくなる。
すなわち、上記一般式(7)で表される架橋構造を有する高分子架橋体は、上記架橋構造
において、3分岐構造を形成する一方の架橋部位が、下記一般式(8)
【0020】
【化8】

【0021】
で表される4級アンモニウム塩構造を有し、他方の架橋部位が、下記一般式(9)
【0022】
【化9】

【0023】
で表される4級アンモニウム塩構造を有している。
本明細書中、−(CR1R2)−等の化学構造で表される繰り返し単位は、同一又は異な
ってもよく、このような繰り返し単位中のRl及びR2等で表される置換基は、各繰り返
し単位内及び各繰り返し単位毎に、同一又は異なって構成されていてもよい。繰り返し単
位は、ブロック又はランダムに結合されていてもよい。また、ハロゲン原子としては特に
限定されず、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、炭素数1〜10のアル
キル基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプ
ロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基
、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。更に、有機酸のアニオ
ン又は無機酸のアニオンとは、有機酸又は無機酸より水素イオンが少なくとも1つ脱離し
たものを意味し、例えば、無機酸のアニオンとしては、硫酸イオン、ホスホン酸イオン(
亜リン酸イオン)、ホウ酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、チ
オシアン酸イオン、チオ硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、硝酸イオン、シ
アン酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、メタレートイオン(例えば、モリブデ
ン酸イオン、タングステン酸イオン、メタバナジン酸イオン、ピロバナジン酸イオン、水
素ピロバナジン酸イオン、ニオブ酸イオン、タンタル酸イオン、過レニウム酸イオン等)
、テトラフルオロアルミン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン
酸イオン、テトラクロロアルミン酸イオン、Al2Cl7−等が挙げられ、有機酸のアニ
オンとしては、スルホン酸イオン、ギ酸イオン、シュウ酸イオン、酢酸イオン、(メタ)
アクリル酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビ
ス(トリフルオロメタンスルホン酸)アミドイオン、(CF3SO2)3C−等が挙げら
れる。
上記一般式(7)で表される架橋構造を有する高分子架橋体の中でも、一般式(7)にお
いて、Rl、R2、R3、R4、R5及びR6で表される置換基が水素原子であり、aが
3であるものが好ましい。X1−及びX2−で表されるアニオンは水酸イオンである。
上記高分子架橋体は、架橋構造によって、その熱分解温度を300℃以上とすることが可
能であり、高分子架橋体が有する3級アミン構造や、4級アンモニウム塩構造等の脱離(
熱分解)を防ぐことができるものである。よって、幅広い温度条件下で長期間にわたり好
適に使用されることが可能あり、その用途を大きく広げることができることになる。なお
、高分子架橋体の熱分解温度とは、高分子架橋体を熱分析測定装置を用いて窒素気流中で
5℃/minで加熱昇温する際に、熱重量分析−示差熱分析(TG−DTA)曲線により
求められる、高分子架橋体の分解に伴う吸熱ピーク温度を意味するものとする。本発明に
おける固体電解質用材料が含有する高分子架橋体の熱分解温度は300℃以上であること
が好ましい。
上記高分子架橋体においては、長期耐熱性試験(水中100℃×720時間)後の交換基
残存率(単位質量あたり)が、85%以上であることが好ましい。85%未満であると、
イオン交換能が安定的に保持されず、長時間にわたって熱水処理を充分には行えないおそ
れがある。より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%以上である。
上記長期耐熱性試験は、高分子架橋体を脱塩水とともに耐圧容器に投入し、これに窒素を
吹き込みながら50℃で1時間加熱し、水中の酸素を除去し、密栓をして100℃で72
0時間加熱状態を保持することにより実施することができる。交換基の残存率は、耐熱試
験後の高分子架橋体を、塩化ナトリウム溶液を通してCl型とし、中性塩分解容量を測定し、耐熱試験前の中性塩分解容量との比から算出することができる。
本発明の固体電解質用材料は、成膜して固体電解質用膜として用いても、成膜することな
く固体電解質として用いることもできる。固体電解質用膜として用いる場合は、3級アミ
ン及びOH型4級アンモニウム塩構造を有する高分子架橋体を含有するものであれば、イ
オン伝導率等の性能を調製するために1又は2以上の他の物質を加えることもできる。
本発明の固体電解質用材料が含有する高分子架橋体は、高分子化合物を含む反応溶液に架
橋剤を反応させて架橋する工程を含む製造方法により製造することができる。
上記高分子化合物は、下記一般式(10);
【0024】
【化10】

【0025】
(式中、R9及びR10は、同一又は異なって、炭素数1〜10のアルキル基を表す。R
11及びR12は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル基
を表す。X−は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、有機酸のアニオン又は無機酸の
アニオンを表す。)で表される繰り返し単位(10)及び下記一般式(11);
【0026】
【化11】

【0027】
(式中、R13及びR14は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又
はエチル基を表す。)で表される繰り返し単位(11)を必須として有するものであり、
上記高分子架橋体は、下記一般式(12);
【0028】
【化12】

【0029】
(式中、R15及びR16は、同一又は異なって、炭素数1〜10のアルキル基を表す。
R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル
基を表す。X−は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、有機酸のアニオン又は無機酸
のアニオンを表す。)で表される繰り返し単位(12)及び上記一般式(1)で表される
架橋構造を必須として有するものであり、上記高分子架橋体の製造方法は、上記高分子化
合物を、不活性有機溶媒中に懸濁させ、必要に応じてアルカリ金属水溶液に接触せしめアニオン交換反応によりOH型4級アンモニウム塩構造を有する高分子架橋体とする工程を含む高分子架橋体の製造方法でもある。このような製造方法により、上記の性能に優れた固体電解質用材料を容易に製造することができることになる。
上記固体電解質用材料の製造方法は、高分子化合物を含む反応溶液に架橋剤を反応させて
架橋する工程を含むことにより、高分子架橋体を製造する方法である。本明細書中では、
上記工程を工程(A)ともいう。
上記高分子化合物は、上記一般式(10)で表される繰り返し単位(10)及び上記一般
式(11)で表される繰り返し単位(11)を必須として有するものである。上記高分子
化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
上記高分子化合物において、繰り返し単位(10)及び繰り返し単位(11)はそれぞれ
1種であってもよく、2種以上であってもよい。また、繰り返し単位(10)及び繰り返
し単位(11)の共重合の形態としては特に限定されず、ランダム、交互、ブロック等の
形態が挙げられる。
上記一般式(10)中、R9及びR10は、同一又は異なって、炭素数1〜10のアルキ
ル基を表す。炭素数1〜10のアルキル基としては、上記R1、R2、R3及びR4と同
様であり、メチル基であることが好ましい。
R11及びR12は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル
基を表し、水素原子であることが好ましい。ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、
臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。X−は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、
有機酸のアニオン又は無機酸のアニオンを表す。ハロゲン化物イオンとしては、塩化物イ
オン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンが好適である。有機酸のアニオン又は無機酸のアニ
オンとは、有機酸又は無機酸より水素イオンが脱離したものを意味する。有機酸のアニオ
ン又は無機酸のアニオンとは、有機酸又は無機酸より水素イオンが少なくとも1つ脱離し
たものを意味し、例えば、無機酸のアニオンとしては、硫酸イオン、ホスホン酸イオン(
亜リン酸イオン)、ホウ酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、チ
オシアン酸イオン、チオ硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、硝酸イオン、シ
アン酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、メタレートイオン(例えば、モリブデ
ン酸イオン、タングステン酸イオン、メタバナジン酸イオン、ピロバナジン酸イオン、水
素ピロバナジン酸イオン、ニオブ酸イオン、タンタル酸イオン、過レニウム酸イオン等)
、テトラフルオロアルミン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン
酸イオン、テトラクロロアルミン酸イオン、Al2Cl7−等が挙げられ、有機酸のアニ
オンとしては、スルホン酸イオン、ギ酸イオン、シュウ酸イオン、酢酸イオン、(メタ)
アクリル酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビ
ス(トリフルオロメタンスルホン酸)アミドイオン、(CF3SO2)3C−等が挙げら
れる。X−としては、塩化物イオンであることが好ましい。
上記一般式(11)中、R13及びR14は、上記R11及びR12と同様であり、X−
は、上記と同様である。すなわち高分子化合物としては、上記一般式(10)において、
R9及びR10がメチル基であり、R11及びR12が水素原子であり、かつ、上記一般
式(11)において、R13及びR14が水素原子であるものが好ましい。
上記高分子化合物としては、強塩基性共重合体が好ましく、例えば、ジアリルジメチルア
ンモニウムクロライド(DADMAC)とジアリルアミン塩酸塩(DAAHC)とを共重
合させることにより得られる共重合体(poly−DADMAC/DAAHC;以下、ポ
リジアリルアミン誘導体という)のアルカリ中和物を用いることが好ましい。高分子化合
物の前駆体としてのポリジアリルアミン誘導体が、ジアリルジメチルアンモニウムクロラ
イドとジアリルアミン塩酸塩とのみからなる場合には、これらのモル比は、5:95〜9
5:5であることがより好ましい。アルカリとしては、無機アルカリとしては、水酸化ナ
トリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が、有機アルカリとしては、テトラメチル
アンモニウムヒドロキシドが好適である。この場合、繰り返し単位(10)を構成するこ
とになる化合物は、DADMACであり、繰り返し単位(11)を構成することになる化
合物は、DAAHCであるが、繰り返し単位(10)及び繰り返し単位(11)を構成す
ることになる化合物としてはこれらの化合物のみに限定されるものではない。
上記高分子化合物としてはまた、必須の繰り返し単位を構成することになる単量体とそれ
以外の単量体とを共重合してなる共重合体のアルカリ中和物等も用いることができる。上
記必須の繰り返し単位を構成する単量体以外の単量体としては、アクリルアミド、アクリ
ル酸、マレイン酸が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよ
い。
上記高分子化合物中の繰り返し単位(10)、繰り返し単位(11)及びそれ以外の構成
単位の存在量としては、本発明の作用効果を奏する限りにおいて特に限定されず、高分子
架橋体の使用目的に応じて、所望される性能や耐熱分解性等により適宜設定すればよい。
例えば、繰り返し単位(10)及び繰り返し単位(11)の存在量が高分子化合物の全構
成単位中の50〜100モル%であることが好ましい。より好ましくは、70〜100モ
ル%であり、更に好ましくは、90〜100モル%である。
上記高分子化合物の製造方法としては特に限定されず、用いる単量体の種類等により反応
条件等を適宜設定すればよい。例えば、ポリジアリルアミン誘導体のアルカリ中和物の場
合には、一般には、DADMAC水溶液及びDAAHC水溶液を混合して重合後、アルカ
リ中和することにより水溶液として調製される。
上記製造方法は、上記高分子化合物を、不活性有機溶媒中に懸濁させる工程を含む。この
ような工程を工程(B)ともいう。このような製造方法の好ましい実施形態としては、ま
ず工程(B)を行い、次いで工程(A)を行う形態であり、例えば、高分子化合物を含む
反応溶液を調製し、該反応溶液を不活性有機溶媒中に懸濁させて懸濁粒子とし、次いで架
橋剤を用いて塩基性共重合体を架橋させ、アニオン交換反応によってOH型に変換する形態が好適である。
上記高分子化合物を含む反応溶液を調製する方法としては、例えば、溶媒中に高分子化合
物を分散・溶解することにより調製される。
上記溶媒としては、高分子化合物を溶解することが可能であり、かつ、高分子化合物を溶
解した反応溶液が不活性有機溶媒と混合することがない、すなわち不活性有機溶媒中で反
応溶液が懸濁粒子として存在するという条件を満たすものであればよく、水;水酸化ナト
リウム等を含む水溶液;水に、メチルアルコール等の水混和性有機溶媒を含ませた混合溶
媒が好適である。また、例えば、ポリジアリルアミン誘導体のアルカリ中和物の場合であ
れば、上述のDADMAC水溶液及びDAAHC水溶液を混合して重合後、アルカリ中和
することにより得られる水溶液を反応溶液として用いることもできる。
上記反応溶液の粘度を、2.0Pa・s以下とすることが好ましい。これにより、反応溶
液の取扱性を向上させることができる。2.0Pa・sを超えると、粘度が高いためポン
プ等により送液することが困難となるおそれがあり、工業的使用に適さないおそれがある
。より好ましくは、7.0×10−1Pa・s以下である。本明細書中、粘度は、室温付
近(20℃〜30℃)にてB型粘度計で測定される値とする。
上記反応溶液は、高分子化合物がアルカリ中和物であるため、通常pHが12を超えるも
のとなる。従って、該反応溶液を調製後、直ちに架橋反応を行うか、又は、速やかにその
pHを8.3以下に調整することが好ましい。pHを8.3以下とすることにより、反応
溶液の長期安定性を高めることができ、取扱性に優れたものとすることができる。pHが
8.3を超えると、反応溶液が保存中にゲル化を起こすおそれがある。より好ましくは、
pHが5.5以下である。
上記工程(A)で用いる架橋剤としては、2官能以上の反応点を有する、すなわち高分子
化合物と反応可能な部位を2つ以上有するものであればよく、通常、高分子化合物が有す
る窒素原子、すなわち架橋構造を形成する3級アミン構造を構成する窒素原子、及び/又
は、この窒素原子に直接又は間接的に結合された炭素原子を架橋点の少なくとも一つとし
て架橋構造の形成に寄与するものである。
上記架橋剤としては、エピクロロヒドリン、各種のジエポキシ化合物で代表されるような
多官能エポキシ化合物類;1,4−ジクロロブタン、1,2−ビス(2クロロエトキシ)
エタン等のジクロロ化合物;1,2−ジブロモブタン、1,4−ジクロロブタン等のジブ
ロモ化合物;グリオキザール、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物が好適である
。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリジア
リルアミン誘導体のアルカリ中和物に対しては、エピクロロヒドリンが好ましく、好まし
い架橋構造を形成することが可能である。
上記固体電解質用材料の製造方法において、架橋剤、不活性有機溶媒、懸濁剤及び沈澱防
止剤等の使用量等としては特に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。また、架
橋反応における反応温度等の反応条件等も、架橋剤の種類や、架橋構造が形成されるべき
高分子化合物の性質等により適宜設定すればよい。
上記固体電解質用材料の製造方法における好ましい形態としては、上記高分子化合物の濃
度を、20質量%を超えて90質量%以下とすることである。
上記反応溶液における高分子化合物の濃度は、最終的に得られる高分子架橋体の強度及び
性能、特にイオン伝導率を左右する要因として極めて重要である。より具体的には、高分
子化合物の濃度が高いほど、強度に優れ、かつ、イオン伝導率の大きな高分子架橋体が得
られる。従ってこの濃度は、高分子化合物が上記溶媒に溶解可能な範囲内でより高い方が
好ましい。
上記反応溶液中の高分子化合物の濃度の調整方法としては、例えば、高分子化合物の濃度
を高めるためには、反応溶液を濃縮することにより行うことができる。このような反応溶
液の濃縮方法としては、エバポレータ等を用いて反応溶液を濃縮する方法、反応溶液中の
溶媒と不活性有機溶媒との共沸現象を利用して、反応溶液を不活性有機溶媒中に懸濁させ
た状態で濃縮する方法等の方法が好適である。
上記反応溶液中の高分子化合物の濃度の調整において、上記高分子化合物がポリジアリル
アミン誘導体のアルカリ中和物である場合には、高分子化合物を形成する原料が水溶液で
の入手となるため原料濃度に制限があり、調製される反応溶液において、高分子化合物の
占める割合は、固形分として通常約30質量%程度にしかならないが、上述した反応溶液
の濃縮方法等により反応溶液を濃縮すると、高分子化合物の濃度を約50質量%以上に高
めることが可能である。また、高分子化合物を単量体成分を含んでなる原料溶液や前駆体
溶液から調整する場合では、高分子化合物の原料溶液や高分子化合物の前駆体溶液を上述
の方法により濃縮した後に高分子化合物を調製することで、高濃度の高分子架橋体溶液を
得ることも可能である。
上記反応溶液中の高分子化合物の濃度は、20質量%を超えて90質量%以下とすること
が好ましい。これにより、高分子化合物を架橋して得られる高分子架橋体の見かけ比重を
充分に高めることができ、強度が大きく、イオン伝導率に優れた高分子架橋体を得ること
ができる。20質量%以下であると、高分子架橋体の見かけ比重を充分に高くすることが
できないため、イオン伝導率が小さくなるおそれがある。90質量%を超えると、反応溶
液の粘度が高くなるため、高分子架橋体が造粒しにくくなるおそれがある。より好ましく
は、30〜70質量%であり、更に好ましくは、30〜50質量%である。イオン交換容
量としては、0.1〜1.2mmol/ccであることが好ましい。
上記高分子架橋体は、上記一般式(12)で表される繰り返し単位(12)及び上記一般
式(1)で表される架橋構造を必須として有するものである。高分子架橋体は、1種とな
ってもよく、2種以上となってもよい。また、繰り返し単位(12)及び一般式(1)で
表される架橋構造は、それぞれ1種であってもよく、2種以上であってもよい。
上記一般式(12)中、R15及びR16は、上記R9及びR10と同様であり、R17
及びR18は、上記R11及びR12と同様であり、X−は、上記と同様である。
上記繰り返し単位(12)は、高分子化合物が有する繰り返し単位(12)に由来するも
のであり、環状の4級アンモニウム塩構造を有し、該4級アンモニウム塩が有する窒素原
子の陽イオンの存在によりイオン伝導能を発揮することになる。また、高分子架橋体の主
鎖骨格を環状構造により形成するため、高温においても繰り返し単位(12)が有する4
級アンモニウム塩構造が脱離しにくく、耐熱分解性が向上することとなる。
上記一般式(1)で表される架橋構造は、高分子化合物が有する繰り返し単位(11)の
2級アミンが架橋剤と反応し、架橋構造を形成したものである。
上記高分子架橋体中の繰り返し単位(12)及び一般式(1)で表される架橋構造の存在
量としては、本発明の作用効果を奏する限りにおいて特に限定されず、高分子架橋体の使
用目的に応じて、所望される性能や、耐熱分解性等により適宜設定すればよい。例えば、
繰り返し単位(12)及び一般式(1)で表される架橋構造の存在量が高分子架橋体の全
構成単位中の50〜100モル%であることが好ましい。より好ましくは、70〜100
モル%であり、更に好ましくは、90〜100モル%である。
上記高分子架橋体においては、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、必須の構成単位
以外の構成単位を有していてもよい。このような必須の構成単位以外の構成単位としては
、例えば、架橋構造を形成しなかった繰り返し単位(11)等が挙げられる。このような
繰り返し単位(11)は、2級アミン構造を有し、該2級アミン構造が有する窒素原子も
、イオン伝導能の発揮に寄与することになる。
上記固体電解質用材料の製造方法では、高分子化合物が有する繰り返し単位(11)が架
橋剤により架橋されることにより架橋構造(1)を形成し、該架橋構造が有する3級アミ
ン構造中の窒素原子がイオン伝導能の発揮に寄与すると共に、該3級アミン構造が架橋構
造を形成して化学構造的に熱分解しにくい構造となることから耐熱分解性に優れた高分子
架橋体を製造することができる。また、高分子化合物が有する繰り返し単位(10)に由
来する高分子架橋体が有する繰り返し単位(12)が4級アンモニウム塩の構造を有する
ことからイオン伝導能を発揮すると共に、該4級アンモニウム塩の構造が高分子架橋体の
主鎖を環状構造により形成して化学構造的に熱分解しにくい構造となる。更に、高分子化
合物が有する繰り返し単位(11)の一部が架橋剤により架橋されないでそのまま高分子
架橋体の一部を構成することになっても、該繰り返し単位(11)に由来する高分子架橋
体が有する繰り返し単位が2級アミン構造となることからイオン伝導能を発揮すると共に
、該2級アミン構造が高分子架橋体の主鎖を環状構造により形成して化学構造的に熱分解
しにくい構造となる。従って、上記製造方法により得られる高分子架橋体は、イオン伝導
能を発揮することができると共に、その化学構造が熱分解しにくいことから、イオン伝導
度に優れ、しかも、耐熱分解性に優れて幅広く様々な用途に適用することができることに
なる。
上記固体電解質用材料の製造方法においてはまた、上記高分子化合物の分子量を、500
以上とすることが好ましい。
このような製造方法でも、イオン伝導能に優れ、しかも、耐熱分解性に優れた高分子架橋
体を簡便に製造することができることになる。
上記製造方法においては、高分子化合物の分子量を500以上とすることにより、高分子
架橋体の見かけ比重を充分に高めることができ、強度が大きく、イオン伝導能に優れた高
分子架橋体を得ることができる。高分子架橋体の分子量が500未満であると、高分子架
橋体の見かけ比重を充分に高くすることができないため、イオン伝導媒能、強度が充分と
ならないおそれがある。より好ましくは、1万以上であり、また、50万以下である。更
に好ましくは、10万以上であり、また、30万以下である。
上記固体電解質用材料の製造方法においてはまた、上記高分子化合物が有する上記繰り返
し単位(10)と上記繰り返し単位(11)とのモル比を、99/1〜0/100とする
ことが好ましい。このような製造方法でも、イオン伝導能に優れ、しかも、耐熱分解性に
優れる燃料電池の固体電解質用材料が含有する高分子架橋体を簡便に製造することができ
る。
上記製造方法においては、高分子化合物が有する繰り返し単位(10)及び繰り返し単位
(11)のモル比を上述の範囲とすることにより、高分子架橋体の見かけ比重を充分に高
めることができ、強度が大きく、イオン伝導能に優れた高分子架橋体を得ることができる
。上記繰り返し単位(10)に対する上記繰り返し単位(11)のモル比が99/1を超
えると、高分子架橋体の架橋構造が少なくなり、見かけ比重を充分に高くすることができ
ないため、イオン伝導能、強度が不充分となるおそれがある。より好ましくは、95/5
以下であり、また、50/50以以上であり、更に好ましくは、90/10以下であり、
また、70/30以上である。
上記モル比の好適な範囲は、高分子化合物が上記2種類の構造単位のみを含んで構成され
る場合の値である。
上記「強度」とは、ひっぱり強度や破裂強度等を意味する。破裂強度の測定方法としては
、ミューレン型破裂強度試験機(大栄科学精機)等による試験があり、これは、多方向か
ら外力を受けて破損するときの抵抗力(破裂強さ)を測定する試験機である。試験片の下
に敷いたゴム膜を下から油圧で膨張させ、試験片が破裂したときの圧力を測定し、次式に
よって破裂強さとするものである。
破裂強さ:(kPa)=A−B
(ここで、Aは、ゴム片が試験片を破ったときの圧力、Bは破裂した試験片を取り除いた
ゴム膜だけの圧力を表す。)
上記固体電解質用材料の製造方法では、発明の作用効果を奏する限りにおいて、上述した
工程以外の工程を含んでいてもよい。例えば、上述した工程(A)及び(B)、又は、工
程(A)により得られる高分子架橋体を、無機塩が可溶な極性溶媒を用いて洗浄する工程
を含めることもできる。これにより、より高いイオン伝導能、及び、強度を有する高分子
架橋体を得ることが可能となる。上記無機塩とは、例えば、ポリジアリルアミン誘導体に
含まれるジアリルアミン塩酸塩部分をアルカリ中和することにより生成する無機塩を意味
する。例えば、上記アルカリ中和をNaOHを用いて行う場合には、無機塩とはNaCl
を意味する。
上記極性溶媒としては、無機塩の種類によって異なるが、一般には、水;メチルアルコー
ル、グリセリン等の親水性アルコール類;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド
;ジメチルスルホキシド;N−メチルピロリドンが好適である。これらは単独で用いても
よく、2種類以上を併用してもよい。例えば、無機塩がNaClの場合、極性溶媒として
は、水、グリセリン、メチルアルコール等が好ましく、溶解性の観点から、水が最も好ま
しい。
上記固体電解質用材料が含有する高分子架橋体は、下記一般式(13);
【0030】
【化13】

【0031】
(式中、R23及びR24は、同一又は異なって、炭素数1〜10のアルキル基を表す。
R25及びR26は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル
基を表す。Y−は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、有機酸のアニオン又は無機酸
のアニオンを表す。)で表される単量体及び下記一般式(14);
【0032】
【化14】

【0033】
(式中、R17及びR18は、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数
1〜10のアルキル基又は水酸基を表す。R19、R20、R21及びR22は、同一若
しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル基を表す。X5−及びX
6−は、同一若しくは異なって、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、有機酸のアニオ
ン又は無機酸のアニオンを表す。dは、0〜10の整数を表す。)で表される架橋剤とを
含む単量体成分を懸濁重合する工程を含む製造方法により製造することもできる。
上記一般式(13)で表される単量体すなわちジアリルジアルキルアンモニウム塩は、本
発明の高分子架橋体における上記3級アミン構造及び/又は4級アンモニウム塩構造を構
成することになるが、一般式(13)において、R19、R20で表される置換基がメチ
ル基であり、Y−で示されるアニオンが塩化物イオンであるもの、すなわちN,N´−ジ
アリルジメチルアンモニウムクロライドが特に好ましい。
上記一般式(14)で表される架橋剤は、同一分子内にジアリルピペリジル基を2つ含む
N,N,N′,N′−テトラアリルアンモニウム誘導体であり、ジアリルアンモニウム基
(ジアリル4級アンモニウム塩構造)を構成するアリル基に結合された窒素原子が、それ
ぞれ複素環構造を形成している新規な含窒素架橋剤である。このような架橋剤は、各種の
架橋反応を行うために用いることが可能であるが、本発明1の高分子架橋体を製造する原
料として好適に用いることができる。すなわちこのような架橋剤は、架橋構造が形成され
るべき高分子化合物(重合体)の形成に寄与すると共に、上記ジアリル4級アンモニウム
塩構造を構成する窒素原子に結合されたアリル基側、すなわちジアリルピペリジル基を横
成するアリル基側に形成された高分子化合物同士を架橋する架橋剤として機能し、本発明
1の高分子架橋体を与えることができる。
上記単量体成分は、必要に応じて、上記一般式(13)で表される単量体及び一般式(1
4)で表される単量体と共重合可能な共重合性単量体を、得られる高分子架橋体の性能を
阻害しない範囲内で含んでいてもよい。共重合性単量体としては、スチレン、エチレン、
ビニルエーテル類が好適であり、1種又は2種以上を用いることができる。なお、単量体
成分に占める共重合性単量体の割合は、特に限定されるものではない。
上記固体電解質用材料の製造方法により製造される固体電解質用材料においては、上記3
級アミン構造や4級アンモニウム塩構造が、環状のアミン構造又は環状のOH型4級アンモニウム塩の構造となっている。この構造が本発明により得られる固体電解質用材料の耐熱分解性が化学構造的に優れる理由の1つである。また、固体電解質用材料は、架橋構造を有する高分子架橋体を有するため、イオン伝導が行われる際に、反応溶液中に溶出等するおそれがない。
【発明の効果】
【0034】
本発明の固体電解質用材料は上述のような構成からなるので、イオン伝導能に優れ、しか
も優れた耐熱分解性を有するものとすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限
定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「
質量%」を意味するものとする。
実施例1
原料B1:前躯体ポリマー(シアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)
とジアリル塩酸塩共重合体(DAA・HCl)=90:10及び70:30)の42質量
%水溶液をあらかじめ合成した。
原料B2:NaOH水溶液(8.2質量%)をあらかじめ合成した。
原料B3:エピクロロヒドリン(EPC)
1)原料B1(DADMAC/DAA・HCl)/DAA・原料B3(EPC)=70/
15/15を0.62g直径11cmガラス容器に入れた。
2)原料B2(NaOH/水)=0.30g/4.04gで調製したアルカリ処理剤を1
)へ全量加えてマグネティックスターラーで激しく撹拌した。
3)室温で20分間静置すると固化したが、更に50℃×2時間の熱処理を行い、高分子
架橋体を成膜した。
4)1.0NのNaOH水溶液約1リットルに約3時間浸漬を行うことでアニオン交換を行い、続いてイオン交換水約500ccを使って6回洗浄を行った。このイオン交換体を交流インピーダンス法によって、イオン伝導があることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子架橋体を含有する固体電解質に用いられる材料であって、
該高分子架橋体は、架橋構造中に3級アミン構造及びOH型4級アンモニウム塩構造を有
することを特徴とする固体電解質用材料。
【請求項2】
前記高分子架橋体は、3級アミン構造として下記一般式(1);
【化1】


(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭
素数1〜10のアルキル基又は水酸基を表す。R5、R6、R7及びR8は、同一又は異
なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル基を表す。a及びbは、同一又は
異なって、0〜10の整数を表し、pは、0又は1を表す。ただし、a+b+p≧1を満
たす。Zは、−NH−基、−N(CH3)−基、1,4−ピペラジニレン基、−NH−(
CH2)3−NH−基、−NH−(CH2)4−NH−基、−O−基、−O−(CH2)
2−O−基、−O−CH2−C(CH3)2−CH2−O−基、−O−(CH2)2−(
O−CH2−CH2)n1−O−基、3−メチル−2,6−ピリジル基、4−メチル−2
,6−ピリジル基、2,6−ピリジル基、2,5−ピリジル基又は−CH(OH)−基を
表す。n1は、0以上の整数である。)で表される架橋構造を必須として有するものであ
ることを特徴とする請求項1記載の固体電解質用材料。
【請求項3】
前記高分子架橋体は、OH型4級アンモニウム塩構造として下記一般式(7);
【化2】


(式中、R1及びR2は、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜
10のアルキル基又は水酸基を表す。R3、R4、R5及びR6は、同一若しくは異なっ
て、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル基を表す。X1−及びX2−は、水酸イオンを表す。aは、0〜10の整数を表す。)で表される架橋構造を必須として有
するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の固体電解質材料。

【公開番号】特開2009−143975(P2009−143975A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319408(P2007−319408)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】